JP2023144530A - 保持器および深溝玉軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】深溝玉軸受用の合成樹脂製冠形保持器の運搬中の落下による破損を効果的に防止できるようにする。【解決手段】ポケット9に収容する鋼球4の直径Dが13~18mmであり、ポケット9の底から環状部5の軸方向他方側の端面までの肉厚tが鋼球径Dの10~20%、つの部6の爪8a、8bの軸方向長さHBが鋼球径Dの60~80%であり、全体が樹脂材料で形成されている冠形保持器において、その樹脂材料の引張強度をσとするとき、円周方向で隣り合うポケット9どうしの間の部位の断面積Aを下記(1)式の範囲に設定した。A>(511D-4027)/σ ・・・(1)これにより、落下時の衝撃荷重によってポケット間部位に発生する応力が樹脂材料の引張強度σよりも小さくなり、落下による破損を効果的に防止することができる。【選択図】図4
Description
本発明は、つの付きの一体形保持器である冠形保持器と、その保持器を用いた深溝玉軸受に関する。
自動車や工作機械等において高速回転する装置に組み込まれる深溝玉軸受等の転がり軸受では、一般に、その転動体を転動自在に保持する保持器として、自己潤滑性を有する合成樹脂製の一体形保持器が採用されている。
ところが、近年、自動車分野では、電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HEV)等、高速回転する電動機(モータ)を搭載した車両が増加しており、そこに組み込まれる転がり軸受は使用条件が一層厳しくなっている。このため、保持器として金属製のものに比べて剛性の低い合成樹脂製のものを用いている場合は、高速回転時に保持器の遠心力に対する耐変形性が不足することが懸念されるようになってきている。
特に、深溝玉軸受に用いられる冠形保持器(つの付きの一体形保持器)で合成樹脂製のものは、高速回転下で使用した際に、片持ち梁状のつの部が遠心力によって径方向外側に変形しやすく、変形したつの部の先端側の内周側部分が転動体である鋼球(玉)に接触してその転動を妨げたり、つの部の先端側の外周側部分が外輪の内周面に干渉したり、保持器に異常摩耗や亀裂が発生したりする等のトラブルを生じるおそれがある。
このため、深溝玉軸受において、合成樹脂製の保持器を使用すると上記のようなトラブルの発生が懸念される場合には、インサート成形によって金属製の補強部材を合成樹脂と一体化して遠心力に対する耐変形性を高めた保持器が使用されることが多い(例えば、特許文献1、2参照。)。
しかし、上記のように補強部材を埋め込んだ保持器は、樹脂材料(合成樹脂に強化材を配合したものを含む)のみで形成したものに比べて、部品点数が多く生産性に劣るため、コストが高いという難点がある。
これに対し、特許文献3では、樹脂材料のみで形成した冠形保持器において、円周方向で隣り合うポケットどうしの間の部位(以下、「ポケット間部位」ともいう。)で軸方向の肉厚が薄くなるように肉抜きして軽量化することにより、遠心力によるつの部の変形を低減して鋼球や外輪との接触や干渉を防止することが提案されている。
一方、合成樹脂製の冠形保持器は、通常、射出成形時に金型内で溶融樹脂が合流する部位(一般に「ウェルド」と呼ばれる。)の強度が他の部位よりも低くなるので、遠心力による応力が集中するポケット底部を避けてポケット間にウェルドが位置するように設計される。そこで、特許文献3の保持器では、ポケット間のウェルドの存在する部位が遠心力によって破損しないよう、ポケット間部位の軸方向肉厚を保持器PCD(各ポケットの中心を円周方向に連続させた仮想円の直径)の1/62以上に設定している。
ところで、上述したような合成樹脂製の冠形保持器では、運搬中に誤って落下させてしまった場合に、最下部のポケット間部位の両側の鋼球が瞬間的に互いに接近する方向に移動して最下部のポケット間部位を押圧することにより、その部位に衝撃荷重が負荷されて亀裂が入り、破断してしまうことがある。
そして、特許文献3の保持器は、ポケット間部位の軸方向肉厚の設計が高速回転時の遠心力を考慮したものであって、運搬中の落下によって負荷される可能性のある衝撃荷重を考慮したものではないので、運搬中の落下による亀裂の発生や破断を必ずしも防止できないおそれがある。
そこで、本発明は、深溝玉軸受用の合成樹脂製冠形保持器の運搬中の落下による破損を効果的に防止できるようにすることを課題とする。
上記の課題を解決するために、本発明は、環状部と、前記環状部から円周方向に等間隔で軸方向一方側に突出する複数のつの部とを備え、前記つの部の円周方向で隣り合うものどうしの間に深溝玉軸受の転動体である鋼球を収容するポケットを有し、前記つの部は、前記環状部に軸方向で連続するベースと、前記ベースから軸方向一方側に突出する一対の爪とを有し、前記鋼球の直径Dが13~18mmであり、前記ポケットの底から前記環状部の軸方向他方側の端面までの肉厚が前記鋼球の直径Dの10~20%であり、前記つの部の爪の軸方向長さが前記鋼球の直径Dの60~80%であり、全体が樹脂材料で形成されている保持器において、前記樹脂材料の引張強度をσとするとき、円周方向で隣り合う前記ポケットどうしの間の部位(ポケット間部位)の断面積Aは、下記(1)式の範囲に設定されている構成を採用した。
A>(511D-4027)/σ ・・・(1)
A>(511D-4027)/σ ・・・(1)
本発明において、保持器のポケット間部位の断面積Aを上記のように設定した理由は、以下の通りである。
まず、保持器を運搬中に落下させた際に、2つの鋼球に挟まれて押圧されるポケット間部位に負荷される衝撃荷重F(N)は、鋼球の直径(以下、「鋼球径」ともいう。)をD(mm)、鋼球の質量をm(kg)、落下する高さをh(m)、ポケット内面と鋼球との隙間(以下、「ポケット隙間」ともいう。)をSa(m)とすると、下記(2)式で求められる。(2)式におけるgは重力加速度である。
F=2×2mgh/Sa ・・・(2)
この(2)式に鋼球の質量m=7.83×(4/3)π(D/2)3 を代入すると、下記(3)式となる。
F=5.22×πghD3 /Sa ・・・(3)
F=2×2mgh/Sa ・・・(2)
この(2)式に鋼球の質量m=7.83×(4/3)π(D/2)3 を代入すると、下記(3)式となる。
F=5.22×πghD3 /Sa ・・・(3)
ここで、本発明が対象とする保持器、すなわち鋼球径Dが13~18mm、ポケットの底から環状部の軸方向他方側の端面までの肉厚が鋼球径Dの10~20%、つの部の爪の軸方向長さが鋼球径Dの60~80%であり、全体が樹脂材料で形成されている冠形保持器では、通常、ポケット隙間Saは鋼球径Dの1~4%に設定されている。
そこで、保持器が落下する高さhを1mと仮定し、ポケット隙間Saが鋼球径Dの1%の場合と4%の場合について、(3)式を用いて衝撃荷重Fを算出し、鋼球径Dが13~18mmの範囲で一次近似すると図6のようになる。この図6において、SaがDの1%の場合はF=511D-4027、SaがDの4%の場合はF=127D-1007となっており、衝撃荷重Fはポケット隙間Saによって大きく変わるが、SaがDの1%の場合よりも大きくなることはない。
そして、保持器が落下したときにそのポケット間部位が破損しないためには、上記の衝撃荷重Fによってポケット間部位に発生する応力が、保持器を形成する樹脂材料の引張強度よりも小さければよい。すなわち、その樹脂材料の引張強度をσ(MPa)、ポケット間部位の断面積をA(mm2)とするとき、
F/A<σ ・・・(4)
であればよい。
F/A<σ ・・・(4)
であればよい。
したがって、この(4)式の衝撃荷重Fに、ポケット隙間Saが鋼球径Dの1%の場合の近似式(511D-4027)を代入して変形すれば、ポケット隙間Saの大きさによらず、落下時に保持器を破損させないためのポケット間部位の断面積Aが上記(1)式の形で得られる。
上記の構成において、前記樹脂材料は、強化材にカーボンファイバーを用いたものや、強化材にグラファイトを用いたものとすることができ、前記樹脂材料を構成する合成樹脂は、エンジニアリングプラスチックを用いることができる。また、前記樹脂材料は、強化材を含まず、前記引張強度が85MPa以上のものを用いることもできる
そして、強化材を含む樹脂材料を用いる場合には、その強化材が5~40%配合されたものとすることが望ましい。強化材の配合率が5%未満であると十分な強度が得られず、40%を超えると樹脂材料全体がもろくなるからである。
また、本発明の深溝玉軸受は、上記構成の保持器と、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配される前記鋼球とを備えるものであり、落下させても保持器が破損するおそれがないので、取り扱いがしやすいものとなっている。
上述したように、本発明の冠形保持器は、そのポケット間部位の断面積を、落下時に想定される衝撃荷重によって発生する応力が保持器を形成する樹脂材料の引張強度よりも小さくなるように設定したものであるから、落下による破損を効果的に防止することができる。また、その冠形保持器を用いた深溝玉軸受は、落下による保持器の破損のおそれがないので、取り扱いがしやすい。
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、実施形態の保持器1を用いた深溝玉軸受を示す。この深溝玉軸受は、外周面に軌道面2aが形成された内輪2と、内周面に軌道面3aが形成された外輪3と、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間に配される複数の転動体としての鋼球(玉)4と、各鋼球4をそれぞれ等間隔で転動自在に保持する保持器1とを備えている。
ここで、保持器1、内輪2および外輪3のそれぞれの中心軸(図示省略)は同軸に配されており、深溝玉軸受の設計上の回転中心である軸受中心軸に相当する。以下、保持器1の中心軸を単に「中心軸」という。
そして、軸方向とは中心軸に沿った方向のことをいい、軸方向一方側は図1における右側、軸方向他方側は図1における左側である。また、径方向とは中心軸と直交する方向のことをいう。径方向外側とは、径方向で中心軸から遠ざかる方向のことをいい、図1における上方側である。径方向内側とは、径方向で中心軸に接近する方向のことをいい、図1における下方側である。また、円周方向とは、中心軸周りに一周する円周に沿った方向のことをいう。
保持器1は、図1乃至図5に示すように、円周方向に延びる環状部5と、環状部5から円周方向に等間隔で軸方向一方側に突出する複数のつの部6とからなる冠形保持器(つの形保持器)である。そして、その環状部5と各つの部6、すなわち保持器1全体は樹脂材料によって形成されている。
ここで、保持器1を形成する樹脂材料は、エンジニアリングプラスチック等の射出成形可能な合成樹脂を主体とするものであればよく、強化材にカーボンファイバーやグラファイトを用いたものでも、強化材を含まないナチュラル材でもよい。強化材を含む場合は、その強化材が5~40%配合されたものとすることが望ましく、ナチュラル材の場合は、引張強度が85MPa以上のものが望ましい。
この保持器1の環状部5の外周面および内周面はそれぞれ円筒面となっており、つの部6の外周面および内周面は、それぞれ環状部5の外周面および内周面と同一面に形成されている。
つの部6は、環状部5に軸方向で連続するベース7と、ベース7から軸方向一方側に突出する一対の爪8a、8bとを有する。そのベース7は、円周方向で隣り合うものどうしが連続している。一対の爪8a、8bは、互いに円周方向で離れた状態でベース7の軸方向一方側から片持ち梁状に突出している。
つの部6の円周方向で隣り合うものどうしの間の空間は、鋼球4を一つずつ収容するポケット9となっている。ポケット9は、径方向外側、径方向内側および軸方向一方側に開口した空間であり、つの部6と同数だけ形成されている。そして、各ポケット9の底の位置が含まれる仮想平面が、つの部6のベース7と環状部5との境界となっている。
ポケット9の内面形状は球面であり、その径方向外側の開口と径方向内側の開口はそれぞれ鋼球4を径方向に通過させない口径となっている。また、ポケット9の軸方向一方側の開口、すなわちつの部6の隣り合う爪8a、8bどうしの隙間は鋼球4を軸方向に通過させない寸法となっている。
したがって、ポケット9への鋼球4の収納は、深溝玉軸受を組み立てる際に、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間に配した鋼球4に対して、保持器1のつの部6を軸方向他方側から押し付けることにより、つの部6の爪8a、8bを弾性変形させて、ポケット9の軸方向一方側の開口を円周方向に広げながら鋼球4をポケット9内に入り込ませるようにする。
また、図4に示すように、鋼球4の直径(鋼球径)をD、保持器1のポケット9の底から環状部5の軸方向他方側の端面までの肉厚をt、つの部6の爪8a、8bの軸方向長さをHB、ポケット9内面と鋼球4との隙間(ポケット隙間)をSaとすると、鋼球の直径Dは13~18mmであり、その他の寸法は、
t=αD(αは0.1~0.2)
HB=βD(βは0.6~0.8)
Sa=γD(γは0.01~0.04)
とされている。
t=αD(αは0.1~0.2)
HB=βD(βは0.6~0.8)
Sa=γD(γは0.01~0.04)
とされている。
また、図5に示す断面の面積、すなわち保持器1のポケット間部位(環状部5とつの部6のベース7)の断面積をAとし、保持器1全体を形成する樹脂材料の引張強度をσとすると、その断面積Aは下記(1)式の範囲に設定されている。
A>(511D-4027)/σ ・・・(1)
なお、樹脂材料の引張強度σは、絶乾状態のダンベル形試験片を用いて行った引張試験の結果が用いられる。
A>(511D-4027)/σ ・・・(1)
なお、樹脂材料の引張強度σは、絶乾状態のダンベル形試験片を用いて行った引張試験の結果が用いられる。
ここで、上記(1)式の右辺の分子は、前述のように、保持器1を1mの高さから落下させたときにポケット間部位に負荷される衝撃荷重の想定最大値である。したがって、保持器1のポケット間部位の断面積Aを(1)式のように設定することにより、落下時の衝撃荷重によってポケット間部位に発生する応力が保持器1の樹脂材料の引張強度σよりも小さくなり、保持器1の落下による破損を効果的に防止することができる。
そして、この実施形態の保持器1を用いた深溝玉軸受は、運搬中に落下させても保持器1が破損するおそれがないので、取り扱いがしやすい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 保持器
2 内輪
3 外輪
4 鋼球(転動体、玉)
5 環状部
6 つの部
7 ベース
8a、8b 爪
9 ポケット
2 内輪
3 外輪
4 鋼球(転動体、玉)
5 環状部
6 つの部
7 ベース
8a、8b 爪
9 ポケット
Claims (7)
- 環状部と、前記環状部から円周方向に等間隔で軸方向一方側に突出する複数のつの部とを備え、前記つの部の円周方向で隣り合うものどうしの間に深溝玉軸受の転動体である鋼球を収容するポケットを有し、前記つの部は、前記環状部に軸方向で連続するベースと、前記ベースから軸方向一方側に突出する一対の爪とを有し、
前記鋼球の直径Dが13~18mmであり、前記ポケットの底から前記環状部の軸方向他方側の端面までの肉厚が前記鋼球の直径Dの10~20%であり、前記つの部の爪の軸方向長さが前記鋼球の直径Dの60~80%であり、全体が樹脂材料で形成されている保持器において、
前記樹脂材料の引張強度をσとするとき、円周方向で隣り合う前記ポケットどうしの間の部位の断面積Aは、下記(1)式の範囲に設定されていることを特徴とする保持器。
A>(511D-4027)/σ ・・・(1) - 前記樹脂材料は、強化材にカーボンファイバーを用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の保持器。
- 前記樹脂材料は、強化材にグラファイトを用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の保持器。
- 前記樹脂材料を構成する合成樹脂は、エンジニアリングプラスチックであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の保持器。
- 前記樹脂材料は、強化材を含まず、前記引張強度が85MPa以上のものであることを特徴とする請求項1または4に記載の保持器。
- 前記樹脂材料は、強化材が5~40%配合されたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の保持器。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の保持器と、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配される前記鋼球とを備える深溝玉軸受。
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