JP6743224B1 - 試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法 - Google Patents

試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法を提供する。【解決手段】試料支持体1は、試料のイオン化用の試料支持体1であって、第1表面2a、及び第1表面2aとは反対側の第2表面2b、並びに、第1表面2a及び第2表面2bのそれぞれに開口する複数の貫通孔2cを有する基板2と、第1表面2a上に設けられた導電層4と、導電層4上及び第2表面2b上の少なくとも一方に設けられたマトリックス結晶層8と、を備える。マトリックス結晶層8は、複数の貫通孔2cと外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている。【選択図】図2

Description

本発明は、試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法に関する。
従来、質量分析等を行うために生体試料等の試料をイオン化する手法として、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI:Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)が知られている。MALDIは、レーザ光を吸収するマトリックスと呼ばれる低分子量の有機化合物を試料に加え、これにレーザ光を照射することにより、試料をイオン化する手法である。この手法によれば、熱に不安定な物質や高分子量物質を非破壊でイオン化すること(いわゆるソフトイオン化)が可能である。
米国特許第7695978号明細書
しかしながら、試料を構成する分子の二次元分布を画像化するイメージング質量分析に上述したようなMALDIを利用した場合には、画像の解像度を高めるに限界があった。
そこで、本発明は、高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法を提供することを目的とする。
本発明の試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する基板と、第1表面上に設けられた導電層と、導電層上及び第2表面上の少なくとも一方に設けられたマトリックス結晶層と、を備え、マトリックス結晶層は、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている。
この試料支持体では、例えば、基板の第2表面が含水試料に接触するように含水試料上に試料支持体が配置されると、マトリックス結晶層が複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含んでいるため、試料の成分が、毛細管現象によって第2表面側から複数の貫通孔を介して第1表面側に移動すると共にマトリックスと混合することになる。この状態で、例えば、導電層に電圧が印加されつつ第1表面に対してエネルギー線が照射されると、第1表面側に移動した試料の成分及びマトリックスにエネルギーが伝達されて、試料の成分がマトリックスと共にイオン化される。これにより、高分子量の試料の成分を確実にイオン化することができる。このとき、試料の成分が、第2表面側から複数の貫通孔を介して第1表面側に移動するため、基板の第1表面側に移動した試料の成分においては、試料の位置情報(試料を構成する分子の二次元分布情報)が維持されている。この状態で、例えば、導電層に電圧が印加されつつ第1表面に対してエネルギー線が照射されるため、試料の位置情報が維持されつつ試料の成分がイオン化される。これにより、イメージング質量分析における画像の解像度を向上させることができる。よって、この試料支持体は、高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする。
本発明の試料支持体では、複数の貫通孔のそれぞれの幅は、1〜700nmであり、基板の厚さは、1〜50μmであってもよい。これにより、第2表面側から複数の貫通孔を介して第1表面側に試料の成分をスムーズに移動させることができ、適切な状態で試料の成分を第1表面側に留まらせることができる。
本発明の試料支持体では、基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されていてもよい。これにより、複数の貫通孔を有する基板を容易に且つ確実に得ることができる。
本発明の試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板と、第1表面上及び第2表面上の少なくとも一方に設けられたマトリックス結晶層と、を備え、マトリックス結晶層は、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている。
この試料支持体によれば、導電層を省略することができると共に、上述した導電層を備える試料支持体と同様の効果を得ることができる。
本発明の試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有し、第1表面上に導電層が設けられた基板を用意する工程と、マトリックス材料の蒸着によって、導電層上及び第2表面上の少なくとも一方にマトリックス結晶層を設ける工程と、を備え、マトリックス結晶層を設ける工程においては、マトリックス結晶層が、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。
本発明の試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板を用意する工程と、マトリックス材料の蒸着によって、第1表面上及び第2表面上の少なくとも一方に、マトリックス結晶層を設ける工程と、を備え、マトリックス結晶層を設ける工程においては、マトリックス結晶層が、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。
これらの試料支持体の製造方法によれば、マトリックス材料の蒸着を実施することにより、上述したようなマトリックス結晶層を容易に且つ確実に得ることができる。
本発明のイオン化法は、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有し、第1表面上に導電層が設けられた基板を用意する工程と、載置部上に試料を配置し、第2表面が試料に接触するように、試料上に基板を配置する工程と、マトリックス材料の蒸着によって、導電層上にマトリックス結晶層を設ける工程と、載置部と基板との間に試料が配置された状態で、導電層に電圧を印加しつつ第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、第2表面側から複数の貫通孔を介して第1表面側に移動した試料の成分をマトリックスと共にイオン化する工程と、を備え、マトリックス結晶層を設ける工程においては、マトリックス結晶層が、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。
本発明のイオン化法は、第1表面、及び第1表面とは反対側の第2表面、並びに、第1表面及び第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板を用意する工程と、載置部上に試料を配置し、第2表面が試料に接触するように、試料上に基板を配置する工程と、マトリックス材料の蒸着によって、第1表面上にマトリックス結晶層を設ける工程と、載置部と基板との間に試料が配置された状態で、基板に電圧を印加しつつ第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、第2表面側から複数の貫通孔を介して第1表面側に移動した試料の成分をマトリックスと共にイオン化する工程と、を備え、マトリックス結晶層を設ける工程においては、マトリックス結晶層が、複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。
これらのイオン化法によれば、マトリックス材料の蒸着を実施することにより、上述したようなマトリックス結晶層を容易に且つ確実に得ることができる。よって、これらのイオン化法は、高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする。
本発明の質量分析方法は、上記イオン化法が備える工程と、イオン化された成分を検出する工程と、を備える。
この質量分析方法は、上述したように、高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする。
本発明によれば、高分子量の試料の成分のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする試料支持体、試料支持体の製造方法、イオン化法及び質量分析方法を提供することができる。
一実施形態の試料支持体の平面図である。 図1に示されるII−II線に沿っての断面図である。 図1に示される基板の第1表面の一部のSEM画像の一例を示す図である。 図1に示されるマトリックス結晶層の表面の一部のSEM画像の一例及びマトリックス結晶層の断面の一部のSEM画像の一例を示す図である。 図1に示される試料支持体の製造方法の工程を示す図である。 図1に示される試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。 図1に示される試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。 図1に示される試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。 変形例の試料支持体の一部分の断面図である。 変形例の試料支持体を用いた質量分析方法の工程を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1及び図2に示されるように、試料のイオン化用の試料支持体1は、基板2と、フレーム3と、導電層4と、マトリックス結晶層8と、を備えている。基板2は、第1表面2a及び第2表面2b並びに複数の貫通孔2cを有している。第2表面2bは、第1表面2aとは反対側の表面である。複数の貫通孔2cは、基板2の厚さ方向(第1表面2a及び第2表面2bに垂直な方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bのそれぞれに開口している。本実施形態では、複数の貫通孔2cは、基板2に一様に(均一な分布で)形成されている。
基板2は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、基板2の厚さは、例えば1〜50μmである。基板2の厚さ方向から見た場合における貫通孔2cの形状は、例えば略円形である。貫通孔2cの幅は、例えば1〜700nmである。
貫通孔2cの幅は、以下のようにして取得される値である。まず、基板2の第1表面2a及び第2表面2bのそれぞれの画像を取得する。図3は、基板2の第1表面2aの一部のSEM画像の一例を示している。当該SEM画像において、黒色の部分は貫通孔2cであり、白色の部分は貫通孔2c間の隔壁部である。続いて、取得した第1表面2aの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R内の複数の第1開口(貫通孔2cの第1表面2a側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第1開口の平均面積を有する円の直径を取得する。同様に、取得した第2表面2bの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R内の複数の第2開口(貫通孔2cの第2表面2b側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第2開口の平均面積を有する円の直径を取得する。そして、第1表面2aについて取得した円の直径と第2表面2bについて取得した円の直径との平均値を貫通孔2cの幅として取得する。
図3に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の貫通孔2cが一様に形成されている。測定領域Rにおける貫通孔2cの開口率(基板2の厚さ方向から見た場合に測定領域Rに対して全ての貫通孔2cが占める割合)は、実用上は10〜80%であり、特に60〜80%であることが好ましい。複数の貫通孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の貫通孔2c同士が互いに連結していてもよい。
図3に示される基板2は、Al(アルミニウム)を陽極酸化することにより形成されたアルミナポーラス皮膜である。具体的には、Al基板に対して陽極酸化処理を施し、酸化された表面部分をAl基板から剥離することにより、基板2を得ることができる。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。
図1及び図2に示されるように、フレーム3は、基板2の第1表面2a上に設けられている。具体的には、フレーム3は、接着層5によって基板2の第1表面2aに固定されている。接着層5の材料としては、放出ガスの少ない接着材料(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)が用いられることが好ましい。フレーム3は、基板2の厚さ方向から見た場合に、例えば基板2と略同一の外形を呈している。フレーム3には、開口3aが形成されている。基板2のうち開口3aに対応する部分は、試料の成分を第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に移動させるための測定領域Rとして機能する。
フレーム3は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合におけるフレーム3の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、フレーム3の厚さは、例えば1mm以下である。基板2の厚さ方向から見た場合における開口3aの形状は、例えば円形であり、その場合における開口3aの直径は、例えば数mm〜数十mm程度である。このようなフレーム3によって、試料支持体1のハンドリングが容易化すると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
導電層4は、基板2の第1表面2a上に設けられている。具体的には、導電層4は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、測定領域Rに対応する領域)上、開口3aの内面上、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3b上に一続きに(一体的に)形成されている。導電層4は、測定領域Rにおいて、基板2の第1表面2aのうち貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、測定領域Rにおいては、各貫通孔2cが開口3aに露出している。
導電層4は、導電性材料によって形成されている。ただし、導電層4の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層4が形成されていると、試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、質量分析方法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層4の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、測定領域Rにおいて基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光のエネルギーを、導電層4を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層4の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
以上の観点から、導電層4の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層4は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm〜350nm程度に形成される。なお、導電層4の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
マトリックス結晶層8は、導電層4上に設けられている。具体的には、マトリックス結晶層8は、フレーム3の開口3a内において、基板2の第1表面2a上に設けられた導電層4上に形成されている。図4の(a)は、マトリックス結晶層8の表面の一部のSEM画像の一例であり、図4の(b)は、マトリックス結晶層8の断面の一部のSEM画像の一例を示す図である。図4の(a)及び(b)に示されるように、マトリックス結晶層8は、複数の貫通孔2cと外部(マトリックス結晶層8に対して複数の貫通孔2cとは反対側の外部)とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている。複数のマトリックス結晶粒は、均一に分布しており、各貫通孔2cにおける第1表面2a側の開口付近(貫通孔2cに対応するように導電層4に形成された開口付近)に留まって当該開口を完全には塞いでいない。マトリックス結晶粒は、マトリックス材料によって形成された結晶粒であり、結晶粒の大きさは、例えば200〜1000nmである。マトリックス材料は、レーザ光を吸収する有機化合物であり、例えば、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)、trans−4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸(フェルラ酸)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、1,8−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン−9−オン(ジスラノール)等である。
次に、試料支持体1の製造方法について説明する。図5においては、試料支持体1において接着層5の図示が省略されている。また、図1及び図2に示される試料支持体1と図4に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
まず、図5の(a)に示されるように、第1表面2a上にフレーム3及び導電層4が設けられた基板2を用意する。続いて、図5の(b)に示されるように、マトリックス材料の蒸着によって、導電層4上にマトリックス結晶層8を設ける。具体的には、例えば、フレーム3の開口3a内の導電層4のみをマスク(図示省略)から露出させて、露出した導電層4に対してマトリックス材料を蒸着することにより、フレーム3の開口3a内において、基板2の第1表面2a上に設けられた導電層4上にマトリックス結晶層8を形成する。図5の(b)に示される工程においては、マトリックス結晶層が、複数の貫通孔2cと外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。以上により、試料支持体1を得る。なお、マトリックス材料の蒸着は、例えば、抵抗加熱式真空蒸着装置によって実施される。
次に、試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法について説明する。図6、図7及び図8においては、試料支持体1において接着層5の図示が省略されている。また、図1及び図2に示される試料支持体1と図6、図7及び図8に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
まず、図6の(a)に示されるように、試料支持体1を用意する。続いて、図6の(b)に示されるように、スライドグラス(載置部)6の載置面6aに試料Sを配置する。スライドグラス6は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、載置面6aは、透明導電膜の表面である。試料Sは、含水試料(例えば、生体の凍結切片等)である。なお、スライドグラス6代えて、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)を載置部として用いてもよい。続いて、図7の(a)に示されるように、基板2の第2表面2bが試料Sに接触するように試料S上に試料支持体1を配置する。このとき、基板2の厚さ方向から見た場合に試料Sが測定領域R内に位置するように試料S上に試料支持体1を配置する。続いて、図7の(b)に示されるように、導電性を有するテープ7(例えば、カーボンテープ等)を用いて、スライドグラス6に試料支持体1を固定する。
以上のように試料S上に試料支持体1が配置されると、図8の(a)に示されるように、試料Sの成分S1が、毛細管現象によって第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に移動すると共にマトリックス結晶層8のマトリックスと混合し、マトリックスと混合した成分S1が、表面張力によって基板2の第1表面2a側に留まる。このとき、マトリックス結晶層8が複数の貫通孔2cと外部とを連通する隙間を含んでいるため、第1表面2a側への試料Sの成分S1の移動が阻害されない。続いて、図8の(b)に示されるように、試料S及び試料支持体1が配置されたスライドグラス6を質量分析装置10の支持部12(例えば、ステージ)上に配置する。続いて、質量分析装置10の電圧印加部14を動作させて、スライドグラス6の載置面6a及びテープ7を介して試料支持体1の導電層4に電圧を印加しつつ、質量分析装置10のレーザ光照射部13を動作させて、基板2の第1表面2aのうち測定領域Rに対応する領域に対してレーザ光(エネルギー線)Lを照射する。このとき、支持部12及びレーザ光照射部13の少なくとも1つを動作させることにより、測定領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。
以上のように導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されると、第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1及びマトリックスにエネルギーが伝達されて、試料Sの成分S1がマトリックスと共にイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される。具体的には、第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1及びマトリックスにエネルギーが伝達されると、マトリックスが試料Sの成分S1と共に気化し、気化した成分S1の分子にプロトン又はカチオンが付加されることにより、試料イオンS2が生じる。以上の工程が、試料支持体1を用いたイオン化法(本実施形態では、レーザ脱離イオン化法)に相当する。
続いて、放出された試料イオンS2を質量分析装置10のイオン検出部15において検出する。具体的には、放出された試料イオンS2が、電圧が印加された導電層4とグランド電極(図示省略)との間に生じる電位差によって、試料支持体1とイオン検出部15との間に設けられた当該グランド電極に向かって加速しながら移動し、イオン検出部15によって検出される。そして、イオン検出部15が、レーザ光Lの走査位置に対応するように試料イオンS2を検出することにより、試料Sを構成する分子の二次元分布が画像化される。質量分析装置10は、飛行時間型質量分析方法(TOF−MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
なお、試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法においては、図8の(a)に示される工程の後且つ図8の(b)に示される工程の前に、メタノール等の有機溶媒の蒸気を第1表面2a側から測定領域Rにあてることにより、マトリックスを再結晶化してもよい。或いは、図8の(a)に示される工程の後且つ図8の(b)に示される工程の前に、エアブラシ、スプレイヤー等を用いて、マトリックス材料を含む溶液を測定領域Rに塗布してもよい。いずれの場合にも、質量分析装置10における試料イオンS2の検出感度を向上させることができる。
以上、説明したように、試料支持体1では、基板2の第2表面2bが試料Sに接触するように試料S上に試料支持体1が配置されると、マトリックス結晶層8が複数の貫通孔2cと外部とを連通する隙間を含んでいるため、試料Sの成分S1が、毛細管現象によって第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に移動すると共にマトリックスと混合することになる。この状態で、導電層4に電圧が印加されつつ第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されると、第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1及びマトリックスにエネルギーが伝達されて、試料Sの成分S1がマトリックスと共にイオン化される。これにより、高分子量の試料Sの成分S1を確実にイオン化することができる。このとき、試料Sの成分S1が、第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に移動するため、基板2の第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1においては、試料Sの位置情報(試料Sを構成する分子の二次元分布情報)が維持されている。この状態で、導電層4に電圧が印加されつつ第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されるため、試料Sの位置情報が維持されつつ試料Sの成分S1がイオン化される。これにより、イメージング質量分析における画像の解像度を向上させることができる。よって、試料支持体1は、高分子量の試料Sの成分S1のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする。
また、試料支持体1では、各貫通孔2cの幅が1〜700nmであり、基板2の厚さが1〜50μmである。これにより、第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に試料Sの成分S1をスムーズに移動させることができ、適切な状態で試料Sの成分S1を第1表面2a側に留まらせることができる。
また、試料支持体1では、基板2が、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている。これにより、複数の貫通孔2cを有する基板2を容易に且つ確実に得ることができる。
また、試料支持体1の製造方法によれば、マトリックス材料の蒸着を実施することにより、上述したようなマトリックス結晶層8を容易に且つ確実に得ることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、導電層4は、少なくとも基板2の第1表面2a上に設けられていればよい。つまり、導電層4は、基板2の第1表面2a上に設けられていれば、基板2の第2表面2b上及び各貫通孔2cの内面上に設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。また、マトリックス結晶層8は、図9に示されるように、基板2の第2表面2b上(基板2の第2表面2bのうち、少なくとも測定領域Rに対応する領域上)に設けられていてもよい。つまり、マトリックス結晶層8は、導電層4上及び基板2の第2表面2b上の少なくとも一方に設けられていればよい。また、テープ7は、試料支持体1の一部であってもよい。テープ7が試料支持体1の一部である場合(すなわち、試料支持体1がテープ7を備える場合)には、例えば、テープ7は、基板2の周縁部において第1表面2a側に予め固定されていてもよい。
また、試料支持体1では、基板2が導電性を有しており、導電層4が基板2に設けられておらず、マトリックス結晶層8が、基板2の第1表面2a上及び第2表面2b上の少なくとも一方に設けられていてもよい。そのような試料支持体1の製造方法では、導電性の基板2を用意し、マトリックス材料の蒸着によって、基板2の第1表面2a上及び第2表面2b上の少なくとも一方に、マトリックス結晶層8を設ければよい。また、そのような試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法では、基板2に電圧を印加すればよい。そのような試料支持体1によれば、試料支持体1において導電層4を省略することができると共に、上述した導電層4を備える試料支持体1と同様の効果を得ることができる。
また、次のようなイオン化法及び質量分析方法を実施してもよい。まず、図10の(a)に示されるように、第1表面2a上にフレーム3及び導電層4が設けられた基板2を用意する。続いて、スライドグラス6上に試料Sを配置し、基板2の第2表面2bが試料Sに接触するように、試料S上に基板2を配置する。続いて、マトリックス材料の蒸着によって、導電層4上にマトリックス結晶層8を設ける。このとき、マトリックス結晶層8が、複数の貫通孔2cと外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される。続いて、図10の(b)に示されるように、スライドグラス6と基板2との間に試料Sが配置された状態で、導電層4に電圧を印加しつつ第1表面2aに対してレーザ光Lを照射することにより、第2表面2b側から複数の貫通孔2cを介して第1表面2a側に移動した試料Sの成分S1をマトリックスと共にイオン化し、試料イオンS2を検出する。
このイオン化法及び質量分析方法によれば、マトリックス材料の蒸着を実施することにより、上述したようなマトリックス結晶層8を容易に且つ確実に得ることができる。よって、このイオン化法及び質量分析方法は、高分子量の試料Sの成分S1のイオン化及びイメージング質量分析における画像の解像度の向上を可能にする。なお、このイオン化法及び質量分析方法においても、導電性を有し且つ第1表面2a上に導電層4が設けられていない基板2を用いてもよい。その場合には、マトリックス材料の蒸着によって、基板2の第1表面2a上にマトリックス結晶層8を設ければよい。
また、上述したイオン化法及び質量分析方法では、テープ7以外の手段(例えば、接着剤、固定具等を用いる手段)で、スライドグラス6に試料支持体1が固定されてもよい。また、上述したイオン化法及び質量分析方法においては、スライドグラス6の載置面6a及びテープ7を介さずに導電層4又は導電性の基板2に電圧を印加してもよい。その場合、スライドグラス6及びテープ7は、導電性を有していなくてもよい。また、試料Sは、質量分析装置10の支持部12に直接配置されてもよい。その場合には、質量分析装置10の支持部12が載置部に相当する。
また、質量分析装置10において、レーザ光照射部13が、測定領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを一括で照射し、イオン検出部15が、当該領域の二次元情報を維持しながら、試料イオンS2を検出してもよい。つまり、質量分析装置10は、投影型質量分析装置であってもよい。また、上述したイオン化法は、試料Sを構成する分子の二次元分布を画像化するイメージング質量分析だけでなく、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
また、試料支持体1の用途は、レーザ光Lの照射による試料Sのイオン化に限定されない。試料支持体1は、レーザ光、イオンビーム、電子線等のエネルギー線の照射による試料Sのイオン化に用いることができる。上述したイオン化法及び質量分析方法では、エネルギー線の照射によって試料Sをイオン化することができる。なお、その場合には、マトリックス材料として、使用するエネルギー線を吸収する有機化合物が用いられる。
また、上述したイオン化法及び質量分析方法では、試料Sが含水試料(例えば、生体の凍結切片等)であったが、試料Sは乾燥試料であってもよい。つまり、試料支持体1は、含水試料だけでなく、乾燥試料にも用いることができる。試料Sが乾燥試料である場合には、図7の(b)に示される工程に続いて、エアブラシ、スプレイヤー等を用いて、有機溶媒を測定領域Rに塗布すればよい。これにより、マトリックス結晶層8における隙間及び基板2における複数の貫通孔2cを介して有機溶媒が試料Sに到達するため、試料Sの成分S1を基板2の第1表面2a側に移動させて、マトリックスと混合した成分S1を基板2の第1表面2a側に留まらせることができる。なお、有機溶媒の塗布後且つ図8の(b)に示される工程の前に、エアブラシ、スプレイヤー等を用いて、マトリックス材料を含む溶液を測定領域Rに塗布してもよい。それにより、質量分析装置10における試料イオンS2の検出感度を向上させることができる。
1…試料支持体、2…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、2c…貫通孔、4…導電層、6…スライドグラス(載置部)、8…マトリックス結晶層、L…レーザ光(エネルギー線)、S…試料、S1…成分。

Claims (9)

  1. 試料のイオン化用の試料支持体であって、
    第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する基板と、
    前記第1表面上に設けられた導電層と、
    前記導電層上及び前記第2表面上の少なくとも一方に設けられたマトリックス結晶層と、を備え、
    前記マトリックス結晶層は、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている、試料支持体。
  2. 前記複数の貫通孔のそれぞれの幅は、1〜700nmであり、
    前記基板の厚さは、1〜50μmである、請求項1に記載の試料支持体。
  3. 前記基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている、請求項1又は2に記載の試料支持体。
  4. 試料のイオン化用の試料支持体であって、
    第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板と、
    前記第1表面上及び前記第2表面上の少なくとも一方に設けられたマトリックス結晶層と、を備え、
    前記マトリックス結晶層は、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成されている、試料支持体。
  5. 試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、
    第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有し、前記第1表面上に導電層が設けられた基板を用意する工程と、
    マトリックス材料の蒸着によって、前記導電層上及び前記第2表面上の少なくとも一方にマトリックス結晶層を設ける工程と、を備え、
    前記マトリックス結晶層を設ける前記工程においては、前記マトリックス結晶層が、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される、試料支持体の製造方法。
  6. 試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、
    第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板を用意する工程と、
    マトリックス材料の蒸着によって、前記第1表面上及び前記第2表面上の少なくとも一方に、マトリックス結晶層を設ける工程と、を備え、
    前記マトリックス結晶層を設ける前記工程においては、前記マトリックス結晶層が、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される、試料支持体の製造方法。
  7. 第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有し、前記第1表面上に導電層が設けられた基板を用意する工程と、
    載置部上に試料を配置し、前記第2表面が前記試料に接触するように、前記試料上に前記基板を配置する工程と、
    マトリックス材料の蒸着によって、前記導電層上にマトリックス結晶層を設ける工程と、
    前記載置部と前記基板との間に前記試料が配置された状態で、前記導電層に電圧を印加しつつ前記第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記第2表面側から前記複数の貫通孔を介して前記第1表面側に移動した前記試料の成分をマトリックスと共にイオン化する工程と、を備え、
    前記マトリックス結晶層を設ける前記工程においては、前記マトリックス結晶層が、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される、イオン化法。
  8. 第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面、並びに、前記第1表面及び前記第2表面のそれぞれに開口する複数の貫通孔を有する導電性の基板を用意する工程と、
    載置部上に試料を配置し、前記第2表面が前記試料に接触するように、前記試料上に前記基板を配置する工程と、
    マトリックス材料の蒸着によって、前記第1表面上にマトリックス結晶層を設ける工程と、
    前記載置部と前記基板との間に前記試料が配置された状態で、前記基板に電圧を印加しつつ前記第1表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記第2表面側から前記複数の貫通孔を介して前記第1表面側に移動した前記試料の成分をマトリックスと共にイオン化する工程と、を備え、
    前記マトリックス結晶層を設ける前記工程においては、前記マトリックス結晶層が、前記複数の貫通孔と外部とを連通する隙間を含むように、複数のマトリックス結晶粒によって形成される、イオン化法。
  9. 請求項7又は8に記載のイオン化法が備える工程と、
    イオン化された前記成分を検出する工程と、を備える、質量分析方法。
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