本開示の光導波構造及び光源装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係る光源装置1Aの構成を模式的に示す斜視図である。図2は、光源装置1Aの積層構造を模式的に示す図である。なお、図1及び図2において、光源装置1Aの積層方向をZ方向とし、X方向、Y方向及びZ方向が互いに直交する座標系を定義する。
図1及び図2に示すように、光源装置1Aは、基板3、レーザ発振部10A及び光導波部20Aを備える。レーザ発振部10Aは、本開示における発光部に対応する。光導波部20Aは、本開示における光導波構造に対応する。レーザ発振部10A及び光導波部20Aは、XY平面に沿った方向(図示例ではX方向)に並んでおり、共通の基板3上に互いに隣接して設けられている。レーザ発振部10Aは、端面発光型の半導体レーザであり、空間コヒーレントなレーザ光LinをXY平面に沿って出力する。レーザ発振部10Aは、このレーザ光Linを光導波部20Aに入力する。光導波部20Aは、入力されたレーザ光Linを回折させることにより、XY平面と交差する方向に光Loutを出力する。XY平面は、本開示における仮想平面に対応する。
基板3は、レーザ発振部10A及び光導波部20Aを構成する各半導体層を結晶成長することが可能な材料からなる。一例では、基板3は第1導電型(例えばn型)の半導体基板である。基板3は、結晶成長面である平坦な主面3aと、主面3aと平行であり主面3aとは反対を向く裏面3bとを有する。主面3a及び裏面3bは、XY平面と平行である。
レーザ発振部10Aは、主面3a上に設けられた半導体積層部11Aを有する。半導体積層部11Aは、Z方向において順に積層された、下部クラッド層12、活性層13、光閉じ込め層14、上部クラッド層15、及びコンタクト層16を有する。下部クラッド層12は主面3a上に設けられている。活性層13は下部クラッド層12上に設けられている。光閉じ込め層14は活性層13上に設けられている。上部クラッド層15は光閉じ込め層14上に設けられている。すなわち、活性層13は下部クラッド層12と上部クラッド層15との間に位置し、光閉じ込め層14は活性層13と上部クラッド層15との間に位置する。コンタクト層16は上部クラッド層15上に設けられている。
下部クラッド層12は、第1導電型を有する。上部クラッド層15は、第2導電型を有する。上部クラッド層15の厚さ及び屈折率は、下部クラッド層12と等しくてもよく、異なってもよい。活性層13は、下部クラッド層12及び上部クラッド層15と比較してエネルギーバンドギャップが小さく屈折率が大きい材料からなる。光出力方向と交差する方向すなわちY方向における活性層13の幅(すなわち導波路幅)は、横単一モードが保たれる程度の大きさに設定される。光閉じ込め層14は、積層方向における光の分布を制御するために設けられる。光閉じ込め層14の屈折率は、上部クラッド層15より大きく、活性層13より小さい。コンタクト層16は、第2導電型を有する。
レーザ発振部10Aは、電極17及び18を更に有する。電極17は、基板3の裏面3b上に設けられ、裏面3bとオーミック接触を成す第1導電型の電極である。電極18は、コンタクト層16上に設けられ、コンタクト層16とオーミック接触を成す第2導電型の電極である。なお、裏面3bのうち電極17に覆われていない領域は、絶縁性の保護膜31によって覆われている。コンタクト層16の表面のうち電極18に覆われていない領域は、絶縁性の保護膜32によって覆われている。保護膜31,32は、例えば絶縁性のシリコン化合物膜(SiO2、SiNなど)である。なお、電極18に覆われていない領域のコンタクト層16は取り除かれてもよい。この場合、電流注入する領域を限定することが出来るので、レーザ発振部10Aを効率的に駆動することが出来る。また、保護膜31は必要に応じて設けられ、不要であれば無くてもよい。
電極17と電極18との間に駆動電流が供給されると、活性層13内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層13が発光する。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層12と上部クラッド層15との間に効率的に閉じ込められる。この光は、シングルモードのレーザ光として、XY平面に沿ってレーザ発振部10Aから光導波部20Aへ出力される。
光導波部20Aは、XY平面に沿う方向(図ではX方向)において、レーザ発振部10Aと並んで設けられている。図2に示すように、光導波部20Aは、主面3a上に設けられた半導体積層部21Aを有する。半導体積層部21Aは、Z方向において順に積層された、下部クラッド層22、活性層23、光閉じ込め層24、及び光回折層25Aを有する。下部クラッド層22は主面3a上に設けられている。活性層23は下部クラッド層22上に設けられている。光閉じ込め層24は活性層23上に設けられている。光回折層25Aは光閉じ込め層24上に設けられている。すなわち、活性層23は下部クラッド層22と光回折層25Aとの間に位置し、光閉じ込め層24は活性層23と光回折層25Aとの間に位置する。半導体積層部21Aは、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくはIII族窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成される。
下部クラッド層22は、下部クラッド層12と同時に形成された共通の層であってもよく、別個に形成された層であってもよい。活性層23は、活性層13と同時に形成された共通の層であってもよく、別個に形成された層であってもよい。光閉じ込め層24は、光閉じ込め層14と同時に形成された共通の層であってもよく、別個に形成された層であってもよい。すなわち、下部クラッド層22、活性層23、及び光閉じ込め層24の組成及び厚さは、下部クラッド層12、活性層13、及び光閉じ込め層14とそれぞれ同じであってもよく、異なってもよい。
光回折層25Aは、第1屈折率媒質からなる基本層25aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層25a内に存在する複数の異屈折率領域25bとを含んで構成されている。複数の異屈折率領域25bは、略周期構造を含んでいる。モードの等価屈折率をnとした場合、光回折層25Aが選択する波長λ0は、活性層13の発光波長範囲内に含まれている。光回折層25Aは、活性層13の発光波長のうちの波長λ0近傍のバンド端波長を選択して、外部に出力することができる。光回折層25A内に入射したレーザ光は、光回折層25A内において異屈折率領域25bの配置に応じた所定のモードを形成し、所定のパターンを有するレーザ光Loutとして、光回折層25Aの表面から、XY平面と交差する方向に出射される。このとき、レーザ光Loutは、主面3aに垂直な方向及びこれに対して傾斜した方向を含む二次元的な任意方向へ出射する。レーザ光Loutを形成するのは主に1次光及び-1次光である。後述するように、本実施形態の光回折層25Aからは、0次光は出力されない。
或る例では、基板3はGaAs基板であり、下部クラッド層12及び22、活性層13及び23、光閉じ込め層14及び24、上部クラッド層15、コンタクト層16、並びに光回折層25Aは、GaAs系の化合物半導体を主に含む。一実施例では、下部クラッド層12及び22はAlGaAs層であり、活性層13及び23は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/井戸層:InGaAs)を有し、光閉じ込め層14及び24はAlGaAs層であり、光回折層25Aの基本層25aはAlGaAsからなり、異屈折率領域25bは空孔であり、上部クラッド層15はAlGaAs層であり、コンタクト層16はGaAs層である。
上記の場合、基板3の厚さは50μm以上300μm以下であり、一実施例では150μmである。下部クラッド層12,22及び上部クラッド層15の厚さは0.5μm以上10μm以下であり、一実施例では2.0μmである。活性層13,23の厚さは100nm以上300nm以下であり、一実施例では200nmである。光閉じ込め層14及び24の厚さは10nm以上500nm以下であり、一実施例では300nmである。光回折層25Aの厚さは100nm以上500nm以下であり、一実施例では300nmである。コンタクト層16の厚さは50nm以上500nm以下であり、一実施例では100nmである。
AlGaAsにおいては、Alの組成比を変更することで、容易にエネルギーバンドギャップと屈折率を変えることができる。AlxGa1-xAsにおいて、相対的に原子半径の小さなAlの組成比xを減少(増加)させると、これと正の相関にあるエネルギーバンドギャップは小さく(大きく)なり、GaAsに原子半径の大きなInを混入させてInGaAsとすると、エネルギーバンドギャップは小さくなる。すなわち、下部クラッド層12及び上部クラッド層15のAl組成比は、活性層13の障壁層(AlGaAs)のAl組成比よりも大きい。下部クラッド層12,22及び上部クラッド層15のAl組成比は例えば0.20~1.00に設定され、一実施例では0.56である。活性層13の障壁層のAl組成比は例えば0.00~0.30の範囲内に設定され、一実施例では0.15である。光閉じ込め層14,24のAl組成比は例えば0.00~0.50の範囲内に設定され、一実施例では0.38である。
別の例では、基板3はInP基板であり、下部クラッド層12及び22、活性層13及び23、光閉じ込め層14及び24、上部クラッド層15、コンタクト層16、並びに光回折層25Aは、例えばInP系化合物半導体を主に含む。一実施例では、下部クラッド層12及び22はInP層であり、活性層13及び23は多重量子井戸構造(障壁層:GaInAsP/井戸層:GaInAsP)を有し、光回折層25Aの基本層25aはInP層またはGaInAsP層であり、異屈折率領域25bは空孔であり、光閉じ込め層14,24はGaInAsP層であり、上部クラッド層15はInP層であり、コンタクト層16はGaInAsP層、GaInAs層またはInP層である。
また、更に別の実施例では、下部クラッド層12,22はInP層であり、活性層13,23は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaInAs/井戸層:AlGaInAs)を有し、光回折層25Aの基本層25aはInP層またはAlGaInAs層であり、異屈折率領域25bは空孔であり、光閉じ込め層14,24はAlGaInAs層であり、上部クラッド層15はInP層であり、コンタクト層16はGaInAsまたはInP層である。この材料系や前の段落で述べたGaInAsP/InPを用いた材料系では、1.3/1.55μm帯の光通信波長に適用できると共に、1.4μmより長波長のアイセーフ波長の光を出射することもできる。
また、更に別の例では、基板3はGaN基板であり、下部クラッド層12及び22、活性層13及び23、光閉じ込め層14及び24、上部クラッド層15、コンタクト層16、並びに光回折層25Aは、例えば窒化物系化合物半導体を主に含む。一実施例では、下部クラッド層12,22はAlGaN層であり、活性層13,23は多重量子井戸構造(障壁層:InGaN/井戸層:InGaN)を有し、光回折層25Aの基本層25aはGaNであり、異屈折率領域25bは空孔であり、光閉じ込め層14,24はGaN層であり、上部クラッド層15はAlGaN層であり、コンタクト層16はGaN層である。
下部クラッド層12,22には基板3と同じ導電型が付与され、上部クラッド層15及びコンタクト層16には基板3とは逆の導電型が付与される。一例では、基板3及び下部クラッド層12,22はn型であり、上部クラッド層15及びコンタクト層16はp型である。光回折層25Aは、基板3とは逆の導電型を有する。不純物濃度は例えば1×1016cm-3~1×1021cm-3である。活性層13は、いずれの不純物も意図的に添加されていない真性(i型)であり、その不純物濃度は1×1016/cm3以下である。光閉じ込め層14,24は、基板3とは逆の導電型を有してもよく、i型であってもよい。
上述の構造では、異屈折率領域25bが空孔となっているが、異屈折率領域25bは、基本層25aとは屈折率が異なる半導体が空孔内に埋め込まれて形成されてもよい。その場合、例えば基本層25aの空孔をエッチングにより形成し、有機金属気相成長法、スパッタ法又はエピタキシャル法を用いて半導体を空孔内に埋め込んでもよい。例えば、基本層25aがGaAsからなる場合、異屈折率領域25bはAlGaAsからなってもよい。また、基本層25aの空孔内に半導体を埋め込んで異屈折率領域25bを形成した後、更に、その上に異屈折率領域25bと同一の半導体を堆積してもよい。空孔の上部は、図2のように開口していてもよく、光回折層25A上に形成された半導体層により覆われていてもよい。または、異屈折率領域25bの空孔の内部には、原子層堆積装置(ALD装置:Atomic Layer Deposition)を用いて誘電体が埋め込まれてもよい。この場合、物理的に堅牢な構造を得る事が出来る。
図3は、光回折層25Aの平面図である。光回折層25Aは、M点で発振するS-iPMレーザとしての構成を有する。光回折層25Aは、第1屈折率媒質からなる基本層25aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる複数の異屈折率領域25bとを含む。ここで、光回折層25Aに、XY平面内における仮想的な正方格子を設定する。そして、正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。
このとき、正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。それぞれの単位構成領域RのXY座標をぞれぞれの単位構成領域Rの重心位置で与えられることとすると、この重心位置は仮想的な正方格子の格子点Oに一致する。複数の異屈折率領域25bは、各単位構成領域R内に例えば1つずつ設けられる。
図4は、一つの単位構成領域Rを拡大して示す図である。図4に示すように、異屈折率領域25bの平面形状は、例えば格子点Oを内外の円弧の中心とするC字形状である。具体的には、異屈折率領域25bの平面形状は、内周側の円弧151、外周側の円弧152、円弧151の一端と円弧152の一端とを結ぶ線分153、及び円弧151の他端と円弧152の他端とを結ぶ線分154によって画定されている。円弧151及び152は優弧である。言い換えると、円弧151,152の中心角は180°より大きい。円弧151の中心角と円弧152の中心角とは互いに等しい。円弧151,152の中心角は、例えば300°以上360°未満である。線分153及び154は、円弧151及び152の径方向に沿って延びている。
異屈折率領域25bのそれぞれは重心Gを有する。ここで、格子点OからC字形状の開口部分の中心に向かうベクトルとX軸との成す角度をθ(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。この角度θ(x,y)に180°を加算すると、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸との成す角度と一致する。したがって、以下の計算においては、角度θ(x,y)を、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸との成す角度に対応するものとみなす。格子点Oと重心Gとの距離は、x、yによらず(光回折層25A全体にわたって)一定である。なお、位相角に定数を加算しても得られる光像は変わらないので、180°を加算せず、位相角を設計してもよい。
図4に示されるように、角度θは、光Loutにおける所望の出力ビームパターンに応じた位相パターンに従って各格子点O毎に個別に設定される。位相パターンすなわち角度分布θ(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。すなわち、角度分布θ(x,y)は、光Loutにおける所望の出力ビームパターンを逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。なお、所望の出力ビームパターンから複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
図5は、光回折層25Aの特定領域内にのみ図3の屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。図5に示す例では、正方形の内側領域RINの内部に、目的となるビームパターンを出射するための略周期構造(例:図3の構造)が形成されている。一方、内側領域RINを囲む外側領域ROUTには、正方格子の格子点位置に、重心位置が一致する真円形の異屈折率領域が配置されている。内側領域RINの内部も、外側領域ROUT内においても、仮想的に設定される正方格子の格子間隔は同一である。この構造の場合、外側領域ROUT内にも光が分布することにより、内側領域RINの周辺部において光強度が急激に変化することで生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制することが出来るという利点がある。また、面内方向への光漏れを抑制することができ、低閾値化および光出力効率の向上が期待できる。
ここで、所望のビームパターンを得るために、以下の手順によって光回折層25Aの異屈折率領域25bの角度分布θ(x,y)を決定する。まず、第1の前提条件として、基板3の主面3aの法線方向に一致するZ軸と、複数の異屈折率領域25bを含む光回折層25Aの一方の面に一致した、互いに直交するX軸およびY軸を含むXY平面と、により規定される直交座標系において、該XY平面上に、それぞれが正方形状を有するM1×N1個(M1,N1は1以上の整数)の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子を設定する。
第2の前提条件として、この直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、図6に示されるように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θ
tiltと、XY平面上で特定されるX軸からの回転角θ
rotと、で規定される球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)に対して、以下の式(1)~式(3)で示された関係を満たしているものとする。なお、図6は、球面座標(r,θ
rot,θ
tilt)から座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図であり、座標(ξ,η,ζ)により、実空間である上記直交座標系において設定される所定平面上の設計上のビームパターンが表現される。光導波部20Aから出力されるビームパターンを、角度θ
tiltおよびθ
rotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θ
tiltおよびθ
rotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値k
xと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応するとともにKx軸に直交するKy軸上の座標値k
yに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔aに相当する波数2π/aを1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、ビームパターンを含む特定の波数範囲が、それぞれが正方形状のM2×N2個(M2,N2は1以上の整数)の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(4)および式(5)は、例えば、Y. Kurosaka et al., “Effects of non-lasing band in two-dimensional photonic-crystallasers clarified using omnidirectional band structure”, Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
a:仮想的な正方格子の格子間隔(格子定数)
λ:レーザ発振部10Aの発振波長
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分k
x(0以上M2-1以下の整数)とKy軸方向の座標成分k
y(0以上N2-1以下の整数)とで特定される画像領域FR(k
x,k
y)それぞれを、X軸方向の座標成分x(0以上M1-1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(0以上N1-1以下の整数)とで特定されるXY平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。また、この複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とするとともに位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。更に、第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)が、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
上記第1~第4の前提条件の下、光回折層25Aは、以下の第1および第2条件を満たすよう構成される。すなわち、第1条件は、単位構成領域R(x,y)内において、重心Gが、格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることである。また、第2条件は、格子点O(x,y)から対応する重心Gまでの線分長r(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する重心Gとを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度θ(x,y)が、
θ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、対応する異屈折率領域25bが単位構成領域R(x,y)内に配置されることである。
フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
ここで、出力ビームパターンのフーリエ変換結果から角度分布θ(x,y)を求め、各異屈折率領域25bの配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を述べる。フーリエ変換前の光像を図7(a)のようにA1,A2,A3,及びA4といった4つの象限に分割すると、得られるビームパターンは図7(b)のようになる。つまり、ビームパターンの第1象限には、図7(a)の第1象限を180度回転したものと図7(a)の第3象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第2象限には図7(a)の第2象限を180度回転したものと図7(a)の第4象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第3象限には図7(a)の第3象限を180度回転したものと図7(a)の第1象限が重畳したパターンが現れ、ビームパターンの第4象限には図7(a)の第4象限を180度回転したものと図7(a)の第2象限が重畳したパターンが現れる。
従って、フーリエ変換前の出力ビームパターン(元画像)として第1象限のみに値を有するものを用いた場合には、得られるビームパターンの第3象限に元の光像の第1象限が現れ、得られるビームパターンの第1象限に元の光像の第1象限を180度回転したパターンが現れる。
このように、光回折層25Aにおいては、波面が位相変調されていることによって所望のビームパターンが得られる。このビームパターンは、一対の単峰ビーム(スポット)だけでなく、文字形状、2以上の同一形状スポット群、或いは、位相、強度分布が空間的に不均一であるベクトルビームなどとすることも可能である。
なお、各異屈折率領域25bの大きさが変化することによって回折強度が変化する。この回折効率は、異屈折率領域25bの形状をフーリエ変換した際の係数で表される光結合係数に比例する。光結合係数については、例えばY. Liang et al., “Three-dimensionalcoupled-wave analysis for square-lattice photonic crystal surface emittinglasers with transverse-electric polarization: finite-size effect”, Optics Express 20, 15945-15961 (2012)に記載されている。
次に、本実施形態の光回折層25Aの特徴について詳細に説明する。本実施形態では、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層13の発光波長λ(すなわち光Linの波長)とがM点発振の条件を満たす。更に、角度分布θ(x,y)は、XY平面と交差する方向、すなわちZ方向またはZ方向に対して傾斜する方向に光Loutが出力されるための条件を満たす。光回折層25Aにおいて逆格子空間を考えるとき、角度分布θ(x,y)による位相変調を受け、出力ビームパターンの角度広がりに対応した波数拡がりをそれぞれ含む定在波を形成する4方向の面内波数ベクトルが形成される。XY平面と交差する方向に光Loutが出力される条件とは、例えば、4方向の面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさが、2π/λ(ライトライン)よりも小さいことである。以下、これらの点に関して詳細に説明する。
まず、比較のため、仮想的な正方格子の格子点上に円形の異屈折率領域が設けられる(すなわち、異屈折率領域が周期的に配列された)PCSELのフォトニック結晶層について説明する。PCSELのフォトニック結晶層は、その厚さ方向に垂直な面内において異屈折率領域の配列周期に応じた発振波長でもって定在波を形成しつつ、基板の主面に垂直な方向にレーザ光を出力する。PCSELのフォトニック結晶層は、通常、Γ点で発振するように設計される。Γ点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、フォトニック結晶層に入力される光の波長λ、及びモードの等価屈折率nが、λ=naといった条件を満たすとよい。
図8は、Γ点で発振するフォトニック結晶層に関する逆格子空間を示す平面図である。この図は、複数の異屈折率領域が正方格子の格子点上に位置する場合を示し、図中の点Pは逆格子点を表す。また、図中の矢印B1は基本逆格子ベクトルを表し、矢印B2はそれぞれ基本逆格子ベクトルB1の2倍の逆格子ベクトルを表す。また、矢印K1,K2,K3,及びK4は4つの面内波数ベクトルを表す。4つの面内波数ベクトルK1,K2,K3,及びK4は、90°及び180°の回折を介して互いに結合し、定在波状態を形成している。ここで、逆格子空間において互いに直交するΓ-X軸及びΓ-Y軸を定義する。Γ-X軸は正方格子の一辺と平行であり、Γ-Y軸は正方格子の他辺と平行である。面内波数ベクトルとは、波数ベクトルをΓ-X・Γ-Y平面内に投影したベクトルである。すなわち、面内波数ベクトルK1はΓ-X軸正方向を向き、面内波数ベクトルK2はΓ-Y軸正方向を向き、面内波数ベクトルK3はΓ-X軸負方向を向き、面内波数ベクトルK4はΓ-Y軸負方向を向く。図8から明らかなように、Γ点で発振するフォトニック結晶層においては、面内波数ベクトルK1~K4の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさと等しい。なお、面内波数ベクトルK1~K4の大きさをkとすると、下記の数式(8)の関係が成り立つ。
図9は、図8に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。図9には、Γ-X軸及びΓ-Y軸の方向と直交するZ軸が示されている。このZ軸は、図1に示されたZ軸と同一である。図9に示すように、Γ点で発振するフォトニック結晶層の場合、回折によって面内方向の波数が0となり、面垂直方向(Z方向)への回折が生じる(図中の矢印K5)。従って、レーザ光は基本的にZ方向に出力される。
上述したように、通常、PCSELのフォトニック結晶層は、M点では発振させない。M点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、活性層13の発光波長λ、及びモードの等価屈折率nがλ=(√2)n×aといった条件を満たす。図10は、M点で発振するフォトニック結晶層に関する逆格子空間を示す平面図である。この図もまた、複数の異屈折率領域が正方格子の格子点上に位置する場合を示し、図中の点Pは逆格子点を表す。また、図中の矢印B1は図8と同様の基本逆格子ベクトルを表し、矢印K6,K7,K8,及びK9は4つの面内波数ベクトルを表す。ここで、逆格子空間において互いに直交するΓ-M1軸及びΓ-M2軸を定義する。Γ-M1軸は正方格子の一方の対角方向と平行であり、Γ-M2軸は正方格子の他方の対角方向と平行である。面内波数ベクトルとは、波数ベクトルをΓ-M1・Γ-M2平面内に投影したベクトルである。すなわち、面内波数ベクトルK6はΓ-M1軸正方向を向き、面内波数ベクトルK7はΓ-M2軸正方向を向き、面内波数ベクトルK8はΓ-M1軸負方向を向き、面内波数ベクトルK9はΓ-M2軸負方向を向く。図10から明らかなように、M点で発振するフォトニック結晶層においては、面内波数ベクトルK6~K9の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さい。なお、面内波数ベクトルK6~K9の大きさをkとすると、下記の数式(9)の関係が成り立つ。
回折は波数ベクトルK6~K9に逆格子ベクトルG(=2mπ/a、m:整数)のベクトル和の方向に生じるが、M点で発振する光回折層25Aの場合、回折によって面内方向の波数が0となり得ず、面垂直方向(Z方向)への回折は生じない。従って、レーザ光はZ方向には出力されない。
次に、図3に示した略周期構造を有する光回折層をΓ点で発振させることを考える。Γ点発振の条件は前述したPCSELの場合と同様である。図11は、Γ点で発振する光回折層に関する逆格子空間を示す平面図である。基本逆格子ベクトルB1はΓ点発振のPCSELと同様(図8を参照)であるが、面内波数ベクトルK1~K4は、角度分布θ(x,y)による位相変調を受け、出力ビームパターンの広がり角に対応した波数拡がりSPをそれぞれ有する。波数拡がりSPは、Γ点発振のPCSELにおける各面内波数ベクトルK1~K4の先端を中心とし、X方向及びY方向の辺の長さがそれぞれ2Δkxmax、2Δkymaxの矩形領域として表現できる。このような波数拡がりSPによって、各面内波数ベクトルK1~K4は(Kix+Δkx、Kiy+Δky)の矩形状の範囲に広がる(i=1~4、KixはベクトルKiのX方向成分、KiyはベクトルKiのY方向成分)。ここで、-Δkxmax≦Δkx≦Δkxmax、-Δkymax≦Δky≦Δkymaxとなる。Δkxmax及びΔkymaxの大きさは、出力ビームパターンの広がり角に応じて定まる。
図12は、図11に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。図12には、Γ-X軸及びΓ-Y軸の方向と直交するZ軸が示されている。このZ軸は、図1に示されたZ軸と同一である。図12に示されるように、Γ点で発振する光回折層の場合、面垂直方向(Z方向)への0次光と、Z方向に対して傾斜した方向への1次光及び-1次光とを含む空間的な拡がりを有するビームパターンLMが出力される。
次に、図3に示した略周期構造を有する光回折層をM点で発振させることを考える。M点発振の条件は前述したPCSELの場合と同様である。図13は、M点で発振する光回折層に関する逆格子空間を示す平面図である。基本逆格子ベクトルB1はM点発振のPCSELと同様(図10を参照)であるが、面内波数ベクトルK6~K9は、角度分布θ(x,y)による波数拡がりSPをそれぞれ有する。波数拡がりSPの形状及び大きさは、上述したΓ点発振の場合と同様である。異屈折率領域が周期的に配置されたPCSELに限らず、図3に示した略周期構造を有する光回折層においても、M点発振の場合には面内波数ベクトルK6~K9の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さい。従って、回折によって面内方向の波数が0となり得ず、面垂直方向(Z方向)への回折は生じない。従って、面垂直方向(Z方向)への0次光、並びにZ方向に対して傾斜した方向への1次光及び-1次光の双方が出力されない。
ここで、本実施形態においては、M点で発振する略周期構造において次のような工夫を光回折層25Aに施すことにより、0次光を出力しないまま、1次光及び-1次光の一部を出力する。具体的には、図14に示すように、面内波数ベクトルK6~K9に対して或る一定の大きさ及び向きを有する回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つ(図では面内波数ベクトルK8)の大きさを、2π/λよりも小さくする。言い換えると、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つ(面内波数ベクトルK8)は、半径2π/λの円状領域(ライトライン)LL内に収まる。図14において破線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算前を表し、実線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算後を表す。ライトラインLLは全反射条件に対応しており、ライトラインLL内に収まる大きさの波数ベクトルは面垂直方向(Z方向)の成分を有することとなる。一例では、回折ベクトルVの方向はΓ-M1軸またはΓ-M2軸に沿っており、その大きさは2π/(√2)a-2π/λから2π/(√2)a+2π/λの範囲内となり、一例として、2π/(√2)aとなる。
面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つをライトラインLL内に収めるための回折ベクトルVの大きさ及び向きについて検討する。下記の数式(10)~(13)は、回折ベクトルVが加えられる前の面内波数ベクトルK6~K9を示す。
なお、波数ベクトルの広がりΔkx及びΔkyは、下記の数式(14)及び(15)をそれぞれ満たし、面内波数ベクトルのX方向の広がりの最大値Δkx
max及びY方向の広がりの最大値Δky
maxは、設計の出力ビームパターンの角度広がりにより規定される。
ここで、回折ベクトルVを下記の数式(16)のように表したとき、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK6~K9は下記の数式(17)~(20)となる。
数式(17)~(20)において波数ベクトルK6~K9のいずれかがライトラインLL内に収まることを考慮すると、下記の数式(21)の関係が成り立つ。
すなわち、数式(21)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、波数ベクトルK6~K9のいずれかがライトラインLL内に収まり、1次光及び-1次光の一部が出力される。
なお、ライトラインLLの大きさ(半径)を2π/λとしたのは次の理由による。図15は、ライトラインLLの周辺構造を模式的に説明するための図であって、Z方向に垂直な方向から見たデバイスと空気との境界を示している。真空中の光の波数ベクトルの大きさは2π/λとなるが、図15のようにデバイス媒質中を光が伝搬するとき、屈折率nの媒質内の波数ベクトルKaの大きさは2πn/λとなる。このとき、デバイスと空気の境界を光が伝搬するためには、境界に平行な波数成分が連続している必要がある(波数保存則)。図15で波数ベクトルKaとZ軸とが角度θをなす場合、面内に投影した波数ベクトル(すなわち面内波数ベクトル)Kbの長さは(2πn/λ)sinθとなる。一方で、一般に媒質の屈折率n>1の関係から、媒質内の面内波数ベクトルKbが2π/λより大きくなる角度では波数保存則が成立しなくなる。このとき、光は全反射し、空気側に取り出すことが出来ない。この全反射条件に対応する波数ベクトルの大きさがライトラインLLの大きさとなり、2π/λとなる。
面内波数ベクトルK6~K9に回折ベクトルVを加える具体的な方式の一例として、出力ビームパターンに応じた位相分布である角度分布θ1(x,y)に対し、出力ビームパターンとは無関係の角度分布θ2(x,y)を重畳する方式が考えられる。この場合、光回折層25Aの角度分布θ(x,y)は、
θ(x,y)=θ1(x,y)+θ2(x,y)
として表される。θ1(x,y)は、前に述べたように出力ビームパターンをフーリエ変換したときの複素振幅の位相に相当する。また、θ2(x,y)は、上記の数式(21)を満たす回折ベクトルVを加えるための角度分布である。図16は、角度分布θ2(x,y)の一例を概念的に示す図である。図16に示されるように、この例では、第1の位相値φAと、第1の位相値φAとは異なる値の第2の位相値φBとが市松模様に配列されている。一実施例では、位相値φAは0(rad)であり、位相値φBはπ(rad)である。すなわち、第1の位相値φAと、第2の位相値φBとがπずつ変化する。このような位相値に対応する角度分布θ2(x,y)によって、Γ-M1軸またはΓ-M2軸に沿う回折ベクトルVを好適に実現することができる。前述の通り市松模様に配列した場合にはV=(±π/a,±π/a)のように図13の波数ベクトルK6~K9と丁度相殺する。なお、回折ベクトルVの角度分布θ2(x,y)は、回折ベクトルV(Vx,Vy)と位置ベクトルr(x,y)との内積で表され、次式で与えられる。
θ2(x,y)=V・r=Vxx+Vyy
本実施形態の光回折層25Aが有する各異屈折率領域25bの特徴について更に説明する。光回折層25Aにおいて1次元回折(180°方向の回折)が大きい場合、図17の(a)部に概念的に示すように、発振モードの局在化が進んで局所発振が生じ、局所的な1次元発振の競合が起きる。これは高次モードの形成に寄与する。また、図17の(b)部に概念的に示すように、フラットバンド発振が発生してフラットバンド競合が生じる。なお、図17において、矢印は光の回折方向を表す。ここでフラットバンド発振とは、Γ点の場合にはバンド端近傍のΓ-X方向、M点の場合にはバンド端近傍のΓ-M方向のフォトニックバンドのフラットな領域において、定在波が形成されて発振する現象であり、図17(b)に示すようなジグザグの共振状態となる。このとき、出射ビームは細長くなり、設計パターンに対して伸びた光像となってしまう。そして、バンド端発振と同時に競合して、フラットバンド発振するフラットバンド競合が起きることもある。これらの現象は、光回折層25Aにおける光強度分布を不均一にし、設計パターンに対する光像の画質の劣化を招く。これに対し、1次元的な局所発振が抑制されると、図18の(a)部に示すように、2次元回折が促進される。故に、発振モードの局在化が抑制されて高次モードが形成されにくくなるので、基本モードと高次モードとの閾値利得差を大きくすることができる。また、フラットバンド発振を抑制して、フラットバンド競合を抑制することができる。更に、図18の(b)部に示すように、光回折層25Aの全域にモードを広く分布させることができる。よって、出力ビームパターンの光強度分布を均一化して、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。
そこで、光回折層25Aにおける1次元回折を低減するための条件について検討する。本発明者の知見によれば、M点発振の場合、基本波の(±1,±1)次のフーリエ係数がゼロに近づくほど、光回折層25Aに入射した光の1次元的な180°方向の回折が抑制される。すなわち、光波同士の回折は、下記の論文に示される3次元結合波理論の結合係数κにより表されるが、これはフーリエ係数に比例するので、上記のフーリエ係数がゼロであれば、M点発振の180°方向の結合に寄与するκが0となり、180°方向への光波の直接的な結合が起きない。ただし、高次回折を介した間接的な結合は存在する。
論文:Yong Liang et al., “Three-dimensionalcoupled-wave model for square-lattice photonic crystal lasers with transverseelectric polarization A general approach”, Physical Review,B84, 195119 (2011)
なお、(±1,±1)次のフーリエ係数がゼロに近づくとは、(+1,+1)次、(+1,-1)次、(-1,+1)次、及び(-1,-1)次の4つのフーリエ係数がゼロに近づくことを意味する。
本実施形態の異屈折率領域25bの平面形状は、図4に示したように、格子点Oを内外の円弧の中心とするC字形状である。このような平面形状を有する異屈折率領域25bを、対応する格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させると、円環形状が得られる。この円環形状の内側の半径は内周円の半径r1と等しく、外側の半径は外周円の半径r2と等しい。以下の説明において、光回折層25Aにおける回折作用を検討するうえで、近似的に各異屈折率領域25bを、この円環形状を有する2次元フォトニック結晶とみなす。
フーリエ係数と円の半径との関係は、一般的に次の数式(22)によって表される。但し、ρはフーリエ次数の絶対値、J
1は1次のベッセル関数、Rは円の半径であり、circ(r)は数式(23)で表される関数である。なお半径Rは格子間隔aで規格化した値となる。
円環形状のフーリエ係数は、外側の円のフーリエ係数から、内側の円のフーリエ係数を差し引いた値となる。すなわち、円環形状のフーリエ係数は次の数式(24)によって表される。但し、R
1は内側の円の半径(=r
1)、R
2は外側の円の半径(=r
2)である。
光回折層25AをM点発振させる場合、基本波の波数がk=2πn/λ=2π/(√2)aとなるように、格子間隔aが定められる。したがって、数式(22)に示される円のフーリエ係数は、M点発振の場合、1次元回折に寄与する次数(±1、±1)次に対して、ρ=√2となるので、下記の数式(25)となる。但し、rは円の半径である。なお半径rは格子間隔aで規格化した値である。
図19は、数式(25)の関係をグラフ化したものである。図19において、縦軸はフーリエ係数を表し、横軸は円の半径の格子間隔aに対する倍率を表す。同図に示すように、M点発振におけるフーリエ係数は、円の半径が格子間隔aの0.27倍であるときに極大値(0.10)となる。そして、フーリエ係数は、極大値の前後においてほぼ同様の傾きをもって増大及び減少する。異屈折率領域25bの平面形状が近似的に円環形状を有する場合、内側の円のフーリエ係数と外側の円のフーリエ係数とが互いに等しければ、その円環形状のフーリエ係数がゼロとなる。したがって、円環形状のフーリエ係数をゼロにするためには、図19に示すように、或るフーリエ係数Faに対応する2つの半径のそれぞれを、内側の円の半径r1及び外側の円の半径r2に設定するとよい。この場合、内側の円の半径r1は格子間隔aの0.27倍より小さくなり、外側の円の半径r2は格子間隔aの0.27倍より大きくなる。
上記の説明においては、フーリエ係数をゼロとすることにより1次元的な局所発振を抑制しているが、フーリエ係数が厳密にゼロでなくても、その絶対値を極めて小さい値とすることにより1次元的な局所発振を抑制することが可能である。具体的には、異屈折率領域25bを格子点Oを中心として仮想的に回転して得られる円環形状の(±1,±1)次のフーリエ係数の絶対値が0.01以下、或いは円形の(±1,±1)次のフーリエ係数の最大ピーク値(図19の例では0.10)の10%以下であれば、1次元的な局所発振を効果的に抑制することができる。また、その円環形状を画定する内側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F1と、外側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F2との比(F2/F1)が0.99以上1.01以下であれば、1次元的な局所発振を効果的に抑制することができる。一実施例では、半径r1は格子間隔aの0.195倍であり、半径r2は格子間隔aの0.34倍である。
図20は、一実施例として、基本層25aとしてのGaAs層にドライエッチングを施すことによって形成された、格子間隔a=200nmのC字形状の異屈折率領域25bを示す拡大写真である。図20の(a)部は複数の異屈折率領域25bを示し、図20の(b)部は(a)部の一部を更に拡大して示す。異屈折率領域25bの内側円の直径は42nmであり、半径r1は格子間隔aの0.105倍である。外側円の直径は160nmであり、半径r2は格子間隔aの0.40倍である。このとき、図21に示すように、半径r1の円の(±1,±1)次のフーリエ係数と半径r2の円の(±1,±1)次のフーリエ係数とが互いに等しくなるので互いに打ち消し合い、このC字形状を回転して得られる円環の(±1,±1)次のフーリエ係数はほぼゼロとなる。故に、1次元的な局所発振を効果的に抑制することができる。
なお、本実施形態の光源装置1Aにおいては、活性層13および光回折層25Aが設けられていれば、各層の材料、層の厚さ、及び層構造は様々に変更され得る。ここで、仮想的な正方格子からの摂動が0の場合のいわゆる正方格子フォトニック結晶レーザに関してはスケーリング則が成り立つ。すなわち、波長が定数α倍となった場合には、正方格子構造全体をα倍することによって同様の定在波状態を得ることが出来る。同様に、本実施形態においても、波長に応じたスケーリング則によって光回折層25Aの構造を決定することが可能である。従って、青色、緑色、赤色などの光を発光する活性層13を用い、波長に応じたスケーリング則を適用することで、可視光を出力する光源装置1Aを実現することも可能である。
光源装置1Aを製造する際、各化合物半導体層の成長には、有機金属気相成長(MOCVD)法若しくは分子線エピタキシー法(MBE)を用いる。AlGaAsを用いた光源装置1Aの製造においては、成長温度は500℃~850℃であって、実験では550~700℃を採用し、成長時におけるAl原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、ガリウム原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびTEG(トリエチルガリウム)、As原料としてはAsH3(アルシン)、n型不純物用の原料としてSi2H6(ジシラン)、p型不純物用の原料としてDEZn(ジエチル亜鉛)を用いることが出来る。絶縁膜の形成は、その構成物質を原料としてターゲットをスパッタするか、またはPCVD(プラズマCVD)法により形成すればよい。
光源装置1Aを製造する際には、まず、基板3の主面3a上に、下部クラッド層12,22と、活性層13,23と、光閉じ込め層14,24と、上部クラッド層15及び光回折層25Aの基本層25aとなる半導体層と、コンタクト層16とを、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて順次、エピタキシャル成長させる。
次に、コンタクト層16上においてレーザ発振部10Aとなる領域をSiN等のシリコン化合物で覆い、光導波部20Aとなる領域のコンタクト層16および上部クラッド層15の一部をエッチングすることにより、基本層25aを露出させる。基本層25aにレジストを塗布し、該レジスト上に電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することで該レジスト上に2次元微細パターンを形成する。その後、該レジストをマスクとして、ドライエッチングにより2次元微細パターンを基本層25a上に転写し、孔(穴)を形成したのち、レジストを除去する。なお、レジスト形成前にSiN層やSiO2層をPCVD法で基本層25a上に形成し、その上にレジストマスクを形成し、反応性イオンエッチング(RIE)を使ってSiN層やSiO2層に微細パターンを転写し、レジストを除去してからドライエッチングしても良い。この場合、ドライエッチングの耐性を高めることができる。これらの孔を異屈折率領域25bとするか、或いは、これらの孔の中に、異屈折率領域25bとなる化合物半導体(例えばAlGaAs)を孔の深さ以上に再成長させる。孔を異屈折率領域25bとする場合、孔内に空気、窒素、水素又はアルゴン等の気体を封入してもよい。または、異屈折率領域25bの空孔の内部には原子層堆積装置を用いて誘電体を埋め込んでもよい。この場合、物理的に堅牢な構造を得ることができる。なお、ドライエッチング後に異屈折率領域25bの上に成膜しない場合、孔形状を保持することができ、孔形状の変化による特性の変化を抑制できる。次に、電極17,18を蒸着法又はスパッタ法により形成する。また、必要に応じて、保護膜31,32をスパッタやPCVD法等により形成する。
以上に説明した本実施形態の光源装置1A及び光導波部20Aによって得られる効果について説明する。光導波部20Aでは、仮想的な正方格子の格子間隔aと光Linの波長λとが、M点発振の条件を満たす。通常、M点発振の定在波状態において光回折層内を伝搬する光は全反射するので、XY平面と交差する方向への光出力が抑制される。しかしながら、本実施形態の光導波部20Aでは、複数の異屈折率領域25bの各重心Gが、仮想的な正方格子の対応する格子点Oから離れて配置されるとともに、対応する格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの角度θが各異屈折率領域25b毎に個別に設定され、その角度θの分布は、XY平面と交差する方向に光Loutが出力されるための条件を満たす。このような構造によれば、XY平面に沿って入力された光Linを、XY平面と交差する方向に回折させることができる。
加えて、この光導波部20Aでは、各異屈折率領域25bを、対応する格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させると円環形状が得られ、その円環形状の(±1,±1)次のフーリエ係数の絶対値が0.01以下、或いは円形の(±1,±1)次のフーリエ係数の最大ピーク値の10%以下である。このように、各異屈折率領域25bの(±1,±1)次のフーリエ係数が極めて小さい値を有することにより、1次元的な局所発振を低減できる。故に、この光導波部20Aによれば、1次元回折によるモードの局在化、及びフラットバンド回折といった現象を抑制し、2次元的な回折により光強度分布を均一に近づけ、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。更に、光回折層25Aからレーザ発振部10Aへの戻り光ノイズを低減して、安定した素子動作が可能となる。
また、本実施形態の光源装置1Aは、半導体プロセスを用いて高精度に作製することが容易にできる。更に、コリメートレンズまたは回折光学素子といった他の光学系を必要としないので、光軸ずれが生じない。故に、光源装置1Aの設置誤差に対する許容度を高めることができる。
なお、従来の分布ブラッグ反射器では、回折格子の全域に均一な光を入射するための結合導波路が、光源と分布ブラッグ反射器との間に必要となる。これに対し、本実施形態の光導波部20Aによれば、光回折層25Aの一部の領域に光を入射した場合、或いは光回折層25Aに光強度が不均一な光Linを入射した場合であっても、光回折層25Aにおける2次元回折作用により、光を光回折層25Aの全域に拡げ、光の偏りが少ない均一なビームパターンを出力することができる。故に、例えば光源としてファブリペロー型のシングルモードレーザダイオードを用いる場合であっても、結合導波路を省いて小型化することが可能である。
前述したように、各異屈折率領域25bを、対応する格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させて得られる円環形状の(±1,±1)次のフーリエ係数はゼロであってもよい。この場合、上記の効果をより顕著に奏することができる。
前述したように、上記の円環形状を画定する内側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F1と、上記の円環形状を画定する外側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F2との比(F2/F1)は、0.99以上1.01以下であってもよい。このように外側の円のフーリエ係数と内側の円のフーリエ係数とが互いに近い値であることによって、円環形状のフーリエ係数をゼロに近づけることができるので、1次元的な局所発振をより効果的に低減できる。
前述したように、上記の円環形状を画定する内側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F1と、上記の円環形状を画定する外側の円の(±1,±1)次のフーリエ係数F2とは、互いに等しくてもよい。この場合、上記の円環形状のフーリエ係数が十分に小さくなるので、上記の効果を奏することができる。
前述したように、上記の円環形状の内側の円の半径r1は格子間隔aの0.27倍より小さく、外側の円の半径r2は格子間隔aの0.27倍より大きくてもよい。図19に示したように、M点発振構造において、円形状のフーリエ係数は、その半径が格子間隔aの0.27倍であるときに極値をとる。したがって、内側の円の半径r1が格子間隔aの0.27倍より小さく、外側の円の半径r2が格子間隔aの0.27倍より大きいことにより、内側の円のフーリエ係数と外側の円のフーリエ係数とを互いに近づけることが容易にできる。
本実施形態のように、各異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oを内外の円弧の中心とするC字形状であってもよい。この場合、各異屈折率領域25bの重心Gと格子点Oとを結ぶベクトルの角度θを、C字形状の開口部分の周方向位置を変えることによって任意に設定することができる。また、C字形状を、格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させると、円環形状が好適に得られる。C字形状は円環形状に近いので、各異屈折率領域25bの平面形状のフーリエ係数を、円環形状のフーリエ係数に精度よく近づけて、好適に1次元回折を抑制することが出来る。また、異屈折率領域25bの平面形状をC字形状とすることにより、上記の円環形状を実現しつつ、異屈折率領域25bの面積を大きくすることができる。故に、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。
本実施形態のように、仮想平面と交差する方向に光が出力されるための条件とは、光回折層25Aの逆格子空間上において、角度θの分布による波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさが、2π/λ(ライトライン)よりも小さいことであってもよい。少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさが2π/λ(ライトライン)よりも小さい場合、その面内波数ベクトルはZ方向の成分を有するとともに、空気との界面で全反射を生じないので、XY平面に沿って入力された光Linの一部がXY平面と交差する方向に出力され得る。
また、光導波部20Aを備える本実施形態の光源装置1Aによれば、レーザ発振部10AからXY平面に沿って光回折層25Aに入力された光Linを、XY平面と交差する方向に回折して出力することができる。加えて、上記の作用により、1次元的な局所発振を低減できる。故に、1次元回折によるモードの局在化、及びフラットバンド回折といった現象を抑制し、光強度分布を均一に近づけ、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。
本実施形態のように、光Linは空間コヒーレントであってもよい。この場合、光回折層25Aにおける発振の均一性をより高め、出力ビームパターンを、設計したパターンに更に近づけることができる。
前述したように、異屈折率領域25bの空孔の上部は開口していてもよい。光回折層25A上に半導体層を形成して空孔を塞ぐ場合、空孔内に半導体材料が入り込み、空孔の形状が僅かに変形することがある。空孔の上部を開口させる(半導体層を再成長しない)ことにより、空孔の形状を保ち、異屈折率領域25bの形状を精度よく形成することができる。
なお、本実施形態の光回折層25Aからは、1次光及び-1次光だけでなく、2次以上の高次光が出射される場合がある。そのような場合には、1次光及び-1次光の出射方向を面垂直方向(Z方向)に対して傾斜させることにより、高次光の出射方向を1次光及び-1次光と異ならせることができ、1次光及び-1次光と高次光との分離を容易にできる。また、高次光の出射方向とZ方向との成す角を全反射角以上とすることにより、高次光を出力させないことも可能である。
また、本実施形態では、レーザ発振部10Aと光導波部20Aとの並び方向すなわちX方向と正方格子の一辺とが平行である場合を例示しているが、正方格子の各辺は、X方向及びY方向に対して傾斜していてもよい。図22は、正方格子の各辺が光Linの入力方向に対して45°傾斜している例を示す斜視図である。このような形態であっても、本実施形態の効果を奏することができる。
ここで、本実施形態の光源装置1Aの実施例を示す。下記の表1は、レーザ発振部10Aを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す。図23は、この表1の構成を有するレーザ発振部10Aの屈折率分布G11及びモード分布G12を示すグラフである。図中、区間T11は下部クラッド層12に対応し、区間T12は活性層13に対応し、区間T13は光閉じ込め層14に対応し、区間T14は上部クラッド層15に対応し、区間T15はコンタクト層16に対応し、区間T16は空気に対応する。表2は、光導波部20Aを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す表である。図24は、この表2の構成を有する光導波部20Aの屈折率分布G21及びモード分布G22を示すグラフである。図中、区間T21は下部クラッド層22に対応し、区間T22は活性層23に対応し、区間T23は光閉じ込め層24に対応し、区間T24は光回折層25Aに対応し、区間T25は空気に対応する。
図25は、図23に示されたモード分布G12と、図24に示されたモード分布G22とを重ね合わせたグラフである。図25に示すように、この実施例によれば、レーザ発振部10Aのモード分布G12と光導波部20Aのモード分布G22とがほぼ一致し、レーザ発振部10Aと光導波部20Aとの高い結合効率が得られることがわかる。この実施例では、結合効率は0.988となる。
(第1変形例)
上述した実施形態では、角度θの分布に基づく波数広がりが、波数空間上の或る点を中心とする半径Δkの円に含まれる場合、次のように簡略に考えることもできる。すなわち、4方向の面内波数ベクトルK6~K9に回折ベクトルVを加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさを2π/λ(ライトラインLL)よりも小さくする。これは、4方向の面内波数ベクトルK6~K9から波数拡がりΔkを除いたもの(すなわちM点発振の正方格子PCSELにおける4方向の面内波数ベクトル、図10を参照)に対して回折ベクトルVを加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λから波数拡がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくすると考えてもよい。
図26は、上記の操作を概念的に示す図である。同図に示されるように、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK6~K9に対して回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさを{(2π/λ)-Δk}よりも小さくする。図中において、領域LL2は半径が{(2π/λ)-Δk}の円状の領域である。なお、図26において破線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算前を表し、実線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算後を表す。領域LL2は全反射条件に対応しており、領域LL2内に収まる大きさの波数ベクトルは面垂直方向(Z方向)にも伝搬することとなる。
本変形例において、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つを領域LL2内に収めるための回折ベクトルVの大きさ及び向きを説明する。下記の数式(26)~(29)は、回折ベクトルVが加えられる前の面内波数ベクトルK6~K9を示す。
ここで、回折ベクトルVを前述した数式(16)のように表したとき、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK6~K9は下記の数式(30)~(33)となる。
数式(30)~(33)において面内波数ベクトルK6~K9のいずれかが領域LL2内に収まることを考慮すると、下記の数式(34)の関係が成り立つ。
すなわち、数式(34)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK6~K9のいずれかが領域LL2内に収まる。このような場合であっても、0次光を出力しないまま、1次光及び-1次光の一部を出力することができる。
(第2変形例)
図27、図28及び図29は、第1実施形態における異屈折率領域25bの平面形状の他の例を示す図である。図27に示す例では、上記実施形態と同様、異屈折率領域25bの平面形状は、格子点Oを内外の円弧の中心とするC字形状である。但し、本変形例では、内周側の円弧151の一端と外周側の円弧152の一端とを結ぶ線分153と、円弧151の他端と円弧152の他端とを結ぶ線分154とが、互いに平行である。したがって、外周側の円弧152の中心角は、内周側の円弧151の中心角よりも僅かに大きい。異屈折率領域25bがこのような平面形状を有する場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
図28に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oがその外側に位置する円形状である。また、図29に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oがその外側に位置する多角形である。これらの形状であっても、格子点Oを回転中心として異屈折率領域25bを仮想的に一周回回転させると、内側の円C1及び外側の円C2によって画定される円環形状が好適に得られる。そして、光回折層25Aには多数の異屈折率領域25bが含まれ、各異屈折率領域25b毎に角度θが個別に設定されている。したがって、光回折層25Aにおける回折作用を検討するうえで、近似的に各異屈折率領域25bを、この円環形状を有する2次元フォトニック結晶とみなすことができる。故に、異屈折率領域25bがこれらの平面形状を有する場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、これらの場合、異屈折率領域25bの外周において格子点Oに最も近い点と格子点Oとの距離が内側の円の半径r1に一致し、異屈折率領域25bの外周において格子点Oから最も遠い点と格子点Oとの距離が外側の円の半径r2に一致する。
(第3変形例)
図30は、第1実施形態における異屈折率領域25bの平面形状の他の例を示す図である。図30に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oを円弧の中心とする扇形である。具体的には、異屈折率領域25bの平面形状は、円弧161、円弧161の一端と格子点Oとを結ぶ線分162、及び円弧161の他端と格子点Oとを結ぶ線分163によって画定されている。円弧161は優弧である。言い換えると、円弧161の中心角は180°より大きい。円弧161の中心角は、例えば300°以上360°未満の範囲内である。線分162及び163は、円弧161の径方向に沿って延びている。
この例では、格子点Oを起点とし扇形の切り欠き部分の中心に沿ったベクトルとX軸との成す角度θ(x,y)が定義される。この角度θ(x,y)に180°を加算すると、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸との成す角度と一致する。したがって、この例においても、角度θ(x,y)を、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸との成す角度に対応するものとみなすことができる。各異屈折率領域25bの重心Gと格子点Oとを結ぶベクトルの角度は、扇形の切り欠き部分の周方向位置を変えることによって任意に設定され得る。格子点Oと重心Gとの距離は、x、yによらず(光回折層25A全体にわたって)一定である。なお、位相角に定数を加算しても得られる光像は変わらないので、180°を加算せず、位相角を設計してもよい。
この扇形を、格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させると、上記実施形態と異なり、半径r3の円形が得られる。M点発振の場合、円形のフーリエ係数は、上記実施形態にて述べたとおり、数式(25)によって得られる。この数式(25)により算出される(±1,±1)次のフーリエ係数がゼロか、若しくはゼロに近い場合に、1次元回折を抑制して上記実施形態と同様の効果を奏することができる。本変形例の異屈折率領域25bの(±1,±1)次のフーリエ係数の好適な範囲は、上記実施形態と同様である。このようなフーリエ係数を実現する半径r3の好適な大きさが、図19に示されている。すなわち、円形状の半径r3は、格子間隔aの0.43倍以上0.44倍以下であることが好ましい。M点発振の場合、円形状のフーリエ係数は、その半径r3が格子間隔aの0.43倍~0.44倍の範囲内の或る値のときにゼロとなる。したがって、この場合、異屈折率領域25bの平面形状のフーリエ係数をゼロに近づけることができ、1次元的な局所発振をより効果的に低減できる。
また、優弧をもつ扇形は円形状に近いので、各異屈折率領域25bの平面形状のフーリエ係数を、円形状のフーリエ係数に精度よく近づけることができる。
なお、本変形例では、第1実施形態と異なり、異屈折率領域25bの空孔の幅が大きくなる。したがって、空孔を他の半導体層で覆う場合には、空孔が他の半導体層によって埋め込まれることを防ぐために、空孔の横幅と深さとの比(アスペクト比)を大きくするとよい。その為に、上記の異屈折率領域25bの輪郭部分のみ空孔として、その内側に基本層25aと同一の材料からなる領域を設け、異屈折率領域25bの外形を維持しつつ空孔を狭くしてもよい。
(第4変形例)
図31、図32及び図33は、第1実施形態における異屈折率領域25bの平面形状の他の例を示す図である。図31に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oを中心とする円形であって径方向に直線状の切り欠きを有する形状である。具体的には、異屈折率領域25bの平面形状は、円弧171と、円弧171の開口部から格子点Oへ向けて延びる矩形の凹状部172とによって画定されている。円弧171は優弧である。言い換えると、円弧171の中心角は180°より大きい。円弧171の中心角は、例えば300°以上360°未満である。円弧171の一端及び他端からそれぞれ延びており凹状部172を形成する一対の線分173及び174は、互いに平行である。
図31に示す例においても、格子点Oを起点とし凹状部172の中心に沿ったベクトルとX軸との成す角度θ(x,y)が定義される。各異屈折率領域25bの重心Gと格子点Oとを結ぶベクトルの角度は、凹状部172の周方向位置を変えることによって任意に設定され得る。この形状を、格子点Oを回転中心として仮想的に一周回回転させると、半径r3の円形が得られる。好ましい半径r3の大きさは、第3変形例と同様である。
図32に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oがその内側に位置する円形状である。また、図33に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oがその内側に位置する多角形である。これらの形状であっても、格子点Oを回転中心として異屈折率領域25bを仮想的に一周回回転させると、円形C3が好適に得られる。光回折層25Aには多数の異屈折率領域25bが含まれ、各異屈折率領域25b毎に角度θが個別に設定されているので、光回折層25Aにおける回折作用を検討するうえで、近似的に各異屈折率領域25bを、この円形C3を有する2次元フォトニック結晶とみなすことができる。故に、異屈折率領域25bがこれらの平面形状を有する場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、これらの場合、異屈折率領域25bの外周において格子点Oから最も遠い点と格子点Oとの距離が、円形C3の半径r3に一致する。好ましい半径r3の大きさは、第3変形例と同様である。
(第2実施形態)
図34は、本開示の第2実施形態に係る光源装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図34においても、光源装置1Bの積層方向をZ方向とし、X方向、Y方向及びZ方向が互いに直交する座標系を定義する。
本実施形態の光源装置1Bは、第1実施形態の光導波部20Aに代えて、光導波部20Bを備える。光源装置1Bが備える他の構成は、第1実施形態の光源装置1Aと同様である。光導波部20Bにおいて第1実施形態の光導波部20Aと相違する点は、光回折層の構成である。図35は、本実施形態の光導波部20Aが有する光回折層25Bの平面図である。光回折層25Bもまた、第1屈折率媒質からなる基本層25aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる複数の異屈折率領域25bとを含む。そして、光回折層25Bにも、XY平面内における仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。複数の異屈折率領域25bは、各単位構成領域R内に例えば1つずつ設けられる。
図36は、一つの単位構成領域Rを拡大して示す図である。図36に示すように、異屈折率領域25bの平面形状は、例えば格子点Oを内外の円の中心とする円環形状である。具体的には、異屈折率領域25bの平面形状は、内周円181及び外周円182によって画定されている。内周円181及び外周円182の各中心は、格子点Oに一致する。
光回折層25Bは、Γ点で発振するフォトニック結晶レーザとしての構成を有する。すなわち、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層13の発光波長λ(すなわち光Linの波長)とがΓ点発振の条件を満たす。Γ点発振の条件は、第1実施形態において述べたとおりである。したがって、図34に示すように、光回折層25Bからは、面垂直方向(Z方向)に光Loutが出力される。
光回折層25Bにおける1次元的な局所発振を低減するための条件について検討する。Γ点発振の場合、1次元回折に直接的に寄与するフーリエ次数は(±2,0)次及び(0,±2)次となり、基本波の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数がゼロに近づくほど、光回折層25Bに入射した光Linの1次元的な180°方向の回折が抑制される。なお、(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数がゼロに近づくとは、(+2,0)次、(-2,0)次、(0,+2)次、及び(0,-2)次の4つのフーリエ係数がゼロに近づくことを意味する。本実施形態の異屈折率領域25bの平面形状は、図36に示したように、格子点Oを内外の円の中心とする円環形状である。この円環形状の内側の円の半径(内径)をr1、外側の円の半径(外径)をr2とする。フーリエ係数と円の半径との関係は、前述した数式(22)によって表される。また、円環形状のフーリエ係数は、外側の円のフーリエ係数から、内側の円のフーリエ係数を差し引いた値であり、前述した数式(24)によって表される。但し、R1は内径(=r1)、R2は外径(=r2)である。
光回折層25BをΓ点発振させる場合、基本波の波数がk=2nπ/λ=2π/aとなるように、格子間隔aが定められる。したがって、数式(22)に示される円のフーリエ係数は、Γ点発振の場合、1次元回折に寄与する次数(±2、0)次、または(0、±2)次に対して、フーリエ次数の絶対値ρ=2となるので、下記の数式(35)となる。但し、rは円の半径である。なお半径rは格子間隔aで規格化した値となる。
図37は、数式(35)の関係をグラフ化したものである。図37において、縦軸はフーリエ係数を表し、横軸は円の半径の格子間隔aに対する倍率を表す。同図に示すように、Γ点発振におけるフーリエ係数は、円の半径が格子間隔aの0.19倍であるときに極大値(0.05)となる。そして、フーリエ係数は、極大値の前後においてほぼ同様の傾きをもって増大及び減少する。また、Γ点発振におけるフーリエ係数は、円の半径が格子間隔aの0.44倍であるときに極小値(-0.075)となる。そして、フーリエ係数は、極小値の前後においてほぼ同様の傾きをもって減少及び増大する。
異屈折率領域25bの平面形状が円環形状を有する場合、内側の円のフーリエ係数と外側の円のフーリエ係数とが互いに等しければ、その円環形状のフーリエ係数がゼロとなる。したがって、円環形状のフーリエ係数をゼロにするためには、図37に示すように、或るフーリエ係数Fbに対応する2つの半径のそれぞれを、内径r1及び外径r2に設定するとよい。この場合、内径r1は格子間隔aの0.19倍より小さくなり、外径r2は格子間隔aの0.19倍より大きくなる。或いは、或るフーリエ係数Fcに対応する2つの半径のそれぞれを、内径r1及び外径r2に設定してもよい。この場合、内径r1は格子間隔aの0.44倍より小さくなり、外径r2は格子間隔aの0.44倍より大きくなる。
上記の説明においては、フーリエ係数をゼロとすることにより1次元的な局所発振を抑制しているが、フーリエ係数が厳密にゼロでなくても、その絶対値を極めて小さい値とすることにより1次元的な局所発振を抑制することが可能である。具体的には、異屈折率領域25bの円環形状の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数の絶対値が0.01以下、または円形の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数の最大ピーク値(図37の例では0.05)の20%以下であれば、1次元的な局所発振を効果的に抑制することができる。また、その円環形状を画定する内側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F1と、外側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F2との比(F2/F1)が0.99以上1.01以下であれば、1次元的な局所発振を効果的に抑制することができる。一実施例では、内径r1は格子間隔aの0.085倍であり、外径r2は格子間隔aの0.28倍である。別の実施例では、内径r1は格子間隔aの0.41倍であり、外径r2は格子間隔aの0.47倍である。
なお、本実施形態においても、波長に応じたスケーリング則によって光回折層25Bの構造を決定することが可能である。光源装置1Bは、第1実施形態の光源装置1Aの製造方法と同様の方法によって製造され得る。
以上に説明した本実施形態の光源装置1B及び光導波部20Bによって得られる効果について説明する。この光導波部20Bでは、仮想的な正方格子の格子間隔aと光の波長λとが、Γ点発振の条件を満たす。このような構造によれば、XY平面に沿って入力された光Linを、XY平面と垂直な方向に回折させることができる。加えて、この光導波部20Bにおいて、各異屈折率領域25bは、対応する格子点Oを中心とする円環形状を有する。そして、その円環形状の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数の絶対値は、0.01以下、または円形の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数の最大ピーク値の20%以下である。このように、各異屈折率領域25bの(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数が極めて小さい値を有することにより、1次元的な局所発振を低減できる。故に、この光導波部20Bによれば、1次元回折によるモードの局在化、及びフラットバンド回折といった現象を抑制し、光強度分布を均一に近づけ、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。
前述したように、各異屈折率領域25bの円環形状の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数はゼロであってもよい。この場合、上記の効果をより顕著に奏することができる。
前述したように、各異屈折率領域25bの円環形状を画定する内側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F1と、外側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F2との比(F2/F1)は、0.99以上1.01以下であってもよい。前述したように、円環形状のフーリエ係数は、円環形状を画定する外側の円のフーリエ係数F2と、円環形状を画定する内側の円のフーリエ係数F1との差として算出される。従って、このように外側の円のフーリエ係数F2と内側の円のフーリエ係数F1とが互いに近い値であることによって、円環形状のフーリエ係数をゼロに近づけることができるので、1次元的な局所発振をより効果的に低減できる。
前述したように、各異屈折率領域25bの円環形状を画定する内側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F1と、外側の円の(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数F2とは、互いに等しくてもよい。この場合、円環形状のフーリエ係数が十分に小さくなるので、上記の効果を奏することができる。
前述したように、各異屈折率領域25bの円環形状の内側の円の半径r1は格子間隔aの0.19倍より小さく、外側の円の半径r2は格子間隔aの0.19倍より大きくてもよい。或いは、内側の円の半径r1は格子間隔aの0.44倍より小さく、外側の円の半径r2は格子間隔aの0.44倍より大きくてもよい。図37に示したように、Γ点発振構造において、円形状のフーリエ係数は、その半径が格子間隔aの0.19倍または0.44倍であるときに極値をとる。したがって、内側の円の半径r1が格子間隔aの0.19倍(または0.44倍)より小さく、外側の円の半径r2が格子間隔aの0.19倍(または0.44倍)より大きいことにより、内側の円のフーリエ係数F1と外側の円のフーリエ係数F2とを互いに近づけることが容易にできる。
(第5変形例)
図38は、第2実施形態における異屈折率領域25bの平面形状の他の例を示す図である。図38に示す例では、異屈折率領域25bの平面形状は、対応する格子点Oを中心とする半径r3の円形である。円形のフーリエ係数は、前述したとおり、数式(35)によって得られる。この数式(35)により算出される(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数がゼロか、若しくはゼロに近い場合に、1次元回折を抑制して第2実施形態と同様の効果を奏することができる。本変形例の異屈折率領域25bの(±2,0)次及び(0,±2)次のフーリエ係数の好適な範囲は、第2実施形態と同様である。このようなフーリエ係数を実現する半径r3の好適な大きさが、図37に示されている。すなわち、円形状の半径r3は、格子間隔aの0.30倍以上0.31倍以下であることが好ましい。Γ点発振の場合、円形状のフーリエ係数は、その半径r3が格子間隔aの0.30倍~0.31倍の範囲内の或る値のときにゼロとなる。したがって、この場合、異屈折率領域25bの平面形状のフーリエ係数をゼロに近づけることができ、1次元的な局所発振をより効果的に低減できる。
(第3実施形態)
図39は、本開示の第3実施形態による光源装置1Cを模式的に示す斜視図である。同図に示すように、光源装置1Cは、複数の光源装置1Aを備える。複数の光源装置1Aは、それぞれの基板3の主面3aの法線方向(Z方向)が揃った状態で、XY平面に沿って並んで配置されている。図示例では、複数の光源装置1Aは、レーザ発振部10Aと光導波部20Aとの並び方向と交差する方向に並んで配置され、互いに接していても良く、また光学的及び電気的なクロストークを低減する必要があれば、互いに分離または遮蔽されていてもよい。なお、複数の光源装置1Aの基板3は互いに共通であってもよい。複数の光源装置1Aのレーザ発振部10Aを構成する各半導体層は、複数の光源装置1A間で共通であってもよい。
本実施形態の光源装置1Cによれば、光出力方向が揃った複数の光源装置1Aを備えることによって、更に光強度が大きい光Loutを出力することができる。或いは、複数の光源装置1Aを切り替えて使用することにより、互いにビームパターンが異なる複数の光Loutを電気的に選択して出力することができる。なお、複数の光源装置1Aに代えて、第2実施形態の光源装置1Bを同様の態様にて複数配置してもよい。
(第4実施形態)
図40は、本開示の第4実施形態による光源装置1Dを模式的に示す斜視図である。図41は、光源装置1Dの積層構造を模式的に示す図である。これらの図に示すように、光源装置1Dは、基板3、レーザ発振部10B及び光導波部20Cを備える。レーザ発振部10Bは、本開示における発光部に対応する。光導波部20Cは、本開示における光導波構造に対応する。レーザ発振部10B及び光導波部20Cは、XY平面に沿った方向に並んでおり、共通の基板3上に互いに隣接して設けられている。レーザ発振部10Bは、M点発振型のフォトニック結晶レーザであり、空間コヒーレントなレーザ光LinをXY平面に沿って出力する。レーザ発振部10Bは、このレーザ光Linを光導波部20Cに入力する。光導波部20Cは、入力されたレーザ光Linを回折させることにより、XY平面と交差する方向に光Loutを出力する。なお、光源装置1Dは、光導波部20Cに代えて、第2実施形態の光導波部20Bを備えてもよい。
レーザ発振部10Bの半導体積層部11Bは、第1実施形態のレーザ発振部10Aの光閉じ込め層14に代えて、フォトニック結晶層19を有する。フォトニック結晶層19は、活性層13と上部クラッド層15との間に配置される。フォトニック結晶層19は、光回折層25Aと同様に、基本層19aと、基本層19aとは屈折率が異なりXY平面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域19bを含む。半導体積層部11BがGaAs系半導体からなる場合、基本層19aは、例えばi型GaAs層である。複数の異屈折率領域19bは、例えば空孔である。XY平面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、各異屈折率領域19bの重心は、対応する格子点と一致する。仮想的な正方格子の格子間隔と光Linの波長とは、前述したM点発振の条件を満たす。各異屈折率領域19bの平面形状は例えば円形である。
光導波部20Cの半導体積層部21Bは、第1実施形態の光閉じ込め層24を有していない。光回折層25A(または25B)は、光閉じ込め層を介さずに活性層23上に配置されている。光回折層25A(または25B)の異屈折率領域25bと活性層23との間には、基本層25aのみからなる厚さ100nm程度の層が設けられている。
この光源装置1Dを製造する際には、まず、基板3の主面3a上に、下部クラッド層12,22と、活性層13,23と、フォトニック結晶層19の基本層19a及び光回折層25A(または25B)の基本層25aとなる半導体層とを、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて順次、エピタキシャル成長させる。次に、基本層25aとなる部分を覆い、基本層19aとなる部分のみを僅かにエッチング(エッチバックする。エッチング深さは例えば100nmである。そして、基本層19aとなる半導体層上にレジストを塗布し、該レジスト上に電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することで該レジスト上に2次元微細パターンを形成する。その後、該レジストをマスクとして、ドライエッチングにより2次元微細パターンを基本層19a上に転写し、孔(穴)を形成したのち、レジストを除去する。これらの孔を異屈折率領域19bとするか、或いは、これらの孔の中に、異屈折率領域19bとなる半導体を孔の深さ以上に再成長させる。孔を異屈折率領域19bとする場合、孔内に空気、窒素、水素又はアルゴン等の気体を封入してもよい。その後、上部クラッド層15と、コンタクト層16とを、MOCVD法を用いて順次、エピタキシャル成長させる。次に、コンタクト層16上においてレーザ発振部10Bとなる領域をSiN等のシリコン化合物で覆い、光導波部20Cとなる領域のコンタクト層16及び上部クラッド層15をエッチングすることにより、基本層25aを露出させる。以降の工程は、第1実施形態と同様である。
本実施形態によれば、フォトニック結晶レーザであるレーザ発振部10Bからのレーザ光を、XY平面に沿って光回折層25A(または25B)に入力させることができる。フォトニック結晶レーザは、端面共振型のレーザと比較して大面積化が可能であり、コヒーレントで且つ幅の広い光を光回折層25A(または25B)に提供することができる。故に、光回折層25A(または25B)から回折により出力される光Loutの強度を均一に近づけながら、その発光径を大きくすることが出来、回折拡がりの少ない狭放射ビームを出射することができる。
本実施形態の光源装置1Dの実施例を示す。下記の表3は、レーザ発振部10Bを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す。図42は、この表3の構成を有するレーザ発振部10Bの屈折率分布G31及びモード分布G32を示すグラフである。図中、区間T11は下部クラッド層12に対応し、区間T12は活性層13に対応し、区間T17はフォトニック結晶層19に対応し、区間T14は上部クラッド層15に対応し、区間T15はコンタクト層16に対応し、区間T16は空気に対応する。表4は、光導波部20Cを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す表である。図43は、この表4の構成を有する光導波部20Cの屈折率分布G41及びモード分布G42を示すグラフである。図中、区間T21は下部クラッド層22に対応し、区間T22は活性層23に対応し、区間T25は光回折層25A(または25B)のうち基本層25aのみからなる層に対応し、区間T26は光回折層25A(または25B)のうち基本層25aと異屈折率領域25b(空孔)とが混在している層に対応し、区間T24は空気に対応する。
図44は、図42に示されたモード分布G32と、図43に示されたモード分布G42とを重ね合わせたグラフである。図44に示すように、この実施例によれば、レーザ発振部10Bのモード分布G32と光導波部20Cのモード分布G42とがほぼ一致し、レーザ発振部10Bと光導波部20Cとの高い結合効率が得られることがわかる。この実施例では、結合効率は0.946となる。
(第6変形例)
図45は、上述した第4実施形態の一変形例による光源装置1Eの積層構造を模式的に示す図である。本変形例の光源装置1Eは、第4実施形態の光導波部20Cに代えて、光導波部20Dを備える。この光導波部20Dの半導体積層部21Cは、第1実施形態の活性層23を有していない。光閉じ込め層24は、活性層を介さずに下部クラッド層22上に配置されている。なお、レーザ発振部10Bの構成、及び上記を除く半導体積層部21Cの構成は、第4実施形態と同様である。本変形例の光閉じ込め層24は、例えば活性層13と同じ厚さを有する。
この光源装置1Eを製造する際、コンタクト層16をエピタキシャル成長させる迄の工程は第4実施形態と同様である。本変形例では、その後、コンタクト層16上においてレーザ発振部10Bとなる領域をSiN等のシリコン化合物で覆い、光導波部20Dとなる領域を下部クラッド層22が露出するまでエッチングする。そして、光閉じ込め層24及び基本層25aを順にエピタキシャル成長させる。以降の工程は、第4実施形態と同様である。
本変形例の光源装置1Eの実施例を示す。下記の表5は、レーザ発振部10Bを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す。図46は、この表5の構成を有するレーザ発振部10Bの屈折率分布G51及びモード分布G52を示すグラフである。区間T11~T16の定義は図42と同様である。表6は、光導波部20Dを構成する各層の厚さおよび屈折率の実施例を示す表である。図47は、この表6の構成を有する光導波部20Dの屈折率分布G61及びモード分布G62を示すグラフである。図中、区間T27は光閉じ込め層24に対応する。区間T21、T24~T26の定義は第4実施形態と同様である。
図48は、図46に示されたモード分布G52と、図47に示されたモード分布G62とを重ね合わせたグラフである。図48に示すように、この実施例によれば、レーザ発振部10Bのモード分布G52と光導波部20Dのモード分布G62とがほぼ一致し、レーザ発振部10Bと光導波部20Dとの高い結合効率が得られることがわかる。この実施例では、結合効率は0.946となる。
(第5実施形態)
図49は、本開示の第5実施形態による光源装置1Fを模式的に示す斜視図である。同図に示すように、光源装置1Fは、フォトニック結晶レーザであるレーザ発振部10Bと、複数(図示例では4つ)の光導波部20Cとを備える。レーザ発振部10Bは、第1実施形態のレーザ発振部10Aと異なり、XY平面に沿った互いに直交する2方向にレーザ光を共振させることができる。レーザ発振部10Bは、XY平面に沿った一の方向の両端、及びXY平面に沿った他の方向の両端から、4方向へ光Linを出力する。光導波部20Cの構成は、第4実施形態と同様である。
4つの光導波部20Cは、XY平面内においてレーザ発振部10Bの周方向に並んで設けられている。言い換えると、2つの光導波部20Cが、XY平面に沿う一の方向においてレーザ発振部10Bを挟む位置に設けられ、他の2つの光導波部20Cが、XY平面に沿う他の方向においてレーザ発振部10Bを挟む位置に設けられている。これらの光導波部20Cの光回折層25Aには、レーザ発振部10Bから、XY平面に沿って光Linが入力される。
なお、複数の光導波部20Cの基板3は互いに共通であってもよい。複数の光導波部20Cを構成する各半導体層は、複数の光導波部20C間で共通であってもよい。
この光源装置1Fによれば、第1実施形態と同様の構成を有する複数の光導波部20Cを備えるので、レーザ発振部10BからXY平面に沿って光回折層25Aに入力された光Linを、XY平面と交差する方向に回折して出力することができる。加えて、この光源装置1Fによれば、第4実施形態と同様の構成を有する複数の光導波部20Cを備えるので、1次元的な局所発振を低減できる。故に、1次元回折によるモードの局在化、及びフラットバンド回折といった現象を抑制し、光強度分布を均一に近づけ、単一モードにて出力可能な領域の大面積化が可能となるので、出射される光像を高解像度化および高画質化することが出来る。なお、複数の光導波部20Cに代えて、第1実施形態の光導波部20A、第2実施形態の光導波部20B、または第6変形例の光導波部20Dを同様の態様にて複数配置してもよい。
本開示による光導波構造及び光源装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではGaAs系、InP系、及び窒化物系(特にGaN系)の化合物半導体からなる光導波構造を例示したが、本開示は、これら以外の様々な半導体材料からなる光導波構造に適用できる。
また、上記実施形態では光導波構造と共通の基板上に設けられた発光部を例示したが、本開示においては、発光部は光導波構造と分離して設けられてもよい。発光部が光導波構造と光学的に結合され、光回折層に光を供給するものであれば、そのような構成であっても上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。
また、上記実施形態では、光導波構造と発光部とが一対一で設けられる例と、一つの発光部に対して複数の光導波構造が設けられる例とを示したが、一つの光導波構造に対して複数の発光部が設けられてもよい。例えば、図49に示されたレーザ発振部10Bに代えて光導波部20Cを配置し、その周囲の光導波部20Cに代えてレーザ発振部10Bを設けてもよい。この場合、単一の光導波部20Cから出力される光Loutの光強度を高めることができる。