JP2023076553A - 分光システムおよび画像生成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】コマ収差の発生およびそれに伴う解像度の低下を抑制する。【解決手段】多波長画像を生成するための分光システムが開示される。前記分光システムは、符号化素子と、前記符号化素子を通過した光の光路上に配置される撮像素子と、前記撮像素子が撮影した画像を基に前記多波長画像を生成する信号処理回路と、を備える。前記符号化素子は、波長毎に異なる光透過率の空間分布を有する。【選択図】図4

Description

本開示は、分光システムおよび画像生成方法に関する。
各々が狭帯域である多数のバンド(例えば数十バンド以上)のスペクトル情報を活用することで、従来のRGB画像では不可能であった観測物の詳細な物性を把握することができる。この多波長の情報を取得するカメラは、「ハイパースペクトルカメラ」と呼ばれる。ハイパースペクトルカメラは、食品検査、生体検査、医薬品開発、鉱物の成分分析等のあらゆる分野で利用されている。
観測対象の波長を狭帯域に限定して取得された画像の活用例として、特許文献1は、被験体の腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行う装置を開示している。この装置は、励起光の照射により、癌細胞内に蓄積されるプロトポルフィリンIXが635nmの蛍光を発し、フォト-プロトポルフィリンが675nmの蛍光を発することを検出する。これにより、腫瘍部位と非腫瘍部位との識別を行う。
特許文献2は、時間経過に伴って低下する生鮮食品の鮮度を、連続的な多波長の光の反射率特性の情報を取得することで判定する方法を開示している。
多波長の画像または反射率を測定できるハイパースペクトルカメラは、以下の4つの方式に大別できる。
(a)ラインセンサ方式
(b)電子フィルタ方式
(c)フーリエ変換方式
(d)干渉フィルタ方式
(a)ラインセンサ方式では、ライン状のスリットを有する部材を用いて対象物の1次元情報が取得される。スリットを通過した光は、回折格子またはプリズムなどの分光素子によって波長に応じて分離される。分離された波長ごとの光は、2次元に配列された複数の画素を有する撮像素子(イメージセンサ)によって検出される。この方式では、一度に対象物の1次元情報しか得られないため、カメラ全体あるいは測定対象物をスリット方向に垂直に走査することによって2次元のスペクトル情報を得る。ラインセンサ方式では、高解像度の多波長画像が得られるという利点がある。特許文献3は、ラインセンサ方式のハイパースペクトルカメラの例を開示している。
(b)電子フィルタ方式には、液晶チューナブルフィルタ(Liquid Crystal Tunable Filter:LCTF)を用いる方法と、音響光学素子(Acousto-Optic Tunable Filter:AOTF)を用いる方法とがある。液晶チューナブルフィルタは、リニアポラライザ、複屈折フィルタ、および液晶セルを多段に並べた素子である。電圧制御だけで不要な波長の光を排除し任意の特定波長の光のみを抽出できる。音響光学素子は、圧電素子が接着された音響光学結晶によって構成される。音響光学結晶に電気信号を印加すると、超音波が発生し、結晶内に疎密の定常波が形成される。それによる回折効果によって任意の特定波長の光のみを抽出することができる。この方式は、波長が限定されるが高解像度の動画のデータを取得できるという利点がある。
(c)フーリエ変換方式は、2光束干渉計の原理を用いる。測定対象からの光束はビームスプリッターで分岐され、それぞれの光束が固定ミラーおよび移動ミラーで反射され、再度結合した後、検出器で観測される。移動ミラーの位置を時間的に変動させることにより、光の波長に依存した干渉の強度変化を示すデータを取得することができる。得られたデータをフーリエ変換することにより、スペクトル情報が得られる。フーリエ変換方式の利点は、多波長の情報を同時に取得できることである。
(d)干渉フィルタ方式は、ファブリペロー干渉計の原理を用いた方式である。所定の間隔だけ離れた反射率の高い2つの面を有する光学素子をセンサ上に配置した構成が用いられる。光学素子の2面間の間隔は領域ごとに異なり、所望の波長の光の干渉条件に一致するように決定される。干渉フィルタ方式は、多波長の情報を同時にかつ動画で取得できるという利点がある。
これらの方式以外にも、例えば特許文献4に開示されているように、圧縮センシングを利用した方法もある。特許文献4に開示された装置は、測定対象からの光をプリズム等の第1の分光素子で分光した後、符号化マスクでマーキングし、さらに第2の分光素子によって光線の経路を戻す。これにより、符号化され、かつ波長軸に関して多重化された画像がセンサによって取得される。多重化された画像から圧縮センシングの適用により、多波長の複数枚の画像を再構成することができる。
圧縮センシングとは、少ないサンプル数の取得データから、それよりも多くのデータを復元する技術である。測定対象の2次元座標を(x、y)、波長をλとすると、求めたいデータfは、x、y、λの3次元のデータである。これに対し、センサによって得られる画像データgは、λ軸方向に圧縮および多重化された2次元のデータである。相対的にデータ量が少ない取得画像gから、相対的にデータ量が多いデータfを求める問題は、いわゆる不良設定問題であり、このままでは解くことができない。しかし、一般に、自然画像のデータは冗長性を有しており、それを巧みに利用することでこの不良設定問題を良設定問題に変換することができる。画像の冗長性を活用してデータ量を削減する技術の例に、jpeg圧縮がある。jpeg圧縮は、画像情報を周波数成分に変換し、データの本質的でない部分、例えば、視覚の認識性が低い成分を除去するといった方法が用いられる。圧縮センシングでは、このような技法を演算処理に組入れ、求めたいデータ空間を冗長性で表された空間に変換することで未知数を削減し解を得る。この変換には、例えば、離散的コサイン変換(DCT)、ウェーブレット変換、フーリエ変換、トータルバリエーション(TV)等が使用される。
国際公開第13/002350号 特開2007-108124号公報 特開2011-89895号公報 米国特許第7283231号明細書
従来の圧縮センシングを利用したハイパースペクトルカメラでは、プリズム等の分光素子が光路上に挿入される。このため、コマ収差が発生し、解像度が低下するという課題があった。
本開示は、コマ収差の発生およびそれに伴う解像度の低下を抑制し得る新たな撮像技術を提供する。
本開示の一態様に係る分光システムは、多波長画像を生成するための分光システムであって、符号化素子と、前記符号化素子を通過した光の光路上に配置される撮像素子と、前記撮像素子が撮影した画像を基に前記多波長画像を生成する信号処理回路と、を備える。前記符号化素子は、波長毎に異なる光透過率の空間分布を有する。
本開示によれば、コマ収差の発生およびそれに伴う解像度の低下を抑制することができる。
図1Aは、実施の形態1における符号化素子Cの構成を模式的に示す図である。 図1Bは、実施の形態1における符号化素子Cの対象波長域に含まれる複数の波長域W1、W2、・・・、Wiのそれぞれの光の透過率の空間分布の一例を示す図である。 図1Cは、実施の形態1における符号化素子Cの2つの領域A1における分光透過率の例を示す図である。 図1Dは、実施の形態1における符号化素子Cの2つの領域A2における分光透過率の例を示す図である。 図2Aは、対象波長域Wと、それに含まれる複数の波長域W1、W2、・・・、Wiとの関係を説明するための図である。 図2Bは、波長域によって帯域幅が異なり、かつ、隣接する2つの波長域の間にギャップがある例を示す図である。 図3Aは、符号化素子Cのある領域における分光透過率の特性を説明するための図である。 図3Bは、図3Aに示す分光透過率を、波長域W1、W2、・・・、Wiごとに平均化した結果を示す図である。 図4は、本開示の実施の形態2の撮像装置D1を示す模式図である。 図5Aは、本実施の形態における符号化素子Cの透過率分布の例を示す図である。 図5Bは、符号化素子Cの他の構成例を示す図である。 図6Aは、図5Aに示すバイナリースケールの透過率分布をもつ符号化素子Cにおけるある領域における分光透過率を近似的に示す図である。 図6Bは、図5Aに示すバイナリースケールの透過率分布をもつ符号化素子Cにおけるある領域における分光透過率の例を示す図である。 図7は、実施の形態2における分光方法の概要を示すフローチャートである。 図8Aは、本開示の実施の形態3における撮像装置D2を示す模式図である。 図8Bは、本開示の実施の形態3の変形例における撮像装置D2’を示す模式図である。 図9は、本開示の実施例1において分光分離画像Fを再構成した結果の一例を示す図である。 図10は、比較例1において分光分離画像Fを再構成した結果の一例を示す図である。 図11は、実施例1および比較例1のそれぞれにおける正解画像に対する平均二乗誤差(Mean Squared Error:MSE)を示す図である。 図12は、本開示の実施の形態4の分光システムS1を示す模式図である。 図13Aは、図12に示す撮像装置D4における狭帯域符号化素子の分光透過率の例を示す図である。 図13Bは、図12に示す撮像装置D4における狭帯域符号化素子の分光透過率の他の例を示す図である。 図13Cは、狭帯域符号化素子の分光透過率の他の例を示す図である。 図13Dは、狭帯域符号化素子の分光透過率の他の例を示す図である。 図13Eは、狭帯域符号化素子の分光透過率の他の例を示す図である。 図14Aは、対象波長域Wと、それに含まれる複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnとの関係を説明する図である。 図14Bは、波長帯域によって帯域幅が異なり、かつ、隣接する2つの波長帯域の間にギャップがある例を示す図である。 図15は、分光システムS1における撮像装置D4の他の構成例を示す図である。 図16Aは、図12に示す撮像装置D4における空間変調符号化素子CSの構成を模式的に示す図である。 図16Bは、図12に示す撮像装置D4における空間変調符号化素子CSの対象波長域に含まれる複数の波長域W1、W2、・・・、Wiのそれぞれの光の透過率の空間分布の一例を示す図である。 図16Cは、図12に示す撮像装置D4における空間変調符号化素子CSの領域A1における分光透過率の例を示す図である。 図16Dは、図12に示す撮像装置D4における空間変調符号化素子CSの領域A2における分光透過率の例を示す図である。 図17は、空間変調符号化素子CSのある領域における分光透過率の波長分解能を説明する図である。 図18Aは、狭帯域符号化素子C1を透過した際に得られる光の波長および強度の例を示す図である。 図18Bは、空間変調符号化素子CSを透過した際に得られる光の波長および強度の例を示す図である。 図18Cは、狭帯域符号化素子C1と空間変調符号化素子CSとの両方を透過した際に得られる光の波長および強度の例を示す図である。 図19は、狭帯域符号化素子C1と空間変調符号化素子CSとの両方を透過した際に得られる光の波長および強度の例を示す図である。 図20Aは、バイナリースケールの分光透過率の一例を示す図である。 図20Bは、バイナリースケールの分光透過率の他の一例を示す図である。 図21Aは、実施の形態4における空間変調符号化素子CSの透過率分布の例を示す図である。 図21Bは、実施の形態4における空間変調符号化素子CSの他の透過率分布の示す図である。 図22は、実施の形態4における分光方法の概要を示すフローチャートである。
本開示の実施の形態を説明する前に、本発明者によって見出された知見を説明する。
本発明者の検討によれば、上述した従来のハイパースペクトルカメラには、以下のような課題がある。(a)ラインセンサ方式は、2次元画像を得るためにカメラを走査する必要があり、測定対象の動画撮影には不向きである。(c)フーリエ変換方式も、反射鏡を移動させる必要があるため、動画撮影には不向きである。(b)電子フィルタ方式は、1波長ずつ画像を取得するため、多波長の画像を同時に取得できない。(d)干渉フィルタ方式は、画像を取得できる波長の帯域数と空間分解能とがトレードオフとなるため、多波長画像を取得する場合、空間分解能が犠牲になる。このように、既存のハイパースペクトルカメラには、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つを同時に満足するものは存在しない。
圧縮センシングを利用した構成は、一見すると高解像度、多波長、動画撮影を同時に満たすことができるようにも思われる。しかし、もともと少ないデータから推測に基づいて画像を再構成するため、取得される画像の空間解像度は本来の画像に比べて低下しやすい。特に取得データの圧縮率が高いほどその影響が顕著に現れる。さらに、プリズム等の分光素子が光路上に挿入されるため、コマ収差が発生し、解像度が低下するという課題があった。
本発明者は、上記の課題を見出し、これらの課題を解決するための構成を検討した。本発明者は、符号化素子の各領域における分光透過率を適切に設計することにより、コマ収差の発生を抑え、解像度を向上させることができることを見出した。本開示のある実施の形態によれば、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つの要求を同時に満たすことができる。また、本開示の実施の形態では、x方向、y方向、波長方向の3次元情報のうち波長方向の情報が圧縮される。したがって、2次元データを保有するだけで済み、データ量を抑えることができる。このため、本開示の実施の形態は長時間のデータ取得に有効である。
本開示は、以下の項目に記載の撮像装置、システム、および方法を含む。
[項目1]
対象物から入射する光の光路上に2次元に配列された複数の領域を有する第1符号化素子と、
前記第1符号化素子を通過した光の光路上に配置された撮像素子とを備え、
前記複数の領域は、第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域の光透過率の波長分布は、互いに異なる第1波長域および第2波長域においてそれぞれ極大値を有し、
前記第2領域の光透過率の波長分布は、互いに異なる第3波長域および第4波長域においてそれぞれ極大値を有し、
前記第1領域の光透過率の波長分布を、前記第1領域の光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化したとき、前記第1波長域および前記第2波長域における前記極大値はいずれも0.5以上であり、
前記第2領域の光透過率の波長分布を、前記第2領域の分光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化したとき、前記第3波長域および前記第4波長域における前記極大値はいずれも0.5以上であり、
前記第1波長域および前記第2波長域のうち少なくとも1つは、前記第3波長域および
第4波長域と異なり、
前記撮像素子は、前記第1符号化素子を通過した光の前記第1波長域、前記第2波長域、前記第3波長域および第4波長域の成分が重畳された画像を取得する撮像装置。
[項目2]
前記複数の領域の一部は透明領域である、項目1に記載の撮像装置。
[項目3]
2次元に配列された前記複数の領域は、前記複数の領域の一方の配列方向および前記一方の配列方向に垂直な他方の配列方向において、光透過率が波長によって異なる領域と、前記透明領域とが、交互に配列されている、項目2に記載の撮像装置。
[項目4]
前記複数の領域は、行列状に2次元に配列されており、
前記複数の領域に含まれる1つの行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における第5波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、前記複数の領域に含まれる他の行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第5波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立であり、
前記複数の領域に含まれる1つの行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における第6波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、前記複数の領域に含まれる他の行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第6波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立である、項目1から3のいずれかに記載の撮像装置。
[項目5]
前記対象物と前記第1符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記第1符号化素子の面上に集束させる光学系をさらに備え、
前記第1符号化素子は、前記撮像素子上に配置されている、項目1から4のいずれかに記載の撮像装置。
[項目6]
前記撮像素子は複数の画素を含み、
前記複数の領域は、前記複数の画素にそれぞれ対応するように配置されている、項目5に記載の撮像装置。
[項目7]
前記対象物と前記第1符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記撮像素子の面上に集束させる光学系をさらに備え、
前記第1符号化素子と前記撮像素子とが離れて配置されている、項目1から4のいずれかに記載の撮像装置。
[項目8]
前記第1符号化素子と前記撮像素子との間に配置され、前記第1符号化素子を通過した前記対象物からの光を、前記撮像素子の面上に集束させる光学系をさらに備えている、項目1から4のいずれかに記載の撮像装置。
[項目9]
前記撮像素子によって取得された画像と、前記第1符号化素子における光透過率の空間分布および波長分布とに基づいて、前記第1符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路をさらに備える、項目1から8のいずれかに記載の撮像装
置。
[項目10]
前記信号処理回路は、統計的方法によって前記波長域ごとの複数の画像を生成する、項目9に記載の撮像装置。
[項目11]
前記波長域ごとの複数の画像におけるデータ数は、前記撮像素子によって取得された前記画像におけるデータ数よりも多い、項目9または10に記載の撮像装置。
[項目12]
前記撮像素子は複数の画素を含み、
前記信号処理回路は、前記撮像素子によって取得された前記画像における前記複数の画素の信号値を要素とするベクトルgと、前記第1符号化素子における光透過率の空間分布および波長分布によって決定される行列Hとを用いて、
Figure 2023076553000002

(Φ(f)は正則化項、τは重み係数)
の式に基づいて推定されるベクトルf’を、前記波長域ごとの複数の画像として生成する、
項目9から11のいずれかに記載の撮像装置。
[項目13]
前記信号処理回路は、前記波長域ごとの複数の画像を動画像として生成する、項目9から12のいずれかに記載の撮像装置。
[項目14]
光透過率が空間方向に一様であり、かつ波長方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有する少なくとも1つの第2符号化素子をさらに備え、
前記撮像素子は、前記第1符号化素子および前記少なくとも1つの第2符号化素子を通過した光の光路上に配置される、項目1から13のいずれかに記載の撮像装置。
[項目15]
前記少なくとも1つの第2符号化素子は、
前記複数の透光領域の波長幅が全て等しく、最近接した2つの前記透光領域の間に存在する前記遮光領域の波長幅が全て等しい、項目14に記載の撮像装置。
[項目16]
前記少なくとも1つの第2符号化素子は複数の第2符号化素子を備え、
前記複数の第2符号化素子のうちの1つにおける前記複数の透光領域の波長域は、前記複数の第2符号化素子のうちの他の1つにおける前記複数の透光領域の波長域と異なる、項目14または15に記載の撮像装置。
[項目17]
前記撮像素子によって出力された画像と、前記第1符号化素子の光透過率の空間分布及び波長分布と、前記第2符号化素子の光透過率の波長分布とに基づいて、前記第1符号化素子及び前記第2符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路をさらに備える、項目14から16のいずれかに記載の撮像装置。
[項目18]
前記複数の領域の各々における光透過率の波長分布が、ランダム分布である、項目1から17のいずれかに記載の撮像装置。
[項目19]
前記第1波長域、前記第2波長域、前記第3波長域、および前記第4波長域の各々における前記第1符号化素子の光透過率の空間分布が、ランダム分布である、項目1から18のいずれかに記載の撮像装置。
[項目20]
対象物から入射する光の光路上に2次元に配列された複数の領域を有する符号化素子と、
前記第1符号化素子を通過した光の光路上に配置された撮像素子とを備え、
前記複数の領域は、第1領域および第2領域を含み、
前記第1領域の光透過率の波長分布は、互いに異なる第1波長域および第2波長域においてそれぞれ極大値を有し、
前記第2領域の光透過率の波長分布は、互いに異なる第3波長域および第4波長域においてそれぞれ極大値を有し、
前記第1領域の光透過率の波長分布を、前記第1領域の光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化したとき、前記第1波長域および前記第2波長域における前記極大値はいずれも0.5以上であり、
前記第2領域の光透過率の波長分布を、前記第2領域の分光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化したとき、前記第3波長域および前記第4波長域における前記極大値はいずれも0.5以上であり、
前記第1波長域および前記第2波長域のうち少なくとも1つは、前記第3波長域および第4波長域と異なり、
前記撮像素子は、前記第1符号化素子を通過した光の前記第1波長域、前記第2波長域、前記第3波長域および第4波長域の成分が重畳された画像を取得する撮像装置と、
前記撮像素子によって取得された画像と、前記第1符号化素子における光透過率の空間分布および波長分布とに基づいて、前記第1符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成する信号処理装置と、
を備える分光システム。
[項目21]
複数の互いに異なる波長域ごとの画像を生成する分光システムにおいて用いられる符号化素子であって、
2次元に配列された複数の領域を有し、前記複数の領域は、分光透過率が互いに異なる2以上の領域を含み、前記2以上の領域の各々における分光透過率は、前記複数の波長域の少なくとも2つにおいて極大値を有する、
符号化素子。
[項目22]
前記極大値における光透過率は0.8以上である、項目21に記載の符号化素子。
[項目23]
前記2以上の領域における前記少なくとも2つの波長域の組み合わせが互いに異なる、項目21または22に記載の符号化素子。
[項目24]
前記複数の領域の一部は透明領域である、項目21から23のいずれかに記載の符号化素子。
[項目25]
前記複数の領域の2つの配列方向において、光透過率が波長によって異なる領域と、前記透明領域とが、交互に配列されている、項目24に記載の符号化素子。
[項目26]
第1の波長域の画像および第2の波長域の画像を含む複数の波長域ごとの画像を生成する分光システムにおいて用いられる符号化素子であって、
行列状に2次元に配列された複数の領域を有し、
前記複数の領域に含まれる1つの行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第1の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、前記複数の領域に含まれる他の行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第1の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立であり、
前記複数の領域に含まれる1つの行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第2の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、前記複数の領域に含まれる他の行または列に並んだ領域の集合に属する各領域における前記第2波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立であり、
前記複数の領域に含まれる2以上の領域の各々における分光透過率は、前記第1および第2の波長域の少なくとも2つにおいて極大値を有する、符号化素子。
[項目27]
対象物から入射する光の光路上に配置された項目21から26のいずれかに記載の符号化素子と、
前記符号化素子を通過した光の光路上に配置され、前記符号化素子を通過した前記複数の波長域の成分が重畳した画像を取得する撮像素子と、
を備える撮像装置。
[項目28]
前記対象物と前記符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記符号化素子の面上に集束させる光学系をさらに備え、
前記符号化素子は、前記撮像素子上に配置されている、
項目27に記載の撮像装置。
[項目29]
前記符号化素子における前記複数の領域は、前記撮像素子における複数の画素にそれぞれ対応するように配置されている、項目28に記載の撮像装置。
[項目30]
前記対象物と前記符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記撮像素子の面上に集束させる光学系をさらに備え、
前記符号化素子と前記撮像素子とが離れて配置されている、
項目27に記載の撮像装置。
[項目31]
前記符号化素子と前記撮像素子との間に配置され、前記符号化素子を通過した前記対象物からの光を、前記撮像素子の面上に集束させる光学系をさらに備えている、項目27に記載の撮像装置。
[項目32]
前記撮像素子によって取得された画像と、前記符号化素子における分光透過率の空間分布とに基づいて、前記符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路をさらに備える、項目27から31のいずれかに記載の撮像装置。
[項目33]
前記信号処理回路は、統計的方法によって前記波長域ごとの複数の画像を生成する、項目32に記載の撮像装置。
[項目34]
前記光の波長域ごとの複数の画像におけるデータ数は、前記撮像素子によって取得される前記画像におけるデータ数よりも多い、項目32または33に記載の撮像装置。
[項目35]
前記信号処理回路は、前記撮像素子によって取得される前記画像における複数の画素の信号値を要素とするベクトルgと、前記符号化素子における分光透過率の空間分布によって決定される行列Hとを用いて、
Figure 2023076553000003

(Φ(f)は正則化項、τは重み係数)
の式に基づいて推定されるベクトルf’を、前記波長域ごとの複数の画像として生成する、
項目32から34のいずれかに記載の撮像装置。
[項目36]
前記信号処理回路は、前記波長域ごとの複数の画像を動画像として生成する、項目32から35のいずれかに記載の撮像装置。
[項目37]
項目27から31のいずれかに記載の撮像装置と、
前記撮像素子によって取得された画像と、前記符号化素子における分光透過率の空間分布とに基づいて、前記符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成する信号処理装置と、
を備える分光システム。
[項目38]
対象物から入射する光の光路上に配置された項目21から26のいずれかに記載の符号化素子を用いて入射光の強度を変調させるステップと、
前記符号化素子を通過した光の複数の波長域の成分が重畳した画像を取得するステップと、
前記画像と、前記符号化素子における分光透過率の空間分布とに基づいて、前記符号化素子を通過した光の波長域ごとの複数の画像を生成するステップと、
を含む分光方法。
[項目41]
異なる波長帯域ごとの複数の画像を生成する分光システムに用いられる撮像装置であって、光透過率が空間方向に一様であり、かつ波長方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有する狭帯域符号化素子と、前記狭帯域符号化素子を通過する光の経路上に配置され
、空間方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有する空間変調符号化素子と、前記狭帯域符号化素子及び前記空間変調符号化素子によって符号化された光を取得する撮像素子と、を備える撮像装置。
[項目42]
前記狭帯域符号化素子は、前記複数の透光領域の波長幅が全て等しく、最近接した2つの前記透光領域の間に存在する前記遮光領域の波長幅が全て等しい、項目41に記載の撮像装置。
[項目43]
前記狭帯域符号化素子を複数有し、複数の前記狭帯域符号化素子における前記複数の透光領域は互いに異なる波長領域である、項目41または42に記載の撮像装置。
[項目44]
複数の前記狭帯域符号化素子における前記複数の透光領域が、全ての前記異なる波長帯域を含む、項目43に記載の撮像装置。
[項目45]
前記空間変調符号化素子は、前記複数の透光領域及び前記複数の遮光領域の空間分布が前記異なる波長帯域に応じて異なる、項目41から44のいずれかに記載の撮像装置。
[項目46]
前記狭帯域符号化素子を通過する光の経路上に配置され、光を波長に応じて空間方向に分散させる分光素子をさらに備え、前記空間変調符号化素子は、光透過率が波長方向に一様である、項目41から44のいずれかに記載の撮像装置。
[項目47]
項目45に記載の撮像装置と、前記撮像装置において前記撮像素子から出力された撮影画像と、前記狭帯域符号化素子の光透過率の波長分布情報と、前記空間変調符号化素子の光透過率の空間分布情報及び波長分布情報と、に基づいて、異なる波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路と、を備える、分光システム。
[項目48]
項目46に記載の撮像装置と、前記撮像装置において前記撮像素子から出力された撮影画像と、前記狭帯域符号化素子の光透過率の波長分布情報と、前記空間変調符号化素子の光透過率の空間分布情報と、前記分光素子の分散特性とに基づいて、異なる波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路と、を備える、分光システム。
[項目49]
異なる波長帯域ごとの複数の画像を生成する分光システムに用いられる分光フィルタであって、空間方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有し、前記複数の透光領域の波長幅が全て等しく、最近接した2つの前記透光領域の間に存在する前記遮光領域の波長幅が全て等しい、分光フィルタ。
[項目50]
光透過率が空間方向に一様であり、かつ波長方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有する第1の狭帯域符号化素子、及び第2の狭帯域符号化素子と、前記第1の狭帯域符号化素子または前記第2の狭帯域符号化素子を通過する光の経路上に配置され、空間方向に複数の透光領域と複数の遮光領域とを有する空間変調符号化素子と、前記第1の狭帯域符号化素子、前記第2の狭帯域符号化素子、及び前記空間変調符号化素子によって符号化
された光を取得する撮像素子と、を備える撮像装置を用いた分光方法であって、前記第1の狭帯域符号化素子及び前記空間変調符号化素子が、対象物からの光を符号化し、前記撮像素子が、前記第1の狭帯域符号化素子及び前記空間変調符号化素子が符号化した光を取得して第1の画素信号を生成し、前記第1の狭帯域符号化素子を前記第2の狭帯域符号化素子に交換し、前記第2の狭帯域符号化素子及び前記空間変調符号化素子が、前記対象物からの光を符号化し、前記撮像素子が、前記第2の狭帯域符号化素子及び前記空間変調符号化素子が符号化した光を取得して第2の画素信号を生成する、分光方法。
以下、図面を参照しながら、本開示のより具体的な実施の形態を説明する。以下の説明では、画像を示す信号(各画素の画素値を表す信号の集合)を、単に「画像」と称することがある。以下の説明において、図中に示されたxyz座標を用いる。
(実施の形態1)
図1Aから図1Dは、実施の形態1における符号化素子Cを説明するための図である。符号化素子Cは、撮像対象の波長域に含まれる複数の波長域ごとの画像を生成する分光システムにおいて用いられる。本明細書において、撮像対象の波長域を「対象波長域」と称することがある。符号化素子Cは、対象物から入射する光の光路上に配置され、入射光の強度を波長ごとに変調して出力する。符号化素子Cによるこの過程を、本明細書では「符号化」と称する。符号化素子Cは、本開示における第1符号化素子に相当する。
図1Aは、符号化素子Cの構成を模式的に示している。符号化素子Cは、2次元に配列された複数の領域を有する。各領域は、透光性の部材で形成され、個別に設定された分光透過率を有する。ここで、「分光透過率」とは、光透過率の波長分布を意味する。分光透過率は、入射光の波長をλとして、関数T(λ)で表される。分光透過率T(λ)は、0以上1以下の値を取り得る。図1Aでは、6行8列に配列された48個の矩形領域が例示されているが、実際の用途では、これよりも多くの領域が設けられ得る。その数は、例えば一般的な撮像素子(イメージセンサ)の画素数(例えば数十万から数千万)と同程度であり得る。ある例では、符号化素子Cは、撮像素子の直上に配置され、各領域が撮像素子の1つの画素に対応(対向)するように配置され得る。
図1Bは、対象波長域に含まれる複数の波長域W1、W2、・・・、Wiのそれぞれの光の透過率の空間分布の一例を示している。この図において、各領域(セル)の濃淡の違いは、透過率の違いを表している。淡い領域ほど透過率が高く、濃い領域ほど透過率が低い。図1Bに示されるように、波長域によって光透過率の空間分布が異なっている。
図1Cおよび図1Dは、符号化素子Cにおける2つの領域A1、A2における分光透過率の例をそれぞれ示すグラフである。各グラフの横軸は波長、縦軸は光透過率を示している。分光透過率は、各領域の光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化されている。領域A1における分光透過率と領域A2における分光透過率とは異なっている。このように、符号化素子Cにおける分光透過率は領域によって異なる。ただし、必ずしも全ての領域の分光透過率が異なっている必要はない。符号化素子Cにおける複数の領域のうちの少なくとも一部(2以上)の領域の分光透過率が互いに異なっていればよい。ある例では、符号化素子Cに含まれる複数の領域の分光透過率のパターンの数は、対象波長域に含まれる波長域の数iと同じか、それ以上であり得る。典型的には、符号化素子Cは、半数以上の領域で分光透過率が異なるように設計される。
図2Aは、対象波長域Wと、それに含まれる複数の波長域W1、W2、・・・、Wiとの関係を説明するための図である。対象波長域Wは、用途によって様々な範囲に設定され得る。対象波長域Wは、例えば可視光の波長域(約400nm~約700nm)、近赤外線の波長域(約700nm~約2500nm)、近紫外線の波長域(約10nm~約40
0nm)、その他、中赤外、遠赤外、あるいは、テラヘルツ波、ミリ波等の電波域であり得る。このように、使用される波長域は可視光域とは限らない。本明細書では、可視光に限らず、近紫外線、近赤外線、および電波などの非可視光も便宜上「光」と称する。
本実施形態では、図2Aに示されるように、iを4以上の任意の整数として、対象波長域Wをi等分したそれぞれを波長域W1、W2、・・・、Wiとしている。ただしこのような例に限定されない。対象波長域Wに含まれる複数の波長域は任意に設定してよい。例えば、波長域によってその幅(「帯域幅」と称する。)を不均一にしてもよい。隣接する波長域の間にギャップがあってもよい。図2Bは、波長域によって帯域幅が異なり、かつ、隣接する2つの波長域の間にギャップがある例を示している。このように、複数の波長域は、互いに異なっていればよく、その決め方は任意である。波長の分割数iは3以下でもよい。
図3Aは、符号化素子Cのある領域における分光透過率の特性を説明するための図である。この例における分光透過率は、対象波長域W内の波長に関して、複数の極大値P1~P5および複数の極小値を有する。図3Aに示す光透過率の波長分布は、対象波長域W内での光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化されている。この例では、波長域W2、Wi-1等において分光透過率の極大値を有している。このように、本実施形態では、各領域の分光透過率は、複数の波長域W1~Wiのうちの複数(少なくとも2つ)の波長域において極大値を有する。図3Aからわかるように、極大値P1、P3、P4、およびP5は0.5以上である。
以上のように、各領域の光透過率は、波長によって異なる。したがって、符号化素子Cは、入射する光のうち、ある波長域の成分を多く透過させ、他の波長域の成分をそれほど透過させない。例えば、i個の波長域のうちのk個(kは、2≦k<iを満たす整数)の波長域の光については、透過率が0.5(50%)よりも大きく、残りのi-k個の波長域の光については、透過率が0.5(50%)未満であり得る。仮に入射光が、全ての可視光の波長成分を均等に含む白色光であった場合には、符号化素子Cは、入射光を領域ごとに、波長に関して離散的な複数の強度のピークを有する光に変調し、これらの多波長の光を重畳して出力する。
図3Bは、一例として、図3Aに示す分光透過率を、波長域W1、W2、・・・、Wiごとに平均化した結果を示す図である。平均化された透過率は、分光透過率T(λ)を波長域ごとに積分してその波長域の幅(帯域幅)で除算することによって得られる。本明細書では、このように波長域ごとに平均化した透過率の値を、その波長域における透過率と称する。この例では、極大値P1、P3、P5をとる3つの波長域において、透過率が突出して高くなっている。特に、極大値P3、P5をとる2つの波長域において、透過率が0.8(80%)を超えている。
各領域の分光透過率の波長方向の分解能は、所望の波長域の幅(帯域幅)程度に設定され得る。言い換えれば、分光透過率曲線における1つの極大値(ピーク)を含む波長範囲のうち、当該極大値に最も近接する極小値と当該極大値との平均値以上の値をとる範囲の幅は、所望の波長域の幅(帯域幅)程度に設定され得る。この場合、分光透過率をフーリエ変換等を用いて周波数成分に分解すれば、その波長域に相当する周波数成分の値が相対的に大きくなる。
符号化素子Cは、典型的には、図1Aに示すように、格子状に区分けされた複数の領域(セル)に分割される。これらのセルが互いに異なる分光透過率特性を有する。符号化素子Cにおける各領域の光透過率の波長分布および空間分布は、例えばランダム分布または準ランダム分布であり得る。
ランダム分布および準ランダム分布の考え方は次のとおりである。まず、符号化素子Cにおける各領域は、光透過率に応じて、例えば0から1の値を有するベクトル要素と考えることができる。ここで、透過率が0(0%)の場合、ベクトル要素の値は0であり、透過率が1(100%)の場合、ベクトル要素の値は1である。言い換えると、行方向または列方向に一列に並んだ領域の集合を0から1の値を有する多次元のベクトルと考えることができる。したがって、符号化素子Cは、多次元ベクトルを列方向または行方向に複数備えていると言える。このとき、ランダム分布とは、任意の2つの多次元ベクトルが独立である(平行でない)ことを意味する。また、準ランダム分布とは、一部の多次元ベクトル間で独立でない構成が含まれることを意味する。したがって、ランダム分布および準ランダム分布においては、複数の領域に含まれる1つの行(または列)に並んだ領域の集合に属する各領域における第1の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、他の行(または列)に並んだ領域の集合に属する各領域における第1の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立である。第1の波長域とは異なる第2の波長域についても同様に、複数の領域に含まれる1つの行(または列)に並んだ領域の集合に属する各領域における第2の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルと、他の行(または列)に並んだ領域の集合に属する各領域における第2の波長域の光の透過率の値を要素とするベクトルとは、互いに独立である。
ランダム分布は、以下の(数1)で定義される自己相関関数によって定義してもよい。
Figure 2023076553000004
符号化素子Cが、縦にM個、横にN個の計M×N個の矩形領域が配列して構成され、当該符号化素子Cを備える分光システムが生成する分光画像の数がL個とすると、x(l,m,n)は、縦方向にm番目、横方向にn番目に配置された矩形領域のl番目の波長域における光透過率を表す。また、i=―(L-1),・・・,-1,0,1,・・・(L-1)、j=-(M-1),・・・,-1,0,1,・・・,(M-1)、k=-(N-1),・・・,-1,0,1,・・・,(N-1)である。m<1,n<1,l<1,m>M,n>N,l>Lのときx(l,m,n)=0である。上記(数1)で示される自己相関関数y(i,j,k)は、縦方向にm番目、横方向にn番目に配置された矩形領域のl番目の波長域における光透過率x(l,m,n)と、その矩形領域から縦方向にj個、横方向にk個ずれた矩形領域でのl番目の波長域からi個ずれた波長域における光透過率x(l+i,m+j,n+k)との相関値を、i、j、およびkを変数として表す関数である。このとき、本開示における「ランダム分布」とは、例えば、上記(数1)で示される自己相関関数y(i,j,k)がy(0,0,0)において極大値を有し、その他において極大値を有さないことを言う。具体的には、i=0からL-1及び-(L-1)に向かうにつれて単調に減少し、かつ、j=0からM-1及び-(M-1)に向かうにつれて単調に減少し、かつ、k=0からN-1及び-(N-1)に向かうにつれて単調に減少することを意味する。また、「ランダム分布」は、y(0,0,0)のほかに、i軸方向においてL/10箇所以下、j軸方向においてM/10箇所以下、k軸方向においてN/10箇所以下の極大値を有していてもよい。
符号化素子Cを撮像素子の近傍あるいは直上に配置する場合、符号化素子Cにおける複数の領域の相互の間隔(セルピッチ)は、撮像素子の画素ピッチと略一致させてもよい。このようにすれば、符号化素子Cから出射した符号化された光の像の解像度が画素の解像度と略一致する。各セルを透過した光が対応する1つの画素にのみ入射するようにするこ
とで、後述する演算を容易にすることができる。符号化素子Cを撮像素子から離して配置する場合には、その距離に応じてセルピッチを細かくしてもよい。
図1に示す例では、各領域の透過率が0以上1以下の任意の値をとり得るグレースケールの透過率分布を想定した。しかし、必ずしもグレースケールの透過率分布にする必要はない。例えば、後述する実施の形態2のように、各領域の透過率が略0または略1のいずれかの値を取り得るバイナリースケールの透過率分布を採用してもよい。バイナリースケールの透過率分布では、各領域は、対象波長域に含まれる複数の波長域のうちの少なくとも2つの波長域の光の大部分を透過させ、残りの波長域の光の大部分を透過させない(遮光する)ことになる。ここで「大部分」とは、概ね80%以上を指す。
全セルのうちの一部(例えば半分)のセルを、透明領域に置き換えてもよい。そのような透明領域は、対象波長域に含まれる全ての波長域W1~Wiの光を同程度の高い透過率(例えば0.8以上)で透過させる。そのような構成では、複数の透明領域は、例えば市松状に配置され得る。すなわち、符号化素子Cにおける複数の領域の2つの配列方向(図1Aにおける横方向および縦方向)において、光透過率が波長によって異なる領域と、透明領域とが交互に配列され得る。
符号化素子Cは、多層膜、有機材料、回折格子構造、金属を含む微細構造の少なくとも1つを用いて構成され得る。多層膜を用いる場合、例えば、誘電体多層膜または金属層を含む多層膜が用いられ得る。この場合、セルごとに各多層膜の厚さ、材料、および積層順序の少なくとも1つが異なるように形成される。これにより、セルによって異なる分光特性を実現できる。多層膜を用いることにより、分光透過率におけるシャープな立ち上がりおよび立下りを実現できる。有機材料を用いた構成は、セルによって含有する顔料または染料が異なるようにしたり、異種の材料を積層させたりすることによって実現され得る。回折格子構造を用いた構成は、セルごとに異なる回折ピッチまたは深さの回折構造を設けることによって実現され得る。金属を含む微細構造を用いる場合は、プラズモン効果による分光を利用して作製され得る。
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2の撮像装置D1を示す模式図である。本実施の形態の撮像装置D1は、結像光学系100と、符号化素子Cと、撮像素子Sとを備える。符号化素子Cは、実施の形態1において説明したものと同じである。このため、実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
図4には、撮像素子Sから出力された画像信号を処理する信号処理回路Prも描かれている。信号処理回路Prは、撮像装置D1に組み込まれていてもよいし、撮像装置D1に有線または無線で電気的に接続された信号処理装置の構成要素であってもよい。信号処理回路Prは、撮像素子Sによって取得された画像Gに基づいて、対象物Oからの光の波長帯域ごとに分離された複数の画像(以下、「分光分離画像」または「多波長画像」と称することがある。)Fを推定する。
結像光学系100は、少なくとも1つの撮像レンズを含む。図4では、1つのレンズとして描かれているが、結像光学系100は複数のレンズの組み合わせによって構成されていてもよい。結像光学系100は、撮像素子Sの撮像面上に像を形成する。
符号化素子Cは、撮像素子Sの近傍または直上に配置されている。ここで「近傍」とは、結像光学系100からの光の像がある程度鮮明な状態で符号化素子Cの面上に形成される程度に近接していることを意味する。「直上」とは、殆ど隙間が生じない程両者が近接していることを意味する。符号化素子Cおよび撮像素子Sは一体化されていてもよい。符
号化素子Cは、光透過率の空間分布を有するマスクである。符号化素子Cは、結像光学系100を透過して入射した光の強度を変調させて通過させる。
図5Aは、本実施の形態における符号化素子Cの透過率分布の例を示す図である。この例は、前述したバイナリースケールの透過率分布に該当する。図5Aにおいて、黒い部分は光を殆ど透過させない領域(「遮光領域」と称する。)を、白い部分は光を透過させる領域(「透光領域」と称する。)を示している。この例では、白い部分の光透過率はほぼ100%であり、黒い部分の光透過率はほぼ0%である。符号化素子Cは、複数の矩形領域に分割されており、各矩形領域は、透光領域または遮光領域である。符号化素子Cにおける透光領域および遮光領域の2次元分布は、例えばランダム分布または準ランダム分布であり得る。
ランダム分布および準ランダム分布の考え方は、前述した考え方と同様である。まず、符号化素子Cにおける各領域は、光透過率に応じて、例えば0から1の値を有するベクトル要素と考えることができる。言い換えると、一列に並んだ領域の集合を0から1の値を有する多次元のベクトルと考えることができる。したがって、符号化素子Cは、多次元ベクトルを行方向に複数備えていると言える。このとき、ランダム分布とは、任意の2つの多次元ベクトルが独立である(平行でない)ことを意味する。また、準ランダム分布とは、一部の多次元ベクトル間で独立でない構成が含まれることを意味する。
符号化素子Cによる符号化過程は、各波長の光による画像を区別するためのマーキングを行う過程といえる。そのようなマーキングが可能である限り、透過率の分布は任意に設定してよい。図5Aに示す例では、黒い部分の数と白い部分の数との比率は1:1であるが、このような比率に限定されない。例えば、白い部分の数:黒い部分の数=1:9のような一方に偏りのある分布であってもよい。
図5Bは、符号化素子Cの他の構成例を示す図である。この例は、前述のグレースケールの透過率分布を持つマスクに該当する。この場合、符号化素子Cにおける各領域は、図1に示す構成と同様、波長域に応じて3段階以上の透過率の値を有する。
図5Aおよび図5Bに示すように、符号化素子Cは、波長帯域W1、W2、・・・、Wiごとに異なる透過率空間分布をもつ。ただし、各波長帯域の透過率空間分布は、空間方向に平行移動させた際に一致しても良い。
図6Aは、図5Aに示すバイナリースケールの透過率分布をもつ符号化素子Cにおけるある領域における分光透過率を近似的に示す図である。バイナリースケールの透過率をもつ各領域は、理想的には、図6Aに示すような分光透過率をもつ。この例では、分光透過率が、対象波長域に含まれる複数の波長域(各々が目盛りの間隔で表現されている。)のうちの3つの波長域において極大値を有している。実際には、図6Aのような理想的な分光透過率になることはなく、図6Bに示すような連続的な分光透過率になる。図6Bに示すような分光透過率であっても、波長域ごとに積分した値が、所定の閾値を超えていれば、その波長域における透過率がほぼ1であると近似することによって、図6Aに示す分光透過率とみなすことができる。
このような符号化素子Cの透過率分布に関する情報は、設計データまたは実測キャリブレーションによって事前に取得され、後述する演算処理に利用される。
撮像素子Sは、2次元に配列された複数の光検出セル(本明細書において、「画素」とも呼ぶ。)を有するモノクロタイプの撮像素子である。撮像素子Sは、例えばCCD(Charge-Coupled Device)またはCMOS(Complementa
ry Metal Oxide Semiconductor)センサ、赤外線アレイセンサ、テラヘルツアレイセンサ、ミリ波アレイセンサであり得る。光検出セルは、例えばフォトダイオードによって構成され得る。撮像素子Sは、必ずしもモノクロタイプの撮像素子である必要はない。例えば、R/G/B、R/G/B/IR、またはR/G/B/Wのフィルタを有するカラータイプの撮像素子を用いてもよい。カラータイプの撮像素子を使用することで、波長に関する情報量を増やすことができ、分光分離画像Fの再構成の精度を向上させることができる。ただし、カラータイプの撮像素子を使用した場合、空間方向(x、y方向)の情報量が低下するため、波長に関する情報量と解像度とはトレードオフの関係にある。取得対象の波長範囲(対象波長域)は任意に決定してよく、可視の波長範囲に限らず、紫外、近赤外、中赤外、遠赤外、マイクロ波・電波の波長範囲であってもよい。
信号処理回路Prは、撮像素子Sから出力された画像信号を処理する回路である。信号処理回路Prは、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等のプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)・画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現され得る。そのようなコンピュータプログラムは、メモリなどの記録媒体に格納され、CPUがそのプログラムを実行することにより、後述する演算処理を実行できる。前述のように、信号処理回路Prは、撮像装置D1の外部の要素であってもよい。そのような構成では、撮像装置D1に電気的に接続されたパーソナルコンピュータ(PC)、またはインターネット上のクラウドサーバなどの信号処理装置が、信号処理回路Prを有する。本明細書では、そのような信号処理装置と撮像装置とを含むシステムを、「分光システム」と称する。
以下、本実施の形態における撮像装置D1の動作を説明する。
図7は、本実施の形態における分光方法の概要を示すフローチャートである。まず、ステップS101において、符号化素子Cを用いて入射光の強度を波長帯域ごとに空間的に変調させる。次に、ステップS102において、符号化素子Cを透過した光の成分が重畳した画像を撮像素子Sによって取得する。続くステップS103において、撮像素子Sによって取得された画像と、符号化素子Cの分光透過率の空間分布とに基づいて、波長帯域ごとの複数の画像を生成する。
次に、本実施の形態の撮像装置D1によって撮影画像Gを取得する過程を説明する。
対象物Oからの光束は、結像光学系100によって集束され、その像が撮像素子Sの直前に配置された符号化素子Cによって符号化される。言い換えれば、符号化素子Cにおける波長ごとの透過率の空間分布に応じて符号化素子Cを通過する光の強度が変調される。その結果、符号化情報を保有する像が、互いに重なり合った多重像として撮像素子Sの撮像面上に形成される。この際、従来の圧縮センシングによる構成とは異なり、プリズム等の分光素子を使用していないため、像の空間方向のシフトは発生しない。したがって、多重像であっても空間解像度は高く維持できる。図4に示す画像Gに含まれている複数の黒い点は、符号化によって生じた低輝度の部分を模式的に表している。なお、図4に示す黒い点の数および配置は、現実の数および配置を反映していない。実際には、図4に示す数よりも多くの低輝度の部分が生じ得る。撮像素子Sにおける複数の光検出セルによって多重像の情報が複数の電気信号(画素信号)に変換され、撮影画像Gが生成される。
撮像装置D1は、入射光束の一部の波長帯域の成分のみを透過させる帯域通過フィルタをさらに備えていてもよい。これにより、測定波長帯域を限定することができる。測定波長帯域を限定することで、所望の波長に限定した分離精度の高い分光分離画像Fを得るこ
とができる。
次に、撮影画像G、符号化素子Cの波長ごとの透過率の空間分布特性に基づいて多波長の分光分離画像Fを再構成する方法を説明する。ここで多波長とは、例えば通常のカラーカメラで取得される3色(R・G・B)の波長帯域よりも多くの波長帯域を意味する。この波長帯域の数(以下、「分光帯域数」と称することがある。)は、例えば4から100程度の数であり得る。用途によっては、分光帯域数は100を超えていてもよい。
求めたいデータは分光分離画像Fであり、そのデータをfと表す。分光帯域数(バンド数)をwとすると、fは各帯域の画像データf1、f2、・・・、fwを統合したデータである。求めるべき画像データのx方向の画素数をn、y方向の画素数をmとすると、画像データf1、f2、・・・、fwの各々は、n×m画素の2次元データの集まりである。したがって、データfは要素数n×m×wの3次元データである。一方、符号化素子Cによって符号化および多重化されて取得される撮影画像Gのデータgの要素数はn×mである。本実施の形態におけるデータgは、以下の(数2)で表すことができる。
Figure 2023076553000005
ここで、f1、f2、・・・、fwは、n×m個の要素を有するデータであるため、右辺のベクトルは、厳密にはn×m×w行1列の1次元ベクトルである。ベクトルgは、n×m行1列の1次元ベクトルに変換して表され、計算される。行列Hは、ベクトルfの各成分f1、f2、・・・、fwを波長帯域ごとに異なる符号化情報で符号化・強度変調し、それらを加算する変換を表す。したがって、Hは、n×m行n×m×w列の行列である。
さて、ベクトルgと行列Hが与えられれば、(数2)の逆問題を解くことでfを算出することができそうである。しかし、求めるデータfの要素数n×m×wが取得データgの要素数n×mよりも多いため、この問題は不良設定問題となり、このままでは解くことができない。そこで、本実施の形態の信号処理回路Prは、データfに含まれる画像の冗長性を利用し、圧縮センシングの手法を用いて解を求める。具体的には、以下の(数3)の式を解くことにより、求めるデータfを推定する。
Figure 2023076553000006
ここで、f’は、推定されたfのデータを表す。上式の括弧内の第1項は、推定結果Hfと取得データgとのずれ量、いわゆる残差項を表す。ここでは2乗和を残差項としているが、絶対値あるいは二乗和平方根等を残差項としてもよい。括弧内の第2項は、後述する正則化項(または安定化項)である。(数3)は、第1項と第2項との和を最小化するfを求めることを意味する。信号処理回路Prは、再帰的な反復演算によって解を収束させ、最終的な解f’を算出することができる。
(数3)の括弧内の第1項は、取得データgと、推定過程のfを行列Hによってシステム変換したHfとの差分の二乗和を求める演算を意味する。第2項のΦ(f)は、fの正
則化における制約条件であり、推定データのスパース情報を反映した関数である。働きとしては、推定データを滑らかまたは安定にする効果がある。正則化項は、例えば、fの離散的コサイン変換(DCT)、ウェーブレット変換、フーリエ変換、またはトータルバリエーション(TV)等によって表され得る。例えば、トータルバリエーションを使用した場合、観測データgのノイズの影響を抑えた安定した推測データを取得できる。それぞれの正則化項の空間における対象物Oのスパース性は、対象物Oのテキスチャによって異なる。対象物Oのテキスチャが正則化項の空間においてよりスパースになる正則化項を選んでもよい。あるいは、複数の正則化項を演算に含んでもよい。τは、重み係数であり、この値が大きいほど冗長的なデータの削減量が多くなり(圧縮する割合が高まり)、小さいほど解への収束性が弱くなる。重み係数τは、fがある程度収束し、かつ、過圧縮にならない適度な値に設定される。
なお、ここでは(数3)に示す圧縮センシングを用いた演算例を示したが、その他の方法を用いて解いてもよい。例えば、最尤推定法またはベイズ推定法などの他の統計的方法を用いることができる。また、分光分離画像Fの数は任意であり、各波長帯域も任意に設定してよい。
以上のように、本実施の形態では、図5Aまたは図5Bに示すような、分光透過率特性が波長帯域によって異なる符号化素子Cが用いられる。これにより、後述する実施例1に示すように、コマ収差の発生を抑え、圧縮センシングによる解像度の低下を抑制することができる。本実施形態によれば、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つの要求を同時に満たすことができる。また、撮像の際、2次元データを保有するだけで済むため、長時間のデータ取得に有効である。なお、本実施形態における撮像素子および信号処理回路は、動画像を取得するが、静止画像のみを取得するように構成されていてもよい。
(実施の形態3)
実施の形態3は、符号化パターンの像面上でのボケ状態を利用して多波長画像を再構成する点で、実施の形態2と異なっている。以下、実施の形態2と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
図8Aは、本実施の形態の撮像装置D2を示す模式図である。撮像装置D2では、撮像装置D1と異なり、符号化素子Cが、撮像素子Sから離れて配置されている。符号化素子Cによって符号化された像は、撮像素子S上でボケた状態で取得される。したがって、予めこのボケ情報を保有しておき、それを(数2)のシステム行列Hに反映させる。ここで、ボケ情報は、点拡がり関数(Point Spread Function:PSF)によって表される。PSFは、点像の周辺画素への拡がりの程度を規定する関数である。例えば、画像上で1画素に相当する点像が、ボケによってその画素の周囲のk×k画素の領域に広がる場合、PSFは、その領域内の各画素の輝度への影響を示す係数群(行列)として規定され得る。PSFによる符号化パターンのボケの影響をシステム行列Hに反映させることにより、分光分離画像Fを再構成することができる。
符号化素子Cが配置される位置は任意であるが、符号化素子Cの符号化パターンが拡散しすぎて消失することを防ぐ必要がある。そのためには、例えば、図8Bに示すように、結像光学系100において対象物Oに最も近いレンズの近傍または対象物Oの近傍に配置するのがよい。特に画角が広い光学系では焦点距離が短くなるため、これらの位置では各画角の光束の重なりが小さく撮像素子S上で符号化パターンがボケにくく残存しやすくなる。また、実施の形態2のように、符号化素子Cを撮像素子Sにより近い位置に配置した場合も、符号化パターンが残存しやすいためよい。
(実施例1)
次に、本開示の実施例を説明する。
図9は、本開示の分光方法を用いて分光分離画像Fを再構成した結果の一例を示す図である。ここで、符号化素子Cとして、図5Aに示すような、複数の透光領域と複数の遮光領域とがランダムに配列されたバイナリーパターンを有する素子を用いた。各透光領域の光透過率は略100%であり、各遮光領域の光透過率は略0%である。撮像装置の構成は、実施の形態2における構成を採用した。
撮影画像Gは、符号化素子Cによって20帯域の波長帯域ごとに符号化された像が多重化された500×311画素の画像である。
実施例1では、撮影画像G、符号化素子Cの波長帯域ごとの透過率の空間分布特性に基づいて、(数3)の推測アルゴリズムを解くことにより、20波長帯域の分光分離画像Fを得た。このとき、正則化項としてトータルバリエーション(TV)を使用した。
(比較例1)
比較例として、符号化素子Cの代わりに、透過率の波長依存性を殆ど有しない符号化素子と、y方向に1画素ずつ分光シフトする分光素子Pとを使用した場合の分光分離画像Fを再構成した。分光素子は、符号化素子を通過した光の経路上に配置され、y方向のみに20帯域に分光する。
図10は、比較例の結果を示す図である。図10に示す撮影画像Gは、y方向にシフトした各分光帯域の画像の多重像であるため、図9に示す撮影画像Gと比較して解像度が低い。その結果、分光分離画像Fの解像度も低くなっている。
図11は、実施例1および比較例1のそれぞれにおける正解画像に対する平均二乗誤差(Mean Squared Error:MSE)を示す。MSEは、(数4)で表され、1画素当たりの平均二乗誤差を示している。値が小さいほど正解画像に近いことを意味する。
Figure 2023076553000007
ここで、n、mはそれぞれ画像の縦、横の画素数を、I’i,jは再構成画像(分光分離
画像)のi行j列の画素値を、Ii,jは正解画像のi行j列の画素値を表している。なお
、本実施例および比較例で使用した画像は8ビット画像であり、画素値の最大値は255である。
図11における横軸は、再構成した分光分離画像Fの画像番号を、縦軸はMSEの値を示している。図11より、実施例1の方法によって再構成した場合、比較例1と比較して、いずれの分光分離画像FもMSEの値が小さく、正解画像に近いことが確認できる。MSEの値はおおよそ180~200程度であり、正解画像にほぼ一致していることがわかる。一方、従来の方法である比較例1では、MSEの値が全体的に高く、正解画像と比べて大きく劣化していることがわかる。実施例1と比較例1とのMSEの差は最小で1.7倍、最大で2.5倍であり、本開示の構成の有効性が認められる。これは、実施例1では、比較例1と異なり、撮像画像Gに像シフトが発生せず、撮像画像Gの段階で解像度が高いためである。また、本開示の構成ではリレー光学系を必要としないため、大幅な小型化が実現できる。さらに、プリズム等を使用する分光シフト方式では光源のような高強度の
被写体を撮影した時にライン上に広範囲に亘って飽和が生じる可能性がある。これに対して、画像シフトを行わない本開示の実施形態では飽和の範囲が限定的であり、有利である。
(実施の形態4)
本開示の実施の形態4について、図12、図13A、図13B、図13C、図13D、図13E、図14Aおよび図14Bを参照して説明する。図12は、実施の形態4に係る分光システムS1を示す図である。本明細書における「分光システム」の定義は後述する。図12に示すように、本実施の形態の分光システムS1は、撮像装置D4と、信号処理回路Prとを含む。
[撮像装置D4]
本実施の形態の撮像装置D4は、狭帯域符号化装置200と、撮像レンズ102と、空間変調符号化素子CSと、撮像素子Sと、を備える。空間変調符号化素子CSは、本開示の第1符号化素子に相当する。
[狭帯域符号化装置200]
狭帯域符号化装置200は、対象物Oから入射する光束Rの光路上に配置される。本実施の形態では、狭帯域符号化装置200は対象物Oと撮像レンズ102の間に配置されているが、撮像レンズ102と後述する空間変調符号化素子CSとの間に配置してもよい。狭帯域符号化装置200は、少なくとも1つの狭帯域符号化素子を有する。狭帯域符号化素子は、本開示の第2符号化素子に相当する。
[狭帯域符号化装置200が2つの狭帯域符号化素子を有する形態]
狭帯域符号化装置200は、狭帯域符号化素子C1、および狭帯域符号化素子C2を備える。さらに、狭帯域符号化装置200は、狭帯域符号化素子C1および狭帯域符号化素子C2を撮影ごとに切り替える機構を備える。図12の例では、狭帯域符号化装置200は、2つの狭帯域符号化素子を、撮像装置D4の光軸に対して垂直な方向に並べて保持する機構を有する。さらに、狭帯域符号化装置200は、2つの狭帯域符号化素子を当該垂直な方向に移動させるスライド機構を有する。2つの狭帯域符号化素子を切り替える機構はこの例に限らない。例えば、狭帯域符号化装置200が回転軸を備えていてもよい。この場合、2つの狭帯域符号化素子が回転軸から等距離に配置される。狭帯域符号化装置200が回転すると、光路上に配置される狭帯域符号化素子が切り替わる。
狭帯域符号化素子C1および狭帯域符号化素子C2は、それぞれ空間方向に一様な光透過率を有する。ここで「一様」とは、光透過率(または光透過率の波長分布)が均一であるか、または、その誤差が10%以内であることを意味する。
また、狭帯域符号化素子C1および狭帯域符号化素子C2はそれぞれ、光透過率の波長分布において、波長方向に複数の透光領域及び複数の遮光領域を有する。以下に図13Aおよび13Bを用いて詳細に説明する。
図13Aおよび13Bは、実施の形態4の狭帯域符号化素子C1の分光透過率の例を示す図である。ここで、「分光透過率」とは、光透過率の波長分布を意味する。分光透過率は、入射光の波長をλとして、関数T(λ)で表される。分光透過率T(λ)は、0以上1以下の値を取り得る。図13Aおよび13Bに示す例では、狭帯域符号化素子C1の分光透過率は、波長方向に周期的に変化する。分光透過率の1つの周期は、光透過率が略1でほぼ一定である透過波長領域Tと、光透過率が略0でほぼ一定である遮光波長領域Qとを1つずつ含む。本明細書において、透過波長領域Tとは、光透過率が0.5以上となる波長領域であり、かつその領域での平均透過率が略1となるものと定義する。同様に、遮
光波長領域Qとは光透過率が0.5未満となる波長領域であり、かつその領域での平均透過率が略0となるものと定義する。略1とは0.8以上の値を指し、略0とは0.2以下の値を指す。狭帯域符号化素子の分光透過率は、バイナリー分布が望ましい。バイナリー分布とは、透過波長領域Tにおいて透過率が略1で一定となり、遮光波長領域Qにおいて略0で一定となる分布である。しかし、透過波長領域Tにおいて透過率の平均値が略1であり、遮光波長領域Qにおいて透過率の平均値が略0となっていれば、必ずしもバイナリー分布でなくてもよい。以降で説明する狭帯域符号化素子においても同様である。
図13Aおよび13Bに示す分光透過率の例では、透過波長領域Tと遮光波長領域Qの波長幅は等しく設定されているが、この例に限定されない。図13Cから13Eに示すように、透過波長領域Tの波長幅が遮光波長領域Qの波長幅よりも小さくなっていてもよい。また、分光透過率が周期的に変化するものでなくてもよい。つまり、分光透過率における複数の透過波長領域Tは、互いに異なる波長幅を有していてもよい。また、分光透過率における複数の遮光波長領域Qは互いに異なる波長幅を有していてもよい。
図14Aは、対象波長域Wと、それに含まれる複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnとの関係を示す図である。対象波長域Wとは、撮像装置D4が撮影対象とする波長域である。複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnは、撮像装置D4が画像信号に使用する波長帯域である。また、後述する信号処理回路Prは、波長帯域W1、w2、・・・、Wnごとに分離したn個の分光分離画像F1、F2、・・・、Fnを再構成する。
対象波長域Wは、用途によって様々な範囲に設定され得る。例えば可視光の波長域(約400nm~約700nm)、近赤外線の波長域(約700nm~約2500nm)、近紫外線の波長域(約10nm~約400nm)、その他、中赤外、遠赤外、あるいは、テラヘルツ波、ミリ波等の電波域であり得る。このように、撮像装置D4で使用される波長域は可視光域とは限らない。本明細書では、可視光に限らず、近紫外線、近赤外線、および電波などの非可視光も便宜上「光」と称する。
本実施の形態では、図14Aに示されるように、nを4以上の任意の整数として、対象波長域Wをn等分したそれぞれを波長帯域W1、W2、・・・、Wnとしている。ただし対象波長域Wに含まれる複数の波長帯域の設定はこれに限定されるものではない。例えば、波長帯域によってその幅(帯域幅)を不均一にしてもよい。図14Bに示すように、波長帯域によって帯域幅が異なっていたり、隣接する2つの波長帯域の間にギャップがあってもよい。このように、複数の波長帯域は、互いに重複する部分が存在しなければよく、その決め方は任意である。波長帯域の数nは、例えば4から100程度であるが、用途によっては100を超えていてもよい。
本実施の形態においては、狭帯域符号化素子C1および狭帯域符号化素子C2の透過波長領域Tの幅は、波長帯域W1、W2、・・・、Wnの幅と略一致するように設計される。各波長帯域の幅は、例えば、20nmである。各波長帯域の幅は、10nm、5nm、または1nmであってもよい。
以上より、狭帯域符号化素子C1は、光透過率の波長分布において、波長方向に複数の透光領域(透過波長領域T)と複数の遮光領域(遮光波長領域Q)とを有する。複数の透光領域は、それぞれ波長帯域W1、W2、・・・、Wnのいずれかに相当する。
図13Bは狭帯域符号化素子C2の分光透過率を示している。図13Bに示す分光透過率は、図13Aに示した狭帯域符号化素子C1の分光透過率における透過波長領域Tと遮光波長領域Qの分布を逆転したものとなっている。そのため、狭帯域符号化素子C1の分光透過率における透過波長領域Tと、狭帯域符号化素子C2の分光透過率における透過波
長領域Tとを併せた波長領域は、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnの全てをカバーする。
以上より、狭帯域符号化素子C1と狭帯域符号化素子C2とは、各々が有する複数の透光領域(透過波長領域T)が互いに異なる波長帯域である。また、複数の透光領域は、それぞれ波長帯域W1、W2、・・・、Wnのいずれかに相当する。
[狭帯域符号化装置200が3つの狭帯域符号化素子を備える形態]
狭帯域符号化装置200は、狭帯域符号化素子C11、狭帯域符号化素子C12、及び狭帯域符号化素子C13の3つの狭帯域符号化素子を備えていてもよい。狭帯域符号化素子C11、C12、及びC13がそれぞれ有する分光透過率の例を、図13C、13D、および13Eに示す。図13C、13D、および13Eに示す3種類の分光透過率は、いずれも波長方向に周期的な分布を有し、空間方向に一様な分布を有する。また、いずれの分光透過率も1つの周期が、透過波長領域Tと遮光波長領域Qとを1つずつ含む。
図13Dに示す狭帯域符号化素子C12の分光透過率は、図13Cに示す狭帯域符号化素子C11の分光透過率を、透過波長領域Tの幅だけ波長が増加する方向にシフトさせたものとなっている。同様に、図13Eに示す狭帯域符号化素子C13の分光透過率は、図13Cに示す狭帯域符号化素子C11の分光透過率を、透過波長領域Tの幅の2倍、波長が増加する方向にシフトさせたものとなっている。そのため、狭帯域符号化素子C11、狭帯域符号化素子C12、及び狭帯域符号化素子C13の分光透過率における透過波長領域Tをすべて併せた波長領域は、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnの全てをカバーする。
図13C、13D、および13Eに示す分光透過率の例では、透過波長領域Tは遮光波長領域Qの半分の幅を有するが、この例に限らない。同様に、3種類の分光透過率は、互いに等しい幅の透過波長領域Tを有するが、この例に限らない。また、3種類の分光透過率は、互いに等しい幅の遮光波長領域Qを有するが、この例に限らない。また、分光透過率が周期的に変化しているがこの例に限らない。言い換えると、1種類の分光透過率における複数の透過波長領域Tは、互いに異なる波長幅を有していてもよい。また、1種類の分光透過率における複数の遮光波長領域Qは互いに異なる波長幅を有していてもよい。以上より、狭帯域符号化素子C11、狭帯域符号化素子C12、及び狭帯域符号化素子C13の分光透過率は、当該3種類の分光透過率における透過波長領域Tをすべて併せて対象波長域Wをカバーするものであればよい。
[狭帯域符号化装置200のその他の形態]
狭帯域符号化装置200は、4つ以上の狭帯域符号化素子を備えていてもよい。その場合、それぞれの狭帯域符号化素子の分光透過率における透過波長領域Tを併せた波長領域は、波長帯域W1、W2、・・・、Wnの全てをカバーするように、それぞれの狭帯域符号化素子を設計する。
また、図15に示すように、撮像装置D4は、狭帯域符号化装置200の代わりに、狭帯域符号化素子CN一つのみを備えていてもよい。この場合、撮像装置D4は、狭帯域符号化素子CNの分光透過率における透過波長領域Tに相当する波長帯域を画像信号に使用する。言い換えると、撮像装置D4は、狭帯域符号化素子CNの分光透過率における遮光波長領域Qに相当する波長帯域を画像信号に使用しない。したがって、ひとつの狭帯域符号化素子CNの分光透過率における透過波長領域Tによって、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnの全てをカバーする。
[狭帯域符号化素子の構造]
狭帯域符号化素子は、多層膜、有機材料、回折格子構造、金属を含む微細構造の少なくとも1つを用いて構成され得る。多層膜を用いる場合、例えば、誘電体多層膜または金属層を含む多層膜が用いられ得る。多層膜を用いることにより、透過波長領域Tと遮光波長領域Qとの境界における透過率のシャープな立ち上がりおよび立ち下がりを実現できる。有機材料を用いた構成は、含有する顔料または染料が異なる材料を積層させたりすることによって実現され得る。回折格子構造を用いた構成は、回折ピッチまたは深さを調整した回折構造を設けることによって実現され得る。金属を含む微細構造を用いる場合は、プラズモン効果による分光を利用して作製され得る。
[撮像レンズ102]
撮像レンズ102は、対象物Oからの光を集光し、撮像素子Sの撮像面上に像を形成する。撮像レンズ102の代わりに、複数の撮像レンズを組み合わせた結像光学系を用いてもよい。
[空間変調符号化素子CS]
空間変調符号化素子CSは、対象物Oから入射する光の光路上に配置される。
空間変調符号化素子CSは、2次元に配列された複数の領域を有する。例えば、空間変調符号化素子CSは、図16Aに示すように、格子状に区分けされた複数の領域Aを有している。各領域Aは、透光性の部材で形成される。図16Aでは、6行8列に配列された48個の矩形の領域Aが例示されているが、実際の用途では、これよりも多くの領域Aが設けられ得る。その数は、一般的な撮像素子またはイメージセンサの画素数であり、例えば数十万から数千万と同程度であり得る。本実施の形態では、空間変調符号化素子CSは、撮像素子Sの直上に配置されている。また、複数の領域Aの相互の間隔は、撮像素子の画素ピッチと略一致するように設けられている。これにより、ある領域Aを透過した光は、撮像素子Sの対応する1つの画素にのみ入射する。また、空間変調符号化素子CSを撮像素子Sから離して配置してもよい。この場合、撮像素子Sとの距離に応じて領域Aの間隔を細かくしてもよい。これにより、空間変調符号化素子CSのある領域Aを透過した光を、撮像素子Sの対応する1つの画素にのみ入射させることができる。
図16Bは、空間変調符号化素子CSにおける光透過率の空間分布の一例を示している。光透過率は、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnごとに示している。この図において、各領域Aの灰色の濃淡の違いは、光透過率の違いを表している。灰色が淡い領域ほど光透過率が高く、濃い領域ほど光透過率が低い。空間変調符号化素子CSは、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnごとに、略1の光透過率を有する複数の領域Aと、略0の光透過率を有する複数の領域Aとを有する。また、略0と略1の間の第3の光透過率を有する複数の領域Aを有してもよい。空間変調符号化素子CSは、複数の波長帯域W1、W2、・・・、Wnごとに、複数の透光領域と複数の遮光領域とが空間的に配置されて構成される。透光領域とは光透過率が0.5以上であって、例えば、略1、または第3の光透過率を有する領域Aである。遮光領域とは光透過率が0.5未満、例えば略0の光透過率を有する領域Aである。図16Bに示されるように、複数の透光領域及び複数の遮光領域の空間分布は波長帯域W1、W2、・・・、Wnに応じて異なる。
以上より、空間変調符号化素子CSは、光透過率の空間分布においてその空間方向に複数の透光領域(領域A)と複数の遮光領域(領域A)とを有する。また、複数の透光領域及び複数の遮光領域の空間分布が波長帯域W1、W2、・・・、Wnに応じて異なる。
図16Cおよび図16Dは、本実施の形態における空間変調符号化素子CSが有する複数の領域Aにおいて代表的な2つの領域A1、領域A2の分光透過率を示している。
空間変調符号化素子CSにおける各領域Aの分光透過率は、図13Aおよび図13Bで示した狭帯域符号化素子の分光透過率と比較して、波長方向の分解能が低い。以下に各領域Aの分光透過率の分解能について領域A1を例として具体的に説明する。
図17は空間変調符号化素子CSの領域A1における分光透過率を示す。図17に示す分光透過率は、対象波長域W内での光透過率の最大値が1、最小値が0となるように正規化されている。図17に示される分光透過率には、極大値M1、M2、M3、M4、M5および極小値m1、m2、m3、m4、m5、m6が存在する。図17からわかるように、極大値M1、M3、M4、およびM5は0.5以上である。例えば、極大値M1は、極小値m1及び極小値m2に隣接している。波長λ1において、透過率が極小値m1と極大値M1との平均値をとる。また、波長λ2において、透過率が極小値m2と極大値M1との平均値をとる。このとき、波長λ2-λ1に相当する波長幅が、波長方向の分解能に相当する。空間変調符号化素子CSにおいて、分解能に相当する波長幅の少なくとも一部は、波長帯域W1、W2、・・・、Wnの幅よりも大きくなる。一方、上述したとおり、狭帯域符号化素子は、波長帯域W1、W2、・・・、Wnの幅程度の透過波長領域Tを有する。透過波長領域Tは、狭帯域符号化素子の分解能に相当する。したがって、図17に示す空間変調符号化素子CSの領域A1における分光透過率は、狭帯域符号化素子の分光透過率と比較して、波長方向の分解能が低いと言える。
次に、各領域Aの分光透過率が満たす条件の一例を説明する。その際、上述した狭帯域符号化素子の分光透過率と、空間変調符号化素子の領域Aの分光透過率とを重ね合わせた分光透過率の特性(以降、単に「重ね合わせた分光透過率」と称して説明する場合がある。)を用いて説明する。
図18Aは狭帯域符号化素子の分光透過率を示し、図18Bは空間変調符号化素子CSのある領域A1における分光透過率を示す。また、図18Cは図18Aおよび図18Bの分光透過率を重ね合わせたグラフを示しており、透光領域が重なる部分を網掛けで示している。この網掛け部分は、対象波長域Wにおいて一様な強度分布を有する光が、狭帯域符号化素子および空間変調符号化素子CSの領域A1に入射した際に、透過する光の波長および強度を表している。ここで、各波長帯域W1、W2、・・・、Wnにおける透過率の平均値は、透過率を各波長帯域の範囲で積分したものを、その波長帯域の幅で除算することによって得られるものとする。本開示では、この方法によって得られた各波長帯域における透過率の平均値を、その波長帯域の平均透過率と称する。
図19は、図18Cの分光透過率において網掛けで示した箇所のみを示した図である。本実施の形態では、図19に示す分光透過率において、波長帯域W1、W2、・・・、Wnのうち2つ以上の波長帯域において平均透過率が0.5以上となる。例えば図19において、波長帯域W4、波長帯域Wn-1などにおいて平均透過率が0.5以上である。
領域A1と異なる別の領域Aの分光透過率と狭帯域符号化素子の分光透過率とを重ね合わせた場合、図19とは異なる分光透過率を有する。具体的には、平均透過率が0.5以上となる波長帯域の組み合わせ、または数が互いに異なる。
以上より、各領域Aの分光透過率は、重ね合わせた分光透過率が、2つ以上の波長帯域において平均透過率が0.5以上となり、かつ互いに異なるような分光透過率を有していればよい。
また、各領域Aの分光透過率は、以下で説明する条件1または条件2を満たしてもよい。
空間変調符号化素子CSのi行目(1≦i≦6)において、行方向に一列に並んだ領域Aの集合Xについて考える。集合Xの各領域Aにおいて、波長帯域Wj(1≦j≦n)における重ね合わせた平均透過率の値を要素とする、1行8列ベクトルAi(j)を考える。「重ね合わせた平均透過率」とは、各領域Aの分光透過率と、狭帯域符号化素子の分光透過率とを重ね合わせた分光透過率における平均透過率を指す。本実施の形態では、このベクトルAi(j)が、任意のjについて、つまり任意の波長帯域間で互いに独立である(条件1)。例えば、1行目の領域Aの集合X1において、波長帯域W1における重ね合わせた平均透過率の値を要素とするベクトルはA1(1)と表される。同様に1行目の領域Aの集合X1において、波長帯域W2における重ね合わせた平均透過率の値を要素とするベクトルはA1(2)と表される。ベクトルA1(1)とベクトルA1(2)とは互いに独立である。波長帯域W1、W2、・・・、Wnのうちすべての波長帯域の組み合わせにおいて独立であってもよい。また、波長帯域W1、W2、・・・、Wnのうち一部の波長域間で独立であってもよい。
また、本実施の形態では、ベクトルAi(j)が、任意のiについて、つまり任意の行に対して互いに独立である(条件2)。例えば、波長帯域W1において、1行目の領域Aの集合X1における重ね合わせた平均透過率の値を要素とするベクトルは、A1(1)と表される。同様に、波長帯域W1において、2行目の領域Aの集合X2における重ね合わせた平均透過率の値を要素とするベクトルは、A2(1)と表される。ベクトルA1(1)とベクトルA2(1)とは互いに独立である。全ての行の組み合わせにおいて独立であってもよい。一部の行の組み合わせにおいて独立であってもよい。
バイナリースケールの分光透過率を採用してもよい。バイナリースケールの分光透過率とは、平均透過率が略1または略0のいずれかの値をとるものと定義する。
バイナリースケールの分光透過率の一例を図20Aに示す。図20Aに示す分光透過率は、全ての波長帯域について、0または1のいずれかの値をとっている。一方、図20Bに示すような分光透過率も、バイナリースケールの分光透過率である。
図21Aおよび図21Bは、本実施の形態における空間変調符号化素子CSの別の構成例を示す図である。図16Aに示す例より多数の領域Aを有する構成を示している。図21Aは、各領域Aがバイナリースケールの分光透過率を有する空間変調符号化素子CSの透過率分布の例を示す図である。図21Aでは、空間変調符号化素子CSの一部分を四角く囲って拡大し、その部分における波長帯域ごとの透過率分布を示している。図21Aにおいて、黒い部分は光透過率が略0である遮光領域を示している。また、白い部分は光透過率が略1である透光領域を示している。図21Aに示す例では、遮光領域の数と透光領域の数との比率は1:1であるが、このような比率に限定されない。例えば、(透光領域の数):(遮光領域の数)=1:9のような一方に偏りのある分布であってもよい。
図21Bは、各領域Aが連続的な分光透過率を有する空間変調符号化素子CSの例を示す図である。
図21Aおよび図21Bに示すように、空間変調符号化素子CSは、波長帯域W1、W2、・・・、Wnごとに異なる透過率空間分布をもつ。ただし、複数の領域を含む一部分における所定の波長帯域の透過率空間分布が、他の部分における当該波長帯域の透過率空間分布と一致してもよい。
空間変調符号化素子CSの全領域Aのうちの一部を、透明な領域としてもよい。本明細書における透明な領域とは、対象波長域Wに含まれる全ての波長帯域W1~Wnの光を同程度の高い透過率(例えば0.8以上)で透過させる領域を指す。例えば全領域Aの半数
を透明領域として、市松模様状に配置してもよい。すなわち、空間変調符号化素子CSにおける複数の領域Aの2つの配列方向(図16Aにおける横方向および縦方向)において、分光透過率が波長帯域によって異なる領域Aと、透明な領域とが交互に配列され得る。
空間変調符号化素子CSは、多層膜、有機材料、回折格子構造、金属を含む微細構造の少なくとも1つを用いて構成され得る。多層膜を用いる場合、例えば、誘電体多層膜または金属層を含む多層膜が用いられ得る。この場合、セルごとに各多層膜の厚さ、材料、および積層順序の少なくとも1つが異なるように形成される。これにより、領域Aごとに異なる分光特性を実現できる。各領域Aがバイナリースケールの分光透過率を有する場合には、多層膜を用いることにより、分光透過率におけるシャープな立ち上がりおよび立ち下がりを実現できる。有機材料を用いた構成は、各領域Aによって含有する顔料または染料が異なるようにしたり、異種の材料を積層させたりすることによって実現され得る。回折格子構造を用いた構成は、領域Aごとに異なる回折ピッチまたは深さの回折構造を設けることによって実現され得る。金属を含む微細構造を用いる場合は、プラズモン効果による分光を利用して作製され得る。
[撮像素子S]
撮像素子Sは、2次元に配列された複数の光検出セル(本明細書において、「画素」とも呼ぶ。)を有するモノクロタイプの撮像素子である。撮像素子Sは、例えばCCD(Charge-Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、赤外線アレイセンサ、テラヘルツアレイセンサ、ミリ波アレイセンサであり得る。光検出セルは、例えばフォトダイオードによって構成され得る。撮像素子Sとして、例えば、R/G/B、R/G/B/IR、またはR/G/B/Wのフィルタを有するカラータイプの撮像素子を用いてもよい。カラータイプの撮像素子を使用することで、波長に関する情報量を増やすことができ、分光分離画像Fの再構成の精度を向上させることができる。
[信号処理回路Pr]
信号処理回路Prは、撮像素子Sによって取得された撮影画像Gに基づいて、分光分離画像Fを推定する。
信号処理回路Prは、撮像素子Sから出力された画像信号を処理する回路である。信号処理回路Prは、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等のプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)もしくは画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現され得る。そのようなコンピュータプログラムは、メモリなどの記録媒体に格納され、CPUがそのプログラムを実行することにより、後述する演算処理を実行できる。信号処理回路Prは、撮像装置D4に有線または無線で電気的に接続された信号処理装置の構成要素であってもよい。そのような構成では、撮像装置D4に電気的に接続されたパーソナルコンピュータ(PC)、またはインターネット上のクラウドサーバなどの信号処理装置が、信号処理回路Prを有する。本明細書では、そのような信号処理装置と撮像装置とを含むシステムを、「分光システム」と称する。信号処理回路Prは、狭帯域符号化素子、および空間変調符号化素子CSの透過率分布に関する情報を、設計データとして、または実測キャリブレーションによって事前に取得し、後述する演算・処理に利用する。
実測キャリブレーションについて説明する。例えば、対象波長域が可視光全域である場合は、被写体として白板を対象物Oの位置に設置し、対象物Oからの白色光を、狭帯域符号化素子、または空間変調符号化素子CSに透過させる。これにより、撮像素子S上に狭帯域符号化素子、または空間変調符号化素子CSの像を形成させることができる。この狭
帯域符号化素子、または空間変調符号化素子CSの像から、全ての可視光の波長成分を均等に含む白色光を各領域Aがどのように変調するかを、つまり各領域Aの分光透過率を算出することができる。また、帯域通過フィルタによって波長帯域が限定された光を用いてもよい。複数の帯域通過フィルタを交換して行う複数回の撮影によって、所望のすべての波長帯域の透過率データを取得してもよい。いくつかの波長帯域を選択して測定し、それ以外の波長帯域については測定されたデータの補間によって算出してもよい。
[その他の構成]
撮像装置D4は、帯域通過フィルタをさらに備えていてもよい。帯域通過フィルタは、対象物Oからの反射光のうち対象波長域Wのみを透過させる。これにより、狭帯域符号化素子または空間変調符号化素子では残存してしまう対象波長域W外の波長域の成分を取り除くことができる。これにより、所望の対象波長域Wに限定した分離精度の高い分光分離画像Fを得ることができる。
[動作]
以下、本実施の形態における撮像装置D4の動作を、図22を用いて説明する。図22は、本実施の形態における分光システムS1を用いた分光方法の概要を示すフローチャートである。
まず、ステップ1Xにおいて、狭帯域符号化素子C1を対象物Oの光路上に設置する。
次に、ステップ1Aにおいて、狭帯域符号化素子C1と空間変調符号化素子CSの両符号化素子を用いて入射光の強度を波長帯域ごとに空間的に変調させる。この過程を本明細書では「符号化」と称する。具体的には、まず対象物Oからの光束Rが、狭帯域符号化素子C1に入射する。狭帯域符号化素子C1に入射する光のうち、透過波長領域T内の波長を有する光のみが狭帯域符号化素子C1を透過し、遮光波長領域Q内の波長を有する光は遮光される。よって光束Rは波長に関して離散的な複数の強度ピークを有する光に変調され、撮像レンズ102によって集結される。撮像レンズ102によって集結された光は、空間変調符号化素子CSに入射する。狭帯域符号化素子C1によって変調された光は、空間変調符号化素子CSの複数の領域Aにそれぞれ入射する。各領域Aは、入射光に含まれる複数のピーク強度を有する光を各領域Aの分光透過率によって変調し出力する。上述のとおり、狭帯域符号化素子C1及び空間変調符号化素子CSは、対象波長域Wに対して、図20Aまたは図20Bに示す分光透過率特性を有する。したがって、狭帯域符号化素子C1及び空間変調符号化素子CSは、分離すべき波長帯域W1、W2、・・・、Wnの少なくとも2つの波長帯域の光を重畳して撮像素子Sに出力する。これは、波長方向に圧縮されたデータを取得していることを意味する。
次に、ステップ1Bにおいて、狭帯域符号化素子C1および空間変調符号化素子CSを透過して撮像素子Sに入射した光から撮影画像Gを生成する。具体的には、撮像素子Sの複数の画素に入射した光が、複数の電気信号(画素信号)に変換される。変換された複数の画素信号の集合が撮影画像Gである。図12に撮影画像Gの例を示す。図12に示す撮影画像Gに含まれている複数の黒い点は、符号化によって生じた低輝度の部分を模式的に表している。なお、図12に示す黒い点の数および配置は、現実の数および配置を反映していない。実際には、図12に示す数よりも多くの低輝度の部分が生じ得る。
その後、分岐Yにおいて、すべての狭帯域符号化素子を用いて撮影を行ったかを判断する。すべての狭帯域符号化素子を用いて撮影を行っていなければ、ステップ1Dへ進む。
ステップ1Dにおいて、狭帯域符号化素子C1を狭帯域符号化素子C2に交換する。その後、交換した狭帯域符号化素子C2を用いて、ステップ1X、ステップ1Aおよびステ
ップ1Bを再度行う。
狭帯域符号化装置が狭帯域符号化素子を3つ以上備える場合は、全ての狭帯域符号化素子による撮影が終了するまで、ステップ1D、ステップ1X、ステップ1A、ステップ1Bのサイクルを繰り返す。狭帯域符号化装置が狭帯域符号化素子を1つだけ備える場合は、ステップ1X、ステップ1Aおよびステップ1Bを一度ずつ行う。
すべての狭帯域符号化素子による撮影が完了したら、ステップ1Cに進む。
続くステップ1Cにおいて、信号処理回路Prは、撮像素子Sによって取得された撮影画像Gと、狭帯域符号化素子の光透過率の波長分布情報と、空間変調符号化素子CSの光透過率の空間分布情報及び波長分布情報とに基づいて、分光分離画像Fを生成する。
ステップ1Cにおける分光分離画像Fの生成方法を具体的に説明する。
分光分離画像Fのデータを分光分離画像fと表し、取得される撮影画像Gのデータを撮影画像gと表す。撮影画像gは、分光分離画像fを含む以下の(数5)で表すことができる。
Figure 2023076553000008
(数5)では、分光分離画像fは各波長帯域W1、W2、・・、Wnの画像データf1、f2、・・・、fnを要素とするベクトルとして表記している。また、撮影画像gは、撮影ごとに得られる画像データg1、g2、・・・、gnを要素とするベクトルとして表記している。以降、それぞれ「分光分離画像ベクトルf」、「撮影画像ベクトルg」として説明する場合がある。
求めるべき分光分離画像Fのx方向の画素数をpx、y方向の画素数をpyとすると、各波長帯域の画像データf1、f2、・・・、fnの各々は、px×py画素の2次元データを有する。分光分離画像fは要素数px×py×nの3次元データを有する。
一方、撮影画像gは、m個の狭帯域符号化素子を交換してm回撮影すると、要素数px×py×mの3次元データを有する。
(数5)において、行列Hは、分光分離画像ベクトルfの各要素である各波長帯域の画像データf1、f2、・・・、fnを波長帯域ごとに異なる符号化情報で符号化し、それらを加算する変換を表す。行列Hは、px×py×m行px×py×n列の行列である。その行列要素hi(wj)(1≦i≦m、1≦j≦n)は、撮影時間Tiの撮影に用いた狭帯域符号化素子Ciにおける波長帯域wjの光透過率と空間変調符号化素子CSの光透過率空間分布の積で表される。本実施の形態においては、狭帯域符号化装置200が、図13Aおよび図13Bに示すような2つの狭帯域符号化素子を備える場合、例えば、行列要素h1(wj)はjが奇数のとき0となり、行列要素h2(wj)はjが偶数のときに0となる。狭帯域符号化装置200が3つ以上の狭帯域符号化素子を備える場合も同様に、行列Hは規則的に0成分を含む。行列Hが0成分を多く含むと、演算過程において考慮
すべき未知数の数が減少する。
ここで、各波長帯域W1、W2、・・、Wnの画像データf1、f2、・・・、fnは、それぞれpx×py個の要素を有するデータであるため、右辺においてベクトル表記した分光分離画像fは、厳密にはpx×py×n行1列の1次元ベクトルに相当する。このとき、撮影画像gは、px×py×m行1列の1次元ベクトルに変換して表すことができる。
さて、撮影画像ベクトルgと行列Hが与えられれば、(数5)の逆問題を解くことで分光分離画像ベクトルfを算出することができそうである。しかし、m<nであり、求める分光分離画像ベクトルfの要素数px×py×nが、取得した撮影画像ベクトルgの要素数px×py×mよりも多い。したがって、この問題は不良設定問題となり、このままでは解くことができない。そこで、本実施の形態の信号処理回路Prは、分光分離画像fに含まれる画像の冗長性を利用し、圧縮センシングの手法を用いて解を求める。具体的には、以下の(数6)の式を解くことにより、求める分光分離画像ベクトルfを推定する。
Figure 2023076553000009
ここで、推定画像ベクトルf’は、推定された分光分離画像ベクトルfを表す。信号処理回路Prは、再帰的な反復演算によって解を収束させ、最終的な解として推定画像ベクトルf’を算出することができる。
(数6)は、右辺の括弧内の第1項と第2項との和を最小化する推定画像ベクトルf’を求めることを意味する。上式の括弧内の第1項は、推定結果Hfと撮影画像ベクトルgとのずれ量、いわゆる残差項を表す。本実施の形態では、取得した撮影画像ベクトルgと、推定過程の分光分離画像ベクトルfを行列Hによってシステム変換した行列Hfとの差分の二乗和を残差項としている。絶対値あるいは二乗和平方根等を残差項としてもよい。括弧内の第2項は、正則化項である。第2項のΦ(f)は、分光分離画像ベクトルfの正則化における制約条件であり、推定データのスパース情報を反映した関数である。働きとしては、推定データを滑らかまたは安定にする効果がある。正則化項は、例えば、分光分離画像ベクトルfの離散的コサイン変換(DCT)、ウェーブレット変換、フーリエ変換、またはトータルバリエーション(TV)等によって表され得る。例えば、トータルバリエーションを使用した場合、撮影画像ベクトルgのノイズの影響を抑えた安定した推測データを取得できる。それぞれの正則化項の空間における対象物Oのスパース性は、対象物Oのテキスチャによって異なる。対象物Oのテキスチャが正則化項の空間においてよりスパースになる正則化項を選んでもよい。あるいは、複数の正則化項を演算に含んでもよい。第2項におけるτは、重み係数であり、この値が大きいほど冗長的なデータの削減量が多くなり、つまり圧縮する割合が高まり、小さいほど解への収束性が弱くなる。重み係数τは、分光分離画像ベクトルfがある程度収束し、かつ、過圧縮にならない適度な値に設定される。
なお、ここでは(数6)に示す圧縮センシングを用いた演算例を示したが、その他の方法を用いて解いてもよい。例えば、最尤推定法またはベイズ推定法などの他の統計的方法を用いることができる。
(実施の形態4の効果)
狭帯域符号化素子は、波長方向に複数の透光領域(透過波長領域T)と複数の遮光領域(遮光波長領域Q)とを有する。これにより、狭帯域符号化素子、および空間変調符号化
素子CSによって符号化されて撮像素子に入力される光は、透過波長領域Tに相当する複数の波長帯域において、離散的な強度を有する。そのため、撮像素子に入射した光から分光分離画像Fを再構成する演算において、考慮すべき未知数の数を減少させる効果がある。このことは、波長分解能を向上させることと同義である。それによって、演算の精度が上昇するので、多波長かつ高解像度な分光分離画像Fを得ることができる。
また、空間変調符号化素子のある領域Aを透過した光を、撮像素子の対応する1つの画素にのみ入射させることにより、撮像素子の1つの画素に2つ以上の領域Aからの光が入射しない。このことにより、信号処理回路Prによる演算が容易になる。
また、狭帯域符号化素子が波長方向に透過波長領域Tと遮光波長領域Qとを周期的に有する場合は、一定間隔で透過波長領域Tが必ず存在することになる。つまり、対象波長域Wにおいてより広い範囲に透過波長領域Tが存在することになる。したがって、一つの狭帯域符号化素子を用いてより多くの波長帯域における分光分離画像を得ることができる。
また、狭帯域符号化素子を複数用いる場合、一つの狭帯域符号化素子を用いた場合と比較して、撮影回数は増えるものの、すべての撮影画像に含まれる波長帯域数が増加する。したがって、多波長の分光分離画像Fを得ることができる。
用いる狭帯域符号化素子の数を増やすと、例えば対象波長域Wおよび波長帯域数が同じ場合では、一つの狭帯域符号化素子における透過波長領域Tの数を減少させることができる。言い換えると、一つの狭帯域符号化素子における遮光波長領域Qの範囲を広げることができる。そのため、信号処理回路Prによって分光分離画像を得る演算過程において、行列Hにおける未知数が減少し、計算が容易になる。これにより、分光分離画像の再構成精度を高めることができる。
また、一つの狭帯域符号化素子における透過波長領域Tの数に限りがあることもある。その場合、対象波長域Wが等しい場合では、用いる狭帯域符号化素子の数を増やすことによって、全体として、透過波長領域Tの数を増やすことができる。つまり、対象波長域Wを多くの透過波長領域Tに分割することができるので、波長帯域の狭帯域化が可能になる。これにより、より狭帯域における観察が可能になる。
また、本実施の形態では空間変調符号化素子において、光透過率の空間分布(複数の透光領域及び複数の遮光領域の空間分布)が波長依存性を有する。したがって、空間変調符号化素子によって波長ごとに光の符号化を行うことができる。ゆえに、プリズムなどの分光素子を別個に用いる必要がなく、一般的な結像レンズを使用すればよいので、撮像装置の小型化を図ることができる。また、分光素子を利用する際のコマ収差の発生についても抑制することができるので、解像度の低下を抑制できる。また、分光素子による波長ごとの画像シフトを行わない本開示では、強い光が撮像装置に入射した場合に生じる画素の飽和の範囲が限定的であり、有利である。
本開示における撮像装置は、例えば、多波長の2次元画像を取得するカメラおよび測定機器に有用である。本開示における撮像装置は、生体・医療・美容向けセンシング、食品の異物・残留農薬検査システム、リモートセンシングシステムおよび車載センシングシステム等にも応用できる。
100 結像光学系
102 撮像レンズ
200 狭帯域符号化装置
O 対象物
G、G1、G2 撮影画像
C 符号化素子
C1、C2 狭帯域符号化素子
CS 空間変調符号化素子
Pr 信号処理回路
S 撮像素子
F、F1、F2、F3、Fi、Fn 分光分離画像
D1、D2、D2’、D4 撮像装置
A、A1、A2 領域
R 光束
T1、T2 撮影時間
W1、W2、Wi、Wn 波長帯域
W 対象波長域

Claims (7)

  1. 多波長画像を生成するための分光システムであって、
    符号化素子と、
    前記符号化素子を通過した光の光路上に配置される撮像素子と、
    前記撮像素子が撮影した画像を基に前記多波長画像を生成する信号処理回路と、を備え、
    前記符号化素子は、波長毎に異なる光透過率の空間分布を有する、
    分光システム。
  2. 前記画像には、少なくとも2つの波長の成分が重畳されている、請求項1に記載の分光システム。
  3. 前記符号化素子は、入射光の波長情報を圧縮する、請求項1に記載の分光システム。
  4. 前記符号化素子は、入射光の強度を波長ごとに変調すると共に前記撮像素子の撮像面上に重畳させる、請求項1に記載の分光システム。
  5. 帯域通過フィルタをさらに備える、請求項1に記載の分光システム。
  6. 前記符号化素子は、2次元に配列された複数の微細構造を有する、請求項1から5の何れかに記載の分光システム。
  7. 多波長画像を生成するための画像生成方法であって、
    波長毎に異なる光透過率の空間分布を有する符号化素子を通過した光を撮像素子により撮像することと、
    前記撮像素子が撮影した画像を基に前記多波長画像を生成することと、
    を含む画像生成方法。
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