JP2021507242A - Sparcアッセイ - Google Patents

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Abstract

本発明は、酸性でシステインに富む分泌型プロテオーム(SPARC)の検出を用途としたアッセイ、より具体的には、肺癌を評価する際の本アッセイの使用に関する。【選択図】図3

Description

本発明は、酸性でシステインに富む分泌型プロテオーム(SPARC)の検出を用途としたアッセイ、より具体的には、肺癌を評価する際の本アッセイの使用に関する。
酸性でシステインに富む分泌型プロテオーム(SPARC)は、オネクチンまたは基底膜タンパク質40(BM−40)とも呼ばれる、32kDaの母細胞タンパク質であり、細胞外マトリックス(ECM)の会合および析出、増殖因子のシグナル伝達、細胞およびその周囲のECM間の相互作用を制御する[1、2]。SPARCの発現は、胚発生中に上昇し、正常な成人組織では低減する。ただし、その発現は、腫瘍に関連して組織の増殖が異常が起こった際、ならびに組織に損傷および炎症が起こった際に、ECM代謝回転の高い上皮/内皮細胞において増加し、それにより、組織の再モデリングにおけるSPARCの重要性が強調される[3〜5]。
SPARCは、アルコールデヒドロゲナーゼの熱凝集を濃度依存的に阻害することにより、シャペロン様の活性を有することが、明らかにされてきた[6]。更になお、いくつかの研究から明らかにされてきたように、SPARCは、ECM内の種々のコラーゲンに結合する。これは、コラーゲンを適切に析出させ且つ会合させるうえで重要とされる[7−13]。SPARCのシャペロン活性は、種々の要因によって調節されている。SPARCをそのECMパートナーに結合させるには、中程度の細胞外濃度のCa2+が必要とされることが、明らかにされてきた。そのコラーゲン結合活性を調節する際に重要とされるスイッチとしては、それ以外にも、細胞外プロテアーゼの存在が挙げられる。数々の研究によって明らかにされたように、異なるメタロプロテイナーゼ(MMP)は、コラーゲンに対する親和性を最大20倍に増加させる特定の部位にて、SPARCを開裂し得る[14、15]。興味深いことに、SPARCは、線維芽細胞におけるMMPの発現を増加させ[16〜18]、正のフィードバックループを生起させることが、明らかにされてきた。このフィードバック機構が制御されなくなると、線維性疾患の病理に関与し、コラーゲン析出の増加を伴う可能性がある。
癌、高血圧、肝硬変および線維性肺障害のような多くの疾患における、病理学の一部および/またはエンドポイントとされているのが、線維症である。線維症は、コラーゲンを含むECMの析出を増加させてしまい、それにより、正常な組織機能を妨害し、遂には臓器不全にまで至らしめることを特徴としている。線維形成のための重要な要素とされていることが公知のものとして、SPARCが挙げられる[19〜23]。SPARCヌルマウスとの比較では、ブレオマイシン誘発肺線維症の野生型マウスの方が、肺内のコラーゲンの量が増加していることが明らかにされてきた。このことから示唆されるように、SPARCが存在している場合の方が、発生する線維化反応は高度になる[19、20]。更になお、線維症および癌では、SPARCの発現が上方制御されることも、明らかにされてきた[24〜27]。
本発明者らが現在開発しているのが、高感度SPARCアッセイである。本SPARCアッセイは、肺癌に罹患している患者と高度に相関する。本アッセイは、肺癌と他の線維性疾患とを識別できることから明らかなように、肺癌を評価する際の診断ユーティリティとして優れたものとされている。また、特発性肺線維症(IPF)の評価において見出されてきたように、本アッセイは、前途有望な実用性を有する。
したがって、第1の態様において、本発明は、患者における肺癌の検出および/またはモニターを用途とした、イムノアッセイ法に関するものであり、本方法は、患者の生体液試料をN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)に対し特異的に反応するモノクローナル抗体に接触させることであって、モノクローナル抗体は、前述のN末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョンもしくは前述のN末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョンを特異的に認識することもないし、また結合することもない、接触させることと、前述のモノクローナル抗体と前述のN末端アミノ酸配列含有ペプチドとの間の結合量を算定することと、前述の結合量を、正常な健常被験対象に関連する値および/または既知の肺癌の重篤度に関連する値および/または以前の時点で前述の患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と相関させることと、を含む。
上記のように、モノクローナル抗体は、前述のN末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョンもしくは前述のN末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョンを特異的に認識することもないし、また結合することもない。この点に関して、「前述のN末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョン」は、配列HN−LLARDFEKNY(配列番号:1)のN末端を超えて延在する、1つ以上のアミノ酸を意味する。例えば、N末端アミノ酸配列HN−LLARDFEKNY(配列番号:1)がグルタミン酸残基で伸長された場合、対応する「N延在伸長バージョン」はHN−ELLARDFEKNY(配列番号:2)となる。同様に、「前述のN末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョン」は、配列HN−LLARDFEKNY(配列番号:1)のN末端から除去された1つ以上のアミノ酸を意味する。例えば、N末端アミノ酸配列HN−LLARDFEKNY(配列番号:1)が1アミノ酸残基だけ短縮された場合、対応する「N切断短縮バージョン」はHN−LARDFEKNY(LARDFEKNY)(配列番号:3)となる。
所定のカットオフ値は、好ましくは少なくとも9.0ng/mL、より好ましくは少なくとも15.0ng/mL、更により好ましくは少なくとも20.0ng/mL、更により好ましくは少なくとも25.0ng/mL、最も好ましくは少なくとも30ng/mLである。この点に関して、様々な統計分析を併用することによって見出されてきたように、モノクローナル抗体(上記)とN末端バイオマーカーの間の結合量の測定値が少なくとも9ng/mL以上の場合、肺癌の存在を判別することが可能とされている。統計的カットオフ値を、少なくとも9ng/mL、より好ましくは少なくとも15.0ng/mL、更により好ましくは少なくとも20.0ng/mL、更により好ましくは少なくとも25.0ng/mL、最も好ましくは少なくとも30ng/mLとすることにより、本発明の方法を利用して、肺癌を高い信頼レベルにて診断することが可能である。あるいは、統計的カットオフ値を本発明の方法に適用することは特に有利である、とも言い換えられる。そうすることにより、スタンドアロン型の診断アッセイに帰結する、すなわち、健常者および/または疾患重篤度が既知である患者と直接比較する必要無しに、診断の結論に到達することが可能となるからである。また、このことが特に有利とされるのは、アッセイを利用して、概ね肺癌を示唆する(例えば、身体診察および/または医療専門家との相談により判別された)医学的徴候または症状を既往とする患者を評価する場合である。これは、初期の予後を確証するための迅速且つ最も信頼のおけるツールとして機能し、それにより、内視鏡検査または生検のような侵襲性の高い手技の必要性をなくし、好適な治療レジメンの開始を早めることが可能となる。肺癌の特定の事例において、迅速な決定的診断により、疾患が早期に検出される可能性があり、ひいては、生存の全般的確率が向上することが見込まれる。
患者の生体液試料は、限定されるものではないが、血液、尿、滑液、血清または血漿としてもよい。
本イムノアッセイは、限定されるものではないが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイとしてもよい。同様に、本イムノアッセイは、限定されるものではないが、酵素結合免疫吸着アッセイまたは放射免疫アッセイとしてもよい。
第2の態様において、本発明は、患者が肺癌の治療に対し陽性反応するかどうかを判定する方法に関するものであり、本方法は、上記の方法を使用して、少なくとも2つの生体試料中のN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)含有ペプチドの量を定量化することを含み、前述の生体試料が、前述の患者に対し治療薬を投与した期間中の第1の時点および少なくとも1つの以後の時点において前述の患者から得られたものであり、且つ治療期間中の前述の第1の時点から前述の少なくとも1つの以後の時点に至るまでに、N末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)含有ペプチドの量の減少は、前述の患者が前述の治療に対し陽性反応することを示唆するものである。
また、上記の方法を使用して、肺癌の治療を用途とした新規な治療法の有効性を判別することも、可能である。その点に関して、新規な治療法が有効であると考えられるのは、N末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)含有ペプチドの量が、前述の新規な治療薬を使用した治療期間中の前述の第1の時点から前述の少なくとも1つの以後の時点に至るまでに、減少した場合である。
別の態様において、本発明は、患者における特発性肺線維症(IPF)の検出および/またはモニターを用途とした、イムノアッセイ法に関するものであり、本方法は、患者の生体液試料をN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)に対し特異的に反応するモノクローナル抗体に接触させることであって、モノクローナル抗体は、前述のN末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョンもしくは前述のN末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョンを特異的に認識することもないし、また結合することもない、接触させることと、前述のモノクローナル抗体と前述のN末端アミノ酸配列含有ペプチドとの間の結合量を算定することと、前述の結合量を、正常な健常被験対象に関連する値および/または既知のIPFの重篤度に関連する値および/または以前の時点で前述の患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と相関させることと、を含む。
患者の生体液試料は、限定されるものではないが、血液、尿、滑液、血清または血漿としてもよい。
本イムノアッセイは、限定されるものではないが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイとしてもよい。同様に、本イムノアッセイは、限定されるものではないが、酵素結合免疫吸着アッセイまたは放射免疫アッセイとしてもよい。
定義
本明細書中に使用されている「N末端」という用語は、ポリペプチドの先端、すなわち、該ポリペプチドのN末端端部を指し、その一般的な方向における意味として解釈すべきではない。
本明細書中に使用されている「競合的ELISA」という用語は、競合的酵素結合免疫吸着アッセイを指し、本技術は、当業者に公知とされている。
本明細書中に使用されている「サンドイッチイムノアッセイ」という用語は、試料中の抗原の検出を用途とした少なくとも2つの抗体を使用することを指し、本技術は、当業者に公知とされている。
本明細書中に使用されている「結合量」という用語は、抗体とバイオマーカーとの間の結合の定量化を指し、前記定量化は、生体液試料中のバイオマーカーの測定値を検量曲線と比較することによって算定されたものであり、この検量曲線は、バイオマーカーの既知濃度の標準試料を使用して作成されたたものである。本明細書中に開示されている特定のアッセイでは、N末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)を有するN末端バイオマーカーが、生体液中で測定され、この検量曲線は、既知濃度の検量ペプチドLLARDFEKNY(配列番号:1)の標準試料を使用して作成される。生体液試料にて測定された値を、検量曲線と比較することによって、試料中のバイオマーカーの実際の量が算定される。本発明では、分光光度分析を利用して、標準曲線を作成し、生体液試料中の結合量を測定する。下掲の例において、本方法では、HRPおよびTMBを使用して、測定可能な色強度を生成する。この色強度は結合量に比例する強度であると共に、分光光度計での読取りも可能な強度とされる。当然のことながら、ほかにも、任意の好適な分析方法を使用しても差し支えない。
本明細書中に使用されている「カットオフ値」は、患者における肺癌またはIPFの尤度が高いことを示唆するものと統計的に判別される結合量を意味する。ここで、患者試料のバイオマーカーの測定値は、統計的カットオフ値に到達しているか、または統計的カットオフ値を超えていて、肺癌またはIPFの存在または尤度の少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも80%の確率、好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、最も好ましくは少なくとも95%の確率に対応している。
本明細書中に使用されている「正常な健常被験対象に関連する値および/または既知の疾患に関連する値重篤度」とは、健康であると見なされる、すなわち肺癌もしくはIPFに患確していないと見なされる被験対象を対象として上記の方法より算定されたSPARCの標準化量、および/または、既知の重篤度の肺癌もしくはIPFを有することが知られている被験対象を対象として上記の方法により算定されたSPARCの標準化量を意味する。
本明細書において、「SPARC−M ELISA」は、本明細書中に開示されている特定の競合的ELISAで、試料中のN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)を有するペプチドの量を定量化するものを指す。
SPARC−Mモノクローナル抗体の特異性:(A)標準ペプチド(LLARDFEKNY;配列番号:1)、伸長ペプチド(ELLARDFEKNY;配列番号:2)、切断ペプチド(LARDFEKNY;配列番号:3)、ナンセンスペプチド(VPKDLPPDTT;配列番号:4)およびナンセンス被覆ペプチド(VPKDLPPDTT−ビオチン;配列番号:5);ならびに(B)フォンヴィレブランド因子(VWF)、ADAMTS15(A15)、SPARC様タンパク質1(SLP1)およびグルカゴン(GCG)に対するモノクローナル抗体反応性を、競合的SPARC−M ELISAアッセイにおいて試験した。シグナルは、450nmにおける光学密度(OD)(650nmにおけるバックグラウンドを差し引いたもの)として、ペプチド濃度に相関して表される。 コラゲナーゼによるSPARCの開裂:SPARCを種々のMMPと共にインキュベートし、24時間後にSPARC−Mレベルを測定した。バッファー単独で測定されたバックグラウンドを差し引くことにより、データを正規化した。下掲のグラフは、2つの実験を表している。 線維性疾患患者および健常対照における血清中SPARC−Mレベル:(A)コホート1:健常対照(n=6)、IPF患者(n=7)、COPD患者(n=8)および肺癌患者(n=8)における血清中SPARC−Mを評価した。ダンの多重比較検定用に調整されたクラスカルウォリス(Kruskal−Wallis)を使用して、諸群の比較を行った;(B)コホート2:健常対照(n=20)および肺癌患者(n=40)における血清中SPARC−Mを評価した。対応のない両側マンホイットニー検定を使用して、諸群の比較を行った;(C)肺癌患者(コホート2)は、癌の病期(I〜IV期、各群にてn=10)に応じて層別化した。データの比較には、一元配置ANOVAを、テューキー(Tukey)の多重比較検定用に調整されたものを使用した。データは、テューキー(Tukey)ボックスプロットとして表されている。有意水準:***:p<0.001、****:p<0.0001。
本開示の実施形態は、下記実施例において記載されている本開示を理解する一助となるように説明されたものであって、下掲の特許請求の範囲において定義されている開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。下記実施例は、記載されている実施形態を作製し使用する方法に関する完全な開示および説明を当業者に提供することを目的に提示されたものであって、本開示の範囲を限定することを意図したものではないし、また、下記実験は、実施された全ての実験、または実施された唯一の実験であることを表明することを意図したものでもない。使用されている数値(例えば、量、温度など)に関する精確性を期すための努力が為されてきたが、或る程度の実験誤差および偏差を考慮に入れる必要がある。別途明記されていない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、且つ圧力は大気圧または大気圧に近似する。
下記実施例において使用されている材料および方法は、以下の通りである。
SPARC−M ELISAの開発
ペプチドの選択
SPARC上の次の開裂部位(↓)は、以前にエドマン分解によって同定されていた[14]。
211HPVE ↓ LLARDFEKNYNMYIFP230。開裂断片のN末端に特異的な抗体を生成することを目的に、当該部位に隣接する10アミノ酸の配列を標的として選択した:↓215LLARDFEKNY224(配列番号:1)。NPS@:UniprotKB/Swiss−protデータベースを用いたネットワークタンパク質配列分析を使用して、他のヒト分泌型細胞外マトリックスタンパク質との相同性に合うように、本配列をブラストした[29]。
ELISAアッセイのモノクローナル抗体の生成および検証に使用された合成ペプチドは、米国ニュージャージー州のゲンスクリプト社(Genscript)から購入されたものであり、これらの合成ペプチドは、表1に示した通りである。
標的配列を、標準ペプチド(LLARDFEKNY;配列番号:1)として使用した。ビオチン化ペプチド(LLARDFEKNY−K−ビオチン;配列番号:7)を、C末端端部にリジン残基が付加された被覆ペプチドとして具備させることにより、ビオチン結合が確実に為されようにした。抗体特異性の試験は、標的ペプチド配列のN末端に追加的なアミノ酸が付加された伸長標準ペプチド(ELLARDFEKNY;配列番号:1)、第1のN末端アミノ酸が除去された切断標準ペプチド(LARDFEKNY;配列番号:3)、ナンセンス標準ペプチド(VPKDLPPDTT;配列番号:4)、およびナンセンスビオチン化被覆ペプチド(VPKDLPPDTT−ビオチン;配列番号:5)を、アッセイ検証において含めることにより行った。また、標的配列中の最初の6アミノ酸と比較して1アミノ酸のミスマッチを有する4つのペプチド(フォンヴィレブランド因子、グルカゴン、SPARC様タンパク質1、およびADAMTS15)も含めることによって、抗体特異性を更に試験した。スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、SMCC(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific)製、カタログ番号22336)を使用して、標準ペプチドをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体タンパク質に共有結合することにより、免疫原性ペプチド(LLARDFEKNY−GGC−KLH;配列番号:6)を生成した。担体タンパク質の適正な結合が確実に為されるように、グリシン残基およびシステイン残基がC末端端部に付加した。
モノクローナル抗体の作製
4〜6週齢のげっ歯類/Cマウスの免疫は、フロイントの不完全アジュバント(米国ミズーリ州セントルイスのシグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich))と混合した50μgの免疫原性ペプチド(LLARDFEKNY−GGC−KLH;配列番号:6)含有の乳化抗原200μLを皮下注射することにより行った。連続免疫は、安定した血清力価レベルに到達するまで、2週間間隔で行った。最高力価を有するマウスを4週間休息させてから、免疫原性ペプチド50μg含有の0.9%NaCl溶液100μLを、静脈内に追加免疫した。前述されているように、脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させることにより、ハイブリドーマ細胞を作製した[30]。次いで、結果として得られたハイブリドーマ細胞を96ウェルマイクロタイタープレートで培養し、標準的な限界希釈を使用して、モノクローナル増殖を確保した。競合的イムノアッセイにおいて被覆剤としてビオチン化ペプチド(LLARDFEKNY−K−ビオチン;配列番号:7)を使用して、上清の反応性をスクリーニングした。
クローンの特性評価
ストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレート(スイス国バーゼルのロッシュ社(Roche)製、カタログ番号#11940279)上に10ng/mLビオチン化被覆ペプチド、およびモノクローナルハイブリドーマ細胞産生抗体の上清を用いた予備ELISAで、ヒト血清試料および標準ペプチド(LLARDFEKNY;配列番号:1)を用いて置換することにより、モノクローナル抗体の反応性を評価した。製造元の指示書に従い、プロテインG(Protein G)カラム(英国リトルチャルフォントのGEヘルスケアライフサイエンス社(GE Healthcare Life Sciences)製のカタログ番号#17−0404−01)を使用して、標準ペプチドに対する反応性が最も高いクローンを精製した。
SPARC−M ELISAプロトコール
最適なインキュベーションのバッファー、時間および温度、ならびに抗体および被覆ペプチドの最適濃度を算定した。最終的なSPARC−M競合的ELISAプロトコールは、次の通りである。
96ウェルのストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレートを、アッセイバッファー(50mM Tris−BTB、4g/L NaCl、pH8.0)に溶解した1.1ng/mLビオチン化被覆ペプチドで被覆してから、暗所で振盪(300rpm)しながら、20℃にて30分間インキュベートした。20μLの標準ペプチドまたは1:4の予備希釈済み血清を適切なウェルに加え、続いてアッセイバッファーに溶解された濃度14ng/mLのモノクローナル抗体100μLを各ウェルに加えて、暗所で振盪(300rpm)しながら、20℃で1時間インキュベートした。アッセイバッファー中で1:6000に希釈されたヤギ抗マウスPOD接合IgG抗体(米国マサチューセッツ州ウォルサムのサーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific)製、カタログ番号#31437)100μLを各ウェルに加えて、暗所で振盪させながら、20℃で1時間インキュベートした。全てのインキュベーションステップ後に、洗浄バッファー(20mM Tris、50mM NaCl、pH7.2)で5回洗浄した。最後に、テトラメチルベンジジン(TMB)(デンマーク国のKem−En−Tecダイアグノスティクス社(Kem−En−Tec Diagnostics)製、カタログ番号438OH)100μLを各ウェルに加え、プレートを暗所で振盪させながら20℃で15分間インキュベートした。0.18M HSOを添加して酵素反応を停止させた。吸光度は、650nmを基準として用い、450nmにて測定した。4パラメータロジスティック曲線適合を使用して、検量曲線をプロットした。SoftMax Pro v.6.3ソフトウェアを使用して、データを分析した。
SPARC−M ELISAの技術評価
SPARC−M ELISAの技術的性能を評価することを目的として、以下:アッセイ間変動、アッセイ内変動、直線性、検出下限、検出上限、検体安定性(凍結/解凍および保存)、ならびに干渉性に関する検証試験を実施した。
検出範囲をカバーする7つの品質管理試料を使用して、別々の日に10回にわたって個別に泳動させることにより、アッセイ間変動およびアッセイ内変動を判別した。各泳動は、試料の二重測定で構成された。7つの品質管理試料は、2つのト血清試料と、バッファー中に標準ペプチドを含有する5つの試料とから構成されていた。アッセイ内変動は、プレート内の平均分散係数(CV%)として計算した。アッセイ間変動は、別々の日に分析された個別泳動10回分の平均CV%として計算した。本アッセイの直線性を評価するため、ヒト血清試料を2倍希釈し、希釈直線性を無希釈試料の回収率(パーセンテージ)として計算した。検出下限(LLOD)は、試料としてアッセイバッファーを用いた21回にわたる測定により算定し、平均+3*標準偏差として計算した。検出上限(ULOD)は、標準ペプチドの最高濃縮物を10回にわたって個別に泳動させることにより算定し、平均バックキャリブレーション計算値+3標準偏差として計算した。まず、検体安定性を、血清試料を繰り返し凍結/解凍する効果により算定した。その際、4回にわたる凍結/解凍サイクルにて3つのヒト血清試料のSPARC−Mレベルを測定した。第1のサイクルをバッファー中で洗浄した。凍結/解凍回収率の計算を行った。第2に、検体安定性を、保管との関連において、4℃または20℃にて実施された48時間の研究によって算定した。0時間、4時間、24時間、および48時間の保管後に、3つのヒト血清試料のSPARC−Mレベルを測定し、−20℃にて保管された試料を基準として用い、回収率の計算を行った。ヘモグロビン(0.155/0.310mM)、脂質血症/脂質(4.83/10.98mM)、およびビオチン(30/90ng/mL)の低/高含有量を既知濃度の血清試料に加えることにより、干渉を算定した。血清試料を基準として用い、回収率を計算した。
SPARCの生体外(in vitro)開裂
組換えヒトSPARC(米国ニュージャージー州のペプロテック社(PeproTech)製、カタログ番号#120−36)を、MMPバッファー(50mM Tris−HCl、150mM NaCl、10mM CaCl、10μM ZnCl、0.05%Brij35、pH7.5)中で最終濃度1000μg/mLに再構成した。MMP−2、MMP−8、MMP−9、およびMMP−13(イタリア国フィレンツェのギオット社(Giotto)製、カタログ番号#G04MP02C、#G04MP08C、#G04MP09C、#G04MP13C)を、1:10(1μgのMMP、および10μgのSPARC)にて加えた。上記のプロテアーゼを介して開裂されることが公知である、陽性対照タンパク質を含めた。溶液を37℃にて24時間インキュベートした。本溶液中に1μMEDTAを加えることにより、反応を停止させた。種々のプロテアーゼを含有のMMPバッファーを、対照として含めた。試料を分析まで−80℃で保管した。製造元(インビトロジェン社(invitrogen)製SilverXpress(登録商標)、カタログ番号#LC6100)の指示書に従い、クーマシーブルーで銀染色して、プロテアーゼの活性を確証した(データ不図示)。
SPARC−Mの臨床評価
患者の血清試料は、商業ベンダー(米国カリフォルニア州カルバーシティのプロテゲネックス社(ProteoGenex)から得たものである。コホート1は、肺癌患者、特発性肺線維症(IPF)患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者、および症候性または慢性疾患のない結腸内視鏡検査陰性患者で構成されていた(表2)。コホート2には、肺癌の病期が異なる男性および女性40人と、年齢が一致する、無症候性または慢性疾患無しの大腸内視鏡検査陰性対照20人とが含まれていた(表2)。適切な制度審査委員会/独立倫理委員会(Institutional Review Board/Independent Ethical Committee)が試料収集を承認し、全ての被験対象がインフォームドコンセントを提出した。
統計分析
血清試料中のSPARC−Mレベルの比較は、対応のない両側マンホイットニー検定、およびダンの多重比較検定用に調整されたクラスカルウォリス(Kruskal−Wallis)を使用して行った。患者を腫瘍の病期に応じて層別化し、テューキー(Tukey)の多重比較検定用に調整された一元配置ANOVAを使用して、各群のSPARC−Mレベルを比較した。データの正常性は、ダゴスティーノ&ピアソンオムニバス(D’Agostino−Pearson omnibus)検定を用いて評価した。診断能力は、受信者操作特性(AUROC)下の領域にて調査した。
グラフの設計および統計分析は、GraphPad Prismバージョン7(米国カリフォルニア州のグラフパッドソフトウェア社(GraphPad Software)製)を使用して行った。
結果
SPARC−M ELISAアッセイの特異性
NPS@:UniprotKB/Swiss−protデータベースを用いたネットワークタンパク質配列分析を使用して、他のヒト分泌型細胞外マトリックスタンパク質との相同性に合うように、標的配列LLARDFEKNY(配列番号:1)をブラストした。この標的配列は、他の分泌型ECMタンパク質と比較して、ヒトSPARCに対し特有であることが見出された。1つのアミノ酸のミスマッチを許容し、4つの分泌型細胞外マトリックスタンパク質(すなわち、フォンヴィレブランド因子、グルカゴン、SPARC様タンパク質1、およびADAMTS15)については、それぞれ第6位、第2位、第3位、および第6位にミスマッチを同定した(表1)。4つのペプチドの配列に対する反応性は、全く見られなかった(図1B)。このことから示唆されるように、標的配列に対する抗体特異性は、高度であった。標準ペプチド、ナンセンスペプチド、伸長ペプチド、切断ペプチドに対する反応性を分析し、ナンセンスビオチン化被覆ペプチドを使用して、競合的SPARC−M ELISAの特異性を更に評価した。全てのペプチド配列を表1に示す。結果は、図1Aに図示されている。抗体は、標準ペプチドに対してのみ反応した。標準ペプチドは、他のペプチドと比較して用量依存的にシグナルを阻害することが明白であった。ナンセンスビオチン化被覆ペプチドを使用した場合、検出可能なシグナルは全く観察されなかった。
総合的に言うと、これらのデータから示唆されるように、選択されている抗体には、高度なネオエピトープ特異性が見られる。
SPARC−M ELISAアッセイの技術評価
SPARC−M ELISAの技術的性能を、アッセイ間変動、アッセイ内変動、直線性、検出下限、検出上限、検体安定性(凍結/解凍および保存)、ならびに干渉性に応じて、更に評価した。種々の検証手順およびSPARC−Mの性能を、表3に示す。
アッセイの測定範囲(LLOD−ULOD)は、2.7〜300.7ng/mLと算定した。アッセイ間変動およびアッセイ内変動はそれぞれ、6%および10%であった。許容基準は、アッセイ内変動の場合は10%未満、アッセイ間変動の場合は15%未満であった。このため、許容範囲内にある。直線性を得るには、ヒト血清を1:4に希釈する必要がある。1:4に予備希釈されたヒト血清の平均希釈回収率は96%であった。検体安定性を、凍結/解凍サイクル、および4℃および20℃での保存安定性に応じて分析し、回収率の許容基準を100%±20%以内に設定した。血清中の検体の回収率は、4回にわたる凍結/解凍サイクル後に、92%となった。4℃で48時間保存した後、回収率は84%となった。また、検体安定性を、20℃で4時間、24時間および48時間試験した。4時間後の回復率は、88%となった。ただし、24時間後、検体は許容範囲(回収率50%)内では回収できなかった。これらのデータから示唆されるように、血清中の検体は4℃にて48時間まで安定である。ただし、血清試料は、分析した際、20℃以上にて4時間を超えて保管すべきではない。ビオチン、脂質、またはヘモグロビンの含有量の低い場合および高い場合のどちらにおいても干渉は全く検出されず、回収率は80〜98%の範囲内に留まっていた。回収率100%±20%以内を、許容基準とした。
コラゲナーゼ(MMP−8およびMMP−13)を介したSPARCの分解
抗体特異性を更に評価し、どのプロテアーゼがSPARC−Mを生成するかを調べるために、異なるゼラチナーゼ(MMP−2およびMMP−9)ならびにコラゲナーゼ(MMP−8およびMMP−13)を、組換え全長SPARCと共にインキュベートした。図2に図示されているように、コラゲナーゼによって断片を生成することが可能である。MMP−13を用いたことにより、SPARC−Mが最高レベルにて生成された。対照的に、プロテアーゼ不使用の場合、またはMMP−9と共にインキュベートした場合には、SPARC−Mが全く生成されなかった。MMP−2は、コラゲナーゼと比較して少量のSPARC−Mを生成することを可能とした。
これらの結果から示唆されるのは、抗体は開裂部位に特異的であること、およびこの特定の部位にてコラゲナーゼは、ゼラチナーゼと比較してSPARCを優先することである。
SPARC−Mの臨床評価
SPARC−Mに臨床疾患の関連性およびバイオマーカーの可能性があるかどうかの調査を目的として、異なる線維性肺疾患患者および健常対照において、SPARC−Mを測定した。コホート1は、肺癌患者、IPF患者、COPD患者、および健常対照で構成されていた。図3Aに図示されているように、SPARC−Mは、健常対照およびCOPD患者と比較して、肺癌患者で有意に上昇した。IPF患者は、健常対照と比較してSPARC−Mレベルも上昇した。これらの所見の確証を目的として、肺癌患者40人と健常対照20人とを含めた第2コホートまたはそれより大きいコホートにおいて、SPARC−Mを測定した。肺癌患者ではSPARC−Mが、健常対照と比較して有意に増加したことが、確証された(図3B)。受信者操作特性(AUROC)下の領域を用いて、肺癌患者および健常対照(コホート2)に関連したSPARC−Mの識別力を評価した。SPARC−Mは、AUROCが0.87(95%CI:0.78〜0.96)の患者および健常対照を識別できた。
転移を有する(高腫瘍量)患者では、SPARC−Mレベルが限局性腫瘍の患者と比較して異なるかどうかを調査するため、コホート2の患者を、腫瘍の病期(I〜IV期)に従って層別化した。腫瘍の病期間に有意差は観察されなかったが、腫瘍の病期の昇順ではSPARC−Mの増加する傾向が観察された(図3C)。
結論
本研究の説明は、血清中SPARCの断片を定量化する競合的ELISAアッセイの開発、および生物学的検証に関するものである。本研究の主要所見は、次の通り:1)調査対象となった断片は、血清中で検出可能であり、肺癌患者では、健常対照と比較して有意に上昇したこと、2)アッセイは技術的に堅牢であり、SPARC、SPARC−Mの一意なMMP−8/MMP−13分解断片に対し特異的であったこと、3)アッセイは、IPFを評価する際の使用に関して将来性のあることが明らかにされていること、である。
本明細書中で別途明記されていない限り、「または」という単語は、指定された条件のいずれかまたは両方が満たされたときに真の値を返す演算子の意味で使用されている。これは、一方の条件のみが満たされることを要求する「排他的論理和」演算子とは対照を為す。「含む」という用語は、「からなる」という意味ではなく寧ろ「含む」という意味で使用されている。上記に承認された先行する諸教示はいずれも、本明細書において参照により援用されている。
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Claims (10)

  1. 患者における肺癌の進行の検出および/またはモニターを用途とした、イムノアッセイ法であって、患者の生体液試料をN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)に対し特異的に反応するモノクローナル抗体に接触させることであって、前記モノクローナル抗体は、前記N末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョンもしくは前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョンを特異的に認識することもないし、また結合することもない、接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記N末端アミノ酸配列含有ペプチドとの間の結合量を算定することと、前記結合量を、正常な健常被験対象に関連する値および/または既知の肺癌の重篤度に関連する値および/または以前の時点で前記患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と相関させることと、を含む、イムノアッセイ法。
  2. 前記所定のカットオフ値が少なくとも9.0ng/mLである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記患者の生体液試料が、血液、尿、滑液、血清または血漿である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記イムノアッセイが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイである、請求項1〜3に記載の方法。
  5. 前記イムノアッセイが、酵素結合免疫吸着アッセイまたは放射免疫アッセイである、請求項1〜4に記載の方法。
  6. 患者が肺癌の治療に対し陽性反応するかどうかを判定する方法であって、前記方法が、請求項1〜5に記載の方法を使用して、少なくとも2つの生体試料中の前記N末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)含有ペプチドの量を定量化することを含み、前記生体試料が、前記患者に対し治療薬を投与した期間中の第1の時点および少なくとも1つの以後の時点において前記患者から得られたものであり、且つ治療期間中の、前記第1の時点から前記少なくとも1つの以後の時点に至るまでに、前記N末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)含有ペプチドの量の減少は、前記患者が前記治療に対し陽性反応することを示唆するものである、方法。
  7. 患者における特発性肺線維症(IPF)の進行の検出および/またはモニターを用途とした、イムノアッセイ法であって、患者の生体液試料をN末端アミノ酸配列LLARDFEKNY(配列番号:1)に対し特異的に反応するモノクローナル抗体に接触させることであって、前記モノクローナル抗体は、前記N末端アミノ酸配列のN延在伸長バージョンもしくは前記N末端アミノ酸配列のN切断短縮バージョンを特異的に認識することもないし、また結合することもない、接触させることと、前記モノクローナル抗体と前記N末端アミノ酸配列含有ペプチドとの間の結合量を算定することと、前記結合量を、正常な健常被験対象に関連する値および/または既知のIPFの重篤度に関連する値および/または以前の時点で前記患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と相関させることと、を含む、イムノアッセイ法。
  8. 前記患者の生体液試料が、血液、尿、滑液、血清または血漿である、請求項7に記載の方法。
  9. 前記イムノアッセイが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイである、請求項7または8に記載の方法。
  10. 前記イムノアッセイが、酵素結合免疫吸着アッセイまたは放射免疫アッセイである、請求項7〜9に記載の方法。
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