JP2023046379A - 鉛蓄電池 - Google Patents

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諒 古川
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Marosfoi Botond
ジェルジ・ゾンボック
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Abstract

Figure 2023046379000001
【課題】正極活物質の利用率が改善された鉛蓄電池の提供。
【解決手段】セル室を有する電槽と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備え、電解液は希硫酸を含み、極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、を有し、正極板は、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤3が保持された格子状基板部と、格子状基板部から連続する耳部と、を備えた正極集電板を有し、正極合剤は、針状結晶の粒子を有し、針状結晶の粒子は、正極板の板面上の少なくとも一部に形成されている鉛蓄電池。
【選択図】図3

Description

本発明は鉛蓄電池に関するものである。
一般的な鉛蓄電池は、セル室を有する電槽と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備えている。極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、を有する。正極板は、正極活物質を含む正極合剤が正極集電板に保持されたものであり、負極板は、負極活物質を含む負極合剤が負極集電板に保持されたものである。電解液としては希硫酸が使用されている。このような鉛蓄電池は自動車用バッテリーなどに広く使用されている。
近年、アイドリングストップ車の普及に伴い、鉛蓄電池の更なる高性能化が求められている。特に、正極活物質の利用率(以下、「正極利用率」と記すこともある)を高めることは、放電容量を高くするだけでなく、鉛の使用量を削減することも可能になるため、軽量化およびコスト削減の効果も得られることから、当業者による様々な研究開発が進められている。
正極利用率を高くする方法としては、正極活物質を含む正極合剤の密度を下げる方法が知られており、正極合剤の密度を下げることで、正極合剤の細孔体積が増加することにより、活物質と電解液の接触を増やすことができるため、正極利用率が向上する。例えば、特許文献1には、正極板の全細孔体積を0.14~0.18cm/gとし、かつ直径が0.01μm以上0.1μm未満にある細孔Bの全細孔体積を0.02cm/g以上とし、直径が0.1μm以上4.0μm以下である細孔Aの体積の合計を0.13cm/g以下とすることで、正極合剤の細孔体積が増加することにより、正極活物質と電解液の接触を増やすことができるため、正極利用率が向上することが記載されている。
具体的には、極板の化成充電工程において、マンニトールまたはマンニトールと硫酸ヒドラジンが含まれる希硫酸中で化成充電することで、鉛粉と希硫酸を混錬することにより生成する硫酸鉛または塩基性硫酸鉛がPbOに変化する時に体積減少によって正極活物質粒子表面に針状結晶が形成される。その針状結晶が形成された活物質粒子間に存在する細孔Aと、針状結晶間に存在する細孔Bの体積を制御することで、正極利用率が向上する。
しかしながら、特許文献1に記載された正極利用率向上の方法では、正極集電板に保持された正極活物質のうち、電解液と直接接触する正極板の板面に位置する正極活物質粒子の表面だけでなく、正極板表面よりも正極集電板側に位置する内側に保持された正極活物質粒子の表面にも針状結晶が形成され得る。針状結晶が、正極集電板側に位置する内側に保持された正極活物質粒子の表面に形成されると、針状結晶によって細孔が閉塞し、電解液が、内側に保持された正極活物質に浸透し難くなるため、十分な正極利用率の向上効果が得られない恐れがある。
また、正極活物質は、充電状態の二酸化鉛と放電状態の硫酸鉛とで一分子当たりの体積が異なるため、充放電の度に膨張と収縮を繰り返す。正極合剤は、このような膨張と収縮の繰り返しに伴い、徐々に粒子同士の結合が破壊されて軟化し、最終的に正極板から脱落する。そして、正極合剤の密度が低下すると、正極合剤の軟化・脱落が進行しやすくなり、鉛蓄電池の寿命性能を著しく低下することがある。そのため、正極合剤の軟化・脱落を抑制して耐久性を保持しながら、正極利用率を向上させる方法が提案されている。
特許文献2には、金属鉛粉末および鉛酸化物粉末を含む鉛蓄電池用正極活物質において、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛およびスズより成る群から選ばれる1種以上の金属粉末を含むことで、正極活物質粒子間の結合力が低下することなく、最適な径の空孔を形成することから、著しく良好な正極利用率が得られることが記載されている。
特開平11-073950号公報 特開2011-210640号公報
本発明者らが鋭意検討した結果、電解液と直接接触する正極板の板面に位置する正極合剤粒子の形状を制御することで、正極合剤の耐久性を損なうことなく正極利用率を向上できる新しい技術を見出した。
そこで、本発明の課題は、正極活物質を含む正極合剤が正極集電板に保持された正極板を有する鉛蓄電池において、正極合剤の耐久性を損なうことなく正極利用率を向上できる新しい技術を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、下記の構成(a)~(c)を備えた鉛蓄電池を提供する。
(a)セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備えている。前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を有する。前記正極板は、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された格子状基板部と、前記格子状基板部から連続する耳部と、を備えた正極集電板を有する。
(b)前記正極合剤は、針状結晶の粒子を有する。
(c)前記針状結晶の粒子は、前記正極板の板面上の少なくとも一部に形成されている。
本発明に係る鉛蓄電池によれば、正極板の板面上に針状結晶の粒子が形成されることで、正極活物質と電解液の接触が良好になり、正極合剤の耐久性を損なうことなく正極利用率を向上させることが可能になる。
本実施形態の鉛蓄電池の正極板の正面図である。 従来の鉛蓄電池の正極板の板面を示したSEM画像である。 本実施形態の鉛蓄電池の正極板の板面を示したSEM画像である。 本実施形態の鉛蓄電池の正極板の板面の要部を拡大したイメージ図である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
〔全体構成の説明〕
本実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群を有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が収納され、電解液が注入されている。各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
各極板群の積層体は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータとを有し、例えば、負極板がポリエチレン等の合成樹脂製の袋状セパレータ内に収納され、この負極板が入った袋状セパレータと正極板とが交互に積層されて、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、負極板ではなく、正極板が袋状セパレータ内に収納されていても良い。また、極板群を構成する正極板の枚数が負極板の枚数よりも1枚多くても良く、負極板の枚数の方が正極板の枚数よりも1枚多くても良く、正極板の枚数と負極板の枚数とが同枚数でも良い。
また、袋状セパレータのベース面に対して垂直な方向に突出する襞状のリブが形成されていてもよい。なお、極板群の積層体が有するセパレータは、ガラス繊維を含むセパレータ、例えば平板上のガラス繊維マット(AGM)セパレータであっても良い。
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、正極極柱および負極極柱がそれぞれ小片部を介して形成され、外部端子となる正極端子および負極端子と接続している。
本実施形態の鉛蓄電池は、図1に示す正極板1を有する。
図1に示すように、正極板1は、正極集電板2と正極合剤3(正極活物質と錫(Sn)を含む合剤)で構成され、正極集電板2は、格子状基板部21と、格子状基板部21から上側に突出する耳部22と有し、格子状基板部21に正極合剤3が保持されている。格子状基板部21は、外周縁を形成する外枠骨211と、外枠骨211の対向する二本の縦枠骨間に渡された複数の横内骨212と、外枠骨211の対向する二本の横枠骨間に渡された複数の縦内骨213とで構成され、これらで形成された格子状の開口部214を有する。
負極板は、負極集電板と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電板は、格子状基板部と、格子状基板部から上側に突出する耳部とを有し、格子状基板部に負極合剤が保持されている。格子状基板部は、外周縁を形成する外枠骨と、外枠骨の対向する二本の縦枠骨間に渡された複数の横内骨と、外枠骨の対向する二本の横枠骨間に渡された複数の縦内骨とで構成され、これらで形成された格子状の開口部を有する。
正極板を構成する正極集電板は、鉛合金を用いて、重力鋳造法で形成されたものである。負極板を構成する負極集電板は、鉛合金を用いて、連続鋳造法で形成されたものである。正極集電板および負極集電板のその他の製造方法としては、鉛合金製圧延板に対する打ち抜き法、鉛合金製圧延板を用いたエキスパンド法が挙げられる。
なお、本実施形態の鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池であっても良く、制御弁式鉛蓄電池であっても良い。
〔正極合剤について〕
先ず、従来の鉛蓄電池の正極合剤について、図2を用いて説明する。
図2には、従来の鉛蓄電池の正極板の板面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したSEM画像が示されており、正極集電板の格子状基板部に保持されている正極合剤の表面を示した図である。従来の鉛蓄電池の正極合剤は、図2に示すように、粒子サイズが不均一であり、球状、鱗片状またはブロック状の一次粒子の凝集体が形成されている。
次に、本実施形態の鉛蓄電池の正極合剤について、図3、4を用いて説明する。図3には、本実施形態の鉛蓄電池の正極板の板面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したSEM画像が示されており、正極集電板の格子状基板部に保持されている正極合剤の表面を示した図である。図4には、正極板の板面付近の要部を拡大した正極板厚さ方向断面のイメージ図が示されている。本実施形態の鉛蓄電池の正極合剤は、図3に示すように、正極合剤の表面に針状結晶の粒子が形成されている。また、図4に示すように正極合剤3は、内部層31と針状結晶の粒子32を有し、針状結晶の粒子32は正極板の板面1a上の少なくとも一部に形成されている。内部層31は、図2に示す従来の鉛蓄電池の正極合剤のように、球状、鱗片状またはブロック状の一次粒子の凝集体が形成されており、その凝集体が正極集電板の格子状基板部に保持されて層を形成している。なお、内部層31の表面は、凝集体によって凹凸が形成されていても良く、この内部層31の表面に針状結晶の粒子32が形成されることで、針状結晶の粒子32が、正極板の板面1a上に形成される。
針状結晶の粒子32が、正極板の板面1a上に形成されることで、電解液に直接接触する正極板の板面に位置する正極合剤粒子の形状が良好になり、正極合剤の耐久性を損なうことなく正極利用率を向上させることが可能になる。なお、図4には正極板の一方の板面付近の要部を拡大したイメージ図が示されているが、正極合剤が正極集電板の格子状基板部の両面の板面に保持されている場合、正極板の両面の板面上に針状結晶の粒子が形成されていることが好ましい。
なお、本明細書における「針状結晶の粒子」は、正極合剤の一次粒子の長軸方向の最長長さをA、短軸方向の最短長さをBとしたときのアスペクト比A/Bが3.0以上20.0以下の粒子であり、アスペクト比A/Bが大きくなると針状結晶の粒子は細長く、アスペクト比が小さくなると針状結晶の粒子は太短くなる。アスペクト比A/Bが3.0以上であると、正極板の板面に形成された針状結晶の粒子同士の接触面積が増えるため電子伝導性が向上して、利用率向上効果が得られる。また、アスペクト比A/Bが20.0以下であると、充放電時に生じる正極活物質の体積膨張による針状結晶由来のデンドライトショートの発生を抑制できる。
針状結晶の粒子のアスペクト比A/Bは、化成後の正極合剤を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、100個以上の針状結晶の一次粒子を任意に選択してそれぞれの長軸方向の最長長さAと短軸方向の最短長さBを測定した後、アスペクト比A/Bを算出し、その平均値をとったものである。
また、本発明者らが鋭意検討した結果、化成前の正極活物質を含む合剤(正極合剤)のペースト(以降、「正極合剤ペースト」と記すこともある)に金属錫を含有させることで、化成後の正極合剤中に針状結晶の粒子が形成されることが明らかになった。
針状結晶の粒子を正極板の板面上へ選択的に形成させる方法として、正極合剤ペーストを格子状基板部に充填した正極充填板の板面上に、金属錫を含む懸濁液を塗布する方法が挙げられる。また、金属錫を含む懸濁液の塗布方法は特に限定されず、例えば、刷毛による塗布方法やディップコート法などが挙げられる。
正極板の板面上において、針状結晶の粒子を選択的に形成させるために、正極充填板の板面上に塗布した金属錫は、鉛蓄電池の化成により、正極合剤中で、例えば、酸化物、硫化物、水酸化物等の錫化合物(錫の価数に関わらず)の状態で存在する可能性がある。また、金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の一部が正極合剤から電解液に溶け出して、錫イオン(価数に関わらず)として存在し、その電解液に溶け出した錫イオンの一部が、負極板に金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の状態で析出している可能性がある。
また、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であることが好ましい。錫の含有量を上記の範囲に規定することによって、上述のように、正極充填板の板面上に塗布した金属錫は、化成後の正極合剤において、錫化合物(錫の価数に関わらず)の状態で存在している可能性があり、その錫化合物により、十分な正極合剤の電子伝導性向上効果が得られ、優れた正極利用率を得ることができる。なお、本明細書における「正極合剤の錫(Sn)の含有量」は、化成後の正極合剤の重量に対する錫(Sn)の重量の比率であり、正極合剤の錫(Sn)の含有量は、ICP発光分析装置を用いて測定することができる。
また、正極合剤の耐久性および正極利用率向上の観点から、正極合剤の比表面積が、5.0m/g以上10.0m/g以下であり、正極合剤の多孔度が、50%以上55%以下であることが好ましい。なお、正極合剤の比表面積はBET法で測定することができ、正極合剤の多孔度は水銀圧入法で測定することができる。
〔正極活物質が含有する二酸化鉛について〕
正極合剤に含まれる正極活物質は、二酸化鉛を含有する。二酸化鉛には、斜方晶系であるα相(α-二酸化鉛)と、正方晶系のβ相(β-二酸化鉛)があり、β-二酸化鉛の質量βに対するα-二酸化鉛の質量αの割合「α/β」が0.25以上0.45以下であることが好ましく、このような構成であれば、鉛蓄電池の正極合剤の軟化脱落を抑制しつつ、正極利用率を向上させることができる。
〔電解液について〕
本実施形態の鉛蓄電池の電解液は、比重が1.28以上1.30以下(20℃換算)の希硫酸である。
また、上述のように、本実施形態の鉛蓄電池において、正極板の板面上において、針状結晶の粒子を選択的に形成させるために、正極充填板の板面上に塗布した金属錫は、鉛蓄電池の化成により、正極合剤で、例えば、酸化物、硫化物、水酸化物等の錫化合物(錫の価数に関わらず)の状態で存在する可能性がある。しかしながら、鉛蓄電池が過放電状態になると、電解液の比重が低下して、正極合剤に存在する金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)が、電解液に錫イオン(価数に関わらず)として溶け出し易くなる。また過放電状態から充電すると、電解液に溶け出した錫イオンの一部が、負極板に樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫が析出して、樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫がセパレータを突き破って、正極板と負極板が接触して短絡する、所謂、デンドライトショートが発生する恐れがあるため、デンドライトショートの発生を抑制する電池設計も重要である。
また、上述のように、本実施形態の鉛蓄電池において、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下である場合、十分な正極合剤の電子伝導性向上効果が得られ、優れた正極利用率を得ることができる。但し、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上である場合、正極合剤中の金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の含有量が多いため、正極合剤から電解液に錫イオン(価数に関わらず)として溶け出す量も多くなる。そうすると、デンドライトショートが発生する可能性が高くなる。
本実施形態の鉛蓄電池において、デンドライトショートの発生を抑制する観点から、電解液が、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であることが好ましい。電解液に、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含有させて、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度を上記の範囲に規定することで、これらのイオンを含まない場合と比較して、鉛蓄電池が過放電状態になった場合でも、正極合剤に存在する金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)が、電解液に溶け出し難くなり、正極利用率を低下させることなく、効果的にデンドライトショートの発生を抑制できる。
電解液に、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含有させても、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L未満である場合は、合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下である場合と比較して、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンまたはマグネシウムイオンの濃度が低く、過放電における、金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の十分な溶出抑制効果が得られないため、デンドライトショートが発生してしまう。
また、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.30mol/Lを超える場合は、合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下である場合と比較して、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンまたはマグネシウムイオンの濃度が高く、過放電における、金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の十分な溶出抑制効果が得られる反面、電解液の粘度増加に起因する導電性の低下、並びに正極合剤への電解液の浸透性の低下により、十分な正極利用率の向上効果が得られなくなる。
なお、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度は、例えばICP発光分析装置を用いて測定することができる。
〔極板群について〕
本実施形態の鉛蓄電池は、上述のように、電槽の各セル室に一つの極板群が収納されており、各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。極板群を電槽内に収納した際に、電槽の内壁面より、極板群に加圧力(以降、「群圧」と記すこともある。)が掛かる。本実施形態の鉛蓄電池が備える各極板群に掛かる群圧は、群圧が0kPa以上10kPa以下であると、充電時に正極板および負極板から発生するガスが電池内部に滞留し難く、効果的に電池外部に排出することができ、内部抵抗上昇を抑制できる。
また、各極板群に掛かる群圧を0kPa以上10kPa以下とするには、例えば、セパレータのベース面の厚さおよびリブの高さを適宜調整すれば良い。また、極板群を電槽のセル室内に収容する時に、極板群とセル室の内壁との間にスペーサを入れて群圧を調整しても良い。なお、極板群に掛かる群圧は、引張圧縮試験機を用いて測定することができる。
本実施形態の鉛蓄電池が備える極板群の積層体において、正極板と負極板との間にセパレータを配置し、正極板または負極板と、セパレータとの間に不織布を備え、さらに、その不織布を正極板または負極板の板面に当接させることで、正極利用率を低下させることなく、効果的にデンドライトショートの発生を抑制できる。
また、不織布は、例えば、有機繊維を含む不織布、無機繊維を含む不織布、または有機繊維と無機繊維の混合繊維を含む不織布が挙げられる。有機繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の繊維が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維等が挙げられる。
正極板または負極板と、セパレータとの間に不織布を備え、その不織布を正極板または負極板の板面に当接させると、鉛蓄電池が過放電状態となって、電解液の比重が低下して、正極合剤に存在する金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)が、電解液に錫イオン(価数に関わらず)として溶け出しても、電解液に溶け出した錫イオン(価数に関わらず)が不織布により補足され、負極板に樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫が析出することを抑制でき、デンドライトショートの発生を抑制できる。
本実施形態の鉛蓄電池が備える極板群において、正極板または負極板と、セパレータとの間に不織布を備え、その不織布を正極板または負極板の板面に当接させるには、例えば、化成前の正極活物質または負極活物質を含む合剤(正極合剤または負極合剤)のペーストを、正極集電板または負極集電板の格子状基板部に充填して、熟成および乾燥を行うことで得られる化成前の正極板または負極板の板面に不織布を貼り付けて、極板群が有する積層体を作製すれば良い。
また、不織布の表面が、酸性官能基で修飾されており、酸性官能基量は、0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下である場合、正極利用率を低下させることなく、より効果的にデンドライトショートの発生を抑制できる。酸性官能基としては、例えば、カルボキシ基、フェノール性水酸基、スルホ基等が挙げられ、不織布の表面が一種類の酸性官能基で修飾されていても良く、複数種類の酸性官能基で修飾されていても良い。
不織布の表面を酸性官能基で修飾するには、不織布の表面に酸性官能基を生成させるための酸性官能基源を含有する溶液中に不織布を浸漬させれば良く、例えば、不織布の表面にスルホ基を修飾する場合には、不織布を硫酸中に浸漬させれば良い。また、不織布の表面の酸性官能基量を、0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下とするには、例えば、不織布を浸漬させる所定の溶液の濃度、所定の溶液中に不織布を浸漬させる時間を適宜調整すれば良い。
その他、本発明は上記実施形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、前述した構成を適宜組み合わせても良い。
次に、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(A)鉛蓄電池の性能に対する正極板面上の針状結晶の粒子、正極合剤の錫(Sn)の含有量、および正極合剤の比表面積と多孔度が及ぼす影響についての検討
[試験電池の作製]
サンプルNo.1~14の鉛蓄電池として、JIS規格B20サイズの電槽を構成するセル室を一つだけ有する電槽を用意し、そのセル室に一つの極板群を収納して、セル室を一つだけ有する鉛蓄電池(動作電圧:2V、定格容量:32Ah)を二体ずつ作製した。
(サンプルNo.1)
<化成前の正極板および負極板の作製>
先ず、正極集電板(格子状基板部+耳部)として、Pb-Ca-Sn系合金製の集電板を作製した。次に、一酸化鉛を主成分とする鉛粉2000g、水240g、比重1.37(20℃換算)の硫酸220gで混錬することにより、正極合剤ペーストを作製し、得られた正極合剤ペーストを、正極集電板の格子状基板部の全面に均一に塗布、充填することで、正極充填板を得た。その後、通常の方法で、熟成および乾燥を行うことで、化成前の正極板を作製した。
次に、負極集電板(格子状基板部+耳部)として、Pb-Ca-Sn系合金製の集電板を作製した。負極集電板の格子状基板部には、下記の組成物を用い通常の方法で作製した鉛ペーストを充填した。負極合剤ペースト用の組成物は、鉛粉、ポリエステル繊維からなるカットファイバー、カーボンブラック、リグニン、硫酸バリウムを混合した組成物である。充填後に通常の処理を行って、化成前の負極板を得た。
次に、ベース面の厚みが0.25mmの帯状であって、長手方向に延びるリブを有するポリエチレン製セパレータがロール状に巻かれたもの(セパレータロール)を用意した。リブの高さは0.45mmであり、幅方向に7mm間隔で13本形成されている。このセパレータを切り出して、リブ側を外側にして折り重ねて幅方向両端部をギヤシールすることで、袋状セパレータを得た。
次に、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、二つの積層体を得た。
<極板群に掛かる群圧の測定>
得られた二つの積層体のうちの一つを横倒しにして水平な台上に置き、押し付け板を積層体の上に載せた状態で、引張圧縮試験機(ミネベアミツミ製 TGJ-20KN)を使用して次の方法で測定した。
先ず、引張圧縮試験機の本体基盤の上に極板群を置き、その上に、押し付け板として、長さ150mm、幅150mm、厚み9mmの金属製の平板を置き、平板の上に5kNのロードセルが丁度接触する状態とした後、5kNのロードセルを0.01mm/minの速度で降下させ、押し付け板に対して0.5kNの加圧力が掛かった時点でロードセルの移動を停止した。この操作により、ロードセルの移動距離から加圧状態における積層体の厚み(mm)を算出し、加圧状態における積層体の厚み(mm)に対する加圧力(kN)のプロットデータを得た。このプロットデータから、加圧状態における積層体の厚み(mm)が、B20サイズのセル室内寸である28.5mmの時に掛かる加圧力(kN)を算出し、その加圧力を極板群に掛かる群圧とした。なお、単位「kN」を「kPa」へ変換する際、加圧力(kN)を正極板の正極集電板を構成する格子状基板部の面積で除算した。
<その他>
次に、積層体の化成前の正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれガスバーナーで溶接して、二つの極板群を得た。
次に、用意した電槽のセル室(幅寸法;28.5mm)内に一つの極板群を収納した後、比重1.23(20℃換算)の希硫酸からなる電解液を、360mL(極板群が全て浸漬状態となる量)入れた。次に、正極理論容量の230%の充電電気量で電槽化成を行った。その後、電解液の比重が1.285になるように調整して、No.1の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.2)
電槽化成の前に、比重1.15(20℃換算)の希硫酸からなる電解液を、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.1と同様の方法で、サンプルNo.2の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.3)
正極ペースト作製時に、金属錫5.0gをさらに練り合いすることで正極ペーストを作製したこと以外はサンプルNo.1と同様の方法で、サンプルNo.3の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.4)
先ず、金属錫5.0gに脱イオン水を少量ずつ加えながら撹拌して、金属錫を含有する懸濁液を作製して、正極充填板の正極合剤ペースト中に含まれる水の合計量が240gになるように、正極合剤ペースト混錬時に使用する水の量として、240gから懸濁液の作製に使用した脱イオン水量を差し引いた量を使用して、正極充填板の両板面に、作製した懸濁液を塗布した後、熟成および乾燥を行うことで、化成前の正極板を作製したこと以外は、サンプルNo.1と同様の方法で、サンプルNo.4の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.5)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫1gを使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.5の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.6)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫4.5gを使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.6の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.7)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫10.0gを使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.7の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.8)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫15.0gを使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.8の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.9)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫20.0gを使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.9の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.10)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫25.0gを使用したこと、および正極ペースト混錬時に使用する比重1.37(20℃換算)の硫酸量を200gとし、正極充填板の正極合剤ペースト中に含まれる水の合計量が280gになるように、正極ペースト混錬時に使用する水の量として、280gから懸濁液の作製に使用した脱イオン水量を差し引いた量を使用したこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.10の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.11)
金属錫を含有する懸濁液の作製時に、金属錫5.0gを使用したこと以外は、サンプルNo.10と同様の方法で、サンプルNo.11の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.12)
正極ペースト混錬時に使用する比重1.37(20℃換算)の硫酸量を250gとしたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.12の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.13)
正極ペースト混錬時に使用する比重1.37(20℃換算)の硫酸量を250gとしたこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.13の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.14)
正極充填板の正極合剤ペースト中に含まれる水の合計量が300gになるように、正極合剤ペースト混錬時に使用する水の量として、300gから懸濁液の作製に使用した脱イオン水量を差し引いた量にしたこと以外は、サンプルNo.4と同様の方法で、サンプルNo.14の鉛蓄電池を二体得た。
なお、サンプルNo.1~14の鉛蓄電池の極板群に掛かる群圧は、10kPaであった。
[正極合剤の物性評価]
サンプルNo.1~14において、各二体作製した鉛蓄電池のうちの一体を解体し、化成後(満充電時)の正極合剤の物性評価を行った。
具体的には、先ず、セル室から極板群を取り出して分解し、中央に配置されていた正極板を取り出して、その正極板を水洗乾燥し、正極板の格子状基板部から正極合剤を分離して、走査型電子顕微鏡(JEOL製 走査型電子顕微鏡JSM-IT1000A)で正極合剤のコマ表面と断面を観察することで、針状結晶の粒子の有無と、針状結晶の粒子が形成された箇所を調べた。
次に、正極板の格子状基板部から分離した正極合剤を粉砕して、従来公知の方法で試料を調整し、ICP発光分析装置(Thermo SCIENTIFIC製iCAP 7400 Duo MFC)にかけて、正極合剤の錫(Sn)の含有量を測定した。
次に、上記錫(Sn)の含有量測定の際に粉砕した正極合剤から、従来公知の方法で試料を調整し、正極合剤の比表面積(BET比表面積[m/g])を、JIS Z 8830:2013(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に規定された測定方法に従って測定し、正極合剤の多孔度を水銀ポロシメータ(島津製作所AutoPore IV 9500)にかけて測定した。
[電池試験および評価]
得られたサンプルNo.1~14の各二体の鉛蓄電池の残り一体は、解体せずに、これを用いて5時間率容量試験を実施して、得られた放電容量の実測値を、正極の理論容量で除算した値を正極利用率とした。
次に、5時間率容量試験後のサンプルNo.1~14の鉛蓄電池を用いて、JIS D 5301 9.5(b)に記載の重負荷寿命試験に準拠し、正極合剤の耐久性を評価した。具体的には、満充電の鉛蓄電池に対し、周囲温度40℃の環境で、放電深度40%まで1時間で放電した後、10時間率電流で放電容量の125%となるまで充電するサイクルを24サイクル繰り返した。25サイクル目の放電は判定放電として、終止電圧である1.75Vに達するまで放電し、その後10時間率電流で放電容量の140%となるまで充電をした。25サイクル経過後、鉛蓄電池を取り出し、25サイクルで減水した量と同じ量の精製水を補給した。この充放電サイクル試験を、25サイクル目の放電時の容量が鉛蓄電池の5時間率容量の50%未満となるまで行った。それまでのサイクル数を寿命とした。
これらの試験結果を、サンプルNo.1~14の鉛蓄電池の正極合剤の構成(針状結晶の粒子の有無と形成箇所、錫(Sn)の含有量、比表面積および多孔度)とともに表1に示す。なお、サンプルNo.1~14の鉛蓄電池の正極利用率および寿命サイクルは、サンプルNo.1の鉛蓄電池の正極利用率と寿命サイクル数を100%とした時の相対値を示した。また、試験結果に基づく判定を以下の様に行った。正極利用率(相対値)が110%以上であり、かつ寿命サイクル数(相対値)が110%以上の場合は「◎」、正極利用率(相対値)が105%以上であり、かつ寿命サイクル数(相対値)が100%以上110%未満の場合は「〇」、正極利用率(相対値)が105%未満の場合は「×」とした。
Figure 2023046379000002
表1の結果から以下のことが分かる。
<サンプルNo.1~No.4について>
No.1の鉛蓄電池は、正極合剤ペーストに金属錫を含有させずに作製した鉛蓄電池であり、5時間率容量と寿命サイクル数の基準とする従来例である。No.1の鉛蓄電池の正極合剤のコマ表面と断面を観察したところ、正極合剤に針状結晶の粒子は形成されていなかった。
No.2の鉛蓄電池は、比重が1.15と低い電解液を電槽のセル室内に注液して、電槽化成することで作製した鉛蓄電池であり、No.1の鉛蓄電池と比較して、正極利用率が97%と、正極利用率の性能が劣るものであった。
No.2の鉛蓄電池の正極合剤のコマ表面と断面を観察したところ、アスペクト比が大きい針状結晶の粒子が、正極板の板面と内部層に分散され、正極合剤全体に形成されていた。しかしながら、正極合剤全体に針状結晶の粒子を形成させると、正極合剤の内部層中の細孔が針状結晶の粒子によって閉塞して、電解液が正極合剤の内部層に浸透し難くなるため、正極利用率の向上効果が得られなかったと考えられる。
No.3の鉛蓄電池は、正極合剤ペースト混錬時に金属錫を添加することで、正極合剤ペーストに金属錫を含有させて作製した鉛蓄電池であり、No.1の鉛蓄電池と比較して、正極利用率が102%と、十分な正極利用率向上の効果は得られなかった。
No.3の鉛蓄電池の正極合剤のコマ表面と断面を観察したところ、No.2と同様、アスペクト比が大きい針状結晶の粒子が、正極板の板面上と正極合剤の内部層に分散されて、正極合剤全体に形成されていた。No.1の鉛蓄電池と比較して、正極合剤ペーストに金属錫を含有させることで、化成後の正極合剤中に針状結晶の粒子を形成させることが可能であることが分かった。しかしながら、上述の通り、正極合剤全体に生成した針状結晶は細孔閉塞を引き起こすため、十分な利用率向上効果が得られなかったと考えられる。
No.4の鉛蓄電池は、金属錫を含有する懸濁液を作製して、その懸濁液を正極充填板の板面に塗布することで、正極合剤ペーストに金属錫を含有させて作製した鉛蓄電池であり、No.1の鉛蓄電池と比較して、正極利用率が120%、寿命サイクル数が113%であり、特に優れた正極合剤の耐久性および正極利用率が得られた。
No.4の鉛蓄電池の正極合剤のコマ表面と断面を観察したところ、アスペクト比が大きい針状結晶の粒子が、正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤の内部層には、形成されていなかった。No.3の鉛蓄電池と比較して、正極充填板の板面に金属錫を含む懸濁液を塗布することで、針状結晶の粒子を正極板の板面上に選択的に形成させることが可能であることが分かった。針状結晶の粒子を正極板の板面上に選択的に形成させたことにより、正極活物質と電解液との接触面積が向上したことで正極利用率が向上したと考えられる。
また、正極合剤のICP発光分析により、No.4の鉛蓄電池の正極合剤中に錫(Sn)が、0.22重量%含有していることが分かった。正極合剤ペーストに含有させた金属錫は、化成後の正極合剤中に、例えば、酸化物、硫化物、水酸化物等の錫化合物(錫の価数に関わらず)の状態で存在している可能性があり、その錫化合物により、正極活物質の電子伝導性向上効果が得られ、正極利用率が向上したと考えられる。
<サンプルNo.4~No.10について>
No.4~No.10の鉛蓄電池は、金属錫を含有する懸濁液を作製して、その懸濁液を正極充填板の板面に塗布することで、正極合剤ペーストに金属錫を含有させて作製した鉛蓄電池であり、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤の比表面積が5.0m/g以上10.0m/g以下であり、多孔度が50%以上55%以下であり、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.1重量%~1.10重量%の範囲で異なるものである。
No.4~No.10の鉛蓄電池は、No.1の鉛蓄電池と比較して、正極利用率が105%以上、寿命サイクル数が100%以上であり、正極合剤の耐久性を損なうことなく、優れた正極利用率が得られた。No.4~No.10の鉛蓄電池のうち、No.4、No.6~No.9の鉛蓄電池は、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.2重量%以上0.90重量%以下であり、正極合剤の比表面積が5.0m/g以上10.0m/g以下であり、多孔度が50%以上55%以下であることで、正極利用率が117%以上120%以下、寿命サイクル数が112%以上120%以下であり、特に優れた正極合剤の耐久性および正極利用率が得られた。
No.5の鉛蓄電池の正極利用率が、No.4、No.6~No.9の鉛蓄電池と比較して低くなったのは、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.10重量%と少なく、十分な正極活物質の電子伝導性向上効果を得られなかったためと考えられる。No.10の鉛蓄電池の正極利用率が、No.4、No.6~No.9の鉛蓄電池と比較して低くなったのは、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、1.10重量%と多く、正極合剤中の錫(Sn)が、正極活物質と電解液との接触を阻害したため、十分な正極利用率向上効果を得られなかったと考えられる。また、No.10の鉛蓄電池を解体調査したところ、デンドライトショートが発生していた。これは、正極合剤中の錫(Sn)の一部が電解液に溶け出し、負極に樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫が析出したためと考えられる。
<サンプルNo.4、No.6~No.9、No.11~No.14について>
No.4、No.6~No.9、No.11~No.14の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が0.20重量%以上0.90重量%以下であり、正極合剤の比表面積が4.8m/g~10.5m/g、多孔度が48%~57%の範囲で異なるものである。
No.4、No.6~No.9、No.11~No.14の鉛蓄電池は、No.1の鉛蓄電池と比較して、正極利用率が117%以上、寿命サイクル数が105%以上であり、正極合剤の耐久性を損なうことなく、特に優れた正極利用率が得られた。No.4、No.6~No.9、No.11~No.14の鉛蓄電池のうち、No.4、No.6~No.9の鉛蓄電池は、上述の通り、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であり、正極合剤の比表面積が5.0m/g以上10.0m/g以下であり、かつ多孔度が50%以上55%以下であることで、正極利用率が117%以上120以下、寿命サイクル数が112%以上120%以下であり、特に優れた正極合剤の耐久性および正極利用率が得られた。
以上のことから、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された正極板の板面上に針状結晶の粒子を形成させることにより、正極合剤の耐久性を損なうことなく、正極利用率が向上することが確認できた。また、正極合剤中の錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であると、優れた正極利用率が得られ、さらには、正極合剤の比表面積が5.0m/g以上10.0m/g以下であり、かつ多孔度が50%以上55%以下であると、優れた正極合剤の耐久性および正極利用率が得られることが確認できた。
(B)鉛蓄電池の性能に対する極板群に掛かる群圧が及ぼす影響についての検討
[試験電池の作製]
上記(A)の検討のサンプルNo.6、7、9と同様の方法で、サンプルNo.6、7、9の鉛蓄電池を一体ずつ作製した。また、サンプルNo.15~25の鉛蓄電池として、上記(A)における検討と同様に、JIS規格B20サイズの電槽を構成するセル室を一つだけ有する電槽を用意し、そのセル室に一つの極板群を収納して、セル室を一つだけ有する鉛蓄電池(動作電圧:2V、定格容量:32Ah)を三体ずつ作製した。
(サンプルNo.15)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が0kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.6と同様の方法で、サンプルNo.15の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.16)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、かつ積層体の積層方向の両端に、厚さが0.2mmのポリエチレン製スペーサを配置することで、極板群に掛かる群圧が5kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.6と同様の方法で、サンプルNo.16の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.17)
リブの高さが0.50mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が20kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.6と同様の方法で、サンプルNo.17の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.18)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が0kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.7と同様の方法で、サンプルNo.18の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.19)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、かつ積層体の積層方向の両端に、厚さが0.2mmのポリエチレン製スペーサを配置することで、極板群に掛かる群圧が5kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.7と同様の方法で、サンプルNo.19の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.20)
リブの高さが0.50mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が20kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.7と同様の方法で、サンプルNo.20の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.21)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が0kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.21の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.22)
リブの高さが0.40mmであるセパレータを用意して、かつ積層体の積層方向の両端に、厚さが0.2mmのポリエチレン製スペーサを配置することで、極板群に掛かる群圧が5kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.22の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.23)
リブの高さが0.50mmであるセパレータを用意して、極板群に掛かる群圧が20kPaになるようにしたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.23の鉛蓄電池を三体得た。
[正極合剤の物性評価]
サンプルNo.15~23において、各三体作製した鉛蓄電池のうちの一体を解体し、上記(A)と同じ方法で、化成後(満充電時)の正極合剤における針状結晶の粒子の有無と、針状結晶の粒子が形成された箇所、および錫(Sn)の含有量を調べた。
[電池試験および評価]
サンプルNo.15~23の残り二体の鉛蓄電池のうち一体を用いて、上記(A)の検討と同様の方法で、5時間率容量試験を実施して、得られた放電容量の実測値を、正極の理論容量で除算した値を正極利用率とした。5時間率容量試験後のサンプルNo.15~23の鉛蓄電池を用いて、上記(A)の検討と同様の方法で、重負荷寿命試験を実施して、寿命サイクル数を測定した。
また、サンプルNo.6、7、9の各一体の鉛蓄電池と、サンプルNo.15~23の残り一体の鉛蓄電池を用いて、内部抵抗の上昇値を評価した。具体的には、温度25℃の雰囲気に48時間静置した後、内部抵抗を測定して、その測定値を内部抵抗の初期値とした。次に、最大電流100A、制御電圧14.0Vの定電圧充電を10分間行い、温度25℃の雰囲気に1時間静置した後、内部抵抗を測定して、その測定値を静置後の内部抵抗値とした。次に、これらの値を、以下に示す式に代入して、内部抵抗上昇率(%)を算出した。
内部抵抗上昇率(%)=((静置後の内部抵抗値-内部抵抗の初期値)/内部抵抗の初期値))×100
これらの試験結果を、サンプルNo.6、7、9、15~23の正極合剤の構成(針状結晶の粒子の有無と形成箇所、錫(Sn)の含有量)および極板群に掛かる群圧とともに表2に示す。なお、サンプルNo.6、7、9、15~23の鉛蓄電池の正極利用率および寿命サイクルは、サンプルNo.1の鉛蓄電池の正極利用率と寿命サイクル数を100%とした時の相対値を示した。また、試験結果に基づく判定を以下の様に行った。正極利用率(相対値)が110%以上であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつ内部抵抗上昇率が5%未満の場合は「◎」とした。正極利用率(相対値)が105%以上110%未満であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつ内部抵抗上昇率が5%以上10%以下の場合は「〇」とした。
Figure 2023046379000003
表2の結果から以下のことが分かる。
No.6、7、9、15~23の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成された鉛蓄電池であり、正極合剤中の錫(Sn)の含有量が0.20重量%以上0.90重量%以下であり、正極利用率と寿命サイクルは良好になっている。中でも、No.6、7、9、15、16、18、19、21、22の鉛蓄電池は、極板群に掛かる群圧が0kPa以上10kPa以下であり、静置後の内部抵抗の上昇率が5%未満と低かった。これは、極板群に掛かる群圧が小さく、充電時に正極板および負極板から発生するガスが電池内部に滞留し難く、効果的に電池外部に排出することができ、内部抵抗上昇を抑制できたためと考えられる。
以上のことから、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された正極板の板面上に針状結晶の粒子を形成させ、極板群に掛かる群圧を0kPa以上10kPa以下とすることで優れた利用率向上効果を維持しつつ、充電後の内部抵抗上昇を抑制できることを確認した。
(C)鉛蓄電池の性能に対する電解液に含まれるアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンが及ぼす影響についての検討
[試験電池の作製]
上記(A)の検討のサンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.9の鉛蓄電池を一体作製した。また、サンプルNo.24~38の鉛蓄電池として、上記(A)における検討と同様に、JIS規格B20サイズの電槽を構成するセル室を一つだけ有する電槽を用意し、そのセル室に一つの極板群を収納して、セル室を一つだけ有する鉛蓄電池(動作電圧:2V、定格容量:32Ah)を三体ずつ作製した。
(サンプルNo.24)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを3.42g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.24の鉛蓄電池を二体得た。
(サンプルNo.25)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.25の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.26)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを103g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.26の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.27)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを137g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.27の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.28)
電槽化成の前に、硫酸リチウムを11.0g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.28の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.29)
電槽化成の前に、硫酸ナトリウムを14.2g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.29の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.30)
電槽化成の前に、硫酸マグネシウムを12.0g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.30の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.31)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを1.71g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.22g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.31の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.32)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを0.68g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.22g/Lの割合で含有させ、硫酸ナトリウムを0.28g/Lの割合で含有させ、硫酸マグネシウムを0.24g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.32の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.33)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを1.71g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.33の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.34)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34.2g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させ、硫酸ナトリウムを14.2g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.34の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.35)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34.2g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させ、硫酸マグネシウムを12.0g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.35の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.36)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34.2g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させ、硫酸ナトリウムを14.2g/Lの割合で含有させ、硫酸マグネシウムを12.0g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.36の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.37)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34.2g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させ、硫酸ナトリウムを14.2g/Lの割合で含有させ、硫酸マグネシウムを1.20g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.37の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.38)
電槽化成の前に、硫酸アルミニウムを34.2g/Lの割合で含有させ、硫酸リチウムを0.55g/Lの割合で含有させ、硫酸ナトリウムを1.42g/Lの割合で含有させ、硫酸マグネシウムを12.0g/Lの割合で含有させて比重1.23(20℃換算)とした希硫酸を電解液として、電槽のセル室内に入れたこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.38の鉛蓄電池を三体得た。
[正極合剤の物性評価]
サンプルNo.24~38において各三体作製した鉛蓄電池のうちの一体を解体し、上記(A)と同じ方法で、化成後(満充電時)の正極合剤における針状結晶の粒子の有無と、針状結晶の粒子が形成された箇所およびの錫(Sn)の含有量を調べた。
[電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオン濃度の測定]
サンプルNo.24~38において、正極合剤の物性評価した鉛蓄電池を用いて、化成後(満充電時)の電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオン濃度を測定した。
具体的には、先ず、セル室から電解液を抽出して、ICP発光分析用の試料を公知の方法により調製し、各鉛蓄電池の電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオン濃度を測定し、これらのイオンの合計濃度を算出した。
[電池試験および評価]
サンプルNo.24~38の残り二体の鉛蓄電池のうち一体を用いて、上記(A)の検討と同じ方法で、5時間率容量試験を実施して、得られた放電容量の実測値を、正極の理論容量で除算した値を正極利用率とした。5時間率容量試験後のサンプルNo.24~38の鉛蓄電池を用いて、上記(A)の検討と同様の方法で、重負荷寿命試験を実施して、寿命サイクル数を測定した。
また、サンプルNo.9の鉛蓄電池と、サンプルNo. 24~38の残り一体の鉛蓄電池を用いて、EN50342-16.8に記載のDeep Discharge testを実施し、6.8.4に記載の過放電後の充電時にデンドライトショートを起こしたかどうかを確認した。具体的には、満充電の鉛蓄電池に対し、周囲温度25℃の環境で、2Aの電流で放電末期電圧1.75Vになるまで放電を行い、その後、24時間休止した後、電池に1.5V、300mAの電球を接続し、7日間抵抗放電をした。抵抗放電後、2.67V、10Aの定電流定電圧充電を24時間実施した。その後、電池を解体して、デンドライトショートの発生の有無を確認した。
これらの試験結果を、サンプルNo.9、24~38の鉛蓄電池の正極合剤の構成(針状結晶の粒子の有無と形成箇所、錫(Sn)の含有量)および電解液に含まれるアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度とそれらの合計濃度とともに表3に示す。なお、サンプルNo.9、24~38の鉛蓄電池の正極利用率および寿命サイクルは、サンプルNo.1の正極利用率と寿命サイクル数を100%とした時の相対値を示した。また、試験結果に基づく判定を以下の様に行った。正極利用率(相対値)が110%以上であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつデンドライトショートが発生していない場合は「◎」とした。正極利用率(相対値)が105%以上であり、かつ寿命サイクル数(相対値)が100%以上110%未満であり、かつデンドライトショートが発生していない場合は「〇」とした。また、正極利用率(相対値)が110%以上であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつデンドライトショートが発生した場合は「〇」とした。
Figure 2023046379000004
表3の結果から以下のことが分かる。
No.9、24~38の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成された鉛蓄電池で、正極合剤中の錫の含有量が0.90重量%であり、正極利用率と寿命サイクルは良好になっている。中でも、No.24~26、28~30、33~35、37、38の鉛蓄電池は、電解液がアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であり、過放電後の充電時にデンドライトショートの発生を抑制できた。
これは、電解液がアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であるため、電解液がアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのいずれかを含まないNo.9の鉛蓄電池、および電解液がアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L未満であるNo.31、32の鉛蓄電池と、比較して、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンまたはマグネシウムイオンの濃度が高く、過放電における、金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の十分な溶出抑制効果が得られ、デンドライトショートの発生を抑制することができたと考えられる。
また、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.30mol/Lを超えるNo.27、36の鉛蓄電池は、合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であると比較して、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンまたはマグネシウムイオンの濃度が高く、過放電における、金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)の十分な溶出抑制効果が得られる反面、電解液の粘度増加に起因する導電性の低下、並びに正極合剤への電解液の浸透性の低下により、十分な正極利用率の向上効果が得られなかったと考える。
以上のことから、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された正極板の板面上に針状結晶の粒子を形成させ、かつ正極合剤中の錫の含有量が0.90重量%であり、電解液が、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であることで正極利用率を低下させることなく、効果的にデンドライトショートの発生を抑制できることを確認した。
(D)鉛蓄電池の性能に対する不織布が及ぼす影響についての検討
[試験電池の作製]
サンプルNo.39~56の鉛蓄電池として、上記(A)における検討と同様に、JIS規格B20サイズの電槽を構成するセル室を一つだけ有する電槽を用意し、そのセル室に一つの極板群を収納して、セル室を一つだけ有する鉛蓄電池(動作電圧:2V、定格容量:32Ah)を三体ずつ作製した。
(サンプルNo.39)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.6と同様の方法で、サンプルNo.39の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.40)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.7と同様の方法で、サンプルNo.40の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.41)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.41の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.42)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.42の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.43)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、5分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.43の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.44)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、15分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.44の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.45)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、20分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.45の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.46)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、25分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.46の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.47)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、30分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の正極板の両板面に貼り付けて、化成前の負極板をポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と酸処理後の不織布を貼り付けた化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.47の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.48)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.6と同様の方法で、サンプルNo.48の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.49)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.7と同様の方法で、サンプルNo.49の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.50)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、10分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.50の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.51)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けて、不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.51の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.52)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、5分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.52の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.53)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、15分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.53の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.54)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、20分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.54の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.55)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、25分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.55の鉛蓄電池を三体得た。
(サンプルNo.56)
ポリプロピレン製のシート状の不織布を、濃度が98%の濃硫酸に、80℃で、30分間浸漬させた。その後、多量の水で洗浄し、乾燥させた酸処理後の不織布を、化成前の負極板の両板面に貼り付けた。酸処理後の不織布を両板面に貼り付けた化成前の負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに入れ、化成前の負極板が入ったセパレータ7枚と化成前の正極板6枚を交互に積層して、積層体を得たこと以外は、サンプルNo.9と同様の方法で、サンプルNo.56の鉛蓄電池を三体得た。
[正極合剤の物性評価]
サンプルNo.39~56において各三体作製した鉛蓄電池のうちの一体を解体し、上記(A)の検討と同じ方法で、化成後(満充電時)の正極合剤における針状結晶の粒子の有無と、針状結晶の粒子が形成された箇所およびの錫(Sn)の含有量を調べた。
[不織布表面の酸性官能基量の測定]
サンプルNo.39~56において、正極合剤の物性評価した鉛蓄電池を用いて、化成後(満充電時)の不織布表面の酸性官能基量を、滴定法によって測定した。
具体的には、先ず、セル室から極板群を取り出して分解し、中央に配置されていた不織布を取り出して、その不織布を水洗乾燥した。水洗乾燥させた不織布を細かく裁断し、るつぼに入れ、115℃で3時間乾燥させた。乾燥後、2g秤量して、サンプルNo.39~56の測定試料を得た。その測定試料を200mlの三角フラスコに入れ、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を50mL入れて、2時間攪拌させて、24時間放置後、ろ過した。ろ液を25mL採取し、0.1Nの塩酸(濃度ファクター:f)で滴定を行い、不織布表面の酸性官能基量を、以下に示す式で計算した。
不織布表面の酸性官能基量[mmol/g]
=(塩酸の滴定量[mL])×(0.1mol/L)×f/(測定試料の重量[g])
[電池試験および評価]
サンプルNo.39~56の残り二体の鉛蓄電池のうち一体を用いて、上記(A)の検討と同様の方法で、5時間率容量試験を実施して、得られた放電容量の実測値を、正極の理論容量で除算した値を正極利用率とした。5時間率容量試験後のサンプルNo.39~56の鉛蓄電池を用いて、上記(A)の検討と同様の方法で、重負荷寿命試験を実施して、寿命サイクル数を測定した。
また、サンプルNo.39~56の残り一体の鉛蓄電池を用いて、上記(C)の検討と同様の方法で、EN50342-16.8に記載のDeep Discharge testを実施し、デンドライトショートの発生の有無を確認した。
これらの試験結果を、サンプルNo.9、39~56の鉛蓄電池の正極合剤の構成(針状結晶の粒子の有無と形成箇所、錫(Sn)の含有量)、不織布の有無および不織布表面の酸性官能基量とともに表4、5に示す。なお、サンプルNo.9、39~56の鉛蓄電池の正極利用率および寿命サイクルは、サンプルNo.1の正極利用率と寿命サイクル数を100%とした時の相対値を示した。また、試験結果に基づく判定を以下の様に行った。正極利用率(相対値)が110%以上であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつデンドライトショートが発生していない場合は「◎」とした。正極利用率(相対値)が105%以上であり、かつ寿命サイクル数(相対値)が100%以上110%未満であり、かつデンドライトショートが発生していない場合は「〇」とした。また、正極利用率(相対値)が110%以上であり、寿命サイクル数(相対値)が110%以上であり、かつデンドライトショートが発生した場合は「〇」とした。
Figure 2023046379000005
Figure 2023046379000006
表4および表5から以下のことが分かる。
<サンプルNo.9、39~41について>
No.9、39~41の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が0.20重量%以上0.90重量%以下である。No.9の鉛蓄電池は極板群に不織布が配置されていない鉛蓄電池であり、No.39~41の鉛蓄電池は表面の酸性官能基量が0.20mmol/gの不織布が、正極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に配置され、その不織布が正極板の板面に当接している鉛蓄電池であり、正極利用率、寿命サイクルともに良好であった。中でも、No. 39~41の鉛蓄電池は、過放電後の充電時にデンドライトショートの発生を抑制できた。
これは、鉛蓄電池の極板群において、正極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に不織布を配置し、その不織布を正極板の板面に当接させることで、鉛蓄電池が過放電状態となって、電解液の比重が低下して正極合剤に存在する金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)が電解液に錫イオン(価数に関わらず)として溶け出しても、電解液に溶け出した錫イオン(価数に関わらず)が不織布により補足され、負極板に樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫が析出することを抑制できたためと考えられる。
<サンプルNo.41~47について>
No.41~47の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が0.90重量%以下であり、不織布が正極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に配置され、その不織布が正極板の板面に当接している鉛蓄電池であり、不織布表面の酸性官能基量が0~0.60mmol/gの範囲で異なるものである。No.41~47の鉛蓄電池は、正極利用率と寿命サイクルは良好であり、過放電後の充電時にデンドライトショートの発生を抑制できた。中でも、不織布表面の酸性官能基量が0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下であるNo. 41、44~46の鉛蓄電池は、正極利用率を低下させることなく、デンドライトショートの発生を抑制できた。
<サンプルNo.9、48~50について>
No.9、48~50の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が0.20重量%以上0.90重量%以下である。No.9は極板群に不織布が配置されていない鉛蓄電池であり、No.48~50は表面の酸性官能基量が0.20mmol/gの不織布が、負極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に配置され、その不織布が負極板の板面に当接している鉛蓄電池であり、正極利用率、寿命サイクルともに良好であった。中でも、No. 48~50の鉛蓄電池は、過放電後の充電時にデンドライトショートの発生を抑制できた。
これは、鉛蓄電池の極板群において、負極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に不織布を配置し、その不織布を負極板の板面に当接させることで、鉛蓄電池が過放電状態となって、電解液の比重が低下して、正極合剤に存在する金属錫または錫化合物(錫の価数に関わらず)が、電解液に錫イオン(価数に関わらず)として溶け出しても、電解液に溶け出した錫イオン(価数に関わらず)が不織布により補足され、負極板に樹枝状結晶(デンドライト)の金属錫が析出することを抑制できたためと考えられる。
<サンプルNo.50~56について>
No.50~56の鉛蓄電池は、針状結晶の粒子が正極板の板面上に選択的に形成されており、正極合剤に含まれる錫(Sn)の含有量が0.90重量%であり、不織布が負極板とポリエチレン製の袋状セパレータとの間に配置され、その不織布が負極板の板面に当接している鉛蓄電池であり、不織布表面の酸性官能基量が0~0.60mmol/gの範囲で異なるものである。No.50~56の鉛蓄電池は、正極利用率、寿命サイクルともに良好であり、過放電後の充電時にデンドライトショートの発生を抑制できた。中でも、不織布表面の酸性官能基量が0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下であるNo.50、53~55の鉛蓄電池は、正極利用率を低下させることなく、デンドライトショートの発生を抑制できた。
以上のことから、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された正極板の板面上に針状結晶の粒子を形成させ、かつ正極合剤の錫の含有量が0.20重量%以上0.90重量%以下であり、極板群において、正極板または負極板と、セパレータとの間に不織布を備え、不織布を正極板または負極板の板面に当接させることで、正極利用率を低下させることなく、効果的にデンドライトショートの発生を抑制できることを確認した。
また、不織布表面の酸性官能基量が、0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下であると、正極利用率を低下させることなく、効果的にデンドライトショートの発生を抑制できることを確認した。
1 正極板
1a 正極板の板面
2 正極集電板
21 格子状基板部
211 外枠骨
212 横内骨
213 縦内骨
214 開口部
22 耳部
3 正極合剤
31 内部層
32 針状結晶の粒子
4 セパレータ

Claims (7)

  1. セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
    前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を有し、
    前記正極板は、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された格子状基板部と、前記格子状基板部から連続する耳部と、を備えた正極集電板を有し、
    前記正極合剤は、針状結晶の粒子を有し、
    前記針状結晶の粒子は、前記正極板の板面上の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする鉛蓄電池。
  2. 前記正極合剤の錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
  3. 前記正極合剤の比表面積が、5.0m/g以上10.0m/g以下であり、
    前記正極合剤の多孔度が、50%以上55%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
  4. 前記極板群に掛かる群圧が、0kPa以上10kPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
  5. セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
    前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を有し、
    前記正極板は、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された格子状基板部と、前記格子状基板部から連続する耳部と、を備えた正極集電板を有し、
    前記正極合剤は、針状結晶の粒子を有し、
    前記針状結晶の粒子は、前記正極板の板面上の少なくとも一部に形成されており、
    前記正極合剤の錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であり、
    前記電解液は、アルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンのうち、いずれか一種以上を含み、
    前記電解液のアルミニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計濃度が0.010mol/L以上0.30mol/L以下であることを特徴とする鉛蓄電池。
  6. セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
    前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を有し、
    前記正極板は、正極活物質と錫(Sn)を含む正極合剤が保持された格子状基板部と、前記格子状基板部から連続する耳部と、を備えた正極集電板を有し、
    前記正極合剤は、針状結晶の粒子を有し、
    前記針状結晶の粒子は、前記正極板の板面上の少なくとも一部に形成されており、
    前記正極合剤の錫(Sn)の含有量が、0.20重量%以上0.90重量%以下であり、
    前記極板群において、前記正極板または前記負極板と、前記セパレータとの間に不織布を備え、
    前記不織布は、正極板または負極板の板面に当接することを特徴とする鉛蓄電池。
  7. 前記不織布の表面は、酸性官能基で修飾されており、
    前記不織布の表面の酸性官能基量は、0.20mmol/g以上0.50mmol/g以下であることを特徴とする請求項6に記載の鉛蓄電池。
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