JP2023008472A - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】Agの添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有し、ウェットエッチング加工性にも優れた、銅合金板材およびその製造方法を提供する。【解決手段】銅合金板材10は、Agを1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、Cu母相である第1相11と、間隔をおいて圧延方向xに沿って延在する複数のAg相である第2相とを含む複相組織を有し、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面で見て、第2相のうち、圧延方向xに沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を特定第2相12とし、板厚方向yに沿って隣接する特定第2相12同士の相間隔dを測定したとき、相間隔dの平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲であり、かつ、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数が、測定した相間隔dの総数に占める割合が1.0%以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、銅合金板材およびその製造方法に関し、特に電気・電子機器用や車載部品用のリードフレーム、コネクタ、端子材などに用いるのに適した、銅合金板材およびその製造方法に関する。
銅合金板材、例えば電気・電子部品や自動車車載部品に用いられる銅合金板材としては、従来は、主に析出強化や加工硬化によって強化された高強度銅合金であるCu-Ni-Si系合金(コルソン系合金)が広く用いられてきた。
しかしながら、Cu-Ni-Si系合金は、導電率は最大でも50%IACS程度であり、大電流で通電すると抵抗発熱量が多くなり、熱によって接点部のばね性の低下や、端子を固定するモールドの劣化などにより、端子の機能が著しく低下するおそれがあることから、大電流用の端子材料として用いるには適さない。
このため、Cu-Ni-Si系合金に代わる端子材料を開発することが求められている。例えば、Cu母相中に他の元素を含む第2相を晶出させた複相組織を有する合金(複相合金)は、熱処理後に冷間圧延による強加工を行なうことで、第2相が繊維状に分散され、りん青銅と同等の強度を持ち、かつ母相はCuであるため、高い導電率が得られる。この複相合金系としては、Cu-Cr、Cu-Fe、Cu-Nb、Cu-Ag、Cu-Zrなどが知られている。
例えば、特許文献1は、Crを5重量%以上30重量%以下の範囲で含有し、かつZrおよびTiのうち一種または二種を合計で0.05%以上0.5%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物である銅合金において、ファイバー状のCr相によって分断されるCu母相の厚さを5μm以下とすることで、優れた引張強度および導電率を有する銅合金材を得ることができるとしている。
また、特許文献2には、Cr、FeおよびNbからなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で7質量%以上20質量%以下の範囲で含有し、またはAgを7質量%以上20質量%以下の範囲で添加し、残部がCuと不可避不純物である銅合金において、圧延方向に対して直角な断面で見て、Cr、FeおよびNbの群から選ばれる1種または2種以上を含み、またはAgを60%以上含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた強度と導電率、曲げ加工性を得られるとともに、強度や曲げ加工性の異方性を抑制することができるとしている。
また、特許文献3には、Zrを3.0原子%以上7.0原子%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金において、Cu母相と、Cu-Zr化合物相および銅相からなる複合相とが母相-複合相層状組織を構成し、幅方向に対して垂直な断面を見たときにCu母相と複合相とを圧延方向に平行に交互に配列させ、かつ圧延方向に配置された銅-Zr化合物相と銅相とが50nm以下の相の厚さで板厚方向において交互に積層するように構成することで、引張強度をより高めることができるとしている。
また、特許文献4には、Agを7質量%以上15質量%以下の範囲で含有し、かつCr,Fe,Nb,Co,Ni,Mg,Sn,Zr,Cd,Ti,P,InおよびSiの群から選ばれる1種または2種以上の微量元素を合計で0.05質量%以上1質量%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金において、圧延方向に対して直角な断面で見て、Agを含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)を得ることができるとしている。
また、特許文献5には、Agを2質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金細線において、Cuの固溶体からなる組織の全体が再結晶の集合組織からなることで、優れた引張強度を有する銅合金細線を得ることができるとしている。
また、特許文献6には、Agを0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲で含有し、かつ、Mg、CrおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上を合計で0.01質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金線材において、長手方向に垂直な断面で見て、200nm以下の粒子サイズを有する第2相粒子の平均最近接粒子間間隔を580nm以下にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)、柔軟性、導電率および振動耐久性を得ることができるとしている。
特許第3490853号公報 特許第4302579号公報 特許第5800301号公報 特許第5048046号公報 特許第5051647号公報 特許第6407484号公報
電気・電子機器用や車載部品用のリードフレーム、コネクタ、端子材などに用いられる電子材料用銅合金は、部品形状の複雑化や、組立ておよび実装における信頼向上の要求に応えるため、機械的強度や電気伝導性が優れていることに加えて、ウェットエッチング加工性が良好であることが求められる。特に、ウェットエッチング加工性としては、被エッチング面に、析出物や晶出物などの第2相が存在する場合であっても、被エッチング面が均一にエッチングされることにより、ウェットエッチング後の被エッチング面(例えばリードの端面)に突起が少ないことが求められる。しかし、従来の板材などの圧延材では、減肉などのためにウェットエッチングを行うと、ウェットエッチング後に粗大な析出物や母相の結晶粒が残存したり、析出物の分布に偏りが生じたりすることで、圧延材の表面に凹凸が形成されるため、ウェットエッチング前よりも表面粗さが大きくなることが多い。これに関し、特許文献1~6では、ウェットエッチング後のリード端面の突起については何ら言及されておらず、ましてや、ウェットエッチング加工性についても何ら言及されていない。
さらに、特許文献1~4に記載の銅合金は、Cr、Fe、Nb、Ag、Zrなどの元素を含んだ第2相をCu母相中に密に分散させて引張強度を高めるために、Cu母相への固溶限を大幅に上回る量の元素を含有させるとともに、線引きや重ね接合圧延法(ARB法)などの加工率の高い冷間加工を行う必要がある。ここで、NbやAg、Zrなどの元素は、Cuと比較して極めて高価であるため、含有量が多くなると原料コストが著しく増大していた。また、銅合金にCr、Fe、Nb、Ag、Zrなどの元素が多く含まれると、銅合金の導電率が低下する傾向にあった。そのため、Agなどの添加元素の添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有する銅合金が求められていた。
また、特許文献5、6に記載の銅合金は、冷間加工時に伸線加工を行って線材を得ることで大きな加工度を持たせており、圧延加工によって箔や板材を得る手法については記載されていない。
このうち、特許文献5に記載の銅合金細線では、冷間伸線後に再結晶化熱処理を行い、マトリクス中に固溶しているAgを最大限に析出させた後、高い加工度の冷間伸線によりAgを引き延ばすことで、大きな強度を得ている。しかしながら、Cu-Ag系合金では、AgがCu母相に不連続に析出して不均一に分散することが知られており、特にAgの添加量が少ないと、析出するAgの分布の偏りが大きくなるため、伸線後のAg繊維の分布の偏りも大きくなる。この点に関し、特許文献5に記載の銅合金細線では、熱処理によって析出するAgの分布や、伸線後のAg繊維の分布について、何ら検討されていない。
また、特許文献6に記載の銅合金線材では、鋳造によってAgを析出させた後で伸線し、その後に最終熱処理を行ない、それによりAg相の密度分布が制御された銅合金線材を得ることで、優れた引張強度、柔軟性、導電率および振動耐久性を得られるとしているが、最終熱処理によって銅合金線材が軟化するため、引張強度について改善の余地があった。
したがって、本発明の目的は、Agの添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有し、かつウェットエッチング加工性にも優れた、銅合金板材およびその製造方法を提供することにある。
本発明者は、圧延材である銅合金板材の、圧延方向および板厚方向を含む縦断面について、電解研磨を行って平滑にした観察断面を、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察することで、従来は明瞭に観察することができなかった第2相の構造を、明瞭に観察できることを見出した。そして、本発明者は、銅合金素材について、熱間圧延工程を行った後、第1冷間圧延工程、溶体化処理工程、第2冷間圧延工程、時効熱処理工程および第3冷間圧延工程の順に、特定の条件で熱処理および圧延を行うことにより、圧延方向および板厚方向を含む縦断面で見たときに、図1に示すように、1μm以上の長さを有する第2相(図1の写真における白色の縞状の部分)が圧延方向に向かって繊維状に延在するとともに、それら第2相同士の間隔が広くなる箇所が相対的に少なくなることで、Agの添加量が少なくても、高い引張強度が得られるだけでなく、ウェットエッチング加工性も向上できることを見出した。その結果、Agの添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有し、かつウェットエッチング加工性にも優れた銅合金板材を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)Agを1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、Cu母相である第1相と、間隔をおいて圧延方向に沿って延在する複数のAg相である第2相とを含む複相組織を有する銅合金板材であって、前記銅合金板材の圧延方向および板厚方向を含む縦断面で見て、前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とし、前記銅合金板材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したとき、前記相間隔の平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲であり、かつ、前記平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数が、測定した前記相間隔の総数に占める割合が1.0%以下であることを特徴とする銅合金板材。
(2)前記縦断面をEBSD法により測定して行った結晶方位解析において、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位にそれぞれ配向している結晶粒の面積を加算して求められる合計面積は、結晶粒全体の総面積に占める割合が30%以下であり、かつ、前記Goss方位、前記Brass方位および前記S方位に配向している結晶粒は、結晶粒のアスペクト比の平均値である平均アスペクト比が、いずれも5以上かつ100以下であることを特徴とする、上記(1)に記載の銅合金板材。
(3)前記合金組成は、Crを0.05質量%以上1.0質量%以下、Zrを0.05質量%以上1.0質量%以下、Feを0.05質量%以上1.0質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.5質量%以下、Znを0.05質量%以上1.0質量%以下からなる群から選択される、少なくとも1種の任意添加成分を、合計で0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲でさらに含有する、上記(1)または(2)に記載の銅合金板材。
(4)板厚が0.03mm以上0.20mm以下の範囲である、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、前記合金組成を有する銅合金素材に、鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、水冷工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第2冷間圧延工程[工程8]、時効熱処理工程[工程9]および第3冷間圧延工程[工程10]を順次行ない、前記鋳造工程[工程1]では、前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、前記熱間圧延工程[工程3]では、最終パスにおける圧延温度を700℃以上800℃以下とし、かつ最終パスにおける圧延加工率を20%以上とし、前記第1冷間圧延工程[工程6]では、総加工率を70%以上95%以下の範囲とし、前記溶体化処理工程[工程7]では、到達温度を550℃以上750℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10時間以下の範囲とし、前記第2冷間圧延工程[工程8]では、総加工率を20%以上80%以下の範囲とし、前記時効熱処理工程[工程9]では、到達温度を325℃以上500℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上100.0時間以下の範囲とし、第3冷間圧延工程[工程10]では、総加工率を95.0%以上99.0%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金板材の製造方法。
本発明によれば、Agの添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有し、かつウェットエッチング加工性にも優れた、銅合金板材およびその製造方法を提供することができる。
本発明の銅合金板材を、圧延方向および厚さ方向を含む縦断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。 本発明の銅合金材に含まれる複数個の特定第2相を、銅合金材の圧延方向を含む縦断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する特定第2相同士の相間隔を求める方法を説明するための模式図である。
以下、本発明の銅合金板材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金板材は、Agを1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、Cu母相である第1相と、間隔をおいて圧延方向に沿って延在する複数のAg相である第2相とを含む複相組織を有する銅合金板材であって、前記銅合金板材の圧延方向および板厚方向を含む縦断面で見て、前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とし、前記銅合金板材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したとき、前記相間隔の平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲であり、かつ、前記平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数が、測定した前記相間隔の総数に占める割合が1.0%以下である。
このように、圧延方向および板厚方向を含む縦断面で見たときに、図1に示すように、間隔をおいて圧延方向に沿って繊維状に延在する第2相(図1の写真における白色の縞状の部分)のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である特定第2相を含むとともに、それらの隣接する特定第2相同士の相間隔が広くなる箇所が相対的に少なくなることで、Agの添加量が少なくても、高い引張強度が得られるだけでなく、ウェットエッチング加工性を向上させることができる。また、Agの添加量が1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲にあることで、Agの過剰な添加による導電率の低下も起こり難い。その結果、本発明に従う銅合金板材によることで、Agの添加量が少なくても、高い導電率と高い引張強度を有し、かつウェットエッチング加工性にも優れた銅合金板材を得ることができる。
さらに、圧延材である銅合金板材の縦断面を、後方散乱電子回折法(EBSD法)により測定して行った結晶方位解析において、特定の方位に配向している結晶粒の面積率と平均アスペクト比が所定の範囲にあることで、引張強度とウェットエッチング加工性をより一層向上させることができる。
加えて、特許文献1~4に記載の銅合金は、Cr、Fe、Nb、Ag、Zrなどの元素を含んだ第2相をCu母相中に密に分散させるために、Cu母相への固溶限を大幅に上回る量の元素を含有させるとともに、線引きや重ね接合圧延法(ARB法)などの加工率の高い冷間加工を行う必要がある。ここで、NbやAgなどの元素は、Cuと比較して極めて高価であるため、含有量が多くなると原料コストが著しく増大していた。また、CrやFe、Nb、Zrなどの融点の高い元素が多く含まれると、鋳造の際に必要な溶湯温度が非常に高温(組成にもよるが1400℃以上)になり一般的な銅合金の鋳造設備(1100~1400℃)では製造が困難となり製造コストも高くなっていた。これに関し、本発明の銅合金板材では、第2相に含まれる成分である、CrやFe、Nb、Ag、Zrの含有量を少なくすることが可能なため、原料コストおよび製造コストの観点でも、優れた銅合金板材を得ることも可能である。
[1]銅合金板材の組成
まず、本発明の銅合金板材の合金組成を限定した理由について説明する。
本発明の銅合金板材は、Agを1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有する合金組成を有する。
<Ag:1.0質量%以上4.0質量%以下>
Ag(銀)は、Cu母相(マトリクス)である第1相中に固溶しないAg単相として、例えば1~100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出する。これらの析出物が圧延によって圧延方向に引き伸ばされて繊維化され、Ag相を特定第2相として含む複相組織となることで、複相合金として引張強度を向上することができる。この作用を発揮するには、Ag含有量を1.0質量%以上とすることが必要である。他方で、Ag含有量が4.0質量%を超えると、原料コストの高騰を招くことになることから、本発明では、Agの含有量を4.0質量%以下に限定する。また、Ag含有量が4.0質量%を超えると、第1相と異なるエッチング加工性を有するAg相である第2相が粗大化し、または第2相の数が増加することで、ウェットエッチング加工性が低下する点でも望ましくない。このため、Ag含有量は、1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲であり、好ましくは1.8質量%以上3.8質量%以下の範囲である。
<任意添加成分>
本発明の銅合金板材は、Ag以外の構成成分を任意添加成分として含有することができる。より具体的に、銅合金板材の合金組成は、Crを0.05質量%以上1.0質量%以下、Zrを0.05質量%以上1.0質量%以下、Feを0.05質量%以上1.0質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.5質量%以下、Znを0.05質量%以上1.0質量%以下からなる群から選択される、少なくとも1種の任意添加成分を、合計で0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲でさらに含有することができる。
(Cr:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Cr(クロム)は、Cu母相(マトリクス)である第1相中に、化合物や単体として、例えば50nm~500nm程度の大きさの析出物の形で微細析出する成分である。ここで微細析出する析出物は、時効熱処理の際に転位移動を抑制することで銅合金板材の硬化を促すとともに、結晶粒の成長を抑制して微細な結晶の析出を促進するため、銅合金板材の引張強度および曲げ加工性を高める作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Cr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Cr含有量を1.0質量%以下にすることで、銅合金板材の導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。したがって、Cr含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Zr:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Zr(ジルコニウム)は、主に結晶粒を微細化させて、銅合金板材の引張強度や曲げ加工性を高める作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Zr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zr含有量を1.0質量%よりも多くすると、Agとの間で化合物を形成することで、Ag相の数が減り、それにより特定第2相の数も減るため、銅合金板材の引張強度が低下する傾向がある。このため、Zr含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Fe:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Fe(鉄)は、銅合金板材の導電率や引張強度を高め、かつ、耐応力緩和特性、めっき性などの特性を改善する作用を有する成分である。この作用を発揮させるには、Fe含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Fe含有量を1.0質量%以下にすることで、導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。このため、Fe含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Mg:0.05質量%以上0.5質量%以下)
Mg(マグネシウム)は、銅合金板材の耐応力緩和特性を向上させる作用を有する成分である。この作用を発揮させるには、Mg含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。また、Mg含有量を0.5質量%以下にすることで、導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。このため、Mg含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることが好ましい。
(Zn:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Zn(亜鉛)は、銅合金板材の曲げ加工性を改善するとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Zn含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zn含有量を1.0質量%以下にすることで、導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。したがって、Zn含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲にすることが好ましい。
(Cr、Zr、Fe、Mg、Znからなる群から選択される、少なくとも1種の任意添加成分:合計で0.05質量%以上1.0質量%以下)
Ag以外の任意添加成分として、Cr、Zr、Fe、Mg、Znからなる群から選択される、少なくとも1種の成分を含有する場合、これらの任意添加成分の合計含有量を0.05質量%以上1.0質量%以下にすることが好ましい。ここで、これらの任意添加成分を合計で0.05質量%以上含有することで、銅合金板材の引張強さや応力緩和性、耐熱性などを向上させることができる。他方で、これらの任意添加成分の合計含有量を1.0質量%以下にすることで、銅合金板材の導電率の低下を最小限に抑えることができる。したがって、これらの任意添加成分の合計含有量は、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
<残部:Cuおよび不可避不純物>
本発明の銅合金板材10は、上述した成分以外は、残部がCu(銅)および不可避不純物からなる合金組成を有する。なお、ここでいう「不可避不純物」とは、おおむね金属製品において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、スズ(Sn)、酸素(O)などが挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、例えば上記成分ごとに0.05質量%、上記成分の総量で0.20質量%とすることができる。
[2]銅合金板材の金属組織
図1は、本発明の銅合金板材10を、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。また、図2は、本発明の銅合金板材10に含まれる複数個の特定第2相12a,12bを、銅合金板材10の圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dを求める方法を説明するための模式図である。
本発明の銅合金板材10は、Cu母相である第1相11と、間隔をおいて圧延方向xに沿って延在する複数のAg相である第2相とを含む、複相組織を有する。ここで、第2相を構成するAgは、Cu母相中に固溶しないAg単相として、例えば1~100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出するため、銅合金板材10の金属組織は、Cu母相である第1相11中に、Ag相によって構成される第2相が析出する複相組織となる。
また、本発明の銅合金板材10は、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面で見て、複数の第2相のうち、圧延方向xに沿って測定したときの全長Lが1μm以上である第2相を特定第2相12a,12bとし、銅合金板材10の板厚方向yに沿って、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dを測定したとき、測定される相間隔dの平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲である(要件(I))。ここで、平均相間隔を10nm以上にすることで、冷間圧延による転位の蓄積に伴う、導電率の低下が起こり難くなるため、所望の高い導電率を得ることができる。そのため、測定される相間隔dの平均値である平均相間隔は、10nm以上であり、好ましくは15nm以上である。他方で、平均相間隔を200nm以下にすることで、特定第2相12が密に形成されることで、冷間圧延による引張強度の向上作用がもたらされるため、所望の高い引張強度を得ることができる。そのため、測定される相間隔dの平均値である平均相間隔は、200nm以下であり、好ましくは100nm以下である。
要件(I)である、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dの平均値である平均相間隔は、例えば透過電子顕微鏡(TEM)を用いて求めることができる。このとき、銅合金板材10の圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面について、湿式研磨を行なった後、集束イオンビーム(FIB)によって一部領域(例えば圧延方向40μm×板厚方向15μmの領域)をマイクロサンプリングし、薄片加工およびArイオンミリングを行なってTEM用試料を作製し、そのうち1ヶ所以上を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察する。得られたTEM像について、圧延方向xについて5μmの間隔で、5μmの長さの線分(垂線E)を板厚方向yに沿って10本引き、垂線Eを横断する特定第2相12の数を計測したときの、板厚方向yに沿って引いた垂線Eの長さの総和を、各線分を横断する特定第2相12の総数に1を足した数で割ることで、特定第2相12の板厚方向yに沿った平均相間隔を算出することができる。
また、本発明の銅合金板材10は、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面で見て、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数が、測定した相間隔dの総数に占める割合が1.0%以下である(要件(II))。ここで、平均相間隔に関する要件(I)を満たしていても、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数が多いと、冷間圧延によっても引張強度が高まり難くなり、かつウェットエッチング加工によって銅合金板材10の表面粗さが大きくなりやすい。これは、相間隔dが粗大な領域が生じると、冷間加工による転位固着が減少することで引張強度が低下し、また、相間隔dが不均一であると、ウェットエッチング加工する際のエッチング速度が、場所によってばらつくことで表面粗さが大きくなるためであると考えられる。したがって、銅合金板材10の引張強度とウェットエッチング加工性を高める観点から、縦断面で見たときの、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数は、測定した相間隔dの総数の1.0%以下であり、好ましくは0.8%以下である。
要件(II)である、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数が、測定した相間隔dの総数に占める割合は、上述のTEM像から、線分(垂線E)を横断し、板厚方向yに沿って隣接する、特定第2相12a,12b同士の相間隔dをそれぞれ測定することで求められる、平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数を、相間隔dの総数で割った後に100を掛けることで、算出することができる。
なお、要件(I)の平均相間隔の値が大きい場合、一定以上の値を有する相間隔dの割合は、必然的に大きくなる傾向にある。そのため、本発明では、相間隔dの絶対値ではなく、平均相間隔に対する倍率が一定以上である相間隔dの割合を、要件(II)として設定した。
本発明の銅合金板材10は、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面を、後方散乱電子回折法(EBSD法)により測定して行った結晶方位解析において、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位にそれぞれ配向している結晶粒の面積を加算して求められる合計面積の、結晶粒全体の総面積に占める割合が、30%以下であることが好ましい(要件(III))。これにより、銅合金板材10の縦断面に表出している結晶相のうち、銅合金の代表的な結晶方位であるこれらの結晶方位が占める割合が少なくなることで、表出している結晶相の結晶方位がランダムに近くなるため、エッチング速度が異なる種々の結晶方位を有する結晶相がバランスよく表出するようになる。その結果、ウェットエッチング後の銅合金板材10の表面における表面粗さ(特に、算術平均粗さ(Ra))を小さくすることができる。
要件(III)である、Goss方位、Brass方位およびS方位の合計面積の、結晶粒全体の総面積に占める割合は、例えば走査電子顕微鏡(SEM)を用いた後方散乱電子回折法(EBSD法)による結晶方位解析を行うことで求めることができる。このとき、銅合金板材10の縦断面に対して機械研磨と仕上げ研磨を行なって作製される試料のうち、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察される領域について、EBSD法を用いて結晶方位解析を行うことができる。そして、上記領域についての結晶方位解析の結果から、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位にそれぞれ配向している結晶粒の面積を加算して求められる合計面積を、上記領域の面積で割ることで、Goss方位、Brass方位およびS方位の合計面積の、結晶粒全体の総面積に占める割合を算出することができる。
また、本発明の銅合金板材10は、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面を、後方散乱電子回折法(EBSD法)により測定して行った結晶方位解析において、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位に配向している結晶粒のアスペクト比の平均値である平均アスペクト比が、いずれも5以上かつ100以下であることが好ましい(要件(IV))。特に、これらの結晶粒の平均アスペクト比を5以上にすることで、これらの方位に配向している結晶粒によるエッチング速度のばらつきが抑制されると考えられるため、エッチング後の表面粗さを小さくすることができる。そのため、Goss方位、Brass方位およびS方位に配向している結晶粒の平均アスペクト比は、5以上が好ましく、10以上が好ましい。他方で、Goss方位、Brass方位およびS方位に配向している結晶粒の平均アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実現性の観点から100以下としてもよい。
要件(IV)である、Goss方位、Brass方位およびS方位に配向している結晶粒の平均アスペクト比は、上述のEBSD法を用いた結晶方位解析の結果から、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位に配向している結晶粒のそれぞれについて求められる、板厚方向yに沿った結晶粒の最大長さ(b)に対する、圧延方向xに沿った結晶粒の最大長さ(a)の割合であるアスペクト比(a/b)の平均値により求めることができる。
なお、本発明の銅合金板材10には、特定第2相12に該当しない第2相、すなわち、圧延方向xに沿って測定したときの全長Lが1μm未満の第2相が含まれていてもよい。
本発明の銅合金板材10の板厚は、特に限定されるものではないが、0.03mm以上0.20mm以下の範囲であることが好ましい。特に、銅合金板材10を製造する際の、圧延における加工率を必要以上に大きくしない観点では、銅合金板材10の板厚は、0.03mm以上であることが好ましい。また、鋳塊の厚さを抑えて熱間圧延を行いやすくする観点では、銅合金板材10の板厚は、0.20mm以下であることが好ましい。
[3]引張強度
本発明の銅合金板材10は、圧延方向xと平行な方向に引っ張ったときの引張強度が700MPa以上であることが好ましく、750MPa以上であることがより好ましく、800MPa以上であることがさらに好ましく、900MPa以上であることがさらに好ましい。これにより、銅合金板材10を皿ばねやコネクタなどの用途に用いた場合であっても、所望のばね性が得られるため、接続先の電気機器などに対して高い接続性を得ることができる。ここで、引張強度の測定は、圧延方向xと平行な方向が長手方向になるように切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を、引張強度の測定値とする。
[4]導電率(EC)
本発明の銅合金板材10は、導電率が70%IACS超えであることが好ましい。これにより、銅合金材を大電流コネクタなどの用途に用いた場合であっても、通電時における発熱を小さくすることができる。ここで、導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出することができる。
[5]ウェットエッチング加工性
本発明の銅合金板材10は、ウェットエッチング加工性が高いことが好ましい。より具体的に、銅合金板材10は、塩化第二鉄(FeCl)水溶液を用いて、板厚方向yに沿って10μm薄くなるまでウェットエッチング加工を行ったときの、圧延方向xに対して垂直な横断面における算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以下であり、かつ、この横断面における最大高さ(Ry)が1.8μm以下であることが好ましい。これにより、ウェットエッチング加工により銅合金板材10を成形した場合であっても、銅合金板材10の表面が平坦になるため、電気・電子機器用や車載部品用のリードフレーム、コネクタ、端子材などの用途において、接続先の電気機器などに対して高い電気的な接続性を得ることができる。また、銅合金板材10に対してめっきを行ったときに、めっきの剥がれや膨れ、突起や汚れなどの発生を起こり難くすることができる。また、銅合金板材10に対して曲げ加工性を行ったときに、クラックを生成し難くすることができる。そのため、横断面における算術平均粗さ(Ra)は、0.4μm以下であることがより好ましい。また、横断面における最大高さ(Ry)が1.5μm以下であることがより好ましい。ここで、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定は、JIS-B0601(2001)に沿って行い、異なる3箇所についての測定値の平均値を、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定値とする。
[6]銅合金板材の製造方法の一例
上述した銅合金板材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することによって実現することができ、その製造プロセスは特に限定されない。その中でも、このような複相組織を生成させることが可能な、製造プロセスの一例として、以下の方法を挙げることができる。
本発明の銅合金板材の製造方法の一例として、上述した銅合金板材の前記合金組成と実質的に同じ合金組成を有する銅合金素材に、少なくとも、鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、水冷工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第2冷間圧延工程[工程8]、時効熱処理工程[工程9]および第3冷間圧延工程[工程10]を順次行なうものである。このうち、鋳造工程[工程1]では、前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製する。また、熱間圧延工程[工程3]では、最終パスにおける圧延温度を700℃以上800℃以下とし、かつ最終パスにおける圧延加工率を20%以上とする。また、第1冷間圧延工程[工程6]では、総加工率を70%以上95%以下の範囲となるようにする。また、溶体化処理工程[工程7]では、到達温度を550℃以上750℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10時間以下の範囲とする。また、第2冷間圧延工程[工程8]では、総加工率を20%以上80%以下の範囲となるようにする。また、時効熱処理工程[工程9]では、到達温度を325℃以上500℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上100.0時間以下の範囲とする。また、第3冷間圧延工程[工程10]では、総加工率を95.0%以上99.0%以下の範囲になるようにする。
(i)鋳造工程[工程1]
鋳造工程[工程1]は、上述の合金組成を有する銅合金素材を溶融させ、これを鋳造することによって、所定形状(例えば厚さ300mm、幅500mm、長さ3000mm)の鋳塊(インゴット)を作製する。鋳造工程[工程1]は、高周波溶解炉を用いて、銅合金素材を溶融および鋳造することが好ましい。なお、銅合金素材の合金組成は、製造の各工程において、添加成分によっては溶解炉に付着したり揮発したりして製造される銅合金板材の合金組成とは必ずしも完全には一致しない場合があるが、銅合金板材の合金組成と実質的に同じ合金組成を有している。
この鋳造工程[工程1]では、溶融された銅合金素材を鋳造することで、第2相を鋳塊に晶出させるとともに、第2相の晶出物の成長を抑えることができる。
(ii)均質化熱処理工程[工程2]
均質化熱処理工程[工程2]は、鋳造工程[工程1]を行なった後の鋳塊に対して、熱処理を行なう工程である。均質化熱処理工程[工程2]は、鋳塊の金属組織の均質化を図って、後工程での繊維状の第2相の形成を促進するために行なうものである。均質化熱処理の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定はしない。均質化熱処理の条件の一例を挙げると、保持温度が800℃~1000℃の範囲、保持時間が0.5時間~10時間の範囲である。
(iii)熱間圧延工程[工程3]
熱間圧延工程[工程3]は、均質化熱処理を行った鋳塊に対して、所定の厚さになるまで熱間圧延を施して熱延材を作製する工程である。熱間圧延工程[工程3]では、最終パスにおける圧延温度を700℃以上800℃以下とし、かつ最終パスにおける圧延加工率を20%以上とする。
特に、熱間圧延工程[工程3]の最終パスにおいて、700℃以上800℃以下の圧延温度と、20%以上の圧延加工率を満たさない場合、熱間圧延工程[工程3]の後で結晶の粒径が粗大になることで、後述する溶体化熱処理工程[工程7]や時効熱処理工程[工程9]工程の後で所望の金属組織を得ることが困難になるため、銅合金板材10において第2相を第1相11に均一に分散させることが困難になる。その結果、後述する冷間圧延工程を行った後も、第2相の分布が不均一な分布になることで、十分な引張強度やウェットエッチング加工性を得ることが困難になる。
また、熱間圧延工程[工程3]では、最終パス以外における圧延温度は700℃以上であることが好ましく、また、圧延加工率の合計(総加工率)は90%以上であることが好ましい。
ここで、「圧延加工率」は、圧延前の断面積から圧延後の断面積を引いた値を圧延前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値であり、下記式で表される。
[圧延加工率]={([圧延前の断面積]-[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
(iv)水冷工程[工程4]
水冷工程は、熱間圧延工程[工程3]後の熱延材を水冷により冷却する工程である。熱延材を水冷により冷却することで、例えば50℃/秒以上の高い冷却速度で熱延材を冷却することができるため、第2相の粗大化を起こり難くすることができる。
(v)面削工程[工程5]
面削工程[工程5]は、冷却工程[工程4]を行なった後の熱延材に対して、表面を削り取る工程である。面削工程を行なうことで、熱間圧延工程[工程3]で生じた表面の酸化膜や欠陥を除去することができる。面削工程の条件は、通常行なわれている条件であればよく、特に限定されない。熱延材の表面から削り取る量は、熱間圧延工程[工程3]の条件に基づいて適宜調整することができ、例えば熱延材の表面から0.5mm~4mm程度とすることができる。
(vi)第1冷間圧延工程[工程6]
第1冷間圧延工程[工程6]は、面削工程を行なった後の熱延材に、製品板厚に合わせて任意の圧延加工率で冷間圧延を施す工程である。第1冷間圧延工程[工程6]における圧延の条件は、後述する溶体化熱処理工程[工程7]を行なった後の冷延材に含まれる結晶粒を微細にし、それにより、後述する時効熱処理工程[工程9]で、第1相中に均一に分散される第2相の析出を促す観点では、総加工率を70%以上にする必要がある。他方で、総加工率が大きすぎると、後述する第3冷間圧延工程[工程10]で圧延加工率を大きくすることが困難になるため、総加工率は95%以下にする必要がある。
(vii)溶体化処理工程[工程7]
溶体化処理工程[工程7]は、第1冷間圧延工程[工程6]を行なった後の冷延材に対して熱処理を施す工程である。ここで、溶体化処理工程[工程7]における熱処理の条件は、到達温度を550℃以上750℃以下の範囲にし、かつ、この到達温度での保持時間を0.1時間以上10時間以下の範囲にする。
ここで、溶体化処理工程[工程7]における到達温度が550℃未満であると、溶体化処理工程[工程7]によって第2相が析出し、かつ、後述する時効処理工程[工程9]で第2相の結晶が粗大化するため、均一な第2相を析出させることが困難になる。また、溶体化処理工程[工程7]における到達温度が750℃を超えると、第1相の結晶が粗大化することで、後述する時効処理工程[工程9]で均一な第2相を析出させることが困難になる。
また、溶体化処理工程[工程7]における上記到達温度での保持時間が0.1時間未満であると、第1相の再結晶の進展が不十分になることで、後述する時効処理工程[工程9]で均一な第2相を得ることが困難になる。また、溶体化処理工程[工程7]における上記到達温度での保持時間が10時間を超えると、第1相の結晶が粗大化することで、後述する時効処理工程[工程9]で均一な第2相を析出させることが困難になる。
このように、溶体化処理工程[工程7]における熱処理の条件は、到達温度を550℃以上750℃以下の範囲にし、かつ、この到達温度での保持時間を0.1時間以上10時間以下の範囲にすることで、後述する時効処理工程[工程9]で均一な第2相を析出させることができる。その結果、後述する第3冷間圧延工程[工程10]で、圧延方向xに沿って繊維状に延在する第2相を均一な相間隔で形成できるため、銅合金板材の引張強度やウェットエッチング加工性を高めることができる。
(viii)第2冷間圧延工程[工程8]
第2冷間圧延工程[工程8]では、溶体化処理工程[工程7]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す工程である。第2冷間圧延工程[工程8]における総加工率は、20%以上80%以下の範囲である。
ここで、第2冷間圧延工程[工程8]における総加工率が20%未満では、後述する時効熱処理工程[工程9]で第2相が析出され難くなるため、後述する第3冷間圧延工程[工程10]で、所望の相間隔を有する第2相を得ることが困難になる。また、第2冷間圧延工程[工程8]における総加工率が80%を超えても、所望の相間隔を有する第2相を得ることが困難になる。これは、時効熱処理工程[工程9]において、圧延による繊維化が困難な、極めて微細な第2相の結晶が増加することによると考えられる。
このように、第2冷間圧延工程[工程8]における総加工率を20%以上80%以下の範囲にすることで、後述する時効処理工程[工程9]で十分な量の第2相を均一に析出させることができる。その結果、後述する第3冷間圧延工程[工程10]で、繊維状に延在する第2相を均一な相間隔で形成できるため、銅合金板材の引張強度やウェットエッチング加工性を高めることができる。
(ix)時効熱処理工程[工程9]
時効熱処理工程[工程9]は、第2冷間圧延工程[工程8]を行なった後の冷延材に対して、熱処理を施す工程である。時効熱処理工程[工程9]では、到達温度を325℃以上500℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上100.0時間以下の範囲で熱処理を施す。ここで、到達温度が325℃未満の場合や、保持時間が0.1時間未満の場合、特定第2相12の生成が不十分になるため、引張強度や導電性が低下する。また、到達温度が500℃を超える場合や、保持時間が100時間を超える場合、第2相が粗大化して存在割合が減少したりすることで、圧延方向xに沿って繊維状に延在する特定第2相12を第1相11に生成することが困難になるため、引張強度や導電率が低下する。
(x)第3冷間圧延工程[工程10]
第3冷間圧延工程[工程10]では、時効熱処理工程[工程9]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す。ここで、第3冷間圧延工程[工程10]では、総加工率は、95.0%以上99.0%以下の範囲に調整する。この総加工率を95.0%以上にすることで、圧延方向xに沿った長さの大きい特定第2相12が多く生成されるようになり、それにより特定第2相の板厚方向yに沿った間隔が小さくなるため、銅合金板材10の引張強度を高めることができる。他方で、第3冷間圧延工程[工程10]における総加工率を99.0%以下にすることで、冷間圧延による転位の蓄積に伴う、導電率の低下が起こり難くなるため、所望の高い導電率を得ることができる。
ここで、第3冷間圧延工程[工程10]の圧延方向は、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程8]の圧延方向と略同一であることが好ましく、その場合、これらの圧延方向である圧延方向xに沿って、第2相であるAg相を延出させることができる。
[8]銅合金板材の用途
本発明の銅合金板材は、例えば電気・電子機器用や車載部品用のリードフレーム、コネクタ、端子材などに用いるのに適している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら本発明例に限定されるものではない。
(本発明例1~12および比較例1~8)
表1に示す合金組成を有する銅合金素材を溶解し、これを大気中で、溶湯から300℃まで冷却して鋳造する鋳造工程[工程1]を行なって鋳塊を得た。この鋳塊に対して、800℃以上1000℃以下の保持温度および0.5時間以上10時間以下の保持時間で熱処理を行う均質化熱処理工程[工程2]を行ない、次いで、最終パスにおける圧延温度および圧延加工率が表2に示す値になるように、長手方向が圧延方向になるように圧延する熱間圧延工程[工程3]を行なって熱延材を得た。その後、水冷により室温まで冷却する冷却工程[工程4]を行なった。
冷却工程[工程4]後の熱延材に対して、面削工程[工程5]を行なって表裏両面を削り取って表面の酸化膜を除去した後、表2に示す総加工率の条件で、長手方向が圧延方向になるようにして圧延する、第1冷間圧延工程[工程6]を行なった。
第1冷間圧延工程[工程6]を行なった後の圧延材に対して、表2に示す到達温度および保持時間の条件で溶体化処理工程[工程7]を行ない、次いで表2に示す総加工率の条件で、長手方向が圧延方向になるようにして圧延する第2冷間圧延工程[工程8]を行なった。
第2冷間圧延工程[工程8]を行なった後の圧延材に対して、表2に示す到達温度および保持時間の条件で時効熱処理工程[工程9]を行ない、表2に示す総加工率の条件で、長手方向が圧延方向になるようにして圧延する第3冷間圧延工程[工程10]を行なった。このようにして、本発明の銅合金板材を作製した。
なお、表1では、銅(Cu)と第2相構成成分である銀(Ag)以外の構成成分を、任意添加成分として記載した。また、表1では、銅合金素材の合金組成に含まれない成分の欄には横線「-」を記載し、該当する成分を含まない、または含有していたしても検出限界値未満であることを明らかにした。
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に係る銅合金板材を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
[1]特定第2相についての観察および測定
作製した各供試材(銅合金板材10)について、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面に対し、湿式研磨を行なった。そして、集束イオンビーム(FIB)によって、圧延方向40μm×板厚方向15μmの領域をマイクロサンプリングし、薄片加工およびArイオンミリングを行なってTEM用試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、製品名:JEM-2100Plus)を用いて、加速電圧200kVで観察した。このとき、1つの視野領域に表れる、Cu母相(第1相11)と色調が異なる部分を第2相とし、第2相のうち圧延方向xについての長さが1μm以上であるものを特定第2相12とした。
圧延方向xおよび板厚方向yを含む断面に対する、透過電子顕微鏡(TEM)による観察は、横800nm×縦600nmの視野で、断面内でランダムに選択した数ヶ所について行った。次いで、それぞれの透過電子顕微鏡(TEM)写真について、圧延方向xについて5μmの間隔で、5μmの長さの線分(垂線E)を板厚方向yに沿って10本引き、これらの線分を横断する特定第2相12の総数を計測したときの、板厚方向yに引いた線分の長さの総和を、各線分を横断する特定第2相12の総数に1を足した数で割ることで、要件(I)である、板厚方向yに沿って隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dの平均値である平均相間隔を算出した。
また、これらの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、線分(垂線E)を横断し、板厚方向yに沿って隣接する、特定第2相12a,12b同士の相間隔dをそれぞれ測定することで、平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数を求めた。そして、求められた平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数を、測定した相間隔dの総数で割った後に100を掛けることで、要件(II)である、平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数の、測定した相間隔の総数に占める割合を算出した。
[2]結晶方位の解析および平均アスペクト比の測定
作製した各供試材(銅合金板材10)について、圧延方向xおよび板厚方向yを含む縦断面に対し、耐水研磨紙およびダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、64×10μm(横800μm×縦800μm)の測定面積を観察するとともに、EBSD法による0.1μmのスキャンステップでの結晶方位解析を行った。ここで、EBSD法による結晶方位解析は、(株)TSLソリューションズ社製のOIM5.0(商品名)を用いるとともに、電子線の発生源としては、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型番:JSM-700FA)のWフィラメントを用いた。また、EBSD法による解析のスキャンステップは、微細な結晶粒について解析するために0.1μmとした。
上記測定面積についての結晶方位解析の結果から、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位にそれぞれ配向している結晶粒の面積を加算して求められる合計面積を求めた。そして、求められたGoss方位、Brass方位およびS方位の合計面積を、上記測定面積で割ることで、要件(III)である、Goss方位、Brass方位およびS方位の合計面積の、結晶粒全体の総面積に占める割合を算出した。
また、上記測定面積についての結晶方位解析において見出される、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位に配向している結晶粒のそれぞれについて、板厚方向yに沿った結晶粒の最大長さ(b)に対する、圧延方向xに沿った結晶粒の最大長さ(a)の割合であるアスペクト比(a/b)を求めた。そして、求めたアスペクト比(a/b)の総計を、結晶粒の数で割ることで、要件(IV)である、結晶粒のアスペクト比の平均値である平均アスペクト比を算出した。
これら要件(I)~要件(IV)の結果を表1に示す。
[3]引張強度の測定方法
引張強度の測定は、圧延方向xに対して平行な方向が長手方向になるように供試材を切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を測定値とした。なお、本実施例では、引張強度が700MPa以上を合格レベルとした。結果を表3に示す。
[4]導電率(EC)の測定方法
導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出した。なお、端子間距離は100mmとした。本実施例では、導電率の計測値が70%IACS以上の場合を合格レベルとした。結果を表3に示す。
[5]ウェットエッチング加工性の測定方法
作製した各供試材(銅合金板材)を塩化第二鉄(FeCl)水溶液に浸漬し、板厚方向yに沿って10μm薄くなるまでウェットエッチング加工を行ったときの、圧延方向xに対して垂直な横断面における、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定を行った。ここで、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定は、小坂研究所(株)社製の表面粗さ測定機(Surfcorder SE3500)を用いて、JIS-B0601(2001)に沿って行った。ここで、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定距離は4mm、カットオフ値は0.8mm(上記JISに準拠)、走査速度は0.1mm/secとした。算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定は、横断面上の異なる3箇所について行い、それらの測定値の平均値を、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の測定値とした。
得られた算術平均粗さ(Ra)の測定値が0.30μm以下である場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における算術平均粗さ(Ra)が優れているとして「◎」と評価した。また、算術平均粗さ(Ra)が0.30μmより大きくかつ0.40μm以下である場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における算術平均粗さ(Ra)が合格レベルにあるとして「○」と評価した。他方で、算術平均粗さ(Ra)が0.40μmより大きい場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における算術平均粗さ(Ra)が不合格であるとして「×」と評価した。結果を表3に示す。
また、得られた最大高さ(Ry)の測定値について、最大高さ(Ry)が1.50μm以下である場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における最大高さ(Ry)が優れているとして「◎」と評価した。また、最大高さ(Ry)が1.50μmより大きくかつ1.80μm以下である場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における最大高さ(Ry)が合格レベルにあるとして「○」と評価した。他方で、最大高さ(Ry)が1.80μmより大きい場合を、ウェットエッチング後の銅合金板材の横断面における最大高さ(Ry)が不合格であるとして「×」と評価した。結果を表3に示す。
さらに、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の評価結果について、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の両方が「◎」と評価される場合を、ウェットエッチング加工性が優れているとして、ウェットエッチング加工性の総合評価を「◎」と評価した。また、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)のうち一方が「◎」と評価され、かつ他方が「〇」と評価される場合と、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)の両方が「○」と評価される場合を、ウェットエッチング加工性が合格レベルにあるとして、ウェットエッチング加工性の総合評価を「○」と評価した。他方で、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Ry)のうち一方または両方が「×」と評価される場合を、ウェットエッチング加工性が不合格であるとして、ウェットエッチング加工性の総合評価を「×」と評価した。結果を表3に示す。
Figure 2023008472000002
Figure 2023008472000003
Figure 2023008472000004
表1~表3の結果から、実施例1~12の銅合金板材10は、合金組成が本発明の適正範囲内であるとともに、銅合金板材10の圧延方向xおよび板厚方向yを含む断面で見たときの、隣接する特定第2相12同士の相間隔dを板厚方向yに沿って測定したときの平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲であることで要件(I)を満たし、かつ、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの数が、測定した相間隔dの総数に占める割合が1.0%以下であることで要件(II)も満たすため、引張強度が700MPa以上であり、導電率も70%IACS以上であり、かつ、ウェットエッチング加工性の総合評価も「◎」または「〇」と評価されるものであった。
したがって、実施例1~12の銅合金板材10は、要件(I)および要件(II)の両方を満たすため、引張強度が700MPa以上と高く、導電率も70%IACS以上と高く、かつ、ウェットエッチング加工性の総合評価も「◎」または「〇」と評価されるものであったため、ウェットエッチング加工性にも優れていた。
一方、比較例1~8の銅合金板材は、いずれも、要件(I)および要件(II)の少なくとも一方が本発明の適正範囲外であるため、引張強度、導電率およびウェットエッチング加工性のうち、少なくともいずれかが合格レベルに達していなかった。このうち、比較例1、2では、特定第2相の析出が見られず、または特定第2相の析出が少なかったことにより、得られる銅合金板材における平均相間隔を測定できず、または平均相間隔が1000nmを超える値となった。そのため、比較例2では、平均相間隔が極端に大きいため、平均相間隔の10倍以上となる相間隔dの割合は算出していない。
10 銅合金板材
11 第1相
12、12a、12b 特定第2相
d 隣接する特定第2相同士の相間隔
E 垂線
L 圧延方向に沿って測定したときの第2相の全長
x 圧延方向
y 板厚方向

Claims (5)

  1. Agを1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、
    Cu母相である第1相と、間隔をおいて圧延方向に沿って延在する複数のAg相である第2相とを含む複相組織を有する銅合金板材であって、
    前記銅合金板材の圧延方向および板厚方向を含む縦断面で見て、
    前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とし、前記銅合金板材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したとき、
    前記相間隔の平均値である平均相間隔が、10nm以上200nm以下の範囲であり、かつ、前記平均相間隔の10倍以上となる相間隔の数が、測定した前記相間隔の総数に占める割合が1.0%以下であることを特徴とする銅合金板材。
  2. 前記縦断面をEBSD法により測定して行った結晶方位解析において、{011}<100>のGoss方位、{011}<211>のBrass方位および{123}<634>のS方位にそれぞれ配向している結晶粒の面積を加算して求められる合計面積は、結晶粒全体の総面積に占める割合が30%以下であり、かつ、
    前記Goss方位、前記Brass方位および前記S方位に配向している結晶粒は、結晶粒のアスペクト比の平均値である平均アスペクト比が、いずれも5以上かつ100以下であることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金板材。
  3. 前記合金組成は、Crを0.05質量%以上1.0質量%以下、Zrを0.05質量%以上1.0質量%以下、Feを0.05質量%以上1.0質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.5質量%以下、Znを0.05質量%以上1.0質量%以下からなる群から選択される、少なくとも1種の任意添加成分を、合計で0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲でさらに含有する、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. 板厚が0.03mm以上0.20mm以下の範囲である、請求項1から3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、
    前記合金組成を有する銅合金素材に、鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、水冷工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第2冷間圧延工程[工程8]、時効熱処理工程[工程9]および第3冷間圧延工程[工程10]を順次行ない、
    前記鋳造工程[工程1]では、前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、
    前記熱間圧延工程[工程3]では、最終パスにおける圧延温度を700℃以上800℃以下とし、かつ最終パスにおける圧延加工率を20%以上とし、
    前記第1冷間圧延工程[工程6]では、総加工率を70%以上95%以下の範囲とし、
    前記溶体化処理工程[工程7]では、到達温度を550℃以上750℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10時間以下の範囲とし、
    前記第2冷間圧延工程[工程8]では、総加工率を20%以上80%以下の範囲とし、
    前記時効熱処理工程[工程9]では、到達温度を325℃以上500℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上100.0時間以下の範囲とし、
    第3冷間圧延工程[工程10]では、総加工率を95.0%以上99.0%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金板材の製造方法。
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