JP2023159679A - 健全性評価システム及び健全性評価方法 - Google Patents

健全性評価システム及び健全性評価方法 Download PDF

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Keiichi Okada
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Abstract

【課題】建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価することができる健全性評価システムを提供する。【解決手段】建物の上層において離間して設けられた加速度を検出する少なくとも2つのセンサと、前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の加速度の応答波形を算出する演算部と、を有し、前記周波数伝達関数は、前記建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、前記建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含み、前記演算部は、前記センサの検出値と、前記第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する前記各層における並進成分を示す第1出力波形を算出し、前記応答波形を算出することを特徴とする健全性評価システムである。【選択図】図1

Description

本発明は、建物の健全性を評価するための建物の健全性を評価するための健全性評価システム及び健全性評価方法に関する。
地震時における高層の建物の健全性を評価するため、複数のセンサ情報に基づいて、地震時の建物全体の地震応答を推定し建物の健全性を評価する健全性評価システムが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。このような健全性評価システムでは、建物に設けられた加速度センサにより検出された加速度の波形情報に基づいて、建物の健全性や室内被害(損傷、安全性)など判断することができる。
特開2021-193359号公報 特開2017-125742号公報
特許文献1等に記載された従来の健全性評価システムは、建物の応答を質点系モデルに基づいて算出している。建物が長方形等の断面形状を有している場合、地震時の建物の振動の応答には、建物が揺動する並進成分の応答に対して、建物がねじれ方向に振動するねじれ成分の応答も加わる。従来の健全性評価システムにおいては、建物のねじれ成分の応答については提案されていなかった。そのため、従来の技術によれば、応答推定の評価に誤差が生じ、建物の健全性を過小評価する虞があった。
本発明は、建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価することができる健全性評価システム及び健全性評価方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達するために、本発明は、建物の健全性を評価する健全性評価システムであって、前記建物の上層において離間して設けられた加速度を検出する少なくとも2つのセンサと、前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の加速度の応答波形を算出する演算部と、を有し、前記周波数伝達関数は、前記建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、前記建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含み、前記演算部は、前記センサの検出値と、前記第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する前記各層における並進成分を示す第1出力波形を算出し、前記センサの検出値と、前記第2周波数伝達関数とに基づいて前記入力波形に対する前記各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を算出し、前記第1出力波形と前記第2出力波形とに基づいて前記応答波形を算出することを特徴とする、健全性評価システムである。
本発明によれば、周波数伝達関数が建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含むことで建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価することができる。
また、本発明の前記演算部は、前記第1周波数伝達関数を用いた第1周波数解析に基づいて前記建物の前記並進成分における第1固有振動数、第1減衰定数、第1刺激係数を含む第1パラメータを算出し、算出した前記第1パラメータを前記第1周波数伝達関数の第1逆伝達関数に適用し、前記第1逆伝達関数に前記検出値を適用し、前記第1出力波形を出力し、前記第2周波数伝達関数を用いた第2周波数解析に基づいて前記建物の前記ねじれ成分における第2固有振動数、第2減衰定数、第2刺激係数を含む第2パラメータを算出し、算出した前記第2パラメータを前記第2周波数伝達関数の第2逆伝達関数に適用し、前記第2逆伝達関数に前記検出値を適用し、前記第2出力波形を出力し、前記第1周波数伝達関数と前記第2周波数伝達関数とを合成し、前記応答波形を算出するように構成されていてもよい。
本発明によれば、第1周波数伝達関数と第2周波数伝達関数のパラメータの同定をそれぞれ行い、第1周波数伝達関数と第2周波数伝達関数とを修正し、第1出力波形と第2出力波形とを正確に算出することで建物の応答波形を正確に算出することができる。
また、本発明の前記演算部は、前記周波数伝達関数に基づいて、前記建物の加速度の前記応答波形を算出し、前記加速度の応答波形に基づいて前記建物の変位波形を算出し、前記変位波形に基づいて前記建物の層間に生じる層間変形を算出してもよい。
本発明によれば、建物の層間変形の算出において建物の並進成分とねじれ成分とを含んで算出しているため、地震時の建物の健全性を安全側に評価することができる。
また、本発明は、建物の健全性を評価する健全性評価方法であって、前記建物の上層において離間して設けられた少なくとも2つのセンサに基づいて加速度を検出する工程と、前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の加速度の応答波形を算出する工程と、を備え、前記周波数伝達関数は、前記建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、前記建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含み、前記センサの検出値と、前記第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する前記各層における並進成分を示す第1出力波形を算出する工程と、前記センサの検出値と、前記第2周波数伝達関数とに基づいて前記入力波形に対する前記各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を算出する工程と、前記第1出力波形と前記第2出力波形とに基づいて前記応答波形を算出する工程とを備えることを特徴とする健全性評価方法である。
本発明によれば、周波数伝達関数が建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含むことで建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価することができる。
本発明によれば、建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価することができる。
本発明の実施形態に係る健全性評価システムの構成を示すブロック図である。 建物に設けられるセンサの配置位置を示す図である。 建物の上層に設けられる2つのセンサの検出内容を示す図である。 建物の各層を質点で示した建物モデルを示す図である。 第1周波数伝達関数と第2周波数伝達関数と周波数伝達関数とを示す図である。 建物モデルの0層を基準とした各層の並進成分の振幅と位相差の計算結果を示す図である。 建物モデルの5層を基準とした各層の並進成分の振幅と位相差の計算結果を示す図である。 算出された建物の各層における並進成分の変位の応答波形とねじれ成分の応答波形を示す図である。 建物の各層における応答波形を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る健全性評価システム及び健全性評価方法の実施形態について説明する。健全性評価システムは、建物のねじれ応答を含めて地震時の建物の健全性を評価するものである。
図1~図3に示されるように、健全性評価システム1は、建物Bに設けられた検出部2と、検出部2により検出された検出値に基づいて、建物Bの健全性を評価する評価装置10と、を備える。建物Bは、例えば、複数の階を有する高層建築物である。建物Bは、例えば、各階の床面が矩形断面を有する直方体に形成されている。検出部2は、例えば、建物Bの上層に設けられた少なくとも2つのセンサS1,S2と、最下層に設けられたセンサS3と、を備える。最下層とは、例えば、建物Bの1階又は基礎である。上層とは、例えば、建物Bの最上階である。以下、建物Bの各階又は、複数の階を1つの単位としてまとめて層と呼ぶ。
センサS1,S2は、例えば、建物Bの最下層に比して上層の任意の位置に設けられている。より好適にはセンサS1,S2は、上層に設けられている。センサS1,S2は、上層の端部に設けられている。センサS1,S2は、平面視(Z軸方向に見て)して建物の上層において床面の中心Cに対して点対称の位置に離間して配置されている。センサS3は、例えば、建物Bの最下層からセンサS1の下層の間の任意の位置に設けられている。より好適にはセンサS3は、地盤と連動して動く建物Bの最下層に設けられている。以下センサS1~S3を総称して適宜センサSと呼ぶ。
センサSは、例えば、加速度センサである。センサSは、建物Bの加速度を検出する。建物Bの上層において、センサS1,S2は、建物Bに生じる揺れを検出する。センサS1,S2は、例えば、建物BがX軸方向に沿って振動する際の並進成分Pを検出する。また、センサS1,S2は、例えば、建物Bが中心c位置を中心にねじれ振動が生じた際に生じるねじれ成分Qを検出する。センサS1は、建物Bに生じるねじれ成分Qのうち、位置aにおけるねじれ成分Q1の加速度を検出する。センサS2は、建物Bに生じるねじれ成分Qのうち、位置bにおけるねじれ成分Q2の加速度を検出する。センサS3(図2参照)は、建物Bの最下層において地盤と連動した振動の加速度を検出する。センサSの出力値は、評価装置10に出力される。
評価装置10は、建物の応答推定を行うための建物モデルに基づいて建物Bの健全性を評価する情報処理端末である。評価装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。評価装置10は、検出部2と電気的に接続されている。評価装置10は、ネットワーク(不図示)を通じて検出部2と接続されていてもよい。評価装置10は、例えば、検出部2から検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて建物の健全性に関する演算を行う演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を出力する表示部18とを備える。
取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワーク等のネットワークに接続された通信インタフェースである。取得部12は、ネットワークを通じて検出部2から検出データを取得する。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。
記憶部16は、評価装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを送受信するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、タブレット型端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータ等の評価装置10と別体の他の端末装置であってもよい。
演算部14は、例えば、建物Bの動的な応答を示す建物モデル(応答推定モデル)に基づいて、建物Bの健全性の評価に関する演算を行う。演算部14は、センサSの検出値に基づいて、学習型の応答推定に関する演算を行う。
図4に示されるように、建物モデルMは、高層建築物である建物Bが質量を有する複数の質点mc(cは自然数)と、複数の質点mcの間を連結し剛性kを有する弾性部材とにより解析用にモデル化されたものである。質点mcは、建物Bの各階又は、複数の階を1つの単位としてみなした各層を示す。
建物モデルMに基づいて建物Bの応答推定を計算する場合、質点系応答解析モデルのパラメータ(固有振動数:f、減衰定数:h、刺激関数:βu)を含む周波数伝達関数が用いられる。周波数伝達関数は、応答の入力と出力の関係を示す関係式である。周波数伝達関数によれば、時系列波形のフィルタとして利用することにより建物Bの各層における応答を算出することができる。周波数伝達関数は、建物Bの観測値に基づいて、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する。
図4には、建物Bの最下層への入力波形に対する上層からの出力波形が示されている。健全性評価システム1によれば、建物Bの各層に周波数伝達関数が適用された建物モデルMを用いて建物Bの応答波形の推定が行われる。本実施形態においては、建物Bに生じるねじれ応答を考慮するために、建物Bの上層(例えば、最上階)においてセンサS1,S2により地震振動に基づいて生じる建物Bの応答(加速度)を検出する。
周波数伝達関数は、例えば、建物Bの各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、建物Bの各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含んでいる。演算部14は、センサSの検出値と、第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する建物Bの各層における並進成分を示す第1出力波形を算出する。演算部14は、並進成分の他に、センサSの検出値と、第2周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する建物Bの各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を算出する。演算部14は、第1出力波形と前記第2出力波形とに基づいて建物B全体の応答波形を算出する。
演算部14は、以下の式(1)に示す第1周波数伝達関数に基づいて建物モデルMの並進成分を算出する。式(1)は、質点系により示された建物モデルMの最下層に正弦波の振動が入力された場合に最下層から上側の各層における並進成分の周波数応答を示す。
Figure 2023159679000002
但し、L:Lateral Vibration、f:振動数、n:最高時のモード次数、j:各モード、h:並進成分におけるj次の減衰定数、βuj:並進成分におけるj次の刺激係数、fj:並進成分における固有振動数、i:虚数成分である。式(1)の第1項は、建物Bの最下層における入力を示している。式(1)において第1項を除いたものは、各次の相対応答関数の重ね合わせを示す。
演算部14は、以下の式(2)に示す第2周波数伝達関数に基づいて建物モデルMのねじれ成分を算出する。式(2)は、質点系により示された建物モデルMの最下層に正弦波の振動が入力された場合に最下層から上側の各層におけるねじれ成分の周波数応答を示す。
Figure 2023159679000003
但し、T:Torshinal Vibration、f:振動数、n:最高時のモード次数、j:各モード、h:ねじれ成分におけるj次の減衰定数、βuj:ねじれ成分におけるj次の刺激係数、fj:ねじれ成分における固有振動数、i:虚数成分である。式(2)には、式(1)における第1項の建物Bの基礎における入力の項が無い。式(2)は、各次のねじれ成分を示す相対応答関数の重ね合わせである。
建物Bの応答を示す周波数伝達関数:H(f)は、並進成分の応答を示す式(1)とねじれ成分の応答を示す式(2)とを重ね合わせた式(3)により示される。
Figure 2023159679000004
図5には、式(1)に示される並進成分の第1周波数伝達関数と式(2)に示されるねじれ成分の第2周波数伝達関数と式3に示される周波数伝達関数が示されている。式(3)は、建物Bの基礎から入力される振動の周波数伝達関数であることを利用し、他の質点mcにおける周波数伝達関数は、式(4)を用いて変換される。
Figure 2023159679000005
但し、x:入力点、y:出力点、H:新しい入力に対応する周波数伝達関数、H:新しい出力に対応する周波数伝達関数である。
別入力における周波数伝達関数Hxyは、式(5)に基づいて、出力における周波数伝達関数Hを入力における周波数伝達関数Hにより除することにより算出される。周波数伝達関数は、検出部2から得られた建物Bの振動の波形が記録された実測データに基づいてパラメータが算出される。建物Bの振動の波形は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)スペクトル解析される。FFT解析結果G(f)は、式(5)を用いて算出される。
Figure 2023159679000006
但し、n:はフーリエスペクトルの平均化定数、x:入力点、G:波形のフーリエスペクトル、Gxx:パワースペクトルである。式(5)において、パワースペクトルGxxは、フーリエスペクトルGと複素共役G とを掛け合わせて算出される。式(5)を用いたFFT解析により周波数伝達関数が算出される。
フーリエスペクトルGから、以下の式(6)に基づいて、周波数伝達関数を算出するためのクロススペクトルGyxに変換される。
Figure 2023159679000007
但し、n:フーリエ変換の平均化、x:入力点、y:出力点である。クロススペクトルGyxはフーリエスペクトルGの複素共役G とを掛け合わせて算出される。
周波数伝達関数Hxyは、上記に示したパワースペクトルGxxおよびクロススペクトルGyxを用いて式(7)により算出される。
Figure 2023159679000008
但し、両スペクトルの平均化層数nは、同一であり、同区間のデータに基づいて計算される。上述した式(4)~(7)は、並進成分と、ねじれ成分とを含む。上述した式(4)~(7)に基づいて、周波数伝達関数が適用された質点系モデルに基づく建物モデルMの応答波形を推定することができる。
以下、建物の健全性を評価するため、周波数伝達関数に基づく健全性評価方法について説明する。健全性評価方法は、建物の全層に対応する応答波形を算出することにより、建物Bに生じる変位や応力を評価し建物Bに破壊が生じるか否かを評価するものである。本実施形態では、建物の上層に設けられたセンサS1,S2の検出値に基づいて、並進成分の応答波形と、ねじれ成分の応答波形とに分けて計算する。演算部14は、上層に設けられた2つのセンサS1,S2を含むセンサSから得られた検出値に基づいて、下記の処理を行い、建物モデルMの初期情報として設定されているパラメータを補正する。
一般に、質点系モデルを用いた応答解析は、建築設計において用いられる。この応答解析に用いられるモデルのパラメータは、専門家により設定される。そのため、応答解析モデルのパラメータの設定は、困難性が伴う。
そのため、建物モデルMは、簡易な質点系モデルに設定することで、応答解析におけるパラメータの初期設定を行うことができる(例えば特許文献2参照)。各パラメータは、例えば、建物の層高、層数、構造様式等の情報に基づいて初期設定される。但し、構造様式とは、例えば、鉄骨造(S造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)、鉄筋コンクリート造(RC造)などである。
建物Bの建物モデルMは、複数の質点が鉛直方向に沿って剛体により連結された質点系モデルにより簡易化してモデル化される(特許文献2参照)。建物モデルMにおける1次固有周期(T)は、例えば、建物Bの構造様式に応じて建物Bの軒高(H)又は層数(N)との関係式により算出される。
次に、検出部2から検出された検出データに基づいて、演算部14は、建物モデルMに初期設定された上記パラメータをシステム同定により修正する。システム同定は、制御において用いられる手法であり、検出値に基づいて建物モデルMのパラメータを同定するものである。
パラメータの修正において、建物の上層に設けられたセンサS1,S2の2つの検出データを用いる場合と、センサS1,S2及び建物の基礎に設けられたセンサS3との3つの検出データを用いる場合がある。
先ず、3つのセンサS1,S2,S3の検出値に基づくパラメータの修正について説明する。演算部14は、例えば、センサS1,S2の検出値と、センサS3の検出値との3つの検出値により検出された加速度の波形の周波数応答に基づいて、周波数伝達関数に当てはまる最適な曲線を求めるカーブフィットを用いたシステム同定を行う。演算部14は、カーブフィットを用いたシステム同定に基づいて、建物モデルMに含まれる周波数伝達関数の固有振動数(或いは1次固有周期)、減衰定数、刺激関数の各パラメータを算出する。
演算部14は、システム同定において、第1周波数伝達関数に含まれる第1固有振動数、第1減衰定数、第1刺激関数を含む第1パラメータと、第2周波数伝達関数に含まれる第2周波数伝達関数に含まれる第2固有振動数、第2減衰定数、第2刺激関数を含む第2パラメータとを算出する。以下の処理において、演算部14は、第1周波数伝達関数及び第2周波数伝達関数に対して個別に演算を実行する。
図6には、5層質点系モデルにおいて、0層(最下層)を基準とした各層の並進成分である第1周波数伝達関数に基づく振幅と位相差の計算結果が示されている。図7には、5層質点系モデルにおいて、5層を基準とした各層の並進成分である第1周波数伝達関数に基づく振幅と位相差の計算結果が示されている。演算部14は、加速度の検出値をFFT処理し周波数成分の波形の応答(周波数応答)を算出する。
演算部14は、初期パラメータが適用された建物モデルMに検出値を入力し建物Bの応答波形の周波数成分を算出する。演算部14は、例えば、算出した応答波形の周波数成分に基づいて、カーブフィット法を用いて、建物Bの固有振動数を算出する。演算部14は、モデル算出値の曲線を実測算出値の曲線にフィットさせるように誤差を最小とするように最適な曲線を求めるカーブフィットを行う。
カーブフィット法は、検出値に良く合うようなパラメータを算出する手法である。カーブフィット法により、最小2乗法を用いて周波数軸又は時間軸上で関数フィッティングさせ、最適関数を推定し近似曲線が得られる。演算部14は、例えば、建物Bの上層に設けられたセンサS1により検出された微動波形の検出値に基づいて、パワースペクトルを算出する。パワースペクトルは、周波数に対応する振動のパワーの分布を表すものである。算出したパワースペクトルに対して逆離散時間フーリエ変換を行うと、自己相関関数に変換される。
演算部14は、例えば、パワースペクトルのうち最も低いスペクトルのピーク近傍の山の1周期分の周波数範囲を切り出す。演算部14は、切り出した周波数範囲を1次固有周期とみなして逆離散時間フーリエ変換し、自己相関関数を算出する。演算部14は、算出した自己相関関数に基づいて減衰波形を算出する。演算部14は、非線形にカーブフィットするように固有振動数を算出すると共に、減衰定数を算出する。ここで得られた固有振動数などは、応答推定に利用する初期の建物モデルの剛性分布の補正に利用することで、精度の高い応答推定ができる。
演算部14は、カーブフィット法を用いて自己相関関数に基づいて算出される減衰波形を誤差が最小となるように、検出された応答波形に対して非線形にカーブフィットさせ、固有振動数を算出すると共に、減衰定数を算出する。
演算部14は、上記カーブフィットに基づいて、建物モデルMに適用される固有振動数、減衰定数、刺激関数の各パラメータを算出する。演算部14は、算出したパラメータを周波数伝達関数に当てはめ、周波数伝達関数が実際の応答に近い算出値に算出するように建物モデルMを更新する。但し、固有振動数は、3次モードまで算出される。演算部14は、加速度の波形の周波数応答は、カーブフィットの他に波形解析のためのARX(Auto Regressive with eXogenous)モデルを用いたシステム同定に基づいて算出してもよい。
次に、2つのセンサS1,S2の検出値に基づくパラメータの修正について説明する。
演算部14は、例えば、センサS1,S2の2つの検出データを取得し、加速度の波形の周波数応答に基づいて、初期設定されたパラメータを修正し建物モデルMを更新する。演算部14は、センサS1,S2の2つの検出データを用いてFFTを用いた周波数解析を行う。演算部14は、検出データの周波数解析に基づいて周波数毎のパワーを示すパワースペクトルを算出する。演算部14は、算出したパワースペクトルを用いたシステム同定を行う。演算部14は、システム同定において、建物モデルMに含まれる固有振動数、減衰定数の各パラメータを算出する。演算部14は、算出した各パラメータを用いて建物モデルMのパラメータを修正する。
演算部14は、算出した固有振動数、減衰定数に基づいて、建物Bの各層に対応する周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正し、建物モデルMを更新する。演算部14は、加速度の波形の周波数応答をパワースペクトルの他に波形解析のためのAR(Auto Regressive)モデルを用いたシステム同定に基づいて算出してもよい。固有振動数は、例えば、3次モードまで同定することで精度を確保できる。
演算部14は、パラメータを修正した周波数伝達関数に対して建物Bの上層におけるセンサS1,S2の検出データを適用し、建物Bの各層における加速度の応答波形を算出する。演算部14は、検出データに基づく応答波形の加速度の波形をFFT処理し、周波数成分毎の波形を算出する。演算部14は、FFT処理においてバンドパスフィルタを用いて振動数の範囲を限定する矩形窓を適用し、応答における高次のモードの影響を除去する。演算部14は、算出した周波数成分毎の波形を逆FFT処理し、モード毎の加速度の波形を算出する。
演算部14は、算出した加速度の応答波形を数値積分し、建物Bの各層における速度及び変位の波形を算出する。数値積分には、FFTにより算出したωの時間曲線が用いられる。演算部14は、算出した建物Bの各層における変位の波形を用いて、隣接する層同士の差分を算出し、建物Bの各層における層間変位を算出する。演算部14は、建物Bの各層において算出した層間変位の波形の最大値を算出する。演算部14は、算出した最大値に基づいて建物Bの各層の応力分布を算出する。
センサSは、日常的な微振動の他に、地震時に検出される地震動を検出してもよい。地震時に検出値が検出された場合、この検出値を利用して建物Bの固有振動数を算出できる。演算部14は、上記と同様に地震時に検出された検出値を用いて建物Bの地震時の応答波形を算出する。算出された建物Bの各層の応力分布は、建物Bの被災状況の判定に利用される。
次に健全性評価システム1において実行される建物Bの健全性評価方法における各工程の処理の流れについて説明する。
建物Bの上層に設けられた1つのセンサS1,S2により加速度を検出する。演算部14は、建物Bの各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が各層において適用された建物モデルMに基づいて、センサS1,S2の検出値を用いた周波数解析を行う。演算部14は、検出値を用いて算出した周波数応答に基づいて周波数毎のパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルを用いたシステム同定を行い、建物の固有振動数及び減衰定数を算出し、各周波数伝達関数に含まれるパラメータを修正する。演算部14は、建物Bの並進成分を示す第1周波数伝達関数とねじれ成分を示す第2周波数伝達関数とのそれぞれに対してパラメータを修正する。
演算部14は、求められたパラメータにより質点系モデルの逆伝達関数を補正し再構成して、上層センサを入力点として、逆周波数伝達関数(図7参照)のフィルタとしてセンサ設置層以外の並進成分を示す第1出力波形と、ねじれ成分を示す第2出力波形とを計算し、建物Bの応答を推定する。演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し、建物の応答波形を算出する。演算部14は、修正された各周波数伝達関数に検出値を適用し建物の各層における変位の応答波形を算出する。
図8に示されるように、演算部14は、修正された第1周波数伝達関数に基づいて建物Bの各層における並進成分の変位の応答波形を算出する。また、演算部14は、修正された第2周波数伝達関数に基づいて建物Bの各層におけるねじれ成分の変位の応答波形を算出する。
図9には、質点系により示された建物モデルMにより、並進成分とねじれ成分とを含む周波数伝達関数が示されている。演算部14は、周波数伝達関数から求められる質点系モデルを用いて建物Bに関する応答推定を行う。演算部14は、並進成分の応答推定と、ねじれ成分の応答推定とに分けて算出する。演算部14は、並進成分とねじれ成分とを足し合わせることで、建物Bの各層の端部における応答を算出する。推定されたセンサ設置層以外の並進成分、ねじれ成分の時系列応答波形を足し合わせることで建物端部での全層の応答を求めることができる。
演算部14は、算出した各層の端部における加速度波形を数値積分することで速度波形を算出し、速度波形を数値積分することで変位波形を算出する。建物Bの上層に設けられた2つのセンサS1,S2に基づいて、並進成分、ねじれ成分の応答推定に用いる加速度を検出することができ、演算部14は、検出値に基づいて建物Bの全層での並進成分、ねじれ成分を含む応答波形を求めることができる。演算部14は、変位波形からさらに上下総で差分波形を求めることで各層の層間に生じる層間変形を計算する。算出された建物Bの加速度、速度、変位、層間変形に基づいて、建物Bの健全性を評価することができる。
上述したように健全性評価システム1によれば、建物Bの質点系モデルに周波数伝達関数を適用し、観測データに基づいて、並進成分、ねじれ成分を含む建物Bの応答を簡便に推定することができる。健全性評価システム1によれば、建物Bの上層に設けられた2つのセンサS1,S2の検出値に基づいて、建物Bの並進成分の応答と、ねじれ成分の応答とを推定することができる。健全性評価システム1によれば、2つのセンサS1,S2の検出値に基づいて、建物Bの並進成分を示す第1周波数伝達関数とねじれ成分を示す第2周波数伝達関数が適用された質点系モデルの初期パラメータ(固有振動数、減衰定数、刺激関数)を同定することで、質点系モデルを修正し実応答として建物Bの全層の応答推定の精度を向上させることができる。
健全性評価システム1によれば、建物Bの上層に設けられた2つのセンサS1,S2により上層における加速度を観測することで、従来考慮できなかった建物Bの端部における最大応答が推定可能となり、建物Bの被災状況の判定システムとしての応答推定の精度を向上させることができる。
上述した演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、健全性評価システム1は、地震応答推定の算出において、センサSの日常的な検出値を用いて建物モデルMを所定のタイミングで更新してもよい。健全性評価システムは、建物だけでなく、他の構造物の並進成分の応答とねじれ成分を含む応答推定に適用してもよい。
1 健全性評価システム
14 演算部
B 建物
M 建物モデル
mc 質点
P 並進成分
Q、Q1、Q2 ねじれ成分
S、S1、S2、S3 センサ

Claims (4)

  1. 建物の健全性を評価する健全性評価システムであって、
    前記建物の上層において離間して設けられた加速度を検出する少なくとも2つのセンサと、
    前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の加速度の応答波形を算出する演算部と、を有し、
    前記周波数伝達関数は、前記建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、前記建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含み、
    前記演算部は、
    前記センサの検出値と、前記第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する前記各層における並進成分を示す第1出力波形を算出し、
    前記センサの検出値と、前記第2周波数伝達関数とに基づいて前記入力波形に対する前記各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を算出し、
    前記第1出力波形と前記第2出力波形とに基づいて前記応答波形を算出することを特徴とする、
    健全性評価システム。
  2. 前記演算部は、
    前記第1周波数伝達関数を用いた第1周波数解析に基づいて前記建物の前記並進成分における第1固有振動数、第1減衰定数、第1刺激係数を含む第1パラメータを算出し、算出した前記第1パラメータを前記第1周波数伝達関数の第1逆伝達関数に適用し、前記第1逆伝達関数に前記検出値を適用し、前記第1出力波形を出力し、
    前記第2周波数伝達関数を用いた第2周波数解析に基づいて前記建物の前記ねじれ成分における第2固有振動数、第2減衰定数、第2刺激係数を含む第2パラメータを算出し、算出した前記第2パラメータを前記第2周波数伝達関数の第2逆伝達関数に適用し、前記第2逆伝達関数に前記検出値を適用し、前記第2出力波形を出力し、
    前記第1周波数伝達関数と前記第2周波数伝達関数とを合成し、前記応答波形を算出する、
    請求項1に記載の健全性評価システム。
  3. 前記演算部は、前記周波数伝達関数に基づいて、前記建物の加速度の前記応答波形を算出し、前記加速度の前記応答波形に基づいて前記建物の変位波形を算出し、前記変位波形に基づいて前記建物の層間に生じる層間変形を算出する、
    請求項2に記載の健全性評価システム。
  4. 建物の健全性を評価する健全性評価方法であって、
    前記建物の上層において離間して設けられた少なくとも2つのセンサに基づいて加速度を検出する工程と、
    前記建物の各層が質点系により表され、振動の入力波形に基づいて出力波形を出力する周波数伝達関数が前記各層において適用された建物モデルに基づいて前記建物の加速度の応答波形を算出する工程と、を備え、
    前記周波数伝達関数は、前記建物の各層に生じる並進成分を示す第1出力波形を出力する第1周波数伝達関数と、前記建物の各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を出力する第2周波数伝達関数とを含み、
    前記センサの検出値と、前記第1周波数伝達関数とに基づいて入力波形に対する前記各層における並進成分を示す第1出力波形を算出する工程と、
    前記センサの検出値と、前記第2周波数伝達関数とに基づいて前記入力波形に対する前記各層に生じるねじれ成分を示す第2出力波形を算出する工程と、
    前記第1出力波形と前記第2出力波形とに基づいて前記応答波形を算出する工程とを備えることを特徴とする、
    健全性評価方法。
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