JP2023138343A - マルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法 - Google Patents

マルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】加工性が良好であるとともに、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に硬度及び耐食性が高く、不規則模様の発生を抑制可能なマルテンサイト系ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】質量基準で、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼材である。このマルテンサイト系ステンレス鋼材は、炭化物の平均粒径が0.50μm以下であり、大きさ10μm以上の炭化物が0.10個/cm2以下であり、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が15.0体積%以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法に関する。
シェーバー、ハサミ、包丁などの様々な刃物に用いられるステンレス鋼材には、高い硬度が要求されるため、Cの含有量が多いマルテンサイト系ステンレス鋼材が使用されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、Cの含有量が多いと、Crなどの合金元素と炭化物を生成し、製造工程中に粗大な共晶炭化物として析出し易くなる。この共晶炭化物は、焼鈍工程などによっても完全に溶体化させるのが困難であり、焼入れ又は焼入れ焼戻し時にCの固溶量が低下して過度に軟化する原因となる。また、この共晶炭化物は、腐食起点となるため耐食性が低下する他、加工時に欠けが生じたり、筋状や島状の不規則模様が発生したりする原因にもなる。さらに、Cは強力なオーステナイト安定化元素であることから、Cの偏析などに起因して焼入れ又は焼入れ焼戻し後に残留オーステナイトが多量に残存した場合、硬度の低下、切れ味の劣化、及び筋状や島状の不規則模様の発生にもつながる。
そこで、特許文献2には、質量%で、C:0.40~0.50%、Si:0.05~0.60%、Mn:0.5~1.5%、P:0.035%以下、S:0.010%以下、Cr:11.0~15.5%、Ni:0.01~0.30%、Cu:0.01~0.30%、Mo:0.01~0.30%、V:0.01~0.10%、Al:0.02%以下、Sn:0.002~0.10%、N:0.010~0.035%、Ca:0.0001~0.0010%、O:0.001~0.01%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、かつ、Cu+Ni+Mo=0.05~0.30%を満足し、さらに、大きさ10μm以上の介在物が、0.2個/cm2以下であることを特徴とする刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼材が提案されている。
また、特許文献3には、Cr:13.0~14.0重量%、Mo:1.15~1.35重量%、C:0.35~0.55重量%、Si:0.20~0.50重量%、Mn:0.20~0.50重量%、P:0.025重量%以下、S:0.020重量%以下、残部:Fe及び不可避な不純物元素からなる組成を有する基材を作製する工程と、この基材に高密度転位導入法及び超急冷凝固法の少なくとも一方を施した後、焼鈍処理して微細組織フェライト鋼を得る工程と、前記フェライト鋼に冷間圧延、焼鈍、必要に応じて所定形状への塑性加工を施した後、焼入れ処理して結晶粒微細化マルテンサイト系ステンレス鋼材を得る工程とを含むことを特徴とする結晶粒微細化マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法が提案されている。
また、特許文献4には、質量%で、C:0.25~0.45%、Si:1.0%以下、Mn:0.1~1.5%、Cr:12.0~15.0%、Mo:0.5~3.0%、N:0.30~0.45%、残部Fe及び不純物の成分組成でなり、厚さが0.1mm以下のステンレス薄鋼板の素材に、窒素雰囲気中で1000℃を超える温度に1~10分加熱した後、冷却する熱処理を行うことにより、円相当径が0.5μm以上の炭化物の個数密度を0~50個/1000μm2に制御したマルテンサイト系ステンレス鋼材(マルテンサイト系ステンレス鋼薄板)の製造方法が提案されている。この方法によって製造されるマルテンサイト系ステンレス鋼材は、焼入れ焼戻ししたときに、その表面から板厚の中心に至るまでの全体で高硬度を得ることができるとともに、耐食性も良好であると記載されている。
さらに、特許文献5には、質量%で、C:0.45~0.60%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~1.00%、P:0.05%以下、S:0.020%以下、Cr:13.0%以上16.0%未満、Ni:0.10~1.00%及びN:0.010~0.200%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、1200~1350℃で30分以上保持する第1の工程と、鋼スラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、熱延鋼板を巻取る第2の工程と、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施し、熱延焼鈍鋼板とする第3の工程とを備え、第2の工程の熱間圧延における圧延パスのうち、終了温度:1050℃以上で、かつ、圧下率:20%以上の圧延パスが3回以上であり、また、熱延鋼板の巻取り温度が600℃以上であり、第3の工程の熱延板焼鈍における保持温度が750~900℃、保持時間が10分以上である、マルテンサイト系ステンレス鋼材(ステンレス鋼板)の製造方法が提案されている。この方法によって製造されるマルテンサイト系ステンレス鋼材は、高い硬度を有し、かつ、良好な表面品質を有すると記載されている。
特開2000-273587号公報 特開2018-9231号公報 特開2003-313612号公報 国際公開第2019/146743号 国際公開第2021/220754号
しかしながら、特許文献2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材は、介在物(特に、炭化物)の平均粒径が制御されていないため、加工性が十分でなかったり、不規則模様が発生したりすることがある。
特許文献3に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材は、高密度転位導入法や超急冷凝固法のような特別な工程を導入しているため、大量生産には向いていない。また、このマルテンサイト系ステンレス鋼材は、Moの含有量が多く、コスト高でもある。
特許文献4に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材は、高窒素化及び粗大炭化物の溶解のために窒素雰囲気中で熱処理を行う窒素吸収処理を導入していることから、コスト高である。また、このマルテンサイト系ステンレス鋼材は、厚さが0.1mm以下の薄板に限定されているため、包丁などの刃物用途で用いることも難しい。
特許文献5に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材は、1200~1350℃の高温で鋼スラブを加熱することによって粗大な炭化物を溶解しているが、この加熱だけでは粗大な炭化物の原因となるCの偏析までは抑制できない。そのため、粗大炭化物の再析出、Cの偏析に起因する残留オーステナイトの生成や軟質化が生じ、硬度の低下や、不規則模様の発生につながる。また、過度に高温でスラブを加熱することは、自重によるスラブの変形が生じる可能性も高い。
このようにCの含有量が多い従来のマルテンサイト系ステンレス鋼材では、上記のような問題が生じていた。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、加工性が良好であるとともに、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に硬度及び耐食性が高く、不規則模様の発生を抑制可能なマルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、マルテンサイト系ステンレス鋼材について鋭意研究を行った結果、炭化物の大きさ及び数、並びに焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が、耐食性、加工性及び不規則模様と密接に関係しているという知見を得た。そして、本発明者らは、鋼組成に加えて、大きさ10μm以上の炭化物の数及び炭化物の平均粒径、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を制御することで、上記の問題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
炭化物の平均粒径が0.50μm以下であり、
大きさ10μm以上の前記炭化物が、0.10個/cm2以下であり、
焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が15.0体積%以下である、マルテンサイト系ステンレス鋼材である。
また、本発明は、質量基準で、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するスラブに対し、1000℃以上1200℃未満の温度で1~10時間の熱処理を行った後に、30~70%の圧延率で粗圧延してブレークダウン材を得るブレークダウン圧延工程と、
前記ブレークダウン材を1000℃以上1200℃未満の温度で1~5時間の熱処理を行った後に熱間圧延する熱間圧延工程と
を含む、マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
本発明によれば、加工性が良好であるとともに、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に硬度及び耐食性が高く、不規則模様の発生を抑制可能なマルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。
実施例及び比較例における2.5C+Nと硬度との関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において、「鋼材」とは、鋼板などの各種材形の材料のことを意味する。また、「鋼板」とは、鋼帯を含む概念である。さらに、「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。不純物としては、Zn、Pb、Se、Sb、H、Ga、Ta、Mg、Zrなどが挙げられる。これらの元素が不純物として含まれる場合、Zn≦100ppm、Pb≦100ppm、Se≦100ppm、Sb≦500ppm、H≦100ppm、Ga≦500ppm、Ta≦500ppm、Mg≦120ppm、Zr≦120ppmである。
また、本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、V:0.50%以下、Nb:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Cu:4.0%以下、Sn:0.10%以下、B:0.005%以下、Co:0.30%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
<C:0.305~0.600%>
Cは、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に所定の硬度(ビッカース硬さ)を得るために必須な元素である。硬度500HV以上を安定して得るためには、Cの含有量を0.305%以上とする必要がある。Cを過度に添加すると、焼入れ時の鋭敏化が促進されて耐食性を損なうとともに、未固溶炭窒化物により焼入れ又は焼入れ焼き戻し後の靭性も低下するため、Cの含有量を0.600%以下とする必要がある。焼入れ又は焼入れ焼戻し時の加熱条件の変動による硬度や靭性の低下を考慮すると、Cの含有量は、下限値が好ましくは0.320%であり、上限値が好ましくは0.580%である。
<Si:0.05~1.00%>
Siは、溶解精錬時における脱酸のために必要であるほか、焼入れ時の酸化スケール生成を抑制するのにも有用な元素である。また、Siの含有量が低いと脱酸不十分となりやすく、炭化物が多くなり、そこが起点となって発錆する場合があり、耐食性が低下する。そのため、Siの含有量を0.05%以上とする必要がある。一方、Siはオーステナイト単相温度域を狭くし、焼入れ安定性を損なうため、Siの含有量を1.00%以下とする必要がある。Siによる上記の効果を安定して得る観点から、Siの含有量は、下限値が好ましくは0.07%であり、上限値が好ましくは0.98%である。
<Mn:0.05~2.50%>
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるとともに、オーステナイト単相域を拡大し焼入れ性の向上に寄与する。Mnが十分に添加されないと、二相領域が拡大し、α相が増える。その結果、Cr炭窒化物も増え、その周りにCr欠乏層ができるため、発錆の起点となり易く、耐食性が低下する。そのため、Mnの含有量を0.05%以上とする必要がある。Mnによる上記の効果を安定して得る観点から、Mnの含有量の下限値は、好ましくは0.10%以上である。一方、必要以上のMnは耐食性を低下させ、焼入れ時の酸化スケールの生成を促進し、その後の研磨負荷などを増加させることに加えて、残留オーステナイト量が増大する可能性がある。そのため、Mnの含有量を2.50%以下とする必要がある。MnSなどの粒化物に起因する耐食性の低下も考慮すると、1.50%以下が好ましい。
<P:0.0085~0.0400%>
Pは原料である溶銑やフェロクロムなどの主原料中に不純物として含まれる元素である。また、Pは、熱延焼鈍板や焼入れ後の材料の靭性及び耐食性に対して有害な元素である。そのため、Pの含有量を0.0400%以下、好ましくは0.0380%以下とする必要がある。一方、Pの過度な低減は高純度原料の使用を必須にするなどの問題が生じ、コストの増加に繋がるため、Pの含有量の下限値は0.0085%である。
<S:0.030%以下>
Sは、硫化物系介在物を形成し、鋼材の一般的な耐食性(全面腐食や孔食)を劣化させる。また、Sは、熱間加工性を低下させ、熱延鋼板の耳割れ感受性を高める。そのため、Sの含有量は、0.030%以下、好ましくは0.025%以下とする必要がある。なお、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、Sの含有量が少ないほど耐食性は良好となる一方で、脱硫負荷が増大し、製造コストが増大する。そのため、Sの含有量の下限値は0.001%が好ましい。
<Cr:13.0~18.0%>
Crは、マルテンサイト系ステンレス鋼材の主用途において必要とされる耐食性を保持するための元素である。そのため、Crの含有量を13.0%以上とする必要がある。一方、Crは炭化物を形成し易く、多量のCrの添加は粗大炭化物の生成の原因となる他、焼入れ又は焼入れ焼き戻し後に残留オーステナイト量が多くなってしまう。そのため、これらを抑制する観点から、Crの含有量を18.0%以下とする必要がある。Crによる上記の効果を安定して得る観点から、Crの含有量は、下限値が好ましくは13.1%であり、上限値が好ましくは17.8%である。
<Ni:0.01~1.00%>
Niは、Mnと同様にオーステナイト安定化元素であり、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の靭性を向上させる効果も有する。一方、Niを多量に含有させると、熱延焼鈍鋼板において固溶強化によるプレス成形性の低下を招くおそれがあるとともに、焼入れ又は焼入れ焼き戻し後に残留オーステナイト量が多くなる可能性がある他、高価な元素であるため製造コストが増大する。そのため、Niの含有量を1.00%以下とする必要がある。一方、Niは孔食の進展抑制に有効な元素であるため、Niの含有量を0.01%以上とする必要がある。Niによる上記の効果を安定して得る観点から、Niの含有量は、下限値が好ましくは0.02%であり、上限値が好ましくは0.80%、より好ましくは0.30%である。
<Mo:0.01~1.00%>
Moは、δフェライトを含むマルテンサイト組織の耐食性向上に有効な元素である。この効果を得る観点から、Moの含有量を0.01%以上とする必要がある。一方、Moはフェライト相の安定化元素であり、過度の添加は、オーステナイト単相温度域を狭くすることで焼入れ特性が損なわれる。そのため、Moの含有量を1.00%以下とする必要がある。Moによる上記の効果を安定して得る観点から、Moの含有量は、下限値が好ましくは0.02%であり、上限値が好ましくは0.50%、より好ましくは0.30%である。
<Al:0.100%以下>
Alは、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を向上させる元素である。しかし、Alが多量に含まれると炭化物が大きくなり易い。また、Alは、フェライト安定化元素であるため、オーステナイト変態を妨げAc1線を高くする。そのため、Alの含有量は、0.100%以下、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.030%以下とする必要がある。一方、Alの含有量の下限は、特に限定されず、Alを含有していなくてもよい。ただし、Alによる上記効果を得る観点から、Alの下限値は0.001%が好ましい。ここで、AlはT.Alである。
<N:0.010~0.350%>
Nは、Cと同様に、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に所定の硬度(ビッカース硬さ)を得るために必須な元素である。特に、本発明の実施形態では、Cの含有量を低減しているため、その代わりとしてNを含有させる必要がある。また、Nは、固溶していると耐食性を向上させる効果もある。これらの効果を得る観点から、Nの含有量は0.010%以上とする必要がある。しかし、Nは、Cr系窒化物を形成してCr欠乏層を生じる場合があり、その場合は耐食性を低下させる。また、Nを過剰に添加すると、製鋼段階での制御が難しく、気泡系欠陥が形成され易くなる。気泡系欠陥が形成されると、そこが発錆の起点となり易くなって耐食性を低下させるだけでなく、歩留まりの低下をもたらすことが危惧される。そのため、Nの含有量は、0.350%以下とする必要がある。Nによる上記の効果を安定して得る観点から、Nの含有量は、下限値が好ましくは0.020%、より好ましくは0.025%、更に好ましくは0.036%であり、上限値が好ましくは0.300%、より好ましくは0.290%である。
<Ca:0.0001~0.0050%>
Caは製鋼段階で成分調整のために添加される。特にCaは、強力な脱酸材として作用し、脱酸を促進させる効果を持つ。しかし、Caは強力な脱酸元素であるため、ほとんどが介在物として溶鋼中で浮上し、鋼中にはほとんど残らない。しかしながら、Caを多量に添加すると、製鋼介在物にCaOが含まれ、これが発錆の起点となる可能性が高く、耐食性を低下させる。そのため、Caの含有量は、0.0050%以下とする必要があり、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0010%以下である。一方、微細な介在物までを除去することは不可能であることから、Caの含有量を0.0001%未満とするのは、製造工程上困難である。そのため、Caの含有量は、0.0001%以上とする。
<O:0.001~0.010%>
介在物を低減するためには、Al、CaとともにOが重要な元素となる。Oを多量に添加すると、鋼中に残存する大きな介在物(特に、炭化物)の個数が増え、耐食性に悪影響を与える。そのため、Oの含有量は、0.010%以下とする必要がある。また、Oは、できるだけ低減するのが好ましいが、過度の低減はコスト上昇となるため、Oの含有量は、0.001%以上とする。コストと耐食性とのバランスの観点から、Oの含有量は、下限値が好ましくは0.002%であり、上限値が好ましくは0.009%である。
<2.5C+N:1.10%以上>
C及びNは、上記のように、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に所定の硬度(ビッカース硬さ)を得るために必須な元素である。発明の実施形態では、Cの含有量を低減する代わりとしてNを含有させており、Cは、当該硬度にNの2.5倍寄与する。そのため、所定の硬さを得る観点から、2.5C+Nは、1.10%以上、好ましくは1.25%以上とする必要がある。なお、2.5C+Nの上限値は、特に限定されないが、好ましくは1.80%、より好ましくは1.70%、更に好ましくは1.60%である。
<V:0.50%以下>
Vは、微細な炭窒化物を形成し、耐食性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Vを過剰に添加すると、析出物の粗大化を招くおそれがあり、その結果、焼入れ後の靭性が低下してしまう。したがって、Vの含有量は、0.50%以下、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.20%以下である。なお、Vの含有量の下限値は、特に限定されないが、Vは、合金原料に不可避的不純物として混入し、精錬工程における除去が困難であることもある。また、上記の効果を得る観点からは、Vの含有量の下限値は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%、更に好ましくは0.03%である。
<Nb:0.30%以下>
Nbは、炭窒化物を形成し、クロム炭窒化物の析出による鋭敏化や耐食性の低下を抑制する元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Nbを過剰に添加すると、マルテンサイト相を不安定にし、硬さが低下する。そのため、Nbの含有量は、0.30%以下、好ましくは0.28%以下、より好ましくは0.25%以下である。なお、Nbの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%である。
<Ti:0.30%以下>
Tiは、炭窒化物を形成し、クロム炭窒化物の析出による鋭敏化や耐食性の低下を抑制する元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Tiを過剰に添加すると、粗大なTiNが形成され、熱延疵の発生や靭性の低下につながる。そのため、Tiの含有量は、0.30%以下、好ましくは0.25%以下とする。なお、Tiの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.06%、更に好ましくは0.10%である。
<Cu:4.0%以下>
Cuは、δフェライトを含むマルテンサイト組織の耐食性の向上に有効であるとともに、オーステナイト安定化元素として焼入れ性の向上にも寄与する元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Cuの過剰な添加は、熱間加工性の低下や、原料コストの増加に繋がる。そのため、Cuの含有量は、4.0%以下、好ましくは3.8%以下、より好ましくは3.5%以下とする。なお、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは1.0%、より好ましくは1.3%、更に好ましくは1.5%である。
<Sn:0.10%以下>
Snは、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の耐食性の向上に有効な元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Snの過剰な添加は、熱延時の耳割れを促進させる。そのため、Snの含有量は、0.10%以下、好ましくは0.09%以下とする。なお、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.002%、より好ましくは0.05%である。
<B:0.005%以下>
Bは、熱間加工性の向上に有効な元素であり、必要に応じて添加される。しかしながら、Bの過剰な添加は、硼化物と炭化物の複合析出により焼入れ性を低下させるおそれがある。そのため、Bの含有量は、0.005%以下、好ましくは0.0045%以下とする。なお、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.0002%である。
<Co:0.30%以下>
Coは、耐熱性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Coは高価な元素であるため、Coの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量は、0.30%以下、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.05%である。なお、Coの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.01%である。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、炭化物の平均粒径が0.50μm以下、好ましくは0.48μm以下である。このような範囲に炭化物の平均粒径を制御することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼材の加工性が向上し、不規則模様の発生も抑制される。なお、炭化物の平均粒径の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01μm、より好ましくは0.05μm、更に好ましくは0.10μmである。
ここで、平均粒径を規定する炭化物は、鋳造時に生成する共晶炭化物、圧延工程時に生成する析出炭化物の両方を対象とする。
また、炭化物の平均粒径は、マルテンサイト系ステンレス鋼材の断面をSEMにより観察し、観察視野において各炭化物の円相当直径を測定し、その平均値を求めることによって算出することができる。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、大きさ10μm以上の炭化物が、0.10個/cm2以下、好ましくは0.05個/cm2以下である。大きさ10μm以上の炭化物は発錆の起点となり易いことから、このような範囲に大きさ10μm以上の炭化物の数を制御することにより、発錆を抑制し、耐食性を向上させることができる。また、大きさ10μm以上の炭化物は不規則模様の原因にもなることから、この炭化物の数を制御することにより、不規則模様の発生を抑制することもできる。なお、大きさ10μm以上の炭化物は少ないほどよいため、特に限定されないが、一般的に0.01個/cm2以上である。
ここで、数を規定する大きさ10μm以上の炭化物は、鋳造時に生成する共晶炭化物を主な対象とする。また、炭化物の大きさは、炭化物の(長径+短径)/2のことをいう。
また、大きさ10μm以上の炭化物の数は、マルテンサイト系ステンレス鋼材の断面を光学顕微鏡観察して大きさ10μm以上の炭化物の数を求め、その数を測定領域の面積で除することによって算出することができる。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が、15.0体積%以下、好ましくは10.0体積%以下、より好ましくは5.0体積%以下である。残留オーステナイトは、焼入れ時に生成したオーステナイトがその後の処理(例えば、サブゼロ処理、焼戻し処理)でマルテンサイト変態せずに残存することで発生する。残留オーステナイトは、強力なオーステナイト安定化元素である炭素が偏析している部分において特に発生し易い。残留オーステナイトはマルテンサイトに比べて軟質であるため、多量に存在すると所望の硬度が得られない。
炭素の偏析は主に鋳造時に中心偏析として生じるため、残留オーステナイトはマルテンサイト系ステンレス鋼材の厚み方向中央部において多量に生成することが多い。このようなマルテンサイト系ステンレス鋼材の厚み方向中央部は刃物成形時に刃先となるため、刃先に軟質な残留オーステナイトが存在することで刃欠けが生じたり、刃物の切れ味が劣化する可能性がある。
残留オーステナイト量は、次のようにして求めることができる。まず、マルテンサイト系ステンレス鋼材の断面をEBSD観察し、BCC及びFCCの結晶構造の相を区別し、それぞれの面積を求める。次に、これらの面積に基づいて、BCC及びFCCの結晶構造の相の面積の合計に対するFCCの結晶構造の相の面積の割合(すなわち、FCCの結晶構造の相の面積率)を算出する。このようにして算出されたFCCの結晶構造の相の面積率を残留オーステナイト量(体積%)とみなす。
なお、上述した炭素の中心偏析部では、粗大な炭化物が列状に生成し易く、それが不規則模様(筋状模様や島状模様)の原因となるため、中心偏析を低減することはそれら不規則模様の低減にも有効である。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の硬度(ビッカース硬さ)が500HV以上である。特に、マルテンサイト系ステンレス鋼材を刃物用として用いる場合には、硬度が550HV以上であることが好ましい。なお、硬度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは900HV、より好ましくは800HVである。
ここで、焼入れは、1000~1150℃で行われる。焼戻しは、100~400℃で行われる。焼入れ後には、-200~-50℃でサブゼロ処理を行うのが望ましい。
なお、硬度は、ビッカース硬度計を用い、室温(25℃)で測定された値を意味する。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、特に限定されないが、好ましくは熱延板、熱延焼鈍板、冷延板又は冷延焼鈍板である。
本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、上記したマルテンサイト系ステンレス鋼材と同じ組成を有するスラブを用い、ブレークダウン圧延工程及び熱間圧延工程を含む方法によって製造することができる。
ブレークダウン圧延工程は、スラブに対し、1000℃以上1200℃未満の温度で1~10時間の熱処理を行った後に、30~70%の圧延率で粗圧延してブレークダウン材を得る工程である。
このような条件でブレークダウン圧延工程を実施することにより、次のような効果を得ることができる。まず、スラブの高温熱処理(保持)中に、鋳造時に生成した共晶炭化物を溶体化することができる。また、粗圧延によってマクロ偏析の幅が小さくなるとともに、転位の導入によって炭素の拡散が促進されるため、鋳造時に生じた炭素の偏析が解消される。さらに、炭素の偏析によるMs点の低下に起因する残留オーステナイトの生成を抑制することもできる。その結果、炭化物の平均粒径、大きさ10μm以上の炭化物の数、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を上記の範囲に制御することが可能となる。これらの効果は、次の熱間圧延工程、及び必要に応じて行われるソーキング処理工程と組み合わせることで効果的に得られる。
ブレークダウン圧延工程の熱処理時間が1時間未満又は熱処理温度が1000℃未満であると、共晶炭化物の溶体化及び炭素の偏析低減の効果が十分に得られない。また、ブレークダウン圧延工程の熱処理時間が10時間超過又は熱処理温度が1200℃以上であると、スラブの自重によって垂れ変形が生じてしまい、その後の工程を実施することが難しくなる。
また、ブレークダウン圧延工程の圧延率が30%未満であると、転位の導入が不足し、マクロ偏析の幅も小さくなり難いため、共晶炭化物の溶体化及び炭素の偏析低減の効果が十分に得られない。また、ブレークダウン圧延工程の圧延率が70%超過であると、その後の熱間圧延の圧延率が不足してしまう。
熱間圧延工程は、ブレークダウン材を1000℃以上1200℃未満の温度で1~5時間の熱処理を行った後に熱間圧延する工程である。
このような条件で熱処理を行うことにより、鋳造時に生成した共晶炭化物を完全に溶体化させることができるため、炭化物の平均粒径、大きさ10μm以上の炭化物の数、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を上記の範囲に制御することが可能となる。
熱間圧延の条件は、特に限定されないが、板厚2~8mmに仕上げることが好ましい。
熱間圧延工程の熱処理時間が1時間未満又は熱処理温度が1000℃未満であると、共晶炭化物の溶体化及び炭素の偏析低減の効果が十分に得られない。また、熱間圧延工程の熱処理時間が5時間超過又は熱処理温度が1200℃以上であると、ブレークダウン材の自重によって垂れ変形が生じてしまい、その後の工程を実施することが難しくなる。熱間圧延工程の熱処理時間は、上記の効果を安定して確保する観点から、1.5~3時間であることが好ましい。
ブレークダウン圧延工程と熱間圧延工程との間には、必要に応じてソーキング処理工程を行ってもよい。
ソーキング処理工程は、ブレークダウン材を1000℃以上1200℃未満の温度で1~24時間保持する工程である。
このような条件でソーキング処理工程を行うことにより、共晶炭化物の溶体化や炭素の偏析の低減効果を高めることができる。
ソーキング処理工程の熱処理時間が1時間未満又は熱処理温度が1000℃未満であると、共晶炭化物の溶体化及び炭素の偏析低減の効果が十分に得られない。また、ソーキング処理工程の熱処理時間が24時間超過又は熱処理温度が1200℃以上であると、ブレークダウン材の自重によって垂れ変形が生じてしまい、その後の工程を実施することが難しくなる。ソーキング処理工程の熱処理時間は、上記の効果を安定して確保する観点から、3~20時間であることが好ましく、3~15時間であることがより好ましい。
熱間圧延工程後には、必要に応じて軟質化工程を行ってもよい。
軟質化工程は、熱間圧延工程で得られた熱延板を800℃~900℃の巻取温度で巻き取った後、Ac1点~(Ac1点-50℃)の温度で1~5時間の加熱(焼鈍)を行う工程である。
この軟質化工程を行うことにより、熱延焼鈍板を得ることができる。また、このような条件で加熱を行うことにより、炭化物の粗大化が抑制されるため、炭化物の平均粒径及び大きさ10μm以上の炭化物の数を上記の範囲に安定して制御することが可能となる。加熱は、加熱された状態のコイル状の熱延板をAc1点~(Ac1点-50℃)の温度で保持して行われる。したがって、加熱は、コイル状の熱延板を一旦冷却した後に、当該温度に再加熱して行うわけではないことに留意すべきである。また、加熱は、バッチ焼鈍炉において行われる。
ここで、Ac1点は、以下の式(1)によって算出される。
Ac1=-250C+73Si-66Mn-115Ni+35Cr+60Mo-18Cu+620Ti+750Al-280N+410 ・・・ (1)
式中、各元素記号は、各元素の質量%である。
なお、軟質化工程で得られた熱延焼鈍板は、必要に応じて酸洗してもよい。
軟質化工程後には、必要に応じて冷間圧延工程及び焼鈍工程を行ってもよい。
冷間圧延工程は、軟質化工程で得られた熱延焼鈍板を冷間圧延する工程である。
冷間圧延工程を行うことにより、冷延板を得ることができる。
冷間圧延の条件としては、特に限定されず、要求される冷延鋼板に応じて適宜調整すればよい。
焼鈍工程は、冷間圧延工程で得られた冷延板を、100℃からAc1点~(Ac1点-50℃)までの温度を50℃/秒以上の昇温速度で加熱する工程である。昇温速度は、好ましくは100℃/秒以上である。
この焼鈍工程を行うことにより、冷延焼鈍板を得ることができる。なお、冷延板の焼鈍は25~100℃の温度から開始される。また、Ac1点~(Ac1点-50℃)の温度は焼鈍工程の焼鈍温度であり、昇温速度は、焼鈍温度から100を引いた値(焼鈍温度-100[℃])を、100℃から焼鈍温度に到達するまでの時間[s]で除することによって求めることができる。
上記のような条件で焼鈍工程を行うことにより、炭化物の粗大化が抑制されるため、炭化物の平均粒径及び大きさ10μm以上の炭化物の数を上記の範囲に安定して制御することが可能となる。
上記のようにして製造される本発明の実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼材は、鋼組成に加えて、大きさ10μm以上の炭化物の数及び炭化物の平均粒径、焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を制御しているため、加工性が良好であるとともに、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に硬度及び耐食性が高く、不規則模様の発生を抑制可能である。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
表1に示す鋼組成の鋼を溶製して200mm厚のスラブに鋳造した。このスラブを表2及び3に示す条件にて、ブレークダウン圧延工程、ソーキング処理工程、及び熱間圧延工程を順次行った。熱間圧延工程では、最終的に3mmの厚みの熱延鋼板とし、850℃の巻取温度でコイル状に巻き取った。次に、このコイル状の熱延鋼板をバッチ焼鈍炉に移し、表2及び3に示す条件で軟質化工程を行った。次に、軟質化工程で得られた熱延焼鈍板を冷間圧延した後、冷延板を表2及び3に示す条件で加熱して焼鈍工程を行い、酸洗を行った。得られた冷延焼鈍板(マルテンサイト系ステンレス鋼材)について、次の評価を行った。
(硬度)
得られた冷延焼鈍板について、1000~1150℃に加熱して焼入れし、-70℃でサブゼロ処理、200℃で焼戻しを行った後、表面を#80で表面研磨し、JIS表面硬度(焼入れ硬度)をビッカース硬度計で測定した。測定温度は、室温(25℃)とした。硬度は、500HV以上を合格とした。
(耐食性)
得られた冷延焼鈍板について、1000~1150℃に加熱して焼入れし、-70℃でサブゼロ処理、200℃で焼戻しを行った後、表面を#600で表面研磨し、JIS Z2371:2015「塩水噴霧試験」を行った。この評価において、錆面積率が10%未満を合格(〇)とし、10%以上を不合格(×)とした。また、錆面積率が10%未満の物の中で錆面積率が0%であったものを特に優れている(◎)とした。
(炭化物の平均粒径)
得られた冷延焼鈍板の圧延方向及び板厚方向に平行な断面をSEMにより観察し、観察視野内に観測される炭化物のうち、円相当直径が0.10μmに満たない炭化物粒子及び観察視野から粒子の一部がはみ出している炭化物粒子を除く、全ての炭化物粒子を測定対象として円相当直径(μm)を測定し、測定対象の炭化物粒子の円相当直径の総和を測定対象の炭化物粒子の総個数で除した値を炭化物の平均粒径(μm)とした。ただし、無作為に選択した重複しない複数の観察視野により、測定対象の炭化物粒子の総個数を100個以上とした。炭化物粒子の円相当直径は、SEM画像を画像処理ソフトウエアにより画像処理して求めた炭化物粒子の面積から算出した。
(大きさ10μm以上の炭化物の個数)
得られた冷延焼鈍板の圧延方向及び板厚方向に平行な断面について、50倍の光学顕微鏡を用いて50mm×50mmの領域を20か所ずつ目視観察して平均個数を求め、観察領域の面積で除することによって算出した。
(残留オーステナイト量)
得られた冷延焼鈍板について、1000~1150℃に加熱して焼入れし、-70℃でサブゼロ処理、200℃で焼戻しを行った。このようにして得られた焼戻しサンプルの圧延方向及び板厚方向に平行な断面について、EBSDを用いて測定した後、BCC及びFCCの結晶構造の相を区別し、それぞれの面積を求めた。次に、これらの面積に基づいて、BCC及びFCCの結晶構造の相の面積の合計に対するFCCの結晶構造の相の面積の割合(すなわち、FCCの結晶構造の相の面積率(%))を算出し、算出されたFCCの結晶構造の相の面積率を残留オーステナイト量(体積%)とみなした。
上記の各評価結果を表4に示す。
表4に示されるように、実施例1~25の冷延焼鈍板(マルテンサイト系ステンレス鋼材)は、炭化物の平均粒径を0.50μm以下、大きさ10μm以上の炭化物の個数を0.10個/cm2以下、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を15.0体積%以下に制御することができた。また、実施例1~25の冷延焼鈍板は、焼入れ焼戻し後の硬度及び耐食性が良好であるとともに、炭化物の平均粒径が小さいため、加工性が良好であり、不規則模様の発生も抑制できると考えられる。また、実施例22~25は、ソーキング処理工程を実施した例であるが、ソーキング処理において加熱温度を1000℃以上1200℃未満、加熱時間を1~24時間に制御することにより、耐食性が向上した。
これに対して比較例1~20の冷延焼鈍板は、鋼組成、炭化物の平均粒径、大きさ10μm以上の炭化物の個数、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量のいずれかが所定の範囲外であった。そのため、比較例1~20の冷延焼鈍板は、所望の特性が得られなかった。
ここで、一部の実施例及び比較例における2.5C+Nと硬度との関係を示すグラフを図1に示す。図1に示されるように、2.5C+Nと硬度とには比例関係があり、2.5C+Nが増大することにより、硬度も増加する傾向にあることが分かった。特に、2.5C+Nを1.10%以上に制御することにより、硬度を500HV以上とすることが可能であることが分かった。
次に、得られた冷延焼鈍板を用い、次のようにして刃物を作製した。
まず、得られた冷延焼鈍板を刃物形状に打ち抜き、1000~1150℃に加熱して焼入れし、-70℃でサブゼロ処理、200℃で焼戻しを行った後、表面を研磨し、次いで刃先となる部分を粗研磨及び仕上げ研磨して刃先を形成することによって刃物を得た。このようにして得られた刃物について以下の評価を行った。
(刃物の切れ味)
本多式切れ味試験機を用いて刃物の切れ味を評価した。
切れ味試験は、刃物を固定し、7.5mm幅の新聞紙相当の紙(厚さ約70μm)を重ねて約750gの荷重をかけながら、20mmの往復運動を行った。1往復を1サイクルとして100サイクル実施し、完全に切断された紙の枚数を数えた。切れ味は、切断された紙の枚数が50枚以上の場合に良好であると評価することができる。
(刃物の表面模様)
得られた刃物について、肉眼にて刃物表面の不規則模様を観察し評価した。この評価において、不規則模様が一切観察されなかったものを優れている(◎)、ごく軽微なものを合格(〇)、観察されたものを不合格(×)とした。
上記の評価結果を表5に示す。
表5に示されているように、実施例1~25、比較例11及び12の冷延焼鈍板(マルテンサイト系ステンレス鋼材)から作製された刃物は、切れ味が良好であるとともに、不規則模様の発生も抑制できた。特に、実施例22~25は、ソーキング処理工程を実施した例であるが、ソーキング処理において加熱温度を1000℃以上1200℃未満、加熱時間を1~24時間に制御することにより、切れ味が向上し、不規則模様の発生を抑制する効果も高かった。
これに対して比較例1~10及び13~20の冷延焼鈍板から作製された刃物は、切れ味が十分でなかった。また、比較例1、3~7、9、10、13~20は不規則模様の発生も抑制することができなかった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、加工性が良好であるとともに、焼入れ又は焼入れ焼戻し後に硬度及び耐食性が高く、不規則模様の発生を抑制可能なマルテンサイト系ステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。特に、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼材から刃物を形成する場合、不規則模様の発生を効果的に抑制することができるとともに、刃物の切れ味を向上させることができる。

Claims (9)

  1. 質量基準で、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
    炭化物の平均粒径が0.50μm以下であり、
    大きさ10μm以上の前記炭化物が、0.10個/cm2以下であり、
    焼入れ又は焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が15.0体積%以下である、マルテンサイト系ステンレス鋼材。
  2. 質量基準で、V:0.50%以下、Nb:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Cu:4.0%以下、Sn:0.10%以下、B:0.005%以下、Co:0.30%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材。
  3. 焼入れ又は焼入れ焼戻し後の硬度が500HV以上である、請求項1又は2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材。
  4. 前記マルテンサイト系ステンレス鋼材が刃物用である、請求項1又は2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材。
  5. 質量基準で、C:0.305~0.600%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~2.50%、P:0.0085~0.0400%、S:0.030%以下、Cr:13.0~18.0%、Ni:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、Al:0.100%以下、N:0.010~0.350%、Ca:0.0001~0.0050%、O:0.001~0.010%を含み、2.5C+Nが1.10%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するスラブに対し、1000℃以上1200℃未満の温度で1~10時間の熱処理を行った後に、30~70%の圧延率で粗圧延してブレークダウン材を得るブレークダウン圧延工程と、
    前記ブレークダウン材を1000℃以上1200℃未満の温度で1~5時間の熱処理を行った後に熱間圧延する熱間圧延工程と
    を含む、マルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  6. 前記ブレークダウン圧延工程と前記熱間圧延工程との間に、前記ブレークダウン材を1000℃以上1200℃未満の温度で1~24時間保持するソーキング処理工程を更に含む、請求項5に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  7. 前記スラブは、質量基準で、V:0.50%以下、Nb:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Cu:4.0%以下、Sn:0.10%以下、B:0.005%以下、Co:0.30%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項5又は6に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  8. 前記熱間圧延工程で得られた熱延板を800℃~900℃の巻取温度で巻き取った後、Ac1点~(Ac1点-50℃)の温度で1~5時間の加熱を行う軟質化工程を更に含む、請求項5又は6に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  9. 前記軟質化工程で得られた熱延焼鈍板を冷間圧延する冷間圧延工程と、
    前記冷間圧延工程で得られた冷延板を、100℃からAc1点~(Ac1点-50℃)までの温度を50℃/秒以上の昇温速度で加熱する焼鈍工程と
    を更に含む、請求項8に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼材の製造方法。
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