以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をND、アクセプタ濃度をNAとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はND-NAとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100の一例を示す上面図である。図1においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。図1においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図1では省略している。
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。図1の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
図1においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図1ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド112を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
ゲートパッド112には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド112は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド112とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。図1においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線131とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺102との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド112と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
活性側ゲート配線131は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線131を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド112からの配線長のバラツキを低減できる。
活性側ゲート配線131は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線131は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線131は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
活性側ゲート配線131は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線131は、Y軸方向の略中央で一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160を横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線131により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺102との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
図2は、図1における領域Aの拡大図である。領域Aは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線131を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線131を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線131は互いに分離して設けられる。
エミッタ電極52および活性側ゲート配線131と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、図2では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。図2においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
活性側ゲート配線131は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線131は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線131は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。図2においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線131側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。図2における延伸方向はY軸方向である。
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。図2に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。ゲートトレンチ部40の直線部分39またはダミートレンチ部30の直線部分29が、延伸方向に長く延伸する方向を、トレンチ部の長手方向とする。ゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30の長手方向は、延伸方向と一致してよい。本例では、延伸方向および長手方向は、Y軸方向である。ゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30が複数配列された配列方向を、トレンチ部の短手方向とする。短手方向は配列方向と一致してよい。また短手方向は、長手方向に対して垂直であってよい。本例では、長手方向と短手方向は垂直である。本例では、配列方向および短手方向は、X軸方向である。
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチ部に沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線131に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。図2においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。カソード領域82およびコレクタ領域22は、半導体基板10の下面23と、バッファ領域20との間に設けられている。図2においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
図3は、図2におけるb-b断面の一例を示す図である。b-b断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。半導体基板10は、上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。
層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、図2において説明したコンタクトホール54が設けられている。
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
半導体基板10は、N型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い濃度ピーク25を有する。濃度ピーク25のドーピング濃度とは、濃度ピーク25の頂点におけるドーピング濃度を指す。また、ドリフト領域18のドーピング濃度は、ドーピング濃度分布がほぼ平坦な領域におけるドーピング濃度の平均値を用いてよい。ドーピング濃度分布がほぼ平坦な領域とは、深さ方向の長さが10μm以上であり、且つ、ドーピング濃度の変動が±10%以内の領域であってよい。本例のバッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)において、3つ以上の濃度ピーク25を有する。バッファ領域20の濃度ピーク25は、例えば水素(プロトン)またはリンの濃度ピークと同一の深さ位置に設けられていてよい。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
本例の半導体基板10は、第1導電型(N型)のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレン、硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。バルク・ドナー濃度は、半導体基板10の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。
半導体基板10は、活性部160において、水素を含み、且つ、バルク・ドナーの濃度よりも高いドナー濃度の第1高濃度領域106を有する。第1高濃度領域106は、半導体基板10の下面23から、水素注入領域140に向けて水素を照射して熱処理することで形成できる。
下面23から注入された水素イオンが通過した領域には、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。また、半導体基板10への水素イオン注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。また、水素注入領域140およびバッファ領域20に注入された水素が通過領域に拡散することで、通過領域に存在する空孔(V)および酸素(O)と水素(H)とが結合し、VOH欠陥が形成される。VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。
VOH欠陥が形成されることで、水素の通過領域のドーピング濃度が上昇する。本例では、下面23から、水素注入領域140までの領域のドーピング濃度が上昇する。このため、水素の通過領域には、バルク・ドナー濃度よりも高濃度の第1高濃度領域106が形成される。
第1高濃度領域106は、上面視において、活性部160の全体にわたって設けられてよい。第1高濃度領域106は、ドリフト領域18のうち、下面23側の一部の領域に設けられてよい。第1高濃度領域106は、バッファ領域20と接していてよい。バッファ領域20が設けられていない場合、第1高濃度領域106は、コレクタ領域22と接していてよく、カソード領域82と接していてよい。第1高濃度領域106のドーピング濃度は、カソード領域82、コレクタ領域22、および、バッファ領域20におけるドーピング濃度のいずれのピーク値よりも低い。本例においては、VOH欠陥によるドナー濃度は、バッファ領域20、カソード領域82、コレクタ領域22におけるドーピング濃度よりも十分低い。このため、図3の例では、バッファ領域20、カソード領域82、コレクタ領域22においては、第1高濃度領域106が設けられていないとみなしている。
本明細書では、ドーピング濃度がバルク・ドナー濃度である領域を、低濃度領域19とする。図3の例では、バッファ領域20と蓄積領域16との間の領域のうち、第1高濃度領域106が形成されずに残存したドリフト領域18が、低濃度領域19である。
水素注入領域140は、半導体基板10の上面21側に設けられてよい。上面21側とは、上面21と、半導体基板10の深さ方向における中央との間の領域を指す。これにより、第1高濃度領域106は、バッファ領域20の上端から、半導体基板10の上面21側の広い領域にわたって形成できる。このため、広い領域にわたって、ドーピング濃度を調整できる。
通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、バルク・ドナー濃度Dbを有する半導体基板10を準備しなければならない。これに対して、半導体装置100によれば、水素イオンのドーズ量および注入深さを制御することで、第1高濃度領域106のドナー濃度および範囲を、バルク・ドナー濃度Dbよりも部分的に高くできる。このため、バルク・ドナー濃度Dbの異なる半導体基板10を用いても、所定の定格電圧または耐圧特性の素子を形成できる。また、半導体基板10の製造時におけるドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、水素イオンを照射することで生じる空孔(V)の濃度も高精度に制御でき、第1高濃度領域106のドナー濃度を高精度に制御できる。
また、水素注入領域140は、ゲートトレンチ部40の下端よりも、半導体基板10の下面23側に配置されることが好ましい。つまり、ゲートトレンチ部40に到達しない範囲で、下面23から水素イオンを照射することが好ましい。これにより、ゲート絶縁膜42を水素イオンが通過しないので、ゲート絶縁膜42の劣化を抑制できる。
半導体基板10の深さ方向における水素化学濃度分布は、水素注入領域140において第1水素濃度ピーク141を有する。図3においては、第1水素濃度ピーク141の深さ位置を模式的にバツ印で示している。
第1水素濃度ピーク141と、ゲートトレンチ部40の下端とのZ軸方向における距離L1は、水素の照射時の飛程にバラツキが生じても、水素がゲートトレンチ部40に照射されない程度に離れていることが好ましい。距離L1は、深さ方向における水素化学濃度分布における、第1水素濃度ピーク141の標準偏差σの3倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。ただし、第1高濃度領域106を広く形成したい場合には、距離L1は小さいことが好ましい。距離L1は、上述した標準偏差の20倍以下であってよく、10倍以下であってもよい。
図4は、図1におけるc-c断面の一例を示す図である。c-c断面は、エッジ終端構造部90およびトランジスタ部70を含むXZ面である。本例においては、エッジ終端構造部90およびトランジスタ部70の間には、境界部72が設けられている。トランジスタ部70の構造は、図2および図3において説明したトランジスタ部70と同一である。
境界部72は、外周ゲート配線130およびウェル領域11を有する。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高いP+型の領域である。ウェル領域11は、半導体基板10の上面21から、トレンチ部の下端よりも深い位置まで設けられている。ウェル領域11を設けることで、活性部160とエッジ終端構造部90とを分離しやすくなる。上面視でウェル領域11に囲まれた領域を活性部160としてよい。ウェル領域11の内部には、一つ以上のトレンチ部が設けられていてよい。複数のトレンチ部のうち、最も端に配置されたトレンチ部をウェル領域11内に設けることで、当該トレンチ部への電界集中を緩和できる。
ウェル領域11の上方には、外周ゲート配線130が設けられている。本例の外周ゲート配線130は、アルミニウム等の金属で形成されたゲート金属層50と、不純物が添加されたポリシリコン等の半導体で形成されたゲートランナー48とを含む。ゲートランナー48は、層間絶縁膜38を挟んで、ウェル領域11の上方に配置されている。ゲート金属層50は、層間絶縁膜38を挟んで、ゲートランナー48の上方に配置されている。ゲート金属層50およびゲートランナー48は、層間絶縁膜38に設けられた貫通孔により接続されている。
エッジ終端構造部90には、複数のガードリング92、複数のフィールドプレート94およびチャネルストッパ174が設けられている。エッジ終端構造部90において、下面23に接する領域には、コレクタ領域22が設けられていてよい。また、コレクタ領域22には、バッファ領域20が設けられている。バッファ領域20は、1つ以上の水素化学濃度ピークを有する。
各ガードリング92は、上面21において活性部160を囲むように設けられてよい。複数のガードリング92は、活性部160において発生した空乏層を半導体基板10の外側へ広げる機能を有してよい。これにより、半導体基板10内部における電界集中を防ぐことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。
本例のガードリング92は、上面21近傍にイオン照射により形成されたP+型の半導体領域である。ガードリング92の底部の深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の底部の深さより深くてよい。
ガードリング92の上面は、層間絶縁膜38により覆われている。フィールドプレート94は、金属またはポリシリコン等の導電材料で形成される。フィールドプレート94は、ゲート金属層50またはエミッタ電極52と同じ材料で形成されてよい。フィールドプレート94は、層間絶縁膜38上に設けられている。フィールドプレート94は、層間絶縁膜38に設けられた貫通孔を通って、ガードリング92に接続されている。
チャネルストッパ174は、端辺102における上面21および側面に露出して設けられる。チャネルストッパ174は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高いN型の領域である。チャネルストッパ174は、活性部160において発生した空乏層を半導体基板10の端辺102において終端させる機能を有する。
半導体基板10は、エッジ終端構造部90において、水素を含み、且つ、バルク・ドナーの濃度よりも高いドナー濃度の第2高濃度領域107を有する。第2高濃度領域107は、半導体基板10の深さ方向において、第1高濃度領域106よりも広い範囲に設けられる。
第2高濃度領域107は、半導体基板10の下面23から水素イオンを照射して熱処理することで形成できる。第2高濃度領域107は、半導体基板10を貫通するように水素イオンを照射して形成してよく、活性部160における水素注入領域140よりも上面21側の位置に水素イオンを注入して形成してもよい。これにより、Z軸方向において、第1高濃度領域106よりも広い範囲に第2高濃度領域107を形成できる。図4の例では、第2高濃度領域107は、半導体基板10を貫通するように水素イオンを照射して形成している。このため、図4の例の第2高濃度領域107には、深さ方向における水素化学濃度分布に濃度ピークがない。
第2高濃度領域107をZ軸方向に広く形成することで、エッジ終端構造部90において、高比抵抗の領域を小さくできる。このため、X軸方向におけるエッジ終端構造部90の長さを小さくしても、半導体装置100の耐圧を確保しやすくなる。
第2高濃度領域107は、半導体基板10の上面21に接していてよい。本例の第2高濃度領域107は、バッファ領域20の上端から、半導体基板10の上面21まで設けられている。エッジ終端構造部90には、低濃度領域19が設けられていなくてよい。第2高濃度領域107は、ウェル領域11とガードリング92の間、2つのガードリング92の間、および、ガードリング92とチャネルストッパ174の間にも設けられている。
第2高濃度領域107のドーピング濃度は、ガードリング92、チャネルストッパ174、および、バッファ領域20におけるドーピング濃度のいずれのピーク値よりも低い。このため、図4の例では、ガードリング92、チャネルストッパ174、および、バッファ領域20においては、第2高濃度領域107が設けられていないとみなしている。
第2高濃度領域107は、上面視において、エッジ終端構造部90の全体にわたって設けられてよい。本例のエッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面21において、ウェル領域11の端部位置Xwから、半導体基板10の端辺102までの領域である。
X軸方向において、第1高濃度領域106と、第2高濃度領域107とは接していてよい。第1高濃度領域106と、第2高濃度領域107とのX軸方向における境界位置Xbは、ウェル領域11の端部位置Xwよりも、活性部160側に配置されていてよい。境界位置Xbは、Z軸方向においてウェル領域11と重なっていてよい。
境界位置Xbと、X軸方向において最も端に配置されたゲートトレンチ部40との、X軸方向における距離L2は、第2高濃度領域107を形成するために照射した水素が、ゲート絶縁膜42を通過することを防げる程度に離れていることが好ましい。当該ゲートトレンチ部40は、X軸方向において最も第2高濃度領域107の近くに配置されている。距離L2は、深さ方向における水素化学濃度分布における、第1水素濃度ピーク141の標準偏差σの3倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。距離L2は、距離L1より大きくてもよい。距離L2は、ウェル領域11のX軸方向の幅の半分以上であってもよい。
図5は、水素注入領域140の近傍における、深さ方向の水素化学濃度分布の一例を示す図である。上述したように、水素注入領域140において、水素化学濃度分布は、第1水素濃度ピーク141を有する。第1水素濃度ピーク141は、水素化学濃度が極大値D3を示す領域である。
上述した第1水素濃度ピーク141の標準偏差σとは、極大値D3を含む山形の濃度分布における標準偏差である。距離L1およびL2を、標準偏差σに対して十分大きくすることで、水素イオンがゲート絶縁膜42を通過することを抑制できる。
なお、水素化学濃度分布は、第1水素濃度ピーク141よりも下面23側に裾S1を有し、上面21側に裾S2を有する。本例では、下面23側から水素を照射している。このため、裾S1は、裾S2よりも傾きが小さくてよい。つまり、裾S2は、裾S1よりも、水素化学濃度が急峻に変動していてよい。第1水素濃度ピーク141の両側の裾を比較することで、水素が下面23および上面21のどちら側から照射されたかを判別できる場合がある。
図6は、X軸方向における、ドーピング濃度分布の一例を示す図である。図6では、低濃度領域19から、第2高濃度領域107にかけての分布を示している。図4に示すように、低濃度領域19と、第2高濃度領域107との境界位置Xbは、第1高濃度領域106と、第2高濃度領域107との境界位置Xbとみなすことができる。
ドーピング濃度は、境界位置Xbの近傍において、低濃度領域19のドーピング濃度Dbから、第2高濃度領域107のドーピング濃度D2まで変化する。境界位置Xbは、ドーピング濃度が、D2とDbの中間の濃度Dcとなる位置であってよい。
図7は、図4におけるe-e線およびf-f線におけるドーピング濃度分布の一例を示す図である。e-e線は、トランジスタ部70においてエミッタ領域12を通過するZ軸方向の線である。f-f線は、エッジ終端構造部90において、ウェル領域11とガードリング92との間を通過するZ軸方向の線である。e-e線は、第1高濃度領域106を通過し、f-f線は、第2高濃度領域107を通過する。また、図7においては、深さ位置Z1の近傍における水素化学濃度分布を合わせて示している。深さ位置Z1は、第1高濃度領域106における水素化学濃度分布の第1水素濃度ピーク141の深さ位置である。
本例のバッファ領域20は、ドーピング濃度分布において、複数の濃度ピーク25-1、25-2、25-3、25-4を有する。それぞれの濃度ピーク25は、水素イオンを注入することで形成されているが、図7においては、濃度ピーク25に対応する水素化学濃度分布のピークは省略している。
第1高濃度領域106の水素化学濃度分布の第1水素濃度ピーク141は、半導体基板10の深さ方向における中央Zcと、蓄積領域16との間に配置されている。一方で、第2高濃度領域107においては、深さ位置Z1には水素化学濃度のピークが設けられていない。第2高濃度領域107の深さ方向における水素化学濃度分布は、平坦であってよく、微小な傾きを有する直線状であってもよい。水素化学濃度分布が平坦とは、第2高濃度領域107の深さ方向における全体にわたって、水素化学濃度の変動幅が±50%以内であることを指してよい。
エッジ終端構造部90において、第1水素濃度ピーク141と同一の深さ位置Z1における水素化学濃度Dh2は、第1水素濃度ピーク141における水素化学濃度Dh1よりも低くてよい。例えば、同一の水素ドーズ量で、活性部160には深さ位置Z1に向けて水素を照射し、エッジ終端構造部90には半導体基板10を貫通するように水素を照射する。この場合には、深さ位置Z1における水素化学濃度は、活性部160のほうが、エッジ終端構造部90よりも高くなる。一方で、深さ位置Z1よりも上面21側の領域における水素化学濃度は、エッジ終端構造部90のほうが、活性部160よりも高くてよい。また、深さ位置Z1よりも下面23側の領域における水素化学濃度は、エッジ終端構造部90と、活性部160とで同等であってよい。水素化学濃度が同等とは、同一の深さ位置における水素化学濃度の差が±50%以内であることを指してよい。
また、第1水素濃度ピーク141の深さ位置Z1において、第1高濃度領域106のドーピング濃度分布は、第1ドーピング濃度ピーク108を有してよい。第1ドーピング濃度ピーク108は、下面23側の裾S3と、上面21側の裾S4を有してよい。第1水素濃度ピーク141と同様に、裾S3は、裾S4よりも緩やかであってよい。
深さ位置Z1における第1高濃度領域106のドーピング濃度Dp1(またはドナー濃度)は、1.0×1013/cm3以上、2.0×1014/cm3以下であってよい。また、深さ位置Z1よりも下面23側における第1高濃度領域106のドーピング濃度D1(またはドナー濃度)も、1.0×1013/cm3以上、2.0×1014/cm3以下であってよい。ドーピング濃度Dp1は、ドーピング濃度D1の3倍以上、7倍以下であってよい。このような構成により、バルク・ドナー濃度Dbよりも、第1高濃度領域106のドーピング濃度を十分に高くでき、ドリフト領域18のドーピング濃度を精度よく制御できる。
ドリフト領域18に相当する深さ範囲において、第2高濃度領域107のドーピング濃度分布の変動幅は、活性部160におけるドーピング濃度分布の変動幅よりも小さい。第2高濃度領域107におけるドーピング濃度は、平坦であってよい。ドーピング濃度が平坦とは、第2高濃度領域107の深さ方向における全体にわたって、ドーピング濃度の変動幅が±50%以内であることを指してよい。一例として第2高濃度領域107のドーピング濃度は、7.0×1013/cm3以上、8.0×1013/cm3以下であってよい。
また、エッジ終端構造部90のドーピング濃度は、半導体基板10の深さ方向の全体にわたって、バルク・ドナー濃度Dbよりも高くてよい。ただし、P型領域とN型領域との境界においては、ドーピング濃度のネット値は、バルク・ドナー濃度Dbよりも小さくなる。
深さ位置Z1よりも下面23側の領域において、第1高濃度領域106のドーピング濃度D1(ドナー濃度)と、第2高濃度領域107のドーピング濃度D2(ドナー濃度)は、同一であってよい。ドーピング濃度が同一とは、±10%以内の誤差を許容してよい。また、深さ位置Z1よりも上面21側の領域において、第2高濃度領域107のドーピング濃度D2は、活性部160の低濃度領域19のドーピング濃度Dbよりも高い。
図8は、図4におけるg-g線におけるドーピング濃度分布の一例を示す図である。g-g線は、エッジ終端構造部90において、ガードリング92を通過する。本例の第2高濃度領域107は、バッファ領域20と、ガードリング92との間に設けられている。なお、ガードリング92にもVOH欠陥は形成されているが、ガードリング92のドーピング濃度が高いので、VOH欠陥が形成されてもガードリング92の特性にはほとんど影響ない。
図9は、図4におけるf-f線におけるドーピング濃度分布および水素化学濃度分布の他の例を示す図である。本例の第2高濃度領域107は、上面21の近傍に、第2水素濃度ピーク142を有する。第2水素濃度ピーク142の深さ位置Z2は、第1水素濃度ピーク141の深さ位置Z1よりも、上面21側に配置されている。第2水素濃度ピーク142は、トレンチ部の下端の深さ位置よりも上面21側に配置されていてよく、蓄積領域16の深さ位置よりも上面21側に配置されていてよく、ベース領域14の深さ位置よりも上面21側に配置されていてもよい。
このような構成によっても、第2高濃度領域107を、第1高濃度領域106よりも深さ方向において広い範囲に設けることができる。第2高濃度領域107のドーピング濃度分布は、深さ位置Z2において第2ドーピング濃度ピーク109を有してよい。本例においても、第2高濃度領域107の全体において、ドーピング濃度はバルク・ドナー濃度より高くてよい。
図10は、半導体基板10に水素イオンを照射する工程の一例を説明する図である。本例においては、活性部160と、エッジ終端構造部90の両方に、同時に水素イオンを照射する。これにより、水素イオンの照射コストを低減する。
まず、半導体基板10の下面23において、活性部160が設けられる領域に選択的に遮蔽部200を形成する。遮蔽部200は、境界部72の少なくとも一部にも設けられてよい。遮蔽部200は、例えば感光性のフォトレジストである。半導体基板10の下面23のうち、第2高濃度領域107を形成する領域は、遮蔽部200に覆われずに露出している。
次に、半導体基板10の下面23全体に、プロトン等の水素イオンを照射する。このとき、遮蔽部200に覆われていない領域では水素イオンが半導体基板10を貫通し、遮蔽部200で覆われている領域では水素イオンが半導体基板10を貫通しない加速エネルギーで、水素イオンを加速する。これにより、遮蔽部200で覆われた活性部160では、水素注入領域140に水素が注入される。遮蔽部200の厚みを調整することで、水素注入領域140の深さ位置を調整できる。このような工程により、第1高濃度領域106と、第2高濃度領域107とを、同一の水素イオン照射工程により形成できる。
図11は、半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。本例においては、段階S1100において、半導体装置100の上面構造を形成する。半導体基板10の上面21側に設けられる構造を指し、例えばトレンチ部、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16、層間絶縁膜38、エミッタ電極52、ゲート配線等を含む。
次に段階S1102において、半導体基板10の下面23側を研削して、半導体基板10の厚みを調整する。次に段階S1104の処理において、半導体基板10の下面構造を形成する。本例では段階S1104において、カソード領域82およびコレクタ領域22にドーパントを注入し、段階S1106で局所的にレーザーアニールを行うことで、カソード領域82およびコレクタ領域22を形成する。
次に段階S1108において、半導体基板10の下面23側に遮蔽部200を選択的に形成する。遮蔽部200を形成した後に、段階S1110において下面23側から水素イオンを照射する。段階S1112において遮蔽部200を除去する。遮蔽部200を除去した後に、バッファ領域20に水素イオンを注入する。次に、段階S1116において半導体基板10を熱処理する。段階S1116においては、アニール炉によって半導体基板10の全体を熱処理してよい。これにより水素が拡散して、第1高濃度領域106、第2高濃度領域107およびバッファ領域20が形成される。次に、下面23にコレクタ電極24を形成する。これにより、半導体装置100を製造できる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。