JP2022158688A - 遺伝子発現制御剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】間葉系幹細胞の培養上清の新たな用途を提供すること。【解決手段】間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、以下から選択される1種以上の遺伝子発現制御剤。・KPRP・Col3A1・Meprin-α・Elastin・p16INK4a・HAS1【選択図】なし

Description

本開示は、遺伝子発現制御剤に関する。より具体的には、間葉系幹細胞の培養上清を有効成分として含む遺伝子発現制御剤に関する。
間葉系幹細胞は成体内に存在する幹細胞(ステムセル)の一つであり、そして、中胚葉由来の組織(例えば、骨、軟骨、血管、心筋細胞等)に分化できる能力をもつ。間葉系幹細胞の例として、骨髄由来の間葉系幹細胞、脂肪組織由来の間葉系幹細胞等が挙げられる。
間葉系幹細胞は任意の培地で培養することが可能である。間葉系幹細胞を培養した後で得られる培養上清は、特定の機能を有することが知られている。
例えば、特許文献1では、間葉系幹細胞の分泌物を有効成分として含む、マクロファージからのエイコサノイドの産生を促進するためのエイコサノイド産生促進剤を開示している。また、特許文献2では、間葉系幹細胞又は間葉系幹細胞の培養上清を有効成分として含み、シノビオリン遺伝子の発現又はシノビオリンタンパク質の発現を阻害するシノビオリン発現阻害剤を開示している。
特許第6497827号公報 国際公開第2018/079753号
上記のように、間葉系幹細胞の培養上清は、特定の機能を有することが知られており、今後も、新たな機能、及び/又は用途の開発が期待される。そこで、本開示は、間葉系幹細胞の培養上清の新たな用途を提供することを目的とする。
本発明者が鋭意検討した結果、間葉系幹細胞の培養上清が、幾つかの遺伝子の発現の制御に関与することを新たに発見した。こうした遺伝子の発現の制御の機能は、研究開発の用途にも有用であり、更には、医薬用途にも有用となる。
上記知見に基づいて、本開示は、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、KPRPの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
(発明2)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Col3A1の遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
(発明3)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Meprin-αの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
(発明4)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Elastinの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
(発明5)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、p16INK4aの遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現制御剤。
(発明6)
間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、HAS1の遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
(発明7)
ヒアルロン酸を更に含む、発明1~6いずれか1つに記載の遺伝子発現制御剤。
(発明8)
表皮細胞において前記遺伝子の発現を制御する、発明1~7いずれか1つに記載の遺伝子発現制御剤。
(発明9)
前記培養上清が無血清である、発明1~8いずれか1つに記載の遺伝子発現制御剤。
(発明10)
皮膚に投与される剤である、発明1~9いずれか1つに記載の遺伝子発現制御剤。
(発明11)
発毛及び/又は育毛目的で投与される剤である、発明10の遺伝子発現制御剤。
(発明12)
アトピー治療目的で投与される剤である、発明10の遺伝子発現制御剤。
一側面において、上記の発明は、間葉系幹細胞の培養上清を有効成分として含み、特定の遺伝子の発現を制御する。これにより、研究開発、及び/又は、医薬用途に有用となる。
定量的PCRによる各遺伝子の発現量を相対化したグラフである。 定量的PCRによる各遺伝子の発現量を相対化したグラフである。 定量的PCRによる各遺伝子の発現量を相対化したグラフである。 定量的PCRによる各遺伝子の発現量を相対化したグラフである。
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
1.遺伝子発現制御剤
一実施形態において、本開示は、遺伝子発現制御剤に関する。遺伝子発現制御とは、特定の細胞に作用して、遺伝子の発現を上昇させる、又は、遺伝子の発現を抑制させることを意味する。
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、任意の剤型であってもよい。固体であってもよく、液体であってもよく、半固体(例えば、ゲル状、ペースト状)であってもよい。また、固体の場合には、任意の形状の固体であってもよい(例えば、タブレット、粉末(例えば、吸入用、液体などで再構築する用途等)、カプセル)。液体の場合には、飲料用、注射用、噴霧用等に用いるための形態であってもよい。半固体の場合には、注射用、塗布用、経口摂取用などに用いるための形態であってもよい。
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、有効成分として、間葉系幹細胞の培養上清又は培養上清中に含まれるエクソソームを含む。間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームの具体例の詳細については、後述する。
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、有効成分として、間葉系幹細胞の培養上清以外の成分を含んでもよい。例えば、標的の遺伝子の発現を制御するために、同等の作用を持つ薬剤等を併用してもよい。或いは、間葉系幹細胞の培養上清によって、複数の遺伝子の発現が制御される場合に、目的の遺伝子の発現のみを作用させる目的で、目的の遺伝子以外の発現の作用をキャンセルする薬剤を併用してもよい。
また、好ましい実施形態においては、ヒアルロン酸を配合してもよい。ヒアルロン酸は、間葉系幹細胞の培養中に、培地に配合してもよい。或いは、ヒアルロン酸は、間葉系幹細胞の培養終了後に、培養上清等に配合してもよい。
培地に添加するヒアルロン酸は、特に限定されないが、低分子量のヒアルロン酸が好ましい。より具体的には、重量平均分子量が5,000以下であり、好ましくは2,000以下であり、更に好ましくは、1,500以下であり、最も好ましくは、1,000以下である。また好ましい使用濃度は20~1000μg/mlである。ヒアルロン酸の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーと光散乱検出器を組み合わせた手法(SEC-LS)で算出されるものをいう。
上記成分に加えて、他の成分を必要に応じて添加してもよい。例えば、他の成分として、賦形剤、抗生物質、pHバッファ等が挙げられる。更には、他の成分として、皮膚の健康状態を増進及び/又は改善するため更なる成分(例えば、抗酸化剤、香料、美白成分、保湿成分、美白成分等)が挙げられる。
2.間葉系幹細胞の培養上清
2-1.間葉系幹細胞の種類
間葉系幹細胞は、特定の組織由来の物に限定されず、任意の組織に由来する物であってもよい。例えば、骨髄由来、臍帯血由来、胎盤由来、脂肪組織由来等が挙げられる。典型的には、骨髄由来、及び/又は脂肪組織由来の間葉系幹細胞を使用することができる。
2-2.培地
培地は、特に限定されず、当分野で公知の培地(例えば、DMEM、F12、RPMI等)を使用することができる。培地の例としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、バイオミメティクスシンパシーズ社のsf-DOT(登録商標)、Nipro社/細胞科学研究所の培地(例えば、製品番号A2G00P05C+A2G20P1CC)、コージンバイオ社の培地(例えば、製品番号 KBM ADSC-4)等が挙げられる。
培地に血清を配合してもよいが、好ましい培地は、無血清培地である。これによって、培養上清を含む遺伝子発現制御剤を、例えば、他の細胞に作用させる場合に、血清内の成分による影響を回避することができる。
2-3.培養条件
培養条件は、特に限定されず、当分野で公知の条件であればよい。例えば、温度は、35℃~40℃、典型的には37℃であってもよい。適宜、CO2が5%になるようインキュベータを制御してもよい。培養期間は、特に限定されないが、少なくとも24h、好ましくは48h以上培養することが好ましい。上限は特に限定されないが、168h以下である。
2-4.培養上清又はそのエクソソーム
一実施形態において、上記「2-1.間葉系幹細胞の種類」に記載の細胞を、「2-2.培地」に記載の培地を用いて、「2-3.培養条件」に記載の条件で培養することで、培養上清を得ることができる。培養終了後は、遠心分離、及び/又はフィルター等で雑成分を除去してもよい。或いは、特定の画分(例えば、エクソソーム)を得るために別途遠心分離してもよい。或いは、凍結乾燥等を行い粉末状にしてもよい。或いは、ゲル化剤等を配合して、ゲル状にしてみても良い。
従って、本明細書における「培養上清」は、細胞を培養した直後の培地成分だけでなく、そこから何かしらの処理がされたものも含む。
3.制御対象の遺伝子
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤の対象となる遺伝子は、以下から選択される1種以上である。括弧の中の記載は、遺伝子発現制御剤による遺伝子発現の変化の方向性(増強又は抑制)を示す。
・KPRP(発現増強)
・Col3A1(発現増強)
・Meprin-α(発現増強)
・Elastin(発現増強)
・p16INK4a(発現抑制)
・HAS1(発現増強)
以下、各遺伝子について説明する。
3-1.KPRP
KPRPは、ケラチノサイト・プロリン・リッチ・プロテイン(Keratinocyte proline-rich protein)と呼ばれ、皮膚のバリア機能に関わる。アトピー患者では、KPRPの発現が低いことが報告されており、アトピーの治療にも関与することができる。
3-2.Col3A1
Col3A1は、III型コラーゲンのアルファ1とも呼ばれ、コラーゲン繊維の三重らせんの構成要素の一つであり、そして、組織学的には、皮膚を構成するタンパク質である。当該タンパク質の減少は、肌の老化兆候へ寄与することが知られている。また、これ以外に、Col3A1は、創傷治癒(手術創の治癒含む)や毛髪の成長の促進にも関与することができる。
3-3.Meprin-α
Meprin-αは、Znプロテアーゼのサブユニットである。そして、III型コラーゲンのプロペプチドを切断する機能を有する。加齢とともにIII型コラーゲン/I型コラーゲンの比率が減少することが知られており、そして、Meprin-αも加齢とともに減少することが知られている。更には、加齢によるMeprin-αの減少を防ぐことでIII型コラーゲン/I型コラーゲンの比率の減少を抑制するという知見が報告されている(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj/47/4/47_278/_article/-char/ja/)。
3-4.Elastin
Elastinは、コラーゲンの繊維を支える役割を持つ繊維である。そして、Elastinは、加齢と共に減少し、当該現象が皺の原因となる。また、化粧品、及び/又はサプリメントの成分としても配合されることが知られている。また、これ以外に、Elastinは、創傷治癒(手術創の治癒含む)にも関与することができる。さらに、発毛及び/又は育毛剤にはElastin成分が配合されていることがあり、Elastinは育毛に関与することができる。
3-5.p16 INK4a
p16INK4aは、細胞周期を阻害する機能を有することが知られており、更には、このタンパク質の発現量が増加すると老化が進行することが知られている。
3-6.HAS1
HAS1は、ヒアルロン酸合成酵素1(Hyaluronan Synthase 1)と呼ばれ、ヒアルロン酸を合成する機能を有する酵素の一つである。アトピー患者の皮膚においてHAS1の発現量及びヒアルロン酸が減少していることが知られている。このヒアルロン酸は化粧品、及び/又はサプリメントの成分としても配合されることが知られている。また、これ以外に、HAS1は、合成したヒアルロン酸を介して創傷治癒(手術創の治癒含む)にも関与することができる。さらに、HAS1は、合成したヒアルロン酸を介して発毛及び/又は育毛にも関与することができる。
4.遺伝子発現制御の対象となる細胞
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、任意の形態で細胞に作用して、遺伝子の発現を制御することができる。作用対象の細胞は、特に限定されないが、表皮細胞が含まれる。なお、皮膚は組織学的には、表面から表皮、真皮、脂肪組織が含まれるが、本明細書で述べる「表皮細胞」とは、表皮、真皮、脂肪組織のいずれの組織の細胞も含む。「表皮細胞」の例として、表皮角化細胞、皮膚線維芽細胞などが挙げられる。
5.用途
一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、様々な用途を提供しうる。例えば、研究開発(例えば、インビボ、又は、インビトロ)などで、細胞の遺伝子の発現の制御を行うのに利用することができる。また、一実施形態において、本開示の遺伝子発現制御剤は、人体に投与してもよく、特に皮膚に投与してもよい。
皮膚に投与する目的として、例えば、発毛及び/又は育毛の目的、アトピー治療目的等が挙げられる。
6.実施例
6-1.実施例1(間葉系幹細胞の初代培養)
はじめに、脂肪組織由来間葉系幹細胞を準備した。具体的には、脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた再生医療を受ける予定の患者より、皮下脂肪組織を分取した。当該皮下脂肪組織は、投与用細胞の調製に必要な原料となる。当該皮下脂肪組織を分取した後の剰余を、初代培養に供した。なお、予め、患者から研究利用に関する同意を取得しておいた。
皮下脂肪組織を遠心分離(400×gで5分間)に供し、3層に分離した。具体的には、上層から順に脂質画分、脂肪組織画分、及び水性画分の3層に分離した。中層の脂肪組織画分を残して、上層と下層を破棄した。残した脂肪組織画分に対して、組織重量当たり4倍量の0.15%コラゲナーゼ酵素溶液を添加した。37℃で1時間浸透させ、酵素処理を行った。脂肪組織が酵素処理によって分散された後、当該脂肪組織を、遠心分離(400×gで5分間)に供した。間葉系幹細胞を含む間質血管細胞画分として、沈殿画分を30mLのPBS(-)溶液で懸濁した。その後、セルストレーナー(メッシュサイズ70μm径)に懸濁液を通液し、セルストレーナーに捕捉された組織残渣等は破棄した。そして、通液画分を再度遠心分離(400×gで5分間)に供し、沈殿画分を6mLの無血清培養液sf-DOT(バイオミメティクスシンパシーズ社)で懸濁した。細胞懸濁液全量を、T25フラスコ(CellBIND;Corning,3289)に播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して初代培養を開始した。
6-2.実施例2(継代培養、P0⇒P1⇒P2)
3日に1回の頻度で培地全交換を実施した。上澄みは破棄して、フラスコ底面上で増殖する細胞を選択的に増殖させた。セミコンフルエントまで増殖したT-25フラスコ内の細胞に対して、2mLの酵素溶液(TrypLE Express;Thermo Fisher Scientific,12604021)を添加し、細胞をフラスコの底面から剥離した(37℃、5分間静置)。細胞をPBS(-)で希釈し、遠心分離(400×gで5分間)に供した。沈殿した細胞を培養液sf-DOTで懸濁し、一部を分取してトリパンブルー染色法による細胞数計測を行った。新たなT75フラスコ(CellBIND;Corning,3290)にsf-DOTで懸濁した細胞を播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して継代培養を行った(P0→P1)。その後も同様の手順で継代培養を行い、必要な細胞数を得た(P1→P2)。
6-3.実施例3(培養上清の調製)
まず脂肪組織由来間葉系幹細胞を上述の通りsf-DOTで培養した。同培地で脂肪組織由来間葉系幹細胞をT75フラスコ1枚当たり3000cells/cm2で播種した。セミコンフルエントに到達した3日目に、PBS(-)で一回洗浄した。その後、培養上清用に、以下の2つの培地(いずれも無血清培地)を用意した。
(i) 基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)、
(ii)基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)+低分子量ヒアルロン酸HA4(100μg/ml 添加)
これら(i)及び(ii)の培地で更に3日間培養し、各々の上清を回収した。回収した培養上清は0.2μmのPESシリンジフィルター(25mm GD/Xシリンジフィルター(PES 0.2μm滅菌済);6896-2502;GEヘルスケア・ジャパン)でろ過した。ろ過後の培養上清は、解析に使用するまで-28℃で冷凍保管した。
上記で得られた培養上清を使用して、以下の3種類の培養上清を調製した。
CM1: 上記(i)に由来する培養上清
H-CM:上記(ii)に由来する培養上清
CM2: 上記(i)に由来する培養上清に、低分子量ヒアルロン酸HA4(100μg/ml)を添加した物
6-4.実施例4(培養上清を用いた皮膚線維芽細胞の処理)
正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblast(NHDF);Takara,C-12302)を準備した。当該細胞は、Fibroblast medium(Sciencell,2301)で継代及び維持した。NHDFを12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに3000cells/cm2で播種し、一晩培養した。
6-5.実施例5(培養上清を用いた表皮角化細胞の処理)
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte(NHEK);Takara,C-12006)を準備した。当該細胞は、Keratinocyte-SFM(ThermoFisher Scientific,17005042)で継代及び維持した。NHEKを12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに10000cells/cm2で播種し、一晩培養した。
上記皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞について、翌日(播種後16~24時間)、各種上清(CM1、CM2、H-CM)に培地交換し、さらに3日間培養した(約72時間)。培養後、ReliaPrep RNA Miniprep system(Promega,Z6012)を用いてNHDF及びNHEKからTotal RNAを抽出した。抽出後、500ngのRNAを用いてcDNA合成(PrimeScript RT Master Mix;Takara,RR036A)を行い、更に、定量的PCR(Thunderbird Sybr qPCR Mix;TOYOBO,QPS-201X5)を行った。
cDNA合成のためのミクスチャは以下の組成に従って調製した。
5xPrimeScript RT Master Mix 2μl(最終濃度 1 x)
Total RNA 500ng
RNase free H2O 合計10μlに調整
上記ミクスチャを、Applied Biosystems社のVeriti 96 well Thermal Cyclerを用いて、以下の条件で処理した。
37℃ 15分

85℃ 5秒

4℃ ∞
合成したcDNA(10μl)は90μlのTE(10mM Tris-HCl pH8.0+1mM EDTA pH8.0)を用いて10倍に希釈した。当該希釈物を、定量PCRに供した。
6-6.実施例6(皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞の遺伝子の発現の解析)
より具体的には、当該希釈物を、以下の条件で混合した。
2×THUNDERBIRD Probe qPCR Mix 10μl
5mM Forward Primer 0.4μl
5mM Reverse Primer 0.4μl
2O 8.2μl
cDNA(10倍希釈) 1μl
上記混合物を、Bio-Rad社のCFX-Connectを用いて、cDNAを増幅させた。PCRサイクルの条件は以下の通りであった。
1.95℃ 1分 (初期変性)
2.95℃ 15秒 (変性)
3.60℃ 30秒 (伸長)
(2~3のステップを40回繰り返し、ステップ3が終わるたびに蛍光シグナルを検出)
4.65℃~95℃まで0.5℃刻みで温度を上昇させ、5秒ずつ温度を保持してから蛍光シグナルを検出
上記サイクルにて、PCR産物の検出を行い、併せて、Melting curveによるPCR産物の単一性の確認を行った。
内部標準(すべての細胞・条件において同じ発現をしているハウスキーピング遺伝子)として、GAPDH(lycerldehyde 3-hosphate ydrogenase)を用いた。
各遺伝子を検出するためのプライマー配列は以下の通りであった。
GAPDH Forward primer: 5’ - agccacatcgctcagacac - 3’
GAPDH Reverse primer: 5’ - gcctaatacgaccaaatcc - 3’
Col3A1 Forward primer: 5’ - ctggaccccagggtcttc - 3’
Col3A1 Reverse primer: 5’ - gaccatctgatccagggtttc - 3’
Meprin-α Forward primer: 5’ - gcaccacaactcacactctttt - 3’
Meprin-α Reverse primer: 5’ - ttccacagatgtttgccttc - 3’
Elastin Forward primer: 5’ - ggaggtgttcccggagtc - 3’
Elastin Reverse primer: 5’ - ggtccccactccgtacttg - 3’
p16INK4a Forward primer: 5’ - gtggacctggctgaggag - 3’
p16INK4a Reverse primer: 5’ - ctttcaatcggggatgtctg - 3’
HAS1 Forward Primer: 5’ - acgtgcggatccttaaccc - 3’
HAS1 Reverse Primer: 3’ - aggcctagaggaccgctgat - 3’
全てのプライマーは株式会社ファスマックから購入した(逆相カラム精製グレード)。各遺伝子の発現量は、定量PCRで得られた各遺伝子の発現量を、さらにGAPDHの発現量で割って標準化したものを示している。さらに、上清を処理していないコントロール条件での発現量を「1」になるように標準化している。以上のプライマーを用いて増幅したPCR産物は全て単一のものであること(つまり、同一のプライマーで、複数種類の配列が増幅されていないこと)をMelting curveによって確認した。
結果を図1及び図2に示す。培養上清で処理した場合(CM1、CM2、H-CM)、皮膚線維芽細胞においては、検証した遺伝子の発現量は、良好な方向に変化していることが確認された。即ち、増加することが望ましいと考えられる遺伝子(Col3A1、Meprin-α、Elastin)の発現量は増加した。一方で、減少することが望ましいと考えられる遺伝子(p16INK4a)の発現量は減少した。また、H-CMで処理した表皮角化細胞においても、検証した遺伝子の発現量(具体的には、HAS1の発現量)は、良好な方向に変化していることが確認された。また、一部の遺伝子については、ヒアルロン酸を添加した場合(CM2、H-CM)について更に、遺伝子の発現が良好な方向に変化していることが確認された。
特筆すべき点として、H-CM処理による遺伝子の発現量の変化は、CM2処理による遺伝子の発現量の変化よりも顕著であった。上述したように、CM2は、脂肪組織由来間葉系幹細胞を培地で処理した後からHA4を培地に添加した条件である。一方で、H-CMは、脂肪組織由来間葉系幹細胞を培地で処理する前にHA4を培地に添加した条件である。
従って、脂肪組織由来間葉系幹細胞がHA4の刺激を受けて、何かしらの有用な物質を、細胞外に分泌したものと考えられる。そして、その有用な物質の存在により、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞の遺伝子の発現量を、良好に変化させたものと考えられる。
皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞は、皮膚組織に存在する細胞である。従って、こうした遺伝子の発現量の変化は、皮膚の健康状態に良好な影響を及ぼすと考えられる。
また、H-CMとCM2の条件の違い及びもたらす結果の違いを考えると、H-CMで処理した細胞を、例えば、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞のいずれか1つと共培養した場合であっても、同様の効果が得られることが推認される。
6-7.実施例7(表皮角化細胞におけるKPRP遺伝子の発現)
実施例1~2で調製した脂肪組織由来間葉系幹細胞を準備した。
具体的には、脂肪組織由来間葉系幹細胞を上述の通りsf-DOTでP1まで培養した。その後、STEM CELL BANKER(TAKARA社;CB045)で凍結保存した。その凍結保存した脂肪組織由来間葉系幹細胞を、以下の2種類の培地で解凍培養し、P4時点での培養上清を回収した。
(A)Nipro社/細胞科学研究所(製品番号A2G00P05C+A2G20P1CC)
(B)コージンバイオ社(製品番号 KBM ADSC-4)
これら(A)及び(B)の培地でP4時点の細胞を、3000/cm2で3日間培養し、各々の上清を回収した。回収した培養上清は0.2μmのPESシリンジフィルター(25mm GD/Xシリンジフィルター(PES 0.2μm滅菌済);6896-2502;GEヘルスケア・ジャパン)でろ過した。ろ過後の培養上清は、解析に使用するまで-28℃で冷凍保管した。
次に実施例5と同様の条件で表皮角化細胞を培養上清で処理し、RNAを抽出し、実施例6と同様の条件で発現解析を行った。ただし、培養上清は、上記(A)及び(B)由来の培養上清を使用した。また、コントロールとして、間葉系幹細胞で培養を行っていない、フレッシュな上記培地(A)と(B)で、表皮角化細胞を処理した。更には、発現解析対象の遺伝子はKPRPであり、増幅用のプライマーとして以下の物を使用した。
KPRP Forward Primer: 5’ - cttgcctgtgaggagggtca - 3’
KPRP Reverse Primer: 3’ - aagggggattgagaggagca - 3’
結果を図3に示す。コントロール(Nipro(AF)及びKBM)と比べると、培養上清(Nipro(AF)-CM及びKBM-CM)では、KPRPの発現を有意に促進した。
6-8.実施例8(表皮角化細胞におけるKPRP遺伝子の発現)
実施例7と同様の手順で実験を行った。ただし、脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD)だけでなく、臍帯血由来間葉系幹細胞(UC)も準備した。さらに、培養上清のどの成分が重要かを検討するため、エクソソーム画分を粗精製するキット(ExoQuickTC(System Bioscience,LCC、EXOTC10A-1))を用いた。培養上清はsf-DOTを用いて上記の通り準備した。
臍帯血由来間葉系幹細胞は以下の手順で調製した。通常分娩を行う産婦より同意を得て取得した臍帯組織を、採取の翌日に初代培養に供した。約10cmの臍帯組織から臍帯血を除去した後、医療用メスで細断し、0.15%Collagenase溶液に浸して37℃で16時間、シェーカーで緩やかに攪拌させながら酵素処理を行った。臍帯組織の分散を目視で確認した後、PBS(-)で10倍希釈を行った後、1、000×g、5分の遠心分離に供し、沈殿画分を残して上層を破棄した。その後、沈殿画分をPBS(-)で懸濁した後、70μmのフィルターに供し、通液画分をコニカルチューブ2本に等分した後、400×g、5分の遠心分離に供し、細胞を含む沈殿画分を、24mLの無血清培養液(Procul AD;ロート製薬)培地で懸濁した。その後、T-150フラスコ(CellBIND(登録商標);Corning)1枚に全量を播種し、インキュベータ内(37℃,5% CO2)に静置して初代培養を開始した。後は、実施例2と同様の手順で継代培養を行った。
脂肪組織由来間葉系幹細胞の培養上清、及び上記の通り臍帯血由来間葉系幹細胞の培養上清を準備し、ExoQuickTC(System Bioscience,LCC、EXOTC10A-1)と5:1で混合し、4℃で一晩(16時間程度)静置した。その後、4℃、10,000×gで30分間遠心し、沈降画分をエクソソーム画分として回収した。それぞれをExoAD、ExoUCと呼称した。
結果を図4に示す。脂肪由来間葉系幹細胞の培養上清中のエクソソーム画分のみを用いることによっても、KPRPの発現を有意に促進した。この結果は、他の分泌物成分も重要である可能性を否定するものではないが、エクソソーム画分で十分であるということを示している。さらに、臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清中のエクソソーム画分でも同様の効果が観察されたことから、いずれの組織由来の間葉系幹細胞由来のエクソソームでも同様の遺伝子発現制御の効果を引き起こせることが示された。
以上に示す結果から、間葉系幹細胞の培養上清を有効成分として配合することで、所望の遺伝子の発現を制御できることが示された。他の遺伝子に関しても、培養上清中のエクソソームが遺伝子発現を制御できることを確認している。こうした遺伝子の発現制御の機能は、研究開発において有用であり、また、治療等においても有用となる。
以上、具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。

Claims (12)

  1. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、KPRPの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
  2. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Col3A1の遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
  3. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Meprin-αの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
  4. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、Elastinの遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
  5. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、p16INK4aの遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現制御剤。
  6. 間葉系幹細胞の培養上清又はそのエクソソームを有効成分として含む、HAS1の遺伝子の発現を促進する遺伝子発現制御剤。
  7. ヒアルロン酸を更に含む、請求項1~6いずれか1項に記載の遺伝子発現制御剤。
  8. 表皮細胞において前記遺伝子の発現を制御する、請求項1~7いずれか1項に記載の遺伝子発現制御剤。
  9. 前記培養上清が無血清である、請求項1~8いずれか1項に記載の遺伝子発現制御剤。
  10. 皮膚に投与される剤である、請求項1~9いずれか1項に記載の遺伝子発現制御剤。
  11. 発毛及び/又は育毛目的で投与される剤である、請求項10の遺伝子発現制御剤。
  12. アトピー治療目的で投与される剤である、請求項10の遺伝子発現制御剤。
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