JP2022064692A - オーステナイト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】結晶粒微細化と、Ni含有量の低減とを両立したオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。【解決手段】オーステナイト系ステンレス鋼であって、質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有し、Nの含有量が、質量%で、Nmid±0.017の範囲内であり、Md30の値が20以上70以下であり、δcalの値が8.0以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法に関する。
耐食性に加え、強度および延性が要求される用途に用いられるオーステナイト系ステンレス鋼として、SUS301に代表される準安定オーステナイト系ステンレス鋼が知られている。このようなオーステナイト系ステンレス鋼は、例えば自動車におけるエンジンのシリンダヘッドガスケットのようなばね製品または車載電池フレーム材のような構造部材の素材として用いられる。
ばね製品の素材として好適な、強度および延性に優れたステンレス鋼として、特許文献1では、結晶粒が10μm以下に微細化されたステンレス鋼が開示されている。また特許文献2では、微細なオーステナイト再結晶部と、オーステナイト相およびマルテンサイト相の未再結晶組織との混合組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼板が開示されている。
一方、このようなオーステナイト系ステンレス鋼は、高価なNiを含むことから価格が高い。そのため、省Ni型の安価なオーステナイト系ステンレス鋼が求められている。例えば、特許文献3には、Niの含有量を下げ、コストと高強度とを両立したオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。
特開平4-214841号公報 特開2002-194506号公報 特開2018-3099号公報
しかしながら、結晶粒微細化と、Ni含有量の低減とを両立させたオーステナイト系ステンレス鋼は、これまで開発されていない。これは、オーステナイト系ステンレス鋼におけるNi含有量が低い場合、耐食性を保ちながら結晶粒微細化を行うことは、技術的に困難であったことが一因である。
本発明の一態様は、結晶粒微細化と、Ni含有量の低減とを両立可能な成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有し、Nの含有量が、質量%で、下記(1)式で示す値の範囲内であって、下記(1)式中のNmidの値は、下記(2)式により算出され、下記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、下記(4)式で示すδcalの値が8.0以下である:
Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (1)
Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (2)
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29Ni-15Cu-13.7Cr-18.5Mo (3)
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8N (4)
上記(2)~(4)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、平均結晶粒径が10μm以下であってもよい。
本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、Mo:1.0%以下、V:0.5%以下、B:0.0001%以上0.01%以下、Co:0.8%以下、Sn:0.1%以下、Al:0.3%以下、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下およびTi:0.03%以下から選択される1種以上をさらに含有してもよい。
本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、Si:0.2%以上0.8%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、Ni:4.0%以上5.5%以下、Cr:16.5%以上18.0%以下およびCu:2.0%以上3.5%以下を含有してもよい。
本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、突合せ伸びELと、0.2%耐力YSとの関係が、下記(5)式の関係を満たしてもよい。
YS≧0.17×EL-25.5×EL+1350 (5)
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有し、Nの含有量が、質量%で、下記(1)式で示す値の範囲内であって、下記(1)式中のNmidの値は、下記(2)式により算出され、下記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、下記(4)式で示すδcalの値が8.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、750℃以上980℃以下の温度により仕上焼鈍を行う工程を含む:
Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (1)
Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (2)
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29Ni-15Cu-13.7Cr-18.5Mo (3)
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8N (4)
上記(2)~(4)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
本発明の一態様によれば、結晶粒微細化と、Ni含有量の低減とを両立可能な成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提供できる。
以下、本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼について詳細に説明する。以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
〔組織構成〕
本明細書において「オーステナイト系ステンレス鋼」は、オーステナイト相のみを含むステンレス鋼であってよい。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、オーステナイト相と、当該オーステナイト相の一部が加工誘起変態塑性(TRIP)現象により変態したマルテンサイト相とを含むステンレス鋼であってもよい。さらに、オーステナイト系ステンレス鋼は、オーステナイト相およびマルテンサイト相以外の相を含んでもよく、例えばδフェライト相を含んでいてもよい。
オーステナイト系ステンレス鋼がδフェライト相を含む場合、オーステナイト系ステンレス鋼に対するδフェライト相の割合は、スラブの時点で平均15体積%以下、最終製品の時点で平均5.0体積%以下であることが好ましい。このようなオーステナイト系ステンレス鋼であれば、Nが固溶しにくいδフェライト相が過剰とならないため、オーステナイト系ステンレス鋼が含有できるNの量が低下することを防止できる。
また、δフェライト相が過剰に生成すると、δフェライト相に含有できなかったNが溶鋼中に拡散する。その結果、溶鋼中にNの濃度が過剰に高い箇所が発生することにより、Nガスの気泡が発生してしまう。すなわち、δフェライト相の生成を抑制すれば、Nガスの気泡の発生を低減できる。この結果、オーステナイト系ステンレス鋼の最終製品において、Nガスの気泡が原因の欠陥発生を防止できる。なお、本明細書において「溶鋼」とは、オーステナイト系ステンレス鋼の製造過程で生じる溶鋼を意図する。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、平均結晶粒径が10μm以下であることが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼は、結晶粒が微細になるにつれて強度が向上する。また、オーステナイト系ステンレス鋼では、強度を向上させると延性が低下することが一般的である。しかしながら、結晶粒の微細化によれば、オーステナイト系ステンレス鋼において強度の向上と延性の改善とを両立できる。また、微細な結晶粒を含むオーステナイト系ステンレス鋼は、加工時の肌荒れおよび結晶粒界近傍へのひずみ集中等が低減されるため、疲労特性にも優れる。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶組織が平均結晶粒径10μm以下の微細な結晶粒を含む構成であれば、高い強度延性バランスおよび優れた疲労特性を確保できる。
平均結晶粒径は、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)法を用いて測定してよい。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼の任意の断面について、複数の視野の結晶粒径をEBSD法によりそれぞれ算出し、当該複数の視野で算出した結晶粒径の平均値を、平均結晶粒径としてよい。また、平均結晶粒径は、EBSD法以外の方法を用いて測定してもよい。EBSD法以外の方法としては、例えば、JIS G0551に示されるような、硝酸電解処理によって粒界を現出させ、切片法等によって測定する方法であってよい。
〔成分組成〕
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有する。オーステナイト系ステンレス鋼の残部は、Fe(鉄)および不可避的不純物からなるものであってよい。以下、オーステナイト系ステンレス鋼に含まれる各元素の含有量の意義について説明する。
(C)
C(炭素)は、オーステナイト相を生成しやすくするオーステナイト生成元素であり、高い固溶強化作用を有し、また強度を得るためにも有効な元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.005質量%以上0.03質量%以下のCを含むことが好ましい。Cの含有量が0.005質量%以上であれば、十分な固溶強化作用を発揮するとともに、良好な強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼が得られる。Cの過剰添加は、比較的低温での焼鈍によりCr炭化物が析出する原因となり、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性の低下を招くことから、Cの含有量は0.03質量%以下とする。
(Si)
Si(ケイ素)は、脱酸剤として有効であり、また固溶強化作用を有する元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.1質量%以上1.5質量%以下のSiを含むことが好ましく、0.2質量%以上0.8質量%以下のSiを含むことがより好ましい。Siの含有量が0.1質量%以上であれば、オーステナイト系ステンレス鋼において脱酸作用および固溶強化作用が効果的に発揮される。Siの含有量が0.2質量%以上であればより好ましい。
また、Siは、フェライト相を生成しやすくするフェライト生成元素である。δフェライト相が過剰に生成すると、オーステナイト系ステンレス鋼の製造過程で溶鋼からNガスの気泡が発生し、最終製品の欠陥原因となる。また、δフェライト相は、熱間圧延において耳切れまたは二枚割れが発生する原因にもなる。そのため、Siの含有量は1.5質量%以下とし、0.8質量%以下とすることがより好ましい。
(Mn)
Mn(マンガン)は、オーステナイト生成元素であり、またオーステナイト相を維持するために有効な元素である。また、Mnは溶鋼に対するNの溶解度を高める作用を有する元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.3質量%以上2.5質量%未満のMnを含むことが好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下のMnを含むことがより好ましい。Mnの含有量が0.3質量%以上であれば、溶鋼に対するNの溶解度を確保でき、Mnの含有量が0.5質量%以上であればより好ましい。また、Mnの過剰添加はオーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性の低下を招いてしまう。このため、Mnの含有量は2.5質量%未満とし、また2.0質量%以下とすることがより好ましい。
(P)
P(リン)は、不可避的不純物として混入する元素であり、Pの含有量は少ないほど好ましい。製造性の観点から、オーステナイト系ステンレス鋼は、0.04質量%以下のPを含んでよい。Pの含有量が0.04質量%以下であれば、オーステナイト系ステンレス鋼において、延性等の材料特性への悪影響を低減できる。
(S)
S(硫黄)は、不可避的不純物として混入する元素であり、Sの含有量は少ないほど好ましい。製造性の観点から、オーステナイト系ステンレス鋼は、0.015質量%以下のSを含んでよい。Sの含有量が0.015質量%以下であれば、オーステナイト系ステンレス鋼において、延性等の材料特性への悪影響を低減できる。
(Ni)
Ni(ニッケル)は、オーステナイト生成元素であり、またオーステナイト相を維持するために有効な元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、3.5質量%以上6.0質量%以下のNiを含むことが好ましく、4.0質量%以上5.5質量%以下のNiを含むことがより好ましい。Niの含有量が3.5質量%以上であれば、オーステナイト相の生成および維持が良好となる。Niの含有量が4.0質量%以上であればより好ましい。また、Niの過剰添加は溶鋼に対するNの溶解度を低下させてしまう。さらに、Niは高価な元素であり、コスト低減の観点からも、Niの含有量は6.0質量%以下とし、また5.5質量%以下とすることがより好ましい。
(Cr)
Cr(クロム)は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を確保するために有効であり、かつ、溶鋼に対するNの溶解度を高める作用を有する元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、16.0質量%以上18.5質量%以下のCrを含むことが好ましく、16.5質量%以上18.0質量%以下のCrを含むことがより好ましい。Crの含有量が16.0質量%以上であれば、オーステナイト系ステンレス鋼におけるNの溶解度および耐食性を確保できる。Crの含有量が16.5質量%以上であればより好ましい。
一方で、CrはSiと同様にフェライト生成元素でもあるため、Crを過剰添加すると、δフェライト相が過剰に生成してしまう。そのため、Crの含有量は18.5質量%以下とし、また18.0質量%以下とすることがより好ましい。
(Cu)
Cu(銅)は、オーステナイト生成元素であり、またオーステナイト相を維持するために有効な元素である。また、Cuは結晶粒微細化にも効果的に作用する元素である。これは、仕上焼鈍工程での昇温時にεCuの析出が生じると、当該εCuが結晶粒成長の阻害効果を示すためと考えられる。オーステナイト系ステンレス鋼は、1.5質量%以上3.8質量%以下のCuを含むことが好ましく、2.0質量%以上3.5質量%以下のCuを含むことがより好ましい。Cuの含有量が1.5質量%以上であれば、オーステナイト相の生成および維持が良好になり、また微細な結晶粒を有する組織が得られる。Cuの含有量が2.0質量%以上であればより好ましい。
一方で、Cuは、溶鋼に対するNの溶解度を低下させる作用を有する元素である。また、Cuを過剰添加すると、スラブが凝固する過程において当該スラブの中心にCuMn相が生成してしまい、スラブの熱間加工性が低下する。そのため、Cuの含有量は3.8質量%以下とし、また3.5質量%以下とすることがより好ましい。
(N)
N(窒素)は、オーステナイト生成元素であり、また固溶強化作用および耐食性向上作用を有する元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.08質量%以上のNを含むことが好ましい。Nの含有量が0.08質量%以上であれば、オーステナイト系ステンレス鋼に要求される強度および耐食性の確保に有効である。また、過剰に添加されたNは溶鋼中に溶けることができず、オーステナイト系ステンレス鋼中に気泡として残ってしまうため、最終製品の欠陥原因となる。したがって、Nの含有量は、固溶できる上限値以上に添加しないことが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼におけるNの含有量の上限値および好ましい範囲については、後述する。
(その他の元素)
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、上述の元素に加えて、質量%で、Mo:1.0%以下、V:0.5%以下、B:0.0001%以上0.01%以下、Co:0.8%以下、Sn:0.1%以下、Al:0.3%以下、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下およびTi:0.03%以下から選択される1種以上をさらに含有してもよい。
(Mo、V)
Mo(モリブデン)およびV(バナジウム)は、耐食性の向上に有効な元素である。一方、MoおよびVはフェライト生成元素であり、高価な元素でもあることから、過剰な添加は好ましくない。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼は、1.0質量%以下のMoを含むことが好ましい。より好ましくは、0.1質量%以上0.3質量%以下である。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、0.5質量%以下のVを含むことが好ましい。より好ましくは0.03質量%以上0.20質量%以下である。
(B)
B(ホウ素)は、熱間加工性を改善する元素であり、熱間圧延における耳切れおよび二枚割れの発生の低減に有効な元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、0.0001質量%以上0.01質量%以下のBを含むことが好ましい。Bの含有量が0.0001質量%以上であれば、熱間加工性の改善および熱間圧延における耳切れおよび二枚割れの発生の低減に有効である。ただし、Crが含まれるオーステナイト系ステンレス鋼へのBの過剰添加は、CrBの析出による耐食性の低下を招く。したがって、Bの含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.0003質量%以上0.0025質量%以下である。
(Co)
Co(コバルト)は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を確保するために有効な元素である。ただし、Coは高価な元素であり、コスト低減の観点から、Coの含有量は0.8質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.02質量%以上0.20質量%以下である。
(Sn)
Sn(スズ)は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を確保するために有効な元素である。ただし、Snの過剰添加はオーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性の低下を招いてしまうことから、Snの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.002質量%以上0.050質量%以下である。
(Al、Ca、Mg、Ti)
Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)およびTi(チタン)は、いずれも脱酸作用を有する元素である。オーステナイト系ステンレス鋼は、脱酸剤として、0.3質量%以下のAl、0.03質量%以下のCa、0.03質量%以下のMgおよび0.03質量%以下のTiから選択される1種以上を含むことが好ましい。より好ましくは、Al:0.002質量%以上0.100質量%以下、Ca:0.0002質量%以上0.0020質量%以下、Mg:0.0002質量%以上0.0020質量%以下、Ti:0.001質量%以上0.015質量%以下である。
〔成分回帰式〕
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、Nの含有量が、質量%で、下記(1)式で示す値の範囲内であって、下記(1)式中のNmidの値は、下記(2)式により算出され、下記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、下記(4)式で示すδcalの値が8.0以下であることが好ましい。
Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (1)
Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (2)
Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29Ni-15Cu-13.7Cr-18.5Mo (3)
δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8N (4)
上記(2)~(4)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
上述のNの含有量、Md30の値およびδcalの値を満たすことにより、強度延性バランスおよび疲労特性に、より一層優れたオーステナイト系ステンレス鋼を実現できる。
(Nの含有量)
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼におけるNの含有量は、質量%で、上記(1)式で示す値の範囲内であって、上記(1)式中のNmidの値は、上記(2)式により算出されてよい。なお、上記(2)式より導き出されるNmidは、本発明者らが、CrおよびMnは溶鋼に対するNの溶解度を高めること、またNiおよびCuは当該溶解度を低めることに着目した上で、鋭意検討の結果、新たに導き出した指標である。また、N以外の成分の含有量が本発明の規定範囲内であれば、上記(1)式を満たす値の範囲は、Nの含有量の規定範囲である0.08質量%以上となる。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼において、Nmidの値は、オーステナイト系ステンレス鋼に含ませることができるNの量の上限値に関する指標である。このような上限値を超える量のNをオーステナイト系ステンレス鋼に添加した場合、添加したNの一部が溶鋼中にNガスの気泡として発生し、オーステナイト系ステンレス鋼に空隙が形成される。この結果、オーステナイト系ステンレス鋼の強度が低下する。
なお、Nガスの気泡を発生させない観点からは、Nの量の下限値を設ける必要はない。しかしながら、省Ni型のオーステナイト系ステンレス鋼は、Nの含有量が低いと高強度が得にくい。また、Nの含有量が低いとδフェライト相の割合が増加しやすく、δフェライト相の割合の増加は熱間加工性の低下を招く。したがって、工業的なばらつきも考慮し、Nの含有量は、Nmid±0.017の範囲内であれば好適であるとの知見に至った。
したがって、Nの含有量が、質量%で、上記(1)式で示す値の範囲内(Nmid-0.017以上Nmid+0.017以下)であれば、オーステナイト系ステンレス鋼は、添加したNがNガスの気泡とならない範囲で最大限にNを含有することができる。Nの含有量を最大化することで、オーステナイト生成元素の総含有量を容易に増加できるため、高価なNiの含有量を低減しつつ、オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒微細化が可能となる。したがって、安価かつ、優れた強度延性バランスおよび疲労特性を備えたオーステナイト系ステンレス鋼を、安定的に製造することができる。
(Md30の値)
オーステナイト系ステンレス鋼において、Md30の値は、オーステナイト相単相のオーステナイト系ステンレス鋼に対し30%の引張り歪みを与えた時に、オーステナイト系ステンレス鋼の組織の50%がマルテンサイト相に変態する温度(℃)を示す。このため、Md30の値は、オーステナイト相の安定度の指標として用いることができる。また、Md30の値は、オーステナイト系ステンレス鋼においてTRIP現象の生じやすさに影響する指標としても用いることができる。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼のMd30の値は、20以上70以下であることが好ましい。Md30の値は、その値が大きいほど、オーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相への変態が起こりやすく、軽度の冷延ひずみの付与で高強度が得られるとともに、優れた延性を確保できる。また、オーステナイト系ステンレス鋼に成形加工が施される場合にも、曲げ部等の加工歪みが付与された部分は、TRIP現象によりさらに高い強度を得られやすい。また、オーステナイト系ステンレス鋼の製造過程において、仕上焼鈍によって結晶粒を微細化するためには、仕上焼鈍前の圧延材における加工誘起マルテンサイト相の存在が有効に作用する。このような効果は、Md30の値が20以上の場合に顕著に現れる。また、Md30の値が70を超えると、TRIP現象が過剰に起こりやすくなり、オーステナイト系ステンレス鋼の特性が安定しにくい。
したがって、オーステナイト相の安定度の指標であるMd30の値が20以上70以下であれば、高強度でかつ良好な延性を備えるオーステナイト系ステンレス鋼を安定して製造できる。
なお、従来知られているMd30の成分回帰式では、NiおよびCuの係数に同じ値を用いることが一般的である。一方、本発明の一実施形態では、Md30の成分回帰式において、Niの係数よりもCuの係数を小さく設定している。従来の知見によるMd30の成分回帰式は、省Ni型ではないオーステナイト系ステンレス鋼での実績に基づくものが多い。これに対して、本発明のような省Ni型成分では、オーステナイト相の安定化に及ぼすCuの影響が、従来の知見に比べて明らかに小さいことが判明した。これは、本発明者らによる鋭意検討の結果得られた新規な知見であり、当該知見に基づいて、Md30の成分回帰式におけるCuの係数を設定している。これにより、Cuの含有量の調整が容易となり、オーステナイト系ステンレス鋼の製造自由度が大きくなる。
(δcalの値)
δcalは、連続鋳造後に1230℃で2時間の加熱処理を施した後の鋳片においてδフェライト相が生成する量(体積%)を示し、δフェライト相の生成しやすさを表す指標である。なお、連続鋳造後のスラブに対する加熱処理は、1230℃で2時間の条件に限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼のδcalの値は、8.0以下であることが好ましい。δcalの値が8.0以下のオーステナイト系ステンレス鋼では、オーステナイト相に比べNを含有しにくいδフェライト相の生成量が低減する。したがって、このようなオーステナイト系ステンレス鋼であれば、含有できるNの量を確保しやすい。また、δフェライト相に含有できないNが溶鋼中に拡散することで、溶鋼中にNの濃度が過剰に高くなる箇所が発生することによるNガスの気泡の発生についても、δcalの値が8.0以下であれば効果的に防止できる。また、δフェライト相は、熱間圧延において耳切れまたは二枚割れが発生する原因にもなるが、δcalの値が8.0以下であれば、熱間圧延における耳切れおよび二枚割れについても効果的に防止できる。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、上述のような成分組成を有することにより、高価なNiの含有量を抑え安価に製造できる。一般に、オーステナイト生成元素であるNiの含有量を低減する場合、他のオーステナイト生成元素であるC、N、Cuおよび/またはMnの含有量を増加することが好ましい。しかし、Cの含有量が多くなると、結晶粒微細化のため比較的低温による仕上焼鈍を行った場合に、Cr炭化物が析出しやすい。Cr炭化物の析出は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性の低下に繋がる。また、CuまたはMnの含有量が高いと、熱延工程での割れが生じやすいため、オーステナイト系ステンレス鋼の安定的な製造の観点からは好ましくない。
単純にNの含有量を増やすことは、上述の通りNガスの気泡の発生の観点から困難であった。この点、本発明の一実施形態では、オーステナイト系ステンレス鋼におけるNの含有量を上述の式(1)で示される範囲とすることにより、安定的にNの含有量を最大化することができる。したがって、省Ni型ながら結晶粒微細化が可能となるため、安価であり、強度延性バランスおよび疲労特性にも優れたオーステナイト系ステンレス鋼を安定的に製造できる。
〔引張特性〕
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、突合せ伸びEL(%)と、0.2%耐力YS(MPa)との関係が、下記(5)式の関係を満たしていることが好ましい。
YS≧0.17×EL-25.5×EL+1350 (5)
突合せ伸びELおよび0.2%耐力YSは、いずれもオーステナイト系ステンレス鋼の引張特性の指標である。具体的には、突合せ伸びELは、オーステナイト系ステンレス鋼の延性の指標である。また、0.2%耐力YSは、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の指標である。突合せ伸びELおよび0.2%耐力YSは、JIS Z2241に準拠する方法を用いて評価することができる。
また、上記式(5)は、オーステナイト系ステンレス鋼における強度延性バランスを示すものである。上記式(5)の関係を満たすオーステナイト系ステンレス鋼であれば、従来のSUS301およびSUS301Lと同等以上の強度延性バランスを有しているといえる。
〔製造方法〕
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、仕上焼鈍工程を含む。オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、仕上焼鈍工程以外の工程については、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼の製造工程を含んでよい。以下に、本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法の一例を示すが、これに限られるものではない。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法では、例えば、成分を調整した溶鋼を連続鋳造することによってスラブを製造する。そして、連続鋳造により製造したスラブを1100℃以上1300℃以下に加熱した後、熱間圧延を施して熱延鋼帯を製造する。そして、熱間圧延を施した熱延鋼帯に酸洗を行う。なお、熱延鋼帯の酸洗前に焼鈍を施してもよく、焼鈍を施さずに酸洗を行ってもよい。熱延鋼帯の酸洗前に焼鈍を施す場合、焼鈍温度は900℃以上1150℃以下の範囲の温度で行うことが好ましいが、上述の範囲に限定されない。そして、酸洗後の熱延鋼帯に、所定の板厚になるまで冷間圧延を施す。
冷間圧延工程は、冷間圧延後の鋼帯における加工誘起マルテンサイト相が全体の50%以上の割合となるような圧延率および圧延温度により行うことが好ましい。このような冷間圧延工程を行うことで、その後の仕上焼鈍工程にて鋼帯の結晶粒微細化を効果的に行うことができる。なお、オーステナイト系ステンレス鋼のMd30の値を20以上70以下に調整する場合には、一般的な条件で冷間圧延を施すことにより、仕上焼鈍工程における結晶粒微細化に有効な量の加工誘起マルテンサイト相を得ることができる。この場合でも、必要に応じて冷間圧延の圧延率を高めたり、圧延温度を低く制御したりすることは、加工誘起マルテンサイト相の生成に有効である。
(仕上焼鈍工程)
冷間圧延後の鋼帯には、仕上焼鈍が施される。オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒が効果的に微細化されるように、仕上焼鈍は750℃以上980℃以下の範囲の温度で行う。仕上焼鈍の温度が750℃未満であれば、鋼中に加工誘起マルテンサイト相が残存し、組織の再結晶が完了しない。また、仕上焼鈍の温度が980℃を超える場合、結晶粒の成長が起こりやすくなるため、安定して平均結晶粒径が10μm以下の組織を得ることが困難である。
なお、冷間圧延工程において、上述の所定の板厚が薄い場合等、必要に応じて中間焼鈍および中間圧延を行なってもよい。さらに、所定の板厚にした後、強度を高めるため、仕上焼鈍後に必要に応じて調質圧延を施してもよい。
(N添加工程)
また、本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、Nの含有量が、質量%で、下記(6)式で示す値の範囲内となるように、溶鋼にNを添加するN添加工程を含んでいてもよい。下記(6)式中のNmidの値は、下記(7)式により算出される。
Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (6)
Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (7)
上記(7)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
N添加工程は、Nの含有量の範囲を上記(6)式で示す範囲内となるように算出する。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼は、Nガスの気泡の発生を抑制しつつ、最大限にNを含有できる。したがって、安価かつ、優れた強度延性バランスおよび疲労特性を備えたオーステナイト系ステンレス鋼を製造できる。なお、N添加工程では、上記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、上記(4)式で示すδcalの値が8.0以下の関係も満たすように、溶鋼にNを添加することがより好ましい。また、N添加工程において、Nの添加方法は特に限定されない。
〔好適な用途〕
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、省Ni型でありながら、例えば、既知のばね用ステンレス鋼であるSUS301-CSP以上の強度延性バランスと疲労特性とを有する。したがって、当該オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、シリンダヘッドガスケット、ぜんまいばね、電子機器部品用ばね、車載電池フレーム材、構造材およびメタルパッキン等の、高い強度延性バランスおよび疲労特性が要求されるばね製品の素材として好適である。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明の一実施例および比較例に係るオーステナイト系ステンレス鋼について評価した結果について、以下に説明する。
〔評価の条件〕
<成分組成>
本発明の実施例1~5および比較例1~7に係るオーステナイト系ステンレス鋼の成分組成(質量%)と、これらのオーステナイト系ステンレス鋼の成分組成から算出したNmidの値、Md30の値およびδcalの値とを、下記表1に示す。なお、下記表1において下線が付されている値は、本発明の規定範囲外であることを示す。
Figure 2022064692000001
<製造方法>
本発明の各実施例および比較例に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、次に示す方法により製造した。表1に示す成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼について溶製および熱延を行い、板厚4.3mmの熱延材を得た。当該熱延材に1050℃の温度での焼鈍を施した後、冷間圧延により板厚1.3mmの冷延材を得た。当該冷延材に、780℃以上950℃以下の温度による仕上焼鈍を行って、最終的に30%の調質圧延を施すことにより、板厚0.85mmのオーステナイト系ステンレス鋼板(30%圧延材)を製造した。
実施例1~5に係る30%圧延材は、本発明の規定範囲内で成分組成をそれぞれ変更して製造したものである。比較例1~7に係る30%圧延材は、成分組成について、いずれかの成分が本発明の規定範囲外となるか、または、いずれかの成分回帰式による算出値が本発明の規定範囲外となるように製造したものである。なお、比較例7に係る30%圧延材は、省Ni型ではない従来のSUS301Lに相当する成分組成を有する例である。
<評価方法>
本発明の実施例1~5および比較例1~7に係る30%圧延材の各種指標について、以下に示す通り評価を実施した。
(製造可否)
製造可否について、溶製中のスラブからNガスの気泡が発生したか否か、また熱延材に二枚割れが生じたか否かについて確認した。Nガスの気泡の発生または二枚割れが生じていた場合、オーステナイト系ステンレス鋼板を適切に製造することはできなかったと評価した。
(耐食性)
耐食性は、電気化学的再活性化率を指標として評価した。再活性化率は、熱延材に対してJIS G0580に準じて測定した。具体的には、液温30℃の0.5mol/L硫酸、0.01mol/Lチオシアン酸カリウム水溶液中で、自然電位から0.3V(vsSCE)まで、掃引速度100mV/minで分極させた(以下、「往路」)。0.3V(vsSCE)に到達後、往路とは逆方向に電位を掃引し、熱延材の再活性化後に、再びアノード電流が0となる電位で掃引を終了した(以下、「復路」)。
往路の最大電流密度iaと、復路の最大電流密度irとの比(ir/ia)を、再活性化率として算出した。このような評価方法は、耐食性を評価するための方法である鋭敏化判定方法としては厳しいものであるため、再活性化率が例えば1.5%程度であっても実環境では問題ないと考えられる。しかしながら、本発明の一実施例に係る30%圧延材は微細な結晶粒を有するため、耐食性の評価が困難であることを考慮し、再活性化率1%以下であれば、好ましい耐食性を有していると評価した。
(結晶粒径)
平均結晶粒径は、EBSD法を用いて評価した。各実施例および比較例について、850℃または950℃の温度で仕上焼鈍した材料の、圧延方向に平行かつ圧延面に垂直な断面に対して機械研磨後に電解研磨を施した。その後、倍率2000倍の視野で、当該断面における40μm×40μmの範囲について、ステップ間隔0.2μmでEBSD分析を行った。Σ3対応粒界を満たす方位関係における方位差について、方位差1°以下の焼鈍双晶は除いて、方位差2°以上の境界を粒界とみなし、下記式(8)により結晶粒径を算出した。これを5視野について行い、当該5視野で得られた結晶粒径の平均を、平均結晶粒径として算出した。
結晶粒径=(40×40/測定範囲内の結晶粒の個数)1/2 (8)
(引張特性)
引張特性は、突合せ伸びEL(%)および0.2%耐力YS(MPa)の指標を用いて評価した。突合せ伸びELおよび0.2%耐力YSは、30%圧延材からJIS13号B試験片を作製し、JIS Z2241に準じた引張試験により測定した。0.2%耐力YSは、クロスヘッド速度3mm/minにより測定した。また、突合せ伸びELは、クロスヘッド速度20mm/min、評点間距離50mmにより測定した。そして、突合せ伸びELと0.2%耐力YSとの関係が、上述の式(5)の関係を満たしているか否かを評価した。
〔結果〕
各種指標について評価した結果を下記表2に示す。
Figure 2022064692000002
(実施例)
実施例1~5に係る30%圧延材はいずれも、スラブにおいてNガスの気泡は発生せず、また熱延材の二枚割れも見られず、問題なく製造できた。また、焼鈍材の再活性化率は1%以下であり、850℃および950℃焼鈍後の平均結晶粒径は10μm以下であった。さらに、突合せ伸びELと0.2%耐力YSとの関係についても、上述の式(5)の関係を満たすものであった。
したがって、実施例1~5に係る30%圧延材は、安定的に製造可能であり、微細な結晶粒を含む組織を有し、強度延性バランスおよび耐食性にも優れたオーステナイト系ステンレス鋼であることが示された。
(比較例)
これに対して、比較例1、6では、製造時のスラブにおいてNガスの気泡が発生した。比較例1では、Nの含有量がNmidの値+0.017よりも多く、Nが固溶しきれなかったためと考えられる。比較例6では、δcalの値が8.0以上であるため、δフェライト相が過剰に生成したためと考えられる。また、比較例3ではCu、Mn量が多いためスラブの中心部にCuMn相が生成したことに起因し、熱延材において二枚割れの発生が見られたと考えられる。以上より、比較例1、3、6の成分組成では、適切な製造ができなかったと評価した。
比較例2に係る30%圧延材は、再活性化率が1.5%であり、1%を超えていたことから耐食性が十分ではないと評価した。これは、比較例2ではCの含有量が本発明の規定範囲を超えているため、Cr炭化物の析出が起こったためと考えられる。
比較例4に係る30%圧延材は、850℃および950℃焼鈍後の平均結晶粒径が、いずれも10μmを超えていた。これは、比較例4ではMd30の値が20未満であることから、仕上焼鈍前の加工誘起マルテンサイト量が少なくなっていたことが原因と考えられる。また、比較例4に係る30%圧延材は、突合せ伸びELと0.2%耐力YSとの関係が上述の式(5)の関係を満たすものではなかった。これは、比較例4に係る30%圧延材は結晶粒微細化が十分ではないことから、強度延性バランスも十分には確保できなかったためと考えられる。
比較例5に係る30%圧延材は、突合せ伸びELと0.2%耐力YSとの関係が上述の式(5)の関係を満たすものではなかった。これは、比較例5ではNの含有量がNmid-0.017の値よりも少ないためと考えられる。
比較例7に係る30%圧延材は、850℃焼鈍後の平均結晶粒径は10μm以下であったが、950℃焼鈍後の平均結晶粒径は10μmを超えていた。これは、比較例7ではCuの含有量が本発明の規定範囲よりも少ないため、仕上焼鈍工程での昇温時におけるεCuの析出が不十分となり、εCuによる結晶粒成長の阻害効果が不十分となったことが原因である可能性が考えられる。そのため、比較例7では高価なNiを本発明の規定範囲よりも多く含むにもかかわらず、結晶粒微細化を安定して行うことができなかったと考えられる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有し、
    Nの含有量が、質量%で、下記(1)式で示す値の範囲内であって、下記(1)式中のNmidの値は、下記(2)式により算出され、
    下記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、
    下記(4)式で示すδcalの値が8.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼:
    Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (1)
    Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (2)
    Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29Ni-15Cu-13.7Cr-18.5Mo (3)
    δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8N (4)
    上記(2)~(4)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
  2. 平均結晶粒径が10μm以下である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  3. 質量%で、Mo:1.0%以下、V:0.5%以下、B:0.0001%以上0.01%以下、Co:0.8%以下、Sn:0.1%以下、Al:0.3%以下、Ca:0.03%以下、Mg:0.03%以下およびTi:0.03%以下から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  4. 質量%で、Si:0.2%以上0.8%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、Ni:4.0%以上5.5%以下、Cr:16.5%以上18.0%以下およびCu:2.0%以上3.5%以下を含有する、請求項1から3の何れか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
  5. 突合せ伸びELと、0.2%耐力YSとの関係が、下記(5)式の関係を満たす、請求項1から4の何れか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
    YS≧0.17×EL-25.5×EL+1350 (5)
  6. 質量%で、C:0.005%以上0.03%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Mn:0.3%以上2.5%未満、P:0.04%以下、S:0.015%以下、Ni:3.5%以上6.0%以下、Cr:16.0%以上18.5%以下、Cu:1.5%以上3.8%以下およびN:0.08%以上を含有し、Nの含有量が、質量%で、下記(1)式で示す値の範囲内であって、下記(1)式中のNmidの値は、下記(2)式により算出され、下記(3)式で示すMd30の値が20以上70以下であり、かつ、下記(4)式で示すδcalの値が8.0以下であるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、
    750℃以上980℃以下の温度により仕上焼鈍を行う工程を含む、オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法:
    Nmid-0.017≦N≦Nmid+0.017 (1)
    Nmid=0.0102(Cr+Mn-0.1Ni-0.1Cu)-0.042 (2)
    Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29Ni-15Cu-13.7Cr-18.5Mo (3)
    δcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8N (4)
    上記(2)~(4)式の元素記号の箇所には、上記オーステナイト系ステンレス鋼が含有している各元素の含有量(質量%)が代入され、無添加の元素については0が代入される。
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