JP2023075830A - 皮膚外用製剤の有効性の評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】皮膚外用製剤の有効性を評価するためのマーカー、並びに当該マーカーを用いた皮膚外用製剤の有効性の評価方法及び有効な皮膚外用製剤の選択方法の提供。【解決手段】皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。【選択図】なし

Description

本発明は、皮膚外用製剤の有効性を評価するためのマーカー、並びに当該マーカーを用いた皮膚外用製剤の有効性の評価方法及び有効な皮膚外用製剤の選択方法に関する。
皮膚の重要な機能は、病原体、化学物質及び紫外線から身体を保護するための物理的バリアである。皮膚のバリアを担うのは、表皮の最外層にある角質層(角層)である。角層は、乾燥性の外部環境で経皮蒸発水分損失を遅らせる透過性バリアとしての役割を有する。角層は平坦な無核角質細胞からなる多層組織であり、セラミド、遊離脂肪酸及びコレステロールで構成される高度に秩序化された脂質ラメラに埋め込まれた角質細胞で構成されている。角層の細胞外ドメイン内におけるこれら高度疎水性の脂質の局在化は、水の外側への移動を抑制する。さらに、角層内には天然保湿因子が存在する。表皮分化及び脂質組成の変化に伴う角層の異常は、アトピー性皮膚炎における環境アレルゲンの侵入、免疫反応及び炎症に繋がるような皮膚バリア機能の破綻をもたらす。
皮膚バリア機能の破綻により肌荒れした皮膚表面では、きめが乱れ、更には鱗屑が発生し、滑らかさに欠けた肌触りになる。鱗屑では、角層が皮膚表面で剥がれてめくれあがったような外観となる。このような状態はドライスキンとも呼ばれ、角層の水分保持能(保湿能)の低下として捕らえられる。
皮膚の状態を評価する方法としては、角層水分量(Capacitance値、Conductance値)や経皮水分蒸散量(Trans Epidermal Water Loss;TEWL値)について客観的数値を取得する方法がある。また、専用のカメラ付きプローブを用いて皮膚表面形状を数値化したもの(Surface Evaluation of Living Skin;SELS parameters)を取得する方法、印象材を用いて皮膚表面のレプリカを作製し、光学装置を用いてシワや表面粗さを数値化する方法、事前に定めた指標に基づいて専門パネリストが皮膚乾燥の程度や肌荒れの状態を目視評価する方法等がある。
さらに、所見や自覚等に現れる表現型(フェノタイプ)を機器や目視で指標化するだけでなく、生体試料中の核酸やタンパク質発現の指標に基づいて皮膚の状態を評価する方法が報告されており(特許文献1及び非特許文献1)、分子機序に基づいた皮膚状態の評価と保湿技術の提供を高精度かつ効率的に行うことにつながると考えられている。
従来、皮膚の保湿・肌荒れ改善に、ローション、軟膏、クリーム等の皮膚外用製剤の塗布がされている。皮膚外用製剤の種類は豊富であるため、その選択に苦慮することは多い。斯かる皮膚外用製剤について、その有効性を簡便に評価できれば、皮膚状態に応じて適切な製剤を使用でき、早期の皮膚健常化又は肌荒れ改善に資することになる。しかしながら、分子機序に基づいて、皮膚外用製剤の有効性を簡便に評価する方法は十分に存在しない。
近年、生体試料中のDNAやRNA等の核酸の解析によりヒトの生体内の現在さらには将来の生理状態を調べる技術が開発されている。生体由来の核酸は、血液等の体液、分泌物、組織等から抽出することができる。さらに最近、皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)に含まれるRNAを生体の解析用の試料として利用可能であることが報告されている(特許文献2)。
特開2015-227865号公報 国際公開公報第2018/008319号
Delattre et al. Exp Dermatol. 21:205-210, 2012.
本発明は、皮膚外用製剤の有効性を評価するためのマーカー、並びに当該マーカーを用いた皮膚外用製剤の有効性の評価方法及び有効な皮膚外用製剤の選択方法を提供することに関する。
本発明者は、水分保持能及び鱗屑の改善効果が知られている炭酸ガスを含有する皮膚外用製剤と炭酸ガスを含まないプラセボ製剤を顔全面の左右半顔のいずれかに連用塗布した後、当該皮膚からSSLを採取し、SSL中に含まれるRNAの発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析した。その結果、特定の遺伝子の発現レベルが、炭酸ガスを含有する皮膚外用製剤の連用塗布による鱗屑の改善又は角質水分量の増加に応じて有意に変動し、この特定遺伝子の発現レベルを指標として皮膚外用製剤の鱗屑又は角質水分量に対する有効性を評価できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)~7)に係るものである。
1)皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
2)鱗屑改善効果を有する皮膚外用製剤を選択する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
3)皮膚外用製剤の角質水分量増加効果を評価する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
4)角質水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
5)以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果の評価のためのマーカー。
6)以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、皮膚外用製剤の角質水分量増加効果の評価のためのマーカー。
7)前記マーカーである核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記マーカーであるタンパク質を認識する抗体を含有する、1)若しくは2)の方法に用いられる、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価又は鱗屑改善効果を有する皮膚外用製剤を選択するためのキット、又は3)若しくは4)の方法に用いられる、皮膚外用製剤の角質水分量増加効果を評価又は角層水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択するためのキット。
本発明の皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角質水分量増加効果を評価するためのマーカーは、皮膚外用製剤の当該効果を評価するための指標を提供する。前記マーカーを用いることで、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角質水分量増加効果を容易に評価することが可能になる。したがって、皮膚外用製剤の有効性を正しく把握でき、皮膚状態に適した皮膚外用製剤を提供することが可能になる。
SSL中の標的遺伝子のRNA発現変動比の対数変換値と鱗屑指標であるSEsc値の変化量であるΔSEsc値との関係を示すグラフ。 SSL中の標的遺伝子のRNA発現量変動比の対数変換値と角質水分量の指標であるConductance値の変化量であるΔConductance値との関係を示すグラフ。
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
本発明において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」と云う用語は、DNA又はRNAを意味する。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれ、「RNA」には、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、non-coding RNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
本発明において「遺伝子」とは、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAの他、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片を包含するものであって、DNAを構成する塩基の配列情報の中に、何らかの生物学的情報が含まれているものを意味する。
また、本発明における「遺伝子」には、特定の塩基配列で表される「遺伝子」だけではなく、その同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型等の変異体、及び誘導体が包含される。
ここで、本明細書中に開示される遺伝子の名称は、NCBI([www.ncbi.nlm.nih.gov/])に記載のあるOfficial Symbolに従う。
本発明において、遺伝子の「発現産物」とは、遺伝子の転写産物及び翻訳産物を包含する概念である。「転写産物」とは、遺伝子(DNA)から転写されて生じるRNAであり、「翻訳産物」とは、RNAに基づき翻訳合成される、遺伝子にコードされたタンパク質を意味する。
本発明において、「皮膚表上脂質(SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。SSLは、皮膚細胞で発現したRNAを含む(前記特許文献2参照)。
また本発明において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、角層、表皮、真皮、毛包、並びに汗腺、皮脂腺及びその他の腺等の組織を含む領域の総称である。本発明において、「皮膚」は、好ましくはヒトの皮膚である。
本発明において、「鱗屑」は、表皮の乾燥や角化不全などにより、角層が皮膚表面で剥がれてめくれた状態を指す。「鱗屑の改善」は、鱗屑の状態の好転、悪化の防止、抑制もしくは遅延、あるいは鱗屑の状態の進行の逆転、防止、抑制もしくは遅延をいう。
鱗屑の程度は、皮膚表面における剥がれてめくれた角層の占める面積の割合を指標として表すことができる。例えば2次元皮膚表面キメ解析装置Visioscan VC98(Courage + Khazaka Electronic GmbH)により取得した画像より、SELS(Surface Evaluation of the Living Skin)プログラムを用いて算出される、皮膚表面画像全体の画素数に占める剥がれてめくれた角層に由来する輝度の高い画素数の割合を示すパラメータであるSkin Evaluation of Scaliness値(SEsc値)で表すことができる。本発明において、「鱗屑改善効果」は、皮膚表面における剥がれてめくれた角層の占める面積の低下、好ましくは当該SEsc値の低下に対応する鱗屑の改善効果である。
本発明において、「角層水分量の増加」とは、角層に含まれる水分量が増加することをいう。角層水分量の増加は、角層中に水分を補うことによる水分量の増加、角層の水分の蒸散を抑制することによる水分量の増加を含む。
角層水分量は、例えば、Corneometer(Courage+Khazaha社)により測定されるCapacitance値、SKICON 200―EX(IBS社)により測定される皮膚表面の電気伝導度(Conductance)値で表すことができる。本発明において、「角層水分量増加効果」は、好ましくは当該Conductance値の増加に対応する角層水分量の増加効果である。
本発明において、「皮膚外用製剤」は、皮膚に経皮的に適用される製剤で、皮膚内部へ浸透して皮膚機能を改善する生物学的な作用を持つ(成分を含む)外用剤を意味する。好ましい皮膚外用製剤としては、皮膚機能を改善する有効成分として炭酸ガスを含有する皮膚外用製剤が挙げられる。
皮膚外用製剤の製剤形態は特に限定されず、例えば、軟膏、乳化液、クリーム、乳液、ローション、ジェル、エアゾール等の形態が挙げられる。
本発明において、「評価」は、検出、検査、測定又は判定等の用語で言い換えることもできる。なお、「評価」、「検出」、「検査」、「測定」又は「判定」は、美容等の非治療的な目的で行われるものであり、治療を目的とした医師による診断を含むものではない。
(1.マーカー)
後述する実施例に示すように、本発明者は、炭酸ガス含有皮膚外用製剤と炭酸ガスを含まないプラセボ製剤を、それぞれ被験者の顔全面の左右半顔のいずれか一方ずつに連用塗布した後、塗布部位の皮膚について、鱗屑指標であるSEsc値の変化量(塗布後のSEsc値から塗布前のSEsc値を減じた値:ΔSEsc値)と、角質水分量の指標であるConductance値の変化量(塗布後のConductance値から塗布前のConductance値を減じた値:ΔConductance値)を調べた。
また、前記塗布部位の皮膚から連用塗布前と連用塗布後にSSLを採取し、SSL中に含まれるRNAの発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析した。炭酸ガス含有製剤塗布部位において塗布前後で有意に発現変動した遺伝子を抽出し、プラセボ製剤塗布部位において塗布前後で有意に発現変動しなかった遺伝子を抽出した。そして、これらに共通する遺伝子、すなわちプラセボ製剤塗布では有意に発現変動しなかったが、炭酸ガス含有製剤塗布では有意に発現変動した遺伝子として185種の遺伝子を同定した。
炭酸ガス含有製剤塗布部位における前記185種の遺伝子の塗布前後における発現変動と、同部位におけるΔSEsc値の相関解析を行った。その結果、炭酸ガス含有製剤塗布部位におけるΔSEsc値と有意に正の相関又は負の相関を示す9遺伝子(表1)が見出された。
Figure 2023075830000001
表1に示す9種の遺伝子又はその発現産物の発現は、皮膚外用製剤による鱗屑改善効果を反映している。したがって、表1に示された遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物を評価マーカーとし、その発現レベルに基づいて、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価することができる。
表1に示す9種の遺伝子のうち、表中*を付し太字で表示したARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2の6種の遺伝子は、これまでに鱗屑との関係が報告されていない遺伝子であり、これら遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価するための新規なマーカーである。
本発明では、当該6種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種をマーカーとし、その発現レベルに基づいて皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価すること、あるいは鱗屑改善効果を有する皮膚外用製剤を選択することが可能である。
さらに当該6種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種に加えて、LCE3E、LCE3D及びCDSNの3種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種をマーカーとし、その発現レベルに基づいて皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価すること、あるいは鱗屑改善効果を有する皮膚外用製剤を選択することが可能である。
表1に示す9種の遺伝子のうち、LCE3E、DENR、SPSB3、LCE3D、CDSN、SPNS2、及びBICD2の7種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における製剤塗布前の発現レベルに対する製剤塗布後の発現レベルの比の対数変換値(log2(Fold Change))が、炭酸ガス含有製剤塗布部位におけるΔSEsc値と負の相関を示した。すなわち、ΔSEsc値は負の値の場合鱗屑が改善したと定義されるため、LCE3E、DENR、SPSB3、LCE3D、CDSN、SPNS2、及びBICD2は、皮膚外用製剤による鱗屑の改善度と正の相関を示すポジティブマーカーである。
一方、表1に示す9種の遺伝子のうち、ARAP2及びTMEM50Aの2種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位におけるlog2(Fold Change)が、炭酸ガス含有製剤塗布部位におけるΔSEsc値と正の相関を示した。すなわち、ARAP2及びTMEM50Aは、皮膚外用製剤による鱗屑の改善度と負の相関を示すネガティブマーカーである。
本発明において、ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2の6種の遺伝子は、それぞれ単独で皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価するためのマーカーとなり得るが、このうち、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは6種全ての組み合わせを用いる。
また、前記6種の遺伝子と、LCE3E、LCE3D及びCDSNから選択される少なくとも1種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
本発明においては、表1に示された9種全てを選択することがさらに好ましい。
また、炭酸ガス含有製剤塗布部位における前記185種の遺伝子の塗布前後における発現変動と、同部位におけるΔConductance値の相関解析を行った。その結果、炭酸ガス含有製剤塗布部位におけるΔConductance値と有意に正の相関又は負の相関を示す7遺伝子(表2)が見出された。
Figure 2023075830000002
表2に示す7種の遺伝子又はその発現産物の発現は、皮膚外用製剤による角層水分量増加効果を反映している。したがって、表2に示された遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物を評価マーカーとし、その発現レベルに基づいて、皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価することができる。
表2に示す7種の遺伝子全て、すなわちSTT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2は、これまでに角層水分量との関係が報告されていない遺伝子であり、これら遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価するための新規なマーカーである。
本発明では、当該7種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種をマーカーとし、その発現レベルに基づいて皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価すること、あるいは角層水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択することが可能である。
表2に示す7種の遺伝子のうち、STT3B、TMED7、及びLOC100190986の3種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位におけるlog2(Fold Change)が、炭酸ガス含有製剤塗布部位のΔConductance値と正の相関を示した。すなわち、ΔConductance値は正の値の場合角層水分量が増加したと定義されるため、STT3B、TMED7、及びLOC100190986は、皮膚外用製剤による角層水分量の増加と正の相関を示すポジティブマーカーである。
一方、表2に示す7種の遺伝子のうち、OVCA2、TGM2、VMP1及びARAP2の4種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位におけるlog2(Fold Change)が、炭酸ガス含有製剤塗布部位におけるΔConductance値と負の相関を示した。すなわち、OVCA2、TGM2、VMP1及びARAP2は、皮膚外用製剤による角層水分量の増加と負の相関を示すネガティブマーカーである。
本発明において、STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2の7種の遺伝子は、それぞれ単独で皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価するためのマーカーとなり得るが、このうち、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは7種全ての組み合わせを用いる。本発明においては、表2に示された7種全てを選択することがさらに好ましい。
一実施形態において、本発明のマーカーは、表1又は表2に示す遺伝子のDNA、その転写産物であるRNA等の核酸マーカーである。別の一実施形態において、本発明のマーカーは、当該遺伝子の翻訳産物であるタンパク質マーカーである。本発明のマーカーは、好ましくは核酸マーカーである。
前記の皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価するためのマーカーとなり得る遺伝子(「標的遺伝子」とも称す)には、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価するためのバイオマーカーとなり得る限り、当該遺伝子を構成するDNAの塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子も包含される。ここで、実質的に同一の塩基配列とは、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLASTを用い、期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3の条件にて検索をした場合、当該遺伝子を構成するDNAの塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましく98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性があることを意味する。
本発明のマーカーは、皮膚から採取したSSLから常法にしたがって調製することができる。例えば、SSLからの核酸又はタンパク質の調製には、市販のキットを使用することができる。好ましくは、本発明のマーカーは、被験者のSSLから調製される核酸又はタンパク質、より好ましくは核酸、さらに好ましくはmRNAである。
SSLが採取される皮膚は、SSLを採取し得る動物の皮膚であればよく、ヒトの皮膚が好ましく、健常なヒトの皮膚がより好ましい。SSLが採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられ、皮脂の分泌が多い部位、例えば、顔の皮膚が好ましい。
皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。
SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、等が挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
採取されたSSLは一定期間保存されてもよい。採取されたSSLは、含有するRNAの分解を極力抑えるために、採取後できるだけ速やかに低温条件で保存することが好ましい。本発明における当該RNA含有SSLの保存の温度条件は、0℃以下であればよく、好ましくは-20±20℃~-80±20℃、より好ましくは-20±10℃~-80±10℃、さらに好ましくは-20±20℃~-40±20℃、さらに好ましくは-20±10℃~-40±10℃、さらに好ましくは-20±10℃、さらに好ましくは-20±5℃である。当該RNA含有SSLの当該低温条件での保存の期間は、特に限定されないが、好ましくは12か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ましくは6ヶ月以下、例えば1日間以上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば3日間以上3ヶ月以下である。
SSLからの核酸又はタンパク質の抽出には、生体試料からの核酸又はタンパク質の抽出又は精製に通常使用される方法を使用することができる。核酸の抽出又は精製方法の例としては、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、又はTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)、QIAzol(登録商標)等のカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のRNA抽出試薬による抽出、等が挙げられる。タンパク質の抽出又は精製には、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)等の市販のタンパク質抽出試薬を用いることができる。
(2.評価方法)
別の一態様において、本発明は、前記1.で説明した本発明のマーカーを用いた、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果の評価方法を提供する。
本発明による皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果の評価方法(以下、「本発明の方法」とも称す)では、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取されたSSLについて、本発明のマーカーの発現レベルを測定し、さらにその発現レベルに基づいて、当該皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価する。
一実施形態において、本発明の方法では、本発明のマーカーの発現レベルを指標に、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果の程度を評価する。
また別の一実施形態において、本発明のマーカーの発現レベルを指標に、鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択する。
皮膚に皮膚外用製剤を適用する手法としては、実環境を考慮し、皮膚に皮膚外用製剤を塗布すること、エアゾールスプレー容器、トリガースプレー容器(直圧又は蓄圧型)等を用いて皮膚外用製剤を吐出することにより噴霧すること、等が挙げられる。
皮膚に対する皮膚外用製剤は、任意の適用計画に従って、皮膚に噴霧、塗布等の方法で適用され得るが、1日1回~数回に分け、適用され得る。
適用期間は適宜決定することができ、例えば、1日間以上30日間以下、好ましくは3日間以上20日間以下、より好ましくは5日間以上10日間以下、反復・継続して適用し得る。
(2.1 マーカー発現の解析)
本発明の方法で用いる皮膚は、上述した本発明のマーカーを含むSSLを採取される皮膚と同様である。
一実施形態において、本発明の方法は、当該皮膚からSSLを採取する工程をさらに含んでいてもよい。SSLの採取手順、及びSSLからのマーカーの抽出手順は、上述したとおりである。
本発明のマーカーの発現レベルは、当該分野で通常用いられる核酸又はタンパク質の定量法にしたがって、測定することができる。測定されるマーカーの発現レベルは、SSL中の当該マーカーの絶対量に基づく発現レベルであっても、他の標準物質や、全核酸又は全タンパク質の発現レベルに対する相対発現レベルであってもよい。
例えば、核酸マーカーの発現レベルは、当該分野で通常用いられる遺伝子発現解析の手順にしたがって測定すればよい。遺伝子発現解析の手法の例としては、PCR、マルチプレックスPCR、リアルタイムPCR、ハイブリダイゼーション(DNAチップ、DNAマイクロアレイ、ドットブロットハイブリダイゼーション、スロットブロットハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション等)、シーケンシング、クロマトグラフィー等の核酸又はその増幅産物を定量する方法が挙げられる。核酸がRNAの場合は、RNAを逆転写によりcDNAに変換した後、前記方法で定量することが好ましい。
タンパク質マーカーの発現レベルは、当該分野で通常用いられるタンパク質定量法、例えば免疫測定法(例えば、ウェスタンブロット、ELISA、免疫染色等)、蛍光法、電気泳動、プロテインチップ、クロマトグラフィー、質量分析(例えば、LC-MS/MS、MALDI-TOF/MS)、1-ハイブリッド法(PNAS 100, 12271-12276(2003))、2-ハイブリッド法(Biol. Reprod. 58, 302-311 (1998))等を用いて測定することができる。あるいは、本発明のマーカーである核酸又はタンパク質と相互作用する分子を測定することで、本発明のマーカーの発現レベルを測定してもよい。本発明のマーカーと相互作用する分子としては、DNA、RNA、タンパク質、多糖、オリゴ糖、単糖、脂質、脂肪酸、及びこれらのリン酸化物、アルキル化物、糖付加物等、及び前記いずれかの複合体が挙げられる。
好ましくは、本発明の方法で使用されるマーカーは、SSL由来RNAである。この場合には、SSLに含まれるRNAの発現レベルが測定される。好ましくは、SSLから抽出したRNAを逆転写によりcDNAに変換した後、当該cDNA又はその増幅産物を前記の手法で定量することで、当該SSL由来RNAの発現レベルが測定される。
RNAの逆転写には、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、より包括的な核酸の保存及び解析のためにはランダムプライマーを用いることが好ましい。この逆転写には、一般的な逆転写酵素又は逆転写試薬キットを使用することができる。好適には、正確性及び効率性の高い逆転写酵素又は逆転写試薬キットが用いられ、その例としては、M-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、あるいは市販の逆転写酵素又は逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、SuperScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(Thermo Scientific社)等が挙げられる。SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもThermo Scientific社)等が挙げられる。
逆転写における伸長反応では、温度を好ましくは42℃±1℃、より好ましくは42℃±0.5℃、さらに好ましくは42℃±0.25℃に調整し、一方、反応時間を好ましくは60分間以上、より好ましくは80~120分間に調整することが好ましい。
PCRを用いて核酸マーカーの発現レベルを測定する場合、必要に応じてSSL由来のRNAをcDNAに逆転写した後、プライマーペアを用いて当該SSL由来のDNAを増幅する。PCRでは、解析したい特定のDNAを標的としたプライマーペアを用いて当該特定の1種のDNAのみを増幅してもよいが、複数のプライマーペアを用いて同時に複数の特定のDNAを増幅してもよい。好ましくは、当該PCRはマルチプレックスPCRである。マルチプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット(例えば、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用いて実施することができる。
当該PCRにおけるアニーリング及び伸長反応の温度は、使用するプライマーに依存するため一概には言えないが、前記のマルチプレックスPCRキットを用いる場合、好ましくは62℃±1℃、より好ましくは62℃±0.5℃、さらに好ましくは62℃±0.25℃である。したがって、当該PCRでは、好ましくはアニーリング及び伸長反応が1ステップで行われる。当該アニーリング及び伸長反応のステップの時間は、増幅すべきDNAのサイズ等に依存して調整され得るが、好ましくは14~18分間である。当該PCRにおける変性反応の条件は、増幅すべきDNAに依存して調整され得るが、好ましくは95~99℃で10~60秒間である。前記のような温度及び時間での逆転写及びPCRは、一般的にPCRに使用されるサーマルサイクラーを用いて実行することができる。
前記PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズ等によって行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampure XP等のSolid Phase Reversible Immobilization(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。これらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×VILO RT Reaction Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiFi Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプロトコルにしたがって行うことができる。
リアルタイムPCRを用いて核酸マーカーの発現レベルを測定する場合、必要に応じてSSL由来のRNAをcDNAに逆転写した後、予め放射性同位元素(RI)、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いてPCRを行い、産生される標識二本鎖DNAを検出、定量する。
ノーザンブロットハイブリダイゼーションを用いて核酸マーカーの発現レベルを測定する場合、例えば、常法にしたがってメンブレン上にSSL由来のRNAをトランスファーし、次いでRI、蛍光物質等で標識したプローブDNAを当該RNAにハイブリダイズさせる。形成された標識プローブDNAとRNAとの二重鎖から当該標識に由来するシグナルを検出することにより、核酸マーカーの発現レベルを測定することができる。
DNAマイクロアレイを用いて核酸マーカーの発現レベルを測定する場合、例えば、支持体上に標的の核酸マーカーに特異的にハイブリダイズする核酸(cDNA又はDNA)を固定化したマイクロアレイを用いる。SSLから調製した核酸(cDNA又はcRNA)を蛍光物質等で標識後、マイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の標識を検出することによって、SSL中の核酸マーカーの発現レベルを測定することができる。
前記マイクロアレイに固定化される核酸としては、ストリンジェントな条件下に標的の核酸マーカーに特異的(すなわち、実質的に標的の核酸マーカーのみに)にハイブリダイズする核酸であればよく、本発明の核酸マーカーの全配列を有する核酸であっても、部分配列からなる核酸であってもよい。当該「部分配列」としては、少なくとも15~25塩基からなる核酸が挙げられる。ここでストリンジェントな条件としては、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の洗浄条件、好ましくは「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度の条件、さらに好ましくは「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。ストリンジェントなハイブリダイズ条件は、例えばJ. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)に記載されている。
シーケンシングを用いて核酸マーカーの発現レベルを測定する場合、好ましくは次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いることができる。シーケンシングで作成されたリードの数(リードカウント)に基づいて、DNA又はRNAの発現レベルを測定することができる。
シーケンシングにより複数の核酸マーカーの発現レベルを測定する場合は、前記したリードカウントを発現レベルのデータとして用いることができる。あるいは、当該リードカウントにおけるサンプル間の総リード数の違いを補正した、当該リードカウントのRPM(Reads per million mapped reads)値、当該RPM値の対数値(Log2RPM値、又はLog2(RPM+1)値)、DESeq2(Love MI et al., Genome Biol, 2014)を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)又はその対数値(Log2(Normalized count+1)値)、等を発現レベルのデータとして用いることができる。あるいは、発現レベルのデータとして、RNA-seqの定量値として一般的な、Fragments per kilobase of exon per million reads mapped (FPKM)、reads per kilobase of exon per million reads mapped (RPKM)、transcripts per million (TPM)等を用いることができる。
核酸マーカーの測定に用いられるプローブ又はプライマーは、例えば、本発明の核酸マーカーを特異的に増幅するためのプライマー、又は当該核酸マーカーを特異的に検出するためのプローブであり得る。ここで「特異的」とは、例えばノーザンブロット法において、実質的に本発明のマーカーのみが検出されること、又はPCRにおいて、実質的に本発明のマーカーのみが増幅されること等、実質的に本発明のマーカーに由来する生成物又は検出物が生成するように核酸を認識又は検出できることを意味する。これらのプローブ又はプライマーは、当該核酸マーカーのヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。
プローブ又はプライマーの具体的な例としては、本発明の核酸マーカーの全配列又は部分配列からなるオリゴヌクレオチド又はその相補鎖を利用することができる。前記「相補鎖」とは、標的マーカーを特異的に認識する限り、完全に相補的な配列に限られず、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは99%以上の配列同一性を有する配列であればよい。配列の同一性は、上述したNCBI BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
前記核酸マーカーの測定に用いられるプライマーの例としては、標的の核酸マーカーに対して特異的なアニーリング及び鎖伸長ができるものであって、好ましくは10塩基以上、より好ましくは15塩基以上、さらに好ましくは20塩基以上、かつ好ましくは100塩基以下、より好ましくは50塩基以下、さらに好ましくは35塩基以下の鎖長を有するものが挙げられる。
前記核酸マーカーの測定に用いられるプローブの例としては、標的の核酸マーカーに対して特異的なハイブリダイゼーションができるものであって、好ましくは10塩基以上、より好ましくは15塩基以上、かつ好ましくは100塩基以下、より好ましくは50塩基以下、さらに好ましくは25塩基以下の鎖長を有するものが挙げられる。
前記プローブ又はプライマーは、DNAあるいはRNAであることができ、合成されたものでも天然のものでもよい。ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、通常、標識したものが用いられる。
免疫測定法を用いてタンパク質マーカーの発現レベルを測定する場合、例えば、当該タンパク質マーカーに対する抗体を生体試料と接触させ、当該抗体に結合したタンパク質マーカーを定量すればよい。例えば、ウェスタンブロットでは、当該タンパク質マーカーに対する一次抗体を用いた後、RI、蛍光物質、酵素等で標識した二次抗体を用いて当該一次抗体を標識し、次いで当該標識由来のシグナルを測定することで当該タンパク質マーカーの発現レベルを測定することができる。当該タンパク質マーカーに対する抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、公知の方法にしたがって製造することができる。
(2.2 マーカーの発現レベルに基づく評価方法)
本発明の方法の一実施形態においては、皮膚外用製剤を適用した皮膚に由来する本発明のマーカー(当該皮膚から採取したSSL中に含まれる本発明のマーカー)の発現レベルに基づいて、当該皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価する。
上述したように、前記の表1に示す9種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種のマーカーは、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤の鱗屑改善効果に応じて変動するマーカーである。
したがって、本発明は、表1に示す本発明のマーカーの発現レベルを指標として、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価することができる。
本実施形態の好ましい一例において、本発明の方法で評価される皮膚外用製剤の鱗屑改善効果は、皮膚表面における剥がれてめくれた角層の占める面積の割合の低下、例えば皮膚外用製剤のSEsc値の低下に対応する鱗屑の改善効果である。
本実施形態においては、皮膚外用製剤を適用した皮膚の皮膚外用製剤適用後の皮膚から採取されたSSLについて本発明のマーカーの発現レベルを測定し、測定したマーカーの発現レベルを、予め設定した基準値と比較することによって、当該皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価することができる。
一例において、当該基準値は、皮膚外用製剤を適用しない対照部位、又は皮膚外用製剤適用前の皮膚外用製剤適用部位おける本発明のマーカーの発現レベルとすることができる。前記発現レベルは、皮膚外用製剤を適用していない集団の皮膚から測定した本発明のマーカーの発現レベルの統計値(例えば平均値等)であってもよい。
本発明のマーカーとして複数種のマーカーを用いる場合は、それぞれ各々のマーカーについて基準値を求めることが好ましい。
集団としては、性別、人種、年齢毎に集団を形成してもよい。
基準値の設定、及び当該基準値に基づく皮膚外用製剤の鱗屑改善効果の評価の具体的手法は、当業者の技術常識にしたがって適宜実施することができる。
本実施形態において、本発明のマーカーがポジティブマーカー(LCE3E、DENR、SPSB3、LCE3D、CDSN、SPNS2、及びBICD2)である場合、ポジティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高いと、皮膚外用製剤は鱗屑改善効果を有すると評価される。また、その発現レベルが基準値よりもより高いほど、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果はより高いと評価される。
一方、ポジティブマーカーの発現レベルが基準値と同等かそれよりも低い場合は、皮膚外用製剤は鱗屑改善効果を有さないと評価される。
さらに、2種以上の皮膚外用製剤について、それぞれを適用した場合の本発明のポジティブマーカーの発現レベルを比較することで、皮膚外用製剤間の鱗屑改善効果の高低を評価することができ、本発明のポジティブマーカーの発現レベルが高い皮膚外用製剤ほど、鱗屑改善効果がより高いと評価される。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のポジティブマーカーの発現レベルを比較することで、該被験者おける皮膚外用製剤間の鱗屑改善効果の高低を評価することができ、本発明のポジティブマーカーの発現レベルがより高い皮膚外用製剤ほど、該被験者における鱗屑改善効果がより高いと評価される。
本実施形態において、本発明のマーカーがネガティブマーカー(ARAP2及びTMEM50A)である場合、ネガティブマーカーの発現レベルが基準値よりも低いと、皮膚外用製剤は鱗屑改善効果を有すると評価される。また、その発現レベルが基準値よりもより低いほど、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果はより高いと評価される。
一方、ネガティブマーカーの発現レベルが基準値と同等かそれよりも高い場合は、皮膚外用製剤は鱗屑改善効果を有さないと評価される。
さらに、2種以上の皮膚外用製剤について、それぞれを適用した場合の本発明のネガティブマーカーの発現レベルを比較することで、皮膚外用製剤間の鱗屑改善効果の高低を評価することができ、本発明のネガティブマーカーの発現レベルが低い皮膚外用製剤ほど、鱗屑改善効果がより高いと評価される。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のネガティブマーカーの発現レベルを比較することで、該被験者おける皮膚外用製剤間の鱗屑改善効果の高低を評価することができ、本発明のネガティブマーカーの発現レベルがより低い皮膚外用製剤ほど、該被験者における鱗屑改善効果がより高いと評価される。
本発明のマーカーは、複数の皮膚外用製剤の鱗屑改善効果の相対評価に有用である。
また、前記の表2に示す7種の遺伝子又はその遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種のマーカーは、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤の角層水分量増加効果に応じて変動するマーカーである。
したがって、本発明は、表2に示す本発明のマーカーの発現レベルを指標として、皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価することができる。
本実施形態の好ましい一例において、本発明の方法で評価される皮膚外用製剤の角層水分量増加効果は、皮膚外用製剤のConductance値の増加に対応する角層水分量の増加効果である。
本実施形態においては、皮膚外用製剤を適用した皮膚の皮膚外用製剤適用後の皮膚から採取されたSSLについて本発明のマーカーの発現レベルを測定し、測定したマーカーの発現レベルを、予め設定した基準値と比較することによって、当該皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価することができる。
基準値については、上述したとおりである。
本実施形態において、本発明のマーカーがポジティブマーカー(STT3B、TMED7、及びLOC100190986)である場合、ポジティブマーカーの発現レベルが基準値よりも高いと、皮膚外用製剤は角層水分量増加効果を有すると評価される。また、その発現レベルが基準値よりもより高いほど、皮膚外用製剤の角層水分量増加効果はより高いと評価される。
一方、ポジティブマーカーの発現レベルが基準値と同等かそれよりも低い場合は、皮膚外用製剤は角層水分量増加効果を有さないと評価される。
さらに、2種以上の皮膚外用製剤について、それぞれを適用した場合の本発明のポジティブマーカーの発現レベルを比較することで、皮膚外用製剤間の角層水分量増加効果の高低を評価することができ、本発明のポジティブマーカーの発現レベルが高い皮膚外用製剤ほど、角層水分量増加効果がより高いと評価される。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のポジティブマーカーの発現レベルを比較することで、該被験者おける皮膚外用製剤間の角層水分量増加効果の高低を評価することができ、本発明のポジティブマーカーの発現レベルがより高い皮膚外用製剤ほど、該被験者における角層水分量増加効果がより高いと評価される。
本実施形態において、本発明のマーカーがネガティブマーカー(OVCA2、TGM2、VMP1及びARAP2)である場合、ネガティブマーカーの発現レベルが基準値よりも低いと、皮膚外用製剤は角層水分量増加効果を有すると評価される。また、その発現レベルが基準値よりもより低いほど、皮膚外用製剤の角層水分量増加効果はより高いと評価される。
一方、ネガティブマーカーの発現レベルが基準値と同様かそれよりも高い場合は、皮膚外用製剤は角層水分量増加効果を有さないと評価される。
さらに、2種以上の皮膚外用製剤について、それぞれを適用した場合の本発明のネガティブマーカーの発現レベルを比較することで、皮膚外用製剤間の角層水分量増加効果の高低を評価することができ、本発明のネガティブマーカーの発現レベルが低い皮膚外用製剤ほど、角層水分量増加効果がより高いと評価される。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のネガティブマーカーの発現レベルを比較することで、該被験者おける皮膚外用製剤間の角層水分量増加効果の高低を評価することができ、本発明のネガティブマーカーの発現レベルがより低い皮膚外用製剤ほど、該被験者における角層水分量増加効果がより高いと評価される。
本発明のマーカーは、複数の皮膚外用製剤の角層水分量増加効果の相対評価に有用である。
本発明の方法の一実施形態においては、本発明のマーカーの発現レベルが、基準値に対して好ましくは91%以下、より好ましくは83%以下、さらに好ましくは77%以下であれば、当該マーカーの発現レベルは基準値より低いと判断され得、本発明のマーカーの発現レベルが、基準値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは130%以上であれば、当該マーカーの発現レベルは基準値より高いと判断され得る。あるいは、被験者由来のマーカーの発現レベルと基準値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することができる。標的マーカーとして複数のマーカーを用いる場合には、個々の標的マーカーの発現レベルを基準値と比較し、一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%のマーカーの発現レベルが基準値と異なるか否かを調べることで、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価することができる。
(2.3 マーカーの発現レベルに基づく皮膚外用製剤の選択)
本発明の方法においては、上述のとおり、本発明のマーカーの発現レベルを指標として、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価する。
一例として、ポジティブマーカーである本発明のマーカーの発現レベルを指標とする場合、皮膚外用製剤を適用した皮膚の皮膚外用製剤適用後の皮膚から採取されたSSLについて、ポジティブマーカーの発現レベルを測定し、測定したマーカーの発現レベルが基準値と比較して高ければ、当該皮膚外用製剤は鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する評価され、当該皮膚外用製剤を鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する製剤として選択することができる。ここで、測定したポジティブマーカーの発現レベルと基準値との差に関して任意の数値を規定し、測定したマーカーの発現レベルが基準値よりもこの規定値以上高い場合のみ、当該皮膚外用剤を鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する製剤として選択するなどしても良い。
あるいは、皮膚外用製剤適用後の皮膚外用製剤適用部位におけるポジティブマーカーの発現レベルが別の皮膚外用製剤適用後の皮膚外用製剤適用部位におけるポジティブマーカーの発現レベルと比較して高ければ、当該皮膚外用製剤は鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有し、その効果はより優れていると評価され、当該皮膚外用製剤は、鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果がより優れた製剤として選択することができる。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のポジティブマーカーの発現レベルを比較し、本発明のポジティブマーカーの発現レベルがより高い皮膚外用製剤ほど、該被験者における鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果が高い、より適した皮膚外用製剤として選択することができる。
別の一例として、ネガティブマーカーである本発明のマーカーの発現レベルを指標とする場合、皮膚外用製剤を適用した皮膚の皮膚外用製剤適用後の皮膚から採取されたSSLについて、ネガティブマーカーの発現レベルを測定し、測定したマーカーの発現レベルが基準値と比較して低ければ、当該皮膚外用製剤は鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する評価され、当該皮膚外用製剤を鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する製剤として選択することができる。ここで、測定したネガティブマーカーの発現レベルと基準値との差に関して任意の数値を規定し、測定したマーカーの発現レベルが基準値よりもこの規定値以上低い場合のみ、当該皮膚外用剤を鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する製剤として選択するなどしても良い。
あるいは、皮膚外用製剤適用後の皮膚外用製剤適用部位におけるネガティブマーカーの発現レベルが別の皮膚外用製剤適用後の皮膚外用製剤適用部位におけるネガティブマーカーの発現レベルと比較して小さければ、当該皮膚外用製剤は鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有し、その効果はより優れていると評価され、当該皮膚外用製剤は、鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果がより優れた製剤として選択することができる。
または、特定の被験者に対して2種以上の皮膚外用製剤を適用し、それぞれを適用した場合の本発明のネガティブマーカーの発現レベルを比較し、本発明のネガティブマーカーの発現レベルがより低い皮膚外用製剤ほど、該被験者における鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果が高い、より適した皮膚外用製剤として選択することができる。
(3.評価キット)
さらなる一態様において、本発明は、前記2.で説明した本発明の方法にしたがって皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を評価、あるいは鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択するためのキットを提供する。
一実施形態において、本発明のキットは、上述した本発明のマーカーの発現レベルを測定するための試薬又は器具を備える。例えば、本発明のキットは、本発明の核酸マーカーを増幅又は定量するための試薬(例えば、逆転写酵素、PCR用試薬、プライマー、プローブ、シーケンシング用アダプター配列等)、又は本発明のタンパク質マーカーを定量するための試薬(例えば、免疫学的測定のための試薬、抗体等)を備え得る。好ましくは、本発明のキットは、本発明の核酸マーカーと特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド(例えば、PCR用のプライマー、又はプローブ)、あるいは、本発明のタンパク質マーカーを認識する抗体を含有する。好ましくは、本発明のキットは、本発明のマーカーの発現レベルを評価するための指標又はガイダンスを備える。例えば、本発明のキットは、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果の評価のために、あるいは鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果を有する皮膚外用製剤の選択のために各マーカーの発現レベルの基準値を説明するガイダンス等を備え得る。また、本発明のキットは、生体試料採取デバイス(例えば、前記のSSL吸収性素材又はSSL接着性素材)、生体試料から本発明のマーカーを抽出するための試薬(例えば核酸精製用試薬)、生体試料採取後の試料採取デバイスの保存剤や保存用容器等をさらに備えていてもよい。
実施例1 SSLから抽出されたRNAを用いた鱗屑改善効果又は角層水分量増加効果の評価
1)試験品
表3に示す処方成分のうち、成分(1)、(2)及び(15)を60℃で撹拌し、さらに(10)を混合して撹拌した。その後、残りの成分を加え、撹拌して均一にし、25℃まで冷却して、原液を得、これを「プラセボクリーム」(プラセボ製剤)とした。得られた原液を耐圧容器に充填し、密封後、炭酸ガスを充填して「炭酸ガス含有クリーム」(炭酸ガス含有製剤)とした。これら両製剤を試験品として、以下のヒト試験を実施した。
Figure 2023075830000003
2)ヒト試験
本試験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則を遵守して実施した。
25~50歳の健常男性50名を対象に、左右頬部の皮膚表面を観察し、左右両頬に鱗屑を認めた20名を被験者として選定した。選定した被験者に、試験品であるプラセボクリーム(プラセボ製剤)及び炭酸ガス含有クリーム(炭酸ガス含有製剤)を顔全面の左右半顔のいずれか一方ずつに、1日2回(朝と夜の洗顔後)、連続1週間塗布させた。1回の塗布量について、予め被験者には、プラセボクリームは3プッシュ分、炭酸ガス含有クリームは100円玉大と説明し、塗布量がいずれも0.5gとなるよう規定した。使用前及び使用1週後に物性値測定、皮膚表面画像取得、皮脂(SSL)採取を行った。尚、使用1週後の測定日は、測定2時間前に試験品を塗布させた。
3)物性値測定及び皮膚表面画像取得
試験品使用前及び使用1週後において、全顔を洗顔した後、環境可変室(温度20℃±2℃・湿度40±5%)にて、15分間以上の馴化を行った。その後、左右頬部について、SKICON 200―EX(IBS社)を用いて角層水分量の指標となるConductanceを測定し、Visioscan VC98(Courage+Khazaka Electronics GmbH)を用いて皮膚表面拡大画像を取得した。更に取得した皮膚表面拡大画像から、SELS(Surface Evaluation of the Living Skin)プログラムを用いて鱗屑の指標となるSEsc値を算出した。
4)SSL採取、RNA抽出、前処理、シーケンシング
試験品使用前及び使用1週後において、上記洗顔の前に、左右それぞれの顔半面よりあぶら取りフィルム(5.0cm×8.0cm、白元アース(株))により皮脂(SSL)を採取した。採取されたSSLを含む脂取りフィルムを適当な大きさに裁断した後、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを水層に移行させた。当該水層から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)のRNA抽出用スピンカラムを用いて、付属のプロトコルに従いRNAを抽出した。抽出されたRNAを、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間逆転写し、cDNAを合成した。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コールター株式会社)で精製した後に、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製、及び増幅を行い、ライブラリーを調製した。調製したライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。シーケンシングで得られた各リード配列をヒトゲノムのリファレンス配列であるhg19 AmpliSeq Transcriptome ERCC v1を用いて遺伝子マッピングすることで各リード配列の由来する遺伝子を決定した。
5)データ解析
得られた各被験者の試験品塗布前後のSSL由来のRNAの発現量のデータ(リードカウント値)において、DESeq2という手法を用いて補正した。但し、全被験者の発現量データのうち90%以上の被験者で欠損値ではない発現量データが得られている遺伝子のみ以下の解析に使用した。解析には、DESeq2法を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)を用いた。
6)RNA発現解析
取得された各被験者の試験品塗布前後のSSL由来のRNA発現量(Normalized count値)を基に、炭酸ガス含有製剤塗布前後においてWald検定の結果p<0.05を満たしたRNA(発現変動遺伝子)を抽出した。続いて同様に、プラセボ製剤塗布前後においてWald検定の結果p<0.05を満たさなかった(p>=0.05)RNA(発現非変動遺伝子)を抽出した。これら抽出した2つのRNAにおいて共通するRNA、つまりプラセボ製剤塗布では発現変動しないが炭酸ガス含有製剤塗布により発現変動するRNAを185種同定した。その中で、炭酸ガス含有製剤塗布によって97種が発現上昇し、88種が発現低下していた。
7)相関解析
RNA発現解析によって同定された185種のRNAについて、炭酸ガス含有製剤塗布側における塗布前の発現量データに対する塗布後の発現量データの比の対数変換値(Log2(Fold Change))を算出した。
また、炭酸ガス含有製剤塗布側における塗布後のSEsc値及びConductance値から塗布前のSEsc値及びConductance値を減じて、それぞれの変化量であるΔSEsc値及びΔConductance値を算出した。
Log2(Fold Change)とΔSEsc値とのピアソン相関解析を行い、p<0.05を満たしたRNAのみ抽出した結果、表4並びに図1に示すRNAが抽出された。また、 Log2(Fold Change)とΔConductance値とのピアソン相関解析を行い、p<0.05を満たしたRNAのみ抽出した結果、表5並びに図2に示すRNAが抽出された。
Figure 2023075830000004
Figure 2023075830000005
表4及び図1に示すとおり、LCE3E、DENR、SPSB3、LCE3D、CDSN、SPNS2、及びBICD2の7種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤塗布部位のΔSEsc値と負の相関を示すポジティブマーカーであった。
一方、ARAP2及びTMEM50Aの2種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤塗布部位のΔSEsc値と正の相関を示すネガティブマーカーであった。
また、表5及び図2に示すとおり、STT3B、TMED7、及びLOC100190986の3種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤塗布部位のΔConductance値と正の相関を示すポジティブマーカーであった。
一方、OVCA2、TGM2、VMP1及びARAP2の4種の遺伝子は、炭酸ガス含有製剤の塗布部位における発現レベルが、炭酸ガス含有製剤塗布部位のΔConductance値と負の相関を示すネガティブマーカーであった。

Claims (13)

  1. 皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
  2. 鱗屑改善効果を有する皮膚外用製剤を選択する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
  3. さらにLCE3E、LCE3D、及びCDSN、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルに基づいて前記皮膚外用製剤の鱗屑改善効果を評価することを含む請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
  5. 前記鱗屑改善効果は、皮膚表面における剥がれてめくれた角層の占める面積の割合の低下に対応する鱗屑の改善効果である請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
  6. 皮膚外用製剤の角質水分量増加効果を評価する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
  7. 角質水分量増加効果を有する皮膚外用製剤を選択する方法であって、皮膚外用製剤を適用した皮膚から採取された皮膚表上脂質について、以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
  8. 前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルに基づいて前記皮膚外用製剤の角層水分量増加効果を評価することを含む請求項6又は7記載の方法。
  9. 前記角層水分量増加効果は、Conductance値の増加に対応する角層水分量の増加効果である請求項6~8のいずれか1項記載の方法。
  10. 前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量である請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
  11. 以下の遺伝子:ARAP2、DENR、SPSB3、TMEM50A、SPNS2、及びBICD2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、皮膚外用製剤の鱗屑改善効果の評価のためのマーカー。
  12. 以下の遺伝子:STT3B、OVCA2、TMED7、LOC100190986、TGM2、VMP1及びARAP2、並びに当該遺伝子の発現産物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、皮膚外用製剤の角質水分量増加効果の評価のためのマーカー。
  13. 請求項11又は12記載のマーカーである核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は請求項11又は12記載のマーカーであるタンパク質を認識する抗体を含有する、請求項1~10のいずれか1項記載の方法に用いられるキット。
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