JP2023174702A - ペレットおよび成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高弾性率および高耐衝撃性を備える複合樹脂成形体を実現する。【解決手段】ペレットであって、主剤樹脂1と繊維状フィラー2とを含有する。繊維状フィラー2の繊維長方向の端部が解繊されており、その解繊部位3は、繊維状フィラー2全体の繊維長の5%以上、50%以下である。解繊部位3における繊維径は、解繊されていない部位における繊維径の1/1000以上、1/10以下である。繊維状フィラー2の解繊されていない部位におけるアスペクト比は、5以上、1000以下である。繊維状フィラー2の弾性率は、主剤樹脂1の弾性率よりも大きく、繊維状フィラー2の弾性率と主剤樹脂1の弾性率との差は、20GPa以内である。主剤樹脂1と繊維状フィラー2との界面において空孔が存在し、この空孔の体積が繊維状フィラーの体積に対して10%以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、機械的特性に優れた成形体を実現できるペレットおよびこのペレットを成形してなる成形体に関するものである。
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のいわゆる「汎用プラスチック」は、非常に安価であるだけでなく、成形が容易で、金属、またはセラミックスに比べて重さが数分の一と軽量である。そのため、汎用プラスチックは、袋、各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品の材料として、また、自動車部品、電気部品等の工業部品、及び日用品、雑貨用品等の材料として、よく利用されている。
しかしながら、汎用プラスチックは、機械的強度が不十分であること等の欠点を有している。そのため、汎用プラスチックは、自動車等の機械製品、及び電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられる材料に対して要求される十分な特性を有しておらず、その適用範囲が制限されているのが現状である。
一方、ポリカーボネート、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド等のいわゆる「エンジニアプラスチック」は、機械的特性に優れており、自動車等の機械製品、及び電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられている。しかし、エンジニアプラスチックは、高価であり、モノマーリサイクルが難しく、環境負荷が大きいといった課題を有している。
そこで、汎用プラスチックの材料特性(機械的強度等)を大幅に改善することが要望されている。汎用プラスチックを強化する目的で、繊維状フィラーである天然繊維やガラス繊維、炭素繊維などを汎用プラスチックの樹脂中に分散させることにより、その汎用プラスチックの機械的強度を向上させる技術が知られている。中でもセルロースなどの有機繊維状フィラーは、安価であり、かつ廃棄時の環境性にも優れていることから、強化用繊維として注目視されている。
汎用プラスチックの機械的強度を改善するために、各社検討を進めており、特許文献1では、最大繊維径が100nm以下、アスペクト比が2000以上のセルロース繊維を添加し、弾性率、および寸法安定性を高めている。
特許第5577176号公報
しかしながら、特許文献1では、アスペクト比が2000以上の繊維を添加しており、図4および5に示すように、成形時に射出される溶融状態の主剤樹脂1の流れ方向に繊維2が配向しやすいため、その流れ方向と直行する方向の強度が弱く、特に面衝撃強度が下がるという課題があった。
本発明のペレットは、上記従来の課題を解決するものであって、高弾性率および高耐衝撃性を備える複合樹脂成形体を実現することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明のペレットは、主剤樹脂と繊維状フィラーとを含有し、前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部が解繊されており、前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部の解繊部位は、前記繊維状フィラー全体の繊維長の5%以上、50%以下であり、前記繊維状フィラーの解繊部位における繊維径は、解繊されていない部位における繊維径の1/1000以上、1/10以下であり、前記繊維状フィラーの解繊されていない部位におけるアスペクト比は、5以上、1000以下であり、前記繊維状フィラーの弾性率は、前記主剤樹脂の弾性率よりも大きく、前記繊維状フィラーの弾性率と前記主剤樹脂の弾性率との差は、20GPa以内であり、前記主剤樹脂と前記繊維状フィラーとの界面において空孔が存在し、前記空孔の体積が前記繊維状フィラーの体積に対して10%以下であることを特徴とする。
本発明のペレットは、高弾性率および高耐衝撃性を備える複合樹脂成形体を実現することができる。
本発明の実施の形態における複合樹脂組成物の断面模式図である。 本発明の実施の形態における繊維状フィラーの模式図である。 本発明の実施の形態における複合樹脂組成物製のペレットの製造プロセスの模式図である。 特許文献1における複合樹脂成形体の断面模式図である。 図4の一部を拡大した図である。
以下本発明の実施の形態における複合樹脂組成物について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、同じ構成部分には同じ符号を付して、適宜説明を省略している。
本発明の実施の形態における複合樹脂組成物は、主剤樹脂と、繊維状フィラーと、分散剤とを含有する溶融混練物からなるものである。複合樹脂組成物は、図1の断面模式図に示すように、主剤樹脂1中に繊維状フィラー2が分散されている。繊維状フィラー2は、特定の割合で炭化されている。
本実施の形態において、主剤樹脂1は、良好な成形性を確保するために、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂を含む)、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6-キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。上記の樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。なお、主剤樹脂1は熱可塑性を有していれば上記の材料に限定されるものではない。
これらの熱可塑性樹脂のうち、主剤樹脂1は、比較的低融点であるオレフィン系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の単独重合体の他、オレフィン系単量体の共重合体や、オレフィン系単量体と他の共重合性単量体との共重合体が含まれる。オレフィン系単量体としては、例えば、鎖状オレフィン類(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどのα-C2-20オレフィンなど)、環状オレフィン類などが挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。上記オレフィン系単量体のうち、エチレン、プロピレンなどの鎖状オレフィン類が好ましい。他の共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど);ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;およびブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン類(特にα-C2-4オレフィン)の共重合体などが挙げられる。
次に分散剤について説明する。本実施の形態における複合樹脂組成物は、繊維状フィラー2と主剤樹脂1との接着性、あるいは主剤樹脂1中の繊維状フィラー2の分散性を向上させるなどの目的で、分散剤を含有する。分散剤としては、各種のチタネート系カップリング剤、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどが挙げられる。上記シランカップリング剤は、不飽和炭化水素系やエポキシ系のものが好ましい。分散剤の表面は、熱硬化性もしくは熱可塑性のポリマー成分で処理され変性処理されても問題ない。本実施の形態における複合樹脂成形体における分散剤の含有量は、0.01質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、5質量%以下であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が、0.01質量%未満であると、分散不良が発生し、一方、分散剤の含有量が20質量%を超えると、複合樹脂成形体の強度が低下する。分散剤は、主剤1と繊維状フィラー2の組み合わせにより適切に選択され、分散剤が必要ない組み合わせの場合は添加しなくてもよい。
次に繊維状フィラー2について説明する。本実施の形態における複合樹脂組成物に含まれる繊維状フィラー2(以下、単に繊維と称することがある。)は、複合樹脂組成物を用いて成形した樹脂成形体において、機械的特性の向上や、線膨張係数の低下による寸法安定性の向上などを主要な目的として用いられる。この目的のため、繊維状フィラー2は主剤樹脂1よりも弾性率が高いことが好ましく、具体的にはカーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、各種金属繊維、綿、絹、羊毛あるいは麻等の天然繊維、ジュート繊維、レーヨンあるいはキュプラなどの再生繊維、アセテート、プロミックスなどの半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリオレフィンなどの合成繊維、さらにはそれらの表面及び末端に化学修飾した変性繊維などが挙げられる。またさらにこれらの中で、入手性、弾性率の高さ、線膨張係数の低さの観点から、カーボン類、セルロース類が特に好ましい。さらに環境性の観点からはセルロース類の天然繊維が好ましい。
次に繊維状フィラー2の形状について説明する。図2は、繊維状フィラー2の模式図である。符号Lは、繊維状フィラー2の長さ(以下、繊維長と称することがある。)であって、符号dは、繊維状フィラー2の幅(以下、繊維径と称することがある。)である。繊維状フィラー2のアスペクト比(L/d)が高いと、射出成形時に繊維が流れ方向に配向しやすく、繊維の配向方向の強度は強いが、それと直行する方向の強度は弱くなり、結果として落下試験等による衝撃強度が低下する。そのため、繊維全体としてはアスペクト比(L/d)が小さい、すなわち、繊維径dが大きいことが好ましい。一方で機械的特性の観点からは、繊維と樹脂との接合界面が多い方が強度向上につながるため、繊維の比表面積が高い、すなわち繊維径dが小さいことが好ましい。
上記2つの目的を果たすには、図2に示すように繊維1本内で、繊維長方向の端部が部分的に解繊されている構造が最も好ましい。符号3は、解繊部位を示している。最適な繊維の形状については、実験やシミュレーション結果から下記のように算出されている。解繊部位3としては、繊維状フィラー2全体の繊維長Lの5%以上、50%以下であることが好ましい。解繊部位3が全体の繊維長Lの5%未満であると、比表面積が小さいため強度向上がみられず、50%以上であると、アスペクト比が大きい解繊部位3が支配的となるため、射出成形時に配向しやすくなり、衝撃強度が低下する。
繊維状フィラー2の解繊部位3における繊維径は、解繊されていない繊維径dの1000分の1以上、10分の1以下であることが好ましい。1000分の1未満の場合、解繊部位の繊維径が小さくなりすぎて、混練時のせん断力で千切れてしまうため、本発明の形状を保つことが困難である。10分の1を超える場合、比表面積向上による強度向上効果が小さい。また、繊維状フィラー2の解繊されていない部位(繊維径が大きい部位)のアスペクト比は5以上、1000以下が好ましい。5未満であると繊維形状による補強効果が小さく、1000以上であると繊維が射出成形時に配向しやすくなる。
次に繊維状フィラー2の特性について説明する。主剤樹脂1、および繊維状フィラー2の種類については、上記の通りであるが、主剤樹脂1に対して、繊維状フィラー2が柔らかすぎる、すなわち弾性率が小さいと、複合樹脂組成物は、全体として弾性率が小さくなり、結果として強度が低下する。一方で主剤樹脂1に対して、繊維状フィラー2が硬すぎる、すなわち弾性率が大きいと、衝撃時に発生する衝撃波が伝播されずに、主剤樹脂1と繊維状フィラー2との界面で吸収されるため、その界面付近にヒビやクレーズが発生しやすくなり、結果として耐衝撃強度が落ちる。そのため、主剤樹脂1と繊維状フィラー2の弾性率の関係は、繊維状フィラー2の弾性率の方が高く、その差は極力小さい方が好ましい。最適な関係についてはシミュレーション結果から算出され、主剤樹脂1と繊維状フィラー2の弾性率差は20GPa以内であることが好ましい。
また、これら繊維状フィラー2は、主剤樹脂1との接着性あるいは複合樹脂組成物中での分散性を向上させるなどの目的で、各種のチタネート系カップリング剤、シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面処理したものを用いてもよい。あるいは熱硬化性もしくは熱可塑性のポリマー成分で表面処理されたものでも問題ない。
次に製造方法について記載する。図3は、本実施の形態における複合樹脂組成物製のペレットの製造プロセスを例示するフロー図である。まず、溶融混練処理装置内に、主剤樹脂、繊維状フィラーおよび、必要に応じて分散剤が投入され、装置内で溶融混練される。これにより、主剤樹脂が溶融し、溶融された主剤樹脂に、繊維状フィラーと分散剤が分散される。また同時に装置の剪断作用により、繊維状フィラーの凝集塊の解繊が促進され、繊維状フィラーを主剤樹脂中に細かく分散させることができる。
従来、繊維状フィラーとしては、湿式分散などの前処理により、事前に繊維を解繊したものが使用されていた。しかし、湿式分散で用いられる溶媒中で事前に繊維状フィラーを解繊すると、溶融した主剤樹脂中で解繊されるよりも解繊されやすいため、端部のみ解繊することが難しく、繊維状フィラー全体が解繊された状態となってしまう。また前処理を合わせることで工程が増え、生産性が悪くなるといった課題があった。
これに対して、本実施の形態における複合樹脂組成物の製造プロセスでは、繊維状フィラーの解繊処理、変性処理を目的とした湿式分散による前処理を行わずに、主剤樹脂や分散剤などと一緒に溶融混練処理(全乾式工法)を行う。この工法では、繊維状フィラーの湿式分散処理を行わないことにより、繊維状フィラーを上記のように端部のみ部分的に解繊することができ、また工程数も少なく、生産性を向上させることができる。
また全乾式工法では、事前に繊維を変性せずに、溶融した主剤樹脂中で分散剤と混ぜることで、繊維全体が変性されないため、主剤樹脂とのなじみが悪い箇所が部分的に存在し、この箇所では主剤樹脂となじまないため、空孔が形成される。複合樹脂組成物中に空孔が存在すると、複合樹脂成形体の成形時にもその箇所は樹脂と繊維がなじまないため、空孔はそのまま残存する。空孔により複合樹脂成形体の弾性率は少し低下するが、耐衝撃性が向上する。家電筐体、特に掃除機等の持ち運ぶモバイル家電では、落下時の割れが問題になるため、弾性率よりも耐衝撃性の向上が望まれる。そのため、複合樹脂組成物中で少し空孔を存在させ、耐衝撃性を向上させることが好ましい。空孔により耐衝撃性が向上するのは、衝撃負荷時に主剤樹脂と繊維状フィラーとの界面で伝播される衝撃波が、空孔によって緩和されるためである。この空孔の体積についてはシミュレーション結果から算出され、繊維状フィラーの体積に対し、1割以下となっていることが好ましい。
溶融混練装置から押し出された複合樹脂組成物は、ペレタイザー等の切断工程を経て、ペレット形状に作製される。ペレット化の方式として、樹脂溶融後すぐに行う方式としては、空中ホットカット方式、水中ホットカット方式、ストランドカット方式などがあり、あるいは、一度成形体やシートを成形したあとで、粉砕、切断することによる粉砕方式などもある。
次に、このペレット化により作製された複合樹脂組成物(以下、単にペレットと称することがある。)の形状について説明する。ペレットは、次の成形工程を経て、様々な複合樹脂成形体となる。その成形工程の際、スクリューやロール等の混練機へ複合樹脂組成物が侵入していくが、スクリューやロールの形状によっては、ペレットが噛み込みにくくなる。そのため、成形装置への侵入性をよくするには、ペレットが転がりにくい不均一な形状になっていることが好ましい。本実施の形態ではペレット化工程において、常温以下へ冷却させずにカットする方式が採用されている。これにより切断面が引きちぎられるように伸ばされ、ペレットの形状が円柱ではなく、少なくとも片面が楕円状になった不均一な形状となる。結果としてペレットの、成形装置の混練機への侵入性が向上する。
また引きちぎられる際に、ペレット内部の繊維が部分的に表面へ突出し、表面に凹凸が形成される。これによっても、表面に凹凸が形成された形状とすることによって、滑らかな球形状や円筒形状と比較して、ペレットの転がりを抑制でき、成形装置の混練機への侵入性が向上する。
このペレットを射出成形することにより、複合樹脂成形体としての射出成形品を作製することができる。ペレットは、上記のように、端部のみが部分的に解繊された構造を有するため、繊維が射出方向に配向しにくく、耐衝撃性と弾性率の両方を高めた射出成形品を得ることができる。以下、発明者らが行った実験における各実施例および各比較例について説明する。
(実施例1)
以下の製造方法によってパルプ分散ポリプロピレンペレットを製造した。
主剤樹脂としてのポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製 商品名:J108M)と、繊維状フィラーとしての綿状針葉樹パルプ(三菱製紙株式会社製 商品名:NBKP Celgar)と、分散剤として無水マレイン酸(三洋化成工業株式会社製 商品名:ユーメックス)とを重量比で85:15:5となるよう秤量し、ドライブレンドした。針葉樹パルプの弾性率は約6GPa、ポリプロピレンの弾性率は1.5GPaのものをそれぞれ使用した。その後、二軸混練機(株式会社クリモト鉄工所製 KRCニーダ)にて溶融混練分散した。二軸混練機のスクリュー構成を変えることでせん断力を変えることができ、実施例1では中せん断タイプの仕様とした。樹脂溶融物をホットカットし、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。
作製したパルプ分散ポリプロピレンペレットを用いて射出成形機(日本製鋼所製 180AD)により複合樹脂成形体の試験片を作製した。試験片の作製条件は、樹脂温度190℃、金型温度60℃、射出速度60mm/s、保圧80Paとした。ペレットは、ホッパーを介して成形機のスクリューへ噛み込んでいくが、その際の侵入性を時間当たりのペレット減少量で測定しており、一定であることを確認した。試験片の形状は、下記に述べる評価項目によって変更し、弾性率測定用に1号サイズのダンベルを作製し、落下衝撃試験用に100mm角、厚さ5mmの平板を作製した。得られたパルプ分散ポリプロピレンペレット、および試験片を以下の方法により評価を行った。
(解繊されていない部位のアスペクト比、解繊部位の長さ割合および径割合)
得られたパルプ分散ポリプロピレンペレットをキシレン溶媒に浸漬して、ポリプロピレンを溶解させ、残ったパルプ繊維についてSEMにより繊維の形状を観察した。代表的な繊維を約10本測定した結果、繊維径は2~10μm、繊維長は200~1000μmで、解繊されていない部位のアスペクト比(以下、単にアスペクト比と称することがある。)は100~200であった。繊維長方向の端部には解繊部位がみられ、解繊部位は全体の繊維長の約20~30%であり、解繊部位における繊維径は100~1000nmで、全体の繊維径の約1/20であった。
(ペレット形状)
また、得られたパルプ分散ポリプロピレンペレットの形状はホットカットにて作製されたため、切断部が延ばされながら切断され、その形状は底面が楕円状となった。これに加え、繊維が表面から突出しやすく、顕微鏡にて表面に繊維が存在していることを確認した。また、ペレットのSEM観察により、繊維と主剤樹脂との界面を観察し、繊維の体積に対し、1割以下の体積の空孔が存在していることを確認した。
(複合樹脂成形体の弾性率)
得られた1号ダンベル形状の試験片を用いて、引張試験を実施した。ここで、弾性率の評価方法として、その数値が1.8GPa未満のものを×とし、1.8GPa以上2.0GPa未満のものを△とし、2.0GPa以上のものを〇とした。同試験片の弾性率は2.2GPaで、その評価は〇であった。
(複合樹脂成形体の落下試験結果)
得られた平板形状の試験片を用いて、落下衝撃試験を実施した。具体的には、重さ300gの鉄球を高さ100cmから試験片の板面に向けて落下させ、ヒビが入るかどうかを確認した。この評価方法として、ヒビが確認されなかったものを〇とし、表面にのみヒビが確認され、かつ、そのヒビの長さが10mm未満であったものを△とし、貫通したヒビが確認された、または、ヒビの長さが10mm以上であったものを×とした。同試験片は、ヒビが確認されず、その評価は〇であった。
(成形性)
ペレットの成形装置への侵入性(侵入の安定性)が悪い場合、成形時に供給される樹脂量がばらつき、成形性も悪くなることから、侵入性によって複合樹脂成形体の成形性を評価した。具体的には、ペレットを成形装置へ供給してゆく際に、単位時間当たりのペレット減少量のバラツキが10%未満であったものを〇とし、同バラツキが10%以上であったものを△とした。実施例1において、ペレット減少量のバラツキは10%未満であり、その評価は〇であった。
(実施例2)
実施例2ではスクリューの構成を低せん断タイプに変更し、スクリュー構成以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例3)
実施例3ではスクリューの構成を高せん断タイプに変更し、スクリュー構成以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例4)
実施例4では繊維を、麻原料から得られるジュート繊維に変更し、実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例5)
実施例5では、ペレット作製に用いた方式を水中ホットカット方式へと変更し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例6)
実施例6では、ペレット作製方法を、樹脂溶融物をストランド状とし、その後水冷却し、ペレタイザーにより切断する方式へと変更し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例7)
実施例7では、針葉樹パルプを事前にシランカップリング剤により完全に疎水変性させたPPになじみやすいパルプ繊維へと変更し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(実施例8)
実施例8では、無水マレイン酸を添加せずに、実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例1)
比較例1ではスクリューの構成を、せん断がほぼかからない搬送用スクリューのみに変更し、スクリュー構成以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例2)
比較例2ではスクリュー構成を高せん断タイプに変更し、スクリュー構成以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。得られたペレットを再度混練機に投入し、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製し、これを繰り返し、合計10回混練機を通してパルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。このペレットを使用し、実施例1と同様に成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例3)
比較例3では、針葉樹パルプを広葉樹パルプへと変更し、パルプ種類以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例4)
比較例4では、針葉樹パルプを、事前に粉末状へ粉砕し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例5)
比較例5では、針葉樹パルプを事前に湿式解繊処理により繊維の解繊が進んだパルプ繊維を用いた以外は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例6)
比較例6では、繊維状フィラーをゴム繊維へと変更し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
(比較例7)
比較例7では、繊維状フィラーをガラス繊維へと変更し、それ以外の条件は実施例1と同様にパルプ分散ポリプロピレンペレット、ならびに成形体を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
各実施例1~8および各比較例1~7における測定結果を表1に示す。
Figure 2023174702000002
表1から明らかなように、スクリュー構成を低せん断タイプに変更した実施例2では、溶融樹脂中で繊維があまり解繊されず、アスペクト比が5~20、解繊部位の長さ割合が5~10%、解繊部位の径が全体の約1/10となった。反対に、スクリュー構成を高せん断タイプに変更した実施例3では、溶融樹脂中で繊維がよく解繊され、アスペクト比が900~1000、解繊部位の長さ割合が40~50%、解繊部位の径が全体の約1/50となった。実施例2および実施例3は、ともに弾性率、衝撃試験、成形性は実施例1と同様に問題は無く、アスペクト比が5~1000、解繊箇所の割合が5~50%、解繊箇所の径が全体の径の1/10以下になっていれば高強度化樹脂が得られることを確認した。また繊維を麻原料から得られるジュート繊維とした実施例4でも、弾性率、衝撃試験、成形性は実施例1と同様に課題は無かった。樹脂と繊維の弾性率差が20GPa以内のため耐衝撃性も問題なく、高強度化樹脂が得られることを確認した。
スクリューの構成を、せん断がほぼかからない搬送用スクリューのみに変更した比較例1では、パルプが部分的にほぼ解繊されず、解繊部位の割合が0~4%となった。これにより複合樹脂成形体の弾性率の低下がみられ、1.7GPaと強度が下がる結果となった。
スクリュー構成を高せん断タイプに変更し、混練機に10回通した比較例2では、パルプの解繊がかなり促進され、解繊部位の長さ割合が80~100%となった。これにより射出成形時に繊維が配向しやすくなり、落下衝撃試験でヒビが発生し、耐衝撃性が減少する結果となった。
針葉樹パルプを広葉樹パルプへと変更した比較例3では、同じせん断力をかけたときの解繊性が変化し、解繊した箇所の径が全体の径の約1/5となった。これにより弾性率の低下がみられ、1.7GPaと強度が下がる結果となった。
針葉樹パルプを、事前に粉末状へ粉砕した比較例4では、アスペクト比が1~2となった。これにより弾性率の低下がみられ、1.7GPaと強度が下がる結果となった。
針葉樹パルプを事前に湿式解繊処理により繊維の解繊が進んだパルプ繊維を用いた比較例5ではアスペクト比が1000~2000と大きくなった。これにより射出成形時に繊維が配向しやすくなり、落下衝撃試験でヒビが発生し、耐衝撃性が減少する結果となった。
繊維状フィラーをゴム繊維へと変更した比較例6では、ゴムの弾性率が0.001GPaと主剤樹脂のPPより低くなった。これにより弾性率の低下がみられ、1.4GPaと強度が下がる結果となった。
繊維状フィラーをガラス繊維へと変更した比較例7では、ガラスの弾性率が68GPaと主剤樹脂であるPPより20GPa以上大きくなった。これにより、衝撃時に樹脂と繊維界面に応力が集中しやすくなり、落下衝撃試験でヒビが発生し、耐衝撃性が減少する結果となった。
なお、ペレット作製に用いた方式を水中ホットカット方式へと変更した実施例5では、溶融した樹脂が急冷されるため、ペレット内で粘度勾配が生じ、繊維が粘度の低い内側へ動きやすく、ペレット表面に繊維がない状態となった。その結果、成形時にペレット同士が干渉しづらく、侵入性が悪化し、生産性が安定せず、成形性がやや劣る結果となった。一方で、弾性率および衝撃試験において問題はなかった。
ペレット作製方法を、樹脂溶融物をストランド状とし、その後水冷却し、ペレタイザーにより切断する方式へと変更した実施例6では、円柱状のストランドを作製し、冷却してから切断するためペレット形状が円柱となった。これにより、成形時にスクリュー上をペレットが転がり、侵入性が悪化し、生産性が安定せず、成形性がやや劣る結果となった。一方で、弾性率および衝撃試験において問題はなかった。
針葉樹パルプを事前にシランカップリング剤により完全に疎水変性させたPPになじみやすいパルプ繊維へと変更した実施例7では、繊維とPPの親和性が増し、繊維の周りの空孔が無い状態となった。これにより、衝撃時に樹脂と繊維界面に応力が集中しやすくなり、他の実施例と比較して耐衝撃性がやや劣る結果となった。ただし、比較例1~7と比較すれば、弾性率および衝撃試験において優れているといえる。
無水マレイン酸を添加しなかった実施例8では、繊維とPPが親和せず、繊維の周りの空孔の体積が繊維の体積の約7割となった。これにより、他の実施例と比較して弾性率がやや劣る結果となった。ただし、比較例1~7と比較すれば、弾性率および衝撃試験において優れているといえる。
以上の評価から、複合樹脂組成物中に添加されている繊維の端部のみ解繊されている樹脂ペレットを用いて成形体を作製することにより、アスペクト比がそれほど高くなくても、高弾性率化を実現でき、かつアスペクト比が高くないことで、射出成形時に繊維が配向しにくく、面衝撃強度が高い複合樹脂成形体を実現できる複合樹脂ペレットを提供できることが分かった。また、その複合樹脂ペレット表面に繊維が存在していること、ならびに、ペレット底面が楕円状になっていることにより、成形時のペレット侵入性が良くなり、成形性が良くなることが分かった。
本発明に係る複合樹脂組成物は、従来の汎用樹脂よりも機械的強度に優れた成形体を提供することができる。本発明により、主剤樹脂の特性を向上させることができるので、エンジニアリングプラスチックの代替物、または金属材料の代替物として利用され得る。従って、エンジニアリングプラスチック製または金属製の各種工業製品、または生活用品の製造コストを大幅に削減し得る。さらには家電筐体、建材、自動車部材への利用が可能である。
1 主剤樹脂
2 繊維状フィラー
3 解繊部位

Claims (5)

  1. 主剤樹脂である熱可塑性樹脂と繊維状フィラーであるセルロースとを含有し、
    前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部が解繊されており、
    前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部の解繊部位は、前記繊維状フィラー全体の繊維長の5%以上、50%以下であり、
    前記繊維状フィラーの解繊部位における繊維径は、解繊されていない部位における繊維径の1/1000以上、1/10以下であり、
    前記繊維状フィラーの解繊されていない部位におけるアスペクト比は、5以上、1000以下であり、
    前記繊維状フィラーの弾性率は、前記主剤樹脂の弾性率よりも大きい
    ことを特徴とする複合樹脂成形体。
  2. 前記主剤樹脂がオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の複合樹脂成形体。
  3. 前記主剤樹脂がポリプロピレンであることを特徴とする請求項2に記載の複合樹脂成形体。
  4. 前記主剤樹脂と前記繊維状フィラーとの界面において空孔が存在し、前記空孔の体積が前記繊維状フィラーの体積に対して10%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合樹脂成形体。
  5. 前記繊維状フィラーの弾性率と前記主剤樹脂の弾性率との差は、20GPa以内であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複合樹脂成形体。
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