JP2021138998A - 銅合金材およびその製造方法 - Google Patents

銅合金材およびその製造方法 Download PDF

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【課題】高い導電率と高い引張強度を有しながらも、ヤング率の異方性が少なく、曲げ加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供する。【解決手段】Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、銅合金材の圧延方向を含む長手方向の断面で見て、第2相のうち圧延方向に沿って測定したときの長さLが1μm以上である第2相は、下記の要件(I)〜(III)を満足する。要件(I):銅合金材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔の平均値が、5nm以上50nm以下の範囲である。要件(II):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値が3°以上20°以下の範囲である。要件(III):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差の平均値が5°以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、銅合金材およびその製造方法に関する。
銅合金材、例えば電気・電子部品や自動車車載部品に用いられる銅合金材としては、従来は、主に析出強化や加工硬化によって強化された高強度銅合金であるCu−Ni−Si系合金(コルソン系合金)が広く用いられてきた。
しかしながら、Cu−Ni−Si系合金は、導電率は最大でも50%IACS程度であり、大電流で通電すると抵抗発熱量が多くなり、熱によって接点部のばね性の低下や、端子を固定するモールドの劣化などにより、端子の機能が著しく低下するおそれがあることから、大電流用の端子材料として用いるには適さない。
このため、Cu−Ni−Si系合金に代わる端子材料を開発することが求められている。例えば、Cu母相中に他の元素を含む相を晶出させた複相組織を有する合金(複相合金)は、冷間圧延などによる強加工を行なうことで、他の元素を含む相が繊維状に分散され、りん青銅と同等の強度を持ち、かつ高い導電率が得られる。この複相合金系としては、Cu−Cr、Cu−Fe、Cu−Nb、Cu−Ag、Cu−Zrなどが知られている。
例えば、特許文献1には、Crを5重量%以上30重量%以下の範囲で含有し、かつZrおよびTiの一方または両方を含有し、残部がCuと不回避不純物である銅合金において、ファイバー状のCr相によって分断されるCu母相の厚さを5μm以下にすることで、優れた引張強度および導電率を有する銅合金材を得ることができるとしている。
また、特許文献2には、2質量%以上6質量%以下のAgと、0.5質量%以上0.9質量%以下のCrとを含有する銅合金の製造方法において、固溶化熱処理を行った後、冷間または500℃以下の温間で5%以上の加工を鍛造または圧延により付与することで、高強度高熱伝導性を有する成形物を得ることができるとしている。
また、特許文献3には、Cr、FeおよびNbからなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で7質量%以上20質量%以下の範囲で含む銅合金や、Agを7質量%以上20質量%以下の範囲で含む銅合金において、Cr、FeおよびNbの群から選ばれる1種または2種以上を含み、またはAgを60%以上含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた強度と導電率、曲げ加工性を得られるとともに、強度や曲げ加工性の異方性を抑制させることができるとしている。
また、特許文献4には、質量%でFe,Cr,Ta,V,Nb,MoおよびWの群から選ばれる1種の添加元素を7%以上50%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金において、添加元素を含む第2相の平均アスペクト比Atが10以上となるように構成することで、優れた引張強度(0.2%耐力)と導電率、曲げ加工性を得ることができるとしている。
また、特許文献5には、Agを3質量%以上20質量%以下含有し、さらにSn,Mg,ZrおよびZnの群から選ばれる1種または2種以上の添加元素を合計で0.01%以上3%以下含有し、残部Cuおよび不可避的不純物から実質的になる二相合金において、Cu母相の平均結晶粒径を600nm以下にし、かつCu母相の結晶粒界における双晶粒界の割合を10%以上にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)と導電率、曲げ加工性を得ることができるとしている。
また、特許文献6には、Zrを3.0原子%以上7.0原子%以下の範囲で含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金において、Cu母相と、銅−Zr化合物相および銅相からなる複合相とが母相−複合相層状組織を構成し、幅方向に対して垂直な断面を見たときにCu母相と複合相とを圧延方向に平行に交互に配列させ、かつ圧延方向に配置された銅−Zr化合物相と銅相とが50nm以下の相の厚さで板厚方向において交互に積層するように構成することで、引張強度をより高めることができるとしている。
また、特許文献7には、Agを7質量%以上15質量%以下の範囲で含有し、かつCr,Fe,Nb,Co,Ni,Mg,Sn,Zr,Cd,Ti,P,InおよびSiの群から選ばれる1種または2種以上の微量元素を合計で0.05質量%以上1質量%以下の範囲で含有する銅合金において、Agを含む第2相の平均アスペクト比(At)を10以上80以下の範囲にすることで、優れた引張強度(0.2%耐力)を得ることができるとしている。
特許第3490853号公報 特許第3861712号公報 特許第4302579号公報 特許第4637601号公報 特開2006−299287号公報 特許第5800301号公報 特許第5048046号公報
しかしながら、特許文献1〜7に記載の銅合金は、Cr、Fe、Nb、Ag、Zrなどの元素を含んだ第2相をCu母相中に密に分散させるために、Cu母相への固溶限を大幅に上回る量の元素を含有させるとともに、線引きや重ね接合圧延法(ARB法)などの加工率の高い冷間加工を行う必要があり、導電率、引張強度および曲げ加工性、ならびにヤング率の異方性に関して、さらに改善の余地があるものであった。
特に、特許文献1に記載の銅合金では、冷間加工時に伸線加工を行って線材を得ることで大きな加工度を持たせているが、箔や板材を得るときに銅合金材を得る手法については記載されていない。また、冷間圧延加工によって得られる銅合金の板材では、線引方向についての強度のみが問題になる線材と異なり、圧延方向に対する向きによって引張強度やヤング率、曲げ加工性などに異方性が生じるため、これらの異方性を小さくすることに関して、さらに改善の余地があった。
また、特許文献1、2、5、6に記載の銅合金では、第2相を繊維状に分散させて引張強度などを向上させているが、その異方性については何ら検討がなされていない。
また、特許文献3、4に記載の銅合金は、第2相を圧延によって繊維化させた圧延板材であり、第2相の形状((第2相の伸長長さ)/(第2相の圧延厚み方向での厚さ)で表される平均アスペクト比など)を規定することで、圧延方向に直角な方向についての曲げ加工性を向上することができるとしており、特に特許文献3では、圧延方向に平行な方向と直角な方向について、引張強度および曲げ加工性の異方性が少ないことも記載されている。しかし、これらの引張強度や曲げ加工性などの異方性に影響を与える、圧延方向に対する第2相の延在角度や、ヤング率の異方性については何ら言及されていない。
また、特許文献7に記載の銅合金では、繊維状に延伸された第2相の形状の観察結果が示されているが、いずれも圧延後の銅合金の断面を研磨した観察面(または、エッチングや電解研磨を行った観察面)をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察したものであり、第2相の形状を明瞭に観察できていなかった。そのため、特にAgなどの添加元素が少ない場合に、微細な第2相の形状を観察することが困難であり、その制御についても何ら言及されていない。
したがって、本発明の目的は、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、ヤング率の異方性が少なく、曲げ加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供することにある。
従来の銅合金材は、圧延によって繊維化された第2相が、例えば特許文献1の図5や特許文献6の図21のような圧延断面組織や、特許文献4の図2の模式図に示されるように、圧延方向に平行に延伸されている。しかしながら、本発明者の調査によれば、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて平滑にした圧延材の観察断面を、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察することで、従来は明瞭に観察することができなかった第2相の構造を、明瞭に観察できることを見出した。そして、本発明者は、高い導電率を有するCu−Ag系やCu−Cr系、Cu−Zr系の合金組成を有する銅合金素材について、時効熱処理工程を経た後の冷間圧延工程において、特定の圧延条件下で圧延することにより、繊維化された第2相が高い均一性で分散されて曲げ加工時の割れの起点になり難くなるとともに、図1のように圧延方向に対して大きなうねりが生じることで、うねりが無い圧延材と比較して高い引張強度が得られるだけでなく、ヤング率の異方性を大きく抑制できることを見出した。その結果、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、ヤング率の異方性が少なく、曲げ加工性にも優れた銅合金材を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、前記銅合金材の圧延方向を含む長手方向断面で見て、前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とするとき、前記特定第2相は、下記の要件(I)〜(III)を満足することを特徴とする銅合金材。
要件(I):銅合金材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したときの平均値が、5nm以上50nm以下の範囲であること。
要件(II):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する前記特定第2相の延在角度を測定したときの平均値が3°以上20°以下の範囲であること。
要件(III):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の平均値が5°以下であること。
(2)前記特定第2相は、下記の要件(IV)および(V)をさらに満足する、上記(1)に記載の銅合金材。
要件(IV):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の最大値が17°以下であること。
要件(V):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する前記垂線を横切る全ての特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の最大値が14°以上43°以下の範囲であること。
(3)Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分を1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、上記(1)または(2)に記載の銅合金材。
(4)前記第2相構成成分以外の構成成分として、Agを0.1質量%以上1.0質量%未満、Crを0.05質量%以上1.0質量%未満、Zrを0.05質量%以上1.0質量%未満、Feを0.05質量%以上1.0質量%未満、Mgを0.05質量%以上0.5質量%未満、Znを0.05質量%以上1.0質量%未満からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含有し、前記第2相構成成分以外の構成成分の合計量が0.05質量%以上1.0質量%未満である、(3)に記載の銅合金材。
(5)板厚が0.03mm以上0.20mm以下の範囲である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金材。
(6)前記圧延方向と平行な方向に引っ張ったときの引張強度が、900MPa以上であり、導電率が60%IACS超えであり、かつ、JIS H3130:2012に規定されているW曲げ試験を、Goodway方向およびBadway方向に行なったときの、試料厚さ(t)に対する、割れが発生しない最小曲げ半径(MBR)の比(MBR/t比)がいずれも2.0以下である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の銅合金材。
(7)前記圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす3方向のヤング率が、いずれも110GPa以上であり、かつ前記3方向のヤング率の最大値と最小値の差が20GPa以下である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の銅合金材。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分を1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有する銅合金素材に、少なくとも鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]および第2冷間圧延工程[工程8]を順次行ない、前記鋳造工程[工程1]では、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、前記熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上および圧延加工率を90%以上とし、前記時効熱処理工程[工程7]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上90.0時間以下の範囲とし、そして、前記第2冷間圧延工程[工程8]では、圧延ロール径をR[mm]、加工前の板厚をh[mm]、加工後の板厚をh[mm]とするとき、下記の(A)式で表されるパラメータXを2.0以上6.0以下の範囲とし、圧延時における張力を500kPa以下とし、1パスあたりの加工率を2%以上15%以下とし、かつ、総加工率を95.0%以上99.5%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金材の製造方法。
X={R[1−(h/h)]}0.5 ・・・・(A)
本発明によれば、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、ヤング率の異方性が少なく、曲げ加工性にも優れた銅合金材およびその製造方法を提供することができる。
本発明の銅合金材を、圧延方向を含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。 本発明の銅合金材に含まれる複数個の特定第2相を、銅合金材の圧延方向を含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する特定第2相同士の相間隔と、圧延方向に対する特定第2相の延在角度を求める方法を説明するための模式図である。 本発明例1の銅合金材を、圧延方向を含む断面で見たときの、(a)透過電子顕微鏡(TEM)写真および(b)反射電子像(BSE像)である。 銅合金材の圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす方向について説明するための模式図である。
以下、本発明の銅合金材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金材は、Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、前記銅合金材の圧延方向を含む長手方向断面で見て、前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とするとき、前記特定第2相は、下記の要件(I)〜(III)を満足することを特徴とする銅合金材。
要件(I):銅合金材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したときの平均値が、5nm以上50nm以下の範囲であること。
要件(II):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する前記特定第2相の延在角度を測定したときの平均値が3°以上20°以下の範囲であること。
要件(III):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度を測定したときの延在角度の差の平均値が5°以下であること。
このように、隣接する特定第2相同士の板厚方向に沿った相間隔を小さくすることで、銅合金材に含まれるAgやZr、Crの含有量が少なくても、厚さの小さい特定第2相を高い均一性で分散させることができる。このような厚さが小さい特定第2相は、曲げ加工に対して柔軟であるため、曲げ加工時における銅合金材の割れの起点になり難い。それとともに、特定第2相の圧延方向に対する延在角度を所定の範囲にすることで、特定第2相が圧延方向に対してうねりを生じ、特定第2相の表面積が広がることで、うねりが無い圧延材と比較して高い引張強度が得られるだけでなく、ヤング率の異方性を大きく抑制することができる。加えて、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差を小さくすることで、圧延による転位が蓄積され易くなることで、所望の高い引張強度を得易くすることができる。その結果、高い導電率と高い引張強度を有しながらも、ヤング率の異方性が少なく、曲げ加工性にも優れた銅合金材を得ることができる。
また、上述の特許文献1、3、4、7に記載の銅合金では、第2相を十分な密度で分散させるために、第2相を構成する元素の含有量を多くする必要があり、特に貴金属であるAgや、レアメタルであるV,Nbなどを用いて第2相を形成する場合、原料コストが高くなっていた。また、銅合金がCrやZr、Fe、Nbなどの融点の高い元素が多く含まれると、鋳造の際に必要な溶湯温度が非常に高温(組成にもよるが1400℃以上)になることで、1100〜1400℃の温度にしか耐えられない一般的な銅合金の鋳造設備では製造が困難となるため、製造コストも高くなっていた。これに関し、本発明の銅合金材では、第2相構成成分であるAgやZr、Crの含有量が少ないため、原料コストおよび製造コストの観点でも優れている。
[1]銅合金材の組成
まず、本発明の銅合金材の組成を限定した理由について説明する。
本発明の銅合金材は、Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分を1.0〜4.0質量%含有させたものである。
<第2相構成成分の含有量:1.0〜4.0質量%>
Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分の含有量は、1.0〜4.0質量%の範囲にすることが好ましい。ここで、第2相構成成分を合計で1.0質量%以上含有することで、AgやZr、Crを含む析出物が圧延によって繊維化されることで、特定第2相を含む複相組織が形成されるため、引張強度を向上することができる。他方で、第2相構成成分の含有量を合計が4.0質量%を超えると、鋳造時に第2相が粗大化し、粗大化した特定第2相が起点となって割れが生じることで、曲げ加工性が低下するので不適である。したがって、第2相構成成分の合計含有量は、1.0〜4.0質量%の範囲にすることが好ましく、1.1〜3.8質量%の範囲にすることがより好ましい。
<Ag:1.0〜4.0質量%>
Ag(銀)は、第2相構成成分として含有するとき、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、主に単体として、例えば1〜100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出する。この析出物が圧延によって繊維化されてAg含有相を含む複相組織となることで、引張強度を向上することができる。この作用を発揮するには、Ag含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Ag含有量が4.0質量%を超えると、原料コストが非常に大きくなるため望ましくない。このため、Ag含有量は、1.0〜4.0質量%とすることが好ましく、1.3〜3.8質量%とすることがより好ましい。
<Cr:1.0〜4.0質量%>
Cr(クロム)は、第2相構成成分として含有するとき、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、主に単体として、500〜10000nm程度の大きさの晶出物が主として存在するとともに、50〜500nm程度の大きさの微細な析出物が析出し、これらの析出物や晶出物が圧延によって繊維化されて特定第2相を含む複相組織となることで、引張強度を向上することができる。所望の特定第2相を析出および形成させて、この作用を発揮するには、Cr含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Cr含有量が4.0質量%を超えると、鋳造時に特定第2相が粗大化することで、繊維状の特定第2相を形成することが困難になる。また、粗大化した特定第2相が起点となって割れが生じることで、曲げ加工性が低下するので不適である。このため、Cr含有量は、1.0〜4.0質量%とすることが好ましく、1.1〜3.8質量%とすることがより好ましい。
<Zr:1.0〜4.0質量%>
Zr(ジルコニウム)は、第2相構成成分として含有するとき、Cu母相(マトリクス)である第1相11中に、デンドライトアームスペーシング(DAS)が100〜1000nm程度であるデンドライト状の化合物相の晶出物が主として存在するとともに、1〜100nm程度の大きさの微細な析出物が析出し、これらの析出物や晶出物が圧延によって繊維化されることで、板厚方向に沿った相間隔の短い特定第2相を含む複相組織となるため、引張強度やヤング率を上昇させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Zr含有量を1.0質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zr含有量が4.0質量%を超えると、鋳造時に特定第2相が粗大化することにより、後述する冷間圧延工程における加工性が大きく低下することで、製造が困難になるため不適である。したがって、Zr含有量は、1.0〜4.0質量%の範囲にすることが好ましく、1.2〜3.8質量%の範囲にすることがより好ましい。
<第2相構成成分以外の構成成分>
本発明の銅合金材は、Ag、CrまたはZrである第2相構成成分と異なる構成成分として、Agを0.1質量%以上1.0質量%未満、Crを0.05質量%以上1.0質量%未満、Zrを0.05質量%以上1.0質量%未満、Feを0.05質量%以上1.0質量%未満、Mgを0.05質量%以上0.5質量%未満、Znを0.05質量%以上1.0質量%未満からなる群から選択される少なくとも1種を含有することができる。すなわち、例えば第2相構成成分がAgであるときには、第2相構成成分以外の構成成分としてAg以外の上記成分が含まれうる。
(Ag:0.1質量%以上1.0質量%未満)
Ag(銀)は、Cu母相(マトリクス)中に固溶することで、強度を向上させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Ag含有量を0.1質量%以上とすることが好ましい。他方で、Ag含有量が1.0質量%以上になると、導電率の低下が大きくなるので好ましくない。また、特に第2相構成成分がZrである場合には、Cu−Ag−Zr化合物が多く生成されて、圧延加工時の割れの原因にもなる。したがって、Ag含有量は、0.1質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.8質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Cr:0.05質量%以上1.0質量%未満)
Cr(クロム)は、Cu母相(マトリクス)中に、単体として、例えば1〜100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出し、この析出物が圧延によって繊維化されることで、銅合金材の引張強度を上昇させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Cr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Cr含有量を1.0質量%未満にすることで、導電率が低下し難くなるため、60%IACS超えの導電率を得易くすることができる。したがって、Cr含有量は、0.05質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Zr:0.05質量%以上1.0質量%未満)
Zr(ジルコニウム)は、Cu母相(マトリクス)中に、化合物や単体として、例えば1〜100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出することで、Cu母相の強度を向上させる作用を有する成分である。他方で、Zr含有量が1.0質量%以上になると、第2相構成成分であるAgやCrとの間で、加工性の低い化合物を多く生成するため、圧延加工時に割れが生じる原因となる。したがって、Zr含有量は、0.05質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Fe:0.05質量%以上1.0質量%未満)
Fe(鉄)は、Cu母相(マトリクス)中に、化合物や単体として、例えば1〜100nm程度の大きさの析出物の形で微細析出し、この析出物が圧延によって繊維化されることで、複相合金の引張強度を上昇させる作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Fe含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Fe含有量を1.0質量%未満にすることで、導電率が低下し難くなるため、60%IACS超えの導電率を得易くすることができる。したがって、Fe含有量は、0.05質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Mg:0.05質量%以上0.5質量%未満)
Mg(マグネシウム)は、Cu母相(マトリクス)中に固溶することで、銅合金材の引張強度を向上させることが出来る。この作用を発揮するには、Mg含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Mg含有量を0.5質量%未満にすることで、導電率が低下し難くなるため、60%IACS超えの導電率を得易くすることができる。したがって、Mg含有量は、0.05質量%以上0.5質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(Zn:0.05質量%以上1.0質量%未満)
Zn(亜鉛)は、曲げ加工性を改善するとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。この作用を発揮するには、Zn含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。他方で、Zn含有量を1.0質量%未満にすることで、導電率が低下し難くなるため、60%IACS超えの導電率を得易くすることができる。このため、Zn含有量は、0.05質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
(第2相構成成分以外の構成成分の合計含有量:0.05質量%以上1.0質量%未満)
第2相構成成分以外の構成成分として、Ag、Cr、Zr、Fe、Mg,Znのうち2種以上含有する場合、これらの構成成分の合計含有量を0.05質量%以上1.0質量%未満にすることが好ましい。ここで、第2相構成成分以外の構成成分を合計で0.05質量%以上含有することで、複相合金の引張強度を高めることができる。他方で、第2相構成成分以外の構成成分の含有量を合計で1.0質量%未満にすることで、導電率の低下や、鋳造時における割れなどの欠陥を抑制することができる。したがって、第2相構成成分以外の構成成分の合計含有量は、0.05質量%以上1.0質量%未満の範囲にすることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にすることがより好ましい。
なお、第2相構成成分以外の構成成分として、特にAg、Cr、Zr、Feからなる群から選択される1種以上を含有する場合、これらの成分を含む相が、第2相と同様に、繊維化された微細な析出物となって析出される場合がある。この場合、銅合金材の圧延方向と板厚方向を含む断面について、エネルギー分散型X線分析(EDX)などを用いて含有元素のマッピングを行なうことで、これらの成分を含む相を、第2相と区別することが好ましい。
<残部:Cuおよび不可避不純物>
上述した成分以外は、残部がCu(銅)および不可避不純物からなる。なお、ここでいう「不可避不純物」とは、おおむね金属製品において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、スズ(Sn)、酸素(O)などが挙げられる。なお、これらの成分含有量の上限は、例えば上記成分ごとに0.05質量%、上記成分の総量で0.20質量%とすることができる。
[2]銅合金材の金属組織
図1は、本発明の銅合金材10を、圧延方向xを含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真である。本発明の銅合金材10は、Cu母相である第1相11と、圧延方向xに向かって延在する複数の第2相とを含む、複相組織を有する。ここで、銅合金材10は、Cu母相である第1相11中に、第2相構成成分であるAg、ZrまたはCrを含む相が第2相として析出することで、第1相11と第2相とを含む複相組織を形成する。そして、この第2相が圧延によって繊維化されることで、例えば図1に示されるように、圧延方向に沿って測定したときの全長Lが1μm以上となる特定第2相が形成される。
本発明の銅合金材10に含まれる、第2相構成成分であるAg、ZrまたはCrを含む相は、第2相としてCu母相である第1相11に析出して複相組織を形成する。そして、この第2相は後述する冷間圧延工程によって繊維化されて特定第2相12を形成することで、例えば図1に示されるような縞状の複相組織を形成する。
ここで、第2相構成成分のうちAgおよびCrは、Cu母相との間で化合物を作らずに共晶状態にあることが状態図によって知られているため、特に第2相構成成分としてAgおよびCrのうち一方または両方を含む場合、第2相はCrやAgの単相によって構成されることが多い。他方で、第2相構成成分のうちZrは、圧延によって延伸するCuZrの化合物を生じることが知られているため、特に第2相構成成分としてZrを含む場合、第2相はCuZrによって構成されることが多い。
図2は、本発明の銅合金材10に含まれる複数個の特定第2相12a,12bを、銅合金材10の圧延方向xを含む断面で見たときの透過電子顕微鏡(TEM)写真から、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dと、圧延方向xに対する特定第2相12a,12bの延在角度θ,θを求める方法を説明するための模式図である。本発明の銅合金材10は、圧延方向xを含む長手方向の断面で見て、視野領域において存在する複数個の第2相のうち、圧延方向xに沿って測定したときの全長Lが1μm以上である複数個の第2相を特定第2相12a,12bとしたとき、銅合金材10の板厚方向yに沿って、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dを測定したときの平均値が、5nm以上50nm以下の範囲である(要件(I))。これにより、加工転位が蓄積されやすくなり、かつ多くの繊維状の特定第2相12が銅合金材10に形成されるため、銅合金材10の引張強度をより高めることができる。また、隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dの平均値を5nm以上50nm以下の範囲にすることで、曲げ加工性を高めることができる。したがって、特定第2相の板厚方向に沿った平均間隔は、5nm以上50nm以下の範囲であることが好ましく、8nm以上45nm以下の範囲であることがより好ましい。
隣接する特定第2相12a,12b同士の相間隔dの平均は、例えば透過電子顕微鏡(TEM)を用いて求めることができる。このとき、銅合金材10の圧延方向xを含む断面を、集束イオンビーム(FIB)によって一部領域(例えば圧延方向40μm×板厚方向15μmの領域)をマイクロサンプリングし、薄片加工およびArイオンミリングを行なってTEM用試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察する。得られたTEM像について、5μmの長さの線分(垂線E)を板厚方向yに沿って5μm間隔で10本引き、垂線Eを横断する特定第2相12の数を計測したときの、板厚方向yに沿って引いた垂線Eの長さの総和を、垂線Eを縦断する特定第2相12の総数で割ることで、特定第2相12の板厚方向に沿った平均間隔を算出することができる。
また、本発明の銅合金材10は、銅合金材10の板厚方向yに沿って引いた垂線E上の位置にて、圧延方向xに対する特定第2相12a,12bの鋭角側の延在角度θ、θを測定したときの平均値が、3°以上20°以下の範囲である(要件(II))。ここで、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値を3°以上にすることで、特定第2相が圧延方向に対してうねりを生じるようになり、特定第2相の表面積が広がるため、高い引張強度を得ることができる。また、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値を3°以上にすることで、ヤング率の異方性を抑制し、曲げ加工性を高めることができる。このようなヤング率の異方性の抑制は、高い引張強さを得るために必要とされる総加工率が小さくなることで、圧延集合組織の発達による異方性が抑制されるために起こると考えられる。他方で、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値が20°を超えると、過大なうねりによって曲げ加工性が低下するとともに、ヤング率の異方性が大きくなる。したがって、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値は、3°以上20°以下の範囲であり、好ましくは4°以上19°以下の範囲である。
また、本発明の銅合金材10は、銅合金材10の板厚方向yに沿って引いた垂線E上の位置にて、圧延方向xに対して、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度を測定したときの延在角度の差(例えば、図2における延在角度θとθとの差)の平均値が5°以下である(要件(III))。ここで、圧延方向xに対する、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度の差の平均値を5°以下にすることで、隣接する特定第2相12a,12bが、銅合金材10の全体において平行に近い状態で並ぶようになり、転位が蓄積されやすくなるため、高い引張強度を得ることができる。また、圧延方向xに対する、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度の差の平均値を5°以下にすることで、ヤング率の異方性を小さくすることもできる。したがって、圧延方向xに対する、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度の差の平均値は、5°以下の範囲であり、好ましくは4.5°以下の範囲である。
また、本発明の銅合金材10は、銅合金材10の板厚方向yに沿って引いた垂線E上の位置にて、圧延方向xに対して、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度を測定したときの延在角度の差(例えば、図2における延在角度θとθとの差)の最大値が17°以下であることが好ましい(要件(IV))。ここで、圧延方向xに対する、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度の差の最大値を17°以下にすることで、隣接する特定第2相12a,12bが急角度で交わる箇所が無くなるようになり、転位が蓄積されやすくなるため、高い引張強度を得ることができる。したがって、圧延方向xに対する、隣接する特定第2相12a,12bの延在角度の差の最大値は、17°以下の範囲であることが好ましく、15°以下の範囲であることがより好ましく、13°以下の範囲であることがさらに好ましく、10°以下の範囲であることがさらに好ましい。
また、本発明の銅合金材10は、銅合金材10の板厚方向yに沿って引いた垂線E上の位置にて、圧延方向xに対する垂線Eを横切る全ての特定第2相12の延在角度(図2における延在角度θ、θを含む、全ての特定第2相12の延在角度)を測定したときの延在角度の差の最大値が14°以上43°以下の範囲であることが好ましい(要件(V))。ここで、この延在角度の差の最大値を14°以上43°以下の範囲にすることで、より転位が蓄積されやすくなるため、高い引張強度を得ることができる。したがって、圧延方向xに対する垂線Eを横切る全ての特定第2相12の延在角度を測定したときの、延在角度の差の最大値は、14°以上43°以下の範囲であることが好ましく、15°以上40°以下の範囲であることがより好ましく、17°以上30°以下の範囲であることがさらに好ましく、18°以上30°以下の範囲であることがさらに好ましい。なお、この延在角度の差の最大値は、圧延方向xから一方に傾斜した方向に特定第2相12が延在するときの鋭角側の延在角度をプラスとし、圧延方向xから他方に傾斜した方向に特定第2相12が延在するときの鋭角側の延在角度をマイナスとしたときの、角度差の最大値とする。
また、本発明の銅合金材10は、特定第2相12a,12bの銅合金材10の板厚方向に沿って測定される平均厚さ(図示せず)は、例えば第2相構成成分がAgである場合、例えば0.3nm以上20nm以下の範囲にすることができる。また、第2相構成成分がCrである場合、特定第2相12a,12bの板厚方向に沿った平均厚さは、例えば5nm以上500nm以下の範囲にすることができる。また、第2相構成成分がZrである場合、特定第2相12a,12bの板厚方向に沿った平均厚さは、例えば0.3nm以上100nm以下の範囲にすることができる。ここで、特定第2相12a,12bの厚さを小さくすることで、特定第2相12a,12bが曲げ加工時における銅合金材10の割れの起点になり難くなるため、銅合金材の曲げ加工性を高めることができる。また、特定第2相12a,12bの圧延方向に対するうねりを大きくすることができるため、銅合金材10の引張強度を高めることができる。
なお、本発明の銅合金材10には、特定第2相に該当しない第2相、すなわち、圧延方向xに沿って測定したときの全長Lが1μm未満の第2相が含まれていてもよい。
本発明の銅合金材10の板厚は、特に限定されるものではないが、特定第2相12a,12bを得やすくする観点では、0.03mm以上0.20mm以下の範囲であることが好ましい。
[3]引張強度
本発明の銅合金材10は、圧延方向と平行な方向(図4に記載される引張方向P)に引っ張ったときの引張強度が900MPa以上であることが好ましく、940MPa以上であることがより好ましい。これにより、銅合金材10をコネクタなどの用途に用いた場合であっても、所望のばね性が得られるため、接続先の電気機器などに対して高い接続性を得ることができる。ここで、引張強度の測定は、圧延方向と平行な方向が長手方向になるように切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を、引張強度の測定値とする。
[4]ヤング率
本発明の銅合金材10は、圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす方向(それぞれ、図4に記載される引張方向P、PおよびP)に引っ張ったときのヤング率、いずれも110GPa以上であり、かつこれらの3方向P、PおよびPのヤング率の最大値と最小値の差が20GPa以下であることがより好ましい。これにより、銅合金材をコネクタなどの用途に用いた場合であっても、設計への制約を生じ難くすることができ、かつ、変形や品質のばらつきを生じ難くすることができる。ここで、ヤング率の測定は、圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす引張方向が長手方向になるようにそれぞれ切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の試験片で行ない、引張方向P、PおよびPを長手方向にした場合のそれぞれについて、各3本の試験片からそれぞれ得られたヤング率の平均値を、ヤング率の測定値とする。
[5]導電率(EC)
本発明の銅合金材は、導電率が60%IACS超えであることが好ましく、70%IACS超えであることがより好ましい。これにより、銅合金材を大電流コネクタなどの用途に用いた場合であっても、通電時における発熱を小さくすることができる。ここで、導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出することができる。
[6]試料厚さ(t)に対する最小曲げ半径(MBR)の比
本発明の銅合金材は、JIS H3130:2012に規定されているW曲げ試験を、Goodway方向およびBadway方向に行なったときの、試料厚さ(t)に対する、割れが発生しない最小曲げ半径(MBR)の比(MBR/t比)が、それぞれ2.0以下であることが好ましい。ここで、MBR/t比が2.0以下であれば、曲げ加工部の屈曲内面の半径が試料厚さに対して十分に小さく、曲げ加工性が良好である傾向があるといえる。銅合金材に対するW曲げ試験は、銅合金材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0mmのW型の治具を用いて行うことができる。このとき、試験片は、Goodway方向に行なうものについては、圧延方向と試験片の長手方向が平行になるように採取した。また、Badway方向に行なうものについては、圧延方向と試験片の長手方向が直角になるように採取した。W曲げ試験の結果から、日本伸銅協会技術標準JBMA T307:1999に基づいて割れが発生しないと判定される最小の半径の値である最小曲げ半径(MBR)求めることができ、この最小曲げ半径(MBR)の試料厚さ(t)に対する比から、MBR/t比を算出することができる。
[7]本発明の一実施例による銅合金材の製造方法
上述した銅合金材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することにより、実現できる。以下、本発明の銅合金材の好適な製造方法について説明する。
このような本発明の一実施例による銅合金材の製造方法は、上述した銅合金材の前記合金組成と実質的に同じ合金組成を有する銅合金素材に、少なくとも、鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]および第2冷間圧延工程[工程8]を順次行なうものである。このうち、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製する。また、熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上および圧延加工率を90%以上とする。また、時効熱処理工程[工程7]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲とし、保持時間を0.1時間以上85.0時間以下の範囲とする。また、第2冷間圧延工程[工程8]では、圧延ロール径をR[mm]、加工前の板厚をh[mm]、加工後の板厚をh[mm]とするとき、下記の(A)式で表されるパラメータXを2.0以上6.0以下の範囲とし、圧延時における張力を500kPa以下とし、1パスあたりの加工率を2%以上15%以下となるようにする。そして、第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程8]を含めた、全ての冷間圧延工程における圧延加工率の合計(総加工率)を、95.0%以上99.5%以下の範囲になるようにする。
(i)鋳造工程[工程1]
鋳造工程[工程1]は、高周波溶解炉を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で、上述の合金組成を有する銅合金素材を溶融させ、これを鋳造することによって、所定形状(例えば厚さ300mm、幅500mm、長さ3000mm)の鋳塊(インゴット)を作製する。なお、銅合金素材の合金組成は、製造の各工程において、添加成分によっては溶解炉に付着したり揮発したりして製造される銅合金材の合金組成とは必ずしも完全には一致しない場合があるが、銅合金材の合金組成と実質的に同じ合金組成を有している。
この鋳造工程[工程1]では、溶解された銅合金素材を、溶湯から650℃までの温度範囲内で、10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。これにより、鋳塊に第2相が晶出するとともに、第2相の晶出物の成長が抑えられるため、鋳塊に第2相を均一に含ませることができる。それとともに、後述する圧延によって第2相の厚さが小さくなり、第2相が圧延方向に向かって延在するため、銅合金材の曲げ加工性を高めることができる。他方で、鋳造工程[工程1]における冷却速度の上限は、特に限定されないが、特殊な装置などを用いずに鋳造する観点から、例えば500℃/秒以下とすることができる。
(ii)均質化熱処理工程[工程2]
均質化熱処理工程[工程2]は、鋳造工程[工程1]を行った後の鋳塊に対して、熱処理を行なう工程である。均質化熱処理工程[工程2]は、鋳塊の金属組織の均質化を図って、後工程での繊維状の第2相の形成を促進するために行うものであり、均質化熱処理条件は、通常行われている条件であればよく、特に限定はしない。均質化熱処理条件の一例を挙げると、保持温度が700℃〜1000℃の範囲、保持時間が0.1時間〜10時間の範囲である。
(iii)熱間圧延工程[工程3]
熱間圧延工程[工程3]は、均質化熱処理を行った鋳塊に対して、所定の厚さになるまで熱間圧延を施して熱延材を作製する工程である。熱間圧延条件は、例えば、圧延温度は700℃以上、合計圧延加工率(総加工率)は90%以上であることが好ましい。ここで、圧延温度が700℃未満であり、または総加工率が90%未満であると、鋳造工程[工程1]において第2相を均一に分散させることが困難になる。そのため、後述する冷間圧延を行った後も、第2相の分布が不均一な分布になることで、十分な引張強度やヤング率を得られなくなる。他方で、圧延温度の上限は、特に限定されないが、均質化熱処理工程[工程2]と温度差をつけて製造効率を高める観点から、例えば900℃を上限とすることができる。
ここで、「圧延加工率」は、圧延前の断面積から圧延後の断面積を引いた値を圧延前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値であり、下記式で表される。
[圧延加工率]={([圧延前の断面積]−[圧延後の断面積])/[圧延前の断面積]}×100(%)
(iv)冷却工程[工程4]
冷却工程は、熱間圧延工程[工程3]後の熱延材を冷却する工程である。ここで、冷却工程における冷却手段は、特に限定されないが、例えば第2相の粗大化を起こり難くすることができる観点では、できるだけ冷却速度を大きくすることが好ましく、例えば水冷などの手段により、冷却速度を50℃/秒以上にすることが好ましい。
(v)面削工程[工程5]
面削工程[工程5]は、冷却工程[工程4]を行なった後の熱延材に対して、表面を削り取る工程である。面削工程を行なうことで、熱間圧延工程[工程3]で生じた表面の酸化膜や欠陥を除去することができる。面削工程の条件は、通常行われている条件であればよく、特に限定されない。熱延材の表面から削り取る量は、熱間圧延工程[工程3]の条件に基づいて適宜調整することができ、例えば熱延材の表面から0.5〜4mm程度とすることができる。
(vi)第1冷間圧延工程[工程6]
第1冷間圧延工程[工程6]は、面削工程を行なった後の熱延材に、製品板厚に合わせて任意の加工率で冷間圧延を施す工程である。例えば、時効熱処理工程[工程7]における、第1相中に均一に分散される第2相の析出を促す観点では、合計圧延加工率を15%以上とすることが好ましい。
(vii)時効熱処理工程[工程7]
時効熱処理工程[工程7]は、第1冷間圧延工程[工程6]を行なった後の冷延材に対して、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上90.0時間以下の範囲で熱処理を施す工程である。ここで、到達温度が350℃未満の場合や、保持時間が0.1時間未満の場合、特定第2相の生成が不十分になり、引張強度やヤング率、導電率が不足する。また、到達温度が550℃を超える場合や、90.0時間を超える場合、第2相構成成分であるAgやZr、Crが第1相中に再固溶したり、第2相が粗大化して数が減少したりすることで、圧延方向に向かって繊維状に延在する第2相を第1相中に生成することが困難になるため、引張強度やヤング率、導電率が不足する。
(viii)第2冷間圧延工程[工程8]
第2冷間圧延工程[工程8]では、時効熱処理工程[工程7]を行なった後の冷延材に対して、冷間圧延を施す。ここで、圧延ロール径をR[mm]、加工前の板厚をh[mm]、加工後の板厚をh[mm]とするとき、下記の(A)式で表されるパラメータXを2.0以上6.0以下の範囲とし、かつ圧延時における張力を500kPa以下にする。
X={R[1−(h/h)]}0.5 ・・・・(A)
この(A)式で表されるパラメータXは、接触弧長(L=[R(h−h)]0.5)を加工前の板厚の平方根(h 0.5)で割った値で表される。接触弧長と加工前(入側)の板厚の関係を所定の範囲にするとともに、圧延時における張力を500kPa以下にすることで、銅合金材10の内部に与えられるせん断歪みの大きさが適切に制御されるため、圧延方向に対して所望のうねりを有する特定第2相12を銅合金材10に形成することができる。その結果、高い引張強度を有し、かつヤング率の異方性が大きく抑制された銅合金材10を得ることができる。
ここで、第2冷間圧延工程[工程8]における1パスあたりの圧延加工率は、2%以上15%以下とする。1パスあたりの圧延加工率を2%以上とすることで、加工硬化量を大きくすることができるため、銅合金材10に十分な引張強度をもたらすことができ、かつヤング率の異方性を抑制することができる。他方で、1パスあたりの圧延加工率が15%を超えると、せん断歪みによって第2相の加工変形が不均一になることで、引張強度や曲げ加工性が低下し、またはヤング率の異方性が高まるため不適切である。
さらに、第2冷間圧延工程[工程8]における圧延加工率の合計は、95.0%以上99.5%以下となるように調整する。この圧延加工率の合計を95.0%以上にすることで、圧延方向xに沿った全長の長い特定第2相12が多く生成されるようになり、それにより特定第2相12の板厚方向yに沿った間隔が小さくなるため、銅合金材10の引張強度を高めることができる。また、圧延加工率の合計を95.0%以上にすることで、特定第2相12の厚みが小さくなるため、銅合金材10の曲げ加工性を高めることができる。
第1冷間圧延工程[工程6]および第2冷間圧延工程[工程8]の圧延方向は、略同一であることが好ましく、その場合、圧延方向と特定第2相の延出方向は、略平行になる。
[8]銅合金材の用途
本発明の銅合金材は、例えば車載部品用や電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに用いるのに適している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(本発明例1〜18および比較例1〜21)
表1に示す合金組成を有する銅合金素材を溶解し、これを溶湯から650℃までの温度範囲内で表3に示す冷却速度で冷却して鋳造する鋳造工程(工程1)を行ない、厚さ300mm、幅500mm、長さ3000mmの鋳塊を得た。この鋳塊に対して、900℃の保持温度および5時間の保持時間で熱処理を行う均質化熱処理工程(工程2)を行ない、次いで、表3に示す圧延温度で、表3に示す合計圧延加工率となるように、長手方向が圧延方向になるようにして、1回の圧延で熱間圧延工程(工程3)を行なって熱延材を得た。その後、水冷により室温まで冷却する冷却工程(工程4)を行なった。
冷却工程(工程4)後の熱延材に対して、面削工程(工程5)を行なって表裏両面をそれぞれ10mmの厚さ分だけ削り取って表面の酸化膜を除去した後、30%の合計圧延加工率で長手方向に沿って圧延する第1冷間圧延工程(工程6)を行なった。
第1冷間圧延工程(工程6)を行なった後の圧延材に対して、表3に示す到達温度および保持時間の条件で時効熱処理工程(工程7)を行ない、表3に示す1パス当たりの圧延加工率と合計圧延加工率の条件で長手方向に沿って圧延する第2冷間圧延工程(工程8)を行なった。このようにして、本発明の銅合金材を作製した。
なお、表1では、第2相の形成の有無にかかわらず、Ag、ZrおよびCrのうち最も含有量の多い成分を第2相構成成分とし、第2相構成成分と銅(Cu)以外の構成成分を、第2相構成成分以外の構成成分として記載した。すなわち、第2相構成成分として含まれる成分は、「第2相構成成分以外の構成成分」には該当しない。そのため、表1では、第2相構成成分以外の構成成分のうち、第2相構成成分として含まれる成分の欄には斜線「/」を記載し、該当する成分がないことを明らかにした。また、表1では、第2相構成成分以外の構成成分のうち、銅合金素材の合金組成に含まれない成分の欄には横線「−」を記載し、該当する成分を含まないことを明らかにした。
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に係る銅合金材を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
[1]第2相についての観察および測定
作製した各供試材(銅合金材)の圧延方向に平行な縦断面に対し、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行なった後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行なった。そして、集束イオンビーム(FIB)によって、圧延方向40μm×板厚方向15μmの領域をマイクロサンプリングし、薄片加工およびArイオンミリングを行なってTEM用試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、製品名:JEM−2100Plus)を用いて、加速電圧200kVで観察した。このとき、1つの視野領域に表れるCu母相と色調が異なる部分を第2相とし、第2相のうち圧延方向についての長さが1μm以上であるものを特定第2相とした。
得られたTEM像について、5μmの長さの線分(垂線)を板厚方向に沿って5μm間隔で10本引き、線分を横断する特定第2相の数を計測したときの、板厚方向に引いた線分の長さの総和を、線分を縦断する特定第2相の総数で割ることで、要件(I)である特定第2相の板厚方向に沿った平均間隔を算出した。
また、これらの垂線と特定第2相が交わる各位置について、圧延方向に対する特定第2相の延在角度をそれぞれ測定し、その平均値と最大の角度差を求めることで、要件(II)である、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値と、要件(V)である、特定第2相の延在角度の差の最大値を算出した。このとき、延在角度の差の最大値は、圧延方向から一方に傾斜した方向に特定第2相が延在するときの鋭角側の延在角度をプラスとし、圧延方向から他方に傾斜した方向に特定第2相が延在するときの鋭角側の延在角度をマイナスとしたときの、角度差の最大値とした。
また、これらの垂線と特定第2相が交わる各位置について、垂線に沿って隣接する特定第2相の、圧延方向に対する延在角度をそれぞれ測定して延在角度の差を求め、その差の平均値と最大値を求めることで、要件(III)である、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差の平均値と、要件(IV)である、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差の最大値を算出した。
これら要件(I)〜要件(V)の結果を表2に示す。
[2]引張強度の測定方法
引張強度の測定は、圧延平行方向から切り出したJIS Z2241:2011に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強度の平均値を測定値とした。なお、本実施例では、引張強度が800MPa以上を合格レベルとした。結果を表4に示す。
[3]ヤング率の測定方法
ヤング率の測定は、圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす引張方向が長手方向になるようにそれぞれ切り出した、JIS Z2241:2011に規定されている13B号の試験片で行ない、引張方向P、PおよびPを長手方向にした場合のそれぞれについて、試験片の長手方向に引っ張ったときの3本の試験片のヤング率を測定し、これら3本のヤング率の平均値を、各引張方向におけるヤング率の測定値とした。なお、本実施例では、引張方向P、PおよびPについてのヤング率が、いずれも110GPa以上であり、かつ、引張方向P、PおよびPに関するヤング率の最大値と最小値の差が20GPa以下であるものを合格レベルとした。結果を表4に示す。
[4]導電率(EC)の測定方法
導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により計測した比抵抗の数値から算出することができる。なお、端子間距離は100mmとした。本実施例では、導電率が60%IACS超えの場合を合格レベルとした。結果を表4に示す。
[5]試料厚さに対する最小曲げ半径の比(MBR/t比)の測定方法
各供試材に対して、JIS H3130:2012に規定されているW曲げ試験を行なった。各供試材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、所定の曲げ半径のW型の治具を用いてW曲げ試験を行なった。このとき、試験片は、Goodway方向に行なうものについては、圧延方向と試験片の長手方向が平行になるように採取した。また、Badway方向に行なうものについては、圧延方向と試験片の長手方向が直角になるように採取した。W曲げ試験の結果から、日本伸銅協会技術標準JBMA T307:1999に基づいて割れが発生しないと判定される最小の半径の値である最小曲げ半径(MBR)を求めるとともに、試料厚さ(t)に対する最小曲げ半径(MBR)の比(MBR/t比)を算出した。本実施例では、Goodway方向およびBadway方向に行なったときのMBR/t比が、それぞれ2.0以下である場合を合格レベルとした。結果を表4に示す。
Figure 2021138998
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表1〜表4の結果から、実施例1〜18の銅合金材はいずれも、合金組成が本発明の適正範囲内であり、圧延方向に沿って測定したときの全長が1μm以上である第2相を特定第2相としたとき、隣接する特定第2相同士の板厚方向に沿った相間隔が5nm以上50nm以下の範囲であり、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値が3°以上20°以下の範囲であり、かつ、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差の平均値が5°以下であるため、試料厚さに対する割れが発生しない最小曲げ半径の比(MBR/t比)がGoodway方向およびBadway方向の両方で2.0以下であって曲げ加工性に優れ、導電率も60%IACS超えであり、引張強度が900MPa以上であり、かつ、圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす3方向について測定したヤング率の最大値と最小値の差が20GPa以下であって異方性の小さいものであった。
一方、比較例1〜21の銅合金材はいずれも、合金組成、隣接する特定第2相同士の板厚方向に沿った相間隔、圧延方向に対する特定第2相の延在角度の平均値、および、圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度の差の平均値が、本発明の適正範囲外であるため、試料厚さに対する割れが発生しない最小曲げ半径の比(MBR/t比)、導電率、引張強度およびヤング率の最大値と最小値の差の少なくともいずれかが、合格レベルに達していなかった。また、比較例2では第2相構成成分であるAgが固溶し、比較例10では時効熱処理工程[工程7]によっても第2相が析出しなかったため、いずれも特定第2相を有する銅合金材を得ることができなかった。また、比較例11、19〜21では、熱間圧延工程[工程3]や第1冷間圧延工程[工程6]、第2冷間圧延工程[工程8]を行なっている最中に鋳塊に割れが確認されたため、所定の銅合金材を得ることができなかった。
また、図3に、本発明例1の銅合金材について、圧延方向を含む断面で見たときの、(a)透過電子顕微鏡(TEM)写真および(b)反射電子像(BSE像)を示す。これらのTEM写真およびBSE像から、本発明例の銅合金材では、圧延方向に向かって延在するように、厚さ数nmの繊維状の特定第2相構造が複数見られるとともに、これら複数の特定第2相に、第2相構成成分であるAgが含まれることが確認された。
10 銅合金材
11 第1相
12、12a、12b 特定第2相
d 特定第2相の板厚方向の間隔
E 垂線
L 圧延方向に沿って測定したときの第2相の長さ
圧延方向に対して0°の角度をなす引張方向
圧延方向に対して45°の角度をなす引張方向
圧延方向に対して90°の角度をなす引張方向
x 圧延方向
y 板厚方向
z 銅合金材の面に沿った圧延方向と直角な方向
θ、θ 特定第2相の鋭角側の延在角度

Claims (8)

  1. Cu母相である第1相と、圧延方向に向かって延在する複数の第2相とを含む複相組織を有する銅合金材であって、
    前記銅合金材の圧延方向を含む長手方向断面で見て、前記第2相のうち、圧延方向に沿って測定したときの長さが1μm以上である第2相を、特定第2相とするとき、
    前記特定第2相は、下記の要件(I)〜(III)を満足することを特徴とする銅合金材。
    要件(I):銅合金材の板厚方向に沿って、隣接する特定第2相同士の相間隔を測定したときの平均値が、5nm以上50nm以下の範囲であること。
    要件(II):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する前記特定第2相の延在角度を測定したときの平均値が3°以上20°以下の範囲であること。
    要件(III):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の平均値が5°以下であること。
  2. 前記特定第2相は、下記の要件(IV)および(V)をさらに満足する、請求項1に記載の銅合金材。
    要件(IV):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する、隣接する特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の最大値が17°以下であること。
    要件(V):銅合金材の板厚方向に引いた垂線上の位置にて、前記圧延方向に対する、前記垂線を横切る全ての特定第2相の延在角度を測定したときの前記延在角度の差の最大値が14°以上43°以下の範囲であること。
  3. Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分を1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する、請求項1または2に記載の銅合金材。
  4. 前記第2相構成成分以外の構成成分として、Agを0.1質量%以上1.0質量%未満、Crを0.05質量%以上1.0質量%未満、Zrを0.05質量%以上1.0質量%未満、Feを0.05質量%以上1.0質量%未満、Mgを0.05質量%以上0.5質量%未満、Znを0.05質量%以上1.0質量%未満からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含有し、
    前記第2相構成成分以外の構成成分の合計量が0.05質量%以上1.0質量%未満である、請求項3に記載の銅合金材。
  5. 板厚が0.03mm以上0.20mm以下の範囲である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金材。
  6. 前記圧延方向と平行な方向に引っ張ったときの引張強度が、900MPa以上であり、
    導電率が60%IACS超えであり、かつ、
    JIS H3130:2012に規定されているW曲げ試験を、Goodway方向およびBadway方向に行なったときの、試料厚さ(t)に対する、割れが発生しない最小曲げ半径(MBR)の比(MBR/t比)がいずれも2.0以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅合金材。
  7. 前記圧延方向に対して0°、45°および90°の角度をなす3方向のヤング率が、いずれも110GPa以上であり、かつ前記3方向のヤング率の最大値と最小値の差が20GPa以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅合金材。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、
    Ag、ZrまたはCrからなる第2相構成成分を1.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含有する銅合金素材に、少なくとも鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]および第2冷間圧延工程[工程8]を順次行ない、
    前記鋳造工程[工程1]では、不活性ガス雰囲気中もしくは真空中で前記銅合金素材を溶融させてインゴットを作製し、
    前記熱間圧延工程[工程3]では、圧延温度を700℃以上および圧延加工率を90%以上とし、
    前記時効熱処理工程[工程7]では、到達温度を350℃以上550℃以下の範囲および保持時間を0.1時間以上90.0時間以下の範囲とし、そして、
    前記第2冷間圧延工程[工程8]では、圧延ロール径をR[mm]、加工前の板厚をh[mm]、加工後の板厚をh[mm]とするとき、下記の(A)式で表されるパラメータXを2.0以上6.0以下の範囲とし、圧延時における張力を500kPa以下とし、1パスあたりの加工率を2%以上15%以下とし、かつ、総加工率を95.0%以上99.5%以下の範囲とすることを特徴とする、銅合金材の製造方法。
    X={R[1−(h/h)]}0.5 ・・・・(A)
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