JP6830576B2 - エンドm変異体、及びn結合型糖鎖含有化合物又はn結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、エンドM変異体、及びN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法に関する。
蛋白質を含む製剤中のペプチドや蛋白質の多くは、糖鎖を有する(以下、糖ペプチド又は糖蛋白質という)。糖蛋白質が有する糖鎖には、N結合型糖鎖やO結合型糖鎖が知られているが、中でもN−結合型糖鎖は蛋白質の機能や構造の維持に重要な影響を及ぼすことが知られている。N−結合型糖鎖は、糖鎖構造の違いから、ハイマンノース型、ハイブリット型及び複合型糖鎖に分類され、糖鎖構造の違いが、糖蛋白質自体の生理機能に影響を及ぼすことが知られている。さらに、近年では、N結合型糖鎖のコア構造と称される部位のフコース(コアフコース)の有無も、生理機能の違いに強く影響することが知られるようになった。
糖鎖構造を制御した糖蛋白質の調製方法としては、天然から分離精製して抽出する方法、遺伝子工学的手法によって改変された細胞により調製する方法が考えられる。しかし、生産性の観点からは、後者の方法かあるいは、上記で得られる糖蛋白質をさらにインビトロで行う酵素−化学的な方法によって、糖蛋白質の糖鎖を目的の糖鎖に変換する方法を組み合わせる方法が有利であると考えられる。特に糖鎖構造を厳密に制御する観点からは、酵素−化学的な方法を組み入れることが有利である。
酵素−化学的な方法は、目的の糖鎖を目的の蛋白質に、化学的に調製した糖鎖誘導体(糖鎖供与体)を酵素反応によって導入しようとするものであり、酵素反応においては、酵素の基質となる、糖鎖供与体と糖鎖受容体を必要とする。
酵素−化学的な方法としては、加水分解酵素を利用した方法が良く知られているが、これは一部の加水分解酵素が基質に対し加水分解するだけでなく、他の物質に糖鎖転移する性質を利用することによるものであり、反応条件を制御することによって、糖鎖転移反応だけを優先させることが可能であることも知られている。
糖蛋白質糖鎖のN結合型糖鎖を変換する酵素−化学的な方法としては、近年、毛カビ由来のエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼM(エンドM)により、糖鎖供与体であるN結合型糖鎖の非還元末端側の大きなオリゴ糖鎖部位を、糖鎖受容体に一度に糖鎖転移する方法が報告されている(例えば特開平7−59587号公報参照)。
また、エンドMのアミノ酸を改変した変異体(グライコシンターゼ)は、目的とするN結合型糖鎖由来の構造を含む糖鎖供与体の糖鎖を糖鎖受容体に効率よく糖鎖転移できることが報告されている(例えばUmekawa他、[J.Biol.Chem.,Vol.285(1),511−521,(2010)]参照)。
さらに、エンドMは、コアフコースを有しないN結合型糖鎖において、ハイマンノース型糖鎖、ハイブリット型糖鎖及び複合型糖鎖のすべてを酵素の基質として加水分解するユニークな酵素であることから、糖鎖供与体及び糖鎖受容体の調製においても重用されている。
このように、エンドMは、酵素-化学的な糖蛋白質調製における重要なツールとしての地位を確立してきた(例えば山本憲二他、[日本応用糖質科学会誌,Vol.3(2),31−38,(2013)]参照)。
一方、報告例は少ないが、コアフコースを有する糖蛋白質のN結合型糖鎖を加水分解するエンド酵素〔エンドD(例えばMuramatsu他、[J.Biochem.,Vol.129(6),923−928,(2001)]参照)〕も報告されており、エンドDの変異体は糖鎖供与体を糖鎖転移して、コアフコースを含有する糖蛋白質の糖鎖を目的の糖鎖に変換できることも知られている(例えばFan他、[J.Biol.Chem.,Vol.287(15),11272−11281,(2012)]参照)。
また、コアフコースを含有するN結合型糖鎖を有する免疫グロブリンGを加水分解するエンド酵素〔エンドS(例えばCollin他、[EMBO J.,Vol.20(12),3046−3055,(2001)]参照)〕も報告されており、エンドSの変異体は、糖鎖供与体を糖鎖転移して免疫グロブリンGの糖鎖を目的の糖鎖に変換できることも報告されている(例えば国際公開第2013/120066号参照)。
しかし、エンドM以外のエンド酵素は、加水分解時にも、糖鎖転移時にも、用いることができるN結合型糖鎖の種類が限定される。
Muramatsu他、[J.Biochem.,Vol.129(6),923−928,(2001)]及びFan他、[J.Biol.Chem.,Vol.287(15),11272−11281,(2012)]に記載のエンド酵素(エンドD)は、一部のハイマンノース型糖鎖にしか作用しないという問題点を有する。
特開平7−59587号公報及びUmekawa他、[J.Biol.Chem.,Vol.285(1),511−521,(2010)]に記載のエンドMは、幅広いN結合型糖鎖に作用することができるものの、コアフコースを含有するN結合型糖鎖を加水分解、又はコアフコースを有する糖鎖受容体に糖鎖転移することはできない。
Collin他、[EMBO J.,Vol.20(12),3046−3055,(2001)]及び国際公開第2013/120066号に記載のエンドSは、コアフコースを含有する複合型糖鎖を基質とすることはできるものの、ハイブリッド型糖鎖、ハイマンノース型糖鎖及びそれらに由来する構造の誘導体を基質とすることはできない。さらに、免疫グロブリンG(IgG)に結合したN結合型糖鎖以外にはほとんど作用しないという難点を有している。
また、コアフコースを有するN結合型糖鎖を含む化合物の化学的な合成法は、コアフコースのグリコシド結合が酸性条件下で切断されやすいために、合成条件が制限される。一方、コアフコースのないN結合型糖鎖へ、酵素的にフコースを導入することも考えられるが、インビトロでのそのような酵素的な導入方法はいまだに報告されていない。
このように、コアフコースを含有するN結合型糖鎖を加水分解し、さらに糖鎖転移によってコアフコースを有するN結合型糖鎖を有する糖蛋白質を調製することが可能なエンドMの変異体が望まれていた。
本開示は上記に鑑みてなされたものであり、本開示では、コアフコースが結合したN結合型糖鎖に対して高い加水分解活性を有するエンドM変異体、及びN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法の提供を課題とする。
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有するエンドM変異体、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記アミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有しているエンドM変異体である。

(反応式(1)中、Xは糖質由来の基、Yは一価の置換基を示す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表し、β1−4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Fucはフコシル基を表し、α1−6はFucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。GlcNAc−OHは、GlcNAcの還元末端の炭素に水酸基が結合していることを示す。H−GlcNAcは、GlcNAcの4位の酸素原子に水素原子が結合していることを示す。)
本開示においてYに結合するGlcNAcは、GlcNAcの1位の還元末端の炭素に結合するグリコシド結合の酸素原子又は水酸基を含まない。
<2> 前記反応式(1)中、Yがペプチド又は蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基である<1>に記載のエンドM変異体である。
<3> <1>又は<2>に記載のエンドM変異体の存在下、糖鎖供与体と、下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、を反応させることによりN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質を製造するN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法である。

一般式(1)中、Yは1価の置換基を示す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表し、Fucはフコシル基を表し、α1−6は、Fucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。
<4> 前記反応において、糖鎖供与体の糖鎖受容体に対するモル比率(糖鎖供与体のモル数/糖鎖受容体のモル数)が0.2〜20.0である<3>に記載のN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法である。
本開示によれば、コアフコースが結合したN結合型糖鎖に対して高い加水分解活性を有するエンドM変異体、及びN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法を提供できる。
図1Aは、エンドAとM3N1−チアゾリン誘導体との共結晶における触媒領域の立体モデルを示す図である。 図1Bは、エンドDとM3N1−チアゾリン誘導体との共結晶における触媒領域付近の立体モデルを示す図である。 図2は、エンドA、エンドD及びエンドMの1次アミノ酸配列におけるアライメントの結果を示す図である。 図3は、実施例に用いたエンドM及びエンドM変異体のSDS−PAGEの結果を示す図である。矢印はエンドM(WT)もしくはエンドM変異体のバンドの位置を示す。 図4は、M3F−biotin及びM3−biotinの合成ルートの概要を示す図である。 図5は、エンドM(WT)によるM3N1−biotinの加水分解反応後の溶液をHPLCによって測定した結果を示す図である。各矢印は、表記の化合物に相当する保持時間の位置を示す。 図6は、M3−biotin及びM3F−biotinを含む溶液に対して、エンドM(WT)及びエンドM変異体をそれぞれ添加しインキュベートした後の試料をTLCによって測定した結果を示す図である。 図7は、M3F−biotinを含む溶液に対しW251N変異体を添加又は無添加後にインキュベートし、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図8Aは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、エンドM(WT)による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図8Bは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、W251N変異体による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図8Cは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、エンドSによる加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図9は、ヒトラクトフェリンに対するエンドS、エンドM(WT)及びW251N変異体のそれぞれの加水分解反応後の溶液について、SDS―PAGEを行った結果を示す図である。 図10Aは、ヒトラクトフェリンから調製した糖ペプチドに対し、エンドM(WT)による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図10Bは、ヒトラクトフェリンから調製した糖ペプチドに対し、W251N変異体による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図11は、コアフコースを含有する糖蛋白質(リツキサン)に対して、W251N変異体によって各時間(0時間〜72時間)加水分解反応を行った後に得られる反応後生成物を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図12は、エンドM変異体による糖鎖転移反応についての概要を示す図である。 図13は、糖鎖転移反応後の溶液をMALDI−TOF MSによって測定した結果を示す図である。 図14は、糖鎖転移反応後の溶液をMALDI−TOF MSによって得られたm/z2719.8とm/z2573.9のシグナルを、さらにMS/MS分析した結果を示す図である。
本明細書及び特許請求の範囲を通じて示された用語について説明する。
数値範囲を表す「〜」はその上限及び下限の数値を含む範囲を表す。
「エンドM」は「エンド酵素」の一種を示し、「エンド酵素」は、「エンド−β−N―アセチルグルコサミニダーゼ」と同じ意味であり、下記一般式(2)の矢印の先を伸ばした位置、すなわちGlcNAcとGlcNAcの間のグリコシド結合を加水分解する酵素を意味する。「エンド酵素変異体」とは、エンド酵素のアミノ酸の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び又は置換したものをいう。更に、本明細書中において、N結合型糖鎖含有化合物、N結合型糖鎖含有糖蛋白質、糖鎖供与体、糖鎖受容体、エンドM及びエンドM変異体の各成分の量は、特に断らない限り、反応溶液中に存在する複数の物質の合計量を意味する。「基質」とはエンド酵素又はエンド酵素変異体が加水分解又は糖鎖転移する対象となる物質をいう。糖鎖転移する対象となる物質とは、糖鎖転移反応における糖鎖供与体及び糖鎖受容体のことを指す。

一般式(2)中、X、Y、GlcNAc、β1−4は後述する反応式(1)と同義である。Fは水素原子又はGlcNAcの6位とα1−6でグリコシド結合するフコシル基を表す。矢印はエンド酵素又はエンド酵素変異体が加水分解する位置を表す。
「加水分解反応を触媒する」とは、後述する反応式(1)に示すように、(A)のGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合をエンドM又はエンドM変異体が加水分解し、(B)及び(C)を生成する反応(加水分解反応)を触媒する能力をいい、以下、加水分解活性と称することがある。また、加水分解反応を単に「反応」と称することもある。なお、加水分解活性については、一定時間において加水分解して生じる生成物の量(μmol/min・mg)で表される。
「糖鎖転移」とは、糖鎖供与体の糖鎖構造の部分、例えば前記一般式(2)であれば、矢印の先を伸ばした位置(β1−4グリコシド結合部分)から左側の部分を、糖鎖受容体に結合(転移)させることをいう。本開示における糖鎖受容体とは、一般式(1)で表されるような(Fucα1−6)GlcNAc又はGlcNAcを非還元末端に有する糖含有物質を指す。
「糖鎖転移活性」とは、エンドM又はエンドM変異体が、糖鎖供与体を糖鎖受容体に転移させ、新たな生成物を生成する(糖鎖転移する)能力をいう。
「糖鎖転移収量」とは、特に断らない限り、反応後に生ずる複合型糖鎖が転移された糖蛋白質の量をいい、「糖鎖転移収率」とは、糖鎖転移した生成物のモル数の、反応に用いた糖鎖受容体のモル数に対する割合をさす。
ここで、「エンドM変異体」とは、エンドMのアミノ酸配列(配列番号1参照)のアミノ酸が欠失、付加及び置換されているエンド酵素変異体をさす。「エンドM」とは、毛カビであるムコールヒエマリス由来のエンド酵素(GenBank Accession No.BAB43869)、「エンドA」とはアルスロバクター プロトホルミエ由来のエンド酵素(GenBank Accession No.AAD10851)、「エンドD」とはストレプトコッカス ニューモニエ由来のエンド酵素(GenBank Accession No.BAB62042.1)、「エンドS」とは、ストレプトコッカス パイオジェネス由来のエンド酵素(GenBank Accession No.AAK00850)を意味する。なお、エンドMをエンドM変異体と区別する観点から、野生型(Wild Type)のエンドM、すなわちエンドM(WT)と称することがある。
「相同性」とは、蛋白質のアミノ酸配列の変異体において、最大の相同性(パーセント)を達成するために、必要ならば間隙を導入して、配列を整列させた後に同一である残基のパーセンテージとして定義される。アライメントのための方法およびコンピュータープログラムは本技術分野においてよく知られており、本明細書中ではClustralW2 (http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)を使用している。
またアミノ酸残基の表記方法としては、3文字表記及び1文字表記のどちらかで表記する。
また、蛋白質におけるアミノ酸配列中の特定のアミノ酸残基を示す表記について、例えばエンドMのアミノ酸配列においては、251番目のトリプトファン残基は、W251と示される。また、アミノ酸残基を置換、すなわち他のアミノ酸に置換されたアミノ酸残基の表記について、例えばエンドMの251番目のトリプトファン残基をアスパラギン残基(もしくはアラニン)に置換した残基は、W251N(もしくはW251A)と示され、これを含むエンドMを、エンドMのW251N変異体、もしくは単にW251N変異体のように称することがある。
また、エンドM変異体のうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有する変異体を、「本開示のエンドM変異体」と称することがある。また、本開示のエンドM変異体のうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記アミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ前記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有しているエンドM変異体を、上記のW251N変異体もしくはW251A変異体等と区別する観点から、特に「本開示のエンドM変異体ホモログ」と称することがある。
エンドM変異体による加水分解活性は、例えば反応式(1)の(A)で表される基質を溶解させた溶液に、エンドM変異体を添加し、所定温度、所定時間後に、反応後の溶液中に生成したオリゴ糖を、例えば、TLC、HPLC及びMALDI−TOF MSで測定することによって確認することができる。
TLCとしては、反応後の溶液を薄層クロマトグラフィーにスポット後に、例えば、展開溶媒(1−ブタノール/酢酸/水:3/2/2)によって展開し、オルシノール法で発色させ、画像取込み装置(例えばGT−X970、エプソン社製)で生成物を定量的に確認し、反応速度、すなわちエンドM変異体の加水分解活性を算出できる。
HPLCとしては、反応後の溶液の一定量に0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)を添加し、例えば、HPLC分析用のカラム[Cosmosil 5C18 AR−II(孔径4.6mm×長さ150mm、ナカライテスク社製)を装備したHPLCシステム[分離モジュール:e2569(ウオータース社製)、フォトダイオードアレイ検出器:2999(ウオータース社製)]により、下記の条件で測定することにより、反応後の生成物を定量的確認し、反応速度、すなわちエンドM変異体の加水分解活性を算出できる。
<条件>
・溶離液:0.1体積%のTFAを含有した純水(A)と0.1体積%のTFAを含有したアセトニトリル(B)を体積比((A):(B))9:1で混合後、脱気した溶液
・流速:0.5mL/min
・検出波長:214nm(UV−PDA)
なおHPLC用の分析用カラムとしては、順相系及び逆相系のどちらでもよく、順相系ではアミノカラム、逆相系ではODS(オクタデシルシリル)カラムが挙げられる。
MALDI−TOF MSとしては、例えば、次の方法が挙げられる。
すなわち、反応後の溶液に一定量のアセトンを加え、溶解した部分を乾燥後、一定量のDHBA溶液(20mg/mLの2,5−ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)に溶解させる。その後、溶解させた溶液の一部をMALDI−TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、UltrafleXtreme JA−1 (Bruker Daltonics社製)もしくはautoflex speed−tko1リフレクタシステム(Bruker Daltonics社製)によって、下記の条件にて測定することで、反応後の生成物の質量を確認できる。
<条件>
・測定モード:positive ion mode,及びreflector mode
・測定電圧:25kv及び1.5kv〜2.5kv
・測定分子量の範囲:0〜4000(m/z)及び45000〜60000(m/z)
・積算回数:20000〜40000及び1000〜8000
また、エンドM変異体の糖鎖転移活性については、エンドM変異体が加水分解活性を有するために、正確な糖鎖転移活性の値を知ることはできない。しかし、反応後の糖鎖転移収量又は糖鎖転移収率から、エンドM変異体の糖鎖転移活性を定性的に知ることは可能である。
糖鎖転移収量及び糖鎖転移収率については、糖鎖供与体と糖鎖受容体とを溶解させた溶液に、エンドM変異体を添加し、所定温度、所定時間インキュベート後に、得られた溶液中に生成した生成物を、例えば、上記のTLC、HPLC及びMALDI−TOF MSで測定することによって同定し、さらにその収量や収率を確認することができる。
本明細書等では、炭水化物の部分は、オリゴ糖の記述に通常用いられる命名法を参照して記載される。これらの命名法は、例えば、Hubbardらの文献[Ann.Rev.Biochem.,Vol.50,555(1981)]に見出される。この方法に従って、マンノースはMan、2−N−アセチルグルコサミンはGlcNAc、ガラクトースはGal、フコースはFuc及びグルコースはGlc、という略式表記によって表記される。シアル酸は、5−N−アセチルノイラミン酸に対するNeuAc、及び5−グリコリルノイラミン酸に対するNeuGcという略式表記によって表記される。また、N−アセチルグルコサミニル基はGlcNAc残基、マンノシル基はMan残基と称することもある。
単糖とは、上記の糖、例えばGalやGlcNAcそのもののみのことをいう。
糖を形成する炭素の位置は、還元末端を1位、その隣の炭素原子を2位のように表し、それらの炭素原子それぞれに結合する水酸基又は酸素原子を1位の水酸基又は1位の酸素原子のように表し、グリコシド結合を表す場合には、単に「GlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのグリコシド結合」のように示す。なお、これらの2以上の単糖が結合したものをオリゴ糖といい、その誘導体はオリゴ糖誘導体と称する。すなわち、N結合型糖鎖はオリゴ糖である。オリゴ糖中の単糖部分のことを「糖ユニット」と称することがある。
「グリコシド結合」とは、糖鎖中の糖ユニットの1位の水酸基と他の糖の水酸基が脱水縮合することで、互いが酸素原子を介して結合する結合をいい、例えばα1−6グリコシド結合とは、糖の1位(の炭素)と他の糖の6位(6位の酸素原子)がα型で結合したグリコシド結合であることをいう。なお、糖の1位の水酸基はα型とβ型が存在する。
上記に従い、例えば前記反応式(1)中の(A)について示すと、そのキトビオシル部位(−GlcNAcβ1−4GlcNAc−)の非還元末端側のグルコサミニル基(GlcNAc)は、そのGlcNAcの1位の酸素原子を含まず、かつ4位の酸素原子を含むことを示す。還元末端側のYに結合するGlcNAcは、1位の酸素原子を含まず、4位及び6位の酸素原子を含むことを示す。また、フコシル基(Fuc)は、1位の酸素原子を含まず、2位から4位までの水酸基を含むことを表す。
なお、ManやGlcNAcにおいて、グリコシド結合していない2位、3位、4位及び6位の炭素は、水酸基が結合していることを示す。
また、糖鎖を説明する表現として、単糖を3つ含む糖鎖は3糖、5つ含む場合は5糖、のように称することもある。
「コア糖鎖」とは、N−結合型糖鎖の中で、下記C−1で表される糖鎖部分をいい、「トリマンノシル」とは、コア糖鎖の中の3つのマンノース部分をいう。また、C−1の左側の破線部分に示すように、トリマンノシル部分のうち、非還元末端側のα1−6で結合するManをMan2、非還元末端側のα1−3で結合するManをMan3及び還元末端側のManをMan1と称する。また、右側破線部分に示すように、GlcNAcの6位に結合したフコシル基(Fuc)をコアフコースと称する。

また、一般式(2)の矢印の先を伸ばした位置の左側に示すようなオリゴ糖を、トリマンノシルGlcNAc含有糖鎖と称することがある。
「ペプチド」と「蛋白質」は、一般的にはアミノ酸残基数が少ないものがペプチド、多いものが蛋白質と称されており、明確なアミノ酸残基数の違いはないが、本開示においては、50残基以上のものを蛋白質と称する。また、蛋白質をポリペプチドと称することもある。なお、「化合物」はペプチドを含み、蛋白質を含まないものとする。
また「糖ペプチド」又は「糖蛋白質」は、それらのペプチドやポリペプチド部分に、N結合型糖鎖が少なくとも1つ以上存在していることを意味し、特に説明されない限り、複数のN結合型糖鎖の種類は1種のものも、2種以上のものも含む。
本開示のエンドM変異体は、コアフコースを有するN結合型糖鎖に対して高い加水分解活性及び糖鎖転移活性を持つことで、従来技術では達成できなかったコアフコースを有する幅広い種類のN結合型糖鎖の加水分解が可能となり、さらには糖鎖転移によって、コアフコースを有する幅広い種類のN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質を製造することが可能となる。本開示におけるこのような効果を有する理由は定かではないが、発明者は以下のように考えている。
糖質加水分解酵素では、基質となる糖鎖を酵素の触媒領域で認識し、活性残基が基質に作用することによって、反応が進行する。このため、酵素が基質に作用するためには、まず酵素が基質を収容した後に認識し、さらに活性残基が基質の適切な部位に作用しなくてはならない。今回、発明者は、エンドMがコアフコースを有するN結合型糖鎖に作用しないのは、エンドMの触媒領域のいずれかのアミノ酸がコアフコース部分の収容を妨げていることによるものと考え、そのアミノ酸残基を探索した結果、251番目のトリプトファンであることを見出した。さらに、通常、触媒残基付近のアミノ酸残基を置換した場合、酵素活性は著しく低下することが多いが、本開示では、触媒領域の構造が類似するエンドA、エンドD及びエンドMを詳細に比較検討し、そのアミノ酸残基を適切なもの、つまり触媒領域の物性への影響を与えないようなアミノ酸に置換することによって、コアフコースを含むN結合型糖鎖を触媒領域に収容させた後に強く認識できるようになり、高い加水分解活性及び糖鎖転移活性を達成することができたものと考えられる。
すなわち、本開示のエンドM変異体は、エンドMが有していた幅広い種類のN結合型糖鎖を基質とする特性を維持しているため、コアフコースを有するN結合型糖鎖の加水分解や糖鎖転移においても同様の利点を有するといえる。
また、エンドMは、これまでの報告により、N結合型糖鎖の還元末端GlcNAcについて、幅広い種類の置換基を有するものを基質とすることが知られている。加えて、該還元末端GlcNAcについても、特開2008−22779号公報に示されるように、4,6シスジオール部位を有していれば、他の構造でもエンドMの基質となることが知られている。
従って、エンドM変異体も、同じような幅広い化合物を基質とすることができる。
≪エンドM変異体≫
本開示のエンドM変異体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有するエンドM変異体、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記アミノ酸配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有しているエンドM変異体(エンドM変異体ホモログ)である。


反応式(1)中、Xは糖質由来の基、Yは一価の置換基を示す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表し、β1−4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Fucはフコシル基を表し、α1−6はFucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。GlcNAc−OHは、GlcNAcの還元末端の炭素に水酸基が結合していることを示す。(C)中の、H−GlcNAcは、GlcNAcの4位の酸素原子に水素原子が結合していることを示す。
本開示のエンドM変異体は、エンドMのアミノ酸に変異を導入した変異体である。配列番号1で示されるエンド酵素は、ムコールヒエマリス由来のエンドβ−Nアセチルグルコサミニダーゼ(GenBank Accession No.BAB43869)である。
エンドM変異体としては、W251N変異体又はW251A変異体、あるいは上記の本開示の変異体ホモログであることで、コアフコースを有するN結合型糖鎖の加水分解を十分に行うことができる。さらに、W251N変異体又はW251A変異体がより好ましく、W251N変異体が特に好ましい。
本開示のエンドM変異体は、通常の遺伝子工学的な手法によって調製することができ、様々な宿主の種類や、対応する適切な蛋白質発現ベクターを用いて調製することができる。宿主としては、大腸菌、ブレビバシラス菌、シアノバクテリウム、乳酸菌、酵母、昆虫細胞及び動物細胞などが挙げられる。この中でも調製のしやすさ、及び発現量の観点から、大腸菌を宿主とする方法や、酵母を宿主とする方法によって調製することが好ましい。具体的な製造方法としては、大腸菌であれば梅川らの文献[J.Biol.Chem.Vol.285(1),511−521,(2010)]に詳しく記載され、酵母であれば特開平11−332568号公報に詳しく記載されている。
本開示のエンドM変異体及びエンドM変異体ホモログは、加水分解反応において、他のペプチドもしくは蛋白質とそれらのC末端側もしくはN末端側で融合させた融合型エンドM変異体(もしくは融合型エンドM変異体ホモログ)としても用いることができる。融合させることができるペプチドもしくは蛋白質としては、加水分解反応を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、ヘキサヒスチジンペプチド(アミノ酸配列はN末端からHHHHHH)、フラッグペプチド(アミノ酸配列はN末端からDYKDDDDK)、インフルエンザHAポリペプチド(アミノ酸配列はN末端からYPYDVPDYA)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、アビジン、キチン結合蛋白質、c−myc、チオレドキシン、ジスルフィド異性化酵素(DsbA)、マルトース結合蛋白質(MBP)、および緑色蛍光蛋白質(GFP)などが挙げられる。この中でも、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの調製のしやすさという観点から、ヘキサヒスチジンペプチド及びフラッグペプチドが特に好ましい。
なお、上記の融合型エンドM変異体もしくは融合型エンドM変異体ホモログにおいては、融合させるペプチド又は蛋白質のポリペプチド部分と、エンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログのポリペプチド部分との間には数残基から50残基のリンカー領域としてのペプチド部分を含む。なお、リンカー領域を構成するアミノ酸残基の種類としては特に限定されない。リンカー領域には、プロテアーゼによって加水分解されるアミノ酸配列部分(プロテアーゼサイト)を含めてもよい。プロテアーゼサイトとしては特に限定されないが、例えば、ファクターXaサイト、トロンビンサイト、エンテロキナーゼサイト、プレシジョンプロテアーゼサイトが挙げられる。
天然から見いだされている糖質加水分解酵素は、公知の情報(http://www.cazy.org/)で示されるように、アミノ酸配列の相同性等から、百数十のグリコシルヒドロラーゼファミリー(GHファミリー)に分類されている。エンドMは、GHファミリー85に属するグリコシルヒドロラーゼであり、他のGHファミリー85に属する蛋白質としては、ヒトから細菌類までの生物種に広く分布することが知られている。エンドMのアミノ酸配列(配列番号1)を基に、一般に使用できるホモロジー検索(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を行うと、エンドMと他のGHファミリー85に属する蛋白質とは、アミノ末端側から500番目のアミノ酸付近までの触媒領域を含む領域内で、高い相同性を有することがわかる。
従って、本開示におけるエンドM変異体ホモログは、エンドMの触媒領域を含む500残基程度のアミノ酸配列の長さを有していれば、エンドM変異体ホモログとしての加水分解活性を有すると予想できる。なお本開示のエンドM変異体ホモログが有する加水分解活性は、反応式(1)で表される加水分解反応を同じ条件下で行った場合に、エンドM(WT)が有する加水分解活性の150%以上であることを意味する。
さらに、エンドMの1次構造と立体構造の予測から、高度に保存された触媒残基を含む領域は、アミノ酸配列において、61〜427番目であることが知られている。従って、これらの領域を含み、蛋白質の全体構造に影響を与えないのであれば、エンドM変異体ホモログとしての加水分解活性を有すると予想できる。
本開示におけるエンドM変異体ホモログは、W251N変異体もしくはW251A変異体と80%以上の相同性を有し、かつコアフコースを有するN結合型糖鎖を加水分解するものであれば、251番目のアミノ酸残基以外のどのアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換、欠失及び付加により調製されたものでもよい。
以上の観点から、本開示においては、エンドM(配列番号1)の251番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び又は置換により生じるエンドM変異体ホモログのエンドM(配列番号1)に対する相同性が80%以上であれば加水分解又は糖鎖転移活性を十分に維持できる。また好ましくは、90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、特に好ましくは98%以上であり、最も好ましいのは99%以上である。
加水分解反応において、一般式(1)の(A)で表される基質のYがアシルアミノ基以外である場合には、反応溶液中のエンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の濃度は、0.01μg/μL〜2μg/μLであることが好ましい。0.01μg/μL以上であることで、加水分解反応をより速やかに進行させることができ、2μg/μL以下であることで、エンドM変異体の緩衝液への溶解性を向上させ、同じく加水分解反応をより速やかに進行させることができる。中でも0.01μg/μL〜1μg/μLであることが好ましく、さらに0.02μg/μL〜0.2μg/μLであることが特に好ましい。
また、加水分解反応において、一般式(1)の(A)で表される基質のYがアシルアミノ基である場合には、反応溶液中のエンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の濃度は、0.01μg/μL〜40μg/μLであることが好ましい。0.01μg/μL以上であることで、加水分解反応をより速やかに進行させることができ、40μg/μL以下であることで、エンドM変異体の緩衝液への溶解性を向上させ、かつより経済的である。中でも0.01μg/μL〜30μg/μLであることが好ましく、さらに0.02μg/μL〜20μg/μLであることが特に好ましい。
また、反応に用いるエンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログの精製度においては、より加水分解活性を高めて反応時間を短縮化させる観点から、精製度が50%以上であることが好ましく、さらに70%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。精製度が50%以上であることで、エンドM変異体もしくはエンドM変異体ホモログの加水分解活性をより高めることができる。なお、精製度はSDS−PAGE後の染色後の画像データから算出することができる。
(加水分解反応における基質)
本開示におけるエンドM変異体は、前記反応式(1)の(A)で表される基質、すなわち下記一般式(3)で表される基質を加水分解する。

一般式(3)中、X、Y、GlcNAc、β1−4、Fuc及びα1−6は前記反応式(1)とそれぞれ同義である。さらに、一般式(3)としては下記一般式(4)で表されるような構造を有することが好ましい。

一般式(4)中、X、X、X、X、XおよびX6は、それぞれ独立に水素原子又は糖質由来の基を表す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表す。Fucはフコシル基を表し、Manはマンノシル基を表す。α1−6はManの1位とManの6位とのαグリコシド結合又はFucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表し、α1−3はManの1位とManの3位とのαグリコシド結合を表す。β1−4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合又はManの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Zは、水素原子又はGlcNAcを表し、Zに含まれるGlcNAcはβ1−4でGlcNAcに結合したManにβ1−4で結合している。Yは一般式(3)と同義である。
及びX2における具体例としては、GlcNAcβ1−2、Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuGcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2及びNeuGcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、異種抗原:Galα1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、マンノース6リン酸:Manα1−(6PO4)、ポリラクトサミン:[Galβ1−4GlcNAcβ1−3]nGalβ1−4GlcNAcβ1−2(nは任意の数)、ケラタン硫酸[Galβ1−4GlcNAc(6SO3)β1−3]nGalβ1−4GlcNAcβ1−2(nは任意の数)、[Gal(6SO3)β1−4GlcNAc(6SO3)β1−3]nGalβ1−4GlcNAcβ1−2(nは任意の数)、LacDiNAc:GalNAcβ1−4GlcNAcβ1−2、硫酸化LacDiNAc:GalNAcβ1−4GlcNAcβ1−2、末端硫酸修飾(3SO3)Galβ1−4GlcNAcβ1−2、ルイス糖鎖:Galβ1−4GlcNAc(α1−3Fuc)β1−2、Gal(α1−2Fuc)β1−4GlcNAc(α1−3Fuc)β1−2、Galβ1−3GlcNAc(α1−4Fuc)β1−2、Gal(α1−2Fuc)β1−3GlcNAc(α1−4Fuc)β1−2、血液型抗原:Gal(α1−2Fuc)β1−4GlcNAcβ1−2、Gal(α1−2Fuc、α1−3Gal)β1−4GlcNAcβ1−2、Gal(α1−2Fuc、α1−3GalNAc)β1−4GlcNAcβ1−2、HNK1抗原:(3SO3)GlcAβ1−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、が挙げられ、これらの基のいずれか一つをXおよびX2のどちらか、あるいは両方に有していてもよい。
また、X及びXとしては、上記の各糖質由来の基の還元末端GlcNAcがβ1−4である基、が挙げられる。
また、X及びXとしては、上記の各糖質由来の基の還元末端GlcNAcがβ1−6である基、が挙げられる。
〜Xが上記の場合には、Zは水素原子でもGlcNAcβ1−4であってもよい。
また、X〜Xがハイマンノース型糖鎖(M4〜M9)由来の構造のいずれかを有していてもよく、これらのM4〜M9の各場合についてのX〜Xは、M4:X〜X及びXが水素原子であってXがManα1−6、M5:X〜X、X4及びX6が水素原子、XがManα1−6であってXがManα1−3、M6:X〜X、X4及びX6が水素原子、XがManα1−6であってXがManα1−2Manα1−3、M7:X〜X、X4及びX6が水素原子、XがManα1−2Manα1−6であってXがManα1−2Manα1−3、M8:X〜XびXが水素原子、XがManα1−2Manα1−6であり、XがManα1−2Manα1−3であってXがManα1−2、である。
さらに、X〜Xがすべて水素原子である場合も挙げられる。
上記の中でも、エンドM変異体の加水分解活性の観点から、X及びXのいずれか、あるいは両方が、GlcNAcβ1−2、Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuGcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2及びNeuGcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2のいずれかを有し、かつX〜Xが水素原子である、あるいはX〜X6がすべて水素原子であることが好ましい。
さらに、X及びXの両方が、Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2、NeuGcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2及びNeuGcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2のいずれかを有し、かつX〜Xが水素原子である、あるいはX〜X6がすべて水素原子であることがより好ましい。
前記反応式(1)、一般式(3)及び(4)において、Yは酸素原子、窒素原子、炭素原子及び硫黄原子がGlcNAcの1位の炭素に直接結合する構造を含む置換基が挙げられる。
Yとしては、エンドM変異体の加水分解活性を低下させるものでなければ、特に限定されない。例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アミノ基、アシルアミノ基、イミド基、アジド基、カルボキシル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基又はハロゲン基が挙げられ、これらの基の中で、アルコキシ基、アシルアミノ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールスルホニルオキシ基が挙げられる。これらの置換基は、さらに置換基を有していてもよい。
以上の中でも、調製のしやすさから、Yはヒドロキシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルケニルオキシ基及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基が好ましい。
さらに、加水分解活性の観点から、Yは炭素数1〜12の置換基を有していてもよいアルコキシ基、炭素数6〜12の置換基を有していてもよいアリールオキシ基及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基が好ましい。
Yが置換基を有していてもよいアシルアミノ基以外である一般式(3)で表される化合物は、市販の試薬メーカーから購入して得ることができるし、化学的な合成方法や、化学−酵素的に調製する方法でも得ることができる。具体的には、例えば化学的な合成方法としては、Nakanoら[Carbohydr.Res.,Vol.342(5),675−695(2007)]の方法によって、調製が可能である。
一般式(3)中のYが置換基を有していてもよいアシルアミノ基である場合には、Yはペプチド又は蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基が好ましい。
この場合における蛋白質の分子量としては、特に限定されないが、加水分解反応をより進行させやすいという観点から、5,000〜500,000であることが好ましく、さらに好ましくは10,000〜150,000である。
上記のペプチド又は蛋白質としては、例えば、動物細胞であれば、細胞外又は細胞表面に分泌しかつN−結合型糖鎖を有する糖蛋白質や糖ペプチドなどが挙げられ、例として、各種ホルモン、細胞接着因子、各種受容体、細胞外マトリクス、各種酵素、各種サイトカイン、抗菌性又は抗ウィルス性ペプチド、各種抗体などが挙げられる。
これらの糖蛋白質は、試薬や食品として購入することもできるし、購入した食品や天然物から一般的な糖蛋白質の抽出方法、例えば〔日本生化学会“基礎生化学実験法”、Vol.5、東京化学同人、2000〕を用いて調製することもできる。
反応に用いる糖蛋白質としての精製度(純度)としては、特に制限はないが、エンドM変異体の加水分解反応をよりすみやかに行う観点から、純度(水分を除く全質量に対する該糖蛋白質の割合)は50質量%以上であることが好ましい。さらに70質量%であることが好ましく、特に80質量%以上であることが好ましい。
この場合に、該糖蛋白質のポリペプチド部分は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
なお、糖蛋白質の純度は、例えば、SDS−PAGEによる方法によって同様に確認できる。
またYについて、上記のアシルアミノ基以外の置換基の中では、基質の溶解性の観点から、炭素数1〜12の置換基を有していてもよいアルコキシ基が特に好ましい。これらの、置換基を有していてもよいアルコキシ基が結合したN結合型糖鎖を有する化合物は、エンドM変異体及びエンドM変異体ホモログの加水分解活性を簡易的に調査するための基質として有用である。
上記のYについて、置換基を有していてもよいアシルアミノ基以外の一価の置換基において、一価の置換基がさらに有していてもよい置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアシルアミノ基、炭素数1〜12のチオエーテル基、炭素数1〜12のウレイド基、アジド基、炭素数1〜12のアシルオキシ基、炭素数1〜12のオキシカルボニル基、炭素数1〜12のN−アルキルカルバモイル基、カルボキシル基及びピリジル基から選択される少なくとも1つであり、有していてもよい置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
また、有していてもよい置換基の数は1〜20であり、好ましくは1〜10である。20以下であることでエンドM変異体の加水分解活性又は糖鎖転移活性をより高めることができる。
Yにおいて、具体例としての置換基を以下に挙げることができる。しかし、本開示のエンドM変異体はこれらに限定されるものではない。

〜還元アミノ化したオリゴ糖誘導体〜
エンドM変異体の加水分解のための基質としては、上記の他に、下記一般式(5)で示すようなN結合型糖鎖の還元末端のGlcNAcを還元アミノ化したオリゴ糖誘導体も用いることができる。

一般式(5)中、X、GlcNAc、Fucは前記一般式(3)とそれぞれ同義である。β1−4はGlcNAcの1位とHexNAcolの4位とのβグリコシド結合を表し、α1−6はFucの1位とHexNAcolの6位とのαグリコシド結合を表す。Rは一価の置換基を表す。さらに、Rに結合したHexNAcolは、下記一般式(6)で表される。

一般式(6)中、Rは1価の置換基を表す。*は一般式(6)の非還元末端側のGlcNAcとの結合位置を表し、**は一般式(6)のFucとの結合位置を表す。
としては特に限定されないが、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜16のアリール基及びピリジル基が挙げられる。これらの置換基の中で、芳香環及び複素環上の水素原子はさらに、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、アミノ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルキルシアノ基、カルバモイル基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のアルカノイル基又は炭素数1〜10のアシルオキシ基で置換されていてもよい。
上記の還元アミノ化オリゴ糖誘導体は、一般的な方法によって調製することができる。例えばRが2−アミノピリジル基である場合には、公知の方法〔Agric.Biol.Chem.,Vol.55(1),283−284(1991)〕に従って、糖蛋白質からN結合型糖鎖を遊離した試料を2−アミノピリジル化することで得られる。2−アミノピリジル化においては、例えばタカラバイオ社製の2−アミノピリジル化キットを利用することで調製できる。また、2−アミノピリジル化した多くの種類のN結合型糖鎖はすでに市販されている(例えばコスモバイオ社製)。
(加水分解反応)
加水分解反応は、エンドM変異体および前記一般式(1)の(A)で表される基質を溶解させた溶液中で行われる。反応に用いる溶液としては、エンドM変異体の加水分解活性を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液及び酒石酸緩衝液などが挙げられる。これらの緩衝液は、単独でも組み合わせて用いられてもよい。
上記の中でも、リン酸緩衝液が好ましく、具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムが好ましく、より好ましくはリン酸ナトリウム、リン酸カリウムである。
また、リン酸緩衝液の濃度としては、10mM〜250mMが好ましく、10mM〜150mMがより好ましく、より好ましくは20mM〜100mMである。10mM以上とすることで緩衝能力を高めてエンドM変異体の加水分解活性を高め、250mM以下とすることで、同じくエンドM変異体の加水分解活性を高めることができる。
また、反応における溶液のpHは、5.0〜8.5が好ましく、5.5〜7.0がより好ましく、6.0〜7.0が特に好ましい。pHが5.0〜8.5で、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの加水分解活性がより向上するため有効である。また、pHが5.0〜8.5であることで、一般式(1)の(A)で表される基質を有する物質の安定性がより向上するので有効である。
反応における温度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの加水分解活性を高める観点から、4℃〜45℃であることが好ましく、20℃〜40℃であることがより好ましく、25℃〜35℃であることが特に好ましい。4℃〜45℃とすることで、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの加水分解活性を高めることができる。
一般式(1)の(A)で表される基質を有する物質の濃度としては、特に限定されないが、加水分解反応をよりすみやかに完了させる観点から、100mM以下であることが好ましい。さらに20mM以下であることが好ましい。
一般式(1)で表される反応における反応時間は、反応温度、(A)で表される基質の濃度及びエンドM変異体の濃度によって適宜調整されることが好ましい。例えば、反応温度が25℃〜40℃、(A)で表される基質が0.5mM〜20mM、エンドM変異体が0.1μg/μL〜10μg/μLである場合には、反応時間は3時間〜100時間であることが好ましい。3時間以上であることで加水分解反応をより進行させることができ、100時間以内であることで、より純度の高い加水分解生成物を得ることができる。
≪N結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法≫
本開示においては、上記のエンドM変異体の存在下、糖鎖供与体と、下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、を反応させることによりN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質を製造するN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法を提供することができる。

一般式(1)中、Yは1価の置換基を示す。Fucはフコシル基を表し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表す。α1−6は、Fucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。
(糖鎖受容体)
糖鎖受容体としては、前記一般式(1)で表されるものであれば、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害するものでない限り、特に限定されない。また、一般式(1)中のYの好ましい範囲は、前記一般式(4)と同じである。
一般式(1)で表される糖鎖受容体のうち、Yが蛋白質に由来する構造を含まないものは、例えば、Huangら[Chembiochem.,Vol.12(6),932−941(2011)]に示されるように、化学的な方法で調製できる。また、Yが蛋白質に由来する構造を含まないアシルアミノ基であり、ペプチドに由来する構造を含むものは、特許文献(特開平10−45788号公報)に示されるようなペプチド伸長工程を含む化学的な合成法によって調製できる。さらに、試薬メーカーによって得られる糖ペプチド又はN結合型糖鎖の誘導体を、本開示のエンドM変異体もしくは市販のエンド酵素によって加水分解することで容易に調製できる。
また、Yが蛋白質を含むものは、上記のように、市販の試薬や食品を購入して得られる糖蛋白質、あるいは食品や天然物を一般的な抽出分離法によって得られた糖蛋白質に対し、本開示のエンドM変異体もしくは市販のエンド酵素で加水分解することで容易に調製できる。
市販のエンド酵素としては、エンドH(ニューイングランドバイオラボ社製)、エンドS(シグマ−アルドリッチ社製及びニューイングランドバイオラボ社製),エンドD(コスモバイオ社製),エンドF1〜F3(シグマ−アルドリッチ社製)などが挙げられる。また、市販されていない酵素としては、GHファミリー85に属するグリコシルヒドラーゼ、又はGHファミリー18に属し、かつN−結合型糖鎖を加水分解する酵素であることが示されているものを挙げることができる。
しかし、これらの中でも、本開示のエンドM変異体が、基質特異性の幅広さから好適である。本開示のエンドM変異体で、糖鎖変換の目的となる糖蛋白質の不要なN結合型糖鎖の非還元末端側部位を遊離させ、所望のN結合型糖鎖の非還元末端側部位を新たに導入することができるので有利である。
(糖鎖供与体)
糖鎖供与体としては、エンドM変異体が糖鎖受容体に糖鎖転移できるものであれば、特に限定されない。例えば、前記一般式(3)に示すような、N結合型糖鎖を有する化合物、ペプチド及び蛋白質、あるいは下記一般式(7)のような、非還元トリマンノシルGlcNAc含有糖鎖の還元末端GlcNAcがオキサゾリン化された誘導体が挙げられる。これらの糖鎖供与体は、糖鎖受容体が存在することで、エンドM変異体により非還元末端側糖鎖が効率的に糖鎖転移される。
しかし、高い糖鎖転移収量および糖鎖転移収率で、糖鎖受容体に糖鎖転移させるという観点からは、下記一般式(7)に示すようなトリマンノシルGlcNAc含有糖鎖の還元末端GlcNAcがオキサゾリン化された誘導体が好ましい。

一般式(7)中、X〜X、Z、Man,α1−6、α1−3及びβ1−4は一般式(4)と同義である。また、GlcNAc−oxaは、下記に示すような構造を表す。*は、Manとβ1−4結合する位置を示す。


一般式(7)において、X〜X、Zにおける糖質由来の基としては、一般式(4)とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
このようなオキサゾリン化したN結合型糖鎖由来の誘導体は、例えば野口ら[J.Org.Chem.,Vol.74(5),2210−2212(2009)]の方法によって調製が可能であり、複合型糖鎖由来の構造を有するオキサゾリン誘導体については、例えば、市販のN結合型糖鎖由来の構造のオリゴ糖(D4065、東京化成工業株式会社製)、あるいは市販の糖ペプチド〔シアログリコペプチド(SGP、東京化成工業株式会社製)〕をエンド酵素で加水分解して得られるトリマンノシルGlcNAc含有糖鎖の還元末端のGlcNAcを、さらにオキサゾリン化して得ることができる。オキサゾリン化については、例えば市販のオキサゾリン化用の試薬(CDMBI、株式会社伏見製薬所製)を利用することができる。
(反応)
反応、すなわち糖鎖転移反応は、エンドM変異体、糖鎖供与体及び糖鎖受容体を溶解させた溶液中で行われる。反応に用いる溶液としては、エンドM変異体の糖鎖転移活性を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液及び酒石酸緩衝液などが挙げられる。これらの緩衝液は、単独でも組み合わせて用いられてもよい。
上記の中でも、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性の点から、リン酸緩衝液が好ましく、具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムが好ましく、より好ましくはリン酸ナトリウム、リン酸カリウムである。
また、リン酸緩衝液の濃度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性の点から、10mM〜250mMが好ましく、20mM〜150mMがより好ましく、より好ましくは50mM〜100mMである。10mM以上とすることで緩衝能力を高め、250mM以下とすることで、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性を高め、糖鎖転移収率及び糖鎖転移収量を高めることができる。
また、反応における溶液のpHは、糖鎖転移収率及び糖鎖転移収量を高める観点から、5.5〜8.5が好ましく、6.0〜8.0がより好ましく、6.5〜7.5が特に好ましい。
反応における温度としては、エンドM変異体又はエンドM変異体ホモログの糖鎖転移活性の観点、糖鎖転移収率、糖鎖転移収量を高める観点及び糖鎖受容体やエンドM変異体等の安定性の観点から、4℃〜40℃であることが好ましく、20℃〜40℃であることがより好ましく、25℃〜35℃であることが特に好ましい。4℃以上とすることで、エンドM変異体等の糖鎖転移活性を高めることができ、40℃以下とすることで、糖鎖転移収率及び糖鎖転移収量を高めることができる。
糖鎖転移反応においては、反応溶液中のエンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の濃度は、0.005μg/μL〜0.5μg/μLであることが好ましい。0.005μg/μL以上であることで、糖鎖転移収率を向上させ、0.5μg/μL以下であることで、エンドM変異体(もしくはエンドM変異体ホモログ)の糖鎖転移後生成物の再加水分解を抑制し、糖鎖転移収量及び糖鎖転移収率を向上させることができる。
なお、エンドM変異体の加水分解活性、糖鎖転移収量及び糖鎖転移収率は、上記のように、例えば、TLC、SDS−PAGE、HPLC又はMALDI−TOF MSによる測定方法等によって確認することができる。
糖鎖転移反応において、糖鎖受容体の反応溶液中の濃度としては、エンドM変異体の糖鎖転移反応を阻害するものでなければ特に限定されるものでなく、所望とする糖鎖転移収量や糖鎖受容体の反応溶液中への溶解度等を考慮して適宜調整される。しかし、前記一般式(1)で表される糖鎖受容体が蛋白質を含まないものでは、0.1mM〜200mMが好ましい。0.1mM以上であることで、より高い糖鎖転移収量を得ることができ、200mM以下であることで、より高い糖鎖転移活性を有するエンドM変異体による糖鎖転移反応によって、糖鎖転移収率を高めることができる。中でも、1mM〜50mMであることがより好ましい。
糖鎖転移反応においては、糖鎖供与体の糖鎖受容体に対するモル比率(糖鎖供与体のモル数/糖鎖受容体のモル数)は、用いる糖鎖供与体もしくは糖鎖受容体の種類や、反応後における、それらの回収等を考慮して、適宜設定することができる。しかし、糖鎖転移反応によってN結合型糖鎖含有化合物を調製する場合には、モル比率は0.2〜20.0で行うことが好ましく、0.5〜15.0で行うことがより好ましく、1.0〜10.0で行うことが特に好ましく、さらに1.0〜5.0で行うことが最も好ましい。モル比率が0.2以上で、より十分な糖鎖転移収量を得ることができ、20.0以下で行うことで、より高い糖鎖転移収率を得ることができる。
糖鎖転移反応における反応時間は、反応温度及びエンドM変異体の質量等によって、適宜設定されるが、10分〜600分であることが好ましい。10分以上であることで、糖鎖転移収率をより高いものにすることができ、600分以下であることで、糖鎖転移後の生成物の加水分解の影響をより効果的に防ぎ、糖鎖転移収率及び糖鎖転移収量を高めることができる。上記の反応時間の中でも、30分〜120分であることがより好ましい。
上記の反応において、反応を開始してから所定時間後に、さらに糖鎖供与体とエンドM変異体を添加してもよく、この操作によって、糖鎖転移収量をさらに高めることができる。この場合には、糖鎖転移収量を高める観点からは、初めの糖鎖供与体投入時から、3時間〜48時間まで反応を行うことが好ましい。
本開示のN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法では、固体、動物組織及び細胞等を使用しないので、外部からの夾雑物又はウィルスなどは混入する可能性は極めて低い。このため、安全かつ機能を維持した医薬用組成物や薬品の構成成分として提供できる。また、医薬用組成物は、本開示の製造方法によって製造されたN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の他、製薬上許容し得る安定化剤、緩衝剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、嬌味剤、着色剤、香料等を適宜添加して、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の剤形にすることができる。
また、本開示のN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法では、多くの種類の糖鎖供与体を用いて、対応する多くの種類のN結合型糖鎖を高い割合で含有する化合物又はN結合型糖鎖を含有する蛋白質が得られるため、得られたものは糖鎖標品としても有用である。
以下、本開示のエンドM変異体及び本開示の製造方法を実施例によって詳細に説明するが、本開示のエンドM変異体及び本開示の製造方法の範囲はこれらの実施例に記載された態様に限定されるものではない。
<エンドM変異体の調製>
(エンドMにおけるアミノ酸の変異位置の決定)
エンドA及びエンドDは、アミノ酸配列の一次構造による比較から、共にGHファミリー85に属し、両者共にN結合型糖鎖を加水分解する酵素であることが知られている。上記のように、エンドAはコアフコースを含有するN結合型糖鎖を加水分解しないが、エンドDは加水分解する。
一方、エンドAはYinらの文献[PLoS One,Vol.4,4658(2009)]及びLingらの文献[J.Mol.Biol.,Vol.389(1),1(2009)]、エンドDはAbbotらの文献[J.Biol.Chem.,Vol.284,11676(2009)]によって、N結合型糖鎖の一部を有する化合物との共結晶の立体構造解析が報告されている。図1Aは、エンドAとM3N1−チアゾリン誘導体との共結晶における触媒領域の立体モデルを示し、図1Bは、エンドDとM3N1−チアゾリン誘導体との共結晶における触媒領域付近の立体モデルを示す。
そこで、これらの情報を基に、エンドAとN結合型糖鎖の一部を有する下記に示す化合物(M3N1−チアゾリン)との共結晶立体構造と、エンドDとN結合型糖鎖の一部を有する同化合物との共結晶立体構造とを、PyMol(DeLano Scientific LLC社製)によって重ね合わせ、活性残基付近のアミノ酸残基の分布の相違について検討し、コアフコースを許容する可能性のあるアミノ酸残基もしくはコアフコースの許容を阻害する可能性のあるアミノ酸残基(エンドA)を推定した。なお、PyMolは、タンパク質や小分子、電子密度や分子表面、軌道を3D画像化できる一般的な分子グラフィックツールである。
推定されたアミノ酸残基を、図2に示すように、エンドA、M及びDを一次配列で比較(アライメント)した。図2中の3つのエンド酵素の配列上には、エンドMのアミノ酸について、変異させるアミノ酸とアミノ酸番号及び変異後のアミノ酸を、例えばW251Nのように表記している。また、矢印の元は、対応するエンドAのアミノ酸とアミノ酸番号を示す。さらに配列中において、エンドMの175番目と177番目の囲み線と黒塗りの三角記号は、エンドM、エンドA及びエンドDの加水分解反応における活性残基及び活性残基に直接関与する酸性アミノ酸残基を示す。他の囲み線は、エンドMについて変異する候補のアミノ酸残基とそれに対応するエンドAとエンドDのアミノ酸残基を示している。

結果から、コアフコースに関与すると推定されるエンドDの各アミノ酸残基について、エンドMの125番目のグリシン(G125)がエンドDのトリプトファン(W292)に、エンドMの128番目のグルタミン(Q128)がエンドDのセリン(S295)に、エンドMの228番目のトリプトファン(W228)がエンドDのヒスチジン(H384)に、エンドMの251番目のトリプトファン(W251)がエンドDのアスパラギン(N413)に、それぞれ対応するものと推定された。これらの情報を基に、以下にエンドM変異体を調製した。
(エンドM変異体の発現用ベクターの構築)
エンドM変異体として、G125W変異体、Q128A変異体、Q128S変異体,W228H変異体、W251A変異体及びW251N変異体を下記のように調製した。
本実施例で用いられる、エンドM変異体は、梅川らの文献[J.Biol.Chem.Vol.285(1),511−521,(2010)]に記載される方法に従って調製した。配列番号1のアミノ酸配列の全長をコードするDNAを、市販の蛋白質発現ベクター(pET23b、Novagen社製)のマルチクローニングサイトにあるBamHIおよびXhoIサイトに導入したプラスミドDNA(pET23b−EndoM−His6)を鋳型とし、下記表1に示すように、変異するアミノ酸をコードしたForward primer用のオリゴDNAとReverse primer用のオリゴDNA(配列番号2〜13)を用い、各エンドM変異体調製のための蛋白質発現用ベクターを構築した。この調製方法によって、各エンドM変異体のC末端領域に6つのヒスチジン(6×His、ヒスタグ)が融合した蛋白質を得ることができる。
具体的には、下記表1で示されるプライマーセット、DNAポリメラーゼ(KOD−plus、東洋紡社製)、鋳型となるプラスミドDNA(pET23b−EndoM−His6)、核酸供与体(dNTP)及び硫酸マグネシウム(MgSO)を以下(Cy−1)の条件にて混合し、サーマルサイクラー(PCRサーマルサイクラーダイス、タカラバイオ社製)によって、下記(Cy−2)に示す各ステップにおける温度と時間の条件で、DNAを増幅させた。
〈Cy−1の条件〉
・10×KOD−Plus-緩衝液:5μL
・2mM dNTP:5μL
・25mM MgSO:2.4μL
・鋳型となるプラスミド(100ng/μL):0.1μL(10ng)
・Forward primer(10μM):1μL(10pmol)
・Reverse primer(10μM):1μL(10pmol)
・KOD−plus:1μL
・2回蒸留後滅菌した水:35.4μL
〈Cy−2の条件〉
・ステップ1;温度95℃、2分間インキュベート
・ステップ2;温度95℃、30秒間インキュベート
・ステップ3;温度55℃、1分間インキュベート
・ステップ4;温度68℃、6分30秒間インキュベート
・ステップ5;ステップ2からステップ4までを16サイクル
・ステップ6;ステップ5後に温度68℃5分間インキュベート
・ステップ7;ステップ6後に4℃でインキュベート


上記によって得られた溶液に1μLの制限酵素DpnIを加え、37℃で1時間インキュベートし、鋳型DNAを切断・除去した。得られた溶液の一部を用いて、大腸菌DH5α株に形質転換処理を行い、アンピシリン(Amp)100μg/mL含有のアガロース含有LB培地上で形質転換体を得た後、プラスミドを抽出し、DNAシーケンスを行った。シーケンスの結果により、エンドMをコードする遺伝子について、各アミノ酸の変異に対応する変異が導入されたことを確認した。その後、各変異導入されたエンドM遺伝子をコードする蛋白質発現用ベクター(pET23b−ΔEndoM−His6)を、蛋白質発現用の大腸菌BL21(DE3)株に導入(形質転換)し、形質転換体を得た。
(エンドM(WT)の大腸菌による発現および精製)
なお、エンドM(WT)においては、上記の変異導入の操作を行わずに、上記文献による方法によって、エンドMをコードするDNAが導入されたベクター(pET−EndoM−His6)で形質転換されたBL21(DE3)を調製し、下記のようにエンドMを発現させ、精製することで得られた。
(エンドM変異体の大腸菌による発現および精製)
pET23b−ΔEndoM−His6を有するBL21(DE3)を、アンピシリン(Amp)100μg/mL含有のLB培養液5mLで前培養(37℃、12時間)した後、その1mL(OD値、0.5〜2.0)を100mLのアンピシリン(Amp)100μg/mL含有のLB培養液に添加し、そのまま振盪培養(19℃、38時間)を行った。培養後の菌体を遠心分離(3300×g,10分間、4℃)により回収後、1mMのPMSF溶液を含むBugBusterMasterMix(Novagen社製)5mLを加え、室温で10分間、浸透しながらインキュベートすることにより、菌体の溶解物を得た。得られた溶解物を室温、21500×g,15分間遠心することで沈殿物を除去し、得られた上清に500mMのイミダゾール溶液を終濃度20mMとなるように添加し、1mL用のヒスタグ精製用カラム(Ni2+−charged Hi−trap chelating column、GE Healthcare(GE)社製)にそのまま供した。その後、20mMイミダゾール、0.5MのNaCl及び1mMのジチオトライトール(DTT)を含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.5)を上記カラムに10ml加えることよってカラムに結合したヒスタグを有しない蛋白質等を除去した後、カラムに結合したタンパク質を、100mMのイミダゾール、0.5MのNaCl及び1mMのDTTを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.5)を4mLを加え、カラムから流出する溶液を1mlずつ分画(フラクション)し、その後さらに150mMのイミダゾール、0.5MのNaCl及び1mMのDTTを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.5)の4mLを加え、カラムから流出する溶液を1mlずつ分画(フラクション)した。それぞれのフラクション(1mLずつ、計8本)についてSDS−PAGEを行うことで、含有する蛋白質を確認した。その後、これらのフラクションのうち、精製された蛋白質を含むフラクションを集め、限外ろ過膜を有する遠心フィルターユニット(分画分子量30,000、Amicon Ultra、ミリポア社製)を用い、0.15MのNaClを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.5)を加えて何度も遠心濃縮を繰り返すことで、前記緩衝液への置換及び蛋白質の濃縮を行った。さらに20mMのリン酸緩衝液(pH7.2)中で透析(Slide−A−Lyzer Dialysis Casette、分画分子量7kDa、Thermo Scientific社製)を行い、その一部をMono−Qカラム(孔径5mm×長さ50mm、GE社製)を接続させた中圧クロマトグラフィー[FPLC system(AKTA explorer、GE社製)]によって精製した。クロマトグラフィー操作においては、20mMのリン酸緩衝液(pH7.2)(A)と1MのNaClを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.2)(B)とを用い、NaClの直線的な濃度勾配を加え、各フラクションに分画した。得られた各フラクションについて、SDS−PAGEを行うことで含有する蛋白質の確認を行い、精製されたエンドM変異体を含むフラクションを集め、上記同様の限外ろ過膜を有する遠心フィルターユニットによって濃縮し、実施例に使用するエンドM変異体を含む溶液を得た。得られた各変異体についてのSDS−PAGEの結果を図3に示す。
結果から、80kDa付近(矢印の位置)に、メインバンドを有するエンドM(WT)、G125W変異体、Q128A変異体、Q128S変異体,W228H変異体、W251A変異体及びW251N変異体を含む溶液を調製することができた。
また、N175Q変異体については、東京化成工業株式会社製のものをそのまま用いた。N175Q変異体は、梅川らの文献[J.Biol.Chem.Vol.285(1),511−521,(2010)]に記載されるように、上記一般式(7)で表されるような非還元トリマンノシルGlcNAc含有糖鎖の還元末端GlcNAcがオキサゾリン化された誘導体を、コアフコースを有しない糖鎖受容体に効率的に糖鎖転移することが知られている。
(試薬など)
生成物の確認に用いたM3N1は東京化成工業株式会社製を、生成物の確認及び糖鎖転移反応に用いたSialo−glyco oxazoline(SG−oxazoline)、N1−biotin及びF1N1−biotinは、東京化成工業株式会社製のものをそのまま用いた。また、その他のエンドM変異体の加水分解反応に用いる試薬、エンドM変異体の精製に用いる試薬、下記測定に用いる試薬はすべて市販のもの(特に示さない場合、東京化成工業株式会社製のもの)を用いた。
エンドM変異体の加水分解反応[前記反応式(1)]の基質に用いたM3F−biotinとM3−biotinは、図4に示す合成ルートによって調製した。図中の括弧内は化合物番号を示す。
下記に具体的な調製方法を示す。また、合成した生成物については、薄層クロマトグラフィー及びNMRによって確認した。薄層クロマトグラフィーはメルク社製の60F254を用い10%硫酸エタノールにて発色させて確認した。NMRは日本電子株式会社製ECA−400を用いた。なお、下記の「グルコサミニル基」及び「フコシル基」には、それらの水酸基が他の基に置換されているものも含むものとする。

〜M3-biotin及びM3F-biotinの調製法〜
M3-biotin及びM3F-biotinの調製においては、図4の化合物(1)に示す4糖誘導体を出発物質に用いた。
〈化合物(2)の調製〉
化合物(1)30mg(0.015mmol)に、アセトニトリル0.6ml,トルエン0.5ml及びイオン交換水0.3mlを加えて溶解させた後、0℃に冷却して硝酸セリウムアンモニウム82mgを加え、0℃で7時間撹拌した。その後、薄層クロマトグラフィーで出発物質[化合物(1)]の消失を確認した後、反応後溶液を酢酸エチルで希釈し、水相を、水、飽和重曹水、飽和食塩水の順でそれぞれ分液処理を行った。回収した有機層を、減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[充填剤:PSQ100B(富士シリシア社製)、展開液(体積比):トルエン/酢酸エチル=3/2]にて精製し、化合物(2)20mgを収率70%で得た。
〈化合物(3)の調製〉
化合物(2)150mg(0.079mmol)を塩化メチレン1.5mlに溶解させ、0℃に冷却した後にトリクロロアセトニトリル80mμl及びジアザビシクロウンデセン1.1μlを加え、0℃で1時間撹拌した。その後、薄層クロマトグラフィーを用いて、化合物(2)の消失及び生成物の生成を確認した後、シリカゲルPSQ60Bを用いて濾過を行った。濾液を減圧濃縮することで、化合物(3)160mgを収率99.3%で得た。
〈化合物(4)の調製〉
アルゴン雰囲気下、塩化メチレン1mL中、化合物(3)160mg(0.079mmol)と、化合物(A)(Fuc1−6GlcNAc−PrNHZ)140mg(0.139mmol)とを、モレキュラーシーブ4Aの混合物を、−20℃に冷却した。冷却後に、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル0.8μlを加え、−20℃で1時間撹拌した。その後、薄層クロマトグラフィーを用いて化合物(3)の消失及び生成物の生成を確認した後、反応溶液にさらにトリエチルアミン2μlを加えて反応を停止させた。
これを上記同様の方法にて濾過した後、濾液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[充填剤:PSQ100B、展開液(体積比):塩化メチレン/メタノール=100/1]にて精製を行い、化合物(4)120mgを収率54%で得た。
(4)の構造は、H−NMR(400MHz、CDCl)スペクトル法にて解析し、0.99ppm付近に、フコシル基の6位メチル水素由来のピークが存在することから確認できた。
〈化合物(4’)の調製〉
アルゴン雰囲気下、塩化メチレン1mL中、化合物(3)320mg(0.157mmol)、化合物(B)(GlcNAc−PrNHZ)320mg(0.471mmol)及びモレキュラーシーブ4Aの混合物を、上記化合物(4)と同様の操作によって化合物(4’)235mgを収率57%で得た。(4’)の構造は、H−NMR(400MHz、CDCl)スペクトル法にて解析し、5.15ppm付近に、グルコサミニル基の還元末端炭素に結合する水素由来のピークが存在することから確認できた。
〈化合物(5)の調製〉
化合物(4)20mg(0.0069mmol)を1−ブタノール2mlに溶解させ、無水エチレンジアミン28μlを加えて還流しながら23時間撹拌した。その後、薄層クロマトグラフィーを用いて化合物(4)の消失及び生成物の生成を確認し、さらにニンヒドリン反応によるアミノ基の生成の確認を行い陽性であることを確認した後、反応後溶液にトルエンを加えて減圧濃縮することで、シロップ状の残渣を得た。得られた残渣をメタノール2mlに溶解させ、さらに無水酢酸130μlを加え、室温で30分撹拌した。その後、薄層クロマトグラフィーを用いて出発物質の消失及び生成物の生成の確認し、トリエチルアミン0.19mlを加えて反応を停止した。得られた溶液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[充填剤:PSQ100B、展開液(体積比):塩化メチレン/メタノール=50/1]にて精製を行い、化合物(5)12mgを収率69%で得た。
(5)の構造は、H−NMR(400MHz、CDCl)スペクトル法にて解析し、1.64ppmおよび1.84ppm付近に、アセトアミド基のメチル水素由来のピークが存在することから確認された。
〈化合物(5’)の調製〉
化合物(5)の調製において、化合物(4)の代わりに化合物(4’)75mg(0.029mmol)を用いた他は、同様の操作を行い、化合物(5’)38mgを収率62%で得た。
化合物(5)の構造は、H−NMR(400MHz、CDCl)スペクトル法にて解析し、1.61ppmおよび1.85ppm付近に、アセトアミド基のメチル水素由来のピークが存在することから確認された。
〈化合物(6)の調製〉
化合物(5)10mg(0.0048mmol)を、テトラヒドロフラン1.4ml、エタノール1.4ml、イオン交換水0.7ml及び酢酸0.4mlを混合させた溶液に溶解させ,パラジウム炭素(パラジウム約5%含有)12mgを加え、水素雰囲気下、45℃で24時間撹拌させた。その後、薄層クロマトグラフィー[展開液(体積比):酢酸エチル/メタノール/イオン交換水/酢酸=2/2/2/1]にて化合物(4)の消失及び生成物の生成を確認し、さらに反応後溶液(懸濁液)を、ゲル濾過クロマトグラフィー[充填剤:セファデックスLH−20(GE社製)、溶出液(体積比):イオン交換水/メタノール=1/1)]によって分離精製した。
分離後に得られた化合物(6)を含むフラクションを回収し、減圧濃縮して得られた残渣をイオン交換水に溶解させ、さらに凍結乾燥を行うことで、化合物(6)の凍結乾燥粉末5.2mgを収率98.5%で得た。
化合物(6)の構造は、H−NMRスペクトル法にて確認した。結果の詳細を以下に示す。
H−NMR(DO)δ:4.92(1H, brs, ManH−1),4.74(1H, brs, ManH−1),4.72(1H, brs, FucH−1), 4.49 (1H, d, J = 7.8 Hz, GlcNAc H−1), 4.30 (1H, d, J= 8.2 Hz, GlcNAc H−1), 1.92 (3H, s, OCOCH3), 1.87 (3H, s, OCOCH3), 1.05 (3H, d, J = 6.9 Hz, Fuc H−5).
〈化合物(6’)の調製〉
化合物(6)の調製において、化合物(5)の代わりに化合物(5’)23mg(0.011mmol)を用いた他は、同様の操作を行い、化合物(6’)の凍結乾燥粉末9.5mgを収率96.0%で得た。
化合物(6’)の構造は、H−NMRスペクトル法にて確認した。結果の詳細を以下に示す。
H−NMR(D2O)δ:4.97(1H, s, Man H−1), 4.79 (1H, s, Man H−1), 4.47 (1H, d, J = 7.8 Hz, GlcNAc H−1), 4.36 (1H, d, J = 7.3 Hz, GlcNAc H−1), 1.95 (3H, s, OCOCH3), 1.92 (3H, s, OCOCH3).
〈M3F−biotin[化合物(7)]の調製〉
化合物(6)8.0mg(0.0071mmol)をジメチルスルホキシド1mlに溶解させ、D−ビオチン N−スクシンイミジル3.6mg(0.0107mmol)を加えて5時間撹拌した。得られた懸濁液を、ゲル濾過クロマトグラフィー[充填剤:セファデックスLH−20、溶出液(体積比):イオン交換水/メタノール=1/1]によって分離精製した。分離後に得られたM3F−ビオチンを含むフラクションを回収し、減圧濃縮して得られた残渣をイオン交換水に溶解させ、さらに凍結乾燥を行うことで、M3F−biotin[化合物(7)]の凍結乾燥粉末8.3mgを収率88%で得た。
(7)の構造はH−NMR及び13C−NMRスペクトル法にて確認した。結果の詳細を以下に示す。
H−NMR(DO)δ: 4.92(1H, s, Man H−1), 4.48(1H, d, J = 7.8 Hz, GlcN H−1), 4.44(1H, dd, J = 8.0, 4.8 Hz, CH2), 4.30(1H, d, J = 8.2 Hz, GlcN H−1), 4.25(2H, dd, J = 7.8, 4.6 Hz, CH2), 1.91(3H, s, OCOH3), 1.86(3H, s, OCOCH3).
13C−NMR(DO)δ: 104.50, 103.16, 103.01, 102.38, 101.57, 101.29.
上記より、13C−NMRスペクトルにおいて6つの糖ユニットの還元末端炭素に由来するピークと、H−NMRスペクトルにおいて4.4ppm付近と4.2ppm付近にビオチン基のテトラヒドロチオフェン環上のプロトン由来のピークと、が確認されたことから、M3F−biotin[化合物(7)]の構造が確認された。
〈M3−biotin[化合物(7’)]の調製〉
化合物(7’)の調製において、化合物(6)の代わりに化合物(6’)9mg(0.0092mmol)を用いた他は、同様の操作を行い、化合物(7’)の凍結乾燥粉末9.8mgを収率89%で得た。
化合物(7’)の構造は、H−NMRスペクトル法にて確認した。結果の詳細を以下に示す。
H−NMR (D2O) δ: 5.08 (1H, s, Man H−1), 4.90 (1H, brs, Man H−1), 4.47 (1H, d, J = 7.8 Hz, GlcNAc H−1), 4.41 (1H, dd, J = 7.8, 4.6 Hz, CH2), 4.24 (1H, s, Man H−1), 2.07 (3H, s, OCOCH3), 2.02 (3H, s, OCOCH3).
13C−NMR (D2O) δ: 103.23 , 102.09 , 101.75 , 101.08 , 100.31.
上記より、13C−NMRスペクトルにおいて5つの糖ユニットの還元末端炭素に由来するピークと、H−NMRスペクトルにおいて4.4ppm付近と4.2ppm付近にビオチン基のテトラヒドロチオフェン環上のプロトン由来のピークと、が確認されたことから、M3−biotin[化合物(7)]の構造が確認された。
<コアフコースを含有する糖蛋白質(リツキサン)の調製>
コアフコースを含有する糖蛋白質として、以下の性質を有する市販のリツキシマブ製剤(リツキサン、全薬工業株式会社製)を実施例3として用いた。
・分子量:144510
・構造:可変領域の一部がマウス型に置換されたヒト型IgG1
・機能:分化抗原CD20を抗原とする
・調製:リツキシマブをコードする遺伝子発現構成体をチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)に導入し、その後に発現誘導を行って調製
上記のように、CHOから生産されるリツキサンが有するN結合型糖鎖は、ほとんどがコアフコースを有していることが知られており、例えば、Shieldsらの文献[J.Biol.Chem.,Vol.277,26733(2002)]及びRajuらの文献[Bioprocess Int.,Vol.4,44(2003)]、Liらの文献[mAbs,Vol.5,565(2013)]に詳しく記載されている。
<コアフコースを含有する糖ペプチド(リツキサンペプチド)の調製>
リツキサン800μgを400μLの40mMの炭酸アンモニウムに溶解させ、10 mMジチオスレイトール(DTT)を添加して55度にて45分間インキュベートした。その後、室温まで冷却した後、終濃度30mMとなるようにヨードアセタミドを添加し、さらにチューブを遮光して、1時間室温にてさらに静置した。次いで、5μgのトリプシン(Modified Sequence Grade Trypsin、プロメガ社製)を加え、37度で16時間インキュベートすることによって、リツキサンをペプチドにまで消化した。得られたリツキサンペプチドは、乾燥後、5%酢酸に溶解し、得られた溶液を、C18カートリッジカラムにアプライした。その後、C18カラムを5%酢酸で洗浄した後、該カラムに結合したペプチド・糖ペプチドを20%の2-プロパノールを含む5%酢酸および40%の2−プロパノールを含む5%酢酸によって、順次溶出し、溶出後に回収した溶液を遠心濃縮によって乾燥させ、リツキサンペプチドを得た。なお、得られたリツキサンペプチドは、N結合型糖鎖を有する糖ペプチドを、全リツキサンペプチドの質量に対して10質量%程度有する混合物である。
<ヒトラクトフェリンの調製>
コアフコースを含有する糖蛋白質であるヒトトランスフェリン(hLF)は、市販品(L3770、シグマ−アルドリッチ社製)をそのまま用いた。なお、Yuらの文献[Glycobiology,Vol.21,206(2011)]に記載されるように、hLF中のほとんどがコアフコースを含有する複合型糖鎖を2つ有することが知られている。
<各種測定方法>
(TLC)
下記反応後の溶液2μLを、薄層クロマトグラフィー(TLC、Silica gel60、Merck社製)にスポットし、展開溶媒(1−ブタノール/酢酸/水:3/2/2)によって展開し、オルシノール法、すなわち2Mの硫酸に溶解させた0.2体積%のオルシノール溶液に浸漬した後、110℃で10分程度加熱することで呈色させた。呈色したプレートは市販のスキャナー装置で画像化した。
(HPLC)
反応後の溶液10μLに、10μLの0.1体積%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加し、HPLC測定の試料として用いた。HPLC測定は、分析用のカラム[Cosmosil 5C18 AR−II(孔径4.6mm×長さ150mm、ナカライテスク社製)]を装備したHPLCシステム[分離モジュール:e2569(ウオータース社製)、フォトダイオードアレイ検出器:2999(ウオータース社製)]により下記の条件で行った。
〔条件〕
・溶離液:0.1体積%のTFAを含有した純水(A)と0.1%のTFAを含有したアセトニトリル(B)を体積比((A):(B))9:1で混合後、脱気した溶液
・流速:0.5mL/min
・検出波長:214nm(UV−PDA)
(MALDI−TOF MS)
反応後の溶液に80μLの冷アセトンを加え、−80℃で30分静置した。その後、17400×gで10分間遠心し、上清を別チューブに移し濃縮遠心によって乾燥後、10μLの純水に溶解させた。得られた溶液2μLをTLCによって確認し、1μLを3μLのDHBA溶液(20mg/mLの2,5−ジヒドロキシ安息香酸を50%メタノール水溶液に溶解させた溶液)に溶解させた。得られた溶液の2μLずつを、MALDI−TOF MS分析用のplateにスポットし乾燥させ、MALDI−TOF MS分析を、Ultrafle Xtreme JA(ブルーカー・ダルトニクス社製)もしくはautoflex speed−tko1リフレクタシステム(ブルーカー・ダルトニクス社製)を用い、下記の測定条件で行った。
・測定モード:ポジティブイオンモード,及びリフレクターモード
・測定電圧:25kv及び1.5kv〜2.5kv
・測定分子量の範囲:m/z0〜4000及び45000〜60000
・積算回数:20000〜40000及び1000〜8000
また、MS/MS測定は、上記のMALDI−TOF MS測定によって得られた、所定のm/z値を有するシグナルをプリカーサーイオンとして用い、アルゴンガスを使用して行った。
(SDS−PAGE)
SDS−PAGEによる測定は、市販のスラブゲル用の装置(日本エイドー株式会社製の恒温式2連ミニスラブゲル電気泳動装置)を用い、10%のポリアクリルアミドゲルを、40mAで60分間電気泳動後に、ゲルをクマシブリリアントブルーで染色し、得られたゲルを評価した。マーカーは、Protein Marker Broad Range(2−212kDa)(NEB社製)を用いた。なお、検出においては、ゲル撮影装置(スキャナーGT−X970、エプソン社製)を用いた。
<エンドM変異体による加水分解>
〔実施例1〕
1.5mLのマイクロチューブ中に、エンドM変異体としてW251A変異体の1μgと、基質(反応式(1)の(A))としてM3−biotin又はM3F−biotinの10μgと、を30mMのリン酸ナトリウム水溶液(pH6.0)10μLに溶解させた後、恒温槽中、30℃でインキュベートした。所定時間のインキュベート後に、95℃で5分間の熱処理によって反応を停止し、反応後の溶液を得た。得られた溶液について、TLC、HPLC及びMALDI−TOF MSによる測定を行い、加水分解活性を算出した。
[実施例2、比較例1〜5]
表2に示すように、実施例1のW251A変異体をW251N変異体、エンドM,G125W変異体、G128A変異体、Q128S変異体又はW228H変異体に変更した以外は同様にして、実施例2又は比較例1〜5での反応後の溶液を得た。得られた各溶液は、実施例1と同様の方法で測定し、加水分解活性を算出した。
〜測定結果〜
反応時間20分後でのTLC測定の結果を図5に示す。図5中、矢印は基質及び加水分解後の生成物のTLC上での位置を示す。結果から、M3−biotinに対しては、エンドM及びエンドM変異体のすべてが、反応時間20分以内で加水分解を完了することが示された。一方、M3F−biotinに対しては、W251A変異体及びW251N変異体を添加した場合にのみ、加水分解物〔ManGlcNAc(M3N1,反応式(1)の(B)に相当)及びFucα1−6GlcNAc−biotin(F1N1−biotin、反応式(1)の(C)に相当)〕を生じることが示された。しかし、W251A変異体及びW251N変異体以外のエンドM変異体を添加した場合にはほとんど加水分解物を生じていないことが示された。
M3F−biotinを含む溶液に対しW251N変異体を添加し、上記条件にて20分インキュベートした後に得られた溶液のMALDI−TOF MSによる測定結果を図7に示す。結果から、W251N変異体を添加した場合には、W251N変異体を添加していない場合に検出されたM3F(Na付加)のシグナル(m/z1363.6)が消滅し、代わりにF1N1−biotin(Naの付加)のシグナル(m/z673.6)とM3N1(Naの付加)のシグナル(m/z730.6)が出現した。このことから、M3FがW251N変異体によって加水分解して、F1N1−biotinとM3N1を生成したことが判明した。
また、HPLCによる解析から、M3F−biotinに対する加水分解後の生成物の量を算出し、反応時間(インキュベートした時間)と、加えたエンドM変異体又はエンドMの質量から、特異的加水分解活性(μmol/(min・mg))及び相対活性を算出した。なお、相対活性については、エンドMのM3F−biotinに対する前記活性を1とした場合のエンドM変異体の各基質に対する相対活性として示した。結果を表2に示す。
また、HPLC測定の一例として、エンドMをM3−biotinに加えた場合のHPLC測定の結果を図5に示す。図6中、3つのチャートは、それぞれ上部から、エンドMを反応液に加えない場合、10ng加えた場合、100ng加えた場合の結果を示す。横軸はカラム保持時間を、縦軸はUV吸収による検出感度を示す。矢印は生じた生成物の保持時間を示す。
表2の結果から、本開示のエンドM変異体(実施例1及び2)は、コアフコースを有するN結合型糖鎖であるM3F−ビオチンに対する加水分解活性が、エンドM又は他のエンドM変異体に比べて著しく高いことが示された。
このように、エンドMの251番目のトリプトファン残基を適切なアミノ酸に置換することが、コアフコースを有するN結合型糖鎖の加水分解に極めて重要であることが示された。
〔実施例3〕
実施例3として、W251N変異体の糖ペプチドを含むリツキサンペプチドに対する加水分解反応を行った。
上記で調製したリツキサンペプチド200μgを100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)400μlに溶解しW251N変異体4μgを添加し、30℃で16時間反応させた。反応終了後、反応後溶液を遠心濃縮によって乾燥させ、5%酢酸に再溶解した後、得られた溶液をC18カラムにアプライした。アプライ後に、該カラムへの非結合画分を回収し、凍結乾燥することで、エンドM変異体による加水分解によって遊離したN結合型糖鎖画分の乾燥物を得た。当該乾燥物を次のマススペクトロメトリーによる糖鎖分析に供した。
〜<マススペクトロメトリーによる糖鎖分析>〜
上記の乾燥物は、Anumulaらの文献〔Anal.Biochem.Vol.203,101−108〕による定法に従って完全メチル化を行ってから、MALDI−TOF/TOF MS分析によって糖鎖の分子量とフラグメントパターンによる糖鎖の構造推定を行った。なお、当該分析には、2,5−dihydrobenzoic acidをマトリックスとして用いた。以下、上記の各加水分解後に得られた乾燥物を、上記のMALDI−TOF/TOF MS分析によって行った結果を、「各加水分解後のMS分析の結果」と称することがある。
〔比較例6〕
実施例3において、W251N変異体4μgの代わりにエンドM(WT)4μgを用いた他は実施例3と同じにして、リツキサンペプチドに対する加水分解反応を行い、マススペクトロメトリーによる糖鎖分析を行った。
〔参考例1〕
実施例3において、W251N変異体4μg及び100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)の代わりにエンドS(ニューイングランドバイオラボ社製)100U及びNEB社製のG6 bufferを用いた他は実施例3と同じにして、リツキサンペプチドに対する加水分解反応を行い、マススペクトロメトリーによる糖鎖分析を行った。
〜測定結果〜
結果を図8A〜図8Cに示す。図8Aは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、エンドM(WT)による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示し、図8Bは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、W251N変異体による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示し、図8Cは、リツキサンから調製した糖ペプチドに対し、エンドSによる加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す。なお、図8A〜図8C中の黒の四角はN―アセチルグルコサミン、灰色の丸はマンノース、白い丸はガラクトース、黒のひし形はN―アセチルノイラミン酸を示す。
結果から、遊離したN結合型糖鎖は、比較例6では、図8Aに示すように、m/z 1416.8 (HexNAc3Hex3)のピークが弱く検出されるのみであった。一方、実施例3では、図8Bに示すようにm/z 1171.7,1416.8,1620.9,1825.0,2187.1,2548.3とそれぞれHexNAc2Nex2,HexNAc3Hex3,HexNAc3Hex4,HexNAc3Hex5, NeuAc1HexNAc3Hex5,NeuAc2HexNAc3Hex5に相当するピークが検出された。また、図8A〜図8Cに、各ピークのMALDI−TOF/TOF分析の結果から得られたフラグメントパターンから推定される糖鎖構造を示す。推定された糖鎖構造においては、実施例3と、図8Cに示す参考例1とが一致することが示された。
このように、W251N変異体は、コアフコースを含有する様々な種類の複合型糖鎖等が結合した糖ペプチドに対して、エンドSと同様に加水分解活性を有することが示された。
〔実施例4〕
実施例4として、W251N変異体のヒトラクトフェリン(hLF)に対する加水分解を行った。
10μgのhLF(L3770、シグマ−アルドリッチ社製)を溶解した100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)20μlに、2μgのW251N変異体を添加し30℃で16時間反応させた、
反応後の溶液にSDS−PAGE用のサンプルバッファーを等量加え、5分間沸騰水中で加熱し、SDS−PAGE用の試料を得た。次に、各レーン中にhLFが0.5μg含まれるようにSDS−PAGE用の7.5%のポリアクリルアミドゲルのウェルにアプライし、SDA−PAGEを行った。SDA−PAGE後のゲルの染色は、クマシー染色により行った。
〔比較例7〕
実施例4において、W251N変異体の代わりにエンドM(WT)2μgを用いた他は実施例4と同じにして、hLFに対する加水分解反応を行い、反応後の溶液についてSDS−PAGEを行った。
〔比較例8〕
実施例4において、W251N変異体及び100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)20μlの代わりにエンドS(ニューイングランドバイオラボ社製)100U及びNEB社製G6 bufferを用いた他は実施例4と同じにして、hLFに対する加水分解反応を行い、反応後の溶液についてSDS−PAGEを行った。
〜測定結果〜
各反応後の溶液についてSDS−PAGEの結果を図9に示す。各レーンの上部には、加水分解反応に用いたエンド酵素の種類を示す。図9中、矢印の始点は、終点が示す各バンドにおいて推定される蛋白質名を表す。DG―hLFは、1つのあるいは2つのN結合型糖鎖が、エンド酵素によって加水分解されたhLFを意味する。native hLFは、N結合型糖鎖が加水分解されていないhLFを意味する。
結果から、加水分解を行っていないhLF(Control)では、80kDaより少し上に2つの糖鎖を持つnative hLFに相当するバンドが認められる。またごく一部は3本の糖鎖を持つと推定されることから更に上に分離される。
比較例8、すなわち、エンドSによる加水分解反応の場合には、Controlよりも低分子量側にバンドが出現することから、エンドSによる加水分解反応によって、hLF(native hLF)から少なくとも1つの糖鎖が遊離したと考えられる。比較例7、すなわちエンドM(WT)による加水分解反応の場合も、同様にControlよりも低分子量側にバンドが出現することから、少なくとも1つの糖鎖が該hLFから脱離したと考えられる。なお、エンドM(WT)はコアフコースを有しないN結合型糖鎖を加水分解しないが、該hLFにはコアフコースを有しないN結合型糖鎖も含まれていると考えられるので、比較例7においては、エンドM(WT)が、hLF中のそれらのN結合型糖鎖を加水分解したものと考えられる。
一方、実施例4、すなわちW251N変異体による加水分解反応の場合には、比較例7及び8で見られた低分子量側のバンド以外にも、さらに低分子量側のバンドが現れることから、少なくとも2つの糖鎖がhLFから遊離したことが示された。従って、W251N変異体は、エンドSには加水分解できないhLFが有するN結合型糖鎖に対しても加水分解活性を有することが示された。
このように、W251N変異体は、コアフコースを含有する糖タンパク質糖鎖に対しても、加水分解活性を有することが示された。
〔実施例5〕
実施例5として、W251N変異体のhLFに対する加水分解反応を行った。
上記で調製したhLF100μgを100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)100μlに溶解しW251N変異体20μgを添加し、30℃で16時間反応させた。反応終了後、反応後溶液を遠心濃縮によって乾燥させ、5%酢酸に再溶解した後、得られた溶液をC18カラムにアプライした。アプライ後に、該カラムへの非結合画分を回収し、凍結乾燥することで、エンドM変異体による加水分解によって遊離したN結合型糖鎖画分の乾燥物を得た。当該乾燥物を次のマススペクトロメトリーによる糖鎖分析に供した。
〜<マススペクトロメトリーによる糖鎖分析>〜
上記の乾燥物は、Anumulaらの文献〔Anal.Biochem.Vol.203,101−108〕による定法に従って完全メチル化を行ってから、MALDI−TOF/TOF MS分析によって糖鎖の分子量とフラグメントパターンによる糖鎖の構造推定を行った。なお、当該分析には、2,5−dihydrobenzoic acidをマトリックスとして用いた。以下、上記の各加水分解後に得られた乾燥物を、上記のMALDI−TOF/TOF MS分析によって行った結果を、「各加水分解後のMS分析の結果」と称することがある。
〔比較例9〕
実施例5において、W251N変異体20μgの代わりにエンドM(WT)20μgを用いた他は実施例5と同じにして、hLFに対する加水分解反応を行い、マススペクトロメトリーによる糖鎖分析を行った。
〜測定結果〜
結果を図10A及び図10Bに示す。図10Aは、hLFに対し、エンドM(WT)による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示し、図10Bは、hLFに対し、W251N変異体による加水分解反応を行った後に遊離した糖鎖を、MALDI−TOF MSによって測定した結果を示す。なお、図10A及び図10B中の黒の四角はN―アセチルグルコサミン、灰色の丸はマンノース、白い丸はガラクトース、黒のひし形はN―アセチルノイラミン酸を示す。
結果から、エンドM(WT)を用いた場合も、W251N変異体を用いた場合もともにN結合型糖鎖が加水分解したものと推定されるシグナルが得られた。一方、主なシグナルとして、m/z 1335(Hex5HexNAc1)、m/z 1621(Hex4HexNAc3)、m/z 1825(Hex5HexNAc3)、m/z 2000(dHex1Hex5HexNAc3)、m/z 2187(NeuAc1Hex5HexNAc3)を検出した。また、図10A及び図10Bに、各ピークのMALDI−TOF/TOF分析の結果から得られたフラグメントパターンから推定される糖鎖構造を示す。
このように、W251N変異体処理において、エンドM(WT)処理のものよりもシグナルが強く、多くの糖鎖が遊離したことが示唆された。本結果は、実施例5のSDS−PAGEの結果に矛盾しないことが示された。
〔実施例6〕
実施例6として、W251N変異体のリツキサン(抗体、IgG1)に対する加水分解反応を行った。
上記の市販のリツキサン200μgを、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.25)100μlに溶解させ、膜濃縮装置[分画分子量10000、アミコンウルトラ15(メルクミリポア社製)]にて4℃で、緩衝液の交換を行った。緩衝液の交換によって得られたリツキサン(IgG1)200μgが溶解した50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.25)100μLに、W251N変異体の1mgを0時間後、24時間後、48時間後にそれぞれ加え、恒温槽(EYELA社製、THERMISTOR TEMPPET T−80)中、37℃で振盪しながらインキュベートした。インキュベートした時間(以下、反応時間と称する)が0時間後(A)、24時間後(B)、48時間後(C)、72時間後(D)に、反応後溶液から一部をサンプルとして採取し、各サンプルをさらに還元処理した後、MALDI−TOFでMS分析を行った。結果を、図11で示す。図11に示すように、反応時間の経過につれて、N結合型糖鎖が結合した重鎖の分子量に相当する位置のピークが減少し、代わりにN結合型糖鎖を有しない重鎖の質量の位置に相当するピークが増大することから、反応時間の経過によって、リツキサンのN結合型糖鎖が遊離したことが示された。また、48時間後から72時間後の間に、原料のIgG(リツキサン)のN結合型糖鎖が加水分解されて生じた加水分解物((Fucα1−6)GlcNAc−IgG、m/z 49502))のピーク(m/z 49502)が、原料のピークよりも高くなることが示された。
このように、W251N変異体は、IgGが有するフコース含有N結合型糖鎖に対しても加水分解活性を有することが示された。
<エンドM変異体による糖鎖転移>
〔実施例7〕
糖鎖転移反応は、下記の組成条件の溶液20μLを、1.5mLのマイクロチューブ中に作成した後、恒温槽中、30℃で60分インキュベートすることで行った。
〔条件〕
・糖鎖供与体:5mMのSG−oxazoline
・糖鎖受容体:5mMのF1N1−biotin
・エンドM変異体:0.66μgのW251N変異体
・緩衝液濃度とpH及び溶液全体の体積:25mMリン酸ナトリウム(pH6.5)20μL
インキュベート後に、95℃で5分間の熱処理によって反応を停止し、反応後の溶液を得た。得られた溶液を乾燥し20mg/mLのDHBA溶液に溶解してMALDI−TOF MS分析に処した。
〔比較例10〜12〕
下記表3に示すように、比較例10では、実施例7における糖鎖受容体を同濃度のN1−biotinに、比較例11では、実施例7におけるエンドM変異体を同質量のN175Q変異体に、比較例12では、比較例11における糖鎖受容体を同濃度のF1N1−biotinにそれぞれ変えた他は同じ条件で反応を行い、反応後溶液を同様にMALDI−TOF MS分析に処した。

〜測定結果〜
図12に、実施例及び比較例で行った糖鎖転移反応についての概要を示す。図12が示すように、W251N変異体又はN175Q変異体の糖鎖転移反応によって、N1−biotin又はF1N1−biotinと、SG−oxazolineと、がそれぞれ縮合した

生成物、SG−biotin又はSGF−biotinが検出された。
以下に詳細を示す。
MALDI−TOF MSにおける分析結果を図13に示す。Bに示すように、実施例7では、F1N1−biotinと、SG−oxazolineと、が縮合した生成物、すなわちSGF−biotinのナトリウムイオン付加体(NeuAc2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2Fuc−biotin[M+3Na−2H]+)に相当すると考えられるシグナル(m/z2719.8)が検出された。
一方、Aに示すように、糖鎖受容体としてN1−biotinを用いた比較例10では、縮合生成物に相当するピークは検出できなかった。
また、エンドM変異体としてN175Qを用いた比較例11(図13のC)では、糖鎖受容体であるN1−biotinとSG−oxazolineが縮合した生成物、すなわちSG−biotinのナトリウムイオン付加体(NeuAc2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2−biotin[M+3Na−2H]+)に相当すると考えられるシグナル(m/z2573.9)が検出された。
一方、Dに示すように、糖鎖受容体としてF1N1−biotinを用いた比較例12では、縮合生成物に相当するシグナルは検出できなかった。
実施例7と比較例11で得られたシグナル(図13のB及びC)について、さらに、それぞれのシグナルについてのMS/MS解析を行った。結果を、実施例7については図14の上、比較例11については図14の下に示す。なお、図中において表記される◇(白菱形)はNeuAc、○(白丸)はGal、●(黒丸)はMan、□(白四角)はGlcNAc、△(白三角)はFucを示す。
結果から、図13で得られたm/z2719.8及びm/z2573.9のシグナルについては、いずれも2つのシアル酸ナトリウム及びLacNAc残基(Galβ1−4GlcNAcが結合した基、図中の○−□の部分)の欠損に由来するフラグメントが検出された。このことにより、図13で得られたそれぞれのシグナルは図14中に示すような構造であることが確認された。
このように、本開示のエンドM変異体は、糖鎖供与体を、コアフコースが結合した糖鎖受容体に、効率的に糖鎖転移することが示された。
日本出願2015−037187の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (4)

  1. 配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有するエンドM変異体、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基がアスパラギン又はアラニンであるアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1で示されるアミノ酸配列の251番目のアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換により、前記アミノ酸配列に対して90%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有し且つ下記反応式(1)で表される加水分解反応を触媒する活性を有しているエンドM変異体。

    (反応式(1)中、Xは糖質由来の基、Yは一価の置換基を示す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表し、β1−4はGlcNAcの1位とGlcNAcの4位とのβグリコシド結合を表す。Fucはフコシル基を表し、α1−6はFucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。GlcNAc−OHは、GlcNAcの還元末端の炭素に水酸基が結合していることを示す。H−GlcNAcは、GlcNAcの4位の酸素原子に水素原子が結合していることを示す。)
  2. 前記反応式(1)中、Yがペプチド又は蛋白質に由来する構造を含むアシルアミノ基である請求項1に記載のエンドM変異体。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のエンドM変異体の存在下、
    糖鎖供与体と、
    下記一般式(1)で表される糖鎖受容体と、
    を反応させることによりN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質を製造するN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法。

    (一般式(1)中、Yは1価の置換基を示す。GlcNAcはN−アセチルグルコサミニル基を表し、Fucはフコシル基を表し、α1−6はFucの1位とGlcNAcの6位とのαグリコシド結合を表す。)
  4. 前記反応において、糖鎖供与体の糖鎖受容体に対するモル比率(糖鎖供与体のモル数/糖鎖受容体のモル数)が0.2〜20.0である請求項3に記載のN結合型糖鎖含有化合物又はN結合型糖鎖含有蛋白質の製造方法。
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