以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる作業車両1の略左側面図であり、図2は、図1に示された作業車両1の略平面図である。
本明細書においては、図1または図2に矢印で示されるように、作業車両1の進行方向となる側を前方とし、特に断りがない限り、作業車両1の進行方向に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
本実施態様にかかる作業車両1は、圃場に稲の苗を植え付ける田植機であり、図1および図2に示されるように、走行車両2(以下、「機体」ともいう。)と、走行車両2の後部に取り付けられた苗植付部63(本発明にかかる作業機の一例)と、圃場に肥料を供給する施肥装置26と、苗を植え付けながら走行する際の走行位置の目安となるラインを圃場上に形成する左右一対の線引きマーカー40と、走行車両2の前部に設けられ、苗植付部63に供給される苗を収容する補助苗枠74と、走行車両2の前部に設けられたGNSS受信機130(本発明にかかる「位置情報取得手段」の一例)および走行車両2が向いている方位を検出する方位センサ80を備えている。
図1に示されるように、走行車両2は、フロントカバー47に覆われたコントローラ87(本発明にかかる「制御手段」に相当)と、走行車両2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、作業車両1の幅方向に延びる後部フレーム6と、メインフレーム3の上方に配置されたフロアステップ60と、フロアステップ60の上方に設けられた操縦席48と、操縦部49と、操縦席48の下方に設けられたエンジン7と、走行車輪としての左右一対の前輪8(操舵輪)および左右一対の後輪9と、エンジン7の動力を左右一対の前輪8および後輪9に伝達するミッションケース30などの伝達機構を備えている。
操縦部49は、図2に示されるように、走行車両2の前後進と車速を変更する前後進レバー35と、左右一対の前輪8を操舵するステアリングホイール56を含む操舵機構43と、ステアリングホイール56の左側近傍に設けられた直進アシストレバー79と、操作スイッチを有するモニタ61(図8参照)と、作業車両1を操作するための種々の操作スイッチが設けられた操作部54を備えている。本実施態様においては、コントローラ87の出力信号に基づき、作業車両1が圃場上を直進走行するように、ステアリングホイール56を自動的に駆動する直進制御(いわゆる直進アシスト)と、作業車両1が圃場上を旋回するように、ステアリングホイール56を自動的に駆動する旋回制御を実行可能に構成されている。
直進アシストレバー79は、走行車両2の位置情報を取得する際と、直進制御を開始または停止させる際に揺動操作される。
操舵機構43は、ステアリングホイール56の他、ステアリングシャフト83、ピットマンアームおよびタイロッド(図示せず)を備えている。
一方、エンジン7から出力された駆動力は、図1に示されるように、フロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4および静油圧式無段変速機(HST)25を介してミッションケース30に伝動される。
静油圧式無段変速機25は、トラニオン軸(図示せず)を備え、前後進レバー35が操作されると、トラニオン軸の開度がHSTサーボモータ150(図3参照)の駆動によって調整されて、ミッションケース30への出力が変更されるように構成されている。
ミッションケース30に伝達された動力は、その内部で変速されて、左右一対の前輪8および左右一対の後輪9への走行用の動力と、苗植付部63を駆動するための動力(駆動用の動力)とに分けて伝動される。
走行用の動力は、前輪ファイナルケース13および前輪車軸31(図1参照)を介して、左右一対の前輪8に伝達される他、図1および図2に示される左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51および車軸82(図1参照)を介して、左右一対の後輪9に伝達される。
一方、駆動用の動力は、走行車両2の後部に設けられた植付クラッチ(図示せず)まで伝達され、植付クラッチが入れられた際に、さらに苗植付部63へ伝達される。
苗植付部63は、図1に示されるように、昇降リンク装置5を介して、走行車両2に取り付けられている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85および左右一対の下部リンクアーム86を備え、苗植付部63を昇降可能に構成されている。
上部リンクアーム85および下部リンクアーム86の前側の端部は、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
ここに、コントローラ87によって電子油圧バルブ88(図3参照)が制御されて、図1に示される昇降油圧シリンダ12が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が後ろ上がりに回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇されるように構成されている。苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置する。
これに対して、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が後ろ下がりに回動され、苗植付部63が、苗の植付け作業が可能な作業位置(図1に示された位置)まで下降される。
図1および図2に示されるように、苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を立て掛ける台65と、台65の後方かつ下方に設けられた4つの植付装置64(図2参照)と、苗植付部63の下部に設けられたセンターフロート38と、センターフロート38の左右に配置された4つのサイドフロート39を備えている。
図2に示されるように、4つの植付装置64は作業車両1の幅方向に並べて設けられ、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備えている。植付クラッチが入れられて、図1に示される駆動軸67が回転されると、図1および図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69が、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に、台65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付けるように構成されている。このように、本実施態様においては、計8つの植付具69が左右方向に並べて設けられているため、作業車両1が圃場に苗を植え付けつつ、直進走行すると、8条の苗列が形成される。
センターフロート38および4つのサイドフロート39はそれぞれ、作業車両1が走行するのに伴って、圃場上を滑走し、整地するように構成され、各フロート38,39によって整地された圃場に、各植付装置64によって苗が植え付けられる。センターフロート38および4つのサイドフロート39はそれぞれ、圃場の凹凸に合わせて揺動される。
左右一対の線引きマーカー40はそれぞれ、走行車両2が走行する際に、圃場上を転動して線を形成する線引き体41と、線引き体41と走行車両2とを結ぶ略L字状のマーカーロッド42(図9も参照)を備え、線引き体41が圃場に接触する作用姿勢と、線引き体41が圃場に接触しない非作用姿勢との間で切り換え可能に構成されている。
作業車両1が圃場上を直進走行しつつ、苗を植え付けるときに、左右一対の線引きマーカー40のうち、次に苗を植付けする(旋回後の)列の方の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で直進走行することによって、旋回後に直進走行する際の走行位置の目安となるラインが圃場上に形成される。なお、図1および図2には、作用姿勢にある左側の線引きマーカー40と、非作用姿勢にある右側の線引きマーカー40が示されている。
図1および図2に示されるように、走行車両2の前部かつ幅方向中央部には、センターマスコット18が設けられており、作業車両1が圃場上を旋回し、次の列上を直進走行するときに、線引きマーカー40によって形成されたライン上を、センターマスコット18が通過するように、ステアリングホイール56を操作しつつ、直進走行することによって、適切な位置に苗を植え付けることができる。すなわち、作業車両1が旋回する前に植え付けられた8列(8条)の苗に対して、(旋回後に)適切な間隔で、8列の苗を植え付けることができる。
補助苗枠74は、台65に補充する苗マットを収容するため、図1および図2に示されるように、補助苗枠74を支持するフレーム77を介して、走行車両2の前部に取り付けられている。
図3は、図1に示された作業車両1の制御系、検出系、入力系および駆動系のブロックダイアグラムであり、図4は、図1に示された前後進レバー35の部分拡大図である。
図3に示されるように、作業車両1の制御系は、作業車両1全体の動作を制御するコントローラ87と、時間を計測するタイマー105を備えている。
コントローラ87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部89と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部93を備え、記憶部93には、作業車両1を制御する種々のプログラムおよびデータが格納されている。
図3に示されるように、作業車両1の検出系は、ステアリングホイール56の舵角(中立位置からの角度)を検出するエンコーダ(図示せず)を有するステアリングセンサ58と、ステアリングシャフト83(図1参照)に取り付けられ、ステアリングホイール56への入力トルク(そのときの操舵量)を検出するトルクセンサ111と、エンジン7の回転数を検出するエンジン回転センサ96と、リンクベースフレーム10に対する上部リンクアーム85の相対角度を検出するリンクセンサ90と、位置情報取得手段として機能し、人工衛星からの電波を受信するGNSS受信機130と、左右一対の後輪9に連結された左右の各車軸82の回転数をカウントする後輪回転センサ29と、センターフロート38前部の上下位置を検出するフロートセンサ33と、方位センサ80と、走行車両2のロール方向の傾きを検出する傾斜検知センサ37を備えている。
フロートセンサ33は、センターフロート38の前部が圃場の凹凸に合わせて揺動される際に、センターフロート38前部の上下位置を検出し、コントローラ87に出力するように構成されている。
図3に示されるように、作業車両1の入力系は、作業車両1の前後進および車速を変更する前後進レバー35(図1、図2および図4参照)の操作位置を検出する前後進レバーセンサ36と、走行車両2の位置情報を取得する際、および直進制御を開始し、あるいは停止する際に、上下一方に揺動操作される直進アシストレバー79(図1および図2参照)の操作を検知する直進アシストレバーセンサ81と、苗植付部63の昇降を行うフィンガーレバー23の揺動操作を検知するフィンガーレバーセンサ16と、苗の植付作業の入切の切り換え操作を行う植付入切スイッチ19と、図8に示されるモニタ61と、左右の各線引きマーカー40の姿勢の切り換え操作を行うマーカースイッチ28と、旋回制御を設定する旋回制御スイッチ17を備えている。旋回制御スイッチ17は、操作部54に設けられている。
本実施態様においては、直進アシストレバー79は上方および下方に揺動操作が可能であり、上下いずれかの方向に揺動操作された後には、スプリングによって自動的に元の上下位置に戻るように構成されている。
フィンガーレバー23と植付入切スイッチ19は、図4に示されるように、前後進レバー35に設けられている。
図3に示されるように、作業車両1の駆動系は、操縦席48の下方に設けられたエンジン7の吸気量を調節するスロットルモータ97と、苗植付部35が昇降される際に、昇降油圧シリンダ12を伸縮させる電子油圧バルブ88と、静油圧式無段変速機25内のトラニオン軸の開度を調整し、作業車両1の前後進および車速を変更するHSTサーボモータ150と、ステアリングシャフト83およびステアリングホイール56を回動させるステアリングモータ57と、後輪9のサイドクラッチを入切する電磁バルブ103と、パワーステアリング108と、植付クラッチを作動させる植付クラッチモータ27と、左右一対の各線引きマーカー40を揺動させるマーカーモータ34を備えている。
本実施態様においては、走行車両2が走行している間に、ステアリングホイール56の舵角が所定の舵角閾値以上となった場合(平たく言えば、ステアリングホイール56が大きく切られた場合)には、コントローラ87は、走行車両2が旋回していると認められるので、植付クラッチモータ27を駆動し、旋回内側の後輪9に動力が伝達されない状態に切り換えるように構成されている。このように構成することによって、圃場の枕地部分をスムーズに旋回することができる。
また、コントローラ87は、リンクセンサ90からの出力信号に基づいて苗植付部35の現在の高さ(上下位置)を算出可能に構成されている。
加えて、作業車両1が苗を植え付けつつ、圃場上を走行しているときには、コントローラ87は、フロートセンサ33からの検出信号に基づき、電子油圧バルブ88を制御して、図1に示された昇降油圧シリンダ12を伸縮させ、図1に示された苗植付部63を昇降させることにより、圃場への苗の植付深さを一定に維持することができる。
以上のように構成された作業車両1は、以下のようにして、圃場上を走行する際に、直進制御と旋回制御とを交互に行いつつ、圃場に苗を植え付けることができる。
図5は、図1に示された作業車両1が、圃場内において、苗を植え付けつつ、走行する経路を示す模式的平面図である。
図5に示されるように、作業車両1が苗を植え付ける圃場200は、平面視において略矩形をなし、南北方向に延びる2つの辺201および203と、東西方向に延びる2つの辺202および204と、各辺201ないし204に沿うように延びる4つの周縁領域211ないし214と、4つの周縁領域211ないし214に囲まれた中央領域210を備えた水田である。4つの周縁領域211ないし214は、いわゆる枕地であり、周縁領域211および213のそれぞれの南北方向の幅と、周縁領域212および214のそれぞれの東西方向の幅は、作業車両1の苗植付部63による作業幅(苗8条分の幅)以上の幅である。
圃場200に苗を植え付ける際には、コントローラ87による直進制御と旋回制御とを交互に行い、つづら折り状に圃場200を走行しつつ、中央領域210に苗を植え付けた後に、図5に矢印付きのグレー色の太い線で示されるように、4つの周縁領域211ないし214に、順次に苗を植え付ける。なお、本実施態様においては、コントローラ87による旋回制御が行われるためには、予め、旋回制御スイッチ17が操作され、旋回制御が行われる状態に設定されている必要がある。
中央領域210に苗を植え付ける際には、まず、いわゆるティーチングにより、直進制御に用いる基準線の始点と終点の位置情報が取得される。直進制御においては、作業車両1が始点と終点を結ぶ仮想の基準線と平行に直進走行するように、ステアリングホイール56が駆動される。
基準線の始点の位置情報を取得するにあたっては、作業者の操縦(前後進レバー35およびステアリングホイール56の操作)に基づき、作業車両1が、図5に示される圃場200の周縁領域212の北側の位置に移動され、直進アシストレバー79が下方に揺動操作されることによって、GNSS受信機130を用いて、基準線の始点218の位置情報が取得される。
次いで、マーカースイッチ28が操作され、東側の線引きマーカー40(旋回する側であり、この場合には左側の線引きマーカー40)が作用姿勢に切り換えられた状態で、作業者の操縦に基づき、矢印付きの破線208で示されるように、作業車両1が周縁領域212の南側の場所まで移動され、直進アシストレバー79が下方に揺動操作される。その結果、GNSS受信機130を用いて、基準線の終点219の位置情報が取得される。以上のようにして取得された基準線の始点と終点の位置情報は、記憶部93に格納される。なお、本実施態様においては、マーカースイッチ28が操作され、線引きマーカー40が作用姿勢に切り換えられると、以後、作業車両1が旋回する度に、ステアリングセンサ58の出力信号に基づき、作業車両1の旋回が検出され、自動的に作用姿勢にある一方の線引きマーカー40が非作用姿勢に切り換えられ、さらに、作業車両1が旋回した後に、自動的に他方の線引きマーカー40が作用姿勢に切り換えられるように構成されている。
また、本実施態様においては、作業者によってステアリングホイール56が回動される場合と、コントローラ87の出力信号に基づき、ステアリングホイール56が回動される場合(直進制御、旋回制御)のいずれにおいても、車速は前後進レバー35の操作位置に基づき設定されるが、旋回制御が行われている間においては、車速が随時、所定の速度以下に規制される。
基準線の始点と終点の位置情報が取得されると、作業者の操縦に基づき、作業車両1が東側へ旋回されて、中央領域210における1列目の植付開始位置207(×印)へ移動され、図5に「1列目」として示される列において、苗の植付けを伴う直進走行が開始される。
具体的には、図4に示されるフィンガーレバー23が下方に揺動操作され、苗植付部63が作業位置に切り換えられた後に、植付入切スイッチ19が押圧操作されることによって、各植付装置64が駆動され、8列の植付具69(図2参照)による苗の植え付けが開始される。このとき、図5に示されるように、右側の線引きマーカー40は、自動的に作用姿勢に切換えられている。
次いで、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、コントローラ87による直進制御が開始される。直進制御が開始される条件は、各列を直進走行する際の目標線(走行すべき位置を指す仮想の線であり、基準線に平行な線)と、走行車両2の向き(機体2の方位)との角度差が30°未満である状態で、直進アシストレバー79が上方に揺動操作されることである。
直進制御においては、コントローラ87は、作業車両1が、図5に矢印付きの破線で示された基準線208に平行に直進走行するように、GNSS受信機130および方位センサ80から出力された検出信号に基づいて、ステアリングモータ57を駆動し、操舵輪としての左右一対の前輪8を操舵するように構成されている。その結果、作業車両1は、「1列目」として示される列を、真っ直ぐに北へ走行する。
なお、本実施態様にかかる直進制御においては、コントローラ87は、中央領域210の「1列目」を走行するときに、基準線208よりも次の作業条の方(東側)へ240cm(株間30cm×苗8列分)だけズレた位置を基準線208に対して平行に延びる仮想の目標線を設定した後に、目標線に沿うようにステアリングモータ57を駆動するように構成されている。また、「n列目」(nは2以上の整数)を走行するときには、コントローラ87は、n-1列目のラインから次の作業条の方(東側)へ240cmだけズレた位置を基準線208に対して平行に延びる目標線を設定した後に、目標線に沿うようにステアリングモータ57を駆動するように構成されている。
しかしながら、このように、直進制御において、生成された目標線に沿って機体2が走行するようにステアリングモータ57を駆動させることは必ずしも必要でなく、直進制御において、単に、基準線が延びる方位を目標方位として、1ないしn列目の各列で直進アシストレバー79が上方に揺動操作された地点から、機体2の方位と目標方位との方位偏差が小さくなるようにステアリングモータ57が駆動されるように構成してもよい。
作業車両1が周縁領域213に近づくと、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、コントローラ87による直進制御が終了される。
こうして、直進制御が終了すると、作業者によって、図4に示されたフィンガーレバー23が上方に揺動操作され、苗植付部63が上昇される。
本実施態様にかかる作業車両1においては、旋回制御スイッチ17の操作によって旋回制御が行われる状態に設定された状態で、前後進レバー35が前進位置(車両が前進する位置)にあり、かつ、フィンガーレバー23が上方に揺動操作されると、コントローラ87による旋回制御が開始されるように構成されている。以下に、旋回制御について詳細に説明を加える。
図6は、図1に示された作業車両1のコントローラ87による旋回制御の手順を示すフローチャートであり、図7は、図6に示された複数のステップと、走行車両2の向き(方位)との関係を示す模式的平面図である。なお、図7においては、矢印付きの一点鎖線(直進走行時)と矢印付きの二点鎖線(旋回走行時)は、作業車両1の幅方向(左右方向)中央部が移動する軌跡を表している。また、図7において、図6に示されるステップs10にかかる部分については、便宜上、グレー色で示されている。
旋回制御において、まず、コントローラ87は、記憶部93より、旋回目標位置までの距離のデータを取得する(ステップs1)
ここに、旋回制御の目標は、作業車両1を、旋回後に直進走行する東西方向の位置に旋回することであり、「1列目」から「2列目」へ旋回する今回の場合の旋回目標位置は、図5に示される「2列目」の位置(東西方向の位置)である。すなわち、旋回目標位置までの距離とは、平たく言えば、図5に示される「1列目」と「2列目」との間の東西方向の距離であり、本実施態様においては、苗植付部63が左右方向に8列の植付具69を有する8条植えの田植機として構成されているため、240cm(株間30cm×8列分)という値のデータが格納されている。
こうして、旋回目標位置までの距離のデータを取得すると、コントローラ87は、HSTサーボモータ150を駆動し、車速を0.75m/sに規制するとともに、ステアリングモータ57を駆動し、所定の舵角θd[deg]となるように、ステアリングホイール36を次の作業条の方向(「2列目」への旋回時は右側)へ回動させる(ステップs2)。なお、本明細書においては、[]内には単位が示されている。
ここに、所定の舵角θd[deg]とは、従来の8条植えの苗移植機において旋回制御が行われる際のステアリングホイールの舵角と同一の舵角であり、中立位置(作業車両1が直進する舵角)からの角度が100°を上回る角度である。圃場の状態が良好で、走行車輪8,9のスリップが少ない場合には、ステアリングホイール36を自動的に所定の舵角θdに保持した状態で旋回し、機体2の方位が、旋回する前の向き(方位)から180°変わる間際に、ステアリングホイール36の舵角を、中立位置に自動的に戻すことによって、機体2を略南方向に向けた状態で、図5に示される「1列目」の次の作業条(列)である2列目の位置(東西方向の位置)に車両1を位置させることができる。
しかしながら、従来の8条植えの苗移植機においては、旋回制御が行われる際に、走行車輪8,9のスリップによって、駆動力が弱まり、走行車両2が前方へほとんど移動せずに、その場で回ってしまうような場合に、走行車両2の向きがヨー方向に180°回転される間際までステアリングホイールを所定の舵角θdに保持した状態で旋回すると、過度に小回りになりすぎてしまい、図5に矢印付きのグレー色の細い線で示されるように、旋回した後に、「2列目」の位置(すなわち、「1列目」を直進走行した際に、線引きマーカー40によってラインが形成された東西方向の位置)に作業車両1を位置させることができず、旋回した後に、東西方向において「2列目」の位置よりも西側にズレた位置に車両1が位置してしまうことがあった。
これに対して、本実施態様においては、コントローラ87は、ステアリングホイール36を所定の舵角θdまで回動させた後に、以下のようにして、走行車両2の角速度から走行車輪8,9のスリップ量を算出し、さらに、走行車両2の方位と、「1列目」の目標線(基準線に平行な線であって、基準線より240cmだけ東側に位置する線)との角度差が30°以上となった時点で、ステアリングホイール36を、スリップ量を加味した舵角θdiまで自動的に切り戻すことによって、過度に小回りな旋回にならずに、次の列(作業条)の位置(「1列目」を直進走行後の旋回においては「2列目」の位置)に作業車両1を移動させることができる。以下の説明において、旋回制御が行われているときに、走行車輪8,9のスリップ量を加味した舵角θdiまでステアリングホイール56を自動的に切り戻す制御を「切り戻し制御」という。
ステアリングホイール36を所定の舵角θdまで回動させると、コントローラ87は、走行車輪8,9のスリップがない場合に、次の目標線である「2列目」の位置へ走行車両2が旋回するための理想角速度ωiを、以下の式(1)によって算出する(ステップs3)。
ωi=0.071vθa[deg/sec] ...(1)
式(1)において、vはGNSS受信機130によって取得された走行車両2の実際の車速[m/s]であり、θaはステアリングセンサ58によって取得されたステアリングホイール56の舵角である。また、「0.071」は本実施態様にかかる作業車両1のスリップを判断するためのパラメータであり、走行車輪のトレッド幅やホイールベース(前輪車軸31と後輪車軸82との間の前後方向の距離)によって旋回中の理想角速度は異なるため、トレッド幅やホイールベースを異にする作業車両ごとに、異なる値のパラメータを掛けることによって調節される。
なお、本実施態様においては、車速vが0.1[m/s]以下である場合には、コントローラ87は、作業車両1が停車中と判定し、ωi=0とするように構成されている。また、ωiの値は、切り戻し制御が終了するまで、時々刻々と更新され続ける。
次いで、コントローラ87は、方位センサ80から出力された走行車両2の方位(機体2の向き)θpの検出信号から、実際の走行車両2のヨー方向の角速度ωpを以下の式(2)によって算出する(ステップs4)。なお、以下において、「・」は乗算記号である。
ωp=10・{θp-θ(p-1)}[deg/sec] ...(2)
本実施態様においては、方位センサ80の検出信号の出力頻度は0.1秒ごと(データ周期が0.1秒)であり、方位センサ80から取得した走行車両2の方位θpから、その1データ前の走行車両2の方位であるθ(p-1)を減じて得た値に10を乗ずることにより、1秒ごとの実際の走行車両2のヨー方向の角速度ωpを算出することができる。なお、本実施態様においては、式(2)につき、0.5秒移動平均で算出する。また、ωpの値は、その後も時々刻々と更新され続ける。
こうして、理想角速度ωiと、実際の走行車両2のヨー方向の角速度ωpを算出すると、コントローラ87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、目標線との角度差が、30°以上であるか否かを判定する(ステップs5)。
判定の結果、機体2の方位と目標線との角度差が30°以上でない場合には、角度差が30°以上となるまで、判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と目標線との角度差が30°以上である場合には、コントローラ87は、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングホイール56の舵角が、以下の式(3)により算出されたθdi[deg]となるようにステアリングホイール56を切り戻す(ステップs6、図6および図7参照)。
θdi=θd-(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)[deg] ...式(3)
ただし、θdiは、θd-100≦θdi≦θdの範囲とし、舵角θdより切り戻し方向(中立位置へ向かう方向)へ100°を上限とした範囲内で切り戻される。
式(3)において、θd[deg]はステップs2と同様に、従来の8条植えの苗移植機において旋回制御が行われる際のステアリングホイール36の舵角と同一であり、式(3)を平たく言えば、「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]の分だけ、ステアリングホイール56が、舵角θdから中立位置側へ切り戻される。すなわち、「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]は、切り戻しの制御量(ステアリングモータ57の制御量)である。また、xは後に詳述する制御値である。
θpは、上述のように走行車両2の方位(機体2の向き)を指し、「sinθp・cos(θp/2)」は0ないしおよそ0.77の値をとる。機体2(走行車両2)の方位によって、制御量を変更したいため、「sinθp・cos(θp/2)」が乗算される。
一方、「ωp-ωi」([deg/sec])によって算出される値は、走行車輪8,9のスリップ量(スリップの度合い)を表す相関値である。
ここに、作業車両1(走行車両2)が旋回する際に、圃場の状態により、走行車輪8,9がスリップし、走行車両2が前方へほとんど移動せずに、その場で回ってしまうような場合には、スリップが少なく正常に旋回する場合に比して、実際の走行車両2のヨー方向の角速度ωpが高くなり、ωp-ωiによって算出される値も大きくなる。すなわち、走行車輪8,9のスリップ量と、ωp-ωiによって算出される値とは相関関係にある。したがって、実際の走行車両2のヨー方向の角速度ωpから、理想角速度ωiを減ずることによって、スリップ量(スリップの度合い)を表す相関値を算出することができる。
このため、たとえば、ωp-ωiの値が、所定の値以上である場合には、走行車輪8,9がスリップしていると判定するように構成することも可能である。なお、実際の圃場においては、ωp-ωiは、およそ0ないし5の値を取り、最大で10程度である。
このように、本実施態様においては、ωp-ωiにより算出されたスリップ量を加味した(換言すれば、スリップ量に応じた)舵角θdiまでステアリングホイール56が切り戻される(すなわち、切り戻し制御が行われる)ように構成されているから、走行車輪8,9のスリップによって過度に小回りに旋回してしまうことを防止することができる。
さらに、本実施態様においては、式(3)内の制御値xを、予め、モニタ61上で任意に設定することによって、切り戻し制御においてステアリングホイール56を舵角θdから切り戻す量(角度、回動量)を調節することができる。
図8は、旋回制御が行われるときに、モニタ61に表示される制御値xの設定画面を示す図面であり、図8(a)は、左側へ旋回する場合の切り戻し制御における制御値xの設定画面を示す図面であり、図8(b)は、右側へ旋回する場合の切り戻し制御における制御値xの設定画面を示す図面である。
モニタ61は、現在設定されている制御値xを表示するディスプレイ32と、制御値を設定する操作スイッチ62を備えている。
本実施態様においては、0を含む-10ないし10の計21個の整数の数値の中から、任意の数値を、式(3)に代入される制御値xの数値として、操作スイッチ62を用いて設定可能に構成されており、設定された数値は、記憶部93に格納され、図6に示されるステップs6の時点で記憶部93から読み出され、舵角θdi[deg]が算出される。
-10ないし10の範囲内で設定された制御値xの数値が大きいほど、舵角θdから切り戻される分の角度「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]の値が大きくなり、作業車両1の旋回が大回りになる。その結果、図5に示される走行経路においては、旋回後に、より東側の位置に作業車両1が位置することとなる。
したがって、作業者は、旋回制御による旋回後の作業車両1の東西方向の位置と、線引きマーカー40によって形成された次に直進走行すべき列の東西方向の位置とを比較し、旋回後の作業車両1が、次に直進走行すべき列の位置よりも西側に位置している場合には、モニタ61の操作スイッチ62を用いて、制御値xの数値をより大きく設定することによって、旋回後の作業車両1の位置を、より東側にずらし、次に直進走行すべき列と東西方向の位置を合わせることができる。
また、-10ないし10の範囲内で設定された制御値xの数値が小さいほど、舵角θdから切り戻される分の角度「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]の値が小さくなり、作業車両1の旋回が小回りになる。その結果、図5に示される走行経路においては、旋回後に、より西側の位置に作業車両1が位置することとなる。
したがって、作業者は、旋回制御による旋回後の作業車両1の東西方向の位置と、線引きマーカー40によって形成された次に直進走行すべき列の東西方向の位置とを比較し、旋回後の作業車両1が、次に直進走行すべき列の位置よりも東側に位置している場合には、モニタ61の操作スイッチ62を用いて、制御値xの数値をより小さく設定することによって、旋回後の作業車両1の位置を、より西側にずらし、次に直進走行すべき列と東西方向の位置を合わせることができる。
なお、本実施態様においては、図8(a)および図8(b)に示されるように、左側へ旋回するときに行われる切り戻し制御における制御値xと、右側へ旋回するときに行われる切り戻し制御における制御値xとを、互いに独立して設定可能に構成されている。換言すれば、旋回制御により左側へ旋回する場合と、旋回制御により右側へ旋回する場合とで、切り戻し制御に用いられる制御値xを別々の値に設定することができる。
したがって、図5に示される圃場200および走行経路において、右側へ旋回する枕地である北側の枕地と、左側へ旋回する枕地である南側の枕地とで、圃場の状態が異なる場合にも、それぞれの枕地に適した制御値xを設定することによって、北側の枕地、南側の枕地のいずれにおいても、次に直進走行する列の東西方向の位置と、旋回後の作業車両1(走行車両2)の東西方向の位置とを一致させることができるから、旋回後にスムーズに直進制御に移行することができる。
なお、式(3)から見て取れるように、制御値xとして、「-10」の値が設定された場合には、「(10+x)」の部分が0になり、θdi=θd[deg]となるため、舵角θdからの切り戻し制御が行われない。すなわち、この場合には、従来の8条植えの苗移植機と同一の舵角で機体2が旋回される。
また、式(3)から見て取れるように、制御値xとして、「10」の値が設定された場合には、「(10+x)」の部分が20になり、制御値xとして「0」の値が設定された場合に比して、2倍の角度にわたって切り戻される。
一方、ステアリングホイール56をθdiの舵角まで回動させると、コントローラ87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における目標線との角度差が、60°以下であるか否かを判定する(ステップs7)。
判定の結果、機体2の方位と目標線との角度差が60°を超えている場合には、コントローラ87は、角度差が60°以下となるまで、ステアリングホイール56の舵角をθdiに保持する。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と目標線との角度差が60°以下である場合には、コントローラ87は、切り戻し制御を終了し、ステアリングモータ57を駆動して、ステアリングホイール56の舵角をθdに変更する(ステップs8、図6および図7参照)。
なお、切り戻し制御が行われている間、ステアリングホイール56の舵角は、上述のように、θdi[deg]に保持されるが、旋回中に、実際の車速、ステアリングホイール56の舵角、機体2の方位および角速度は時々刻々と変化するため、式(3)内のωp(機体の実際の角速度)、ωi(理想角速度)およびθp(機体の方位)の各値も時々刻々と更新される。したがって、切り戻し制御の間のステアリングホイール56の舵角θdi[deg]も、機体2の方位と目標線との角度差が60°以下となる(ステップs8)まで、変更(更新)され続ける。
こうして、ステアリングホイール56の舵角をθdに変更すると、コントローラ87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における目標線との角度差が、50°以下であるか否かを判定する(ステップs9)。
判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差が50°を超えている場合には、角度差が50°以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差が50°以下である場合には、コントローラ87は、HSTサーボモータ150を駆動し、車速を0.5m/sに規制する(ステップs10、図6および図7参照)。
作業車両1の車速を0.5m/sに規制すると、コントローラ87は、次の式(4)によって、ステアリングホイール56を中立位置へ戻し始める機体2の方位を算出する(ステップs11)。
θst=1.2・ωp[deg] ...式(4)
次いで、コントローラ87は、方位センサ80から出力された検出信号によって判断される機体2の方位と、次の直進走行における目標線との角度差が、算出した角度θst以下であるか否かを判定する(ステップs12)。
判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差がθst[deg]を超えている場合には、ステアリングホイール56の舵角をθdに保持した状態で、角度差がθst[deg]以下となるまで判定が繰り返される。
これに対して、判定の結果、機体2の方位と次の直進走行における目標線との角度差がθst[deg]以下である場合には、コントローラ87は、ステアリングモータ57を駆動し、ステアリングホイール56を中立位置に戻す(ステップs13)。その結果、旋回後において、機体2の方位は一定(図5に示される圃場200および走行経路の場合には南向き又は北向き)となる。
最後に、コントローラ87は、車速の規制を解除し、HSTサーボモータ150を駆動して、前後進レバー35の操作位置に応じた車速に変更する(ステップs14)。
このように、本実施態様にかかる旋回制御においては、途中で、ωp-ωiにより算出されたスリップ量を加味した舵角θdiまでステアリングホイール56が切り戻される切り戻し制御が行われるように構成されているから、走行車輪8,9のスリップによって過度に小回りに旋回してしまうことを防止することができる。
さらに、旋回制御スイッチ17の操作により実行される旋回制御の結果、作業車両1が、次に直進走行する東西方向の位置(線引きマーカー40によって形成された線の位置であり、目標線でもある)と異なる位置に旋回してしまう場合(過度に小回り又は大回り)には、作業者は、図8に示される操作スイッチ62を操作し、式(3)の制御値xに代入される値を変更することによって、旋回後の作業車両1(走行車両2)の東西方向の位置を調節することができる。
こうして、旋回制御が終了すると、本実施態様においては、コントローラ87は、自動的に苗植付部63を作業位置へ下降させ、苗の植付けを開始するとともに、直進制御を開始する直進アシストレバー79が操作されることなしに、自動的に直進制御に移行する(直進制御を開始する)ように構成されている。
その結果、作業車両1は、図5に「2列目」として示された位置を、南へ走行しつつ、「1列目」の位置を北へ走行した際に植付けられた苗に対して適切な間隔で、その東側に苗を植え付けることができる。
直進制御のもとに、作業車両1が周縁領域211に近づくと、作業者によって直進アシストレバー79が上方に揺動操作されて、コントローラ87による直進制御が終了される。
次いで、作業者によって図4に示されたフィンガーレバー23が上方に揺動操作されて、苗植付部63が上昇されるとともに、「1列目」から「2列目」へ旋回する場合と同様にして、旋回制御による「2列目」から「3列目」への旋回が行われる。
以下、同様にして、作業車両1は、苗の植付けを伴う直進走行(図5に一点鎖線で図示)と、旋回制御による旋回(図5に二点鎖線で図示)とを繰り返しながら、「n列目」の位置まで走行する。
こうして、中央領域210全体に苗を植え付けた後に、作業車両1は、作業者による操縦に基づき、周縁領域211ないし214を走行しつつ、苗を植え付ける。その結果、圃場200全体に苗が植え付けられる。
以上、直進制御と旋回制御とを交互に行いつつ、圃場に苗を植え付ける方法について、詳細に説明を加えたが、本実施態様においては、線引きマーカー40を用いて圃場上に線を形成しつつ、直進走行する際に、以下のようにして、圃場の深さまたは機体の傾きに応じて、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を自動的に調整することができる。
図9は、図1に示された実施態様にかかる線引きマーカー40が、圃場の深さまたは機体の傾きに応じて角度を調整される様子を示す略正面図である。
詳細には、図9(a)ないし図9(c)は、線引きマーカー40が圃場の深さに応じて角度を調整された状態を示す略正面図であり、図9(d)ないし図9(f)は、線引きマーカー40が機体2の傾きに応じて角度を調整された状態を示す略正面図である。
なお、図9(a)ないし図9(c)には、機体2が略水平である状態が示されており、図9(d)ないし図9(f)には、圃場の深さが適度な場合が示されている。
まず、図9(a)ないし図9(c)を用いて、以下に、圃場の深さに応じて右側の線引きマーカー40の角度を自動的に調整する制御について説明を加える。
図9(b)に示されるように、線引きマーカー40が、線引き体41が圃場に接触しない非作用姿勢から、マーカーモータ34(図3参照)の駆動により、線引き体41が圃場に接触する作用姿勢に切り換えられた状態で、機体2が走行することにより、圃場上に、旋回後の直線走行時の走行位置の目安となるラインを形成することができる。
しかしながら、圃場の深さが過度に浅い場合(換言すれば、圃場が過度に硬い場合)には、走行車輪8,9があまり圃場に沈まないため、線引きマーカー40の線引き体41が圃場表面に接地せず、ラインを形成できないことがあった。
さらに、圃場の深さが過度に深い場合(換言すれば、圃場が過度に軟らかい場合)においては、走行車輪8,9が圃場に深く沈むため、線引きマーカー40の線引き体41が圃場に過度に食い込み過ぎてしまい、その状態で機体2が走行すると、マーカーロッド42に過度な負荷がかかってしまうことがあった。
このような状況に照らして、本実施態様においては、コントローラ87は、リンクセンサ90からの出力信号に基づき、算出した苗植付部35の高さ位置に応じて、マーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を自動的に調整するように構成されている。
具体的には、算出された苗植付部35の高さ位置が、圃場にラインを形成可能な下限の高さである第一の所定の高さよりも低い場合には、図9(c)に示されるように、走行車輪8,9があまり圃場に沈んでおらず、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40の線引き体41が圃場表面に接地していないと認められるので、コントローラ87は、苗植付部35の高さ(圃場の深さ)に応じた分の制御量でマーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40を下方へ回動させるように構成されている。その結果、右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42が右下がりに斜めになり、線引き体41が圃場表面に接地するため、圃場にラインを形成することができる。
これに対して、算出された苗植付部35の高さ位置が、第一の所定の高さよりも高い第二の所定の高さ以上である場合には、図9(a)に示されるように、走行車輪8,9が圃場に深く沈んでおり、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42に過度な負荷がかかってしまうと認められるので、コントローラ87は、苗植付部35の高さ(圃場の深さ)に応じた分の制御量でマーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40を上方へ回動させるように構成されている。その結果、右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42が右上がりに斜めになり、線引き体41が、回動前よりも上方に位置するため、マーカーロッド42にかかる負荷を軽減させることができる。
以上、図9(a)ないし図9(c)を用いて、圃場の深さに応じて右側の線引きマーカー40の角度を自動的に調整する制御について説明を加えたが、左側の線引きマーカー40についても、同様にして、苗植付部35の高さ位置、すなわち、圃場の深さに応じて、マーカーモータ34を駆動することにより、自動的に角度が調整される。
次いで、図9(d)ないし図9(f)を用いて、以下に、機体の傾きに応じて右側の線引きマーカー40の角度を自動的に調整する制御について説明を加える。
図9(e)に示されるように、圃場の表面に対して機体2が略水平で、少なくとも左右一方の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で、機体2が走行した場合には、圃場上に、旋回後の直線走行時の走行位置の目安となるラインを形成することができる。
しかしながら、左右一方の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で、機体2(作業車両1)が過度に左右他方に傾いた場合には、左右一方の線引きマーカー40の線引き体41が表面に接地せず、ラインを形成することができないことがあった。
また、少なくとも左右一方の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で、機体2(作業車両1)が過度に左右一方に傾いた場合には、左右一方の線引きマーカー40の線引き体41が圃場に過度に食い込み過ぎてしまい、その状態で機体2が走行すると、マーカーロッド42に負荷がかかってしまうことがあった。
このような状況に照らして、本実施態様においては、コントローラ87は、傾斜検知センサ37によって検出された機体2のロール方向の傾きに応じて、マーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を自動的に調整するように構成されている。
具体的には、右側の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で、機体2が、圃場にラインを形成可能な限度角である第一の所定の角度以上の角度まで左側に傾いた場合には、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40の線引き体41が圃場表面に接地していないと認められるので、コントローラ87は、機体2の傾きに応じた分の制御量で、マーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40を下方へ回動させるように構成されている。
その結果、図9(f)に示されるように、機体2に対する右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42が、機体2に対して右下がりに斜めになり、線引き体41が圃場表面に接地するため、圃場にラインを形成することができる。
これに対して、右側の線引きマーカー40が作用姿勢にある状態で、機体2が、第二の所定の角度以上の角度まで右側に傾いた場合には、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42に過度な負荷がかかることが認められるので、コントローラ87は、機体2の傾きに応じた分の制御量でマーカーモータ34を駆動し、作用姿勢にある右側の線引きマーカー40を上方へ回動させるように構成されている。
その結果、図9(d)に示されるように、機体2に対する右側の線引きマーカー40のマーカーロッド42が、機体2に対して右上がりに斜めになり、線引き体41が、回動前よりも上方に位置するため、マーカーロッド42にかかる負荷を軽減させることができる。
以上、図9(d)ないし図9(f)を用いて、機体2(走行車両2)の傾きに応じて右側の線引きマーカー40の角度を自動的に調整する制御について説明を加えたが、左側の線引きマーカー40についても、同様にして、機体2の傾きに応じて、マーカーモータ34を駆動することにより、自動的に角度が調整される。
このように、本実施態様においては、圃場の深さまたは機体の傾きに応じて、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を自動的に調整するように構成されているから、圃場への線引き体41の沈み込み深さを一定に保つことができ、左右一対の線引きマーカー40を用いて、安定的に圃場上にラインを形成することができる。
図1ないし図9に示された本実施態様によれば、旋回時の走行車両2のヨー方向の角速度(具体的には、旋回時の走行車両2の実際のヨー方向の角速度ωpと、目標位置へ旋回するための旋回時の走行車両2のヨー方向の理想角速度ωi)から、走行車輪8,9のスリップの度合いを表す相関値を算出する(ωp-ωi)ことができるから、圃場上を旋回する間に、走行車輪2がスリップし、たとえば、その場で旋回してしまう場合においても、走行車輪8,9のスリップを精度よく検出することができる。
さらに、本実施態様によれば、旋回制御において、ステアリングホイール56が舵角θdまで回動された後に、算出された走行車輪8,9のスリップの度合いを表す相関値(ωp-ωi)に応じた角度「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]だけ、ステアリングホイール56が中立位置側に切り戻されるように構成されているから、走行車輪8,9のスリップによって、作業車両1が過度に小回りし過ぎてしまうことを防止し、作業車両1を適切な位置へ旋回させることができる。
また、このように、走行車輪8,9のスリップを加味した舵角で旋回を行うことができるから、旋回時に走行経路を設定し、その走行経路に沿うようにステアリングホイール56を度々回動させる必要がなく、機体2の挙動を安定させることができる。
また、本実施態様によれば、ステアリングホイール56の舵角をθd、θdi、θd、中立位置へと順次に変更することにより、作業車両1を適切な位置へ旋回させることができるから、旋回時に走行経路を別途設定し、その走行経路に沿うようにステアリングホイールを度々回動させる必要がないため、制御を簡潔にできるとともに、機体(走行車両)2の挙動を安定させることができる。
さらに、本実施態様によれば、旋回制御において、走行車輪8,9のスリップの度合いを表す相関値に応じてステアリングホイール56が中立位置側に回動される(切り戻される)際の回動量(切り戻し量)「(ωp-ωi)・sinθp・cos(θp/2)・(10+x)」[deg]を、図8に示されるように、モニタ61上で制御値xを設定することにより増減させることができるから、旋回後の作業車両1の位置を、モニタ61上で容易に調節することができる。
また、本実施態様によれば、左側へ旋回する場合と、右側へ旋回する場合とで、別々の制御値xをモニタ61上で設定することができるから、圃場上の一方の枕地(北側の枕地)と、他方の枕地(南側の枕地)との間で圃場条件が異なる場合に、各枕地で、旋回後の作業車両1の位置を適切に調節することができる。
図10(a)は、従来の作業車両の補助苗枠を示す略側面図であり、図10(b)は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる作業車両1の左側の補助苗枠74の近傍の略側面図である。
図10(a)に示されるように、従来の作業車両の上下2段に構成された補助苗枠には、回動されて、前後方向に展開可能に構成されたものがある。このように、上下に並ぶ補助苗枠を、前後方向に展開することにより、補助者が、畔際(車両前方)から、新しい苗箱を後方にスライドさせて、各補助苗枠上に容易に供給することができる。
しかしながら、空の苗箱を収容する場所が作業車両上に用意されていないため、補助苗枠上に、空の苗箱が戻されていると、新しい苗箱を供給する際に妨げになってしまうことがあった。
このような状況に照らして、本実施態様においては、図10(b)に示されるように、補助苗枠74の側方に、空の苗箱を収容するラック44が設けられており、展開された補助苗枠74に新しい苗箱を供給する際に、ラック44を傾けてレールとして用い、空の苗箱を前下方へスライドさせることによって、圃場の畔際にいる補助者に、空の苗箱を送ることができる。
図11は、図10(b)に示された実施態様にかかる右側の補助苗枠74の近傍の略側面図であり、図11(a)は、右側の補助苗枠74の下方に設けられた回収かごがレールから引き出された状態を示す略側面図であり、図11(b)は、右側の補助苗枠74の下方に設けられた回収かごがレール内に収納された状態を示す略側面図である。
右側の補助苗枠74については、図11(a)および図11(b)に示されるように、その下方に、空の苗箱を収容する回収かご45が設けられており、右側の補助苗枠74から下方へ延びるフレーム46に固定されたレール50に沿って回収かご45をスライドさせて、引き出し、またはレール50内に収納することができる。
本実施態様においては、右側の補助苗枠74を支持するフレーム77は回動可能に構成されており、フレーム77が回動されると、右側の補助苗枠74、フレーム46、レール50および回収かご45が一体的に回動される。したがって、回収かご45内に収容された空の苗箱を回収したいときには、補助者は、畔際にて、右側の補助苗枠74および回収かご45を略180°回動させた後に、回収かご45を前方へスライドさせることによって、空の苗箱を車両から回収することができる。
一方、図12は、本発明のさらに他の好ましい実施態様にかかる左側の補助苗枠74の近傍の略側面図であり、図12(a)は、展開途中の状態にある左側の補助苗枠74の近傍の略側面図であり、図12(b)は、展開された左側の補助苗枠74の近傍の略側面図である。
本実施態様においては、左側かつ上段の補助苗枠74の上方には、空の苗箱を収容するラック44が設けられている。
ラック44の高さは、図12(b)に示されるように、上段の補助苗枠74に苗箱が収容されたときでも、背の高い苗がラック44に接触しない高さに設計されている。
図13は、図12に示された実施態様にかかる右側の補助苗枠74の近傍の略側面図であり、図13(a)は、展開途中の状態にある右側の補助苗枠74の近傍の略側面図であり、図12(b)は、展開された右側の補助苗枠74の近傍の略側面図である。
図13に示されるように、上段の補助苗枠74には、回収かご取付けフレーム52が固定されており、回収かご取付けフレーム52の上部に、空の苗箱を収容する回収かご45を着脱可能に構成されている。
したがって、空の苗箱を回収したいときには、作業者または補助者は、補助苗枠74を回動させ、展開させた後に、回収かご45を回収かご取付けフレーム52から取り外すことにより、回収かご45内に収容された空の苗箱をまとめて回収することができる。
図14は、図12に示された実施態様にかかる補助苗枠74を支持するフレーム77の近傍の略側面図であり、図14(a)は、補助苗枠74が後方に位置する状態を示すフレーム77の近傍の略側面図であり、図14(b)は、補助苗枠74が前方に位置する状態を示すフレーム77の近傍の略側面図である。
また、図14(c)は、モータユニットのみを示す略側面図であり、図14(d)は、ラックギアユニットのみを示す略側面図である。
図14においては、ラック44、回収かご45、回収かご取付けフレーム52および後に詳述する角度センサ66は便宜上省略されている。
本実施態様においては、走行車両2の前部に取り付けられた左右の各フレーム77の上部と、左右一対の補助苗枠74との間にそれぞれ、前後位置調整機構53が設けられており、以下のようにして、前後位置調整機構53を用いて、補助苗枠74を前後方向にスライドさせることができる。
前後位置調整機構53は、フレーム77の上部に取り付けられたモータユニット55と、上部に補助苗枠74が固定されたラックギアユニット59を備えている。
モータユニット55は、筐体68と、筐体68に取り付けられた4つのローラー70と、筐体68内に配置されたピニオンギア72と、ピニオンギア72を回転駆動するモータ71を備えている。モータ71は、両方向回転式に構成されている。
一方、ラックギアユニット59は、側面視で略逆T字状をなすスライドフレーム73と、スライドフレーム73の下面に固定され、かつ、ピニオンギア72と噛み合うラックギア75を備え、モータユニット55の4つのローラー70に挟持された状態で、前後方向にスライド可能に構成されている。
モータユニット55のモータ71が駆動されると、ピニオンギア72が回転され、その結果、ラックギアユニット59および補助苗枠74が一体的に前後方向にスライドされる。本実施態様においては、モータ71を駆動するのに用いる前後スイッチ(図示せず)が操作部54に設けられており、作業者は、前後スイッチを操作することにより、双方向回転式に構成されたモータ71を用いて、ピニオンギア72をいずれかの方向に駆動させ、補助苗枠74を前後方向にスライドさせることができる。したがって、作業車両1から、前方の畔際にいる補助者に空の苗箱を渡す際に、前後スイッチを操作し、補助苗枠74を前方へスライドさせることにより、畔際にいる補助者が、容易に空の苗箱を回収することができる。
図15は、図14に示された前後位置調整機構53のラックギア75の近傍の部分拡大図である。
図15に示されるように、ラックギア75の近傍には、ラックギア75の前後方向のスライド量を検出する角度センサ66が設けられており、前後スイッチを操作した際のラックギア75のスライド量は記憶部93に格納される。
ここに、操作部54に別途設けられた位置決めスイッチ(図示せず)が操作されると、モータ71が駆動されて、前回格納されたスライド量の位置までラックギア75がスライドされるように構成されている。このように構成することによって、位置決めスイッチを操作するだけで、補助苗枠74をいつもの位置へ容易にスライドさせることができる。なお、本実施態様においては、位置決めスイッチが操作されると、左右の補助苗枠74の各前後位置調整機構53のラックギア75が、同時に、同量だけ前後方向にスライドされるように構成されており、利便性が良いが、位置決めスイッチが操作されると、左右一方の補助苗枠74が前回と同じ位置までスライドされるように構成してもよい。
このように、本実施態様においては、角度センサ66によって、ラックギア75がスライドされた量を記憶部93に格納し、次回に位置決めスイッチが操作された際に、格納されたスライド量と同量だけラックギア75をスライドさせるようにモータ71を駆動するように構成されているが、角度センサ66を設けることは必ずしも必要でない。たとえば、モータ71をステッピングモータによって構成し、前後スイッチが操作されたときのステッピングモータの制御量を記憶部93に格納するように構成すれば、次回に位置決めスイッチが操作された際に、格納された制御量のデータを読み出し、同一の制御量で、左右の各ステッピングモータを同時に駆動することにより、図15に示された実施態様の場合と同一の効果を得ることができる。
また、本実施態様においては、モータ71によって、左右一対の補助苗枠74を前後方向にスライドできるように構成されているが、たとえば、モータ71に代えて、スプロケット付きの回転ハンドルを設け、スプロケット付きの回転ハンドルが回転操作されると、補助苗枠74が前後方向にスライドされるように構成してもよい。この場合には、エンジン7が駆動していないときであっても、手動で、各補助苗枠74を前後方向にスライドさせることができる。
さらに、本実施態様においては、補助苗枠74が、モータにより回動させて前後方向に展開できるように構成されているが、回動不能な補助苗枠74を、前後位置調整機構53によって前後にスライドできるように構成してもよく、手動によってのみ回動(展開)可能な補助苗枠74を、前後位置調整機構53によって前後にスライドできるように構成してもよい。加えて、これらの場合においても、上記と同様に、位置決めスイッチが操作されたときに、前回と同一の量だけ、左右のラックギア75および左右の補助苗枠74が同時に前後方向にスライドされるように構成することによって、作業効率を向上させることができる。
図16は、本発明のさらに他の好ましい実施態様にかかる前後位置調整機構53の略側面図である。
図16には、操作レバー76が回動される様子が示されている。
本実施態様においては、ラックギアユニット59および補助苗枠74が、手動で前後方向にスライドされるように構成されており、ラックギア75を、その近傍に設けられた操作レバー76によって任意の位置に係止し、または操作レバー76を操作して、その係止を解除することができる。
具体的には、操作レバー76の先端78は、スプリングにより常時付勢され、ラックギア75に押し付けられており、ラックギア75が操作レバー76によって位置固定されている。そして、スプリングの付勢力を上回る力で、作業者によって、操作レバー76の上部が前方に回動されて、操作レバー76の先端78が下方に回動され、ラックギア75から離れている間に限り、ラックギアユニット59および補助苗枠74が、作業者によって前後方向にスライドされるように構成されている。
一方、図17は、本発明のさらに他の好ましい実施態様にかかる補助苗枠74を支持するフレーム77の近傍の略側面図であり、図17(a)は、補助苗枠74が下方に位置する状態を示すフレーム77の近傍の略側面図であり、図17(b)は、補助苗枠74が上方に位置する状態を示すフレーム77の近傍の略側面図である。
また、図17(c)は、本実施態様にかかるラックギアユニット59の近傍の略側面図であり、図17(d)は、上下動モータユニット84のみを示す略側面図である。
本実施態様においては、図12ないし図14に示された実施態様の場合と同様に、補助苗枠74を前後方向にスライドさせる前後位置調整機構53が設けられていることに加えて、補助苗枠74を上下方向にスライドさせる上下位置調整機構91も設けられており、以下に、補助苗枠74の上下方向のスライドについて説明を加える。
上下位置調整機構91は、図17(c)に示される前後位置調整機構53のスライドフレーム73に取り付けられたラックギア92(図17(c)参照)と、上下動モータユニット84(図17(d)参照)を備えている。
上下動モータユニット84は、筐体95と、補助苗枠74が取り付けられる上下動フレーム94と、筐体95に取り付けられた2つのローラー98と、筐体95内に配置されたピニオンギア99と、ピニオンギア99を回転駆動する上下動モータ100を備えている。上下動モータ100は、両方向回転式に構成されている。上下動モータユニット84は、ピニオンギア99がラックギア92と噛み合わされた状態で、2つのローラー98によって、スライド可能にスライドフレーム73に取り付けられている。
上下動モータユニット84の上下動モータ100が駆動されると、ピニオンギア99が回転され、その結果、上下動モータユニット84および補助苗枠74が一体的に上下方向にスライドされる。本実施態様においては、モータ71を駆動させる前後スイッチに加えて、上下動モータ100を駆動する上下スイッチ(図示せず)が操作部54に設けられており、作業者は、上下スイッチを操作することにより、双方向回転式に構成された上下動モータ100を用いて、ピニオンギア99をいずれかの方向に駆動させ、補助苗枠74を上下方向にスライドさせることができる。したがって、作業車両1から、前方の畔際にいる補助者に空の苗箱を渡す際に、前後スイッチを操作し、補助苗枠74を前方へスライドさせることができるとともに、上下スイッチを操作し、畔の高さに合わせて補助苗枠74の高さ位置を調整することができるから、作業効率を大幅に向上させることができる。
さらに、本実施態様においては、図12ないし図14に示された実施態様の位置決めスイッチに加えて、補助苗枠74の上下位置を設定する位置決めスイッチ(図示せず)が操作部54に設けられている。
ここに、上下動モータ100はステッピングモータであり、上下スイッチが操作されたときのステッピングモータの制御量(すなわち上下動モータユニット84のスライド量)が記憶部93に格納されるように構成されている。そして、補助苗枠74の上下位置を設定する位置決めスイッチが操作されると、前回に上下スイッチが操作され、上下動モータ100が駆動された際の制御量(すなわち上下動モータユニット84のスライド量)が記憶部93から読み出され、前回と同一の制御量で上下動モータ100が駆動されるように構成されている。したがって、補助苗枠74の上下位置を設定する位置決めスイッチを操作することにより、補助苗枠74を、前回設定された上下位置と同一の上下位置に設定(昇降)することができるから、利便性が良い。なお、このとき、左右一対の各補助苗枠74を、同時に、前回設定された上下位置と同一の上下位置に設定するように構成してもよい。
また、本実施態様においては、モータ71および上下動モータ100を駆動させて、左右一対の補助苗枠74を前後方向および上下方向にスライドできるように構成されているが、たとえば、モータ71および上下動モータ100の少なくともいずれか一方のモータに代えて、スプロケット付きの回転ハンドルを設け、スプロケット付きの回転ハンドルが回転操作されると、補助苗枠74が前後方向または上下方向にスライドされるように構成してもよい。この場合には、エンジン7が駆動していないときであっても、手動で、各補助苗枠74を前後方向または上下方向にスライドさせることができる。
さらに、本実施態様においては、モータ71および上下動モータ100を駆動させることにより、左右一対の補助苗枠74を前後方向および上下方向にスライドできるように構成されているが、図16に示された実施態様の場合と同様に、操作レバーを設け、操作レバーが回動操作されている間に限り、各補助苗枠74を、前後方向にスライドできるように構成してもよい。
加えて、本実施態様においては、複数段の補助苗枠74が水平に並ぶように回動(展開)できるように構成されているが、補助苗枠74は、回動不能に構成されていてもよい。
なお、図10ないし図17に示された実施態様において、補助苗枠74以外の各部の構成は、図1ないし図9に示された実施態様と同様である。
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば、図1ないし図17に示された各実施態様においては、作業車両1は、田植え機として構成されているが、トラクターやコンバインなどの他の作業車両として構成してもよい。
また、図1ないし図17に示された各実施態様においては、「ヨー方向角速度検出手段」として、方位センサが用いられているが、IMUなどのジャイロセンサを用いて、走行車両のヨー方向の角速度を検出するように構成してもよい。
さらに、図1ないし図17に示された各実施態様においては、フィンガーレバー23が上方に回動されたことを旋回制御の開始条件として構成されているが、旋回制御の開始条件はこれに限られない。
また、図1ないし図17に示された各実施態様においては、角速度を用いて検出したスリップ量(スリップの度合い)に基づき、ステアリングホイール56を舵角θdiへ切り戻すことにより、機体が過度に小回りに旋回してしまう事態の防止が図られているが、舵角θdiへ切り戻す代わりに、角速度を用いて検出したスリップ量(スリップの度合い)に応じて、旋回を終える際にステアリングホイールの舵角をθdから中立位置またはその近傍へ戻す(図6におけるステップs13)タイミングを調整するように構成することによっても、機体を旋回目標位置に正確に旋回させることができる。この場合には、走行車両2の実際の角速度が高ければ高いほどタイミングを早め、走行車両2の実際の角速度が低ければ低いほどタイミングを遅くすることにより、機体を旋回目標位置に旋回させることができる。なお、中立位置へ戻すタイミングは、機体の方位に基づき決定(機体の方位と次の目標線との角度差が、所定の値以上であるか否か)されるものであっても、旋回が開始された時点からの走行車輪の回転数に基づき決定(旋回が開始された時点からの走行車輪の回転数が、所定の数以上であるか否か)されるものであってもよい。
加えて、図1ないし図17に示された各実施態様においては、図6のステップs1に示されるように、旋回目標位置までの距離までの距離のデータを取得するように構成されているが、旋回目標位置までの距離までの距離のデータを取得することは必ずしも必要でない。
さらに、図1ないし図17に示された各実施態様においては、スリップ量(スリップの度合いを表す相関値)、すなわち、理想角速度と実際の角速度との差分に基づいて、ステアリングホイール56を切り戻す量を調節するように構成されているが、スリップ量である理想角速度と実際の角速度との差分の値が所定の値以上である場合に、走行車輪をデフロックするように構成してもよい。このように構成することによって、走行車輪のスリップが発生し、作業車両がほとんど移動せずに、その場で回ってしまうような場合に、過度に小回りに旋回してしまう事態を防止することができ、また、走行駆動力を向上させ、走行車輪のスリップを解消することができる。
また、図1ないし図17に示された各実施態様においては、機体の方位と、目標線との角度差が30°、60°、50°または角度θst以下あるいは以上であるか否かを都度判定するように構成されているが、目標線は基準線に平行な線であるため、図6に示されたステップs5,7,9および12において、機体の方位と、基準線との角度差が30°、60°、50°またはθst以下あるいは以上であるか否かを判定するように構成してもよい。
さらに、図1ないし図17に示された各実施態様においては、コントローラ87は、トレッド幅やホイールベースに基づき設定された「0.071」という値のパラメータを用いて、理想角速度ωiを算出するように構成されているが、走行車両2に補助車輪が別途取り付けられた場合に、たとえば、モニタ61上で、補助車輪が取り付けられた旨を作業者が設定すると、コントローラ87がパラメータの値を適切な値に変更して、理想角速度ωiを算出するように構成してもよい。このように構成することによって、走行車両2に補助車輪が取り付けられて走行車両2が大回りする傾向にある場合においても、旋回時の理想角速度ωiを正確に算出し、走行車輪のスリップを的確に加味した切り戻し制御を行うことができる。
同様に、走行車両2にサンバイザが別途取り付けられた場合には、たとえば、モニタ61上で、サンバイザが取り付けられた旨、作業者が設定すると、コントローラ87がパラメータの値を適切な値に変更して、理想角速度ωiを算出するように構成してもよい。走行車両2にサンバイザを取り付けることに伴い、GNSS受信機130の位置を変更した場合には、車速の検出値に影響が出る(機体2の前側に位置するほど、振り幅=速度が大きくなる)ため、このように構成することによって、走行車両2にサンバイザが取り付けられた場合においても、旋回時の理想角速度ωiを正確に算出し、走行車輪のスリップを的確に加味した切り戻し制御を行うことができる。また、サンバイザが取り付けられた場合に限らず、GNSS受信機130の位置を変更した場合には、GNSS受信機130の位置に応じて、たとえばモニタ上で、パラメータの値を適切な値に変更できるように構成してもよい。
また、図1ないし図17に示された各実施態様においては、図9(a)ないし図9(f)に示されるように、圃場の深さまたは機体の傾きに応じて、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を自動的に調整するように構成されているが、圃場の深さと機体の傾きとの両方を加味して、作用姿勢にある線引きマーカー40の角度を調整するように構成してもよい。たとえば、リンクセンサから出力された検出信号に基づき、算出された苗植付部63の高さ位置、すなわち、圃場の深さから、作用姿勢にある線引きマーカーの基準となる角度を決定し、さらに、そこから、傾斜検知センサによって検出された機体の傾きに応じて基準となる角度を補正するように構成してもよい。このように構成することによって、圃場の深さと、機体の傾きとの両方を加味して、作用姿勢にある線引きマーカーの角度を調整することができるから、圃場上に一定のラインを形成することが可能になる。