JP2022102949A - 粉粒体ならびにそれを用いたガス発生剤および食感改良剤 - Google Patents

粉粒体ならびにそれを用いたガス発生剤および食感改良剤 Download PDF

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Abstract

【課題】 製造の際に炭酸水素ナトリウムの熱分解を促すような高温の加熱を必要とすることなく、かつ得られる加工食品の食感を良好にすることのできる、粉粒体ならびにそれを用いたガス発生剤および食感改良剤を提供すること。【解決手段】 本発明の粉粒体は、全体質量を基準として、0.02質量%~2.0質量%の液体油脂と、1.0質量%~24.5質量%の疎水性固形分と、73.5質量%~98.98質量%の炭酸水素ナトリウムとを含む。本発明の粉粒体は、例えば、ベーキングパウダーとして使用することができ、畜肉加工食品の製造にも有用である。【選択図】 図4

Description

本発明は、粉粒体ならびにそれを用いたガス発生剤および食感改良剤に関する。
保管中の膨張剤の安定性を向上させるために、炭酸水素ナトリウム(重曹)や酸性剤などのコア材料を疎水性材料でコーティングする技術が多く存在する。
このような例としては、40℃~70℃の融点を有する乳化剤や硬化油脂を加熱融解させた融解物を用いて当該コア材料をコーティングしたもの(例えば、特許文献1~5)、およびステアリン酸カルシウムのような長鎖脂肪酸塩でなるコーティング材料を用いて当該コア材料をコーティングしたもの(例えば、特許文献6)が挙げられる。
しかし、前者のコーティング技術では、乳化剤や硬化油脂を融解するためのエネルギーコストを必要とし、高温の融解物をコア材料に接触させるため、炭酸水素ナトリウムなどの熱分解を促すことがある。後者のコーティング技術では、コア材料に対して十分なコーティング性能を得るためには比較的多量のコーティング材料が必要となり、その結果これを用いて最終的に得られる加工食品の食感に所望でない影響を及ぼすことがある。
特開昭59-020329号公報 特開2000-333591号公報 特開2004-313185号公報 特開2019-062864号公報 特開2019-134695号公報 特開2017-163887号公報
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、製造の際に炭酸水素ナトリウムの熱分解を促すような高温の加熱を必要とすることなく、かつ得られる加工食品の食感を良好にすることのできる、粉粒体ならびにそれを用いたガス発生剤および食感改良剤を提供することにある。
本発明は、全体質量を基準として、0.02質量%~2.0質量%の液体油脂と、1.0質量%~24.5質量%の疎水性固形分と、73.5質量%~98.98質量%の炭酸水素ナトリウムとを含む、粉粒体である。
1つの実施形態では、上記液体油脂は、植物性脂肪油および動物性脂肪油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である。
1つの実施形態では、上記液体油脂はC~C12の脂肪酸鎖を有するトリアシルグリセロールを含有する。
1つの実施形態では、上記疎水性固形分は、固形油脂、乳化剤および長鎖脂肪酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。
さらなる実施形態では、上記疎水性固形分は、上記長鎖脂肪酸金属塩としてステアリン酸カルシウムを含有する。
1つの実施形態では、上記炭酸水素ナトリウムは粒子の形態で含有されており、そして該粒子の少なくとも一部は上記液体油脂および上記疎水性固形分で被覆されている。
1つの実施形態では、上記粉粒体および該粉粒体に含まれる上記炭酸水素ナトリウム0.9259g当たり2.0741gに相当する比率のL-酒石酸水素カリウムからなる試料3.0gを、予め液面が調整された置換溶液を含むガスビュレットが接続された容器中の20℃に調温された蒸留水100mLに撹拌下で添加した際、添加開始から60秒経過までの該ガスビュレットの該液面の変化量が5mL~90mLである。
1つの実施形態では、本発明の粉粒体はアモルファスな表面を有し、該表面に襞状の模様が形成されている。
本発明はまた、粉粒体の製造方法であって、全体質量を基準として、0.02質量%~2.0質量%の液体油脂と、1.0質量%~24.5質量%の疎水性固形分と、73.5質量%~98.98質量%の炭酸水素ナトリウムとを0℃~40℃で混合する工程を含む、方法である。
1つの実施形態では、上記混合工程は、上記炭酸水素ナトリウムの粒子に、上記液体油脂および上記疎水性固形分を流動コーティングすることにより行われる。
本発明はまた、上記粉粒体を含有するガス発生剤である。
1つの実施形態では、本発明のガス発生剤は膨張剤として用いられる。
本発明はまた、上記粉粒体を含有する食感改良剤である。
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、畜肉加工食品の製造のために用いられる。
本発明によれば、炭酸水素ナトリウム単独と比較して炭酸ガスを緩やかに発生させ、かつ仮に比較的長期に亘る保管を行っても発生する炭酸ガス量の低下を防止することができる。膨張剤として酸性剤と混ぜ合わせた場合でも、当該粉粒体は炭酸ガスを緩やかに発生させ、かつ比較的長期に亘る保管を行っても発生する炭酸ガス量の低下を防止することができる。また、畜肉加工食品の製造に利用すると、例えば、共存する肉粒を適度にほぐしかつ弾力を高めることができる点で、当該畜肉加工食品に対して良好な食感を提供することができる。
実施例1~7で得られた粉粒体(E1)~(E7)および比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)のガスビュレット法によるガス安定性試験の結果を示すグラフである。 実施例2、3、6および7で得られた粉粒体(E2)、(E3)、(E6)および(E7)および比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)を用いて作製したミックス粉(ME2)、(ME3)、(ME6)および(ME7)および比較例1~3で得られた粉粒体(MC1)~(MC3)のガスビュレット法によるガス安定性試験の結果を示すグラフである。 実施例1~3および6で得られた粉粒体(E1)~(E3)および(E6)ならびに比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)を用いた、水溶液中のpHの変化を示すグラフである。 (a)は実施例1で得られた粉粒体(E1)の表面状態をデジタルマイクロスコープで観察して得られる画像を表す写真であり、(b)はその表面の一部分を拡大した図である。 (a)は比較例1で得られた粉粒体(C1)の表面状態をデジタルマイクロスコープで観察して得られる画像を表す写真であり、(b)はその表面の一部分を拡大した図である。 (a)は比較例2で得られた粉粒体(C2)の表面状態をデジタルマイクロスコープで観察して得られる画像を表す写真であり、(b)はその表面の一部分を拡大した図である。
(粉粒体)
本発明の粉粒体は、液体油脂、疎水性固形分および炭酸水素ナトリウムを含む。
本明細書に用いる用語「液体油脂」とは、常温(15℃~25℃)においてそれ単独で液体状態を示す(すなわち、材料単体としては常温で液体状態を示す)油脂全般を包含していい、例えば本発明の粉粒体中で存在するように、他の成分と混合された状態で存在する場合には必ずしも液体の形態を有していないものであってもよい。
このような液体油脂としては、例えば植物性脂肪油、動物性脂肪油、およびそれらの組み合わせが挙げられる。植物性脂肪油としては、例えば、ひまわり油、大豆油、綿実油、サラダ油、コーン油、オリーブ油、パーム核油、サフラワー油、菜種油、米油、紅花油、ゴマ油、カポック油、ヤシ油、ヒマシ油、アマニ油、エゴマ油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、ヘーゼルナッツオイル、マスタードオイル、レタス油、アケビ油およびブドウ油、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。動物性脂肪油としては、例えば、魚油(例えば、鯨油、鮫油および肝油)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
あるいは、液体油脂は、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、および飽和脂肪酸、ならびにそれらの組み合わせを含むものであってもよい。多価不飽和脂肪酸の例としては、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのω3(n-3)系脂肪酸;およびリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸などのω6(n-6)系脂肪酸;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。一価不飽和脂肪酸の例としては、オレイン酸、パルミトレイン酸などのω9(n-9)計脂肪酸が挙げられる。飽和脂肪酸の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
液体油脂はまた、脂質酸化が進行しにくいという理由からC~C12の脂肪酸鎖を有するトリアシルグリセロールを含有することが好ましい。当該トリアシルグリセロールとしては、例えば、カプリル酸(C)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)などの脂肪酸とグリセリンとのエステルである、中鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。なお、グリセリンには、エステル結合に寄与し得るヒドロキシル基が3つあるため、脂肪酸の種類および結合部位によって種々のアシルグリセロールが存在することになる。本発明におけるC~C12の脂肪酸鎖を有するトリアシルグリセロールは、この脂肪酸の結合部位を限定するものではない。上記トリアシルグリセロールが、このような脂肪酸鎖を有することにより、後述の炭酸水素ナトリウムの粒子に対して柔軟性や付着性が高められ、かつ剥がれ難い被膜を形成することができる。
本発明において、液体油脂は長期保管による脂質酸化が進行し難いという理由から、C~C12の中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましい。
本発明の粉粒体において、液体油脂の含有量は、粉粒体の全体質量を基準として0.02質量%~2.0質量%、好ましくは0.1質量%~1.2質量%%、より好ましくは0.2質量%~1.0質量%である。液体油脂の含有量が0.02質量%を下回ると、被膜を形成しないか、あるいは被膜を形成しても剥がれ易くなるおそれがある。液体油脂の含有量が1.5質量%を上回ると、粉粒体の表面の付着性が増し、流動性が失われるおそれがある。
疎水性固形分は、常温(15℃~25℃)においてそれ単独で固体状態を示す疎水性の材料であり、例えば、固形油脂、乳化剤および長鎖脂肪酸金属塩、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
疎水性固形分を構成し得る固形油脂としては、例えばカカオバター、ピーナッツバター、パーム油、硬化油などの植物性固形脂肪;およびラード、牛脂、鶏油、羊油、馬油、兎油、乳脂などの動物性固形脂肪;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
疎水性固形分を構成し得る乳化剤としては、例えば、食品分野において一般に使用され得るものが挙げられ、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水性親油性バランス)値が好ましくは10以下、より好ましくは1~10、さらに好ましくは2~5を有するものである。このような乳化剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のモノエステル(「モノグリセリド」ともいう)にさらに有機酸がエステル結合したものいう(「有機酸モノグリセリド」ともいう)。構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸が好ましい。構成する脂肪酸として、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)および不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)が挙げられ、好ましくは炭素数16~22の不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルシン酸など)が挙げられる。より好ましくはオレイン酸である。有機酸モノグリセリドとしては、特に限定されないが、例えば、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリドなどが挙げられる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、例えば重合度が2~10のポリグリセリンと所定の脂肪酸とがエステル結合したものをいう。ポリグリセリンの重合度は、例えば4~10である。構成する脂肪酸は飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸であり、飽和脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸は食用可能な動植物油脂を起源とするものであることがさらに好ましい。当該脂肪酸としては、例えば、炭素数6~24の飽和脂肪酸(例えば、プロン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)、炭素数6~24の不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)が挙げられる。HLB値は、例えば1~10、好ましくは2~5である。
疎水性固形分を構成し得る長鎖脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸(C18)およびパルチミン酸(C16)を主成分とする高級脂肪酸のアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)およびアルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩)が挙げられる。本発明においては、疎水性固形分は、食品添加物公定書または日本薬局方に記載の基準を満たすものであることが好ましい。このような観点から、長鎖脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウムを含有することが好ましく、ステアリン酸カルシウムであることがさらに好ましい。
本発明の粉粒体において、疎水性固形分の含有量は、粉粒体の全体質量を基準として1.0質量%~24.5質量%、好ましくは4質量%~17.5質量%、より好ましくは5.0質量%~10.0質量%である。疎水性固形分の含有量が1.0質量%を下回ると、粉粒体中での炭酸水素ナトリウムに対する被覆の形成が不十分となり、長期保管による炭酸ガス量の低下防止、粉粒体からの炭酸ガスの緩やかな発生などの本発明に期待される所望の機能が得られないおそれがある。疎水性固形分の含有量が24.5質量%を上回ると、最終食品の食感や味覚に所望でない影響を及ぼすおそれがある。
炭酸水素ナトリウムは、加熱によって二酸化炭素を発生する性質を有し、例えば、ベーキングパウダーの代用としての膨張剤や、柑橘類の酸味を中和させるための味覚改良剤、食肉または魚介類などの肉質の改善および麺打ちのための食感改良剤の構成材料として用いられる。本発明の粉粒体において、炭酸水素ナトリウムは核または核粒子として存在し、粉粒体の製造においては、所定の粒子の形態のものが使用される。
このような炭酸水素ナトリウムの粒子は、好ましくは50μm~250μm、より好ましくは80μm~220μmの平均粒子径を有する。炭酸水素ナトリウムの平均粒子径が50μmを下回ると、被膜が炭酸水素ナトリウムにうまく付着せず、剥がれやすくなることがある。炭酸水素ナトリウムの平均粒子径が250μmを上回ると、最終加工食品に炭酸水素ナトリウムの溶け残りを生じ、斑点が生じたり、味覚に影響を及ぼすことがある。
本発明の粉粒体においては、炭酸水素ナトリウムが上記粒子の形態で含有されており、かつ該粒子の少なくとも一部が上記液体油脂および疎水性固形分で被覆されたものであることが好ましい。ここで、炭酸水素ナトリウムの粒子に対して、液体油脂および疎水性固形分はその混合物の形態で、当該粒子の全面が被覆していてもよく、あるいは当該粒子の外表面の一部を露出するように他の外表面を被覆するものであってもよい。この外表面の一部を露出するとは、露出する部分が一定の面積を有するものであってもよく、あるいは細孔のような多数の穴が開いているものであってもよい。
本発明の粉粒体において、炭酸水素ナトリウムの含有量は、粉粒体の全体質量を基準として73.5質量%~98.98質量%、好ましくは80質量%~97質量%%、より好ましくは90質量%~95質量%である。炭酸水素ナトリウムの含有量が73.5質量%を下回ると、液体油脂または疎水性固形分の含量が過剰となり、粉粒体の流動性または最終食品の食感や味覚に所望でない影響を及ぼすおそれがある。炭酸水素ナトリウムの含有量が98.98質量%を上回ると、液体油脂または疎水性固形分の含量が不足し、被覆機能が十分に発揮されず、長期保管による炭酸ガス量の低下防止、粉粒体からの炭酸ガスの緩やかな発生などの本発明に期待される所望の機能が得られないおそれがある。
本発明の粉粒体は、上記液体油脂、疎水性固形分および炭酸水素ナトリウム以外に他の成分を含有していてもよい。
このような他の成分としては、必ずしも限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、プルラン、キサンタンガム、寒天、カードラン、カラギーナン、アラビアガム、グアーガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性の被膜形成材料;アナトー色素、ターメリック色素、カラメル色素、カロチン色素、クチナシ色素、コチニール色素、食用タール系色素、銅クロロフィル、ベニコウジ色素などの着色料;グリセリン、アシルグリセロールなどの可塑剤;チアミン、リボラビン、ピリドキシン、シアノコバラミン、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、アミノ酸、ラクトフェリン、クエン酸、L-カルニチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、プロポリス、α-リポ酸、CoQ10、植物抽出物などの生理活性物質;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
なお、上記他の成分は、例えば、液体油脂および疎水性固形分とともに、炭酸水素ナトリウムの粒子の周りに配置される被覆を構成する成分として本発明の粉粒体の内に含有されている。
本発明の粉粒体における他の成分の含有量は、上記液体油脂、疎水性固形分および炭酸水素ナトリウムによる本発明の効果を阻害しない範囲において適切な量が当業者によって選択され得る。
本発明の粉粒体は、例えば、原料として使用する炭酸水素ナトリウムの粒子と比較して、特徴的な外観を有し、その外観を顕微鏡などの手段を用いて容易に観察かつ認識することができる。このような外観的特徴として本発明の粉粒体は、以下の実施例の開示から明らかなように、アモルファスな表面を有し、その表面には襞状の模様が形成されている。このようなアモルファスな表面かつ襞状の模様は、上記炭酸水素ナトリウムの粒子の周りを上記液体油脂および疎水性固形分の混合物が例えば略均質に被覆することにより形成されているものと考えられる。いずれにせよ、結晶性の表面を有する炭酸水素ナトリウム単独の表面とは明らかに異なる外観であり、当業者が容易に識別することができる。
本発明の粉粒体はまた、所定温度下に晒すことにより炭酸水素ナトリウムの分解を促して、二酸化炭素などのガスを発生させることができる。その際、本発明の粉粒体は当該ガスの発生について特徴的な性質を有する。
まず、本発明の粉粒体は、当該粉粒体および該粉粒体に含まれる炭酸水素ナトリウム0.9259g当たり2.0741gに相当する比率のL-酒石酸水素カリウムからなる試料3.0gを、予め液面が調整された置換溶液を含むガスビュレットが接続された容器中の20℃に調温された蒸留水100mLに撹拌下で添加した際、添加開始から60秒経過までの該ガスビュレットの該液面の変化量が好ましくは5mL~90mL、より好ましくは20mL~70mLであるという性質を有する。
本発明の粉粒体は、ガスの発生が、炭酸水素ナトリウム単独、あるいは炭酸水素ナトリウムに上記液体油脂または疎水性固形分で被覆したものと比較して、ガス(例えば二酸化炭素)の発生を幾分遅延させることができる。こうしたガスの発生の遅延は、本発明の粉粒体を、例えば酸性剤や食品素材と一緒に混合して使用する膨張剤のような用途に使用した場合、食品素材と膨張剤との混合物に水分が加わった直後から膨張するのではなく、所定の加熱時間を経てから膨張を開始することができる。これにより、生地中での安定性が向上するため、生地を作製してから加熱までに長時間要する生産形態をとる加工食品でも安定した品質の製品を得ることができる。また、こうしたガスの発生の遅延により、本発明の粉粒体は長期に亘る品質の変化が少なく、長期間の保管を可能にする。
本発明の粉粒体は、使用する炭酸水素ナトリウムの粒子の平均粒子径や液体油脂および疎水性固形分の使用量にも依存するが、好ましくは80μm~250μm、より好ましくは170μm~220μmの平均粒子径を有する。粉粒体の平均粒子径が80μmを下回ると、粉粒体から発生可能なガスの全体量が少なくなり、膨張剤や食感改良剤等の所定の用途として使用する際により大量の粉粒体を使用する必要があり、得られる加工食品の食感や風味に悪影響を及ぼすことがある。粉粒体の平均粒子径が250μmを上回ると、粉粒体から発生可能なガスの全体量が多すぎて、膨張剤や食感改良剤等の所定の用途のために使用することが困難となることがある。
本発明の粉粒体は、上記液体油脂と疎水性固形分と炭酸水素ナトリウムと、必要に応じて他の成分とを上述したような割合にて、0℃~40℃、好ましくは10℃~30℃で混合することにより製造することができる。ここで、粉粒体の製造のために設定される温度「0℃~40℃」は、必ずしも特別な加熱手段を必要とするものではなく、当該温度範囲を満足する限り、室温などの外部環境温度を利用したものであってもよい。上記成分を、特別な加熱手段を用いることなくそのまま混合することにより、本発明の粉粒体を簡便に製造できる。
こうした混合は、例えば市販の流動コーティング装置内で、炭酸水素ナトリウムの粒子に、上記疎水性固形分および炭酸水素ナトリウムならびに必要に応じて他の成分を任意の順序で投入するか、または予め調製したこれらの混合物を投入することにより行うことができる。流動コーティングに要する時間は特に限定されず、使用する液体油脂、疎水性固形分、炭酸水素ナトリウム、および他の成分の種類や全体量を考慮して当業者が適切な時間を選択することができる。上記流動コーティングが行われた後、生成物は取り出され、必要に応じて粒度の分級が行われてもよい。
このようにして、本発明の粉粒体を製造することができる。
(用途)
本発明の粉粒体は、例えば加工食品の製造のための食品添加物としての用途に使用される。当該用途の例としては、必ずしも限定されないが、膨張剤、食感改良剤などが挙げられる。
本発明の粉粒体を膨張剤として使用する場合、本発明の粉粒体は、単品でもしくは酸性剤と共に当該膨張剤として他の食品素材(原料粉)と一緒に混合することにより使用できる。
膨張剤は、加熱を通じた炭酸ガス(二酸化炭素)などのガスの発生により、例えば、蒸し菓子や焼き菓子、パンをふっくらと膨張させる等の役割を果たす。
他の食品素材として使用され得る原料粉は、通常、糖質を豊富に含有する穀物から得られた粉体である。穀粉の例としては、小麦粉、米粉、大麦粉、ライムギ粉、トウモロコシ粉、稗粉、粟粉などのイネ科穀物粉;大豆粉、緑豆粉、エンドウマメ粉、ヒヨコマメ粉などの豆類粉;蕎麦粉などの擬穀類穀物粉;馬鈴薯粉(片栗粉)、甘藷粉、葛粉、タピオカ粉などのイモ類または根菜類粉;および栗粉、団栗粉などの乾果粉;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明においては、汎用性に優れるという理由から、原料粉として、小麦粉、米粉、および蕎麦粉、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
本発明の粉粒体は、他の膨張剤と混合して使用されてもよい。他の膨張剤の例としては、単一膨張剤(例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)および炭酸水素アンモニウム(重炭安))、一剤式合成膨脹剤、二剤式合成膨脹剤、およびアンモニア系合成膨脹剤が挙げられる。
本発明の粉粒体を食感改良剤として使用する場合、本発明の粉粒体は、当該食感改良剤として他の食品素材(例えば生肉)と一緒に混合することによりそのまま使用できる。
食感改良剤は、加熱を通じた炭酸ガス(二酸化炭素)などのガスの発生により、得られる畜肉加工食品に対して例えばソフトでジューシーな食感や肉粒感を提供するために使用され得る。
他の食品素材として使用され得る生肉の例としては、牛、豚、鶏、羊、馬、および鴨、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明の粉粒体は、例えば、当該粉粒体を含有するピックル液を調製し、これら生肉にインジェクションするか、当該生肉をこのピックル液に浸漬することにより使用され得る。あるいは、これらの生肉のミンチと一緒に混合することにより使用され得る。
本発明の粉粒体を食感改良剤として使用する場合、当該改良剤の使用量は、上記他の食品素材100質量部に対して好ましくは0.1質量部~10質量部、好ましくは0.3質量部~5質量部である。改良剤の量が0.1質量部を下回ると、得られる加工食品に対して当該粉粒体による歩留まり向上効果または食感改良効果を十分に提供することができないことがある。改良剤の量が10質量部を上回ると、ガスの発生量が過剰となり、所望の加工食品を得ることが困難となることあるいは歩留まりが低下すること、または味覚への影響が出ることがある。なお、改良剤として、上記他の膨張剤との組み合わせが用いられる場合、上記粉粒体の量は、発生するガスの量およびアルカリの強度に基づいて、上記改良剤の使用量から他の膨張剤の使用量を差し引いた量に設定される。
本発明の粉粒体を膨張剤または食感改良剤として使用する場合、他の食品素材以外に別の補助的成分が配合されてもよい。
このような別の補助的成分は、加工食品の製造にあたり一般に添加され得るものであれば特に限定されない。当該補助成分の例としては、必ずしも限定されないが、日持ち向上剤、pH調整剤、品質改良剤、食感改良剤、乳化剤、ゲル化剤、保存料、増粘剤、安定剤、甘味料、発色剤、着色料、調味料、酸化防止剤、および加工用助剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。これら他の成分のより具体的な例としては、必ずしも限定されないが、加工デンプン、乾燥卵白、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルコール製剤、かんすい、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、焼成カルシウム、増粘多糖類、乳酸カルシウム、乳化油脂、クチナシ色素、カロチノイド色素、食塩、アスパラギン酸、グリシン、プロピレングリコールなどが挙げられる。補助的成分の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲で当業者により適切に選択され得る。
上記のようにして本発明の粉粒体が加工食品の製造に際して使用され得る。このような加工食品としては、特に限定されないが、例えば、食パン、菓子パンなどのパン類、蒸しケーキ、蒸しパン、中華まんじゅうなどの蒸し物類、ドーナツなどの揚げ菓子類、マフィン類、スポンジケーキ、シュー皮などの焼き菓子類、大福、饅頭などの和菓子類、カスタードクリーム、生クリームなどのフィリング類、天ぷらなどの揚げ物類、お好み焼、たこ焼きなどの惣菜類、はんぺんなどの水産加工品、ハンバーグなどの畜肉加工品が挙げられる。
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1:粉粒体(E1)の作製)
炭酸水素ナトリウム(平均粒子径200μm)93.95質量%、ステアリン酸カルシウム4.0質量%、乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル)2.0質量%、液体油脂(中鎖脂肪酸トリグリセリド)0.05質量%を、乾式流動コーティング装置に仕込み、20℃で10分間混合して、粉粒体(E1)を得た。この粉粒体(E1)を30メッシュの篩にかけることにより、流動性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例2~7および比較例1~3:粉粒体(E2)~(E7)および(C1)~(C3)の作製)
炭酸水素ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、乳化剤および液体油脂を表1に示す含有量に変更したこと以外は実施例1と同様にして粉粒体(E2)~(E7)および(C1)~(C3)を得た。これら粉粒体(E2)~(E7)および(C1)~(C3)の流動性を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
Figure 2022102949000002
表1に示すように、実施例4および5で得られた粉粒体(E4)および(E5)は、他の粉粒体(E1)~(E3)、(E6)、(E7)および(C1)~(C3)と比較して、付着性が増しており、粉粒体自体の流動性に欠けるものであった。しかし、実際の使用には耐え得るものであると判断してそのまま以下の評価にも使用した。
(評価1:ガスビュレット法によるガス安定性試験(1))
実施例1で得られた粉粒体(E1)と、当該粉粒体(E1)に含まれる炭酸水素ナトリウムの含有量0.9259g当たり2.0741gに相当する比率のL-酒石酸水素カリウムを混合した試料を作製した。
一方で、塩化ナトリウム100gを350mLの蒸留水に溶解させ、これに炭酸水素ナトリウム1gを添加し、メチルオレンジ試液を滴下し、その後当該試液がわずかに酸性を示す赤色を呈するまで少量の塩酸を添加することにより置換溶液を調製した。
次いで、外筒管付きガスビュレットおよび水準瓶を上記置換溶液で満たし、かつ当該ガスビュレットの液面と水準瓶の液面との高さが一致するように調節し、この状態でガスビュレットに、ゴム管を介して、20℃に温度調節した蒸留水100mLおよびスターラーバーを含む枝付き丸底フラスコを接続した。その後、スターラーバーを一定速度で撹拌させた状態で、この枝付き丸底フラスコに上記試料3.0gを添加し、試料添加と同時に枝付き丸底フラスコの口をゴム栓で密閉し、添加開始から60秒経過までのガスビュレットの液面の目盛りを10秒毎に読み取った。結果を図1に示す。
上記粉粒体(E1)の代わりに、実施例2~7で得られた粉粒体(E2)~(E7)および比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にしてガスビュレット法によるガス安定性試験を行った。結果を図1に示す。
図1に示すように、実施例1~7で得られた粉粒体(E1)~(E7)は、比較例1~3の粉粒体(C1)~(C3)と比較して、試料の添加開始後60秒間の間でのガス(二酸化炭素とみなすことができる)の発生量は低く抑えられていた。なお、実施例1~7で得られた粉粒体(E1)~(E7)の中では、特に添加後60秒の時点で、実施例7の粉粒体(E7)のガス発生量は5mLで最も低く、実施例5の粉粒体(E5)のガス発生量は77mLで最も高い値を示していた。このことから、実施例1~7で得られた粉粒体(E1)~(E7)は比較例1~3のものと比較して、ガス(二酸化炭素)を急激に放出するものではなく、優れた徐放性を有していることがわかる。
(評価2:ガスビュレット法によるガス安定性試験(2))
実施例2で得られた粉粒体(E2)とフマル酸とを10:6.9の質量比で略均一となるように混合して膨張剤(BE2)を作製した。次いで、薄力粉とグラニュー糖と膨張剤(BE2)とを1:1:1の質量比で略均一となるように混合してミックス粉(ME2)を得、これを微通気性のある袋(株式会社生産日本社製ラミジップLZ)に入れて口を閉じヒートシールをしない状態で40℃、80%RHの恒温恒湿機内で保存した。保存開始直前(初日)ミックス粉と、保存開始後2週間および4週間のミックス粉のガス量を、上記粉粒体(E1)の代わりに、これらのミックス粉(ME2)を用いたこと以外は、上記評価1と同様にしてガスビュレット法によるガス安定性試験を行った。得られた測定値について、「初日」のガス量を100容量%とした際のガス量(容量%)に換算した。結果を図2に示す。
一方、上記粉粒体(E2)の代わりに、実施例3、6および7で得られた粉粒体(E3)、(E6)および(E7)をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、ミックス粉(ME3)、(ME6)および(ME7)を得た。また、上記粉粒体(E2)の代わりに、比較例1~3の粉粒体(C1)~(C3)をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、ミックス粉(MC1)~(MC3)を得た。
上記ミックス粉(ME2)の代わりに、これらのミックス粉(ME3)、(ME6)および(ME7)、ならびに(MC1)~(MC3)をそれぞれ用いたこと以外は上記評価1と同様にしてガスビュレット法によるガス安定性試験を行った。結果を図2に示す。
図2に示すように、比較例1~3の粉粒体(C1)~(C3)を用いたミックス粉(MC1)~(MC3)はいずれも保存開始後2週間でガスの発生量が大きく落ち込み、保存開始後4週間でガスの発生量は初日より、30%~40%低下していた。これに対し、実施例2、3、6および7で得られた粉粒体(E2)、(E3)、(E6)および(E7)を用いたミックス粉(ME2)、(ME3)、(ME6)および(ME7)では、保存開始後4週間を経過しても、比較例1~3のもの程ものガス量の低下は見られず、優れた安定性を有していた。
(評価3:水溶液中のpH変化(1))
実施例1で得られた粉粒体(E1)1.0gをイオン交換水99.0gに添加し、これを20℃で2分間撹拌した。撹拌中の水溶液のpHを添加後10秒毎に測定した。結果を図3に示す。
上記粉粒体(E1)の代わりに、実施例2、3および6で得られた粉粒体(E2)、(E3)および(E6)、ならびに比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして水溶液中のpHの変化を測定した。結果を図3に示す。
図3に示すように、実施例1~3および6で得られた粉粒体(E1)~(E3)および(E6)は、比較例1~3の粉粒体(C1)~(C3)と比較して常温の溶液中で時間の経過とともに緩やかなpHの上昇を示していた。このことから、実施例1~3および6で得られた粉粒体(E1)~(E3)および(E6)は、水への溶解が緩やかな性質を有するものであったことがわかる。
(評価4:85℃溶解後の水溶液中のpH)
実施例1で得られた粉粒体(E1)1.0gを、85℃に温度調節したイオン交換水99.0gに添加し、3分間撹拌し、その後急冷した。溶液の温度が20℃に到達した際の水溶液中のpHを測定した。結果を表2に示す。
上記粉粒体(E1)の代わりに、実施例2、3および6で得られた粉粒体(E2)、(E3)および(E6)、ならびに比較例1~3で得られた粉粒体(C1)~(C3)をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして急冷後20℃に到達した際の水溶液中のpHを測定した。結果を表2に示す。
Figure 2022102949000003
表2に示すように、上記実施例と比較例の各粉粒体の相違によって急冷した後の水溶液中のpHに差異を確認できなかった。これは、粉粒体は85℃に晒されたことにより、炭酸水素ナトリウムを被覆する、ステアリン酸カルシウム、乳化剤および液体油脂で構成される被膜が剥離したことにより、いずれの粉粒体からも核粒子である炭酸水素ナトリウムの溶解が進んだためと考えられる。
(評価5:粉粒体の表面状態)
実施例1で得られた粉粒体(E1)、比較例1の粉粒体(C1)および比較例2の粉粒体(C2)のそれぞれの表面状態をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ VHX-7000)で観察した。実施例1で得られた粉粒体(E1)の表面状態を図4に示し、比較例1の粉粒体(C1)の表状態を図5に示し、比較例2の粉粒体(C2)の表面状態を図6に示す。
図4~図6の対比から明らかなように、比較例1の粉粒体(C1)(炭酸水素ナトリウムの粒子)は結晶の形態でなる表面を有していた(図6の(a)および(b))のに対し、実施例1で得られた粉粒体(E1)では、アモルファスな表面状態を有しており、その表面には襞状の模様(図4の(b))が多数形成されていたことがわかる。一方、比較例2の粉粒体(C2)(炭酸水素ナトリウムをステアリン酸カルシウムおよび乳化剤のみの被膜で被覆し、当該被膜に液体油脂を含有させていないもの)では、比較例1の粉粒体(C1)のような結晶性の表面は観察されず、かつ実施例1で得られた粉粒体(E1)で観察されたような襞状の模様が形成されていなかった。比較例2の粉粒体(C2)の表面は、むしろ流動コーティングの際に粒子同士の衝突によって生じたと考えられる小さな欠損の孔が観察され(図5の(b))、図6の(b)で示すようなものとは異なる表面を有していたことがわかる。
(比較例4:粉粒体(C4)の作製)
炭酸水素ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、乳化剤および液体油脂を表3に示す含有量に変更し、新たに炭酸ナトリウムを追加したこと以外は実施例1と同様にして粉粒体(C4)を得た。
Figure 2022102949000004
(実施例8および9、ならびに比較例5~10:ハンバーグにおける食感改良効果の確認試験)
実施例1および2で得られた粉粒体(E1)および(E2)、ならびに比較例1~4で得られた粉粒体(C1)~(C4)を用いて、または当該粉粒体を含有させることなく、表4に示す原材料を用いてハンバーグのタネを作製した。
Figure 2022102949000005
上記で作製したハンバーグのタネを50gずつ俵型に成型し、85℃にて30分間蒸成し、放冷することによりハンバーグを作製した。ハンバーグのタネ、および作製したハンバーグについて、以下の評価を行った:
(ハンバーグのタネを含む10質量%懸濁液のpH)
各実施例および比較例で得られたハンバーグのタネを10質量%の濃度となるように蒸留水に添加し、得られた懸濁液のpH(以下「ハンバーグ10%pH」と省略していう)を測定した。結果を表5に示す。
(歩留まり評価)
各実施例および比較例で得られたハンバーグについて、ハンバーグ原料と粉粒体との総質量に対する加熱後のハンバーグの質量を算出して百分率で表した。結果を表5に示す。
(ジューシー感の評価)
各実施例および比較例で得られたハンバーグについて、専門家10名が実際に喫食して得たジューシー感を協議して以下の基準で判断した。結果を表5に示す。
1点:パサつきが目立ち、ジューシー感がない。
2点:ややパサつき、ジューシー感があまりない。
3点:ジューシー感が「ある/ない」のどちらともいえない。
4点:肉汁が少し出て、ジューシー感がある。
5点:肉汁があふれ出て、非常にジューシー感がある。
(弾力感の評価)
各実施例および比較例で得られたハンバーグについて、専門家10名が実際に喫食して得た弾力感を協議して以下の基準で判断した。結果を表5に示す。
1点:非常に弾力感が弱かった。
2点:やや弾力感が弱かった。
3点:弾力感が「ある/ない」のどちらともいえない。
4点:やや弾力感があった。
5点:強い弾力感があった。
(肉粒感の評価)
各実施例および比較例で得られたハンバーグについて、専門家10名が実際に喫食して得た肉粒感を協議して以下の基準で判断した。結果を表5に示す。
1点:ペーストの様な均一な口当たりであり、肉粒感がない。
2点:ややペースト様の口当たりで肉粒感がない。
3点:肉粒感が「ある/ない」のどちらともいえない。
4点:やや肉粒感がある。
5点:強く肉粒感がある。
(その他評価)
各実施例および比較例で得られたハンバーグについて、専門家10名が実際に喫食して得たその他の感想を協議して整理した。結果を表5に示す。
Figure 2022102949000006
表5に示すように、比較例5のハンバーグ(粉粒体なし)は、歩留りが低く、パサついてペーストのような食感であった。比較例6~8のハンバーグは、いずれもジューシー感が向上したものの、食感がソフトであり、肉らしい弾力感を感じることができなかった。比較例9および10のハンバーグでは、弾力感が向上したものの、肉同士の結着感が強く感じられ、ハンバーグというよりもむしろソーセージの様な食感であった。
これに対し、実施例8および9のハンバーグでは、ジューシー感および弾力感の両方が向上し、肉同士が程よく口の中でほぐれ、良好な肉粒感が得られた。このことから、実施例1および2で作製した粉粒体(E1)および(E2)は、畜肉加工食品において優れた食感改良剤として機能し得ることがわかる。
本発明は、例えば、加工食品の製造ならびに食品添加剤の製造の分野において有用である。

Claims (14)

  1. 全体質量を基準として、0.02質量%~2.0質量%の液体油脂と、1.0質量%~24.5質量%の疎水性固形分と、73.5質量%~98.98質量%の炭酸水素ナトリウムとを含む、粉粒体。
  2. 前記液体油脂が、植物性脂肪油および動物性脂肪油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である、請求項1に記載の粉粒体。
  3. 前記液体油脂がC~C12の脂肪酸鎖を有するトリアシルグリセロールを含有する、請求項1または2に記載の粉粒体。
  4. 前記疎水性固形分が、固形油脂、乳化剤および長鎖脂肪酸金属塩からなる群か選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1から3のいずれかに記載の粉粒体。
  5. 前記疎水性固形分が、前記長鎖脂肪酸金属塩としてステアリン酸カルシウムを含有する、請求項4に記載の粉粒体。
  6. 前記炭酸水素ナトリウムが粒子の形態で含有されており、そして該粒子の少なくとも一部が前記液体油脂および前記疎水性固形分で被覆されている、請求項1から5のいずれかに記載の粉粒体。
  7. 前記粉粒体および該粉粒体に含まれる前記炭酸水素ナトリウム0.9259g当たり2.0741gに相当する比率のL-酒石酸水素カリウムからなる試料3.0gを、予め液面が調整された置換溶液を含むガスビュレットが接続された容器中の20℃に調温された蒸留水100mLに撹拌下で添加した際、添加開始から60秒経過までの該ガスビュレットの該液面の変化量が5mL~90mLである、請求項1から6のいずれかに記載の粉粒体。
  8. アモルファスな表面を有し、該表面に襞状の模様が形成されている、請求項1から7のいずれかに記載の粉粒体。
  9. 粉粒体の製造方法であって、全体質量を基準として、0.02質量%~2.0質量%の液体油脂と、1.0質量%~24.5質量%の疎水性固形分と、73.5質量%~98.98質量%の炭酸水素ナトリウムとを0℃~40℃で混合する工程を含む、方法。
  10. 前記混合工程が、前記炭酸水素ナトリウムの粒子に、前記液体油脂および前記疎水性固形分を流動コーティングすることにより行われる、請求項9に記載の方法。
  11. 請求項1~7のいずれかに記載の粉粒体を含有する、ガス発生剤。
  12. 膨張剤として用いられる、請求項11に記載のガス発生剤。
  13. 請求項1~7のいずれかに記載の粉粒体を含有する、食感改良剤。
  14. 畜肉加工食品の製造のために用いられる、請求項13に記載の食感改良剤。
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