本明細書において、「FGFR3病」は、FGFR3中に突然変異を有することにより骨形成異常を生じたあらゆる骨形成疾患を意味する。FGFR3病は、好ましくは、骨系統疾患の国際分類(Warman et al., Am J Med Genet 155A(5):943-68 (2011))に記載されたFGFR3病群に属する一連の疾患を意味し、例えば、致死性骨異形成症 (TD) 、軟骨無形成症 (ACH)、軟骨低形成症、Camptodactyly, tall stature, and hearing loss syndrome (CATSHL)、Crouzon-like craniosynostosis with acanthosis nigricans (Crouzonodermoskeletal)、頭蓋骨早期癒合症などが挙げられる。FGFR3中に生じる突然変異は、機能獲得型もしくは機能欠損型のいずれの変異であってもよいが、好ましくは、機能獲得型の突然変異であり得る。
iPS細胞の製造方法
本発明において、iPS細胞は、ある特定の核初期化物質を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入すること、または薬剤によって当該核初期化物質の内在性のmRNAおよびタンパク質の発現を上昇させることによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676、K. Takahashi et al. (2007) Cell, 131: 861-872、J. Yu et al. (2007) Science, 318: 1917-1920、M. Nakagawa et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 101-106、国際公開WO 2007/069666および国際公開WO 2010/068955)。核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であればよく、特に限定されないが、例えば、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, Nanog, Esrrb, Esrrg, Glis1などが例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つもしくは5つを含む組み合わせである。
上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列ならびに当該cDNAにコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照すること、またL-Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、EsrrgおよびGlis1のマウスおよびヒトのcDNA配列およびアミノ酸配列情報については、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。当業者は、当該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
Glis1 NM_147221 NM_147193
これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85, 348-62, 2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが挙げられる。さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., (2009), Nature, 458: 771-775、Woltjen et al., (2009), Nature, 458: 766-770 、WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO 2009/149233)。また、複数の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたは口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008およびWO 2009/092042 2009/152529)。
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例えばHDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えばBIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例えばG9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIFまたはbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えばSB431542)(Nat. Methods, 6: 805-8 (2009))、mitogen-activated protein kinase signalling阻害剤、glycogen synthase kinase-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA (R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))、等を使用することができる。
薬剤によって核初期化物質の内在性のタンパク質の発現を上昇させる方法を用いてもよく、このような薬剤としては、6-bromoindirubin-3'-oxime、indirubin-5-nitro-3'-oxime、valproic acid、2-(3-(6-methylpyridin-2-yl)-lH-pyrazol-4-yl)-1,5-naphthyridine、1-(4-methylphenyl)-2-(4,5,6,7-tetrahydro-2-imino-3(2H)-benzothiazolyl)ethanone HBr(pifithrin-alpha)、prostaglandin J2、prostaglandin E2等が例示される(WO 2010/068955)。
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGFまたはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地(リプロセル、京都、日本)、mTeSR-1)、などが含まれる。
培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培地中で体細胞と核初期化物質 (DNAまたはタンパク質) を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞 (例えばマイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにES細胞様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5-10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい。このときフィーダー細胞の代わりに細胞外マトリックスを用いてもよく、当該細胞外マトリックスとして、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン(例えば、ラミニン111、411または511、またはその断片)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの断片、またはこれらの組み合わせが例示される。
あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞 (例えばマイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球、非T細胞)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、それらの前駆細胞 (組織前駆細胞) 等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞 (体性幹細胞も含む) であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。本発明において、FGFR3病患者由来のiPS細胞を製造するためには、血液細胞または線維芽細胞、とりわけヒト皮膚線維芽細胞(HDF)を用いることが好ましい。
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。
本発明において、FGFR3病を患う対象由来の体細胞から作製されたiPS細胞は、FGFR3遺伝子中にFGFR3病患者に特有の突然変異を有し得る。FGFR3病患者に特有の突然変異は、TDの場合には、Arg248Cys, Ser249Cys, Gly370Cys, Ser371Cys, Tyr373Cys, Lys650Glu, X807Arg, X807Cysなどが挙げられ、ACHの場合には、Gly380Arg, Gly375Cysなどが挙げられるがこれらに限定されない。
軟骨細胞への分化誘導法
iPS細胞から軟骨細胞を分化誘導する方法としては、当分野において用いられる任意の方法を採用することができ、本願出願時において当業者に知られていた方法のみならず、本願出願後において開発された分化誘導方法を採用することも可能である。軟骨細胞を分化誘導する方法として、例えば、Koyama, N. et al. Stem cells and development 22, 102-113 (2013)、Hwang, N.S., et al. PLoS ONE 3, e2498 (2008)、Oldershaw, R.A. et al. Nat. Biotechnol. 28, 1187-1194 (2010)、Bai, H.Y., et al. Journal of biomedical materials research. Part A 94, 539-546 (2010)、Yamashita, A. et al. Scientific Reports 3 (2013)などに記載の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において「軟骨細胞」は、コラーゲンなど軟骨を構成する細胞外マトリックスを産生する細胞、または、このような細胞となる前駆細胞を意味する。また、このような軟骨細胞は、軟骨細胞マーカーを発現する細胞であってもよく、軟骨細胞マーカーとしてII型コラーゲン(COL2A1)、SOX9またはAGGRECANが例示される。本発明において、COL2A1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_001844またはNM_033150、マウスの場合、NM_001113515またはNM_031163に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子ならびに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。本発明において、SOX9には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_000346、マウスの場合、NM_011448に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子ならびに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。本発明において、AGGRECANには、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_001135もしくはNM_013227、マウスの場合、NM_007424に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子ならびに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。また、本発明における軟骨細胞外マトリックスは、サフラニンOおよびその類縁体により染色され得る細胞外マトリックスである。本発明において好ましくは、軟骨細胞は、当該軟骨細胞から産生された細胞外マトリックスから成る培養物(パーティクル)の状態(軟骨様組織)であってもよい。
軟骨細胞への分化誘導には、例えば、下記のプロトコールにしたがって行われ(Oldershaw, R.A. et al. Nat. Biotechnol. 28, 1187-1194 (2010))、このとき、任意の分化誘導因子が用いられる。本発明において使用される分化誘導因子は、例えば、Wnt3A、Activin、FGF2、BMP4、Follistatin、GDF5およびNT4などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの因子は、軟骨細胞への分化培養工程の任意の段階において、任意の組み合わせで添加することができ、好ましくは、(1)iPS細胞をWnt3A、ActivinおよびFGF2を添加した基礎培地で培養する工程、(2)(1)で得られた細胞をFGF2、BMP4、FollistatinおよびNT4を添加した基礎培地で培養する工程、ならびに(3)(2)で得られた細胞をFGF2、BMP4、GDF5およびNT4を添加した基礎培地で培養する工程を含む方法が例示される。工程を通して、細胞は、培養容器へ接着した状態で培養してもよく、培養液に浮遊した状態で培養しても良い。当該接着培養においては、例えば、マトリゲル(BD)、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせを用いてコーティング処理された培養容器を使用できる。
基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、および1%血清を含むDMEM/F12である。
基礎培地におけるWntの濃度は、例えば、1-200 ng/mlの範囲内、好ましくは10-50 ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、110ng/ml、120ng/ml、130ng/ml、140ng/ml、150ng/ml、160ng/ml、170ng/ml、180ng/ml、190ng/ml、200ng/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、25ng/mlである。
基礎培地におけるActivinの濃度は、例えば1-200 ng/mlの範囲内、好ましくは10-50 ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、110ng/ml、120ng/ml、130ng/ml、140ng/ml、150ng/ml、160ng/ml、170ng/ml、180ng/ml、190ng/ml、200ng/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、25ng/mlである。培地におけるActivinの濃度は、培養期間中に変更することができ、例えば、50ng/mlで1日間培養した後、25ng/mlに換えて1日間培養し、さらに10ng/mlに換えて1日培養することが挙げられる。
基礎培地におけるFGF2の濃度は、例えば1-100ng/mlの範囲内、好ましくは20-40ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mであるがこれらに限定されない。好ましくは、20ng/mlである。
基礎培地におけるBMP4の濃度は、例えば1-100ng/mlの範囲内、好ましくは20-40ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、40ng/mlである。培地におけるBMP4の濃度は、培養期間中に変更することができ、例えば、40ng/mlで6日間培養した後、25ng/mlに換えて2日間培養することが挙げられる。
基礎培地におけるFollistatinの濃度は、例えば、1-200 ng/mlの範囲内、好ましくは50-150 ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、110ng/ml、120ng/ml、130ng/ml、140ng/ml、150ng/ml、160ng/ml、170ng/ml、180ng/ml、190ng/ml、200ng/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mlである。
基礎培地におけるGDF5の濃度は、例えば1-100ng/mlの範囲内、好ましくは20-40ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mであるがこれらに限定されない。好ましくは、40ng/mlである。培地におけるGDF5の濃度は、培養期間中に変更することができ、例えば、20ng/mlで2日間培養した後、40ng/mlに換えて3日間培養することが挙げられる。
基礎培地におけるNT4の濃度は、例えば1-10ng/mlの範囲内、好ましくは1-5ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、1.5ng/ml、2ng/ml、2.5ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、2ng/mlである。
本発明においては、好ましくは、修正した次の工程を含むiPS細胞から軟骨細胞を誘導する方法である;(i)iPS細胞を接着培養により中胚葉細胞を誘導する工程、(ii)前記工程(i)で得られた細胞をbFGF、アスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を含む培養液中で接着培養する工程および(iii)前記工程(ii)で得られた細胞をアスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を含む培養液中で浮遊培養する工程を含む方法にて行われる。
(i)iPS細胞を接着培養により中胚葉細胞を誘導する工程
本発明において、中胚葉細胞とは、動物の発生期の原腸胚期において、内胚葉と外肺葉の間に発生する細胞を意味し、好ましくは、BRACHYURYが陽性である細胞を意味する。本発明において、BRACHYURYには、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_001270484またはNM_003181、マウスの場合、NM_009309に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。
本発明において、iPS細胞から中胚葉細胞を誘導する方法は、特に限定されないが、Activin AおよびGSK-3β阻害剤を含有する培養液で培養する方法が例示される。
本工程(i)では、好ましくは、iPS細胞をフィーダー細胞を含まない条件下で接着培養し、適度な大きさ(1×105から2×105細胞を含有する細胞塊)になった時点で、Activin AおよびGSK-3β阻害剤を含有する培養液へ交換し培養する方法である。
本発明において、接着培養とは、細胞外基質によりコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行い得る。コーティング処理は、細胞外基質を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。
本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(TM)などの細胞からの調製物であってもよい。人工物としては、ラミニンの断片が例示される。本発明において、ラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質であり、特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2またはβ3であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される。本発明において、ラミニンの断片とは、インテグリン結合活性を有しているラミニンの断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメントが例示される。
本工程(i)において使用される培養液は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へActivin AおよびGSK-3β阻害剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、および1%血清を含むDMEM/F12である。
本工程(i)において、Activin Aには、ヒトおよび他の動物由来のActivin A、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、R&D systems社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるActivin Aの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(i)において、GSK-3β阻害剤は、GSK-3βの機能、例えば、キナーゼ活性を直接または間接的に阻害できるものである限り特に限定されず、例えば、Wnt3a、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)および高い選択性を有するCHIR99021(Nature (2008) 453: 519-523)などが挙げられる。これらの化合物は、例えば、Stemgent、CalbiochemやBiomol社等から入手可能であり、また自ら作製してもよい。本工程で用いる好ましいGSK-3β阻害剤としては、Wnt3aが挙げられる。Wnt3aには、ヒトおよび他の動物由来のWnt3a、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、R&D systems社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるGSK-3β阻害剤の濃度は、使用するGSK-3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、GSK-3β阻害剤としてWnt3aを用いる場合、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(i)において、培養温度は特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば5日以下の培養であり、好ましくは3日である。
(ii)前記工程(i)で得られた細胞をbFGF、アスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を含む培養液中で接着培養する工程
本工程(ii)では、前記工程(i)で得られた細胞培養物の培養液を除去し、bFGF、アスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を含有する培養液を添加して行い得る。従って、前記工程(i)において細胞培養物は、培養皿へ接着していることから、本工程(ii)は接着培養によって行い得る。
本工程(ii)において使用される培養液は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へbFGF、アスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、および1%血清を含むDMEMである。
本工程(ii)において、bFGFには、ヒトおよび他の動物由来のbFGF、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、WAKO社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるbFGFの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(ii)において、アスコルビン酸は、例えば、Nakarai社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるアスコルビン酸の濃度は、5 μg/mlから500 μg/ml、好ましくは、10 μg/mlから100 μg/ml、より好ましくは、50 μg/mlである。
本工程(ii)において、BMP2には、ヒトおよび他の動物由来のBMP2、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、Osteopharma社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるBMP2の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(ii)において、TGFβには、ヒトおよび他の動物由来のTGFβ、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、PeproTech社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるTGFβの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(ii)において、GDF5には、ヒトおよび他の動物由来のGDF5、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、PeproTech社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるGDF5の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(ii)において、培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば15日以下の培養であり、好ましくは11日である。
(iii)前記工程(ii)で得られた細胞をアスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を含む培養液中で浮遊培養する工程
本工程(iii)では、前記工程(ii)で得られた細胞培養物を培養容器より剥離させ、浮遊培養することで行い得る。本工程(iii)において、細胞培養物を剥離させる方法は、力学的分離方法(ピペッティング等)により行うことが好ましく、プロテアーゼ活性および/またはコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、トリプシンとコラゲナーゼの含有溶液であるAccutase(TM)およびAccumax(TM)(Innovative Cell Technologies, Inc)が挙げられる)を用いない方法が好ましい。
本発明の方法において使用される浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、または、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)した培養容器を使用して行うことが好ましい。
本工程(iii)において使用される培養液は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へアスコルビン酸、BMP2、TGFβおよびGDF5を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、および1%血清を含むDMEMである。
本工程(iii)において、アスコルビン酸は、例えば、Nakarai社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるアスコルビン酸の濃度は、5 μg/mlから500 μg/ml、好ましくは、10 μg/mlから100 μg/ml、より好ましくは、50 μg/mlである。
本工程(iii)において、BMP2には、ヒトおよび他の動物由来のBMP2、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、Osteopharma社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるBMP2の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(iii)において、TGFβには、ヒトおよび他の動物由来のTGFβ、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、PeproTech社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるTGFβの濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(iii)において、GDF5には、ヒトおよび他の動物由来のGDF5、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、PeproTech社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるGDF5の濃度は、0.1 ng/mlから1000 ng/ml、好ましくは、1 ng/mlから100 ng/ml、より好ましくは、5 ng/mlから50 ng/ml、さらに好ましくは、10 ng/mlである。
本工程(iii)において、培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば10日以上30日以下の培養であり、好ましくは14日以上28日以下である。
(iv)前記工程(iii)で得られた細胞をさらに浮遊培養する工程
前記工程(iii)により、軟骨細胞を製造することが可能であるが、より成熟した軟骨細胞を得るために、前記工程(iii)で得られた細胞培養物をさらに、浮遊培養してもよい。
本工程(iv)において使用される培養液は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地である。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、10%血清を含むDMEMである。
本工程(iv)において、培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、特に長期にわたることにより軟骨細胞の製造に問題を生じないことから、例えば20日以上の培養期間が例示され、好ましくは28日以上である。
上述した工程(iii)または(iv)の後に軟骨細胞を得るためには、浮遊している細胞を選択的に抽出することが好ましい。本発明の方法により得られる軟骨細胞は、培養液に浮遊している細胞にその多くが存在していることに鑑み、培養容器に接着している細胞を選択的に除外して抽出することが好ましい。
FGFR3病の治療薬および/または予防薬のスクリーニング方法
本発明は、前述のように得られたiPS細胞由と被験物質とを接触させ、各指標を用いて、FGFR3病の治療薬および/または予防薬の被験物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明の一つの態様として、次の工程を含む方法によってFGFR3病の治療薬および/または予防薬をスクリーニングすることができる;
(a)FGFR3病を患う対象由来の体細胞から作製された人工多能性幹(iPS)細胞を、被験物質と接触させるおよび接触させない条件下で軟骨細胞へと分化させる工程、
(b)工程(a)で得られた培養物中における軟骨細胞外マトリックスの量、軟骨細胞マーカー遺伝子および線維芽細胞マーカー遺伝子の発現量から成る群より選択される一つ以上の指標を測定する工程、および
(c)被験物質と接触させる条件下において、接触させない条件下より軟骨細胞外マトリックス量または軟骨細胞マーカー遺伝子が増加した場合、もしくは線維芽細胞マーカー遺伝子の発現量が減少した場合、当該被験物質をFGFR3病の治療薬または予防薬として選出する工程。
工程(a)は、上述した軟骨細胞への分化誘導工程であり、被験物質は、全ての工程において細胞と接触させてもよく、好ましくは、前記工程(2)および/または前記工程(3)、または、前記工程(ii)および/または前記工程(iii)において接触させてもよく、より好ましくは、前記工程(ii)および前記工程(iii)において細胞と接触させることである。
ここで使用されるFGFR3病を患う対象由来の体細胞から作製されたiPS細胞は、FGFR3遺伝子中にFGFR3病患者に特有の突然変異を有し得る。FGFR3病患者に特有の突然変異は、TDの場合には、Arg248Cys, Ser249Cys, Gly370Cys, Ser371Cys, Tyr373Cys, Lys650Glu, X807Arg, X807Cysなどが挙げられ、ACHの場合には、Gly380Arg, Gly375Cysなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のスクリーニング方法においては、任意の被験物質を用いることができ、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が挙げられる。本発明において、被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー法、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
本発明のスクリーニング方法における対象疾患としては、骨形成異常に関する疾患、とりわけ、FGFR3病であり得る。FGFR3病は、より重篤な順に、致死性骨異形成症 (TD) 、軟骨無形成症 (ACH)、軟骨低形成症を含むが、これらに限定されない。本発明のスクリーニング方法における対象疾患として、好ましくは、致死性骨異形成症 (TD)および/または軟骨無形成症 (ACH)である。
本発明では、軟骨細胞における各マーカー遺伝子の発現量を測定することによって成し得る。マーカー遺伝子として、軟骨細胞マーカー遺伝子および線維芽細胞マーカー遺伝子が例示され、軟骨細胞マーカー遺伝子は、例えば、SOX9、AGGRECAN、COL2などが挙げられるがこれらに限定されない。線維芽細胞マーカー遺伝子としては、COL1A1、COL1A2などが挙げられるが、これらに限定されない。このほかにも軟骨細胞に特異的に発現している遺伝子(タンパク質)を標的とする抗体染色などの方法によっても、軟骨細胞量を測定することができる。
本発明における軟骨細胞外マトリックスの量の測定は、軟骨様組織を特異的に染色する物質を用いて行うことができる。軟骨様組織を特異的に染色する物質は、例えば、サフラニンOやその類縁体を挙げることができるがこれらに限定されない。
FGFRの変異を有する疾患(例えば、FGFR3病)の治療剤および/または予防剤
本発明のスクリーニング方法によって得られる物質は、種々の軟骨疾患の治療剤および/または予防剤の有効成分として有用である。本発明の処置対象となる軟骨疾患は、通常よりも減少した軟骨の量を何らかの手段で増加させることにより治療および/または予防が可能である疾患であれば何でもよい。本発明の処置対象となる軟骨疾患として、例えば、変形性関節症、軟骨損傷、軟骨形成異常症などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の処置対象となる軟骨疾患は、軟骨の成長過程における軟骨形成不全による疾患が適応症として最も好ましく、このような病態であれば、いずれの疾患でもあっても特に限定されないが、例えば、FGFR(FGFR1、FGFR2およびFGFR3)における変異を有する病態が挙げられる。このような病態として、Warman et al., Am J Med Genet 155A(5):943-68 (2011)に記載の疾患が例示される。本発明において見出された治療剤を使用するにあたり、FGFR3病が好ましい適応症例である。
本発明において、好ましいFGFRの変異を有する疾患(例えば、FGFR3病)の治療および/または予防剤は、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含む医薬である。本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害薬は、例えば、メバスタチン(コンパクチン)(USP3983140参照)、プラバスタチン(特開昭57-2240号公報(USP4346227)参照)、ロバスタチン(特開昭57-163374号公報(USP4231938)参照)、シンバスタチン(特開昭56-122375号公報(USP4444784)参照)、フルバスタチン(特表昭60-500015号公報(USP4739073)参照)、アトルバスタチン(特開平3-58967号公報(USP5273995)参照)、ロスバスタチン(特開平5-178841号公報(USP5260440)参照)、ピタバスタチン(特開平1-279866号公報(USP5854259およびUSP5856336)参照)を含むが、これらに限定されない。本発明におけるHMG-CoA還元酵素阻害薬は、好ましくは、メバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチンおよびロバスタチンから成る群より選択される薬剤である。
なお、本発明のHMG-CoA還元酵素阻害薬である、メバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンまたはピタバスタチンは、そのラクトン閉環体またはその薬理学的に許容される塩(好ましくは、ナトリウム塩またはカルシウム塩など)を包含する。
本発明のスクリーニング方法によって得られる物質をFGFR3病の治療剤および/または予防剤として使用する場合、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。一方、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;および、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤である)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;および、上記澱粉誘導体である)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、および、前記賦形剤と同様の化合物である)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類である)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;および、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤である)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;および、ソルビン酸である)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等である)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
本発明の薬剤の患者への投与量は、治療すべき病態の種類、症状および疾患の重篤度、患者年齢、性別もしくは体重、投与法などにより異なるので一義的には言えないが、医師が前記状況を考慮して判断することにより、適宜適当な投与量を決定することができる。
経口投与の場合には、例えば、1回あたり下限0.1mg(好ましくは、0.5mg)、上限1000mg(好ましくは、500mg)を、非経口的投与の場合には、1回あたり下限0.01mg(好ましくは、0.05mg)、上限100mg(好ましくは、50mg)を、成人に対して1日あたり1から6回投与することができる。症状に応じて増量もしくは減量してもよい。
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例に限定されないものとする。
実施例1
iPS細胞の作製
以下のすべての実験は、治験審査委員会、動物実験委員会および施設内生物安全委員会、ならびに京都大学の承認を得て行われた。
3人のTD患者由来のHDF (TD-714, TD10749およびTD-315H) を、コリエル医学研究所および埼玉県立小児医療センターから入手した。これらのHDFから抽出したゲノムcDNAを配列解析したところ、すべてのTD患者においてFGFR3遺伝子のヘテロ接合突然変異(Arg248Cys)が確認された。続いて各患者由来のHDFから以下に記載する方法でiPS細胞を作製し(以下、TD-iPSCと言う)、各患者から1種のiPS細胞株(TD-714-3、TD10749-2およびTD315H-2)を解析に用いた。また、2人の異なる新生児由来の対照HDFs(Strain #01491および#01439)をKURABOから購入し、同様の方法で初期化し、対照iPS細胞を作製した(KF4009-1およびHDF-11)。このほかにも、K. OkitaおよびS. Yamanaka(京都大学iPS細胞研究所)から入手した健常な個体由来のiPS細胞株(409B2)(Okita, K., et al. Nature methods 8, 409-412 (2011))も対照iPS細胞として用いた(以下、KF4009-1、HDF-11および409B2を、WT-iPSCと言う)。
iPS細胞の製造は、次の方法によって行った。詳細には、入手したそれぞれのヒト線維芽細胞(HDF)を、10% FBS (Invitrogen), 50 U/ml penicillinおよび50 μg/ml streptomycinを添加したDMEM (Sigma)で培養した。続いて、Neon transfection system (Invitrogen)により、エピソーマルプラスミドベクター(Mixture Y4: OCT3/4, SOX2, KLF4, L-MYC, LIN28およびp53 shRNA)を各HDFにエレクトロポレーションで導入した(Okita, K., et al. Nature methods 8, 409-412 (2011))。1週間後に、フィーダー細胞をあらかじめ播種しておいた100 mmディッシュに1×105個の当該ベクターを導入したHDFを播種した。次いで、hiPSC培地(20% KSR(Invitrogen), 2mM L-グルタミン(Invitrogen), 1×10-4M 非必須アミノ酸(Invitrogen), 1×10-4M 2-メルカプトエタノール(Invitrogen), 50units/ml ペニシリン(Invitrogen), 50μg/ml ストレプトマイシン(Invitrogen), 4ng/ml bFGF(WAKO)を添加したDMEM/F12 (Sigma))で培養した。得られた各iPS細胞は、抗SSEA4抗体(Santa Cruz, sc-5279 ) および抗-TRA1-60抗体(Abcam, ab16287)を用いた免疫組織化学により評価した。
その結果、作製されたすべてのiPSC株がES細胞マーカー(SSEA4およびTRA1-60)を発現しており、三胚葉を含むテラトーマを形成することが確認された(図1および表1)。
mRNAの測定
mRNAは、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて、各細胞から単離した。得られた全RNAのうち500 ngを鋳型として、ReverTra Ace (TOYOBO)を用いて逆転写によりcDNAを合成した。定量PCR(リアルタイムPCR)のための標準曲線を作成して解析を行った。リアルタイムPCR解析は、KAPA SYBR FAST qPCR kit Master Mix ABI prism (KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、Step One system (ABI)により測定した。使用したプライマーの配列およびAssayIDを表2に示す。
ウエスタンブロット法
細胞溶解液は、SDS-PAGE法を用いて分離し、anti-FGFR3 antibody(Cell SIgnaling社 #4574)、anti-phosphorylated MAPK antibody(Cell Signaling #9109)またはanti β-actin antibody(Cell Signaling社 #49776)を用いて免疫染色した。
実施例2
軟骨誘導
以前に報告された方法(Oldershaw, R.A., et al., Nat Biotechnol 28, 1187-1194 (2010))を修正した以下に記載した方法に従って、各iPS細胞から軟骨細胞に分化誘導した。
各iPS細胞をマトリゲル(Invitrogen)コートディッシュ上に播種し、Essential 8培地(Life Technologies)に50units/ml ペニシリンおよび50μg/ml ストレプトマイシンを添加した培地を加え、フィーダーフリー条件下で未分化維持培養した。播種後10〜15日目に、1〜2×105細胞から成るコロニーを中胚葉分化培地(DMEM/F12に対し10ng/ml Wnt3A(R&D), 10ng/ml アクチビンA(R&D), 1% インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム(Invitrogen), 1% 牛胎児血清, 50units/ml ペニシリン, 50μg/ml ストレプトマイシンを混合して調製)に交換した(分化誘導0日目)。3日間後(分化誘導3日目)、軟骨分化培地(50μg/mlアスコルビン酸、10ng/ml BMP2(Osteopharma)、10ng/ml TGFβ(Pepro Tech)、10ng/ml GDF5、1% インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウム、1% FBS、50units/ml ペニシリンおよび 50μg/ml ストレプトマイシンを含有するDMEM/F12)へ交換し、11日後(分化誘導14日目)にディッシュから細胞を引き剥がし、同じ培地を用いて浮遊培養により14日後(分化誘導28日目)および28日後(分化誘導42日目)に形成されたパーティクルを回収し、各解析を行った。分化誘導中は、2〜7日ごとに培地を交換した。
その結果、分化誘導42日目において、サフラニンO染色したところ、WT-iPSC由来のパーティクルには、軟骨細胞外マトリクスおよびその中に散在する細胞が確認されたが、TD-iPSC由来のパーティクルには軟骨細胞外マトリクスが確認されなかった(図2a、b)。このことから、TD-iPSC由来のパーティクルは、軟骨構造に重要なグリコサミノグリカンをほとんど含有しないことが示された。
続いて、FGFR3 mRNAの発現レベルを測定したところ、分化誘導28日目の各軟骨細胞マーカー遺伝子(SOX9、COL2およびAGGRECAN)およびI型コラーゲン遺伝子の発現を調べたところ、TD-iPSC由来の細胞において、各軟骨細胞マーカー遺伝子の発現が減少し、I型コラーゲン遺伝子の発現が増加していることが確認された (図3a)。
さらに、分化誘導42日目において、免疫組織化学的解析を行ったところ、WT-iPSC由来のパーティクルと比較して、TD-iPSC由来のパーティクルにおいてII型コラーゲンの発現が減少し、I型コラーゲンの発現が増大していることが確認された(図3b)。なお、免疫組織化学的解析は、分化誘導42日目にパーティクルを回収し、4% paraformaldehydeで固定し、処理し、パラフィン包理した後、反連続切片を調製して、抗I型コラーゲン抗体(southern Biotech, 1320-01)を用いて検出した。色素源としては、DAB (DAKO, K3468)を用いた。また、局所的なII型コラーゲンの沈着が、TD-iPSC由来のパーティクルにおいて見られたことから(図3c)、TD-iPSCでは軟骨形成は限定的であったか、または初期の段階で形成され速やかに分解されることが示唆された。
TD-iPSCからの誘導過程(0週、2週(14日目)および4週(28日目))におけるFGFR3 mRNAの発現レベルは、WT-iPSCの誘導過程における発現よりも低いことが確認された(図4aおよびb)。これは、TD細胞におけるFGFR3の変異による機能亢進に起因する負のフィードバックによるものであると考えらる。一方、FGFR3のタンパク質量を測定したところ、TD-iPSC由来の軟骨細胞では、WT-iPSC由来の軟骨細胞と比較してよりタンパク質量が多いことが確認された(図4c)。このことから、変異型FGFR3は分解に対して抵抗性を有することで受容体のシグナル伝達の恒常的な活性に導いていると示唆された。
TD-iPSCの軟骨分化誘導工程において、異常なパーティクルがどのように形成されるかを調べるため、WT-iPSCおよびTD-iPSCの分化誘導工程における各マーカーの経時的な発現を分析した(図4d)。WT-iPSCおよびTD-iPSCにおいて、多能性マーカーであるOCT3/4は3日目で急激に減少し、中内胚葉/中胚葉マーカーであるTおよびKDRは3日目から9日目にかけて一過性に発現が増加した。軟骨形成にかかる転写因子であるSOX9、SOX5およびSOX6は、WT-iPSCおよびTD-iPSCにおいて14日目まで同様に増加した。しかし、14日目以降では、WT-iPSCでは軟骨形成にかかる転写因子の発現が増加し続けたことに対し、TD-iPSCでは減少した。
この軟骨形成にかかる転写因子は、軟骨マトリックスタンパク質をコードする遺伝子の転写に関与することから、II型コラーゲン(COL2A1)およびアグリカン(ACAN)の発現を調べたところ、両者とも21日目までは、WT-iPSCおよびTD-iPSCにおいて徐々に増加した。しかし、28日目においてTD-iPSCでは減少し、WT-iPSCでは引き続き増加し続けた。この結果、WT-iPSCおよびTD-iPSCは14日目から21日目にかけては同様の分化誘導能を示すが、TD-iPSCは、28日目において軟骨マトリックス遺伝子の発現減少し、軟骨分化の成熟が阻害されることが確認された。
さらに、BrdUでラベルすることで28日目のTD-iPSCおよびWT-iPSC由来の軟骨細胞の増殖速度を測定したところ、TD-iPSC由来の軟骨細胞はWT-iPSC由来の軟骨細胞と比較して有意に増殖速度が減少していることが示された(図5aおよびb)。また、分化誘導21日目において、TD-iPSC由来の軟骨パーティクルに対してTUNELアッセイを行ったところ、TUNEL陽性細胞数の増加すなわちアポトーシスを引き起こした細胞の増加が確認された(図5c、d)。さらに、Cleaved-caspase 3の陽性細胞数も増加していることが確認された(図5e)。従って、TD-iPSC由来の軟骨細胞ではアポトーシスが亢進していることが示唆された。また、TD-iPSC由来の軟骨細胞において、p21の発現レベルも増加していることが示された(図5f)。以上の結果より、TD-iPSCを軟骨細胞へ分化誘導することで、FGFR3患者やモデルにおいてみられる細胞増殖の低下とアポトーシスの増加という2つの異常が再現された。この2つの異常は、42日目のTD-iPSC由来の軟骨パーティクルで見られる軟骨組織の欠損の原因となっていると考えられる。なお、TUNELアッセイは、in situ cell death detection kit (TMR red; Roche)を用いて、製造者の指示にしたがって行われた。
実施例3
軟骨形成的に分化させた TD-iPSCの妨害された軟骨形成からの回復
TD-iPSCがFGFR3の機能獲得型突然変異が、軟骨細胞分化不全に起因しているかを確認するために、FGFR3をノックダウンする実験を行った。
shRNA PBベクターおよびトランスポゼース発現ベクター(PBaseII, P16-25)を、A. Hotta (Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto, Japan)から入手した。shRNA PBベクターを元に、FGFR3の異なる部位を標的とする3種類のショートヘアピンRNAs(shRNA)を含むpiggybacベクター(FGFR3 shRNA PBベクター)を作製した(図6a)。shRNAのコンストラクトを作製するための配列を表3に示す。
FGFR3 shRNA PBベクターおよびPBaseIIを、Ncleofection (Amaxa)を用いて、製造者の指示に従って、TD-iPSC (TD714-3)に導入し、FGFR3をノックダウンさせたTD-iPSCを作製した。次いで、実施例2に記載の方法に従って軟骨細胞へ分化誘導を行い、分化誘導28日目および42日目のパーティクルによって評価した。RNAの発現解析は、実施例1に記載の方法に従って行われた。
3種類のFGFR3 shRNA PBベクターは、FGFR3 遺伝子のノックダウンの機能を有することが確認された(図6b)。これらのFGFR3 shRNA PBベクターを用いてTD-iPSCのFGFR3をノックダウンしたところ、軟骨細胞外マトリックを有するパーティクルを形成することが確認された(図6c、d)。このとき遺伝子発現解析を行ったところ、FGFR3 shRNAを導入したTD-iPSC由来のパーティクルでは、陰性対照であるshLuciferase (ルシフェラーゼ遺伝子配列を標的とするshRNA)を導入した場合と比較して、軟骨細胞マーカー遺伝子の発現が増加し、線維芽細胞マーカー遺伝子(COL1A1 and COL1A2)の発現が減少することが見出された(図6e)。
さらに、TD-iPSCの軟骨細胞分化誘導工程において、培地にFGFR3中和抗体を加えて、FGFR3の活性を抑制し、軟骨細胞の形成を確認した。なお、FGFR3中和抗体(Santa Cruz (sc-13121))は、1 mlの軟骨分化培地に1 μl の抗体溶液(200ng /ml)を加えて行われた。また、このとき対照として、IgG (Cell Signaling, #27295)を用いた。軟骨細胞分化誘導は、実施例2に記載の方法に従って行い、分化誘導28日目および42日目にて評価した。
その結果、FGFR3中和抗体を添加した場合、FGFR3 遺伝子をノックダウンしたときと同様に、パーティクルに軟骨細胞外マトリックスが確認された(図7a、b)。また、遺伝子発現解析を行ったところ、FGFR3中和抗体の添加により、軟骨細胞マーカー遺伝子の発現が増加し、線維芽細胞マーカー遺伝子の発現が減少することが見出された(図7c)。
以上より、TD-iPSCからの軟骨細胞分化誘導の不全は、FGFR3の機能獲得型突然変異に起因するものであることが示唆された。
実施例4
TD-iPSCの軟骨細胞分化不全を正常化させるための既知薬剤の評価
FGFR3病の治療に有効な薬剤を見出すために、TD-iPSCからの軟骨細胞分化を正常化させるための物質についてスクリーニングを行った。
FGFR3シグナル伝達および/または軟骨細胞分化に関与することが報告されている薬剤(CNP、NF449、FGFR inhibitorおよびIGF1R inhibitor)を用いてTD-iPSCからの軟骨細胞分化を正常化させるか否かの検討を行った。このとき、CNP (Sigma, N8768)、NF449 (abcam, ab120415)、FGFR inhibitor (PD 173047, Cayman) およびIGF1R inhibitor (IGF-1R inhibitor, PPP. Calbiochem, 407247)について、それぞれ100μM, 50mM, 1mM, 1μMの濃度でのストック溶液を調製した。CNP、NF449、FGFR inhibitorおよびIGF1R inhibitorの最終濃度が、それぞれ、100nM、25μM、1μMおよび1nMとなるようにストック溶液を軟骨分化培地に加えた後(分化誘導3日目)、実施例2に記載の方法に従って、軟骨細胞へ分化誘導し、分化誘導28日目および42日目にて評価した。対照として、等量の水またはDMSOを培地に加えた。mRNAの発現解析は、実施例1に記載の方法に従って行われた。
その結果、FGFR inhibitorおよびGタンパク質アンタゴニストであるNF449の添加は、TD-iPSCから軟骨細胞への分化に影響は与えなかったが、IGF1R inhibitorおよびCNPの添加は、TD-iPSCから軟骨細胞分化を正常化させることができた(図8a、b)。 このときの遺伝子発現解析を行ったところ、IGF1R inhibitorおよびCNPの添加により、軟骨細胞マーカー遺伝子の発現が増加し、線維芽細胞マーカー遺伝子の発現が減少することが確認された(図8c)。
実施例5
TD-iPSCの軟骨細胞分化不全を正常化させるための薬剤の探索
スタチンは、広く脂質降下剤として特徴づけられる薬剤クラスを形成する物質であり、メバロン酸合成を阻害し、その結果として、全コレステロール量および低密度リポタンパク質(LDL)レベルを減少させることが知られている。すべてのスタチン類は、心血管系疾患、神経系、免疫系、骨格系および腫瘍成長に対して有利な影響を与えることから、スタチン類の多面的な効果について関心が集まってきている。さらに、ロバスタチンは、髄核から単離した細胞を単層培養することで起きる脱分化によるII型コラーゲンの脱落を抑制することが報告されている(Hu et al., Artif Organs. 35, 411-416 2011)。
そこで、ロバスタチンが、TD-iPSCからの軟骨細胞分化を正常化させるか否かを検討するために、実施例4と同様に評価を行った。なお、ロバスタチン(TCI, L0214)は、10 mMの濃度でDMSOに溶解させることでのストック溶液を調製し、軟骨分化培地の最終濃度が1μMとなるように用いた。
その結果、ロバスタチンは、TD-iPSCからの軟骨細胞分化を正常化させることを見出した(図9a、b)。遺伝子発現解析を行ったところ、ロバスタチンの添加により、軟骨細胞マーカー遺伝子の発現が増加し、線維芽細胞マーカー遺伝子の発現が減少することが見出された(図9c)。ロスバスタチンの存在下および非存在下において培養したTD-iPSC由来の軟骨パーティクルのBrdUの取り込みを確認したところ、ロスバスタチン添加群でBrdU陽性細胞数が有意に多いことが確認された(図10aおよびb)。さらに、メバスタチン(Cayman, 10010340)、アトルバスタチン(LKT A7658)、プラバスタチン(Cayman, 10010343)、ロスバスタチン(BioVision, 1995-5)およびフルバスタチン(Cayman, 10010337)を用いて同様に調べたところ、これらの薬剤にもTD-iPSC由来の軟骨細胞での軟骨形成異常を改善させることが確認された(図10cおよびd)。なお、これらのスタチンは、10mMのDMSO溶液として準備し、最終濃度が1μMとなるように適宜培養液に添加して用いた。これらの結果より、スタチン類はTD-iPSC由来の軟骨細胞を回復させることが示唆された。
スタチンによるFGFR3病モデルの改善効果のメカニズムを調べるため、FGFR3のmRNA量およびタンパク質量を測定した。すると、ロバスタチンの添加により、TD-iPSC由来の軟骨細胞における異常なFGFR3タンパク質量の増加を抑制することが確認された(図10e)。同時に、FGFR3シグナルの下流であるMAPKのリン酸化を抑制することも確認された。FGFR3のmRNA量は、ロバスタチンの添加によりTD-iPSC由来の軟骨細胞において増加することから、FGFR3タンパク質量の変化は、mRNA量を制御することによるものではないことが確認された(図10f)。
実施例6
ACHにおけるロバスタチンの効果
ロバスタチンがACHに対しても有効であるか否かを調べるため、ACH患者由来のiPS細胞を用いて同様に評価を行った。
ACH患者由来のiPS細胞は、FGFR3遺伝子においてGly380Argのヘテロ接合突然変異を有する2人のACH患者のHDF(ACH8857およびACH8858)、およびACHよりも重篤な軟骨形成不全を示すHDF(ACHhomo-8859)をコリエル医学研究所より入手して実施例1に記載の方法により作製した。ACHhomo-8859は、FGFR3遺伝子中にGly380Argのホモ接合突然変異を有していた。各患者より1種類のiPSC株(ACH8857-1, ACH8858-6およびACHhomo8859-3)を作製した(以下、ACH8857-1およびACH8858-6をACH-iPSCと言い、ACHhomo8859-3をACHhomo-iPSCと言う)。ACH-iPSCおよびACHhomo-iPSCは、SSEA4およびTRA1-60を発現しており、三胚葉を含むテラトーマを形成することを確認した(表4)。
ACH-iPSCおよびACHhomo-iPSC を実施例2に記載の方法で軟骨細胞へ分化させ、得られたパーティクルをサフラニンOで染色したところ、陰性であった(図11a)。このとき、実施例5と同様にロバスタチンを添加したところ、ACH-iPSCでは、軟骨細胞への分化誘導による軟骨形成の正常化が確認され、ACHhomo-iPSCでは、部分的な正常化が確認された(図11b)。
以上より、TD-iPSCおよびACH-iPSCのいずれのモデルにおいても、ロバスタチンは軟骨形成を正常化させることが可能であると示唆された。
実施例7
スタチンによるACHモデルマウスにおける減少した骨成長の回復
スタチンがin vivoでFGFR3病の表現型を正常化できるか否かを調べた。David Ornitz (Washington University School of Medicine)から入手したFGFR3Achマウス(Naski et al., Development 125, 4977-4988 (1998))を野生型マウスと交雑した(C57BL/6 background)。交雑マウスの出生後3日から14日まで、週に6回1.0 mg/kgロスバスタチン溶液を腹腔内に投与し、15日目に安楽死させ、躯体および骨形成をX線イメージ(Faxitron DX-50)によって評価した。このとき、ゲノムDNAをつま先から抽出し、遺伝子型を調べた。また同様に、交雑マウスの出生後3日から28日まで、週に6回0.4mg/kgロバスタチン溶液を腹腔内に投与し、29日目に安楽死させ、躯体および骨形成を評価した。
その結果、FGFR3Achマウスは、小人症様で、短い四肢骨および短い鼻を示す。ロスバスタチンの腹腔内投与により、15日齢のFGFR3Achマウスの頭蓋骨の前後方向での長さ(Cranial A-P)、尺骨(Ulna)の長さ、大腿骨(Femur)の長さおよび脛骨(Tibia)の長さを増加した(図12aおよびbならびに図13)。さらに、基質を投与した野生型マウスとロスバスタチン投与したFGFR3Achマウスを比較したところ、有意な違いが見られず、ロスバスタチン投与により野生型とほぼ同じ形状へと改善されたことが確認された。
同様に、ロバスタチンの投与により、FGFR3Achマウスの体長および長骨の長さの増加が見られた(図14a、b、図15および表5)。また、ロバスタチンの投与により、FGFR3Achマウスの鼻の長さがある程度正常化する効果が見られた(図14c、d、図15および表5)。このように、FGFR3Achモデルマウスにおいても、スタチンの投与により骨形成阻害を緩和することが示された。
FGFR3Achモデルマウスの原始軟骨をロバスタチンの存在下または非存在下で器官培養したところ、当該軟骨がロバスタチンの添加により長くなることが確認された(図16aおよびb)。これは、ロスバスタチンが直接軟骨に作用し、軟骨の伸長を促すことを意味している。また原始軟骨におけるBrdU取り込みを確認したところ、ロバスタチンは、FGFR3Achモデルマウスの原始軟骨の増殖能を増加させることが確認された(図16cおよびd)。なお、器官培養は、FGFR3Achモデルマウスの中足骨の原始軟骨をロバスタチンの存在下で7日間培養することで行われた。中足骨は、FVB×C57Bl/6を交配させて得られた15.5 d.p.c.のマウス胚から採取し、Ikegami, D. et al., Osteoarthritis Cartilage 19, 233-241, 2011に従って行った。簡潔には、遺伝子型を確認した後、FGFR3Achマウス胚からの中足骨を1μMのロバスタチンまたは基質で処置することによって行った。
さらに、FGFR3Achマウスから採取した初代軟骨細胞をペレット培養したところ、ロバスタチンの存在下では、より強くサフラニンOで染色されることが確認された(図16e)。また、ペレット培養開始後2週目でSox9、Col2alおよびAcanのmRNAの発現が上昇し、培養開始後4週目でRunx2およびCol10a1のmRNAの発現が上昇していることが確認された(図16f)。なお、ペレット培養は次の方法で行った。培養に用いた初代軟骨細胞は、FGFR3AchマウスからGosset, M et al., Nature protocols 3, 1253-1260, 2008に記載の方法に従って入手した。続いて、5×105個の初代軟骨細胞を15mlチューブに移し、200gで10分間遠心分離することで得られたペレットを1μMのロバスタチンの存在下または非存在下で2週または4週間インキュベートすることによって行われた。以上の結果から、スタチンの添加により、Sox9およびRunx2の発現を増加させることによって、軟骨分化誘導を促進し、さらに肥大化により軟骨を成熟させることが示唆された。
続いて、FGFR3Achマウスの初代軟骨細胞においてFGFR3の発現量を調べたところ、野生型マウスの初代軟骨細胞よりもFGFR3が多く検出された(図16g)。このときロバスタチンの添加によりFGFR3Achマウスの軟骨細胞におけるFGFR3の量が減少するが、プロテアソーム阻害剤であるMG132(Sigma)の追加によりFGFR3の量は増加した。同様に、リソソーム阻害剤であるBafilomycin A1(Baf A1)(Sigma)の追加によってもFGFR3の量が少し増加した。なお、阻害剤の効果の検討は、次の通り実施された。2.5×105個の初代軟骨細胞を6 well plateの各wellへ播種し、1μMロバスタチンの存在下または非存在下で2日間培養した。続いて、10 mM MG132、100 nM Baf A1または基質を添加した。2時間後、50 ng/ml FGF9(Peprotech)をさらに添加し、4℃で2時間インキュベートした。得られた細胞をウェウタンブロット法にて分析した。以上の結果から、スタチンによるFGFR3の分解促進は、プロテアソーム系を介することが示唆された。