JP2023071631A - Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニング又は評価方法 - Google Patents

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JP2023071631A JP2022180411A JP2022180411A JP2023071631A JP 2023071631 A JP2023071631 A JP 2023071631A JP 2022180411 A JP2022180411 A JP 2022180411A JP 2022180411 A JP2022180411 A JP 2022180411A JP 2023071631 A JP2023071631 A JP 2023071631A
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健二 長船
Kenji Nagafune
利和 荒岡
Toshikazu Araoka
隆一郎 平山
Ryuichiro Hirayama
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Abstract

【課題】Alport症候群の予防又は治療薬をスクリーニング又は評価する方法を提供すること。【解決手段】Alport症候群患者由来の体細胞から得られた多能性幹細胞又はIV型コラーゲンα3、α4及びα5遺伝子の全て若しくは1つ以上に変異を有する多能性幹細胞を分化誘導して得られた腎オルガノイド又はそれに含まれる腎構成細胞を薬剤候補物質と接触させる工程、及び当該腎オルガノイド又はそれに含まれる腎構成細胞における、IV型コラーゲンα3~5鎖の発現を測定する工程、を含む、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニング又は評価方法。【選択図】図7

Description

本発明は、Alport症候群患者由来の体細胞から得られた多能性幹細胞又はIV型コラーゲン遺伝子に変異を有する多能性幹細胞を分化誘導して得られた腎臓オルガノイドを用いてAlport症候群の予防又は治療薬をスクリーニング又は評価する方法に関する。
Alport症候群は、腎糸球体基底膜を構成する蛋白であるIV型コラーゲン遺伝子(COL4A3、COL4A4、COL4A5)の変異により発症し、末期腎不全に進行しうる慢性腎炎、難聴、眼合併症などを呈する症候群である。これらの遺伝子を改変した疾患モデルマウスやラットなどの実験動物を用いた研究が行われてきたが、完全な病態解明には至らず、根治的な治療法は開発されていない。

近年、難治性疾患の患者体細胞から樹立したiPS細胞又は健常者由来iPS細胞に原因遺伝子変異を導入した疾患特異的iPS細胞を樹立し、in vitroにおいて罹患細胞種に分化誘導
することによって、病態を再現する疾患モデルを作製し、詳しい病態解析や治療薬探索を行う疾患モデル作製研究が盛んに行われている。しかし、Alport症候群の腎病変については、未だ病態解析や治療薬探索に使用可能なiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた疾患モ
デルは確立されていない(非特許文献1)。
WO2018/216743
J Pharmacol Exp Ther, 2018, 367(2), 335-347.
本発明は、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニングや評価に使用可能なAlport症候群モデルを開発することを課題とする。
発明者らのグループは、特許文献1において、iPS細胞から腎臓オルガノイドを作製す
る方法を開発した。そして、今回、上記課題を解決するために、Alport症候群患者の末梢血単核細胞からiPS細胞を樹立し、特許文献1に記載の分化誘導法と同様の方法を用いて
ネフロン前駆細胞を経て作製した腎組織を培養することによって、IV型コラーゲンα3鎖
、α4鎖、α5鎖から選択されるIV型コラーゲンα鎖をAlport症候群の病態に応じて発現するAlport症候群モデルを作製することに成功した。そして、このモデルを利用し、糸球体基底膜におけるIV型コラーゲンα3鎖、α4鎖、α5鎖の発現等を指標とすることで、Alport症候群の治療薬候補物質のスクリーニングや評価を効率よく行うことができることを見
出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]以下の工程を含む、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニング又は評価方法。
(a)Alport症候群患者体細胞由来の又はIV型コラーゲンα3(COL4A3)遺伝子、IV型コ
ラーゲンα4(COL4A4)遺伝子及びIV型コラーゲンα5(COL4A5)遺伝子の全て若しくは1
つ以上に変異を有する多能性幹細胞を培養し、糸球体基底膜が形成されるまで腎オルガノイドへ分化誘導する工程、
(b)該腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞に候補物質を接触させる工程、及び
(c)該腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞におけるIV型コラーゲンα3鎖、
α4鎖及び/又はα5鎖の発現を測定する工程。
[2]腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞が、以下の工程により得られたものである、[1]に記載の方法。
(i)多能性幹細胞を、FGF(線維芽細胞増殖因子)2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK
(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤及びレチノイン酸又はその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤及びBMP7を含む培地で培養
する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7及びTGF(トランスフォーミング増殖因子)β阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、アクチビン及びROCK
阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸又はその誘導体、BMP阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工程;
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工
程;及び
(vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養することにより細胞塊を形成させて培養する工程。
[3]Alport症候群患者の体細胞由来の又はCOL4A3遺伝子、COL4A4遺伝子及びCOL4A5遺伝子の全て若しくは1つ以上に変異を有する多能性幹細胞を培養し、
糸球体基底膜が形成されるまで分化誘導して得られた腎オルガノイドを含むAlport症候群モデル。
本発明において、発明者らのグループは、Alport症候群患者由来iPS細胞株からネフロ
ン前駆細胞を経て腎組織を作製したところ、重症例の患者iPS細胞株由来腎組織における
糸球体はIV型コラーゲンα3鎖(COL4A3遺伝子産物)を発現しない一方で、軽症例の患者iPS細胞株由来の糸球体ではその発現を認め、腎症状の重症度によって、作製したAlport症候群モデルの糸球体基底膜におけるIV型コラーゲンα鎖の発現が異なることも見出した。
したがって、本発明により作製されるAlport症候群モデルは、糸球体基底膜におけるIV型コラーゲンα3鎖やα5鎖等の発現などAlport症候群の病態をより生体に近い状態で反映しており、当該疾患のin vitroモデルとして極めて優れている。本発明のAlport症候群モデルを使用することで、治療薬開発をこれまでにない高い精度で行うことができる。また、本発明により作製される病態モデルを用いて、Alport症候群の病態解明を行うことができる。
また、発明者らのグループは、COL4A5遺伝子に変異を有する2症例(腎症状が軽症と重
症の各1例)のAlport症候群患者の末梢血単核細胞からiPS細胞を樹立し、さらに、そのうちの1例のiPS細胞においてCRISPR/Cas9 システムを用いてCOL4A5遺伝子変異を修復したiPS細胞を樹立した。Alport症候群患者由来iPS細胞から作製された腎オルガノイドでの化合物の評価結果と、遺伝子変異修復iPS細胞から作製された腎オルガノイドでの化合物の評
価結果を比較することで、Alport症候群の予防又は治療薬のより特異的な評価が可能となる。
健常人由来のiPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドを培養した際の経時的な変化を示す図(顕微鏡写真:明視野像)。スケールバーは300μmを示す。 ヒトiPS細胞(Alport症候群患者由来とその遺伝子修復株及び健常者由来)から分化した腎オルガノイドのトルイジンブルー染色像(顕微鏡写真:明視野像)。スケールバーは200μmを示す。 健常人由来iPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドの免疫染色(NEPHRIN、PODOCALYXIN、WT1(糸球体マーカー)、LAMININ β2(基底膜マーカー)、LTL(近位尿細管マーカー)、CDH1(遠位尿細管マーカー))結果を示す蛍光顕微鏡写真。スケールバーは50μmを示す。 腎オルガノイドの内部構造を透過型電子顕微鏡において観察した図。近位尿細管刷子縁構造、尿細管上皮構造、糸球体足細胞の足突起を確認した。スケールバーはそれぞれ、糸球体足細胞:2μm、足突起:1μm、近位尿細管上皮:2μm、尿細管上皮:10μmを示す。 健常人由来iPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドにおける経時的なmRNA発現変動を解析した図。成熟糸球体基底膜の構成タンパク質をコードする遺伝子であるCOL4A3/COL4A4/COL4A5の発現は経時的に上昇した。エラーバーは標準誤差を示し、Dunnett’s testにより有意差を検出した。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001。 健常人由来iPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドにおけるIV型コラーゲンα5鎖の免疫染色像。α5鎖は経時的な発現変動を示し、day 13+21(iPS細胞を分化誘導して腎オルガノイドの形成に要した13日間からさらに21日経過後)において発現が認められた。スケールバーは50μmを示す。 ヒトiPS細胞(Alport症候群患者由来とその遺伝子修復株及び健常者由来)から分化した腎オルガノイドにおけるIV型コラーゲンα5鎖の免疫染色像。Alport症候群患者由来iPS細胞から分化した腎オルガノイドではIV型コラーゲンα5鎖由来蛍光を認めなかった。スケールバーは50μmを示す。 ヒトiPS細胞(Alport症候群患者由来及び健常者由来)から分化した腎オルガノイドにおけるIV型コラーゲンα3鎖の免疫染色像。軽傷Alport症候群患者由来iPS細胞から分化した腎オルガノイドではIV型コラーゲンα3鎖由来蛍光を認めたが、重症Alport症候群患者由来iPS細胞から分化した腎オルガノイドではIV型コラーゲンα3鎖由来蛍光を認めなかった。スケールバーは50μmを示す。 軽症Alport症候群患者由来iPS細胞から分化した腎オルガノイドに対して4-Phenylbutyric acidを作用させ、IV型コラーゲンα5鎖の発現を免疫染色によって確認した図。スケールバーは50μmを示す。
本発明のAlport症候群治療薬のスクリーニング又は評価方法は、Alport症候群患者由来の体細胞から得られたiPS細胞などの多能性幹細胞又はCOL4A3遺伝子、COL4A4遺伝子及びCOL4A5遺伝子の全て若しくは1つ以上に変異を有するiPS細胞などの多能性幹細胞を分化誘導して得られた腎オルガノイド又はそれに含まれる腎構成細胞を薬剤候補物質と接触させる工程、及び当該腎オルガノイド又はそれに含まれる腎構成細胞における、IV型コラーゲンα3(COL4A3)/IV型コラーゲンα4(COL4A4)/IV型コラーゲンα5(COL4A5)鎖の発現
、及び/又はmRNAの発現量を測定する工程、を含む。
これらの疾患は一般に遺伝子異常によって引き起こされる。例えば、Alport症候群の原因遺伝子はCOL4A3遺伝子、COL4A4遺伝子及び/又はCOL4A5遺伝子が挙げられる。
COL4A3遺伝子(Ensembl gene ID:ENSG00000169031)は基底膜蛋白質“IV型コラーゲン
α3(IV)”をコードする。IV型コラーゲンα3(IV)としては、例えば、UniProtKBデータベ
ースのアクセッション番号:Q01955に登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質が
挙げられる。ただし、IV型コラーゲンα3(IV)のアミノ酸配列は人種などにより異なるた
め、この特定のアミノ酸配列には限定されず、当該アミノ酸配列と80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
COL4A4遺伝子(Ensembl gene ID:ENSG00000081052)は基底膜蛋白質“IV型コラーゲン
α4(IV)”をコードする。IV型コラーゲンα4(IV)としては、例えば、UniProtKBデータベ
ースのアクセッション番号:P53420に登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質が
挙げられる。ただし、IV型コラーゲンα4(IV)のアミノ酸配列は人種などにより異なるた
め、この特定のアミノ酸配列には限定されず、当該アミノ酸配列と80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
COL4A5遺伝子(Ensembl gene ID:ENSG00000188153)は基底膜蛋白質“IV型コラーゲン
α5(IV)”をコードする。IV型コラーゲンα5(IV)としては、例えば、UniProtKBデータベ
ースのアクセッション番号:P29400に登録されているアミノ酸配列を有するタンパク質が
挙げられる。ただし、IV型コラーゲンα5(IV)のアミノ酸配列は人種などにより異なるた
め、この特定のアミノ酸配列には限定されず、当該アミノ酸配列と80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
これらのCOL4A3遺伝子、COL4A4遺伝子及びCOL4A5遺伝子の変異は、例えば、J Am Soc Nephrol 21: 876-883, 2010、Kidney International 55: 1217-1224, 1999及びJ Am Soc Nephrol 12: 97-106, 2001等に報告されている。また、Hum Mutat. 2010 Aug;31(8):E1652-7やHum Mutat. (2003) 21:577-581. 等のデータベースで報告されている変異でもよい。
例えば、COL4A5遺伝子のG545D missense変異、T552Sfs*6 frameshift変異などが挙げられる。
したがって、Alport症候群患者はこれらの遺伝子に変異(ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異などを含む)を有することが好ましい。対立遺伝子の一方に変異を有するヘテロ接合体変異個体でもよいが、対立遺伝子の両方に変異を有するホモ接合体変異個体でもよい。例えば、COL4A3及びCOL4A4に遺伝子異常を有するAlport症候群患者の場合はヘテロ接合体変異個体で軽症、ホモ接合体変異個体は重症となるためホモ接合体変異個体が好ましい。X染色体上に位置するCOL4A5に遺伝子異常がある場合は女性ではヘ
テロ接合体変異個体で軽症、ホモ接合体変異個体は重症となるためホモ接合体変異個体が好ましく、男性患者ではヘミ接合体変異個体は重症となるためヘミ接合体変異個体が好ましい。
Alport症候群患者由来の体細胞からiPS細胞を作製するにあたっては、患者由来の体細
胞をそのまま使用してiPS細胞を作製してもよいが、健常人由来体細胞から得られたiPS細胞(正常iPS細胞とも呼ぶ)にAlport症候群患者由来の変異型COL4A3遺伝子、COL4A4遺伝
子及び/又はCOL4A5遺伝子をヘテロ、ホモ又はヘミ接合体として導入することで、「Alport症候群患者由来の体細胞から得られたiPS細胞」を再現し、それを使用してもよい。このとき、前述の正常iPS細胞は、COL4A3遺伝子、COL4A4遺伝子及びCOL4A5遺伝子の全て若し
くは1つ以上に変異を有してよい。
体細胞としては、特に限定されないが、成熟した体細胞だけでなく、胎児(仔)や新生児(仔)の体細胞も包含され、また、初代培養細胞、継代細胞、及び株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞及び脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
本願明細書及び請求の範囲において多能性幹細胞とは、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、例えば胚性幹(ES)細胞(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol.
Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)、精子幹細胞
(「GS細胞」)(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)、人工多能性幹(iPS)細胞(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);WO2007/069666)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性幹細胞(Muse細胞)(WO2011/007900)などが含まれる。好ましくは、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
本明細書において腎オルガノイドという場合は、糸球体及び尿細管からなる分化したネフロン、ネフロン前駆細胞、間質細胞を有する、高次構造をもつ腎臓様組織を意味する。
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知の方法を採用することができ、例えば、体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3又はGlis1等の遺伝子又は遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795-797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525-528、Eminli S,et al.(2008),Stem
Cells.26:2467-2474、Huangfu D,et al.(2008
),Nat.Biotechnol.26:1269-1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568-574、Zhao Y,e
t al.(2008),Cell Stem Cell,3:475-479、Mars
on A,(2008),Cell Stem Cell,3,132-135、Feng B,et al.(2009),Nat.Cell Biol.11:197-203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459-461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc
Natl Acad Sci U S A.106:8912-8917、Kim JB,et
al.(2009),Nature.461:649-643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491-503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167-74、H
an J,et al.(2010),Nature.463:1096-100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713-720、Ma
ekawa M,et al.(2011),Nature.474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
iPS細胞などの多能性幹細胞から腎オルガノイドへの分化誘導は公知の方法を使用する
ことができるが、好ましくは特許文献1に記載された以下の工程(i)~(vi)を含む
方法を使用することができる。
(i)iPS細胞などの多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤及びレチノイン酸又はその誘導体を含む培地で培養する工程;
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤及びBMP7を含む培地で培養
する工程;
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7及びTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程;
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、アクチビン及びROCK
阻害剤を含む培地で培養する工程;
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸又はその誘導体、BMP阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工程;
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工
程;及び
(vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養により細胞塊を形成させて培養する工程。
工程(i)~(vi)は接着培養で行うことが好ましい。
接着培養とは、細胞が培養基材に接着した状態で培養されることを意味し、例えば、コーティング処理された培養皿にて培養することを意味する。コーティング剤としては、細胞外基質が好ましく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン及びラミニンといった物質又はこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細胞からの調製物であってもよい。細胞外基質は
好ましくは、ラミニン又はその断片である。本発明においてラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質であり、サブユニット
鎖の組成が異なるアイソフォームが存在する細胞外マトリックスタンパク質である。ラミニンは、5種のα鎖、4種のβ鎖及び3種のγ鎖のヘテロ三量体の組合せで約15種類のアイ
ソフォームを有する。特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4又はα5であり、β鎖は、β1、β2、β3又はβ4であり、並びにγ鎖は、γ1、γ2又はγ3が例示される。ラミニンは、より好ましくは、α5、β1及びγ1からなるラミニン511である(Nat Biotechnol 28, 611-615 (2010))。ラミニンは断片であってもよく、インテグリン結合活性を有している断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメント(ラミニン511E8)(EMBO J., 3:1463-1468, 1984、J. Cell Biol., 105:589-598, 1987、WO2011/043405)であってもよい。ラミニン511E8は市販されており、例えばニッピ株式会社等から購入可能である。
各工程に使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へ各工程で必要なサイトカインや薬剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essentia
l Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’sF12(F12)培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、又は無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Thermo Fisher Scientific)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前
駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、及びこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。ReproFF2(リプロセル)など、あらかじめ幹細胞培養用に最適化された培地を使用してもよい。
以下、各工程についてさらに説明する。
(i)iPS細胞などの多能性幹細胞を、FGF2、BMP4、GSK-3β阻害剤及びレチノイン酸又はその誘導体を含む培地で培養する工程
工程(i)では、iPS細胞などの多能性幹細胞を当該分野で公知の方法で分離し、培養す
ることができる。
iPS細胞などの多能性幹細胞の分離の方法としては、例えば、力学的分離や、プロテア
ーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(商標)及びAccumax
(商標)(Innovative Cell Technologies,Inc)が挙げられる)又はコラゲナーゼ活性
のみを有する分離溶液を用いた分離が挙げられる。
工程(i)において使用されるGSK-3β阻害剤は、GSK-3βの機能、例えば、キナーゼ活性を阻害できるものである限り特に限定されず、例えば、インジルビン誘導体であるBIO
(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、マレイミド誘
導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニル-α-ブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(α,4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(GSK-3βペプチド阻害剤)及び高い選択性を有
するCHIR99021(Nature(2008)453:519-523)が挙げられる。これらの化合物は、例え
ば、Stemgent社、Calbiochem社、Biomol社等から入手可能である。GSK-3β阻害剤として
は、CHIR99021が挙げられる。本工程で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β
阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから3μMであり、特に好ましくは0.5μMから1.5μMである。
工程(i)で使用されるFGF2(塩基性FGF:bFGF)はヒトFGF2が好ましく、ヒトFGF2と
しては、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のアクセッ
ション番号:ABO43041.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。FGF2は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるFGF2は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF2の濃度は、1ng/mLから1000ng/mL、好ましくは、10ng/mLから500ng/mL、より好ましくは、50ng/mLから250ng/mLである。
工程(i)で使用されるBMP4はヒトBMP4が好ましく、ヒトBMP4としては、例えば、NCBI
のアクセッション番号:AAH20546.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。BMP4は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるBMP4は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP4の濃度は、0.1ng/mLから100ng/mL、好ましくは、0.5ng/mLから50ng/mL、より好ましくは、0.5ng/mLから5ng/mLである。
工程(i)において使用されるレチノイン酸は、レチノイン酸そのものでもよいし、天然のレチノイン酸が有する分化誘導機能を保持するレチノイン酸誘導体でもよい。レチノイン酸誘導体として、例えば、3-デヒドロレチノイン酸、4-[[(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)carbonyl]amino]-Benzoic acid(AM580
)(Tamura K,et al.,Cell Differ.Dev.32:17-2
6(1990))、4-[(1E)-2-(5,6,7,8-tetrahydro-5,5,8,8-tetramethyl-2-naphthalenyl)-1-propen-1-yl]-Benzoic acid(TTNPB)(Strickland S,et al.,Cancer Res.43:5268-5272(1983))、及びTanenaga,K.et al.,Cancer Res.40:914-919(1980)に記載されている化合物、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3-デヒドロレチノール、3-デヒドロレチナール等が挙げられる。
工程(i)で用いるレチノイン酸又はその誘導体の濃度は、例えば、1nMから100nM、好ましくは、5nMから50nM、より好ましくは、5nMから25nMである。
工程(i)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(i)の培養時間は後期後方エピブラストが分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~2日の培養であり、好ましくは1日である。
(ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤及びBMP7を含む培地で培養
する工程
工程(ii)で使用されるFGF2は工程(i)で説明したものと同様であり、その好ましい濃度範囲も同様である。
工程(ii)において使用されるGSK-3β阻害剤は、前述の工程(i)において例示し
たGSK-3β阻害剤を使用することができ、好ましいGSK-3β阻害剤としては、CHIR99021が
挙げられる。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから50μM、さらに好ましくは、1μMから20μMであり、特に好ましくは2から10μMである。工程(ii)で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は工程(i)に
おける濃度より増加させることが好ましい。
工程(ii)で使用されるBMP7はヒトBMP7が好ましく、ヒトBMP7としては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NM_001719.2のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる
。BMP7は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含されるBMP7は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるBMP7の濃度は、0.1ng/mLから100ng/mL、好ましくは、0.5ng/mLから50ng/mL、より好ましくは、0.5ng/mLから5ng/mLである。
工程(ii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(ii)の培養時間は中胚葉系譜原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば、10時間~2日、又は1~2日の培養であり、好ましくは0.5~1日である。
(iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7及びTGFβ阻害剤を含む培地で培養する工程
工程(iii)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7は工程(ii)と同様
であり、その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μ
Mから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
工程(iii)において使用されるTGFβ阻害剤は、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害
する物質、又はALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば
、Lefty-1(NCBI アクセッション番号として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(WO2009146408)及びこ
れらの誘導体などが例示される。TGFβ阻害剤は、好ましくは、A83-01であり得る。
培養液中におけるTGFβ阻害剤の濃度は、ALKを阻害する濃度であれば特に限定されないが、0.5μMから100μM、好ましくは、1μMから50μM、さらに好ましくは、5μMから25μMである。
工程(iii)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iii)の培養時間は中胚葉系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば0.25~3日の培養であり、好ましくは0.5~2日であり、さらに好ましくは0.75~1.5日である。
(iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、アクチビン及びROCK
阻害剤を含む培地で培養する工程
工程(iv)において使用されるFGF2、GSK-3β阻害剤は工程(ii)と同様であり、
その好ましい濃度範囲も同様であるが、GSK-3β阻害剤の濃度範囲は0.01μMから1
00μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから7.5μMであり、特に好ましくは2から5μMである。
工程(iv)において使用されるアクチビンには、ヒト及び他の動物由来のアクチビン並びにこれらの機能的改変体が包含されるが、アクチビンAが好ましく、ヒトアクチビンAがより好ましい。ヒトアクチビンAとしては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NP_002183.1又はUniProtのアクセション番号P08476.2のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げ
られる。例えば、R&D systems社等の市販されているものを使用することがで
きる。工程(iv)で用いるアクチビンの濃度は、1ng/mLから100ng/mL、好ましくは、5ng/mLから50ng/mL、より好ましくは、5ng/mLから25ng/mLである。
工程(iv)において使用されるROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(Rho-associated protein kinase, ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y-27632(例、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976-983(2000);Narumiya et al.,Me
thods Enzymol.325,273-284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenata et al.,Nature 389:990-994(1997)参照)、H-1152(例、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225-232(2002)参照)、Wf-536(例、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol.52(4):319-324(2003)参照)及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセ
ンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。好ましいROCK阻害剤としてはY-27632が挙げられる。工程(iv)
において使用されるROCK阻害剤の濃度は、使用するROCK阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、0.1μMから100μM、好ましくは、1μMから75μM、さらに好ましくは、5μMから50μMである。
なお、本工程は、培地にさらにBMP7を含んで培養することもできる。
工程(iv)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(iv)の培養時間は後腎系譜後期原始線条が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~5日の培養であり、好ましくは3日である。
(v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸又はその誘導体、BMP阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工程
工程(v)において使用されるレチノイン酸又はその誘導体は工程(i)で説明したとおりであり、その好ましい濃度範囲は例えば、10nMから500nM、好ましくは、50nMから250nMである。
工程(v)において使用されるFGF9はヒトFGF9が好ましく、ヒトFGF9としては、例えば、NCBIのアクセッション番号:NP_002001.1のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げら
れる。FGF9は分化誘導活性を有する限りその断片及び機能的改変体が包含される。FGF9は市販されているものを使用してもよいし、細胞から精製されたタンパク質や遺伝子組み換えで生産されたタンパク質を使用してもよい。この工程で用いられるFGF9の濃度は、例えば、1ng/mLから500ng/mL、10ng/mLから500ng/mL、50ng/mLから300ng/mL、又は150ng/mLから250ng/mLである。
工程(v)において使用される培地は、さらに、BMP阻害剤を含む。
BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin (すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo [1,5-a]pyrimidine)、その誘導体 (P.B. Yu et al. (2007),Circulation,116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J.Hao et al.(2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)及びLDN193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。
BMP阻害剤としてより好ましくはNOGGINであり、その濃度は、例えば、1ng/mLから
100ng/mL、5ng/mLから50ng/mL、10ng/mLから30ng/mLである。
工程(v)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましく
は約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われる。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。工程(v)培養時間は後期後方中間中胚葉が分化誘導されるのに十分な期間であればよいが、例えば1~3日の培養であり、好ましくは2日である。
(vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工

工程(vi)において使用されるGSK-3β阻害剤及びFGF9はそれぞれ工程(i)及び工
程(v)で説明したとおりであり、その好ましい濃度範囲も同様である。
工程(vi)の培養日数は、腎前駆細胞が得られる限り特に制限はないが、例えば、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上が挙げられる。培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行わ
れ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
(vii)工程(vi)で得られた細胞(腎前駆細胞)を非接着培養することにより細胞塊を形成する工程
腎前駆細胞から腎オルガノイド、すなわち糸球体、尿細管、基底膜、血管、間質組織を内包する細胞凝集体を得る方法としては、例えば、上記方法で得られた腎前駆細胞を非接着培養して細胞塊を作製し、それを、3T3-Wnt4細胞などのフィーダー細胞、マウス胎仔脊髄細胞、又はマウス胎仔腎細胞と共培養する方法、又はCHIR99021などのGSK-3β阻害剤を含む基礎培地を使用して半気相培養を行う方法(参考文献 Nature, 526, 564-568 (2015))、又は非接着プレートを用いて細胞塊を浮遊培養する方法が挙げられる。浮遊培養のとき、オービタルシェーカーなどの浸透培養装置を用いてもよい。培地は、GSK-3β阻害剤
に加えて、FGF9やFGF2、さらにはROCK阻害剤を含むことができる。FGF9やFGF2、ROCK阻害剤の好ましい濃度は上記と同様である。なお、浮遊培養を行う場合のある態様においては、細胞外マトリクス、GSK-3β阻害剤やFGF2を、例えば、当該培養開始~2日後まで、当該培養開始~4日後まで、当該培養開始~8日後までの日数のみ培地に含有させることを含む方法があげられる。細胞外マトリクスとしては、BD Biosciences社から発売されているマトリゲル等の市販されているものを使用できる。
工程(vii)の培養日数は、腎オルガノイドが形成される限りにおいて特に制限はないが、例えば、4日以上、7日以上、14日以上、21日以上、28日以上が挙げられる。腎前駆細胞分化誘導工程において、培養温度は、以下に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃であり、CO2インキュベーターで培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
上記のようにして得られた腎オルガノイドは、ボーマン嚢上皮細胞、尿細管細胞、糸球体足細胞などの腎構成細胞を含み、IV型コラーゲンα3、IV型コラーゲンα4、IV型コラーゲンα5の1つ以上を発現する。そして、これらIV型コラーゲンα鎖の発現がAlport症候群の症状の重篤度などと相関するため、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニングや評価に好適に使用できる。なお、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニングや評価においては、上記のようにして得られた腎オルガノイドに含まれる腎構成細胞を使用してもよい。ここで、腎構成細胞としては、上記の通り、ボーマン嚢上皮細胞、尿細管細胞、糸球体足細胞などが含まれるが、糸球体足細胞を少なくとも含むことが好ましい。
本発明のスクリーニング方法又は評価方法においては、任意の被験物質を用いることができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が例示される。本発明において、被験物質はまた、(1)生物学
的ライブラリ法、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリ法、(3)「1ビー
ズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリ法、及び(4)アフィニティクロマト
グラフィ選別を使用する合成ライブラリ法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の
低分子化合物ライブラリに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85;
Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409
号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラ
スミド(Cull et al.(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 89: 1865-9)若しくはファ
ージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 87: 6378-82; Felici (1991)
J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
IV型コラーゲンα鎖の発現を指標にして薬剤のスクリーニング又は評価を行う場合、例えば、腎オルガノイドを培養する際及び/又はその前後に、被験物質を接触させて一定期
間(例えば、1時間~1週間)培養したのちに、IV型コラーゲンα鎖の発現を測定し、それを、被験物質を接触させない場合と比較する態様が挙げられる。IV型コラーゲンα鎖の発現は、例えば、後述の蛍光で測定することが可能である。
患者由来のiPS細胞から分化誘導した腎オルガノイドを培養すると、健常者由来のiPS細胞から分化誘導した腎オルガノイドの場合と比較しても顕著に、IV型コラーゲンα3/ IV
型コラーゲンα4/ IV型コラーゲンα5鎖の発現が消失する。ここで、被験物質を接触させたときに、IV型コラーゲンα3/ IV型コラーゲンα4/ IV型コラーゲンα5鎖の発現した場
合に、その被験物質はIV型コラーゲンα鎖の発現を増加又は亢進する能力を有すると評価したり、Alport症候群予防又は治療薬の候補物質として選択したりすることができる。
一方、腎オルガノイドを用いて細胞内mRNA発現量を測定することで、薬剤のスクリーニングや評価を行うこともできる。細胞内mRNA発現量測定のためには、腎オルガノイドを直接使用するか、糸球体や糸球体足細胞などの腎構成細胞を単離して用いることが好ましい。腎オルガノイドから糸球体の単離は、例えば、篩を用いて構造体の大きさを利用し単離するSieving 法を実施することができる(Hale et al. (2018) Nat. Commun. 9: 5167)。腎オルガノイドから糸球体足細胞の単離は、例えばPODOCALYXINやNEPHRINなどの糸球体足細胞マーカーに対する抗体を用いたソーティングなどにより行うことができる。
このとき、発現を測定(評価)するIV型コラーゲンα鎖は、IV型コラーゲンα3/ IV型
コラーゲンα4/ IV型コラーゲンα5鎖の全て又は1つ以上とすることができる。
細胞内mRNA発現量は常法に従って行うことができる。具体的には、Buffer RLT(QIAGEN)などの細胞溶解液によりRNAを抽出し、ReverTra Ace(東洋紡)及びTB Green Premix Ex Taq TM IIなどのpolymerase chain reaction(PCR)試薬を用いてQuantStudio3(Thermo
Fisher Scientific)などのリアルタイムPCRシステムで測定する方法が挙げられる。これによって定量的逆転写PCR(RT-qPCR)を実施し、蛍光強度の増加を指標としてmRNA発現量を測定できる。
本発明においては、Alport症候群の予防又は治療薬の候補物質の評価やスクリーニングに際して、陽性コントロールを使用してもよい。
このような陽性コントロールとしては、IV型コラーゲンα鎖の発現を上昇させることのできる4-phenylbutyric acid(4-PBA)などが使用できる。
本発明においては、疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドでの測
定結果を、遺伝子変異修復iPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドでの測定結果と比
較することが好ましい。また、正常iPS細胞においてCOL4A3遺伝子/COL4A4遺伝子/COL4A5
遺伝子の1つ以上に変異を導入した株から分化誘導された腎オルガノイドでの測定結果を
、親株である正常iPS細胞から分化誘導された腎オルガノイドでの測定結果と比較するこ
とも好ましい。
なお、上記遺伝子変異修復iPS細胞とは、Alport症候群患者の原因遺伝子の変異箇所を
正常に置換したiPS細胞を意味し、当該変異箇所が正常配列に置換された以外は、当該Alport症候群者と同じ遺伝子情報を有するiPS細胞を意味する。このような遺伝子修復iPS細
胞からの腎オルガノイドと比較することにより、より正確に薬剤のAlport症候群に対する効果を評価することができる。遺伝子変異修復iPS細胞は公知の遺伝子修復技術により調
製することができる。例えば、CRISPR/Cas9、TALEN、ZFNなどのゲノム編集技術により、
患者由来iPS細胞におけるAlport症候群原因遺伝子を正常型に置換することで行うことが
できる。具体的には、CRISPR/Cas9の場合、患者由来iPS細胞に、Cas9及びgRNAとともに、正常型配列を有するオリゴヌクレオチドを導入し、変異配列を置換することにより、行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の態様は以下の実施例には限定されない。
実施例1
<実験手順>
iPS細胞からの腎前駆細胞の誘導
COL4A5遺伝子に変異を有するAlport症候群患者の体細胞にエピソーマルベクターによってOCT3/4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、mouse p53DD、EBNA1遺伝子を導入してiPS細胞を
作製した(CiRA00878-2株、CiRA01058-2株)。得られたiPS細胞をWO2018/216743の方法又は一部修正した方法で培養し、腎(ネフロン)前駆細胞を得た。コントロールとして、健常人由来iPS細胞から同様にして腎(ネフロン)前駆細胞を得た。なお、CiRA00878株はG545D、missense変異を、CiRA01058-2株はT552Sfs*6、frameshift変異を有した。
また、以下のiPS細胞からも同様にして腎(ネフロン)前駆細胞を誘導した。
1)CiRA00878-2株の変異型COL4A5遺伝子をゲノム編集技術により正常型COL4A5遺伝子に修復したiPS細胞株である(CiRA00878-2-re15株)。
IV型コラーゲンα5鎖発現腎オルガノイド作製と成熟度合いの判定
(実験方法)
1.上記の通り、未分化ヒトiPS細胞(患者由来、患者由来遺伝子修復又は健常人由来)から、WO2018/216743に記載の又は一部修正した分化誘導系を用いてネフロン前駆細胞を作
製し、それを用いて以下の手順で腎オルガノイドを作製した。
2.未分化ヒトiPS細胞を24-well plateに播種し、一晩37℃、5%CO2で培養した。その翌
日をDay 0とし、DMEM/F12 Glutamax培地(Thermo Fisher Scientific)、ビタミンA非含
有B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、500 U/mLペニシリン/ストレプトマイシンからなるネフロン前駆細胞誘導培地を用いて分化誘導を開始した。
3.Day 0において、100 ng/mL FGF2、1μM CHIR99021、10 nM Retinoic acid、1 ng/mL BMP4を含むネフロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。
4.Day 1において、100 ng/mL FGF2、5μM CHIR99021、1 ng/mL BMP7を含むネフロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。
5.Day 2において、100 ng/mL FGF2、5μM CHIR99021、1 ng/mL BMP7、1μM A83-01を含
むネフロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。
6.Day 3からDay5において、100 ng/mL FGF2、5μM CHIR99021、10 ng/mL Activin A、30μM Y27632を含むネフロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。なお、Day 5においてAccutaseにより単一の細胞に解離し、24-well plateに再播種した。7.Day 6において、200 ng/mL FGF9、100 nM Retinoic acid、25 ng/mL Nogginを含むネ
フロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。
8.Day 8において、200 ng/mL FGF9、1μM CHIR99021を含むネフロン前駆細胞誘導培地に交換し、37℃、5%CO2で培養を継続した。
9.Day 9のネフロン前駆細胞をAccutaseにより単一の細胞に解離した。24-well plateの1 wellあたり300μLのAccutaseを加え、37℃、5%CO2で5~10分間インキュベートした。7%FBS含有培地3.7 mLを加え反応停止及び細胞を回収し、穏やかなピペッティングにより
単一の細胞まで解離した。
10.細胞懸濁液の細胞数を測定した。
11.ネフロン前駆細胞誘導培地に200 ng/mL FGF9、1μM CHIR99021及びY-27632を終濃
度10μMになるよう加え、細胞凝集体作製時の培地とした。
12.細胞凝集体1個あたり5.0×103~1.0×105 cellsとなるように細胞懸濁液をエッペンドルフチューブに分注し、5分間200Gで遠心した。
13.上清を捨て、上記の手順11で作製した培地を用いて細胞凝集体1個あたり50~100μLとなるように細胞を再懸濁した。
14.U底の96-well plate(非接着)に細胞懸濁液を50~100μL/wellで分注し、3分間300Gで遠心した。
15.1日間培養後、上記の手順4に記載した組成からY-27632を除いた培地を作製し、100μL/wellで培地交換を実施し、さらに3日間培養した。
16.形成された細胞凝集体をday 0の腎オルガノイドとし、KR5培地(DMEM/F12 Glutamax、0.1 mM non-essential amino acids、500 U/mLペニシリン/ストレプトマイシン、55μM 2-メルカプトエタノール及び5%KnockOut serum replacement(Thermo Fisher Scientific))に200 ng/mL FGF9、1μM CHIR99021、2% GFR Matrigelを加えたものを培地とし、100μL/wellで培地交換した。
17.2日間培養後、2 mLのKR5培地(0.05%ポリビニールアルコール含有)を6-well plateに分注し、形成したオルガノイドを広口チップにより6-well plateに移してorbital shakerを用いて50rpmで培養した。
18.以降、3~5日間ごとにKR5培地(0.05%ポリビニールアルコール含有)を用いて培
地交換し、day 21以降の成熟基底膜を有する腎オルガノイドまで培養した。
腎オルガノイド中の基底膜の成熟度の判定は以下の手順で行った。
1.Day 21又は成熟度を判定したい腎オルガノイドをPBSにより残留培地を洗浄除去した
。その後、腎オルガノイドを氷冷したアセトンに浸漬し、15分間氷上で固定した。その後、固定又は非固定の腎オルガノイドをO.C.Tコンパウンドを用いて包埋し、-80℃のディープフリーザーで凍結した。
2.クライオスタットを用いて厚さ4μmの凍結切片を作製し、Fluorochrome-conjugated Anti Collagen IV cocktail(重井医学研究所)、Anti-Collagen IVα5(IV) Chain(重井医学研究所)、Rat Anti-Human Alpha 3(IV) NC1 antibody Clone H31(Chondrex)、Anti-Wilms Tumor Protein 抗体[CAN-R9(IHC)-56-2](Abcam)を用いて免疫染色した。
3.蛍光顕微鏡(BZ-X700)又は共焦点顕微鏡(FV-3000)にて観察し、糸球体足細胞領域内に存在する基底膜におけるIV型コラーゲンα5鎖及びIV型コラーゲンα3鎖の発現を確認
した。
作製した腎オルガノイドの遺伝子発現解析
1.上記手順1~11と同様に、解析したい腎オルガノイドを作製した。
2.作製した腎オルガノイドをバイオマッシャーII(ニッピ)回収し、PBSを用いて残留
培地を洗浄除去した後、2-メルカプトエタノールを1%含有するBuffer RLT(QIAGEN)350μLを加え攪拌棒により完全に溶解し、-80℃で凍結保管した。
3.保管した溶解液を室温で融解し、RNeasy(QIAGEN)をマニュアル通りにRNAを抽出し
た。
4.抽出したRNAをReverTra Ace(東洋紡)及びTB Green Premix Ex Taq TM II(タカラ
バイオ)を用いて、Quant studio3(Thermo Fisher Scientific)を使用しRT-qPCRを実施した。得られたCt値をもとに腎オルガノイド中に発現していたmRNA発現量を定量解析した。
<結果>
図1に示すように、健常人由来iPS細胞株から内部に構造物を有する腎オルガノイドを
作製できた。また、day 13+28(iPS細胞を分化誘導して腎オルガノイドの形成に要した13日間からさらに28日経過後)時点において、各iPS細胞株由来腎オルガノイドはトルイジ
ンブルーにより染色される構造体を同様に有することを確認した(図2)。さらに、健常人由来iPS細胞腎オルガノイドのday 13+28時点における凍結切片を用いて免疫染色を実施したところ、糸球体マーカーであるNEPHRIN、PODOCALYXIN、WT1、基底膜マーカーであるLAMININ β2、近位尿細管マーカーであるLTL、遠位尿細管マーカーであるCDH1陽性である
ことが確認でき、作製した腎オルガノイドは腎臓様構造を有することを示した(図3)。また、day 13+28の腎オルガノイドを透過型電子顕微鏡により観察したところ、足突起を
有する細胞や、刷子縁を有する尿細管上皮細胞などの腎特異的な微細構造が存在することを確認できた(図4)。
図5に示すように、健常人由来iPS細胞株から経時的に成熟し、mRNA発現が上昇してい
くことを確認した。さらに、免疫染色の結果、day 21以降IV型コラーゲンα5鎖を発現す
る腎オルガノイドを作製でき(図6)、IV型コラーゲンα3鎖も同様に発現することから
成熟基底膜を有することを確認できた(図8)。
さらに、Alport症候群患者由来iPS細胞株から作製した腎オルガノイドではIV型コラー
ゲンα5鎖の発現が認められず、COL4A5遺伝子修復株から作製した腎オルガノイドではIV
型コラーゲンα5鎖の発現が認められた(図7)ため、病態が再現できていることを確認
した。また、軽症患者より樹立したAlport症候群患者由来iPS細胞株(CiRA00878-2株)から作製した腎オルガノイドでは、IV型コラーゲンα3鎖の発現が認められたが、重症患者
より樹立したAlport症候群患者由来iPS細胞株(CiRA01058-2株)ではIV型コラーゲンα5
鎖だけでなくIV型コラーゲンα3鎖の発現も確認できなかった(図8)。糸球体基底膜中
のコラーゲン発現パターンにより疾患の重症度合いが異なる傾向にあることが報告されており(Gong Wei et al., Nephrol Dial Transplant 2006 21: 3146-3154)、本結果は腎
オルガノイドによって患者の病態進行を予測可能であることを示唆すると考えた。
実施例2
<実験手順>
実施例1と同様にしてAlport症候群患者から作製したiPS細胞(CiRA00878-2株)を使用
し、同様の手順に従って腎オルガノイドを作製した。
Day 21まで培養した腎オルガノイドに対し、終濃度10 mMになるよう4-phenylbutyric acid(4-PBA)を加えたKR5(0.05%ポリビニールアルコール含有)に置換し、1日間培養を継続した。4-PBAを作用させた腎オルガノイドを、前述の腎オルガノイド中の基底膜の成
熟度の判定手順と同様の方法によってIV型コラーゲンα5鎖の発現の有無を確認した。
<結果>
図9に示すとおり、4-PBAの暴露によって免疫染色によりIV型コラーゲンα5鎖の発現を検出できた。本結果から、Alport症候群患者由来iPS細胞から作製した腎オルガノイドに
よりIV型コラーゲンα5鎖の発現を指標とした化合物スクリーニングが可能であることが
考えられた。
本明細書中に言及される、特許、公開出願及びその他の刊行物、アメリカ国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)などのデータベースを通して入手可能な配列情報並びに他のデータは、その一部又は全体が、参照により組み込まれる。

Claims (3)

  1. 以下の工程を含む、Alport症候群の予防又は治療薬のスクリーニング又は評価方法。
    (a)Alport症候群患者体細胞由来の又はIV型コラーゲンα3(COL4A3)、IV型コラーゲン
    α4(COL4A4)、IV型コラーゲンα5(COL4A5)遺伝子の全て若しくは1つ以上に変異を有する多能性幹細胞を培養し、糸球体基底膜が形成されるまで腎オルガノイドへ分化誘導する工程、
    (b)該腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞に候補物質を接触させる工程、及び
    (c)該腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞におけるIV型コラーゲンα3/4/5
    鎖の発現を測定する工程。
  2. 腎オルガノイド又はこれに含まれる腎構成細胞が、以下の工程により得られたものである、請求項1に記載の方法。
    (i)多能性幹細胞を、FGF(線維芽細胞増殖因子)2、BMP(骨形成タンパク質)4、GSK
    (グリコーゲン合成酵素キナーゼ)-3β阻害剤及びレチノイン酸又はその誘導体を含む培地で培養する工程;
    (ii)工程(i)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤及びBMP7を含む培地で培養
    する工程;
    (iii)工程(ii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、BMP7及びTGF(トランスフォーミング増殖因子)β阻害剤を含む培地で培養する工程;
    (iv)工程(iii)で得られた細胞を、FGF2、GSK-3β阻害剤、アクチビン及びROCK
    阻害剤を含む培地で培養する工程;
    (v)工程(iv)で得られた細胞を、レチノイン酸又はその誘導体、BMP阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工程;
    (vi)工程(v)で得られた細胞を、GSK-3β阻害剤及びFGF9を含む培地で培養する工
    程;及び
    (vii)工程(vi)で得られた細胞を非接着培養することにより細胞塊を形成させて培養する工程。
  3. Alport症候群患者の体細胞由来の又はCOL4A3、COL4A4、COL4A5遺伝子の全て若しくは1つ以上に変異を有する多能性幹細胞を培養し、
    糸球体基底膜が形成されるまで分化誘導して得られた腎オルガノイドを含むAlport症候群モデル。
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