JP2023119234A - 試料支持体、イオン化法、及び質量分析方法 - Google Patents

試料支持体、イオン化法、及び質量分析方法 Download PDF

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Abstract

【課題】試料をイオン化する際のノイズ成分の発生を効果的に抑制することができる。【解決手段】試料支持体1は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3と、を有する基板2を備える。多孔質構造3は、複数のビーズ4の集合体によって形成されている。多孔質構造3は、互いに隣り合うビーズ4同士が接合されることによってビーズ4同士の間に窪み部分を形成する接合部5を有する。複数のビーズ4の表面4aと接合部5とのうち少なくとも第1表面2aを構成する部分には、導電層6が設けられている。複数のビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6を覆うように保護層7が設けられている。【選択図】図3

Description

本開示は、試料支持体、イオン化法、及び質量分析方法に関する。
生体試料等の試料をイオン化するための試料支持体が知られている(例えば、特許文献1)。この試料支持体は、第1表面及び第2表面を連通するように形成された多孔質構造を有している。第1表面には、導電層が設けられている。
国際公開第2019/155741号
上述したような試料支持体においては、第1表面上に転写された試料(或いは、第2表面側から第1表面側に吸い上げられた試料)に対してレーザ光等のエネルギー線を照射することにより、試料の成分がイオン化される。ここで、仮にレーザ光が基板に照射された際に、基板(多孔質構造体)に由来する成分及び導電層に由来する成分がノイズ成分(バックグラウンドノイズ)として発生してしまうと、イオン化された試料の成分の検出精度が低下するおそれがある。
本開示は、試料をイオン化する際のノイズ成分の発生を効果的に抑制することができる試料支持体、イオン化法、及び質量分析方法を提供することを目的とする。
本開示の一側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、第1表面と、第1表面とは反対側の第2表面と、第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、多孔質構造は、複数の粒子の集合体によって形成されており、多孔質構造は、互いに隣り合う粒子同士が接合されることによって粒子同士の間に窪み部分を形成する接合部を有し、複数の粒子の表面と接合部とのうち少なくとも第1表面を構成する部分には、導電層が設けられており、複数の粒子の表面、接合部、及び導電層を覆うように保護層が設けられている。
上記試料支持体では、複数の粒子の集合体によって形成された多孔質構造のうち第1表面を構成する部分には、導電層が設けられている。また、複数の粒子の表面、接合部、及び導電層を覆うように保護層が設けられている。すなわち、保護層によって、基板の材料(すなわち、粒子)及び導電層が外部に露出しないように保護されている。これにより、基板の第1表面に対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際において、基板の材料又は導電層に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。
保護層は、酸化物、フッ化物、窒化物、炭化物、及び金属の少なくとも1つによって形成されてもよい。上記構成によれば、上述した保護機能を有する保護層を好適に形成することができる。
保護層は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、タングステン、ハフニウム、ダイヤモンド、及びグラファイトの少なくとも1つによって形成されてもよい。上記構成によれば、上述した保護機能を有する保護層を好適に形成することができる。
多孔質構造における接合部の平均径は、多孔質構造における粒子の平均径の1/10以上且つ粒子の平均径未満であってもよい。上記構成によれば、多孔質構造における接合部の強度を確保することができ、第1表面に対する試料の転写に耐え得る基板強度(剛性)を確保することができる。
粒子は、ガラスビーズであってもよい。上記構成によれば、不規則な多孔質構造を有する基板を好適且つ安価に得ることができる。
保護層は、ALD層であってもよい。上記構成によれば、原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)によって、複数の粒子の表面、接合部、及び導電層上に保護層を緻密且つ隙間なく連続的に形成することができる。これにより、粒子の表面及び接合部並びに導電層が外部に露出することを好適に抑制することができ、基板の材料又は導電層に由来する成分がノイズ成分として発生することをより一層効果的に抑制することができる。
保護層の厚さは、10nm以下であってもよい。上記構成によれば、導電層を覆う保護層を十分に薄くすることにより、保護層を介して導電層に電圧を適切に印加することができる。また、保護層を十分に薄くすることにより、保護層のチャージアップを抑制することもできる。
本開示の他の側面に係るイオン化法は、上記試料支持体を用意する第1工程と、第1表面に試料を転写する第2工程と、第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第3工程と、を含む。
上記イオン化法によれば、イオン化対象の試料を上述した試料支持体の第1表面に転写する転写方式を採用する場合において、上述した試料支持体と同様の効果が得られる。すなわち、基板の第1表面に対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際において、基板の材料又は導電層に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。
本開示の他の側面に係るイオン化法は、第1表面及び第2表面を連通するように構成された多孔質構造を有する試料支持体を用意する第1工程と、第2表面が試料に対向するように、試料支持体を試料上に載置する第2工程と、試料の成分が毛細管現象によって第2表面側から第1表面側に移動した後に、第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、試料の成分をイオン化する第3工程と、を含む。
上記イオン化法によれば、イオン化対象の試料を上述した試料支持体の第2表面側から第1表面側へと毛細管現象を利用して吸い上げる吸い上げ方式を採用する場合において、上述した試料支持体と同様の効果が得られる。すなわち、基板の第1表面に対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際において、基板の材料又は導電層に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。
本開示の他の側面に係る質量分析方法は、上記イオン化法の第1工程、第2工程及び第3工程と、第3工程においてイオン化された成分を検出する第4工程と、を含む。
上記質量分析方法によれば、上記イオン化法の第1工程、第2工程、及び第3工程を含むことにより、上記イオン化法と同様の効果が得られる。
本開示によれば、試料をイオン化する際のノイズ成分の発生を効果的に抑制することができる試料支持体、イオン化法、及び質量分析方法を提供することが可能となる。
一実施形態の試料支持体を示す斜視図である。 図1に示される領域Aの拡大像である。 第1表面を構成するビーズ集合体の状態を模式的に示す図である。 一実施形態の質量分析方法における第2工程を示す図である。 一実施形態の質量分析方法が実施される質量分析装置の構成図である。 実施例及び比較例のブランクノイズの測定結果を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。なお、図面においては、実施形態に係る特徴部分を分かり易く説明するために誇張している部分がある。このため、図面の寸法比率は、実際の寸法比率とは異なっている場合がある。
[試料支持体]
図1に示されるように、試料支持体1は、基板2を備えている。一例として、基板2は、矩形板状に形成されている。基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、を有している。基板2の厚さ方向(すなわち、第1表面2aと第2表面2bとが対向する方向)から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度である。基板2の厚さ(第1表面2aから第2表面2bまでの距離)は、例えば100μm~1500μm程度である。
図2に示されるように、基板2には、第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3が形成されている。なお、図2は、後述する導電層6及び保護層7を形成する前の状態を示している。不規則な多孔質構造とは、例えば、空隙(細孔)が不規則な方向に延びると共に3次元上において不規則に分布している構造である。例えば、第1表面2a側の1つの入口(開口)から基板2内に入って複数の経路に枝分かれするような構造、或いは、第1表面2a側の複数の入口(開口)から基板2内に入って1つの経路に合流するような構造等も、上記不規則な多孔質構造に含まれる。一方、例えば第1表面2aから第2表面2bにかけて基板2の厚さ方向に沿って直線状に延びる複数の細孔が主要な細孔として設けられた構造(すなわち、主に一方向に延びる細孔によって構成された規則的な構造)は、不規則な多孔質構造には含まれない。
多孔質構造3は、例えば、複数のビーズ状の粒子の集合体によって形成されている。複数のビーズ状の粒子の集合体とは、複数の粒子が互いに接触するように集められた構造である。複数の粒子の集合体の例として、複数の粒子同士が接着又は接合された構造が挙げられる。本実施形態では、多孔質構造3は、複数の球体状のビーズ4(粒子)が互いに接合されることで形成されたビーズ集合体(集合体)である。すなわち、基板2は、複数のビーズ4を互いに接合すると共に矩形板状に成形することで得られるビーズ集合体(多孔質構造3)によって構成されている。多孔質構造3は、複数のビーズ4が占める部分と、複数のビーズ4の間の隙間Sと、を有している。
本実施形態では、ビーズ4は、ガラスビーズである。この場合、ビーズ集合体は、例えば、複数のガラスビーズ(ビーズ4)の焼結体である。上記構成によれば、ガラスビーズを用いることにより、不規則な多孔質構造3を有する基板2を好適且つ安価に得ることができる。本実施形態では、基板2の全体が多孔質構造3によって構成されている。すなわち、基板2の第1表面2aから第2表面2bまでの全域に亘って、多孔質構造3が形成されている。これにより、多孔質構造3は、第1表面2a及び第2表面2bを連通するように形成されている。
図3に示されるように、互いに隣接するビーズ4同士は、互いに接合(融着)されている。互いに隣り合うビーズ4同士が接合されることによって、ビーズ4同士の間に窪み部分が形成されている。すなわち、多孔質構造3は、上記窪み部分を形成する接合部5を有している。ここで、基板2は、後述するイオン化法の第2工程(試料Sa(図4参照)の転写)を実施可能な程度の剛性を有している。基板2の剛性が不十分な場合、試料Saを第1表面2aに押し付けた際、又は試料Saを第1表面2aから剥がす際等に、基板2が破損する可能性がある。そこで、基板2は、試料Saの転写(すなわち、第1表面2aに対して試料Saを押し付ける操作、及び第1表面2aから試料Saを剥がす操作)に耐え得る剛性(すなわち、試料Saの転写によって基板2が破損しない程度の剛性)を有している。本実施形態では、互いに隣接するビーズ4同士の間に形成された接合部5の平均径(各接合部5の径d1の平均)は、ビーズ4の平均径(各ビーズ4の径d2の平均)の1/10以上且つビーズ4の平均径未満とされている。上記構成によれば、多孔質構造3における接合部5の強度を確保することができ、第1表面2aに対する試料Saの転写に耐え得る基板強度(剛性)を確保することができる。
また、図3に示されるように、複数のビーズ4の表面4aと接合部5とのうち少なくとも第1表面2aを構成する部分には、導電層6が設けられている。ここで、第1表面2aを構成する部分とは、基板2の第1表面2a側に露出している部分である。例えば、上記部分は、第1表面2aに対向する位置から基板2を見た場合に見える部分である。図3の例では、互いに接合された2つのビーズ4は、基板2の厚さ方向に直交する方向に並んで配置されており、2つのビーズ4の上面が第1表面2aを構成している。すなわち、導電層6は、2つのビーズ4の上面に跨がるようにして、第1表面2a側に露出しているビーズ4の表面4a及び接合部5を覆っている。
導電層6は、導電性材料によって形成されている。導電層6の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層6が形成されていると、後述する試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層6の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層6が形成されていると、基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層6が形成されていると、基板2に照射されたエネルギー線(例えばレーザ光)のエネルギーを、導電層6を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層6の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
以上の観点から、導電層6の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層6は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層6の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
導電層6は、例えば上述した蒸着法、スパッタ法等を第1表面2a側から行うことにより、図3に示したように、第1表面2a側に露出しているビーズ4の表面4a及び接合部5を覆うように形成される。一方、ALDによって導電層6を形成する場合には、導電層6は、各ビーズ4の表面4a及び接合部5の全体を覆うように形成され得る。このように、導電層6は、各ビーズ4の表面4a及び接合部5のうち第1表面2aを構成する部分だけでなく、各ビーズ4の表面4a及び接合部5の全体に設けられてもよい。
図3に示されるように、保護層7が、複数のビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6を覆うように設けられている。保護層7は、例えば、複数のビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6上において、緻密且つ隙間なく連続的に形成される。保護層7は、後述する第3工程で基板2の第1表面2aに対してレーザ光L(エネルギー線の一種)が照射される際に、当該レーザ光Lがビーズ4及び導電層6に直接照射されることを防止する。これにより、基板2の材料(すなわち、ビーズ4)及び導電層6に由来する成分がノイズ成分として発生することが抑制される。すなわち、保護層7は、上記ノイズ成分の発生を抑制するノイズ低減機能を有する。
保護層7は、上記ノイズ低減機能を効果的に発揮する観点から、好ましくは、比較的高い融点又は蒸発開始温度を有する材料によって形成され得る。例えば、保護層7は、酸化物、フッ化物、窒化物、炭化物、金属等によって形成され得る。また、保護層7は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素等の酸化物によって形成されてもよいし、フッ化マグネシウム等のフッ化物によって形成されてもよいし、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物によって形成されてもよいし、炭化ケイ素等の炭化物によって形成されてもよい。或いは、保護層7は、タングステン、ハフニウム等の金属によって形成されてもよいし、ダイヤモンド又はグラファイトによって形成されてもよい。上記のような材料によって保護層7を形成することにより、上述した保護機能(ノイズ低減機能)を有する保護層7を好適に形成することができる。
保護層7は、ALD層として構成されてもよい。すなわち、保護層7は、原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)によって成膜されてもよい。この場合、図3に示されるように、ALDによって、複数のビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6上に保護層7を緻密且つ隙間なく連続的に形成することができる。これにより、ビーズ4の表面及び接合部5並びに導電層6が外部に露出することを好適に抑制することができ、基板2の材料(すなわち、ビーズ4)又は導電層6に由来する成分がノイズ成分として発生することをより一層効果的に抑制することができる。
ただし、保護層7の成膜方法は、ALDに限られない。例えば、保護層7は、イオンプレーティング等の物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)や化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)等の気相成膜、ゾルゲル法や塗布等の液相成膜等の一般的な成膜方法によって形成されてもよい。また、保護層7は、必ずしも、基板2を構成する全てのビーズ4の表面4aを覆うように形成されなくてもよい。例えば、保護層7は、基板2のうち第1表面2a側に位置する一部のビーズ4(第1表面2aを構成するビーズ4を含む)の表面4aを覆うように形成されてもよい。
保護層7の厚さは、例えば100nm以下である。例えば、保護層7は、導電層6への導電性付与及びチャージアップ防止の観点から、10nm以下とされてもよい。導電層6を覆う保護層7を十分に薄くすることにより、後述する第3工程において、保護層7を介して導電層6に電圧を適切に印加することができる。また、保護層7を十分に薄くすることにより、保護層7のチャージアップを抑制することもできる。
[イオン化法及び質量分析方法]
試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法の一例について説明する。まず、試料のイオン化用の試料支持体として、上述した試料支持体1を用意する(第1工程)。試料支持体1は、イオン化法及び質量分析方法の実施者によって製造されることにより用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から譲渡されることにより用意されてもよい。
続いて、図4に示されるように、基板2の第1表面2aに試料Saを転写する(第2工程)。図4の例では、試料Saは、果物(レモン)の切片である。例えば、試料Saを基板2の第1表面2aに押し付けることにより、試料Saの成分Sa1(図5参照)を、第1表面2a上に付着させる。
続いて、第1表面2aに試料Saの成分Sa1が付着した後に、第1表面2a(導電層6)に電圧を印加しつつ第1表面2aに対してエネルギー線を照射することにより、試料Saの成分Sa1をイオン化する(第3工程)。一例として、上述した第3工程は、図5に示される質量分析装置10を用いることにより実施され得る。質量分析装置10は、支持部12と、照射部13と、電圧印加部14と、イオン検出部15と、カメラ16と、制御部17と、試料ステージ18と、を備えている。
試料支持体1は、支持部12上に載置される。支持部12は、試料ステージ18上に載置される。ここでは一例として、試料支持体1は、基板2の第2表面2bが支持基板8の支持面8aに載置された状態で、導電性テープ9を介して支持基板8上に固定される。このように試料支持体1が支持基板8上に固定された状態で、支持基板8が、支持部12上に載置される。導電性テープ9は、基板2の縁部に設けられ、基板2の第1表面2aと支持基板8の支持面8aとに亘って形成されている。第1表面2aと支持面8aとは、導電性テープ9を介して電気的に接続されている。支持基板8は、例えばスライドグラスによって形成され得る。本実施形態では一例として、支持基板8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板(ITOスライドグラス)であり、透明導電膜の表面が支持面8aとなっている。すなわち、本実施形態では、支持面8aの全体が導電性を有している。
照射部13は、試料支持体1の第1表面2aに対してレーザ光L等のエネルギー線を照射する。電圧印加部14は、試料支持体1の第1表面2aに対して電圧を印加する。イオン検出部15は、イオン化された試料の成分(試料イオンSa2)を検出する。カメラ16は、照射部13によるレーザ光Lの照射位置を含むカメラ画像を取得する。カメラ16は、例えば、照射部13に付随する小型のCCDカメラである。制御部17は、試料ステージ18、カメラ16、照射部13、電圧印加部14、及びイオン検出部15の動作を制御する。制御部17は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
電圧印加部14によって、支持基板8の支持面8aに電圧が印加される。これにより、支持面8a及び導電性テープ9を介して基板2の第1表面2a上の導電層6(図3参照)に電圧が印加される。なお、導電層6上には保護層7が成膜されているが、上述したように保護層7は導電層6に電圧を印加可能な程度に薄く形成されているため、保護層7を介して導電層6に電圧が印加される。
続いて、制御部17が、カメラ16により取得された画像に基づいて、照射部13を動作させる。具体的には、制御部17は、レーザ照射範囲(例えば、カメラ16により取得された画像に基づいて特定された試料の成分Sa1が存在する領域)内の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されるように照射部13を動作させる。
一例として、制御部17は、試料ステージ18を移動させると共に、照射部13によるレーザ光Lの照射動作(照射タイミング等)を制御する。すなわち、制御部17は、試料ステージ18が所定間隔移動したことを確認した後に、照射部13にレーザ光Lの照射を実行させる。例えば、制御部17は、レーザ照射範囲内をラスタスキャンするように試料ステージ18の移動(走査)と照射部13によるレーザ光Lの照射とを繰り返す。なお、第1表面2aに対する照射位置の変更は、試料ステージ18ではなく照射部13を移動させることによって行われてもよいし、試料ステージ18及び照射部13の両方を移動させることによって行われてもよい。
上述した第3工程により、第1表面2a上の試料の成分Sa1がイオン化され、試料イオンSa2が放出される。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層6から、第1表面2a上の試料の成分Sa1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した成分Sa1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンSa2となる。放出された試料イオンSa2は、試料支持体1とイオン検出部15との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンSa2は、電圧が印加された導電層6とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部15によって試料イオンSa2が検出される(第4工程)。
以上の第1工程~第3工程が、試料支持体1を用いたイオン化法に相当する。また、以上の第1工程~第4工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
[作用及び効果]
上述した試料支持体1では、複数のビーズ状の粒子(本実施形態ではビーズ4)の集合体によって形成された多孔質構造3のうち第1表面2aを構成する部分には、導電層6(図3参照)が設けられている。また、複数のビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6を覆うように保護層7が設けられている。すなわち、保護層7によって、基板2の材料(すなわち、ビーズ4)及び導電層6が外部に露出しないように保護されている。これにより、基板2の第1表面2aに対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際(すなわち、上述した第3工程)において、基板2の材料又は導電層6に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。
また、試料支持体1を用いたイオン化法(第1工程~第3工程)によれば、イオン化対象の試料Saを試料支持体1の第1表面2aに転写する転写方式を採用する場合において、上述した試料支持体1と同様の効果が得られる。すなわち、基板2の第1表面2aに対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際において、基板2の材料又は導電層6に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。また、試料支持体1を用いた質量分析方法(第1工程~第4工程)によれば、上記イオン化法の第1工程、第2工程、及び第3工程を含むことにより、上記イオン化法と同様の効果が得られる。
図6は、実施例及び比較例のブランクノイズの測定結果を示す図である。図6において、横軸は質量電荷比(m/z)を示し、縦軸は信号強度(任意単位:arb.unit)を示している。具体的には、図6は、実施例及び比較例の各々について、分析対象の試料がない状態(すなわち、第1表面2aに試料の成分Sa1が付着していない状態)で、上述した質量分析方法によって得られたマススペクトルを示している。図6においては、実施例のマススペクトルと比較例のマススペクトルとを比較し易くするために、比較例のマススペクトルの信号強度の原点(すなわち、信号強度0に対応する値)を「+500」だけシフトさせている。
実施例は、上述した試料支持体1と同様の構成を有する試料支持体である。より具体的には、実施例は、ビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6を覆うように形成された保護層7(図3参照)を有する試料支持体である。また、実施例では、保護層7は、酸化アルミニウムをALDによって成膜することによって形成されたALD膜である。また、保護層7の厚さは、8nmである。
比較例は、上述した試料支持体1のうち保護層7が省略された構成を有する試料支持体である。すなわち、比較例においては、基板2の第1表面2a側において、ビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6が露出している。
図6に示されるように、比較例では、特に低質量領域(60m/z~400m/z)において、顕著なブランクノイズ(すなわち、試料が存在しない状態で検出されるバックグラウンドノイズ)が検出された。仮に分析対象の試料が上記低質量領域内にピーク信号を有する場合、上記ブランクノイズの存在によって、当該ピーク信号の検出(解析)が困難となり得る。
一方、上述した保護層7が形成された実施例においては、上記低質量領域において若干のブランクノイズが検出されたものの、比較例よりもブランクノイズの発生が格段に抑制されていることが確認された。すなわち、エネルギー線(レーザ光L)が照射される第1表面2aにおいて、ビーズ4の表面4a、接合部5、及び導電層6が保護層7によって覆われていることにより、ビーズ4及び導電層6に由来するブランクノイズが低減されることが確認された。より具体的には、実施例におけるブランクノイズの種類(ピーク信号の数)が、比較例におけるブランクノイズの種類よりも少なく抑えられると共に、実施例におけるブランクノイズの信号強度が、比較例におけるブランクノイズの信号強度よりも小さくなることが確認された。
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。また、上述した一の実施形態又は変形例における一部の構成は、他の実施形態又は変形例における構成に任意に適用することができる。
例えば、上記実施形態では、試料支持体1は、基板2のみを含んで構成されたが、試料支持体1は、基板2以外の部材を含んでもよい。例えば、基板2の一部(例えば隅部等)に、基板2を支持するための支持部材(フレーム等)が設けられてもよい。
また、試料Saは、上記実施形態で例示した果物(レモン)の切片に限られない。試料Saは、平坦な表面を有するものであってもよいし、凹凸のある表面を有するものであってもよい。また、試料Saは、果物以外であってもよく、例えば植物の葉等であってもよい。この場合、試料Saである葉の表面の成分を第1表面2aに転写することにより、当該葉の表面(葉脈)のイメージング質量分析を行うことが可能となる。
また、上記実施形態のように、基板2の全体が多孔質構造3によって構成されている場合、すなわち、試料支持体1が第1表面2a及び第2表面2bを連通するように構成された多孔質構造3を有する場合、上述した第2工程は、以下のように変形されてもよい。すなわち、第2工程において、基板2の第2表面2bが試料Saに対向するように、試料支持体1を試料Sa上に載置してもよい。例えば、上記実施形態において、支持基板8の支持面8aと試料支持体1の第2表面2bとの間に、試料Saが配置されてもよい。この場合、試料Saの成分Sa1は、毛細管現象によって、基板2の第2表面2b側から、多孔質構造3(すなわち、隙間S)を介して、基板2の第1表面2a側へと移動する。すなわち、この変形例では、第3工程において、試料の成分Sa1が毛細管現象によって第2表面2b側から第1表面2a側に移動した後に、第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されればよい。上記変形例に係る第2工程及び第3工程を含むイオン化法及び質量分析方法によれば、イオン化対象の試料Saを試料支持体1の第2表面2b側から第1表面2a側へと毛細管現象を利用して吸い上げる吸い上げ方式を採用する場合において、上述した試料支持体1と同様の効果が得られる。すなわち、基板2の第1表面2aに対してエネルギー線を照射して試料をイオン化する際において、基板2の材料又は導電層6に由来する成分がノイズ成分として発生することを効果的に抑制することができる。
また、上記実施形態では、基板2の全体が、ビーズ集合体である多孔質構造3によって構成されたが、多孔質構造3は、基板2の一部に形成されてもよい。例えば、多孔質構造3は、基板2において試料Saを転写するための測定領域として定められた中央部分の領域(第1表面2aの一部の領域)のみに形成されてもよく、基板2のその他の部分には多孔質構造3が形成されていなくてもよい。また、多孔質構造3は、第1表面2aから第2表面2bまでの全域に亘って形成されていなくてもよい。すなわち、多孔質構造3は、少なくとも第1表面2aに開口していればよく、第2表面2bに開口していなくてもよい。例えば、基板2は、平板状のプレートと、プレート上に設けられた多孔質構造と、によって構成されてもよい。一例として、基板2は、ガラスプレートと、ガラスプレート上に設けられたガラスビーズ集合体(多孔質構造)と、によって構成されてもよい。この場合、ガラスビーズ集合体のガラスプレートとは反対側の表面が第1表面2aとなり、ガラスプレートのガラスビーズ集合体とは反対側の表面が第2表面2bとなる。
また、多孔質構造3を構成する粒子は、略球状のビーズに限られず、略球状以外の形状を有してもよい。
また、試料支持体1を用いた質量分析方法において、電圧印加部14によって電圧が印加される対象は、支持基板8の支持面8aに限られない。例えば、電圧は、支持基板8以外の部材(例えば、導電性テープ9)に印加されてもよい。
試料支持体1を用いた質量分析方法において、質量分析装置10は、走査型の質量分析装置であってもよいし、投影型の質量分析装置であってもよい。走査型の場合、照射部13による1回のレーザ光Lの照射毎に、レーザ光Lのスポット径に対応する大きさの1画素の信号が取得される。つまり、1画素毎にレーザ光Lの走査(照射位置の変更)及び照射が行われる。一方、投影型の場合、照射部13による1回のレーザ光Lの照射毎に、レーザ光Lのスポット径に対応する画像(複数の画素)の信号が取得される。投影型の場合においてレーザ光Lのスポット径に分析対象の試料の全体が含まれる場合には、1回のレーザ光Lの照射によってイメージング質量分析を行うことができる。なお、投影型の場合においてレーザ光Lのスポット径に分析対象の試料の全体が含まれない場合には、走査型と同様にレーザ光Lの走査及び照射を行うことにより、分析対象の試料の全体の信号を取得することができる。また、上述したイオン化法は、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
試料支持体1の用途は、レーザ光Lの照射による試料のイオン化に限定されない。試料支持体1は、レーザ光、エレクトロスプレー、イオンビーム、電子線等のエネルギー線の照射による試料のイオン化に用いることができる。上述したイオン化法及び質量分析方法では、このようなエネルギー線の照射によって試料をイオン化することができる。
1…試料支持体、2…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、3…多孔質構造、4…ビーズ(粒子)、4a…表面、5…接合部、6…導電層、7…保護層、L…レーザ光(エネルギー線)、Sa…試料、Sa1…成分、Sa2…試料イオン。

Claims (10)

  1. 試料のイオン化用の試料支持体であって、
    第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、前記第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、
    前記多孔質構造は、複数の粒子の集合体によって形成されており、
    前記多孔質構造は、互いに隣り合う前記粒子同士が接合されることによって前記粒子同士の間に窪み部分を形成する接合部を有し、
    前記複数の粒子の表面と前記接合部とのうち少なくとも前記第1表面を構成する部分には、導電層が設けられており、
    前記複数の粒子の表面、前記接合部、及び前記導電層を覆うように保護層が設けられている、
    試料支持体。
  2. 前記保護層は、酸化物、フッ化物、窒化物、炭化物、及び金属の少なくとも1つによって形成されている、
    請求項1に記載の試料支持体。
  3. 前記保護層は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、タングステン、ハフニウム、ダイヤモンド、及びグラファイトの少なくとも1つによって形成されている、
    請求項1に記載の試料支持体。
  4. 前記多孔質構造における前記接合部の平均径は、前記多孔質構造における前記粒子の平均径の1/10以上且つ前記粒子の平均径未満である、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の試料支持体。
  5. 前記粒子は、ガラスビーズである、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の試料支持体。
  6. 前記保護層は、ALD層である、
    請求項1~5のいずれか一項に記載の試料支持体。
  7. 前記保護層の厚さは、10nm以下である、
    請求項1~6のいずれか一項に記載の試料支持体。
  8. 請求項1に記載の試料支持体を用意する第1工程と、
    前記第1表面に試料を転写する第2工程と、
    前記第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第3工程と、を含む、イオン化法。
  9. 請求項1に記載の試料支持体であって、前記第1表面及び前記第2表面を連通するように構成された前記多孔質構造を有する前記試料支持体を用意する第1工程と、
    前記第2表面が試料に対向するように、前記試料支持体を前記試料上に載置する第2工程と、
    前記試料の成分が毛細管現象によって前記第2表面側から前記第1表面側に移動した後に、前記第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記試料の成分をイオン化する第3工程と、を含む、イオン化法。
  10. 請求項8又は9に記載のイオン化法の前記第1工程、前記第2工程及び前記第3工程と、
    前記第3工程においてイオン化された前記成分を検出する第4工程と、を含む、質量分析方法。
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