JP2022077089A - 非周期多層膜回折格子 - Google Patents
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Abstract
【課題】容易に製造を行うことができ、高い回折効率をもつ回折格子を提供する。【解決手段】全反射条件によって目的電磁波(分光しようとする電磁波)が表面物質内部まで深く侵入しない軟X線領域において、反射膜として一般に用いられる金属膜等を反射物質に持つ回折格子面上に低密度物質層と高密度物質層からなる複数の膜対を、その膜対がある深さまで侵入できるエネルギーの光を回折するに最適な周期長で堆積することにより軟X線領域で幅広いエネルギーを持つ光に対する回折効率を向上させる。【選択図】図2
Description
本発明は、回折格子表面上に軟X線域で反射率の高い高密度物質であるニッケル(Ni)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、金(Au)の元素又は化合物からなる層と消衰係数が小さい低密度物質である炭素(C)、炭化ケイ素(B4C)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO2)の元素又は化合物からなる層の2層の対からなる膜対からなると多層膜を、回折格子溝面から複数の対を付加することにより、広いエネルギー領域における回折効率を高めた軟X線回折格子に関する。
エネルギーが約0.1 keVから10 keV、波長で0.1 nm~12 nm付近までの光は軟X線とよばれ反射型回折格子で分光する場合、1 %以上の実用的な回折効率を得るため、回折格子に対して入射光を回折格子面とすれすれの方向から入射させる斜入射条件で使用する。
軟X線領域では回折格子の表面に反射膜として積層する物質の屈折率nMは1よりわずかに小さい。高い回折効率を得るためには一般に、回折格子面に垂直な法線方向から測った入射角αが鏡面の全反射条件であるsinα≧nM (?≧π/2-{2(1-nM)}1/2)を満たすようにする。しかしながら、回折格子の溝の効果により回折される光のエネルギーは、正反射条件を満たす零次光や多くの次数光に分散されるだけでなく、表面物質内に吸収される成分も存在するため、計測に利用される1次光(または-1次光)の強度は回折格子溝のない鏡の全反射の場合の強度に比較して非常に弱くなる。このため、溝形状が矩形状のラミナー型回折格子においては、溝の深さ、凹凸の山面と谷面の面積比を最適化し、山面と谷面からの光が所望の回折次数の光の回折光方向で強め合う正の干渉を起こすように設計される。
さらに、軟X線領域で高い回折効率を得る方法として、回折格子表面に消衰係数が小さい低密度物質層と、前記低密度物質層よりも密度が高く反射率が高い高密度物質層を交互に周期的に積層して形成された構造を具備する軟X線多層膜回折格子を用いる方法がある。この方法は高密度物質層で回折された各光が干渉し、光が強められる必要がある。このためには、入射光を多層膜の膜内部まで侵入させる必要があるが、軟X線領域の全反射条件では硬X線に比較して侵入深さが小さいために膜内部まで光が侵入できず、単一の周期長をもつ単純な構造の多層膜ではその効果を活かすことができなかった。このことが軟X線多層膜を用いて広いエネルギー領域で高い回折効率を呈する回折格子を得ることを困難にさせていた。
一方、10keVより高エネルギーの硬X線の領域では、回折格子ではないが反射鏡の基板表面から鏡の表面に向かって多層膜の周期長を順次長くして、浸透力の弱い低エネルギーのX線となるほど表面に近い層でブラッグ条件を満たすことで広いエネルギー領域で高い反射率を持つ反射鏡が利用されている。
Koike, Masato他、"High-Diffraction-Efficiency Wide-Acceptance-Angle Laminar-Type Diffraction Gratings Overcoated with Oxide Films for Boron-K Emission Spectroscopic Measurements,"Photon Factory Activity Report 2017 #35 (2018).
Hatano, Tadashi他、"Diffraction Efficiency Measurements of Laminar-Type Diffraction Gratings Overcoated with Lanthanum Series Layers for Boron-K Emission Spectroscopy," Photon Factory Activity Report 2018 #36 (2019).
全反射条件によって数十ナノメートル程度の深さの物質内部までしか光エネルギーが侵入できない10keVよりエネルギーが低い軟X線領域において、回折格子表面に軟X線多層膜を付加して一般に用いられる金等の反射膜を用いた回折格子の回折効率を改善する。
本発明は、回折格子表面上に軟X線域で反射率の高い高密度物質層として金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、タングステン(W)の何れかの元素又は化合物からなる層と消衰係数が小さい低密度物質層として炭素(C)、炭化ケイ素(B4C)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO2)の何れかの元素又は化合物からなる層の2層の対からなる膜対を、回折格子面から順に周期長を増しながら積層した多層膜を付加することにより、広いエネルギー領域における回折効率を高めた軟X線回折格子に関する。
本発明では、回折格子の基本反射膜層と増反射膜層の相関効果により、入射エネルギーが零次を含む反射回折光として回折される割合が増加するため、全反射条件によって物質内部まで侵入できないエネルギーの軟X線領域においても、多層膜の周期長を新たに見出した法則に従って増すことにより、定入射角、定偏角の何れの使用条件においても一般に軟X線域で用いられる回折格子の回折効率を改善することができる。
発明者は矩形状の溝形状を持つラミナー型の軟X線回折格子の回折効率を光エネルギーが数keVの広い領域で高めるには従来の形態である回折格子表面に反射率の高い高密度物質層と消衰係数が小さい透明な低密度物質層の対からなる物質対の周期長(膜厚)を回折格子面から原則として順に所望のエネルギーの高エネルギー端から低エネルギー端に対応するBraggの法則を満たす長い周期長とするが、最上層の周期において、最短と最長の周期長の中間の周期長とし堆積する方法で、広いエネルギー範囲で一次回折光の回折効率を高めるために有効であることを見出した。
以下、本発明の実施形態の基本となる従来型の軟X線用ラミナー型回折格子の構造を示す図1を用いて詳細に説明する。直交座標系において、x軸を回折格子表面中心Oでの回折格子の垂線(法線)方向、y軸をOでの回折格子面の接線方向、z軸をOにおいて紙面に垂直な軸とする。この時、x軸方向から入射光の方向へ張る角度を入射角(α)とする。したがって、回折格子面から入射光の方向に張る角度?との間にはα=90o-αの関係がある。また、x軸方向から測定に用いる波長(λ)の回折次数(m)が+1次の回折光の方向を回折角(β)とする。角度αとβの双方について符号はx軸から反時計廻りを正とする。回折格子溝はラミナー型と一般に称される矩形波状であり、材質がSiO2等の基板1の表面に、溝周期である格子定数(σ)、溝の山部の長さ(a)、溝深さ(h)の格子溝が形成されている。因みに角度α、β及び波長λ、格子定数σの間には回折格子に式と称されるsinα+sinβ=λ/σの関係がある。
従来型のラミナー型回折格子及び後述の本発明の実施の形態となる回折格子の基板1として、格子定数σ = 312.5 nm (1/σ = 3,200 本/mm)、h = 2.8 nm、デューティ比(a/σ) = 0.3(a = 93.8 nm)のラミナー型の格子溝を用いる。その基板上に基本反射膜層2において金をd0 = 30 nmの厚さで堆積したものを従来型の回折格子と称する。
図2は本発明の形態を説明する図である。本発明の実施の形態となる回折格子の基板1として、格子定数σ = 312.5 nm (1/σ = 3,200 本/mm)、h = 2.8 nm、デューティ比(a/σ) = 0.46(a = 143.8 nm)のラミナー型の格子溝を用いる。その基板上に基本反射膜層2において金をd0 = 30 nmの厚さで堆積したもの上に回折効率を高める低密度物質層3、5等、高密度物質層4、6等をそれぞれ膜厚d Li(i=1, …,n)から、高密度物質層4、6等をそれぞれ膜厚dHi(i=1, …,n)まで膜厚を変化させながら交互に堆積する。
本発明の実施の形態の例では、3、5等の低密度物質層が炭素(C)で 膜厚がd L1らd L6までそれぞれ3.830 nm、3.830 nm、3.830 nm、3.830 nm、10.348 nm、5.838 nmあり、4、6等の高密度物質層が白金(Pt)で 膜厚がd H1からd H6まで全て2.542 nmである。以下ではこの多層膜の構成を「多層膜A」と称する。
図3は本発明の実施の形態となる多層膜回折格子の低・高密度の物質対の周期番号i番目の低・高密度膜からなる物質対の周期長(d Li+d Hi)を示す図である。回折格子下面から所望のエネルギー領域内の高エネルギー域に対応するBraggの法則を満たす短い周期長を持ち、その上に低エネルギー域に対応する長い周期長とするが、最上層の周期において、それらの中間の周期長とする物質対を堆積する。
図4は本発明の実施の形態となる多層膜回折格子の低・高密度の物質対の周期番号iと、回折格子に拡張したBraggの法則にi番目に積層した炭素と白金の和である周期長(d Li+d Hi)を代入したとき得られるエネルギーとの関係を示す図である。なお、入射角は88.00°である。
図5は図2で示す本発明の実施の形態となる多層膜回折格子を入射角88.00°で使用した場合の+1次光のエネルギー依存性を示す。参考までに図1で示した従来型の回折格子の+1次光のエネルギー依存性も示す。
図6は図2で示す本発明の実施の形態となる多層膜回折格子を入射角(α)と回折角(β)が偏角(2K = α-β = 86.845°×2)で使用した場合の+1次光のエネルギー依存性を示す。参考までに図1で示した従来型の回折格子の+1次光のエネルギー依存性も示す。
図5では多層膜Aを付加した回折格子の回折効率が従来型の回折格子に比較して光子エネルギーが1 keV~2 keVの領域で平均値としては3.54倍に増加する一方、3つの回折効率のピークとその間に位置する谷とがなす偏差が大きい。この偏差は実用上小さいことが望ましいが、光子エネルギーが数keVの領域では理論上全反射領域においても物質による吸収が大きいため多層膜の総数を増加させて膜厚等の設計パラメータを多くして、それらを最適化することにより偏差を小さくすることは困難である。
この困難を解決する手段として発明者は図7に示すように回折格子面を2分割し、異なる複数の設計の多層膜を付加する方法を見出した。この例では回折格子表面の溝方向を65:35に分割し、7の領域で示した多層膜Aを付加し、8の領域には3、5等の低密度物質層が炭素(C)で 膜厚がd L1からd L6までそれぞれ4.234 nm、4.234 nm、4.234 nm、4.234 nm、7.422 nm、11.428 nmあり、4、6等の高密度物質層が白金(Pt)で 膜厚がd H1からd H6まで全て2.542 nmの多層膜を付加し、以下ではこの多層膜の構成を「多層膜B」と称する。
図8は図7で示す多層膜回折格子を入射角88.00°で使用した場合の、7、8で示すそれぞれ多層膜A及びBの領域での回折効率と、多層膜A及びBの領域の面積比で比例配分した全領域での+1次光のエネルギー依存性を示す。図8の全領域での+1次光の回折効率のエネルギー依存性については図5に比較して回折効率のピークとその間に位置する谷とがなす偏差が小さくより実用に適していることが分かる。
電子顕微鏡に搭載した軟X線発光回折格子分光器に組み込むことにより、電子線で試料を励起し、鉄鋼のなどの軟X線発光の分光計測に基づく微量成分分析、特に数keV領域における触媒、太陽電池材料、発光・受光素子等の開発に重要な遷移金属の状態分析に用いることができる。また、励起源として各種加速器等により生成される放射光、イオンビーム、高周波放電、プラズマ放電光源等を用いた回折格子分光分析機器にも用いることができる。
1…回折格子基板
2…基本反射膜層
3…1番目の低密度物質層
4…1番目の高密度物質層
5…n番目の低密度物質層
6…n番目の高密度物質層
7…多層膜Aの付加領域
8…多層膜Bの付加領域
2…基本反射膜層
3…1番目の低密度物質層
4…1番目の高密度物質層
5…n番目の低密度物質層
6…n番目の高密度物質層
7…多層膜Aの付加領域
8…多層膜Bの付加領域
Claims (5)
- 矩形状の溝形状を持つラミナー型回折格子上に、測定目的の電磁波の浸透深さよりも厚い基本反射膜層で被覆され、その上に消衰係数が小さい低密度物質である炭素(C)、炭化ケイ素(B4C)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO2)の元素又は化合物からなる層と反射率の高い高密度物質であるニッケル(Ni)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、金(Au)の元素の2層の対からなる膜対からなると多層膜を、回折格子面の下から順に周期長を変化させながら積層した多層膜を付加することを特徴とする軟X線で用いるラミナー型多層膜回折格子。
- 前記請求項1に記載の多層膜回折格子において低密度物質層と高密度物質層からなる複数の膜対の周期長が、下層から所望エネルギー範囲の上端からか下端に対応するよう増加するが、最上層では所望エネルギー範囲の中央値に相当する周期長を持つことを特徴とする請求項1に記載のラミナー型多層膜回折格子。
- 前記請求項1に記載の多層膜回折格子において多層膜層を構成する低密度物質層と高密度物質層の厚さの比が積層ごとに異なることを特徴とするラミナー型多層膜回折格子。
- 前記請求項1に記載の多層膜回折格子において多層膜層の周期が半整数(例:1.5、2.5)であることを特徴とするラミナー型多層膜回折格子。
- 前記請求項1に記載の多層膜回折格子の表面が複数に区分され、それぞれに膜構成が異なる多層膜が付加されていることを特徴とするラミナー型多層膜回折格子。
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JP2020187737A JP2022077089A (ja) | 2020-11-11 | 2020-11-11 | 非周期多層膜回折格子 |
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WO2024042865A1 (ja) * | 2022-08-25 | 2024-02-29 | 国立大学法人東北大学 | 軟x線多層膜回折格子 |
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2020
- 2020-11-11 JP JP2020187737A patent/JP2022077089A/ja active Pending
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