JP2024030759A - ガラス積層体とその製造方法 - Google Patents

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晋平 森田
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Abstract

Figure 2024030759000001
【課題】耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れた被膜を備えた、車両サイドガラス用のガラス積層体の提供。
【解決手段】ガラス基材(10)と、シロキサン結合および有機成分を含む被膜(20)とを有し、被膜は、ガラス積層体が窓開口部を完全に閉じた状態で窓開口部を含む領域に形成されており、平面視にて、車両のベルトライン(BL)を被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線(IL1)上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜の膜厚(T[μm])とSi/Cモル比(R[-])とを測定したとき、式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、ガラス積層体(1)。T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)、T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)、R≧0.4・・・(3A)。
【選択図】図1

Description

本開示は、ガラス積層体とその製造方法に関する。
自動車等の車両等の用途では、ガラス基材の表面に、紫外線および/または赤外線の遮蔽等の機能を有する機能膜を形成したガラス積層体が知られている。
特許文献1には、加水分解性シリコン化合物と、紫外線吸収剤および/または赤外線吸収剤とを含む液状組成物、並びに、この液状組成物を用いて形成された被膜を有するガラス物品が開示されている(請求項1、6、7、10)。
この文献にはまた、基材の表面に上記の液状組成物を塗布し塗膜を形成する工程と、前記塗膜を加熱して硬化させる工程とを有する被膜の形成方法が開示されている(請求項15)。
国際公開第2015/129563号
機能膜は、初期状態で良好な機能を有し、かつ、長期使用後も良好な機能を維持できる耐久性を有することが好ましい。耐久性の1つとして、耐摩耗性が挙げられる。
車両サイドガラスの用途では、ガラス基材と機能膜とを含むガラス積層体を昇降させて、窓の開閉を行うことができる。かかる用途では、機能膜は、繰返し表面が擦られても、機能の低下が少ない耐摩耗性を有することが好ましい。
上記用途では、ガラス基材と機能膜とを含むガラス積層体の表面が、重曹等のアルカリ性の洗浄剤を用いて洗浄される場合がある。アルカリ性の洗浄剤を用いて洗浄された後で、繰返し表面が擦られた機能膜には、擦傷が生じる恐れがある。
上記用途では、機能膜は、成膜性が良好で、成膜された時点でのクラック(初期クラックとも言う。)の生成が抑制される耐初期クラック性を有し、さらに、アルカリ液に接触した後で繰返し表面が擦られても、擦傷の生成が抑制される耐摩耗性を有することが好ましい。
特許文献1には、耐アルカリ性および耐摩耗性に優れる被膜を形成できることが記載されているが、耐アルカリ性の評価と耐摩耗性の評価とはそれぞれ独立した評価であり、被膜のアルカリ液接触後の耐摩耗性については、記載がない。
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れた被膜を備えた、車両サイドガラス用のガラス積層体の提供を目的とする。
本開示は、以下のガラス積層体とその製造方法を提供する。
[1] ガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に形成された、シロキサン結合と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む被膜とを有し、車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用のガラス積層体であって、
前記被膜は、前記ガラス基材の前記表面上において、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で前記窓開口部を含む領域に形成されており、
前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、平面視にて、前記車両のベルトラインを前記被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、ガラス積層体。
T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
R≧0.4・・・(3A)
(式中、Tは被膜の膜厚[μm]であり、RはSi/Cモル比[-]である。)
[2] 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、[1]のガラス積層体。
R≦0.8・・・(4A)
[3] 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1B)を充足する、[1]または[2]のガラス積層体。
T≦7.3741×R-1.871・・・(1B)
[4] 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(2B)を充足する、[1]~[3]のいずれかのガラス積層体。
T≧5.1714×R-0.378・・・(2B)
[5] 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(2C)を充足する、[1]~[4]のいずれかのガラス積層体。
T≧5.6000×R-0.340・・・(2C)
[6] 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、[1]~[5]のいずれかのガラス積層体。
T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
R≧0.4・・・(3A)
[7] 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、[6]のガラス積層体。
R≦0.8・・・(4A)
[8] 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、平面視にて、前記ベルトラインを前記被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、[1]~[7]のいずれかのガラス積層体。
T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
R≧0.4・・・(3A)
[9] 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、[8]のガラス積層体。
R≦0.8・・・(4A)
[10] 前記被膜は、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物の硬化物からなる、[1]~[9]のいずれかのガラス積層体。
[11] 前記被膜は、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、[1]~[10]のいずれかのガラス積層体。
[12] 加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
前記ガラス基材を、地面に対して、略水平に、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置し、当該ガラス基材の一方の表面上に、前記液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
前記塗工膜付きガラス基材を加熱し、前記塗工膜を硬化する工程(S3)とを有する、[1]~[11]のいずれかのガラス積層体の製造方法。
本開示によれば、被膜のベルトライン近傍領域において、被膜の膜厚とSi/Cモル比とを好適化したことで、成膜性が良好で、成膜された時点でのクラック(初期クラック)の生成が抑制される耐初期クラック性を有し、さらに、アルカリ液接触後の耐摩耗性に優れた被膜を備えた、車両サイドガラス用のガラス積層体を提供できる。
本発明に係る一実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。 図1のガラス積層体の模式断面図(II-II線断面図)である。 [実施例]の項で得られたガラス積層体について、被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚およびSi/Cモル比と、評価結果との関係を示すグラフである。
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス板等の板状部材の「表面」とは、板状部材の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
本明細書において、特に明記しない限り、車両の前進方向を前方向とし、車両の後進方向を後方向と定義する。
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス積層体の「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」および「内外」はそれぞれ、ガラス積層体が車両に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)での「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」および「内外」である。
本明細書において、「地面に対して略水平」とは、地面に対して完全な水平方向±10°の範囲を意味し、「地面に対して略垂直」とは、地面に対して完全な垂直方向±10°の範囲を意味する。
一般的に、薄膜構造体は、厚さに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物において、1種以上の加水分解性シリコン化合物は、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合している場合がある。
本明細書において、1種以上の加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合物とは、1種以上の加水分解性シリコン化合物に含まれる加水分解性基の少なくとも一部が加水分解し、次いで、脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)である。
本明細書において、「官能基」とは、単なる置換基とは区別された、反応性を有する基を包括的に示す用語である。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの総称であり、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリロキシ等についても、同様である。
本明細書において、特に明記しない限り、紫外線は300~380nmの波長域の光であり、赤外線は780~2500nmの波長域の光であり、可視光線は380~780nmの波長域の光である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[ガラス積層体]
本開示は、車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用のガラス積層体に関する。
図面を参照して、本発明に係る一実施形態のガラス積層体の構造について、説明する。図1は、本実施形態のガラス積層体の模式平面図の一例である。図2は、本実施形態のガラス積層体の模式断面図(II-II線断面図)である。視認しやすくするため、各図において、各部材の縮尺は適宜異ならせてある。
図2に示すように、本実施形態のガラス積層体1は、ガラス基材10と、ガラス基材10の一方の表面10S上に形成された被膜20とを有する。被膜20が形成されるガラス基材10の表面10Sは特に制限されず、例えば、ガラス基材10の車内側の表面(車内面とも言う。)であることができる。
図1に示す例では、ガラス積層体1は、自動車の運転手席または助手席の横にあるサイドガラスである。図示例では、ガラス基材10は、上辺11、下辺12、前方側辺13および後方側辺14の4辺からなる外周を有し、下辺12は凹凸を有している。
被膜20は、ガラス基材10の表面10S上において、ガラス積層体1が窓開口部を完全に閉じた状態で窓開口部を含む領域に形成されている。被膜20は、ガラス基材10の表面10Sの全面に形成されていてもよいし、ガラス基材10の表面10Sの周縁部(例えば、上記4辺から30mm以内の領域)の少なくとも一部を除く略全面に形成されていてもよい。
図示例では、被膜20は、上辺21、下辺22、前方側辺23および後方側辺24の4辺からなる外周を有する。視認しやすくするため、被膜20の外周のうち、ガラス基材10の外周と一致していない部分は、二点鎖線で示してある。図示例では、被膜20の上辺21は、ガラス基材10の上辺11より15mm程度内側に位置し、被膜20の前方側辺23はガラス基材10の前方側辺13に一致し、被膜20の後方側辺24はガラス基材10の後方側辺14に一致している。
ガラス基材10の平面形状および被膜20の形成領域は、取り付けられる車両等の形態に応じて、適宜設計できる。
被膜20は、シロキサン結合(Si-O結合)と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む。
被膜20は、被膜形成用組成物を用いて形成できる。被膜20は、好ましくは、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む組成物の硬化物からなる。
被膜20は、ガラス基材10の所望の領域に特定の機能を付与する機能膜であることができる。機能としては、特定の波長域の光または電波の選択的透過、選択的吸収または選択的反射;熱線の反射または吸収;反射防止;低反射;低放射;通電;加熱;撥水または撥油;耐擦傷;防汚;抗菌;着色等の加飾;これらの組合せ等が挙げられる。
被膜20は例えば、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤等の1種以上の機能性成分を含む機能膜であることができる。
車両サイドガラスの用途では、ガラス基材と被膜とを含むガラス積層体を昇降させて、窓の開閉を行うことができる。サイドガラスの昇降機構については、特開2020-172403号公報等を参照されたい。かかる用途では、被膜は、繰返し表面が擦られても、機能の低下が少ない耐摩耗性を有することが好ましい。
上記用途ではまた、ガラス基材と被膜とを含むガラス積層体の表面が、重曹等のアルカリ性の洗浄剤を用いて洗浄される場合がある。アルカリ性の洗浄剤を用いて洗浄された後で、繰返し表面が擦られた被膜には、擦傷が生じる恐れがある。
上記用途では、被膜は、成膜性が良好で、成膜された時点でのクラック(初期クラック)の生成が抑制される耐初期クラック性を有し、さらに、アルカリ液に接触した後で繰返し表面が擦られても、擦傷の生成が抑制される耐摩耗性を有することが好ましい。
本発明者らは、車両サイドガラスの用途では、被膜のベルトライン近傍領域の、窓の開閉による摩耗が顕著であることに着目した。
車両の窓枠には、車内に雨および風等が入らないように隙間を封止するシール材が取り付けられる。
本明細書において、特に明記しない限り、「ベルトライン」は、車両の窓開口部の下辺に沿って取り付けられるシール材の上端線である。
被膜の耐摩耗性を向上させる手段として、(i)せん断応力を緩和するために被膜を厚膜化すること、および、(ii)被膜のSi/Cモル比を高めて、被膜の硬度を上げることが、考えられる。しかしながら、いずれの手段も、被膜の内部応力が高まるため、耐初期クラック性が低下する恐れがある。また、Si/Cモル比を高くすると、アルカリ液接触後の耐摩耗性が低下する恐れがある。
そこで、本発明者らは、被膜のベルトライン近傍領域について、被膜の膜厚とSi/Cモル比との好適化を検討した。
本発明者らは、[実施例]の項において得られた各ガラス積層体の被膜について、平面視にて、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある任意の複数の測定点において、被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定した。
また、[実施例]の項において得られたいくつかのガラス積層体の被膜について、ベルトライン上にある任意の複数の測定点、および、ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上にある任意の複数の測定点においても、同様の測定を実施した。
本明細書において、特に明記しない限り、「被膜上のある領域またはある点」は、ガラス積層体が窓開口部を完全に閉じた状態での被膜上のある領域またはある点である。
例えば、「被膜のベルトライン近傍領域」は、ガラス積層体が窓開口部を完全に閉じた状態での被膜のベルトライン近傍領域である。「被膜のベルトライン上のある測定点」は、ガラス積層体が窓開口部を完全に閉じた状態での被膜のベルトライン上のある測定点である。「被膜の第1または第2の仮想線上のある測定点」は、ガラス積層体が窓開口部を完全に閉じた状態での被膜の第1または第2の仮想線上のある測定点である。
図1中、符合BLで示す破線はベルトライン、符合IL1で示す破線は第1の仮想線、符合IL2で示す破線は第2の仮想線を、それぞれ模式的に示す。この図では、これらの線を直線で示してあるが、ベルトラインBLは通常、曲線であり、それを上方に平行移動させた第1の仮想線IL1および第2の仮想線IL2も、通常、曲線である。
ガラス積層体1において、「ベルトライン近傍領域」は、具体的には、ベルトラインBLから第1の仮想線IL1までの第1のベルトライン近傍領域NBL1、第1の仮想線IL1から第2の仮想線IL2までの第2のベルトライン近傍領域NBL2、および、ベルトラインBLから第2の仮想線IL2までの第3のベルトライン近傍領域NBL3等である。
本発明者らは、[実施例]の項において得られた各ガラス積層体の被膜について、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性を評価し、被膜の第1の仮想線上の測定点の被膜の膜厚およびSi/Cモル比と、評価結果との関係を示すグラフを得た。このグラフを図3に示す。そして、このグラフから、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性の双方の評価結果が良好となる、被膜の膜厚とSi/Cモル比の好適化に成功し、本発明を完成した。
本明細書では、被膜の膜厚[μm]を符号T、Si/Cモル比[-]を符号Rで、それぞれ示す。本明細書において、TおよびRの好適な範囲を規定する式はすべて、本発明者らが多数の実験を行って得た実験式である。
本開示のガラス積層体において、被膜は、平面視にて、車両のベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜の膜厚(T[μm])とSi/Cモル比(R[-])とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足し、好ましくは、下式(1A-b)、(2A-b)および(3A-b)を充足する。
T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
R≧0.4・・・(3A)
T<8.3741×R-1.871・・・(1A-b)
T>5.0120×R-0.290・・・(2A-b)
R>0.4・・・(3A-b)
本開示のガラス積層体において、同じ線上にある測定点の数は、2以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。
図3に示すグラフには、式(1A)、(2A)および(3A)にそれぞれ対応した下式(1A-L)、(2A-L)および(3A-L)で表される曲線を示してある。
T=8.3741×R-1.871・・・(1A-L)
T=5.0120×R-0.290・・・(2A-L)
R=0.4・・・(3A-L)
被膜はまた、ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(1A)、(2A)および(3A)を充足することが好ましい。
この場合、被膜は、ベルトラインから第1の仮想線までの第1のベルトライン近傍領域NBL1において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れるものとなる。
被膜はまた、平面視にて、ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(1A)、(2A)および(3A)を充足することが好ましい。
この場合、被膜は、第1の仮想線から第2の仮想線までの第2のベルトライン近傍領域NBL2、または、ベルトラインから第2の仮想線までの第3のベルトライン近傍領域NBL3において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れるものとなる。
ベルトライン近傍領域の被膜の膜厚が大きいと、初期クラックが生成する恐れがある。被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚(T)が8.3741×R-1.871以下であれば、ベルトライン近傍領域の被膜が厚すぎず、耐初期クラック性が良好となる。
被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚(T)が5.0120×R-0.290以上であれば、ベルトライン近傍領域の被膜のアルカリ液接触後の耐摩耗性が良好となる。
被膜の第1の仮想線上の測定点のSi/Cモル比(R)が0.4以上であれば、ベルトライン近傍領域の被膜の硬度が充分に高く、アルカリ液接触後の耐摩耗性が良好となる。
被膜の第1の仮想線上の測定点が、式(1A)、(2A)および(3A)を充足する場合、被膜は、ベルトライン近傍領域において、成膜された時点でのクラック(初期クラック)の生成が抑制される耐初期クラック性を有し、さらに、アルカリ液に接触した後で繰返し表面が擦られても、擦傷の生成が抑制される耐摩耗性を有することができる。
図3に示すように、Si/Cモル比(R)が大きくなる程、式(1A-L)で表される曲線と式(2A-L)で表される曲線との間の範囲が狭くなり、所望の作用効果が得られる膜厚(T)の範囲が狭くなる傾向がある。
図3において、式(1A-L)で表される曲線と式(2A-L)で表される曲線との交点のSi/Cモル比(R)が、Si/Cモル比(R)の上限値となる。Si/Cモル比(R)の上限値は、1.3835である。
所望の作用効果が得られる膜厚(T)の範囲が狭いと、狭い範囲内で膜厚(T)を厳密に制御する必要があるので、製造工程の不良品率が高くなる恐れがある。
被膜は、第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜の膜厚(T[μm])とSi/Cモル比(R[-])とを測定したとき、Si/Cモル比(R)が、1.2以下、1.0以下、または0.9以下であることが好ましい。
被膜は、ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、Si/Cモル比(R)が、1.2以下、1.0以下、または0.9以下であることが好ましい。
被膜は、第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、Si/Cモル比(R)が、1.2以下、1.0以下、または0.9以下であることが好ましい。
被膜は、第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜のSi/Cモル比(R[-])を測定したとき、下式(4A)を充足することがより好ましい。
R≦0.8・・・(4A)
図3に示すグラフには、式(4A)に対応した下式(4A-L)で表される直線を示してある。
R=0.8・・・(4A-L)
被膜の第1の仮想線上の測定点のSi/Cモル比(R)は、より好ましくは0.7以下、特に好ましくは0.6以下である。
被膜は、ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(4A)、R≦0.7、またはR≦0.6を充足することがより好ましい。
被膜は、第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(4A)、R≦0.7、またはR≦0.6を充足することがより好ましい。
被膜の第1の仮想線上の測定点のSi/Cモル比(R)が0.8以下、0.7以下、または0.6以下であれば、所望の作用効果が得られる膜厚(T)の範囲がある程度広く、膜厚(T)を厳密に制御する必要がなく、製造工程の良品率を高められる。
被膜は、第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜の膜厚(T[μm])とSi/Cモル比(R[-])とを測定したとき、下式(1B)を充足することが好ましい。
T≦7.3741×R-1.871・・・(1B)
図3に示すグラフには、式(1B)に対応した下式(1B-L)で表される曲線を示してある。
T=7.3741×R-1.871・・・(1B-L)
被膜の第1の仮想線上の測定点が上記規定を充足する場合、被膜は、ベルトライン近傍領域において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性により優れるものとなる。
被膜は、ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(1B)を充足することが好ましい。
被膜は、第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(1B)を充足することが好ましい。
被膜は、第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、被膜の膜厚(T[μm])とSi/Cモル比(R[-])とを測定したとき、下式(2B)(好ましくは、下式(2B-b))を充足することが好ましく、下式(2C)(好ましくは、下式(2C-b))を充足することがより好ましい。
T≧5.1714×R-0.378・・・(2B)
T≧5.6000×R-0.340・・・(2C)
T>5.1714×R-0.378・・・(2B-b)
T>5.6000×R-0.340・・・(2C-b)
図3に示すグラフには、式(2B)および(2C)に対応した下式(2B-L)および(2C-L)で表される曲線を示してある。
T=5.1714×R-0.378・・・(2B-L)
T=5.6000×R-0.340・・・(2C-L)
被膜の第1の仮想線上の測定点が上記規定を充足する場合、被膜は、ベルトライン近傍領域において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性により優れるものとなる。
被膜は、ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(2B)(好ましくは、式(2B-b))を充足することが好ましく、式(2C)(好ましくは、式(2C-b))を充足することがより好ましい。
被膜は、第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点においても、式(2B)(好ましくは、式(2B-b))を充足することが好ましく、式(2C)(好ましくは、式(2C-b))を充足することがより好ましい。
なお、本発明者らが、従来のいくつかの被膜を有するガラス積層体について、被膜の第1の仮想線上の測定点において同様の評価を実施したところ、膜厚(T)は5.0μm程度、Si/Cモル比(R)は0.7~0.8程度であり、式(2A)を充足する被膜はなかった。
被膜のベルトライン近傍領域の膜厚(T)は、例えば、被膜形成用組成物(好ましくは後記液状組成物(LC))の組成、固形分濃度および塗工量、並びに、被膜形成用組成物の塗工時のガラス基材の配置角度等の条件を1つ以上調整することで、調整できる。
被膜のベルトライン近傍領域のSi/Cモル比(R)は、例えば、被膜形成用組成物(好ましくは後記液状組成物(LC))中の有機基および有機化合物の量を調整することで、調整できる。
(ガラス基材)
ガラス基材は、強化ガラス、複数のガラス板を中間膜を介して貼り合わせた合わせガラス、または有機ガラスを含むことができ、強化ガラスまたは合わせガラスを含むことが好ましい。図1および図2では、ガラス基材は平坦に図示してあるが、車両用では、ガラス基材は、曲面を有する形状に加工される。
強化ガラスおよび合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。
強化ガラスは、上記のようなガラス板に対して、イオン交換法および風冷強化法等の公知方法にて強化加工を施したものである。強化ガラスとしては、風冷強化ガラスが好ましい。
強化ガラスの厚さは特に制限されず、好ましくは2~6mmである。
合わせガラスの厚さは特に制限されず、好ましくは2~6mmである。
ガラス基材は、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス基材が合わせガラスである場合、車内側のガラス板および車外側のガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス基材は、左右方向または上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。ガラス基材の曲率半径は2000~11000mmであってよい。ガラス基材は、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。ガラス基材の曲げ成形には、重力成形、プレス成形およびローラー成形等が用いられる。
合わせガラスの中間膜は、樹脂膜からなる。その構成樹脂としては、複数のガラス板を良好に接着できる樹脂であれば特に制限されない。中間膜は例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
中間膜は必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。
中間膜の材料としては、例示の樹脂を含む樹脂フィルムが好ましい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチック;ポリエチレンテレフタレート(PET):ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン(PS);これらの組合せ等が挙げられ、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが好ましい。
(被膜)
被膜は、シロキサン結合(Si-O結合)と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む。
被膜は、被膜形成用組成物を用いて形成できる。被膜は、好ましくは、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む液状組成物(LC)の硬化物からなる。
被膜中において、Si原子に結合した有機基は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれることができる加水分解性の有機基、および/または、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれることができる非加水分解性の有機基に由来できる。Si原子に結合した有機基としては、アルキル基およびアルキレン基等が挙げられる。
被膜中に含まれることができる有機化合物としては、後記可撓性付与成分(FL)、後記機能性成分(FU)、およびこれらに由来する成分等が挙げられる。
<加水分解性シリコン化合物(SC)>
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解縮合反応により硬化して酸化珪素マトリクスを形成できる。本明細書で言う「酸化珪素マトリクス」は、-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合により2次元的または3次元的に高分子量化した高分子化合物である。
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1つ以上の加水分解性基を有するシリコン化合物である。1つのSi原子に結合した加水分解性基の数は1~4であり、好ましくは2~4、より好ましくは3~4である。加水分解性基は、組成物中で、加水分解されて水酸基になっていてもよい。
加水分解性基としては、アルコキシ基(アルコキシ置換アルコキシ基等の置換アルコキシ基を含む)、アルケニルオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、オキシム基、アミド基、アミノ基、イミノキシ基、アミノキシ基、アルキル置換アミノ基、イソシアネート基およびハロゲン原子等が挙げられる。中でも、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、イミノキシ基およびアミノキシ基等のオルガノオキシ基が好ましく、特にアルコキシ基等が好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数4以下のアルコキシ基および炭素原子数4以下のアルコキシ置換アルコキシ基(2-メトキシエトキシ基等)が好ましく、特にメトキシ基およびエトキシ基等が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子等が好ましい。
加水分解性シリコン化合物(SC)中に複数の加水分解性基が存在する場合、複数の加水分解性基は同一でも非同一でもよく、同一であることが原料の入手容易性の点で好ましい。
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物および/または1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物を含むことが好ましい。1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物との併用が好ましい。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は必要に応じて、1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物を含むことができる。
4官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に4つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。3官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に3つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。2官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に2つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1分子中に、Si原子に1つ以上の加水分解性基が結合した構造を2つ以上有するものでもよい。
加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解性基以外の官能基を有するものでもよい。加水分解性基以外の官能基としては、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、1級または2級のアミノ基、オキセタニル基、ビニル基、スチリル基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基およびシアノ基等が挙げられる。
4官能性加水分解性シリコン化合物としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラn-プロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、およびテトラtert-ブトキシシラン等が挙げられる。テトラメトキシシラン(TMOS)およびテトラエトキシシラン(TEOS)等が好ましい。
加水分解性基以外の官能基を有さない3官能性加水分解性シリコン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、および1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等が挙げられる。
加水分解性基以外の官能基を有する3官能性加水分解性シリコン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6-エポキシへキシルトリメトキシシラン、9,10-エポキシデシルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジ-(3-メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、および2-シアノエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
2官能性加水分解性シリコン化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジイソプロペノキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、および2-シアノエチルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
液状組成物(LC)中の、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物、および1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量は、特に制限されない。
1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物との合計量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは100~70質量部、より好ましくは100~80質量部、特に好ましくは100~90質量部である。
1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは0~20質量部、特に好ましくは0~10質量部である。
4官能性加水分解性シリコン化合物と3官能性加水分解性シリコン化合物との総量100質量部に対して、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~95質量部、特に好ましくは40~90質量部、最も好ましくは50~85質量部であり、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは70~0質量部、より好ましくは70~5質量部、特に好ましくは60~10質量部、最も好ましくは50~15質量部である。
詳細については後記するが、液状組成物(LC)は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含むことができる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、上記の2官能性、3官能性または4官能性の加水分解性シリコン化合物と同様、酸化珪素マトリクスを形成できる。
加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は特に制限されず、通常の貯蔵温度の上限を超える温度、好ましくは80℃以上である。硬化温度の上限は特に制限されず、経済性の観点から、好ましくは230℃である。加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は、好ましくは150~230℃、より好ましくは170~230℃である。
液状組成物(LC)は、必要に応じて、加水分解性シリコン化合物(SC)以外の1種以上の任意成分を含むことができる。
<酸化珪素微粒子(SP)>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、被膜中で酸化珪素マトリクスに結合して包含される酸化珪素微粒子(SP)を含むことができる。液状組成物(LC)が酸化珪素微粒子(SP)を含むことで、被膜の耐摩耗性を向上できる場合がある。
酸化珪素微粒子(SP)は、酸化珪素微粒子(SP)が水および/または有機溶剤中に分散されたコロイダルシリカの形態で、液状組成物(LC)に配合できる。
酸化珪素微粒子(SP)のBET法により測定される平均粒径は特に制限されず、被膜の透明性および耐摩耗性の向上の観点から、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~40nmである。平均粒径が100nm以下であれば、粒子表面での光の乱反射およびそれによる被膜の透明性の低下を抑制できる。
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)および必要に応じて用いられる酸化珪素微粒子(SP)は、被膜中の酸化珪素マトリクスを形成する成分であり、本明細書では、これらを総称して、マトリクス成分(S)とも言う。
ここで、液状組成物(LC)中の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量を、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれるSi原子をSiOに換算したときのSiO含有量で示す。
液状組成物(LC)の全固形分中の1種以上のマトリクス成分(S)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
液状組成物(LC)の塗工性および被膜の初期クラック抑制等の観点から、液状組成物(LC)の全固形分中の1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
マトリクス成分(S)の総量に対する酸化珪素微粒子(SP)の量は特に制限されず、被膜の初期クラックの生成および酸化珪素微粒子(SP)同士の凝集による被膜の透明性低下の抑制等の観点から、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%である。
<可撓性付与成分(FL)>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、被膜の成膜性を向上させ、被膜の初期クラックを抑制する、1種以上の可撓性付与成分(FL)を含むことができる。
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の種類に関係なく、可撓性付与成分(FL)は有効である。例えば、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が4官能性加水分解性シリコン化合物のみからなる場合、得られる酸化珪素マトリクスは可撓性が充分でない場合がある。このような場合、可撓性付与成分(FL)を用いることで、酸化珪素マトリクスに適度な可撓性を付与し、機械的強度と耐初期クラック性の双方に優れた被膜を形成できる。
可撓性付与成分(FL)としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂等の有機樹脂;加熱または活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の硬化性有機化合物;グリセリン等の樹脂以外の非硬化性有機化合物等が挙げられる。有機樹脂、硬化性有機化合物および非硬化性有機化合物は、公知のものを用いることができる。
有機樹脂としては、加熱または活性エネルギー照射により硬化する硬化性樹脂が好ましい。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
熱硬化性樹脂、並びに、加熱により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の熱硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化する際に、同時に硬化できる。
活性エネルギー線硬化性樹脂、並びに、活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマーまたはプレポリマー等の活性エネルギー線硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化した後、活性エネルギー線照射により硬化できる。
硬化性樹脂および硬化性化合物は、硬化時に、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と架橋反応してもよい。
液状組成物(LC)中の可撓性付与成分(FL)の含有量は特に制限されず、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~100質量部、より好ましくは0.1~100質量部、特に好ましくは1.0~50質量部である。
<機能性成分(FU)>
液状組成物(LC)は必要に応じて、1種以上の機能性成分(FU)を含むことができる。機能性成分(FU)の機能としては、特定の波長域の光または電波の選択的透過、選択的吸収または選択的反射;熱線の反射または吸収;反射防止;低反射;低放射;通電;加熱;撥水または撥油;耐擦傷;防汚;抗菌;着色等の加飾;これらの組合せ等が挙げられる。
被膜は例えば、機能性成分(FU)として、紫外線遮蔽剤および/または赤外線遮蔽剤を含むことができる。
紫外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、紫外線吸収タイプでも紫外線反射タイプでもよい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾジチオール系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる1種以上の紫外線吸収剤が好ましい。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤には、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤が含まれる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、酸化珪素マトリクスを形成できる。紫外線遮蔽剤としてシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いることで、酸化珪素マトリクスに紫外線吸収剤を固定でき、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できる。シリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤については、国際公開第2011/142463号等を参照されたい
赤外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、赤外線吸収タイプでも赤外線反射タイプでもよい。赤外線遮蔽剤としては、赤外線遮蔽粒子が好ましい。赤外線遮蔽粒子としては、1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、六ホウ化ランタン(LaB)、および五酸化バナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。
赤外線遮蔽粒子としては、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))および/または六ホウ化ランタン(LaB)を含む金属化合物粒子が特に好ましい。この金属化合物粒子を用いる場合、800~1500nmの波長の光に対する被膜の吸光度を、被膜m当たりに含まれる赤外線遮蔽粒子の質量で割った値を比較的大きくでき、例えば1.5以上にできる。この場合、被膜中の赤外線遮蔽粒子の含有量を減らせる。これによって、被膜のガラス基材との界面の近傍部分に存在する粒子の絶対数を減らせるため、ガラス基材と被膜との密着性が向上し、耐摩耗性が向上する。
液状組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子を含む場合、赤外線遮蔽粒子の原料として、赤外線遮蔽粒子、分散媒としての有機溶剤、および必要に応じて分散剤を含む分散液を用いることが好ましい。
<触媒>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上の触媒を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に触媒が含まれる場合、1種以上の触媒には、原料中の触媒が含まれる。
触媒としては、酸触媒およびアルカリ触媒等が挙げられる。酸触媒としては、硝酸、塩酸、硫酸および燐酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸およびグルタル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニア等が挙げられる。触媒としては、酸触媒が好ましい。触媒は、水溶液の形態で用いることができる。
液状組成物(LC)中の触媒の含有量は特に制限されない。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、1種以上の触媒の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは0.01~10質量部である。
<水>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、水を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に水が含まれる場合、水には、原料中の水が含まれる。
被膜の形成工程では、雰囲気中の水分を利用して1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の加水分解縮合反応を行えるので、液状組成物(LC)は水を含まなくてもよい。
液状組成物(LC)中の水の量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加水分解縮合させるために充分な量であれば、特に制限されない。具体的には、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)のSiO換算量に対して、モル比で1~20当量となる量が好ましく、4~18当量となる量がより好ましい
<有機溶剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、溶媒および/または分散媒として、1種以上の有機溶剤を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に有機溶剤が含まれる場合、1種以上の有機溶剤には、原料中の有機溶剤が含まれる。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、およびアセチルアセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、および酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、および2-エトキシエタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、およびキシレン等の炭化水素類;アセトニトリルおよびニトロメタン等が挙げられる。
上記の中でも、液状組成物(LC)中への溶解性および液状組成物(LC)の塗工性等の観点から、沸点が80~160℃のアルコールが好ましく、具体的には、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、および2-ブトキシエタノール等が好ましい。
有機溶剤として、1種以上のアルコールと、水およびアルコールと混和可能なアルコール以外の1種以上の他の有機溶剤とを併用してもよい。
液状組成物(LC)に含まれる水および有機溶剤等の液体媒体の総量は特に制限されず、液状組成物(LC)が好ましい固形分濃度になるように、調整できる。液状組成物(LC)の固形分濃度は、好ましくは3.5~50質量%、より好ましくは9~30質量%である。「固形分濃度」は、水および有機溶剤等の液体媒体を除いた不揮発成分の合計濃度である。
<分散剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、赤外線遮蔽粒子等の無機微粒子を分散させる1種以上の分散剤を含むことができる。
液状組成物(LC)の構成成分の原料に分散剤が含まれる場合、1種以上の分散剤には、原料中の分散剤が含まれる。
分散剤としては、公知のものを用いることができる。
<キレート剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上のキレート剤を含むことができる。
液状組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子と紫外線遮蔽剤とを含む場合、赤外線遮蔽粒子と錯体を形成できる1種以上のキレート剤を用いることができる。キレート剤は、赤外線遮蔽粒子の表面に配位して、赤外線遮蔽粒子に紫外線遮蔽剤がキレート結合するのを抑制できる
液状組成物(LC)の構成成分の原料にキレート剤が含まれる場合、1種以上のキレート剤には、原料中の分散剤が含まれる。
キレート剤としては、公知のものを用いることができる。
キレート剤は、可視光の吸収率が低いことが好ましい。キレート剤は、水および有機溶剤等の液体媒体の種類により適宜選択される。液体媒体は、水および/またはアルコールを含むことができ、これらの極性溶剤に可溶なキレート剤が好ましい。このようなキレート剤としては、マレイン酸および(メタ)アクリル酸等のカルボン酸;これらの(共)重合体(例えば、ポリマレイン酸およびポリアクリル酸等)が挙げられる。
<他の添加剤>
液状組成物(LC)は、必要に応じて、上記以外の1種以上の添加剤を含むことができる。上記以外の添加剤としては、表面調整剤、消泡剤、粘性調整剤、密着性付与剤、光安定化剤、酸化防止剤、染料、顔料およびフィラー等が挙げられる。
[ガラス積層体の製造方法]
上記の本開示のガラス積層体の製造方法は、特に制限されない。
一実施形態において、上記の本開示のガラス積層体の製造方法は、
加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む液状組成物(LC)を用意する工程(S1)と、
ガラス基材の一方の表面上に、液状組成物(LC)を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
塗工膜付きガラス基材を加熱し、塗工膜を硬化する工程(S3)とを有する。
(工程(S1))
工程(S1)では、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含み、さらに必要に応じて1種以上の任意成分を含む、液状組成物(LC)を用意する。液状組成物(LC)の好ましい配合組成については、上記したので、ここでは省略する。
液状組成物(LC)は、公知方法にて、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む1種以上の材料を均一に混合することで調製できる。液状組成物(LC)が複数種の材料からなる場合、一括混合しても分割混合してもよく、配合手順も特に制限されない。
工程(S1)の環境温度は特に制限されず、通常の環境温度、例えば10~30℃でよい。
(工程(S2))
工程(S2)では、ガラス基材を、略水平に、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置し、ガラス基材の一方の表面上に、液状組成物(LC)を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る。
車両用サイドガラスの用途では、通常、ガラス基材は曲面を有する形状に加工されている。塗工膜は例えば、ガラス基材の車内面(通常凹面)上に、形成できる。
塗工方法としては特に制限されず、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法およびダイコート法等が挙げられる。
工程(S2)の環境温度は特に制限されず、通常の環境温度、例えば10~30℃でよい。
液状組成物(LC)の組成、固形分濃度および塗工量、並びに、工程(S2)におけるガラス基材の配置角度等の条件を1つ以上調整することで、被膜のベルトライン近傍領域の膜厚(T)を調整できる。
液状組成物(LC)の固形分濃度は、高い方が、被膜の膜厚(T)を厚くできる傾向がある。
液状組成物(LC)の塗工量は、多い方が、被膜の膜厚(T)を厚くできる傾向がある。
ガラス基材の配置角度を調整することで、被膜のベルトライン近傍領域の膜厚(T)を調整できる。例えば、ガラス基材のベルトライン近傍領域を下側に配置して、液状組成物(LC)をガラス基材の上部から流しかけるフローコート法では、ガラス基材の配置が地面に対して略垂直に近い方が、被膜のベルトライン近傍領域の膜厚(T)を薄くでき、ガラス基材の配置が地面に対して略水平に近い方が、被膜のベルトライン近傍領域の膜厚(T)を厚くできる傾向がある。
被膜のベルトライン近傍領域のSi/Cモル比(R)は、例えば、液状組成物(LC)中の有機基および有機化合物の量を調整することで、調整できる。
(乾燥工程)
工程(S2)と工程(S3)との間に、必要に応じて、硬化反応が進まない条件で、塗工膜を乾燥する乾燥工程を実施してもよい。乾燥方法として特に制限されず、40~60℃程度の加熱乾燥、減圧乾燥、および40~60℃程度の減圧加熱乾燥が挙げられる。
(工程(S3))
工程(S3)では、塗工膜付きガラス基材を加熱し、塗工膜を硬化する。加熱は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が硬化する温度条件で行う。工程(S3)は、本焼成のみの1段階または仮焼成と本焼成との複数段階で実施できる。
本焼成温度は特に制限されない。ガラス基材が強化ガラスである場合、好ましくは80~230℃、より好ましくは100~230℃、特に好ましくは150~230℃、最も好ましくは180~210℃である。ガラス基材が合わせガラスである場合、好ましくは80~110℃、より好ましくは90~110℃である。加熱時間は、液状組成物(LC)の組成および加熱温度等に応じて適宜設計できる。
乾燥工程および工程(S3)における塗工膜付きガラス基材の配置の向きは、特に制限されない。乾燥工程および工程(S3)では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス基材を略水平に配置してよい。
液状組成物(LC)が、熱硬化性樹脂および/または熱硬化性化合物を含む場合、熱硬化性樹脂および/または熱硬化性化合物は、この工程(S3)で、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と共に硬化できる。
この工程(S3)後に被膜が形成される。
(工程(S4))
液状組成物(LC)が活性エネルギー線硬化性樹脂および/または活性エネルギー線硬化性化合物を含む場合、工程(S3)の後に、被膜に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂および/または活性エネルギー線硬化性化合物を硬化する工程(S4)を実施できる。活性エネルギー線としては、紫外線および電子線等が挙げられる。
以上のようにして、ガラス積層体が得られる。
以上説明したように、本開示によれば、被膜のベルトライン近傍領域において、被膜の膜厚とSi/Cモル比とを好適化したことで、成膜性が良好で、成膜された時点のクラック(初期クラック)の生成を抑制できる耐初期クラック性を有し、さらに、アルカリ液接触後の耐摩耗性に優れた被膜を備えた、車両サイドガラス用のガラス積層体とその製造方法を提供できる。
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例1~38が実施例、例101~140が比較例である。
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(Si/Cモル比(R))
アルバック・ファイ社製「Quantera SXM」を用いて、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析を実施した。
被膜の表面のある測定点において、XPS分析とスパッタとを繰り返し、膜表面からガラス基材の表面まで、被膜の深さ方向の元素分析を実施した。
測定条件は、以下の通りである。
プローブ径:100μmφ、
測定領域:100μmφ、
検出角度:試料面に対して45°、
Pass Energy:224eV、
Energy Step:0.4eV/step。
スパッタ条件は、以下の通りである。
スパッタイオン種:Ar
加速電圧:4kV、
ラスターサイズ:2mm×2mm、
スパッタ間隔:0.5min/step。
被膜の上記測定点において、各深さのSiのモル濃度を平均して、Siの平均モル濃度を求めた。同様に、各深さのCのモル濃度を平均して、Cの平均モル濃度を求めた。Si/Cモル比(R)として、Siの平均モル濃度/Cの平均モル濃度を求めた。なお、Si量はSi2p結合エネルギーのピーク値から求め、C量はC1s結合エネルギーのピーク値から求めた。
各例において、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線に沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、Si/Cモル比(R)の測定を実施した。
いくつかの例では、上記と同様に、ベルトラインに沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、Si/Cモル比(R)の測定を実施した。
いくつかの例では、上記と同様に、ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線に沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、Si/Cモル比(R)の測定を実施した。
いずれの例においても、同じ線上の複数の測定点の測定データは、均一であった。
(被膜の膜厚(T))
大塚電子社製の反射分光膜厚計「FE-3000」を用いて、被膜の膜厚(T)[μm]を測定した。
各例において、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線に沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、被膜の膜厚(T)の測定を実施した。
いくつかの例では、上記と同様に、ベルトラインに沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、被膜の膜厚(T)の測定を実施した。
いくつかの例では、上記と同様に、ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線に沿って、被膜の一端から他端まで5.0cm間隔で、被膜の膜厚(T)の測定を実施した。
いずれの例においても、同じ線上の複数の測定点の測定データは、均一であった。
(各式の充足の確認)
各例において、被膜の膜厚(T)とSi/Cモル比(R)とが各式を充足しているかどうかを確認し、評価した。
<Rが式(3A)を充足?>
Rが式(3A)を充足しているかどうかを確認し、充足していれば「良好(○)」と判定し、充足していなければ「不良(×)」と判定した。
<Rが式(4A)を充足?>
Rが式(4A)を充足しているかどうかを確認し、充足していれば「良好(○)」と判定し、充足していなければ「可(△)」と判定した。
<TとRが式(1A)を充足?>
[式(1A)の右辺]-[式(1A)の左辺]の値を計算した。この計算値(1A-D)が0以上であれば、TとRが式(1A)を充足するので、「良好(○)」と判定した。計算値(1A-D)がマイナスであれば、TとRが式(1A)を充足しないので、「不良(×)」と判定した。
<TとRが式(1B)を充足?>
[式(1B)の右辺]-[式(1B)の左辺]の値を計算した。この計算値(1B-D)が0以上であれば、TとRが式(1B)を充足するので、「良好(○)」と判定した。計算値(1A-D)が0以上、計算値(1B-D)がマイナスであれば、TとRが式(1A)を充足するが、式(1B)を充足しないので、「可(△)」と判定した。
<TとRが式(2A)を充足?>
[式(2A)の左辺]-[式(2A)の右辺]の値を計算した。この計算値(2A-D)が0以上であれば、TとRが式(2A)を充足するので、「良好(○)」と判定した。計算値(2A-D)がマイナスであれば、TとRが式(2A)を充足しないので、「不良(×)」と判定した。
<TとRが式(2B)を充足?>
[式(2B)の左辺]-[式(2B)の右辺]の値を計算した。この計算値(2B-D)が0以上であれば、TとRが式(2B)を充足するので、「良好(○)」と判定した。計算値(2A-D)が0以上、計算値(2B-D)がマイナスであれば、TとRが式(2A)を充足するが、式(2B)を充足しないので、「可(△)」と判定した。
<TとRが式(2C)を充足?>
[式(2C)の左辺]-[式(2C)の右辺]の値を計算した。この計算値(2C-D)が0以上であれば、TとRが式(2C)を充足するので、「良好(○)」と判定した。計算値(2A-D)が0以上、計算値(2C-D)がマイナスであれば、TとRが式(2A)を充足するが、式(2C)を充足しないので、「可(△)」と判定した。
(耐初期クラック性)
光学顕微鏡(OLYMPUS社製「BX53M」)を用いて、50倍の倍率で、得られたガラス積層体(後記の「アルカリ液接触後の耐摩耗性」の評価前のガラス積層体)の被膜の表面を観察した。
被膜の膜厚(T)とSi/Cモル比(R)との測定を実施した測定線に沿って、被膜の一端から他端まで表面観察を行い、初期クラックと部分的な剥離の有無を確認した。評価基準は、以下の通りである。
良好(○):初期クラックが全く見られない。
可(△):わずかに初期クラックが見られたが、部分的な剥離は見られなかった。
不良(×):初期クラックが見られ、かつ、部分的な剥離が見られた。
(アルカリ液接触後の耐摩耗性)
得られたガラス積層体を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸漬させた後、取り出し、水洗し、23℃に設定した乾燥機で乾燥した。このアルカリ液接触後のガラス積層体の被膜に対して、被膜の膜厚(T)とSi/Cモル比(R)との測定を実施した測定線に沿って、JIS K7316(2013年)に準拠して、スクラッチ試験を行った。荷重は、10Nとした。
試験後の被膜の表面を、目視観察した。また、試験後の被膜の表面を、前記の「耐初期クラック性」の評価と同様に、顕微鏡観察した。被膜の膜厚(T)とSi/Cモル比(R)との測定を実施した測定線に沿って、被膜の一端から他端まで表面観察を行い、上記JIS規格で定義されているスクラッチ挙動(掘起し、ウェッジ形成または切削)の有無を確認した。評価基準は、以下の通りである。
1級(優良):目視観察および顕微鏡観察で、スクラッチ挙動が全く見られなかった。
2級(良):目視観察でスクラッチ挙動が全く見られなかったが、顕微鏡観察でスクラッチ挙動が見られた。
3級(可):目視観察でわずかにスクラッチ挙動が見られた。
不良(×):目視観察ではっきりとしたスクラッチ挙動が見られた。
[材料]
各例で用いた材料は、以下の通りである。
<ガラス基材>
(G1)図1に模式的に示したような、市販の自動車の運転手席の横にあるサイドガラス用の合わせガラスを用意した。
<4官能性加水分解性シリコン化合物(4官能シラン)>
TMOS:テトラメトキシシラン、
TEOS:テトラエトキシシラン。
<3官能性加水分解性シリコン化合物(3官能シラン)>
GPTMS:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
MTMS:メチルトリメトキシシラン、
KBM-3066:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、信越化学工業社製「KBM-3066」。
<可撓性付与成分>
(EX-614B)熱硬化性化合物、多官能エポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製「デナコールEX-614B」、
(SR-SEP)熱硬化性化合物、多官能エポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、阪本薬品工業社製「SR-SEP」、
(M-20G)活性エネルギー線硬化性化合物、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、単官能メタクリレート、新中村化学工業社製「M-20G」、
(LF-4871)熱硬化性樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、DIC社製「LF-4871」。
<紫外外線吸収剤(紫外外線遮蔽剤)>
THBP:ジヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、BASF社製「Uvinul(登録商標) 3050」。
Tinuvin 326:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、BASF社製「Tinuvin(登録商標) 326」。
Si-THBP溶液(63質量%):上記のTHBP49.2g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)123.2g、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(純正化学社製)0.8g、および酢酸ブチル(純正化学社製)100gを、撹拌しながら60℃に昇温して溶解させ、120℃まで加熱し4時間反応させることにより、固形分濃度63質量%のシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)溶液を得た。このシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)は、機能性成分かつ3官能性加水分解性シリコン化合物である。
<赤外線吸収剤(赤外線遮蔽剤)>
ITO分散液:20質量%インジウム錫酸化物(ITO)分散液。三菱マテリアル量子化成社製のITO微粒子(平均一次粒子径20nm、平均分散粒子径55nm)の11.9g、分散剤(ビックケミー・ジャパン社製「DISPERBYK-190」の3.0g、および後記混合溶剤(AP-1)の24.2gを、ボールミルを用いて48時間分散処理した。さらに混合溶剤(AP-1)を添加して、ITO濃度が20質量%となるように希釈して、ITO分散液を得た。
CWO(登録商標)分散液:20質量%セシウム酸化タングステン水分散液(住友金属鉱山社製」)
<キレート剤>
PMA-50W:ポリマレイン酸水溶液、固形分40~48質量%、日油社製「ノンポール PMA-50W」、
マレイン酸:純度99.0質量%。
<表面調整剤>
BYK307:シリコン系表面調整剤、ビッグケミー・ジャパン社製「BYK307」。
<有機溶剤>
AP-11:エタノール:メタノール:2-プロパノール:=85.5:13.4:1.1(質量比)の混合溶剤、日本アルコール販売社製「ソルミックス(登録商標) AP-11」、
AP-1:エタノール:2-プロパノール:メタノール=85.5:13.4:1.1(質量比)の混合溶剤、日本アルコール販売社製「ソルミックス(登録商標) AP-1」。
<酸触媒>
酢酸:純度99.7質量%、
63質量%硝酸水溶液。
<光安定化剤>
LA-72:ヒンダードアミン系光安定化剤、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、アデカ社製「アデカスタブ LA-72」。
<酸化防止剤>
AO-40:フェノール系酸化防止剤、6,6’-ジ-t-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、アデカ社製「アデカスタブ AO-40」。
[例1](ガラス積層体の製造)
(工程(S1))
丸底フラスコに、TMOSを4.55g、GPTMSを5.19g、EX-614Bを1.80g、THBPを3.00g、BYK307を0.06g、AP-11を57.96g、酢酸を9.50g、および純水を14.50g入れ、50℃で2時間撹拌混合した。最後に、20質量%インジウム錫酸化物(ITO)分散液を3.50g加え、固形分濃度11.6質量%の液状組成物(LC1)を得た。
配合組成を、表1-1に示す。表中の配合量の単位は、「g」である。
(工程(S2))
次に、ガラス基材(G1)の上辺側を上方にして、地面に対して略垂直に立て、このガラス基材(G1)の車内面(凹面)上に、ガラス基材(G1)の上辺から数mm~数十mmの間隔をあけた位置で、ガラス基材(G1)の上辺に沿うように、ノズルを用いたフローコート法により液状組成物(LC1)を流しかけた。このようにして、塗工膜付きガラス基材を得た。
(工程(S3))
次に、塗工膜付きガラス基材を、大気雰囲気下200℃で20分間加熱焼成した。焼成工程では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス基材を水平に配置(平置き)した。このようにして、塗工膜を硬化して、ガラス積層体(GL1)を得、評価した。
[例2~13、例24~38、例101~140]
(工程(S1))
例2~13、例24~38、および例101~140の各例においては、配合組成を変更した以外は例1の工程(S1)と同様にして、液状組成物(LC2)~(LC13)、(LC24)~(LC38)、(LC101)~(LC140)を得た。
配合組成を、表1-1~表1-3、表1-5~表1-7、表2-1~表2-7に示す。
(工程(S2))
次に、得られた液状組成物(LC)を用いて、例1の工程(S2)と同様に塗工を実施し、塗工膜付きガラス基材を得た。ただし、これらの例では、工程(S2)において、ガラス基材(G1)を、地面に対して、略水平、略垂直、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置した。
(工程(S3))
次に、得られた塗工膜付きガラス基材を、例1の工程(S3)と同様に焼成して、ガラス積層体(GL2)~(GL13)、(GL24)~(GL38)、(GL101)~(GL140)を得、評価した。
[例14~23]
(工程(S1))
例14~23の各例においては、配合組成を変更した以外は例1の工程(S1)と同様にして、液状組成物(LC14)~(LC23)を得た。
配合組成を、表1-3および表1-4に示す。
(工程(S2))
次に、得られた液状組成物(LC)を用いて、例1の工程(S2)と同様に塗工を実施し、塗工膜付きガラス基材を得た。ただし、これらの例では、工程(S2)において、ガラス基材(G1)を、地面に対して、略水平、略垂直、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置した。
(工程(S3))
次に、得られた塗工膜付きガラス基材を、例1の工程(S3)と同様に焼成した。
(工程(S4))
次に、GSユアサ社製の高圧水銀灯(ピーク波長:360nm、照射量:500mJ/cm)を用いて、被膜に紫外線を10分間照射して、活性エネルギー線硬化性化合物(M-20G)を硬化した。このようにして、ガラス積層体(GL14)~(GL23)を得、評価した。
[結果のまとめ]
例1~38の各例で得られたガラス積層体の被膜の、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上の評価結果を、表1-1~表1-7に示す。
例101~140の各例で得られたガラス積層体の被膜の、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上の評価結果を、表2-1~表2-7に示す。
Figure 2024030759000002
Figure 2024030759000003
Figure 2024030759000004
Figure 2024030759000005
Figure 2024030759000006
Figure 2024030759000007
Figure 2024030759000008
Figure 2024030759000009
Figure 2024030759000010
Figure 2024030759000011
Figure 2024030759000012
Figure 2024030759000013
Figure 2024030759000014
Figure 2024030759000015
例1~38で得られたガラス積層体の被膜は、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(1A)、(2A)および(3A)を充足できた。
これらの例で得られたガラス積層体の被膜は、ベルトライン近傍領域において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れるものであった。
例1~38のうちのいくつかの例では、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(1B)を充足できた。
例1~38のうちのいくつかの例では、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(2B)または式(2C)を充足できた。
例101~140で得られたガラス積層体の被膜は、第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、式(1A)、(2A)および(3A)のうち1つ以上の式の充足できなかった。
被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚(T)が8.3741×R-1.871超では、ベルトライン近傍領域の被膜が厚く、耐初期クラック性が不良となった。被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚(T)が5.0120×R-0.290未満では、ベルトライン近傍領域の被膜のアルカリ液接触後の耐摩耗性が不良となった。
図3は、[実施例]の項で得られたガラス積層体について、被膜の第1の仮想線上の測定点の膜厚(T)およびSi/Cモル比(R)と、評価結果との関係を示すグラフである。この図は、表1-1~表1-7および表2-1~表2-7に示した各例のデータをプロットしたグラフである。
図中、各記号が示す例は、以下の通りである。「○」は、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性の双方が良好であった例を示す。「▲」は、アルカリ液接触後の耐摩耗性が良好であったが、耐初期クラック性が不良であった例を示す。「◆」は、耐初期クラック性が良好であったが、アルカリ液接触後の耐摩耗性が不良であった例を示す。
図3に、式(1A-L)で表される曲線、式(2A-L)で表される曲線、および式(3A-L)で表される直線を示す。図3に示すように、式(1A-L)で表される曲線、式(2A-L)で表される曲線、および式(3A-L)で表される直線で囲まれる領域(良好領域とも言う。)において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性の双方が良好となる結果が得られた。
上記良好領域の範囲外において、式(1A-L)で表される曲線より外側の領域では、耐初期クラック性が不良となり、式(2A-L)で表される曲線より外側の領域では、アルカリ液接触後の耐摩耗性が不良となった。
式(1A-L)で表される曲線は、耐初期クラック性が良好であった例群と、耐初期クラック性が不良であった例群との境界曲線であり、式(1A-L)は、本発明者らがデータ分析により見出した実験式である。
式(2A-L)で表される曲線は、アルカリ液接触後の耐摩耗性が良好であった例群と、アルカリ液接触後の耐摩耗性が不良であった例群との境界曲線であり、式(2A-L)は、本発明者らがデータ分析により見出した実験式である。
図3に、式(1B-L)で表される曲線を示す。上記良好領域の範囲内において、式(1B-L)で表される曲線より内側の領域では、より良好な結果が得られた。
図3に、式(2B-L)で表される曲線および式(2C-L)で表される曲線を示す。上記良好領域の範囲内において、式(2B-L)で表される曲線より内側の領域では、より良好な結果が得られた。さらに、式(2C-L)で表される曲線より内側の領域では、より良好な結果が得られた。
図3に示すように、Si/Cモル比(R)が大きくなる程、式(1A-L)で表される曲線と式(2A-L)で表される曲線との間の範囲が狭くなり、所望の作用効果が得られる膜厚の範囲が狭くなる傾向があった。
図3において、式(1A-L)で表される曲線と式(2A-L)で表される曲線との交点のSi/Cモル比(R)が、Si/Cモル比(R)の上限値となる。Si/Cモル比(R)の上限値は、1.3835であった。
所望の作用効果が得られる膜厚(T)の範囲が狭いと、狭い範囲内で膜厚(T)を厳密に制御する必要があるので、製造工程の不良品率が高くなる可能性がある。
被膜の第1の仮想線上の測定点のSi/Cモル比(R)が0.8以下、0.7以下、または0.6以下であれば、所望の作用効果が得られる膜厚(T)の範囲がある程度広く、膜厚(T)を厳密に制御する必要がなく、製造工程の良品率を高められることが分かった。
例1~4、36の各例で得られたガラス積層体の被膜については、ベルトライン上、ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上、および、ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上について、評価を実施した。評価結果を表3-1および表3-2に示す。これら表中、評価箇所を示す各略号は、以下の通りである。
BL:ベルトライン上、
BL+2.5:ベルトラインを被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上、
BL+5.0:ベルトラインを被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上。
Figure 2024030759000016
Figure 2024030759000017
例1~4、36の各例で得られたガラス積層体の被膜は、ベルトライン上、第1の仮想線上、および第2の仮想線上において、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(1A)、(1B)、(2A)、(3A)および(4A)を充足できた。
例1~4の各例で得られたガラス積層体の被膜では、ベルトライン上、第1の仮想線および第2の仮想線の各線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(2B)を充足できた。
さらに、例1、2、4の各例で得られたガラス積層体の被膜では、ベルトライン、第1の仮想線および第2の仮想線の各線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である5点以上の測定点において、式(2C)を充足できた。
例1~4、36で得られたガラス積層体の被膜は、ベルトラインから第2の仮想線までのベルトライン近傍領域において、耐初期クラック性およびアルカリ液接触後の耐摩耗性に優れるものであった。
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
1:ガラス積層体、10:ガラス基材、10S:表面、20:被膜、BL:ベルトライン、IL1:第1の仮想線、IL2:第2の仮想線、NBL1、NBL2、NBL3:ベルトライン近傍領域。

Claims (12)

  1. ガラス基材と、当該ガラス基材の一方の表面上に形成された、シロキサン結合と、Si原子に結合した有機基および有機化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機成分とを含む被膜とを有し、車両の窓開口部に開閉自在に取り付けられる車両サイドガラス用のガラス積層体であって、
    前記被膜は、前記ガラス基材の前記表面上において、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で前記窓開口部を含む領域に形成されており、
    前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、平面視にて、前記車両のベルトラインを前記被膜の表面に沿って2.5cm上方に平行移動させた第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、ガラス積層体。
    T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
    T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
    R≧0.4・・・(3A)
    (式中、Tは被膜の膜厚[μm]であり、RはSi/Cモル比[-]である。)
  2. 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、請求項1に記載のガラス積層体。
    R≦0.8・・・(4A)
  3. 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1B)を充足する、請求項1または2に記載のガラス積層体。
    T≦7.3741×R-1.871・・・(1B)
  4. 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(2B)を充足する、請求項1または2に記載のガラス積層体。
    T≧5.1714×R-0.378・・・(2B)
  5. 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第1の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(2C)を充足する、請求項1または2に記載のガラス積層体。
    T≧5.6000×R-0.340・・・(2C)
  6. 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、請求項1に記載のガラス積層体。
    T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
    T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
    R≧0.4・・・(3A)
  7. 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記ベルトライン上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、請求項6に記載のガラス積層体。
    R≦0.8・・・(4A)
  8. 前記被膜は、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、平面視にて、前記ベルトラインを前記被膜の表面に沿って5.0cm上方に平行移動させた第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜の膜厚とSi/Cモル比とを測定したとき、下式(1A)、(2A)および(3A)を充足する、請求項1または6に記載のガラス積層体。
    T≦8.3741×R-1.871・・・(1A)
    T≧5.0120×R-0.290・・・(2A)
    R≧0.4・・・(3A)
  9. 前記被膜はさらに、前記ガラス積層体が前記窓開口部を完全に閉じた状態で、前記第2の仮想線上にある、互いに隣接する2つの測定点の間隔が5.0cm以上である任意の複数の測定点において、前記被膜のSi/Cモル比を測定したとき、下式(4A)を充足する、請求項8に記載のガラス積層体。
    R≦0.8・・・(4A)
  10. 前記被膜は、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間または異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物の硬化物からなる、請求項1または2に記載のガラス積層体。
  11. 前記被膜は、紫外線遮蔽剤および赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、請求項1または2に記載のガラス積層体。
  12. 加水分解性基を有する1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む液状組成物を用意する工程(S1)と、
    前記ガラス基材を、地面に対して、略水平に、略垂直に、または略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置し、当該ガラス基材の一方の表面上に、前記液状組成物を塗工し塗工膜を形成して、塗工膜付きガラス基材を得る工程(S2)と、
    前記塗工膜付きガラス基材を加熱し、前記塗工膜を硬化する工程(S3)とを有する、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
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