JP2022179204A - 人工皮革、及びその製法 - Google Patents

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Yoshiyuki Tadokoro
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Abstract

【課題】良好な風合、高い耐摩耗性、及び難燃性を兼ね備えた人工皮革及びその製法の提供。【解決手段】第一の表面を構成する表面繊維層を少なくとも含む人工皮革であって、以下の特徴:(1)該表面繊維層が主体繊維と熱可塑性樹脂を含む;(2)主体繊維の繊度が0.01dtex以上0.5dtex以下である;(3)熱可塑性樹脂の少なくとも一部が主体繊維間を接着している;(4)熱可塑性樹脂は、TOF-SIMSによる測定において(i)正イオンのm/z=27に対するm/z=71のイオン強度比が0.2以上2.3以下である;(ii)負イオンのm/z=25に対するm/z=42のイオン強度比が0以上0.5以下である;及び(iii)正イオンのm/z=27に対するm/z=104のイオン強度の比が0.2以上1.0以下である;並びに(5)熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下である;を有する人工皮革。【選択図】なし

Description

本発明は、人工皮革、及びその製法に関する。
人工皮革は、衣料、靴、鞄、インテリア、家具類、自動車や鉄道車両や航空機や船舶などのシート表皮材や内装材、ワッペン基材などの分野において好適に用いられる。これらの分野では、良好な外観品位、風合とともに、難燃性や、摩耗などの物理負荷に対する耐性が要求される。
人工皮革用の素材は、不織布構造体に高分子弾性体樹脂を含浸し付着させた形態のものが主流である。弾性体樹脂を含浸させず、ニードルパンチやウォータージェット処理などによって単に構成繊維を物理交絡させるのみでは、染色時の液流による負荷に耐える十分な強度を持たないか、人工皮革としての使用時に容易に破損を生じてしまうという欠点を生じる。
人工皮革製造業者の間では、ポリウレタンなどの高分子弾性体を付着させることにより、良好な風合と耐摩耗性を付与させるという手法が一般的に用いられている。例えば、ポリウレタンを含浸付着させたタイプの人工皮革として、エクセーヌ(商標)やアルカンターラ(商標)などの名称の下で市販されている。しかし、ポリウレタンなどの高分子弾性体は燃焼しやすいために、付着させることによって人工皮革自体の難燃性が低下してしまうという問題を生じやすい。
以下の特許文献1には、ポリウレタンを含浸するタイプの人工皮革において難燃剤をバックコートすることにより難燃性を補う例が開示されている。この方法では良好な難燃性が得られる反面、不織布がきわめてかたくなってしまい、人工皮革として用いるにあたって良好な風合が得られなくなるという欠点がある。また、難燃剤の塗布加工を行うために製造時の工程が煩雑になり、コストも増大しやすいという欠点がある。
ポリウレタンなどの高分子弾性体を含浸付着させる他に、人工皮革に強度を付与するためのバインダー効果を得る手段として、人工皮革用不織布製造時に熱融着性繊維を混在させておき、それを溶融することによって主体繊維間を接着させるという方法が過去に検討されてきた。例えば、以下の特許文献2では、その実施例において、熱融着繊維として繊維径が太く、しかも鞘芯型である繊維を使用している。主体繊維の融着点が芯部の繊維を介して連結されていることにより、不織布の風合がかたくなり、品位に劣るという欠点を有している。
また、以下の特許文献3では、不織布を熱収縮させる工程が含まれるため、熱融着繊維の溶融塊が大きくなってしまい、表面品位に劣るという欠点を生じやすい。さらに、海島型繊維に代表される極細繊維発生型複合繊維より溶融繊維を発生させるために、溶融塊がもとの複合繊維の部位に集中しやすい。この点からも、溶融塊が大きくなりやすいという製造方法に由来する欠点を生じやすい。
また、以下の特許文献4では、融着繊維不織布を含んだ積層構造によって構成される皮革様物が提案されている。この皮革様物では、表皮層が極細繊維からなり、融着繊維を含む不織布層が下層に配される形の積層構造となっている。かかる積層構造のシートは、表皮層の最表面の繊維が融着などによって保持されていないために、人工皮革としての耐摩耗性に課題が残る。
また、以下の特許文献5では、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体を含浸しなくても、良好な風合と高い耐摩耗性、及び裁ち切り性や形状安定性を兼ね備えた人工皮革を提供すべく、表面繊維層と織編物であるスクリム層の少なくとも2層以上の多層構造をもつ不織布の少なくとも表面繊維層に熱融着性短繊維を特定の比率で混合させた後に熱融着処理を施すことにより、人工皮革を製造している。得られた人工皮革は、ポリウレタン樹脂を含まないため人工皮脂耐性が向上し、また、ポリエステル系繊維からなるものとすれば、リサイクル性の高いものとなるものの、耐摩耗性(マーチンデール法による耐摩耗試験で20000回以上)や風合(KES順曲げ測定における曲げ値26cm未満)の点で、未だ改善の余地がある。
また、以下の特許文献6では、特許文献5に記載された発明において、熱融着性短繊維が溶融して形成される熱可塑性樹脂の一部を、所定のサイズの塊状状態で表面繊維層の表面に露出させることで、耐摩耗性(マーチンデール法による耐摩耗試験で40000回以上)と風合(KES純曲げ測定における曲げ値24cm未満)を改善しているが、特許文献5と同様、高い耐摩耗特性としなやかな風合いの両立が求められるカーシート用途といった特定の用途展開という観点では改善の余地がある。
また、以下の特許文献7には、上層基紙と、下地繊維層を含む少なくとも2層からなる繊維積層シートであって、前記上層基紙は、ポリエステル短繊維を主成分繊維とし、融点が210~250℃の範囲の共重合ポリエステルを含むポリエステル系バインダー短繊維を含んで湿式抄造された合成繊維紙であり、前記上層基紙の構成繊維は、前記ポリエステル系バインダー短繊維により抄紙時には部分的に仮接着されているが、水流交絡により解離し、交絡後抄紙時の乾燥温度より高い温度で加熱処理されることで、交絡点が部分的に軟化結合され、前記下地繊維層は、不織布、不織布ウェブ、織編物の少なくとも一つから選ばれ、そして前記上層基紙と前記下地繊維層が積層され、両層を構成する繊維が互いに交絡されて一体化されていることを特徴とする繊維積層シートが、記載されている。特許文献7には、本発明は、弾性高分子を含浸させない場合は、ソフトな表面風合で適度なハリ、コシ及び通気性のある新規な繊維積層シートを提供し、弾性高分子を含浸させる場合は、天然皮革により近似した風合の人工皮革になし得る繊維積層シートとこれを用いた人工皮革及びこれに用いる水流交絡において単繊維同士を解離させやすくかつ交絡させやすい合成繊維紙を低コストで提供するとも記載されているため、特許文献7に記載された人工皮革は、水系ポリウレタンのような高分子弾性体を含むものに限定されている。
また、特許文献7には、本発明の合成繊維紙は、(1)繊維同士が膠着により弱く結合している合成繊維紙であり、(2)機械的交絡の圧力により膠着が解離し、繊維が厚さ方向に再分散して3次元交絡を形成する合成繊維紙であり、かつ、(3)交絡後の加熱処理でバインダー短繊維が軟化収縮変形し、交絡点を結合することにより、層間の剥離強度が交絡時よりも向上する合成繊維紙であり、これら(1)~(3)の一連の作用を発現するため、主成分繊維としてポリエステル短繊維を含み、抄紙時の乾燥温度(100~120℃)では主成分繊維と弱い膠着により部分的に結合し、その後、抄紙時の乾燥温度より高い150~180℃の温度で加熱処理されることでさらに軟化収縮し結合発現作用をもつバインダー短繊維を含む湿式抄造された合成繊維紙であるとも、記載されている。
これらの記載によれば、軟化収縮する物はバインダー短繊維であることから、特許文献7には、熱融着性短繊維が溶融して形成される熱可塑性樹脂の一部を、所定のサイズの塊状状態で表面繊維層の表面に露出させることは教示されておらず、また、耐摩耗性や風合が改善することは記載されていない。
特公平03-080914号公報 特開平07-216756号公報 特公平03-016427号公報 特許第4835181号公報 特許第5685003号公報 特許第6118174号公報 特許第4708494号公報
前記した従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、良好な風合、高い耐摩耗性、及び難燃性を兼ね備えた人工皮革、及びその製法を提供することである。
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究し実験を重ねた結果、以下の特徴を有する人工皮革であれば該課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]第一の表面を構成する表面繊維層を少なくとも含む人工皮革であって、以下の特徴:
(1)該表面繊維層が、主体繊維と熱可塑性樹脂を含む;
(2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
(3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が該主体繊維間を接着している;
(4)該熱可塑性樹脂は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において、以下の(i)と(ii):
(i)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)が0.2以上2.3以下である;及び
(ii)負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比(42/25)が0以上0.5以下である;
を満たす;及び
(iii)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下である;並びに
(5)該熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下である;
を有する、人工皮革。
[2]前記主体繊維は、ポリエステル系繊維である、前記[1]に記載の人工皮革。
[3]前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂である、前記[1]又は[2]に記載の人工皮革。
[4]前記表面繊維層中の単位体積当たりの該熱可塑性樹脂の体積個数密度が0.5×1012個/m3以上5.0×1012個/m3以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
[5]前記熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値が100以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革。
[6]前該表面繊維層が、織物であるスクリム層と交絡されている、前記[1]~[5]のいずれかに記載の人工皮革。
[7]前記スクリム層は、ポリエステル系樹脂繊維からなる、前記[6]に記載の人工皮革。
[8]JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回未満では、スクリムが露出しない、前記[1]~[7]のいずれかに記載の人工皮革。
[9]JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回での摩耗減量が21mg以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の人工皮革。
[10]以下の工程:
(1)主体繊維と、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において前記特徴(3)を有する熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維とを、該熱融着繊維の重量比率が3%以上25%以下となるように、混合し、湿式抄造により交絡させ、次いで、水流交絡処理又はニードルパンチング法により表面繊維ウェブを形成する構成する;及び
(2)得られた表面繊維ウェブの交絡組織を、該熱融着繊維の融点以上、該主体繊維の融点未満の温度で、熱アニールにより表面繊維層を形成する工程;
を含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
[11]前記熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維の繊維長が2mm~90mm以下である、前記[10]に記載の方法。
[12]前記熱融着繊維の繊維径が0.5dtex以上2.2dtex以下である、前記[10]又は[11]に記載の方法。
[13]前記熱融着繊維は前記熱可塑性樹脂の溶融紡糸により製造されるものである、前記[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]前記熱融着繊維に含まれる樹脂の95重量%以上がポリエステルと脂肪族ポリエーテルのコポリマーである、前記[10]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記熱可塑性樹脂の融点は、130℃以上であり、かつ、前記主体繊維の融点よりも20℃以上低い温度である、前記[10]~[14]のいずれかに記載の方法。
本発明に係る人工皮革では、繊度0.01dtex以上0.5dtex以下の主体繊維同士を接着させている熱可塑性樹脂がTOF-SIMS測定時の正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)が0.2以上2.3以下であること、負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比(42/25)が0以上0.5以下であること、かつ、正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下であり、かつ、熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下であるものとすることで、水系ポリウレタンを付与しなくても、風合に優れ、かつ、耐摩耗性も高いものとなり、さらに燃焼時の発生ガスを抑制することができる点で耐燃焼性にも優れるものとなる。
表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。 一実施形態にかかわる人工皮革を割断し、TOF-SIMS分析結果を示した図面に代わる写真である。 一実施形態にかかわる人工皮革を割断し、X線-CTで評価した断面画像の一例を示す図面に代わる写真である。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、第一の表面を構成する表面繊維層を少なくとも含む人工皮革であって、以下の特徴:
(1)該表面繊維層が、主体繊維と熱可塑性樹脂を含む;
(2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
(3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が該主体繊維間を接着している;
(4)該熱可塑性樹脂は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において、以下の(i)と(ii):
(i)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)が0.2以上2.3以下である;及び
(ii)負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比(42/25)が0以上0.5以下である;
を満たす;及び
(iii)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下である;並びに
(5)該熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下である;
を有する、人工皮革である。
第一の表面を構成する表面繊維層に含まれる主体繊維とは、表面繊維層100質量%に対して60質量%以上含まれる繊維であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。上限については特に限定されないが、99質量%以下であってよい。
第一の表面を構成する表面繊維層に含まれる主体繊維は、強度、入手しやすさなどの観点から、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維又はポリオレフィン系繊維が好ましいが、前記したように、難燃性を兼ね備えたリサイクル可能な人工皮革とする観点から、ポリエステル系繊維であることが特に好ましい。
表面繊維層を構成する主体繊維としてのポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。ポリアミド系繊維としては、ナイロン、メタ系アラミド、パラ系アラミド、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。アクリル系繊維としては、アクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルの重合体、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。ポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。
主体繊維だけでなく、以下に説明する表面繊維層に含まれる熱可塑性樹脂、及びスクリムをポリエステル系樹脂で構成すれば、例えば、衣料や飲料ボトルから使用後のPETを回収し、これを再生PET樹脂に加工し、これを用いて人工皮革を製造し、更に使用後(寿命の尽きた)人工皮革をリサイクル処理して、例えば、断熱材やフィルター材に加工し、さらに使用後の断熱材やフィルター材からPETを回収するというサーキュラーエコノミー適性をもつリサイクル可能な人工皮革とすることができる。
主体繊維は、天然皮革に近い風合や、スエード調又はヌバック調の表面感が得られやすい点から、繊度が0.5dtex以下であることが好ましく、繊度が0.35dtex以下であることがより好ましく、繊度が0.2dtex以下であることがさらに好ましい。また、繊維製造時の生産効率、生産安定性の観点から、繊度は0.01dtex以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.03dtex以上である。
主体繊維としては、溶融紡糸法により直接紡糸された繊維や、湿式紡糸法により得られる繊維、共重合ポリエステルを海成分に、レギュラーポリエステルを島成分に用いた海島繊維から海成分を除去することによって得られる極細繊維などを用いることができる。
また、主体繊維は必ずしも単一のポリマーからなる繊維のみによって構成されていなくとも構わず、他種のポリマーからなる繊維が混合されていても構わない。また、主体繊維は必ずしも単一の繊度を持つ繊維のみによって構成されていなくとも構わず、複数の繊度を持つ繊維が混合されていても構わない。
また、主体繊維には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
主体繊維には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していてもよい。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
表面繊維層を構成する、熱可塑性樹脂は、入手しやすさの観点から、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが好ましい。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。人工皮革として高い耐摩耗性の観点から芳香族ポリエステルが好ましく、更にしなやかな風合いを達成できる観点から、ポリエステルと脂肪族ポリエーテルのコポリマーであることが更に好ましい。その中でも、ポリブチレンフタレート系樹脂が好適であり、特に、ポリブチレンフタレートと脂肪族ポリエーテルのコポリマー、さらにはポリブチレンフタレートとポリテトラメチレンエーテルグリコールのコポリマーを用いることが好ましい。ここでいうフタレート系とは、ベンゼンジカルボン酸化合物群の総称を指す。すなわち、1.2-ベンゼンジカルボン酸、1.3-ベンゼンジカルボン酸、1.4-ベンゼンジカルボン酸といった異性体を任意の割合で用いることができる。任意の割合で用いる形態に関しては特に規定されず、単独の異性体を用いることもできるし、任意の割合のホモポリマーを混合することもでき、また、それら異性体を共重合することもできる。ここで、コポリマーを用いる場合、そのコモノマーのブロック性・ランダム性については特に限定されないか、ソフトセグメントとハードセグメントを程よく共存させること、および製法上の簡便性からブロックコポリマーであることが特に好ましい。尚、ソフトセグメントの存在比率は以下の計算式によって算出できる。
ソフトセグメントの存在比率(%)=ソフトセグメントのモノマーユニットの数×100/(ソフトセグメントとハードセグメントのモノマーユニット数の総和)
ソフトセグメントの存在比率(%)は、1H-NMRを用いて算出することができ、ソフトセグメント比率で40%以上から85%以下が好ましい。特に好ましくは50%以上75%以下である。
尚、ポリブチレンフタレートとポリテトラメチレンエーテルグリコールのコポリマーにおいては、ポリブチレンフタレートがハードセグメント、ポリテトラメチレンエーテルグリコールがソフトセグメントである。
アクリル系樹脂としては、アクリル酸エステル類若しくはメタクリル酸エステル類の重合体、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。
人工皮革中の熱可塑性樹脂はスパッタクリーニングを伴うTOF-SIMSを用いて熱可塑性樹脂中の組成分析が可能である。TOF-SIMSは試料の極表面の元素組成及び化学構造を分析できる。超高真空下で試料に一次イオンビームを照射すると、試料の極表面(1~3nm)から二次イオンが放出される。二次イオンを飛行時間型(TOF型)質量分析計へ導入することで、試料極表面の質量スペクトルが得られる。この際に一次イオン照射量を低く抑えることにより、化学構造を保った分子イオン及び部分的に開裂したフラグメントとして表面成分を検出することができ、極表面の平面方向の元素組成及び化学構造の情報が得られる。一般的な有機物から検出される正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するフラグメント強度を評価することで、正イオンのフラグメント強度を相対的に比較することができる。負イオンに関しては一般的な有機物から検出されるm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対する、負イオンのフラグメント強度を相対的に比較することができる。
本願発明の所望の効果を十分に発揮するためには、TOF-SIMSにより測定される該熱可塑性樹脂のフラグメント強度比が正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するポリオール、特にテトラメチレングルコール由来のm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)が0.2以上2.3以下であることが必要である。該イオン強度比が低すぎるとポリオール、特に、テトラメチレングルコールの含有量が少なく、熱可塑性樹脂は人工皮革のバインダーとして柔軟性に欠け、人工皮革として高い品位が得られない。該イオン強度比が高すぎると、ポリオール、特にテトラメチレングルコールの含有量が多く、バインダーとして力学強度に欠け、人工皮革としての耐摩耗性を得ることができない。これら観点から、TOF-SIMSにより測定される該熱可塑性樹脂のフラグメント強度比が正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するポリオール、特にテトラメチレングルコール由来のm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)は、好ましくは0.8以上2.4以下、更に好ましくは1.2以上2.2以下である。
TOF-SIMSにより測定される該熱可塑性樹脂のフラグメント強度比が正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対する芳香族由来のm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下であることが必要である。このイオン強度比が0.2未満であると該熱可塑性樹脂中のハードセグメント量が下がることで、人工皮革のバインダーとして力学強度が得られないため、耐摩耗性を発現することができない。他方、このイオン強度比が1.0より大きくなると、ハードセグメント量が大きくなりすぎ、人工皮革のバインダーとして柔軟性を損なってしまい、十分な表面品位が得られない。これら観点から、TOF-SIMSにより測定される該熱可塑性樹脂のフラグメント強度比が正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対する芳香族由来のm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)は、好ましくは0.4以上0.9以下、更に好ましくは0.5以上0.8以下である。
TOF-SIMSにより測定される該熱可塑性樹脂のフラグメント強度比が負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するイソシアネート由来のm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比(42/25)が0以上0.5以下であることが必要である。この範囲であれば、ウレタンを実質的に含まないため、人工皮革としてリサイクル性、難燃性に優れる。
熱可塑性樹脂も、必ずしも単一のポリマーのみによって構成されていなくとも構わず、複数種のポリマーが混合されていても構わない。
また、この熱可塑性樹脂には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
熱可塑性樹脂は、融点が130℃以上、主体繊維の融点よりも20℃以上低い範囲であることが好ましい。染色時における人工皮革からの熱可塑性樹脂の脱落を考慮すると、熱可塑性樹脂の融点は130℃以上が好ましい。好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上の融点である。熱可塑性樹脂で主体繊維同士を接着させる際に、熱可塑性樹脂の融点は主体繊維よりも低い必要がある。また、熱接着を尚、熱可塑性樹脂が複数種のポリマーが混合されたものである場合、最も高い融点をもつ熱可塑性樹脂が、最も低い融点を持つ主体繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つことが好ましい。融点の範囲に関しては、上記範囲であれば本願に記載される耐摩耗性、外観品位を達成することができるが、外観品位を特に良好に保つ観点で、好ましくは、30℃以下低い融点、さらに好ましくは40℃低い融点であるとよい。
熱可塑性樹脂は塊状形状で表面繊維層の表面に露出していることが好ましい。表面に露出している場合は、表面に存在する主体繊維が樹脂融着によって十分に保持され、繊維の脱落や破損を生じにくいために、人工皮革として耐摩耗性が向上する。また、熱可塑性樹脂の一部又は全部が、主体繊維間を接着していることが好ましい。熱可塑性樹脂が主体繊維間を接着している場合は、主体繊維間の保持ができ、繊維の脱落や破損を生じにくく、人工皮革として満足な耐摩耗性や強度を有する。
また、熱可塑性樹脂は塊状形状で表面繊維層の断面にも存在していることが好ましい。表面にも存在し、断面においても塊状形状で存在していれば、主体繊維が樹脂融着によって十分に保持され、人工皮革として耐摩耗性が向上し、表面繊維層の密度が上がり、人工皮革に特有の高級感のあるしっとりとした質感を発現できる。
本実施形態では、前記熱可塑性樹脂が、前記主体繊維同士を接着し、かつ、その個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下であることが必要である。個数平均体積が24000μm3を超えると、複数の主体繊維を同一の熱融着点樹脂が接着する確率が高くなり、手触りがざらつく原因となりやすく、人工皮革として満足な高級感を発揮することができない。他方、体積が平均3500μm3未満であると、主体繊維間を接着するため十分な大きさとならず、耐摩耗性を発現することができない。該個数平均体積の好ましい範囲は、4000μm3以上22000μm3以下、より好ましくは6000μm3以上20000μm3以下である。
表面繊維層中の該熱可塑性樹脂の体積個数密度は、0.5×1012個/m3以上5.0×1012個/m3以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂の単位体積当たりの個数が0.5×1012個/m3以上となると、複数の主体繊維を複数の熱融着点樹脂で接合することができ、摩耗された際に繊維束としての脱落が少なくなり、耐摩耗性を発揮することができる。他方、単位体積当たりの該熱可塑性樹脂が5.0×1012個/m3以下となると、表面繊維層が硬くなりすぎず、人工皮革に求められるしなやかな高級感を得ることができる。第一表面繊維層中の単位体積当たりの該熱可塑性樹脂の体積個数密度は、好ましくは0.6×1012個/m3以上3.0×1012個/m3以下であり、より好ましくは0.8×1012個/m3以上1.5×1012個/m3以下である。
熱可塑性樹脂は3次元のどの角度から見ても等方的に主体繊維を接着させることが好ましい。具体的には表面繊維層中の熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商(長軸/短軸比)の平均値が100以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値が100以下であると主体繊維間を接着させる際に熱融着樹脂が十分に溶融され、接着強度が高くなり、高い耐摩耗性を有することができる。長軸/短軸比は、より好ましく30以下であり、さらに好ましくは10以下である。熱可塑性樹脂は真球(商の値1)に近づく方が好ましいため、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値は1以上であってよい。
本発明の他の実施形態は、以下の工程:
(1)主体繊維と、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において前記特徴(3)を有する熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維とを、該熱融着繊維の重量比率が3%以上25%以下となるように、混合し、湿式抄造により交絡させ、次いで、水流交絡処理又はニードルパンチング法により表面繊維ウェブを形成する構成する;及び
(2)得られた表面繊維ウェブの交絡組織を、該熱融着繊維の融点以上、該主体繊維の融点未満の温度で、熱アニールにより表面繊維層を形成する工程;
を含む、前記人工皮革の製造方法である。
本実施形態の人工皮革は、スクリム層を含むことができる。その場合、スクリム層は芯材として機能し、抄造工程における抄造シートの作成を安定化したり、得られる人工皮革の機械強度を高めたりすることができる観点から、織物又は編物であることが好ましい。スクリム層の素材は染色における同色性の点から、主体繊維と同じポリマー系が好ましく、編物の場合、22ゲージ以上28ゲージ以下で編み上げたシングルニットが好ましい。織物の場合、編物よりも高い寸法安定性及び強度が実現できるため更に好適である。織物を構成する糸条は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。糸条の単繊維繊度は、絡合シートを用いた柔軟な人工皮革が得られ易い点で5.5dtex以下が好ましい。織物を構成する糸条の形態としては、ポリエステル、ポリアミド等のマルチフィラメントの生糸、又は仮撚り加工を施した加工糸等に撚数0~3000T/mで撚りを施したものが好ましい。該マルチフィラメントは通常のものでよく、例えば、ポリエステル、ポリアミド等の33dtex/6f、55dtex/24f、83dtex/36f、83dtex/72f、110dtex/36f、110dtex/48f、167dtex/36f、166dtex/48f等が好ましく用いられる。織物を構成する糸条は、マルチフィラメントの長繊維であってよい。織物における糸条の織密度は、柔軟で且つ機械強度に優れる人工皮革を得る点で、30本/インチ以上150本/インチ以下が好ましく、更に好ましくは40本/インチ以上100本/インチ以下である。良好な機械強度と適度な風合いとを具備するためには、織物の目付は20g/m2以上150g/m2以下が好ましい。尚、織物における仮撚り加工の有無、撚数、マルチフィラメントの単繊維繊度、織密度等は、主体繊維層の構成繊維との交絡性、人工皮革の柔軟性に加え、縫目強力、引裂強力、引張強伸度、伸縮性等の機械物性にも寄与するため、目標とする物性及び用途に応じて適宜選択すればよい。
前記工程(1)における主体繊維の長さは、特に限定されないが、2.5mm以上90mm以下であることが好ましい。主体繊維の長さがこの範囲にあれば、スクリム層との水流交絡が充分なものとなる。主体繊維の長さが2.5mm以下である場合、交絡工程においてスクリム層との絡み合い効果が十分に発現されず、主体繊維層とスクリム層の間から相関剥離が起こりやすくなり、接着不良や外観不良といった品質上の不具合を引き起こすおそれがある。主体繊維の長さはより好ましくは2.5mm以上20mm以下、さらに好ましくは3mm以上10mm以下である。
熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維の長さは2.0mm以上90mm以下であることが好ましい。スクリム層を用いる場合、熱融着繊維の長さがこの範囲にあれば、スクリム層との水流交絡が充分なものとなり、熱融着繊維が溶融時に主体繊維とスクリム間の接着も可能となる。熱融着繊維の長さが2.0mm以下である場合、交絡工程においてスクリム層との絡み合い効果が十分に発現されず、熱融着繊維が溶融時に主体繊維とスクリム間の接着ができず、接着不良や外観不良といった品質上の不具合を引き起こすおそれがある。主体繊維の長さはより好ましくは2.5mm以上20mm以下、さらに好ましくは3mm以上10mm以下である。
本実施形態の人工皮革は、第一の表面を構成する表面繊維層を少なくとも含むものであることができ、例えば、表面繊維層とスクリム層からなる人工皮革の場合、第一の表面(上側の面)が表面(おもてめん)となり、該スクリム層の裏面が第二の表面(下側の面)となる。また、本実施形態の人工皮革が表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層からなる場合、裏面繊維層の裏面が第二の表面となる。
また、本実施形態の一態様として表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の構成を採る場合における裏面繊維層を構成する素材は特に限定されないが、良好なリサイクル性を発現する観点から前記表面繊維層の主体繊維及び/又は熱可塑性樹脂と同様のものであることが好ましい。また、裏面繊維層を含む場合、表面繊維層とは異なるもとのし、例えば、難燃剤を付与したりして、所望の特性を追加することができる。
本実施形態の人工皮革の製造方法としては、少なくとも1種の主体繊維と該主体繊維の融点よりも20℃以上低い融点を持つ全融型の熱融着性繊維とが混合されて表面繊維層が構成された不織布構造体を熱処理することにより、熱融着繊維が溶融され、表面繊維層に塊状の熱可塑性樹脂が形成される方法が好ましい。
この熱融着繊維は、溶融後の塊状樹脂が主体繊維間を融着する点の個数を十分有するように、全融型の繊維であることが好ましい。鞘部に低融点の熱可塑性樹脂を用いた鞘芯型繊維や、片側のみに低融点の熱可塑性樹脂を用いたサイドバイサイド型の繊維を用いた場合に比べ、全融型の繊維であれば主体繊維間を接着する点が多く、かつ、融着部における融着成分量が多い為ため、融着力が十分である点で好ましい。また、融着点が熱融着繊維を介して連続して近傍に存在することがないので、風合が柔らかくなりやすい点でも好ましい。
上記熱融着繊維に含まれる樹脂成分は95%以上であることが好ましいが、所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。上記熱融着繊維に含まれる樹脂成分の好ましい範囲は96%以上より好ましくは97%以上である。
熱融着繊維は、必ずしも単一のポリマーのみによって構成されていなくとも構わず、複数種のポリマーが混合されていても構わない。融着力の高さや染色での同一性の点から、ポリマー系を主体繊維と同じにすることが好ましい。熱融着繊維は溶融紡糸法により直接紡糸された繊維や、湿式紡糸法により得られる繊維、共重合ポリエステルを海成分に、レギュラーポリエステルを島成分に用いた海島繊維から海成分を除去することによって得られる極細繊維などを用いることができる。この熱融着性繊維の繊度は、溶融後の塊状の熱可塑性樹脂の大きさの点から、0.5dtex以上2.2dtex以下であることが好ましい。繊度が2.2dtex以下であれば、溶融後の塊状熱可塑性樹脂が表面繊維層の表面に均一に分散し、外観品位、風合に優れる。熱融着性繊維の繊度はより好ましくは0.6dtex以上2.0dtex以下、さらに好ましくは0.7dtex以上1.5dtex以下である。
また、この熱融着繊維には、所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
表面繊維層を形成する方法としては、主体繊維及び/又は熱融着繊維を短繊維の形態で使用し、抄造法、カード法、エアレイ法などを用いて、該繊維を交絡させて不織布構造を形成する方法などが挙げられる。
構成繊維の均一分散性、極細繊維が利用しやすいという観点から、抄造法によって表面繊維層が形成されていることが特に好ましい。
また、本実施形態における各層間の交絡にはスパンレース法と呼ばれる水流交絡法、ニードルパンチ法などを用いることができるが、スクリム層を用いる場合に、スクリム層である織編物の組織を破壊することがない水流交絡法が好ましい。
上記熱可塑性樹脂の評価方法に関しては人工皮革を垂直に割断し、光学顕微鏡や電子線顕微鏡で観察する、CTやMRIなどの測定により3次元画像を測定するなどの手法により評価することができる。表面繊維層の表層のみならず、その内部での熱融着樹脂の位置、存在密度、形状、サイズを正確に評価することが求められるが、実施例に記載のX線CTにおける断面の連続的画像解析と、画像を適切に処理する手順を踏み、数学的な解析を行うことで正確に解析、評価することができる。
上記方法によって得られた人工皮革用不織布は、表面繊維層の表面を起毛し、染色処理することによってスエード調やヌバック調の人工皮革として用いられる。起毛処理としてはサンドペーパーでバフィングするなどの公知の方法を用いることができる。その場合、表面繊維層の熱融着繊維を熱融着させる前に起毛処理を行えばスエード調の表面感が得られる。他方、熱融着繊維を熱融着させた後に起毛処理を行えばヌバック調の表面感が得られる。
染色処理においては、特に限定されない。例えば、主体繊維がポリエステル系繊維の場合は分散染料を用いることが一般的である。染色方法は、染色加工業者に周知の常法であることができ、人工皮革においては均染性の点から液流染色機が好適に用いられる。このようにして染色された人工皮革はソーピングや化学的還元剤の存在下で還元洗浄され、余剰染料が除去される。還元洗浄における条件は特に限定されず、常法に従い塩基性還元剤、酸性還元剤を特に限定することなく用いることができる。
本実施形態における熱融着(熱アニール)処理には、ドラム乾燥機、カレンダーロールのような接触式乾燥機、二軸延伸型のフィルム延伸機又はピンテンター乾燥機のようなエアースルー乾燥機を用いることができる。(熱アニール)処理温度は、熱可塑性樹脂の融点よりも5℃以上高い温度、好ましくは10℃以上高い温度かつ、240℃以下である。処理温度と熱可塑性繊維の融点との差が5℃未満であると、十分な熱融着効果が得られない場合がある。処理温度が240℃を超えると、ポリエステル繊維が溶融し、表面品位や耐摩耗性が十分に発現しないことがある。
熱アニール処理における熱融着の発現時には、不織布構造体をリラックスさせることが好ましい。スクリム層と交絡された表面繊維ウェブを、MD方向及びCD方向にたるませて収縮させながら、上記熱融着を行うことで、交絡組織がリラックスした状態、すなわち、主体繊維が緊張してない状態で固定された状態になるため、ピンテンターを用いて緊張させて収縮させながら熱融着を行う従来技術の方法に比較して、高い耐摩耗性と風合有する人工皮革を得ることができる。
本実施形態の人工皮革の厚みは、0.40mm~1.50mmであることが好ましい。人工皮革の厚みが0.40mm以上1.50mmの範囲に入ることにより、極細繊維層の厚みを十分に確保しつつ、単位面積当たりの融着点と表面の極細繊維層にある繊維間どうしの絡み合いを十分に維持することができるので、しなやかな手触りと十分なストレッチ性を両立することができる。
本実施形態の人工皮革の目付は、100g/m2~400g/m2であることが好ましい。目付を100g/m2~400g/m2とすることにより、しなやかな手触りと適度な硬さを両立することができる。
本実施形態の人工皮革は、人工皮革として用いるにあたって良好な耐摩耗性として、JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回未満では、スクリムが露出しないものであることが好ましい。
同様に、本実施形態の人工皮革は、人工皮革として用いるにあたって良好な耐摩耗性として、JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、50000回における摩耗減量が21mg以下であることが好ましい。
本実施形態の人工皮革は、米国連邦自動車安全基準「FMVSS No.302」に準拠する燃焼性試験において4級以上の難燃性を示すことが好ましい。4級以上の難燃性を保持することで、自動車用途、航空機用途などに用いる耐燃焼性基準をクリアすることができ、人工皮革として用いるにあたり適応可能な用途範囲を広げることができる。
以下、本発明を実施例、比較例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、実施例等で用いた物性値は以下の方法により測定したものである。
(1)TOF-SIMS測定前処理
人工皮革を幅5mm、長さ10mmに切り出し、シート状のサンプルを作製した。日新EM製のQuetol812 9.7ml,MNA 3.7ml,DDSA 6.6ml,DMP-30 0.34mlを混合し、樹脂組成物とし真空脱泡を行ったのち、シリコン製包埋板にサンプルと調整したエポキシ樹脂を充填し、60℃の恒温槽中で3日間硬化させた。得られたサンプルとエポキシ樹脂硬化物の複合物を取り出し、クライオミクロトーム(Leica社のUltracut-UCT)を用いて試料の断面を作製した。
(2)TOF-SIMS測定
前記人工皮革試料断面について、ガスクラスタービーム(GCIB)を用いて表面の汚染をクリーニングした後、TOF-SIMS測定を実施した。測定したイメージの中で熱可塑性樹脂領域からスペクトルを抽出し、正イオンに関してはm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)、m/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)m/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度、負イオンに関してはm/z=25(フラグメントイオン:C2H)、m/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度を求めた。
下記方法により熱可塑性樹脂領域と特定される5つの領域について同様の測定を繰り返し、その加算平均をイオン強度とし、それら比を算出した。但し、明らかに上述のスペクトルを示さない領域は熱可塑性樹脂領域ではないと判断し除外する。
熱可塑性樹脂領域の特定については、クライオミクロトームで作製した試料断面を原子間力顕微鏡で測定を行い、形状的特徴から熱可塑性樹脂の存在位置を特定する。エポキシ樹脂は最も面積の広いマトリックスとして観察され、糸の断面は円又は楕円形等の一定の形状として観察される。また、熱可塑性樹脂成分は不定形の領域として観察される。熱可塑性樹脂を解析する際には、エポキシ樹脂または糸からの影響を避けるため、熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂の界面から、及び熱可塑性樹脂と糸の界面から2μm以上離れた箇所を選んで解析を実施する。
用いるTOF-SIMSの測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
使用機器::nanoTOF(アルバック・ファイ社製)
解析ソフト:WinCadenceN(アルバック・ファイ社製)
一次イオン:Bi3 2+
加速電圧:30kV
イオン電流:約0.1nA(DCとして)
バンチング:有
分析面積:50μm×50μm
分析時間:30分
検出イオン:正負イオン
中和:正イオン 電子銃+Arモノマーイオン、負イオン 電子銃
(クリーニング条件)
スパッタイオン:GCIB(Ar2500+
加速電圧:20kV
イオン電流:5nA
スパッタ面積:600μm×600μm
スパッタ時間:30秒/サイクル
(3)個数平均体積(μm3)、体積個数密度(1012個/m3
[X線CTを用いた画像測定]
熱融着点の塊状部の観察は、X線CT装置(株式会社リガク製「高分解能3DX線顕微鏡 Nano3DX」)を用い、人工皮革の厚み方向をすべて観察するものとし、厚み方向断面における中央部を観察領域の中心点となるように3次元画像を撮影した。画像測定は、X線ターゲットに銅を用い、X線管電圧40kV、管電流30mA、露光時間12秒/枚、空間解像度1.08μm/ピクセルの条件において行った。同様の操作にて、回転角度180度あたりに画像1000枚を撮影し、3次元測定データを得た。
[画像処理方法、解析方法、及び楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の加算平均値の算出方法]
以下、上記で取得した3次元測定データの処理・解析の詳細なプロセスについて記す。尚、画像解析ソフトは「ImageJ(バージョン:1.51j8)アメリカ国立衛生研究所)を用いた。
(i:画像の回転)人工皮革の面方向がxz軸からなる面方向に一致させ、人工皮革の厚み方向がy軸に一致するよう3次元画像を回転させる。
(ii:トリミング)3次元画像を直方体にトリミングする。この際、y軸は厚みのすべてが入り、かつ膜外の空間が過剰に存在することのない範囲とする。x軸とz軸に関しては、y軸の範囲を決めた後、トリミング後の直方体内に測定視野外の画素が入らない最大の範囲を取ることとする。
(iii:軸の設定)トリミング後の画像のx軸方向の画素数をx0、y軸方向の画素数をy0、z軸方向の画素数をz0とする。
(iv:フィルター化)medianフィルターを半径2pixの条件で実施する。
(v:領域分割)Otsu法を適用して領域を分割する。この時、明暗を明確にするため、画素の輝度値を、人工皮革を含まない空気の部分を0、人工皮革を構成する主体繊維部を255となるように設定する。
(vi:セグメンテーション)輝度値255の画素に対して、画像処理方法のsegmentationを実施する。3次元的に一つに繋がった輝度値255領域の画素数(pix)が10000以下の構造はノイズとみなし、その輝度値を0に変更し除去する。
(vii:ノイズ除去)輝度値0の画素のうち輝度値255に3次元的に囲われた0の画素をノイズとみなし、輝度値を255に変更して除去する。
(viii:空隙率の算出)3次元画像からxz面の2次元元画像を厚み方向に厚さ1pixで切り出し、その面での空隙率を次式:
空隙率=輝度値0の画素数/全画素数
で求める。
(ix:空隙率の厚み分布)上記(viii)をすべてのyのデータに対して実施し、空隙率のy軸方向の分布を求める。
(x:高輝度画素の大きさ算出)Thickness法により輝度値255の画素の大きさを求める。これにより、各画素にその場所に入る最大の球の直径の値が輝度値となった3次元画像が得られる。Thickness法とは、文献“A new method for the model-independent assessment of thickness in three-dimensional images” T. Hildebrand and P. Rueesgsegger, J. of Microscopy, 185 (1996) 67-75の方法であり、例えば画像解析ソフトImageJのプラグインのBoneJのThicknessにて実行できるものである。さらに、ここで得られた画像に対して、12μm以下の構造は主体繊維とみなし解析対象外として除去するため、12μmに相当する画素数以下の輝度値の画輝度値を0に変更する。
(xi:二値化)上記(x)で得られた画像に対して、輝度値が0でないすべての画素を255とし、輝度値が0の画素はそのまま0として二値化を実施する。
(xii:粒子解析)上記(xi)で得られた画像に対して、3次元の粒子解析を行う。3次元的に一つながりの輝度値255の部分を1粒子とし、各粒子の中心座標(XC,YC,ZC)並びに連続した構造の画素数を算出する。
(xiii:表面・スクリム層・裏面の定義)上記(ix)で求めた空隙率分布のデータにおいて、95%の範囲を解析に用いる(表面と裏面の最表面を解析から除外する)ため、当該人工皮革の表面において、空隙率が0.95以上となる最も表側から遠いy軸の値をy1と定義する。スクリム層を含む場合においては、上記(viii)の空隙率の数値、及び100dtex以上の繊度の繊維が現れる部分を、表側の端部と定義し、その座標をy2とする。
(xiv:画素数の総和算出とデータ解析)上記(xii)で求めたすべて粒子のうち座標値がy1<YC<y2を満たす粒子について、粒子の個数並びに粒子の画素数の総和を求める。
個数平均体積(μm3)=粒子の画素数の総和*p*p*p÷粒子の個数
体積個数密度(1012個/m3)=粒子の個数÷(|y2-y1|*p*x0*p*z0*p)
ここで、pは画素サイズ(m/pix)であり、1画素(pix)の実寸(m)である。
(xv:楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値の算出とデータ解析)上記(xi)で得られた画像に対して、3次元の粒子解析を行う。3次元的に一つながりの輝度値255の部分を1粒子とし、各粒子を楕円球に近似した。楕円球の3つの軸の大きい方から長軸、中軸、短軸とする。各粒子の楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値を次式:
長軸を短軸で除した商=長軸長さ/短軸長さ
で計算した。
但し、近似した楕円球の長軸が、解析対象の直方体の最小軸よりも大きい場合はエラーとして除外し、アスペクト比=0とした。平均アスペクト比を次式:
平均長軸を短軸で除した商=粒子の長軸を短軸で除した商の総和÷(粒子の総個数-除外した総個数)
で計算した。
(4)熱融着点構造の説明
図を用いて塊状樹脂の状態とその判定について説明すると、図1は表面繊維層の表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例であり、図2は表面に露出して主体繊維間を接着している例である。図3は表面に露出していないが主体繊維間を接着している例であり、図4は表面に露出して主体繊維間を接着している例であり、図5は表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例である。図6は熱融着繊維が未溶融の例であり、塊状樹脂とは言わない。図7は熱融着繊維として鞘芯繊維を用いた例であり、熱融着繊維は繊維形状を残しており、塊状樹脂とは言わない。図8は表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例である。図中、1は主体繊維、2は塊状樹脂、3は未溶融樹脂、4は鞘芯繊維である。
ここでいう『主体繊維間を接着している』とは、塊状樹脂(熱可塑性樹脂)の内部に、主体繊維が少なくとも2本以上貫通し、物理的に結合された状態を意味する。
(5)繊度
人工皮革の表面又は裏面繊維層サンプルの任意の10ヶ所をマイクロスコープの倍率2500倍にて撮影して、50点の繊維の直径を測定し、それらの平均値を平均繊維径として求めた。得られた平均繊維径と主体繊維の密度から換算して、主体繊維の繊度[dtex]を求めた。
また、人工皮革をエタノールに浸漬し、ゼラチンカプセルに包んだものを液体窒素中で凍結乾燥し、カプセルごとナイフで割断し、常温に戻した試料の割断断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-5610)を用いてWD=10mm、倍率200倍の条件で観察し、得られた画像20枚から各5点ずつ測定したスクリム層を構成する織糸の太さを計測することによって、スクリム層を構成する織糸の繊度を求めた。
熱融着繊維の繊度は、原料繊維の繊度であり、走査型電子顕微鏡を用いて評価した。具体的には、評価ステージの上に粘着性のカーボンテープを張り付け、その上に原料短繊維を0.05g載せ、余剰の熱融着繊維をエアダスターで除去したものを試料とし、WD=10mm、倍率200倍の条件で観察し、得られた画像20枚から各5点ずつ太さを計測することによって求めた。
(6)融点
熱融着繊維の融点は熱融着繊維3mgを窒素雰囲気化、ティー・エイ・インスツルメント社製 DSCQ100で基準物質としてアルミニウムを用い、25℃から10℃/分で250℃まで昇温したのち急冷を行い、2回目に同様の条件にて昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップを融点とした。
(7)耐摩耗性及び摩耗減量
JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に規定される手法で、押圧荷重12kPaにてサンプル表面の摩耗を実施した。この試験方法での評価基準として、サンプル表面層が摩耗し、スクリムが露出する部分を生じるまでの摩耗回数によって下記評価基準(等級)に分けて評価した。
(評価基準)
××:摩耗回数5000回で繊維の脱落が著しく、評価できない。
× :摩耗回数30000回未満でスクリムが露出する。
△ :摩耗回数30000回以上40000回未満でスクリムが露出する。
○ :摩耗回数40000回以上50000回未満でスクリムが露出する。
◎ :摩耗回数50000回以上でスクリムが露出する。
また、JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に規定される人工皮革の試料(直径40mmの真円状)を押圧荷重12kPa、50000回摩耗する前後での重量変化[mg]を摩耗減量として評価した。測定は3回行い、その加算平均を結果とした。
(8)触感評価
得られた染色済の人工皮革サンプルを25cm四方になるように切り出し、表面を上に向けた状態で机に並べ、目隠しした状態で被験者20名(男性10名、女性10名。各20代から60代まで2名ずつ)に起毛面に沿うように触感を確かめる試験を依頼した。同時に天然スエードに関しても同様の触感試験を依頼し、表面のしなやかさや高級感について、以下の評価基準で5点満点(スエードを5点とする)にて官能評価を行い、小数点2位以下を四捨五入して点数付けを行った。
(評価基準)
〇:官能評価の平均点が4.0点以上
△:官能評価の平均点が3.0点以上4.0未満
×:官能評価の平均点が3.0点未満
(9)難燃性
米国連邦自動車安全基準「FMVSS No.302」に基づき測定を実施した。この
測定では、以下の評価基準にて等級判定を行った。
(評価基準)
5級:燃焼部分が燃焼速度領域に達しない。
4級:燃焼長が50mm未満、かつ燃焼時間60秒以内。
3級:平均燃焼速度が50mm/分未満で、サンプル全焼。
2級:平均燃焼速度が50mm/分以上かつ100mm/分未満で、サンプル全焼。
1級:平均燃焼速度が100mm/分以上で、サンプル全焼。
(10)還元粘度(ηsp/c)
還元粘度(ηsp/c)は、以下のとおり計測する。1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)0.25デシリットルに熱融着繊維の原料となる樹脂0.35gを加え、マグネチックスターラーを用いて室温で3時間拡販し希釈溶液を調整した。得られた希釈溶液をウベローデ粘度管(管径:0.03)に加え、希釈溶液とHFIP溶媒の落下秒数を25℃±0.1℃に調整した水浴中で計測し比粘度(ηsp)を求めた。測定後に、希釈溶液を秤量し、120℃のオーブンで1時間乾燥させ、得られた固形分量からポリマー濃度C(g/dl)を算出した。比粘度(ηsp)をポリマー濃度C(g/dl)で除し、還元粘度ηsp/cを得た。尚、熱融着繊維の原料となる樹脂の種類に応じて、溶媒や溶媒量は、変更してよい。
以下、熱融着樹脂の原料となる樹脂の製造方法を記載する。
[樹脂製造例1]
ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを1000g、1,4-ブタンジオールを650g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧したのち、50rpmの拡販条件のもと、250℃、5時間反応させることで重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2000のポリテトラメチレングルコールを1210g添加し、250℃で、0.01気圧に減圧しながら2時間引き続き重縮合反応を行い、常温・常圧に戻した後反応容器から取り出してポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂1を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂1の融点は182℃、還元粘度は3.0dl/gであった。
[樹脂製造例2]
ジメチルテレフタレートとジメチルイソフタレート、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを780g、ジメチルイソフタレート220g、1,4-ブタンジオールを650g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧したのち、50rpmの拡販条件のもと、250℃、5時間反応させることで、重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2000のポリテトラメチレングルコールを500g添加し、250℃で、0.01気圧に減圧しながら2時間引き続き重縮合反応を行い、常温・常圧に戻した後反応容器から取り出してポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂2を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーの融点は170℃、還元粘度は2.3dl/gであった。
[樹脂製造例3]
ジメチルテレフタレートとジメチルイソフタレート、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを740g、ジメチルイソフタレート260g、1,4-ブタンジオールを650g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧し、50rpmの拡販条件のもと250℃、5時間反応させることで重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2000のポリテトラメチレングルコールを750g添加し、250℃で、0.01気圧に減圧しながら2時間引き続き重縮合反応を行い、常温・常圧に戻した後反応容器から取り出してポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂3を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂3の融点は155℃、還元粘度は3.0dl/gであった。
[樹脂製造例4]
ジメチルテレフタレートとジメチルイソフタレート、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを770g、ジメチルイソフタレート230g、1,4-ブタンジオールを650g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧し、50rpmの拡販条件のもと250℃、5時間反応させることで重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2900のポリテトラメチレングルコールを1120g添加し、引き続き重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂4を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂4の融点は163℃、還元粘度は2.9dl/gであった。
[樹脂製造例5]
ジメチルテレフタレート、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを1000g、1,4-ブタンジオールを650g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧し、50rpmの拡販条件のもと250℃、5時間反応させることで重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2000のポリテトラメチレングルコールを2400g添加し、引き続き重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂5を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂5の融点は160℃、還元粘度は4.4dl/gであった。
[樹脂製造例6]
ジメチルテレフタレートとジメチルイソフタレート、エチレングリコール、ポリテトラメチレングルコールを用いて重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマーを得た。具体的な実験条件を以下に示す。柴田化学製 拡販機付き5Lのオートクレーブ型反応器にジメチルテレフレートを800g、ジメチルテレフタレートを200g、エチレングリコールを450g、テトラブトキシチタン(IV)8.3gを加え、十分に窒素置換したのちに窒素にて2気圧に加圧し、50rpmの拡販条件のもと250℃、5時間反応させることで重縮合反応を行い、プレ重合体を得た。次に数平均分子量2900のポリテトラメチレングルコールを780g添加し、引き続き重縮合反応を行い、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂6を得た。このポリエステルポリエーテルブロック共重合体エラストマー樹脂6の融点は171℃、還元粘度は3.1dl/gであった。
[樹脂製造例7]
無水コハク酸と1,4-ブタンジオールの重縮合反応を行い、ポリブチレンサクシネートを得た。柴田化学製 拡販機付き2Lのオートクレーブ型反応器に無水コハク酸を500g、1,4-ブタンジオールを500gとし、触媒にテトラブトキシチタン(IV)を1.3g、トルエン-4-スルホン酸0.8gとして窒素にて2気圧に加圧し、50rpmの拡販条件のもと270℃、6時間反応させることで重縮合反応を行い、ポリブチレンサクシネート樹脂7を得た。得られたポリブチレンサクシネート樹脂7は融点115℃、還元粘度は1.9dl/gであった。
以下、熱融着繊維の製造方法を記載する。
[繊維製造例1]
樹脂1を除湿乾燥機で乾燥温度80℃、8時間乾燥後、単軸押出機で押出温度230℃で溶融押出をし、ノズル数400孔、ノズル径0.15mmの紡口口金から紡糸温度250℃、1孔当たり吐出量0.05g/minで吐出させ、紡口口金下部約100mm~900mmの位置で20℃、風速0.5m/sの冷却風をあててフィラメントを冷却させ、巻取り速度1000m/minで巻き取ることで繊度200dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。
得られたマルチフィラメントを50本合糸しトウとして、ロータリーカッターでカット速度80m/min、切断張力0.01g/dにて繊維長5mmにカットし、0.5dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例2]
1孔当たり吐出量0.07g/minで吐出させること以外は、製造例1と同様に、繊度280dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、0.7dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例3]
1孔当たり吐出量0.11g/minで吐出させること以外は、製造例1と同様に、繊度440dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.1dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例4]
1孔当たり吐出量0.11g/minで吐出させること以外は、製造例1と同様に、繊度440dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを繊維長8mmした以外は製造例1と同様のカット条件でカットし、1.1dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例5]
1孔当たり吐出量0.18g/minで吐出させること以外は、製造例1と同様に、繊度720dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.8dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例6]
樹脂製造例2で合成した樹脂2を用い、1孔当たりの吐出量0.10g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂2からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例7]
樹脂製造例3で合成した樹脂3を用い、1孔当たりの吐出量0.10g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂3からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例8]
用いた樹脂を樹脂3とし、1孔当たりの吐出量0.10g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを繊維長3mmした以外は製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂3からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例9]
用いた樹脂を樹脂4とし、1孔当たりの吐出量0.10g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂4からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例10]
用いた樹脂を樹脂4とし、1孔当たりの吐出量0.14g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度560dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを繊維長7mmした以外は製造例1と同様のカット条件でカットし、1.4dtexの樹脂4からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例11]
用いた樹脂を樹脂5とし、1孔当たりの吐出量0.10g/minとすること以外は、製造例1と同様に、繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂5からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例12]
樹脂製造例6で合成した樹脂を用い、除湿乾燥機で乾燥温度80℃、8時間乾燥後、単軸押出機で押出温度250℃で溶融押出をし、ノズル数400孔、ノズル径0.15mmの紡口口金から紡糸温度260℃、1孔当たり吐出量0.10g/minで吐出させ、紡口口金下部約100mm~900mmの位置で20℃、風速0.5m/sの冷却風をあててフィラメントを冷却させ、巻取り速度1000m/minで巻き取ることで繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexの樹脂6からなる熱融着繊維12を得た。
[繊維製造例13]
1孔当たり吐出量0.50g/minで吐出させ、風速0.9m/sの冷却風をあててフィラメントを冷却させること以外は、製造例1と同様に、繊度2000dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、5.0dtexの樹脂1からなる熱融着繊維を得た。
[繊維製造例14]
用いた樹脂を樹脂7とし、乾燥温度60℃、8時間乾燥後、単軸押出機で押出温度180℃で溶融押出をし、ノズル数400孔、ノズル径0.15mmの紡口口金から紡糸温度190℃、1孔当たり吐出量0.10g/minで吐出させ、紡口口金下部約100mm~900mmの位置で20℃、風速0.5m/sの冷却風をあててフィラメントを冷却させ、巻取り速度1000m/minで巻き取ることで繊度400dtex/400フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントを製造例1と同様のカット条件でカットし、1.0dtexのポリブチレンサクシネートからなる熱融着繊維を得た。
[実施例1]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。熱融着繊維として、繊維製造例1で作成した繊維(短繊維繊度0.5dtex、繊維長5mm)を用いた。これらの短繊維を、主体繊維:熱融着繊維=90:10の重量比率となるよう水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付130g/m2の表面繊維用抄造シートを作製した。また、直接紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。これらの短繊維を、主体繊維:熱融着繊維=97:3の重量比率となるよう水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付50g/m2の裏面繊維用抄造シートを作製した。これら2層をMD方向の織密度とCD方向の織密度の和が120(本/2.54cm)、166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付100g/m2の織物スクリムと積層し、表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層構成とした。得られた3層積層体を、直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡した後に、エアースルー方式の乾燥機を用いて、130℃で5分間乾燥して、3層構造の不織布を得た。
得られた不織布の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後に、東洋精機製作所製 二軸延伸試験装置X4HDHTに不織布をMD・CD方向にそれぞれ収縮率5%となるようにたるませ、圧縮エア式グリップにより両辺の中心と四隅を固定した。その後、チャンバー内にて不織布を5分間、190℃で熱アニール処理し、人工皮革用不織布を得た。次いで青色分散染料(BlueFBL:住友化学製)を用い、液流染色機にて130℃で染色し、80℃で還元洗浄処理を行うことでスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例2]
熱融着繊維として繊維製造例2で作製した繊維(短繊維繊度0.7dtex、繊維長5mm)としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革2を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例3]
熱融着繊維として繊維製造例3で作製した繊維に変更し、表面繊維用抄造シートの目付を140g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革3を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例4]
熱融着繊維として繊維製造例4で作製した繊維に変更し、表面繊維用抄造シートの重量比率を主体繊維:熱融着繊維=94:6とし、表面繊維用抄造シートの目付を130g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革4を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例5]
熱融着繊維として繊維製造例5で作製した繊維を用い、表面繊維用抄造シートの目付を80g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革5を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例6]
熱融着繊維として繊維製造例6で作製した繊維を用い、表面繊維用抄造シートの目付を110g/m2とし、表面繊維層の比率を主体繊維:熱融着繊維=92:8の重量比率とし、熱アニール温度180℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革6を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例7]
熱融着繊維として繊維製造例7で作製した繊維を用い、表面繊維用抄造シートの目付を120g/m2とし、熱アニール温度165℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革7を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例8]
熱融着繊維として繊維製造例8で作製した繊維を用い、表面繊維層の比率を主体繊維:熱融着繊維=91:9の重量比率とし、熱アニール温度165℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革8を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例9]
熱融着繊維として繊維製造例9で作製した繊維を用い、表面繊維層の比率を主体繊維:熱融着繊維=93:7の重量比率とし、熱アニール温度170℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革9を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例10]
熱融着繊維として繊維製造例10で作製した繊維を用い、表面繊維用抄造シートの目付を110g/m2とし、表面繊維層の比率を主体繊維:熱融着繊維=95:5の重量比率とし、熱アニール温度170℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革10を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例11]
熱融着繊維として繊維製造例11で作製した繊維を用い、熱アニール温度170℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革11を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[実施例12]
熱融着繊維として繊維製造例12で作製した繊維を用い、熱アニール温度180℃にしたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革12を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[比較例1]
熱融着繊維が、単繊維繊度0.7dtex、長さ5mmの全融タイプの熱融着性短繊維キャスベン8000(ユニチカ(株)製)であること以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革13を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[比較例2]
熱融着繊維が、単繊維繊度1.1dtex、長さ5mmの全融タイプの熱融着性短繊維キャスベン8000(ユニチカ(株)製)であること、表面繊維用抄造シートの目付を110g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革14を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[比較例3]
熱アニールの温度を130℃とした以外は、実施例3と同様に、スエード調の人工皮革15を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。
[比較例4]
熱融着繊維として繊維製造例13で作製した繊維を用い、表面繊維用抄造シートの目付を140g/m2としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革16を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す
[比較例5]
熱融着繊維として繊維製造例14で作製した繊維を用い、熱アニールの温度を130℃としたこと以外は、実施例1と同様に、スエード調の人工皮革17を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。人工皮革中に熱融着点は検出されなかった。
[比較例6]
直接溶融紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。この主体繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付130g/m2の表面繊維用抄造シートを作製した。また、直接溶融紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。この主体繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付50g/m2の裏面繊維用抄造シートを作製した。これら2層をMD方向の織密度とCD方向の織密度の和が120(本/2.54cm)、166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付100g/m2の織物スクリムと積層し、表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層構成とした。得られた3層積層体を、直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡した後に、エアースルー方式の乾燥機を用いて、130℃で5分間乾燥して、3層構造の不織布を得た。
得られた不織布の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後に、高分子弾性体含浸液として、ポリエーテル系水分散ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製「エバファノールAP-700」)を高分子弾性体含浸液に対して9質量%、含浸助剤として硫酸ナトリウム(Na2SO4)を高分子弾性体含浸液に対して3質量%となるように調合し、この含浸液を、起毛した3層構造からなる不織布の重量に対する付着率が130%となるように含浸した。その後ピンテンター乾燥機を用いて130℃で加熱乾燥し、人工皮革生地を得た。
次いで、青色分散染料(BlueFBL:住友化学製)を用い、液流染色機にて130℃で染色し、80℃で還元洗浄処理を行うことでスエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革の製造条件と評価結果を以下の表1に示す。熱融着点を実施例1と同様の手法にてX線CTにて評価を行ったが、熱融着樹脂の体積よりも十分に小さく、(操作x:高輝度画素の大きさ算出)に記載の通り12μm以下の構造をノイズとして処理しているため、評価を行うことができなかった。尚、繊度の評価に用いたSEMを倍率2000倍として観測した場合のポリエーテル系水分散ポリウレタンエマルジョン由来30点の接着点の大きさの加算平均は直径4μm以下であった。
Figure 2022179204000001
本発明の人工皮革では、繊度0.01dtex以上0.5dtex以下の主体繊維同士を接着させている熱可塑性樹脂がTOF-SIMS測定時の正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比が0.2以上2.3以下であること、かつ負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比が0以上0.5以下であり、かつ、正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下であり、かつ、該熱可塑性樹脂の塊状サイズがX線-CTで測定した時の第一表面繊維層中の熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下であるため、水系ポリウレタンを付与しなくても、風合に優れ、かつ、耐摩耗性も高い。また、用いる主体繊維と熱可塑性繊維をポリエステル系繊維とし、水系ポリウレタンのごとき弾性高分子を含まないものとすれば、燃焼時の発生ガスを抑制できる点で耐燃焼性にも優れるものとなる。さらに本発明の人工皮革は、カーインテリア素材の他、鉄道車両、航空機、船舶などのシート表皮材や内装材、衣料、靴、鞄、スマートフォンケース、インテリア、家具類などの分野においても好適に利用可能である。
1 主体繊維
2 塊状樹脂
3 未溶融樹脂(熱融着繊維)
4 鞘芯繊維

Claims (15)

  1. 第一の表面を構成する表面繊維層を少なくとも含む人工皮革であって、以下の特徴:
    (1)該表面繊維層が、主体繊維と熱可塑性樹脂を含む;
    (2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
    (3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が該主体繊維間を接着している;
    (4)該熱可塑性樹脂は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において、以下の(i)と(ii):
    (i)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=71(フラグメントイオン:C4H7O)のイオン強度の比(71/27)が0.2以上2.3以下である;及び
    (ii)負イオンのm/z=25(フラグメントイオン:C2H)に対するm/z=42(フラグメントイオン:CNO)のイオン強度の比(42/25)が0以上0.5以下である;
    を満たす;及び
    (iii)正イオンのm/z=27(フラグメントイオン:C2H3)に対するm/z=104(フラグメントイオン:C7H4O)のイオン強度の比(104/27)が0.2以上1.0以下である;並びに
    (5)該熱可塑性樹脂の個数平均体積が3500μm3以上24000μm3以下である;
    を有する、人工皮革。
  2. 前記主体繊維は、ポリエステル系繊維である、請求項1に記載の人工皮革。
  3. 前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂である、請求項1又は2に記載の人工皮革。
  4. 前記表面繊維層中の単位体積当たりの該熱可塑性樹脂の体積個数密度が0.5×1012個/m3以上5.0×1012個/m3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工皮革。
  5. 前記熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値が100以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工皮革。
  6. 前該表面繊維層が、織物であるスクリム層と交絡されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の人工皮革。
  7. 前記スクリム層は、ポリエステル系樹脂繊維からなる、請求項6に記載の人工皮革。
  8. JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回未満では、スクリムが露出しない、請求項1~7のいずれか1項に記載の人工皮革。
  9. JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回での摩耗減量が21mg以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の人工皮革。
  10. 以下の工程:
    (1)主体繊維と、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による測定において前記特徴(3)を有する熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維とを、該熱融着繊維の重量比率が3%以上25%以下となるように、混合し、湿式抄造により交絡させ、次いで、水流交絡処理又はニードルパンチング法により表面繊維ウェブを形成する構成する;及び
    (2)得られた表面繊維ウェブの交絡組織を、該熱融着繊維の融点以上、該主体繊維の融点未満の温度で、熱アニールにより表面繊維層を形成する工程;
    を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の人工皮革の製造方法。
  11. 前記熱可塑性樹脂からなる熱融着繊維の繊維長が2mm~90mm以下である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記熱融着繊維の繊維径が0.5dtex以上2.2dtex以下である、請求項10又は11に記載の方法。
  13. 前記熱融着繊維は前記熱可塑性樹脂の溶融紡糸により製造されるものである、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記熱融着繊維に含まれる樹脂の95重量%以上がポリエステルと脂肪族ポリエーテルのコポリマーである、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記熱可塑性樹脂の融点は、130℃以上であり、かつ、前記主体繊維の融点よりも20℃以上低い温度である、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
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