JP2022022812A - 銅合金材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い導電率と高い引張強度を有しながらも、プレス打ち抜き加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供する。【解決手段】銅合金材10は、Cu母相である第1相11と、圧延方向yに向かって間隔dをおいて延在する複数の第2相12とを含む複相組織を有し、銅合金材10の圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見て、複数の第2相12は、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、第2相12の全体に占める、幅方向xに沿って測定したときの幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲である第2相12の個数割合が80%以上である。【選択図】図2

Description

本発明は、銅合金材およびその製造方法に関し、特に車載部品用や電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに用いるのに適した、銅合金材およびその製造方法に関する。
銅合金材、例えば電気・電子部品や自動車車載部品に用いられる銅合金材としては、従来は、主に析出強化や加工硬化によって強化された高強度銅合金であるCu-Ni-Si系合金(コルソン系合金)が広く用いられてきた。
しかしながら、Cu-Ni-Si系合金は、導電率は最大でも50%IACS程度であり、大電流で通電すると抵抗発熱量が多くなり、熱によって接点部のばね性の低下や、端子を固定するモールドの劣化などにより、端子の機能が著しく低下するおそれがあることから、大電流用の端子材料として用いるには適さない。
このため、Cu-Ni-Si系合金に代わる端子材料を開発することが求められている。例えば、Cu母相中に他の元素を含む相を晶出させた複相組織を有する合金(複相合金)は、熱処理後の冷間圧延による強加工を行なうことで、他の元素を含む相が繊維状に分散され、りん青銅と同等の強度を持ち、かつ母相がCuであるため、高い導電率が得られる。この複相合金系としては、Cu-Cr、Cu-Fe、Cu-Nb、Cu-Ag、Cu-Zrなどが知られている。
例えば、特許文献1には、Crを5重量%以上30重量%以下の範囲で含有し、かつZrおよびTiの一方または両方を合計で0.05%以上0.5%以下の範囲で含有し、残部がCuと不回避不純物である銅合金において、ファイバー状のCr相によって分断されるCu母相の厚さを5μm以下にすることで、優れた引張強度および導電率を有する銅合金材を得ることができるとしている。
また、特許文献2には、Cr、FeおよびNbからなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で7質量%以上20質量%以下の範囲で含有し、またはAgを7質量%以上20質量%以下の範囲で含有し、残部がCuと不回避不純物である銅合金において、圧延方向に対して直角な断面で見て、Cr、FeおよびNbの群から選ばれる1種または2種以上を含み、またはAgを60%以上含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた強度と導電率、曲げ加工性を得られるとともに、強度や曲げ加工性の異方性を抑制させることができるとしている。
また、特許文献3には、Zrを3.0原子%以上7.0原子%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金において、Cu母相と、銅-Zr化合物相および銅相からなる複合相とが母相-複合相層状組織を構成し、幅方向に対して垂直な断面を見たときにCu母相と複合相とを圧延方向に平行に交互に配列させ、かつ圧延方向に配置された銅-Zr化合物相と銅相とが50nm以下の相の厚さで板厚方向において交互に積層するように構成することで、引張強度をより高めることができるとしている。
また、特許文献4には、Agを7質量%以上15質量%以下の範囲で含有し、かつCr,Fe,Nb,Co,Ni,Mg,Sn,Zr,Cd,Ti,P,InおよびSiの群から選ばれる1種または2種以上の微量元素を合計で0.05質量%以上1質量%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金において、圧延方向に対して直角な断面で見て、Agを含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)を得ることができるとしている。
また、特許文献5には、Agを0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲で含有し、かつ、Mg、CrおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上を合計で0.01質量%以上1.5質量%以下含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金線材において、長手方向に垂直な断面で見て、200nm以下の粒子サイズを有する第2相粒子の平均最近接粒子間間隔を580nm以下にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)、柔軟性、導電率および振動耐久性を得ることができるとしている。
特許第3490853号公報 特許第4302579号公報 特許第5800301号公報 特許第5048046号公報 特許第6407484号公報
しかしながら、特許文献1~5に記載の銅合金は、Cr、Fe、Nb、Ag、Zrなどの元素を含んだ第2相をCu母相中にファイバー状に密に分散させるために、Cu母相への固溶限を大幅に上回る量の元素を含有させるとともに、線引きや重ね接合圧延法(ARB法)などの加工率が高い冷間加工を行う必要がある。
さらに、車載部品用や電気・電子機器用の銅合金からなる部品は、一般に、板材に対してプレス加工を施し、さらに曲げ加工を施すことにより成形されるため、優れたプレス打ち抜き加工性を有することが求められる。特に、端子用の銅合金板材では、プレス打ち抜き加工性が劣ると、プレス打ち抜き加工を行った際に、切断面の形状を安定した形状にすることが求められる。ここで、切断面の形状が不安定であると、連設して形成される端子などの部品の配設間隔にばらつきが生じやすくなり、また、形成される部品ごとに寸法や形状にばらつきが生じやすくなる。ここで生じる、切断面の形状のばらつきや、形成される部品の寸法や形状のばらつきは、車載部品や電気・電子部品を製造する上で望ましくない。
ここで、特許文献1、5に記載の銅合金は、冷間加工時に伸線加工を行って線材を得ることで大きな加工度を持たせているが、プレス打ち抜き加工に供されるような、箔や板材を得るときに銅合金材を得る手法については記載されていない。
また、特許文献2、4に記載の銅合金は、第2相を圧延によって繊維化させた圧延板材であり、第2相の形状((第2相の伸長長さ)/(第2相の圧延厚み方向での厚さ)で表される平均アスペクト比など)を規定することで、圧延方向に直角な方向についての曲げ加工性を向上することができるとしている。しかし、特許文献2、4に記載の銅合金では、圧延板材のプレス打ち抜き加工性については何ら言及されていない。
また、特許文献3、4に記載の銅合金では、繊維状に延伸された第2相の形状の観察結果が示されているが、いずれも圧延後の銅合金の断面を研磨した観察面(または、エッチングや電解研磨を行った観察面)をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察したものであり、第2相の形状やその分布を明瞭に観察できていなかった。そのため、特にAgなどの添加元素が少ない場合に、微細な第2相の形状やその分布を観察することが困難であり、その制御についても何ら言及されていない。
これに関し、特許文献1~5に記載の銅合金は、プレス打ち抜き加工性に関して、さらに改善の余地があるものであった。
したがって、本発明の目的は、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、プレス打ち抜き加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供することにある。
本発明者は、圧延材である銅合金材の、圧延方向および幅方向を含む断面について、電解研磨を行って平滑にした観察断面を、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察することで、従来は明瞭に観察することができなかった第2相の構造を、明瞭に観察できることを見出した。そして、本発明者は、銅合金素材について、時効熱処理工程を経た後の冷間圧延工程において、特定の条件で焼鈍および圧延を行うことにより、圧延方向および幅方向を含む断面で見たときに、図1に示すように、所定の幅寸法を有する第2相(図1の写真における白色の縞状の部分)が圧延方向に向かって繊維状に延在するとともに、圧延方向に沿って所定の平均間隔で第2相が整列することで、高い強度が得られるだけでなく、プレス打ち抜き加工性を向上できることを見出した。また、本発明者は、厚さ方向および幅方向を含む断面で見たときに、図3および図4に示すように、所定の厚さ寸法を有するとともに、幅方向を長手寸法とする第2相(図3の写真における白色の島状の部分)が多く存在することでも、高い強度が得られるだけでなく、プレス打ち抜き加工性を向上できることを見出した。その結果、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、プレス打ち抜き加工性にも優れた銅合金材を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、前記銅合金材の圧延方向および幅方向を含む断面で見て、前記複数の第2相は、隣接する第2相同士の相間隔を前記幅方向に沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、前記第2相の全体に占める、前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合が80%以上である、銅合金材。
(2)Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、前記銅合金材の厚さ方向および幅方向を含む断面で見て、前記複数の第2相のうち、前記厚さ方向に沿って測定したときの厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相の存在割合が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲である、銅合金材。
(3)Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、前記銅合金材の圧延方向および幅方向を含む断面で見て、前記複数の第2相は、隣接する2相同士の相間隔を前記幅方向に沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、前記第2相の全体に占める、前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合が80%以上であり、かつ、前記銅合金材の厚さ方向および幅方向を含む断面で見て、前記複数の第2相のうち、前記厚さ方向に沿って測定したときの厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相の存在割合が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲である、銅合金材。
(4)Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、または、Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の銅合金材。
(5)Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、または、Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分を含有し、前記2成分を含有する場合、Siの含有量に対するNiまたはCoの含有量の比であるNi/Si比またはCo/Si比が、3.8以上4.4以下の範囲であり、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の銅合金材。
(6)Cr:0.05質量%以上1.5質量%以下、Zn:0.05質量%以上1.0質量%以下、またはMg:0.05質量%以上1.0質量%以下をさらに含有する、上記(4)または(5)に記載の銅合金材。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、銅合金素材に、少なくとも鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第1時効熱処理工程[工程8]、第2冷間圧延工程[工程9]および第2時効熱処理工程[工程10]および第3冷間圧延工程[工程11]を順次行ない、
前記銅合金素材は、Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、またはNi:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分を含有し、前記鋳造工程[工程1]では、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、前記熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上とし、かつ1パスあたりの加工率を10%以上とし、前記第1時効熱処理工程[工程8]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とし、前記第2冷間圧延工程[工程9]では、総加工率を5.0%以上20.0%以下の範囲とし、前記第2時効熱処理工程[工程10]では、到達温度を400℃以上600℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とし、前記第3冷間圧延工程[工程11]では、圧延時における張力を490kPa以下とし、かつ、総加工率を95.0%以上99.0%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金材の製造方法。
本発明によれば、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、プレス打ち抜き加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供することができる。
本発明の銅合金材を、圧延方向および幅方向を含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。 本発明の銅合金材を、圧延方向および幅方向を含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する第2相同士の相間隔の平均値と、第2相の幅寸法を求める方法を説明するための模式図である。 本発明の銅合金材を、厚さ方向および幅方向を含む断面で見たときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図3に示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて、第2相の厚さ寸法と幅寸法を求める方法を説明するための模式図である。 本発明の銅合金材に対してプレス打ち抜き加工を行ったときの切断面を示す模式図である。 本発明例5の銅合金材について、圧延方向および幅方向を含む断面に対してエネルギー分散型X線(EDX)分析を行ったときに得られるスペクトルを示す図であり、(a)は第1相についてEDX分析を行ったときのスペクトルであり、(b)は第2相についてEDX分析を行ったときのスペクトルである。
以下、本発明の銅合金材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金材は、第1の観点では、Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、銅合金材の圧延方向および幅方向を含む断面で見て、複数の第2相は、隣接する第2相同士の相間隔を幅方向に沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、第2相の全体に占める、幅方向に沿って測定したときの幅寸法が5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合が80%以上である。
また、本発明に従う銅合金材は、第2の観点では、Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、銅合金材の厚さ方向および幅方向を含む断面で見て、複数の第2相のうち、厚さ方向に沿って測定したときの厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅方向に沿って測定したときの幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相の存在割合が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲である。
また、本発明に従う銅合金材は、上述の第1の観点と第2の観点の両方を兼ね備えたものであってもよい。
このように、圧延方向および幅方向を含む断面で見たときに、図1に示すように、所定の幅寸法を有する第2相(図1の写真における白色の縞状の部分)が圧延方向に向かって繊維状に延在するとともに、圧延方向に沿って所定の平均間隔で第2相が整列することで、高い強度が得られるだけでなく、プレス打ち抜き加工性を向上させることができる。また、厚さ方向および幅方向を含む断面で見たときに、図3および図4に示すように、所定の厚さ寸法を有するとともに、幅方向を長手寸法とする第2相(図3の写真における白色の島状の部分)が多く存在することでも、高い強度が得られるだけでなく、プレス打ち抜き加工性を向上させることができる。その結果、本発明に従う銅合金材によることで、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、プレス打ち抜き加工性にも優れた銅合金材を得ることができる。
加えて、上述の特許文献2、4に記載の銅合金では、第2相を構成する元素のうち、NbやAgは、Cuと比べて高価であるにもかかわらず、銅合金への添加量が多いため、原料コストの高騰を招くため好ましくない。また、Cuよりも融点の高い元素、例えばNb、Cr、Fe、Zrの銅合金への添加量が多いと、鋳造の際に溶湯温度を高温(組成にもよるが1400℃以上)にする必要があり、一般的な銅合金の鋳造設備では製造が難しくなるため、製造コストが高くなりやすい。特に、特許文献2、4に記載の銅合金は、第2相に含まれる元素として、Ag、Cr、FeおよびNbからなる群から選ばれる1種または2種以上を7質量%以上添加する必要があり、原料コストや製造コストが一般的な銅合金と比べて高くなっていた。これに関し、本発明の銅合金材では、第2相に含まれる成分であるAgやZr、Ti、Ni、Coの含有量を少なくすることが可能なため、原料コストおよび製造コストの観点で優れた銅合金材を得ることも可能である。
[1]銅合金材の金属組織
本発明の銅合金材10は、Cu母相である第1相11と、圧延方向yに向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む、複相組織を有する。
以下、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面に表れる金属組織と、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面に表れる金属組織に分けて説明する。
<圧延方向および幅方向を含む断面に表れる金属組織>
図1は、本発明の銅合金材10を、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。また、図2は、本発明の銅合金材10を、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する第2相12同士の相間隔dの平均値と、第2相12の幅寸法wを求める方法を説明するための模式図である。
本発明の銅合金材10は、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときに、例えば図1に示されるような、縞状に複数の第2相12が形成されている複相組織を有する。この縞状の複相組織は、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値が、10nm以上150nm以下の範囲である(要件(I))。
これに関し、厚さ方向zについて第2相12の間隔を狭めて引張強度を向上させる方法として、圧延によってCu母相である第1相11と第2相との界面に転位を固着させる方法は知られているが、幅方向xについての第2相12の間隔を狭める方法については知られていなかった。この点、本発明者は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御し、幅方向xに沿った第2相12の間隔を狭めることで、高い引張強度が得られるだけでなく、プレス打ち抜き加工性も高められることを見出した。
特に、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値を10nm以上にすることで、プレス打ち抜き加工性を高めることができる。また、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値を150nm以下にすることで、銅合金材10の引張強度を高めることができる。
ここで、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値は、図1に示すような透過電子顕微鏡(TEM)写真を用いて求めることができる。より具体的には、例えば図2の模式図に示すように、透過電子顕微鏡(TEM)写真に、圧延方向yに対して垂直な垂線Eを幅方向xに沿って引き、垂線Eを横断する第2相12の数を計測した後、幅方向xに引いた垂線Eの長さの総和を、垂線Eを横断する第2相12の総数に1を足した数で割ることで、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値を算出することができる。ここで、透過電子顕微鏡(TEM)写真に引く垂線Eは、図2の模式図に示すように1本であってもよく、互いに平行な垂線Eを複数引いてもよい。また、複数の透過電子顕微鏡(TEM)写真を用いて、それらの垂線Eの長さの総和と、垂線Eを横断する第2相12の総数から、この平均値を求めてもよい。
圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの、第2相12の圧延方向yに沿った長さは、特に限定されるものでないが、繊維状の第2相を増加させて引張強度とプレス打ち抜き加工性をより高める観点から、圧延方向yに沿った長さが幅方向xに沿った長さの5倍以上である第2相を、上述の第2相12としてもよい。
また、本発明の銅合金材10は、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見て、第2相12の全体に占める、幅方向xに沿って測定したときの幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲にある第2相12の個数割合が80%以上である(要件(II))。このように、幅寸法wが小さい第2相12の個数割合を多くすることで、Cu母相である第1相11の分断によって転位が固着して強度が高められ、かつ第2相12がプレス打ち抜き加工を行う際の割れの起点になるため、銅合金材10の引張強度を高めるとともに、プレス打ち抜き加工性を高めることができたと考えられる。
圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの、第2相12の幅寸法wと、幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲にある第2相12の個数割合は、例えば図2の模式図に示すように、透過電子顕微鏡(TEM)写真に、圧延方向yに対して垂直な垂線Eを幅方向xに沿って引き、垂線Eと第2相12が重なっている部分における第2相12の幅寸法wを計測することで求めることができる。
なお、本発明の銅合金材10には、幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲に該当しない第2相12が含まれていてもよい。すなわち、幅寸法wが5nm未満の第2相12や、幅寸法wが50nm超の第2相12が含まれていてもよい。
<圧延方向および幅方向を含む断面に表れる金属組織>
図3は、本発明の銅合金材10を、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面で見たときの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。また、図4は、図3に示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて、第2相12の厚さ寸法hと幅寸法wを求める方法を説明するための模式図である。
本発明の銅合金材10は、例えば図3に示すように、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面で見たときに、幅方向xを長手寸法とする島状の第2相12が含まれる。より具体的には、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面で見たときに、厚さ方向zに沿って測定される厚さ寸法hが1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅方向xに沿って測定される幅寸法wが100nm以上500nm以下の範囲である第2相12が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲の存在割合で含まれる。
このような島状の第2相12が、0.3個/μm以上の存在割合で含まれることで、相対的に大きな第2相12が多く含まれるため、プレス打ち抜き加工を行う際に第2相12を起点として破断しやすくなり、その結果、銅合金材10のプレス打ち抜き加工性を向上させることができる。特に、島状の第2相12の厚さ寸法hや幅寸法wが小さすぎると、プレス打ち抜き加工の際に破断の起点にならず、また、所定の大きさの島状の第2相12の存在割合が小さいと、破断の起点が少なくなるため、いずれの場合もプレス打ち抜き加工性が低下する。他方で、第2相12の厚さ寸法hが50nmを超えると、第2相12の断面形状が矩形に近い形状から円形に近づくことで、プレス打ち抜き加工を行う際に生じるクラックの方向が揃わなくなるため、プレス打ち抜き加工性が低下する。なお、幅寸法wの上限は、特に限定されないが、実際に得られうる幅寸法wの大きさから、500nmとすることができる。また、所定の大きさの第2相12の存在割合の上限についても、実際に得られうる存在割合の大きさから、4.0個/μmとすることができる。
厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面で見たときの、所定の大きさを有する第2相12の存在割合は、図3に示すような走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて求めることができる。より具体的には、図3に示すような走査型電子顕微鏡(SEM)写真から、例えば図4の模式図に示すように、第2相12が占有する領域を特定し、そのうち、厚さ寸法hおよび幅寸法wが所定の範囲である第2相12の数を計測する。ここで、計測に用いる走査型電子顕微鏡(SEM)写真は、1枚であってもよく、複数であってもよい。そして、計測された第2相12の数を、走査型電子顕微鏡(SEM)写真の視野の面積で割ることで、所定の大きさを有する第2相12の存在割合を算出することができる。
なお、本発明の銅合金材10には、厚さ寸法hが1nm以上50nm以下の範囲外である第2相12や、幅寸法wが100nm以上500nm以下の範囲外である第2相12が含まれていてもよい。
本発明の銅合金材10の板厚は、特に限定されるものではないが、銅合金材10の加工性を高めて、所望の第2相12を得やすくする観点では、0.03mm以上0.20mm以下の範囲であることが好ましい。
[2]銅合金材の組成
本発明の銅合金材は、Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有していればよく、この複相組織を生成するために含める成分は、特に限定されるものではない。
その中でも、このような複相組織を生成させることが可能な、銅合金材の合金組成の一例として、Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、または、Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分を含有するものが挙げられる。
以下、(a)Agの単一成分を含有する場合と、(b)Zrの単一成分を含有する場合と、(c)Tiの単一成分を含有する場合と、(d)NiおよびSiの2成分を含有する場合と、(e)CoおよびSiの2成分を含有する場合について、それぞれ説明する。
<(a)Agの単一成分を含有する場合>
(Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下)
Ag(銀)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、化合物や単体として、例えば1~100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出する。この析出物が圧延によって繊維化されてAg含有相を第2相12として含む複相組織となることで、複相合金として引張強度を向上することができる。この作用を発揮するには、Ag含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Ag含有量が8.0質量%を超えると、原料コストが非常に大きくなるため望ましくない。このため、Ag含有量は、1.0~7.2質量%とすることが好ましく、1.5~6.0質量%の範囲にすることがより好ましく、2.0~5.5質量%の範囲にすることがさらに好ましい。
<(b)Zrの単一成分を含有する場合>
(Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下)
Zr(ジルコニウム)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、デンドライトアームスペーシング(DAS)が100~1000nm程度であるデンドライト状の化合物相の晶出物を晶出させるとともに、1~100nm程度の大きさの微細な析出物を析出させる成分である。これらの析出物や晶出物は、圧延によって繊維化されることで、第2相12が短い相間隔で含まれる複相組織となるため、銅合金材の引張強度を上昇させる作用を有する。この作用を発揮するには、Zr含有量を0.5質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zr含有量が5.0質量%を超えると、鋳造時に第2相12が粗大化することにより、後述する冷間圧延工程における加工性が大きく低下することで、製造が困難になるため不適である。したがって、Zr含有量は、0.8~5.0質量%の範囲にすることが好ましく、1.0~5.0質量%の範囲にすることがより好ましく、1.5~4.5質量%の範囲にすることがさらに好ましい。
<(c)Tiの単一成分を含有する場合>
(Ti:2.0質量%以上5.0質量%以下)
Ti(チタン)は、後述する均質化熱処理工程や溶体化処理工程を行うことでCu母相(マトリクス)中に固溶する成分であるとともに、時効熱処理工程を行うことで析出物を不連続に析出する成分である。ここで析出する析出物は、圧延によって繊維化されることで、第2相12が短い相間隔で含まれる複相組織となるため、銅合金材の引張強度を上昇させる作用を有する。この作用を発揮するには、Ti含有量を2.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Ti含有量が5.0質量%を超えると、銅合金材の加工性が低下し、圧延工程の際に材料が割れやすくなる。したがって、Ti含有量は、2.0~4.5質量%の範囲にすることが好ましく、2.0~4.0質量%の範囲にすることがより好ましく、2.7~4.0質量%の範囲にすることがさらに好ましい。
<(d)NiおよびSiの2成分を含有する場合>
(Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下)
Ni(ニッケル)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、単体またはSiとの化合物として、析出物を不連続に析出する成分である。ここで析出する析出物は、圧延によって圧延方向に伸長および繊維化することで、第2相12が短い相間隔で含まれる複相組織となるため、銅合金材の引張強度を上昇させる作用を有する。この作用を発揮するには、Ni含有量を3.6質量%以上とすることが好ましい。他方で、Ni含有量が6.5質量%を超えると、導電率の低下が顕著になるとともに、後述する均質化熱処理工程や溶体化処理工程でNiを固溶させることができず、時効熱処理工程を行ったときに析出物の析出が過剰になり、析出物が引張強度の向上に寄与しなくなる。したがって、Ni含有量は、3.8~6.2質量%の範囲にすることが好ましく、4.0~6.0質量%の範囲にすることがより好ましい。
(Si:0.8質量%以上2.0質量%以下)
Si(珪素)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、Niとの化合物として、第2相12となる析出物を不連続に析出する成分である。この作用を発揮するには、Si含有量を0.8質量%以上とすることが好ましい。他方で、Si含有量が2.0質量%を超えると、導電率の低下が顕著になるとともに、後述する均質化熱処理工程や溶体化処理工程でSiを固溶させることができず、時効熱処理工程を行ったときに析出物の析出が過剰になり、析出物が引張強度の向上に寄与しなくなる。したがって、Si含有量は、1.0~1.7質量%の範囲にすることが好ましく、1.0~1.5質量%の範囲にすることがより好ましい。
ここで、NiおよびSiの2成分を含有する場合、Siの含有量に対するNiの含有量の比(質量比)であるNi/Si比は、3.8以上4.4以下の範囲であることが好ましい。Ni/Si比を3.8以上4.4以下の範囲内にすることで、引張強度に相対して高い導電率を有する銅合金材を得ることができる。したがって、Ni/Si比は、3.8~4.2の範囲にすることが好ましい。
<(e)CoおよびSiの2成分を含有する場合>
(Co:2.0質量%以上4.5質量%以下)
Co(コバルト)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、単体またはSiとの化合物として、析出物を不連続に析出する成分である。ここで析出する析出物は、圧延によって圧延方向に伸長および繊維化することで、第2相12が短い相間隔で含まれる複相組織となるため、銅合金材の引張強度を上昇させる作用を有する。この作用を発揮するには、Co含有量を2.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Co含有量が4.5質量%を超えると、導電率の低下が顕著になるとともに、後述する均質化熱処理工程や溶体化処理工程でCoを固溶させることができず、時効熱処理工程を行ったときに析出物の析出が過剰になり、析出物が引張強度の向上に寄与しなくなる。したがって、Co含有量は、2.5~4.2質量%の範囲にすることが好ましく、2.5~3.5質量%の範囲にすることがより好ましい。
(Si:0.4質量%以上1.5質量%以下)
Si(珪素)は、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、Coとの化合物として、第2相12となる析出物を不連続に析出する成分である。この作用を発揮するには、Si含有量を0.4質量%以上とすることが好ましい。他方で、Si含有量が1.5質量%を超えると、導電率の低下が顕著になるとともに、後述する均質化熱処理工程や溶体化処理工程でSiを固溶させることができず、時効熱処理工程を行ったときに析出物の析出が過剰になり、析出物が引張強度の向上に寄与しなくなる。したがって、Si含有量は、0.6~1.1質量%の範囲にすることが好ましく、0.6~1.0質量%の範囲にすることがより好ましい。
ここで、CoおよびSiの2成分を含有する場合、Siの含有量に対するCoの含有量の比(質量比)であるCo/Si比は、3.8以上4.4以下の範囲であることが好ましい。Co/Si比を3.8以上4.4以下の範囲内にすることで、引張強度に相対して高い導電率を有する銅合金材を得ることができる。したがって、Co/Si比は、3.8~4.2の範囲にすることが好ましい。
<その他の任意添加成分>
本発明の銅合金材は、その他の任意添加成分として、Cr:0.05質量%以上1.5質量%以下、Zn:0.05質量%以上1.0質量%以下、またはMg:0.05質量%以上1.0質量%以下を含有することができる。
(Cr:0.05質量%以上1.5質量%以下)
Cr(クロム)は、Agとは化合物を生成せずに、時効熱処理によってCu母相(マトリクス)中に析出することで、銅合金材の引張強度をさらに上昇させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Cr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Cr含有量を1.5質量%以下にすることで、銅合金材の導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。また、固溶せず不均一に分散したCr相によるプレス打ち抜き加工性の低下を起こり難くすることができる。したがって、Cr含有量は、0.1質量%以上1.4質量%以下の範囲にすることが好ましい。
(Zn:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Zn(亜鉛)は、曲げ加工性を改善するとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Zn含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zn含有量を1.0質量%以下にすることで、導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。このため、Zn含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Mg:0.05質量%以上1.0質量%以下)
Mg(マグネシウム)は、Cu母相(マトリクス)中に固溶することで、銅合金材の引張強度をさらに上昇させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Mg含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Mg含有量を1.0質量%以下にすることで、導電率が低下し難くなるため、所望の高い導電率を得易くすることができる。したがって、Mg含有量は、0.1質量%以上0.4質量%以下の範囲にすることが好ましい。
なお、その他の任意添加成分として特にCrを含有する場合、Crを含む相が、第2相12と同様に、繊維化された微細な析出物となって析出される場合がある。この場合、銅合金材10の圧延方向yおよび幅方向xを含む断面や、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面について、エネルギー分散型X線分析(EDX)などを用いて含有元素のマッピングを行なうことで、Crを含む相を第2相12と区別することが好ましい。
<残部:Cuおよび不可避不純物>
上述した成分以外は、残部がCu(銅)および不可避不純物からなる。なお、ここでいう「不可避不純物」とは、おおむね金属製品において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、スズ(Sn)、酸素(O)などが挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、例えば上記成分ごとに0.05質量%、上記成分の総量で0.20質量%とすることができる。
[3]引張強度
本発明の銅合金材10は、圧延方向yと平行な方向に引っ張ったときの引張強度が700MPa以上であることが好ましく、800MPa以上であることがより好ましく、900MPa以上であることがより好ましい。これにより、銅合金材10をコネクタなどの用途に用いた場合であっても、所望のばね性が得られるため、接続先の電気機器などに対して高い接続性を得ることができる。ここで、引張強度の測定は、圧延方向と平行な方向が長手方向になるように切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を、引張強度の測定値とする。
[4]導電率(EC)
本発明の銅合金材は、引張強さをT[MPa]とするときに、導電率が下記の(A)式で表される基準値E[%IACS]以上であることが好ましい。
E=1200×EXP(-0.004×T) ・・・・(A)
導電率を上述の基準値E以上にすることで、銅合金材を大電流コネクタなどの用途に用いた場合であっても、通電時における発熱を小さくすることができる。ここで、導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出することができる。なお、一般的に銅合金は、引張強さが大きいほど導電率が低下する傾向にある。そこで、引張強さが大きくても一般的な銅合金より導電率が優れていることを示すため、銅合金材の引張強度に基づいて上記の(A)式で求められる数値Eと、無酸素銅の導電率である101[%IACS]のうち、小さい方の値を、導電率の基準値とした。
また、本発明の銅合金材は、導電率が10%IACS超えであることが好ましく、30%IACS超えであることがより好ましく、60%IACS超えであることがさらに好ましく、70%IACS超えであることがさらに好ましい。
[6]プレス打ち抜き加工性
本発明の銅合金材は、上型と下型のクリアランスが前記銅合金材の厚さの5.0%となる条件でプレス打ち抜き加工を行ったときの切断面における、厚さ方向に沿った剪断面および破断面の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtが、銅合金材の厚さの30%以下であることが好ましい。
図5は、本発明の銅合金材に対してプレス打ち抜き加工を行ったときの切断面を示す模式図である。図5に示す銅合金材10は、図示しない下型(ダイ)上に固定された状態で上型(パンチ)を下降させて行う、プレス打ち抜き加工を施した後の切断面2を示すものである。ここで、切断面2は、プレス打ち抜き加工された銅合金材10の上面10a側から順に、ダレ3、剪断面4および破断面5が形成される。また、切断面2の下端縁には、破断面5から外側に延出するように、バリ6が形成されることが多い。
このとき、切断面2における、厚さ方向zに沿った剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtを、銅合金材10の厚さTに対して小さくすることで、プレス打ち抜き加工性が格段に向上することを、本発明者は見出した。すなわち、剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtを、銅合金材10の厚さTに対して小さくすることで、銅合金材10に対してプレス打ち抜き加工を行う際に、厚さ方向zの同じ位置で割れが生じやすくなるため、形成される部品の配設間隔へのばらつきや、形成される部品の寸法および形状のばらつきを小さくすることができる。剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtは、板厚Tの30%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
ここで、銅合金材10の厚さTや、剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtの測定は、切断面2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて行うことができる。このとき、測定の対象となる切断面2は、図5に示すように、幅方向xに沿った切断面2であってもよいが、例えば圧延方向yに沿った切断面であってもよい。
また、プレス打ち抜き加工により形成した切断面2には、ダレ3やバリ6が発生していることが多いため、銅合金材10の板厚Tや、剪断面4および破断面5の合計厚さを正しく測定できないことが多い。そのため、銅合金材10の板厚Tは、未加工の銅合金材10や、銅合金材10のうち未加工の部分における板厚を測定することが好ましい。また、剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtは、銅合金材10のうち未加工の部分にある下面10bを基準として、切断面2(剪断面4)とダレ3の境界のうち、最も上面10a側にある厚さ位置と、最も下面10b側にある厚さ位置の差としてもよい。
[7]銅合金材の製造方法の一例
上述した銅合金材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することによって実現することができ、その製造プロセスは特に限定されない。その中でも、このような複相組織を生成させることが可能な、製造プロセスの一例として、以下の方法を挙げることができる。
本発明の銅合金材の製造方法の一例として、上述した銅合金材の前記合金組成と実質的に同じ合金組成を有する銅合金素材に、少なくとも、鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第1時効熱処理工程[工程8]、第2冷間圧延工程[工程9]および第2時効熱処理工程[工程10]および第3冷間圧延工程[工程11]を順次行なうものである。このうち、鋳造工程[工程1]では、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で銅合金素材を溶融させてインゴットを作製する。また、熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上とし、かつ1パスあたりの加工率を10%以上とする。また、第1時効熱処理工程[工程8]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲とし、保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とする。また、第2冷間圧延工程[工程9]では、総加工率を5.0%以上20.0%以下の範囲となるようにする。また、第2時効熱処理工程[工程10]では、到達温度を400℃以上600℃以下の範囲とし、保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とする。また、第3冷間圧延工程[工程11]では、圧延時における張力を490kPa以下とし、かつ、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程9]を含めた、全ての冷間圧延工程における圧延加工率の合計(総加工率)を、95.0%以上99.0%以下の範囲になるようにする。
(i)鋳造工程[工程1]
鋳造工程[工程1]は、高周波溶解炉を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で、上述の合金組成を有する銅合金素材を溶融させ、これを鋳造することによって、所定形状(例えば厚さ300mm、幅500mm、長さ3000mm)の鋳塊(インゴット)を作製する。なお、銅合金素材の合金組成は、製造の各工程において、添加成分によっては溶解炉に付着したり揮発したりして製造される銅合金材の合金組成とは必ずしも完全には一致しない場合があるが、銅合金材の合金組成と実質的に同じ合金組成を有している。
この鋳造工程[工程1]では、溶解された銅合金素材を、溶湯から300℃以下の範囲の温度まで冷却することが好ましい。これにより、鋳塊に第2相が晶出するとともに、第2相の晶出物の成長が抑えられるため、鋳塊に第2相を均一に含ませることができる。それとともに、後述する圧延によって第2相の厚さが小さくなり、第2相が圧延方向に向かって延在するため、銅合金材の引張強度を高めることができる。
(ii)均質化熱処理工程[工程2]
均質化熱処理工程[工程2]は、鋳造工程[工程1]を行った後の鋳塊に対して、熱処理を行なう工程である。均質化熱処理工程[工程2]は、鋳塊の金属組織の均質化を図って、後工程での繊維状の第2相の形成を促進するために行うものである。均質化熱処理の条件は、通常行われている条件であればよく、特に限定はしない。均質化熱処理条件の一例を挙げると、保持温度が700℃~1000℃の範囲、保持時間が0.1時間~10時間の範囲である。
(iii)熱間圧延工程[工程3]
熱間圧延工程[工程3]は、均質化熱処理を行った鋳塊に対して、所定の厚さになるまで熱間圧延を施して熱延材を作製する工程である。熱間圧延の条件は、例えば、圧延温度は700℃以上~1000℃の範囲であることが好ましく、上述の均質化熱処理工程[工程2]における保持温度と同じであってもよい。また、熱間圧延における1パスあたりの加工率の最小値は、10%以上であることが好ましい。ここで、圧延温度が700℃未満であり、または1パスあたりの加工率の最小値が10%未満であると、鋳造工程[工程1]において生成した第2相が、Cu母相とともに変形せずに、割れの起点になるため、熱間圧延材に割れが発生しやすくなる。また、後工程において所望の大きさや分布を有する第二相を得ることが困難になるため、高いプレス打ち抜き加工性を有する銅合金材を得ることが困難になる。なお、圧延温度の上限は、特に限定されないが、均質化熱処理工程[工程2]と温度差をつけて製造効率を高める観点から、例えば900℃を上限としてもよい。
ここで、「圧延加工率」は、圧延前の断面積から圧延後の断面積を引いた値を圧延前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値であり、下記式で表される。
[圧延加工率]={([圧延前の断面積]-[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
(iv)冷却工程[工程4]
冷却工程は、熱間圧延工程[工程3]後の熱延材を冷却する工程である。ここで、冷却工程における冷却手段は、特に限定されないが、例えば第2相の粗大化を起こり難くすることができる観点では、できるだけ冷却速度を大きくすることが好ましく、例えば水冷などの手段により、冷却速度を50℃/秒以上にすることが好ましい。
(v)面削工程[工程5]
面削工程[工程5]は、冷却工程[工程4]を行なった後の熱延材に対して、表面を削り取る工程である。面削工程を行なうことで、熱間圧延工程[工程3]で生じた表面の酸化膜や欠陥を除去することができる。面削工程の条件は、通常行われている条件であればよく、特に限定されない。熱延材の表面から削り取る量は、熱間圧延工程[工程3]の条件に基づいて適宜調整することができ、例えば熱延材の表面から0.5~4mm程度とすることができる。
(vi)第1冷間圧延工程[工程6]
第1冷間圧延工程[工程6]は、面削工程を行なった後の熱延材に、製品板厚に合わせて任意の加工率で冷間圧延を施す工程である。第1冷間圧延工程[工程6]における圧延の条件は、熱延材の板厚に合わせて設定することができる。特に、後述する溶体化処理工程[工程7]を行なった後の冷延材に含まれる結晶粒を微細にし、それにより、第1時効熱処理工程[工程8]で、第1相中に均一に分散される第2相の析出を促す観点では、第1冷間圧延工程[工程6]における総加工率を60%以上とすることが好ましい。
(vii)溶体化処理工程[工程7]
溶体化処理工程[工程7]は、第1冷間圧延工程[工程6]を行なった後の冷延材に対して熱処理を施す工程である。ここで、熱処理の条件は、各組成のCu母相に対する固溶温度に応じた任意の温度で行うことができ、例えば到達温度を700℃以上1000℃以下の範囲、到達温度での保持時間を10秒以上300秒以下の範囲にすることが望ましい。溶体化処理工程[工程7]を行うことで、引張強度やプレス打ち抜き成形性の向上に寄与しない粗大析出物を、Cu母材中に固溶させることができる。
(viii)第1時効熱処理工程[工程8]
第1時効熱処理工程[工程8]は、溶体化処理工程[工程7]を行なった後の冷延材に対して熱処理を施す工程である。ここで、第1時効熱処理工程[工程8]における熱処理の条件は、到達温度が350℃以上550℃以下の範囲であり、かつ保持時間が0.1時間以上10.0時間以下の範囲である。他方で、到達温度が350℃未満の場合や、保持時間が0.1時間未満の場合、第2相の生成が困難になるため、引張強度や導電率、プレス打ち抜き成形性が低下する。また、到達温度が550℃を超える場合や、保持時間が10.0時間を超える場合、第2相が第1相中に再固溶したり、第2相が粗大化して数が減少したりすることで、所望の大きさと存在割合で第2相を第1相中に生成することが困難になるため、引張強度やプレス打ち抜き成形性が低下する。
(ix)第2冷間圧延工程[工程9]
第2冷間圧延工程[工程9]では、第1時効熱処理工程[工程8]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す。第2冷間圧延工程[工程9]における総加工率は、後述する第2時効熱処理工程[工程10]において、所望の大きさの第2相を十分に析出させ、それにより引張強度や導電率、プレス打ち抜き成形性を高める観点では、5%以上20%以下の範囲にすることが好ましい。
ここで、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程9]の圧延方向は、略同一であることが好ましく、その場合、圧延方向に沿って第2相を延出させることができる。
(x)第2時効熱処理工程[工程10]
第2時効熱処理工程[工程10]は、第2冷間圧延工程[工程9]を行なった後の冷延材に対して、到達温度を400℃以上600℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲で熱処理を施す工程である。ここで、到達温度が400℃未満の場合や、保持時間が0.1時間未満の場合、第2相の生成が不十分になるため、引張強度やプレス打ち抜き成形性が低下する。また、到達温度が600℃を超える場合や、10.0時間を超える場合、第2相が第1相中に再固溶したり、第2相が粗大化して存在割合が減少したりするため、引張強度や導電率、プレス打ち抜き成形性が低下する。
(xi)第3冷間圧延工程[工程11]
第3冷間圧延工程[工程11]では、第2時効熱処理工程[工程10]を行なった後の冷延材に対して、さらに冷間圧延を施す。ここで、第3冷間圧延工程[工程11]では、圧延時における張力を490kPa以下にすることが好ましい。これにより、圧延方向yに沿って第2相12が伸長する際に、第2相12の幅が狭くなりすぎることが抑制され、また、銅合金材10の内部に与えられるせん断歪みの大きさが適切に制御されるため、高い引張強度や導電率、プレス打ち抜き成形性を有する銅合金材10を得ることができる。
さらに、第3冷間圧延工程[工程11]では、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程9]を含めた総加工率は、95.0%以上99.5%以下となるように調整する。この総加工率を95.0%以上にすることで、圧延方向yに沿って第2相12が多く生成されるようになり、第2相12の間隔が小さくなるため、銅合金材10の引張強度やプレス打ち抜き成形性を高めることができる。また、総加工率を99.5%以下にすることで、所望の大きさの第二相が得られやすくなるため、プレス打ち抜き成形性を高めることができる。
ここで、第3冷間圧延工程[工程11]の圧延方向は、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程9]の圧延方向と略同一であることが好ましく、その場合、これらの圧延方向に沿って第2相を延出させることができる。
[8]銅合金材の用途
本発明の銅合金材は、例えば車載部品用や電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに用いるのに適している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(本発明例1~33および比較例1~24)
表1に示す合金組成を有する銅合金素材を溶解し、これを溶湯から300℃まで冷却して鋳造する鋳造工程[工程1]を行なって鋳塊を得た。この鋳塊に対して、950℃の保持温度および3時間の保持時間で熱処理を行う均質化熱処理工程[工程2]を行ない、次いで、表3に示す圧延温度で、1パスあたりの加工率の最小値が表3に示す値になるように、長手方向が圧延方向になるようにして、1回の圧延で熱間圧延工程[工程3]を行なって熱延材を得た。その後、水冷により室温まで冷却する冷却工程[工程4]を行なった。
冷却工程[工程4]後の熱延材に対して、面削工程[工程5]を行なって表裏両面を削り取って表面の酸化膜を除去した後、75%の総加工率で長手方向に沿って圧延する、第1冷間圧延工程[工程6]を行なった。
第1冷間圧延工程[工程6]を行なった後の圧延材に対して、700~1000℃の到達温度および10秒~300秒の保持時間の条件で溶体化処理工程[工程7]を行ない、次いで表3に示す到達温度および保持時間の条件で第1時効熱処理工程[工程8]を行ない、表3に示す合計圧延加工率の条件で、長手方向が圧延方向になるようにして圧延する第2冷間圧延工程[工程9]を行なった。
第2冷間圧延工程[工程9]を行なった後の圧延材に対して、表3に示す到達温度および保持時間の条件で第2時効熱処理工程[工程10]を行ない、表3に示す圧延時における張力と合計圧延加工率(第1冷間圧延工程[工程6]、第2冷間圧延工程[工程9]および第3冷間圧延工程[工程11]の圧延加工率の合計)の条件で、長手方向が圧延方向になるようにして圧延する第3冷間圧延工程[工程11]を行なった。このようにして、本発明の銅合金材を作製した。
なお、表1では、第2相の形成の有無にかかわらず、Ag、Zr、Ti、Ni、CoおよびSiを第2相構成成分とし、第2相構成成分と銅(Cu)以外の構成成分を、その他の任意添加成分として記載した。また、表1では、銅合金素材の合金組成に含まれない成分の欄には横線「-」を記載し、該当する成分を含まない、または含有していたしても検出限界値未満であることを明らかにした。
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に係る銅合金材を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
[1]第2相についての観察および測定
作製した各供試材(銅合金材10)について、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面に対し、電解研磨を行なった後、Arイオンミリングを行なってTEM用試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、製品名:JEM-2100Plus)を用いて、加速電圧200kVで観察した。このとき、1つの視野領域に表れる、Cu母相(第1相11)と色調が異なる部分を第2相12とした。
圧延方向yおよび幅方向xを含む断面に対する、透過電子顕微鏡(TEM)による観察は、横800nm×縦600nmの視野で、断面内でランダムに選択した10ヶ所について行った。次いで、それぞれの透過電子顕微鏡(TEM)写真について、圧延方向yについて0.2μmの間隔で、長さ0.5μmの線分(垂線E)を幅方向xに沿って3本引き、これらの線分を横断する第2相12の数を計測した。そして、幅方向xに引いた線分の長さの総和を、線分を横断する第2相12の総数に1を足した数で割ることで、要件(I)である、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値を算出した。
また、これらの透過電子顕微鏡(TEM)写真について、圧延方向yについて0.2μmの間隔で、長さ0.5μmの線分(垂線E)を幅方向xに沿って3本引いたときに、線分と第2相12とが重なる部分における第2相12の幅寸法wをそれぞれ求めた。そして、求められた第2相12の幅寸法wから、要件(II)である、第2相12の全体に占める、幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合を算出した。
作製した各供試材(銅合金材10)について、厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面に対し、Arイオンミリングを行なってSEM用試料を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク社製、製品名:SU8020)を用いて、加速電圧5kVで二次電子像を観察した。このとき、1つの視野領域に表れるCu母相(第1相11)と色調が異なる部分を第2相12とした。
厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面に対する、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察は、横4μm×縦3μmの視野で、断面内でランダムに選択した10ヶ所について行った。これらの走査型電子顕微鏡(SEM)写真について、厚さ方向zに沿った厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅方向xに沿った幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相12の数を計測した。そして、計測された第2相12の数を、走査型電子顕微鏡(SEM)写真の総面積(120μm)で割ることで、要件(III)である、厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相12の存在割合を算出した。
これら要件(I)~要件(III)の結果を表2に示す。
[2]引張強度の測定方法
引張強度の測定は、圧延方向に対して平行な方向が長手方向になるように供試材を切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を測定値とした。なお、本実施例では、引張強度が700MPa以上を合格レベルとした。結果を表4に示す。
[3]導電率(EC)の測定方法
導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出した。なお、端子間距離は100mmとした。本実施例では、上述の供試材の引張強度の測定値T[MPa]に基づいて、導電率の基準値E[%IACS]を下記の(A)式により求め、導電率の計測値Mが基準値E以上の場合を合格レベルとした。結果を表4に示す。
E=1200×EXP(-0.004×T) ・・・・(A)
[4]プレス打ち抜き加工性の測定方法
作製した各供試材(銅合金材)に対して、上型(パンチ)と下型(ダイ)のクリアランスが板厚Tの5.0%となるように調整して打ち抜き加工を施し、幅方向xに沿った長辺が3.0mm、圧延方向yに沿った短辺が1.0mmの矩形に打ち抜いて、切断面2を形成した。本実施例では、形成された切断面2のうち、幅方向xに沿った面について、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立製作所製、SEMEDX TypeM)を用いて、100~500倍の倍率で観察を行った。そして、切断面2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から、各供試材の板厚Tと、厚さ方向zに沿った剪断面4および破断面5の合計厚さの最大値tmaxと最小値tminの差Δtを測定した。なお、この差Δtは、銅合金材10のうち未加工の部分にある下面10bを基準として、切断面2とダレ3の境界のうち、最も上面10a側にある厚さ位置と、最も下面10b側にある厚さ位置の差とした。
測定された剪断面および破断面の合計厚さの、最大値tmaxと最小値tminの差Δtについて、板厚Tの15%以下の範囲内であった場合を、プレス打ち抜き加工性が優れているとして「◎」と評価した。また、この差Δtが、板厚Tの15%以上30%以下の範囲内であった場合を、プレス打ち抜き加工性が合格レベルにあるとして「○」と評価した。他方で、この差Δtが、板厚Tの30%超であった場合を、プレス打ち抜き加工性が不合格であるとして「×」と評価した。結果を表4に示す。
Figure 2022022812000002
Figure 2022022812000003
Figure 2022022812000004
Figure 2022022812000005
表1~表3の結果から、実施例1~3、5、6、8~10、13~15、17、19、21~23、25~27、29、30、33の銅合金材10は、合金組成が本発明の適正範囲内であるとともに、銅合金材10の圧延方向yおよび幅方向xを含む断面で見たときの、隣接する第2相12同士の相間隔dを幅方向xに沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であるため要件(I)を満たし、かつ、第2相12の全体に占める、幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲である第2相12の個数割合が80%以上であることで要件(II)を満たすため、引張強度が700MPa以上であり、導電率も基準値Eより高く、かつ、プレス打ち抜き加工性も「◎」または「〇」と評価されるものであった。
また、実施例1、2、4、5、7~9、11~13、15~21、23~25、27~29、31~33の銅合金材10は、合金組成が本発明の適正範囲内であるとともに、銅合金材の厚さ方向zおよび幅方向xを含む断面で見たときの、厚さ寸法hが1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅寸法wが100nm以上500nm以下の範囲である第2相12の存在割合が0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲であることで要件(III)を満たすため、引張強度が700MPa以上であり、導電率も基準値Eより高く、かつ、プレス打ち抜き加工性も「◎」または「〇」と評価されるものであった。
したがって、実施例1~33の銅合金材10は、要件(I)および要件(II)の両方を満たし、または要件(III)を満たすため、引張強度が700MPa以上と高く、導電率も基準値Eより高く、かつ、プレス打ち抜き加工性も「◎」または「〇」と評価されるものであったため、プレス打ち抜き加工性にも優れていた。
一方、比較例1~24の銅合金材はいずれも、要件(I)および要件(II)の少なくとも一方が本発明の適正範囲外であり、かつ、要件(III)が本発明の適正範囲外であるため、引張強度、導電率の基準値Eと測定値Mの差、およびプレス打ち抜き加工性のうち、少なくともいずれかが合格レベルに達していなかった。このうち、比較例2、16、23では、第2相の析出が見られず、または第2相の析出が少なかった。特に、比較例2、16、23では、第2時効熱処理工程[工程10]を行なった後でも、要件(II)における、幅寸法wが5nm以上50nm以下の範囲である第2相と、要件(III)における、厚さ寸法hが1nm以上50nm以下の範囲で、かつ幅寸法wが100nm以上500nm以下の範囲である第2相は、いずれも析出しなかったため、所定の銅合金材を得ることができなかった。また、比較例11では、熱間圧延工程[工程3]を行なっている最中に鋳塊に割れが確認されたため、所定の銅合金材を得ることができなかった。
また、図6に、本発明例5の銅合金材10について、圧延方向yおよび幅方向xを含む断面に対してエネルギー分散型X線(EDX)分析を行ったときに得られるスペクトルを示す。ここで、図6(a)は、銅合金材10の第1相11についてEDX分析を行ったときのスペクトルであり、図6(b)は、銅合金材10の第2相12についてEDX分析を行ったときのスペクトルである。EDX分析の結果から、本発明例の銅合金材10は、第1相11がCuからなる相によって構成されることと、第2相12がCuとAgを含有する相によって構成されることが確認された。
10 銅合金材
10a 銅合金材の上面
10b 銅合金材の下面
11 第1相
12 第2相
2 切断面
3 ダレ
4 剪断面
5 破断面
6 バリ
d、d~d 隣接する第2相同士の相間隔
w 第2相の幅寸法
h 第2相の厚さ
max 剪断面および破断面の合計厚さの最大値
min 剪断面および破断面の合計厚さの最小値
T 銅合金材10の厚さ
E 垂線
x 幅方向
y 圧延方向
z 厚さ方向

Claims (7)

  1. Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、
    前記銅合金材の圧延方向および幅方向を含む断面で見て、
    前記複数の第2相は、隣接する第2相同士の相間隔を前記幅方向に沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、
    前記第2相の全体に占める、前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合が80%以上である、銅合金材。
  2. Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、
    前記銅合金材の厚さ方向および幅方向を含む断面で見て、
    前記複数の第2相のうち、前記厚さ方向に沿って測定したときの厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相の存在割合が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲である、銅合金材。
  3. Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって間隔をおいて延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、
    前記銅合金材の圧延方向および幅方向を含む断面で見て、
    前記複数の第2相は、隣接する2相同士の相間隔を前記幅方向に沿って測定したときの平均値が10nm以上150nm以下の範囲であり、かつ、
    前記第2相の全体に占める、前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が5nm以上50nm以下の範囲である第2相の個数割合が80%以上であり、かつ、
    前記銅合金材の厚さ方向および幅方向を含む断面で見て、
    前記複数の第2相のうち、前記厚さ方向に沿って測定したときの厚さ寸法が1nm以上50nm以下の範囲で、かつ前記幅方向に沿って測定したときの幅寸法が100nm以上500nm以下の範囲である第2相の存在割合が、0.3個/μm以上4.0個/μm以下の範囲である、銅合金材。
  4. Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、または
    Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分
    を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の銅合金材。
  5. Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、または
    Ni:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.0質量%以下の2成分
    を含有し、
    前記2成分を含有する場合、Siの含有量に対するNiまたはCoの含有量の比であるNi/Si比またはCo/Si比が、3.8以上4.4以下の範囲であり、
    残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の銅合金材。
  6. Cr:0.05質量%以上1.5質量%以下、Zn:0.05質量%以上1.0質量%以下、またはMg:0.05質量%以上1.0質量%以下をさらに含有する、請求項4または5に記載の銅合金材。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、
    銅合金素材に、少なくとも鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、溶体化処理工程[工程7]、第1時効熱処理工程[工程8]、第2冷間圧延工程[工程9]および第2時効熱処理工程[工程10]および第3冷間圧延工程[工程11]を順次行ない、
    前記銅合金素材は、Ag:1.0質量%以上8.0質量%以下、Zr:0.5質量%以上5.0質量%以下、もしくはTi:2.0質量%以上5.0質量%以下の単一成分、またはNi:3.6質量%以上6.5質量%以下およびSi:0.8質量%以上2.0質量%以下、もしくはCo:2.0質量%以上4.5質量%以下およびSi:0.4質量%以上1.5質量%以下の2成分を含有し、
    前記鋳造工程[工程1]では、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、
    前記熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上とし、かつ1パスあたりの加工率を10%以上とし、
    前記第1時効熱処理工程[工程8]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とし、
    前記第2冷間圧延工程[工程9]では、総加工率を5.0%以上20.0%以下の範囲とし、
    前記第2時効熱処理工程[工程10]では、到達温度を400℃以上600℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上10.0時間以下の範囲とし、
    前記第3冷間圧延工程[工程11]では、圧延時における張力を490kPa以下とし、かつ、総加工率を95.0%以上99.0%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金材の製造方法。
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