JP2024048446A - フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物およびインターロイキン10産生促進用組成物 - Google Patents

フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物およびインターロイキン10産生促進用組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】 フシカテニバクター属細菌の増殖を促進することができ、もって本細菌の減少が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態(例えば慢性膵炎の感染性合併症やパーキンソン病の進行等)の予防や改善に寄与しうる組成物を提供することを目的とする。【解決手段】 1-ケストースを有効成分とするフシカテニバクター属細菌の増殖用組成物。本発明によれば、生体におけるフシカテニバクター属細菌の菌数を増加させることができる。本発明によれば、フシカテニバクター属細菌の菌数を増加させることにより、本細菌の減少が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態の予防や改善に寄与することができる。【選択図】 図3

Description

本発明は、1-ケストースを有効成分とする、フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物およびインターロイキン10産生促進用組成物に関する。
フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)は、ヒトの糞便から2013年に発見された新属であり、腸内細菌叢の構成微生物である。フシカテニバクター属のフシカテニバクター・サッカリボランス(Fusicatenibacter saccharivorans)は、非芽胞形成性、非運動性、嫌気性、グラム陽性の紡錘形細菌であり、グルコース代謝の最終産物として乳酸、ギ酸、酢酸およびコハク酸を産生する(非特許文献1)。
フシカテニバクター属は、関節リウマチ(非特許文献2)や食道がん(非特許文献3)、視神経脊髄炎スペクトル障害(非特許文献4)、腎臓結石症(非特許文献5)、大うつ病性障害(非特許文献6)および不安障害(非特許文献6)などの疾病に罹患している者において減少することが報告されており、宿主の健康維持にとっては一定数以上を有することが好ましい、いわゆる善玉菌といえる。
例えば、慢性膵炎患者の糞便でも、健康な対照者と比較してフシカテニバクター属が顕著に減少している一方で、エンテロコッカスやストレプトコッカスなど感染性膵臓死において単離される日和見病原菌が顕著に増加している。ここで、フシカテニバクター属は、上記のとおり短鎖脂肪酸(ギ酸、酢酸)を産生し、腸管上皮バリアの維持・強化に資すると考えられることから、係る腸内細菌叢の変化は、腸管由来病原菌が膵臓壊死部位や貯留液など他部位に移動して、合併症(感染性膵臓死、貯留液感染、小腸内細菌増殖など)を誘発する危険性を高めるといえる(非特許文献7)。換言すれば、慢性膵炎患者においては、フシカテニバクター属の菌数を一定数以上有することが、合併症のリスクを低減させる観点から好ましい。
また、パーキンソン病患者の糞便でも、健康な対照者と比較してフシカテニバクター属が減少していることが報告されている(非特許文献8)。さらに、パーキンソン病患者165人を2年間追跡調査して腸内細菌叢と症状進行との関係を調査研究したところ、早期パーキンソン病患者(ホーン・ヤールの重症度分類第1段階)では、短鎖脂肪酸産生菌であるフシカテニバクター属、フィーカリバクテリウム属およびブラウティア属が少なく、ムチン分解菌であるアッカーマンシア属の多い者において、症状進行が早いことがわかり、係る腸内細菌叢を正常化する、あるいは不足する腸内代謝産物を補う治療介入を行うことで症状進行を遅らせることができる可能性があることが示されている(非特許文献9、非特許文献10)。
また、フシカテニバクター・サッカリボランスは、腸炎患者および腸炎マウス由来の腸管粘膜固有層単核球において、インターロイキン(IL)10の産生を促進することが報告されている(非特許文献11)。IL-10は、分子の質量が35-40kDの、同型二量体(ホモダイマー)の糖蛋白であり、ヒトでは2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)、単球、活性化B細胞、角化細胞など様々な種類の細胞より産生される。IL-10は抗炎症性のサイトカインであり、下記[1]~[9]のような作用が確認されている(特許文献1)。
[1]単球/マクロファージからのIL-1やIL-6、IL-8、IL-12、TNF-αの産生を抑制する。
[2]単球/マクロファージからのIL-1レセプターアンタゴニストの産生を増強する。
[3]単球/マクロファージのMHC class II分子やCD86分子の発現を抑制する。
[4]T細胞の増殖を抑制する。
[5]T細胞からのIL-2やIFN-γ、IL-4、IL-5の産生を抑制する。
[6]IL-10産生調節性T細胞を誘導する。
[7]好酸球、好中球およびマスト細胞からのIL-1やIL-8、TNF-αの産生を抑制する。
[8]NK細胞の細胞傷害活性を増強する。
[9]B細胞からのIgE産生を抑制し、IgG産生を増強する。
これらの作用があることにより、IL-10は自己免疫疾患や乾癬、臓器移植時の拒絶反応など、種々の疾患ないし不健康状態の予防や改善に利用可能になるものと期待されている。
特許第5019961号公報
Toshihiko Takada, Takashi Kurakawa, Hirokazu Tsuji, Koji Nomoto. Fusicatenibacter saccharivorans gen. nov., sp. nov., isolated from human faeces. Int J Syst Evol Microbiol. 2013;63: 3691-3696. Jin-Young Lee 1, et al. , Comparative Analysis of Fecal Microbiota Composition Between Rheumatoid Arthritis and Osteoarthritis Patients, Genes 2019, 10, 748; doi:10.3390/genes10100748 YaLi Deng, et al. , Dysbiosis of gut microbiota in patients with esophageal cancer, Microb Pathog. 2021 Jan;150:104709. doi: 10.1016/j.micpath.2020.104709. Epub 2020 Dec 27. Ziyan Shi, et al. , Dysbiosis of gut microbiota in patients with neuromyelitis optica spectrum disorders: A cross sectional study, J Neuroimmunol. 2020 Feb 15;339:577126. doi: 10.1016/j.jneuroim.2019.577126. Epub 2019 Dec 9. Ruiqiang Tang, et al. , 16S rRNA gene sequencing reveals altered composition of gut microbiota in individuals with kidney stones, Urolithiasis. 2018 Nov;46(6):503-514. doi: 10.1007/s00240-018-1037-y. Epub 2018 Jan 20. Zaiquan Dong, et al. , Gut Microbiome: A Potential Indicator for Differential Diagnosis of Major Depressive Disorder and General Anxiety Disorder, Frontiers in Psychiatry, September 2021, Volume 12, Article 651536 Fabian Frost et al.,The Gut Microbiome in Patients With Chronic Pancreatitis Is Characterized by Significant Dysbiosis and Overgrowth by Opportunistic Pathogens, Clinical and Translational Gastroenterology 2020;11:e00232.. Severin Weis, et al. , Effect of Parkinson’s disease and related medications on the composition of the fecal bacterial microbiota, npj Parkinson’s Disease (2019) 5:28 ; https://doi.org/10.1038/s41531-019-0100-x Hiroshi Nishiwaki, et al., Short chain fatty acids-producing and mucin-degrading intestinal bacteria predict the progression of early Parkinson’s disease, npj Parkinson’s Disease (2022) 8:65 ; https://doi.org/10.1038/s41531-022-00328-5 国立大学法人 名古屋大学、NU Reseach Information 名古屋大学 研究成果発信サイト、TOP>医歯薬学>記事詳細、早期パーキンソン病患者において2年後の症状進行を予測する腸内細菌を同定、掲載日 2022年6月2日、[令和4年6月27日検索]、インターネット<URL: https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/06/2-2.html> Kozue Takeshita, Shinta Mizuno, Yohei Mikami, Tomohisa Sujino, Keiichiro Saigusa, Katsuyoshi Matsuoka, Makoto Naganuma, Tadashi Sato, Toshihiko Takada, Hirokazu Tsuji, Akira Kushiro, Koji Nomoto, Takanori Kanai. A Single Species of Clostridium Subcluster XIVa Decreased in Ulcerative Colitis Patients. Inflamm Bowel Dis. 2016;22: 2802-2810.
そこで、本発明者らは、生体内のフシカテニバクター属細菌の菌数を多くすることができれば、本細菌の減少が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態の予防や改善に貢献し、宿主の健康の維持・増進に寄与できると考えた。また、フシカテニバクター属細菌を増殖させて、宿主におけるIL-10の産生を促進することができれば、IL-10の産生不足が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態の予防や改善に貢献し、宿主の健康の維持・増進に寄与できると考えた。
すなわち、本発明は、フシカテニバクター属細菌の増殖を促進することができ、もって本細菌の減少が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態(例えば慢性膵炎の感染性合併症やパーキンソン病の進行等)の予防や改善に寄与しうる組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、IL-10の産生を促進することができ、もってIL-10の産生不足が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態(例えば自己免疫疾患や乾癬、臓器移植時の拒絶反応等)の予防や改善に寄与しうる組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、1-ケストースが、腸内のフシカテニバクター属細菌の菌数を増加させることを見出した。そこで、この知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
(1)本発明に係るフシカテニバクター属細菌の増殖用組成物は、1-ケストースを有効成分とする。
(2)本発明に係るインターロイキン10産生促進用組成物は、1-ケストースを有効成分とする。
(3)本発明に係る組成物は、慢性膵炎の感染性合併症の予防または改善に用いることができる。
(4)本発明に係る組成物は、パーキンソン病の進行抑制に用いることができる。
本発明によれば、生体におけるフシカテニバクター属細菌の菌数を増加させることができる。本発明によれば、本細菌の減少が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態の予防や改善に寄与することができる。
また、本発明によれば、フシカテニバクター属細菌の菌数を増加させることにより、IL-10の産生を促進することができる。本発明によれば、IL-10の産生を促進することにより、IL-10の産生不足が起因や悪化要因となる各種疾病や不健康状態の予防や改善に寄与することができる。
また、有効成分とする1-ケストースは、タマネギやニンニク、大麦、ライ麦などの野菜や穀物にも含まれているオリゴ糖の一種であり、古来より食経験を有する物質であることや、変異原性試験、急性毒性試験、亜慢性毒性試験および慢性毒性試験のいずれにおいても毒性が認められていないことから、安全性は極めて高い(食品と開発、Vol.49、No.12、第9頁、2014年)。したがって、本発明によれば、安全性への懸念を全く生じさせずにフシカテニバクター属細菌の菌数を増加させ、あるいはIL-10の産生を促進することができる。
また、1-ケストースは、水溶性が高く、砂糖に似た良好な甘味質を有するため、そのまま、あるいは甘味料等の調味料として、日常的に簡便に摂取することができるほか、様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合することができる。したがって、本発明によれば、安全性が高く、そのまま、あるいは様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合して日常的に簡便に摂取することができる、フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物およびIL-10の産生促進用組成物を得ることができる。
PCR増幅産物の塩基配列と同一性の高い配列をデータベース上で検索した結果を示す図である。 PCR増幅産物のうち、フシカテニバクター属として同定された5種の塩基配列を示す図である。 1-ケストースを摂取した小児(摂取群)および摂取しなかった小児(非摂取群)の糞便における、フシカテニバクター属の占有率を示す箱ひげ図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
「フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物」は、ヒトや動物の生体内(生体のいずれかの細胞ないし組織・器官)においてフシカテニバクター属細菌の増殖を促進し、その数を増加させる作用を有する組成物、あるいは当該作用を生体にもたらす目的で用いられる組成物をいう。
「IL-10産生促進用組成物」は、ヒトや動物の生体内(生体のいずれかの細胞ないし組織・器官)においてIL-10の産生を促進する作用を有する組成物、あるいは当該作用を生体にもたらす目的で用いられる組成物をいう。
本発明においては、「フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物」および「インターロイキン10産生促進用組成物」をまとめて、あるいはこれら組成物のうちのいずれかを指して、「本組成物」という場合がある。
フシカテニバクター属細菌は、フシカテニバクター属に属する微生物をいう。係る微生物としては、例えば、フシカテニバクター・サッカリボランス(Fusicatenibacter saccharivorans)などを挙げることができる。
本組成物は、1-ケストースを有効成分とする。1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。
1-ケストースは市販されており、本発明においては係る市販品を用いることができる。また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から常法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。すなわち、本発明の1-ケストースとして、1-ケストースを含有するオリゴ糖などの1-ケストース含有組成物を用いてもよい。1-ケストース含有組成物を用いる場合、1-ケストースの純度は50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上などを例示することができる。
なお、本発明において、1-ケストースの「純度」とは、糖の総質量を100とした場合の、1-ケストースの質量%をいう。
また、1-ケストースは公知の方法により作ることができる。例えば、スクロースを基質として酵素反応を行うことにより1-ケストースを得ることができる(例えば特開昭58-201980号公報)。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1-ケストース含有反応液を得る。この1-ケストース含有反応液をクロマト分離法(例えば特開2000-232878号公報)に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1-ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1-ケストース溶液を濃縮した後、結晶化法(例えば特公平6-70075号公報)で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。
本組成物は、ヒトまたは動物に経口摂取させることにより使用することができる。また、有効成分を経腸栄養剤に添加して、これを、胃や小腸などの消化管に挿入したチューブを経由して経腸栄養法により投与する方法で使用してもよい。
本組成物の形態としては、医薬品や医薬部外品、食品添加剤、飼料添加物、サプリメントなどの健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、特別用途食品(人工乳栄養乳児用または病者用食品等)、乳幼児食品、菓子や飲料、加工食品などの通常の飲食物の形態、飼料等を挙げることができる。医薬品や医薬部外品、食品添加剤、飼料添加物、サプリメントの形態とする場合、その剤型としては、例えば、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、ドリンク剤等の固形または液状の剤型を挙げることができる。
上記各剤型の医薬品やサプリメント等は、当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、散剤であれば、1-ケストース800gおよび乳糖200gをよく混合した後、90%エタノール300mLを添加して湿潤させる。続いて、湿潤粉末を造粒した後、60℃で16時間通風乾燥し、その後、整粒して、適当な細かさの散剤1000g(1-ケストース含有量800mg/1g)を得ることができる。また、錠剤であれば、1-ケストース300g、粉末還元水飴380g、コメデンプン180gおよびデキストリン100gをよく混合した後、90(v/v)%エタノール300mLを添加して湿潤させ、湿潤粉末を得る。この湿潤粉末を押し出し造粒した後、60℃で16時間通風乾燥して顆粒を得る。この顆粒を850μmの篩を用いて整粒した後、顆粒470gに対してショ糖脂肪酸エステル50gを添加して混合する。これを、ロータリー打錠機(6B-2、菊水製作所)に供して打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤5000錠(1-ケストース含有量60mg/1錠)を得ることができる。
また、飲食物や飼料の形態とする場合は、通常の製造過程で、有効成分を添加して製造することができる。1-ケストースの甘味度は30で、その味質・物性・加工性はショ糖に近いことから、各種飲食物の製造過程において、砂糖の一部または全部を1-ケストースに置き換えるなどして、砂糖と同様に扱って各種飲食物を製造することができる。
1-ケストースの摂取量(投与量)は、摂取対象の動物種や身体症状、所望の効果の程度、組成物の製品形態、年齢、性別などに応じて適宜設定することができるが、一例としては、1日あたり0.04g/kg体重以上を例示することができる。係る摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。
生体におけるフシカテニバクター属細菌の数は、常法に従って確認することができる。例えば、腸におけるフシカテニバクター属細菌の菌数は、糞便あるいは盲腸内容物(以下、「糞便等」という。)中の当該細菌の菌数と相関していると考えられる。このことから、糞便等の中の菌数を計測することにより、腸においてフシカテニバクター属細菌の菌数が増加したか否かを確認することができる。具体的には、例えば、本組成物の摂取前後の糞便等、または、摂取した個体からの糞便等と摂取していない個体からの糞便等とを試料として、当該細菌に特異的なプライマーを用いたリアルタイムPCR法を行って16S rRNA遺伝子(16S rDNA)コピー数を計測する。当該細菌の16S rDNAコピー数と当該細菌の菌数とは相関関係にあるため、16S rDNAコピー数は、菌数の指標とすることができる。よって、当該細菌の16S rDNAコピー数を計測した結果、摂取後の試料における16S rDNAコピー数が摂取前よりも大きければ、あるいは、摂取した個体からの試料における16S rDNAコピー数が摂取していない個体よりも大きければ、本組成物により当該細菌の菌数が増加した(増殖が促進された)と判断することができる。
フシカテニバクター属細菌の16S rDNAに特異的なプライマーは、公知の塩基配列に基づいて設計することができる。例えば、後述する実施例に示すフシカテニバクター属の16S rDNAの部分配列(配列番号1~5)に基づいて設計することができる。また、フシカテニバクター・サッカリボランスの16S rDNA塩基配列は、GenBankアクセッション番号OX250349.1(配列番号6)、AB698910(HT03-11株(基準株)=YIT 12554=JCM 18507=DSM 26062由来(配列番号7))、AB698914(KO-38株由来、配列番号8)およびAB698915(TT-111株由来、配列番号9)から入手可能である(非特許文献1)。当該配列情報に基づいて、フシカテニバクター属細菌の16S rDNAに特異的なプライマーを設計することができる。
また、後述する実施例に示すように、本組成物の摂取前後の糞便等、または、摂取した個体からの糞便等と摂取していない個体からの糞便等とを試料として、次世代シークエンサーにより試料中の細菌由来16S rDNAの網羅的解析を行い、フシカテニバクター属の配列(配列番号1~5)と相同性の高い配列データの占有率(存在比率)を算出する。当該占有率は、フシカテニバクター属細菌の16S rDNAコピー数、すなわち当該細菌の菌数と相関関係にあるといえる。よって、摂取後の試料における当該配列データの占有率が摂取前よりも大きければ、あるいは、摂取した個体の試料における当該配列データの占有率が摂取していない個体のものよりも大きければ、本組成物によりフシカテニバクター属細菌の菌数が増加したと判断することができる。
上述のとおり、慢性膵炎患者の糞便すなわち腸内では、健康な対照者と比較してフシカテニバクター属が顕著に減少している一方で、日和見病原菌が顕著に増加していること、フシカテニバクター属は短鎖脂肪酸および乳酸を生成すること、短鎖脂肪酸は腸管上皮バリアを維持・強化し、乳酸は急性膵炎においては炎症反応を抑えることが報告されている(非特許文献2)(Hoque R, Farooq A, Ghani A, et al. Lactate reduces liver and pancreaticinjury in Toll-like receptor- and inflammasome-mediated inflammation via GPR81-mediated suppression of innate immunity. Gastroenterology 2014;146(7):1763?74.)。よって、腸内のフシカテニバクター属細菌の菌数を増加できれば、腸管上皮バリアの強化や抗炎症作用等により、腸管由来病原菌が他部位に移動することを抑制して、感染性の合併症(感染性膵臓死、貯留液感染、小腸内細菌増殖など)の罹患可能性あるいは罹患時の重篤性の低減に寄与できると考えられる。したがって、本組成物は、慢性膵炎の感染性合併症を予防または改善する用途に用いることができる。
上述のとおり、早期パーキンソン病患者では、短鎖脂肪酸産生菌のフシカテニバクター属、フィーカリバクテリウム属およびブラウティア属が少なく、ムチン分解菌のアッカーマンシア属が多い者において、症状の進行が早い。短鎖脂肪酸の減少は中枢神経において炎症を起きやすくし、αシヌクレイン(神経組織中に見られる機能不明のタンパク質で神経変性疾患の原因とされている)の異常凝集につながる可能性があること、およびアッカーマンシア属の増加は腸管壁ムチン層を破壊し、腸管壁透過性が上昇して腸管神経叢におけるαシヌクレインの異常凝集につながる可能性があることが示唆されている。また、パーキンソン病の重症度が高いほどフシカテニバクター属、フィーカリバクテリウム属およびブラウティア属は少なく、アッカーマンシア属は多い。その一方で、2年間の追跡調査において、これら4つの菌は、悪化群においてさえ、菌量が変化しない(非特許文献9:図4)。このことから、これら菌叢の変化は、パーキンソン病の進行に関して、結果ではなく原因と考えられる(非特許文献9、10)。よって、腸内のフシカテニバクター属細菌の菌数を増加できれば、短鎖脂肪酸の減少抑制やアッカーマンシア属の相対的な増加抑制作用等により、パーキンソン病の進行抑制に寄与できると考えられる。したがって、本組成物は、パーキンソン病の進行を抑制する用途に用いることができる。
IL-10の産生量は、常法に従って確認することができる。例えば、血清や血漿、細胞培養上清を測定試料として、サンドイッチELISA法によりIL-10を比色定量するキットが市販されており、これを用いてIL-10量を測定することができる。
フシカテニバクター属細菌によるIL-10の産生促進もまた、常法に従って確認することができる。例えば、非特許文献2に記載のように、マクロファージや単核球などのインターロイキン10を産生可能な培養細胞にフシカテニバクター属細菌を添加して、あるいは添加せずに一定時間培養し、培養上清中のインターロイキン10量を測定すればよい。フシカテニバクター属細菌を添加した場合の方が、添加しない場合よりも上清中のインターロイキン10量が大きければ、フシカテニバクター属細菌によりインターロイキン10の産生が促進されたと判断することができる。フシカテニバクター属細菌は、例えば、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室(RIKEN BRC-JCM)が保有するフシカテニバクター・サッカリボランス(JCM 18507、JCM18508、JCM18509、JCM31268)を用いることができる。
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。また、本実施例においては、「1-ケストース」として、純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物(物産フードサイエンス社)を用いた。
<実施例1>フシカテニバクター属細菌の増殖作用の検討
(1)1-ケストースの摂取
小児(4~14歳、男児23名、女児7名)30名を、摂取群23名(体重16~50kg)および非摂取群7名の2つの群に分けた。試験期間中、摂取群には1-ケストースを毎日経口摂取させた。非摂取群には1-ケストースを摂取させなかった。摂取群における1-ケストースの摂取量は、10歳未満が2g/日、10歳以上が4g/日(約0.057~0.154g/kg体重/日)とした。試験期間は6ヶ月、試験形態はオープン試験とした。試験期間の開始時および終了時(6ヶ月後)に糞便を採取し、-80℃にて凍結保存した。
(2)総DNAの抽出
〈Shunsuke Takahashiら、PLosONE、第9巻、第8号、e105592、2014年8月:参考文献1〉に記載の方法に従って、本実施例1(1)の糞便から総DNAを抽出した。具体的には、まず、4Mのグアニジンチオシアネート、100mMのトリスHCl(pH9.0)および40mMのEDTAを含む水溶液に、氷上で融解した糞便100mgを懸濁し、FastPrep FP100A(MP Biomedicals)を用いてジルコニアビーズで粉砕して懸濁液を得た。Magtration System 12GC(Precision System Science)およびGC series MagDEA DNA 200(Precision System Science)を用いて、この懸濁液からDNAを抽出した。DNAの濃度を分光測光器ND-1000(NanDrop Technologies)を用いて測定し、10ng/μLとなるように調製して、これを糞便由来総DNAとした。
(3)糞便中の細菌由来DNAの網羅的解析
上記参考文献1に記載の方法に従い、本実施例1(1)の糞便に含まれる細菌の種類と存在比率の網羅的解析を行った。すなわち、まず、本実施例1(2)の糞便来総DNAを鋳型として、下記のユニバーサルプライマーを用いてDual-index法(Hisada Takayoshiら、Arch Microbiol、197巻、第7号、第919‐34頁、2015年6月)によりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、細菌由来の16S rDNAのV3-V4領域を増幅した。
フォワードプライマー(341f):CCTACGGGAGGCAGCAG(配列番号10)
リバースプライマー(R806):GGACTACHVGGGTWTCTAAT(配列番号11)
続いて、次世代シークエンサーMiSeq(Illumina社)によりPCR増幅産物の塩基配列をペアエンド法により解読した。得られた塩基配列データはデータの質(クオリティ)が低いものおよびキメラ配列由来のものを排除した。決定した塩基配列についてデータベース(RDP MultiClassifier ver.2.11、Ribosomal Database Project)による検索を行い、同一性が97%以上で検出される分類群を1菌種(属)として同定した。なお、同定の信頼性が80%未満のものについては切り捨てた(Cut Off Family:0.8)。フシカテニバクター属として同定された配列(16S rDNAの部分配列)は、数万リード、数百種あった。そのうちの一配列の、データベースとの同定結果を図1に例示する。また、フシカテニバクター属として同定された配列のうちの5種を、図2および配列番号1~5に例示する。
総リード数に占める各分類群のリード数の割合を百分率で算出し、これを占有率とした。すなわち、占有率の値が大きいほど、糞便中の細菌総数に占める当該分類群の菌数が大きいことを意味する。なお、クオリティのチェックは参考文献1に、キメラ配列のチェックは〈Robert C. Edgarら、BIOINFORMATICS、第27巻、16号、第2194-2200頁、2011年6月〉に、データベースによる検索は〈Hisada Takayoshiら、Arch Microbiol、197巻、第7号、第919‐34頁、2015年6月〉に、それぞれ記載の方法に準じて行った。この網羅的解析におけるフシカテニバクター属の占有率の結果を図3に示す。占有率(中央値)は、試験期間の開始時と終了時(6ヶ月後)との間で統計的有意差検定を行ってP値を算出した。
図3に示すように、フシカテニバクター属細菌の16S rDNAの占有率は、非摂取群では、試験開始時に4.38%であったのに対して試験終了時には4.44%であり、有意な変化がなかった(P=0.612)。これに対して、摂取群では、試験開始時に3.90%であったのに対して試験終了時には6.01%であり、有意に増加していた(P=0.039)。この結果から、1-ケストースの摂取により、糞便中のフシカテニバクター属細菌の16S rDNAの占有率が増加することが明らかになった。すなわち、1-ケストースは、生体内においてフシカテニバクター属細菌の増殖を促進する効果を有することが明らかになった。

Claims (4)

  1. 1-ケストースを有効成分とする、フシカテニバクター属細菌の増殖用組成物。
  2. 1-ケストースを有効成分とする、インターロイキン10産生促進用組成物。
  3. 慢性膵炎における感染性合併症の予防または改善に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
  4. パーキンソン病の進行抑制に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
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