JP2023079084A - 空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法、及びその方法で得られる多孔炭素膜を正極に用いた空気電池の製造方法 - Google Patents

空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法、及びその方法で得られる多孔炭素膜を正極に用いた空気電池の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】炭素化処理に酸素を用いることなく、空気電池の正極に用いた際に高容量が得られる多孔炭素膜を製造する方法、及びその多孔炭素膜を正極に用いて空気電池を製造する方法を提供する。【解決手段】本発明の一側面に係る空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法は、多孔炭素粒子及びバインダー用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製すること、前記合剤スラリーを成型すること、前記成型することによって得られた試料を、前記バインダー用高分子材料の溶解度が低い溶媒に浸漬すること、前記浸漬して得られた試料を乾燥すること、前記乾燥して得られた試料を、不活性ガス雰囲気中で炭素化すること、及び、前記炭素化して得られた試料を二酸化炭素雰囲気で熱処理することを含む。【選択図】図1

Description

本発明は、空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法、及びその方法で得られる多孔炭素膜を正極に用いた空気電池の製造方法に関する。
スマート社会を支える原動力として電池が着目され、その需要が急激に高まっている。電池には様々な種類のものがあるが、その中でも空気電池は、小型、軽量かつ大容量に適した構造であるため、高い注目を集めている。
空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いた電池で、金属空気電池とも呼ばれ、燃料電池の一種と位置づけられている電池である。その一例としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な金属又は化合物を負極活物質として用いたリチウム空気電池が挙げられる。リチウム空気電池における各電極での反応は、次式で表される。
Figure 2023079084000002
空気電池は、正極活物質が空気中の酸素であり、これを電池の外部から取り込むことができるので、正極活物質の供給源を電池内に配置する必要がなく、原理的に小型・軽量化に適する構造である。また、正極活物質を外部から取り込めることは、利用可能な正極活物質の量が制限されないことにもなるため、原理的に大容量化に適する構造でもある。
しかしながら、現状の空気電池は、その小型・軽量・大容量に対するポテンシャルを十分には引き出せてはいない。その原因の一つとして、正極の放電容量がまだ十分に高くはないことが挙げられる。
空気電池では、空気中の酸素が正極活物質であり、放電時の正極での反応は、負極から移動してくる金属イオンが酸素及び電子と結合して酸化物を生成するものである。このため、空気電池の高容量化には、負極から移動してくる金属イオンが正極内の隅々まで移動しやすいこと(高イオン輸送効率)、金属イオンと反応する酸素を含む空気が、正極内の反応場へ浸透拡散しやすいこと(高酸素透過性)、正極内に金属イオンと酸素とが反応して酸化物となる反応場が多いこと、及びこの酸化物を蓄えるための細孔容積が大きいことが必要となる。また、小型・軽量な空気電池を低コストで製造するために、正極が構造体として自立することが望まれる。
このような問題に対し、特許文献1においては、正極に用いる多孔質炭素として、メソ孔とマイクロ孔とを含む細孔を備え、前記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造をなすものであって、この炭素質壁に前記マイクロ孔が形成されており、前記メソ孔が開気孔であって、気孔部分が連続して連結孔を形成しており、前記細孔の細孔径分布の半値幅が2nm以下であり、前記連結孔の連結孔径分布の半値幅が50nm以上であり、孔径1nm以上の細孔が占める細孔容積が1.0ml/g以上、4.0ml/g以下のものが提案されている(請求項1)。ここで、細孔径は窒素吸着法により測定された値を意味すること(段落[0021])、細孔径が1nm以上のメソ細孔の領域に細孔を多く有する炭素材料が正極として高容量を与えること(段落[0023])、及び、前記多孔質炭素とこれを固定化するバインダーとを含有する組成物を溶媒中に分散した塗料を、正極集電体上に塗布する、又は前記組成物を圧着プレスにより成型することにより正極層を形成することができることが記載されている(段落[0033],[0035])。
特許文献2には、炭素を含む導電性多孔質体を含む正極層において、1nm以上200nm以下の孔径を有する細孔の占める第1細孔容積が、200nmを超え10,000nm下の孔径を有する細孔の占める第2細孔容積よりも大きいリチウム空気電池が提案されている(請求項1)。そして、放電時に生成されるリチウム酸化物は、正極層の細孔内に生成されるから、孔径が小さい第1細孔が多いほど、多くの小粒子が生成し、小粒子であるほど、充電時に起こるリチウム酸化物の分解反応が表面だけでなく全体で起こりやすいから、充放電サイクル特性を向上させることができること(段落[0035])、高容量の確保と充放電サイクル特性の向上とを考慮すると、第1細孔容積の好ましい範囲は0.1~2.4cm3/gである旨が記載されている(段落[0037])。また、特許文献2には、前記正極層の製造方法として、正極集電体上に、導電性多孔質体及びバインダー等を含む組成物を溶媒中に分散した塗料を、ドクターブレード法等により塗布する方法、又は、上記組成物を圧着プレスにより成型する方法等が例示されている(段落[0042])。
特許文献3は、特定の細孔構造及び物性を有する多孔炭素構造体(請求項1~11)、前記多孔炭素構造体を、多孔炭素粒子と高分子材料とを原料として、0.03%より多く5%未満の範囲の酸素濃度を有する酸化性ガス雰囲気中で炭素化処理する製造方法(請求項13~15)、及び前記多孔炭素構造体を有する正極構造体を含む電池(請求項22)を提案している。
特許第5852548号公報 特開2018-133168号公報 国際公開第2020/235638号
このように、空気電池の高容量化について、正極に対する種々の試みがなされており、一定の成果を挙げている。
しかし、特許文献1に記載された、孔径1nm以上の細孔が占める細孔容積が1.0ml/g以上4.0ml/g以下である多孔質炭素を用いる正極では、バインダーを使用しているため、多孔質炭素の細孔の一部がバインダーで埋められてしまい、正極としての細孔容積は多孔質炭素の細孔容積よりも小さくなってしまうから、高容量化に限界がある。
特許文献2には、空気電池の高容量を確保しつつ、充放電サイクル特性を向上させるために、孔径が1nm以上200nm以下の第1細孔容積が、200nmを超え10000nm以下の第2細孔容積よりも大きい、炭素を含む導電性多孔体を正極層とすることが記載されている。しかし、前記第1細孔容積の好ましい範囲は0.1~2.4cm3/gとされており、より大きな放電容量を持つ空気電池とするには、さらに大きな第1細孔容積を持つ正極層、及びその製造方法が望まれる。
本発明者らは、0.03%より多く5%未満の範囲の酸素濃度を有する酸化性ガス雰囲気中で炭素化処理を行うことにより、空気電池の正極に適した高細孔容積を持つ多孔炭素構造体を製造することを先に提案した(特許文献3)。しかし、酸化燃焼力の高い酸素を処理に用いると、処理条件によっては炭素粒子を主体とした多孔膜が酸化燃焼により消失する虞があるため、酸素濃度、及び酸化温度を低い範囲内で微妙に制御して製造する必要があった。
本発明は、炭素化処理に酸素を用いることなく、空気電池の正極に用いた際に高容量が得られる多孔炭素膜を製造する方法、及びその多孔炭素膜を正極に用いて空気電池を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者は、前記課題を解決するための検討を重ねる中で、一般には不活性ガスとされている二酸化炭素でも、高温であれば炭素粒子を主体とした多孔膜を緩やかに酸化燃焼させ得ることを知見した。そして、二酸化炭素雰囲気中での熱処理により、細孔容積の大きな多孔炭素膜を製造することを見出し、本発明を完成するに至った。
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用する。
[1]空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法であって、
多孔炭素粒子及びバインダー用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製すること、
前記合剤スラリーを成型すること、
前記成型することによって得られた試料を、前記バインダー用高分子材料の溶解度が低い溶媒に浸漬すること、
前記浸漬して得られた試料を乾燥すること、
前記乾燥して得られた試料を、不活性ガス雰囲気中で炭素化すること、及び、
前記炭素化して得られた試料を二酸化炭素雰囲気で熱処理すること
を含む、空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法。
[2]前記炭素化の前に、前記乾燥して得られた試料を、空気中で不融化することをさらに含む、前記[1]の多孔炭素膜の製造方法。
[3]前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、前記多孔炭素膜における直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、原料として用いる前記多孔炭素粒子の1.02倍以上になるまで行う、前記[1]又は[2]のいずれかの多孔炭素膜の製造方法。
[4]前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、500℃以上1000℃以下の温度で行う、前記[1]から[3]のいずれか1の多孔炭素膜の製造方法。
[5]前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、二酸化炭素濃度が50%以上の雰囲気で行う前記[1]から[4]のいずれか1の多孔炭素膜の製造方法。
[6]前記多孔炭素膜が、以下の(a)~(d)のすべての条件を満たす、前記[1]から[5]のいずれか1の多孔炭素膜の製造方法。
(a)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、3.5cm/g以上、7.0cm/g以下
(b)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.5cm/g以上、7.0cm/g以下
(c)直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.2cm/g以上、7.0cm/g以下
(d)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積が、900m/g以上、2000m/g以下
[7]前記多孔炭素膜が、さらに以下の(e)の条件を満たす、前記[6]の多孔炭素膜の製造方法。
(e)見かけ密度が、0.10g/cm以上0.20g/cm以下
[8]前記多孔炭素膜が、さらに以下の(f)の条件を満たす、前記[6]又は[7]の多孔炭素膜の製造方法。
(f)空隙率が、90%以上99%以下
[9]空気電池の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載の多孔炭素膜の製造方法により多孔炭素膜を製造すること、
前記多孔炭素膜から正極を形成すると共に、負極及びセパレータを準備すること、
前記正極及び負極を、セパレータを介して積層すること、並びに
前記セパレータに電解液を充填すること
を含む、空気電池の製造方法。
本発明によれば、大きな細孔容積を有する空気電池正極用の多孔炭素膜が得られるので、高い酸素透過性と高いイオン輸送効率が得られ、かつ、多くの反応場及び反応物貯蔵スペースが得られるから、小型・軽量で大容量化に適した空気電池を提供することができる。
本発明の一側面に係る多孔炭素膜の製造方法のフローチャート図 多孔炭素膜を備える空気電池の一例である、コインセルの構造を示す断面模式図 多孔炭素膜を備える空気電池の他の一例である、積層型空気電池の構造を示す断面模式図
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
[空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法]
本発明の一側面は、空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法である。この一側面に係る実施形態(以下、「本実施形態」と記載することがある。)は、図1に示すように、多孔炭素粒子及びバインダー用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製すること(S1)、前記合剤スラリーを成型すること(S2)、前記成型した成型体を、前記バインダー用高分子材料に対して溶解度が低い溶媒に浸漬すること(S3)、前記浸漬した成型体を乾燥すること(S4)、前記乾燥した成型体を、不活性ガス雰囲気中で炭素化すること(S6)、及び前記炭素化した成型体を二酸化炭素雰囲気で熱処理すること(S7)を含む。なお、本実施形態では、前記S6の前に、前記S4で得られた試料を、空気中で不融化すること(S5)をさらに含んでもよい。
以下、各工程について詳述する。
(S1:合剤スラリー調製)
合剤スラリーは、多孔炭素粒子とバインダー用高分子材料とを含む。
多孔炭素粒子としては、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子などを用いることができる。
バインダー用高分子材料としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン、溶媒可溶型ポリイミド等の高分子材料を用いることができる。
多孔炭素粒子及びバインダー用高分子を分散させる溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)などを用いることができる。
合剤スラリーは、カーボンファイバー及び/又はカーボンナノチューブを含んでもよい。合剤スラリーがカーボンファイバー及び/又はカーボンナノチューブを含むことで、得られる多孔炭素膜を高強度とすることができる。
カーボンファイバーとしては、例えば、直径が0.1μm以上20μm以下、長さが1mm以上20mm以下のものを用いることができる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、直径が0.5nm以上20nm以下、長さが1μm以上20μm以下のものを用いることができる。
合剤スラリー調製時に溶剤と混合する各成分の含有量は、例えば、50質量%以上85質量%以下の多孔炭素粒子、5質量%以上49質量%以下のバインダー用高分子材料、1質量%以上15質量%以下のカーボンファイバー、及び0質量%以上10質量%以下のカーボンナノチューブとすることができる。これらを溶剤に均一に分散して合剤スラリーを調製する。
(S2:成型)
前記合剤スラリーを成型する方法は、所定の寸法の成形体が得られるものであれば限定されず、例えば、ドクターブレードなどを用いた湿式製膜法を挙げることができる。このほか、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法などを用いてもよい。
成型後の成型体の形状は、目的に応じたものであればよい。空気電池の小型化のためには、均一な厚みのシート状とすることが好ましい。
(S3:溶媒浸漬)
溶媒浸漬は、工程S2で成型した試料をバインダー用高分子材料の溶解度が低い溶媒中に浸漬する非溶媒誘起相分離法により行う。非溶媒誘起相分離法とは、高分子溶液を、その高分子の貧溶媒に浸漬することで、高分子を相分離析出させる方法である。非溶媒誘起相分離法により、バインダー用高分子材料が多孔炭素粒子同士を結合した状態で相分離析出し、多孔炭素粒子並びに任意成分であるカーボンファイバー及び/又はカーボンナノチューブを骨格とする多孔炭素膜を生成することができる。このとき、合剤スラリーの溶剤のほとんどは、上記の貧溶媒と相溶する。
前記バインダー用高分子材料の溶解度が低い溶媒としては、例えば、水、及びエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール、並びにこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
(S4:乾燥)
乾燥工程は、合剤スラリーの調製に用いた溶剤及び工程S3で使用した貧溶媒を揮発除去するために行う。乾燥方法としては、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法などを挙げることができる。この乾燥工程では、乾燥速度を速めるために、溶媒の沸点を超える程度の温度に加温してもよい。
(S5:不融化)
不融化処理は、バインダー用高分子材料が、次の工程S6の炭素化処理で溶融分離して炭素粒子同士の結着を損ない、成型体の形状が崩れることを防止する目的で行なう。不融化処理は、使用するバインダー用高分子材料の種類等によっては、実施しないことも可能である。不融化処理が必要なバインダー用高分子材料は、そのまま加熱すると、溶融液状化してしまう構造の高分子であり、溶融液状化防止のため、酸素により分子間架橋を促進し、加熱で溶融液状化しない構造に変化させる必要がある。不融化処理が必要なバインダー用高分子材料の例としては、ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリビニルアセテート等が挙げられる。一方、不融化処理が不要なバインダー用高分子材料は、酸素を導入しなくとも、加熱することで、自身の持つ官能基により分子間架橋が進行し、軟化はするが、液状にはならずに炭素化が進行するものである。不融化処理が不要なバインダー用高分子材料の例としては、フェノールホルムアルデヒド樹脂(PF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフェニレン(PP)及びセルロース等が挙げられる。バインダー用高分子材料のうち、ポリアクリロニトリル(PAN)は、加熱により、軟化はするものの液状にならずに炭素化が進む高分子であるが、PANから炭素繊維を工業的に製造する場合、より架橋反応を進行させるため、空気中200~400℃で不融化処理を行い、高温でも溶融しない繊維に変えた上で炭素化を実施している。後述する実施例では、合剤スラリーの作製のしやすさ、非溶媒誘起相分離のしやすさから、PANを用いており、炭素繊維の工業的製法にならい、不融化を実施している。
不融化処理を行う際の雰囲気は、空気循環下、或いは空気流通下で行うことがコスト的に好ましいが、酸素に対して窒素やアルゴンなどの不活性ガスを混合して用いることも可能である。空気を流通する場合の流量は、不融化を十分進行させる点からは、0.1mL/min以上であることが好ましく、1mL/min以上であることがより好ましい。また、製造コストを低減する点からは、100m/min以下であることが好ましく、50m/min以下であることがより好ましく、10m/min以下であることがさらに好ましい。
不融化処理を実施する温度は、不融化を十分に進行させる点からは、250℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましく、270℃以上がさらに好ましい。不融化処理温度が前記下限値以上であると、十分な不融化により、次の炭素化工程で、バインダー用高分子が溶融して炭素粒子から離れてしまうことなく、多孔炭素膜の強度を維持することができる。また、不融化処理の温度は、350℃以下であることが好ましく、340℃以下であることがより好ましく、330℃以下であることがさらに好ましい。不融化処理の温度が前記上限値以下であると、適度な架橋反応を起こすことができ、空気中に21%存在する酸素との酸化反応によって架橋反応を通り越してバインダー用高分子が酸化燃焼により消失し、多孔膜が破損してしまう事態が生じにくくなる。
不融化での所定処理温度での保持時間は、不融化を十分進行させる点からは、下限は、1min以上が好ましく、10min以上がより好ましく、20min以上がさらに好ましい。また、保持時間の上限は、製造コストを低減する点からは、100hr以下が好ましく、10hr以下がより好ましく、5hr以下がさらに好ましい。
不融化処理での昇温速度の上限は、バインダーとして混合されている高分子の不融化を十分に進行させる点からは、100℃/min以下であることが好ましく、50℃/min以下であることがより好ましく、30℃/min以下であることがさらに好ましい。昇温速度の下限は特に限定されないが、昇温時間を短縮して不融化処理を短時間で終える点からは、0.01℃/min以上であること好ましい。
不融化処理に使用する装置としては、オーブン炉や赤外線炉などが例示される。
(S6:炭素化)
炭素化処理の目的は、バインダー用高分子材料を炭素に変化させることにある。バインダー用高分子材料を炭素化することで、電気伝導性が向上し、さらには多孔炭素粒子やカーボンファイバー、カーンボンナノチューブとの結着性が増加し、多孔炭素膜の強度が増大する。
炭素化処理は、例えば、オーブン炉、管状炉、ボックス炉、赤外線炉、ベーク炉などを用いて行うことができる。炭素化処理の温度の下限は、バインダー用高分子材料を十分に炭素化する点からは、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、800℃以上がさらに好ましい。他方、汎用の処理装置を使用して処理コストを低減する点からは、炭素化処理の温度は、3000℃以下が好ましく、2000℃以下がより好ましく、1500℃以下がさらに好ましい。
炭素化処理での昇温速度の上限は、多孔炭素膜を十分に炭素化して電子導電性を確保するために、100℃/min以下が好ましく、50℃/min以下がより好ましく、30℃/min以下がさらに好ましい。昇温速度の下限は特に定めないが、炭素化時間を短縮し、製造コストを低減するためには、0.01℃/min以上であることが好ましい。
炭素化処理の雰囲気はアルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガスなどによる不活性雰囲気が好ましい。不活性ガスは、上記炉に封入した状態でも良いが、フローしながら処理をしても良い。不活性ガスをフローする場合、流量は特に限定されないが、炉の構造に起因する外気の混入の影響を抑制する点からは、0.1mL/min以上が好ましく、1mL/min以上がより好ましく、10mL/min以上がさらに好ましい。他方、処理コストを低減する点からは、不活性ガスの流量は、100m/min以下が好ましく、50m/min以下がより好ましく、10m/min以下がさらに好ましい。
以上の工程により、自立するに十分で実用的な機械的強度を有する多孔炭素膜が製造される。しかしながら、この多孔炭素膜では、多孔炭素粒子の表面がバインダー用高分子材料の炭素化物で被覆されている。したがって、製造された多孔炭素膜は、原料として用いた多孔炭素粒子に比べ、細孔容積、細孔比表面積が減少したものとなってしまい、原料として用いた多孔炭素粒子の持つ本来の特性を十分に活用できない状況にある。しかし、多孔炭素粒子そのものは粉体であるため、自立できず、そのままでは電極として用いることはできないことから、バインダー用高分子材料を用いて成形することは必須である。
多孔炭素粒子の表面がバインダー用高分子材料の炭素化物で被覆された多孔炭素膜では、多孔炭素粒子同士の接合部に存在する炭素化物は、多孔炭素膜の構造を維持する結着材として必要であるが、それ以外の大部分は、多孔炭素粒子表面に吸収被覆された状態で存在し、多孔炭素膜の構造維持には寄与しない。そこで、こうした多孔炭素膜の構造維持に寄与しない炭素化物量を減少させる手段として、本実施形態では、後述する二酸化炭素処理を行う。
(S7:二酸化炭素雰囲気中での熱処理(二酸化炭素処理))
二酸化炭素処理は、本発明の効果を発現するための必須の工程である。
二酸化炭素処理は、例えば、オーブン炉、管状炉、ボックス炉、赤外線炉、ベーク炉などを用いて行うことができる。二酸化炭素処理の温度は500℃以上、1000℃以下であることが好ましい。二酸化炭素処理の温度が500℃以上であると、製造した多孔炭素膜の細孔容積を大きくすることができる。二酸化炭素処理の温度の下限は、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上、特に好ましくは800℃以上である。また、処理温度が1000℃以下であると、多孔炭素粒子同士の接合部に存在する炭素化物や多孔炭素粒子の酸化燃焼による減量を効果的に抑制できる。処理温度の上限は、好ましくは980℃以下、より好ましくは950℃以下、特に好ましくは900℃以下である。
二酸化炭素処理の温度での保持時間は、1分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましく、30分以上であることが特に好ましい。保持時間がこの下限以上であることによって、二酸化炭素による炭素化物の酸化燃焼が進行し、得られる多孔炭素膜の細孔容積を大きくすることができる。また、保持時間は、24時間以下であることが好ましく、10時間以下であることがより好ましく、5時間以下であることがさらに好ましく、2時間以下であることが特に好ましい。保持時間がこの上限を超えないことによって、製造時間を短縮することができると共に、多孔炭素粒子同士の接合部に存在する炭素化物の酸化燃焼による減量を効果的に抑制できる。
二酸化炭素は、製造コストの点からは、希釈せずに用いることが好ましいが、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガスなどの不活性ガスで希釈して用いても良い。希釈して用いる場合の二酸化炭素濃度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。二酸化炭素濃度を高めることによって、炭素化物の酸化燃焼が進みやすくなり、得られる多孔炭素膜の細孔容積を大きくすることができる。二酸化炭素処理は、二酸化炭素を炉に封入した状態で行ってもよく、二酸化炭素ガスをフローしながら行ってもよい。二酸化炭素ガスをフローする場合、流量は特に限定されないが、0.1mL/min以上であることが好ましく、1mL/min以上であることがより好ましく、10mL/min以上であることがさらに好ましい。二酸化炭素ガスの流量がこの下限以上であることにより、炭素化物の酸化燃焼を円滑に進行させることができる。また、流量の上限は特に限定されないが、炭素化物の酸化燃焼に寄与しない二酸化炭素量を減少させて製造コストを抑える点からは、100m/min以下であることが好ましく、50m/min以下であることがより好ましく、10m/min以下であることがさらに好ましい。
以上の方法で製造することで、多孔炭素膜において、多孔炭素粒子表面に被覆され、多孔炭素膜の構造維持に寄与しないバインダー用高分子材料の炭素化物の量を減少させることができ、多孔炭素粒子が本来持っていた細孔容積や細孔比表面積が表れてくる。さらには、多孔炭素粒子そのものの一部も酸化されることで、細孔容積や細孔比表面積が本来の多孔炭素粒子が持っていたものより増大する。また、バインダー用高分子材料の炭素化物や多孔炭素粒子の一部が焼失することで、その分粒子同士の空隙も増加することになる。しかも、得られた多孔炭素膜は、自立するに十分で実用的な機械的強度を有している。このことは、炭素化処理後に多孔炭素粒子間に存在しているバインダー用高分子材料の炭素化物は、焼失されずに多孔炭素粒子同士の結着に与っていることを示している。これは、前記炭素化物を介して緻密に結着している多孔炭素粒子間には、二酸化炭素が侵入しにくいためと考えることができる。一方で、炭素化処理後に多孔炭素粒子表面に存在する高分子材料の炭素化物のうち、多孔炭素粒子同士の結着に与っていないものに対しては、多孔炭素膜に構築されているメソ孔とマクロ孔とを通って二酸化炭素が届き、酸化燃焼による減量が起きると考えることができる。
また、酸化処理を酸素や空気ではなく、二酸化炭素で行うことで、酸化処理がマイルドに進むことになる。酸素ガスは酸化燃焼力が高いため、酸素濃度を下げて酸化力を低減させないと、処理される炭素多孔膜が酸化燃焼により消失してしまう。そのため、酸素濃度を0.03%より多く5%未満の範囲内で微妙に制御する必要がある。また酸化処理温度にも敏感で、設定温度より高くなると酸化力が強くなり、多孔膜の酸化燃焼により消失が生じる一方、設定温度より低くなると酸化力が弱まり、必要とする細孔を持つ多孔炭素膜とならないことがある。これに対し、本発明の二酸化炭素ガスでの処理では、酸化がマイルドに進行するため、ガス濃度の微妙な制御が不要となり、二酸化炭素100%での処理でも、好ましい細孔構造を持つ多孔炭素膜を製造することが可能となる。また、酸化処理温度についても、微妙な制御が不要となるため、製造設備の簡略化がはかれる。この点からは、二酸化炭素での酸化処理は、酸素での処理に比べ、多孔炭素膜の製造において、大幅なコストダウンも可能なものといえる。
[多孔炭素膜の物性]
本実施形態により得られる多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、原料である多孔炭素粒子の直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積より増加することが好ましい。このとき、多孔炭素粒子における直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積に対する、多孔炭素膜における直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積の比である増加倍数は、1.02倍以上であることが好ましく、1.04倍以上であることがより好ましく、1.05倍以上であることがさらに好ましい。増加倍数がこの下限以上であることによって、多孔炭素膜を空気電池の正極に用いた場合に、高容量が得られる。また、増加倍数は、多孔炭素膜の強度を保ち、自立性の維持を可能とするために、10.0倍以下であることがこのましく、8.0倍以下であることがより好ましく、5.0倍以下であることがさらに好ましい。
また、本実施形態により得られる多孔炭素膜は、多数の空孔を有し、以下の(a)~(d)のすべての条件を満たすことが好ましい。
(a)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、3.5cm/g以上7.0cm/g以下
(b)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.5cm/g以上7.0cm/g以下
(c)直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.2cm/g以上7.0cm/g以下
(d)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積が、900m/g以上、2000m/g以下
以下、条件(a)~(d)についてそれぞれ詳述する。
条件(a)は、直径1nm以上1000nm以下の細孔径範囲の細孔容積がかなり大きいということを表している。この細孔容積は、窒素吸着測定より得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて得られる。
条件(a)を満たす多孔炭素膜を空気電池の正極として用いた場合、放電で生成する金属酸化物(リチウム空気電池では過酸化リチウム)をより多く蓄えることができるため、高い放電容量特性を持つ電池を提供できる。また、細孔容積に比例して、この細孔径範囲の細孔を通過する空気の総量が増大することで、多孔炭素膜体内で空気の透過拡散がしやすくなる。このため、電池外部から正極内へ導入された空気は、炭素骨格を形成している炭素粒子の隅々まで、高速でいきわたることができる。さらには、この細孔径範囲の細孔は、金属イオン(リチウム空気電池ではLiイオン)の移動経路となるため、その容積が大きいことで、金属イオンがスムーズに移動可能となり、空気や酸素の透過拡散性の高さと相まって、高速放電特性、すなわち高負荷特性に優れた空気電池を提供できる。
したがって、より大きな放電容量と高負荷特性に優れた空気電池を得る点からは、上記の細孔容積は3.5cm/g以上であることが好ましく、3.6cm/g以上であることがより好ましく、3.7cm/g以上であることがさらに好ましい。また、多孔炭素膜の強度を維持する点からは、上記の細孔容積は、7.0cm/g以下であることが好ましく、6.0cm/g以下であることがより好ましい。
条件(b)は、直径1nm以上200nm以下の比較的小さな範囲の細孔の占める細孔容積が大きく、より小さな細孔の数が多いことを表している。この細孔容積も、窒素吸着測定より得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて得られる。
条件(b)を満たす多孔炭素膜を空気電池の正極に用いた場合、放電で金属イオンと酸素と電子が反応して生成する酸化物を多く蓄える与えることが可能となり、高放電容量を示す電池を提供できる。
したがって、大きな放電容量を得る点からは、上記の細孔径範囲の細孔容積は2.5cm/g以上であることが好ましく、2.6cm/g以上であることがより好ましい。
また、より酸素透過拡散性が高い直径200nmを超える細孔の容積を確保し、高負荷での放電特性にも優れる、すなわち高速での放電容量も大きいものとする点からは、上記の細孔径範囲の細孔容積は、7.0cm/g以下であることが好ましく、6.0cm/g以下であることがより好ましく、5.0cm/g以下であることがさらに好ましい。
条件(c)は、直径200m以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が十分に大きいことを表す。この細孔径領域の細孔容積は、水銀圧入法により測定した値を用いて得られる。
直径がこの範囲にある細孔は、主に、電池外部の酸素が、正極である多孔炭素膜の内部に侵入するために働く。このため、この範囲の直径を有する細孔容積が十分に大きい多孔炭素膜を空気電池の正極に用いると、放電時の正極反応で必要な酸素が高速で侵入することができるから、高電流密度での放電容量が大きい、すなわち高負荷特性に優れた電池となる。また、充電時には、金属酸化物が正極に電子を渡して、金属イオンと酸素になるが、この範囲の直径を有する細孔容積が十分に大きいことで、発生した酸素の多孔炭素膜からの抜けがよくなり、高速での充電が可能となる。
したがって、正極への酸素の侵入と抜けとを高速で実現する点から、上記の細孔容積の下限は、2.2cm/g以上であることが好ましく、2.3cm/g以上であることがより好ましく、2.4cm/g以上であることがさらに好ましい。
また、上記の細孔容積が大きすぎないことで、多孔炭素膜の強度を保持できることから、該細孔容積の上限は、7.0cm/g以下であることが好ましく、6.0cm/g以下であることがより好ましく、5.0cm/g以下であることがさらに好ましい。
条件(d)は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積が大きいことを示している。空気電池の放電時の正極反応は、負極から移動してきた金属イオンと、正極の外気側から移動拡散してきた酸素とが、正極内部の細孔内で細孔内表面から電子を受け取って金属酸化物を生成する反応である。このため、上記の比表面積が大きいことで、空気電池の正極に用いた際にこの反応を生じる場が多くなり、放電がよりスムーズに行われる結果、高負荷特性に優れる電池が得られる。
前記の比表面積の下限は、反応場を確保する点からは、900m/g以上であることが好ましく、1000m/g以上であることがより好ましい。また、前記の比表面積の上限は、多孔炭素膜の強度を維持する点からは、2000m/gであることが好ましく、1600m/g以下であることがより好ましい。
本実施形態により得られる多孔炭素膜は、前記の条件(a)~(d)に加えて、次の条件(e)を満たすことが好ましい。
(e)見かけ密度が、0.10g/cm以上0.20cm/g以下
多孔炭素膜の見かけ密度がこの範囲であれば、多孔炭素膜は、酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、かつ、強度も十分である。したがって、自立性を有する多孔炭素膜とすることができ、金属メッシュ等を使用することなく、空気電池の正極に供することができる。これにより、電池の軽量化、小型化、生産性の向上、低コスト化を可能にする。見かけ密度は、多孔炭素膜の質量をその体積で割って求めることができる。
見かけ密度が小さすぎないことで、多孔炭素膜の強度が大きくなり、金属メッシュ等の集電体に付着させることなく正極とすることができる。この点からは、見かけ密度の下限は、0.10g/cm以上であることが好ましく、0.11g/cm以上であることがより好ましく、0.12g/cm以上であることがさらに好ましい。これにより、空孔を有し、かつ、高い強度を有する多孔炭素膜を得ることができる。
また、見かけ密度が小さいと、多孔炭素膜に存在する空孔量が多くなり、容量が大きく、負荷特性に優れる空気電池が得られる。この点からは、見かけ密度の上限は、0.20g/cm以下であることが好ましく、0.19g/cm以下であることがより好ましく、0.18g/cm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態により得られる多孔炭素膜は、前記の条件(a)~(d)又は前記条件(a)~(e)に加えて、次の条件(f)を満たすことが好ましい。
(f)空隙率が、90%以上99%以下
多孔炭素膜の空隙率は、見かけ密度と真密度とから、(1-多孔炭素膜の見かけ密度/多孔炭素膜の構成材料の真密度)により求めることができる。空隙率が上記下限以上であることは、十分に大きい空隙率を有することを表す。このような多孔炭素膜を空気電池の正極に用いた場合、放電で生成する金属酸化物を多く蓄えることができ、電池外部から正極内への空気や酸素の侵入が抵抗少なくスムーズに行われるため、高い放電容量を有し、かつ、高速での放電が可能な電池を提供できる。
また、空隙率が上記上限以下であることで、多孔炭素膜としての剛性及び強度を確保し、自立が可能となる。空隙率の上限は98%以下であることがより好ましい。
[空気電池の製造方法]
本発明の他の側面は、上述した方法で多孔炭素膜を製造すること、前記多孔炭素膜から正極を形成すると共に、負極及びセパレータを準備すること、前記多孔炭素膜及び負極を、セパレータを介して積層すること、並びに前記セパレータに電解液を充填することを含む空気電池の製造方法である。以下、この側面について、コインセル、及び積層型電池の製造方法を例として挙げ、図面を参照しながら説明する。
(コインセル)
図2は、コインセルの一例を示す模式図である。
コインセル600は、負極構造体610と正極構造体620とがセパレータ660を介して積層された積層構造体で構成される。そして、この積層構造体はコインセル型拘束具630により拘束されている。なお、コインセル型拘束具630と金属メッシュ680の間には絶縁性のOリングが配置され(図示なし)、拘束具630と正極構造体620との絶縁性が確保されている。
負極構造体610は、集電体635と、集電体635上に配置された金属層640と、その両端に配置された柱状のスペーサ650とにより構成され、金属層640と、セパレータ660との間には、空間670が設けられ、電解液が充填されている。
金属層640は、アルカリ金属、及び/又は、アルカリ土類金属を含有することが好ましい。なかでも、リチウム金属からなる層が好ましい。
正極構造体620は、集電体である金属含有のメッシュ(金属メッシュ)680に機械的及び電気的に接触した多孔炭素膜690を備える。この場合、金属メッシュ680は、正極基材となり、空気又は酸素が通る流路の機能も兼ね備える。
負極構造体610と正極構造体620の間には、セパレータ660が配置される。
以下、コインセル600の製造方法の一例について、説明する。
まず、負極構造体610を準備する。円盤状の集電体635の上に、集電体635と同心状で集電体635より径の小さな円盤状のリチウム等による金属層640を積層し、集電体635の上に柱状のスペーサ650を押し付け、負極構造体610を得る。
スペーサ650は、絶縁体である。素材としては、金属酸化物、金属窒化物、及び、金属酸窒化物等であってよい。例えば、Al、Ta、TiO、ZnO、ZrO、SiO、B、P、GeO、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO、Si、AlN、及び、AlO1-x(0<x<1)等であってもよい。なかでも、Al、及びSiOは、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
スペーサ650は、樹脂であってもよい。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、及び、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、及び、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及び、ポリトリブチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。これらの樹脂は、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
次に、セパレータ660をスペーサ650上に押し付ける。
金属層640とスペーサ650とセパレータ660との間には、空間670が設けられる。
セパレータ660は、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンを通過させることが可能な多孔質の絶縁体である。セパレータ660は、金属層640、及び、電解液との反応性を有さない任意の無機材料(金属材料を含む)、及び、有機材料である。
セパレータ660の素材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、ポリオレフィン等の樹脂、及び、ガラス等でよい。セパレータ660は、織布であっても、不織布であってもよい。
その後、セパレータ660に電解液を充填する。このとき、併せて空間670にも電解液を充填する。
電解液としては、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩を含有する、水系又は非水系の任意の電解液が使用できる。水系電解液がリチウム塩を含む場合、リチウム塩としては、例えば、LiOH、LiCl、LiNO、及び、LiSO等が使用でき、溶媒としては水、又は、水溶性の溶媒を用いることができる。
非水系電解液(非水電解液)がリチウム塩を含む場合、リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSiF、LiAsF、LiN(SO、Li(FSON、LiCFSO(LiTfO)、Li(CFSON(LiTFSI)、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、及び、LiB(C等が使用できる。
非水電解液に用いる非水溶媒としては、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン、及び、スルホラン等が挙げられる。
しかる後、多孔炭素膜690上に金属メッシュ680が配置された正極構造体620を準備する。
金属メッシュ680としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種の金属を有するメッシュが使用できる。すなわち、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなるメッシュを挙げることができる。合金の場合、鉄(Fe)、クロム(Cr)を含むこともできる。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
その後、電解液で充填させた負極構造体610に正極構造体620がセパレータ660を介して貼り合わせ、拘束具630で拘束してコインセル600を得る。ここで、実装は乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
以上の工程により、コインセル600が製造される。
なお、コインセル600は、正極構造体620として、多孔炭素膜690と、金属メッシュ680とを有しているが、本発明の空気電池は、上記に制限されず、正極構造体620として、多孔炭素膜690のみを有していてもよい。
製造されたコインセル600は、多孔炭素膜690を使用した正極構造体620が、優れた高い空気又は酸素透過性を有しており、多量の酸素を取り込むことが可能であり、高いイオン輸送効率を有しており、広い反応場を有しているため、小型、軽量でも大きな容量を有する優れた空気電池とすることができる。
(積層型空気電池)
図3は、積層型空気電池の一例を示す模式図である。
積層型空気電池500は、正極構造体510と負極構造体100とがセパレータ540を介して積層された積層構造を備える。積層数は、正極構造体510と負極構造体100とが各々1からなる1対を単位として、1対以上複数対でよく、対数に特段の上限はない。
負極構造体100は、一対の負極活物質層(金属層)と、それらにより挟まれる負極集電体520から構成されている。
一方、正極構造体510は、多孔炭素膜550とガス拡散層560とからなる一対の積層体が、正極集電体525を挟むように構成される。なお、正極集電体525側から、順に、ガス拡散層560、多孔炭素膜550が配置されている。
正極構造体510のガス拡散層560は、これを通して空気、酸素、及びその他のガスを電池外部と多孔炭素膜550の間を行き来させる。またガス拡散層は、多孔炭素膜550と正極集電体525間での電子の移動路としても働く。ガス拡散層は、上記のガスの移動路として働くため、通気性を有する連通孔を持っていることが必要であり、また電子電導性を持っていることが必要となる。ガス拡散層としては、例えば、東レのカーボンペーパーTGP-H、クレハのクレカ(登録商標)E704等が使用できる。
正極集電体525は、外部との電気的接続機能と共に空気又は酸素の流路の機能も有しているため、本空気電池500はより単純な構造でより大きな容量が得られるようになっている。
負極集電体520、及び正極集電体525としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及び、パラジウム(Pd)、等の金属、並びに、これらの合金、及び、これらの化合物(例えば、炭素及び/又は窒素との化合物)が使用できる。合金の場合、鉄(Fe)、クロム(Cr)を含むこともできる。
次に積層型空気電池500の製造方法について説明する。
負極構造体100を、一対の負極金属と、それらにより挟まれる負極集電体520から構成し、負極集電体520を外部に引き出すようにセパレータ540で囲み、セパレータ内の空間に電解液を充填する。
正極構造体510を、多孔炭素膜550とガス拡散層560とからなる一対の積層体と、それらにより挟まれる正極集電体525から構成する。なお、正極集電体525側から、順に、ガス拡散層560、多孔炭素膜550を配置する。正極集電体525及び負極集電体520の引き出し方向は、特に限定されない。
負極構造体100と、正極構造体510とをセパレータ540を介して積層し、積層型空気電池500を作製する。なお、この積層型空気電池は収納容器(図示せず)に収容されてもよい。
なお、本明細書では、図2及び図3を参照して、空気電池の製造方法について詳述したが、本実施形態により得られた多孔炭素膜を用いる正極は、他の任意の空気電池の製造方法に適用できる。
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した多孔炭素粒子、並びに得られた多孔炭素膜の物性は、以下の方法により測定した。
(1)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて求めた。
(2)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(3)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(4)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
(5)直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nm~200,000nm(0.01μm~200μm)の範囲の細孔容積を測定し、測定結果から、細孔直径200nmから10,000nmの細孔容積を算出した。
(6)BET法比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.製)を用いて窒素吸着法により得られた吸着等温線からBET(Brunauer―Emmett―Teller)法に従って求めた。
(7)多孔炭素膜の見かけ密度
多孔炭素膜の質量をその体積で割って求めた。
(8)空隙率(%)
次記の計算により求めた。
(1-多孔炭素膜の見かけ密度/多孔炭素膜を構成材料の真密度)×100
(9)炭素化収率(%)
次記の計算より求めた。
炭素化後多孔炭素膜質量(g)/不融化後多孔質膜質量(g)×100
(10)二酸化炭素処理収率(%)
次記の計算より求めた。
二酸化炭素処理後多孔炭素膜質量(g)/炭素化後多孔炭素膜質量(g)×100
また、以下の実施例及び比較例における多孔炭素膜を正極に用いた空気電池の電池特性は、以下の方法により作製したコインセルを、以下の条件で得られる放電容量により評価した。
多孔炭素膜をφ16mmに切り出した正極、負極としての金属リチウム(φ16mm、厚さ0.2mm)、及び電解液LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)の1M-テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液100μLを浸漬させたセパレータであるガラス繊維ペーパ(Whatman(登録商標)、GF/A)を、露点温度-50℃以下のドライルーム(乾燥空気内)で、コインセルケース(CR2032型)に実装することで、図2に示すコインセル600を作製した。
このコインセル600を、純酸素雰囲気下、電流密度0.4mA/cmで放電し、電圧が2.3Vまで下がった時点を放電終点として、得られた放電容量を、正極として用いた多孔炭素膜の質量で割ることで、正極質量当りの放電容量(以下、「多孔炭素膜の放電容量」という。)を算出した。
[実施例1]
以下の方法で、空気電池正極用の多孔炭素膜を作製し、上述した方法で評価を行った。
(合剤スラリー作製工程)
多孔炭素粒子としてケッチェンブラックEC600JDを65質量部、カーボンファイバー12質量部、バインダー用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を23質量部、及びそれらを均一に分散する溶媒としてN-メチルピロリドンを加え、シンキー社製の自公転混練機ARE310で混合し、合剤スラリーを作製した。カーボンファイバーは、繊維平均径6μm、平均長さ3mmのものを用いた。ケッチェンブラックEC600JDの物性は、後の表1に示す。
(成型工程)
前記合剤スラリーを、ドクターブレードを用いた湿式製膜法にて、厚み500μmに成型してシート化した。
(溶媒浸漬工程)
成型したシートをトレーに入れ、そこにメタノール220gを投入し静置した。2hr後トレー中のメタノールを排出し、新たにメタノール220gを投入し17hr静置後トレー中のメタノールを排出した。
本実施例では、PANのN-メチルピロリドン溶液中に多孔炭素粒子と炭素繊維が分散した状態の上記成形シートを、非溶媒(貧溶媒)であるメタノールに浸漬することで、PANが炭素粒子及び炭素繊維を結合した状態で相分離析出し、炭素粒子を骨格とした多孔質膜が生成され、N-メチルピロリドンは、ほとんどがメタノールと相溶した。
(乾燥工程)
トレーから、前記多孔質膜を取り出し、50℃で2時間、80℃で10時間の乾燥を行い、多孔質膜に含まれている揮発性の溶媒を取り除いた。
(不融化工程)
乾燥した多孔質膜を、大気循環雰囲気で320℃3時間の不融化熱処理を行い、乾燥多孔質膜中のPANを、不融樹脂に変化させた。
(炭素化工程)
不融化処理で得られた長さ90mm、幅80mmの不融化多孔質膜を、デンケンハイデンタル社のボックス型炉を用い、窒素ガスを600mL/minで流しながら、昇温速度10℃/minで1050℃まで昇温し、1050℃で3時間保持後、室温まで放冷することで、不融化されたPANを炭素化し、全炭素からなる多孔炭素膜を得た。
(二酸化炭素中での熱処理(二酸化炭素処理)工程)
炭素化した多孔炭素膜を、デンケンハイデンタル社のボックス型炉を用い、二酸化炭素ガスを200mL/minで流しながら、昇温速度10℃/minで850℃まで昇温し、850℃で1時間保持後、室温まで放冷して、二酸化炭素処理多孔炭素膜を得た。
(多孔炭素膜の物性)
二酸化炭素処理して得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.3cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.8cm/gであった。また、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積は2.6cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は1057m/gであった。
(多孔炭素膜を正極に用いた空気電池の放電容量)
次に、この多孔炭素膜を正極に用いたコインセルを、上述の方法で作製し、多孔炭素膜の放電容量を算出した。その結果、放電容量は、3554mAh/gと大きな値を示した。
[比較例1]
多孔炭素膜作製を、炭素化工程までとして、二酸化炭素処理を行わない以外は、実施例1と同様に行った。
得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.1cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.0cm/g、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積が1.4cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が655m/gであった。また、この多孔炭素膜の放電容量は、2488mAh/gであり、実施例1の二酸化炭素処理した多孔炭素膜正極の3544mAh/gより小さかった。
[実施例2]
多孔炭素粒子としてケッチェンブラックEC600JDを68質量部、カーボンファイバーを9質量部、バインダー用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を23質量部とし、シート厚みを300μmとした以外は、実施例1と同様の方法で、空気電池正極用の多孔炭素膜の作製及び評価を行った。
得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.8cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.7cm/g、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積は2.4cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は1008m/gであった。また、この多孔炭素膜の放電容量は、3508mAh/gであり、実施例1同様、大きな放電容量を示した。
[比較例2]
多孔炭素膜作製を、炭素化工程までとして、二酸化炭素処理を行わない以外は、実施例2と同様に行った。得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.4cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.1cm/g、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積は1.5cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は771m/gであった。また、この多孔炭素膜の放電容量は、2563mAh/gで、実施例2の二酸化炭素処理した多孔炭素膜の3508mAh/gより小さかった。
[実施例3]
多孔炭素粒子としてブラックパール2000を75質量部、カーボンファイバーを5質量部、カーボンナノチューブを5質量部、バインダー用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を15質量部、及びそれらを均一に分散する溶媒としてN-メチルピロリドンを用いて合剤スラリーを作製した点以外は実施例2と同様の方法で、空気電池正極用の多孔炭素膜の作製及び評価を行った。
用いたブラックパール2000の物性は、後の表1に示す。カーボンファイバーは、繊維平均径6μm、平均長さ3mmのもの、カーボンナノチューブは平均径1.6nm、長さ約5μmのものを用いた。
得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.9cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が3.3cm/g、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積は2.5cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は1323m/gであった。また、この多孔炭素膜の放電容量は、2518mAh/gであった。
[比較例3]
多孔炭素膜作製を、炭素化工程までとして、二酸化炭素処理を行わない以外は、実施例3と同様に行った。
得られた多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が2.6cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.3cm/g、直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積は1.9cm/g、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は835m/gであった。また、この多孔炭素膜の放電容量は、1463mAh/gで、実施例3の二酸化炭素処理した多孔炭素膜正極の2518mAh/gより小さかった。
[比較例4]
二酸化炭素処理の温度を1050℃とする以外は実施例1と同様に実施したが、二酸化炭素処理により、多孔炭素膜が焼失したため、以降の評価は実施しなかった。
[比較例5]
二酸化炭素の代わりに空気を用いて850℃で処理した以外は実施例1と同様に実施したが、多孔炭素膜が焼失したため、以降の評価は実施しなかった。
以上の実施例、比較例に用いた炭素粒子であるケッチェンブラックEC600JD、及びブラックパール2000の物性を表1に示し、多孔炭素膜の製造条件を表2に示す。また、得られた多孔炭素膜の物性及び電池の放電容量を表3に示す。
Figure 2023079084000003
Figure 2023079084000004
Figure 2023079084000005
以上の実施例及び比較例から、以下のことがわかる。
炭素化処理後の多孔炭素膜を二酸化炭素雰囲気で処理して得られた多孔炭素膜について見ると、実施例1に係る多孔炭素膜では、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が4.3cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が2.8cm/gであり、実施例2に係る多孔炭素膜のそれぞれの細孔容積が3.8cm/g、2.7cm/gであったから、表1に示す原料として用いた炭素粒子ケッチェンブラックのそれぞれの細孔容積である3.5cm/g、2.6cm/gと比べて、大きくなった。
また、実施例3に係る多孔炭素膜も、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が3.9cm/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が3.3cm/gと、原料のブラックパールのそれぞれの細孔容積である3.2cm/g、2.8cm/gより大きな値となった。
これに対して、二酸化炭素処理を施していない以外は、それぞれ実施例1~3と同様に作製された比較例1~3に係る多孔炭素膜は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積、及び直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、いずれも原料のケッチェンブラック又はブラックパールのそれぞれの細孔容積を下回った。
これは、二酸化炭素処理を施した実施例1~3においては、多孔炭素粒子を覆っていたバインダー用高分子材料であるPAN及びPANの炭素化物の大分部が焼失し、多孔炭素粒子表面が露出したことに加えて、多孔炭素粒子表面の一部も焼失したことによって、細孔容積が増大し、このことが、空気電池の正極構造体を形成した際に、電池の高容量化に寄与したるものと推察される。これに対して、二酸化炭素処理を施さなかった比較例1~3においては、バインダー用高分子材料として使用したPAN由来の炭素化物が、多孔炭素粒子を覆ったままであったため、電池の高容量化が達成されなかったと推察される。
また、実施例1~3では、直径200nm以上10,000nm以下の細孔容積が、比較例1~3のそれぞれよりも大きくなった。このことにより、実施例1~3では、放電時に、外部に存在する酸素の多孔炭素膜への侵入、及び充電時の酸素の抜けが高速に起こり、高放電容量であると共に、高負荷特性に優れた電池の提供が期待できる。
さらに、実施例1~3では、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積も、比較例1~3のそれぞれよりも大きくなった。これは、放電時に負極から移動してきた金属イオンと外部から侵入した酸素とが、細孔内表面から電子を受け取って反応する反応場が大きく、反応がスムーズに進むことを意味するから、やはり、高放電容量であると共に、高負荷特性に優れた電池の提供が期待できる。
加えて、実施例1~3では、多孔炭素膜の見かけ密度が0.16~0.19g/cm、空隙率90.6~91.8%と大きな空隙を持ちながら、多孔炭素膜の自立性及び強度が確保されていることが確認された。これは、炭素粒子同士を結合している部分のPANは、二酸化炭素が侵入し難いことで焼失せず、炭素化して残っていたため、結着性が維持されたことによると考えられる。
これに対して、比較例4では、二酸化炭素処理の温度が高すぎたため、また、比較例5では、空気での処理では酸化力が強すぎたため、いずれも多孔炭素膜が焼失してしまった。
本発明によれば、同じ構造及び大きさを有する空気電池で比較したときに、従来は達成することができなかった高い放電容量を達成することができる。このため、従来は得られなかった高容量の空気電池が提供できる点、及び同じ放電容量を有する電池をより小型化できる点で、本発明は有用なものである。
600 コインセル
610 負極構造体
620 正極構造体
630 コインセル型拘束具
635 集電体
640 金属層
650 スペーサ
660 セパレータ
670 空間(電解液充填用空間)
680 金属メッシュ
690 多孔炭素膜
100 負極構造体
500 積層型空気電池
510 正極構造体
520 負極集電体
525 正極集電体
540 セパレータ
550 多孔炭素膜
560 ガス拡散層

Claims (9)

  1. 空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法であって、
    多孔炭素粒子及びバインダー用高分子材料を含有する合剤スラリーを調製すること、
    前記合剤スラリーを成型すること、
    前記成型することによって得られた試料を、前記バインダー用高分子材料の溶解度が低い溶媒に浸漬すること、
    前記浸漬して得られた試料を乾燥すること、
    前記乾燥して得られた試料を、不活性ガス雰囲気中で炭素化すること、及び、
    前記炭素化して得られた試料を二酸化炭素雰囲気で熱処理すること
    を含む、空気電池正極用の多孔炭素膜の製造方法。
  2. 前記炭素化の前に、前記乾燥して得られた試料を、空気中で不融化することを含む、請求項1に記載の多孔炭素膜の製造方法。
  3. 前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、前記多孔炭素膜における直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、原料として用いる前記多孔炭素粒子の直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積の1.02倍以上になるまで行う、請求項1又は2のいずれかに記載の多孔炭素膜の製造方法。
  4. 前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、500℃以上1000℃以下の温度で行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔炭素膜の製造方法。
  5. 前記二酸化炭素雰囲気での熱処理を、二酸化炭素濃度が50%以上の雰囲気で行う請求項1から4のいずれか1項に記載の多孔炭素膜の製造方法。
  6. 前記多孔炭素膜が、以下の(a)~(d)のすべての条件を満たす、請求項1~5のいずれか1に記載の多孔炭素膜の製造方法。
    (a)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、3.5cm/g以上7.0cm/g以下
    (b)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.5cm/g以上7.0cm/g以下
    (c)直径200nm以上10,000nm以下の細孔の占める細孔容積が、2.2cm/g以上7.0cm/g以下
    (d)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積が、900m/g以上2000m/g以下
  7. 前記多孔炭素膜が、さらに以下の(e)の条件を満たす、請求項6に記載の多孔炭素膜の製造方法。
    (e)見かけ密度が、0.10g/cm以上0.20g/cm以下
  8. 前記多孔炭素素膜が、さらに以下の(f)の条件を満たす、請求項6又は7に記載の多孔炭素膜の製造方法。
    (f)空隙率が、90%以上99%以下
  9. 空気電池の製造方法であって、
    請求項1から8のいずれか1項に記載の多孔炭素膜の製造方法により多孔炭素膜を製造すること、
    前記多孔炭素膜から正極を形成すると共に、負極及びセパレータを準備すること、
    前記正極及び負極を、セパレータを介して積層すること、並びに
    前記セパレータに電解液を充填すること
    を含む、空気電池の製造方法。
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