JP2022098980A - 金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント - Google Patents

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智貴 酒井
Tomoki Sakai
隆 片山
Takashi Katayama
一正 楠戸
Kazumasa Kusudo
照夫 堀
Teruo Hori
和正 廣垣
Kazumasa Hirogaki
功 田畑
Isao Tabata
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Abstract

【課題】耐屈曲疲労性に優れた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供する。【解決手段】液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、厚さ0.1~20μmの金属が被覆された金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなる金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、ICP発光分析法により得られるPd含有量は被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量に対して0.33質量%以上であり、マイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力は15N/mm2以上である、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。【選択図】なし

Description

本発明は、電線や電磁波シールド用途等において、導電部材として使用できる金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法に関する。
従来、電線や電磁波シールド材として金属線が用いられてきたが、近年、軽量化、低コスト化のために有機繊維に金属を被覆させた導電性繊維材料の研究開発が進められている。特に導電性や強度が高い導電性繊維として、ポリアリレート繊維等の高強力繊維に金属が被覆された金属被覆繊維が検討されている(例えば特許文献1)。このような金属被覆繊維は、一般に、水系においてパラジウム錯体等の触媒を付与後、無電解めっきすることにより得られる。
一方、有機パラジウム錯体を含む超臨界流体中でポリアリレート繊維を接触させることで触媒を繊維に付与し、無電解めっきする方法も知られている。例えば、特許文献2には、ポリアリレート繊維等に脂肪酸系の界面活性剤を添加後、有機パラジウム錯体を含む超臨界二酸化炭素に接触させ、めっき処理して得られた金属被覆繊維が開示されている。
特開2011-231382号公報 特開2012-144762号公報
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び2のようなポリアリレート繊維をめっきした金属被覆繊維は、金属と繊維との密着性が低いため、耐屈曲疲労性が十分でなく、繰り返し屈曲させると抵抗が大きく変化する場合があることがわかった。
従って、本発明の目的は、耐屈曲疲労性に優れた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいて、ICP発光分析法により得られるPd含有量を0.33質量%以上に調整し、かつ被覆金属の界面接着強力を15N/mm以上に調整すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
[1]液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、厚さ0.1~20μmの金属が被覆された金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなる金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、ICP発光分析法により得られるPd含有量は被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量に対して0.33質量%以上であり、マイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力は15N/mm以上である、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
[2]引張強度は、16cN/dtex以上である、[1]に記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
[3]前記金属は、銅、銀、金、鉄、亜鉛、鉛、パラジウム、ニッケル、クロム及び錫からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]又は[2]に記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
[4]液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面に界面活性剤を塗布する工程(1);工程(1)で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに、Pd錯体が溶解した高圧二酸化炭素流体を接触させる工程(2);並びに工程(2)で得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに金属を被覆する工程(3)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
[5]前記界面活性剤は、ハロゲン原子及び窒素原子含有カチオン性界面活性剤を含む、[4]に記載の方法。
[6]前記界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに、高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率は10質量%以上である、[4]又は[5]に記載の方法。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、耐屈曲疲労性に優れている。そのため、電線や電磁波シールド用途等において、導電部材として好適に使用できる。
本発明の一実施態様にかかる超臨界処理装置の概略図である。
[金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント]
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、厚さ0.1~20μmの金属が被覆された金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなり、ICP発光分析法により得られるPd含有量(繊維全体のPd含有量ということがある)が被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量に対して0.33質量%以上であり、マイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力(単に界面接着強力ということがある)が15N/mm以上である。
本発明者らは、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいて、繊維全体のPd含有量を0.33質量%以上、及び被覆金属の界面接着強力を15N/mm以上に調整すれば、意外なことに、金属被覆繊維の耐屈曲疲労性が向上し、繰り返し屈曲させることによる抵抗値の変化を有効に抑制できることを見出した。これは、十分な量の被覆金属が繊維表面だけでなく、繊維内部にも存在しているため、被覆金属と繊維との密着性を向上でき、屈曲時の被覆金属の脱離を有効に抑制し得るからだと推定される。
なお、本明細書において、「フィラメント」を「繊維」、「モノフィラメント」を「単繊維」、「被覆」を「めっき」、「液晶ポリエステルマルチフィラメント」を単に「マルチフィラメント」、「液晶ポリエステルモノフィラメント」を単に「モノフィラメント」ということがあり、「液晶ポリエステルマルチフィラメント」及び「液晶ポリエステルモノフィラメント」を総称して「液晶ポリエステル繊維」ということがある。
<液晶ポリエステルモノフィラメント>
高強度な液晶ポリエステル繊維は、例えば、液晶ポリエステルを溶融紡糸し、さらに紡糸原糸を固相重合することにより製造できる。液晶ポリエステルマルチフィラメントは、液晶ポリエステルモノフィラメントが2本以上集まった繊維である。
液晶ポリエステルは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示すポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で加熱し、試料の透過光を偏光顕微鏡で観察することにより認定できる。また、液晶ポリエステルは、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、前記構成単位は、その化学的構成について特に限定されない。さらに、また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでもよい。
例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
Figure 2022098980000001
ここで、Yは、1~芳香族環において置換可能な最大数の範囲の個数存在し、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)及びアラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)などからなる群から選択される。
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3及び表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示し得る構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
Figure 2022098980000002
Figure 2022098980000003
Figure 2022098980000004
表2、3及び4の構成単位において、nは1又は2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独で又は組み合わせて存在してもよく、;Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等であってよい。これらのうち、好ましいYとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子又はメチル基が挙げられる。
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
Figure 2022098980000005
好ましい液晶ポリエステルは、好ましくは、二種以上のナフタレン骨格を構成単位として有する。特に好ましくは、液晶ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)及びヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含む。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上しやすい観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってよい。
Figure 2022098980000006
Figure 2022098980000007
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶ポリエステルが好ましい。
本発明で好適に用いられる液晶ポリエステルの融点は、好ましくは250~360℃、より好ましくは260~320℃である。ここで、融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとしての窒素を100cc/分で流通させ、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、50℃/分の昇温速度で予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間保持し、完全に溶融した後、-80℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
なお、前記液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、及びフッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料、顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を添加してもよい。
前記液晶ポリエステルの溶融紡糸により得られる液晶ポリエステル繊維において、液晶ポリエステルモノフィラメントの繊度は、好ましくは1.5dtex以上、より好ましくは2.5dtex以上、さらに好ましくは5.0dtex以上であり、好ましくは100dtex以下、より好ましくは50dtex以下である。液晶ポリエステルモノフィラメントの繊度が上記の下限以上であると、被覆金属が繊維内部に侵入しやすいため、耐屈曲疲労性を高めやすい。また、液晶ポリエステルモノフィラメントの繊度が上記の上限以下であると、溶融紡糸直後の固化効率、固相重合速度が高まりやすい。
<金属>
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、厚さ0.1~20μmの金属が被覆されているものである。なお、本明細書において、金属には後述する金属だけでなく、後述する金属を用いた導電性の金属酸化物や金属窒化物も含まれる。
金属は、特に限定されないが、例えば、銅、銀、金、鉄、亜鉛、鉛、パラジウム、ニッケル、クロム、錫、チタン、アルミニウム、インジウム及びバナジウムからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、銅、銀、金、鉄、亜鉛、鉛、パラジウム、ニッケル、クロム及び錫からなる群から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、銅、銀、金、鉄及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1つを含むことがさらに好ましい。これらの金属を含むと、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの導電性及び耐屈曲疲労性を向上しやすい。これらの金属は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に被覆されている金属の厚さは、0.1~20μmであり、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。金属の厚さが上記の下限以上であると、導電性が高まり初期抵抗値を低減しやすく、また上記の上限以下であると、耐屈曲疲労性を向上しやすい。なお、被覆金属の厚さはX線CTによる断面観察により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
<金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント>
金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、前記液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、前記金属が被覆された金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなる。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、ICP発光分析法により得られるPd含有量が被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量に対して0.33質量%以上であり、かつマイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力が15N/mm以上であるため、優れた耐屈曲疲労性を有することができる。そのため、電線や電磁波シールド用途等において、導電部材として好適に使用できる。
本発明において、ICP発光分析法により得られるPd含有量(繊維全体のPd含有量ともいう)は、被覆金属を除く金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量を基準とするPd原子(パラジウム原子)の含有量であり、被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量とは、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量から被覆金属の質量を差し引いた質量を意味する。具体的に繊維全体のPd含有量の算出方法は、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量を測定後、ICP発光分析法により、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントに含まれるPd含有量(質量%)及び金属含有量(質量%)を測定し、これらを用いて、被覆金属を除く金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量(100質量%)に対するPd含有量(質量%)を算出する方法が好ましく、例えば実施例に記載の方法により算出できる。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維全体のPd含有量は0.33質量%以上である。繊維全体のPd含有量が0.33質量%未満であると、金属めっき時のPd触媒量が不十分であり得るため、めっき金属と繊維との屈曲時の密着性が低くなりやすく、得られる金属被覆繊維の耐屈曲疲労性が十分でない傾向がある。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維全体のPd含有量は、好ましくは0.34質量%以上、より好ましくは0.36質量%以上、さらに好ましくは0.38質量%以上、さらにより好ましくは0.40質量%以上、特に好ましくは0.45質量%以上である。繊維全体のPd含有量が上記の下限以上であると、金属めっき時に有効量のPd触媒が寄与し得るため、金属被覆繊維の耐屈曲疲労性をより向上しやすい。本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維全体のPd含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。繊維全体のPd含有量が上記の上限以下であると、高価なパラジウムの使用量を低減でき、更に繊維中に添加された過剰なパラジウムによる繊維強度の低下を防止しやすい。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいて、マイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力は15N/mm以上である。被覆金属の界面接着強力が15N/mm未満であると、耐屈曲疲労性が十分でなく、繰り返し屈曲させると抵抗値が大きく増加する傾向がある。
本発明では、被覆金属が繊維表面を被覆するだけでなく、該金属の一部が繊維内部にも侵入しているため、屈曲時における被覆金属と繊維との密着性が高く、十分な耐屈曲疲労性を発現できる。なお、界面接着強力は、液晶ポリエステルマルチフィラメンの種類や繊度を適宜変更すること;金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの好適な製造方法を使用すること等により調整してよく、例えば、工程(1)において塗布する界面活性剤の種類や量;工程(2)において接触させるPd触媒の種類や量などを適宜調整することにより、本発明の上記範囲に調整してよい。
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの界面接着強力は、好ましくは16N/mm以上、より好ましくは18N/mm以上、さらに好ましくは20N/mm以上、特に好ましくは22N/mm以上である。界面接着強力が上記の下限以上であると、耐屈曲疲労性を向上しやすい。金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの界面接着強力は、好ましくは100N/mm以下、より好ましくは50N/mm以下である。界面接着強力(N/mm)は、マイクロドロップレッド法により測定でき、より詳細には、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面上に樹脂球体を作製後、該球体を万能試験機で引き剥がし、その際の最大点の応力(N)をSEM(走査型電子顕微鏡)で計測した被覆面積で割ることにより算出できる。例えば、実施例に記載の方法により算出できる。
本発明の一実施態様において、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度は、好ましくは16cN/dtex以上、より好ましくは18cN/dtex以上、さらに好ましくは21cN/dtex以上である。引張強度が上記の下限以上であると、機械的強度を高めやすい。金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度の上限は、好ましくは35cN/dtex以下、より好ましくは30cN/dtex以下である。引張強度が上記の上限以下であると、耐屈曲疲労性と引張強度を維持した状態で柔軟性を保持しやすい。引張強度は、卓上形精密万能試験機を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、めっき後のマルチフィラメントの引張強度は、めっき前のマルチフィラメントの引張強度が支配的になるため、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度は、めっき前の液晶ポリエステルマルチフィラメントを用いて測定した数値を用いてよい。
本明細書において、耐屈曲疲労性とは、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを繰り返し屈曲させても、抵抗値が変化しにくい特性を示し、例えば、屈曲疲労試験前の抵抗値に対する屈曲疲労試験後の抵抗値の割合である比抵抗値により評価できる。該比抵抗値は以下の方法で測定できる。まず、抵抗値測定機を用いて、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの初期抵抗値を測定する。次いで、屈曲疲労試験機を用いて、屈曲時の屈曲径R:2.5mm、屈曲角度:120°、屈曲速度:60rpm、荷重:100g、屈曲回数:10000回の条件で、該金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを屈曲させ、再度抵抗値を測定し、下記の式に代入することで算出できる。例えば、比抵抗値は実施例に記載の方法により算出してもよい。
比抵抗値=(屈曲疲労試験後の抵抗値)/(屈曲疲労試験前の初期抵抗値)
本発明の一実施態様では、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの10000回屈曲後の比抵抗値は好ましくは10以下であり、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下、さらにより好ましくは5.0以下、特に好ましくは4.0以下である。比抵抗値が上記の上限以下であると、優れた耐屈疲労性及び屈曲後の高い導電性を発現しやすい。比抵抗値の下限は通常0以上である。
本発明の一実施態様では、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの初期抵抗値は、好ましくは0.01Ω/10cm以上、より好ましくは0.1Ω/10cm以上、さらに好ましくは0.5Ω/10cm以上であり、好ましくは10Ω/10cm以下、より好ましくは5Ω/10cm以下、さらに好ましくは3Ω/10cm以下である。初期抵抗値が上記範囲であると、導電性を高めやすい。
金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントにおける液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、特に限定されないが、好ましくは10dtex以上、より好ましくは50dtex以上、さらに好ましくは100dtex以上、特に好ましくは200dtex以上であり、好ましくは10,000dtex以下、より好ましくは5,000dtex以下、さらに好ましくは3,000dtex以下、特に好ましくは2,000dtex以下である。また、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント中の金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントの本数は、好ましくは3本以上、より好ましくは5本以上であり、好ましくは1000本以下、より好ましくは500本以下である。金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントにおける液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度及び金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントの本数が上記範囲であると、耐屈曲疲労性、軽量性及び強度を高めやすい。
金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、無撚であっても甘撚りがかけられていてもよく、抵抗値を安定化する観点から、甘撚りがかけられていることが好ましい。さらに、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを開繊処理及び/又は平滑化処理に付してもよい。このような開繊処理及び/又は平滑化処理を行ったマルチフィラメントを用いて例えば織物を作製することにより、織物を薄くできる。
金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの形態は、特に限定されず、例えば、UD(Unidirectional)、不織布、織物、編物、組紐、又は混繊糸の状態であってもよい。
[金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法]
本発明の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法は、特に限定されないが、以下の工程;
前記液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面に界面活性剤を塗布する工程(1);工程(1)で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに、Pd錯体が溶解した高圧二酸化炭素流体を接触させる工程(2);並びに工程(2)で得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに金属を被覆する工程(3)を含む方法が好ましい。なお、本明細書において、工程(1)で得られる中間体である界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントを界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)と称し、工程(2)で得られる中間体であるPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメントをPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)と称する。
<工程(1)>
工程(1)は、前記液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面に界面活性剤を塗布する工程である。繊維原料として用いる前記液晶ポリエステルマルチフィラメントは、固相重合した液晶ポリエステルマルチフィラメントであってよい。固相重合に供することで、得られる金属被覆繊維の強度や弾性率を向上できる。固相重合時の熱処理温度は好ましくは200~350℃であり、固相重合の時間は好ましくは30分~30時間であり、窒素等の不活性雰囲気中又は空気のような酸素含有活性雰囲気中又は減圧下で行うことが可能である。
工程(1)において、塗布する界面活性剤としては、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、カチオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。工程(1)において液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面に界面活性剤、好ましくはカチオン性界面活性剤を塗布しておくことにより、超臨界処理を行っても、繊維表面に界面活性剤が残存しやすく、かつPd錯体が還元されにくいため、工程(2)において界面活性剤中にPd錯体を連続して導入(又は溶解)でき、液晶ポリエステルマルチフィラメント表面のPd含有量を増加させやすい。さらに、アンカー効果を発現させやすいため、繊維内部にPd錯体の一部を侵入させることができる。これにより、繊維の表面及び内部に十分なめっき金属を存在させやすく、金属被覆繊維の密着性及び耐屈曲疲労性を向上させやすい。
カチオン性界面活性剤としては、例えばヘキサデシルピリジニウムクロリド、ベンジルコニウムクロリド、オクタデシルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、モノメチルアミン塩酸塩、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド等の窒素原子含有カチオン性界面活性剤などが挙げられ、金属被覆繊維の密着性及び耐屈曲疲労性を高めやすい観点から、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ベンジルコニウムクロリド等の環状構造(特に複素環又は芳香環)を有する窒素原子含有カチオン性界面活性剤が好ましい。
本発明の好適な一実施態様では、金属被覆繊維の密着性及び耐屈曲疲労性をより高めやすい観点から、カチオン性界面活性剤として、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ベンジルコニウムクロリド等のハロゲン原子及び窒素原子含有カチオン性界面活性剤が好ましく、ハロゲン原子及び環状構造を有する窒素原子含有カチオン性界面活性剤がより好ましい。前記ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子である。前記複素環としては、例えばピリジン環等が挙げられ、前記芳香環としては、例えばベンゼン環等が挙げられる。また、前記窒素原子含有カチオン性界面活性剤は、第4級アンモニウムカチオンであることが好ましい。カチオン性界面活性剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
工程(1)において、界面活性剤以外の添加剤を塗布してもよい。添加剤としては、例えば帯電防止剤;分散性、収束性、平滑性等を与える各種化合物などが挙げられる。これらの添加剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
工程(1)において、界面活性剤の塗布は、例えばナイフコーター、バーコーター、アプリケーター、ロールコーター、スクイズロール、ニップロール等により行ってよい。
工程(1)において、界面活性剤の塗布量(又は添加量)は、工程(2)で添加する触媒の種類及び量に応じて適宜選択でき、前記液晶ポリエステルマルチフィラメント(界面活性剤を含まない液晶ポリエステルマルチフィラメント)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。界面活性剤の塗布量が上記の下限以上であると、工程(2)でおいてPd錯体が繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に導入されやすく、これにより工程(3)で繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に十分な量のめっき金属を存在させやすいため、金属被覆繊維の密着性及び耐屈曲疲労性を向上しやすい。また、界面活性剤の塗布量が上記の上限以下であると、過剰量の界面活性剤が繊維に残存するのを抑制し得るため、過剰量の界面活性剤による繊維と金属との密着性の阻害を抑制しやすい。
工程(1)で得られる界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)は、液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に界面活性剤が塗布された液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなる。界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)は、高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率が10質量%以上であることが好ましい。該界面活性剤残存率が10質量%以上であると、工程(2)の超臨界処理中に多くの界面活性剤が繊維表面に存在し得るため、比較的多くのPd錯体を繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に導入できる。これにより、工程(3)において繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に十分な量のめっき金属を存在させることができ、金属と繊維との密着性及び耐屈曲疲労性に優れた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを形成しやすい。
高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらにより好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、特により好ましくは90質量%以上である。高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率が上記の下限以上であると、密着性及び耐屈曲疲労性を向上しやすい。高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率の上限は100質量%以下である。なお、界面活性剤残存率は、例えば、液晶ポリエステルマルチフィラメンの種類や繊度、界面活性剤の種類や量を適宜変更することにより本発明の範囲に調整してよい。
界面活性剤残存率は、界面活性剤が付与された液晶ポリエステルマルチフィラメントを高圧二酸化炭素流体と接触させた後、処理前後の質量から下記式により算出できる。
界面活性剤残存率(質量%)=(超臨界処理後の繊維の質量-繊維自体の質量)/(界面活性剤付与後の繊維の質量-繊維自体の質量)×100
界面活性剤残存率は、例えば実施例に記載の方法により測定及び算出できる。
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)に、Pd錯体が溶解した高圧二酸化炭素流体を接触させる工程である。
工程(2)において、高拡散性及び高浸透性を有する高圧二酸化炭素流体により、Pd錯体を界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)に効率よく含浸又は付着させることができ、得られるPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を還元してめっき処理を行うことで、数少ない工程により短時間で金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造できる。
Pd錯体を含む高圧二酸化炭素流体を界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)に接触させると、繊維が膨潤し、Pd錯体が膨潤により生じた隙間に埋め込まれるようになり、さらに後述の還元処理により、Pd錯体が露出するため、繊維表面においてアンカー効果の高いめっき処理を行うことができる。特に、本発明では、繊維表面に特定の界面活性剤が塗布された界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を使用するため、繊維表面及び繊維内部に多量のPd錯体を導入でき、めっき処理により密着性に優れた金属皮膜を形成できる。
本明細書において、高圧二酸化炭素流体は、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素(超臨界二酸化炭素ともいう)を意味する。二酸化炭素(CO)は、臨界温度304K、臨界圧力7.4MPaで超臨界流体となり、臨界温度よりも約10K程度低い温度、及び臨界圧力程度の圧力で亜臨界流体となり得る。そのため、このような臨界条件又は亜臨界条件に設定して接触を行えばよい。一般に、接触時の温度を超臨界温度以上650K以下、接触時の圧力を超臨界圧力以上35MPa以下、接触時間を5分間~120分間にすればよい。従って、工程(2)としては、例えば、Pd錯体を含む高圧二酸化炭素流体を、超臨界温度以上650K以下の温度及び超臨界圧力以上35MPa以下の圧力で界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)の表面に浸漬した状態で5~120分接触させる方法などを好適に使用できる。
接触時の圧力は好ましくは5.0~35.0MPaであり、接触時の温度は好ましくは323K~473Kであり、接触時の時間は好ましくは5~60分間である。
工程(2)において、触媒として用いられるPd錯体(パラジウム錯体)としては、例えば酢酸パラジウム錯体、硝酸パラジウム錯体、パラジウムアセチルセトナート錯体、トリフルオロ酢酸パラジウム錯体などが挙げられ、界面活性剤に浸透しやすく、かつ触媒機能が高い観点から、酢酸パラジウム錯体が好ましい。Pd錯体は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
工程(2)において、Pd錯体の使用量(又は添加量)は、液晶ポリエステルマルチフィラメント(界面活性剤及びPd原子を含まない液晶ポリエステルマルチフィラメント)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。Pd錯体の使用量が上記の下限以上であると、Pd錯体が繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に導入されやすく、これにより工程(3)で繊維表面、好ましくは繊維表面及び内部に十分な量のめっき金属を存在させやすいため、金属被覆繊維の密着性及び耐屈曲疲労性を向上しやすい。Pd錯体の添加量が上記の上限以下であると、高価なパラジウムの使用量を抑制しつつ、効率良く触媒作用を発揮させやすい。
高圧二酸化炭素流体はPd触媒以外に添加剤、例えばPd錯体の分解を促進する促進剤や高圧二酸化炭素流体が界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)に浸透するのを促進する促進剤などを含んでいてもよい。
工程(2)において、触媒としてPd錯体を付与されたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は、好ましくは還元処理を行う。還元には、還元剤を使用してもよいが、Pd錯体は加熱により容易に還元し得るという観点から、熱還元が好ましい。熱還元方法としては、例えばPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を高温条件下に曝露する方法が挙げられる。熱還元時の加熱温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。熱還元時の加熱温度が上記の下限以上であると、Pd錯体を十分に還元しやすく、また熱還元時の加熱温度が上記の上限以下であると、金属化したパラジウムが酸化されて酸化パラジウムになるのを防止しやすい。また、熱還元時の加熱時間は、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~10時間、さらに好ましくは10分~1時間である。熱還元時の加熱時間が上記の範囲であると、Pd錯体を還元しやすい。
本発明の工程(2)は、例えば超臨界処理装置を用いて行うことができる。以下、本発明の一実施態様にかかる超臨界処理装置を示すが、本発明はこの態様に限定されない。
超臨界処理装置は、液体二酸化炭素が入った高圧ボンベ1、設定された流量で供給動作を行うシリンジポンプ2、耐圧容器からなる反応器3、ろ過器4及び洗浄液を内蔵した洗浄容器5を備えている。高圧ボンベ1及びシリンジポンプ2を接続する管路には弁V1が設けられており、シリンジポンプ2及び反応器3を接続する管路には弁V2及びV3、圧力センサS1が設けられている。反応器3及びろ過器4を接続する管路には圧力センサS2及び弁V4が設けられており、ろ過器4及び高圧ボンベ1を接続する管路には弁V5及びV6が設けられている。そして、洗浄器5は、弁V2とV3との間の管路に弁V7を介して接続されている。
反応器3には、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMを配置する反応室30及び反応室30の上部に配設された供給室31に区画されており、供給室31にPd錯体Cが投入されている。また、反応器3の上下にはヒータ32が配設されており、反応室30の底面には撹拌装置33が取り付けられている。そして、反応室30内の温度を検知する温度センサS3が設けられている。
装置を動作させる場合には、予め反応器3の反応室30内に適当な量の界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMを配置しておく。そして、弁V1を開いて高圧ボンベ1内の液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給し、シリンジポンプ2において液体二酸化炭素を所定圧力に昇圧して超臨界状態とする。次に、弁V2及びV3を開いてシリンジポンプ2から高圧二酸化炭素流体が設定流量で反応器3に供給される。高圧二酸化炭素流体は、反応器3の上部から供給室31に導入されてPd錯体と混合される。Pd錯体Cを混合した高圧二酸化炭素流体を反応室30に流下する。反応室30内に滞留した高圧二酸化炭素流体は撹拌装置33により撹拌されてPd錯体が十分溶解された状態となり、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMに含浸されるようになる。反応室30内で界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMに高圧二酸化炭素流体を所定時間含浸させている間、ヒータ32により反応室30内の温度を、Pd錯体Cを熱還元させる温度となるように加熱制御する。
なお、高圧二酸化炭素流体に界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントが容易に溶解する場合には、撹拌装置33を動作させる必要はない。
界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMに高圧二酸化炭素流体を所定時間含浸させてPd錯体を熱還元した後弁6及び7を開き、反応器3内を減圧する。減圧する際には、ニードル弁を用いて徐々に大気圧まで減圧するように制御する。急激に減圧すると界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMに影響を与える場合もあることから、減圧時間は3分間~120分間とするとよい。
反応器3から排出された二酸化炭素は、余剰のPd錯体やその分解物等とともにろ過器4に回収される。そして、ろ過器4内でPd錯体が分離されて高圧ボンベ1に送出される。従って、処理に使用した二酸化炭素を再利用できるため、廃棄物を極力抑えることが可能となり、環境に与える負荷の小さい処理方法といえる。
界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMがPd錯体Cの熱還元温度で変質するなど影響を受ける場合には、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMにPd錯体Cが含浸した後に反応室30内に還元剤として水素気体等の還元剤を導入して還元処理すればよい。また、反応室30から界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントMを取り出して還元剤溶液を収容した容器内に浸漬して還元処理を行うようにしてもよい。
以上のような前処理により界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面にPd触媒が活性化した状態で均一に付着させることができる。なお、上述した装置では、超臨界二酸化炭素を供給するようにしているが、シリンジポンプ2の圧力条件を変更することで亜臨界二酸化炭素を供給することもできる。
また、上記超臨界処理装置では、ヒーター32により反応室30内の温度を、Pd錯体Cを熱還元し得る温度に設定して熱還元を行ったが、超臨界処理装置から、還元しない状態で、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を取り出した後、オーブン等により別途熱還元を行うこともできる。なお、工程(2)は特許第4314370号に記載の超臨界処理を参照して行ってもよい。
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)に金属を被覆する工程である。
金属を被覆する方法は、湿式や乾式等の種々の方法を採用できる。乾式で金属を被覆する方法としては、押し出し、スパッタリング、蒸着、または慣用の方法が挙げられる。湿式で金属を被覆するめっき工程でも、慣用の方法により行うことができ、例えば、無電解めっきを行う方法、無電解めっき後に電界めっきを行う方法などが挙げられる。
無電解めっき処理の方法としては、慣用の方法を用いることができ、例えばPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を無電解めっき液に浸漬させる方法等が挙げられる。無電解めっきする金属としては、[金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメント]の項に記載の金属が挙げられる。
無電解めっき液は、例えば金属塩を主成分として、他の添加剤(例えば還元剤、錯化剤、レベラー等)を含有するものであってもよい。無電解めっき液の温度は、無電解めっき液の種類に応じて適宜選択でき、例えば20~130℃、好ましくは30~100℃であり、無電解めっき処理の時間は、例えば5分~24時間、好ましくは10分~20時間である。
無電解めっき液としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば奥野純薬(株)製の無電解銅めっき液「ATS-ADDCOPPER IW-A」、「ATS-ADDCOPPER IW-M」、「ATS-ADDCOPPER IW-C」、無電解金めっき液「セルフゴールドOTK-IT」、無電解銀めっき液「ダインシルバーEL-3S」、無電解ニッケル-リンめっき液「トップニコロンBL80」;上村工業(株)製の無電解ニッケルめっき液「ニムデンKTB-3-M」、「ニムデンKTB-3-A」、等が挙げられる。なお、無電解めっきした後に、例えば電解めっきすることもできる。
本発明の金属被覆ポリエステルマルチフィラメントの用途は、特に限定されず、導電性繊維が用いられる分野である電線や電磁波シールド分野等において広く使用できる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に測定及び評価方法を示す。
<引張強度>
以下の条件で、実施例及び比較例で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度(cN/dtex)を測定した。このとき、めっき繊維の強度はめっき前のポリアリレート繊維強度が支配的になるため、元の繊維繊度で引張強度を算出した。
(条件)
・試験装置:オートグラフAGS-100B((株)島津製作所製)
・試験条件:JIS L1013
・糸長:200mm
・初荷重:0.09cN/dtex
・引張速度:100mm/分
<抵抗値測定及び屈曲疲労試験>
抵抗値測定機(テクシオテクノロジー株式会社製)を用いて、実施例及び比較例で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの初期抵抗値(Ω/10cm)を測定した。次いで、屈曲疲労試験機(「TC111L」、YUASA社製)を用いて、屈曲時の屈曲径:2.5mm、屈曲角度:120°、屈曲速度:60rpm、荷重:100g、屈曲回数:10000回の条件で、該金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを屈曲させ、再度抵抗値を測定した。下記の式で比抵抗値を算出し、屈曲疲労性について評価した。
比抵抗値=(屈曲疲労試験後の抵抗値)/(屈曲疲労試験前の初期抵抗値)
<ICP発光分析法>
実施例及び比較例で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量を測定した上で、石英製分解容器(容量:80ml)に量り取り、硝酸、塩酸、硫酸を加え、自動マイクロ波分解装置(CEM社製、「Discover SP-D80」)でマイクロ波分解した。分解後、超純水で100mlにメスアップし、濾過フィルター(0.45μm)で濾過後、ICP発光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、「iCAP6500Duo」)を用いて、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントに含まれるPdの含有量(質量%)、及び被覆金属の含有量(質量%)を測定し、これから金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントに含まれるPd量(質量)及び金属量(質量)を求め、次いで、該Pd量(質量)を、前記金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量から前記金属量を差し引いた質量で割って100を掛けることにより、被覆金属を除く金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの質量に対するPd含有量(質量%)を算出した。
<マイクロドロップレット>
実施例及び比較例で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面上に、熱硬化性エポキシ樹脂(ハンツマンジャパン社製、「アラルダイト(登録商標)ラビットRT30」)で100~300μmの樹脂球体を作製後、該樹脂球体を引っ掛けることのできる冶具をセットした万能試験機(島津製作所製)で引き剥がした。その際の最大点の応力と、SEMで計測した被覆面積から界面接着強力(N/mm)を測定した。
<被覆金属の厚み>
実施例及び比較例で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの被覆金属の厚みを、X線CTにより以下の方法で求めた。
まず、X線CTにより、実施例及び比較例で用いためっき前の液晶ポリエステルマルチフィラメントの断面写真を50μm間隔で10枚撮影し、各断面写真に対して10本の繊維の繊維径をそれぞれ測定し、合計100本について測定した液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径の平均値を、液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径とした。
次いで、実施例及び比較例で用いためっき後の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントについても同様の方法により、合計100本について繊維径を測定し、測定した金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径の平均値を、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径とした。
最後に、下記式により、被覆金属の厚みを算出した。
被覆金属の厚み=[(金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径)-(液晶ポリエステルマルチフィラメントの繊維径)]÷2
[実施例1]
<界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)の作製>
繊維材料として、総繊度1670dtex、フィラメント本数300本の液晶ポリエステルマルチフィラメント(ポリアリレート繊維、(株)クラレ製、商品名:ベクトランHT)を用いた。該液晶ポリエステルマルチフィラメントに、界面活性剤としてカチオン性界面活性剤のヘキサデシルピリジニウムクロリドを0.5質量部添加(付与)し、液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に界面活性剤が塗布された界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を得た。なお、上記界面活性剤の添加量は、繊維材料100質量部に対する量である。
<Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)の作製>
界面活性剤含有液晶ポリエステルモノフィラメント(X)に、以下のように、超臨界処理での触媒付与を行い、液晶ポリエステルモノフィラメントの表面及び内部に、界面活性剤とPd原子とを含むPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を得た。
(触媒付与)
めっき前処理には、図1に示す装置を使用した。反応器3の内容積は10mlとし、高圧ボンベ1から25MPaの圧力で液体二酸化炭素を供給した。触媒として、酢酸パラジウム錯体を用いた。
繊維材料を反応室30内にセットし、酢酸パラジウムを供給室31内に投入して反応器3を密閉した。酢酸パラジウム錯体の添加量は、繊維材料100質量部に対して、2.0質量部とした。次いで、シリンジポンプ2(ISCO社製、「MODEL260D」)により液体二酸化炭素を昇圧して超臨界状態とし、反応器3に40~50ml/分の流量で供給した。シリンジポンプ2での圧力は25MPaに設定した。
反応室31内の温度は、ヒーターの加熱制御により80℃で30分間保持されるようにした。この温度に保持することで、超臨界二酸化炭素流体の高拡散性及び高浸透性を利用して酢酸パラジウム錯体を速やかに溶解させることができた。
超臨界装置内から二酸化炭素を抜いた後、得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は、触媒付与前の黄色から、酢酸パラジウムと同じ色の濃いオレンジ色に変化していた。また、後述の還元後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は光沢の有る黒色に変化しており、多量の触媒が繊維表面に付与されていることが示唆された。
得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)に熱還元を行い、還元後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を得た。
(熱還元)
触媒付与を行ったPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を200℃に設定したオーブン(ヤマト科学社製)で30分間処理して、酢酸パラジウム錯体を熱還元した。
<金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの作製>
還元後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)に、以下のように、無電解めっきを行い、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
(無電解Cuめっき)
300mlビーカー(アズワン社製)に、ATS-ADDCOPPER IW-A(奥野純薬(株)製)10ml、ATS-ADDCOPPER(奥野純薬(株)製)16ml、ATS-ADDCOPPER(奥野純薬(株)製)2ml、及びイオン交換水172mlを加え、還元後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を投入後、湯浴中で40℃、15分間撹拌した。
[実施例2]
付与する界面活性剤をカチオン性界面活性剤のベンジルコニウムクロリドに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は濃いオレンジ色に変化し、還元後は光沢の有る濃い黒色に変化したことから、多量の触媒が導入されているのが示唆された。
[実施例3]
界面活性剤の添加量を1.5質量部、及び酢酸パラジウム錯体の添加量を6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は、濃いオレンジ色に変化し、還元後は光沢の有る漆黒に変化したことから、多量の触媒が導入されているのが示唆された。
[実施例4]
繊維材料として、総繊度440dtex、フィラメント本数80本の液晶ポリエステルマルチフィラメント(ポリアリレート繊維、(株)クラレ製、商品名:ベクトランHT)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は、濃いオレンジ色に変化し、還元後は光沢の有る黒色に変化したことから、多量の触媒が導入されているのが示唆された。
[実施例5]
めっき金属をニッケルにしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
(無電解Niめっき)
ニムデンKTB-3-M(上村工業(株)製)60ml、ニムデンKTB-3-A(上村工業(株)製)21.6ml及びイオン交換水318.4mlを加え、還元後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)を投入後、湯浴中で80℃、15時間撹拌した。
[比較例1]
界面活性剤の付与を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)(界面活性剤不含)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)は色にほぼ変化が無く、還元後はわずかながら黒色に変化したことから、僅かな触媒のみが導入されていることが分かった。
[比較例2]
付与する界面活性剤をアニオン性油のオレイン酸に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)はわずかながら濃色になっており、還元後は僅かに黒色に変化したことから、少量の触媒が導入されているのが示唆された。
[比較例3]
付与する界面活性剤をノニオン性界面活性剤のオクタデカノールに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)はわずかながら濃色になっており、還元後は僅かに黒色に変化したことから、少量の触媒が導入されているのが示唆された。
[比較例4]
付与する界面活性剤をノニオン性界面活性剤のソルビタンモノウレートに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)はやや黒色になっており、還元後は濃い黒色に変化したことから、多量の触媒が導入されているのが示唆された。
[比較例5]
繊維材料として、総繊度440dtex、フィラメント本数80本の液晶ポリエステルマルチフィラメント(ポリアリレート繊維、(株)クラレ製、商品名:ベクトランUM)を使用したこと以外は、比較例1と同様の方法により、液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)(界面活性剤不合)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。触媒付与後のPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)はわずかながら濃色になっており、還元後は僅かに黒色に変化したことから、少量の触媒が導入されているのが示唆された。
[比較例6]
触媒付与及び還元の方法を以下の通り水系に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
(触媒付与及び還元)
界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)の表面を洗浄するため、アセトン50mlをビーカーに入れ、さらに1mに切断したマルチフィラメントを入れて30℃で5分間撹拌した。次いで、触媒の吸着のため、OPC-SAL-M(奥野製薬工業(株)製)13gとOPC-80キャタリストML(奥野製薬工業(株)製)2.25mlを加え、イオン交換水でメスアップして60mlとした後、上記洗浄を施したマルチフィラメントを入れて25℃で5分間処理した。最後に、触媒を活性化させるために、イオン交換水95mlに、硫酸5gを加えた後、上記触媒吸収を施したマルチフィラメントを入れて35℃で6分間撹拌した。
[比較例7]
触媒付与前に15%水酸化ナトリウム水溶液で65℃、2分間処理したこと以外は、比較例6と同様の方法により、界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[比較例8]
実施例5と同じ方法で無電解Niめっきを行ったこと以外は、比較例1と同様の方法により、ポリエステルマルチフィラメント(X)(界面活性剤不合)、Pd含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(Y)、及び金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。
[実施例6]
実施例1で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)に触媒を添加することなく、実施例1と同様の条件で、超臨界二酸化炭素による処理を行った。処理前後の質量から下記式により界面活性剤残存率を算出した。
界面活性剤残存率(質量%)=(超臨界処理後の繊維の質量-繊維自体の質量)/(界面活性剤付与後の繊維の質量-繊維自体の質量)×100
[実施例7]
実施例2で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法により、界面活性剤残存率を算出した。
[比較例9]
比較例2で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法により、界面活性剤残存率を算出した。
[比較例10]
比較例3で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法により、界面活性剤残存率を算出した。
[比較例11]
比較例4で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメント(X)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法により、界面活性剤残存率を算出した。
実施例1~5及び比較例1~8で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、上記測定方法に従って、被覆金属の厚み、ICP発光分析法により得られた被覆金属を除く該マルチフィラメント中のPd含有量、界面接着強力、引張強度、初期抵抗値、及び比抵抗値を測定した結果を表5に示した。また、実施例6、7及び比較例9~11で得られた界面活性剤残存率を表6に示した。なお、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度、フィラメント数(モノフィラメントの数)、界面活性剤名、界面活性剤添加量(質量部)、錯体添加量(質量部)、触媒処理条件、めっき金属の種類も表5に示した。表6についても同様である。
Figure 2022098980000008
Figure 2022098980000009
表5に示される通り、実施例1~5で得られた金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントは、比較例1~8と比べ、比抵抗値が低く、耐屈曲疲労性に優れることが確認された。
1…高圧ボンベ、2…シリンジポンプ、3…反応器、4…ろ過器、5…超音波振動子、30…反応室、31…供給室、32…ヒータ、33…撹拌装置、V1~V7…弁、S1~S3…圧力センサ

Claims (6)

  1. 液晶ポリエステルモノフィラメントの表面に、厚さ0.1~20μmの金属が被覆された金属被覆液晶ポリエステルモノフィラメントを2本以上含んでなる金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントであって、ICP発光分析法により得られるPd含有量は被覆金属を除く前記マルチフィラメントの質量に対して0.33質量%以上であり、マイクロドロップ法により測定される被覆金属の界面接着強力は15N/mm以上である、金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  2. 引張強度は、16cN/dtex以上である、請求項1に記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  3. 前記金属は、銅、銀、金、鉄、亜鉛、鉛、パラジウム、ニッケル、クロム及び錫からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメント。
  4. 液晶ポリエステルマルチフィラメントの表面に界面活性剤を塗布する工程(1);工程(1)で得られた界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに、Pd錯体が溶解した高圧二酸化炭素流体を接触させる工程(2);並びに工程(2)で得られたPd含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに金属を被覆する工程(3)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の金属被覆液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
  5. 前記界面活性剤は、ハロゲン原子及び窒素原子含有カチオン性界面活性剤を含む、請求項4に記載の方法。
  6. 前記界面活性剤含有液晶ポリエステルマルチフィラメントに、高圧二酸化炭素流体を接触させた際の界面活性剤残存率は10質量%以上である、請求項4又は5に記載の方法。
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