JP2016090290A - 撮像装置、分光システム、および分光方法 - Google Patents

撮像装置、分光システム、および分光方法 Download PDF

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Abstract

【課題】多くの波長帯域の成分ごとの画像を取得する。【解決手段】撮像素子D1は、対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子Cと、符号化素子Cを通過した光の光路上に配置され、前記光を波長に応じて分散させる少なくとも1つの分光素子Pと、分光素子Pを通過した光の光路上に配置され、分光素子Pによって分散した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得する撮像素子Sとを備える。分光素子Pは、撮像素子Sの撮像面上に形成される像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように設計されている、【選択図】図1

Description

本開示は、分光画像を取得するための撮像装置、分光システムおよびそれらを用いた分光方法に関する。
各々が狭帯域である多数のバンド(例えば数十バンド以上)のスペクトル情報を活用することで、従来のRGB画像では不可能であった観測物の詳細な物性を把握することができる。この多波長の情報を取得するカメラは、「ハイパースペクトルカメラ」と呼ばれる。ハイパースペクトルカメラは、食品検査、生体検査、医薬品開発、鉱物の成分分析等のあらゆる分野で利用されている。
観測対象の波長を狭帯域に限定して取得された画像の活用例として、特許文献1は、被験体の腫瘍部位と非腫瘍部位との判別を行う装置を開示している。この装置は、励起光の照射により、癌細胞内に蓄積されるプロトポルフィリンIXが635nmの蛍光を発し、フォト−プロトポルフィリンが675nmの蛍光を発することを検出する。これにより、腫瘍部位と非腫瘍部位との識別を行う。
特許文献2は、時間経過に伴って低下する生鮮食品の鮮度を、連続的な多波長の光の反射率特性の情報を取得することで判定する方法を開示している。
多波長の画像または反射率を測定できるハイパースペクトルカメラは、以下の4つの方式に大別できる。
(a)ラインセンサ方式
(b)電子フィルタ方式
(c)フーリエ変換方式
(d)干渉フィルタ方式
(a)ラインセンサ方式では、ライン状のスリットを有する部材を用いて対象物の1次元情報が取得される。スリットを通過した光は、回折格子やプリズムなどの分光素子によって波長に応じて分離される。分離された波長ごとの光は、2次元に配列された複数の画素を有する撮像素子(イメージセンサ)によって検出される。この方式では、一度に測定対象物の1次元情報しか得られないため、カメラ全体あるいは測定対象物をスリット方向に垂直に走査することによって2次元のスペクトル情報を得る。ラインセンサ方式では、高解像度の多波長画像が得られるという利点がある。特許文献3は、ラインセンサ方式のハイパースペクトルカメラの例を開示している。
(b)電子フィルタ方式には、液晶チューナブルフィルタ(Liquid Crystal Tunable Filter:LCTF)を用いる方法と、音響光学素子(Acousto−Optic Tunable Filter:AOTF)を用いる方法とがある。液晶チューナブルフィルタは、リニアポラライザ、複屈折フィルタ、および液晶セルを多段に並べた素子である。電圧制御だけで不要な波長の光を排除し任意の特定波長の光のみを抽出できる。音響光学素子は、圧電素子が接着された音響光学結晶によって構成される。音響光学結晶に電気信号を印加すると、超音波が発生し、結晶内に疎密の定常波が形成される。それによる回折効果によって任意の特定波長の光のみを抽出することができる。この方式は、波長が限定されるが高解像度の動画のデータを取得できるという利点がある。
(c)フーリエ変換方式は、2光束干渉計の原理を用いる。測定対象からの光束はビームスプリッターで分岐され、それぞれの光束が固定ミラーおよび移動ミラーで反射され、再度結合した後、検出器で観測される。移動ミラーの位置を時間的に変動させることにより、光の波長に依存した干渉の強度変化を示すデータを取得することができる。得られたデータをフーリエ変換することにより、スペクトル情報が得られる。フーリエ変換方式の利点は、多波長の情報を同時に取得できることである。
(d)干渉フィルタ方式は、ファブリペロー干渉計の原理を用いた方式である。所定の間隔だけ離れた反射率の高い2つの面を有する光学素子をセンサ上に配置した構成が用いられる。光学素子の2面間の間隔は領域ごとに異なり、所望の波長の光の干渉条件に一致するように決定される。干渉フィルタ方式は、多波長の情報を同時にかつ動画で取得できるという利点がある。
これらの方式以外にも、例えば特許文献4に開示されているように、圧縮センシングを利用した方法もある。特許文献4に開示された装置は、測定対象からの光をプリズム等の第1の分光素子で分光した後、符号化マスクでマーキングし、さらに第2の分光素子によって光線の経路を戻す。これにより、符号化され、かつ波長軸に関して多重化された画像がセンサによって取得される。多重化された画像から圧縮センシングの適用により、多波長の複数枚の画像を再構成することができる。
圧縮センシングとは、少ないサンプル数の取得データから、それよりも多くのデータを復元する技術である。測定対象の2次元座標を(x、y)、波長をλとすると、求めたいデータfは、x、y、λの3次元のデータである。これに対し、センサによって得られる画像データgは、λ軸方向に圧縮および多重化された2次元のデータである。相対的にデータ量が少ない取得画像gから、相対的にデータ量が多いデータfを求める問題は、いわゆる不良設定問題であり、このままでは解くことができない。しかし、一般に、自然画像のデータは冗長性を有しており、それを巧みに利用することでこの不良設定問題を良設定問題に変換することができる。画像の冗長性を活用してデータ量を削減する技術の例に、jpeg圧縮がある。jpeg圧縮は、画像情報を周波数成分に変換し、データの本質的でない部分、例えば、視覚の認識性が低い成分を除去するといった方法が用いられる。圧縮センシングでは、このような技法を演算処理に組入れ、求めたいデータ空間を冗長性で表された空間に変換することで未知数を削減し解を得る。この変換には、例えば、離散的コサイン変換(DCT)、ウェーブレット変換、フーリエ変換、トータルバリエーション(TV)等が使用される。
国際公開第13/002350号 特開2007−108124号公報 特開2011−89895号公報 米国特許第7283231号明細書
従来のハイパースペクトルカメラでは、より多くの波長帯域の情報を取得することが求められていた。
本開示は、従来よりも多くの波長帯域の画像を取得し得る新たな撮像技術を提供する。
本開示の一態様に係る撮像装置は、対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子と、前記符号化素子を通過した光の光路上に配置され、前記光を波長に応じて分散させる少なくとも1つの分光素子と、前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の光路上に配置され、前記分光素子によって分散した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得する撮像素子と、を備える。前記少なくとも1つの分光素子は、前記撮像素子の撮像面上に形成される像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように設計されている。
本開示によれば、従来よりも多くの波長帯域の画像を取得することができる。
本開示の実施の形態1における撮像装置を示す模式図である。 本開示の実施の形態1における符号化素子Cを被写体側から見たときの正面図であり、(a)は、透過・反射の2値の分布を持つ符号化パターンを示し、(b)は、グレースケールの透過率分布を持つ符号化パターンを示している。 撮像素子Sの撮像面上に形成される多重像の一例を示す図である。 撮像素子Sの撮像面上に形成される多重像の他の例を示す図である。 回折光学素子の回折段差の高さおよびピッチを説明するための図である。 本開示の実施の形態1における分光方法の概要を示すフローチャートである。 本開示の実施の形態2における撮像装置を示す模式図である。 本開示の実施の形態3における撮像装置を示す模式図である。 本開示の実施例1による画像生成結果を示す図である。 本開示の比較例1による画像生成結果を示す図である。 本開示の実施例1および4つの比較例のそれぞれにおいて生成した分光分離画像と正解画像との間のMSE(平均二乗誤差)を示す図である。
本開示の実施の形態を説明する前に、本発明者によって見出された知見を説明する。
本発明者の検討によれば、上述した従来のハイパースペクトルカメラには、以下のような課題がある。(a)ラインセンサ方式は、2次元画像を得るためにカメラを走査する必要があり、測定対象の動画撮影には不向きである。(c)フーリエ変換方式も、反射鏡を移動させる必要があるため、動画撮影には不向きである。(b)電子フィルタ方式は、1波長ずつ画像を取得するため、多波長の画像を同時に取得できない。(d)干渉フィルタ方式は、画像を取得できる波長の帯域数と空間分解能とがトレードオフとなるため、多波長画像を取得する場合、空間分解能が犠牲になる。このように、既存のハイパースペクトルカメラには、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つを同時に満足するものは存在しない。
圧縮センシングを利用した構成は、一見すると高解像度、多波長、動画撮影を同時に満たすことができるようにも思われる。しかし、もともと少ないデータから推測に基づいて画像を再構成するため、取得される画像の空間解像度は本来の画像に比べて低下しやすい。特に取得データの圧縮率が高いほどその影響が顕著に現れる。
本発明者は、上記の課題を見出し、これらの課題を解決するための構成を検討した。本発明者は、特に、分光方向が異なる複数の分光素子を組み合わせることにより、従来よりも多くの波長帯域の情報を取得できることに着目した。分光素子の1つを回折光学素子によって構成し、その回折効率を適切に調整することにより、解像度を向上させることもできる。このように、本開示のある実施の形態によれば、従来の圧縮センシングを用いた方法よりも多くの波長帯域の画像を取得することができ、解像度も向上させ得る。これにより、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つの要求を同時に満たすことができる。また、本開示の実施の形態では、x方向、y方向、波長方向の3次元情報のうち波長方向の情報が圧縮される。したがって、2次元データを保有するだけで済み、データ量を抑えることができる。このため、本開示の実施の形態は長時間のデータ取得に有効である。
本開示は、以下の項目に記載の撮像装置、システム、および方法を含む。
[項目1]
対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子と、
前記符号化素子を通過した光の光路上に配置され、前記光を波長に応じて分散させる少なくとも1つの分光素子と、
前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の光路上に配置され、前記分光素子によって分散した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得する撮像素子と、
を備え、
前記少なくとも1つの分光素子は、前記撮像素子の撮像面上に形成される像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように設計されている、
撮像装置。
[項目2]
前記少なくとも1つの分光素子は、光軸の方向に配列された第1および第2の分光素子を含み、
前記第1の分光素子の分光方向と前記第2の分光素子の分光方向とは異なり、
前記第1および第2の分光素子の少なくとも一方は、回折光学素子である、
項目1に記載の撮像装置。
[項目3]
前記第1および第2の分光素子の一方は回折光学素子であり、
前記第1および第2の分光素子の他方はプリズムである、
項目2に記載の撮像装置。
[項目4]
前記回折光学素子は、特定の波長の光の1次回折効率が略100%になるように設計されている、項目2または3に記載の撮像装置。
[項目5]
前記第1および第2の分光素子が一体化されている、項目2から4のいずれかに記載の撮像装置。
[項目6]
前記第1の分光素子の分光方向と前記第2の分光素子の分光方向とが略直交している、項目2から5のいずれかに記載の撮像装置。
[項目7]
前記対象物と前記符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記符号化素子の面上に集束させる第1の光学系と、
前記符号化素子と前記分光素子との間に配置され、前記符号化素子を通過した光を前記撮像素子の撮像面上に集束させる第2の光学系と、
をさらに備える項目1から6のいずれかに記載の撮像装置。
[項目8]
前記符号化素子と前記少なくとも1つの分光素子との間に配置され、前記符号化素子を通過した光を前記撮像素子の撮像面上に集束させる光学系をさらに備える項目1から6のいずれかに記載の撮像装置。
[項目9]
前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路をさらに備える、項目1から8のいずれかに記載の撮像装置。
[項目10]
前記信号処理回路は、統計的方法によって前記波長ごとの複数の画像を生成する、項目9に記載の撮像装置。
[項目11]
前記光の波長帯域ごとの複数の画像におけるデータ数は、前記撮像素子によって取得される前記画像におけるデータ数よりも多い、項目9または10に記載の撮像装置。
[項目12]
前記信号処理回路は、前記撮像素子によって取得される前記画像における複数の画素の信号値を要素とするベクトルgと、前記符号化素子における光透過率の空間分布および前記分光素子の分光特性によって決定される行列Hとを用いて、
Figure 2016090290
(Φ(f)は正則化項、τは重み係数)
の式に基づいて推定されるベクトルf’を、前記波長帯域ごとの複数の画像として生成する、
項目9から11のいずれかに記載の撮像装置。
[項目13]
項目1から8のいずれかに記載の撮像装置と、
前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理装置と、
を備える分光システム。
[項目14]
対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子を用いて入射光の強度を変調させるステップと、
前記符号化素子を通過した光を、波長に応じて分散させ、撮像素子の撮像面上に像を形成するステップであって、前記撮像面上に形成される前記像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように前記光を分散させるステップと、
前記分光素子を通過した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得するステップと、
前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成するステップと、
を含む分光方法。
以下、図面を参照しながら、本開示のより具体的な実施の形態を説明する。以下の説明では、画像を示す信号(各画素の画素値を表す信号の集合)を、単に「画像」と称することがある。以下の説明において、図中に示されたxyz座標を用いる。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の撮像装置D1を示す模式図である。本実施の形態の撮像装置D1は、結像光学系L1、L2と、符号化素子Cと、分光素子Pと、撮像素子Sとを備える。図1には、撮像素子Sから出力された画像信号を処理する信号処理回路Prも描かれている。信号処理回路Prは、撮像装置D1に組み込まれていてもよいし、撮像装置D1に有線または無線で電気的に接続された信号処理装置の構成要素であってもよい。信号処理回路Prは、撮像素子Sによって取得された画像Gに基づいて、測定対象物Oからの光の波長帯域ごとに分離された複数の画像(以下、「分光分離画像」または「多波長画像」と称することがある。)Fを推定する。
結像光学系L1、L2の各々は、少なくとも1つの撮像レンズを含む。図1では、それぞれ1つのレンズとして描かれているが、これらは複数のレンズの組み合わせによって構成されていてもよい。
符号化素子Cは、結像光学系L1の結像面に配置されている。符号化素子Cは、光透過率の空間分布を有するマスクである。符号化素子Cは、第1の光透過率を有する複数の領域と、第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを少なくとも有する。符号化素子Cは、光線分離素子Bを透過して入射した光の強度を変調させて通過させる。
図2は、符号化素子Cの光透過率の2次元分布の例を示す図である。図2(a)は、本実施の形態における符号化素子Cの透過率分布を示している。図2(a)において、黒い部分は光を殆ど透過させない領域(「遮光領域」と称する。)を、白い部分は光を透過させる領域(「透光領域」と称する。)を示している。この例では、白い部分の光透過率はほぼ100%であり、黒い部分の光透過率はほぼ0%である。符号化素子Cは、複数の矩形領域に分割されており、各矩形領域は、透光領域または遮光領域である。したがって、図2(a)に示す例では、符号化素子Cが、第1の光透過率が100%の複数の矩形領域と第2の光透過率がほぼ0%の複数の矩形領域とを有する。符号化素子Cにおける透光領域および遮光領域の2次元分布は、例えばランダム分布または準ランダム分布であり得る。
ランダム分布および準ランダム分布の考え方は次のとおりである。まず、符号化素子Cにおける各矩形領域は、光透過率に応じて、例えば1または0の値を有するベクトル要素とみなせる。言い換えると、一列に並んだ矩形領域の集合を1または0の値を有する多次元のベクトルとみなせる。したがって、符号化素子Cは、多次元ベクトルを行方向に複数備えている。このとき、ランダム分布とは、任意の2つの多次元ベクトルが独立である(平行でない)ことを意味する。また、準ランダム分布とは、一部の多次元ベクトル間で独立でない構成が含まれることを意味する。
符号化素子Cによる符号化過程は、後続する分光素子Pによって分光された各波長の光による画像を区別するためのマーキングを行う過程といえる。そのようなマーキングが可能である限り、透過率の分布は任意に設定してよい。図2(a)に示す例では、黒い部分の数と白い部分の数との比率は1:1であるが、このような比率に限定されない。例えば、白い部分の数:黒い部分の数=1:9のような一方に偏りのある分布であってもよい。また、図2(b)に示すように、グレースケールの透過率分布を持つマスクであってもよい。この場合、符号化素子Cが、第1および第2の光透過率とは異なる第3の光透過率の複数の矩形領域を有する。符号化素子Cの透過率分布に関する情報は、設計データまたは実測キャリブレーションによって事前に取得される。
分光素子Pは、入射した光束を波長に応じて分散させる素子である。例えば、プリズムまたは回折光学素子によって構成され得る。図1に示される分光素子Pは、分光素子P1と分光素子P2との組み合わせによって構成されている。分光素子P1は、プリズムであり、分光素子P2は、回折光学素子である。分光素子P1、P2の組み合わせはこの例に限られず、少なくとも一方が回折光学素子であればよい。分光素子P1、P2は、分光素子P1の分光方向と分光素子P2の分光方向とが異なるように設計および配置されている。ここで「分光方向」とは、撮像素子Sの撮像面上に形成される像が、波長に応じてずれる方向を意味する。図1に示す例では、分光素子P1の分光方向と、分光素子P2の分光方向とが略直交している。すなわち、これらの分光方向は約90°異なっている。両者の分光方向は、直交に限らず、交差していればよい。ただし、両者の分光方向のなす角度が90°に近づくほど分光情報の重なりが少なくなるため、復元精度を向上させることができる。以下の説明では、一例として、分光素子P1が、像を波長に応じてy方向(画像の縦方向)にずらし、分光素子P2が、像を波長に応じてx方向(画像の横方向)にずらすものとする。分光素子P1、P2の組み合わせにより、撮像素子Sの撮像面上に実際に形成される像は、波長に応じて対角方向(例えば斜め45°方向)にずれる。
符号化素子Cによって符号化された光は、結像光学系L2を通過して分光素子P1、P2に入射する。本実施の形態における分光素子P1は、入射光を波長に応じてy方向に分散させる。一方、分光素子P2は、入射光を波長に応じてx方向に分散させる。これにより、撮像素子Sの撮像面上に形成される像が、波長に応じてx方向およびy方向にずれる。撮像面におけるx方向およびy方向のずれの程度(以下、「分光量」と称することがある。)は、分光素子Pの屈折率、アッベ数、面の傾斜角、および分光素子P1、P2と撮像素子Sとの間の距離によって決定される。分光素子P1、P2が回折光学素子の場合、回折格子のピッチを変えることで調整できる。分光素子P1、P2を撮像素子Sに対して光軸回りに回転させることにより、撮像面に形成される像のずれの方向を調整してもよい。例えば、像のずれの方向を、画素の配列方向と同じx方向もしくはy方向、またはx方向およびy方向の両方に一致させることができる。
図3は、撮像素子Sの撮像面上に形成される多重像の一例を示す図である。図3における濃淡は、波長帯域の違いを表している。実際には波長に応じて連続的にシフトした無数の像が形成されるが、図1では便宜上、波長帯域ごとの離散的な多重像を示している。図示されるように、本実施形態では、分光素子P2(回折光学素子)による回折作用により、波長帯域ごとに各次数(0次、1次、2次等)の回折像が形成される。
図3に示す画像では、同一の波長帯域について異なる次数の複数の像が形成されている。1つの波長帯域については1つの像が形成されれば十分であり、複数の像が形成される必要はない。このため、図3に示す画像は、不要な像を多く含む。不要な像が多いと、後述する信号処理による画像の復元の精度が低下するおそれがある。そこで、回折光学素子の回折効率を調整することによって不要な像を除去してもよい。
図4は、そのような調整を行った場合の多重像の他の例を示す図である。図4は、特定の波長における1次回折効率が略100%になるように調整された回折光学素子を用いた場合の例を示している。ここで特定の波長とは、例えば中心波長または重視する波長といった主な波長(主波長)に設定され得る。回折効率の調整は、例えば回折光学素子の回折段差の高さを調整することによって行われ得る。例えば、図5に例示するような回折光学素子を分光素子P2として用いる場合、凹部に対する凸部の高さである回折段差高さを調整することにより、特定の波長についての回折効率を調節できる。あるいは、回折光学素子の材料の屈折率を調整することにより、特定の波長についての回折効率を調節してもよい。なお、回折光学素子は図5に示すような鋸歯状の表面を有するものに限らず、回折によって光を分離する任意の素子を用いることができる。回折ピッチを調整することにより、各回折次数の像のシフト量を調整することもできる。回折効率の調整により、例えば主波長に近い波長帯域について1次回折光を強くすることができる。この場合、主波長よりも長い波長帯域については低次(0次)の回折光が強くなり、主波長よりも短い波長帯域については高次(2次など)の回折光が強くなる。その結果、図4に示すように、撮像素子Sの撮像面上で、波長帯域の重複が抑えられた多重像が得られる。
回折効率の調整を行った場合であっても、一部の波長帯域については複数の回折像が発生する場合がある。そのような場合、キャリブレーションによってそれらの情報を予め取得しておき、後述する画像の再構成演算に反映させてもよい。これにより、良好な分光分離画像の取得が可能となる。
このように、本実施形態では、分光素子P1、P2により、入射光を二次元的に分離することができる。分光素子P1、P2の分光量を異ならせることにより、1次元的に分光する場合に比べ、より多くの波長帯域に分光することができる。例えば、撮像面においてy方向に100nmずつ5帯域の像をシフトさせ、x方向に10nmずつ10帯域の像をシフトさせることができる。この場合、波長範囲500nmに含まれる帯域幅10nmの50(=5×10)バンドの帯域数の分光データを取得できる。
本実施の形態では、分光素子P1はy方向に分光し、分光素子P2はx方向に分光するが、他の方向に分光してもよい。また、測定対象物Oに応じて分光量または分光方向を変更してもよい。例えば、y方向に高周波のテクスチャ(横縞など)をもつ測定対象物Oに対しては、y方向の分光量(シフト量)よりもx方向の分光量を大きくしてもよい。その理由は、x方向へのシフトは、高周波方向と直交する方向であり、重畳された像のコントラストの低下が小さいためである。y方向の分光量を小さくし、x方向の分光量を大きくすることにより、再構成された分光分離画像Fの解像度を高く維持できる。
分光素子P1、P2による撮像素子Sの撮像面上における像のシフト量は、設計仕様から演算によって、または実測キャリブレーションによって事前に算出しておく。分光素子P1、P2による分光シフトは、波長帯域ごとの離散的なシフトではなく、連続的なシフトである。一方、後述する信号処理回路では、所定幅の波長帯域ごとに分光分離画像Fが再構成される。そのため、厳密には、再構成される画像ごとの波長帯域内でも各波長の画像は撮像素子S上でシフトしている。分光分離画像Fの再構成の精度を向上させるためには、波長帯域内の画像のシフトを補正することが望ましい。この補正は、コンピュータ演算によって行ってもよいが、光学系の収差や実装誤差の影響も考慮すると、実測キャリブレーションによって行うことが望ましい。例えば、被写体として白板を測定対象物Oの位置に設置し、所望の各波長帯域の帯域通過フィルタを通して撮像素子S上に符号化素子Cの像を形成させることによってキャリブレーションを行うことができる。帯域ごとに帯域通過フィルタを交換して所望の全ての帯域のデータを取得してもよいが、いくつかの帯域を選択して測定し、それ以外の帯域については測定されたデータの補間によって算出してもよい。この方法により、分光素子Pによる分光シフト量が算出できるとともに、波長帯域ごとの符号化素子Cの透過率情報も取得できる。ここで算出されたキャリブレーションのデータに基づいて、後述の(数1)における行列Hの要素が決定される。
撮像素子Sは、2次元に配列された複数の光検出セル(本明細書において、「画素」とも呼ぶ。)を有するモノクロタイプの撮像素子である。撮像素子Sは、例えばCCD(Charge−Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサであり得る。光検出セルは、例えばフォトダイオードによって構成され得る。撮像素子Sは、必ずしもモノクロタイプの撮像素子である必要はない。例えば、R/G/B、R/G/B/IR、またはR/G/B/Wのフィルタを有するカラータイプの撮像素子を用いてもよい。カラータイプの撮像素子を使用することで、波長に関する情報量を増やすことができ、分光分離画像Fの再構成の精度を向上させることができる。ただし、カラータイプの撮像素子を使用した場合、空間方向(x、y方向)の情報量が低下するため、波長に関する情報量と解像度とはトレードオフの関係にある。取得対象の波長範囲は任意に決定してよく、可視の波長範囲に限らず、紫外、近赤外、中赤外、遠赤外の波長範囲であってもよい。
信号処理回路Prは、撮像素子Sから出力された画像信号を処理する回路である。信号処理回路Prは、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等のプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)・画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現され得る。そのようなコンピュータプログラムは、メモリなどの記録媒体に格納され、CPUがそのプログラムを実行することにより、後述する演算処理を実行できる。前述のように、信号処理回路Prは、撮像装置D1の外部の要素であってもよい。そのような構成では、撮像装置D1に電気的に接続されたパーソナルコンピュータ(PC)や、インターネット上のクラウドサーバなどの信号処理装置が、信号処理回路Prを有する。本明細書では、そのような信号処理装置と撮像装置とを含むシステムを、「分光システム」と称する。
以下、本実施の形態における撮像装置D1の動作を説明する。
図6は、本実施の形態における分光方法の概要を示すフローチャートである。まず、ステップS101において、符号化素子Cを用いて入射光の強度を空間的に変調させる。次に、ステップS102において、分光素子Pを用いて、符号化素子Cによって符号化された光束を波長に応じて2次元的に分離する。言い換えれば、撮像面上に形成される像が、波長に応じて、撮像面上の交差する2つの方向にずれるように入射光を分散させる。続くステップS103において、分光素子Pによって分離された光の成分が重畳した画像を撮像素子Sによって取得する。ステップS104において、撮像素子Sによって取得された画像と、符号化素子Cの透過率分布とに基づいて、波長帯域ごとの複数の画像を生成する。
次に、本実施の形態の撮像装置D1によって撮影画像Gを取得する過程を説明する。
測定対象物Oからの光束は、結像光学系L1によって集束され、その像が符号化素子Cによって符号化される。言い換えれば、符号化素子Cの透過率の空間分布に応じて符号化素子Cを通過する光の強度が変調される。符号化された光束は、結像光学系L2によって再度集束され、結像される。その過程において、光束は分光素子Pによって波長に応じて分散する。このとき、符号化情報も分光素子Pの影響を受ける。その結果、符号化情報を保有する分光された像が、互いに重なり合った多重像として撮像素子Sの撮像面上に形成される。図1に示す画像Gに含まれている複数の黒い点は、符号化によって生じた低輝度の部分を模式的に表している。なお、図1に示す黒い点の数および配置は、現実の数および配置を反映していない。実際には、図1に示す数よりも多くの低輝度の部分が生じ得る。撮像素子Sにおける複数の光検出セルによって多重像の情報が複数の電気信号(画素信号)に変換され、撮影画像Gが生成される。図1では、わかり易さのため、撮影画像Gにおける多重像のx方向およびy方向のずれが実際よりも大きく描かれている。実際には、隣接する2つの波長帯域の像のずれは、例えば1画素から数十画素程度の微小なずれであり得る。
撮像装置D1は、入射光束の一部の波長帯域の成分のみを透過させる帯域通過フィルタをさらに備えていてもよい。これにより、測定波長帯域を限定することができる。測定波長帯域を限定することで、所望の波長に限定した分離精度の高い分光分離画像Fを得ることができる。
次に、撮影画像G、符号化素子Cの透過率の空間分布特性、および分光素子Pの分光特性に基づいて多波長の分光分離画像Fを再構成する方法を説明する。ここで多波長とは、例えば通常のカラーカメラで取得される3色(R・G・B)の波長帯域よりも多くの波長帯域を意味する。この波長帯域の数(以下、「分光帯域数」と称することがある。)は、例えば4から100程度の数であり得る。用途によっては、分光帯域数は100を超えていてもよい。
求めたいデータは分光分離画像Fであり、そのデータをfと表す。分光帯域数(バンド数)をwとすると、fは各帯域の画像データf1、f2、・・・、fwを統合したデータである。求めるべき画像データのx方向の画素数をn、y方向の画素数をmとすると、画像データf1、f2、・・・、fwの各々は、n×m画素の2次元データの集まりである。したがって、データfは要素数n×m×wの3次元データである。本実施形態では、分光素子Pが2次元的に分光するため、分光帯域数wは、x方向の分光数wxとy方向の分光数wyとの積である。分光素子Pにより、分光帯域ごとにx、y方向に1画素ずつ分光画像をシフトさせるとすると、取得される撮影画像Gのデータgの要素数は(n+wx−1)×(m+wy−1)である。本実施の形態におけるデータgは、以下の(数1)で表すことができる。
Figure 2016090290

ここで、f1、f2、・・・、fwは、n×m個の要素を有するデータであるため、右辺のベクトルは、厳密にはn×m×w行1列の1次元ベクトルである。ベクトルgは、n+wx−1)(m+wy−1)行1列の1次元ベクトルに変換して表され、計算される。行列Hは、ベクトルfを符号化によって強度変調し、各成分f1、f2、・・・、fwをx、y方向に1画素ずつシフトし、それらを加算する変換を表す。したがって、Hは(n+wx−1)(m+wy−1)行n×m×w列の行列である。
ここでは各波長帯域の画像が1画素ずつシフトすることを想定したため、gの要素数を(n+wx−1)(m+wy−1)としたが、必ずしも1画素ずつ各画像をシフトさせる必要はない。シフトさせる画素数は、2画素またはそれ以上でもよい。シフトさせる画素数は、再構成される分光分離画像Fにおける分光帯域・分光帯域数をどう設計するかに依存する。シフトさせる画素数に応じてgの要素数は変化する。また、分光方向もx方向およびy方向に限定されず、他の方向にシフトさせてもよい。一般化すれば、ky、kxを任意の自然数として、y方向にky画素、x方向にkx画素ずつ像をシフトさせる場合、データgの要素数は、{n+kx・(wx−1)}{m+ky・(wy−1)}となる。
さて、ベクトルgと行列Hが与えられれば、(数1)の逆問題を解くことでfを算出することができそうである。しかし、求めるデータfの要素数n×m×wが取得データgの要素数(n+wx−1)×(m+wy−1)よりも多いため、この問題は不良設定問題となり、このままでは解くことができない。そこで、本実施の形態の信号処理回路Prは、データfに含まれる画像の冗長性を利用し、圧縮センシングの手法を用いて解を求める。具体的には、以下の(数2)の式を解くことにより、求めるデータfを推定する。
Figure 2016090290
ここで、f’は、推定されたfのデータを表す。上式の括弧内の第1項は、推定結果Hfと取得データgとのずれ量、いわゆる残差項を表す。ここでは2乗和を残差項としているが、絶対値あるいは二乗和平方根等を残差項としてもよい。括弧内の第2項は、後述する正則化項(または安定化項)である。(数2)は、第1項と第2項との和を最小化するfを求めることを意味する。信号処理回路Prは、再帰的な反復演算によって解を収束させ、最終的な解f’を算出することができる。
(数2)の括弧内の第1項は、取得データgと、推定過程のfを行列Hによってシステム変換したHfとの差分の二乗和を求める演算を意味する。第2項のΦ(f)は、fの正則化における制約条件であり、推定データのスパース情報を反映した関数である。働きとしては、推定データを滑らかまたは安定にする効果がある。正則化項は、例えば、fの離散的コサイン変換(DCT)、ウェーブレット変換、フーリエ変換、またはトータルバリエーション(TV)等によって表され得る。例えば、トータルバリエーションを使用した場合、観測データgのノイズの影響を抑えた安定した推測データを取得できる。それぞれの正則化項の空間における測定対象物Oのスパース性は、測定対象物Oのテキスチャによって異なる。測定対象物Oのテキスチャが正則化項の空間においてよりスパースになる正則化項を選んでもよい。あるいは、複数の正則化項を演算に含んでもよい。τは、重み係数であり、この値が大きいほど冗長的なデータの削減量が多くなり(圧縮する割合が高まり)、小さいほど解への収束性が弱くなる。重み係数τは、fがある程度収束し、かつ、過圧縮にならない適度な値に設定される。
なお、ここでは(数2)に示す圧縮センシングを用いた演算例を示したが、その他の方法を用いて解いてもよい。例えば、最尤推定法やベイズ推定法などの他の統計的方法を用いることができる。また、分光分離画像Fの数は任意であり、各波長帯域も任意に設定してよい。
さらに、分光素子の数は2つに限らず3つ以上でもよい。3つの分光素子を用いる場合、各分光素子の分光方向は任意に設定してもよい。ある例では、x方向、y方向、および対角方向(斜め方向)に設定され得る。3つ以上の方向に分光することにより、分光帯域数をさらに増加させることができる。
以上のように、本実施の形態では、分光素子Pは、光軸の方向に配列された第1の分光素子P1と第2の分光素子P2とを含み、両者の分光方向が異なっている。分光素子P1、P2の少なくとも一方は、回折光学素子である。これにより、従来よりも分光波長帯域数を増加させることができる。また、分光量および分光方向を適切に調整することにより、後述する実施例1に示すように、圧縮センシングによる解像度の低下を抑制することができる。これにより、高解像度、多波長、動画撮影(ワンショット撮影)の3つの要求を同時に満たすことができる。また、撮像の際、2次元データを保有するだけで済むため、長時間のデータ取得に有効である。なお、本実施形態における撮像素子および信号処理回路は、動画像を取得するが、静止画像のみを取得するように構成されていてもよい。
(実施の形態2)
実施の形態2は、符号化パターンの像面上でのボケ状態を利用して多波長画像を再構成する点で、実施の形態1と異なっている。以下、実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
図7は、本実施の形態の撮像装置D2を示す模式図である。撮像装置D2では、撮像装置D1と異なり、符号化素子Cが、対象物Oと結像光学系Lとの間に配置されている。結像光学系Lは、符号化素子Cを通過した光束を、撮像素子Sの撮像面上に集束させる。本実施の形態では、結像光学系の結像面上に符号化素子Cを配置する必要がないため、結像光学系L以外の光学系(リレー光学系)が不要となり、光学系の全体のサイズを縮小できる。
符号化素子Cによって符号化された像は、撮像素子S上でボケた状態で取得される。したがって、予めこのボケ情報を保有しておき、それを(数1)のシステム行列Hに反映させる。ここで、ボケ情報は、点拡がり関数(Point Spread Function:PSF)によって表される。PSFは、点像の周辺画素への拡がりの程度を規定する関数である。例えば、画像上で1画素に相当する点像が、ボケによってその画素の周囲のk×k画素の領域に広がる場合、PSFは、その領域内の各画素の輝度への影響を示す係数群(行列)として規定され得る。PSFによる符号化パターンのボケの影響をシステム行列Hに反映させることにより、分光分離画像Fを再構成することができる。
符号化素子Cが配置される位置は任意であるが、符号化素子Cの符号化パターンが拡散しすぎて消失することを防ぐ必要がある。そのためには、例えば、結像光学系Lにおいて測定対象物Oに最も近いレンズの近傍または測定対象物Oの近傍に配置するのがよく、絞りから遠ざけて配置するのがよい。特に画角が広い光学系では焦点距離が短くなるため、これらの位置では各画角の光束の重なりが小さく撮像素子S上で符号化パターンがボケにくく残存しやすくなる。また、符号化素子Cを撮像素子Sにより近い位置に配置した場合も、符号化パターンが残存しやすいためよい。ただし、この場合も分光素子Pよりも対象物O側に符号化素子Cを配置する必要がある。
(実施の形態3)
実施の形態3は、分光素子P1、P2が一体化されている点で、実施の形態1と異なっている。ここでは、本実施形態において実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
図8は、本実施の形態の撮像装置D3を示す模式図である。本実施の形態では、分光素子P1と分光素子P2とが一体的に構成されている。このような分光素子P1、P2は、1つの素子であると考えることもできる。分光素子P1は、入射した光束をy方向に分光し、分光素子P2は入射した光束をx方向に分光する。
この例では、分光素子P1はプリズムであり、分光素子P2は回折光学素子である。しかし、このような組み合わせに限定されない。対象物Oに近い側に回折光学素子を配置し、対象物Oから遠い側にプリズムを配置してもよい。あるいは、プリズムを使用せず、回折方向の異なる2つの回折光学素子を一体化させた構成であってもよい。
(実施例1)
次に、本開示の実施例を説明する。
図9は、本開示の分光方法を用いて分光分離画像Fを再構成した結果の一例を示す図である。ここで、符号化素子Cとして、図2(a)に示すような、複数の透光領域と複数の遮光領域とがランダムに配列されたバイナリパターンを有する素子を用いた。各透光領域の光透過率は略100%であり、各遮光領域の光透過率は略0%である。撮像装置の構成は、実施の形態1における構成を採用した。分光帯域数は、x方向(横方向)に5帯域、y方向(縦方向)に4帯域の合計20帯域とした。分光素子P1(プリズム)は、帯域ごとにx方向に1画素ずつ像をずらすように設計した。分光素子P2(回折光学素子)は、帯域ごとにy方向に1画素ずつ像をずらすように設計した。
撮影画像Gは、496×308画素の画像であり、符号化かつ分光された光束によって形成された画像である。最短波長帯域と最長波長帯域との間でx方向に4画素、y方向に3画素の空間的なずれが生じている。
実施例1では、撮影画像G、符号化素子Cの透過率の空間分布特性、および分光素子Pの分光特性に基づいて、(数2)の推測アルゴリズムを解くことにより、20波長帯域の分光分離画像Fを得た。このとき、正則化項としてトータルバリエーション(TV)を使用した。
(比較例1)
比較例として、実施例1における2つの分光素子P1、P2の代わりに、y方向のみに分光する分光素子(プリズム)を使用して分光分離画像Fを再構成した。
図10は、比較例の結果を示す図である。分光分離性は良好なものの、図9の結果と比較して、解像度が低下していることがわかる。
図11は、実施例1および比較例1を含む4つの比較例のそれぞれにおける正解画像に対する平均二乗誤差(Mean Squared Error:MSE)を示す。MSEは、(数3)で表され、1画素当たりの平均二乗誤差を示している。値が小さいほど正解画像に近いことを意味する。
Figure 2016090290
ここで、n、mはそれぞれ画像の縦、横の画素数を、I’i,jは再構成画像(分光分離画像)のi行j列の画素値を、Ii,jは正解画像のi行j列の画素値を表している。なお、本実施例および比較例で使用した画像は8ビット画像であり、画素値の最大値は255である。
図11における横軸は、再構成した分光分離画像Fの画像番号を、縦軸はMSEの値を示している。図11に示す「y4波長、x5波長」は実施例1のデータを、「y20波長、x1波長」は比較例1のデータを示している。図11には、実施例1および比較例1以外にも、「y15波長、x1波長」、「y10波長、x1波長」、「y5波長、x1波長」の3つの比較例の結果も示されている。図11より、実施例1の方法によって再構成した場合、比較例1と比較して、いずれの分光分離画像FもMSEの値が小さく、正解画像に近いことが確認できる。MSEの値はおおよそ10〜20程度であり、正解画像にほぼ一致していることがわかる。一方、従来の方法である比較例1では、MSEの値が全体的に高く、正解画像と比べて大きく劣化していることがわかる。同じ分光帯域数20でありながら、実施例1と比較例1とのMSEの差は最小で1.4倍、最大で2.1倍であり、本開示の構成の有効性が認められる。これは、2次元的に分光することにより、複数の画像が重畳されたときの解像度の低下が、1次元的に分光する場合に比べて小さく、再構成された画像の復元精度が高くなるためである。図11より、実施例1(y4波長、x5波長)の結果は、y方向のみに10波長分光した1次元分光の結果とほぼ同じであることがわかる。この結果は、本開示の構成により、解像度を高く維持したまま、分光帯域数を2倍にできることを示している。
本開示における撮像装置は、多波長の2次元画像を取得するカメラや測定機器に有用である。生体・医療・美容向けセンシング、食品の異物・残留農薬検査システム、リモートセンシングシステムおよび車載センシングシステム等にも応用できる。
O 測定対象物
G 撮影画像
L、L1、L2 結像光学系
C 符号化素子
P、P1、P2 分光素子
Pr 信号処理回路
S 撮像素子
F、F1、F2、F3、F15 分光分離画像
L 結像光学系
R1、R2 光束
D1、D2、D3 撮像装置

Claims (14)

  1. 対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子と、
    前記符号化素子を通過した光の光路上に配置され、前記光を波長に応じて分散させる少なくとも1つの分光素子と、
    前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の光路上に配置され、前記分光素子によって分散した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得する撮像素子と、
    を備え、
    前記少なくとも1つの分光素子は、前記撮像素子の撮像面上に形成される像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように設計されている、
    撮像装置。
  2. 前記少なくとも1つの分光素子は、光軸の方向に配列された第1および第2の分光素子を含み、
    前記第1の分光素子の分光方向と前記第2の分光素子の分光方向とは異なり、
    前記第1および第2の分光素子の少なくとも一方は、回折光学素子である、
    請求項1に記載の撮像装置。
  3. 前記第1および第2の分光素子の一方は回折光学素子であり、
    前記第1および第2の分光素子の他方はプリズムである、
    請求項2に記載の撮像装置。
  4. 前記回折光学素子は、特定の波長の光の1次回折効率が略100%になるように設計されている、請求項2または3に記載の撮像装置。
  5. 前記第1および第2の分光素子が一体化されている、請求項2から4のいずれかに記載の撮像装置。
  6. 前記第1の分光素子の分光方向と前記第2の分光素子の分光方向とが略直交している、請求項2から5のいずれかに記載の撮像装置。
  7. 前記対象物と前記符号化素子との間に配置され、前記対象物からの光を、前記符号化素子の面上に集束させる第1の光学系と、
    前記符号化素子と前記分光素子との間に配置され、前記符号化素子を通過した光を前記撮像素子の撮像面上に集束させる第2の光学系と、
    をさらに備える請求項1から6のいずれかに記載の撮像装置。
  8. 前記符号化素子と前記少なくとも1つの分光素子との間に配置され、前記符号化素子を通過した光を前記撮像素子の撮像面上に集束させる光学系をさらに備える請求項1から6のいずれかに記載の撮像装置。
  9. 前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理回路をさらに備える、請求項1から8のいずれかに記載の撮像装置。
  10. 前記信号処理回路は、統計的方法によって前記波長ごとの複数の画像を生成する、請求項9に記載の撮像装置。
  11. 前記光の波長帯域ごとの複数の画像におけるデータ数は、前記撮像素子によって取得される前記画像におけるデータ数よりも多い、請求項9または10に記載の撮像装置。
  12. 前記信号処理回路は、前記撮像素子によって取得される前記画像における複数の画素の信号値を要素とするベクトルgと、前記符号化素子における光透過率の空間分布および前記分光素子の分光特性によって決定される行列Hとを用いて、
    Figure 2016090290

    (Φ(f)は正則化項、τは重み係数)
    の式に基づいて推定されるベクトルf’を、前記波長帯域ごとの複数の画像として生成する、
    請求項9から11のいずれかに記載の撮像装置。
  13. 請求項1から8のいずれかに記載の撮像装置と、
    前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記少なくとも1つの分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成する信号処理装置と、
    を備える分光システム。
  14. 対象物から入射する光の光路上に配置され、第1の光透過率を有する複数の領域と、前記第1の光透過率よりも低い第2の光透過率を有する複数の領域とを有する符号化素子を用いて入射光の強度を変調させるステップと、
    前記符号化素子を通過した光を、波長に応じて分散させ、撮像素子の撮像面上に像を形成するステップであって、前記撮像面上に形成される前記像が、波長に応じて、前記撮像面における互いに交差する少なくとも2つの方向にずれるように前記光を分散させるステップと、
    前記分光素子を通過した光の複数の波長帯域の成分が重畳した画像を取得するステップと、
    前記画像と、前記符号化素子における光透過率の空間分布とに基づいて、前記分光素子を通過した光の波長帯域ごとの複数の画像を生成するステップと、
    を含む分光方法。
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