JP2024024686A - 歯科用硬化性組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】窩洞、切縁隅角等の歯の様々な箇所の修復において、単一色の充填修復材料のみで、様々な色調の天然歯と適合させることができる歯科用硬化性組成物を提供すること。【解決手段】(A)SiO2、ZrO2及びAl2O3を含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiO2フィラー、(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び(D)着色材を含有する歯科用硬化性組成物であって、前記(B)SiO2フィラーと前記(A)複合金属酸化物フィラーとの配合比(質量比)が1:0.8~1:8であり、前記硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体の透過率(Tt)が52以上66以下であり、濁度(ヘイズ値)が85以上98以下であり、L*a*b*表色系におけるL*値が70以上77以下であり、a*値が-0.5以上1.5以下であり、かつ、b*値が11以上19以下である、歯科用硬化性組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、歯科用硬化性組成物に関する。
従来、う蝕、破折等により損傷した歯牙の修復に用いられる硬化性組成物として、配合する球状フィラーの光の干渉、回折、屈折、散乱等により発現する構造色を使用するものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
特許文献1には、重合性単量体成分(A)、平均粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状フィラー(B)及び重合開始剤(C)を含む硬化性組成物であって、厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表示系による測定値の明度(V)が5未満であり、彩度(C)が0.05以上であり、且つ白背景下でのマンセル表示系による測定値の明度(V)が6以上であり、彩度(C)が2未満であることを特徴とする硬化性組成物が記載されている。
特許文献2には、重合性単量体成分(A)、平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下の範囲内であり、個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在するにある無機球状フィラー(B)、平均粒子径が100nm以上1000nm以下の範囲内にある不定形無機フィラー(C)及び重合開始剤(D)を含んでなり、前記無機球状フィラー(B)の25℃における屈折率:nFBは、前記重合性単量体成分(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率:nよりも大きいことを特徴とする歯科用硬化性組成物が記載されている。
これら特許文献1及び2に記載の硬化性組成物は、構造色によって着色した光を利用するため、顔料等の着色物質を用いずに、濃淡がある天然歯の色調と調和し、かつ天然歯との調和が長期にわたって継続する修復が可能である。さらに、特許文献2に記載の硬化性組成物は、適度の不透明性を有するため、前歯欠損部、特に深層に象牙質部を含まないIII級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含まない窩洞)又はIV級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含む窩洞)の修復において、下地用のコンポジットレジン(CR)を用いなくても、高い色調適合性を得ることができる。
しかしながら、これら特許文献1及び特許文献2に記載の硬化性組成物は、構造色を発現させる必要があり、球状及び不定形の無機フィラーの粒子径、屈折率及び形状、並びにその配合比が限定されるため、組成設計の自由度が低く、組成設計が困難であった。このため、構造色を発現する技術を用いることなしに、顔料等の着色材を用いた色調設計によって、単一色の充填修復材料のみで、濃淡がある天然歯の色調と調和し、かつ下地用のCRを用いずにIII級窩洞又はIV級窩洞の修復において天然歯と調和する技術が求められている。
国際公開第2017/069274号 特開2020-011917号公報
本発明は、窩洞、切縁隅角等の歯の様々な箇所の修復において、単一色の充填修復材料のみで、様々な色調の天然歯と適合させることができる歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、下記に示す歯科用硬化性組成物が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、
(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー、
(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び
(D)着色材
を含有する歯科用硬化性組成物であって、
前記(B)SiOフィラーと前記(A)複合金属酸化物フィラーとの配合比(質量比)が1:0.8~1:8であり、
前記硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体の透過率(Tt)が52以上66以下であり、
濁度(ヘイズ値)が85以上98以下であり、
表色系における
値(明度)が70以上77以下であり、
値(色度)が-0.5以上1.5以下であり、かつ、
値(色度)が11以上19以下である、歯科用硬化性組成物。
項2.
前記(D)着色材が、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、項1に記載の歯科用硬化性組成物。
項3.
前記(D)着色材として、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料を含み、
それらの含有量が、
前記(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、
前記(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー、及び
前記(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマーの合計100質量部に対して、
赤色顔料が0.0003~0.0009質量部、
黄色顔料が0.0004~0.0011質量部、
黒色顔料が0.0003~0.003質量部、及び
白色顔料が0.05~0.18質量部である、項1又は2に記載の歯科用硬化性組成物。
項4.
前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体のオパール値が10以上23以下である、項1~3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項5.
歯色基準として用いるシェードガイドのA1からA4までのシェードに相当する色調の直径15mm、及び、厚み1mmの歯色基準ペレットの色調と、
前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の直径が15mm、及び、厚みが1mmの硬化体を前記歯色基準ペレットに重ねたときの前記硬化体の色調との、
色差(ΔE)が10.5以下である、項1~4のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項6.
前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体の、白背景でのY値(Y)に対する黒背景でのY値(Y)の比(Y/Y:コントラスト比)が、0.43以上0.58以下である、項1~5のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項7.
前記歯科用硬化性組成物を、直径12mm、及び、厚み1mmの円板状に形成し、厚み1mmの金属板で、前記歯科用硬化性組成物を半分に分ける切り込みを入れ、
37℃で静置したとき、分割した歯科用硬化性組成物が変形し、前記分割した歯科用硬化性組成物同士が接触するまでの時間が300秒以上である、項1~6のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項8.
前記歯科用硬化性組成物0.65gを球状に成形し、上から3.25kgの重りを載せて60秒間静置したときの伸び率(稠度)が160%以上である、項1~7のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項9.
ペーストである、項1~8のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項10.
前記(A)複合金属酸化物フィラーが、平均粒子径0.1~0.9μmの一次粒子を焼結により部分的に結合させた平均粒子径が2~8μmの二次粒子であるフィラーである、項1~9のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
項11.
項1~10のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物を重合硬化させた硬化体。
項12.
項1~10のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物を重合硬化させた歯科用材料。
本発明によれば、窩洞、切縁隅角等の歯の様々な箇所の修復において、単一色の充填修復材料のみで、様々な色調の天然歯と適合させることができる歯科用硬化性組成物を提供することができる。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯冠形態の形状維持性に優れているため、操作性が高く、前歯欠損部、奥歯等の歯冠形状を容易に形成することができる。
図1は、色調適合性の評価方法を説明する模式図である。 図2は、色調適合性の官能評価を説明する模式図である。 図3は、遮蔽性(コントラスト比)の評価方法を説明する模式図である。 図4は、遮蔽性の官能評価を説明する模式図である。 図5は、形状維持性の評価方法を説明する模式図である。 図6は、稠度の評価方法を説明する模式図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.歯科用硬化性組成物
本発明の歯科用硬化性組成物は、(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー、(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び(D)着色材を含有し、
前記(B)SiOフィラーと前記(A)複合金属酸化物フィラーとの配合比(質量比)が1:0.8~1:8であり、
前記硬化性組成物の重合硬化後の透過率(Tt)が52以上66以下であり、
濁度(ヘイズ値)が85以上98以下であり、
表色系におけるL値が70以上77以下であり、a値が-0.5以上1.5以下であり、かつ、b値が11以上19以下である。
これにより、本発明の歯科用硬化性組成物は、窩洞、切縁隅角等の歯の様々な箇所の修復において、単一色の充填修復材料のみで、様々な色調の天然歯と適合させることができる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科用充填材料、歯科用充填修復材料、歯科用コンポジットレジン等と言い換えることもできる。また、材は、剤と言い換えることもできる。
本発明の歯科用硬化性組成物に配合する各成分について、以下説明する。
(A)SiO 、ZrO 及びAl を含有する不定形の複合金属酸化物フィラー
本発明の歯科用硬化性組成物は、(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー(以下、「A成分」又は「複合金属酸化物フィラー」ということもある。)を必須成分として含有する。
前記複合金属酸化物フィラーは、平均粒子径0.1~0.9μmの一次粒子を焼結により部分的に結合させた平均粒子径が2~8μmの二次粒子であるフィラーであることが好ましい。
なお、不定形とは、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で観察される一次粒子の形状が、不規則な多数の角及び面を有していることを意味する。また、不定形の複合金属酸化物フィラーとは、破砕又は粉砕によって得られる粒子からなるフィラーを意味する。
前記複合金属酸化物フィラーの含有量は、歯科用硬化性組成物中、通常10~80質量%であり、20~75質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましい。
前記複合金属酸化物フィラーは1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なる複合金属酸化物フィラーを混合することができる。
前記複合金属酸化物フィラー、即ち焼結一次粒子が結合した凝集状の二次粒子は、ゾル-ゲル法で調製された多孔質SiO-Al-ZrO非晶質体からなる粒子を、上記粒子径に微粉砕してゲル微粒子を得る工程、該ゲル微粒子を凝集させる工程、及び該凝集物を焼成する工程を経て作製される。
該焼成により、一次粒子は十分に焼結するが、焼結一次粒子間の結合が弱い二次粒子を形成し、これが本発明に用いる複合金属酸化物フィラーが製造される。
本発明の歯科用硬化性組成物は、平均粒子径が0.1~0.9μm程度の一次粒子が結合したフィラー(二次粒子、平均粒子径=2~8μm)を含有することにより大きな曲げ強度が付与される。フィラー(二次粒子)の表面は、凹凸が形成されており、この凹凸の中に重合性モノマーが入り込んで硬化することで嵌合効果(アンカー効果ともいう)が生じ、機械的強度が高くなるものと考えられる。
本発明に用いるフィラーは、SiO-Al-ZrO系のゲル微粉粒子(焼結後には一次粒子)を、乾燥後、高温で焼成するため、一次粒子の表面は十分に焼結している。このため、その比表面積は小さくなっており、このフィラーを使用した歯科用硬化性組成物は、吸水率が小さく、口腔内のような湿潤条件での耐久性に優れる。
複合金属酸化物フィラーの製造方法
本発明に用いる複合金属酸化物フィラーは、アルコキシシラン、加水分解可能なジルコニウム化合物及び加水分解可能なアルミニウム化合物の混合物を、ゾル-ゲル法により共沈-乾燥させてゲル体とする工程(A1工程)、該ゲル体を粉砕して微細粒子(一次粒子)とする工程(A2工程)、及び該一次粒子を焼成することで二次粒子を形成する工程(A3工程)を備え、必要に応じて、シランカップリング材によって表面処理する工程(A4工程)を備える方法により製造することができる。
具体的には、A1工程では、アルコキシシラン、加水分解可能なアルミニウム化合物及び加水分解可能なジルコニウム化合物を溶媒中で均一に混合して、SiO 50~95質量%(好ましくは60~85質量%)、ZrO 0.1~30質量%(好ましくは10~20質量%)及びAl 0.1~30質量%(好ましくは0.3~10質量%)を含有する溶液を作製し、アルカリ溶液を混合して各成分を同時に加水分解させて、反応生成物のゲル粒子を析出させる。
本発明における複合金属酸化物フィラーの組成のうち、SiOの屈折率(nD)は1.46、ZrOは2.2で、Alは1.76であり、各成分の含有量によって、複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)がほぼ加成則に従い変化する。また、歯科材料においてX線造影性を付与するために、ZrO成分を含有させることができる。
なお、複合金属酸化物フィラーの屈折率(nD)を増加させるTiO、CeO、Y成分等の導入も可能であるが、最終的なフィラー全重量に対して、3質量%以下の少量に留めることが望ましい。
ここで、アルコキシシランとしては、特に限定はなく、例えば、一般式:Si(OR)(Rはアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す。)で表されるテトラアルコキシシラン化合物;テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー等が挙げられる。中でも、アルコキシシランとしては、エトキシシラン、メトキシシラン、メチルシリケートオリゴマー(SiO含有量=52wt%、(CHO)10Si=約4量体、三菱ケミカル株式会社製のMS51)が好ましく、メチルシリケートオリゴマーが安価で取り扱いし易い点でより好ましい。
加水分解可能なアルミニウム化合物としては、特に限定はなく、例えば、安価で加熱分解し易いAl硝酸塩(Al(NO)、Al酢酸塩(Al(OAc))、Alアセチルアセトネート塩等のアルミニウム塩;Al(OR)(Rはアルキル基、好ましくはn-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す)で表されるトリアルコキシアルミニウム化合物等が挙げられる。該アルミニウム塩は、通常水溶液として用いることができる。
加水分解可能なジルコニウム化合物としては、一般式:Zr(OR’)(R’はアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等を示す。)で表わされるテトラジルコニウム化合物;ZrO(NO・nHO;ZrOCl・nHO等が挙げられる。中でも、ZrO(NO・nHO又はZrOCl・nHO及びZrO(NO・nHOが好ましい。nは、1~10の整数を示す。
複合金属酸化物フィラーの具体的な製造方法としては、硝酸アルミニウム(Al(NO・9HO)を水又はアルコールに溶解し、この溶液にジルコニウム化合物(例えば、ZrO(NO水溶液)を加えて十分に混合する。該混合液に、アルコキシシラン、例えば、メチルシリケートオリゴマーを加えて均一透明な原料混合溶液とする。得られた原料混合溶液における無機酸化物含有率は、1~35質量%程度の範囲であり、好ましくは3~10質量%程度の範囲である。水又はアルコール等の溶媒の含有率が多いと乾燥に時間を要し不経済となり、溶媒が少ないと次の中和攪拌操作が困難となるからである。
以上のように調製した原料混合溶液(ゾル)は、アルカリ性溶液を添加することにより、加水分解及び共沈反応によりゲル化することができる。
アルカリ性溶液としては、特に限定はなく、例えば、上記原料混合溶液を溶解し、水に任意の割合で溶解し、乾燥及び加熱処理によりフィラー中に残留しない点で、アンモニア水が好ましい。アンモニア水の量は、原料混合溶液と混合した時に塩基性を示すことが必要で、一般には、pH7~9程度、好ましくはpH8程度になる量が一つの目安となる。例えば、市販アンモニア水(含有率:35wt%)の2倍希釈程度を採用することができる。
上記原料混合溶液とアルカリ性溶液との混合方法は、特に限定はなく、例えば、各原料成分におけるアルカリによるそれぞれの加水分解条件が異なることが原因である共沈物における成分の偏りを防止するために、一括添加することが望ましい。攪拌速度、反応温度及び時間についても特に限定はなく、均一反応を目的に激しく攪拌して急速中和を行い、共沈微粒子の集合体(ゼリー状ゲル体)を得ることで、成分の偏りを防止できる。
上記の操作により得られるゾル-ゲル体は、通常のエバポレーター又は乾燥機で溶媒、過剰のアンモニア、水等の蒸発除去及び乾燥を行う。乾燥温度としては特に限定はなく、例えば、40~150℃、好ましくは70~120℃の範囲である。
次いで、乾燥したゲル体を水洗して、副生成物である硝酸アンモニウム等を除去する。例えば、送風式乾燥機等で、ゲル体を十分乾燥させた後、該乾燥物に、エタノールを加えて、遊星ミル、ビーズミル等により平均粒子径0.1~0.9μmのゲル微粒子に湿式粉砕し、エタノールを蒸発除去及び乾燥してゲル微粒子粉体とする。この微粒子粉体を、ジェットミル等の気流式粉砕機を利用して平均粒子径が3~20μmの粒子とし、電気炉中で焼成する。
該粒子の焼成では、一次粒子の焼結と該一次粒子が結合した二次粒子(平均粒子径3~10μm)の形成とが重要となる。SiO、ZrO及びAl成分の含有率によって、その最適な加熱処理条件(温度、時間等)は適宜選択する。
例えば、昇温速度は、最速でも毎分20℃程度、通常毎分3~10℃程度とすることが望ましい。焼成温度は、800~1200℃程度、好ましくは1000~1190℃程度、より好ましくは1050~1150℃である。
上記方法により製造された二次粒子は、解砕、ブレンド等の方法により適当な粒度分布を有するように調整される。二次粒子の無機フィラーは、平均粒子径が0.1~0.9μm程度の焼結一次粒子がネック形成によって相互に結合された不定形粒子(粒径=1~50μm)であり、鋭いエッジを持たず、粒度分布がブロードで粒子の大きさが不揃いで、凸凹の表面を有している。この焼成後の二次粒子を、必要に応じて気流式粉砕機で解砕し、平均粒子径2~8μmに調節できる。
本発明における平均粒子径及び粒度分布の測定は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD-2200)により行う。該平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布を体積基準で測定しているため、体積平均粒子径を意味する。
焼成前のゲル微粒子(一次粒子)及び粒子(二次粒子)の粒度は、蒸留水を溶媒として、屈折率を1.45±0.10にして、粒度分布測定装置に粉体を投入し、5分間超音波分散後に測定した。また、焼成後の粒子(二次粒子)の粒度は、屈折率を1.50±0.10の条件で測定した。
(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiO フィラー
本発明の歯科用硬化性組成物には、平均粒子径が50nm以下の球形のSiOフィラー(以下、「B成分」又は「超微粒子SiOフィラー」ということもある。)を配合する必要がある。なお、球形には、真球形だけでなく、略球形も含まれる。該超微粒子SiOフィラーとしては、一次粒子の平均粒子径が50nm以下である公知のSiOフィラーであれば特に限定はなく、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられる。該超微粒子SiOフィラーの平均粒子径は、50nm以下であればよく、10~50nmの範囲が好ましい。
該超微粒子SiOフィラーは、1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なる超微粒子SiOフィラーを混合することができる。
該歯科用硬化性組成物中に含まれる超微粒子SiOフィラーの含有量は、通常5~45質量%であり、7~30質量%が好ましく、9~20質量%がより好ましい。
前記(B)超微粒子SiOフィラーと、前記(A)複合金属酸化物フィラーとの配合比(質量比)は、1:0.8~1:8であり、1:0.9~1:8が好ましく、1:1~1:7がより好ましい。
該B成分の超微粒子SiOフィラーは、SiOフィラーであって、ZrO及びAlを含有しないフィラーである。それに対して、A成分は、SiO、ZrO及びAlを含有する複合金属酸化物フィラーであって、必ずSiO、ZrO及びAlを含有している。よって、A成分とB成分とは明確に区別することができる。また、A成分及びB成分は着色材ではなく、D成分と明確に区別することができる。
(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー
本発明の歯科用硬化性組成物には、(メタ)アクリレート系重合性モノマー(以下、「C成分」、「重合性モノマー」、又は「モノマー」ということもある。)を配合する必要がある。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味している。
該重合性モノマーとしては、歯科用として使用可能な(メタ)アクリレート系重合性モノマー(単量体)であれば、特に限定はなく使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アルキルエステルの場合はアルキル基の炭素数1~12;芳香族基を含むエステルの場合は炭素数6~12である。なお、これらの基にポリエチレングリコール鎖等の置換基を含むものはそれらの炭素数も含める。)等の単官能性の(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレン基の炭素数2~20)、エチレングリコールオリゴマージ(メタ)アクリレート(2~10量体)、ビスフェノールAを含むジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能性の(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、特開昭50-042696号公報又は特開昭56-152408号公報に開示されているモノマー等が好適である。
該単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
該多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキサ-3,14-ジオキソ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート(1,6-ビス((メタ)アクリロイルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン)、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、2-ヒドロキシエチル(メタアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
該(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、多官能性の(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ウレタンジメタクリレート(UDMA)及びビスフェノールAグリシジルジメタクリレート(Bis-GMA)がより好ましく、DEGDMA、TEGDMA、UDMA及びBis-GMAが特に好ましい。
これら(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、単独で使用できるが、2種類以上の重合性モノマーを混合して使用することが好ましく、2種以上の多官能性の(メタ)アクリレートを混合して使用することがより好ましく、粘度を調整するために2種以上のジ(メタ)アクリレートを混合して使用することが特に好ましい。
該歯科用硬化性組成物に含まれる重合性モノマーの含有量は、通常10~35質量%であり、15~30質量%が好ましく、20~25質量%がより好ましい。
なお、本発明の歯科用硬化性組成物は、前記(メタ)アクリレート系重合性モノマーに加えて、重合の容易さ、粘度の調節、又はその他の物性の調節のため、上記(メタ)アクリレート系重合性モノマー以外の他の重合性モノマーを混合して重合することも可能である。
(D)着色材
本発明の歯科用硬化性組成物には、着色材(以下、「D成分」ということもある。)を配合する必要がある。着色材(着色剤)として、一般の歯科治療の用途で用いられる公知の顔料を、特に限定なく使用することができる。着色材は、無機顔料及び有機顔料のいずれでもよい。無機顔料としては、例えば、酸化鉄系着色顔料、酸化アルミニウム系着色顔料、酸化チタン系着色顔料、酸化ジルコニウム顔料等が挙げられる。有機顔料として、例えば、イソインドリノン、ピグメントレッド等が挙げられる。
前記(D)着色材は、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料を含むことがより好ましい。
赤色顔料として、具体的には、酸化第二鉄(酸化鉄(III))、ピグメントレッド等が挙げられる。
黄色顔料として、具体的には、イソインドリノン、ニッケルチタンイエロー、酸化クロム等が挙げられる。
黒色顔料として、具体的には、四酸化三鉄(四三酸化鉄)、無定形炭素(カーボンブラック)等が挙げられる。
白色顔料として、具体的には、酸化ジルコニウム、チタンホワイト(二酸化チタン)、酸化亜鉛等が挙げられる。なお、白色顔料は、乳濁剤ということもある。
前記D成分の含有量は、着色材が赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料を含む場合、A成分、B成分、及びC成分の合計100質量部に対して、赤色顔料が0.0003~0.0009質量部、黄色顔料が0.0004~0.0011質量部、黒色顔料が0.0003~0.003質量部、及び白色顔料が0.05~0.18質量部であることが好ましく、赤色顔料が0.0004~0.0008質量部、黄色顔料が0.0005~0.001質量部、黒色顔料が0.0004~0.002質量部、及び白色顔料が0.07~0.15質量部であることがより好ましい。また、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料の配合比率は、白色顔料100質量%に対して、赤色顔料が0.3~1質量%、黄色顔料が0.2~1.6質量%、黒色顔料が0.3~4質量%が好ましく、赤色顔料が0.5~0.8質量%、黄色顔料が0.4~1.1質量%、黒色顔料が0.4~3質量%がより好ましい。
(E)任意成分
本発明の歯科用硬化性組成物は、さらに必要に応じて、上記の成分以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分は、本発明の歯科用硬化性組成物の効果を損なわない範囲で配合することができる。任意成分として、例えば、重合開始剤、重合促進剤、蛍光材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
任意成分を配合する場合、歯科用硬化性組成物100質量%に対して、通常、0.001~10質量%、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%の割合で添加することができる。
前記歯科用硬化性組成物は、形状維持性に優れている。具体的には、前記歯科用硬化性組成物を、直径12mm、厚み1mmの円板状に形成し、厚み1mmの金属板で半分に分ける切り込みを入れ、37℃で静置したとき、分割した歯科用硬化性組成物が変形し、該歯科用硬化性組成物が接触するまでの時間が、300秒以上が好ましく、360秒以上がより好ましく、420秒以上がさらに好ましい。
前記歯科用硬化性組成物は、稠度(伸び率)に優れている。具体的には、前記歯科用硬化性組成物0.65gを球状に成形し、上から3.25kgの重りを静かに載せて60秒間静置したときの伸び率(稠度)が、160%以上であることが好ましく、180%以上であることがより好ましく、200%以上であることがさらに好ましい。球状には、真球だけでなく、略球状も含まれる。
2.歯科用硬化性組成物の製造方法
本発明の歯科用硬化性組成物は、(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、(B)平均粒子径50nm以下のSiOフィラー、(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び(D)着色材を、上述した特定の割合で配合し、製造することができる。
上記の歯科用硬化性組成物中の各成分の混合割合(混合比)は、粘性及び使用目的によって適宜調整することができる。例えば、前記(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100質量部に対して、前記(A)複合金属酸化物フィラー及び前記(B)SiOフィラーを、合計量で300~650質量部、好ましくは350~600質量部、より好ましくは400~550質量部、並びに(D)着色材を配合し、さらに必要に応じて重合開始剤、重合促進剤、着色顔料、乳濁材、オパール化材、蛍光材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影材、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等の添加物を適宜配合することができる。なお、該歯科用硬化性組成物が、重合開始剤を含む場合、その取り扱いに注意が必要であり、密封できる容器にて、暗所及び低温での保管が必須である。
該歯科用硬化性組成物の製造方法は、前記の各成分を容器に所定量とり、十分に混練して分散させた後、ペーストを得る工程、及び、該ペーストを減圧下で混練、又は真空撹拌する工程を備えることが好ましい。このような方法を用いることで、均一で気泡の除去された粘土状又はペースト状の歯科用硬化性組成物を得ることができる。
該歯科用硬化性組成物は、公知の重合(光及び加熱)方法に従って重合させることで、硬化物が得られる。
3.歯科用硬化性組成物を硬化する方法
本発明の歯科用硬化性組成物は、光照射することにより重合硬化させることができる。光照射により重合硬化させる方法としては、光重合開始剤の種類によって異なり、紫外線の波長も使用することができるが、通常人体に無害である可視光の波長で光照射して重合硬化させる。該光の波長としては、例えば、250~700nmの範囲が好ましく、300~500nmがより好ましく、350~490nmがさらに好ましい。
前記の波長範囲の光源としては、特に限定はなく、例えば、LEDランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、レーザー、蛍光灯、太陽光等の光を使用することができる。
また、前記光の照射時間は、歯科用硬化性組成物から得られる歯科補綴物等の厚み、透明性、色調及び照射光の光量により異なるが、一般に所望の重合時間に合わせ適宜決定すればよい。好ましくは5秒から3分程度、より好ましくは10秒から120秒、さらに好ましくは20秒から60秒の光照射を行う。
歯科用硬化性組成物には、硬化前の状態だけでなく、歯科用硬化性組成物に光照射して得られた硬化後の硬化体(硬化物又は硬化被膜)の意味も含まれる。現時点でこの硬化体の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって硬化体を記載している。
前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体の透過率(Tt)は、52以上66以下であり、53以上62以下が好ましく、53以上60以下がより好ましい。
前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体の濁度(ヘイズ値)は、85以上98以下であり、88以上98以下が好ましく、92以上98以下がより好ましい。
前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体の、L表色系におけるL値は70以上77以下であり、71以上76以下が好ましく、72以上75以下がより好ましく、a値は-0.5以上1.5以下であり、-0.2以上1.2以下が好ましく、0.1以上0.9以下がより好ましく、b値は11以上19以下であり、13以上18以下が好ましく、14以上18以下がより好ましい。
また、a値及びb値から、以下の式
式A:C={(a+(b}1/2
により、彩度を表すC値を算出することができる。前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体のC値は11以上20以下であり、13以上19以下が好ましく、14以上18以下がより好ましい。なお、一般的に、歯冠として用いる材料の色度は、a値と比べてb値が大きく、C値はb値と近似することが多い。
前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の硬化体の透過率、濁度、L表色系におけるL値、a値、及びb値が、上記の数値範囲を満たすことにより、前記歯科用硬化性組成物は、1種類(単一組成)で、修復部分の色調が天然歯の色調と馴染ませることが可能となる。
前記歯科用硬化性組成物のオパール性を、前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体のL表色系におけるa値及びb値から、次の式1により、オパール値として算出することができる。
式1:(オパール値)={(a -a +(b -b )1/2
式1中、
:白背景における歯科用硬化性組成物の硬化体のa
:黒背景における歯科用硬化性組成物の硬化体のa
:白背景における歯科用硬化性組成物の硬化体のb
:黒背景における歯科用硬化性組成物の硬化体のb
なお、オパール性とは、オパール効果を有することを意味し、オパール効果とはオパールと同じ特異な可視光の光散乱効果を意味する。より具体的には、物質中に光の波長に近似の大きさを有する粒子が存在し、その粒子が可視光の短波長領域を散乱することにより、物質の透過光が黄色味を帯び、散乱光が青みを帯びることをいう。
天然歯のオパール値については、天然歯の厚みが0.7~1.3mmのとき、オパール値は10~23程度であることが知られている。このことから、前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体のオパール値は、10以上23以下であることが好ましく、11以上20以下がより好ましく、12以上19以下がさらに好ましい。
よって、前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の硬化体のオパール値を、10以上23以下にすることにより、天然歯に近い色調にすることができる。
本発明の歯科用硬化性組成物の重合硬化後の硬化体は、色調適合性に優れている。色調適合性は、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体を歯色基準ペレットに重ねた状態の色調と、歯色基準ペレットの色調との色差(ΔE)によって評価する。
ここで、歯色基準(歯の色見本)として、VITA社のシェードガイド「VITA(登録商標)PAN classical」が使用されることが多い。前記シェードガイドは、Aタイプ、Bタイプ、Cタイプ、及びDタイプにわかれており、それぞれ色調が異なる。日本人の多くはAタイプに入ることから、Aタイプのシェードに相当する歯色基準ペレットを用いて色調適合性を評価した。
具体的には、歯色基準として用いる前記シェードガイドのAタイプのシェードに相当する色調(例えば、A1、A2、A3、A3.5及びA4シェードに相当する色調等)の直径15±0.5mm、厚み1±0.05mmの歯色基準ペレットを用い、分光測色計によりL 、a 、及びb を測定する。また、前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の、直径15±0.5mm、厚み1±0.05mmの硬化体(評価用ペレット)を前記歯色基準ペレットに重ね、その状態の評価用ペレットについて、分光測色計によりL 、a 、及びb を測定し、下記式2により、歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの色調と、歯色基準ペレットの色調との色差(ΔE)を算出する。なお、Δは、デルタと読み、「差」を意味する。
式2:ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L -L
Δa=a -a
Δb=b -b
ここで、
:歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの明度
,b :歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの色度
:歯色基準ペレットの明度
,b :歯色基準ペレットの色度
歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの色調と、歯色基準ペレットの色調との色差(ΔE)は、10.5以下であることが好ましく、10.3以下であることがより好ましく、10.1以下であることがさらに好ましい。
一般的に、同じ色と認識される色差(ΔE)は、A級許容差(1.6~3.2)の範囲内でである3.2以下と言われている。ΔEが10.5である場合、C級許容差(6.5~13.0)の範囲内であり、これはマンセル色票のひとつ隣の色(1歩度)に相当する色差となる。
臨床的には、歯冠の一部分に歯科用硬化性組成物を充填し、色調が適合しているかを目視で確認する。しかし、測色において、一部分のみに歯科用硬化性組成物を充填する場合は、充填前後の色差が小さくなるので、測色時の測定誤差もあり、わずかな組成の違いによる色調適合性を評価することが困難である。
そのため、色調適合性の評価では、測色により得られる色差を大きくするため、あえて評価用ペレットを歯色基準ペレットの上面全体を覆うように重ねて測色し、臨床的な使用方法と比べて過酷な条件で評価した。
例えば、測色範囲に対して、25%の範囲に充填したときの色差をΔE=1とした場合、50%の範囲に充填したときの色差がΔE=2となるように、測色範囲あたりの充填割合に応じて色差が変化する傾向がある。
以上のことから、色調適合性の評価の条件は過酷であり、得られる色差の値は、臨床における色調適合性を示す値ではない。あくまで色調適合性の評価において相対評価をするための条件である。これらのことを考慮して、色調適合性の評価において、色差は3.2以下ではなく、10.5以下を基準とした。
色調適合性の評価において、色差が10.5以下であれば、充填範囲が25%程度のとき、色差はA級許容差以下である3.2以下となり、充填された箇所の色調を周囲の歯と十分に馴染ませることができる。
つまり、前記ΔEが、10.5以下であれば、色調適合性が高く、歯科用硬化性組成物を用いて十分な色調適合性が得られると考えられる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、適度な遮蔽性を有する。本発明の歯科用硬化性組成物の遮蔽性は、前記歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の厚みが1±0.05mmの硬化体について分光測色計によりXYZ表示系で色差測定を行ったときに得られる、白背景でのY値(Y)に対する黒背景でのY値(Y)の比(Y/Y)として決定されるコントラスト比を指標とした。
なお、これまでの基礎的な研究によって、コントラスト比が0.42以下である場合は、充填箇所の下地の色が変色している場合に、その色を十分に遮蔽することができず、その一方、コントラスト比が0.59以上である場合は、充填箇所の透明感が不十分となり、歯の質感を再現することが困難となることがわかっている。つまり、遮蔽性及び透明感に影響するコントラスト比は、高くもなく低くもない値に設定することが好ましい。
このため、コントラスト比は0.43以上0.58以下であることが好ましく、0.45以上0.55以下がより好ましい。
コントラスト比は、0に近づくほど遮蔽性が小さい(透明性が高い)といえ、1に近づくほど遮蔽性が大きい(透明性が低い)といえる。よって、前記歯科用硬化性組成物の硬化体のコントラスト比が0.43以上0.58以下であり、修復箇所が適度な遮蔽性を有することで、周囲の歯と違和感なく調和させることが可能となる。
4.用途
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科用充填修復材料として好適に使用することができるが、それに限定されるものではなく、その他の用途にも好適に使用することができる。その他の用途として、例えば、歯科用セメント、支台築造用の修復材料等が挙げられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。
[(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー]
A成分は、以下の製造例1により製造したものを使用した。
製造例1
硝酸アルミニウム(Al(NO・9HO、富士フイルム和光純薬株式会社製)10質量部及びAP-1(変性エタノール、日本アルコール販売株式会社製、エタノール87%、イソプロピルアルコール13%)15質量部を混合し、溶解させた。次いで、得られた溶液にジルコゾールZN(硝酸ジルコニウム水溶液、第一稀元素化学工業株式会社製、ZrO含有率=25wt%)を118質量部添加し、さらに、MS51(メチルシリケートオリゴマー、三菱ケミカル株式会社製、SiO含有率=52wt%)280質量部及び蒸留水430質量部を添加した。その後、得られた混合物を60分間攪拌機で混合し、透明かつ均一な原料混合液を調製した。次に、アンモニア水溶液(例えば、ナカライテスク株式会社製、NH=28%)の2倍希釈液127質量部を、先に調製した原料混合液に攪拌しながら添加すると、共沈ゲル化してゼリー状となった。このゲル化体を取り出し、100℃で乾燥して過剰のアンモニア、水及び溶媒を除去し、乾燥ゲルを得た。この乾燥ゲルを水洗及び濾過することにより副成した硝酸アンモニウムを除去し、再度乾燥した。なお、硝酸アンモニウムが多量に残留すると焼成時にガスが発生し、爆発するリスクがあるため、十分に水洗する必要がある。
この乾燥ゲル100質量部を250質量部のAP-1中に分散させ、直径0.65mmのジルコニアボールを規定量充填したビーズミル(株式会社シンマルエンタープラゼス製、MULUTI-LABO)を用いて4時間粉砕して、スラリーとした。このスラリーの粒径及び粒度分布を測定したところ、平均粒子径は0.6μmで、粒径が0.2μm未満にまで粉砕されることはなかった。
スラリーを回収し、乾燥して溶媒を除去した。この段階の粒子は、完成フィラーの一次粒子に対応する。次にこの粉砕乾燥ゲルをジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製、100AFG/50ATP)で処理し、約20μmのゲル粉体の平均粒子径を得た。この凝集ゲルをアルミナ製の皿に入れ、電気炉中で1100℃まで昇温(毎時270℃)して、同温度で3.5時間保持した後、炉外に取り出して放冷し、白色の粉末を得た。
この焼成ゲルを、上記ジェットミルで粉砕してSiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラーとした。当該複合金属酸化物フィラーの平均粒子径は5.5μm(10%D:0.4μm、50%D:10.1μm、90%D:26.9μm)で、約0.5~約50μmの範囲に幅広く分布した多分散系であることが認められた。
この複合金属酸化物フィラー100質量部をアルコール溶媒(AP-1)200質量部中に懸濁し、γ-MPTS(TSL-8370、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)9質量部を添加し1時間超音波分散した。その後、溶媒をエバポレ-タ-で除去した後、減圧下80℃で2時間乾燥し、減圧下110℃で1時間乾燥することによりシランカップリング材で表面処理された複合金属酸化物フィラーを得た。
[(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー]
平均粒子径50nmのSiOフィラー(アドマナノ(登録商標)YA050C、株式会社アドマテックス製)
平均粒子径15nmのSiOフィラー(MEK-ST、日産化学株式会社製)
[(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー]
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(NF-501 ウレタンジメタクリレート、三菱ケミカル株式会社製)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレ-ト(NK エステル 3G、新中村化学工業株式会社製)
Bis-GMA:ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート(D-GMAP、新中村化学工業株式会社製)
[(D)着色材]
酸化第二鉄:赤色顔料(大日精化工業株式会社製)
イソインドリノン:黄色顔料(大日精化工業株式会社製)
四酸化三鉄:黒色顔料(大日精化工業株式会社製)
酸化ジルコニウム:白色顔料(SPZ酸化ジルコニウム、第一稀元素化学工業株式会社製)
[(E)任意成分]
光重合開始剤
CQ:カンファーキノン(カンファーキノン、東京化成工業株式会社製)
重合促進剤
DMABE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)
(実施例1)
UDMAを85質量部、TEGDMAを10質量部、Bis-GMAを5質量部、CQを0.3質量部、及びDMABEを0.6質量部の質量比で混合し、重合性モノマー混合物(M1)を調製した。得られた重合性モノマー混合物(M1)22.0質量部に対して、製造例1で得られたA成分を39.0質量部、B成分として平均粒子径50nmのSiOフィラーを39.0質量部添加した。得られた混合物100質量部に対して、着色材として酸化第二鉄(赤)を0.00075質量部、イソインドリノン(黄)を0.0006質量部、四酸化三鉄(黒)を0.002質量部、及び酸化ジルコニウム(白)を0.1質量部添加し、遮光下において、混合及び脱泡し、歯科用硬化性組成物を得た。
(実施例2~3及び6~12)
下記表1~表4に記載の配合割合にする以外は、実施例1と同様の方法により各歯科用硬化性組成物を製造した。
(実施例4)
UDMAを45質量部、TEGDMAを10質量部、Bis-GMAを45質量部、CQを0.3質量部、及びDMABEを0.6質量部の質量比で混合し、重合性モノマー混合物(M2)を調製した。得られた重合性モノマー混合物(M2)23.5質量部に対して、製造例1で得られたA成分を65.6質量部、B成分として平均粒子径50nmのSiOフィラーを10.9質量部添加した。得られた混合物100質量部に対して、着色材として酸化第二鉄(赤)を0.00075質量部、イソインドリノン(黄)を0.0006質量部、四酸化三鉄(黒)を0.002質量部、及び酸化ジルコニウム(白)を0.1質量部添加し、遮光下において、混合及び脱泡し、歯科用硬化性組成物を得た。
(実施例5)
UDMAを85質量部、TEGDMAを10質量部、Bis-GMAを5質量部、CQを0.3質量部、及びDMABEを0.6質量部の質量比で混合し、重合性モノマー混合物(M1)を調製した。得られた重合性モノマー混合物(M1)30.0質量部に対して、製造例1で得られたA成分を60.0質量部、B成分として平均粒子径15nmのSiOフィラーを10.0質量部添加した。得られた混合物100質量部に対して、着色材として酸化第二鉄(赤)を0.00075質量部、イソインドリノン(黄)を0.0006質量部、四酸化三鉄(黒)を0.002質量部、及び酸化ジルコニウム(白)を0.1質量部添加し、遮光下において、混合及び脱泡し、歯科用硬化性組成物を得た。
(比較例1~10)
下記表1~表4に記載の配合割合にする以外は、実施例1と同様の方法により各比較組成物を製造した。
(参考例1~3)
単色で複数のシェードの色調と調和することを謳って市販されている歯科用充填修復材料を、参考例1~3として用いた。
歯科用硬化性組成物の硬化体の評価
実施例1~12、及び比較例1~10の歯科用硬化性組成物を重合硬化させた後の硬化体について、透過率、濁度、色調、オパール性、色調適合性、及び隠蔽性を、以下の方法で測定又は評価した。また、参考例1~3の歯科用充填修復材料については、硬化体の色調適合性及び隠蔽性を、以下の方法で測定した。
[透過率及び濁度]
実施例1~12、及び比較例1~10の歯科用硬化性組成物をそれぞれ金型(内径15mm、厚み1mm)に充填し、その両面に光重合器(LED CURE Master、デンケン・ハイデンタル社製)の460nmの波長の光を15秒間光照射して重合硬化させて、直径15±0.5mm、及び、厚み1±0.05mmの硬化体(試験片)を作製した。この試験片の透過率及び濁度を、濁度計(NDH4000、日本電色工業株式会社製)で測定した。その結果を、表1~表4に示す。
合格基準
透過率が52~66%であれば合格(〇)とし、52%未満又は66%超であれば不合格(×)とした。
濁度が85~98であれば合格(〇)とし、85未満又は98超であれば不合格(×)とした。
[色調]
実施例1~12、及び比較例1~10の歯科用硬化性組成物の重合硬化後の厚み1±0.05mmの硬化体の色調について、透過率及び濁度の測定と同じ円板状の試験片のL表色系によるL値、a値、b値を、分光測色計(CM3610A、コニカミノルタ株式会社製)で測定した。測色条件は、光源:D65光源、視野角:2°(度)である。背景色として白色及び黒色のそれぞれの測色を行い、それらの平均値を算出した。その結果を、表1~表4に示す。
合格基準
明度(L)が70~77であれば合格(〇)とし、70未満又は77超であれば不合格(×)とした。
色度(a)が-0.5~1.5であれば合格(〇)とし、-0.5未満又は1.5超であれば不合格(×)とした。
色度(b)が11~19であれば合格(〇)とし、11未満又は19超であれば不合格(×)とした。
[オパール性]
実施例1~12、及び比較例1~10の歯科用硬化性組成物の重合硬化後の硬化体のオパール性について、透過率及び濁度の測定と同じ円板状の厚み1±0.05mmの試験片のオパール性を示す指標(オパール値)を、分光測色計(CM3610A、コニカミノルタ株式会社製)で測定した。測色条件は、光源:D65光源、視野角:2°(度)、背景色:白色及び黒色である。その結果を、表1~表4に示す。
合格基準
オパール値が10以上23以下であれば合格(〇)とし、10未満又は23超であれば不合格(×)とした。
[色調適合性]
図1に、色調適合性の評価方法を説明する模式図を示す。以下、図1を参照しながら色調適合性の評価方法を説明する。
歯色基準として用いるVITA社のシェードガイド「VITA(登録商標)PAN classical」のA1、A3及びA4シェードに相当する色調を有する直径15±0.5mm、厚み1±0.05mmの歯色基準ペレット(TMR-ゼットフィル10.ユニバーサル、YAMAKIN株式会社製を使用して作製)の色調を、前記色調の測定と同様の方法で測定した。次に、実施例1~12、比較例1~10、及び参考例1~3の歯科用硬化性組成物を重合硬化させ、直径が15±0.5mm、及び、厚みが1±0.05mmの評価用ペレットを各3枚ずつ作製した。各歯色基準ペレットの上に評価用ペレットを重ね、その状態で前記評価用ペレットの色調を、前記色調の測定と同様の方法で測定した。なお、ペレット間にはグリセリンを塗布し、空気層の介在を防いだ。前記歯色基準ペレットと前記評価用ペレットの色差(ΔE)を
式1:ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L -L
Δa=a -a
Δb=b -b
(L :歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの明度
,b :歯色基準ペレットの上に重ねた評価用ペレットの色度
:歯色基準ペレットの明度
,b :歯色基準ペレットの色度)
から求めた。その結果を、表1~表5に示す。なお、表中の、例えば「vs.A1」とは、評価用ペレットの下に置かれたペレットが、A1シェードに相当する色調を有する歯色基準ペレットであることを示している。
合格基準
ΔEが10.5以下であれば合格(〇)とし、10.5超であれば不合格(×)とした。
図2に、色調適合性の官能評価を説明する模式図を示す。以下、図2を参照しながら色調適合性の官能評価方法を説明する。
歯色基準として用いるVITA社のシェードガイド「VITA(登録商標)PAN classical」のA1、A3及びA4シェードに相当する色調を有する人工歯(大臼歯)にI級窩洞を形成した。該人工歯の窩洞に実施例2、実施例11、実施例12、比較例9、及び比較例10の歯科用硬化性組成物を充填し、光重合させた。各人工歯を昼白色の蛍光灯下で、正常な色覚を有する3名が観察し、下記評価基準にて採点を行った。
5点:人工歯の色調と充填箇所の色調とが完全に馴染んでおり、境界が全く判別できない
4点:人工歯の色調と充填箇所の色調とが馴染んでおり、境界が判別できない
3点:人工歯の色調と充填箇所の色調とがほとんど馴染んでおり、境界がほとんど判別できない
2点:人工歯の色調と充填箇所の色調とが馴染んでおらず、境界が部分的に判別できる
1点:人工歯の色調と充填箇所の色調とが全く馴染んでおらず、境界が容易に判別できる
合格基準
3本の人工歯に対して、それぞれ3名の平均点を算出し、3つとも平均点が3点以上であれば合格(〇)とし、1つでも平均点が3点未満であれば不合格(×)とした。
なお、前記シェードガイドのAタイプは、色の明るさで番号がつけられており(番号が若いほうが明るい)、A1、A2、A3、A3.5及びA4の順に並んでいる。よって、A1及びA3での評価結果が合格であればA2での評価結果は合格と推定でき、A3及びA4での評価結果が合格であれば、A3.5の評価結果は合格と推定できる。
また、実施例11は実施例1~12の中でD成分(着色材)の添加量が最も多い例であり、実施例12は実施例1~12の中でD成分(着色材)の添加量が最も少ない例であることから、実施例11及び実施例12の色調適合性の官能評価の結果が合格であれば、実施例1~10の色調適合性の官能評価の結果も合格であると推定できる。
[遮蔽性]
図3に、遮蔽性(コントラスト比)の評価方法を説明する模式図を示す。以下、図3を参照しながら遮蔽性(コントラスト比)の評価方法を説明する。
前記色調適合性の評価で作製した実施例1~12、比較例1~10、及び参考例1~3の評価用ペレットを、白色板及び黒色板の上に載せて、それぞれの色調を、前記色調の測定と同様の方法で測定し、白背景でのY値(Y)に対する黒背景でのY値(Y)の比(Y/Y:コントラスト比)を求めた。その結果を、表1~表5に示す。
合格基準
/Yが0.43~0.58の範囲内であれば合格(〇)とし、0.43未満又は0.58超であれば不合格(×)とした。
図4に、遮蔽性の官能評価を説明する模式図を示す。以下、図4を参照しながら遮蔽性の官能評価方法を説明する。
なお、遮蔽性の官能評価は、透明感によって評価した。遮蔽性が小さい、つまり透明感がありすぎる場合には、充填箇所の背景が透けて見える。一方で、遮蔽性が大きい、つまり透明感がなさすぎる場合には、充填箇所の背景が全く見えない。いずれの場合も、充填箇所の周囲の歯と比較したときに違和感を生じるため、好ましくない。
歯色基準として用いるVITA社のシェードガイド「VITA(登録商標)PAN classical」のA2に相当する色調を有する人工歯(切歯)にIV級窩洞を形成した。該人工歯の窩洞に実施例2、実施例11、実施例12、比較例9、及び比較例10の歯科用硬化性組成物を充填(築盛)し、光重合させた。各人工歯を黒色背景に置いて昼白色の蛍光灯下で、正常な色覚を有する3名が観察し、下記評価基準にて採点を行った。
4点:人工歯の透明感と充填箇所の透明感とが非常に近く、境界が全く判別できない
3点:人工歯の透明感と充填箇所の透明感とが近く、境界がほとんど判別できない
2点:人工歯の透明感と充填箇所の透明感とが異なり、境界が部分的に判別できる
1点:人工歯の透明感と充填箇所の透明感とが大きく異なり、境界が容易に判別できる
合格基準
3名の平均点が3点以上であれば合格(〇)とし、3点未満であれば不合格(×)とした。
なお、実施例11は実施例1~12の中で透過率が最も低く、かつ、濁度が最も高い例であり、実施例12は実施例1~12の中で透過率が最も高く、かつ、濁度が最も低い例であることから、実施例11及び実施例12の遮蔽性の官能評価の結果が合格であれば、実施例1~10の遮蔽性の官能評価の結果も合格であると推定できる。
歯科用硬化性組成物の評価
実施例1~5及び11~12、並びに、比較例1~2及び9~10の歯科用硬化性組成物について、形状維持性及び稠度を、以下の方法で測定又は評価した。
[形状維持性]
図5に、形状維持性の評価方法を説明する模式図を示す。以下、図5を参照しながら形状維持性の評価方法を説明する。
実施例1~5及び11~12、並びに、比較例1~2及び9~10の歯科用硬化性組成物を、37℃に設定した恒温器の庫内で60分間静置した後に、平らな台(黒色)の上で金型(内径12mm、厚み1mm)に充填し、円板状に形成して評価用試料とした。評価用試料は各3枚作成した。前記評価用試料を金属板(厚み1mm)で半分に分けるように上から垂直に切り込みを入れてから前記恒温器の庫内に静置した。評価用試料を分割したときから180秒、240秒、300秒経過時に、分割した評価用試料が変形してくっついている(評価用試料が下地の黒色を覆って見えない)か否かを目視で確認し、以下のように評価した。その結果を、表1~表4に示す。
1点:180秒未満
2点:240秒未満
3点:300秒未満
4点:300秒以上
合格基準
3枚の点数の平均点をその評価用試料の点数とし、平均点が4点であれば合格(〇)とし、平均点が4点未満であれば不合格(×)とした。
[稠度]
図6に、稠度の評価方法を説明する模式図を示す。以下、図6を参照しながら稠度の評価方法を説明する。
実施例1~5及び11~12、並びに、比較例1~2及び9~10の歯科用硬化性組成物0.65gを電子天秤で量り取って球状に成形して評価用試料とした。評価用試料をポリエステルフィルム上に置き、別のポリエステルフィルムを評価用試料に載せ、垂直に力がかかるようにガイドを設けた器具の底面中央部に置き、その上に3.25kgの重りをガイドに沿って静かに載せて60秒間圧縮した。重りを取り除いた後の評価用試料の直径を45度刻みに測定(4箇所)し、以下の式から求められる伸び率を稠度の値とし、その平均値を評価用試料の稠度とした。なお、圧縮前の試料の直径は約8mmになることから、全試料において圧縮前の試料の直径を8mm(固定値)として伸び率を求めた。測定は、25℃の環境下で行った。
=(L-L)/L×100
:伸び率[%]=稠度[%]
:圧縮前の試料直径[mm]
:圧縮後の試料直径[mm]
なお、形状維持性、及び稠度は、A成分、B成分、C成分、及び、D成分の組成比によって変化するが、歯科硬化性組成物中のD成分の含有量は他の成分と比較して極微量なため、形状維持性、及び稠度に与える影響はほとんどないことが予想される。このため、実施例2と比べてD成分のみ異なっている実施例6~10、及び、比較例3~8については、実施例2と同等の形状維持性、及び稠度を示すと考えられる。
合格基準
伸び率が160%以上であれば合格(〇)とし、160%未満であれば不合格(×)とした。
総合判定として、すべての項目が合格の場合には「〇」とし、1つでも不合格がある場合には「×」とした。
これらの結果を表1~5に示す。




<結果>
表1~4の試験結果から、実施例1~12の歯科用硬化性組成物は、すべての評価項目について合格であり、総合判定も合格であった。
比較例1の硬化性組成物は、B成分とA成分との配合比が1:10であってA成分の比率が高すぎるため、稠度(伸び率)が不合格であった。
比較例2の硬化性組成物は、B成分とA成分との配合比が1:0.75であってA成分の比率が低すぎるため、形状維持性が不合格であった。
比較例3~6の硬化性組成物は、硬化体の色度(a及び/又はb)が数値範囲から外れているため、色調適合性が不合格であった。
比較例7~8の硬化性組成物は、硬化体の明度(L)及び/又は色度(a)が数値範囲から外れているため、色調適合性が不合格であった。
比較例9の硬化性組成物は、硬化体の透過率が52よりも低いため、色調適合性及び遮蔽性が不合格であった。
比較例10の硬化性組成物は、硬化体の透過率、濁度、及び明度(L)が所定の数値範囲から外れているため、色調適合性及び遮蔽性が不合格であった。
表5より、参考例1及び2のコンポジットレジンは、いずれも硬化体のA4シェードに対する色調適合性が所定の数値範囲から外れており、本発明の歯科用硬化性組成物と比べて、色調適合性及び遮蔽性が不合格であった。
参考例3は色調適合性については合格であったが、遮蔽性については不合格であった。

Claims (12)

  1. (A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、
    (B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー、
    (C)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、及び
    (D)着色材
    を含有する歯科用硬化性組成物であって、
    前記(B)SiOフィラーと前記(A)複合金属酸化物フィラーとの配合比(質量比)が1:0.8~1:8であり、
    前記硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体の透過率(Tt)が52以上66以下であり、
    濁度(ヘイズ値)が85以上98以下であり、
    表色系における
    値(明度)が70以上77以下であり、
    値(色度)が-0.5以上1.5以下であり、かつ、
    値(色度)が11以上19以下である、歯科用硬化性組成物。
  2. 前記(D)着色材が、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  3. 前記(D)着色材として、赤色顔料、黄色顔料、黒色顔料、及び白色顔料を含み、
    それらの含有量が、
    前記(A)SiO、ZrO及びAlを含有する不定形の複合金属酸化物フィラー、
    前記(B)平均粒子径50nm以下の球形のSiOフィラー、及び
    前記(C)(メタ)アクリレート系重合性モノマーの合計100質量部に対して、
    赤色顔料が0.0003~0.0009質量部、
    黄色顔料が0.0004~0.0011質量部、
    黒色顔料が0.0003~0.003質量部、及び
    白色顔料が0.05~0.18質量部である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  4. 前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体のオパール値が10以上23以下である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  5. 歯色基準として用いるシェードガイドのA1からA4までのシェードに相当する色調の直径15mm、及び、厚み1mmの歯色基準ペレットの色調と、
    前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の直径が15mm、及び、厚みが1mmの硬化体を前記歯色基準ペレットに重ねたときの前記硬化体の色調との、
    色差(ΔE)が10.5以下である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  6. 前記歯科用硬化性組成物の重合硬化後の厚みが1mmの硬化体の、白背景でのY値(Y)に対する黒背景でのY値(Y)の比(Y/Y:コントラスト比)が、0.43以上0.58以下である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  7. 前記歯科用硬化性組成物を、直径12mm、及び、厚み1mmの円板状に形成し、厚み1mmの金属板で、前記歯科用硬化性組成物を半分に分ける切り込みを入れ、
    37℃で静置したとき、分割した歯科用硬化性組成物が変形し、前記分割した歯科用硬化性組成物同士が接触するまでの時間が300秒以上である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  8. 前記歯科用硬化性組成物0.65gを球状に成形し、上から3.25kgの重りを載せて60秒間静置したときの伸び率(稠度)が160%以上である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  9. ペーストである、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  10. 前記(A)複合金属酸化物フィラーが、平均粒子径0.1~0.9μmの一次粒子を焼結により部分的に結合させた平均粒子径が2~8μmの二次粒子であるフィラーである、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  11. 請求項1に記載の歯科用硬化性組成物を重合硬化させた硬化体。
  12. 請求項1に記載の歯科用硬化性組成物を重合硬化させた歯科用材料。
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