JP2011106842A - 回折格子分光器 - Google Patents

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雅人 小池
Tetsuya Kawachi
哲哉 河内
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Abstract

【課題】単純な構成で広い波長帯域から単色光を出力することのできる分光器を得る。
【解決手段】この単色計(回折格子分光器)200においては、回転中心210を中心とした点対称な位置に入射側回折格子220と出射側回折格子230とが配置されている。入射側回折格子220の回折面221と出射側回折格子230の回折面231とは平行かつ対向するように配置される。軟X線である入射光250は、入射側回折格子220の回折面221で回折された後で再び出射側回折格子230の回折面231で回折される。入射側回折格子220と出射側回折格子230とは、回転中心210に対して対称な位置に設置されており、かつ、入射側回折格子220、出射側回折格子230、及び回転中心210の位置関係は固定されている。また、これらが固定された構造は、回転中心210の回りで回転できるような回転機構が用いられる。
【選択図】図1

Description

本発明は、回折格子を用いて分光を行う回折格子分光器に関する。
回折格子は、例えば赤外線からX線にわたる広い波長領域の光を分光する場合に用いられ、例えば、単色光(単一の波長の光、あるいは広義には特定の狭い波長域で強度が高い光)を出力する単色計、ある範囲の波長の光を波長毎に応じた位置で同時に結像させて出力する多色計等、各種の分光器に用いられている。特に軟X線領域においては、この波長領域で有効なレンズやプリズム等の光学材料となる物質が存在しないため、回折格子は有効である。従って、回折格子を用いた分光器は、特に軟X線領域の電磁波を分光するためには極めて有効である。こうした分光器においては、例えば放射光等の単色でない(ある範囲の波長帯域をもつ)光が入力され、この範囲内の所望の波長(エネルギー)の単色光が出力される。
回折格子として、例えば多層膜ラミナー型回折格子を分光器(単色計)に用いた構成は特許文献1に記載されている。この構成を図11に示す。この単色計90においては、入射スリット91を通過した入射光(軟X線)101は、集光能力のある凹面鏡92で反射され、多層膜ラミナー型回折格子93に入射し、波長毎に異なる回折角で回折される。その後、回折された軟X線は、平面鏡94で反射され、出力光102となって出射スリット95から出力される。ここで、多層膜ラミナー型回折格子93を回転させ、軟X線の入射角及び出射角を変化させることによって出力される波長が走査され、平面鏡94をこの回転に同期して回転させることによって、この波長の軟X線が出力光102となって出射スリット95から出力される。
この構成においては、多層膜ラミナー型回折格子(回折格子)93を回転させることによって入射光101の入射角度及び回折角度を変化させ、その回折光の波長を変化させる。この際、表面の溝間隔を不等とした多層膜ラミナー型回折格子93を特に用いることによって、広い波長帯域の中から回折光の波長を設定することができる。ここで、一般に、分光器においては、分光された光を出射スリット95を通して出力することによって単色の出力光102を得る。入射光101と出力光102の方向(入射光101の入射箇所と出力光102の出力箇所)は固定されるため、入射スリット91及び出射スリット95がそれぞれ入射側及び出力側に固定して設置される。この例では、多層膜ラミナー型回折格子93の回転に応じて回折される方向が変わるため、常に固定された出射スリット95に回折光を導くために、平面鏡94を並進及び回転させている。従って、多層膜ラミナー型回折格子93の回転と同期させて平面鏡94を並進及び回転させることが必要になる。
特開2006−133280号公報
しかしながら、上記の構成において、多層膜ラミナー型回折格子93と平面鏡94とを同期して並進、回転させるためには、複雑な機械的機構が必要となった。すなわち、単一の回転機構だけではなく、2つの回転機構と1つの並進機構を同期して動作させる機構が必要となった。また、こうした複雑な駆動機構の信頼性は低くなった。
すなわち、単純な構成で広い波長帯域から単色光を出力することのできる分光器を得ることは困難であった。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の回折格子分光器は、入射光を分光し、出射スリットを通して単色光を出力する分光器であって、点対称な位置に互いの回折面の接平面が平行かつ対向するように配置された入射側回折格子及び出射側回折格子と、前記入射側回折格子、前記出射側回折格子、及び前記点対称の中心の位置関係を固定した状態で前記点対称の中心の回りで前記入射側回折格子と前記出射側回折格子とを回転させて前記単色光の波長走査を行う回転機構と、を具備し、前記入射光が前記入射側回折格子に入射して回折された回折光が前記出射側回折格子に入射し、前記出射スリットは、前記出射側回折格子からの回折光を通過させて出力することを特徴とする。
本発明の回折格子分光器は、前記入射光を通過させる入射スリットを具備することを特徴とする。
本発明の回折格子分光器において、前記入射側回折格子と前記出射側回折格子の回折面は共に凹面形状であることを特徴とする。
本発明の回折格子分光器は、前記入射側回折格子及び前記出射側回折格子における回折面上の溝の間隔が不等間隔であり、出力される前記単色光の結像特性に応じて前記溝の間隔がそれぞれにおいて設定されたことを特徴とする。
本発明の回折格子分光器は、前記入射側回折格子の像点及び前記出射側回折格子の物点が前記点対称の中心と等しくされたことを特徴とする。
本発明の回折格子分光器は、前記回折格子分光器であって、前記入射側回折格子及び前記出射側回折格子として、基板上の回折面において断面が矩形形状の複数の溝が配列して形成された回折格子構造が形成され、低密度物質層と、前記低密度物質層よりも密度が高い高密度物質層とが交互に周期的に積層されて形成された多層膜構造が前記回折面上に設けられ、前記回折面側に向かって入射する入射光を回折した回折光を出力する多層膜ラミナー型回折格子であって、前記多層膜構造は、前記低密度物質層と前記高密度物質層が積層された周期長が均一でなく、所望波長域内の一波長の入射角、回折角が拡張ブラッグ条件を満たす周期長を持つ複数の階層から構成され、当該複数の階層における前記周期長は、前記基板側で小さく、前記入射光が入射する側で大きくなるように設定されたことを特徴とする多層膜ラミナー型回折格子、が用いられたことを特徴とする。
本発明の回折格子分光器は、前記多層膜ラミナー型回折格子において、前記複数の階層は、一つの階層による回折効率と、前記一つの階層よりも前記入射光側にある全ての階層による前記入射光及び前記回折光の透過率との積が、均一となるように設定されたことを特徴とする。
本発明は以上のように構成されているので、単純な構成で広い波長帯域から単色光を出力することのできる分光器を得ることができる。
本発明の第1の実施の形態となる回折格子分光器の構成を示す図である。 本発明の第1の実施の形態となる回折格子分光器における光学系を回転させた際の構成を示す図である。 本発明の第2の実施の形態において用いられる多層膜ラミナー型回折格子の断面構造を示す図である。 本発明の第2の実施の形態において用いられる多層膜ラミナー型回折格子の回折面に設けられた多層膜構造の断面構造を示す図である。 単純化したモデルで算出された、多層膜ラミナー型回折格子の回折効率スペクトルである。 シミュレーションにより算出された、多層膜ラミナー型回折格子の回折効率スペクトルである。 多層膜ラミナー型球面回折格子を用いた多色計の構成を示す図である。 多層膜ラミナー型球面回折格子を用いた多色計の出力面における波長毎の光線分布と強度分布を光線追跡法で求めた結果である。 第3の実施の形態となる回折格子分光器の構成を示す図である。 第3の実施の形態となる回折格子分光器における、入射側回折格子で回折後の回折効率スペクトル、及び出射側回折格子で回折後の回折効率スペクトルを示す図である。 回折格子を用いた従来の分光器の一例の構成を示す図である。
(第1の実施の形態:単色計の構成)
以下、本発明の実施の形態に係る回折格子分光器の一例である単色計及びこの単色計で実施される分光方法について説明する。ここでは、この単色計の基本構成を図1に示す。この単色計(回折格子分光器)200においては、回転中心210を中心とした点対称な位置に入射側回折格子220と出射側回折格子230とが配置されている。入射側回折格子220の回折面221と出射側回折格子230の回折面231とは平行かつ対向するように配置される。軟X線である入射光250は、入射側回折格子220の回折面221で回折された後で再び出射側回折格子230の回折面231で回折される。この回折光においては、回折される光の波長には大きな回折角度依存性がある。従って、固定された出射スリット240にこの回折光を通せば、出力光260を単色光とすることができる。ただし、この場合の単色光とは、ある特定の狭い波長域においてのみ強い強度を有する特性X線のような厳密な単色光である必要はなく、ある特定の波長でピークをもつ光(X線)も含むものとする。また、入射光250は、軟X線領域におけるある波長帯域で有限の強度をもつ光であり、例えば放射光である。この入射光250を制限するために入射スリット245が固定されて用いられている。出射スリット240、入射スリット245、回転中心210の位置関係も固定される。
入射側回折格子220と出射側回折格子230とは、回転中心210を中心とした点対称な位置に設置されており、かつ、入射側回折格子220、出射側回折格子230、及び回転中心210の位置関係は固定されている。また、これらが固定された構造(以下、光学系300と呼称)は、回転中心210の回りで回転できるような回転機構が用いられる。この構成を実現するためには、入射側回折格子220と出射側回折格子230とを連結アームを用いて上記の関係となるように固定し、この連結アームの中心を回転軸(回転中心210)として回転動作が可能なように支持すればよい。その回転角度は、例えばステッピングモーター等を用いれば、厳密な制御が可能である。
図1の状態においては、入射光250の入射側回折格子220(回折面221)の中心に対する入射角はαであり、ここで回折された回折光のうち、出射側回折格子230(回折面231)の中心に向かう回折光の回折角はβである。ここで、これらの角度は回折面221の法線とのなす角度として定義している。一方、この回折光の出射側回折格子230(回折面231)に対する入射角はβとなり、出力光260の出射側回折格子230(回折面231)における回折角はαとなる。すなわち、入射角と回折角の関係は、入射側回折格子220と出射側回折格子230とで逆となる。また、入射側回折格子220の回折面221と出射側回折格子230の回折面231とは平行であるため、入射光250と出力光260とは平行である。
この光学系300を回転中心210の回りで角度φだけ回転させた後の状態を図2に示す。この場合においても、入射側回折格子220、出射側回折格子230の位置関係は固定されているため、入射側回折格子220で回折された回折光のうち出射側回折格子230(回折面231)の中心に向かう回折光の回折角、及びこの回折光の出射側回折格子230(回折面231)に対する入射角は共にβであり、回転角度に依存せずに一定となる。
一方、入射光250の入射側回折格子220(回折面221)の中心に対する入射角はα−φ´となり、出力光260の出射側回折格子230(回折面231)における回折角もα−φ´となる。ここで、φ´はφと近い角度であり、入射スリット245と入射側回折格子220との間の距離、及び出射側回折格子230と出射スリット240との間の距離が大きい場合にはφ´=φとみなすことができる。従って、この回転動作により、入射側回折格子220における入射角と、出射側回折格子230における回折角が制御される。この構成においては、入射光250が入射角α−φ´、回折角βの条件で入射側回折格子220で回折された際のスペクトルをもつ回折光が、更に、入射角β、回折角α−φ´の条件で出射側回折格子230で回折される。ただし、この回転の際においても入射側回折格子220と出射側回折格子230との位置関係は変化しないため、入射光250と出力光260とが平行であることには変わりがない。
入射側回折格子220から出射側回折格子230に向かう回折光がある一定の波長帯域において有限の強度分布をもつ場合、この波長帯域の光が出射側回折格子230で更に分光され、出射スリット240を通って出力光260となる。従って、この出力光260は、ある一定の波長における強度が高い光(単色光)となる。この単色光の波長(スペクトル波長)は、回転角度φ、すなわち、回転機構による回転角度で設定されるため、これを走査することが容易であり、上記の構成は単色計として機能する。
この構成においては、光学系300の回転動作だけで、出力光260の波長(スペクトル波長)を設定できる。従って、単純な回転機構(単純な構成)で広い波長帯域から単色光を出力することができる。また、常に入射光250と出力光260を平行とすることができる。
なお、図1、2は、この単色計200の構成を模式的に示したものであり、角度α、β等は、後述するように、入射側回折格子220、出射側回折格子230の特性や入射光250のスペクトル分布、出力光260に求められるスペクトルの領域等に応じて適宜設定される。
(第2の実施の形態;平面回折格子を用いた場合)
上記の構成の単色計において、充分な強度の出力光260を得るためには、ある波長における出力光260の強度(スペクトル強度)は、この波長における入射光250の強度(スペクトル強度)と、入射角α−φ´、回折角βの場合のこの波長の入射側回折格子220の回折効率と、入射角β、回折角α−φ´の場合のこの波長の出射側回折格子230の回折効率との積で決定される。入射側回折格子220及び出射側回折格子230の回折効率が広い波長帯域で高くなっていれば、特定の波長におけるこれらの回折効率の積を大きくし、出力光260の強度を高くすることができる。こうした特徴をもつ回折格子としては、具体的には、以下に示す多層膜ラミナー型回折格子がある。
初めに、単純な例として回折面が平面状である多層膜ラミナー型回折格子について説明する。この多層膜ラミナー型回折格子10の回折面に形成された溝に垂直な方向の断面構造を図3に、そのうちの多層膜構造20の拡大断面図を図4に示す。この多層膜ラミナー型回折格子10は、軟X線領域の光を回折面で回折し、分光する。
図3において、基板11の上面(回折面)には複数の溝が形成されており、そのピッチ(格子定数:溝の谷部の長さgと山部の長さgの和)はσ、溝深さはhとする。αは、回折面の法線(一点鎖線)から測定した入射光15(軟X線)の入射角であり、βはその回折光16の回折角である。α、βにおいては、法線から左回りの場合を正、右回りの場合を負とする。この場合の回折の次数はmで表される。ここで、格子定数σは、刻線密度(単位長さ当たりの溝の数)の逆数となる。この構成は、一般的な回折格子構造である。
ここで、基板11の材質としては石英等を用いることができる。これに上記の構造(回折格子構造)を形成するためには、例えば溝のパターンをフォトリソグラフィを用いてフォトレジストで形成した後に、これをマスクとしてイオンビームエッチング法等を行ってhの深さだけ基板11のエッチングを行う。また、回折面上においてσが均一である場合には、2光束のレーザー光による干渉パターンを用いてフォトレジストを感光させ、上記のマスクとして用いることもできる。
この多層膜ラミナー型回折格子10における回折面には、特許文献1に記載されるものと同様に、低密度物質層31と高密度物質層32とが交互に積層された多層膜構造20が一様に形成されている。低密度物質層31を構成する材料、高密度物質層32を構成する材料は、共に、単体元素であっても、化合物であってもよい。ただし、高密度物質層32と低密度物質層31の密度比は大きいことが回折効率を高める上では好ましい。この多層膜構造20は、図3、4に示されるように、膜厚方向で複数(本例では5つ)に階層化されており、上側から第1層21、第2層22、第3層23、第4層24、第5層25が順次形成されている。第1層21〜第5層25の各々が低密度物質層31と高密度物質層32で構成されるが、第1層21〜第5層25のそれぞれにおいて、多層膜の周期長(低密度物質層31と高密度物質層32の厚さ)が異なり、第1層21側(入射光が入射する側)でこの周期長が大きく、第5層25側(基板11側)でこの周期長が小さくなるように設定される。第1層21〜第5層25の各々の階層内においては、この周期長は一定となっている。なお、図4は多層膜構造の概要を示す図であるため、各階層における周期長や層数は実際のものとは異なる。
この多層膜構造20(第1層21〜第5層25)は、例えばスパッタリング法によって形成することができる。この場合、低密度物質層31を構成する材料(例えばSiO)からなるターゲットと、高密度物質層32を構成する材料(例えばCo)からなるターゲットと適宜切替え、各々のスパッタリング時間を調整することで、各層の厚さを調整することが可能である。
仮に、多層膜構造20が階層化されておらず、膜厚方向の全てにわたって単一の周期長で構成された場合の上記のパラメータの設定については、例えば特許文献1に記載されている。まず、この場合、回折格子構造における回折条件は、以下の式で与えられる。ここで、λは入射光(軟X線)の波長である。
Figure 2011106842
多層膜ラミナー型回折格子の場合、多層膜構造20による回折の効果も加わるため、更に、以下の式も満たされる必要がある(拡張ブラッグ条件)。ここで、mは多層膜の干渉次数である。
Figure 2011106842
Figure 2011106842
Figure 2011106842
ここで、Dは多層膜構造20における多層膜の周期長であり、δは、多層膜構造20の平均屈折率(膜厚比を考慮した低密度物質層31と高密度物質層32の複素屈折率の実部の加重平均)をnとしてδ=1−nである。なお、軟X線領域における屈折率nは、1よりも小さくかつ1に極めて近い値である。
溝深さhは、溝の底部と上部からの回折光における位相整合条件により、以下の式で表される。
Figure 2011106842
例えば、格子定数σを1/2400(mm)とし、回折格子の回折次数mGを+1次、多層膜構造20の回折次数mを+1次とし、波長λを0.33nm(3757eV)、入射角αを88.65°とした場合を考える。多層膜構造20における低密度物質層31はSiOとし、高密度物質層32はCoとし、多層膜構造20における周期長に対する高密度物質層32の厚さ比を0.4とする。この場合、(1)式と(2)式の両方を満たす周期長は5.00nm、回折角βは−87.361°となり、溝深さhは2.341nmとなる。
シミュレーションによると、多層膜構造20における周期数を24とし、溝深さhを3.0nmとした場合の回折効率は、波長λが0.33nmのときに最大で42.4%となり、その半値幅は、0.018nm(208eV)となる。半値幅でなく、最大の10%の回折効率が得られる幅としても0.028nm(321eV)となる。これらの値は、波長の1/10以下であり、実用上は極めて小さい。このように、周期長が単一である場合、回折効率のピーク値は高いものの、回折効率の半値幅が小さくなるため、使用できる波長帯域は極めて狭くなる。
そこで、この多層膜ラミナー型回折格子10においては、多層膜構造20を階層化し、第1層21〜第5層25における多層膜の周期長を変化させている。ここで、各階層(第1層21〜第5層25)は、出力(回折)すべき波長において拡張ブラッグ条件(2)式が満たされるように設定される。ここで、図4に示されるように、周期長は、上側にある第1層21側で大きく、下側にある第5層25で小さくなるように設定される。これにより、第1層21、第2層22、第3層23、第4層24、第5層25によってそれぞれ最適化された波長は、それぞれλ、λ、λ、λ、λ(λ>λ>λ>λ>λ)となる。この構成においては、多層膜構造20中での吸収が大きい長波長の光は表面近くの階層で回折され、多層膜構造20中での吸収が小さな短波長の光は下側の階層で回折される。
ただし、多層膜構造20がこうした階層構造をとる場合、例えば第5層25へ入射する光は第1層21〜第4層24を透過した光であり、第5層25で回折された光は第1層21〜第4層24を透過して出射する。従って、この場合には、第5層25へ入射する光及び第5層で回折された光に対しては、第1層21〜第4層24の影響を考慮する必要がある。すなわち、第i層の入射光、回折光に対しては、第1層〜第(i−1)層までによる吸収の影響を考慮する必要がある。すなわち、ある一つの階層による特定の波長の回折効率を考慮するに際しては、この階層単体による回折効率と、この階層よりも上側(入射光側)にある全ての階層による入射光及び回折光の透過率との積を算出し、これが各階層において均一であることが好ましい。このためには、以下の式が成立することが必要である。
Figure 2011106842
ここで、各階層への入射角は一定(=α)であるとし、第i層からの回折角をβとしている。Rは、第i層が単独で存在した場合の回折効率、ηは、低密度物質層31と高密度物質層32の波長λにおける消衰係数の膜厚比に応じた加重平均値である。Dは、第i層の厚さ(=周期数×周期長)である。ここで、多層膜構造20表面での入射光、回折光の屈折、第j層(j≠i)における波長λの光の反射、屈折は無視している。なお、(6)式中の左辺のexp()で表される部分は、第i層よりも上側にある全ての階層(上層)における波長λの光の透過率を示す。
実際に、上記の条件を設定した具体例について説明する。回折格子のパラメータは、前記の通り、σ=1/2400(mm)、入射角α=88.65°、溝深さh=3.0nmとし、回折次数m=+1、干渉次数m=+1とした。低密度物質層31はSiO、高密度物質層32はCoとし、周期長に対する高密度物質層32の比率は0.4と固定し、周期長を5つの階層で異ならせ、λを異ならせた。各階層における回折効率Ri、(6)式における上層の透過率、(6)式の値を計算した一例の結果を表1に示す。
Figure 2011106842
表1の結果を元に、各波長毎に各階層の回折効率及びこの階層よりも上側の階層による吸収率を算出し、各階層毎の総和をとれば、単純化して計算された回折効率スペクトルを得ることができる。この特性を図5に示す。一方、第1層〜第5層を図4のように順次形成した構成についてシミュレーションを行って算出した回折効率スペクトルを図6に示す。シミュレーションにより算出された回折効率スペクトル(図6)においては、単純化して算出した回折効率スペクトル(図5)と比べて山と谷との差分が大きくなっているものの、0.32〜6.0nmの帯域において2%以上の回折効率を得ることができることが確認できる。
従って、この多層膜ラミナー型回折格子10が回折、分光できる光の波長帯域は広くなる、すなわち、この多層膜ラミナー型回折格子10を広い波長帯域で使用することができる。従って、この多層膜ラミナー型回折格子10を、第1の実施の形態における単色計200における入射側回折格子220及び出射側回折格子230として用いることができる。この場合、入射光250が同一仕様の多層膜ラミナーで2回回折されて出力されるため、出射側回折格子230で回折後の回折効率スペクトルは、図6の回折効率スペクトルの2乗となる。
(第3の実施の形態:球面回折格子を用いた場合)
第3の実施の形態は、第1の実施の形態における単色計200における入射側回折格子220及び出射側回折格子230として、前記の多層膜ラミナー型回折格子における回折面を凹面(球面形状)とし、かつ格子定数σがこの面上で均一ではない多層膜ラミナー型球面回折格子を用いた場合である。格子定数σを不均一とする、すなわち、溝間隔を不等とする構成については、特許文献1に記載されたものと同様である。また、回折面を、集光能力がある球面形状とする構成については、例えば、T.Imazono、M.Ishino、M.Koike、H.Sasai、and K.Sano、”Fabrication and evaluation of a wide−band multilayer−type holographic grating for use with a soft X−ray flat field spectrograph in the region of 1.7keV.”、 Applied Optics、 vol.46、p.7054(2007年)に記載されているものと同様である。なお、この場合には、第1の実施の形態において入射側回折格子の回折面と出射側回折格子の回折面を平行とした点については、入射側回折格子の回折面の接平面と出射側回折格子の回折面の接平面を平行としたと置き換えることができる。
この多層膜ラミナー型球面回折格子40を用いて、図7に示すように多色計50を構成することができる。この多色計50においては、入射スリット51を通過した単色でない入射光61が、この多層膜ラミナー型球面回折格子40に入射する。多層膜ラミナー型球面回折格子40で回折、分光された回折光62は、ここでは平面状の検出面をもつ出力面63に入射する。入射スリット51におけるスリットは図7中の上下方向に形成され、この方向に広がる入射光61を、波長毎にこの出力面63上で結像するように設定される。すなわち、この出力面63がこの多色計の出力光の結像面となるように設定される。
ここで、多層膜ラミナー型球面回折格子40中心における回折面の法線方向をx軸とし、入射光61及び回折光62を含む面上においてx軸と直交する方向をy軸とし、x軸及びy軸と直交する方向をz軸とする。多層膜ラミナー型球面回折格子40における溝(刻線)はz軸に平行に形成され、y軸方向に並んで形成されているものとする。この場合、光軸上の入射角α、回折角(出射角)β、出力面63と多層膜ラミナー型球面回折格子40の接平面とのなす角θは、それぞれ図示するように表される。また、多層膜ラミナー型球面回折格子40における回折面中心での接平面と結像面との交点と、回折面中心との距離をLとする。図中のr(入射スリット51と多層膜ラミナー型球面回折格子40までの距離)とr’(多層膜ラミナー型球面回折格子40と出力面63までの距離)、凹形状の曲率半径Rは、α、β、θ、L等との関係より、結像点が出力面63上になるように設定される。
この結像特性は、多層膜ラミナー型球面回折格子40の曲率半径R、格子定数σ等を用いて表される。この際、その溝間隔は不等であり、σは均一ではない。この場合、特許文献1に記載されている場合と同様に、多層膜ラミナー型球面回折格子40におけるy軸方向における位置をwで表した場合、位置wにおける溝は原点から見て何番目の溝であるかを示すn(w)を、以下に示すように、wの多項式として表すことができる。ここで、n、n、nは、不等間隔を規定するパラメータであり、σは格子定数の基準値である。
Figure 2011106842
、n、nは、結像特性が最適となる、すなわち、所定の波長領域の光が検出器63上に結像されるように設定される。この設定は、光学シミュレーションを用いて行うことができる。なお、n(w)は、結像特性を調整するために適宜設定することができ、他の近似式を用いてもよい。
具体例として、y=0での格子定数をσとして1/2400(mm)、αを88.65°、rを236.756mm、θ=90°、L=233.5mmとする。多層膜ラミナー型球面回折格子40の大きさは、幅(y軸方向)50mm、高さ(z軸方向)30mmとする。この場合、最適な不等間隔パラメータは、n=−3.32729×10−3mm−1、n=1.26818×10−5mm−2、n=−7.49441×10−8mm−3、であった。
この場合の出力面63上の光線分布とその強度分布を光線追跡法を用いて求めた結果を図8に示す。ここで、波長(λ)は0.3nm、0.4nm、0.5nm、0.6nmの4種類と、これらの各波長に対して、λ±λ/100の波長に対しても算出している。この場合、横(Width)方向が分散方向となり、強度(Intensity)は、これと垂直な方向(Height)にわたる光線の積分値を示す。入射光61においては、入射スリット51によって横方向の広がりは制限されているが、縦方向には広がりをもっている。しかしながら、どの波長においても、出力面63においては、有限の大きさに結像されている。このように、この多色計50は、少なくとも一方向に広がりをもつ単色でない入射光を、出力面63上において波長毎に結像することができる。
図8の結果から算出された各波長における分解能は、最高で0.4nmのときの1471、最低でも0.6nmの場合でも389である。従って、これらの波長範囲で充分な分解能を有していることが確認できる。また、単一の入射光から同時にこれらの波長の光を出力することができるため、多色計として用いることができる。
この同一仕様の多層膜ラミナー型球面回折格子40を特に入射側回折格子220及び出射側回折格子230とした場合に、図9に示すように、入射側回折格子(多層膜ラミナー型球面回折格子)225の像点が回転中心210と一致し、出射側回折格子(多層膜ラミナー型球面回折格子)235の物点も回転中心210と一致するような共役な構成とすることができる。この構成は、図7に示された多色計50を回転中心210に対して共役に接続した構成と等価である。この場合には、図9中の破線で示された円形の結像面290上に入射スリット245及び出射スリット240が位置する構成とすれば、光学系300の回転運動に際しても、結像焦点が出射スリット240からずれることがない。すなわち、出射スリット245において、光学系300の回転角度に依存せずに分光後の光を高強度で得ることが可能である。なお、図9中では光軸上の断面形状として示されているために、結像面290は円形となっている。実際には、結像面290は、出射側回折格子235で結像される領域をこの円形に沿って延長させた形状となる。
実際に、上記の多層膜ラミナー型球面回折格子40におけるパラメータを以下に示す通りとして、計算を行った。まず、曲率半径R=11350mm、σ0=1/2400(mm)(格子幅50nm、溝深さ2.5nm)、n=−3.51×10−3mm−1、n=1.16×10−5mm−2、n=−4.51×10−8mm−3、とした。多層膜構造における低密度物質層はSiO、高密度物質層はCoとし、膜周期が上から5.80nm、5.39nm、5.00nmの3階層構造(各階層は10周期分積層)とした。入射スリット245から入射側回折格子(多層膜ラミナー型球面回折格子)225の回折面中心までの距離は236.7mmとし、その入射角は88.65°とした。
この構成における入射側回折格子225で回折後の回折効率スペクトル、及び出射側回折格子235で回折後の回折効率スペクトル(前記の回折効率スペクトルの2乗)を図10に示す。波長が0.35nm〜0.4nmの領域で高い回折効率が得られている。また、この単色計においては2回回折されるために、回折効率の絶対値は1回回折の場合と比べて低下しているものの、出射側回折格子235で回折後においても、最大回折効率として5%程度が得られている。しかしながら、例えば、同じ幾何学パラメータをもつラミナー型回折格子の表面に、多層膜構造を形成する代わりに金蒸着を施した構造における波長1.2nm(1keV)程度のX線の回折効率は1%程度である。従って、上記の回折効率は充分に実用に耐える値であることが確認できる。上記の構成の多層膜ラミナー型球面回折格子を用いた単色計(回折格子分光器)は、1keV以上のエネルギーをもつX線を得る場合に特に有効である。
このように、上記の構成の多層膜ラミナー型球面回折格子を第1の実施の形態の単色計に用いた場合には、特に良好な特性が得られる。すなわち、広い波長帯域をもち、結像作用をもつ回折格子を入射側回折格子及び出射側回折格子とし、これらの結像特性を上記のとおりに整合すれば、特に良好な特性を得ることができる。
また、上記において、入射側回折格子225と出射側回折格子235として同一仕様のもの(多層膜ラミナー型球面回折格子40)を用いるとしたが、図9の構成を実現するためには、結像特性が同一であればよい。すなわち、例えば入射側回折格子225と出射側回折格子235の多層膜構造(これによって決まる回折可能な波長帯域)は必ずしも同一でなくともよい。ただし、出射側回折格子235で回折後の回折効率スペクトルは、入射側回折格子225の回折効率と出射側回折格子235単独の回折効率との積で決まるため、回折効率スペクトルも同一とした場合の方が、これらが異なる場合と比べて出力できる波長帯域をより広くすることができる。従って、結像特性及び回折効率スペクトルを同一とした回折格子を入射側回折格子225と出射側回折格子235のそれぞれに用いることがより好ましい。
なお、上記の構造の多層膜ラミナー型回折格子、あるいは多層膜ラミナー型球面回折格子以外の回折格子であって、同様に広い波長帯域の光を回折させることができ、かつ結像作用をもつ回折格子であれば、同様に用いることができることは明らかである。例えば、前記と同様の不等間隔溝が形成されているが多層膜構造は設けられていないラミナー型球面回折格子を入射側回折格子及び出射側回折格子として用いた場合でも上記の構成を実現することができる。また、上記の回折格子分光器あるいは分光方法は、上記のとおり、従来分光が困難であった1keV以上のエネルギーをもつX線に対して特に有効であるが、これ以外の波長領域においても有効であることは明らかである。
また、上記の例において、像点や物点を回転中心に一致させるとしたが、厳密に一致させる必要はなく、上記の効果を奏する許容範囲内で一致させれば充分である。結像特性や回折効率スペクトルを同一とするとした点についても同様である。
10、93 多層膜ラミナー型回折格子
11 基板
15、61、101、250 入射光
16、62 回折光
20 多層膜構造
21 第1層
22 第2層
23 第3層
24 第4層
25 第5層
31 低密度物質層
32 高密度物質層
40 多層膜ラミナー型球面回折格子(多層膜ラミナー型回折格子)
50 多色計(回折格子分光器)
51、91、245 入射スリット
63 出力面
92 凹面鏡
80 多層膜ラミナー型平面回折格子(多層膜ラミナー型回折格子)
90、200 単色計(回折格子分光器)
94 平面鏡
95、240 出射スリット
102、260 出力光
210 回転中心
220、225 入射側回折格子
221、231 回折面
230、235 出射側回折格子
290 結像面
300 光学系

Claims (7)

  1. 入射光を分光し、出射スリットを通して単色光を出力する回折格子分光器であって、
    点対称な位置に互いの回折面の接平面が平行かつ対向するように配置された入射側回折格子及び出射側回折格子と、
    前記入射側回折格子、前記出射側回折格子、及び前記点対称の中心の位置関係を固定した状態で前記点対称の中心の回りで前記入射側回折格子と前記出射側回折格子とを回転させて前記単色光の波長走査を行う回転機構と、を具備し、
    前記入射光が前記入射側回折格子に入射して回折された回折光が前記出射側回折格子に入射し、前記出射スリットは、前記出射側回折格子からの回折光を通過させて出力することを特徴とする回折格子分光器。
  2. 前記入射光を通過させる入射スリットを具備することを特徴とする請求項1に記載の回折格子分光器。
  3. 前記入射側回折格子と前記出射側回折格子の回折面は共に凹面形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回折格子分光器。
  4. 前記入射側回折格子及び前記出射側回折格子における回折面上の溝の間隔が不等間隔であり、出力される前記単色光の結像特性に応じて前記溝の間隔がそれぞれにおいて設定されたことを特徴とする請求項3に記載の回折格子分光器。
  5. 前記入射側回折格子の像点及び前記出射側回折格子の物点が前記点対称の中心と等しくされたことを特徴とする請求項3又は4に記載の回折格子分光器。
  6. 請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の回折格子分光器であって、
    前記入射側回折格子及び前記出射側回折格子として、
    基板上の回折面において断面が矩形形状の複数の溝が配列して形成された回折格子構造が形成され、低密度物質層と、前記低密度物質層よりも密度が高い高密度物質層とが交互に周期的に積層されて形成された多層膜構造が前記回折面上に設けられ、前記回折面側に向かって入射する入射光を回折した回折光を出力する多層膜ラミナー型回折格子であって、
    前記多層膜構造は、前記低密度物質層と前記高密度物質層が積層された周期長が均一でなく、所望波長域内の一波長の入射角、回折角が拡張ブラッグ条件を満たす周期長を持つ複数の階層から構成され、
    当該複数の階層における前記周期長は、前記基板側で小さく、前記入射光が入射する側で大きくなるように設定されたことを特徴とする多層膜ラミナー型回折格子、
    が用いられたことを特徴とする回折格子分光器。
  7. 前記多層膜ラミナー型回折格子において、
    前記複数の階層は、
    一つの階層による回折効率と、前記一つの階層よりも前記入射光側にある全ての階層による前記入射光及び前記回折光の透過率との積が、均一となるように設定されたことを特徴とする請求項6に記載の回折格子分光器。
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