以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる作業車両1の略左側面図であり、図2は、図1に示された作業車両1の略平面図である。
本明細書においては、図1または図2に矢印で示されるように、作業車両1の進行方向となる側を前方とし、特に断りがない限り、作業車両1の進行方向に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
本実施態様にかかる作業車両1は、圃場に稲の苗を植え付ける田植機であり、図1および図2に示されるように、走行車体2(以下、単に「機体」ともいう。)と、走行車体2の後部に取り付けられた苗植付部63(本発明にかかる作業機の一例)と、圃場に肥料を供給する施肥装置26と、苗を植え付けながら走行する際の走行位置の目安となるラインを圃場上に形成する左右一対の線引きマーカー40と、走行車体2の前部に設けられたGNSS受信機130と、走行車体2が向いている方位を検出する方位センサ80と、走行車体2の前部に設けられ、苗植付部63に供給される苗を収容する補助苗枠74とを備えている。
図1に示されるように、走行車体2は、フロントカバー47に覆われた制御部87(本発明にかかる「制御手段」に相当)と、走行車体2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、作業車両1の幅方向に延びる後部フレーム6と、メインフレーム3の上方に配置されたフロアステップ60と、フロアステップ60の上方に設けられた操縦席48と、操縦部49と、操縦席48の下方に設けられたエンジン7と、走行車輪としての左右一対の前輪8(操舵輪)および左右一対の後輪9と、エンジン7の動力を左右一対の前輪8および後輪9に伝達するミッションケース30などの伝達機構とを備えている。
操縦部49は、図2に示されるように、走行車体2の前後進と車速を変更する主変速レバー35と、左右一対の前輪8を操舵するステアリングホイール56を含む操舵機構43と、ステアリングホイール56の左側近傍に設けられた直進アシストレバー79と、操作スイッチを有するモニタ61(図8参照)と、作業車両1を操作するための種々の操作スイッチが設けられた操作部54を備えている。本実施態様においては、制御部87の出力信号に基づき、ステアリングホイールを自動的に駆動して作業車両を直進走行させる直進制御((いわゆる直進アシスト)と、ステアリングホイールを自動的に駆動して作業車両を旋回させる旋回制御を実行可能に構成されている。
直進アシストレバー79は、走行車体2の位置情報を取得する際と、直進制御を開始または停止させる際に揺動操作される。
操舵機構43は、ステアリングホイール56の他、ステアリングシャフト83、ピットマンアームおよびタイロッド(図示せず)を備えている。
一方、エンジン7から出力された駆動力は、図1に示されるように、フロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4および静油圧式無段変速機(HST)25を介してミッションケース30に伝動される。
静油圧式無段変速機25は、トラニオン軸(図示せず)を備え、主変速レバー35が操作されると、トラニオン軸の開度がHSTサーボモータ150(図3参照)の駆動によって調整されて、ミッションケース30への出力が変更され、車速が調整されるように構成されており、前進する場合、すなわち、図4(b)に示される前進領域に主変速レバー35が位置する場合に、主変速レバー35がより前方の位置に操作されるほど、車速が高く調整される。本実施態様においては、前進領域内で、主変速レバー35の操作位置を前後方向に区分け(領域分け)して検出し、前進領域内の主変速レバー35が位置する区分(前進領域内の各領域)に対応した車速に段階的に変更するよう構成されているが、無段変速が可能な変速機であるため、無段階に車速を変更するように構成してもよい。
ミッションケース30に伝達された動力は、その内部で変速されて、左右一対の前輪8および左右一対の後輪9への走行用の動力と、苗植付部63を駆動するための動力(駆動用の動力)とに分けて伝動される。
走行用の動力は、前輪ファイナルケース13および前輪車軸31(図1参照)を介して、左右一対の前輪8に伝達される他、図1および図2に示される左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51および車軸82(図1参照)を介して、左右一対の後輪9に伝達される。
一方、駆動用の動力は、走行車体2の後部に設けられた植付クラッチ(図示せず)まで伝達され、植付クラッチが入れられた際に、さらに苗植付部63へ伝達される。
苗植付部63は、図1に示されるように、昇降リンク装置5を介して、走行車体2に取り付けられている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85および左右一対の下部リンクアーム86を備え、苗植付部63を昇降可能に構成されている。
上部リンクアーム85および下部リンクアーム86の前側の端部は、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
ここで、制御部87によって電子油圧バルブ88(図3参照)が制御されて、図1に示される昇降油圧シリンダ12が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が後ろ上がりに回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇されるように構成されている。苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置する。
これに対して、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が後ろ下がりに回動され、苗植付部63が、苗の植付け作業が可能な作業位置(図1に示された位置)まで下降される。
図1および図2に示されるように、苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を立て掛ける台65と、台65の後方かつ下方に設けられた4つの植付装置64(図2参照)と、苗植付部63の下部に設けられたセンターフロート38と、センターフロート38の左右に配置された4つのサイドフロート39を備えている。
図2に示されるように、4つの植付装置64は作業車両1の幅方向に並べて設けられ、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備えている。植付クラッチが入れられて、図1に示される駆動軸67が回転されると、図1および図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69とが、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に台65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付けるように構成されている。図2に示されるように、本実施態様においては、計列の植付具69が左右方向に並べて設けられているため、作業車両1が圃場に苗を植え付けつつ、直進走行すると、8条(8列)の苗列が形成される。
センターフロート38および4つのサイドフロート39はそれぞれ、作業車両1が走行するのに伴って、圃場上を滑走し、整地するように構成され、各フロート38,39によって整地された圃場に、各植付装置64によって苗が植え付けられる。センターフロート38および4つのサイドフロート39はそれぞれ、圃場の凹凸に合わせて揺動される。
施肥装置26は、圃場内の場所ごとに施肥量を調節する可変施肥を実行可能に構成されている。具体的には、施肥装置26にボールネジを回動させる施肥量調節モータ66(図3参照)が設けられており、施肥量調節モータ66の駆動により、繰出回動アームの揺動量を増減させ、一定時間に繰り出される施肥量を調節することができる。この可変施肥の詳しい機構は、たとえば、特開2019-106896号公報等を参照されたい。
ここで、従来の田植機においては、可変施肥に先立って行われるティーチングの間に、0.2秒ごとに、土壌の肥沃度のデータ、すなわち、圃場の電気伝導度、圃場の深度および温度のデータを取得し、圃場の基準値(平均値、標準偏差)を算出するように構成されていた。
しかしながら、所定の時間ごとにデータを取得する構成では、車速に応じてデータ取得(サンプリング)が行われる距離間隔が定まらないという問題もあった。
このような状況に鑑みて、本実施態様においては、後輪9の回転数を検出する後輪回転センサ29により走行距離を検知し、車両が1条間の距離の目安である30cm走行するごとに圃場の肥沃度のデータを取得するように構成されている。このように構成することにより、安定してサンプリングが行えることに加え、斜めや横方向に走行しつつティーチングを行うときでも、およそ隣接する条(苗の列)ごとにデータを取得することができる。なお、データ取得の距離間隔は、たとえば5cmないし100cmの間でモニタ上で任意に変更できるように構成してもよく、この場合には、合筆圃場等、圃場内で肥沃度のデータのバラつきが大きいときに、より高頻度にサンプリングすることが可能になる。
また、本実施態様においては、後輪回転センサ29が故障している場合には、GNSS受信機130により取得される位置情報により車両の走行距離を検知するように構成されているが、GNSS受信機130の車速情報により車速を検知し、車速を時間で積分することにより、走行距離を算出するように構成してもよい。これらの構成により、後輪回転センサ29とGNSS受信機130のうちのいずれか一方が故障している場合であっても、他方のセンサにより走行距離の情報を取得することができる。
さらに、本実施態様においては、後輪回転センサ29とGNSS受信機130がいずれも故障し、車両の走行距離を検知できない場合に、設定されたサンプリング周期で肥沃度のデータを取得してティーチングを行うように構成されている。
具体的には、ティーチング時に0.2秒の倍数秒ごとの設定された周期(間隔)で肥沃度のデータを取得するように構成されており、たとえば0.2秒、0.4秒、0.8秒または1.6秒ごとに肥沃度のデータを取得するようモニタ61上で周期を設定することができる。
このように、本実施態様においては、後輪回転センサ29とGNSS受信機130がいずれも故障し、車両の走行距離を検知できない場合でも、設定されたサンプリング周期で肥沃度のデータを取得するよう構成されているため、ティーチングを問題なく行うことができる。
一方、左右一対の線引きマーカー40はそれぞれ、走行車体2が走行する際に、圃場上を転動して線を形成する線引き体41と、線引き体41と走行車体2とを結ぶ略L字状のマーカーロッド42(図9も参照)を備え、線引き体41が圃場に接触する作用姿勢と、線引き体41が圃場に接触しない非作用姿勢との間で切り換え可能に構成されている。
作業車両1が圃場上を直進走行しつつ、苗を植え付けるときに、左右一対の線引きマーカー40のうち、次に苗を植付けする(旋回後の)列の方の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で直進走行することによって、旋回後に直進走行する際の走行位置の目安となるラインが圃場上に形成される。なお、図1および図2には、作用姿勢にある左側の線引きマーカー40と、非作用姿勢にある右側の線引きマーカー40が示されている。
図1および図2に示されるように、走行車体2の前部かつ幅方向中央部には、センターマスコット18が設けられており、作業車両1が圃場上を旋回し、次の列上を直進走行するときに、線引きマーカー40によって形成されたライン上を、センターマスコット18が通過するように、ステアリングホイール56を操作しつつ、直進走行することによって、適切な位置に苗を植え付けることができる。すなわち、作業車両1が旋回する前に植え付けられた8列(8条)の苗に対して、(旋回後に)適切な間隔で、8列の苗を植え付けることができる。
補助苗枠74は、台65に補充する苗マットを収容するため、図1および図2に示されるように、補助苗枠74を支持するフレーム77を介して、走行車体2の前部に取り付けられている。
図3は、図1に示された作業車両1の制御系、検出系、入力系および駆動系のブロックダイアグラムである。また、図4(a)は、図1に示された主変速レバー35の拡大図であり、図4(b)は、主変速レバー35の操作範囲を示す模式図である。
図3に示されるように、作業車両1の制御系は、作業車両1全体の動作を制御する制御部87と、時間を計測するタイマー105を備えている。
制御部87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部89と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部93を備え、記憶部93には、作業車両1を制御する種々のプログラムおよびデータが格納されている。
図3に示されるように、作業車両1の検出系は、ステアリングホイール56の舵角を検出するピットマンセンサ58と、ステアリングモータ57に設けられ、ステアリングモータ57の回転位置と回転速度を検出するステアリングセンサ45と、エンジン7の回転数を検出するエンジン回転センサ96と、リンクベースフレーム10に対する上部リンクアーム85の相対角度を検出するリンクセンサ90と、人工衛星からの電波を受信するGNSS受信機130と、左右一対の後輪9に連結された左右の各車軸82の回転数をカウントする後輪回転センサ29と、センターフロート38前部の上下位置を検出するフロートセンサ33と、方位センサ80と、走行車体2のロール方向の傾きを検出する傾斜検知センサ37と、可変施肥に用いられる肥沃度のデータを取得する電気伝導度センサ98、深度センサ99並びに温度センサ100を備えている。
GNSS受信機130は、本発明の「位置情報取得手段」の一例である。
ピットマンセンサ58は、本実施態様においてはピットマンアームに取り付けられているが、ステアリングシャフト83等に設けられてもよい。
フロートセンサ33は、センターフロート38の前部が圃場の凹凸に合わせて揺動される際に、センターフロート38前部の上下位置を検出し、制御部87に出力するように構成されている。
深度センサ99は、超音波センサにより構成されており、圃場表面までの距離、すなわち、圃場の深さを検出する。
図3に示されるように、作業車両1の入力系は、作業車両1の前後進および車速を変更する主変速レバー35(図1、図2および図4参照)の操作位置を検出する主変速レバーセンサ36と、走行車体2の位置情報を取得する際、および直進制御を開始し、あるいは停止する際に、上下一方に揺動操作される直進アシストレバー79(図1および図2参照)の操作を検知する直進アシストレバーセンサ81と、苗植付部63の昇降を行うフィンガーレバー23の揺動操作を検知するフィンガーレバーセンサ16と、苗の植付作業の入切の切り換え操作を行う植付入切スイッチ19と、図8に示されるモニタ61と、左右の各線引きマーカー40の姿勢の切り換え操作を行うマーカースイッチ28と、旋回制御を設定する旋回制御スイッチ17を備えている。マーカースイッチ28および旋回制御スイッチ17は操作部54に設けられている。
本実施態様においては、直進アシストレバー79は上方および下方に揺動操作が可能であり、上下いずれかの方向に揺動操作された後には、スプリングによって自動的に元の上下位置に戻るように構成されている。
フィンガーレバー23と植付入切スイッチ19は、図4に示されるように、主変速レバー35に設けられている。
また、本実施態様においては、旋回制御を設定する旋回制御スイッチ17の操作により、通常の旋回である「Uターン旋回」と、畔際で苗の補給を行うのに最適な「バック旋回(バックターン)」の計2つの形式のうちのいずれか一方の形式での旋回制御を選択できるように構成されている。
図3に示されるように、作業車両1の駆動系は、操縦席48の下方に設けられたエンジン7の吸気量を調節するスロットルモータ97と、苗植付部35が昇降される際に、昇降油圧シリンダ12を伸縮させる電子油圧バルブ88と、静油圧式無段変速機25内のトラニオン軸の開度を調整し、作業車両1の前後進および車速を変更するHSTサーボモータ150と、ステアリングシャフト83およびステアリングホイール56を回動させるステアリングモータ57と、後輪9のサイドクラッチを入切する電磁バルブ103と、パワーステアリング108と、植付クラッチを作動させる植付クラッチモータ27と、左右一対の各線引きマーカー40を揺動させるマーカーモータ34と、施肥装置26による圃場への施肥量を調節する施肥量調節モータ66を備えている。
本実施態様においては、走行車体2が走行している間に、ステアリングホイール56の舵角が閾値以上となった場合(平たく言えば、ステアリングホイール56が左右一方に大きく切られた場合)には、走行車体2が旋回していると認められるので、制御部87は、電磁バルブ103を制御し、旋回内側の後輪9に動力が伝達されない状態に切り換えるように構成されている。このように構成することによって、圃場の枕地部分をスムーズに旋回することができる。
ステアリングモータ57は、直進制御および旋回制御において自動的にステアリングホイール56を回転させることを目的として制御部87により駆動され、直進制御および旋回制御が行われている間に、ステアリングセンサ45によりステアリングモータ57の回転位置と回転速度が検出される。本実施態様においては、ステアリングモータ57にはステアリングセンサ45により検出される実際の回転速度を基に回転速度をフィードバック制御可能なスピードコントロールモータが用いられている。
また、制御部87は、リンクセンサ90からの出力信号に基づいて苗植付部35の現在の高さ(上下位置)を算出可能に構成されている。
加えて、作業車両1が苗を植え付けつつ、圃場上を走行しているときには、制御部87は、フロートセンサ33からの検出信号に基づき、電子油圧バルブ88を制御して、図1に示された昇降油圧シリンダ12を伸縮させ、図1に示された苗植付部63を昇降させることにより、圃場への苗の植付深さを一定に維持することができる。
図5は、図1に示された作業車両1が、圃場内において、苗を植え付けつつ、走行する経路を示す模式的平面図である。
図5に示されるように、作業車両1が苗を植え付ける圃場200は、平面視において略矩形をなし、南北方向に延びる2つの辺201および203と、東西方向に延びる2つの辺202および204と、各辺201ないし204に沿うように延びる4つの周縁領域211ないし214と、4つの周縁領域211ないし214に囲まれた中央領域210を備えた平坦な水田である。2つの周縁領域211および213はいわゆる枕地であり、周縁領域211および213のそれぞれの南北方向の幅と、周縁領域212および214のそれぞれの東西方向の幅は、作業車両1の苗植付部63による作業幅(苗8条分の幅)以上の幅である。
以下に、この圃場200を例に、作業車両1の直進制御および旋回制御について詳細に説明を加える。なお、圃場200は便宜上、上述のような形状、大きさおよび向き(方角)としているが、直進制御および旋回制御が行われる圃場はとくに限定されない。
圃場200に苗を植え付ける際には、制御部87による直進制御と旋回制御とを交互に行い、つづら折り状に圃場200を走行しつつ、中央領域210に苗を植え付けた後に、図5に矢印付きのグレー色の太い線で示されるように、4つの周縁領域211ないし214に、順次に苗を植え付ける。なお、本実施態様においては、制御部87による旋回制御が行われるためには、予め、旋回制御スイッチ17が操作され、旋回制御が行われる状態に設定されている必要がある。
中央領域210に苗を植え付ける際には、まず、いわゆるティーチングにより、直進制御に用いる基準線の始点と終点の位置情報が取得される。直進制御においては、作業車両1が始点と終点を結ぶ仮想の基準線と平行に直進走行するように(より具体的には、作業車両1が、後に詳述する、基準線に平行な仮想の目標線に沿うようにステアリングモータ57が駆動され、ステアリングホイール56の舵角が調整される。
基準線の始点の位置情報を取得するにあたっては、作業者の操縦(主変速レバー35およびステアリングホイール56の操作)に基づき、作業車両1が、図5に示される圃場200の周縁領域212内の北側の位置に移動され、直進アシストレバー79が下方に揺動操作されることによって、GNSS受信機130を用いて、基準線の始点218の位置情報が取得される。
次いで、マーカースイッチ28が操作され、東側の線引きマーカー40(旋回する側であり、この場合には左側の線引きマーカー40)が作用姿勢に切り換えられた状態で、作業者の操縦に基づき、矢印付きの破線208で示されるように、作業車両1が周縁領域212内の南側の場所まで移動され、直進アシストレバー79が下方に揺動操作される。その結果、GNSS受信機130を用いて、基準線の終点219の位置情報が取得される。以上のようにして取得された基準線の始点と終点の位置情報は、記憶部93に格納される。なお、本実施態様においては、始点と終点を結ぶ仮想の基準線は、便宜上、正確に南北方向に延びる線として説明を進める。
また、本実施態様においては、マーカースイッチ28が操作され、線引きマーカー40が作用姿勢に切り換えられると、以後、作業車両1が旋回する度に、ピットマンセンサ58の出力信号に基づき、作業車両1の旋回が検出され、自動的に作用姿勢にある一方の線引きマーカー40が非作用姿勢に切り換えられ、さらに、作業車両1が旋回した後に、自動的に他方の線引きマーカー40が作用姿勢に切り換えられるように構成されている。
また、本実施態様においては、作業者によってステアリングホイール56が回動される場合と、制御部87の出力信号に基づき、ステアリングホイール56が回動される場合(直進制御、旋回制御)のいずれにおいても、車速は主変速レバー35の操作位置に基づき設定されるが、旋回制御が行われている間においては、車速が随時、所定の速度以下に規制される。
基準線の始点と終点の位置情報が取得されると、作業者の操縦に基づき、作業車両1が東側へ旋回されて、中央領域210における1列目(1つ目の植付行程)の植付開始位置207(×印)へ移動され、図5に「1列目」として示される植付行程において、苗の植付けを伴う直進走行が開始される。
具体的には、図4に示されるフィンガーレバー23が下方に揺動操作されて苗植付部63が作業位置に切り換えられた後に、植付入切スイッチ19が押圧操作されることによって、各植付装置64が駆動され、8列の植付具69(図2参照)による苗の植え付けが開始される。このとき、図5に示されるように、右側の線引きマーカー40は自動的に作用姿勢に切換えられており、線引き体41が圃場上を転動されることにより、図5の「2列目」の位置に走行位置の目安となるラインが形成される。
次いで、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、制御部87による直進制御が開始される。直進制御が開始される条件は、各列を直進走行する際の目標線(走行すべき位置を指す仮想の線であり、基準線に平行な線)と、走行車体2の向き(機体2の方位)との角度差が30°未満である状態で、直進アシストレバー79が上方に揺動操作されることである。
直進制御においては、制御部87は、作業車両1が、図5に矢印付きの破線で示された基準線208であって、直進アシストレバー79の揺動操作により位置情報が取得された始点と終点とを結ぶ基準線208に対して平行に直進走行するように、GNSS受信機130および方位センサ80から出力された検出信号に基づいて、ステアリングモータ57を駆動し、操舵輪としての左右一対の前輪8を操舵するように構成されている。その結果、作業車両1は、「1列目」として示される列を、真っ直ぐに北へ走行する。
なお、本実施態様にかかる直進制御においては、制御部87は、中央領域210の「1列目」を走行するときに、基準線208よりも次の作業条の方(東側)へ240cm(条間30cm×苗8条分)だけズレた位置を基準線208に対して平行に延びる仮想の目標線を設定した後に、目標線に沿うようにステアリングモータ57を駆動するように構成されている。また、「n列目」(nは2以上の整数)を走行するときには、制御部87は、n-1列目のラインから次の作業条の方(東側)へ240cmだけズレた位置を基準線208に対して平行に延びる目標線を設定した後に、目標線に沿うようにステアリングモータ57を駆動するように構成されている。
しかしながら、このように、直進制御において、生成された目標線に沿って機体2が走行するようにステアリングモータ57を駆動させることは必ずしも必要でなく、直進制御において、単に、基準線が延びる方位を目標方位として、1ないしn列目の各列で直進アシストレバー79が上方に揺動操作された地点から、機体2の方位と目標方位との方位偏差が小さくなるようにステアリングモータ57が駆動されるように構成してもよい。
作業車両1が周縁領域213(北側の枕地)に近づくと、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、制御部87による直進制御が終了される。
こうして、直進制御が終了すると、作業者によって、図4に示されたフィンガーレバー23が上方に揺動操作され、苗植付部63が上昇される。
本実施態様にかかる作業車両1においては、旋回制御スイッチ17の操作によって旋回制御が行われる状態に設定された状態で、主変速レバー35が前進位置(車両が前進する位置)にあり、かつ、フィンガーレバー23が上方に揺動操作されると、制御部87による旋回制御が開始されるように構成されている。以下に、まず、「Uターン旋回」での旋回制御について詳細に説明を加える。
図6は、図1に示された作業車両1の制御部87による旋回制御の手順を示すフローチャートであり、図7は、図6に示された複数のステップと、走行車体2の向き(方位)との関係を示す模式的平面図である。なお、図7においては、矢印付きの一点鎖線(直進走行時)と矢印付きの二点鎖線(旋回走行時)は、作業車両1の幅方向(左右方向)中央部が移動する軌跡を表している。また、図7において、図6に示されるステップs10にかかる部分については、便宜上、グレー色で示されている。
旋回制御において、まず、制御部87は、記憶部93より、旋回目標位置までの距離のデータを取得する(ステップs1)。
ここで、旋回制御の目標は、作業車両1を、旋回後に直進走行する東西方向の位置(線引きマーカー40によってラインが形成された東西方向の位置)に旋回することであり、「1列目」から「2列目」へ旋回する場合の旋回目標位置(旋回後に作業車両1が位置すべき位置であり、次の植付行程の位置)は、図5に示される「2列目」の位置(東西方向の位置)である。すなわち、旋回目標位置までの距離とは、平たく言えば、図5に示される「1列目」と「2列目」との間の(圃場200においては東西方向の)距離であり、本実施態様においては、苗植付部63が左右方向に並ぶ8列の植付具69を有する8条植えの田植機として構成されているため、240cm(条間30cm×8条分)という値のデータが格納されている。なお、図5に示される「1列目」から「n列目」はそれぞれ、作業車両1が直進走行しつつ、苗を植え付ける「植付行程」である。
こうして、旋回目標位置までの距離のデータを取得すると、制御部87は、HSTサーボモータ150を駆動し、車速を0.75[m/s]に規制するとともに、ステアリングモータ57を駆動し、所定の舵角θd[deg]となるように、ステアリングホイール56の次の作業条の方向(「2列目」への旋回時は右側)への回動を開始する(ステップs2)。なお、本明細書においては、[]内には単位が示されている。
ここで、本実施態様において旋回制御時に用いられる所定の舵角θd[deg]とは、8条植えの作業車両1が、標準的な条件の圃場で、ステアリングホイール56を自動的に所定の舵角θdに保持した状態で旋回し、機体2の方位が、旋回する前の向き(方位)からヨー方向に180°変わる間際(具体的には後に詳述するθst以下となる時点)に、ステアリングホイール56の舵角を中立位置に戻すことによって、旋回目標位置に旋回可能な舵角である。
標準的な条件の圃場とは、具体的には、直進走行時に走行車輪8,9のスリップ率(GNSS受信機130等により検出される実際の走行距離を、後輪9の車軸82の回転数等から推定される作業車両1の走行距離で割って算出された値を、さらに1から引くことにより算出されるスリップの割合)が10%程度で、圃場の深さが20cm程度の圃場である。このような圃場上で何度も作業車両1の旋回試験が行われた結果、旋回目標位置に旋回可能なステアリングホイール56の舵角がθd[deg]である。
ステアリングホイール56の舵角θd[deg]は、走行車輪のトレッド幅やホイールベース、次の植付行程の位置等により異なるが、本実施態様にかかる8条植えの作業車両1においては、末切り位置(ロック位置であり、左右一方に限界まで回した位置)よりも20°(後に詳述する舵角補正値の上限)以上手前の角度であり、中立位置からの角度が100°を上回る角度である。すなわち、ステアリングホイール56の舵角θd[deg]は、末切り位置から20°以上中立位置側に戻された角度である。本実施態様においては、ステアリングホイール56が舵角θdへ切られる際には、制御部87は、ピットマンセンサ58(図3参照)の検出信号によりステアリングホイール56の舵角が舵角θd[deg]となったことが検知されたときにステアリングモータ57の駆動を停止し、以後、ステアリングセンサ45の検出信号に基づき、ステアリングモータ57を駆動するように構成されているが、このように構成することは必ずしも必要でない。さらに、ステアリングホイール56の舵角をθd[deg]とする際に、3bit程度の不感帯を設け、舵角がθd±3bitの範囲となった際に、ステアリングモータ57の駆動を停止するように構成してもよい。なお、旋回時の補正前の目標舵角である所定の舵角θdと、後に詳述する現在の舵角であるθa[deg]と、補正後の目標舵角であるθdi[deg]はそれぞれ、ステアリングホイール56の中立位置からの舵角である。
上述のように、標準的な条件の圃場で、ステアリングホイール56を自動的に所定の舵角θd[deg]に保持した状態で旋回することにより、旋回目標位置に旋回することができる。
しかしながら、標準的な条件でない圃場上で旋回制御が行われる場合、走行車輪8,9のスリップによって、駆動力が弱まり、走行車体2が前方へほとんど移動せずに、その場で回ってしまうときに、走行車体2の向きがヨー方向に180°回転される間際までステアリングホイール56を所定の舵角θdに保持した状態で旋回すると、図5に矢印付きのグレー色の細い線で示されるように、過度に小回りになりすぎてしまい、旋回目標位置よりも手前側(図5においては西側)にズレた位置に車両1が位置してしまうことがあった。
また、圃場が過度に浅い場合など、圃場の状態によっては、標準的な条件の圃場上に比して走行車輪8,9のスリップが少なく、過度に大回りになりすぎてしまい、旋回目標位置よりも奥側(図5においては東側)にズレた位置に車両1が位置してしまうことがあった。
このような状況に鑑みて、本実施態様においては、制御部87は、ステアリングホイール56の所定の舵角θdまでの回動を開始させた後に、以下に述べるように、走行車体2の角速度から走行車輪8,9のスリップ量を算出し、さらに、走行車体2の方位と、「1列目」の目標線(基準線に平行な線であって、基準線より240cmだけ東側に位置する線)との角度差が30°以上となった時点で、ステアリングホイール56を、スリップ量を加味した舵角θdiまで自動的に切り戻し、又は切り足すことによって、過度に小回り又は大回りな旋回にならずに、旋回目標位置の位置(「1列目」を直進走行後の旋回においては「2列目」の位置)に作業車両1を移動させることができる。以下の説明において、旋回制御が行われている間に、走行車輪8,9のスリップ量を加味した舵角θdiまでステアリングホイール56を自動的に切り戻し、又は切り足す制御のことを「舵角補正制御」という。
さらに、従来の作業車両の旋回制御においては、車速に拘わらず、ステアリングホイールを、ステアリングモータを用いて一律に最高速で回動させていたため、車速が高い場合にはステアリングホイールの回動(操舵)が完了するまでの走行距離が長く、その結果、過度に大回りに旋回してしまい、反対に、車速が低い場合にはステアリングホイールの回動が完了するまでの走行距離が短く、その結果、過度に小回りになってしまうという問題があった。
このような状況に鑑みて、本実施態様においては、旋回制御中に、ステアリングホイール56が自動的に回動される際(具体的にはステアリングホイール56が舵角θd[deg]や、後に詳述する舵角θdi[deg]まで回動される際など)には、ステアリングホイール56の回動速度が車速に応じて変更(調整)されるように構成されている。
具体的には、主変速レバー35の操作範囲の一部である前進領域(図4(b)参照)内で前後方向に区分けされた複数の区分のうちのいずれに主変速レバー35が操作されているかによって、ステアリングホイール56の回動時の角速度が、以下の速度を上限値として規制される。なお、前進領域内において、最も後方に位置する区分(前進時に車速が最も遅い区分)が1区分目であり、より前方に位置する区分ほど、何区分目の「何」の部分の数が大きくなる。
1区分目 : 50[deg/s]
2区分目 : 70[deg/s]
3区分目 : 90[deg/s]
4区分目 : 110[deg/s]
5区分目 : 130[deg/s]
6区分目 : 150[deg/s]
7区分目移行:170[deg/s]
したがって、たとえば、作業者により主変速レバー35が前進領域内の最も後方に位置する1区分目に操作されているときには、ステアリングホイール56の回動速度が50[deg/s]に規制され、1区分目のすぐ前方の2区分目に操作されている場合には、ステアリングホイール56の回動速度が50[deg/s]に規制される。本実施態様においては前進領域が10つの区分に区分けされており、仮に角速度の規制がない場合には、主変速レバー35がいずれの区分に操作された場合でも170[deg/s]を上回る角速度でステアリングホイール56が回動される。
このように、本実施態様においては、車速が高いほど、すなわち、主変速レバー35がより前方に位置するほど、旋回制御中の規制の範囲内で車速が高くなるとともに、スピードコントロールモータにより構成されたステアリングモータ57の駆動によるステアリングホイール56の回動速度が速くなり、主変速レバー35がより後方に位置するほど、車速が低くなるとともに、ステアリングモータ57の駆動によるステアリングホイール56の回動速度がより低く規制されるため、車速の違いにより車体2が過度に小回り又は大回りに旋回してしまうことを防止し、旋回半径を毎度一定の大きさとすることができる。なお、本実施態様においては、ステアリングモータ57への印加電圧を増減することにより、ステアリングホイールの回動速度の上限値を変更するように構成されているが、上限値の変更方法はとくにこれに限定されない。
また、従来の作業車両においては、旋回制御が行われている間に、ステアリングホイールの回動方向が、左回りから右回りへ、又は右回りから左回りへ切り換えられたときに、急制動となり、ステアリングホイールからステアリングモータまでの間でギア鳴りが発生してしまうことがあった。
これに対し、本実施態様においては、ステアリングホイール56の回動方向を切り換える際(たとえば略中立位置からθdまで切られてからθdiへ切り戻す際)に、制御部87が、ステアリングモータ57の回転速度(すなわちステアリングホイール56の回動速度)を、上述の上限までの範囲での最高速から徐々に減速させ、逆転後にステアリングモータ57の回転速度(すなわちステアリングホイール56の回動速度)を上限までの範囲で徐々に加速させるように制御するよう構成されている。このように構成することにより、逆転時の衝撃を低減できるため、ギア鳴りを防止することができる。
一方、ステアリングホイール56を所定の舵角θdまで回動させ始めると、制御部87は、走行車輪8,9のスリップがない場合に、次の旋回目標位置である「2列目」の位置へ車両1が旋回するための理想角速度ωiを、以下の式(1)によって算出する(ステップs3)。
ωi=0.071vθa[deg/sec] ...(1)
式(1)において、vはGNSS受信機130によって取得された走行車体2の実際の車速[m/s]であり、θaはピットマンセンサ58によって取得されたステアリングホイール56の舵角である。また、「0.071」は本実施態様にかかる作業車両1の理想角速度を求めるためのパラメータであり、走行車輪のトレッド幅やホイールベース(前輪車軸31と後輪車軸82との間の前後方向の距離)によって旋回中の理想角速度は異なるため、トレッド幅やホイールベースを異にする作業車両ごとに、異なる値のパラメータを掛けることによって調節される。
なお、本実施態様においては、車速vが0.1[m/s]以下である場合には、制御部87は、作業車両1が停車中と判定し、ωi=0とするように構成されている。また、ωiの値は、舵角補正制御が終了するまで、データ周期0.1秒、0.5秒移動平均で算出され、ωiの値が時々刻々と更新され続ける。
次いで、制御部87は、方位センサ80から出力されたその時点での走行車体2の方位(機体2の向き)θpの検出信号から、実際の走行車体2のヨー方向の角速度ωpを以下の式(2)によって算出する(ステップs4)。なお、以下において、「・」は乗算記号である。
ωp=10・{θp-θ(p-1)}[deg/sec] ...(2)
本実施態様においては、方位センサ80の検出信号の出力頻度は0.1秒ごと(データ周期が0.1秒)であり、方位センサ80から取得したその時点での走行車体2の方位θpから、その1データ前の走行車体2の方位であるθ(p-1)を減じて得た値に10を乗ずることにより、1秒ごとの実際の走行車体2のヨー方向の角速度ωpを算出することができる。なお、本実施態様においては、式(2)につき、0.5秒移動平均で算出する。また、ωpの値は、その後も時々刻々と更新され続ける。
こうして、理想角速度ωiと、実際の走行車体2のヨー方向の角速度ωpを算出すると、制御部87は、ステアリングセンサ45の検出信号に基づき、ステアリングホイール56の舵角がすでに所定の角度θd[deg]であるか否かを判定する(ステップs5)。なお、上述のように、所定の角度θd[deg]に不感帯が設けられた場合には、ステアリングホイール56の舵角が所定の角度θd又はその前後の不感帯の範囲にあるか否かを判定する。
ステアリングホイール56の舵角が所定の角度θdであるか否かの判定の結果、ステアリングホイール56の舵角が所定の角度θdに満たない場合には、ステアリングホイール56が所定の角度θdまで切られるまで、ステアリングセンサ45の検出信号の取得と判定とが繰り返される。
これに対して、判定の結果、ステアリングホイール56の舵角が所定の角度θdである場合には、制御部87は、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングホイール56の舵角が、以下の式(4)により算出された補正後の舵角θdi[deg]となるようにステアリングホイール56を切り戻し、又は切り足す(ステップs6、図6および図7参照)。
θdi=θd-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)+1.5・(10-x)[deg] ...式(4)
ただし、θdiは、θd-100≦θdi≦θd+20[deg]の範囲とし、舵角θdより切り戻し方向(中立位置へ向かう方向)へ100°、切り足し方向(末切り位置=ロック位置へ向かう方向)へ20°を限度とした範囲で舵角が補正される。すなわち、舵角補正値の下限は-100°であり、舵角補正値の上限は20°である。なお、ステアリングホイール56を舵角θdiに補正する(変更する)際についても、不感帯を前後3bit程度設けてもよい。
式(4)において、θd[deg]は上述のように、標準的な条件の圃場で、旋回制御により、ステアリングホイール56の舵角をθd[deg]に保持した状態で旋回目標位置に旋回可能な角度である。したがって、式(4)を平たく言えば、「(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)+1.5・(10-x)」[deg]の分だけ、ステアリングホイール56が、舵角θdから切り戻され、又は切り足される。
式(4)内には、所定の舵角θdを有する項「θd」と、機体角速度検知による舵角補正を目的とした「-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」の項と、スリップ量の多少によらずに(スリップ量に拘わらず)、実際の旋回の状況に応じて作業者が舵角を任意に補正可能とすることを目的とした「1.5・(10-x)」の項が含まれている。
-「(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」の項は、0の値をとる場合を除き負の数をとるため、この項により、所定の舵角θd[deg]から大回り側(中立位置側)にのみ舵角補正を行い、「1.5・(10-x)」の項は、0の値をとる場合を除き正の数をとるため、この項により、所定の舵角θd[deg]から小回り側(末切り位置側)にも補正が可能に構成されている。換言すれば、「-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」の項は、ステアリングホイール56の舵角を所定の舵角θd[deg]から中立位置側に補正するように機能する項であり、「1.5・(10-x)」の項は、ステアリングホイール56の舵角を所定の舵角θd[deg]から末切り位置側へ補正するように機能する項である。なお、xは後に詳述する制御値が代入される変数であり、「1.5」という数値は、本実施態様にかかる作業車両1を旋回目標位置へ旋回させるべく、圃場での走行試験の結果に基づき導き出された値である。
θpは、上述のように、その時点での走行車体2の方位(機体2の向き)を指し、「sinθp・cos(θp/2)」は0ないしおよそ0.77の値をとる。機体2(走行車体2)の方位によって、ステアリングモータ57の制御量を変更したいため、「sinθp・cos(θp/2)」が乗算される。
一方、「ωp-ωi」([deg/sec])によって算出される値は、走行車輪8,9のスリップ量(スリップの度合い)を表す相関値である。
ここで、作業車両1(走行車体2)が旋回する際に、圃場の状態により、走行車輪8,9がスリップし、走行車体2が前方へほとんど移動せずに、その場で回ってしまうような場合には、スリップが少なく正常に旋回する場合に比して、実際の走行車体2のヨー方向の角速度ωpが高くなり、ωp-ωiによって算出される値も大きくなる。すなわち、走行車輪8,9のスリップ量と、ωp-ωiによって算出される値とは相関関係にある。したがって、実際の走行車体2のヨー方向の角速度ωpから、理想角速度ωiを減ずることによって、スリップ量(スリップの度合い)を表す相関値を算出することができる。
このため、たとえば、ωp-ωiの値が、所定の値以上である場合には、走行車輪8,9がスリップしていると判定するように構成することも可能である。なお、実際の圃場においては、ωp-ωiは、およそ0ないし5の値を取り、最大で10程度である。
このように、本実施態様においては、ωp-ωiにより算出されたスリップ量を加味した舵角θdiまでステアリングホイール56が切り戻され、又は切り足される(すなわち、舵角補正制御が行われる)ように構成されているから、走行車輪8,9のスリップの多少により、過度に小回り又は大回りに旋回してしまうことを防止することができる。
なお、ωp-ωi<0の場合には、スリップがないものと仮定して、(ωp-ωi)=0としてθdiを算出するように構成されている。低車速で角速度検出が安定しないときに局所的にωp-ωiが0未満となることがあるが、ωp-ωiが負の数をとる状態で式(4)によりθdiを算出すると、θdiがプラス側(小回り側)に補正されてしまい、旋回が安定しなかった。
これに対し、本実施態様においては、ωp-ωi<0の場合に(ωp-ωi)=0としてθdiを算出するため、不適切な舵角の補正を防止することができる。
さらに、本実施態様においては、作業者は、式(4)内の変数xに代入される制御値を、予め、モニタ61上で任意に設定することによって、舵角補正制御においてステアリングホイール56を舵角θdから切り戻し、又は切り足す量(角度、回動量)を調節することができる。
図8は、舵角補正制御におけるモニタ61に表示される制御値の設定画面を示す図面であり、図8(a)は、左側へ旋回する場合の舵角補正制御における制御値の設定画面を示す図面であり、図8(b)は、右側へ旋回する場合の舵角補正制御における制御値の設定画面を示す図面である。
モニタ61は、現在設定されている制御値を表示するディスプレイ32と、制御値を設定する操作スイッチ62を備えている。
本実施態様においては、0を含む-10ないし10の計21個の整数の数値の中から、任意の数値を、式(4)の変数xに代入される制御値の数値として、操作スイッチ62を用いて設定可能に構成されており、設定された数値は、記憶部93に格納され、図6に示されるステップs6の時点で記憶部93から読み出され、舵角θdi[deg]が算出される。
-10ないし10の範囲内で設定された制御値の数値が大きいほど、舵角θdから減算される角度「(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]の値が大きくなり、作業車両1の旋回が大回りになる。その結果、旋回後に、より奥側(図5において、より東側)の位置に作業車両1が位置することとなる。
したがって、作業者は、旋回制御による旋回後の作業車両1の東西方向の位置と、線引きマーカー40によって形成された次に直進走行すべき列の東西方向の位置とを比較し、旋回後の作業車両1が、次に直進走行すべき列の位置よりも西側(手前側)に位置している場合には、モニタ61の操作スイッチ62を用いて、制御値をより大きく設定することによって、旋回後の作業車両1の位置を、より東側にずらし、次に直進走行すべき列と東西方向の位置を合わせることができる。
また、-10ないし10の範囲内で設定された制御値が小さいほど、式(4)において舵角θdから減算される角度「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]の値が小さくなり、かつ、舵角θdに加算される「1.5・(10-x)」[deg]の値が大きくなるから、作業車両1の旋回が小回りになる。その結果、より手前側(図5においては、より西側)の位置に作業車両1が位置することとなる。
したがって、作業者は、旋回制御による旋回後の作業車両1の東西方向の位置と、線引きマーカー40によって形成された次に直進走行すべき列の東西方向の位置とを比較し、旋回後の作業車両1が、次に直進走行すべき列の位置よりも東側(奥側)に位置している場合には、モニタ61の操作スイッチ62を用いて、制御値をより小さく設定することによって、旋回後の作業車両1の位置を、より西側にずらし、次に直進走行すべき列と東西方向の位置を合わせることができる。
なお、本実施態様においては、図8(a)および図8(b)に示されるように、左側へ旋回するときに行われる舵角補正制御における目標舵角θdiを算出するのに用いられる変数xに代入される制御値と、右側へ旋回するときに行われる舵角補正制御における目標舵角θdiを算出するのに用いられる変数xに代入される制御値とを、互いに独立して設定可能に構成されている。換言すれば、旋回制御により左側へ旋回する場合と、旋回制御により右側へ旋回する場合とで、目標舵角θdiを算出するのに用いられる変数xに代入される制御値を別々の値に設定することができる。
したがって、図5に示される圃場200および走行経路において、右側へ旋回する枕地である北側の枕地と、左側へ旋回する枕地である南側の枕地との間で、圃場の状態が異なる場合にも、それぞれの枕地に適した制御値を設定することによって、北側の枕地、南側の枕地のいずれにおいても、次に直進走行する列の東西方向の位置と、旋回後の作業車両1(走行車体2)の東西方向の位置とを一致させることができるから、旋回後にスムーズに直進制御に移行することができる。
制御値が標準的な数値である「0」に設定された場合、舵角θdi[deg]は最大でθd-77[deg]程度である。
また、式(4)から見て取れるように、スリップがない場合(ωp-ωi=0の場合)で、制御値が標準的な数値である「0」に設定された場合には、舵角が12°だけθdから末切り側へ切り足され、スリップがない場合で、制御値が「+10」に設定された場合には、舵角が0°だけθdから末切り側へ切り足され(切り戻されも切り足されもしない)、スリップがない場合で、制御値が「-10」に設定された場合には、舵角が20°(補正上限値)だけθdから末切り側へ切り足される。このように、切り足し側に補正することも可能としたことにより、浅い圃場や路上等(スリップが少ない状況)に対応することができる。
一方、図6および図7に示されるように、ステアリングホイール56をθdiの舵角まで回動させると、制御部87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における目標線との角度差が、60°以下であるか否かを判定する(ステップs7)。
判定の結果、機体2の方位と目標線との角度差が60°を超えている場合には、制御部87は、角度差が60°以下となるまで、ステアリングホイール56の舵角をθdiに保持する。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と仮想の目標線との角度差が60°以下である場合には、制御部87は、舵角補正制御を終了し、ステアリングモータ57を駆動して、ステアリングホイール56の舵角をθdに変更する(ステップs8、図6および図7参照)とともに、ピットマンセンサ58による角度の検出に基づくステアリングホイール56の制御に戻す。
なお、舵角補正制御が行われている間、ステアリングホイール56の舵角は、上述のように、θdi[deg]に保持されるが、旋回中に、実際の車速、ステアリングホイール56の舵角、機体2の方位および角速度は時々刻々と変化するため、式(4)内のωp(機体の実際の角速度)、ωi(理想角速度)およびθp(機体の方位)の各値も時々刻々と更新される。したがって、舵角補正制御の間のステアリングホイール56の舵角θdi[deg]も、機体2の方位と仮想の目標線との角度差が60°以下となる(ステップs8)まで、変更(更新)され続ける。このように、本実施態様においては、機体2の方位と目標線との角度差が60°以下となるまでの間、走行車輪8,9のスリップ量と、モニタ61上で設定される舵角補正の制御値とを加味した舵角へ補正された状態が維持される。
こうして、ステアリングホイール56の舵角をθdに変更すると、制御部87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における仮想の目標線との角度差が、50°以下であるか否かを判定する(ステップs9)。
判定の結果、機体2の方位と次の植付行程(たとえば「2列目」)における仮想の目標線との角度差が50°を超えている場合には、角度差が50°以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における仮想の目標線との角度差が50°以下である場合には、制御部87は、HSTサーボモータ150を駆動し、車速を0.5m/sに規制する(ステップs10、図6および図7参照)。
作業車両1の車速を0.5m/sに規制すると、制御部87は、次の式(5)によって、ステアリングホイール56を中立位置へ戻し始める機体2の方位を算出する(ステップs11)。
θst=1.32・ωp[deg] ...式(5)
次いで、制御部87は、方位センサ80から出力された検出信号から判断される機体2の方位と、次の直進走行における仮想の目標線との角度差が、算出した角度θst以下であるか否かを判定する(ステップs12)。
判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差がθst[deg]を超えている場合には、ステアリングホイール56の舵角をθdに保持した状態で、角度差がθst[deg]以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差がθst[deg]以下である場合には、制御部87は、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングホイール56を中立位置に戻す(ステップs13)。その結果、旋回後において、機体2の方位は一定(図5に示される圃場200および走行経路の場合には南向き又は北向き)となる。
なお、本実施態様においては、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差が、式(5)により算出した角度以下となった時点でステアリングホイール56を中立位置に戻すように構成されているが、θst=180-1.32・ωp[deg]だけ、旋回前の方位からヨー方向に変化した時点で、ステアリングホイール56を中立位置に戻すように構成してもよい。いずれの場合にも、同様の作用を奏することとなる。
このように、本実施態様にかかる旋回制御においては、途中で、ωp-ωiにより算出されたスリップ量と、モニタ61上で設定された舵角補正の制御値とを加味した舵角θdiまでステアリングホイール56が切り戻され、又は切り足される舵角補正制御が行われるように構成されているから、走行車輪8,9のスリップの多少によって過度に小回り又は大回りに旋回してしまうことを防止することができる。
さらに、旋回制御スイッチ17の操作により実行される旋回制御の結果、万一、作業車両1が、次に直進走行する東西方向の位置(線引きマーカー40によって形成された線の位置であり、仮想の目標線の位置でもある)と異なる位置に旋回してしまう場合(過度に小回り又は大回り)には、作業者は、図8に示される操作スイッチ62を操作し、式(4)中の変数xに代入される制御値を変更することによって、旋回後の作業車両1(走行車体2)の東西方向の位置を調節することができる。
こうして、旋回制御が終了すると、制御部87は、車速の規制を解除し、HSTサーボモータ150を駆動して、主変速レバー35の操作位置に応じた車速に変更する。さらに、制御部87は、自動的に苗植付部63を作業位置へ下降させ、苗の植付けを開始するとともに、直進制御を開始する直進アシストレバー79が操作されることなしに、自動的に直進制御に移行する(直進制御を開始する)ように構成されている。
その結果、作業車両1は、図5に「2列目」として示された位置を、南へ走行しつつ、「1列目」の位置を北へ走行した際に植付けられた苗に対して適切な間隔で、その東側に苗を植え付けることができる。
直進制御のもとに、作業車両1が周縁領域211に近づくと、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、制御部87による直進制御が終了される。
次いで、作業者によって図4に示されたフィンガーレバー23が上方に揺動操作されて、苗植付部63が上昇されるとともに、「1列目」から「2列目」へ旋回する場合と同様にして、旋回制御による「2列目」から「3列目」への旋回が行われる。
以下、同様にして、作業車両1は、苗の植付けを伴う直進走行(図5に一点鎖線で図示)と、旋回制御による旋回(図5に二点鎖線で図示)とを繰り返しながら、「n列目」の位置まで走行する。
こうして、中央領域210全体に苗を植え付けた後に、作業車両1は、作業者による操縦に基づき、周縁領域211ないし214を順に走行しつつ、苗を植え付ける。その結果、圃場200全体に苗が植え付けられる。
以上、直進制御と「Uターン旋回」の形式による旋回制御とを交互に行いつつ、圃場に苗を植え付ける方法について、詳細に説明を加えたが、旋回制御スイッチ17の操作により「バック旋回」に設定された場合には、以下のようにして旋回制御が行われる。
図9は、「バック旋回」の形式による旋回制御の手順を示すフローチャートである。
図9に示されるように、「バック旋回」の形式による旋回制御に先立って、図5に示される「1列目」等の各直進走行の列にて、直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、制御部87による直進制御が終了した後に、作業者の操縦により作業車両1が走行し、枕地である周縁領域211または213の畔際の位置で停車する。苗が不足している場合には、このタイミングで作業者又は畔にいる補助者により苗の補給が行われる。
次いで、主変速レバー35が後進領域(図4(b)参照)に操作されると、「バック旋回」の形式による旋回制御が開始される。
作業車両1の後進により旋回制御が開始されると、まず、制御部87は、記憶部93より、旋回目標位置までの距離のデータを取得する(ステップss1)。旋回目標位置の定義は、「Uターン旋回」の場合と同様である。
次いで、制御部87は、ステアリングホイール56を中立位置に戻すとともに、機体2を所定の距離だけ更新させ、停車させる。本実施態様においては、後輪回転センサ29の検出信号に基づき、106cmだけ機体を後進させるように構成されている。
こうして、機体2が停車すると、制御部87は、車速を0.75[m/s]に規制しつつ、機体を前進させるとともに、ステアリングモータ57を駆動し、所定の舵角θd[deg]となるように、ステアリングホイール56を次の作業条の方向(「2列目」への旋回時は右側)への回動を開始する(ステップss2)。
以下、「Uターン旋回」の場合のステップs3ないしs13(図6参照)と同様の制御が行われる。
図1ないし図9に示された本実施態様によれば、旋回制御において、標準的な条件の圃場で旋回目標位置に旋回可能な所定の舵角であるθd[deg]から、目標舵角θdi[deg]へステアリングホイール56の舵角補正が行われるように構成され、この目標舵角θdi[deg]を算出する式(4)において、走行車輪8,9のスリップ量の度合いを表す相関値「(ωp-ωi)」を含む項「-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」が、所定の舵角θd[deg]からステアリングホイール56の中立位置側に舵角を補正するように機能する項であるから、スリップ量に応じてステアリングホイール56の舵角を中立位置側に補正することができる。
したがって、スリップ量が多い場合でも、過度に小回りに旋回してしまうことを防止でき、走行車輪8,9のスリップ量を加味した舵角で、一定の旋回半径で旋回目標位置である次の植付行程の位置へ作業車両1を安定的に旋回させることができる。
加えて、このように、走行車輪8,9のスリップを加味した舵角で旋回を行うことができるから、旋回時に別途走行経路を設定し、その走行経路に沿うようにステアリングホイール56を度々回動させる必要がなく、したがって、旋回目標位置である次の植付行程の位置へ作業車両1を安定的に旋回させつつも、機体2のカクつきを防止し、挙動を安定させることができる。
また、本実施態様によれば、旋回時の走行車輪8,9のスリップ量の度合いを表す相関値「(ωp-ωi)」が0未満である場合には、かかる相関値を0として目標舵角θdiを算出するように構成されているから、不適切な舵角の補正を防止することができる。
さらに、本実施態様によれば、目標舵角θdiを算出する式(4)に、作業者により設定される舵角補正の制御値(図8(a)及び図8(b)参照)が代入される変数xを含む項「1.5・(10-x)」が含まれているから、作業者により設定される制御値を加味した舵角で、旋回目標位置である次の植付行程の位置へ作業車両1を精度よく旋回させることができる。加えて、この項「1.5・(10-x)」が、ステアリングホイール56の舵角を所定の舵角θd[deg]から末切り位置側に補正するように機能する項であるから、浅い圃場などのスリップ量の少ない状況において、過度に大回りしてしまう事態を防止することができる。
また、本実施態様によれば、ステアリングホイール56の舵角をθd、θdi、θd、中立位置へと順次に変更することにより、作業車両1を精確な位置へ旋回させることができるから、旋回時に走行経路を別途設定し、その走行経路に沿うようにステアリングホイールを度々回動させる必要がないため、制御を簡潔にできる。
また、本実施態様によれば、旋回制御により作業車両1が旋回している間に、ステアリングホイール56を回動させるステアリングモータ57を駆動する制御手段である制御部87が、走行車体2の車速が低いほどステアリングホイール56の回動速度が低くなるように、主変速レバー35の操作位置に応じて印加電圧を変更し、ステアリングホイール56の回動速度の上限値を変更するよう構成されているから、旋回制御における旋回半径をより一層安定させることができ、作業車両1を次の植付行程の位置へ安定的に旋回させることができる。
さらに、本実施態様によれば、旋回制御において、ステアリングホイール56の回動方向が切り換わる前後に、ステアリングホイール56を回動させるステアリングモータ57の回転速度を低く抑えるように構成されているから、ステアリングホイール56の回動方向が切り換わる際の衝撃を低減し、ステアリングホイール56からステアリングモータ57までの間でギア鳴りが発生してしまうことを防止することができる。
さらに、本実施態様によれば、土壌の肥沃度のデータを取得する距離間隔が、圃場に苗を植え付ける条間の距離(30cm)に等しく構成されているから、安定してサンプリングを行えることに加え、斜めや横方向に走行しつつティーチングを行うときでも、およそ隣接する条(苗の列)ごとにデータを取得することができる。
さらに、本実施態様によれば、旋回制御において、走行車輪8,9のスリップの度合いを表す相関値に応じてステアリングホイール56が切り戻され、又は切り足される際の回動量(回動角度)「-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)+1.5・(10-x)」[deg]を、図8に示されるように、モニタ61上で制御値を変更することにより増減させることができるから、旋回後の作業車両1の位置を、モニタ61上で容易に調節することができる。
また、本実施態様によれば、左側へ旋回する場合と、右側へ旋回する場合とで、別々の制御値をモニタ61上で設定することができるから、圃場上の一方の枕地(北側の枕地)と、他方の枕地(南側の枕地)との間で圃場条件が異なる場合に、各枕地で、旋回後の作業車両1の位置を適切に調節することができる。
図10は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる作業車両1の制御部87による旋回制御の手順を示すフローチャートである。
本実施態様にかかる作業車両1は、7条植えの苗植付部63(作業機の一例)を備えた田植機として構成されており旋回目標位置までの距離(たとえば「1列目」と「2列目」との間の距離)が210cm(条間30cm×苗7条分)であるため、図1ないし図9に示された前記実施態様にかかる作業車両1の場合よりも30cmだけ短く設定されている。
そのため、旋回制御において、制御部87は、標準的な条件の圃場で、旋回目標位置に旋回可能な所定の舵角θd[deg]が、前記実施態様の場合の所定の舵角θd[deg]よりも末切り位置側に位置しており(中立位置からの舵角θd[deg]が前記実施態様の場合よりも大きい)、ステアリングホイール56をほぼ末切り位置まで切った状態で旋回がスタートする。
ここで、上述のように、補正後の目標舵角θdiの範囲は、θd-100≦θdi≦θd+20[deg]であり、所定の舵角θd[deg]からの補正幅は、-100°ないし+20°に構成されており、末切り位置側への補正値(舵角θdからの切り足し方向の補正)の上限(最大値)は+20°である。
しかしながら、7条植えの苗植付部63を有する作業車両1においては、舵角θdがほぼ末切り位置であり、補正前の舵角θd[deg]が、末切り位置より補正上限角度(+20°)以上中立位置側に位置していない。換言すれば、所定の舵角θd[deg]に、補正上限角度を足すと、末切り位置を上回る角度となる。したがって、切り足し側への充分な舵角補正を行うことができないため、本実施態様においては、中立位置へ切り戻すタイミング(図6におけるステップs11で算出される機体2の方位)を補正することにより、旋回目標位置へ旋回できるように構成されており、以下に、「Uターン旋回」の形式による旋回制御における中立位置へ切り戻すタイミングの補正について説明を加える。
本実施態様においては、旋回目標位置までの距離のデータを取得した(ステップsss1)後に、制御部87は、車速を0.75[m/s]に規制するとともに、ステアリングモータ57を駆動し、所定の舵角θd[deg]となるように、ステアリングホイール56を、次の植付行程の側へ回動させる(ステップsss2)。
次いで、制御部87は、機体の方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における仮想の目標線との角度差が、50°以下であるか否かを判定する(ステップsss3)。
判定の結果、機体2の方位と次の植付行程(たとえば「2列目」)における仮想の目標線との角度差が50°を超えている場合には、角度差が50°以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の植付行程における仮想の目標線との角度差が50°以下である場合には、制御部87は、HSTサーボモータ150を駆動し、車速を0.5m/sに規制する(ステップsss4)。
作業車両1の車速を0.5m/sに規制すると、制御部87は、次の式(6)によって、ステアリングホイール56を中立位置へ戻し始める機体2の方位を算出する(ステップsss5)。
θst=1.38・ωp+x[deg] ...式(6)
ωpは、前記実施態様の場合と同様に、ωp=10・{θp-θ(p-1)}[deg/sec]により算出される値であり、xは、前記実施態様の場合と同様に、モニタ61上で設定された制御値である。
次いで、制御部87は、方位センサ80から出力された検出信号から判断される機体2の方位と、次の直進走行における仮想の目標線との角度差が、式(6)により算出した角度θst以下であるか否かを判定する(ステップsss6)。
判定の結果、機体2の方位と次の植付行程(直進走行)における目標線との角度差がθst[deg]を超えている場合には、ステアリングホイール56の舵角をθdに保持した状態で、角度差がθst[deg]以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差がθst[deg]以下である場合には、制御部87は、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングホイール56を中立位置に戻す(ステップsss7)。
このように、本実施態様においては、モニタ61上で設定された制御値も加味した機体方位(タイミング)でステアリングホイール56を中立位置に切り戻すように構成されているから、旋回目標位置へ精度よく旋回することができる。
なお、本実施態様においては、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差が、式(5)により算出した角度以下となった時点でステアリングホイール56を中立位置に戻すように構成されているが、θst=180-1.38・ωp[deg]だけ、旋回前の方位からヨー方向に機体の向きが変化した時点で、ステアリングホイール56を中立位置に戻すように構成してもよい。いずれの場合にも、同様の作用を奏することとなる。
こうして、旋回制御を終えると、制御部87は、車速の規制を解除し、HSTサーボモータ150を駆動して、主変速レバー35の操作位置に応じた車速に変更する。
なお、本実施態様にかかる作業車両1は、苗の植付条数が7条である点および上述した旋回制御の違いを除き、前記実施態様の作業車両1と同様に構成されている。
図11は、図10に示された実施態様にかかるモニタ61に表示される苗取量を設定する画面を示す図面であり、図11(a)は、苗取量を設定する画面において、標準的な苗取量に設定された状態を示す図面であり、図11(b)、図11(c)および図11(d)は、苗取量を設定する画面において、密播用の苗取量に設定された状態を示す図面である。
図11に示されるように、苗取量を設定する画面には、11つの目盛りからなるインジケータが設けられており、インジケータ上にて右側を選択するほど苗取量が多く設定される。
ここで、インジケータの左側3つの目盛り(数値でいう「-1」ないし「-3」)の下方には、密播に適した範囲を示す表示101が設けられており、作業者は、苗箱から取り出された苗から植付具69により一度に掻き取られる苗の量である苗取量について、密播に適した量の範囲を直感的かつ容易に把握できる。したがって、密播用に装着されるオプションの部品の装着の有無を検出するセンサ等の部品を別途設けた上で、オプションの部品の装着時に、設定可能な苗取量の範囲を自動的に限定する等の構成を設ける必要がなく、このように苗取量を設定する画面に、密播に適した範囲を表示するだけで、センサ等にかかるコストを容易に削減することができる。
一方、図12(a)は、さらに他の実施態様にかかる作業車両の前部に設けられたカメラとその撮像範囲を示す模式的側面図であり、図12(b)は、カメラにより撮像された棚田の畔と圃場とを2値化した状態を示す模式図である。
図12(a)に示されるカメラ78は、2条式の小型ロボット田植機として構成された作業車両の前部に設けられており、車両の前下方を撮像可能に構成されている。
制御部は、記憶部に格納されている簡易的なプログラムを読み出し、実行することにより、カメラ78により撮像された画像を、図12(b)の吹き出し内に示されるように2値化し、撮像された範囲を、苗が植え付けられる圃場と畔とに区別するように構成されている。このように、GNSS等の位置情報なしに、簡易的な手法で、苗を植え付けるエリアを決定できるため、形状がいびつで面積が狭い棚田においても、作業車両を用いて効率的に苗を植えつけることができ、労力を大幅に削減することが可能になる。また、GNSS受信機を車両に設けた場合には、取得された位置情報に基づき、エリア内に正確な植付け走行を行うことができる。
また、図12(b)に破線で示されるように、カメラ78による撮像範囲は帯状であってもよく、この場合には、カメラ78から一定距離だけ前側に位置する撮像範囲に向かって直進するようにステアリングホイールを操舵するように構成することにより、畔際に沿って圃場1周を植付けすることができる。
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば、図1ないし図10に示された各実施態様においては、作業車両1は、田植え機として構成されているが、トラクターやコンバインなどの他の作業車両として構成してもよい。
また、図1ないし図10に示された各実施態様においては、「ヨー方向角速度検出手段」として、方位センサが用いられているが、IMUなどのジャイロセンサを用いて、走行車体のヨー方向の角速度を検出するように構成してもよい。
さらに、図1ないし図10に示された各実施態様においては、「Uターン旋回」の形式で、フィンガーレバー23が上方に回動されたことを旋回制御の開始条件として構成されているが、旋回制御の開始条件はこれに限られない。
さらに、図1ないし図9に示された実施態様においては、スリップ量(スリップの度合いを表す相関値)、すなわち、理想角速度と実際の角速度との差分に基づいて、ステアリングホイール56を切り戻す量を調節するように構成されているが、スリップ量である理想角速度と実際の角速度との差分の値が所定の値以上である場合に、走行車輪をデフロックするように構成してもよい。このように構成することによって、走行車輪のスリップが発生し、作業車両がほとんど移動せずに、その場で回ってしまうような場合に、過度に小回りに旋回してしまう事態を防止することができ、また、走行駆動力を向上させ、走行車輪のスリップを解消することができる。
さらに、図1ないし図9に示された実施態様においては、制御部87は、トレッド幅やホイールベースに基づき設定された「0.071」という値のパラメータを用いて、理想角速度ωiを算出するように構成されているが、走行車体2に補助車輪が別途取り付けられた場合に、たとえば、モニタ61上で、補助車輪が取り付けられた旨を作業者が設定すると、制御部87がパラメータの値を適切な値に変更して、理想角速度ωiを算出するように構成してもよい。このように構成することによって、走行車体2に補助車輪が取り付けられて走行車体2が大回りする傾向にある場合においても、旋回時の理想角速度ωiを正確に算出し、走行車輪のスリップを的確に加味した舵角補正制御を行うことができる。
また、図1ないし図10に示された各実施態様においては、可変施肥に先立って行われるティーチング時に、1条間の距離である30cmごとに肥沃度のデータ、すなわち、圃場の電気伝導度、圃場の深度および温度のデータを取得し、走行距離の取得手段である後輪回転センサ29とGNSS受信機130のいずれもが故障している場合に限り、0.2秒の倍数秒ごとの設定された間隔で肥沃度のデータを取得するよう構成されているが、走行距離の取得手段を用いずに、常時、0.2秒の倍数秒ごとの設定された間隔で肥沃度のデータを取得するよう構成してもよい。
ここで、従来の田植機において上述のように0.2秒ごとに土壌の肥沃度のデータを取得する場合で、圃場が広い場合には、ティーチングが完了するまでに0.2秒×250回(個)を上回るデータが取得され、データの平均値、標準偏差を算出するのに浮動小数点、平方根の計算等のCPUの負荷の高い処理が行われるため、データ数の上限を250回(個)に制限することにより、CPUが処理落ちしてしまうことの防止が図られていた。そのため、圃場の端から端までの肥沃度のデータが取得できていないことがあった。
これに対し、0.2秒の倍数秒ごとの設定された間隔で肥沃度のデータを取得可能に構成した場合には、0.2秒に設定されたときを除き、従来に比して取得可能な時間を延ばすことができるため、圃場内でデータを取得できなかった場所が生じることを抑制することが可能になる。
さらに、図1ないし図9に示された実施態様においては、目標舵角θdiを算出する式(4)が、所定の舵角を有する項と、旋回時の走行車輪のスリップ量の度合いを表す相関値を含む項と、作業者により設定される舵角補正の制御値が代入される変数を含む項とを含んでいるが、作業者により設定される舵角補正の制御値が代入される変数を含む項を含むことは必ずしも必要でない。
したがって、たとえば、θdi=θd-(1.5・(ωp-ωi))・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)[deg]の式により制御部87がθdiを算出するように構成してもよく、また、θdi=θd-(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)[deg]の式により制御部87がθdiを算出するように構成してもよい。これらの式によれば、走行車輪のスリップ量に応じた量だけ所定の舵角θd[deg]から切り戻し方向(中立位置側)のみにステアリングホイールの舵角補正が行われる。また、所定の舵角θdを有する項が「θd」であることは必ずしも必要でなく、たとえば、「1.1θd」等、数値とθdの両方を含む項であってもよく、「yθd」等、変数とθdの両方を含む項であってもよい。