JP2023107687A - α-ガラクトシダーゼ及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】MYORG遺伝子がコードする糖加水分解酵素およびその利用を提供する。【解決手段】以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含むα-ガラクトシダーゼ剤を提供する。(a)特定のアミノ酸配列を有するタンパク質(b)前記特定のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質(c)前記特定のアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質【選択図】なし
Description
本明細書は、新規なα-ガラクトシダーゼ及びその利用に関する。
ヒトMYORG遺伝子は、筋分化に伴い発現が上昇する遺伝子として知られている(非特許文献1)。また、MYORG遺伝子の変異が、突発性基底核石灰化症を引き起こすことが知られている(非特許文献2)。当該石灰化症の症状は、無症状からパーキンソン症状など錐体街路症状、小脳症状、精神症状、認知症症状など多様である。
MYORG遺伝子がコードするタンパク質は、糖加水分解酵素と相同性を有していることは報告されている(非特許文献3)。
BMC Cell Biology 2006, 7:38
Annals of Clinical and Translational Neurology 2019; 6(1): 106-113
Jornal of Biological Chemistry, 284, 29666-76, 2009
しかしながら、MYORGが具体的にどのような糖加水分解酵素であるかは、未だ報告されておらず、筋分化異常症や突発性基底核石灰化症の検討からも、MYORG遺伝子がコードするタンパク質がどのような糖加水分解酵素であるかを推測できるまでには至っていない。
本明細書は、MYORG遺伝子がコードするタンパク質が、N型糖鎖のα-ガラクトースを分解するα-ガラクトシダーゼであることを新たに見出したことに基づき、MYORG遺伝子又は当該遺伝子がコードするα-ガラクトシダーゼ及びその利用を提供する。
本発明者らは、糖鎖の生合成酵素や分解酵素につき検討している中で、MYORG遺伝子に着目した。本発明者らは、キシロースとグルクロン酸との繰り返し構造の合成不全によって発症する、筋ジストロフィーの糖鎖異常の原因遺伝子として、MYORG遺伝子に着目した。しかしながら、MYORGタンパク質は、キシロースとグルクロン酸との繰り返し構造の分解には関わっていなかった。そこで、MYORGタンパク質につき、さらに他の糖鎖の分解活性について検討したところ、α-ガラクトシダーゼ活性を有すること、及び、ガラクトースにα-1,3で結合した末端α-ガラクトースのグリコシド結合を分解するという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
[1]以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含むα-ガラクトシダーゼ剤。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[2]前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性は、少なくとも、Gal-α-pNP及びGalα1-3Galβ-MPのα-グリコシド結合を分解してガラクトース(Gal)を遊離する活性である、[1]に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
[3]前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性の至適pHが、5.0以上6.5以下である、[1]又は[2]に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
[4]α-ガラクトシダーゼを生産するための遺伝子構築物又は形質転換ベクターであるα-ガラクトース発現剤であって、
[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質をコードするDNAを備える、α-ガラクトシダーゼ発現剤。
[5][4]に記載のα-ガラクトシダーゼ発現剤によって形質転換された形質転換細胞。
[6]α-ガラクトシダーゼの生産方法であって、
[5]に記載の細胞を準備する工程と、
前記細胞を培養して前記α-ガラクトシダーゼを生産する工程と、
を備える、生産方法。
[7]糖鎖含有化合物を、以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程を備える、糖鎖の処理方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[8]前記糖鎖含有化合物は、糖タンパク質である、[7]に記載の処理方法。
[9]前記処理工程は、被験化合物の使用を伴う工程であり、さらに、前記α-ガラクトシダーゼ活性が前記被験化合物により変化するかどうかを評価する評価工程を備える、[7]又は[8]に記載の処理方法。
[10]前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の減少を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現増強による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、[9]に記載の方法。
[11]前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の増強を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現低下による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、[9]に記載の処理方法。
[12]MYORG遺伝子の作用の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の発現を増強又は減少させた細胞において、前記タンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を評価する工程、を備える、評価方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[13]糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、非還元末端にα-1,3-グリコシド結合でガラクトースを備える糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって生じるガラクトース残基及び/又はガラクトース酸残基脱離物を回収する工程と、
を備える、生産方法。
[14]α-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、評価方法。
[15]糖鎖特性の決定方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、糖鎖含有化合物である被験化合物を処理する処理工程と、
処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、糖鎖特性の決定方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[16][1]~[3]のいずれかに記載のα-ガラクトシダーゼを有効成分とする、突発性基底核石灰化症の予防又は治療剤。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[2]前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性は、少なくとも、Gal-α-pNP及びGalα1-3Galβ-MPのα-グリコシド結合を分解してガラクトース(Gal)を遊離する活性である、[1]に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
[3]前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性の至適pHが、5.0以上6.5以下である、[1]又は[2]に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
[4]α-ガラクトシダーゼを生産するための遺伝子構築物又は形質転換ベクターであるα-ガラクトース発現剤であって、
[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質をコードするDNAを備える、α-ガラクトシダーゼ発現剤。
[5][4]に記載のα-ガラクトシダーゼ発現剤によって形質転換された形質転換細胞。
[6]α-ガラクトシダーゼの生産方法であって、
[5]に記載の細胞を準備する工程と、
前記細胞を培養して前記α-ガラクトシダーゼを生産する工程と、
を備える、生産方法。
[7]糖鎖含有化合物を、以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程を備える、糖鎖の処理方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[8]前記糖鎖含有化合物は、糖タンパク質である、[7]に記載の処理方法。
[9]前記処理工程は、被験化合物の使用を伴う工程であり、さらに、前記α-ガラクトシダーゼ活性が前記被験化合物により変化するかどうかを評価する評価工程を備える、[7]又は[8]に記載の処理方法。
[10]前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の減少を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現増強による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、[9]に記載の方法。
[11]前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の増強を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現低下による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、[9]に記載の処理方法。
[12]MYORG遺伝子の作用の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の発現を増強又は減少させた細胞において、前記タンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を評価する工程、を備える、評価方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[13]糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、非還元末端にα-1,3-グリコシド結合でガラクトースを備える糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって生じるガラクトース残基及び/又はガラクトース酸残基脱離物を回収する工程と、
を備える、生産方法。
[14]α-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、評価方法。
[15]糖鎖特性の決定方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、糖鎖含有化合物である被験化合物を処理する処理工程と、
処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、糖鎖特性の決定方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
[16][1]~[3]のいずれかに記載のα-ガラクトシダーゼを有効成分とする、突発性基底核石灰化症の予防又は治療剤。
本明細書は、新規なα-ガラクトシダーゼ及びその使用方法等を提供する。本明細書に開示される上記(a)のタンパク質、すなわち、配列番号2で表されるタンパク質(以下、本タンパク質ともいう。)は、MYORG遺伝子がコードするタンパク質であって、グリコシドの加水分解活性を有することが推定されていたが、その正確な活性や基質は知られていなかった。
ヒトにおいては、α-ガラクトシダーゼ(ファブリー病の原因であるα-ガラクトースAとして知られ、ファブリー病の治療剤として用いられているα-ガラクトシダーゼであって、末端ガラクトースのα(1→4)グリコシド結合を加水分解する。)が既に知られている。本タンパク質は、こうしたα-ガラクトシダーゼとは異なるα-ガラクトース活性を有する新規なα-ガラクトシダーゼである。本タンパク質は、末端ガラクトースのα(1→3)グリコシド結合を加水分解するα-ガラクトシダーゼ活性を有している。
上記(a)~(c)で規定される本タンパク質等は、配列番号2で表されるアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列と一定以上の同一性又は一定数以下の変異を含むアミノ酸配列を有している。配列番号2で表されるアミノ酸配列で特定されるタンパク質は、CAZy(Carbohydrate active enzymes、http://www.cazy.org/)上でアミノ酸配列の類似性によりGH31に分類されていた。しかしながら、これまで、そのグリコシダーゼ活性については全く報告されておらず、また、既知のα-ガラクトシダーゼとは配列同一性も確認できず、α-ガラクトシダーゼと推測することは極めて困難であった。
本タンパク質及び本タンパク質と同等に扱うことができる上記(b)及び(c)のタンパク質(以下、これらを本タンパク質等ともいう。)は、例えば、動物の筋形成の研究のための試薬、MYORG遺伝子の発現増強や発現低下等に起因すると考えられる疾患や症状の発症機構やターゲットとなる化合物、医薬化合物候補を研究し、探索するのに有利である。
さらに例えば、本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ剤としての使用は、α-ガラクトシダーゼによる糖鎖分解産物の生産方法、α-ガラクトシダーゼによる糖鎖特性の決定、α-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価、α-ガラクトシダーゼ発現や生産等に有用である。さらに例えば、本タンパク質等α-ガラクトシダーゼ剤としての使用は、MYORG遺伝子が関連すると考えられる筋形成や、MYORG遺伝子が関連すると考えられる疾患や症状の予防や治療の研究にも有用である。
本タンパク質等によるα-ガラクトシダーゼ活性は、哺乳動物において初めて見出されたものである。このため、これまでにない糖鎖の構造解析ほか本タンパク質をコードするMYORG遺伝子が関連するとされている筋分化異常症や突発性基底核石灰化症や、その他の糖鎖関連疾患等について種々の知見を得ることができる。
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された「α-ガラクトシダーゼ及びその利用」を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
なお、本明細書において、「以上」の語は、下限として以上のほか、超としての意義を有する。また、「以下」の語は、上限値として以下のほか、未満の意義を有する。したがって、「以上」及び「以下」として記載される範囲は、以上及び以上のほか、超及び以下、超及び未満、以上及び未満の意義を有する。
(α-ガラクトシダーゼ剤)
本明細書に開示されるα-ガラクトシダーゼ剤は、本タンパク質等、配列番号2で表されるアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列に対して一定以上の同一性を有するアミノ酸配列及び一定個数以下のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を含有している。配列番号2で表されるアミノ酸配列は、α-ガラクトシダーゼをコードしている。α-ガラクトシダーゼは、少なくとも、糖鎖末端にα-O-グリコシド結合によって結合したガラクトースを、O-グリコシド結合の加水分解により遊離させる酵素である。また、α-ガラクトシダーゼ活性とは、糖鎖末端にα-O-グリコシド結合によって結合したガラクトースを、O-グリコシド結合の加水分解により遊離させる活性をいう。
本明細書に開示されるα-ガラクトシダーゼ剤は、本タンパク質等、配列番号2で表されるアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列に対して一定以上の同一性を有するアミノ酸配列及び一定個数以下のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を含有している。配列番号2で表されるアミノ酸配列は、α-ガラクトシダーゼをコードしている。α-ガラクトシダーゼは、少なくとも、糖鎖末端にα-O-グリコシド結合によって結合したガラクトースを、O-グリコシド結合の加水分解により遊離させる酵素である。また、α-ガラクトシダーゼ活性とは、糖鎖末端にα-O-グリコシド結合によって結合したガラクトースを、O-グリコシド結合の加水分解により遊離させる活性をいう。
本タンパク質等は、以下の(a)~(c)からなる群から選択される1種又は2種以上のタンパク質である。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、例えば、ヒトにおいては、配列番号1で表される塩基配列によってコードされている。
本明細書において、同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(例えば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschul SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))やUniProtKBのアライメント機能を利用し決定することができる。BLASTやUniProt KBのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いることができる。
上記(b)において規定するように、本タンパク質等は、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有することができるが、例えば、同91%以上、また例えば、同92%以上、また例えば、同93%以上、また例えば、同94%以上、また例えば、同95%以上、また例えば、同96%以上、また例えば、同97%以上、同98%以上、また例えば、同99%以上、また例えば同99.5%以上、また例えば、同999.8%以上、また例えば、同99.9%以上である。
なお、本タンパク質等については、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、例えば、70%以上、また例えば、75%以上、また例えば、80%以上、また例えば、85%以上などであっても、α-ガラクトシダーゼを有するタンパク質を本タンパク質等に含まれうる。
上記(c)において規定するように、本タンパク質等は、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1個以上70個以下のアミノ酸の変異を有するものであってもよい。アミノ酸の変異は、置換、挿入、欠失及及び付加から選択される1種又は2種以上である。また、変異数は、1個以上70個以下であるが、例えば、60個以下であり、また例えば、50個以下であり、また例えば、40個以下であり、また例えば、30個以下であり、また例えば、20個以下であり、また例えば、15個以下であり、また例えば、10個以下であり、また例えば、8個以下であり、また例えば、6個以下であり、また例えば、4個以下であり、また例えば、3個以下であり、また例えば、2個以下であり、また例えば、1個以下である。
なお、変異個所は、特に限定するものではないが、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、例えば、441位など、MYORG遺伝子の変異と疾患との関係が判明している部位以外において変異していることが好適な場合がある。
また、変異体の態様としては、特に限定するものではないが、アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
(α-ガラクトシダーゼ活性)
本タンパク質等が有するα-ガラクトシダーゼ活性は、少なくとも、例えば、以下(1)~(2)のいずれか1つ以上で評価することができる。
(1)Gal-α-pNP(パラニトロフェニル)を基質として、Galを遊離する
(2)Galα1-3Galβ-MP(メトキシフェニル)を基質として、Galを遊離する
本タンパク質等が有するα-ガラクトシダーゼ活性は、少なくとも、例えば、以下(1)~(2)のいずれか1つ以上で評価することができる。
(1)Gal-α-pNP(パラニトロフェニル)を基質として、Galを遊離する
(2)Galα1-3Galβ-MP(メトキシフェニル)を基質として、Galを遊離する
上記(1)及び(2)の基質は、合成基質の1つであり、他のラベルを用いた他の合成基質を用いてもよい。こうした種々の合成基質は商業的に入手可能である。本タンパク質等と、基質とを、例えば、pH5.0以上6.0以下で、約37℃で数時間から24時間以下の範囲で反応させ、遊離したラベル(例えば、pNP又はMP)を含む画分を採取して、当該ラベルの発色反応後の吸光度ないしシグナル強度を測定し、吸光度やシグナル強度に応じて、ガラクトースの遊離量及びα-ガラクトシダーゼ活性を評価することができる。必要に応じて、発色基部分の濃度とシグナル強度との関係について検量線を取得しておくこともできる。
なお、本タンパク質等が有するα-ガラクトシダーゼ活性は、さらに、他の結合様式でα-グリコシド結合で結合したガラクトースを遊離させる活性がある場合がある。
一方、本タンパク質等が有するα-ガラクトシダーゼ活性は、ガラクトースの3位に他の単糖が結合したGalα1,3-o-グリコシド結合を分解することができない場合がある。例えば、Gal-α-1,3-(Fuc-α-1,2)Gal―2AB(2-アミノベンゼンアミド)に作用してガラクトースを遊離させることができない。また、本タンパク質等は、例えば、Galα1,4Galβ1-4Glcβ-MPを分解することができないなど、Galα1,4-o-グリコシド結合を分解することができない場合がある。
本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性の、例えば、Gal-α-pNPを基質としたo-グリコシド結合の加水分解反応の最適pHは、5.0以上6.5以下である。また例えば、5.0以上6.0以下である。最適pHは、後述する実施例に開示する条件において測定することができる。
本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性の最適温度は、例えば、30℃以40℃以下である。例えば、Gal-α―pNPを基質として用いるとき、上記のような温度範囲である場合がある。最適温度は、後述する実施例に開示する条件において測定することができる。
本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性は、例えば、Gal-α―pNPを基質として用いるとき、Vmaxが60~80nM/ml/hであり、約68nM/ml/hである場合がある。また、同基質を用いるとき、Kmが35~55mMであり、約46mMである場合がある。これらの係数は、後述する実施例に開示する条件において測定することができる。
(α-ガラクトシダーゼの生産方法)
α-ガラクトシダーゼである本タンパク質等の生産方法は、特に限定するものではなく、公知のタンパク質の製造方法によって生産することができる。例えば、遺伝子工学的に、配列番号1で表される塩基配列を適宜用いて本タンパク質等を製造することができる。例えば、遺伝子工学的手法により、本タンパク質等を組換えタンパク質として取得することができる。
α-ガラクトシダーゼである本タンパク質等の生産方法は、特に限定するものではなく、公知のタンパク質の製造方法によって生産することができる。例えば、遺伝子工学的に、配列番号1で表される塩基配列を適宜用いて本タンパク質等を製造することができる。例えば、遺伝子工学的手法により、本タンパク質等を組換えタンパク質として取得することができる。
すなわち、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して一定の同一性を有するアミノ酸配列、また例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列においてアミノ酸変異を有するアミノ酸配列をコードするDNAを、合成するか又はヒト細胞又はヒト由来の細胞株から取得したDNAを鋳型DNAとしてPCR法などの公知の方法により取得する。次いで、当該DNAを、適当な宿主細胞においてタンパク質をコードする遺伝子として発現可能に構成したα-ガラクトシダーゼ発現剤としてのDNAコンストラクトとして準備し、宿主細胞を形質転換する。当該宿主細胞を培養することで、α-ガラクトシダーゼを生産することができる。
なお、配列番号2で表されるアミノ酸配列と一定の同一性や1以上のアミノ酸変異を有するタンパク質は、例えば、前記アミノ酸配列とコードするDNA又はその相補鎖の少なくとも一部をプローブとして用いたハイブリダイゼーション、エラープローンPCRや公知の変異導入方法に従い取得することができる。こうしたタンパク質については、そのアミノ酸配列及びα-ガラクトシダーゼ活性を評価することで、本タンパク質等であることを確認することができる。
α-ガラクトシダーゼ活性の発現を意図したDNAコンストラクトとしてのベクターは、使用する宿主細胞の種類を勘案して適宜選択することができる。例えば、DNAコンストラクトは、プラスミド、コスミド、ウイルス性の発現ベクターであってもよい。DNAコンストラクトは、また、宿主細胞内で複製可能であってもよいし、宿主染色体に組み込まれて複製可能に構成されていてもよい。DNAコンストラクトは、適宜、商業的に入手可能な種々のプラスミドなどを用いて構築することができる。
DNAコンストラクトは、遺伝子発現に必要な種々のDNA配列、例えば、プロモーター、ターミネーター、リボゾーム結合部位、転写終結シグナルなどの転写調節信号、翻訳調節信号などを有する発現カセットであってもよい。また、DNAコンストラクトにおいては、適宜、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性遺伝子などの適宜選択マーカーを備えることができる。以上のような、遺伝子工学的な手法については、当業者であれば、例えば、適宜、Molecular Cloning: A Laboratory Manualに記載の方法に準じて行なうことができる。
形質転換し培養する宿主細胞としては、特に限定するものではなく、公知の宿主細胞を用いることができる。例えば、大腸菌、枯草菌等の細菌、カンディダ・ウチリス(Candida utilis)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccaromyces cerevisiae)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母以外に、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾープス・デルマー(Rhizopus delemar)や高等真核生物(例えばCHO細胞、COS-7細胞など)を用いることができる。
宿主細胞の形質転換についても、当業者であれば、例えば、適宜、Molecular Cloning: A Laboratory Manualに記載の方法に準じて行なうことができる。DNAコンストラクトによって形質転換された細胞は、本明細書に開示される形質転換細胞の一例である。
形質転換した宿主細胞の培養は、使用する宿主細胞に応じて一般的な方法を用いることができる。通常、1~4日程度の培養により細胞内または細胞外の培養物中に酵素が生成され蓄積される。培養条件(培地、pH、温度等)に関しては、例えば、細菌では25~37℃、酵母では25~30℃、真核細胞では37℃程度が一般的である。
形質転換体が産生した組み換え酵素の単離・精製は、常法に従い、公知の分離方法や精製方法を適当に組み合わせて行なうことができる。これらの分離・精製方法は、特に限定するものではないが、例えば、塩沈殿、溶媒沈殿のような溶解性の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過およびドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリル電気泳動(SDS-PAGE)のような分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィのような電荷の差を利用する方法、疎水クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィのような疎水性の差を利用する方法、さらに等電点電気泳動のような等電点の差を利用する方法、このほかにアフィニティクロマトグラフィ等が挙げられる。実施例に記載した生成方法のほかに、一般的な分離・精製法に関しては当業者において周知である。
(本タンパク質等の利用)
本タンパク質等は、そのα-ガラクトシダーゼ活性を利用して、糖鎖含有化合物の処理、糖鎖特性の決定及び糖鎖分解産物の生産等に利用することができる。本タンパク質等によれば、そのα-ガラクトシダーゼ活性により、種々の糖鎖に作用して、α-グリコシド結合を加水分解して、ガラクトースを遊離させて取得したり、ガラクトースを脱離させた糖鎖を調製したり、脱離したガラクトースの解析により糖鎖特性を決定したりできる。また、ガラクトースの遊離前と、ガラクトース遊離後の糖鎖含有化合物の生理的機能の相違から、ガラクトース修飾の意義について新たな知見を得ることができる。
本タンパク質等は、そのα-ガラクトシダーゼ活性を利用して、糖鎖含有化合物の処理、糖鎖特性の決定及び糖鎖分解産物の生産等に利用することができる。本タンパク質等によれば、そのα-ガラクトシダーゼ活性により、種々の糖鎖に作用して、α-グリコシド結合を加水分解して、ガラクトースを遊離させて取得したり、ガラクトースを脱離させた糖鎖を調製したり、脱離したガラクトースの解析により糖鎖特性を決定したりできる。また、ガラクトースの遊離前と、ガラクトース遊離後の糖鎖含有化合物の生理的機能の相違から、ガラクトース修飾の意義について新たな知見を得ることができる。
(糖鎖含有化合物の処理方法)
本明細書に開示される糖鎖の処理方法は、本タンパク質等を準備する工程と、糖鎖含有化合物を、本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程、すなわち、α-グリコシド結合を加水分解してガラクトースを遊離するように処理する工程を備えることができる。かかる処理工程により、糖鎖含有化合物が、α-ガラクトシダーゼの基質になりえるときは、α-グリコシド結合が加水分解され、ガラクトースが遊離され、糖鎖含有化合物が、α-ガラクトシダーゼの基質になりえないときには、加水分解はされず、ガラクトースは遊離されない。
本明細書に開示される糖鎖の処理方法は、本タンパク質等を準備する工程と、糖鎖含有化合物を、本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程、すなわち、α-グリコシド結合を加水分解してガラクトースを遊離するように処理する工程を備えることができる。かかる処理工程により、糖鎖含有化合物が、α-ガラクトシダーゼの基質になりえるときは、α-グリコシド結合が加水分解され、ガラクトースが遊離され、糖鎖含有化合物が、α-ガラクトシダーゼの基質になりえないときには、加水分解はされず、ガラクトースは遊離されない。
本タンパク質等を準備する工程は、本タンパク質等そのものを準備する工程のほか、本タンパク質等を発現可能な発現剤を準備し、本タンパク質等を発現するように遺伝子工学的に操作された細胞や組織等を準備する工程であってもよい。発現剤や形質転換細胞については既に説明したとおりである。
処理工程は、糖鎖含有化合物と本タンパク質等とを、本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を発揮可能な条件である液性媒体中や生理学的条件下で接触させることにより、そのα-ガラクトシダーゼ活性によりガラクトースを遊離させることができる。処理工程は、インビトロ及びヒト以外の生体内にて行うことができる。インビトロでの処理工程は、ヒトを含む動物の細胞やその他の培養細胞を用いる工程であってもよい。遊離した状態の糖鎖含有化合物を本タンパク質等で処理するほか、細胞表層に存在する糖鎖含有化合物を本タンパク質等で処理することを含む。
本明細書において、「糖鎖」とは、単糖がグリコシド結合によって他の糖又は有機化合物に結した化合物をいう。糖鎖含有化合物とは、かかる糖鎖からなる化合物のほか、かかる糖鎖が他の化合物と結合した化合物をいい、例えば、タンパク質と糖鎖とが結合した糖タンパク質、脂質と糖鎖が結合した糖脂質及びプロテオグリカンなどの複合糖質が挙げられる。
ここで、糖タンパク質は、タンパク質を構成するアミノ酸の一部に1又は2以上の糖鎖が結合したものである。糖鎖は、概して、数本~数十本であり、主として細胞膜タンパク質や分泌タンパク質である。糖鎖が結合するアミノ酸は、典型的には、アスパラギン(N型糖鎖)、セリン及びスレオニン(O型糖鎖)が挙げられる。また、糖タンパク質を構成する糖鎖の構成単糖としては、ガラクトース、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、Neu5Ac及びキシロースなどが挙げられる。
プロテオグリカンとしては、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸などの100~200程度の単糖からなる糖鎖を有し、グリコサミノグリカンがタンパク質に結合した複合体をいう。糖鎖は、二糖の繰り返し構造を概して備える。プロテオグリカンは、典型的には、線維タンパク質間を充填するように存在している。
糖脂質としては、糖鎖が結合した脂質をいい、糖とグリセリンとのエーテル結合を含むグリセロ糖脂質と糖とスフィンゴシンとのグリコシド結合を含むスフィンゴ糖脂質とに大別される。スフィンゴ糖脂質は、糖としてヘキソース1分子をもつ単純なセレブロシドのほか、ガラクトース、グルコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、フコースなどのヘキソース糖やシアル酸を含むガングリオシド、硫酸化糖を含むスルファチドなどがある。
処理工程に供される糖鎖含有化合物としては、特に限定するものではないが、糖タンパク質や糖脂質はガラクトースを含む場合が多いため、かかる複合糖質の処理に本剤は有用である場合がある。
処理工程における反応濃度は、本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性が安定的に発揮される温度域であれば特に限定するものではないが、例えば、30℃以上40℃以下又はこれらの近傍とすることができる。また、処理工程におけるpHは、本タンパク質等が安定的に作用するpH域であれば特に限定するものではないが、例えば、pH5.0以上6.5以下又はこれらの近傍とすることができる。
また、処理工程における反応温度は、反応時間の全体を通して一定である必要はなく、反応時間の初期に併用するその他の酵素の活性を高めることが望ましい場合には、その酵素の活性が高くなる温度域に、反応初期の温度を設定し、反応時間の中期や後期には、本発明の酵素の活性が高くなる温度域に温度を設定するなど、適宜調整することができる。
処理工程における反応時間は、反応温度や基質の濃度、その他の酵素を併用する場合には使用する酵素の活性等を考慮して適宜決定できる。本タンパク質等を利用する場合には、特に限定するものではないが、例えば、10分間~24時間以下の範囲で適宜設定することができる。
処理工程後には、α-ガラクトシダーゼ活性を評価する評価工程を備えることができる。α-ガラクトシダーゼ活性に関しては、特に限定しないで、種々の評価方法が採用できる。例えば、α-ガラクトシダーゼ活性の評価は、遊離したガラクトースを直接又は間接的に検出する種々の公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ガラクトースを間接的に検出する方法としては、ガラクトースのグリコシド結合の分解に由来して発光ないし蛍光を発生する糖鎖含有化合物を利用できる。また、ガラクトースを直接検出する方法としては、例えば、処理工程後の反応液中のガラクトースを、各種マススペクトロメトリ、各種のクロマトグラフィ、各種NMR、各種電気泳動により分離同定する工程とすることができる。なお、分離同定に先立って、あるいは同時に、分離後に、遊離したガラクトースを、蛍光標識などのシグナル要素が付加された又は付加可能に形成されたレクチンや特異的抗体と結合させてもよい。こうした、糖鎖のフィンガープリントについては、適宜公知の手法を適用することができる。
本処理方法においては、適宜、本タンパク質等以外のガラクトシダーゼ、他のグリコシダーゼ、例えば、シアリダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、フコシダーゼ、マンノシダーゼなどのエキソグリコシダーゼから選択される1種又は2種以上を同時にあるいは順次処理することもできる。
本処理方法において、処理工程は、被験化合物の使用を伴う工程とすることができる。この場合、さらに、α-ガラクトシダーゼ活性が被験化合物により変化するかどうかを評価する評価工程を備えることができる。こうすることで、被験化合物が本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性へ及ぼす作用を取得できる。
例えば、評価工程で、被験化合物がα-ガラクトシダーゼ活性の減少を肯定的に評価できたとき、当該被験化合物は、MYORG遺伝子の発現増強による疾患の予防又は治療剤の候補化合物とすることができる。また、評価工程で、α-ガラクトシダーゼ活性の増強を肯定的に評価できたとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現低下による疾患の予防又は治療剤の候補化合物とすることができる。すなわち、MYORG遺伝子関連疾患の予防又は治療剤の候補化合物のスクリーニング方法として実施できる。MYORG遺伝子の発現低下による疾患としては、筋分化異常症や突発性基底核石灰化症等が挙げられる。
なお、こうした評価工程で、被験化合物の作用を取得することで、MYORG遺伝子やα-ガラクトシダーゼが関わる筋形成や種々の糖鎖修飾に関する医学的な種々の知見を取得できる。
(MYORG遺伝子の作用の評価方法)
本明細書に開示されるMYORG遺伝子の作用の評価方法は、例えば、遺伝子工学的に本タンパク質等の発現を増強又は低下させた細胞において、本タンパク質等によるα-ガラクトシダーゼ活性を評価する工程を備えることができる。こうすることで、MYORG遺伝子の増強又は低下の直接的な評価が可能となる。また、被験化合物の使用を伴ってかかる評価工程を実施することで、被験化合物がMYORG遺伝子関連疾患の予防又は治療剤の候補化合物となりうるかどうかのスクリーニング方法として実施することもできる。
本明細書に開示されるMYORG遺伝子の作用の評価方法は、例えば、遺伝子工学的に本タンパク質等の発現を増強又は低下させた細胞において、本タンパク質等によるα-ガラクトシダーゼ活性を評価する工程を備えることができる。こうすることで、MYORG遺伝子の増強又は低下の直接的な評価が可能となる。また、被験化合物の使用を伴ってかかる評価工程を実施することで、被験化合物がMYORG遺伝子関連疾患の予防又は治療剤の候補化合物となりうるかどうかのスクリーニング方法として実施することもできる。
(糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法)
本明細書に開示される糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法(以下、本生産方法ともいう。)は、糖鎖含有化合物を本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する処理工程と、前記処理工程によって生じるガラクトース及び/又はガラクトース脱離物を回収する回収工程と、を備えることができる。
本明細書に開示される糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法(以下、本生産方法ともいう。)は、糖鎖含有化合物を本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する処理工程と、前記処理工程によって生じるガラクトース及び/又はガラクトース脱離物を回収する回収工程と、を備えることができる。
本生産方法においては、非還元末端に、例えば、α-1,3-グリコシド結合でガラクトースを備える糖鎖含有化合物を準備する。かかる糖鎖含有化合物を上記のとおり本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程を実施する。本生産方法における処理工程は、既述の本処理方法における処理工程と同様の態様をとることができる。
本生産方法における回収工程は、予定される遊離ガラクトース及びガラクトース脱離物の少なくとも一部を回収する工程であればよい。これらの回収方法としては、特に限定するものではないが、アフィニティクロマトグラフィ等のクロマトグラフィを適宜用いることができる。
なお、本生産方法においても、本処理方法と同様、本タンパク質等以外のガラクトース及び各種グリコシダーゼを、同時にあるいは順次処理することもできる。そして、これらのグリコシダーゼによって遊離される残基や残存末端を、それぞれ回収することもできる。
なお、本明細書によれば、本タンパク質等を用いて、糖鎖含有化合物を処理後、残余の糖鎖末端に1又は2以上の糖転移酵素を用いて新たに糖鎖を結合する工程を備える、糖鎖の生産方法も提供される。
(α-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法)
また例えば、本タンパク質等であるα-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法としても実施できる。本タンパク質等によるα-ガラクトシダーゼ活性については、その基質特異性については更なる検討がされてもよい。したがって、種々の形態で、α-ガラクトースを非還元末端に備える糖鎖含有化合物を被験化合物として、上記処理工程を実施する。ここで糖鎖含有化合物として、α-1,3-グリコシド結合に限らず、α-1,2-グリコシド結合であっても、α-1,4-グリコシド結合であってもよく、グリコシド結合で連結される先は、ガラクトースなどの糖に限定されず種々の単糖であってもよい。評価方法は、糖鎖含有化合物は、既に説明した決定グリコシド結合の分解に由来して発光ないし蛍光を発生する糖鎖含有化合物を用いることもできる。
また例えば、本タンパク質等であるα-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法としても実施できる。本タンパク質等によるα-ガラクトシダーゼ活性については、その基質特異性については更なる検討がされてもよい。したがって、種々の形態で、α-ガラクトースを非還元末端に備える糖鎖含有化合物を被験化合物として、上記処理工程を実施する。ここで糖鎖含有化合物として、α-1,3-グリコシド結合に限らず、α-1,2-グリコシド結合であっても、α-1,4-グリコシド結合であってもよく、グリコシド結合で連結される先は、ガラクトースなどの糖に限定されず種々の単糖であってもよい。評価方法は、糖鎖含有化合物は、既に説明した決定グリコシド結合の分解に由来して発光ないし蛍光を発生する糖鎖含有化合物を用いることもできる。
この方法では、さらに、本タンパク質等による処理によって遊離したガラクトースを検出する検出工程を備えることができる。かかる工程は、既に説明したガラクトースを直接的に又は間接的に検出する公知の種々の方法を適宜採用できる。
(糖鎖特性の決定方法)
本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する処理工程と、前記タンパク質等による処理によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、を備えることができる。ここで、糖鎖特性とは、糖鎖含有化合物の有する糖鎖の構成糖の組成や順序をいう。本決定方法における処理工程は、既述の本処理方法における処理工程と同様の態様で実施することができる。また、本決定方法における検出工程は、既に説明したガラクトースを直接的に又は間接的に検出する公知の種々の方法を適宜採用できる。
本タンパク質等のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する処理工程と、前記タンパク質等による処理によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、を備えることができる。ここで、糖鎖特性とは、糖鎖含有化合物の有する糖鎖の構成糖の組成や順序をいう。本決定方法における処理工程は、既述の本処理方法における処理工程と同様の態様で実施することができる。また、本決定方法における検出工程は、既に説明したガラクトースを直接的に又は間接的に検出する公知の種々の方法を適宜採用できる。
また、さらに、本決定方法は、本タンパク質等による処理後の糖鎖化合物に糖転移酵素を作用させてその反応性や特異的抗体により、処理により露出された糖鎖末端を検出する工程を備えていてもよい。糖転移酵素としては、適宜、公知の糖転移酵素を用いることができる。
なお、本決定方法においても、本処理方法と同様、本タンパク質等以外のα-ガラクトシダーゼやβ-ガラクトシダーゼ及び各種グリコシダーゼを、同時にあるいは順次処理することもできる。そして、これらのグリコシダーゼによって遊離される残基や残存末端を、それぞれ検出して、糖鎖特性を決定することもできる。
以下、本開示を具現化した実施例について説明するが、本開示は、はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」、「部」等は質量基準である。また、操作手順は特に記載しない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook、 Maniatis ら、Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989))に記載の方法に従った。
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
(組換えヒトMYORGを発現するベクターの調製)
以下の、表1に示す組成及び条件でBio-RadのPCR装置にてPCRを実施した。
以下の、表1に示す組成及び条件でBio-RadのPCR装置にてPCRを実施した。
得られたPCR産物につき、さらに、以下の組成及び条件で、PCRを実施した。なお、プライマー(下線は、制限酵素サイトを示す。)は、各1.5μl添加した。
得られたPCR産物につき、制限酵素(HindIII & KpnI)を用いて常法に従い処理したのち、MinElute PCR purification kit (Qiagen)により精製を行った。さらに、T4 DNA Ligase (Promega) を用いて、p3xFLAG-CMV8 (Sigma)にligationし、大腸菌(コンピテントセル、DH5α、Nippon Gene)を形質転換した。
さらに、コロニPCRによるpositive cloneを選抜したのち、選抜したクローンに関し、160 mLのカルベニシリンを含むLB培地にてクローンを培養してベクターを大量調製し、精製 (NucleoBond Xtra Midi Plus, Macherey-Nagel, 740412.50)した。
(組換え型ヒトMYORGの発現と精製、SDS-PAGEとウェスタンブロッティング)
精製したベクターを、10-cm dishに播種した80%コンフルエントのアフリカミドリザル腎臓由来COS-7(JCRB細胞バンク)に対して、Lipofectamine3000 (Invitrogen, L3000-008) 10μL、発現ベクター5μgを用いて形質転換して、37℃,5%CO2条件下で3日間培養し、培養上清を回収した。培養上清につき、抗DYKDDDDK結合ビーズ(FujiFilm)を用いた免疫沈降で目的のタンパク質を精製した。取得したタンパク質につき、常法に従い、SDS-PAGE/ウェスタンブロッティングを行った。検出には、抗-DYKDDDDK-HRP (FujiFilm, clone 1E6)を用いた。結果を図1に示す。図1に示すように、意図した分子量のタンパク質を確認できた。
精製したベクターを、10-cm dishに播種した80%コンフルエントのアフリカミドリザル腎臓由来COS-7(JCRB細胞バンク)に対して、Lipofectamine3000 (Invitrogen, L3000-008) 10μL、発現ベクター5μgを用いて形質転換して、37℃,5%CO2条件下で3日間培養し、培養上清を回収した。培養上清につき、抗DYKDDDDK結合ビーズ(FujiFilm)を用いた免疫沈降で目的のタンパク質を精製した。取得したタンパク質につき、常法に従い、SDS-PAGE/ウェスタンブロッティングを行った。検出には、抗-DYKDDDDK-HRP (FujiFilm, clone 1E6)を用いた。結果を図1に示す。図1に示すように、意図した分子量のタンパク質を確認できた。
(各種のpNP-糖についてのMYORGの分解活性の評価)
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGが各種のpNP-糖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表3に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、24時間反応を行った。基質も表3に示す。
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGが各種のpNP-糖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表3に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、24時間反応を行った。基質も表3に示す。
なお、ヒト組換え型MYORGは、キシロース (Xyl)とグルクロン酸(GlcA)の二糖繰り返し構造 [-3Xylα1-3GlcAβ1-]n及びXyl-α-pNP(パラニトロフェノール)に対して分解活性を示さなかった。
各種基質のグリコシド結合の加水分解によるp-NPに基づく発色(405nm)を常法に従いマイクロプレートリーダを用いて評価した。その結果、図2に示すように、Gal-α-pNPについてのみ発色を検出し、α-グリコシド結合で結合したガラクトースに対する分解活性を確認できた。
そこで、ヒト組換え型MYORGのGal-α-pNPに対する最適pHおよびKm値を測定した。
最適pHに関しては、以下の表4に示す各種pHで評価を行った。具体的には、pHに応じた各種バッファと水(35μl)が入ったチューブにGal-α-pNP(5μl)を入れた後、タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、4.2時間反応を行った。基質についても表4に示す。
最適pHに関しては、以下の表4に示す各種pHで評価を行った。具体的には、pHに応じた各種バッファと水(35μl)が入ったチューブにGal-α-pNP(5μl)を入れた後、タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、4.2時間反応を行った。基質についても表4に示す。
反応後、反応液を遠心した。プレートリーダにチューブをセットしたのち、チューブに1MNa2CO370μLを添加し、さらに、遠心後の反応液上清30μlを添加し、405nmでpNPの吸光度を測定した。なお、Gal-α-pNPを用いた検量線も作成した。結果を図3に示す。図3に示すように、Gal-α-pNPに対するヒト組換え型MYORGの最適pHは、5.0~6.5の間、より限定的には、5.0~6.0の間であった。
さらに、MYORGのGal-α-pNPに対するVmaxおよびKm値を、以下の表5に示す組成で測定した。具体的には、バッファと水(35μl)が入ったチューブに、基質濃度に応じてGal-α-pNP(表5に示す各濃度の液を各量)を入れた後、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、1時間反応を行った。基質についても表5に示す。
反応後、反応液を遠心した。プレートリーダにチューブをセットしたのち、チューブに1MNa2CO390μLを添加し、さらに、遠心後の反応液上清10μlを添加し、405nmでpNPの吸光度を測定して、VmaxおよびKm値について解析した。なお、Gal-α-pNPを用いた検量線も作成した。その結果、Vmaxは68nM/ml/hであり、Km値は46mMであった。
(血液型糖鎖に対するMYORGの分解活性の評価)
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGがヒト血液型糖鎖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表6に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、12時間反応を行った。基質は、A型糖鎖(GalNAc-α-1,3-(Fuc-α-1,2)Gal)及びB型糖鎖(Gal-α-1,3-(Fuc-α-1,2)Gal)を用いた。
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGがヒト血液型糖鎖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表6に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、12時間反応を行った。基質は、A型糖鎖(GalNAc-α-1,3-(Fuc-α-1,2)Gal)及びB型糖鎖(Gal-α-1,3-(Fuc-α-1,2)Gal)を用いた。
各反応液は、反応後、95℃で3時間加熱後、遠心して、上清20μlをチューブに入れて、乾燥した。さらに、各反応液は、各1μlをチューブに入れて乾燥した。その後、DMSO中、0.35M 2AB(2-アミノベンズアミド;ナカライテスク)、1.0M ピコリンボラン(純正化学)、30%酢酸を含む蛍光試薬を各20μl添加し、65℃で8時間反応させた。その後、37μlの水を添加し撹拌後、500μlのクロロホルムを添加し、さらに撹拌後、遠心(1300rpm、1分、10℃)し、下層を除去した。これを合計7回繰り返した液をセントリカットに投入して、遠心(9000rpm、5分、4℃)を行った。
この処理液につき、実施例2に準じてカラムクロマトグラフィを行って、2ABを検出した。しかしながら、いずれも、MYORGによるA型糖鎖及びB型糖鎖の分解を確認できなかった。
(ターミナルGal糖鎖に対するMYORGの分解活性の評価)
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGが、ターミナルGal糖鎖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表7に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、11時間反応を行った。基質を、併せて表7に示す。基質は、いずれもMP(メトキシフェニル)基で修飾されているものを用いた。
本実施例では、実施例1で作製した組換え型ヒトMYORGが、ターミナルGal糖鎖に対して分解活性を有するかどうかを評価した。すなわち、以下の表7に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水(35μl)が入ったチューブに各基質(5μl)を入れた後、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、11時間反応を行った。基質を、併せて表7に示す。基質は、いずれもMP(メトキシフェニル)基で修飾されているものを用いた。
反応後の反応液各2μlと、0.2 M NH4HCO3115μlとを、チューブ内にて混合し、遠心(9000 rpm で5分)し、上清について以下の条件でHPLCを行い、MPを検出した。
カラム:Superdex Peptideカラム
流速:0.4mL/min
溶媒:0.2M NH4HCO3
紫外可視分光検出器:280nm
インジェクション量:100μL
取り込み時間:90分
カラム:Superdex Peptideカラム
流速:0.4mL/min
溶媒:0.2M NH4HCO3
紫外可視分光検出器:280nm
インジェクション量:100μL
取り込み時間:90分
この結果、MYORGは、Galα1-3Galβ-MPに対して分解活性を示したが、Galα1-4Galβ1-4Glcβ-MP他、Galβ-MP及びGalβ1-4Glcβ-MPに分解活性を示さなかった。
(pNP-α-Galに対するR144G MYORG変異体の分解活性の評価)
本実施例では、R441G MYORG変異体を作製し、当該変異体のpNP-αGal糖鎖に対する分解活性を評価した。
本実施例では、R441G MYORG変異体を作製し、当該変異体のpNP-αGal糖鎖に対する分解活性を評価した。
MYORGのアミノ酸配列(配列番号2)の441位のアルギニン(R)がグリシン(G)に置換された変異体を以下のとおりに作製した。なお、当該変異は、MYORGを不活性化する変異であるとされている。
(MYORG-R441G 変異体の作製)
1266 ng/μLのp3xFLAG-CMV8-hMYORG (S81-S714) #1を、10倍希釈した液中のDNAを鋳型として、以下の表8に示す組成及び条件でアンチセンスプライマーを添加し5’-PCRを行った。得られたPCR産物につき、表9及び表10に示す組成及び条件でセンスプライマーを添加し、3’-PCRを行った。
1266 ng/μLのp3xFLAG-CMV8-hMYORG (S81-S714) #1を、10倍希釈した液中のDNAを鋳型として、以下の表8に示す組成及び条件でアンチセンスプライマーを添加し5’-PCRを行った。得られたPCR産物につき、表9及び表10に示す組成及び条件でセンスプライマーを添加し、3’-PCRを行った。
得られたPCR産物につき、実施例1に準じて発現ベクターを作製し、形質転換を行い、変異体タンパク質を精製した。
(変異体のpNP-αGalに対する分解活性の評価)
以下の表11に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水と基質(40μl)が入ったチューブに、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、10時間反応を行った。
以下の表11に示す組成で、酵素活性を評価した。具体的には、酢酸バッファと水と基質(40μl)が入ったチューブに、酵素タンパク質(10μl)を加えて、37℃で、10時間反応を行った。
pNP-αGalのα-グリコシド結合の加水分解によるp-NP(パラニトロフェノール)に基づく発色(405nm)を常法に従いマイクロプレートリーダを用いて評価した。その結果、変異体は、pNP-αGalに対して分解活性を示さなかった。
Claims (15)
- 以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含むα-ガラクトシダーゼ剤。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質 - 前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性は、少なくとも、Gal-α-pNP及びGalα1-3Galβ-MPのα-グリコシド結合を分解してガラクトース(Gal)を遊離する活性である、請求項1に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
- 前記タンパク質の前記α-ガラクトシダーゼ活性の至適pHが、5.0以上6.5以下である、請求項1又は2に記載のα-ガラクトシダーゼ剤。
- α-ガラクトシダーゼを生産するための遺伝子構築物又は形質転換ベクターであるα-ガラクトース発現剤であって、
請求項1~3のいずれかに記載のタンパク質をコードするDNAを備える、α-ガラクトシダーゼ発現剤。 - 請求項4に記載のα-ガラクトシダーゼ発現剤によって形質転換された形質転換細胞。
- α-ガラクトシダーゼの生産方法であって、
請求項5に記載の細胞を準備する工程と、
前記細胞を培養して前記α-ガラクトシダーゼを生産する工程と、
を備える、生産方法。 - 糖鎖含有化合物を、以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて処理する工程を備える、糖鎖の処理方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質 - 前記糖鎖含有化合物は、糖タンパク質である、請求項7に記載の処理方法。
- 前記処理工程は、被験化合物の使用を伴う工程であり、さらに、前記α-ガラクトシダーゼ活性が前記被験化合物により変化するかどうかを評価する評価工程を備える、請求項7又は8に記載の処理方法。
- 前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の減少を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現増強による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、請求項9に記載の方法。
- 前記評価工程は、前記被験化合物により前記α-ガラクトシダーゼ活性の増強を肯定的に評価するとき、前記被験化合物は、MYORG遺伝子の発現低下による疾患の予防又は治療剤の候補化合物である、請求項9に記載の処理方法。
- MYORG遺伝子の作用の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質の発現を増強又は減少させた細胞において、前記タンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を評価する工程、を備える、評価方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質 - 糖鎖含有化合物の分解産物の生産方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、非還元末端にα-1,3-グリコシド結合でガラクトースを備える糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって生じるガラクトース残基及び/又はガラクトース酸残基脱離物を回収する工程と、
を備える、生産方法。 - α-ガラクトシダーゼの基質特異性の評価方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて糖鎖含有化合物を処理する処理工程と、
前記処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、評価方法。 - 糖鎖特性の決定方法であって、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質のα-ガラクトシダーゼ活性を用いて、糖鎖含有化合物である被験化合物を処理する処理工程と、
処理工程によって遊離したガラクトースを検出する検出工程と、
を備える、糖鎖特性の決定方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において70個以下のアミノ酸が置換、挿入、欠失及及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、α-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
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