JP2022191401A - 癒着防止用組成物 - Google Patents

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Masaru Shimizu
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Abstract

【課題】癒着防止効果の高い癒着防止材癒着防止材を提供する。【解決手段】少なくとも一部が硬化剤で架橋された、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が30,000~300,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~200,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材に関する。【選択図】なし

Description

本発明は、癒着防止材、その製造方法およびスポンジ状積層体に関する。
癒着とは、互いに分離しているべき組織の表面が線維性の組織で連結または融合された状態のことをいう。癒着は、外傷や炎症に伴い組織の表面にフィブリンを含む滲出液が生じ、この滲出液が器質化して組織表面が連結または融合されることにより生じる。外科手術において組織の表面にできる外傷や、外傷により引き起こされる炎症、および外科手術において組織表面が乾燥することによる炎症は、癒着が生じる原因となっている。
癒着は、時に、不妊、腸の通過障害、慢性骨盤痛の原因となり得る。また、外科手術後に生じた癒着を剥離するために、再度の外科手術が必要となることもある。例えば、肝臓がんの再発例に対しては複数回の手術が有効であるが、再手術適用の可否判断、治療のリスク、手術時の出血量、手術時間等は、いずれも前回の手術-後の癒着防止に大きく左右される。これらのことから、癒着を防止する必要があり、癒着防止のためにこれまでに様々な手段が講じられている。
癒着防止のためのそのような手段のいくつかは、外傷または炎症部位とその隣接組織の間に配置して組織の連結または融合を防止する物理的バリアを設けることである。そのような物理的バリアとしては、シート状のものなどが知られている。
具体的には、シート状のものとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(Preclude(商品名)(WL Gore and Associates,Inc.))、ヒアルロン酸(HA)とカルボキシメチルセルロース(CMC)を含有するシート(Seprafilm(商品名)(Genzyme GmbH))、再生酸化セルロースシート(INTERCEED(商品名)(Johnson&Johnson))などがある。このうちPTFEフィルムは、生分解性でないため、体内に残存するという問題がある。HAとCMCを含有するシートおよび再生酸化セルロースシートは、生分解性であるものの、肝切除後に生じる癒着のような重篤な癒着を完全に防止できず、癒着防止の効果の点で改善の余地があった。
ここで、コラーゲンなどのタンパク質や、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸などの多糖から選択される生体適合性の材料をシート状、粒子状にして、医療用吸収物質、医療用貼付材、癒着防止材、生体組織補強材料などとして用いることが知られている(特許文献1~6)。
特開昭48-79870号公報 特開2003-126235号公報 国際公開第2005/26214号 特開2011-25013号公報 特開2013-165884号公報 特表2016-502874号公報
このような状況の下、癒着防止効果が高い、創傷部の癒着とde novo癒着の両方を抑えることができる、適用した生体に悪影響を及ぼさない、創傷部の治癒を妨げない、腸管吻合などにも使用できる、内視鏡手術においてトロッカーを介した適用が容易である、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、等の少なくとも一つの性能を有する癒着防止材が求められていた。
本発明者らは、臨床における種々の手術を想定した動物による癒着モデルにおいて、フィルム(シート)状癒着防止材の長所とスプレー(液・ゲル)状癒着防止材の長所とを兼備する癒着防止材について鋭意検討を重ねた結果、第1の層と第2の層の溶解速度が異なる、生体に適用可能なスポンジ状の癒着防止材、具体的には、重量平均分子量の比較的高い低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量の比較的低い低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材が、術局所の癒着防止のみならず、適用領域の広い範囲において癒着防止効果を有することなどを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下のとおりである。
[1-1] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
[1-1a] 重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層を含み、前記重量平均分子量はGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
[1-1b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が30,000~300,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~200,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
[1-2] 第1の層および第2の層のいずれか一方が、硬化剤を含む上記[1-1]または[1-1a]または[1-1b]に記載の癒着防止材。
[1-3] 第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む上記[1-1]~[1-2]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-4] 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、上記[1-1]~[1-3]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-5] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、上記[1-1]~[1-4]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-6] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、上記[1-1]~[1-5]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-7] 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[1-1]~[1-6]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-8] 第1の層を創傷部側の表面に向けて適用するための、上記[1-1]~[1-7]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-9] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ線照射および/またはエチレンオキシドガスにより滅菌されたものである、上記[1-1]~[1-8]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-10] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅い、癒着防止材。
[1-10a] 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅い、癒着防止材。
[1-11] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満である、上記[1-10]または[1-10a]の癒着防止材。
[1-12] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[1-10]または[1-10a]の癒着防止材。
[1-13] アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である、上記[1-10]または[1-10a]の癒着防止材。
[1-14] アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである、上記[1-10]または[1-10a]の癒着防止材。
[1-15] スポンジ状積層体がプレスしたものである、上記[1-1]~[1-14]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-16] 以下の1以上の特性を有する、上記[1-1]~[1-15]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
(1)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したヤング率が0.3~300MPaである。
(2)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定した破断強度が5~5000kPaである。
(3)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比が2~50である。
(4)リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率が、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、200~50000%である。
(5)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である。
(6)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである。
[2-1] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に、第1の層を創傷部側の表面に向けて適用することを含む、癒着防止方法。
[2-1a] 重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法。
[2-1b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が30,000~300,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~200,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に、第1の層を創傷部側の表面に向けて適用することを含む、癒着防止方法。
[2-2] 第1の層および第2の層のいずれか一方が、硬化剤を含む上記[2-1]または[2-1a]または[2-1b]に記載の癒着防止方法。
[2-3] 第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む上記[2-1]~[2-2]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-4] 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、上記[2-1]~[2-3]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-5] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、上記[2-1]~[2-4]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-6] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、上記[2-1]~[2-5]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-7] 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[2-1]~[2-6]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-8] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射および/またはエチレンオキシドガスにより滅菌されたものである、上記[2-1]~[2-7]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-9] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含み、第1の層の溶解速度が第2の層よりも遅い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法。
[2-9a] 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含み、第1の層の溶解速度が第2の層よりも遅い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法。
[2-10] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満である、上記[2-9]または[2-9a]の癒着防止方法。
[2-11] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[2-9]または[2-9a]の癒着防止方法。
[2-12] アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である、上記[2-9]または[2-9a]の癒着防止方法。
[2-13] アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである、上記[2-9]または[2-9a]の癒着防止方法。
[2-14] スポンジ状積層体がプレスしたものである、上記[2-1]~[2-13]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-15] スポンジ状積層体が以下の1以上の特性を有する、上記[2-1]~[2-14]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
(1)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したヤング率が0.3~300MPaである。
(2)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定した破断強度が5~5000kPaである。
(3)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比が2~50である。
(4)リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率が、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、200~50000%である。
(5)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である。
(6)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである。
[3-1] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[3-1a] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[3-1b] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[3-1c] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[3-2] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射および/またはエチレンオキシドガスにより滅菌されたものである、上記[3-1]~[3-1c]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
[3-3] (3)または(4)で得られたスポンジ状積層体をプレスする工程をさらに含む、上記[3-1]~[3-2]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
[3-4] 硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[3-1]~[3-3]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
[3-5] スポンジ状積層体が以下の1以上の特性を有する、上記[3-1]~[3-4]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
(1)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したヤング率が0.3~300MPaである。
(2)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定した破断強度が5~5000kPaである。
(3)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比が2~50である。
(4)リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率が、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、200~50000%である。
(5)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である。
(6)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである。
[4-1] 以下の工程(1)~(4)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[4-1a] 以下の工程(1)~(3)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[4-1b] 以下の工程(1)~(4)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[4-1c] 以下の工程(1)~(3)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
[4-2] 癒着防止材として用いる、上記[4-1]~[4-1c]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-3] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射および/またはエチレンオキシドガスにより滅菌されたものである、上記[4-1]~[4-2]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-4] (3)または(4)で得られたスポンジ状積層体をプレスする工程をさらに含む、上記[4-1]~[4-3]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-5] 硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[4-1]~[4-4]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-6] スポンジ状積層体が以下の1以上の特性を有する、上記[4-1]~[4-5]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
(1)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したヤング率が0.3~300MPaである。
(2)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定した破断強度が5~5000kPaである。
(3)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比が2~50である。
(4)リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率が、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、200~50000%である。
(5)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である。
(6)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである。
[5-1] 重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第1の原料と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第2の原料とを含み、第1の原料の重量平均分子量が第2の原料よりも高い、癒着防止材を製造するための原料の組合せ。
[5-1a] 重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第1の原料と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第2の原料とを含み、第1の原料の重量平均分子量が第2の原料よりも高い、癒着防止材を製造するための原料の組合せ。
[5-2] 硬化剤をさらに含む、上記[5-1]または[5-1a]に記載の原料の組合せ。
[5-3] 硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[5-2]に記載の原料の組合せ。
[5-4]スポンジ状積層体の製造に用いるためのものである、上記[5-1]~[5-3]のいずれか1項に記載の原料の組合せ。
[6-1] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体の製造方法。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
本発明によれば、癒着防止効果が高い、創傷部の癒着とde novo癒着の両方を抑えることができる、適用した生体に悪影響を及ぼさない、創傷部の治癒を妨げない、腸管吻合などにも使用できる、内視鏡手術においてトロッカーを介した適用が容易である、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、製造効率に優れる、大量生産に適する、等の少なくとも一つの利点を有する癒着防止材を提供することができる。
癒着防止材の一例を示す図である。 癒着防止材の各層の溶解速度の浸漬法での評価を示す図である。 癒着防止材の各層の溶解速度の貼付法での評価を示す図である。 一部肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)離断面で癒着形成した個体の数、(B)離断面グレード、(C)離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。 一部肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)非離断面で癒着形成した個体の数、(B)非離断面グレード、(C)非離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。 一部肝臓切除モデルでの体重変化および脾臓重量の評価を示す図である。(A)体重変化、(B)脾臓重量。 ペアン肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)離断面で癒着形成した個体の数、(B)離断面グレード、(C)離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。 ペアン肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)非離断面で癒着形成した個体の数、(B)非離断面グレード、(C)非離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。 ペアン肝臓切除モデルでの体重変化および脾臓重量の評価を示す図である。(A)体重変化、(B)脾臓重量。 プレス前後のスポンジの膨潤試験結果を示す図である。 霧吹き後の各試験片先端の高さ(A)および試験台からの角度(B)の経時変化を示す図である。 滅菌後の積層スポンジの復水試験の結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその要旨を逸脱しない限りさまざまな形態で実施することができる。
1.癒着防止
「癒着」とは、互いに分離しているべき組織の表面が線維性の組織で連結または融合された状態のことをいう。癒着の原因は、外科手術において組織の表面にできる外傷や、外傷により引き起こされる炎症、外科手術において組織表面が乾燥することによる炎症などである。これらの外傷や炎症に伴い組織の表面にフィブリンを含む滲出液が生じ、この滲出液が器質化して組織表面が連結または融合されることにより癒着が形成される。
「癒着防止」とは、癒着の形成を減少させることをいう。癒着防止は、必ずしも癒着の形成を完全に防止することまでも必要とせず、本発明の癒着防止材を適用しなかった場合の状態と比較して、癒着の形成が防止されていればよい。すなわち「癒着防止」は癒着の軽減と言い換えてもよく、例えば、癒着の頻度、範囲および程度から選ばれる少なくとも1つが軽減されていればよい。「癒着防止」は、例えば、実施例に記載した癒着のグレード評価を行った場合に、本発明の癒着防止材を適用しなかった場合の平均癒着のグレードと比較して、平均癒着のグレードがより低くなっていればよい。あるいは、「癒着防止」は、例えば、実施例に記載した癒着のExtent評価を行った場合に、本発明の癒着防止材を適用しなかった場合の平均癒着のExtentと比較して、平均癒着のExtentがより低くなっていればよい。「癒着防止」は、好ましくは、外科手術に起因して生じる癒着、より好ましくは、外科手術に起因して生じる腹膜癒着の防止である。すなわち、「癒着防止」は、好ましくは、術後の癒着防止である。
また、実施例に示したとおり、対象となる癒着としては、手術時の対象臓器の切除した部位の癒着およびde novo癒着(手術部位以外の周辺および腹腔等の体腔および体内での広範な部位との癒着)がある。
2.癒着防止材
本発明は、少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、重量平均分子量が比較的高い低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量が比較的低い低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材(以下、「癒着防止材A」という場合がある)を提供する。第1の層と第2の層で用いる低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量は、それぞれ、例えば、10,000~2,000,000と、1,000~1,000,000である。このような重量平均分子量は脱架橋処理、例えばキレート剤溶液に溶解した後にGPC-MALS法により測定したものである。
それぞれの層に用いるアルギン酸の1価金属塩は、平均分子量の異なるアルギン酸の1価金属塩を複数組み合わせて使用することもできる。例えば、第1の層において、10,000~2,000,000の範囲内の異なる重量平均分子量を有する複数のアルギン酸の1価金属塩を組み合わせて使用し、かつ/または、第2の層において、1,000~1,000,000の範囲内の異なる重量平均分子量を有する複数のアルギン酸の1価金属塩を組み合わせて使用することができる。組み合わせるアルギン酸の1価金属塩の数は特に限定されず、例えば、1層当たり2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10種以上であってよい。アルギン酸の1価金属塩は、重量平均分子量の異なる、異なる種類の塩を組み合わせてもよいし、重量平均分子量の異なる、同じ種類の塩を組み合わせてもよい。組み合わせの比率も特に限定されず、例えば2種の塩を組み合わせる場合、その比率は、1:100~100:1、1:50~50:1、1:25~25:1、1:10~10:1、1:5~5:1、1:4~4:1、1:3~3:1、1:2~2:1、1:1などであってよい。
なお、本明細書において、数値範囲に「~」の記号を用いる場合、「下限値以上、上限値以下」を意味するものであり、記号の両端の数値は当該範囲に含まれる。
癒着防止材Aは、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層に、異なる分子量の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩が含まれる。具体的には、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。アルギン酸の1価金属塩を含む層は、アルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が大きければ溶解速度が遅くなり、一方、重量平均分子量が小さければ溶解速度が速くなる。このため、例えば腹腔内の創傷に適用する場合、第1の層を創傷部側、第2の層を腹腔側に向けて本発明の癒着防止材Aを適用することで、第1の層は、創傷部に残留するとともに、第2の層は比較的速く溶解して腹腔内全般の癒着を抑えることが期待できる。
また、本発明は、少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層と第2の層の溶解速度が異なる、癒着防止材(「癒着防止材B」)を提供する。具体的には、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅い。第1の層の溶解速度が第2の層の溶解速度よりも遅くなるようにするには、例えば、癒着防止材Aのように第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量を第2の層よりも高いものとすること、架橋剤の種類を変更する、または架橋剤の濃度を変更する、等により第1の層のアルギン酸の1価金属塩の架橋度を第2の層よりも高いものとすること、などが挙げられる。
好ましくは、癒着防止材Bは、アルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満であるものである。溶解試験は、具体的には、後述の実施例2に記載の通りである。
別の好ましい例として、癒着防止材Bは、アルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである。溶解試験は、具体的には、後述の実施例2に記載の通りである。
別の好ましい例として、癒着防止材Bは、アガロースゲルを介したアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において約30%~約70%、好ましくは約40%~約60%、より好ましくは約44%~約55%である。溶解試験は、具体的には、後述の実施例2-2に記載の通りである。
別の好ましい例として、癒着防止材Bは、アガロースゲルを介したアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%、特に約16±2重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%、特に約33±7重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%、特に約31±6重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%、特に約60±7重量%が8日以内に溶出するものである。溶解試験は、具体的には、後述の実施例2-2に記載の通りである。
ここで、本明細書中、「癒着防止材A」と「癒着防止材B」を合わせて、「癒着防止材」という場合がある。また、「第1の層」は、スポンジ状積層体を対象に適用したときに下層となる層、すなわち、対象の適用すべき組織の表面と接触する側の層である。「第2の層」は、スポンジ状積層体を対象に適用したときに上層となる層、すなわち、対象の適用すべき組織の表面と接触しない側の層である。「生体に適用可能」とは、医療材料として適用すべき組織の表面に配置することが可能であることを意味する。
癒着防止材に用いられる生体に適用可能なスポンジ状の積層体における第1の層と第2の層との間には、明瞭な境界面が形成されていてもいなくてもよい。例えば、前記積層体において、第1の層に含まれる成分と第2の層に含まれる成分とが、製造過程中に第1の層と第2の層との間の境界面付近で混ざり合い、明瞭な境界面を形成しない場合がある。さらに、前記積層体は、上記の第1の層、第2の層以外に、任意の成分を含む第3の層を有していてもよく、また、多層構造を有していてもよい。また、各層が明瞭な境界面を持たず、分子量が連続的に漸増または漸減するような構造を有するスポンジ状積層体も含まれる。
癒着防止材の一例を、図1に示す。癒着防止材1は、第1の層2と第2の層3とを含むスポンジ状積層体4を含む。第1の層2と第2の層3は、それぞれスポンジ状である。「スポンジ状」とは、多孔性を有した状態を意味する。
生体に適用可能なスポンジ状積層体の形状は特に限定されず、適用する表面の範囲、形状、凹凸などを考慮し適宜選択することができる。スポンジ状積層体の形状は、例えば、図1に示すような平板状であってもよいし、あるいは円板状、円筒状、直方体状などの形状をとることができる。好ましくは平板状または円板状である。平板状や円板状のとき、適用する表面の範囲、形状、凹凸などに合わせて癒着防止材をさらに切断して表面に適用することができるため、平板や円板のサイズは特に限定されない。例えば、平板状の形状を、縦×横×高さ(厚さ)で表すと、縦と横の長さは特に限定されず、高さ(厚さ)は、好ましくは0.2mm~30mmであり、より好ましくは0.3mm~15mm、さらに好ましくは0.5mm~10mmである。さらに好ましくは、そのような高さ(厚さ)であることに加えて、縦と横の長さは、それぞれ、1mm~300mmx1mm~300mmであり、特に好ましくは、3mm~200mmx3mm~200mmであり、さらに好ましくは、5mm~150mmx5mm~150mmである。なお、厚さは均一でなくてもよく、一方が厚くて他方が薄い、傾斜構造であってもよい。
本発明の癒着防止材のスポンジ状積層体は、Seprafilm(商品名)と比較して、柔軟性が高く、割れにくい。
いくつかの態様では、スポンジ状積層体はプレスしたものである。「プレス」は後述の通りである。スポンジ状積層体がプレスしたものである場合、その高さ(厚さ)は、好ましくは、0.01mm~5mmであり、より好ましくは0.02mm~3mm、さらに好ましくは0.03mm~1.5mmである。さらに好ましくは、そのような高さ(厚さ)であることに加えて、縦と横の長さは、それぞれ、1mm~300mmx1mm~300mmであり、特に好ましくは、3mm~200mmx3mm~200mmであり、さらに好ましくは、5mm~150mmx5mm~150mmである。なお、いくつかの態様ではプレス後の厚さは均一である。
本発明の癒着防止材のスポンジ状積層体は、以下のような物理的特性を有することができる。
(1)ヤング率
JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体のヤング率は、例えば、0.3~300MPa、好ましくは、0.4~250MPa、より好ましくは、0.5~200MPa、特に好ましくは、1~180MPaであってよい。ヤング率は、積層体をプレスすることにより高めることができる。
(2)破断強度
JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度は、例えば、5~5000kPa、好ましくは、10~4800kPa、より好ましくは、15~4500kPa、特に好ましくは、20~4000kPaである。破断強度は、積層体をプレスすることにより高めることができる。
(3)破断強度/ヤング率比
JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比(破断強度(kPa)÷ヤング率(MPa))は、例えば、2~50、好ましくは、3~45、より好ましくは、5~40、特に好ましくは、10~35である。
(4)吸水量
リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体(凍結乾燥されたもの)を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率は、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、例えば、200~50000%、好ましくは、500~30000%、より好ましくは、1000~20000%、特に好ましくは1500~15000%である。
3.アルギン酸の1価金属塩
「アルギン酸の1価金属塩」は、アルギン酸の6位のカルボン酸の水素原子を、NaやKなどの1価金属イオンとイオン交換することでつくられる水溶性の塩である。アルギン酸の1価金属塩としては、具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどを挙げることができるが、特には、市販品により入手可能なアルギン酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、硬化剤と混合したときにゲルを形成する。
本発明に用いる「アルギン酸」は、生分解性の高分子多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であり、天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている。
GPC-MALS法によれば、絶対重量平均分子量を測定することができる。原料として用いるアルギン酸の1価金属塩の、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、10,000~2,000,000であり、好ましくは、15,000~1,500,000であり、より好ましくは、20,000~1,000,000であり、特に好ましくは、25,000~500,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~1,000,000であり、好ましくは、1,000~500,000であり、より好ましくは、2,000~250,000であり、特に好ましくは、3,000~100,000である。
いくつかの態様、例えば、電子線および/またはγ線滅菌による照射後においては、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、10,000~300,000であり、好ましくは、10,000~200,000であり、より好ましくは、10,000~100,000であり、特に好ましくは、10,000~80,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~100,000であり、好ましくは、1,000~80,000であり、より好ましくは、2,000~60,000であり、特に好ましくは、3,000~60,000である。
特定の態様において、原料として用いるアルギン酸の1価金属塩の、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、30,000~300,000であり、好ましくは、80,000~280,000であり、より好ましくは、100,000~270,000であり、さらに好ましくは、150,000~260,000であり、特に好ましくは、170,000~250,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~200,000であり、好ましくは、1,500~180,000であり、より好ましくは、2,000~150,000であり、さらに好ましくは、2,500~120,000であり、特に好ましくは、3,000~100,000である。
スポンジ状積層体の第1の層の原料として用いるアルギン酸の1価金属塩として、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量が上記のような範囲のものを用いることで、スポンジ状積層体の第1の層の製造におけるアルギン酸の1価金属塩のゲル化速度を適正化し、第1の層の品質や製造時間を適正化することができる。
特定のいくつかの態様、例えば、電子線および/またはγ線滅菌による照射後においては、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、30,000~80,000であり、好ましくは、40,000~75,000であり、より好ましくは、42,000~73,000であり、さらに好ましくは、43,000~72,000であり、特に好ましくは、44,000~71,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~70,000であり、好ましくは、1,000~65,000であり、より好ましくは、2,000~60,000であり、さらに好ましくは、2,500~55,000であり、特に好ましくは、3,000~50,000である。
少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩については、任意の脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定することにより、架橋されていないアルギン酸の1価金属塩としての重量平均分子量を測定することができる。脱架橋処理としては、例えば、任意のキレート剤、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)、フィチン酸などのキレート剤溶液に溶解することが挙げられる。用いるキレート剤としてはEDTAが好ましい。
スポンジ状積層体の第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。スポンジ状積層体の原料、あるいはスポンジ状積層体に含まれる第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量は、第2の層よりも、例えば1,000~1,000,000高く、好ましくは2,000~500,000高く、より好ましくは、3,000~300,000高い。
通常、高分子多糖類の分子量を上記のような手法で算出する場合、10~20重量%の測定誤差を生じうる。例えば、10,000であれば8,000~12,000、100,000であれば80,000~120,000、200,000であれば160,000~240,000、400,000であれば320,000~480,000、500,000であれば400,000~600,000程度の範囲で値の変動が生じうる。
アルギン酸類の分子量の測定は、常法に従い測定することができる。分子量測定にGPC-MALSを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の実施例1に記載のとおりである。検出器として、例えば、RI検出器と光散乱検出器(MALS)を用いることができる。
アルギン酸類は、褐藻類から抽出された当初は一般的に分子量が大きいが、熱による乾燥、精製などの過程で、徐々に分子量が小さくなる。製造工程の温度等の条件管理、原料とする褐藻類の選択、製造工程における分子量の分画などの手法により分子量の異なるアルギン酸類を製造することができる。さらに、異なる分子量を持つ別ロットのアルギン酸類と混合することにより、目的とする分子量を有するアルギン酸類とすることも可能である。
本発明で用いられるアルギン酸の1価金属塩は、低エンドトキシン処理されたものである。低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9-324001号公報など参照)、β1,3-グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特開平8-269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002-530440号公報など参照)、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/13136号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Appl Microbiol Biotechnol(1994)40:638-643など参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。本発明の低エンドトキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005-036036号公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することができる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。アルギン酸の種類に合わせて適宜選択するのが望ましい。
エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(LAL)による方法、エンドスペシー(登録商標)ES-24Sセット(生化学工業株式会社)を用いる方法などによって測定することができる。
本発明に用いられるアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシンの処理方法は特に限定されないが、その結果として、生体内吸収性多糖類のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ましくは、50EU/g以下、特に好ましくは、30EU/g以下である。低エンドトキシン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(登録商標)(持田製薬株式会社)、PRONOVATM UP LVG(FMCBioPolymer)など市販品により入手可能である。
スポンジ状積層体におけるアルギン酸の1価金属塩の使用量は、癒着防止効果を考慮して、適宜選択することができる。アルギン酸の1価金属塩の使用量は、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層の合計で、例えば、0.1mg/cm~10.0mg/cmが挙げられ、好ましくは、0.1mg/cm~3.0mg/cmであり、より好ましくは、0.5mg/cm~2.5mg/cmであり、さらに好ましくは、1.8mg/cm~2.2mg/cmであり、特に好ましくは、2.0mg/cmである。アルギン酸の1価金属塩の使用量が、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層の合計で、1.0mg/cm~3.0mg/cmであることで、より高い癒着防止効果が期待できる。使用量が10.0mg/cm以下であれば、生体内の蓄積や特定臓器の肥大などの有害事象のおそれが少なく、使用量が0.1mg/cm以上であれば十分な癒着防止効果が期待できる。
第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩の使用量の比(重量比)は、好ましくは、1:20~20:1であり、より好ましくは、1:5~5:1であり、さらに好ましくは、1:3~3:1であり、特に好ましくは、1:2~2:1である。
4.硬化剤(架橋剤)
癒着防止材は、第1の層および第2の層のいずれか一方が硬化剤を含有してもよく(すなわち、第1の層および第2の層のいずれか一方が硬化剤を含有しなくてもよく)、あるいは、第1の層および第2の層の両方が硬化剤を含有してもよい。
あるいは、癒着防止材は、第1の層および第2の層のいずれもが硬化剤を含有していなくてもよい。
ここで、いくつかの態様では、第1の層および第2の層は、少なくとも一部が硬化剤で架橋されたものである。
硬化剤は、アルギン酸の1価金属塩の溶液を架橋することにより、硬化するものである。硬化剤は、例えば、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、Zn2+、Fe3+などの2価以上の金属イオン化合物、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬などが挙げられる。より具体的には、2価以上の金属イオン化合物として、CaCl、MgCl、CaSO、ZnCl、FeCl、BaCl、SrCl、第二リン酸カルシウム(CaHPO)等の無機金属塩、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、乳酸カルシウム等の有機酸金属塩等(好ましくは、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、第二リン酸カルシウム(CaHPO)、グルコン酸カルシウム等)を、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬として、窒素原子上にリジル(lysyl)基(-COCH(NH)-(CH-NH)を有することもあるジアミノアルカン、すなわちジアミノアルカンおよびそのアミノ基がリジル基で置換されてリジルアミノ基を形成している誘導体が包含され、具体的にはジアミノエタン、ジアミノプロパン、N-(リジル)-ジアミノエタン等を挙げることができる。
第1層および第2層における硬化剤の使用量は、アルギン酸の一価金属塩の使用量や分子量、所望の硬化時間などに応じて適宜調節するのが望ましい。硬化剤を使用する場合、第1の層における硬化剤の使用量は、例えば、0.1μmol/cm~100μmol/cmであり、好ましくは、0.5μmol/cm~2.0μmol/cmである。硬化剤を使用する場合、第2の層における硬化剤の使用量は、例えば、0.1μmol/cm~10μmol/cmであり、好ましくは、0.6μmol/cm~2.4μmol/cmである。また、硬化剤の使用量(使用濃度)を低減することにより、各層の硬化時間を延長することができ、逆に硬化剤の使用量(使用濃度)を増大することにより、各層の硬化時間を短縮することができる。
5.癒着防止材の作製方法
生体適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材や生体適用可能なスポンジ状積層体は、例えば、以下の工程を経て作製することができる。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程。
上記工程(1)では、先ず、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩(以下、「第1のアルギン酸塩」という)の溶液と硬化剤の溶液を準備する。第1のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは水性溶媒であり、例えば、精製水、純水(例えば、蒸留水、イオン交換水)、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、DMSOなどであり、より好ましくは、純水である。これらは、滅菌されていることが好ましく、低エンドトキシン処理されたものが好ましい。
そして、第1のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液を混合することにより、第1のアルギン酸塩を硬化させることができる。
上記工程(2)では、工程(1)で硬化させた第1のアルギン酸塩を、常法により凍結させる。工程(3)の前に一度凍結させることにより、第1の層と第2の層が混和する割合を低減することができる。凍結温度および時間は、例えば、-20℃で4時間である。なお、この工程(2)は省略することもできる。省略することにより、スポンジ状積層体の製造時間を短縮し、生産効率化を図ることができる。
上記工程(3)では、先ず、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩(以下、「第2のアルギン酸塩」という)の溶液と硬化剤の溶液を準備する。第2のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。溶媒は、上記工程(1)で説明したものと同様である。
そして、第2のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液を混合することにより、第2のアルギン酸塩を硬化させることができる。
さらに硬化させた第2のアルギン酸塩を、工程(4)の前に凍結させるようにしてもよい。凍結温度および時間は、例えば、-20℃で4時間である。
上記工程(4)では、工程(3)で得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る。凍結乾燥は、公知の方法により行うことができる。凍結乾燥の条件は適宜調節可能であり、一次乾燥工程、二次乾燥工程等を設けてもよい。
これらの工程により、第1のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第1の層と、第2のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い、生体適用可能なスポンジ状積層体、ならびにそのスポンジ状積層体を含む癒着防止材を得ることができる。
なお、上記の方法では、最初に、第1のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第1の層を作製し、その上に、第2のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第2の層を作製しているが、最初に、第2の層を作製し、その上に、第1の層を作製するようにしてもよい。この場合、スポンジ状積層体は、例えば、以下の工程を経て作製することができる。
(1’)第2のアルギン酸塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2’)硬化した第2のアルギン酸塩を凍結する工程(省略することも可能)、
(3’)(2’)で得られた第2のアルギン酸塩の上で、第1のアルギン酸塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4’)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程。
各工程の具体的な説明は、前記の方法と同様である。
あるいは、第1のアルギン酸塩を硬化させて凍結乾燥することでスポンジ状の第1の層を作製し、別途、第2のアルギン酸塩を硬化させて凍結乾燥することでスポンジ状の第2の層を作製し、得られたスポンジ状の各層を貼り合わせることにより、スポンジ状積層体を得ることも可能である。
各工程の具体的な説明は、前記の方法と同様である。
第1のアルギン酸塩および第2のアルギン酸塩を硬化させるときに、所望の大きさ、高さおよび形状の容器、型、基板、多孔膜、不織布、織布などを用いることで、所望の大きさ、高さおよび形状のスポンジ状積層体を含む、癒着防止材を得ることができる。
第1のアルギン酸塩および第2のアルギン酸塩の硬化時間は、使用するアルギン酸塩の分子量を下げる、硬化剤の濃度を下げる、アルギン酸塩の濃度を下げる、などの手法により延長することができ、逆に使用するアルギン酸塩の分子量を上げる、硬化剤の濃度を上げる、アルギン酸塩の濃度を上げる、などの手法により短縮することができる。硬化時間が長くなると、硬化途上のアルギン酸塩の容器や型への充填等の操作性が向上するが、硬化時間が長くなりすぎると製造効率に影響する。例えば、原料として用いるアルギン酸の1価金属塩の、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量を、例えば、5,000~300,000、好ましくは、10,000~280,000、より好ましくは、20,000~270,000、さらに好ましくは、30,000~260,000、特に好ましくは、40,000~250,000とすることにより、アルギン酸塩の硬化時間を適正化することができる。
癒着防止材のスポンジ状積層体は、さらに、滅菌処理がなされていることが好ましい。滅菌は、γ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌、エタノール滅菌、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌、過酸化水素蒸気滅菌、ホルムアルデヒドガス滅菌等が挙げられ、これらに限定されない。より好ましくは、癒着防止材は、電子線および/またはγ線照射により滅菌処理がされる。高分子材料をγ線、電子線等で照射処理することにより、好ましくは、生体内での貯留性を制御した生体適合性の高い医用材料が得られる(例えば、特開2000-237294号参照)。
電子線および/またはγ線滅菌する場合の照射条件として、例えば、吸収線量が10kGy~150kGyが挙げられ、より好ましくは20kGy~100kGyが挙げられ、さらに好ましくは40kGy~80kGyが挙げられる。電子線および/またはγ線滅菌する場合の照射条件の別の好ましい態様として、例えば、吸収線量が20kGy~80kGy、20kGy~60kGy、40kGy~60kGy等が挙げられる。γ線滅菌よりも電子線滅菌が好ましい。
別の好ましい態様として、癒着防止材のスポンジ状積層体は、エチレンオキシドガス(EOG)を用い、常法により滅菌処理がされる。
さらに別の態様において、癒着防止材のスポンジ状積層体は、滅菌された、または、無菌の材料を用いて、無菌条件下で製造されてもよい。こうして製造されたスポンジ状積層体は、滅菌処理を行わなくとも無菌状態で提供することができる。
いくつかの態様では、上記工程(4)などで得られた積層体をプレスする工程をさらに含む。プレスは、手動で、あるいはプレス機によって積層体を挟み、加圧することで行う。また、一般的に用いられる圧縮、薄層化などの工程も、本発明でいうプレスに含まれるものとする。プレス圧力としては、例えば1kPa~100MPaが挙げられ、より好ましくは10kPa~80MPa、さらに好ましくは100kPa~60Mpaが挙げられる。手動でのプレスは、積層体に均一に圧がかかるように手で押圧できるもの、例えば、アクリル定規、アクリル板、ガラス板、金属板等を介して行う。また、用いるプレス機としては、例えば、ホットプレス機(アズワン株式会社製 AH-1T)が挙げられる。
得られたスポンジ状積層体については、常法(例えば、JISに規定された手法など)により、引張強度、引裂強度、分解性(溶解性)、吸水速度(吸水量)、ずれ(粘弾性)、通気性、滑り性、等の物性値を測定することができる。
6.使用方法
癒着防止材は、癒着防止を必要とする対象に適用することにより使用される。好ましくは、癒着防止材は、通常、癒着防止効果を奏するのに必要な1週間程度、適用局所に滞留した後に吸収分解され、最終的には1~2カ月程度で代謝・排泄されてなくなるため、安全性に優れる。
癒着防止材は、創傷部の表面、例えば外科手術に関連した組織の表面に適用するようにしてもよい。
「外科手術に関連した組織」とは、外科手術において表面に外傷を負った組織や、外科手術において表面が乾燥することにより炎症が生じたまたは炎症が生じる恐れのある組織である。外科手術に関連した組織は、好ましくは、腹膜に覆われている臓器(例えば、胃、空腸、回腸、虫垂、結腸、肝臓、胆嚢、脾臓、十二指腸、子宮、卵管、卵巣、腹壁および膵臓)、胸膜に覆われている臓器(肺、胸壁)、心膜に覆われている臓器(心臓、心嚢)、等である。本発明の好ましい態様の癒着防止材は、肝切除後に生じる癒着のような重篤な癒着を効果的に防止することができる。
また、「適用する」とは、癒着防止材を、創傷部の表面(例えば、外科出術に関連した組織の表面)に置くことをいう。具体的には、例えば、スポンジ状積層体の第1の層の表面が創傷部側の表面(例えば、組織の表面)と接触し、第2の層の表面が創傷部側の表面(例えば、組織の表面)とは反対側(例えば、漿膜腔側)を向くように、癒着防止材を創傷部側の表面(例えば、外科手術に関連した組織の表面)に置くようにすることができる。上記組織は、限定されずに、漿膜で覆われた組織(例えば、腹腔内の胃、空腸、回腸、虫垂、結腸、肝臓、胆嚢、脾臓、十二指腸、膵臓、子宮、卵管、卵巣、大網、腸間膜、腹壁、胸腔内の肺、心臓、心嚢、胸壁等)を含む。したがって、癒着防止材は、スポンジ状積層体の第1の層の表面が、外科手術等の直接の標的となる組織の創傷部側の表面に接触させるように配置することもできるし、当該組織にアクセスするために侵襲を加えた体壁等の創傷部側の表面に接触させるように配置することもできる。例えば、開腹手術のように、皮膚切開部に大きな侵襲を伴う外科手術においては、切開部を閉じる際に、皮膚切開部側(体壁側)にスポンジ状積層体の第1の層の表面が接触するようにして用いることもできる。
切開部の大きさや侵襲の程度に応じて、一度の手術に複数枚のスポンジ状積層体を使用することもできる。複数枚のスポンジ状積層体を使用する場合、すべてのスポンジ状積層体を、その第1の層の表面が標的組織の創傷部側(臓側側)の表面と接触するように設置することもできるし、すべてのスポンジ状積層体を、皮膚切開部側(体壁側)にスポンジ状積層体の第1の層の表面が接触するように設置することもできるし、一部のスポンジ状積層体を、その第1の層の表面が標的組織の創傷部側(臓側側)の表面と接触するように設置し、他のスポンジ状積層体を、皮膚切開部側(体壁側)にスポンジ状積層体の第1の層の表面が接触するように設置することもできる。スポンジ状積層体の第1の層は比較的重量平均分子量が高いため、創傷を有する組織の表面に癒着を防止するのに十分な時間分解されずに残留し、創傷面の物理的バリアとして働く。一方、スポンジ状積層体の第2の層は比較的重量平均分子量が低いため、速やかに溶けて広がり、非創傷面の癒着防止の役割を果たす。
好ましくは、癒着防止材のスポンジ状積層体は、Seprafilm(商品名)と比較して、柔軟性が高く、割れにくい。このため、好ましい態様では、癒着防止材は、適用する組織の表面に規定されず、例えば、腸管吻合の際にも腸管に巻き付けて使用できる。また、別の好ましい態様では、内視鏡を用いた外科手術の際にも、手術器具を対象において出し入れする通路から、容易に挿入できる。さらに別の好ましい態様では、癒着防止材は、貼りなおしが可能である。
また、好ましくは、癒着防止材のスポンジ積層体は、INTERCEED(商品名)と比較して、癒着防止対象が広範である。
好ましくは、癒着防止材は、適用する表面の範囲、形状、凹凸などに応じて適当な大きさのものを準備し、癒着防止すべき外科手術に関連した組織の表面に適用する。「対象」は、ヒト、またはヒト以外の生物、例えば、トリおよび非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ヤギおよびウマ)である。
癒着防止材のスポンジ積層体、とりわけスポンジ積層体がプレスしたものである場合には、コンパクトにまとめることができるので、例えば、内視鏡手術においてトロッカー等を介して癒着防止材を患部に比較的容易に適用することができる。そして、患部に適用された癒着防止材は、好ましくは、患部に存在する水分あるいは患部に適用された水分を吸収して厚みが回復する。
好ましくは、癒着防止材は、Seprafilm(商品名)やINTERCEED(商品名)と同様に、対象において安全に使用できる。
外科手術に関連した組織の表面に適用した後、癒着防止材と外科手術に関連した組織の表面の縫合は通常は必要ないが、必要に応じて、癒着防止材と外科手術に関連した組織の表面を縫合してもよい。
また、スポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法が提供される。具体的な方法は、前述の通りである。
また、癒着防止材を製造するための、スポンジ状積層体の使用が提供される。具体的な使用は、前述の通りである。
さらに、癒着防止のためのスポンジ状積層体が提供される。具体的な、スポンジ状積層体は、前述の通りである。
7.併用薬
本発明の癒着防止材を外科手術に関連した組織に適用する前に、あるいは同時に、あるいは後で、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、およびアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬等の併用薬を投与するようにしてもよい。これらの薬剤は本発明の癒着防止材に混入して用いてもよい。
スポンジ状積層体は多孔性で吸水力もあるため、例えば、無孔性のSeprafilm(商品名)に比べて、用時調製による薬物担持が容易である。薬剤溶液をスポンジに含浸させ、投与することで、腹腔、胸腔、心腔、くも膜下腔、漿膜腔(腹膜腔、胸膜腔、心膜腔)、関節腔等において、癒着防止と薬物の局所徐放が同時に達成できる。さらに溶解速度が異なる層に薬物を担持することにより、速い徐放速度と遅い徐放速度での薬物の徐放も可能となる。
なお、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。
以下の実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定して理解されるべきものではない。
実施例1:アルギン酸積層スポンジの作製
アルギン酸積層スポンジを、以下のように作製した。
[試薬]
アルギン酸積層スポンジの調製に用いた各試薬は以下の通りである。
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、持田製薬株式会社から入手した。
・AL10:(Lot NO.5K12202),エンドトキシン量4EU/g。
・AL500:(Lot NO.BL150713-500),エンドトキシン量19EU/g。
塩化カルシウムは、和光純薬工業株式会社から入手した(商品コード:036-00485)。
[使用機器]
35mm無処理ディッシュ(IWAKI社 商品コード1000-035)
マイクロピペット(Gilson社 ピペットマン(商品名))
純水製造装置(メルクミリポア社 Elix Essential UV5(商品名))
冷凍庫(SHARP社 SJ-56S(商品名))
凍結乾燥器(TAITEC社 VD-550R(商品名))
[調製手順]
(1)溶液の調製
AL500を1.0wt%の濃度で純水に溶解させて、AL500溶液を調製した。同様に、AL10を1.0wt%の濃度で純水に溶解させて、AL10溶液を調製した。さらに、塩化カルシウムを純水に溶解させ、10mMおよび15mMの塩化カルシウム水溶液をそれぞれ調製した。
(2)AL500層(下層)の調製
AL500溶液1.0mLおよび10mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットを使用して35mm無処理ディッシュに加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。これを一晩静置し、ゲル化させた。ディッシュを冷凍庫に移し、-20℃で4時間凍結させた。
(3)AL10層(上層)の積層
ディッシュを冷凍庫から取り出し、凍結したAL500層の上に、AL10溶液1.0mLおよび15mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットで加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。これを再びディッシュを冷凍庫に移し、-20℃で4時間凍結させた。
(4)スポンジの作製
凍結後のディッシュを凍結乾燥器にセットし、2晩凍結乾燥を行って、目的のアルギン酸積層スポンジを得た。
目的のアルギン酸積層スポンジは、AL500と塩化カルシウムを含むスポンジ状の下層(すなわち、第1の層)と、AL10と塩化カルシウムを含むスポンジ状の上層(すなわち、第2の層)を含む。アルギン酸積層スポンジは、直径35mm、厚み1.83±0.13cm(n=4)の略円状であった。アルギン酸ナトリウムの上層と下層での使用量の合計は、約2.0mg/cmであった。また、アルギン酸ナトリウムの上層と下層での使用量の比(重量比)は、1:1であった。さらに、塩化カルシウムの使用量は、上層で、約1.0μmol/cmであり、下層で、約1.5μmol/cmであった。
(5)重量平均分子量の測定
製造原料として用いたアルギン酸について、以下のGPC-MALS法により重量平均分子量を測定した。
[前処理方法]
試料に溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルター濾過したものを測定溶液とした。
[測定条件(屈折率増分(dn/dc)測定)]
示差屈折率計:Optilab T-rEX
測定波長:658nm
測定温度:40℃
溶媒:200mM硝酸ナトリウム水溶液
試料濃度:0.5~2.5mg/mL(5濃度)
[測定条件(絶対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min.
濃度:0.05%
検出器:RI検出器、光散乱検出器(MALS)
カラム温度:40℃
注入量:200μL
[結果]
AL10 : 55,000
AL500: 280,000
また、上記工程(1)、(2)および(4)の方法に準じて製造したAL10を含有する単層スポンジと、AL500を含有する単層スポンジを電子線滅菌後、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液に溶解して、GPC-MALS法によりそれぞれ分子量を測定した。結果を以下に示す。
[結果]
(電子線滅菌の照射線量が20kGyの場合)
AL10 :36,000
AL500:75,000
(電子線滅菌の照射線量が40kGyの場合)
AL10 :27,000
AL500:45,000
後述の実施例3、実施例3-2、実施例4および実施例9では、積層スポンジとして、得られた積層スポンジを電子線滅菌(20kGy)したものを用いた。
なお、後述の実施例6および7では、積層スポンジとして、非滅菌のものを用いた。
実施例1-2:アルギン酸積層スポンジの作製
(1)スポンジの作製
以下の[試薬]に記載のアルギン酸を用い、AL100またはAL500を下層の原料として、AL10またはAL20を上層の原料として使用し、実施例1に記載の方法に準じて、AL10(上層)-AL100(下層)、AL20(上層)-AL100(下層)、AL20(上層)-AL500(下層)の組合せによる、各アルギン酸積層スポンジを作製した。
なお、以下では上層と下層の組合せを便宜的に「下層/上層」と表記することがある。この表記法によると、例えば、AL10(上層)-AL100(下層)の組合せは「AL100/AL10」、AL20(上層)-AL500(下層)の組合せは「AL500/AL20」と表記される。
[試薬]
・AL10:実施例1と同じ
・AL20:(Lot NO.BL150713-20),エンドトキシン量13EU/g。
・AL100:(Lot NO.5G17201),エンドトキシン量6EU/g。
・AL500:実施例1と同じ
(2)重量平均分子量の測定
また、スポンジ作製に用いたアルギン酸のうち、AL20およびAL100について、実施例1に記載の方法を用いて、GPC-MALS法により重量平均分子量を測定した。
[結果]
AL20 : 82,000
AL100: 170,000
また、実施例1に記載の方法に準じて製造したAL20を含有する単層スポンジと、AL100を含有する単層スポンジについて、実施例1に記載の方法を用いて、電子線滅菌後の分子量を測定した。結果を以下に示す。
[結果]
(電子線滅菌の照射線量が20kGyの場合)
AL20 :46,000
AL100:63,000
(電子線滅菌の照射線量が40kGyの場合)
AL20 :33,000
AL100:40,000
実施例1-3:アルギン酸積層スポンジの作製(グルコン酸カルシウムで硬化)
AL500層をゲル化させる際に、10mM塩化カルシウムの代わりに10mMグルコン酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1の方法に準じて、アルギン酸積層スポンジを作製した。作製したスポンジは、後述の実施例3-3、実験群1に用いた。
実施例1-4:アルギン酸積層スポンジの作製(EOG滅菌)
下層に使用するアルギン酸として、実施例1-2で使用したAL100を用いた以外は、実施例1、工程(1)~(4)の方法にて、AL10(上層)-AL100(下層)のアルギン酸積層スポンジを作製した。得られたスポンジを、エチレンオキシドガスを用いて、常法にて滅菌した。得られたスポンジは、後述の実施例3-3、実験群4に用いた。
実施例1-5:アルギン酸積層スポンジの作製(1段凍結後プレス)
下層に使用するアルギン酸として、実施例1-2で使用したAL100を用いた以外は、実施例1、工程(1)の方法にて溶液を調製し、引続き、以下の(2)以降の手順によりアルギン酸積層スポンジを作製した。
(2)AL100層(下層)の調製
AL100溶液1.0mLおよび10mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットを使用して35mm無処理ディッシュに加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。これを1~2時間静置し、ゲル化させた。
(3)AL10層(上層)の積層
ゲル化したAL100層の上に、AL10溶液1.0mLおよび15mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットで加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。ディッシュを冷凍庫に移し、-20℃で4時間凍結させた。
(4)スポンジの作製
凍結後のディッシュを凍結乾燥器にセットし、2晩凍結乾燥を行って、目的のアルギン酸積層スポンジを得た。
(5)スポンジのプレス
上記(4)で得られたスポンジをプレス機(アズワン株式会社製、製品名AH-1T)にセットした。10MPaの圧力で室温にてスポンジをプレスし、5分間保持した。プレス後のスポンジを、電子線を用いて、常法にて滅菌した。得られたスポンジは、後述の実施例3-3、実験群5に用いた。
実施例2:アルギン酸積層スポンジの各層の溶解速度の測定(浸漬法)
上層または下層が蛍光修飾された積層スポンジをそれぞれ作製し、溶解速度の測定を行った。具体的な方法を以下に示す。なお、蛍光標識試薬としてはFTSC(Fluorescein-5-Thiosemicarbazide)を使用し、アルギン酸の標識は常法により行った。
蛍光標識されたアルギン酸を用い、実施例1に記載の方法に準じて積層スポンジを作製した。
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。リン酸緩衝液は、リン酸二水素ナトリウム(和光純薬社、197-09705(商品名))、リン酸二水素カリウム(和光純薬社、166-04255(商品名))、塩化ナトリウム(和光純薬社、191-01665(商品名))、塩化カリウム(和光純薬社、166-17945(商品名))を用いて調製した。エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(N001)はDojindo社から購入した。
[使用機器]
直径8mm生検トレパン(Kai medical社 BP-80F(商品名))
96穴黒色マイクロプレート(Nunc社 137101(商品名))
蛍光プレートリーダー (Perkin Elmer社 ARVO X3(商品名))
[手順]
まず、蛍光修飾された積層スポンジを直径8mmの生検トレパン(Kai medical社 BP-60F(商品名))で打ち抜いた。これを150mMリン酸緩衝液(pH7.5)10mL中に浸漬し、一定時間毎に浸漬液を200μLずつ回収した。回収した溶液を96穴プレートに移し、蛍光プレートリーダーによって蛍光強度を測定することで、溶解したアルギン酸量を定量化した。
[結果]
積層スポンジの各層の溶解挙動の測定結果を、図2に示す。図2に示されているように、下層では、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出していた。一方、上層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出していた。また、上層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、下層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合は、測定開始から1時間の時点で36%(50%未満)、2時間の時点で55%(70%未満)であった。
このように上層の溶解速度が、下層に比べて速いことが確認できた。例えば、腹腔内臓器の創傷に適用する場合、下層を創傷部側、上層を腹腔側に向けてアルギン酸スポンジを適用することで、下層は、創傷部に残留して創傷部の癒着を防止することができるとともに、上層は比較的速く溶解して創傷部から遠く離れた場所にも多数形成されるde novo癒着、例えば、腹腔内全般の癒着等を抑えることができると考えられる。
なお、実施例1-2で作製した各積層スポンジ(AL10(上層)-AL100(下層);AL20(上層)-AL100(下層);AL20(上層)-AL500(下層))についても同様にして溶解速度の測定を行った結果、実施例1で作製した積層スポンジ(AL10(上層)-AL500(下層))と同様、上層の溶解速度が、下層に比べて速いという溶解挙動を示す。
実施例2-2:アルギン酸積層スポンジの各層の溶解速度の測定(貼付法)
実施例2の方法に準じて、AL500/AL10の上層または下層が蛍光修飾された積層スポンジをそれぞれ作製し、以下の手順にて溶解速度の測定を行った。
[手順]
1)蛍光修飾された積層スポンジを直径8mmの生検トレパン(Kai medical社 BP-60F(商品名))で打ち抜いた。
2)アガロース(和光純薬工業株式会社、商品コード:010-08725)を熱湯に2重量%で溶解させ、室温まで冷却することでアガロースゲルを作製した。アガロースゲルを2cm×2cm角に切り取り、ガラスシャーレ上でリン酸緩衝液に浸漬し、湿潤させた。液面がアガロースゲル上面のわずかに下になるようにリン酸緩衝液(pH7.5)をガラスシャーレに加えた。
3)アガロースゲル上に1)のスポンジを静置し、一定時間ごとにリン酸緩衝液を採取し、蛍光強度を測定した。
[結果]
積層スポンジの各層の溶解挙動の測定結果を、表1および図3に示す。数値は試験開始前のアルギン酸の重量を100重量%としたときの、各時点での溶出アルギン酸の重量%を示す。
Figure 2022191401000001
この方法は、貼付面のみから水分供給がなされる試験系であり、より生体内に近い環境での積層スポンジの溶解挙動が確認できる。この試験系においては、上層のアルギン酸は側面および下層を通過してアガロースゲルに到達した後、シャーレ内のリン酸緩衝液中に溶出すると考えられる。表1および図3に示されているように、下層では、アルギン酸の1価金属塩の約16±2重量%が2日以内に溶出し、約33±7重量%が8日以内に溶出していた。一方、上層は、アルギン酸の1価金属塩の約31±6重量%が2日以内に溶出し、約60±7重量%が8日以内に溶出した。また、上層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、下層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合は、測定開始から2日目以降において約50±5%(約44%~約55%)であった。このように、生体内に近い条件下でも、上層の溶解速度が、下層に比べて速いことが確認できた。
実施例3:ラット一部肝切除モデル
ラット一部肝切除モデルを用いて、癒着の形成を評価した。ラット一部肝切除モデルは、重篤な炎症を惹起し高い強度を有する癒着の形成を再現性高く観察できるモデルである(Shimizu A et al.,(2014)Surg Today.(44):314-323)。具体的には、以下のように癒着の形成を評価した。
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。
Seprafilm(商品名)は、カルボキシメチルセルロース(CMC)とヒアルロン酸を混合したシート状材料であり、Genzyme GmbHより入手した。
Interceed(商品名)は、再生酸化セルロースシートであり、Johnson&Johnsonより入手した。
[実験群]
Control群(n=8):left lateral lobeの辺縁を3cm計測し切離し凝固止血した(無処置対照群)。
AL500/AL10積層スポンジ群(n=8):実施例1で作製したアルギン酸スポンジを癒着防止材として適用した。
Seprafilm群(n=8):2×3cmのSeprafilmを癒着防止材として適用した。
Interceed群(n=8):2×3cmのInterceedを癒着防止材として適用した。
[手順]
ペントバルビタール35mg/kg相当の腹腔投与によりラットに麻酔をかけ、体重を電子天秤で測定した。その後、ラットを、正中切開で開腹した。次に、腹壁をピンセットでつまんで持ち上げ、腹壁を切断した。肝切除を行う前準備として、left lateral lobeを腹腔の奥から引き出し、その下にガーゼを敷いた。次に、実際の肝切除に移った。具体的には、ものさしを肝臓にあて、離断面が3cmになる位置を探し、その両端に、バイポーラで焼灼し、印をつけた。印をつけた2点の間を直線的に切除していった。Control群では、この後すぐ閉腹して処置を終了した。癒着防止材を適用する群では、この後、ガーゼを除去したのちに癒着防止材を適用した。次に、腹壁と皮膚を二回に分けて縫合し閉腹した。腹壁を縫合する際には生分解糸を用い、皮膚を縫合する際には非吸収糸を用いた。閉腹から一週間後に、ラットを過剰量の麻酔として約2mLのペントバルビタールの過剰投与によって安楽死させ、体重を電子天秤で測定した。その後、再び開腹し、以下の通り癒着を評価した。脾臓重量は、腹腔から脾臓を摘出した後、電子天秤で測定した。
[癒着の評価]
以下の通り、癒着の評価を行った。
(1)離断面
上記[手順]に記載した肝離断面について、以下の(a)、(b)の評価を行った。
(a)癒着グレード
癒着の評価は、目視により行った。肝離断面について、下記スコアリング法に基づき癒着スコアをつけた。
癒着スコア:
Grade0:癒着が全く見られない。
Grade1:自重により剥離する程度の癒着(生理的な癒着)
Grade2:ピンセットによる剥離が可能な癒着(鈍的な癒着)
Grade3:ハサミ、メスを使わないと剥離できない癒着(鋭的な癒着)
(b)癒着Extent
3cmの肝離断面のうち、癒着が形成された幅を定規(ものさし)にて計測し、長さ(単位:mm)で表した(従って、離断面の最大Extentは30mmとなる)。
(2)非離断面
肝離断面以外、具体的には肝表面、大網、腹膜、小腸、正中創直下、等について、以下の(a)、(b)の評価を行った。非離断面の癒着は、de novo癒着の指標となる。
(a)癒着グレード
癒着の評価は、目視により行った。肝離断面以外の部位について、下記スコアリング法に基づき癒着スコアをつけた。部位は特定せず、認められた癒着スコアの最大値を、その試験動物の癒着スコアとして記録した。
癒着スコア:
Grade0:癒着が全く見られない。
Grade1:自重により剥離する程度の癒着(生理的な癒着)
Grade2:ピンセットによる剥離が可能な癒着(鈍的な癒着)
Grade3:ハサミ、メスを使わないと剥離できない癒着(鋭的な癒着)
(b)癒着Extent
肝離断面以外の部位について、癒着が形成された組織部分について、定規(ものさし)にて、その接着している幅を計測し、長さ(単位:mm)で表した。上記(2)(a)と同様、部位は特定せず、認められた癒着が形成された幅の最大値を、その試験動物の癒着Extentとして記録した。
[結果]
癒着の評価の結果を図4(離断面)および図5(非離断面)に示した。また、体重測定および脾臓重量測定の結果を図6に示した。
離断面においては、各群とも、Control群に比べて癒着が抑制される傾向が認められた(図4(A)~(C))。
非離断面において、AL500/AL10積層スポンジ群での顕著な癒着防止効果が確認された(図5(A)~(C))。陽性対照として用いたSeprafilm(商品名)およびInterceed(商品名)では癒着防止効果は認められず、Control群に比べて癒着が増悪する傾向が認められた。一方、AL500/AL10積層スポンジ群では顕著な癒着防止効果が確認された。
体重および脾臓重量については、Control群、Seprafilm群、Interceed群、およびAL500/AL10積層スポンジ群間で有意差はなく、AL500/AL10積層スポンジを適用しても、生体に悪影響がないことが確認された(図6(A)および(B))。
ここで、実施例における有意差検定は、特に断りがない限りStudent’s t-testによって行い、Gradeの評価のみMann-Whitney U testで行った。
実施例3-2:ペアン鉗子を用いたラット一部肝切除モデル
肝臓の離断の際にペアン鉗子を用いたことを除き、実施例3と同じ材料、実験群、手順および癒着の評価方法を用いて、肝離断面と非離断面の癒着グレードと癒着Extentを評価した。
ペアン鉗子を用いた肝臓の離断は、具体的には、次のように行った。すなわち、実施例3の[手順]において「印をつけた2点の間を直線的に切除する」のを、ペアン鉗子で肝実質を破砕し、露出した血管をバイポーラで焼灼することにより行った。
[結果]
癒着の評価の結果を図7(離断面)および図8(非離断面)に示した。また、体重測定および脾臓重量測定の結果を図9に示した。
離断面においては、各群(n=8)とも、Control群(n=8)に比べて癒着が抑制される傾向が認められ、AL500/AL10積層スポンジ群においては、Control群との間に統計的に有意な差が認められた(図7(A)~(C))。
非離断面において、AL500/AL10積層スポンジ群での顕著な癒着防止効果が確認された(図8(A)~(C))。陽性対照として用いたSeprafilm(商品名)については癒着防止効果が認められず、Interceed(商品名)についてはControl群に比べて癒着が増悪する傾向が認められた。一方、AL500/AL10積層スポンジ群では顕著な癒着防止効果が確認された。
体重および脾臓重量については、Control群、Seprafilm群、Interceed群、およびAL500/AL10積層スポンジ群間で有意差はなく、AL500/AL10積層スポンジを適用しても、生体に悪影響がないことが確認された(図9(A)および(B))。
実施例3-3:ペアン鉗子を用いたラット一部肝切除モデル
実施例3-2と同じ方法を用いて、以下の実験群について、肝離断面と非離断面の癒着グレードと癒着Extentを評価した。
実験群1:AL500/AL10 グルコン酸カルシウムで硬化 [実施例1-3で作製]
実験群2:AL500/AL10 プレス [実施例6(1-2)で作製]
実験群3:AL100/AL10 電子線滅菌 [実施例1-2で作製]
実験群4:AL100/AL10 EOG滅菌 [実施例1-4で作製]
実験群5:AL100/AL10 1段凍結 プレス [実施例1-5で作製]
なお、無処置対照群、Seprafilm群、AL500/AL10[実施例1で作製]について別途実施し、上記実験群とこれらの結果とを比較した。
[結果]
実験群1~5とも、実施例1で作製した積層スポンジと同様の効果が得られる。
実施例4:アルギン酸積層スポンジの各層の蛍光標識による可視化
アルギン酸積層スポンジの各層について蛍光標識による可視化の試験を以下のように行った。
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。
[使用機器]
ハンディー紫外線ランプ(UVP社 UVGL-58(商品名))
[手順]
ラットの肝臓切除の手順は、実施例3に記載の通りである。作製された肝臓の離断面に、第1の層または第2の層が蛍光標識されたアルギン酸スポンジを貼付した。貼付には、材料の残存を観察しやすくするために、実施例1よりも多い4.0mg/cmのアルギン酸を使用した積層スポンジを実施例1の方法に準じて作製し、使用した。その後、実施例3に記載の手順で閉腹し、1週間後に開腹を行った。露出した腹腔内にランプで紫外線を照射し、蛍光標識されたアルギン酸の腹腔内分布を可視化した。
その結果、AL10層は、離断面に加え、腹膜の表面にも広く分布することが確認できた。このことから、スポンジ状積層体の第2の層はアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が比較的低いため、速やかに腹腔内で溶けて広がることが示唆された。
また、AL500層は、一部腹壁などでも見られるものの、離断面からの蛍光がより際立って観察された。このことから、スポンジ状積層体の第1の層はアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が比較的高いため、離断面に留まって物理的なバリアとなることが示唆された。
実施例5:巻き付け試験
アルギン酸積層スポンジの曲面への貼付追従性を示すために、巻き付け試験を以下のように行った。
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。寒天(010-08725)は、和光純薬から購入した。
[手順]
寒天をお湯に溶解した後、円柱状の型に流し込んで冷やし、直径20mmのアガロースゲル円柱を作製した。これをモデル管状臓器とし、実施例1で作製したスポンジを巻き付けることで、巻き付けの追従性を検証した。
その結果、アルギン酸積層スポンジの柔軟性から、腸管を模した円柱への巻き付けが可能であることが確認できた。このことから、スポンジ状積層体を含む癒着防止材が、腸管吻合などにも使用が可能になることが示唆された。
実施例6:スポンジのプレスと膨潤試験
アルギン酸積層スポンジのプレス、プレス後の厚みの測定および膨潤試験を以下のように行った。
[材料]
アルギン酸積層スポンジ(AL10(上層)-AL500(下層))は、実施例1に記載の通りである。
[手順]
(1)プレスおよびプレス後の厚みの測定
(1-1)手動プレス
アルギン酸積層スポンジを平面上に静置し、手のひらで、アクリル定規を介してスポンジ全体に均一に圧がかかるよう押圧した。押圧前後のスポンジの厚みを電子ノギスにて計測し、平均値を算出した(n=4)。
(1-2)プレス機によるプレス
アルギン酸積層スポンジをプレス機(アズワン株式会社製、製品名AH-1T)にセットした。10MPaの圧力で室温にてアルギン酸積層スポンジをプレスし、5分間保持した。プレス後のスポンジの厚みを電子ノギスで測定し、平均値を算出した(n=4)。
(2)膨潤試験
実施例2-2と同様にアガロースゲル/ガラスシャーレを準備した。なお、アガロースゲルは純水で湿潤させた。1cm×1cm角に切り取ったプレス前後のアルギン酸積層スポンジをアガロースゲル上に静置した。一定時間毎に横方向から撮影し、撮影した画像からスポンジの厚みを算出し、膨潤に及ぼすプレスの影響の有無を確認した(プレス前:n=3;プレス後:n=3。なお、膨潤試験では、プレスしたアルギン酸積層スポンジとして、プレス機によりプレスしたものを用いた。
[結果]
プレス後の厚みの測定結果を表2に示す。
Figure 2022191401000002
スポンジの厚みの平均値は、プレス前は約1.5mm、手動プレス後は約0.33mm、プレス機によるプレス後は約0.16mmであった。なお、プレスしたスポンジは、時間経過により厚みが増すことなく、上記の厚みが維持された。
膨潤試験における経時的なスポンジの厚みの変化を図10に示す。膨潤試験の結果から、プレスしたアルギン酸積層スポンジは、吸水して、プレスしないアルギン酸スポンジとほぼ同等の厚みとなることが確認された。
このことから、スポンジをプレスすることによりコンパクトにまとめることができるので、内視鏡手術においてトロッカー等を介して癒着防止材であるスポンジを患部に比較的容易に適用できることが示唆された。
さらに、患部に適用されたプレスしたスポンジは、患部に存在する、または患部に適用される水分を吸収して、厚みが回復することも示唆された。厚みが回復することにより、積層スポンジとしての機能を発揮し得る。
実施例7:霧吹き試験
アルギン酸積層スポンジおよびSeprafilm(商品名)について、吸水時の脆弱性を評価するために以下の試験を行った。
[材料]
アルギン酸積層スポンジは実施例1に、Seprafilm(商品名)は実施例3に記載の通りである。また、アルギン酸積層スポンジのプレス有りものとして、実施例6に記載のプレス機によりプレスしたものを用いた。
[手順]
アルギン酸積層スポンジおよびSeprafilm(商品名)から1cm×2cmの試験片を作製した。試験片の片端1cm×1cmに両面テープを貼付し、試験台の端に把持した。これにより他方の端1cm×1cmが中空に出るように試験片を固定した。
各試験片に対し、霧吹きを用いて純水を5回噴霧した。試験片が湿潤に伴って下方に折れ曲がっていく過程を動画で撮影した。
得られた動画の画像解析によって、試験片先端の試験台からの高さと角度の両方を算出し、その時間変化をプロットした。
[結果]
結果を図11に示した。
高さについては、アルギン酸積層スポンジは、霧吹き後50秒まで高さの低下は2mm以内であり、90秒後においても3mm程度であった(図11(A))。また、プレス有りのアルギン酸積層スポンジも、霧吹き後90秒後においても高さの低下は9mm程度であった。一方、Seprafilm(商品名)は、霧吹き直後から著しい高さの低下が認められた(図11(A))。角度についても、高さの結果と同様の結果であった(図11(B))。
このことから、アルギン酸積層スポンジは、プレスの有無に関わらず吸水状態にあっても暫くはその形状、強度が維持されることが示唆された。このため、癒着防止材として患部に適用した際に、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、あるいは、内視鏡手術の際、トロッカー等を介して癒着防止材であるスポンジを患部に適用する際に、トロッカー内の水分を吸収して上手く広げることができない等の事態が避けられる、などの利点がある。なお、アルギン酸積層スポンジが、患部、あるいはそのモデル系に対して好適な圧着性を有することは、実施例3、実施例5等において確認している。
実施例8:ヤング率/破断強度
アルギン酸積層スポンジの機械的特性を評価するために引張試験機による測定を行った。
[材料]
プレス無しアルギン酸積層スポンジとして実施例1で作製したものを、プレス有りアルギン酸積層スポンジとして実施例6に記載のプレス機によりプレスしたものをそれぞれ用いた。
[手順]
各スポンジからJIS K6251の引張8号形ダンベル状切片(幅10mm)を作製した。切片を引張試験機(CR-3000EX-S、株式会社サン科学製)に取り付け、stress-strain曲線を得た。得られたstress-strain曲線からヤング率および破断強度を求めた。
[結果]
測定結果は以下のとおりであった(平均±標準誤差)。
ヤング率:
AL500/AL10スポンジ(プレスなし) 0.79±0.164 MPa
AL500/AL10スポンジ(プレスあり) 14.88±1.434 MPa
破断強度:
AL500/AL10スポンジ(プレスなし) 51.55±6.391 kPa
AL500/AL10スポンジ(プレスあり) 272.80±61.892 kPa
上記結果が示すとおり、スポンジをプレスすることで、ヤング率および破断強度が増大し、スポンジが強靭化された。
実施例8-1:ヤング率/破断強度(2)
[材料]
以下の組成のアルギン酸積層スポンジを作製した。
Figure 2022191401000003
処方1は、実施例1に記載の方法に準じてアルギン酸積層スポンジを作製し、これを実施例6(1-2)に記載の方法でプレスして作製した。処方2~3は、実施例1-3に記載の方法に準じてアルギン酸積層スポンジを作製し、これを実施例6(1-2)に記載の方法でプレスして作製した。処方4~6は、下層のアルギン酸ナトリウムとして、AL500(実施例1と同じ)およびAL100(実施例1-2と同じ)を、所定の重量比となるように混合したものを使用した以外は実施例1に記載の方法に準じてアルギン酸積層スポンジを作製し、これを実施例6(1-2)に記載の方法でプレスして作製した。処方7は、実施例1-5に記載の方法に準じて作製した。処方8は、実施例1に記載の方法に準じて作製した。処方7および8の一部は、実施例6(1-2)に記載の方法でプレスした。
[手順]
実施例8に記載された方法に準じて、各処方のヤング率および破断強度を求めた(n=4)。
[結果]
測定結果は以下のとおりであった。作製したアルギン酸積層スポンジは、いずれも癒着防止材に適した強度および柔軟性を有していた。
Figure 2022191401000004
実施例9:復水試験
アルギン酸積層スポンジの吸水性を評価するために以下の試験を行った。
[材料]
アガロースゲル/ガラスシャーレは実施例2-2と同様である。
測定対象スポンジとして、AL500/AL10(実施例1)、AL100/AL10(実施例1-2)およびAL500G/AL10(実施例1-3)を用いた。いずれの測定対象スポンジも、電子線滅菌(20kGy)したものを用いた。各スポンジを直径8mmの生検トレパン(Kai medical社 BP-60F(商品名))で打ち抜き、試験に使用した。
[手順]
リン酸緩衝生理食塩水を満たしたシャーレ上に静置したアガロースゲル上にメッシュを置き、さらにその上に測定対象スポンジを静置し、6時間までのスポンジ重量変化(%)を測定した。
[結果]
測定結果を図12に示す。いずれのスポンジも良好な吸水性を示した。なお、AL100/AL10が他のスポンジより重量増加率が低いのは、復水とスポンジ溶解が同時進行したことによるものである。
1 癒着防止材
2 第1の層
3 第2の層
4 スポンジ状積層体

Claims (14)

  1. 少なくとも一部が硬化剤で架橋された、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が30,000~300,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~200,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高い、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
  2. 低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、請求項1に記載の癒着防止材。
  3. 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、請求項1または2に記載の癒着防止材。
  4. 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の癒着防止材。
  5. 第1の層を創傷部側の表面に向けて適用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の癒着防止材。
  6. 以下の1以上の特性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の癒着防止材。
    (1)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したヤング率が0.3~300MPaである。
    (2)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定した破断強度が5~5000kPaである。
    (3)JIS K6251の引張8号形の切片を引張試験機にかけ、得られたstress-strain曲線に基づいて決定したスポンジ状積層体の破断強度対ヤング率比が2~50である。
    (4)リン酸緩衝生理食塩水で浸漬したアガロースゲルに、スポンジ状積層体を2~6時間接触させたときの、スポンジ状積層体の重量増加率が、リン酸緩衝生理食塩水と接触させる前のスポンジ状積層体の重量を100%とした場合に、200~50000%である。
    (5)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から2日目以降において30~70%である。
    (6)アガロースゲルを介したpH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の約15±5重量%が2日以内に溶出し、約25±10重量%が8日以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の約30±8重量%が2日以内に溶出し、約60±10重量%が8日以内に溶出するものである。
  7. スポンジ状積層体がプレスしたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の癒着防止材。
  8. スポンジ状積層体が、電子線滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌から選択される1つ以上の処理を受けたものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の癒着防止材。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載の癒着防止材を、癒着防止を必要とする対象に、第1の層を創傷部側の表面に向けて適用することを含む、癒着防止方法。
  10. 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
    (1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
    (2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
    (3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
    ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
    前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
  11. 硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl、CaHPO、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムおよび乳酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、請求項10に記載の方法。
  12. (3)で得られたスポンジ状積層体に、電子線滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌から選択される1つ以上の処理を行う工程をさらに含む、請求項10または11に記載の方法。
  13. 以下の工程(1)~(3)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
    (1)重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
    (2)(1)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
    (3)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
    ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
    前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量30,000~300,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~200,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。
  14. 癒着防止材として用いる、請求項13のスポンジ状積層体。

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