JP2022045813A - 端子対 - Google Patents

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Abstract

【課題】端子対の接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持と、端子対の生産性と、を両立可能な端子対を提供すること。【解決手段】端子対は、第1接点部30を有する第1端子1と、第1接点部30に導通される第2接点部40を有する第2端子2と、を備える。第2接点部40では、摺動開始時に第1接点部30と接触する開始点43から、摺動終了時に第1接点部30と接触する導通点44までの範囲Rを含む表面領域に、銀メッキ層40cと硫化銀メッキ層40dとがこの順に母材40a上に積層される。第1、第2端子1,2の接続時、第2接点部40は、開始点43から導通点44に至る摺動痕にて、硫化銀メッキ層40dに亀裂が生じた箇所を有し、且つ、導通点44にて、第1接点部30と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟まずに導通された箇所a、及び、硫化銀メッキ層40dを挟んで導通された箇所bの双方を有する。【選択図】図4

Description

本発明は、第1端子と、第1端子が有する第1接点部に対して摺動して導通される第2接点部を有する第2端子と、を備える端子対に関する。
従来から、平板状の接点部を有する一方の端子(例えば、オス端子)と、一方の端子の接点部に押圧接触する接点部を有する他方の端子(例えば、メス端子)と、を備える端子対が提案されている。この種の端子対では、一般に、双方の端子を接続する際、一方の端子の接点部が他方の端子の接点部に押し付けられた状態で摺動することになる。そのため、このような摺動に起因して双方の接点部の間に生じる摩擦力に抗しながら、双方の端子を接続させることになる。
例えば、従来の端子対の一つでは、上述した摩擦力を小さくするべく、オス端子の接点部の表面のうち、メス端子の接点部と摺動する箇所に限って、硫化銀のメッキ層を設けている(例えば、特許文献1を参照)。硫化銀のメッキ層は、錫などのメッキ層に比べて一般に摩擦係数が小さいため、双方の接点部の間に生じる摩擦力の低減を図り得る。
特開2014-175196号公報
硫化銀は錫などに比べて導電性に劣るため、上述した従来の端子対では、オス端子の接点部の表面のうち、メス端子の接点部と摺動する箇所に限って硫化銀のメッキ層を設け、摺動後にメス端子の接点部と最終的に導通することになる箇所には硫化銀のメッキ層を設けていない。このようなメッキ層の配置は、接点部の間の摩擦力の低減と導通性の維持とを図り得るものの、実際にそのような配置を実現するための処理工程が複雑化する点で、デメリットがある。例えば、オス端子のうちの硫化銀のメッキ層を設けない箇所に事前にマスキングを施し、オス端子全体へのメッキ処理の後、そのマスキングを除去する等の工程が求められる。このような工程は、オス端子(ひいては端子対)の生産性向上の妨げとなり得る。そこで、接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持だけでなく、生産性にも優れた端子対の開発が望まれている。
本発明の目的の一つは、端子対の接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持と、端子対の生産性と、を両立可能な端子対の提供である。
前述した目的を達成するために、本発明に係る端子対は、下記[1]~[2]を特徴としている。
[1]
第1接点部を有する第1端子と、前記第1接点部が接触した状態で前記第1接点部に対して相対的に摺動して前記第1接点部に導通される第2接点部を有する第2端子と、を備える端子対であって、
前記第1接点部及び前記第2接点部の少なくとも一方は、
銀を含んで構成される中間層皮膜と硫化銀を含んで構成される最外層皮膜とがこの順に当該第1接点部及び当該第2接点部の当該少なくとも一方の母材上に積層された多層メッキ皮膜、を有し、
前記第1端子と前記第2端子とが導通接続されたとき、
前記第1接点部及び前記第2接点部の前記少なくとも一方が有する前記多層メッキ皮膜は、摺動の過程にて生じる摺動痕において、前記最外層皮膜に亀裂が生じた箇所を有し、且つ、摺動の終了時に導通が図られる導通点において、前記中間層皮膜が前記最外層皮膜を挟まずに導通された箇所及び前記中間層皮膜が前記最外層皮膜を挟んで導通された箇所の双方を有する、
端子対であること。
[2]
上記[1]に記載の端子対において、
前記第1端子は、
前記第1接点部として前記第2接点部に向けて突出する突起部と、前記突起部を前記第2接点部に対して弾性的に押圧するバネ部と、を有し、
前記第2端子は、
前記第2接点部として平板状の形状を有する板状部を有する、
端子対であること。
上記[1]の構成の端子対によれば、第1端子の第1接点部および第2端子の第2接点部の少なくとも一方には、端子対の導通接続時に互いに接触して摺動する範囲だけでなく、摺動終了時に互いに接触して導通される箇所にも(即ち、導通点においても)、硫化銀を含んで構成される最外層皮膜を有する多層メッキ皮膜が設けられる。発明者の実験及び考察等によれば、このような多層メッキ皮膜を設けることで、摺動の過程で生じる摺動痕において、最外層皮膜(即ち、硫化銀メッキ層)には双方の接点部の接触に起因して亀裂が生じるとともに、摺動の終了時に導通が図られる導通点において、亀裂の広がりや潰れ等に起因し、中間層皮膜(即ち、銀メッキ層)が最外層皮膜を挟まずに導通された箇所及び中間層皮膜が最外層皮膜を挟んで導通された箇所が混在することが、明らかになっている。換言すると、導通点を覆うように多層メッキ皮膜を設けていても、導通点の少なくとも一部において、導電性の低い硫化銀の最外層皮膜を介することなく、導電性に優れる銀の中間層皮膜を通じた直接の導通を図ることができる。したがって、本構成の端子対は、端子対の接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持に加え、更に端子対の生産性を図ることが可能である。
上記[2]の構成の端子対によれば、第1端子が第1接点部としての突起部(いわゆるインデント部)を有し、その突起部が、第2接点部としての板状部に弾性的に押圧される。これにより、第1接点部および第2接点部の少なくとも一方に設けられた多層メッキ皮膜の最外層皮膜への亀裂形成や潰れ等が促進され、導通点における第1接点部と第2接点部との導通性を更に向上させることができる。なお、第1接点部および第2接点部の一方に多層メッキ皮膜が設けられ且つ他方に多層メッキ皮膜が設けられない場合、その他方には、他のメッキ皮膜が設けられてもよいし、メッキ皮膜が設けられなくてもよい。
このように、本発明によれば、端子対の接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持と、端子対の生産性と、を両立可能な端子対を提供できる。
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
図1は、オス端子とメス端子とが分離した状態にある本発明の実施形態に係る端子対の斜視図である。 図2は、メス端子の接点部を示すためにメス端子の筒状部の一部を除去した図1に示す端子対の斜視図である。 図3(a)は、図2のA-A断面図であり、図3(b)は、オス端子のメス端子への挿入完了状態における図2のA-A断面に相当する図である。 図4(a)は、図3(b)のB部の拡大図であり、図4(b)は、図3(b)のC部の拡大図であり、図4(c)は、図4(b)のD-D断面図であり、図4(d)は、図4(b)のE部の拡大図である。
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る、メス端子1及びオス端子2からなる端子対について説明する。以下、説明の便宜上、図1に示すように、「前後方向」、「幅方向」、「上下方向」、「前」、「後」、「上」、及び「下」を定義する。「前後方向」、「幅方向」及び「上下方向」は、互いに直交している。
<端子対の構成>
以下、メス端子1及びオス端子2の構成について説明する。まず、オス端子2の構成について説明する。オス端子2は、図1~図3に示すように、前後方向に延びる平板状の板状部40を備える。板状部40は、メス端子1の後述する筒状部10に挿入されることで、メス端子1の後述する接点部30(第1接点部)に導通される「第2接点部」として機能する。オス端子2は、本例では、1枚の金属板に対して、プレス加工及び曲げ加工等を加えた後に、その表面にメッキ処理を施すことで形成されている。メッキ処理については後述する。
次いで、メス端子1の構成について説明する。メス端子1は、図1~図3に示すように、オス端子2の板状部40が挿入される筒状部10と、筒状部10の後側に連続して形成されると共に電線(図示省略)が圧着されるバレル部20と、筒状部10の内部に形成されると共に挿入された板状部40に導通される接点部30と、を備える。メス端子1は、本例では、1枚の金属板に対して、プレス加工及び曲げ加工等を加えた後に、その表面にメッキ処理を施すことで形成されている。メッキ処理については後述する。
筒状部10は、本例では、前後方向に延びる角筒状の形状を有する。筒状部10は、底壁部11と、底壁部11の幅方向両端縁部から上側へ起立する一対の側壁部12と、幅方向一方側の側壁部12の上端縁部から幅方向他方側へ延びる上壁部及び幅方向他方側の側壁部12の上端縁部から幅方向一方側へ延びる上壁部が上下方向に積層されてなる上壁部13と、を備える。なお、上壁部13は、一対の側壁部12の上端縁部から幅方向内側へそれぞれ延びて幅方向内側の端面同士が接触する一対の上壁部から構成されてもよいし、幅方向一方側の側壁部12の上端縁部から幅方向他方側へ延びる1枚の上壁部のみによって構成されてもよい。
上壁部13には、前後方向に延びる凹凸部14が形成されている(図1及び図3を参照)。凹凸部14は、上面(外面)にて下方に窪み且つ下面(内面)にて下方に突出する部分である。凹凸部14の下面(内面)の頂面(前後方向且つ幅方向に延び且つ前後方向に長い平面)は、オス端子2の板状部40の上面41(平面)が当接するオス端子当接面15として機能する(図3(b)を参照)。
バレル部20は、筒状部10の後端の後側に隣接配置された一対の芯線加締め片21と、一対の芯線加締め片21の後側に隣接配置された一対の被覆加締め片22と、を備える。一対の芯線加締め片21は、メス端子1に接続される電線の先端部における被覆を除去して露出した芯線を加締め固定する部分である。一対の被覆加締め片22は、メス端子1に接続される電線の先端部における被覆を加締め固定する部分である。
図2及び図3に示すように、接点部30は、筒状部10の底壁部11の前端から連続して上後方へ屈曲する部分である固定端31から、固定端31より後側に位置する自由端32まで延びる片持ち梁状の板バネであり、上下方向に弾性変形可能となっている。
接点部30は、固定端31から後側(且つ若干上側)へ延びる平板状の平板部33と、自由端32から前側(且つ若干上側)へ延びる平板状の平板部34と、平板部33及び平板部34を前後方向に連結すると共に上側に突出する(上に凸の)曲板形状の連結部35と、からなる。連結部35の幅方向中央部には、突起部36(いわゆるインデント部)が形成されている。突起部36は、上面にて上方に突出し且つ下面にて上方に窪む部分である。接点部30のうちで突起部36の頂部が最も上側に位置している。接点部30の非弾性変形時にて、突起部36の頂部とオス端子当接面15との間隔は、オス端子2の板状部40の板厚より小さい。
よって、図3(a)に示すように、オス端子2の板状部40の筒状部10への挿入を開始すると、まず、板状部40の先端部が、突起部36とオス端子当接面15との間に進入し、板状部40の下面42が突起部36(即ち、接点部30)を下方に押し下げる。この結果、下方に弾性変形した接点部30の上向きの弾性復元力によって、突起部36が板状部40の下面42を上向きに押圧することで、板状部40が、突起部36とオス端子当接面15とで押圧されて挟持される。
このように、接点部30の弾性復元力によって板状部40が突起部36とオス端子当接面15とで押圧かつ挟持された状態が維持されながら、板状部40の筒状部10への挿入が進行していく。よって、板状部40の挿入の進行に伴い、板状部40の上面41が、オス端子当接面15に押圧接触した状態で摺動し、板状部40の下面42が、接点部30の突起部36に押圧接触した状態で摺動する。このため、これらの摺動に起因する摩擦力に抗して、板状部40の挿入が進行していく。
図3(b)に示すように、板状部40の筒状部10への挿入完了状態では、接点部30の弾性復元力によって突起部36と板状部40の下面42とが押圧接触した状態に維持されることで、突起部36及び板状部40(即ち、メス端子1及びオス端子2)が導通された状態に維持される。
以下、説明の便宜上、図3(b)に示すように、オス端子2の下面42において、接点部30(突起部36)に最初に接触する箇所を「開始点43」と呼び、板状部40の筒状部10への挿入完了状態にて接点部30(突起部36)に接触する箇所を「導通点44」と呼ぶ。板状部40の筒状部10への挿入に伴い、板状部40の下面42における、開始点43から導通点44までの前後方向に延びる帯状領域R(図3(b)、図4(b)及び図4(c)参照)が、突起部36と摺動する。この結果、帯状領域Rにて、突起部36との摺動に起因する摺動痕が形成される。
<端子対のメッキ処理>
次いで、メス端子1及びオス端子2の表面に施されるメッキ処理について説明する。まず、メス端子1のメッキ処理について説明する。メス端子1には、図4(b)及び図4(c)に示すように、メス端子1の表面全体に対して、メス端子1の母材30aの上に、ニッケル(Ni)メッキ層30bが形成され、ニッケルメッキ層30bの上に、最外層として銀(Ag)メッキ層30cが形成されている。母材30aとしては、例えば、銅又は銅合金が使用され得る。
ニッケルメッキ層30bは、母材30aからの銅の拡散を抑制する下地層としての機能を果たす。銀メッキ層30cは、銀が導電性に優れることに起因して、接点部30の導電性を高める機能を果たす。ニッケルメッキ層30bの厚さは、例えば、0.5μmであり、銀メッキ層30cの厚さは、例えば、1μmである。なお、銀メッキ層30cは、必ずしも銀のみから構成されていなくてもよく、銀を主成分として他の成分や添加物(アンチモンやビスマス等)を含んでもよい。ニッケルメッキ層30bも、同様に、必ずしもニッケルのみから構成されていなくてもよく、ニッケルを主成分として他の成分や添加物を含んでもよい。
次いで、オス端子2のメッキ処理について説明する。オス端子2には、図4(a)~図4(c)に示すように、オス端子2の表面全体に対して、オス端子2の母材40aの上に、ニッケル(Ni)メッキ層40bが形成され、ニッケルメッキ層40bの上に、銀(Ag)メッキ層40cが形成され、銀メッキ層40cの上に、最外層として硫化銀(AgS)層40dが形成されている。母材40aとしては、例えば、銅又は銅合金が使用され得る。硫化銀メッキ層40dは、オス端子2(より具体的には、銀メッキ層40c)の表面全体に硫化処理を行うことで形成され得る。なお、このように、オス端子2(銀メッキ層40c)の表面全体に硫化処理を行うので、銀メッキ層40cにマスキング処理を施すことなく硫化処理を行うことができる。なお、硫化銀メッキ層40dは、必ずしも硫化銀のみから構成されていなくてもよく、硫化銀を主成分として他の成分や添加物などを含んでもよい。
ニッケルメッキ層40bは、母材40aからの銅の拡散を抑制する下地層としての機能を果たす。銀メッキ層40cは、銀が導電性に優れることに起因して、主として、板状部40の導電性を高める機能を果たす。硫化銀メッキ層40dは、硫化銀が銀と比べて導電性には劣るが摩擦係数が小さいことに起因して、主として、板状部40の摺動時の摩擦力を低減する機能を果たす。ニッケルメッキ層40bの厚さは、例えば、0.5μmであり、銀メッキ層40cの厚さは、例えば、1μmである。硫化銀メッキ層40dの厚さは、例えば、190nmである。
次いで、オス端子2に対して、銀メッキ層40cの上に最外層として硫化銀メッキ層40dを形成したことによる作用について説明する。発明者の実験及び考察等によれば、オス端子2の板状部40のメス端子1の筒状部10への挿入完了状態(図3(b)参照)において、オス端子2の板状部40の摺動痕が形成される帯状領域R(図3(b)、図4(b)及び図4(c)参照)にて、最外層である硫化銀メッキ層40dには、接点部30(突起部36)との摺動に起因して亀裂が生じることが明らかになっている。
更に、導通点44において、銀メッキ層40cの表面に存在する微小な凹凸、並びに、硫化銀メッキ層40dの亀裂の広がりや潰れ等に起因し、接点部30(突起部36)と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟まずに導通された部分a(図4(d)参照)、及び、接点部30(突起部36)と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40d(より具体的には硫化銀メッキ層40dの亀裂により生じた断片)を挟んで導通された部分b(図4(d)参照)が混在することが、明らかになっている。
部分aでは、硫化銀メッキ層40dより導電性に優れる銀メッキ層40cが接点部30(突起部36)に接触するので、導電性が高い。部分bでは、銀メッキ層40cより摩擦係数が小さい硫化銀メッキ層40dが接点部30(突起部36)に接触するので、接点部30(突起部36)との間の摩擦力が小さい。このため、オス端子2の板状部40とメス端子1の接点部30(突起部36)との間の摩擦力の低減及び導通性の維持の両立させることができる。
以下、オス端子2(板状部40)に対して銀メッキ層40cの上に最外層として硫化銀メッキ層40dを形成しても導通性が維持されることを確認した試験について、を参照しながら説明する。表1に示すように、オス端子2の板状部40の試験片として、2つのサンプルA,Bが準備された。
Figure 2022045813000002
サンプルAでは、板状部40の表面全体に対して、銅からなる母材40aの上にニッケルメッキ層40bが形成され、ニッケルメッキ層40bの上に最外層として銀メッキ層40cが形成されている。銀メッキ層40cの上には硫化銀メッキ層40dが形成されていない。ニッケルメッキ層40bの厚さは0.5μmであり、銀メッキ層40cの厚さは1μmである。サンプルBでは、板状部40の表面全体に対して、銅からなる母材40aの上にニッケルメッキ層40bが形成され、ニッケルメッキ層40bの上に銀メッキ層40cが形成され、銀メッキ層40cの上に最外層としての硫化銀メッキ層40dが形成されている。ニッケルメッキ層40bの厚さは0.5μmであり、銀メッキ層40cの厚さは1μmであり、硫化銀メッキ層40dの厚さは190nmである。
メス端子1の接点部30の試験片としては、突起部36を含む接点部30を模擬した試験片が準備された。接点部30を模擬した試験片では、試験片の表面全体に対して、銅からなる母材30aの上にニッケルメッキ層30bが形成され、ニッケルメッキ層30bの上に最外層として銀メッキ層30cが形成されている。ニッケルメッキ層30bの厚さは0.5μmであり、銀メッキ層30cの厚さは1μmである。
2つのサンプルA,Bそれぞれに対して、メス端子1の接点部30を模擬した試験片の突起部36を2Nの力で押圧した状態を維持しながら、この試験片を400μm/sの速度で5mmだけ摺動させた。この摺動中における摩擦係数の最大値、並びに、摺動前、摺動中及び摺動後におけるメス端子1及びオス端子2の間の電気抵抗値を測定した。これらの結果を表1に示す。
表1から理解できるように、摩擦係数について、サンプルBの摩擦係数の最大値が、サンプルAの摩擦係数の最大値より小さい。これは、サンプルBでは、帯状領域Rにおいて、突起部36と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟んで接触する部分(図4(d)の部分bに相当する部分)が存在することで、このような部分が存在しないサンプルAと比べて、摩擦力が小さいことに因ると考えられる。
電気抵抗値について、摺動前では、サンプルBの電気抵抗値が、サンプルAの電気抵抗値より大きい。これは、サンプルBでは、摺動前では、突起部36と銀メッキ層40cとが、導電性に劣る硫化銀メッキ層40dを挟んで導通していることで、突起部36と銀メッキ層40cとが直接接触するサンプルAと比べて、導通性が低いことに因ると考えられる。擦動中では、特に、サンプルBにおいて、電気抵抗値が大きく変動している。これは、帯状領域Rにて発生する硫化銀メッキ層40dの亀裂により生じた断片の形態が帯状領域Rの前後方向位置によって大きく変動することに因ると考えられる。
一方、摺動後(オス端子2のメス端子1への挿入完了状態に相当)では、サンプルBの電気抵抗値が、摺動前と比べて大幅に低下し、サンプルAの電気抵抗値より小さい(と同等である)。これは、上述したように、導通点44において、導電性が高い部分a(突起部36と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟まずに導通された部分、図4(d)参照)が存在することに因ると考えられる。
以上の結果より、オス端子2に対して銀メッキ層40cの上に最外層として硫化銀メッキ層40dを形成した場合、銀メッキ層40cの上に硫化銀メッキ層40dを形成しない場合と比べて、導通性を維持しながら、摩擦力を低減することが確認できた。なお、オス端子2に加えてメス端子1に同様の多層メッキ皮膜(即ち、銀メッキ層40cと硫化銀メッキ層40dとが積層された皮膜)を形成した場合であっても、オス端子2には多層メッキ皮膜を設けず且つメス端子1に多層メッキ皮膜を形成した場合であっても、上記同様の結果が得られることが確認されている。
<作用・効果>
以上、本実施形態に係る端子対によれば、メス端子1の接点部30(突起部36)と摺動することになるオス端子2の板状部40には、端子対の接続時に接点部30(突起部36)接触して摺動する範囲だけでなく、摺動終了時に接点部30(突起部36)と接触して導通される箇所にも(即ち、開始点43から導通点44までの範囲の全域に)、銀メッキ層40cの上に硫化銀メッキ層40dが設けられる。発明者の実験及び考察等によれば、このような多層メッキ皮膜を設けることで、開始点43から導通点44に至る摺動痕が形成される帯状領域Rにおいて、最外層である硫化銀メッキ層40dには接点部30(突起部36)との接触に起因して亀裂が生じるとともに、導通点44において、亀裂の広がりや潰れ等に起因し、接点部30(突起部36)と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟まずに導通された部分a(図4(d)参照)及び接点部30(突起部36)と銀メッキ層40cとが硫化銀メッキ層40dを挟んで導通された部分b(図4(d)参照)が混在すること、が明らかになっている。そのため、導通点44を覆うように多層メッキ皮膜を設けていても、導通点44の少なくとも一部において、導電性の低い硫化銀メッキ層40dを介することなく、導電性に優れる銀メッキ層40cと接点部30(突起部36)との直接の導通を図ることができる。したがって、本実施形態に係る端子対は、端子対の接点部の間の摩擦力の低減及び導通性の維持と、端子対の生産性と、を両立可能である。
更に、本実施形態に係る端子対によれば、メス端子1が接点部30に突起部36を有し、その突起部36が、オス端子2の板状部40に弾性的に押圧される。これにより、板状部40に設けられた多層メッキ皮膜の最外層である硫化銀メッキ層40dへの亀裂形成や潰れ等が促進され、導通点44における接点部30(突起部36)と板状部40との導通性を向上させることができる。
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、上記実施形態では、オス端子2の表面全体に対して、銀メッキ層40cの上に、最外層として硫化銀メッキ層40dが形成されている。これに対し、オス端子2の板状部40の表面全体に対してのみ、銀メッキ層40cの上に、最外層として硫化銀メッキ層40dが形成されてもよい。更には、板状部40における摺動痕が形成される帯状領域Rに対してのみ、銀メッキ層40cの上に、最外層として硫化銀メッキ層40dが形成されてもよい。ただし、オス端子2の表面全体に対して最外層として硫化銀メッキ層40dが形成される場合、硫化銀メッキ層40dを形成するためにマスキング処理を行う必要がない。よって、オス端子2の生産性を向上するためには、オス端子2の表面全体に対して、最外層として硫化銀メッキ層40dが形成されることが好適である。
更に、上記実施形態では、オス端子2に多層メッキ皮膜(即ち、銀メッキ層40cと硫化銀メッキ層40dとが積層された皮膜)が設けられ、メス端子1には同様の多層メッキ皮膜が設けられていない。しかし、メス端子1及びオス端子2の双方に多層メッキ皮膜が設けられてもよいし、メス端子1に多層メッキ皮膜が設けられ且つオス端子2に多層メッキ皮膜が設けられなくてもよい。
ここで、上述した本発明に係る端子対の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[2]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
第1接点部(30)を有する第1端子(1)と、前記第1接点部(30)が接触した状態で前記第1接点部(30)に対して相対的に摺動して前記第1接点部(30)に導通される第2接点部(40)を有する第2端子(2)と、を備える端子対(1,2)であって、
前記第1接点部(30)及び前記第2接点部(40)の少なくとも一方は、
銀を含んで構成される中間層皮膜(40c)と硫化銀を含んで構成される最外層皮膜(40d)とがこの順に当該第1接点部(30)及び当該第2接点部(40)の当該少なくとも一方の母材(40a)上に積層された多層メッキ皮膜、を有し、
前記第1端子(1)と前記第2端子(2)とが導通接続されたとき、
前記前記第1接点部(30)及び前記第2接点部(40)の前記少なくとも一方が有する前記多層メッキ皮膜は、摺動の過程にて生じる摺動痕において、前記最外層皮膜(40d)に亀裂が生じた箇所を有し、且つ、摺動の終了時に導通が図られる導通点(44)において、前記中間層皮膜(40c)が前記最外層皮膜(40d)を挟まずに導通された箇所(a)及び前記中間層皮膜(40c)が前記最外層皮膜(40d)を挟んで導通された箇所(b)の双方を有する、
端子対(1,2)。
[2]
上記[1]に記載の端子対において、
前記第1端子(1)は、
前記第1接点部(30)として前記第2接点部(40)に向けて突出する突起部(36)と、前記突起部(36)を前記第2接点部(40)に対して弾性的に押圧するバネ部(33,34,35)と、を有し、
前記第2端子(2)は、
前記第2接点部として平板状の形状を有する板状部(40)を有する、
端子対(1,2)。
1 メス端子(第1端子)
2 オス端子(第2端子)
30 接点部(第1接点部)
33 平板部(バネ部)
34 平板部(バネ部)
35 連結部(バネ部)
36 突起部
40 板状部(第2接点部)
40a 母材
40c 銀メッキ層(中間層皮膜)
40d 硫化銀メッキ層(最外層皮膜)
43 開始点
44 導通点
R 帯状領域(範囲)

Claims (2)

  1. 第1接点部を有する第1端子と、前記第1接点部が接触した状態で前記第1接点部に対して相対的に摺動して前記第1接点部に導通される第2接点部を有する第2端子と、を備える端子対であって、
    前記第1接点部及び前記第2接点部の少なくとも一方は、
    銀を含んで構成される中間層皮膜と硫化銀を含んで構成される最外層皮膜とがこの順に当該第1接点部及び当該第2接点部の当該少なくとも一方の母材上に積層された多層メッキ皮膜、を有し、
    前記第1端子と前記第2端子とが導通接続されたとき、
    前記第1接点部及び前記第2接点部の前記少なくとも一方が有する前記多層メッキ皮膜は、摺動の過程にて生じる摺動痕において、前記最外層皮膜に亀裂が生じた箇所を有し、且つ、摺動の終了時に導通が図られる導通点において、前記中間層皮膜が前記最外層皮膜を挟まずに導通された箇所及び前記中間層皮膜が前記最外層皮膜を挟んで導通された箇所の双方を有する、
    端子対。
  2. 請求項1に記載の端子対において、
    前記第1端子は、
    前記第1接点部として前記第2接点部に向けて突出する突起部と、前記突起部を前記第2接点部に対して弾性的に押圧するバネ部と、を有し、
    前記第2端子は、
    前記第2接点部として平板状の形状を有する板状部を有する、
    端子対。
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