JP2022068891A - ブレーキディスクローター用ステンレス鋼板、ブレーキディスクローター及びブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents

ブレーキディスクローター用ステンレス鋼板、ブレーキディスクローター及びブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法 Download PDF

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Toshiki Yoshizawa
純一 濱田
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Abstract

【課題】潤滑性、加工性、高温強度に優れたブレーキディスクローター用ステンレス鋼板を提供する。【解決手段】母相に存在する粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上であるブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。硫化物が伸長することで潤滑作用が効果的に発揮され、潤滑性を確保しつつ、ホットスタンプ中の割れを抑制し、さらに高温強度の低下を抑制することができる。これにより、ディスクローターに適用可能な潤滑性、加工性、高温強度に優れたステンレス鋼板が得られる。【選択図】なし

Description

本発明は、潤滑性、加工性、高温強度に優れた、ブレーキディスクローター用ステンレス鋼板、ブレーキディスクローター及びブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法に関するものであり、安定した摩擦係数と薄肉軽量化が必要なディスクローターなどの使用に好適なステンレス鋼板に関するものである。
ブレーキシステムの一つとしてディスクブレーキが広く用いられている。これはタイヤと結合されたディスクローターと呼ばれる円盤状の構造物をブレーキパッドで押しはさむことで、摩擦によって運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、自動車や二輪車の速度を低下させるものである。自動車ではディスクローターの材質には熱伝導率やコスト等から片状黒鉛鋳鉄(以下、鋳鉄と呼ぶ)が用いられている。
鋳鉄は耐食性を向上させる元素が添加されていないため耐食性に劣り、放置するとすぐに赤さびが発生する。従来この赤さびはディスクの位置が視線より低いこととホイールの形状からあまり目立たなかった。しかし、近年の燃費向上の要請によりホイール材質がアルミニウム化され、またスポークが細くなることで、ディスクのさびが無視できないようになり、その耐食性の改善が望まれてきている。
耐食性に優れる材料としてステンレス鋼があり、バイクなどの二輪車にはマルテンサイト系のSUS410系の材料が広く用いられている。これは二輪車のディスクローターがむき出しで人目につきやすく耐食性が重視されるためである。一方でステンレス鋼は熱伝導性が鋳鉄よりも劣る課題がある。二輪車においてはブレーキシステムがむき出しで、冷却性に優れているため通常の使用においてはステンレス鋼でも問題なく使用されている。ただし、二輪車においてもレース等の過酷な制動状況においてはディスクローターが過度に加熱され摩擦係数が安定しにくい課題がある。自動車の場合はタイヤを含むブレーキシステムがタイヤハウス内に収められているため、ディスクローターが冷却されにくく、熱伝導性が低いことが課題の一つになり、ステンレス鋼は適用されてこなかった。
ところが近年のEV、FCV、HV車などでは、走行時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し回収する「回生ブレーキ」の採用が急激に伸びている。この適用により、ディスクローターとパッドの摩擦で生じていた摩擦熱が低減するため、鋳鉄よりも熱伝導率が劣るステンレス鋼にも適用の可能性が広がっている。
自動車のディスクブレーキへのステンレス鋼の適用を妨げていたもう一つの課題は成形性である。二輪車のディスクローターはリング状の円盤形で、板状のステンレス鋼から打ち抜き加工して製造されるため大きな加工はない。一方、現状の自動車のディスクローターは、ハット形状と呼ばれる、円盤の中央を絞ったような形状であり、鋳造によって製造されている。このような形状のものを、ステンレス鋼板を素材として加工して成形するには深絞り加工が必要となる。ただし二輪車で用いられてきたステンレス鋼はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、非常に硬度が高くその加工が困難であった。これを解決する一つの方法として、高温でプレス加工するホットスタンプが近年広まっている。これによりステンレス鋼も精度よくハット形状を成形することができてきた。
さらに近年の環境規制強化に伴い、自動車の燃費向上が強く望まれており、そのためにディスクローターの薄肉軽量化が必要となる。しかし鋳鉄は強度が低く、また鋳造で作製されるために薄肉化に限界がある。加えて自動車のブレーキ時の到達温度は最大で700℃近傍に達するといわれている。また山道などのブレーキを多用する走行条件における到達温度は300℃になる場合がある。鋳鉄は高温強度が低く、薄肉化した際に高温ではディスクローターとして必要な強度を確保できないため薄肉軽量化できないという課題があった。
こうした背景のなか、自動車における近年の美観や成形性、薄肉軽量化の要請に対応するためには、ディスクローターのステンレス鋼化が必要となる。また二輪車でもレース等の過酷な制動状況における摩擦係数の安定性の要請に対応する必要がある。しかしステンレス鋼は鋳鉄と異なり片状に分散した黒鉛による潤滑作用がなく、特定の条件で摩擦係数が過剰に高くなる課題があった。過剰な高摩擦係数化はディスクローターおよびブレーキパッドの異常な摩耗によるブレーキの効きの不安定化や短寿命化を招く。
ステンレス鋼製ディスクローターに関して特許文献1があるが、主として加工性や耐食性に着目しており、潤滑性には着目していない。また、特許文献2ではCuおよびMnS活用し、耐摩耗性を向上させた鉄基焼結合金が記載されているが、ステンレス鋼に関する発明ではなくステンレス鋼製ディスクローターに関する記載はない。
特許第6537659号公報 特開2009-155696号公報
本発明は、潤滑性、加工性、高温強度に優れたブレーキディスクローター用ステンレス鋼板に関するものである。本発明の解決しようとする課題の対象となる部品は、制動系部品、特にディスクローターである。
ディスクローターは、ブレーキ時は常に摩擦されるため、安定した摩擦係数を発揮するためには潤滑性が要求される。自動車ブレーキの現行材である鋳鉄はパーライトおよび黒鉛からなる組織であり、黒鉛が固体潤滑材として作用するため安定したブレーキ性能を発揮することができる。しかしながらステンレス鋼ではCを添加するとCr炭化物が析出するため、Cを黒鉛として存在させることはできない。
また自動車のディスクローターはハット形状であるため、成形性が要求される。さらに到達温度は一般的な市街地走行では100℃程度、山道の走行では300℃程度、最大では700℃近傍に達するため、薄肉化のためには中温域~高温域における強度が要求される。鋳鉄は鋳造によって成型されるため、ディスクローターを薄肉化すると湯流れが悪くなり、成型できない場合がある。また、強度が低いため薄肉化を行うとディスクローターとして十分な強度を確保できない問題があった。
本発明は優れた潤滑性、加工性、高温強度を有する、ブレーキディスクローター用ステンレス鋼板、ブレーキディスクローター及びブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法を提供するものである。
上記課題を解決するために、本発明者らはステンレス鋼板の介在物に着目して詳細に調査した。本発明が対象とする鋼板は製鋼段階にて介在物が晶出する。介在物はその形状および分散状態を適切に制御することで、部品として使用する際に介在物が固体潤滑材となり潤滑性を向上させる。しかし、介在物の形状が球状であるとホットスタンプ加工時使用時に割れが生じやすくなったり、高温強度が低下する可能性がある。そこで、熱延の圧下率を大きくすることで、ホットスタンプ時の割れを抑制し、部品として使用する際に潤滑性を確保しつつ、高温強度の低下を抑制できると考えた。そして、かかる目的を達成すべく種々の検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
S添加量を適切に制御し、かつ熱延時の圧下率を85%以上にすることで、硫化物を伸長させる。硫化物が伸長することで潤滑作用が効果的に発揮され、潤滑性を確保しつつ、ホットスタンプ中の割れを抑制し、さらに高温強度の低下を抑制することができる。これにより、ディスクローターに適用可能な潤滑性、加工性、高温強度に優れたステンレス鋼板を提供することに成功した。
上記課題を解決する本発明の要旨は、
(1)母相に存在する粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上であるブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(2)質量%にて、
C:0.001~0.5%、
N:0.001~0.5%、
Si:0.01~5.0%、
Mn:0.01~12%、
P:0.001~0.1%、
S:0.0001~1.0%、
Cr:10.0~35.0%、
Ni:0.01~5.0%、
Cu:0.001~3.0%、
Mo:0.001~3.0%を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、マルテンサイト系であることを特徴とする(1)記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(3)質量%にて、
C:0.001~0.5%、
N:0.001~0.5%、
Si:0.01~5.0%、
Mn:0.01~12%、
P:0.001~0.1%、
S:0.0001~1.0%、
Cr:10.0~35.0%、
Ni:0.01~5.0%、
Cu:0.001~3.0%、
Mo:0.001~3.0%を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、フェライト系であることを特徴とする(1)記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(4)質量%にて、
C:0.001~0.5%、
N:0.001~0.5%、
Si:0.01~5.0%、
Mn:0.01~12%、
P:0.001~0.1%、
S:0.0001~1.0%、
Cr:10.0~35.0%、
Ni:2.0~35.0%、
Cu:0.001~5.0%、
Mo:0.001~5.0%を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、オーステナイト系であることを特徴とする(1)記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(5)質量%にて、
C:0.001~0.5%、
N:0.001~0.5%、
Si:0.01~5.0%、
Mn:0.01~12.0%、
P:0.001~0.1%、
S:0.0001~1.0%、
Cr:10.0~35.0%、
Ni:0.01~8.0%、
Cu:0.001~5.0%、
Mo:0.001~5.0%を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、2相系であることを特徴とする(1)記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(6)前記Feの一部に替え、質量%にてさらに、
Nb:0.01~1.0%、
Ti:0.001~1.0%、
B:0.0001~0.0100%、
Al:0.001~4.0%、
W:0.001~3.0%、
V:0.001~1.0%、
Sn:0.01~1.0%、
Mg:0.0001~0.01%、
Sb:0.001~0.5%、
Zr:0.001~1.0%、
Ta:0.001~1.0%、
Hf:0.001~1.0%、
Co:0.001~1.0%、
Ca:0.0001~0.02%、
REM:0.001~0.5%、
Ga:0.0001~0.5%
の1種以上を含有することを特徴とする(2)~(5)のいずれか1つに記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(7)(1)~(6)のいずれか1つに記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板であって、1050℃まで加熱後に5秒以上滞留させ、その後水冷するホットスタンプ模擬熱処理(以下単に「疑似熱処理」という。)を施したときに、常温での、摺動速度3.9m/sで、押付圧力を0.4→0.8→1.6→2.1→2.5MPaと増加させ、摺動距離を各押付圧力において3.5kmとしたピンオンディスク試験において、各押付圧力における平均摩擦係数を測定し、各押付圧力における平均摩擦係数の最大値と最小値の差が0.3以下となることを特徴とするブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(8)(1)~(7)のいずれか1つに記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板であって、1050℃まで加熱後に5秒以上滞留させ、その後水冷するホットスタンプ模擬熱処理(以下単に「疑似熱処理」という。)を施したときに、材料の700℃における0.2%耐力が50MPa以上となることを特徴とするブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
(9)(1)~(8)のいずれか1つに記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板を用いてなるブレーキディスクローター。
(10)熱延時の圧下率を85%以上にすることを特徴とする(1)~(8)のいずれか1つに記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法。
以上の説明から明らかなように、本発明によればステンレス鋼板の潤滑性、加工性、高温強度を向上させ、自動車や二輪車のディスクローターに適した材料を提供し、外観の向上や種々環境における安全な制動などに大きな効果が得られる。
ブレーキディスクローター用ステンレス鋼は特に限定されるものではないが、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系や2相系が挙げられる。それぞれのステンレス鋼の成分含有量を規定した根拠について以下に述べる。なお2相系にはフェライト-オーステナイト2相系およびフェライト-マルテンサイト2相系が含まれる。
ここでマルテンサイト系とは、鋼板においてマルテンサイト相が80面積%以上を意味する。マルテンサイト系は熱延板ではマルテンサイト相、熱延焼鈍板ではフェライト相がその大半を占め、ホットスタンプによる焼入れ処理後、マルテンサイト相、又はマルテンサイト相+フェライト相の組織となる。また、わずかにオーステナイト相が残留する場合もある。
フェライト系とは、鋼板においてフェライト相が80面積%以上を意味する。残部には残留オーステナイト相、もしくはマルテンサイト相、析出物が含まれる。
オーステナイト系とは、鋼板においてオーステナイト相が80面積%以上を意味する。残部にはフェライト相、もしくはマルテンサイト相、析出物が含まれる。
2相系とは、鋼板において当該2相系の2つの結晶相のうち一方が20~80面積%、残部はもう一方の結晶相および析出物や介在物が含まれる。
以下に本発明のステンレス鋼板の好ましい成分組成(質量%)について説明する。
Cは、成形性と耐食性を劣化させ、高温強度の低下をもたらす。その含有量は少ないほど良いため各ステンレス鋼において(A)の含有量とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.003~0.100%、
(C)=0.005~0.080%。
フェライト系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.002~0.100%、
(C)=0.003~0.050%。
オーステナイト系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.008~0.280%、
(C)=0.010~0.150%。
2相系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.005~0.280%、
(C)=0.010~0.100%。
NはCと同様、成形性と耐食性を劣化させ、高温強度の低下をもたらす。その含有量は少ないほど良いため各ステンレス鋼において(A)の含有量とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.005~0.1%、
(C)=0.01~0.05%。
フェライト系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.003~0.100%、
(C)=0.005~0.050%。
オーステナイト系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.005~0.200%、
(C)=0.010~0.080%。
2相系では、
(A)=0.001~0.500%、
(B)=0.10~0.25%、
(C)=0.15~0.20%。
Siは、脱酸剤としても有用な元素であるとともに、耐酸化性および耐高温塩害性を改善する元素である。しかしながら、過度な添加は常温延性を低下させるため(A)の含有量とした。但し、酸洗性や靭性を考慮すると(B)の含有量が望ましい。さらに製造性を考慮すると(C)の含有量が望ましい。
マルテンサイト系では
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.13~3.0%、
(C)=0.15~1.0%。
フェライト系では、
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.13~3.0%、
(C)=0.15~1.0%。
オーステナイト系では、
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.13~4.0%、
(C)=0.15~3.5%。
2相系では、
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.13~4.0%、
(C)=0.15~3.5%。
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるとともに、中温域での高温強度上昇に寄与する。また、Sとの複合添加でMnSを形成し、固体潤滑剤として作用する。しかし、過剰な添加により高温でMn系酸化物を表層に形成し、スケール密着性不良や異常酸化が生じ易くなる。特に、MoやWと複合添加した場合は、Mn量に対して異常酸化が生じやすくなる傾向にあるため(A)の含有量とした。さらに、鋼板製造における酸洗性や常温延性を考慮すると、(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.01~12.0%、
(B)=0.30~3.0%、
(C)=0.50~1.5%。
フェライト系では、
(A)=0.01~12.0%、
(B)=0.30~3.0%、
(C)=0.50~1.5%。
オーステナイト系では、
(A)=0.01~12.0%、
(B)=0.20~5.0%、
(C)=0.30~3.5%。
2相系では、
(A)=0.01~12.0%、
(B)=0.20~5.0%、
(C)=0.30~3.5%。
Pは、製鋼精錬時に主として原料から混入してくる不純物であり、含有量が高くなると、靭性や溶接性が低下する。このため、極力低減することが望ましいが、0.001%未満にするためには、低P原料の使用によるコストアップが生じるため、本発明では0.001%以上とする。一方、0.1%超の含有により著しく硬質化する他、耐食性、靭性および酸洗性が劣化するため、0.1%を上限とする。原料コストを考慮すると0.008~0.08%が望ましく、さらに望ましくは0.01~0.05%とする。マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、2相系の各鋼における成分含有量は同一とする。
Sは、耐食性や耐酸化性を劣化させる元素であるが、TiやCと結合して加工性を向上させるだけではなく、CrやMnなどと結合することで硫化物を形成し潤滑性を発揮する非常に重要な元素である。その効果は0.0001%から発現するため、下限を0.0001%とした。一方、過度な添加によりTiやCと結合して固溶Ti量を低減させるとともに析出物の粗大化をもたらし、高温強度が低下するため、上限を1.0%とした。さらに、精錬コストや高温酸化特性を考慮すると0.0005~0.8%が望ましい。より望ましくは0.01~0.6%とする。さらに望ましくは0.03~0.5%とする。マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、2相系の各鋼における成分含有量は同一とする。
Crは、本発明において、耐酸化性や耐食性確保のために必須な元素である。含有量が少ない場合、特に耐酸化性が確保できず、過剰な添加によって加工性の低下や靭性の劣化をもたらすため、(A)の含有量とした。さらに、製造性やスケール剥離性を考慮すると(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=10.0~35.0%、
(B)=10.5~15.0%、
(C)=11.0~13.0%。
フェライト系では、
(A)=10.0~35.0%、
(B)=10.5~25.0%、
(C)=11.0~18.0%。
オーステナイト系では、
(A)=10.0~35.0%、
(B)=16.0~25.0%、
(C)=17.0~22.0%。
2相系では、
(A)=10.0~35.0%、
(B)=19.0~25.0%、
(C)=20.0~23.0%。
Niは耐酸性や靭性、高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて添加するが、過剰な添加はコスト高になるため、(A)の含有量とした。製造性を考慮すると、(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.03~2.0%、
(C)=0.05~1.0%。
フェライト系では、
(A)=0.01~5.0%、
(B)=0.03~2.0%、
(C)=0.05~1.0%。
オーステナイト系では、
(A)=2.0~35.0%、
(B)=3.0~20.0%、
(C)=5.0~15.0%。
2相系では、
(A)=0.01~8.0%、
(B)=0.5~5.0%、
(C)=1.0~3.0%。
Cuは耐食性向上に有効な元素である。ε-Cu析出による析出強化によって高温強度を向上させるが、過度な添加は熱間加工性を低下させるため(A)の含有量とした。さらに、熱疲労特性、製造性および溶接性を考慮すると(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.001~3.0%、
(B)=0.03~2.0%、
(C)=0.05~1.6%。
フェライト系では、
(A)=0.001~3.0%、
(B)=0.03~2.0%、
(C)=0.05~1.6%。
オーステナイト系では、
(A)=0.001~5.0%、
(B)=0.1~2.0%、
(C)=0.5~1.5%。
2相系では、
(A)=0.001~5.0%、
(B)=0.05~2.0%、
(C)=0.1~1.5%。
Moは、高温における固溶強化に有効な元素であるとともに、耐食性および耐高温塩害性を向上させるため、添加する。過剰な添加は常温延性と耐酸化性が著しく劣化するため、(A)の含有量とした。さらに、熱疲労特性や製造性を考慮すると(B)の含有量が望ましい。さらに望ましくは(C)の含有量とする。
マルテンサイト系では
(A)=0.001~3.0%、
(B)=0.03~1.5%、
(C)=0.05~0.9%。
フェライト系では、
(A)=0.001~3.0%、
(B)=0.03~1.5%、
(C)=0.05~0.9%。
オーステナイト系では、
(A)=0.001~5.0%、
(B)=0.1~4.0%、
(C)=0.2~2.0%。
2相系では、
(A)=0.001~5.0%、
(B)=0.1~4.0%、
(C)=0.2~2.0%。
本発明は、残部がFeおよび不純物である。さらに必要に応じて、前記Feの一部に替え、以下の成分を含有することとしても良い。マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、2相系の各鋼における成分含有量は同一とする。
Nbは、固溶強化および微細析出物の析出強化による高温強度向上に有効な元素である。また、CやNを炭窒化物として固定し、製品板の耐食性やr値に影響する再結晶集合組織の発達に寄与する役割もある。これらの効果は0.01%から発現するため、下限を0.01%とした。一方、1.0%超の添加は著しく硬質化する他、製造性も劣化させるため、上限を1.0%とした。また、原料コストや靭性を考慮すると、0.01~0.6%が望ましい。
Tiは、C,N,Sと結合して耐食性、耐粒界腐食性、常温延性や深絞り性を向上させる元素である。また、Nb、Moとの複合添加において、適量添加することにより熱延焼鈍時のNb、Moの固溶量増加、高温強度の向上をもたらし、熱疲労特性を向上させる。その効果は0.001%以上から発現するため、下限を0.001%とした。一方、1.0%超の添加により、固溶Ti量が増加して常温延性が低下する他、粗大なTi系析出物を形成し、穴拡げ加工時の割れの起点になり、プレス加工性を劣化させる。また、耐酸化性も劣化するため、Ti添加量は1.0%以下とした。更に、表面疵の発生や靭性を考慮すると0.05~0.2%が望ましい。
Bは、製品のプレス加工時の2次加工性や高温強度、熱疲労特性を向上させる元素である。BはLaves相などの微細析出をもたらし、これらの析出強化の長期安定性を発現させ、強度低下の抑制や熱疲労寿命の向上に寄与する。この効果は0.0001%以上で発現する。一方、過度な添加は硬質化をもたらし、粒界腐食性と耐酸化性を劣化させる他、溶接割れが生じるため、0.0100%以下とした。更に、耐食性や製造コストを考慮すると、0.0001~0.0010%が望ましい。さらに望ましくは0.0001~0.0005%とする。
Alは、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を向上させる元素である。また、固溶強化元素として高温強度向上に有用である。その作用は0.001%から安定して発現する。一方、過度の添加は硬質化して均一伸びを著しく低下させる他、靭性が著しく低下するため、上限を4.0%とした。更に、表面疵の発生や溶接性、製造性を考慮すると、0.01~2.2%が望ましい。
WもMo同様、高温における固溶強化として有効な元素であるとともに、Laves相(FeW)を生成して析出強化の作用をもたらす。特に、NbやMoと複合添加した場合、Fe(Nb,Mo,W)のLaves相が析出するが、Wを添加するとこのLaves相の粗大化が抑制されて析出強化能が向上する。これは0.001%以上の添加で作用する。一方、3.0%超の添加ではコスト高になるとともに、常温延性が低下するため、上限を3.0%とした。更に、製造性、低温靭性および耐酸化性を考慮すると、W添加量は0.001~1.5%が望ましい。
Vは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。この効果は0.001%以上の添加で安定して発現する。一方、1.0%超添加すると析出物が粗大化して高温強度が低下する他、耐酸化性が劣化するため、上限を1.0%とした。更に、製造コストや製造性を考慮すると、0.08~0.5%が望ましい。
Snは、耐食性を向上させる元素であり、中温域の高温強度を向上させるため、必要に応じて添加する。これらの効果は0.01%以上で発現する。一方、1.0%超添加すると製造性および靭性が著しく低下するため、1.0%以下とした。更に、耐酸化性や製造コストを考慮すると、0.01~0.1%が望ましい。
Mgは、脱酸元素として添加させる場合がある他、スラブの組織を微細化させ、成形性向上に寄与する元素である。また、Mg酸化物はTi(C,N)やNb(C,N)等の炭窒化物の析出サイトになり、これらを微細分散析出させる効果がある。この作用は0.0001%以上で発現し、靭性向上に寄与する。但し、過度な添加は、溶接性、耐食性および表面品質の劣化につながるため、上限を0.01%とした。精錬コストを考慮すると、0.0003~0.0010%が望ましい。
Sbは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて0.001%以上添加する。0.5%超の添加により鋼板製造時のスラブ割れや延性低下が過度に生じる場合があるため上限を0.5%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.01~0.3%が望ましい。
Zrは、TiやNb同様に炭窒化物形成元素であり、耐食性、深絞り性を向上させる元素であり、必要に応じて添加する。これらの効果は0.001%以上で発現する。一方、1.0%超の添加により製造性の劣化が著しいため、1.0%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.001~0.2%が望ましい。
TaおよびHfは、CやNと結合して靭性の向上に寄与するため必要に応じて0.001%以上添加する。但し、1.0%超の添加によりコスト増になる他、製造性を著しく劣化させるため、上限を1.0%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.01~0.08%が望ましい。
Coは、高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて0.001%以上添加する.1.0%超の添加により靭性劣化につながるため、上限を1.0%とする。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.01~0.1%が望ましい。
Caは、脱硫のために添加される場合があり、この効果は0.0001%以上で発現する。しかしながら、0.02%超の添加により粗大なCaSが生成し、靭性や耐食性を劣化させるため、上限を0.02%とした。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.0003~0.0020%が望ましい。
REMは、種々の析出物の微細化による靭性向上や耐酸化性の向上の観点から必要に応じて添加される場合があり、この効果は0.001%以上で発現する。しかしながら、0.5%超の添加により鋳造性が著しく悪くなる他、延性の低下をもたらすことから上限を0.5%とした。更に、精錬コストや製造性を考慮すると、0.001~0.05%が望ましい。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で添加してもよいし、混合物であってもよい。
Gaは、耐食性向上や水素脆化抑制のため、0.5%以下で添加してもよい。硫化物や水素化物形成の観点から下限は0.0001%とすると好ましい。さらに、製造性やコストの観点ならびに、延性や靭性の観点から0.0020%以下が好ましい。
その他の成分について本発明では特に規定するものではないが、本発明においては、Bi等を必要に応じて、0.001~0.1%添加してもよい。なお、As、Pb等の一般的な有害な元素や不純物元素はできるだけ低減することが好ましい。
本発明では使用中において潤滑性の観点から、硫化物が展伸して多量に存在することが重要であり、そのためにはS添加量を適切に制御し、かつ熱延の圧下率を85%以上にする必要がある。製品板において潤滑性の観点から硫化物が特定の大きさ、アスペクト比、面積率で存在する必要があることを知見した。
なお硫化物とはCrSやMnSなどの介在物であり、本発明では介在物中のS量が20質量%以上の介在物とする。硫化物の判別方法としては、透過型電子顕微鏡(機種として例えば、日本電子製の200kV電界放出型透過電子顕微鏡JEM2100F)観察および付属のEDS装置(機種として例えば、日本電子製の200kV電界放出型透過電子顕微鏡JEM2100F)での分析を用いて判別する事ができる。サンプルは両面ジェット電解研磨法にてt/4を観察できるように採取し、5万倍で任意の10箇所を観察して分析した。この倍率で、硫化物の状態をほぼ均一に観察することが可能である。また、同観察箇所において、EDS装置にてFe、Cr、Mn、Sを定量化し、その内のS量が20質量%以上の場合に硫化物とした。
具体的には、熱延板焼鈍後において、粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上で存在することと規定する。なお、ホットスタンプ前における析出状態はホットスタンプ後の析出状態と同じである。粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上で存在することによって、十分な潤滑性と強度を得られる。長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1未満になるとMnSおよびMnS周囲への局所的な歪の蓄積が生じやすくなりホットスタンプ時の割れの起点となりやすい。粒径が100μmを超えると製造時、使用時における割れの起点となりやすい。粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%未満であると存在量が少ないために潤滑性が得られない。50%超であると過度に存在するMnSが製造時に割れの起点となる。
上記よりMnSは、円相当径で粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上で存在することと規定する。
硫化物の粒径は0.5μm以上95μm以下が望ましい。さらに望ましくは1μm以上90μm以下である。
硫化物の面積率は5%以上45%以下が望ましい。さらに望ましくは10%以上40%以下である。
アスペクト比1.1以上である硫化物の割合は60%以上が望ましい。さらに望ましくは70%以上である。
なお硫化物の粒径、アスペクト比および面積率は、熱延板焼鈍材について光学顕微鏡を用いて、t/4部を観察し測定した。撮影倍率は500倍、撮影視野数は5視野とした。これらの箇所を観察した後に析出物のみに色をつけ画像処理した後にNIH社製の画像解析ソフト『ImageJ』を用いて各粒子の粒径を円相当径で算出し、5視野の平均粒径、平均アスペクト比および平均面積率を算出した。
これにより、ディスクローターに適用可能なステンレス鋼板を提供することに成功した。
次に製造方法について説明する。本発明の鋼板の製造方法は、製鋼-熱間圧延-焼鈍-酸洗の各工程よりなる。製鋼においては、前記必須成分および必要に応じて添加される成分を含有する鋼を、転炉溶製し続いて2次精錬を行う方法が好適である。溶製した溶鋼は、公知の鋳造方法(連続鋳造)に従ってスラブとする。スラブは所定の温度に加熱され、所定の板厚に連続圧延で熱間圧延される。熱間圧延は複数スタンドから成る熱間圧延機で1mm以上20mm以下の板厚に圧延された後に巻き取られる。熱間圧延の圧下率は85%以上とする。望ましくは88%、さらに望ましくは90%以上である。巻き取られた熱延コイルは焼鈍炉を用いて所定の温度で焼鈍されたのち酸洗される。酸洗方法については、既存の酸洗方法を適用すれば良い。なお熱延工程の後の焼鈍は省略しても良い。
表1-1~表1-4、表2に示す成分組成の鋼を溶製してインゴットに鋳造し、インゴットを熱間圧延して6mm厚の熱延板とした。得られた熱延板を850℃で4時間保持し室温まで冷却し熱延板焼鈍板とした。表1-1~表1-4、表2の「相」の記載において、α’、α、γ、2相は、それぞれ「マルテンサイト系」「フェライト系」「オーステナイト系」「2相系」を意味している。表1-1~表1-4のNo.A1~A84は本発明鋼、表2のNo.B1~B44は比較鋼である。本発明から外れる数値に下線を付している。
熱延焼鈍板には1050℃まで加熱後に5秒以上滞留させ、その後水冷するホットスタンプ模擬熱処理(以下単に「疑似熱処理」という。)を施した。疑似熱処理後、鋼板に酸洗を施した。
疑似熱処理材からφ175mm×3mmtの円盤状試験片を作製し、常温において摺動速度3.9m/sで、押付圧力を0.4→0.8→1.6→2.1→2.5MPaと段階的に増加させるピンオンディスク試験を行い、各押付圧力における平均摩擦係数を測定した。なお摺動距離は各押付圧力において3.5km、合計17.5kmとした。ここで各押付圧力における平均摩擦係数の最大値と最小値の差が0.3以下であれば、一般的なディスクローターへの適用が可能と考えられるため、平均摩擦係数の最大値と最小値の差が0.3以下であるものを合格(表3-1、表3-2、表4中で〇印を記載)とした。
使用時の強度を評価するため疑似熱処理材から圧延方向が引張方向となるように高温引張試験片を採取し、700℃で引張試験を実施し、0.2%耐力を測定した(JIS G 0567に準拠、数値は小数点以下を四捨五入)。ここで、700℃における0.2%耐力が50MPa以上であれば、一般的なディスクローターへの適用および薄肉化が可能なため、700℃における0.2%耐力を50MPa以上有するものを合格(表3-1、表3-2、表4中で〇印を記載)とした。
熱延板靭性を評価するため熱延板(熱延焼鈍前)からシャルピー試験片(C方向ノッチ)を作製し常温にてシャルピー衝撃試験を行った。3回の試験の平均衝撃値が10J/cm以上であれば安定して熱延板を製造可能なため、平均衝撃値が10J/cm以上有するものを合格(表3-1、表3-2、表4中で〇印を記載)とした。
ホットスタンプ前の熱延焼鈍板について、高温におけるプレス成形性を評価するため、熱延焼鈍板から圧延方向が引張方向となるように高温引張試験片を採取し、1050℃で引張試験を実施し、破断伸びを測定した(JIS G 0567に準拠、数値は小数点以下を四捨五入)。ここで、1050℃における破断伸びが50%以上であればハット形状に加工可能なため、1050℃における破断伸びを50%以上有するものを合格(表3-1、表3-2、表4中で〇印を記載)とした。
Figure 2022068891000001
Figure 2022068891000002
Figure 2022068891000003
Figure 2022068891000004
Figure 2022068891000005
Figure 2022068891000006
Figure 2022068891000007
Figure 2022068891000008
表3-1~表3-2、表4から明らかなように、模擬熱処理後の摩擦係数の安定性と700℃における0.2%耐力は、本発明例が比較例に比べて優れている。上記疑似熱処理後の摩擦係数の安定性、700℃における0.2%耐力のいずれか一方でも不合格である場合、及び熱延板靱性、プレス成形性が不良の場合は、ディスクローターとしての適用が不適と判断した。これより、本発明で規定される鋼は、潤滑性と高温強度と成形性に優れていることがわかる。
比較例B1、B2、B11、B12、B21、B22、B31、B32は、それぞれC、N濃度が上限を外れ、粗大な炭窒化物が多量に析出したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によってプレス成形性が不良であった。
比較例B3、B13、B23、B33はSi濃度が上限を外れ、粗大な炭窒化物が多量に析出したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によってプレス成形性が不良であった。
比較例B4、B14、B24、B34はMn濃度が下限を外れ、十分な硫化物が形成されず、摩擦係数の安定性が不足した。
比較例B5、B15、B25、B35はP濃度が上限を外れ、粗大なリン化物が多量に析出したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によって熱延板靭性、プレス成形性が不良であった。
比較例B6、B16、B26、B36は、S濃度が上限を外れ、固溶Ti量が低減するとともに析出物が粗大化したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によってプレス成形性が不良であった。
比較例B7、B17、B27、B37は、Cr濃度が上限を外れ、粗大な炭窒化物が多量に析出したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によって熱延板靭性、プレス成形性が不良であった。
比較例B8、B18、B28、B38は、Ni濃度が下限を外れ、固溶Niが低減したため、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によって熱延板靭性が不良であった。
比較例B9、B19、B29、B39は、Cu濃度下限を外れ、Cu析出が十分生じず、700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によって熱延板靭性、プレス成形性が不良であった。
比較例B10、B20、B30、B40は、Mo濃度下限を外れ、固溶Moが減少したため700℃における0.2%耐力が不足した。また硬質化によってプレス成形性が不良であった。
比較例B41、B42、B43、B44は熱延圧下率が下限を外れ、硫化物が十分に展伸せず、摩擦係数の安定性が不足した。

Claims (10)

  1. 母相に存在する粒径0.1μm以上100μm以下の硫化物の面積率が1%以上50%以下であり、そのうち、長手方向の長さとそれに直交する長さのアスペクト比が1.1以上である硫化物の割合が50%以上であるブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  2. 質量%にて、
    C:0.001~0.5%、
    N:0.001~0.5%、
    Si:0.01~5.0%、
    Mn:0.01~12%、
    P:0.001~0.1%、
    S:0.0001~1.0%、
    Cr:10.0~35.0%、
    Ni:0.01~5.0%、
    Cu:0.001~3.0%、
    Mo:0.001~3.0%を含有し、
    残部がFeおよび不純物であり、マルテンサイト系であることを特徴とする請求項1記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  3. 質量%にて、
    C:0.001~0.5%、
    N:0.001~0.5%、
    Si:0.01~5.0%、
    Mn:0.01~12%、
    P:0.001~0.1%、
    S:0.0001~1.0%、
    Cr:10.0~35.0%、
    Ni:0.01~5.0%、
    Cu:0.001~3.0%、
    Mo:0.001~3.0%を含有し、
    残部がFeおよび不純物であり、フェライト系であることを特徴とする請求項1記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  4. 質量%にて、
    C:0.001~0.5%、
    N:0.001~0.5%、
    Si:0.01~5.0%、
    Mn:0.01~12%、
    P:0.001~0.1%、
    S:0.0001~1.0%、
    Cr:10.0~35.0%、
    Ni:2.0~35.0%、
    Cu:0.001~5.0%、
    Mo:0.001~5.0%を含有し、
    残部がFeおよび不純物であり、オーステナイト系であることを特徴とする請求項1記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  5. 質量%にて、
    C:0.001~0.5%、
    N:0.001~0.5%、
    Si:0.01~5.0%、
    Mn:0.01~12.0%、
    P:0.001~0.1%、
    S:0.0001~1.0%、
    Cr:10.0~35.0%、
    Ni:0.01~8.0%、
    Cu:0.001~5.0%、
    Mo:0.001~5.0%を含有し、
    残部がFeおよび不純物であり、2相系であることを特徴とする請求項1記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  6. 質量%にてさらに、
    Nb:0.01~1.0%、
    Ti:0.001~1.0%、
    B:0.0001~0.0100%、
    Al:0.001~4.0%、
    W:0.001~3.0%、
    V:0.001~1.0%、
    Sn:0.01~1.0%、
    Mg:0.0001~0.01%、
    Sb:0.001~0.5%、
    Zr:0.001~1.0%、
    Ta:0.001~1.0%、
    Hf:0.001~1.0%、
    Co:0.001~1.0%、
    Ca:0.0001~0.02%、
    REM:0.001~0.5%、
    Ga:0.0001~0.5%
    の1種以上を含有することを特徴とする請求項2~請求項5のいずれか1項に記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  7. 請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板であって、1050℃まで加熱後に5秒以上滞留させ、その後水冷するホットスタンプ模擬熱処理(以下単に「疑似熱処理」という。)を施したときに、常温での、摺動速度3.9m/sで、押付圧力を0.4→0.8→1.6→2.1→2.5MPaと増加させ、摺動距離を各押付圧力において3.5kmとしたピンオンディスク試験において、各押付圧力における平均摩擦係数を測定し、各押付圧力における平均摩擦係数の最大値と最小値の差が0.3以下となることを特徴とするブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  8. 請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板であって、1050℃まで加熱後に5秒以上滞留させ、その後水冷するホットスタンプ模擬熱処理(以下単に「疑似熱処理」という。)を施したときに、材料の700℃における0.2%耐力が50MPa以上となることを特徴とするブレーキディスクローター用ステンレス鋼板。
  9. 請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板を用いてなるブレーキディスクローター。
  10. 熱延時の圧下率を85%以上にすることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のブレーキディスクローター用ステンレス鋼板の製造方法。
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