JP2023002140A - 果実酒の製造方法および果汁の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
<1>
果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程と、
上記過熱水蒸気処理工程を経た果実を搾汁する搾汁工程と、
を含む、果汁の製造方法。
<2>
果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程と、
上記過熱水蒸気処理工程を経た果実および/または当該果実を搾汁して得られる果汁を発酵させる発酵工程と、
を含む、果実酒の製造方法。
<3>
上記過熱水蒸気の温度は、100℃超140℃以下である、<2>に記載の製造方法。
<4>
上記過熱水蒸気処理工程によって青葉臭成分の少なくとも一部が上記果実から除去される、<2>または<3>に記載の製造方法。
<5>
上記発酵工程の開始時点における仕込み液の亜硫酸濃度は、30mg/Lppm以下である、<2>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>
上記発酵工程において、ワイン酵母以外のアルコール発酵微生物を仕込み液に添加する、<2>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>
上記果実は、ブドウまたはイチゴである、<2>~<6>のいずれかに記載の製造方法
本発明の一態様に係る製造方法は、果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程を含む。過熱水蒸気処理工程を含むことにより、〔5.〕節に例示する様々な効果が製造される果実酒に付与される。
本発明の一態様に係る製造方法は、過熱水蒸気処理工程を経た果実および/または当該果実を搾汁して得られる果汁を発酵させる発酵工程を含む。本明細書における発酵とは、アルコール発酵を意味する。
本発明の一実施形態に係る製造方法は、過熱水蒸気処理工程および発酵工程以外の工程を含んでもよい。このような工程の例としては、発酵停止工程(亜硫酸の添加、酵母の濾過、加熱処理など)、貯蔵工程、清澄化工程(滓引、濾過など)、瓶詰工程が挙げられる。ブランデーなどの蒸留酒を製造する場合は、蒸留工程をさらに含んでもよい。甘味果実酒などの混成酒を製造する場合は、他成分との混合工程をさらに含んでもよい。
本発明の他の態様は、果汁の製造方法である。この製造方法は、果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程と、過熱水蒸気処理工程を経た果実を搾汁する搾汁工程と、を含む。過熱水蒸気処理工程については、〔1〕節で説明した通りである。搾汁工程は、従来公知の手段により実行できる。
本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、以下に例示する効果のうち、少なくとも一つを奏しうる。ただし、本発明の効果は明細書全体を通して理解されるのであって、以下の例示に限定されない。それゆえ、本発明の一実施形態に係る製造方法は、以下に例示する効果を必ずしも奏さなければならない訳ではない。
本発明の一実施形態に係る製造方法では、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、果実に含まれている香気成分の組成を変化させることができる。例えば、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、青葉臭成分の含有量を下げることができる。そのため、得られる果実酒の青臭さを低減できる。
本発明の一実施形態に係る製造方法では、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、果実および/または果汁の色調を変化させることができる。例えば、過熱水蒸気処理工程を経たブドウ果実は、果皮の色が果汁に移行する。そのため、白ワインの製造方法(ブドウ果実を搾汁した果汁のみを発酵工程に供する)によって、赤ワインやロゼワインのような色調のワインを製造できる。
本発明の一実施形態に係る製造方法では、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、果実に含まれている食味成分の組成を変化させることができる。また、本発明の一実施形態に係る製造方法では、ワイン酵母以外のアルコール発酵微生物(清酒酵母、焼酎酵母など)を発酵工程において使用できる。そのため、得られる果実酒の食味を変化させることができる。
本発明の一実施形態に係る製造方法では、過熱水蒸気処理工程により果実が殺菌されるため、発酵工程における亜硫酸の添加量を低減できる。そのため、亜硫酸含有量の低減された果実酒を製造できる。また、亜硫酸耐性の低いアルコール発酵微生物を用いて発酵工程を実施できる。
下記手順に従い、ワインを製造した。
1.ブドウ果実を金属製トレイに入れ、ベジタブルスチームクッカー(エースシステム株式会社製)を用いて過熱水蒸気と接触させた。この際、噴出口から処理室下部の蒸気供給室へと過熱水蒸気を流入させ、次いで、処理室上部の蒸気室へと過熱水蒸気を移動させた。ブドウ果実は、蒸気室にて過熱水蒸気と接触させた。過熱水蒸気発生源における過熱水蒸気の温度は120℃であり、処理室内上部の温度は100℃とした。
2.過熱水蒸気処理工程の完了したブドウ果実を、急速冷却した。
3.小型水圧搾汁機(MISURINA、Enotecnica PILLAN製)により、搾汁率60%でブドウ果実を搾汁し、ブドウ果汁を得た。ここまで工程において、殺菌剤および酸化防止剤としての亜硫酸は添加しなかった。一方、過熱水蒸気処理工程を施していない無処理コントロールの果実は、破砕後すぐにピロ亜硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を添加し、その後に搾汁した。ピロ亜硫酸カリウムの添加量は、果実重量に対して亜硫酸換算で50ppmであった(この添加量はワイン製造における通常の量であり、仕込み液中の亜硫酸濃度は30mg/Lを超えていると推定される)。
4.果汁全体の3%に相当する果汁を分取し、乾燥酵母を添加した。酵母の添加量は、6mg/mLとした。調製した果汁を20℃にて一晩静置し、酵母を順化させた。
5.工程4で分取しなかった残余の果汁を、4℃にて一晩静置し、上澄みを回収した(デブルバージュ)。
6.工程4および工程5で得られた果汁を混合し、18℃にて発酵を開始させた。
7.比重の変化がなくなり酵母が沈澱し始めたことをもって、発酵の終了を判断した。ピロ亜硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を添加して、発酵を停止させた。
8.清澄化処理のため、4℃にて滓引した。その後さらに、マルチラボフィルター(日本濾水機工業株式会社製)で濾過した。濾材には、セラポアフィルターA250L-Rグレード(日本濾水機工業株式会社製)を使用した。
過熱水蒸気処理工程を経ることによる果汁の色調変化を検討した。
製造例の工程1~3に従って、5分間または10分間過熱水蒸気処理工程を施したブドウ果汁のサンプルを得た。分光光度計により、波長:300~800nm領域におけるサンプルの吸光スペクトルを得た。結果を図1の左パネルに示す。
製造例の工程1~3に準じた手順により、5分間または10分間過熱水蒸気処理工程を施したイチゴ果汁のサンプルを得た。分光光度計により、波長:300~800nm領域におけるサンプルの吸光スペクトルを得た。結果を図1の右パネルに示す。
図1から分かるように、過熱水蒸気処理工程を施すことによって、果汁の吸光スペクトルが変化していることが分かる。ブドウ果汁は無色透明から淡紅色に変化し、イチゴ果汁は淡紅色から深紅色に変化した。このように色調の変化した果汁を醸造することにより、色調が通常とは異なる果実酒が得られる(実施例5をも参照)。
過熱水蒸気処理工程を経ることによる果汁の香気変化を検討した。製造例の工程1~3に従って、5分間または10分間過熱水蒸気処理工程を施したブドウ果汁のサンプルを得た。サンプルに含まれる香気成分の含有量を定量した(定量した成分は、下記表1を参照)。具体的には、内部標準(IS)として50μLのシクロヘキサノール(115.2μg/mL)をHS捕集瓶(容量:20mL)に注入した後、各サンプルを1mLずつ加えて密封し、ガスクロマトグラフ測定した。測定条件は下記の通りである。
・測定使用機器:Agilent Technologies 7890A GC SystemおよびJEOL JMS Q1050 GC/MS
・カラム:DB-WAX 0.25 mm×60m×0.25μm
・昇温条件:40℃にて5分間保持→5℃/分で200℃まで昇温→15℃/分で250℃まで昇温→250℃にて20分間保持
・キャリアガス:ヘリウム
・カラム流速:2.1mL/分
・HS捕集条件:サンプル加熱時間:10分、加熱温度:70℃
図2にクロマトグラムを示す。同図から分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、ブドウ果汁の香気成分の組成が変化していた。変化量を表すグラフ化を図3に示す。より詳細な定量値を表2に示す。これらから分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、青葉臭物質含有量が大幅に低下していた。このような果汁を原料とすることにより、香気が通常とは異なる(青臭さが低減された)果実酒が得られることが予想される。
過熱水蒸気処理工程を経ることによる果汁の食味の変化を、パネラーによる官能評価に供した。
・香り:1~5(弱~強)の5段階評価
・色:1~5(弱~強)の5段階評価
・甘さ:1~5(弱~強)の5段階評価
・酸味:1~5(弱~強)の5段階評価
・飲みやすさ:1~5(悪~良)の5段階評価
結果を図3に示す。また、各評価項目の詳細な評価点を表3に示す。これらから分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、イチゴ果汁の食味に明らかな変化が生じた。このような果汁を原料とすることにより、食味が通常とは異なる果実酒が得られることが予想される(実施例6をも参照)。
製造例の工程1~3に従って、5分間または10分間過熱水蒸気処理工程を施したブドウ果汁のサンプルを得た。このサンプルについて、Brix、比重、転化糖分、pH、滴定酸度(酒石酸換算値)、酵母資化性窒素(YAN)を測定した。具体的な測定方法は、以下の通りである。
●Brix分析
ポケット糖度計(PAL-1、株式会社アタゴ製)を用いた。
●比重
国税庁所定分析法に従って測定した。
●転化糖分
比重の値から算出した。
●滴定酸度およびpH
ワイン分析用総酸度/pH測定器(HI84502、Hanna Instruments製)を用いた。
●酵母資化性窒素(YAN)
ワイン分析用ホルモール窒素/pH測定器(HI84533、Hanna Instruments製)を用いた。
結果を表4に示す。表4から分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ても、果汁の成分には影響が及ばないことが分かった。このことは、次工程の発酵工程を適切に進行させるために、好適に作用すると考えられる。
製造例に従って、以下の果実酒を製造した。ワイン酵母としては、SENSY(LALLEMAND)を使用した。清酒酵母としては、きょうかい酵母901号(公益財団法人日本醸造協会)を使用した。焼酎酵母としては、きょうかい酵母S-2号(公益財団法人日本醸造協会)を使用した。製造した果実酒の色調を、実施例1と同様の方法で測定した。
・5分間の加熱処理工程を施し、ワイン酵母で発酵させた果実酒
・10分間の加熱処理工程を施し、ワイン酵母で発酵させた果実酒
・10分間の加熱処理工程を施し、清酒酵母で発酵させた果実酒
・10分間の加熱処理工程を施し、焼酎酵母で発酵させた果実酒
図5、6に結果を示す。図5は、それぞれの果実酒の写真である。同図から分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、同じワイン酵母を使用していても、得られる果実酒の色調が明らかに変化していた(赤みを帯びた色調になっている)。また、亜硫酸耐性の低い清酒酵母または焼酎酵母を用いても果実酒を製造することができ、得られた果実酒の色調は、ワイン酵母を用いた果実酒とはさらに異なっていた(赤みが濃くなっている)。この色調の変化は、図6に示す吸光スペクトルによっても支持される。
実施例5で分析した4種類の果実酒を、味覚センサによる分析およびパネラーによる官能評価に供した。
味認識装置(TS-5000Z、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製)を用い、メーカーの推奨する使用方法に従って分析した。それぞれの果実酒の原液をサンプルとし、コントロールサンプルとしてはビストロ白(メルシャン株式会社製)を用いた。使用したセンサは、通常の食品分析で使用する5種類のセンサであった(AAE、CT0、CA0、C00、AE1)。測定中は、室温を20℃に調整することにより、試料温度を一定に保った。
官能評価について一定の技量を有する8名のパネラー(男4名、女4名;平均年齢48.5歳)に果実酒を無作為に試飲させ、以下の項目を回答させた。
・香り:1~5(弱~強)の5段階評価
・辛さ:1~5(弱~強)の5段階評価
・酸味:1~5(弱~強)の5段階評価
・アルコール感:1~5(弱~強)の5段階評価
・飲みやすさ:1~5(悪~良)の5段階評価
結果を図7に示す。また、各評価項目の詳細な評価点を表5に示す。これらから分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、同じワイン酵母を用いた場合であっても、得られる果実酒の食味に明らかな変化が生じた。また、清酒酵母または焼酎酵母を用いても果実酒を製造することができ、酵母の種類を変更することによっても、得られる果実酒の食味に変化が生じた。官能評価においては、過熱水蒸気処理工程を経た果実酒に対して良好な結果が得られた。
実施例5で分析した4種類の果実酒について、アルコール度数、pH、滴定酸度(酒石酸換算値)、有機酸組成(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、酢酸)および総ポリフェノール含有量を測定した。具体的な測定方法は、以下の通りである。
●アルコール度数
国税庁所定分析法に従って測定した。
●滴定酸度およびpH
ワイン分析用総酸度/pH測定器(HI84502、Hanna Instruments製)を用いた。
●有機酸組成分析
高速液体クロマトグラフィー(有機酸分析システム、株式会社島津製作所製)を用いて、以下の条件で分析した。
・カラム:Shim-pack SCR-102H(300mmL.×8.0mmi.d.)2本直列接続
・ガードカラム:ガードカラムSCR-102H(50mmL.×6.0mmi.d.)
・カラム温度:40℃
・移動相:5mmol/L p-トルエンスルホン酸水溶液
・流速:0.8mL/分
・検出器:電気伝導度検出
・検出器温度:43℃
●総ポリフェノール含有量
フォーリン・チオカルト法により測定した。果実酒を蒸留水で10倍稀釈した後、吸光度計で波長765nmの吸光度を測定した。没食子酸相当量として総ポリフェノール含有量を表した。
結果を表6に示す。表6から分かるように、過熱水蒸気処理工程を経ることにより、同じワイン酵母を用いた場合には、総ポリフェノール含有量が大きく向上した。また、清酒酵母または焼酎酵母に酵母の種類を変更すると、過熱水蒸気処理工程に起因する総ポリフェノール含有量の向上に加えて、滴定酸度も向上した。ポリフェノールは、抗酸化作用が強く、活性酸素などの有害物質を無害な物質に変える作用があり、動脈硬化などの生活習慣病の予防に役立つとされている。したがって、実施例7の結果からは、過熱水蒸気処理を実施することにより、栄養価が高い果実酒が得られる可能性が示唆された。
イチゴを原料とする果実酒を製造し、過熱水蒸気処理工程を経ることによる果汁および果実酒の成分の変化と、果実酒の色調の変化を確認した。イチゴを原料とする果実酒の製造方法は、下記の通りである。
1.製造例と同様にイチゴ果実を過熱水蒸気処理した後、急速冷却した。
2.手搾りにより、搾汁率50%でイチゴ果実を搾汁し、イチゴ果汁を得た。果汁には、殺菌剤および酸化防止剤として、亜硫酸として50ppm相当量の亜硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬製)を添加した。
3.果汁全体の3%に相当する果汁を分取し、乾燥酵母を添加した。酵母の添加量は、6mg/mLとした。調製した果汁を20℃にて一晩静置し、酵母を順化させた。
4.分取しなかった残余の果汁を、4℃にて一晩静置し、上澄みを回収した(デブルバージュ)。
5.酵母を順化させた果汁とデブルバージュした果汁とを混合し、18℃にて発酵を開始させた。
6.比重の変化がなくなり酵母が沈澱し始めたことをもって、発酵の終了を判断した。ピロ亜硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を添加して、発酵を停止させた。
7.清澄化処理のため、4℃にて滓引した。
イチゴ果汁サンプルの分析結果を表7に示す。イチゴ酒サンプルの分析結果を表8に示す。また、イチゴ酒サンプルの外観を図8に示す。
Claims (7)
- 果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程と、
上記過熱水蒸気処理工程を経た果実を搾汁する搾汁工程と、
を含む、果汁の製造方法。 - 果実を過熱水蒸気で処理する過熱水蒸気処理工程と、
上記過熱水蒸気処理工程を経た果実および/または当該果実を搾汁して得られる果汁を発酵させる発酵工程と、
を含む、果実酒の製造方法。 - 上記過熱水蒸気の温度は、100℃超140℃以下である、請求項2に記載の製造方法。
- 上記過熱水蒸気処理工程によって青葉臭成分の少なくとも一部が上記果実から除去される、請求項2または3に記載の製造方法。
- 上記発酵工程の開始時点における仕込み液中の亜硫酸濃度は、30mg/L以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 上記発酵工程において、ワイン酵母以外のアルコール発酵微生物を仕込み液に添加する、請求項2~5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 上記果実は、ブドウまたはイチゴである、請求項2~6のいずれか1項に記載の製造方法。
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