JP2023004974A - セメント組成物用添加剤、セメントスラリー、セメント組成物及びセメント硬化体 - Google Patents

セメント組成物用添加剤、セメントスラリー、セメント組成物及びセメント硬化体 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、優れた強度(圧縮強度や曲げ強度)を有するコンクリート(セメント硬化体)を形成し得る、セメント組成物用添加剤、セメントスラリー及びセメント組成物を提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント組成物用添加剤に関する。また、本発明は、該セメント組成物用添加剤と、水と、セメントとを含むセメントスラリーやセメント組成物に関するものでもある。【選択図】なし

Description

本発明は、セメント組成物用添加剤、セメントスラリー、セメント組成物及びセメント硬化体に関する。
セメント組成物を硬化させてなるコンクリートは、建築物や土木構造物等に用いられている。従来、コンクリートは、耐久性や耐火性に優れており、また安価であることから建築や土木分野において多用されている。
近年は、建築物の高層化や大型化に伴い、より高強度のコンクリートが求められており、例えば、セメント組成物に繊維状物を添加することでコンクリートの強度を高める技術が検討されている。例えば、特許文献1には、高流動性コンクリートにエチレンビニルアルコール共重合体からなる繊維を配合してなるセメント組成物が開示されている。
また、セメント組成物に、セルロース由来物を配合することで強度や耐久性に優れたコンクリートを製造する技術も検討されている。例えば、特許文献2には、粉末状セルロースを含有するセメント組成物が開示されている。また、特許文献3には、ナノフィブリル化セルロースを気体混入安定剤としてセメント質材料に用いることが開示されている。
さらに、特許文献4には、セメントと、セルロースナノファイバーと、水とを含有するセメント組成物が開示されている。特許文献4には、セルロースの官能基を改質しないことが好ましい旨の記載があり、実施例では、セルロースの官能基が改質されていない未変性のセルロースナノファイバーを用いてセメント組成物が形成されている。
特開2004-331428号公報 国際公開第2018/056124号 特表2016-534018号公報 特開2019‐131452号公報
上述したように、セメント組成物にセルロース繊維を配合することで、コンクリートを改質することが検討されている。しかしながら、従来技術で得られるコンクリートにおいてもその強度(圧縮強度や曲げ強度)は十分であるとは言えず、さらなる改善や改良が求められていた。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、優れた強度(圧縮強度や曲げ強度)を有するコンクリート(セメント硬化体)を形成し得る、セメント組成物用添加剤、セメントスラリー及びセメント組成物を提供することを目的として検討を進めた。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント組成物用添加剤。
[2] ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸系減水剤である、[1]に記載のセメント組成物用添加剤。
[3] ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸エーテル系化合物である、[1]又は[2]に記載のセメント組成物用添加剤。
[4] 繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物用添加剤。
[5] イオン性置換基がアニオン性基である、[1]~[4]のいずれかに記載のセメント組成物用添加剤。
[6] イオン性置換基がリンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基、ザンテート基に由来する置換基、カルボキシ基及びカルボキシ基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のセメント組成物用添加剤。
[7] イオン性置換基がリンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基及びザンテート基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載のセメント組成物用添加剤。
[8] イオン性置換基を有する繊維状セルロースを1質量%濃度のスラリーとし、23℃、回転数3rpmの条件で測定した場合の前記スラリーのB型粘度が100~10,000cPである、[1]~[7]のいずれかに記載のセメント組成物用添加剤。
[9] イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを含む、セメントスラリー。
[10] セメント100質量部に対する繊維状セルロースの含有量が0.3質量部以上である、[9]に記載のセメントスラリー。
[11] セメント100質量部に対するポリカルボン酸系化合物の含有量が0.5~30質量部である、[9]又は[10]に記載のセメントスラリー。
[12] 粘度が35,000cP未満である、[9]~[1]のいずれかに記載のセメントスラリー。
[13] イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントと、骨材と、を含む、セメント組成物。
[14] セメント100質量部に対する繊維状セルロースの含有量が0.3質量部以上である、[13]に記載のセメント組成物。
[15] セメント100質量部に対するポリカルボン酸系化合物の含有量が0.5~30質量部である、[13]又は[14]に記載のセメント組成物。
[16] [9]~[12]のいずれかに記載のセメントスラリー、もしくは、[14]~[15]のいずれかに記載のセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体。
(A) イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを混合することを含む、セメントスラリー、セメント組成物またはセメント硬化体の製造方法。
(B) イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント添加剤、コンクリート強化剤、コンクリート改良剤、セメント強化剤またはセメント改良剤。
(C)セメントに、イオン性置換基を有する繊維状セルロースおよびポリカルボン酸系化合物を混合することを含む、コンクリート強化方法、コンクリート改良方法、セメント強化方法またはセメント改良方法。
本発明によれば、優れた強度(圧縮強度や曲げ強度)を有するコンクリート(セメント硬化体)を形成し得る、セメント組成物用添加剤、セメントスラリー及びセメント組成物を得ることができる。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
(セメント組成物用添加剤)
本発明は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント組成物用添加剤に関する。本発明のセメント組成物用添加剤は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物を含有するため、セメントと混合することで優れた強度(圧縮強度や曲げ強度)を有するコンクリート(セメント硬化体)を形成することができる。なお、セメント組成物用添加剤の形態は、固形状、液状もしくはゲル状であってもよい。セメント組成物用添加剤が固形状である場合、セメント組成物用添加剤は粉粒状であってもよい。また、セメント組成物用添加剤が液状である場合、セメント組成物用添加剤はセメントと混合する水の一部又は全部を含むものであってもよい。
本実施形態においては、ポリカルボン酸系化合物は、セメントスラリー及びセメント組成物において減水剤としての機能を主に発揮する助剤である。すなわち、ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸系減水剤であることが好ましい。
従来、セメント組成物に繊維状物を添加することが検討されているが、添加する繊維状物の種類によっては、セメント組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、施工できないといった不具合が生じる場合があった。また、従来のセメント組成物においては、繊維状物と助剤とが凝集してしまうといった不具合が発生する場合もあった。そして、このような場合、セメント組成物を調製できないか、あるいはセメント組成物を用いて施工した場合であっても、高強度のコンクリート(セメント硬化体)を得ることができないといった問題があった。そこで、本発明者らは、従来技術の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、イオン性置換基を有する繊維状セルロースとポリカルボン酸系化合物とを組み合わせて用いることにより、セメントスラリーやセメント組成物中において繊維状物と助剤とが凝集することなく分散し、その結果、高強度のコンクリート(セメント硬化体)が得られることを見出した。イオン性置換基を有する繊維状セルロースとポリカルボン酸は、どちらもマイナスに帯電しているため、セメント組成物中において、両者が互いに反発し合うことで、繊維状物と助剤が凝集することなく分散するものと考えられる。また、ポリカルボン酸の立体障害効果も分散に寄与しているものと考えられる。そして、繊維状物と助剤とが凝集することなく分散しているセメント組成物を用いてコンクリート(セメント硬化体)を形成した際には、圧縮強度や曲げ強度に優れたコンクリート(セメント硬化体)が得られる。さらに、本発明者らは、イオン性置換基を有する繊維状セルロースとポリカルボン酸系化合物とを組み合わせて用いた場合に、セメントスラリーやセメント組成物の粘度が高くなりすぎることを抑制できることも見出し、本発明を完成するに至った。
また、本実施形態においては、セメントスラリーやセメント組成物の補強繊維として繊維状セルロースが用いられている。繊維状セルロースは天然繊維であるため、環境負荷を低減する効果も期待できる。
(繊維状セルロース)
繊維状セルロースは、イオン性置換基を有する。イオン性置換基としては、例えばアニオン性基及びカチオン性基のいずれか一方又は双方を含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。また、イオン性置換基は、エステル結合またはエーテル結合を介して繊維状セルロースに導入される基であることが好ましく、エステル結合を介して繊維状セルロースに導入される基であることがより好ましい。
イオン性置換基としてのアニオン性基としては、例えばリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基又はカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)、ザンテート基又はザンテート基に由来する置換基、ホスホン基又はホスホン基に由来する置換基、ホスフィン基又はホスフィン基に由来する置換基、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基、カルボキシアルキル基(カルボキシメチル基やカルボキシエチル基を含む)等を挙げることができる。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基、ザンテート基に由来する置換基、カルボキシ基及びカルボキシ基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基及びザンテート基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基であることが特に好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、たとえば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、繊維状セルロースの分散性をより高めることができ、結果として強度(圧縮強度や曲げ強度)に優れたコンクリート(セメント硬化体)が得られやすくなる。
イオン性基がカチオン性基の場合、カチオン性基としては、たとえばアンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Figure 2023004974000001
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはOであり、残りはR又はORである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO)、ヒドロキシ基、アミノ基及びアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、繊維状セルロースの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、例えば下記式(2)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Figure 2023004974000002
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
繊維状セルロースがイオン性置換基を有する場合、イオン性置換基の導入量は、例えば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.50mmol/g以下であることが一層好ましく、2.00mmol/g以下であることが特に好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、セメントスラリーやセメント組成物中において繊維状セルロースが凝集することをより効果的に抑制することができるため、セメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)の強度をより効果的に高めることもできる。
イオン性置換基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり0.05mmol/g未満であってもよい。アニオン性基の含有量(導入量)が上記範囲内にある繊維状セルロースは、例えば、繊維状セルロースに導入したアニオン性基を除去して得られるものであってもよい。このような場合、繊維状セルロースは置換基除去処理後の繊維状セルロースであってよい。
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(又はリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
図2は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、例えば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(例えば、Naは23、Alは9)
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
また、繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基又はスルホン基の導入量は、繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料の硫黄量を測定することで算出することができる。具体的には、繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した後、適宜希釈してICP-OESで硫黄量を測定する。供試した繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を繊維状セルロースの硫黄オキソ酸基又はスルホン基量(単位:mmol/g)とする。
繊維状セルロースに対するザンテート基量の導入量は、Bredee法により以下の方法で測定することができる。まず、繊維状セルロース1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄する。次いで、サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌し、15分間放置する。溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とする。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加する。そして、この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、チオ硫酸ナトリウムの滴定量、繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出する。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/繊維状セルロースの絶乾質量(g)
本実施形態に用いる繊維状セルロースの繊維幅は特に限定されない。例えば、繊維状セルロースの繊維幅は1000nmよりも大きいものであってもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きい繊維状セルロースと、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースが混在していてもよい。なお、繊維状セルロースが、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む場合、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースやCNFと呼ぶこともある。
繊維状セルロースに含まれる微細繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。なお、微細繊維状セルロースの平均繊維幅は1000nm以下であることが好ましい。例えば、微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。なお、微細繊維状セルロースは、単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅が1000nm以下の場合においても、繊維状セルロースは繊維幅が1000nmよりも大きいものを含んでいてもよい。繊維状セルロースの繊維幅が1000nmよりも大きいものである場合、繊維状セルロースの繊維幅は、カヤーニ繊維長測定器(カヤーニオートメーション株式会社製、FS-200形)を用いて測定する。一方、繊維状セルロースの繊維幅が1000nm以下である場合、繊維状セルロースの繊維幅は、例えば以下のように電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上1500μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1000μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。さらに、繊維状セルロースの繊維長を上記範囲内とすることにより、後述するセメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)は、優れた圧縮強度および曲げ強度を発揮しやすくなる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、例えばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、例えば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースは、結晶領域と非結晶領域をともに有していてもよい。結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が上記範囲内にある繊維状セルロースは、後述する繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
繊維状セルロースは低粘度の繊維状セルロースであることが好ましい。具体的には、繊維状セルロースを1質量%濃度のスラリーとした際、該スラリーの粘度は、1cP以上であることが好ましく、100cP以上であることがより好ましい。また、該スラリーの粘度は、80,000cP以下であることが好ましく、35,000cP以下であることがより好ましく、10,000cP以下であることがさらに好ましく、5000cP以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースを1質量%濃度のスラリーとした際、該スラリーの粘度は、好ましくは1~80,000cPであり、より好ましくはセメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)が優れた圧縮強度および曲げ強度を発揮しやすくなる点で、100~10,000cPであり、さらに好ましくは200~9,000cPである。スラリーの粘度は、繊維状セルロース濃度を1質量%に調整したスラリーを1,500rpmで5分間、ディスパーサーにて撹拌した後、測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、B型粘度計を用いて23℃、回転数3rpmの条件で測定する。B型粘度計としては、BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVTを用いることができる。測定条件は、たとえば液温23℃にて、粘度計の回転数は3rpmにて測定を行い、測定開始から3分のときの粘度値を当該スラリーの粘度とする。
(繊維状セルロースの製造方法)
<繊維原料>
繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、例えば木材パルプ、非木材パルプ、及び脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、例えば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)及び酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)及びケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、例えばコットンリンター及びコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら及びバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、例えば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、例えば木材パルプ及び脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、例えば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、例えばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リンオキソ酸基導入工程>
繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程を含むことが好ましく、イオン性置換基導入工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態又はスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態又は湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、例えば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物A及び化合物Bは、それぞれ粉末状又は溶媒に溶解させた溶液状又は融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸又は脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩又は亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、又は亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、例えば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、例えば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、及び1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、例えばアミド類又はアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、例えば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、例えば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、例えばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、例えば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば繊維原料1g(質量)あたり0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、例えば繊維原料1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.50mmol/g以下であることが一層好ましく、2.00mmol/g以下であることが特に好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、セメントスラリーやセメント組成物中において繊維状セルロースが凝集することをより効果的に抑制することができるため、セメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)の強度をより効果的に高めることもできる。
<カルボキシ基導入工程>
繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、又はカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、例えばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、例えばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、例えば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、例えばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、繊維原料1g(質量)あたり0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましく、2.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.00mmol/g以下であることが一層より好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシ基の導入量は、繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、セメントスラリーやセメント組成物中において繊維状セルロースが凝集することをより効果的に抑制することができるため、セメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)の強度をより効果的に高めることもできる。
<硫黄オキソ酸基導入工程>
繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、硫黄オキソ酸基導入工程を含んでもよい。硫黄オキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、硫黄オキソ酸基を有するセルロース繊維(硫黄オキソ酸基導入繊維)を得ることができる。
硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、硫黄オキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩又は亜硫酸塩としては、硫酸塩又は亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
硫黄オキソ酸基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫黄オキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.50mmol/g以上であることが特に好ましい。また、セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、セメントスラリーやセメント組成物中において繊維状セルロースが凝集することをより効果的に抑制することができるため、セメントスラリーやセメント組成物から形成されるコンクリート(セメント硬化体)の強度をより効果的に高めることもできる。
<塩素系酸化剤による酸化工程(第二のカルボキシ基導入工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、塩素系酸化剤による酸化工程を含んでもよい。塩素系酸化剤による酸化工程では、塩素系酸化剤を湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸、亜塩素酸塩、塩素酸、塩素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、二酸化塩素などが挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から、塩素系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素であることが好ましい。塩素系酸化剤を添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤の溶液中濃度は、たとえば有効塩素濃度に換算して、1質量%以上1,000質量%以下であることが好ましく、5質量%以上500質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。塩素系酸化剤の繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上5,000質量部以下であることがさらに好ましい。
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤との反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。反応時のpHは、5以上15以下であることが好ましく、7以上14以下であることがより好ましく、9以上13以下であることがさらに好ましい。また、反応開始時、反応中のpHは塩酸や水酸化ナトリウムを適宜添加しながら一定(たとえば、pH11)を保つことが好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<ザンテート基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、ザンテート基導入工程を含んでもよい。ザンテート基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基を下記式(3)で表されるザンテート基で置換することで、ザンテート基を有するセルロース繊維(ザンテート基導入繊維)を得ることができる。
―OCSS……(3)
ここで、Mは水素イオン、一価金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族又は芳香族アンモニウムイオンから選ばれる少なくとも一種である。
ザンテート基導入工程では、まず、上記セルロースを含む繊維原料をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理を行って、アルカリセルロースを得る。アルカリ溶液としては、水酸化アルカリ金属水溶液、水酸化アルカリ土類金属水溶液などが挙げられる。中でも、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることが特に好ましい。アルカリ溶液が水酸化アルカリ金属水溶液の場合、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、水酸化アルカリ金属水溶液中の水酸化アルカリ金属濃度は9質量%以下であることが好ましい。水酸化アルカリ金属濃度を上記下限値以上とすることにより、セルロースのマーセル化を十分に進行させることができ、その後のザンテート化の際に生じる副生成物の量を減らすことができ、結果として、ザンテート基導入繊維の収率を高めることができる。これにより、後述する解繊処理をより効果的に行うことができる。また、水酸化アルカリ金属濃度を上記上限値以下とすることにより、マーセル化を進行させつつも、セルロースの結晶領域にまで水酸化アルカリ金属水溶液が浸透することを抑制することができるため、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、微細繊維状セルロースの収率をより高めることができる。
上記アルカリ処理の時間は、30分間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。また、アルカリ処理の時間は、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。アルカリ処理の時間を上記範囲内とすることにより、最終的な収率を高めることができ、生産性を高めることができる。
上記アルカリ処理で得られたアルカリセルロースは、その後に固液分離して水溶液分をできるだけ除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるザンテート化処理時の水分含有量を減らすことができ、反応を促進できる。固液分離の方法としては、例えば遠心分離や濾別などの一般的な脱水方法を用いることができる。なお、固液分離後のアルカリセルロースに含まれる水酸化アルカリ金属の濃度は固液分離後のアルカリセルロースの全質量に対して3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
ザンテート基導入工程では、アルカリ処理の後にザンテート化処理工程を行う。ザンテート化処理工程ではアルカリセルロースに二硫化炭素(CS)を反応させて、(-ONa)基を(-OCSSNa)基にしてザンテート基導入繊維を得る。なお、上記において、アルカリセルロースに導入された金属イオンは、代表してNaで記述しているが、他のアルカリ金属イオンでも同様の反応が進行する。
ザンテート化処理では、アルカリセルロース中のセルロースの絶乾質量に対して、10質量%以上の二硫化炭素を供給することが好ましい。また、ザンテート化処理において、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は、30分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。アルカリセルロースに二硫化炭素が接触することでザンテート化は速やかに進行するが、アルカリセルロースの内部にまで二硫化炭素が浸透するには時間がかかるため、反応時間を上記範囲とすることが好ましい。一方で、二硫化炭素とアルカリセルロースとが接触する時間は6時間以下であればよく、これにより脱水後のアルカリセルロースの塊に対しても十分に浸透が進んで、反応可能なザンテート化をほぼ完了させることができる。
ザンテート化処理における反応温度は、46℃以下であることが好ましい。反応温度を上記範囲内とすることにより、アルカリセルロースの分解を抑制し易くなる。また、反応温度を上記範囲内とすることにより、均一に反応し易くなるため、副生成物の生成を抑制でき、さらには、生成したザンテート基の除去を抑制することもできる。
<ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)を含んでもよい。ホスホアルキル化工程では、必須成分として、反応性基とホスホ基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にホスホン基またはホスフィン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、たとえばビニルホスホン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物Eはビニルホスホン酸であることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)を含んでもよい。スルホアルキル化では、必須成分として、反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物E)と、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にスルホン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からビニル化合物Eはスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、15分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<カルボキシアルキル化工程(第三のカルボキシ基導入工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、カルボキシアルキル化工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、3分間以上500分間以下であることがより好ましく、5分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<カチオン性基導入工程(カチオン化工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、カチオン性基導入工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカチオン性基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカチオン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
カチオン性基としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
化合物Eとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましい。添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<洗浄工程>
本実施形態における繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<アルカリ処理工程>
繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程の後に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水又は有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、又はアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、例えば水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、例えばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
アルカリ処理は、微細繊維状セルロースがアニオン性基を有する場合は、そのアニオン性基の中和処理・イオン交換処理であってもよい。この場合、アルカリ溶液の温度は室温であることが好ましい。
<酸処理工程>
繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程の後に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、イオン性置換基導入工程、酸処理及びアルカリ処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、例えば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、例えば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、例えば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸又は硫酸を用いることが特に好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、例えば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、例えば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
<解繊処理工程>
本実施形態において、繊維状セルロースの繊維幅が1000nm以下である場合、繊維状セルロースの製造工程には、イオン性置換基導入繊維を解繊処理する工程が設けられる。イオン性置換基導入繊維を解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、例えば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、又はビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、例えばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、及び極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種又は2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
<その他処理工程>
本実施形態において、繊維状セルロースの製造工程には、酵素処理、オゾン処理工程、低粘度酸処理工程及び亜臨界水処理工程から選択される少なくとも1種の低粘度化処理が設けられていてもよい。低粘度化処理は解繊処理工程の前に設けられてもよく、解繊処理工程の後に設けられてもよい。また、解繊を複数回行う場合は、途中まで解繊を行った後に低粘度化処理を行い、さらに残りの解繊を行ってもよい。低粘度化処理を施すことで、得られるセメントスラリーやセメント組成物の粘度が上昇することを効果的に抑制することができ、これにより、繊維状セルロース添加量を増やすことができ、圧縮強度や曲げ強度をより効果的に高めることができる。また、低粘度化処理を施すことで、コンクリート施工時のワーカビリティ(作業性)を高めることもできる。
<酵素処理工程>
酵素処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加する。この際に用いる酵素は、セルラーゼ系酵素であることが好ましい。セルラーゼ系酵素は、セルロースの加水分解反応機能を有する触媒ドメインの高次構造に基づく糖質加水分解酵素ファミリーに分類される。セルラーゼ系酵素はセルロース分解特性によってエンド型グルカナーゼ(endo-glucanase)とセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase)に大別される。エンド型グルカナーゼはセルロースの非晶部分や可溶性セロオリゴ糖、又はカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体に対する加水分解性が高く、それらの分子鎖を内側からランダムに切断し、重合度を低下させる。これに対して、セロビオヒドロラーゼはセルロースの結晶部分を分解し、セロビオースを与える。また、セロビオヒドロラーゼはセルロース分子の末端から加水分解し、エキソ型或いはプロセッシブ酵素とも呼ばれる。酵素処理工程において使用する酵素は特に限定されるものではないが、エンド型グルカナーゼを使用することが好ましい。
酵素処理工程では、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が0.1nkat以上となるよう酵素を添加することが好ましく、1.0nkat以上となるよう酵素を添加することがより好ましく、10nkat以上となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が100000nkat以下となるよう酵素を添加することが好ましく、50000nkat以下となるよう酵素を添加することがより好ましく10000nkat以下となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加した後には、0℃以上80℃未満の条件下で1分以上100時間以下処理を行い、その後、80℃以上の条件下に置くなどして酵素を失活させることが好ましい。
<オゾン処理工程>
オゾン処理工程では、密閉容器中で微細繊維状セルロース分散液(スラリー)にオゾンを添加する。オゾンを添加する際には、例えば、オゾン/酸素混合気体として添加することが好ましい。この際、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)中に含まれる微細繊維状セルロース1gに対するオゾン添加量は、1.0×10-4g以上とすることが好ましく、1.0×10-3g以上とすることがより好ましく、1.0×10-2g以上とすることがさらに好ましい。なお、微細繊維状セルロース1gに対するオゾン添加量は、1.0×10g以下とすることが好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)にオゾンを添加した後には、10℃以上50℃以下の条件下で10秒以上10分以下撹拌を行い、その後、1分以上100分以下静置することが好ましい。
<低粘度酸処理工程>
低粘度酸処理工程は、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸、スルホン酸(例えばメタンスルホン酸)等と混合する工程である。中でも、低粘度酸処理工程は、次亜塩素酸と混合する工程(次亜塩素酸処理工程)であることが好ましい。次亜塩素酸処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に次亜塩素酸ナトリウムを用いることができる。次亜塩素酸ナトリウムの添加量は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-4g以上であることが好ましく、1.0×10-3g以上であることがより好ましく、1.0×10-2g以上であることがさらに好ましく、1.0×10-1g以上であることが特に好ましい。また、次亜塩素酸ナトリウム添加量は微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10g以下であることが好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に次亜塩素酸ナトリウムを添加した後には、10℃以上50℃以下の条件下で1分以上10時間以下撹拌を行うことが好ましい。
<亜臨界水処理工程>
亜臨界水処理工程では、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に高温高圧処理を施し、亜臨界状態とする。微細繊維状セルロースは亜臨界状態において加水分解される。具体的には、微細繊維状セルロース分散液(スラリー)を反応容器に入れた後、150℃以上500℃以下、好ましくは150℃以上350℃以下となるまで昇温し、反応容器内の圧力を10MPa以上80MPa以下、好ましくは10MPa以上20MPa以下に加圧する。この際の加熱加圧時間は0.1秒以上100秒以下であることが好ましく、3秒以上50秒以下であることがより好ましい。
(ポリカルボン酸系化合物)
ポリカルボン酸系化合物は、セメントスラリーやセメント組成物において減水剤としての機能を発揮する助剤(コンクリート用混和剤)であることが好ましい。ここで、セメントスラリーやセメント組成物における減水剤とは、コンクリート組成物中の水量を低減させる一方で、セメントスラリーやセメント組成物の流動性を高める働きをするものである。
ポリカルボン酸系化合物はポリカルボン酸系減水剤であることが好ましい。ポリカルボン酸系減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸エーテル系化合物、ポリカルボン酸エーテル系化合物と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系化合物と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系化合物と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系化合物、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。中でも、ポリカルボン酸系減水剤は、ポリカルボン酸エーテル系化合物であることが好ましい。ポリカルボン酸エーテル系化合物としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ポゾリスソリューションズ株式会社製のマスターグレニウムSP8SV、竹本油脂株式会社製のチューポールHP-11、株式会社フローリック製のフローリックSF500S等を用いることができる。上記ポリカルボン酸系減水剤は、2種類以上を併用して用いてもよい。
セメントスラリーやセメント組成物がポリカルボン酸系化合物を含む場合、セメントスラリーやセメント組成物として必要な水の添加量を低減させることができる。また、ポリカルボン酸系化合物は、セメントスラリーやセメント組成物中に含まれる水の量が少ない場合であっても、セメントスラリーやセメント組成物の粘度の上昇を効果的に抑制することができる。すなわち、ポリカルボン酸系化合物は、セメントスラリーやセメント組成物中に配合されることで、セメントスラリーやセメント組成物の流動性をより効果的に高めることができる。このため、ポリカルボン酸系化合物を含むセメントスラリーやセメント組成物においては、コンクリート(セメント硬化体)の補強繊維となる繊維状セルロースの添加量を増やすことができる。このように、セメントスラリーやセメント組成物中にポリカルボン酸系化合物を配合することで、施工に適した粘度を有するセメントスラリーセメント組成物であって、かつ高強度のコンクリート(セメント硬化体)を形成し得るセメントスラリーセメント組成物を得ることができる。
セメント組成物用添加剤中におけるポリカルボン酸系化合物の含有量をPとし、セメント組成物用添加剤中における繊維状セルロースの含有量をQとした場合であって、繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合、Pは0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、1.20以上であることがさらに好ましく、3.00以上であることが特に好ましい。繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合のPの上限は特に限定されるものではないが、100.00以下が好ましく、50.00以下であることがより好ましく、10.00以下であることがさらに好ましく、6.00以下であることが特に好ましい。
(任意成分)
セメント組成物用添加剤には、上述したポリカルボン酸系化合物に加えて、本発明の効果を損なわない範囲において他の減水剤を配合してもよい。例えば、他の減水剤としては、ナフタレン系減水剤、メラミン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、等を挙げることができる。なお、本実施形態において、セメント組成物用添加剤がポリカルボン酸系化合物に加えて他の減水剤を有する場合、他の減水剤の配合量は、ポリカルボン酸系化合物の配合量以下であることが好ましい。
また、セメント組成物用添加剤は、上述した成分の他にさらに任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、界面活性剤、空気連行剤、流動化剤、撥水剤、膨張剤、防錆剤、硬化促進剤、セメント湿潤剤、防水剤、乾燥収縮低減剤、消泡剤等を挙げることができる。また、セメント組成物用添加剤は、任意成分として、親水性高分子、親水性低分子、有機イオン等を含有していてもよい。
任意成分の含有量は、セメント組成物用添加剤の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
(セメントスラリー)
本実施形態は、上述したセメント組成物用添加剤と、水と、セメントとを含む、セメントスラリーに関するものであってもよい。すなわち、本実施形態におけるセメントスラリーは、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロース、上述したポリカルボン酸系化合物、セメント及び水を含む。本明細書においては、セメントスラリーは、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロース、上述したポリカルボン酸系化合物、セメント及び水を含むスラリーであって、骨材を含まないスラリーであることが好ましい。
セメントスラリーに用いられるセメントは、特に限定されるものではない。セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩等のポルトランドセメント、低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント等の低発熱セメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、リン酸マグネシウムセメント等の超速硬セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、グラウト用セメント、油井セメント、超高強度セメントなどの水硬性セメント等が挙げられる。また、気硬性セメントとして石膏、石灰等を用いることもできる。中でも、セメントとしては、ポルトランドセメントを用いることが好ましい。セメントとしてポルトランドセメントを用いることで、高強度でありかつ耐久性に優れたコンクリート(セメント硬化体)が得られやすくなる。
セメントスラリー中における水の含有量は、セメント100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は、セメント100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましく、65質量部以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態においては、セメントスラリーは、ポリカルボン酸系化合物を含むため、セメントに対する水量を少なく抑えた場合でも、その流動性が高く維持されている。これにより、補強繊維として、繊維状セルロースを多く含むことが可能となり、結果として、コンクリート(セメント硬化体)の強度を効果的に高めることができる。
イオン性置換基を有する繊維状セルロースの含有量は、セメント100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましく、0.5質量部以上であることがより特に好ましい。また、イオン性置換基を有する繊維状セルロースの含有量は、セメント100質量部に対して、10.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましく、4.0質量部以下であることがさらに好ましく、2.0質量部以下であることが特に好ましい。
ポリカルボン酸系化合物の含有量は、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。ポリカルボン酸系化合物の含有量は、セメント100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
セメントスラリー中におけるポリカルボン酸系化合物の含有量をPとし、セメントスラリー中における繊維状セルロースの含有量をQとした場合であって、繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合、Pは0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、1.20以上であることがさらに好ましく、3.00以上であることが特に好ましい。繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合のPの上限は特に限定されるものではないが、100.00以下が好ましく、50.00以下であることがより好ましく、10.00以下であることがさらに好ましく、6.00以下であることが特に好ましい。
セメントスラリーの粘度は、35,000cP未満であることが好ましく、30,000cP未満であることがより好ましく、28,000cP未満であることがさらに好ましく、25,000cP未満であることが特に好ましい。また、セメントスラリーの粘度は、1000cP以上であることが好ましい。セメントスラリーの粘度を上記範囲内とすることにより、セメントスラリーの施工が可能となり、さらに施工する際の取り扱い容易性を高めることができる。セメントスラリーの粘度は、セメントスラリーを、50mL容量のPET製スクリュー管瓶に充填し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて粘度を測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始2分40秒後から3分後の粘度値の平均を当該セメントスラリーの粘度とした。測定時のセメントスラリーの液温は23℃であった。
セメントスラリーは任意成分を含んでいてもよい。意成分としては、セメント組成物用添加剤が含み得る任意成分を挙げることができる。
(セメントスラリーの製造方法)
セメントスラリーの製造方法は、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、上述したポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを混合する工程を含む。ここで、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、上述したポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとの混合の順番は、特に限定されず、所望の形状に成形及び硬化させる前のセメントスラリー中に所定のイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とが存在すればよい。セメントスラリー中に所定のイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とが存在することは、電子顕微鏡観察や赤外吸収分光法により分析することができる。
セメントスラリーの製造方法は、好ましくは、調製が容易な観点から、水に、上述したセメント組成物用添加剤を混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。あるいは、セメントスラリーの製造方法は、好ましくは、イオン性置換基を有する繊維状セルロースまたはポリカルボン酸系化合物を含む水に、ポリカルボン酸系化合物またはイオン性置換基を有する繊維状セルロースをそれぞれ混合し、さらにセメントを混合する工程を含み、より好ましくは、調製において凝集が生じにくい観点から、水にポリカルボン酸系化合物に混合してから、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。なお、セメントスラリーが任意成分を含む場合、これらの任意成分は、セメントと水の混合物に添加されてもよく、セメント組成物用添加剤と一緒に、後工程で添加されてもよい。
なお、セメントスラリーの製造方法は、ポリカルボン酸系化合物、セメント及び水を含む組成物に、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを添加する工程を含むものであってもよい。セメントスラリーが任意成分を含む場合、これらの任意成分の添加順序は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを添加する前であってもよく、後であってもよい。
(セメント組成物)
本実施形態は、上述したセメント組成物用添加剤と、水と、セメントと、骨材とを含む、セメント組成物に関するものであってもよい。すなわち、本実施形態におけるセメント組成物は、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロース、上述したポリカルボン酸系化合物、セメント、水及び骨材を含む。
セメント組成物に用いられるセメントは、特に限定されるものではなく、上述したセメントスラリーに用いられるセメントと同様のものを例示することができる。
セメント組成物中における水の含有量は、セメント100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は、セメント100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましく、65質量部以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態においては、セメント組成物は、ポリカルボン酸系化合物を含むため、セメントに対する水量を少なく抑えた場合でも、その流動性が高く維持されている。これにより、補強繊維として、繊維状セルロースを多く含むことが可能となり、結果として、コンクリート(セメント硬化体)の強度を効果的に高めることができる。
イオン性置換基を有する繊維状セルロースの含有量は、セメント100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましく、0.5質量部以上であることがより特に好ましい。また、イオン性置換基を有する繊維状セルロースの含有量は、セメント100質量部に対して、10.0質量部以下であることが好ましく、7.0質量部以下であることがより好ましく、4.0質量部以下であることがさらに好ましく、2.0質量部以下であることが特に好ましい。
ポリカルボン酸系化合物の含有量は、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。また、ポリカルボン酸系化合物の含有量は、セメント100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
セメント組成物中におけるポリカルボン酸系化合物の含有量をPとし、セメント組成物中における繊維状セルロースの含有量をQとした場合であって、繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合、Pは0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、1.20以上であることがさらに好ましく、3.00以上であることが特に好ましい。繊維状セルロースの含有量Qを1とした場合のPの上限は特に限定されるものではないが、100.00以下が好ましく、50.00以下であることがより好ましく、10.00以下であることがさらに好ましく、6.00以下であることが特に好ましい。
セメント組成物は、骨材を含む。骨材としては、細骨材、粗骨材等を用いることができる。ここで、細骨材は、10mmふるいを全て通過し、5mmふるいを85質量%以上通過する骨材である。このような細骨材としては、例えば、川砂、海砂、山砂、珪砂、ガラス砂、鉄砂、灰砂、人工砂等が挙げられる。一方、粗骨材は、粒径が5mm以上のものを85質量%以上含有する骨材である。粗骨材としては、例えば、レキ、砂利、砕石、スラグ、各種人工軽量骨材等が挙げられる。
また、骨材(細骨材、粗骨材)としては、コンクリートから取り出された再生骨材や耐火骨材を用いることもできる。耐火骨材としては、珪石質、珪砂粉、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等が挙げられる。
セメント組成物は、上記成分に加えて、さらに任意成分を含有していてもよい。任意成分としては、セメント組成物用添加剤が含み得る任意成分を挙げることができる。
セメント組成物の空気量は、0.1%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。また、空気量は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましい。セメント組成物の空気量の測定はJIS A 1128:2014に準拠して測定される。セメント組成物の空気量を上記範囲無いとすることにより、セメント組成物の流動性を高め、セメント硬化体の強度を高めることができる。
(セメント組成物の製造方法)
セメント組成物の製造方法は、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、上述したポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを混合する工程を含む。ここで、上述したイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、上述したポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとの混合の順番は、特に限定されず、所望の形状に成形及び硬化させる前のセメント組成物中に所定のイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とが存在すればよい。セメント組成物中に所定のイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とが存在することは、電子顕微鏡観察や赤外吸収分光法により分析することができる。
セメント組成物の製造方法は、好ましくは、調製が容易な観点から、水に、上述したセメント組成物用添加剤を混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。あるいは、セメント組成物の製造方法は、好ましくは、イオン性置換基を有する繊維状セルロースまたはポリカルボン酸系化合物を含む水に、ポリカルボン酸系化合物またはイオン性置換基を有する繊維状セルロースをそれぞれ混合し、さらにセメントを混合する工程を含み、より好ましくは、調製において凝集が生じにくい観点から、水にポリカルボン酸系化合物に混合してから、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。なお、セメント組成物が骨材等の任意成分を含む場合、これらの任意成分は、セメントと水の混合物に添加されてもよく、セメント組成物用添加剤と一緒に、後工程で添加されてもよい。
なお、セメント組成物の製造方法は、ポリカルボン酸系化合物、セメント及び水を含む組成物に、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを添加する工程を含むものであってもよい。本発明は、ポリカルボン酸系化合物、セメント及び水を含む組成物に、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを添加する方法に関するものであってもよい。セメント組成物が骨材等の任意成分を含む場合、これらの任意成分の添加順序は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを添加する前であってもよく、後であってもよい。
(コンクリート(セメント硬化体))
本実施形態は、上述したセメントスラリーやセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体(以下、単に硬化体ともいう)に関するものであってもよい。セメント硬化体は、セメントスラリーやセメント組成物を所望の形状に成形及び硬化させてなる硬化物である。硬化体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、湿式抄造成形法、押出成形、注型成形法等によって成形される。次いで、気中養生、水中養生、蒸気養生等によって上記セメント組成物を硬化させることで硬化体が得られる。なお、養生の際には、例えば上記セメント組成物を型枠に流し込み、型枠ごと養生してもよいし、型枠から脱型した成形体を養生してもよい。
上述したセメント硬化体の圧縮強度増加率は、101%以上であることが好ましく、102%以上であることがより好ましく、105%以上であることがさらに好ましく、110%以上であることが一層好ましく、120%以上であることが特に好ましい。硬化体の圧縮強度増加率の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、2000%以下であることが好ましい。なお、硬化体の圧縮強度増加率は、以下の式により算出される値である。
圧縮強度増加率(%)=本実施形態における硬化体の圧縮強度/基準配合の硬化体の圧縮強度×100
ここで、硬化体の圧縮強度は、JIS A 1108:2018に準拠して測定される。基準配合の硬化体とは、本実施形態のセメント組成物から繊維状セルロースと減水剤(助剤)を除いた組成物を用いて成形した硬化体である。
上述したセメント硬化体の曲げ強度増加率は、101%以上であることが好ましく、102%以上であることがより好ましく、110%以上であることがさらに好ましく、120%以上であることが特に好ましい。硬化体の曲げ強度増加率の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、2000%以下であることが好ましい。なお、硬化体の曲げ強度増加率は、以下の式により算出される値である。
曲げ強度増加率(%)=本実施形態における硬化体の曲げ強度/基準配合の硬化体の曲げ強度×100
ここで、硬化体の曲げ強度は、JIS A 1106:2018に準拠して測定される。基準配合の硬化体とは、本実施形態のセメント組成物から繊維状セルロースと減水剤(助剤)を除いた組成物を用いて成形した硬化体である。
(その他製造方法等)
本発明は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを混合することを含む、セメントスラリー、セメント組成物またはセメント硬化体の製造方法に関するものであってもよい。イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとの混合の順番は、特に限定されず、所望の形状に成形及び硬化させる前のセメントスラリー中に所定のイオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とが存在すればよい。好ましくは、上記製造方法は調製が容易な観点から、水に、上述した繊維状セルロース含有組成物を混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。あるいは、上記製造方法は、好ましくは、イオン性置換基を有する繊維状セルロースまたはポリカルボン酸系化合物を含む水に、ポリカルボン酸系化合物またはイオン性置換基を有する繊維状セルロースをそれぞれ混合し、さらにセメントを混合する工程を含み、より好ましくは、調製において凝集が生じにくい観点から、水にポリカルボン酸系化合物に混合してから、イオン性置換基を有する繊維状セルロースを混合し、さらにセメントを混合する工程を含む。なお、セメントスラリーやセメント組成物が任意成分を含む場合、これらの任意成分は、セメントと水の混合物に添加されてもよく、繊維状セルロース含有組成物と一緒に、後工程で添加されてもよい。
本発明は、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント添加剤、コンクリート強化剤、コンクリート改良剤、セメント強化剤またはセメント改良剤に関するものであってもよい。本明細書において、セメント添加剤とは、セメントと混合するための剤である。本明細書において、セメント添加剤と、コンクリート強化剤、コンクリート改良剤、セメント強化剤及びセメント改良剤は同義である。具体的には、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物がセメントと混合されることで、セメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体(コンクリート)を強化することできる。より具体的には、セメント硬化体(コンクリート)の強度(圧縮強度や曲げ強度)を高めることができる。
本発明は、セメントに、イオン性置換基を有する繊維状セルロースおよびポリカルボン酸系化合物を混合することを含む、コンクリート強化方法、コンクリート改良方法、セメント強化方法またはセメント改良方法に関するものであってもよい。本明細書において、コンクリート強化方法、コンクリート改良方法、セメント強化方法及びセメント改良方法は同義であり、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物がセメントと混合されることで、セメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体(コンクリート)を強化することできる。より具体的には、セメント硬化体(コンクリート)の強度(圧縮強度や曲げ強度)を高めることができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<製造例1>リン酸基導入微細繊維状セルロース1(リン酸化CNF1)の作製
[リン酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
[解繊処理]
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、リン酸基導入微細繊維状セルロース(リン酸化CNF)分散液(リン酸化CNF1分散液)を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gであった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。また、繊維状セルロース濃度が1質量%のスラリーの粘度は60,000cPであった。
<製造例2>亜リン酸基導入微細繊維状セルロース(亜リン酸化CNF)の作製
[亜リン酸化処理]
リン酸化処理においてリン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作を行い、亜リン酸化パルプを得た。この亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1,210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られた亜リン酸化パルプに対し[製造例1]と同様に洗浄処理、中和処理及び解繊処理を行い、亜リン酸基導入微細繊維状セルロース(亜リン酸化CNF)分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。また、繊維状セルロース濃度が1質量%のスラリーの粘度は63,000cPであった。
<製造例3>硫黄オキソ酸基導入微細繊維状セルロース(硫酸化CNF)の作製
[硫酸化処理]
リン酸二水素アンモニウムの代わりにアミド硫酸38質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作を行い、硫酸化パルプを得た。ただし、熱風乾燥機での加熱時間は、20分間とした。この硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸基に基づく吸収が観察され、パルプに硫酸基が付加されていることが確認された。また、得られた硫酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られた硫酸化パルプに対し[製造例1]と同様に洗浄処理、中和処理及び解繊処理を行い、硫酸基導入微細繊維状セルロース(硫酸化CNF)分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定される硫酸基量は1.47mmol/gだった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。また、繊維状セルロース濃度が1質量%のスラリーの粘度は40,000cPであった。
<製造例4>ザンテート基導入微細繊維状セルロース(ザンテート化CNF)の作製
[ザンテート化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、8.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液2500質量部を添加し、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心分離(ろ布400メッシュ、3000rpmで5分間)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。得られたアルカリセルロース10質量部(絶乾質量)に対して、二硫化炭素を3.5質量部添加し、室温で4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行った。
得られたザンテート化パルプに対し[製造例1]と同様に解繊処理を行い、ザンテート基導入微細繊維状セルロース(ザンテート化CNF)分散液を得た。X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[ザンテート基量の測定]に記載の測定方法で測定されるザンテート基量は1.73mmol/gであった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。
<製造例5>カルボキシ基導入微細繊維状セルロース(TEMPO酸化CNF)の作製
[TEMPO酸化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)と、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10,000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
[洗浄処理]
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5,000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたTEMPO酸化パルプに対し[製造例1]と同様に微細化処理を行い、カルボキシ基導入微細繊維状セルロース(TEMPO酸化CNF)分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gであった。後述する測定方法で測定される繊維幅は2~5nmであった。また、繊維状セルロース濃度が1質量%のスラリーの粘度は61,000cPであった。
<製造例6>リン酸基導入パルプの作製
解繊処理を行わなかった以外は製造例1と同様に操作を行い、リン酸基導入パルプ分散液を得た。後述する測定方法で測定される繊維幅は30μm程度であった。また、繊維状セルロース濃度が1質量%のスラリーの粘度は20cPであった。
<製造例7>リン酸化微細繊維状セルロース2(リン酸化CNF2)作製
製造例1で[中和処理]まで行ったリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が6.0質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、高圧ホモジナイザーで200MPaにて1回処理し、微細繊維状セルロースを含む繊維状セルロース分散液を得た。この分散液1000g(固形分濃度6.0質量%、固形分60g)に対して、33000nkatの活性を有する酵素含有液を添加し温度50℃で酵素処理した。この時の酵素添加量は、微細繊維状セルロース1gに対して9300nkatとなるようにした。得られた分散液の温度を100℃とし、酵素を熱失活させた。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)1.45mmol/gであった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。後述する測定方法で測定される微細繊維状セルロースの繊維幅は2~5nmであった。さらに、光学顕微鏡による観察では、繊維幅が1000nm以上の繊維状セルロースを含んでいた。また、繊維状セルロース濃度が1質量%スラリーの粘度は4,000cPであった。
<製造例8>リン酸化微細繊維状セルロース3(リン酸化CNF3)の作製
製造例1で得られたリン酸化CNF1分散液(固形分濃度2質量%)に対して、次亜塩素酸ナトリウム添加量が微細繊維状セルロース1gに対して1.02gになるように次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度12質量%)を添加した。室温で1時間撹拌することで、次亜塩素酸ナトリウム処理リン酸化微細繊維状セルロース分散液を得た。繊維状セルロース濃度が1質量%の時の粘度は3,400cPであった。
<製造例9>リン酸化微細繊維状セルロース4(リン酸化CNF4)の作製
製造例1で得られたリン酸化CNF1分散液(固形分濃度2質量%)に対して、オゾン添加量が微細繊維状セルロース1gに対して1.0×10-2gとなるように、オゾン/酸素混合気体を加え、密閉容器内において25℃で2分間撹拌したのち、30分間静置した。次いで、容器を開放して5時間撹拌し、分散液中に残存するオゾンを揮発させ、オゾン処理リン酸化微細繊維状セルロース分散液を得た。繊維状セルロース濃度が1質量%の時の粘度は3,200cPであった。
<製造例10>リン酸化微細繊維状セルロース5(リン酸化CNF5)の作製
製造例1で得られたリン酸化CNF1分散液を反応容器に入れ、200℃に昇温し、10秒間加熱した。このときの反応器内の圧力は20MPaであった。加熱終了後、反応器を水冷した後、反応器内の分散液を回収し、亜臨界水処理リン酸化微細繊維状セルロース分散液を得た。繊維状セルロース濃度が1質量%の時の粘度は3,000cPであった。
<製造例11>未変性微細繊維状セルロース(未変性CNF)の作製
針葉樹クラフトパルプを離解して、未変性パルプ繊維を得た。未変性パルプ繊維にイオン交換水を加え、パルプ濃度が2質量%となるように希釈し、分散液とした。この分散液をリファイナー処理に供してCSFが50mL以下になるまで叩解(プレ解繊)した。プレ叩解した未変性パルプ繊維に対し、製造例1と同様に解繊処理を行い、未変性微細繊維状セルロース(未変性CNF)分散液を得た。後述する方法で測定される微細繊維状セルロースの繊維幅は10~50nmであった。また、光学顕微鏡による観察では繊維幅が1000nm以上の繊維状セルロースを含んでいた。
[実施例1]
<セメント組成物及びセメント硬化体の作製>
セメント、細骨材及び粗骨材を表1に示す基本配合量の通りに計量し、2軸ミキサーで均一になるよう練り混ぜプレセメント組成物とした。
Figure 2023004974000003
セメント:下記3種を等量混合
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)
細骨材:大井川水系砂
粗骨材:栃木県鹿沼産砕石
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液および助剤Aとしてポリカルボン酸系減水剤(マスターグレニウムSP8SV(ポゾリスソリューションズ株式会社製))を表2に示す配合となるように計量し、混合した。微細繊維状セルロース分散液およびポリカルボン酸系減水剤から持ち込まれる水分量を加味したうえで、表1に記載の水量となるように水を加え、さらに混合した。この混合液を、プレセメント組成物に投入して練り混ぜ、セメント組成物を調製した。セメント組成物について、後述するフレッシュ性状試験を行った。
得られたセメント組成物について、ただちに型枠への打ち込みを行い、20℃の水中に浸漬することで4週間水中養生し、セメント硬化体を得た。なお、1日程度硬化状態を保った後、型枠は外した。セメント硬化体について、下記の圧縮強度試験および曲げ強度試験を行った。
<セメントスラリーの調製>
下記の手順で骨材を含まないセメントスラリーを調製し、後述の方法で粘度を測定し、セメント組成物の粘度とした。なお、セメント、水、繊維状セルロース、助剤の比率は、上記セメント組成物における比率と同一となるようにした。
まず、普通ポルトランドセメント(昭光物産株式会社製)を500mL容量のカップに100g量り取った。このセメント100g(100質量部)に対し、繊維状セルロースと助剤の配合量が表2に示す配合となるように、微細繊維状セルロース分散液および助剤を量り取り、セメントを入れた容器とは別の容器(500mL容器)に入れた。全液量が50gとなるように、微細繊維状セルロース分散液および助剤の混合物へ水を加えた。この微細繊維状セルロース分散液、助剤および水の混合物を、スリーワンモーター(アズワン株式会社製、PM-202)を用いて500rpmで均一になるまで撹拌した。次いで、撹拌スピードを上げながら量り取っておいた100gのセメントを徐々に添加し、最終的に1000rpmで撹拌した。撹拌時間は、初めにセメントを加えた時から3分間とした。このようにして、セメントスラリーを得た。
[実施例2~23及び比較例1~9]
上述したセメント組成物に加える繊維状セルロースの種類や助剤の種類、そして各成分の配合量を表2および表3に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてセメント組成物及びセメントスラリーを調製し、実施例1と同様の方法でセメント組成物からセメント硬化体を作製した。なお、表2中の「-」は該当する成分を用いなかったことを表す。また、表3中の「測定不可」は、セメント組成物の粘度が高すぎる等の事情により型枠への打ち込みが出来ず、強度試験が実施できなかったことを表している。
なお、表2の助剤Bは、リグニンスルホン酸系の減水剤(マスターポリヒード15S(ポゾリスソリューションズ株式会社製))である。
[測定及び評価]
[リンオキソ酸基量の測定]
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量(リン酸基もしくは亜リン酸基量)は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作成した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
なお、製造例6で得られたリン酸基導入パルプについては、リン酸基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製し、このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理して得られた分散液に対して、上述した方法と同様にアルカリを用いた滴定を行った。
[硫黄オキソ酸基量の測定]
得られた微細繊維状セルロース(分散液を加熱乾燥して得られる固形分)を過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定した。この硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とした。
[ザンテート基量の測定]
ザンテート基量は、Bredee法により測定した。具体的には、微細繊維状セルロース(分散液を加熱乾燥して得られる固形分)1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とした。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。チオ硫酸ナトリウムの滴定量、微細繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出した。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/微細繊維状セルロースの絶乾質量(g)
[カルボキシ基量の測定]
微細繊維状セルロースおよびカルボキシ基導入パルプ繊維のカルボキシ基量は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えた以外は[リンオキソ酸基量の測定]と同様に測定した。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
[繊維幅の測定]
リン酸基導入パルプの繊維幅は、カヤーニ繊維長測定器(カヤーニオートメーション株式会社製、FS-200形)を用いて測定した。
また、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースおよび未変性微細繊維状セルロースの繊維幅は、以下の方法で測定した。微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEOL-2000EX)により観察した。
[フレッシュ性状試験]
実施例及び比較例で得られた練り上がりのセメント組成物のスランプ、空気量、温度を測定した。スランプの測定はJIS A 1101:2014に準拠して行い、セメント組成物の中央部における下がり箇所の深さを測定した。空気量の測定はJIS A 1128:2014に準拠して行った。温度は温度計を用いて測定した。
[セメント硬化体の圧縮強度試験]
実施例及び比較例で得られたセメント硬化体を用いて、JIS A 1108:2018に従い、圧縮強度試験を行った。測定された圧縮強度と、基準配合の硬化体の圧縮強度から下式を用いて圧縮強度増加率を求めた。なお、基準配合の硬化体とは表1に示す基本配合量のプレセメント組成物からなるセメント硬化体であり、繊維状セルロースおよび助剤を含まないセメント硬化体である。
圧縮強度増加率(%)=実施例または比較例の硬化体の圧縮強度/基準配合の硬化体の圧縮強度×100
[セメント硬化体の曲げ強度試験]
実施例及び比較例で得られたセメント硬化体を用いて、JIS A 1106:2018に従い、曲げ強度試験を行った。測定された曲げ強度と、基準配合の硬化体の曲げ強度から下式を用いて曲げ強度増加率を求めた。なお、基準配合は表1に示す微細繊維状セルロースおよび助剤を含まないセメント硬化体である。
曲げ強度増加率(%)=実施例または比較例の硬化体の曲げ強度/基準配合の硬化体の曲げ強度×100
[セメントスラリーの粘度測定]
実施例及び比較例で得られたセメントスラリーを、50mL容量のPET製スクリュー管瓶に充填し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて粘度を測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始2分40秒後から3分後の粘度値の平均を当該セメントスラリーの粘度とした。測定時のセメントスラリーの液温は23℃であった。
Figure 2023004974000004
Figure 2023004974000005
実施例に示すように、イオン性置換基を有する繊維状セルロースと所定構造を有する減水剤を含むセメント組成物からは、強度が増強された硬化体が得られた。また、実施例ではセメントスラリーの粘度が低い傾向が見られた。一方、比較例で得られたセメント組成物から得られた硬化体においては、その強度の増強効果が十分に発揮されていなかった。また、セメントスラリーの粘度も高い傾向が見られた。
特に、実施例16~23では、イオン性置換基を有する繊維状セルロースの製造工程において低粘度化処理を施すことで、圧縮強度の増加率が高まる傾向が見られた。また、低粘度化処理を施すことでセメントスラリーの粘度が低下する傾向がより強く見られるため、セメントスラリーを施工する際の取り扱い容易性を高めることができる。

Claims (17)

  1. イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物とを含む、セメント組成物用添加剤。
  2. 前記ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸系減水剤である、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  3. 前記ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸エーテル系化合物である、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  4. 前記繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  5. 前記イオン性置換基がアニオン性基である、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  6. 前記イオン性置換基がリンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基、ザンテート基に由来する置換基、カルボキシ基及びカルボキシ基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  7. 前記イオン性置換基がリンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、ザンテート基及びザンテート基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  8. イオン性置換基を有する繊維状セルロースを1質量%濃度のスラリーとし、23℃、回転数3rpmの条件で測定した場合の前記スラリーのB型粘度が100~10,000cPである、請求項1に記載のセメント組成物用添加剤。
  9. イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントとを含む、セメントスラリー。
  10. 前記セメント100質量部に対する前記繊維状セルロースの含有量が0.3質量部以上である、請求項9に記載のセメントスラリー。
  11. 前記セメント100質量部に対する前記ポリカルボン酸系化合物の含有量が0.5~30質量部である、請求項9に記載のセメントスラリー。
  12. 23℃、回転数3rpmの条件で測定した場合のB型粘度が35,000cP未満である、請求項9に記載のセメントスラリー。
  13. イオン性置換基を有する繊維状セルロースと、ポリカルボン酸系化合物と、水と、セメントと、骨材と、を含む、セメント組成物。
  14. 前記セメント100質量部に対する前記繊維状セルロースの含有量が0.3質量部以上である、請求項13に記載のセメント組成物。
  15. 前記セメント100質量部に対する前記ポリカルボン酸系化合物の含有量が0.5~30質量部である、請求項13に記載のセメント組成物。
  16. 請求項9に記載のセメントスラリーを硬化させてなるセメント硬化体。
  17. 請求項13に記載のセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体。
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