JP2021178930A - 転がり軸受装置の軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、滑り軸受装置の軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方の滑り面に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、含油軸受装置に用いる焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法 - Google Patents

転がり軸受装置の軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、滑り軸受装置の軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方の滑り面に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、含油軸受装置に用いる焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法 Download PDF

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【課題】転がり軸受装置においては、転動体と軌道面とに形成した潤滑剤が、自己潤滑性を永続する。滑り軸受装置においては、滑り面に形成した潤滑剤が、自己潤滑性を永続する。含油軸受装置においては、境界潤滑に至らず、潤滑油が枯渇せず、低温始動性が悪化せず、潤滑油の熱劣化が進行しない。これらを満たす潤滑剤の製造方法を提供する。【解決手段】転動体と内輪及び外輪とが軟磁性体からなる転がり軸受装置において、軌道面乃至は転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤は、乃至は、軸部材が軟磁性体からなる滑り軸受装置において、軸受部材乃至は軸部材の少なくとも一方の滑り面に付与する潤滑剤は、乃至は、軸部材が軟磁性体からなる含油軸受装置において、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤は、強磁性の金属微粒子1が潤滑油の球状の微粒子2に囲まれ、該潤滑油の球状の微粒子の集まりに分散した懸濁体によって潤滑剤を製造する。【選択図】図1

Description

本発明は、転がり軸受装置の軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、滑り軸受装置の軸受部材ないしは軸部材の滑り面に付与する潤滑剤の製造方法、ないしは、含油軸受装置に用いる焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法に関する。従って、本発明の潤滑剤は、3種類の軸受装置に汎用的に用いることができる潤滑剤である。
なお、本発明の発明者は、マグネタイトないしはマグへマイトからなる微粒子と、カルボン酸エステルル類に属する有機化合物の微粒子と、パラフィン系ベースオイルからなる潤滑油の微粒子とからなる3種類の微粒子の集まりからなる潤滑剤の製造方法に係る発明を、特許6583994号と特許6598002号として出願している。
本発明は、強磁性の金属である鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかからなる微粒子を、潤滑油の微粒子で取り囲み、該潤滑油の微粒子に金属微粒子を分散させた潤滑剤の製造方法に係る発明である。このため、潤滑油を先行して微粒子化し、該潤滑油の微粒子で金属化合物の微細結晶を取り囲み、この後、金属化合物を熱分解させた。また、本発明は、強磁性の微粒子が金属であるため、また、金属の微粒子と潤滑油の微粒子で潤滑剤を構成するため、先に出願した発明より潤滑剤の製造方法が簡略化できる。
回転部を有する産業用機器は、回転する軸部材と、この軸部材の回転と荷重とを支持する軸受部材とからなる軸受装置を有する。軸受装置は、軸部材の回転と荷重とを支持する部材が、1.耐久性に優れること、2.焼付きや凝着を起こさないこと、3.摩擦熱が少ないこと、4.摩擦音が小さいこと、などが求められる。
軸受装置は、転がり軸受装置と滑り軸受装置とに2分される。転がり軸受は、転動体と呼ばれる部品が、軸部材の回転と荷重とを支持する。この転動体は保持器によって保持され、内輪と外輪とで構成される軌道面上を転動する。転動体の種類によって様々な転がり軸受が存在し、ボールベアリングの転がりによる玉軸受と、円筒コロ、円錐コロ、針状コロなどの転がりによるコロ軸受などがある。いっぽう滑り軸受は、滑り面に存在する潤滑油の油膜で軸部材の回転と荷重とを支持する。滑り面に潤滑油を供給する潤滑装置ないしは潤滑機構を設けた動圧・静圧軸受に比べ、滑り面に潤滑油を供給する手段を省いた含油軸受は小型で安価なため、動圧・静圧軸受に比べより多くの産業機器に用いられている。
転がり軸受装置は、転動体を保持する保持器を有するため、含油軸受に比べて大型な軸受装置になり、転動体の転動によって、静粛性は滑り軸受装置に比べて劣る。いっぽう、軸部材の高速回転時には、転動体の慣性力が増大して軌道面に過大の圧縮応力を加える。また、静荷重下でも転動体の軌道面に圧縮応力が常時印加される。このため、転動体ないしは軌道面には、フレーキングと呼ばれる圧縮荷重によるうろこ状の疲労剥離現象が起こり、このフレーキングが加速的に進行して転がり軸受装置の寿命が決まる。
いっぽう、転動体が軌道面と接触する面積は、滑り軸受け装置における軸部材が接触する滑り面に比べ小さい。このため、動作時における摩擦力は、滑り軸受装置に比べて小さい。また、滑り軸受装置のように、動作温度の影響は受けない。さらに、滑り軸受装置では、軸部材の荷重の大きさに応じた軸受部材を用いなければならないが、転がり軸受では転動体および軌道面が受ける荷重の制約はない。従って、転がり軸受装置における転動体および軌道面に加わる負荷が軽減でき、また、転動体と軌道面の摩擦力が縮減できれば、耐久性と静粛性とに関わる弱点がなくなり、汎用的な軸受装置になる。
これに対し、含油軸受は、軸受部材である焼結金属からなる多孔質体に潤滑油を真空含浸する。真空含浸された潤滑油は、滑り面の摩擦熱で体積膨張し、自らが滑り面に潤滑油を供給する自己給油性を有する。さらに、滑り面に滲みでた潤滑油は、滑り面で油膜を形成する。この油膜の存在で、多孔質体と軸部材との焼付きと凝着を防ぐ。そして、軸部材が回転すると、レイノズルの式に基づいて油膜に圧力分布が形成される。油膜の陽圧部では、すべり面に存在する気孔から多孔質体内に潤滑油が入り込み、反対に油膜の負圧部では、多孔質体の気孔から摺接面に潤滑油が吐き出される。こうして、すべり面で形成される油膜の圧力分布によって、すべり面の気孔を介して、すべり面に潤滑油の自己循環が繰り返される。また、油膜の陽圧部が軸部材を押し上げ、軸部材が油膜によって支えられる。
しかし、焼結金属からなる多孔質体に設けられる内部気孔の体積は30%余りに制限され、制限された含浸油の量で動作寿命が決まる。さらに、多孔質体は、潤滑油を内部に真空含浸できる構造と、滑り面へ潤滑油が供給できる構造とを兼備するため、気孔は通気性を有する。この気孔の通気性によって、含油軸受が使用できる負荷に制約がある。
ここで、含油軸受が適応できる負荷の領域を説明する。すべり面が軸部材から受ける負荷は、軸受面圧Pと軸部材の滑り速度Vとで表わされる。軸受面圧Pは、家電製品における面圧0.02MPaから自動車部品における8MPaに及ぶ。また、滑り速度Vは音響・情報機器における1m/minから掃除機や電動工具における500m/minに及ぶ。このように、軸受部材が軸部材から受ける負荷は、軸部材の回転力と回転速度とに応じて広範囲に及ぶ。
しかし、すべり面に存在する通気性の気孔によってすべり面の油圧が逃げ、含油軸受が適応できる軸受面圧Pは1MPaまでであるとされている。さらに高速回転においては、通気性の気孔によってすべり面に供給される潤滑油が過小になり、含油軸受で適応できる軸部材の滑り速度は300m/minが限度であるとされている。
また、自動車に搭載された軸受装置の中には、−40℃における始動性と、すべり面の最高温度260℃における連続動作とが求められる軸受装置がある。低温の始動時には、含浸油がすべり面に滲み出にくいため、すべり面の焼付きや凝着が起こり易くなる。また低温の始動時には、潤滑油の粘性が大きいため摩擦力が過大となり、軸部材の回転力を低減させる。反対に、高温の連続動作では、含浸油がすべり面に滲み出やすくなり、また、潤滑油の蒸気圧が高まって、含浸油が枯渇し易くなる。あるいは、すべり面における潤滑油の熱分解が進行し、潤滑油の潤滑性が損なわれる。
さらに、すべり面における潤滑油の摩擦係数から、含油軸受が適応できる領域の限界を説明する。気孔から滲み出た潤滑油がすべり面で理想的な流体潤滑を行う場合は、摩擦係数μはμ=ηN・d/P・Cで与えられる。ここで、ηは動作温度における潤滑油の粘度、Nは軸部材の回転数、dは軸部材の軸径、Pは軸受面圧、Cは摺接面のクリアランスである。
含油軸受では、軸部材の回転速度Nが低下し軸受面圧Pが増大すると、動作時の摩擦係数μは理想的な摩擦係数μから外れて増大する。つまり、低速回転時に軸受面圧Pが増大すると、気孔の通気性によって軸受面圧Pがリークし易くなり、すべり面に油膜が存在しなくなり、部分的に軸部材と軸受部材とが直接接触する境界潤滑の摩擦が支配的になり、軸受部材のすべり面における焼付や凝着が起こり易くなる。
ところで、転がり軸受の課題を解決する手段として、例えば、特許文献1では、内外輪間の転動体の配列の両側に、固体潤滑剤で形成されたリングと、この潤滑リングを転動体に押し付ける弾性部材とを組み込むことにより、潤滑リングから固体潤滑剤を転動体に移着させて潤滑を行うようにした転がり軸受が提案されている。しかし、転動体への固体潤滑剤の供給が軸方向からのみ行われるため、転動体と内外輪の転走面との間に固体潤滑剤が入り込みにくく、十分な潤滑が行われず、焼き付けと凝着を発生する恐れがある。また、固体潤滑剤が摩耗すると、焼き付けと凝着が起こり、固体潤滑剤の寿命が転がり軸受の寿命になる。従って、本特許文献で提案された技術は、従来の課題を根本的に解決できない。
さらに、特許文献2では、転がり接触又はすべり接触が生じる接触面に供給される潤滑油が少量であっても、均一な油膜が形成され、摩擦係数が小さくかつ均一である接触面を有する転がり摺動部材を提供することを目的として、転がり接触面である、外側軌道面、内側軌道面及び転走面に、多数の微細な凹部を形成し、凹部の内面に撥油剤を付着させる転がり軸受が提案されている。しかし、撥油剤の蒸気圧特性と粘度によって、動作温度の制約を受ける。さらに、接触面に撥油剤が供給されることを前提とした軸受装置であり、撥油剤の寿命が軸受装置の寿命になる。従って、本特許文献に提案された技術も、従来の課題を根本的に解決できない。
これに対し、含油軸受の様々な課題に対しても様々な提案がなされている。例えば、境界潤滑が起こる摩擦係数を、より小さな摩擦係数の領域まで拡大する、つまり、流体潤滑の領域を拡大するため、焼結金属に固体潤滑剤である二硫化モリブデンや黒鉛を添加する事例がある(例えば、特許文献3および4を参照)。しかし、流体潤滑の領域が多少広がる効果はあるが、滑り面の気孔の通気性によって流体潤滑が広がる領域には自ずと限界がある。
また、潤滑油を滑り面に吸着しやすい性質とし、吸着活性が高い無極性潤滑油と吸着活性が高い軸受材料を組み合わせる事例がある(例えば、非特許文献1および2を参照)。この事例においても、流体潤滑の領域が多少広がる効果はあるが、滑り面の気孔の通気性によって流体潤滑が広がる領域には自ずと限界がある。
特開2008−014411号公報 特開2013−076469号公報 特開2001−279349号公報 特開2008−202123号公報
森誠之著、固体表面の活性と吸着および境界潤滑との関係、潤滑、Vol.33、No8(1988)、585−590 森誠之著、摩擦新生面の化学的性質、トライボロジスト、Vol.38、No.10(1993)、884−889
転がり軸受装置における課題は、3段落で説明したように、転動体と軌道面とに加わる負荷が軽減され、また、転動体と軌道面との摩擦力が縮減されることに集約される。しかしこれらの課題は、回転する軸部材の回転と荷重を転動体が支える転がり軸受の動作原理に基づいて起こる。一方、4段落で説明した先行技術のように、転動体ないしは軌道面に固体潤滑膜の形成や撥油剤の付加などの手段を用いると、滑り軸受の原理的な問題点である高温動作における寿命の短縮と低温始動性の悪化がもたらされ、また、軸受装置がさらに大型になり、転がり軸受の短所が増大し、汎用的な転がり軸受装置にならない。
いっぽう、滑り軸受装置は、滑り面に常時潤滑油の油膜が存在することが前提になる。滑り面に潤滑油を供給する装置ないしは機構を設けると、小型で安価な滑り軸受の長所がなくなる。また、含油軸受の課題は次の7つに集約されるが、これらの課題は、含油軸受の原理と含浸される潤滑油の性質に基づくもので、根本的な解決は困難である。第一に、過大な軸荷重を受けて軸受面圧が増大すると、軸受面圧が滑り面の気孔からリークして境界潤滑に至る。第二に、軸部材の高速回転時では、滑り面に潤滑油を引き出す力が強くなり、潤滑油が枯渇し易くなる。第三に、軸部材の低速回転時では、滑り面に潤滑油を引き出す力が弱くなり境界潤滑に陥る。第四に、極低温では潤滑油の粘性が増大して摩擦係数が増大し、低温始動性が悪化する。第五に、低温動作では滑り面に潤滑油が供給されにくくなり境界潤滑に至る。第六に、高温動作では滑り面に供給される潤滑油が過多になり、また、潤滑油の蒸発が増大し、含浸油が枯渇し易くなる。第七に、高温動作では潤滑油の熱劣化が進行し、潤滑油の潤滑性能が低下する。
従って、転がり軸受装置と滑り軸受装置との双方の課題を根本的に解決する手段は、第一に、応力を受けると、自らが滑ることで加えられた応力を緩和する自己潤滑性の機能を有する潤滑剤を実現することにある。つまり、転がり軸受装置の転動体と軌道面とに形成した潤滑剤からなる皮膜が、自己潤滑性を永続すれば、転動体と軌道面とに加わる負荷が永続して軽減され、転動体と軌道面との摩擦力が永続して縮減できる。また、滑り軸受装置においては、滑り面に形成した潤滑剤からなる皮膜が、自己潤滑性を永続すれば、滑り面に加わる応力は永続して緩和できる。第二に、転動体と軌道面との少なくとも一方に、前記した潤滑剤を塗布するだけで皮膜が形成できれば、転がり軸受装置が大型化せず、安価で汎用的な転がり軸受装置になる。また、軸部材と軸受部材との滑り面の少なくとも一方に、前記した潤滑剤を塗布するだけで皮膜が形成できれば、安価で汎用的な滑り軸受装置になる。第三に、自己潤滑性の機能が、軸部材の回転速度と荷重とに関わらず、また、軸受装置の動作温度に拘わらず永続することである。これによって、転がり軸受装置における耐久性と静粛性が永続し、滑り軸受装置における滑り面での流体潤滑が永続する。これら3つの作用を兼備する全く新たな潤滑剤を実現させることが、本発明が解決しようとする課題である。
これに対し、含油軸受における課題を整理すると次のようになる。第一に、過大な軸荷重を受けて軸受面圧が増大すると、軸受面圧がすべり面の気孔からリークしてすべり面が境界潤滑に至る。従って、軸部材の回転力が大きい用途では寿命が短い。第二に、軸部材の高速回転時では、すべり面に潤滑油を引き出す力が強くなり、潤滑油が枯渇し易くなる。従って、高速回転の頻度が高い用途では寿命が短い。第三に、軸部材の低速回転時では、すべり面に潤滑油を引き出す力が弱くなり境界潤滑に至り易くなる。従って、低速回転の頻度が高い用途では寿命が短い。第四に、極低温では潤滑油の粘性が著しく増大して摩擦係数が増大し、低温始動時の軸部材の回転力が低減する。第五に、低温動作ではすべり面に潤滑油が供給されにくくなり境界潤滑に至る。従って、極低温での始動性が必要な用途では使用できない。第六に、高温動作ではすべり面に供給される潤滑油が過多になり、あるいは、潤滑油の蒸気圧の上昇によって潤滑油の蒸発量が増大し、含浸油が枯渇する。第七に、高温動作では潤滑油の熱劣化が進行し、潤滑油の潤滑性能が低下する。従って、高温動作の頻度が高い用途では寿命が短い。
こうした課題は、含油軸受の原理と含浸油の性質とに基づく。従って、従来の含浸油とは全く異なる物質からなる含浸潤滑剤が、以下に説明する画期的な潤滑作用を滑り面にもたらせば、含油軸受の原理と含浸油の性質とに基づく前記の課題が根本的に解決できる。
第一の潤滑剤の作用は、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸した潤滑剤の自己給油性で滲み出た潤滑剤が、軸部材の滑り面に吸着し、この吸着した潤滑剤が、滑り面での流体潤滑を永続する。このため、過大な軸荷重を受け多孔質体の滑り面の軸受面圧が増大し、軸受面圧が多孔質体の気孔からリークしても、軸部材に吸着した潤滑剤によって流体潤滑が続く。また、軸部材の高速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が強くなるが、滑り面に吸着した潤滑剤が障害となって潤滑剤の引き出しを抑制する。また、高温動作時に潤滑剤が体積膨張し、多孔質体の滑り面に供給される潤滑剤が過多になるが、滑り面に吸着した潤滑剤が障害となって、滑り面への潤滑剤の供給を抑制する。さらに、軸部材の低速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が弱くなるが、滑り面に吸着した潤滑剤の存在で境界潤滑に至らない。また、低温動作時に多孔質体の滑り面に潤滑剤が供給されにくくなるが、滑り面に吸着した潤滑剤の存在で境界潤滑に至らない。
第二の潤滑剤の作用は、軸部材に吸着した潤滑剤に依る流体潤滑が、潤滑剤の粘度に依存しない。このため、極低温で潤滑剤の粘度が著しく増大しても、また、高温で潤滑剤の粘度が低下しても、さらに、潤滑剤が熱劣化しても流体潤滑を続ける。
第三の潤滑剤の作用は、軸部材に吸着した潤滑剤に依る流体潤滑が、潤滑剤を構成する液体が蒸発しても流体潤滑を続ける。つまり、潤滑剤が沸点を有する液体のみで構成されず、液体と固体との複数種類の物質から構成されれば、高温動作が継続して潤滑剤を構成する液体が蒸発しても、残存した固体の物質が流体潤滑を続ける。
これら3つの作用を滑り面で発揮する画期的な潤滑剤を実現させることが、本発明が解決しようとする課題である。
従って、本発明が解決しようとする課題は、11段落に説明した、転がり軸受装置と滑り軸受装置との双方の軸受装置において、3つの作用を兼備する潤滑剤を実現させることと、12段落で説明した含油軸受において、3つの作用を滑り面で発揮する潤滑剤を実現させることとの、双方の作用を同時に実現する潤滑剤を実現させることである。
本発明における転動体と内輪および外輪とが軟磁性体からなる転がり軸受装置において、軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤の製造方法は、ないしは、軸部材が軟磁性体からなる滑り軸受装置において、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方の滑り面に付与する潤滑剤の製造方法は、ないしは、軸部材が軟磁性体からなる含油軸受装置において、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法は、
最初に、製造する潤滑剤の40℃における動粘度を設定し、次に、軸受装置に用いられている前記動粘度を持つ潤滑油の中で、前記軸受装置の最高動作温度である260℃より高い沸点を持つ前記潤滑油を選択し、該潤滑油の一定量を容器に充填する、この後、前記潤滑油より少ない重量からなるメタノールと、前記潤滑油の1/100より少ない重量からなる沸点が260℃より高い親水性の乳化剤とを、前記容器内の前記潤滑油に混合して混合物を作成し、ホモジナイザー装置によって、前記混合物に衝撃を繰り返し加え、前記潤滑油を、サブミクロンの大きさからなる球状の微粒子の表面に、前記親水性の乳化剤の被膜が形成された球状の微粒子の集まりとするとともに、該球状の微粒子の集まりが前記メタノールに分散した第一の混合物を作成する、さらに、該第一の混合物から前記メタノールを気化させ、前記球状の微粒子の集まりからなる前記潤滑油を前記容器内に作成する、この後、強磁性の性質を持つ鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する第一の性質と、メタノールに溶解せず、メタノールに分散する第二の性質を兼備する金属化合物を、前記潤滑油の重量の1/10より少ない重量として秤量し、該秤量した金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、さらに、該メタノール分散液からメタノールを気化させ、前記金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを、前記容器内の前記潤滑油の球状の微粒子の集まりに混合し、前記金属化合物の微細結晶の集まりと前記潤滑油の球状の微粒子の集まりとからなる第二の混合物を作成する、さらに、前記ホモジナイザー装置によって、前記第二の混合物に衝撃を繰り返し加え、前記金属化合物の微細結晶を、個々の微細結晶に分離させるとともに、該分離した微細結晶を、前記潤滑油の球状の微粒子で取り囲み、該微細結晶が前記球状の微粒子の集まりに分散した第一の懸濁体を作成する、この後、該第一の懸濁体を昇温し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属からなる40−60nmの大きさの粒状の微粒子が、前記潤滑油の球状の微粒子に囲まれて析出するとともに、該金属微粒子が前記潤滑油の球状の微粒子の集まりに分散した第二の懸濁体を作成する、これによって、強磁性の金属微粒子が潤滑油の球状の微粒子に囲まれ、該潤滑油の球状の微粒子の集まりに分散した懸濁体からなる潤滑剤が製造される、潤滑剤の製造方法。
本発明の製造方法で製造する潤滑剤は、転がり軸受、滑り軸受及び含油軸受からなる様々な軸受装置に適応する。このため、潤滑剤に求められる性質の幅は広い。いっぽう、軸受装置に用いる潤滑油は、潤滑油の粘度の温度依存性が大きく、特に、低温になるほど粘度が著しく増大する。このため、軸受装置の動作温度範囲と、潤滑油の粘度の温度特性と、さらに、軸部材の荷重の大きさと回転数と、軸受装置の大きさとから、軸受装置に用いる潤滑油を選択している。従って、様々な軸受装置に適応できる潤滑剤を実現するうえで、潤滑油の粘度の温度依存性が解消できれば、潤滑剤が適応できる軸受装置の幅が大きく広がると考えた。この考え方から、本発明においては、潤滑油を球状の微粒子の集まりとし、潤滑油に形状効果に依る自己潤滑性を持たせ、潤滑油の粘度の温度依存性を解消させた。従って、自己潤滑性を持つ潤滑油が、潤滑剤の一部を構成するため、潤滑剤を製造する方法を検討するに当たり、最初に潤滑油を選択する必要がある。潤滑油を選択するにあたり、製造する潤滑剤の40℃における動粘度を設定し、軸受装置に用いられている潤滑油の中で、前記した40℃における動粘度を持ち、かつ、軸受装置の最高動作温度である260℃より高い沸点を持つ潤滑油を選択する。この理由は、次の考えによる。
すなわち、軸受装置は、転がり軸受、滑り軸受、オイルレスベアリングの3つに分類される。なお、含油軸受は、オイルレスベアリングの一種である。また、軸受油は、JIS K2239−1993で規定され、工業用潤滑油は、JIS K20001で規定され、40℃における動粘度が、2mm/sから460mm/sまでの15種類がある。このうち、軸受装置に用いる潤滑油の40℃における動粘度は、10mm/sから150mm/sの8種類である。いっぽう、軸受装置が運転される温度と、dn値(dn値は(D+d)/2・nであり、Dは軸受の呼び外径、dは軸受の呼び内径、nは回転速度)と、軸受部材が受ける荷重の大きさによって、軸受装置に求められる潤滑油の粘度特性が大きく変わる。ところで、本発明の潤滑剤は、転がり軸受、滑り軸受及び含油軸受からなる様々な軸受装置に適応する潤滑剤である。従って、本発明の潤滑剤の40℃における動粘度は、10mm/sから150mm/sに及ぶ。このため、潤滑剤を製造するに当たり、潤滑剤の40℃における動粘度を設定することが必要になる。この考えから、最初に、製造する潤滑剤の40℃における動粘度を設定した。次に、この40℃における動粘度を有する潤滑油の中で、軸受装置の最高動作温度である260℃より高い沸点を持つ潤滑油を、本発明の潤滑剤を構成する潤滑油として選択した。つまり、潤滑油の粘度の温度依存性を、潤滑油の自己潤滑性で解消させたため、選択した潤滑油の性質によって、製造する潤滑剤の性質が影響を受けるのは、高温時の潤滑剤の特性である。従って、軸受装置の最高動作温度である260℃より沸点が高い潤滑油を選択すれば、製造する潤滑剤の高温時の特性が、選択した潤滑油の温度特性の影響を受けにくくなる。このため、前記した40℃における動粘度を持つ軸受装置に用いられている潤滑油の中で、260℃より高い沸点を持つ潤滑油を選択する。従って、軸受装置に用いられている複数種類の潤滑油の中から、一種類の潤滑油を選択することになる。潤滑油の選択は、前記した沸点の高さに加え、従来と同様に、軸受装置が運転される温度と、dn値と、軸受部材が受ける荷重の大きさによって、製造する潤滑剤を適応する軸受装置に適切な潤滑油を選択する。
ところで、軸受装置に用いる潤滑油のベースオイルは、ジエステル油、シリコーン油、ポリグリコール油、ないしは、ポリフェニールエーテル油などの合成油からなる。ないしは、ポリαオレフィンなどの合成炭化水素からなる。ないしは、パラフィン系ないしはナフテン系の鉱物油など様々なベースオイルからなる。従って、様々なベースオイルで潤滑油が構成されるため、40℃の動粘度が、前記した10mm/sから150mm/sまでの幅に及ぶ。いっぽう、潤滑油はベースオイルに、スラッジを取り除く清浄分散剤、ベースオイルの酸化を防止する酸化防止剤、油性向上剤、摩耗防止剤、極圧剤からなる耐荷重添加剤、さび止め剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、カビ防止剤などが、潤滑油の用途に応じて、微量の添加剤として加えられる。これらの添加剤は全て有機化合物であるが、熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物は、これらの有機化合物からなる添加剤と化学反応しない。
ここで、本発明における潤滑剤が持つ4つの特徴について説明する。
前記したように、本発明の潤滑剤の第一の特徴は、潤滑油を球状の微粒子の集まりとし、潤滑油に球状微粒子に依る形状効果で自己潤滑性を持たせ、潤滑油の粘度の温度依存性を解消させた。
次に、軸受部材と軸部材との間隙に潤滑剤が磁気吸着すれば、潤滑剤の寿命が著しく伸び、潤滑剤が適応できる軸受装置の幅が大きく広がる。つまり、軸受部材と軸部材との間隙に存在する潤滑油は、せん断応力ないしは圧縮応力が常時加わり、さらに、応力の大きさが頻繁に変化する。これによって、潤滑油は、軸受部材と軸部材との間隙から脱落する。これに対し、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方を軟磁性体で構成し、潤滑剤に強磁性の性質を持たせれば、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方から、潤滑剤に磁気吸引力が作用し、潤滑剤は軸受部材と軸部材との間隙から脱落しない。この考えから、本発明の潤滑剤の第二の特徴は、前記した潤滑油の球状の微粒子の集まりと、強磁性金属の微粒子の集まりで、潤滑剤を構成することとした。これによって、金属微粒子が分散した潤滑剤の全体が、金属微粒子が発する磁化に依る強磁性の性質を持つ。このため、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方と潤滑剤との間に、磁気吸引力が作用し、潤滑油の粒状微粒子と、強磁性の金属微粒子との双方が、僅かな質量であるため、潤滑剤は軸受部材と軸部材との間隙から脱落しない。また、軸受部材と軸部材との間隙に磁気吸着した潤滑剤に、せん断応力ないしは圧縮応力が加わると、潤滑剤の全体に磁気吸引力が作用しているため、潤滑剤は容易に変形し、せん断応力ないしは圧縮応力を、潤滑剤の変形によって吸収する自己潤滑性を発揮する。
さらに、潤滑剤は長期にわたって経時変化しないことが必要になる。本発明の潤滑剤の第三の特徴は、強磁性金属の微粒子を、潤滑油の球状の微粒子で囲み、強磁性金属の経時変化を抑制した。さらに、用いる潤滑油の沸点と、強磁性金属の磁気変態温度とが、軸受装置の最高動作温度より高いため、潤滑剤の性質は長期に亘って変わらない。
また、潤滑剤の原料が安価で、潤滑剤が安価な費用で製造できれば、様々な軸受装置に、潤滑剤が汎用的に使用できる。本発明の潤滑剤の第四の特徴は、安価な原料を用い、8つの処理からなる極めて簡単な処理で潤滑剤を安価に製造する。
以上に説明したように、本発明は、従来の軸受装置に用いられている潤滑剤にはない全く新しい4つの特徴を持つ潤滑剤を製造する。
ここで、8つの処理からなる潤滑剤の製造方法を説明する。
第一の処理は、選択した潤滑油にメタノールと親水性の乳化剤とを混合するだけの処理である。第二の処理は、第一の処理で作成した混合物に、ホモジナイザー装置で衝撃を繰り返し加えるだけの処理である。第三の処理は、第二の処理で作成した第一の混合物からメタノールを気化させるだけの処理である。第四の処理は、金属化合物をメタノールに分散するだけの処理である。第五の処理は、メタノール分散液からメタノールを気化させるだけの処理である。第六の処理は、金属化合物の微細結晶の集まりを、潤滑油の微粒子の集まりに混合するだけの処理である。第七の処理は、第六の処理で作成した第二の混合物に、ホモジナイザー装置で衝撃を繰り返し加えるだけの処理である。第八の処理は、第七の処理で作成した第一の懸濁体を、金属化合物が熱分解する温度に昇温するだけの処理である。これら8つの処理は、いずれも極めて簡単な処理である。また、潤滑油とメタノールと親水性の乳化剤と金属化合物とは、何れも汎用的な工業用の薬品である。従って、安価な原料を用い、安価な費用で潤滑剤が製造でき、本発明の第四の特徴を満たす。
さらに、上記の各処理において起こる現象と、各処理の作用効果とを説明する。
第一の処理で、潤滑油にメタノールと微量の親水性の乳化剤とを混合すると、潤滑油はメタノールと親水性の乳化剤とに相溶せず、微量の親水性の乳化剤はメタノールに分散し、混合物は2相の液体に分離する。なお、潤滑油の密度が0.85−0.90g/cmで、メタノールの密度が0.79g/cmであるため、潤滑油は下相を形成する。
第二の処理で、2相に分離した液体に、ホモジナイザー装置で繰り返し衝撃を加え、潤滑油を乳化(エマルション)させる。潤滑油の40℃の動粘度が10mm/sから150mm/sで、メタノールの20℃の動粘度は僅か0.74mm/sであるため、液体に衝撃を加えると、潤滑油の微粒子化が優先して進み、サブミクロンの大きさで、最も安定した形状の球状微粒子になって微粒子化を終える。なお、潤滑油の球状の微粒子に、この後、ホモジナイザー装置で繰り返し衝撃を加えるが、また、潤滑剤として用いる際に、せん断応力ないしは圧縮応力が常時加わるが、潤滑油の微粒子の大きさと形状は変わらない不可逆性を持つ。従って、潤滑油が気化しない限り、球状微粒子は、応力を受けると自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を長期に亘って継続する。このため、沸点が高い潤滑油を選択した。また、潤滑油の微粒子の表面は、ごく薄い親水性の乳化剤の被膜で覆われる。この結果、潤滑油の球状の微粒子の集まりが下の相を形成し、メタノールが上の相を形成する。いっぽう、HLB値が高い(親水性が高い)乳化剤を少量加え、球状微粒子の表面を乳化剤のごく薄い被膜で覆い、球状微粒子の再結合や球状微粒子の劣化を防いだ。さらに、沸点が、金属化合物の窒素雰囲気での熱分解温度である330℃を超える親水性の乳化剤を用いれば、潤滑油の球状微粒子は330℃以上の温度でも安定し、軸受装置の最高動作温度の260℃より高いため、乳化剤は長期に亘って潤滑油の球状微粒子を覆う。このような高沸点の親水性の乳化剤として、ステアリン酸エステルとオレイン酸エステルとからなるポリグリセリン脂肪酸エステルや、リシノレイン酸同士をエステル結合した縮合物とポリグリセリンとをさらにエステル結合したポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルや、アルコールをエチレンオキシドでエトキシル化したアルコールエトキシレートなどがある。
なお、超音波ホモジナイザーを用いると、潤滑油の微粒子化が短時間で進む。つまり、超音波振動を液体に加えると、超音波の周波数に応じた極めて短い周期で、超音波の縦振動による加圧と減圧とが液体で繰り返され、液体に大きな圧力差が発生する。この圧力差に依って微小な泡(キャビテーション)が発生し、この泡が液体中で縦振動を受けて弾けまたは潰れた瞬間に大きな衝撃波が起こり、この大きな衝撃波によって粒子が引きちぎられまたぶつかり合い、粒子の微粒子化が短時間で進む。この粒子の微粒子化は、粒子が衝撃波で潰れない球状の微粒子まで進み、この球状の微粒子は応力を受けると自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を持つ。
第三の処理で、第二の処理で作成した第一の混合物からメタノールを気化させると、潤滑油の球状の微粒子の集まりが得られる。
第四の処理で、金属化合物をメタノールに分散すると、金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。これに対し、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、メタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物が析出しない。従って、メタノールに溶解せず分散する金属化合物を用いる。
第五の処理で、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化すると、100nmより小さい金属化合物の微細結晶が析出する。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態でメタノールに分散したため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい微細結晶として析出する。なお、微細結晶は、分子状態で分散した金属化合物が微細結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が積層した結晶の集まりからなる。
第六の処理で、金属化合物の微細結晶の集まりを、潤滑油の微粒子の集まりに混合する。潤滑油の密度が0.85−0.90g/cmで、金属化合物の密度は0・90−1.1g/cmである。なお、潤滑油の微粒子の大きさは、金属化合物の微細結晶の大きさの2倍より大きい。この結果、液体からなる潤滑油の微粒子と、固体からなる金属化合物の微細結晶とが混ざり合う。
第七の処理で、ホモジナイザー装置によって、潤滑油の微粒子と金属化合物の微細結晶との混合物に繰り返し衝撃を与える。秤量した金属化合物の重量が、潤滑油の重量の1/10より少ないため、金属化合物の微細結晶の数は、潤滑油の微粒子の数より、1/10近く少ない。この際、固体の金属化合物の微細結晶が、個々の微細結晶に分離されるとともに、個々に分離した固体の微細結晶が、液体の潤滑油の球状微粒子で取り囲まれ、金属化合物の微細結晶が潤滑油の球状微粒子の集まりに分散した懸濁体が得られる。
第八の処理で、金属化合物の微細結晶を熱分解する。この際、潤滑油の沸点が、金属化合物の熱分解温度より高いため、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの強磁性の金属からなる40−60nmの大きさの粒状微粒子が、潤滑油の球状微粒子に囲まれて析出し、金属微粒子が潤滑油の球状微粒子の集まりに分散した懸濁体からなる潤滑剤が得られる。また、この際に第七の処理で得た懸濁体から不純物が気化する。なお、金属微粒子は、析出する際は活性状態にあるが、潤滑油の球状微粒子に囲まれて析出した後は、不活性で安定した金属微粒子になる。さらに、金属微粒子が潤滑油の球状微粒子に囲まれて析出するため、金属微粒子同士が金属結合しない。いっぽう、潤滑剤においては、潤滑油の球状微粒子を介して、金属微粒子に磁気吸引力が作用し、潤滑剤の全体に金属微粒子が分散しているため、潤滑剤の全体に磁気吸引力が作用する。このため、潤滑油の球状微粒子は潤滑剤から解離せず、また、金属微粒子は潤滑油の球状微粒子で囲まれた状態を維持する。従って、潤滑油の球状微粒子で囲まれた金属微粒子は酸化されず、経時変化しない。なお、強磁性金属の磁気キュリー温度は、コバルトが1115℃で、鉄が770℃で、ニッケルが354℃であり、軸受装置の最高動作温度の260℃より高いため、潤滑剤の全体に磁気吸引力が常時作用する。
この結果、強磁性金属の粒状微粒子が潤滑油の球状微粒子で囲まれるとともに、潤滑油の球状微粒子の集まりに、強磁性金属の粒状微粒子が分散した潤滑剤が得られる。この潤滑剤は、軸受装置の潤滑剤として全く新しい次の作用効果をもたらす。
第一に、潤滑剤は、微粒子の形状効果に基づく自己潤滑性を持つ2種類の微粒子で構成され、潤滑剤の全体に作用する磁気吸引力で全ての微粒子が結合され、潤滑剤自体も自己潤滑性を持つ。これらの性質は、全く新しい潤滑剤の性質である。すなわち、金属の粒状微粒子の大きさが40−60nmと小さく、潤滑油の球状微粒子もサブミクロンと小さい。さらに、強磁性の金属微粒子が、潤滑剤の全体に分散するため、金属微粒子に作用する磁気吸引力が、潤滑油の全体に及ぶ。この結果、潤滑剤を構成する全ての微粒子が、磁気吸引力で結合する。従って、潤滑剤にせん断応力ないしは圧縮応力が作用すると、潤滑剤は容易に変形し、加えられたせん断応力ないしは圧縮応力を、潤滑剤の変形によって吸収する自己潤滑性を発揮する。いっぽう、せん断応力ないしは圧縮応力が解除されると、潤滑剤はもとの状態に戻る。
すなわち、転がり軸受装置において、軌道面ないしは転動体の表面に磁気吸着した潤滑剤からなる皮膜に、せん断応力ないしは圧縮応力が作用すると、皮膜が容易に変形し、加えられたせん断応力ないしは圧縮応力を、皮膜の変形によって吸収する自己潤滑性を発揮する。同様に、滑り軸受装置において、軸受部材ないしは軸部材の滑り面に磁気吸着した潤滑剤からなる皮膜も、自己潤滑性を発揮する。また、含油軸受装置においても、軸部材の表面に磁気吸着した潤滑剤からなる皮膜も、自己潤滑性を発揮する。
また、磁気吸着した潤滑剤の皮膜の表面を形成する潤滑油の球状微粒子に、せん断応力ないしは圧縮応力が作用すると、球状微粒子の形状効果に依って、球状微粒子が滑り、球状微粒子が自己潤滑性を発揮する。すなわち、転がり軸受装置の軌道面ないしは転動体の表面に、あるいは、滑り軸受装置の軸受部材ないしは軸部材の滑り面に、あるいは、含油軸受装置の軸部材の表面に、球状微粒子が接すると、球状微粒子が自ら滑り、自己潤滑性を発揮する。また、金属微粒子についても、潤滑剤の表面を形成する粒状微粒子に、せん断応力ないしは圧縮応力が作用すると、粒状微粒子の形状効果に依って自らが滑り、自己潤滑性を発揮する。いっぽう、潤滑油の粘度は、温度によって大きく変わり、これに伴い、潤滑性も大きく変わる。特に、低温になるほど粘度が著しく増大し、潤滑油の潤滑性がそがれ、軸受装置の低温始動性が悪化する。これに対し、潤滑剤の自己潤滑性が、球状微粒子の形状効果に依る自己潤滑性と、潤滑剤の全体に作用する磁気吸引力に依る自己潤滑性であり、潤滑剤の温度が変わっても、自己潤滑性は変わらない。従って、軸受装置の低温始動性は悪化しない。このため、転がり軸受装置においては、全ての温度で、転動体と軌道面とに加わる負荷が軽減され、また、転動体と軌道面との摩擦力が縮減される。あるいは、滑り軸受装置においては、全ての温度で、滑り面に加わる応力が緩和される。あるいは、含油軸受装置においては、全ての温度で、滑り面での流体潤滑が継続する。
この潤滑剤の自己潤滑性によって、軸受装置に対し様々な作用効果をもたらす。転がり軸受装置においては、潤滑剤が転動体と軌道面とを攻撃しない。これによって、転動体と軌道面との耐久性が飛躍的に伸び、また、転がり軸受装置の静粛性が著しく向上する。いっぽう、滑り軸受装置においては、潤滑剤が軸受部材と軸部材との滑り面を攻撃しない。これによって、滑り面の耐久性が飛躍的に伸び、また、流体潤滑が滑り面で継続し、滑り軸受装置の静粛性が維持される。さらに、含油軸受け装置においては、軸部材は多孔質体の滑り面を攻撃しない。また、流体潤滑における潤滑剤の摩擦力が小さく、従来の含油軸受より静粛性が高い。
以上に説明したように、本発明の潤滑剤の自己潤滑性は、粉体の結晶の層間結合が破壊することに依る自己潤滑性とは全く異なり、液体及び固体の微粒子の形状効果に依る自己潤滑性と、潤滑油の全体に作用する磁気吸引力に依る潤滑性であるため、様々な優れた作用効果を軸受装置にもたらす。
第二に、潤滑剤の全体に磁気吸引力が作用するため、軸受装置の一部が軟磁性体で構成されると、潤滑剤の動作寿命が著しく伸びる。すなわち、転動体と内輪および外輪とが軟磁性体からなる転がり軸受装置においては、軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に潤滑剤を付与し、転がり軸受装置が稼働すると、潤滑剤の皮膜が、転動体の表面と軌道面との双方に形成され、転動体と軌道面と潤滑剤との間で磁気吸引力が作用し、質量を殆ど持たない金属の粒状微粒子と潤滑油の球状微粒子とは、磁気吸引力によって、転動体と軌道面との双方から脱落せず、転動体と軌道面との間に、潤滑剤が常時存在し、軸部材の回転と荷重とを支え続ける。また、軸部材によって静荷重が加えられた際は、軸受部材と軸部材との間に存在する潤滑剤が静荷重を支え続け、転動体および軌道面が疲労しない。また、軸部材が軟磁性体である滑り軸受装置においては、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方の滑り面に潤滑剤を付与し、すべり軸受装置が稼働すると、潤滑剤の皮膜が、軸受部材と軸部材との双方の表面に形成され、軸部材と潤滑剤との間で磁気吸引力が作用し、質量を殆ど持たない金属の粒状微粒子と潤滑油の球状微粒子とは、磁気吸引力によって、軸受部材と軸部材との双方から脱落せず、潤滑剤が常時存在し、軸部材の回転と荷重とを支え続ける。また、軸部材によって静荷重が加えられた際は、軸受部材と軸部材との間隙に存在する潤滑剤が静荷重を支え続け、軸受部材の滑り面が疲労しない。さらに、軸部材が軟磁性体である含油軸受装置において、軸部材の滑り面に潤滑剤を付与し、含油軸受装置が稼働すると、潤滑剤の皮膜が軸部材とすべり面との双方に形成される。また、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸した潤滑剤は、含油軸受装置を稼働すると、潤滑剤の体積が膨張し、自らが滑り面に潤滑油を供給する自己給油性によって、すべり面に潤滑剤が滲み出る。軸部材が軟磁性体であるため、潤滑剤と軸部材との間で磁気吸引力が作用し、質量を殆ど持たない金属の粒状微粒子と潤滑油の球状微粒子とは、磁気吸引力によって滑り面から脱落しない。また、軸部材が静荷重を多孔質体の滑り面に加えても、軸部材の滑り面に常時存在する潤滑剤が静荷重を支え続け、多孔質体の滑り面は疲労しない。いっぽう、焼結金属からなる多孔質体は非磁性体で、真空含浸した潤滑剤と多孔質体との間で磁気吸引力は作用しない。このため、潤滑剤の自己給油性は妨げられない。なお、強磁性金属の磁気キュリー温度が高く、潤滑剤に作用する磁気吸引力は、高温時においても潤滑剤の全体に作用し、磁気吸引力に基づく様々な作用効果が、全ての温度で得られる。
以上に説明したように、本発明の潤滑剤は、磁気吸引力が潤滑剤の全体に作用する全く新しい性質を持つため、様々な優れた作用効果を軸受装置にもたらす。
すなわち、転がり軸受の転動体、内輪、外輪は、いずれも繰り返し大きな荷重がかかるため、耐久性の観点から高炭素クロム鋼や、耐食性の高いマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられ、これらはいずれも軟磁性体である。また、滑り軸受の軸部材は、機械構造用炭素鋼の炭素の含有量が0.25wt%から0.45wt%のS25CからS45Cや、炭素量が0.45wt%以上の炭素鋼ないしはニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼が用いられ、これらはいずれも軟磁性体である。さらに、含油軸受装置で用いる軸部材も、滑り軸受の軸部材と同様に、S25CからS45Cや、炭素鋼ないしはニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼から構成され、いずれも軟磁性体である。
第三に、微粒子の形状効果に依る自己潤滑性と、潤滑剤の全体に常時作用する磁気吸引力に依る自己潤滑性とは、軸部材の回転速度と荷重とに拘わらず、さらに、軸受装置の動作温度と潤滑剤の温度とに拘わらず、常時作用する。従って、転がり軸受においては、転動体と軌道面の耐久性が飛躍的に伸び、また、静粛性が著しく改善される。滑り軸受においては、流体潤滑が滑り面で継続され、軸受部材の滑り面の耐久性が飛躍的に伸び、また、静粛性が維持される。含油軸受け装置においては、過大な軸荷重を受けて、滑り面の気孔から軸受面圧がリークしても、滑り面で流体潤滑が継続する。また、軸部材の高速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が強くなるが、滑り面に存在する潤滑剤が障害となって潤滑剤の引き出しを抑制し、潤滑剤の長期使用が可能になる。これとは反対に、軸部材の低速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が弱くなるが、滑り面に存在する潤滑剤によって境界潤滑に至らない。さらに、高温動作時に潤滑剤の体積膨張で、多孔質体の滑り面に潤滑剤が過多に供給されようとするが、滑り面に存在する潤滑剤が障害となって潤滑剤の供給を抑制し、潤滑剤の長期使用が可能になる。これとは反対に、低温動作時に多孔質体の滑り面に潤滑剤が供給されにくくなるが、滑り面に存在する潤滑剤によって境界潤滑に至らない。
第四に、潤滑油の球状粒子は枯渇しない。これによって、強磁性の金属微粒子も、潤滑剤から枯渇しない。すなわち、潤滑油の沸点が軸受装置の最高動作温度より低ければ、長期間使用することで、潤滑油が枯渇する。軸受装置の最高動作温度は200℃程度で、高温での連続運転で軌道面ないしはすべり面が260℃近くまで昇温する場合がある。しかし、合成油のベースオイルからなる潤滑油においては、例えば、沸点が330℃を超えるシリコーン油を用いれば、また、合成炭化水素のベースオイルからなる潤滑油においては、例えば、沸点が305−320℃であるポリαオレフィンを用いれば、さらに、沸点が370−400℃と高い鉱物油を用いれば、潤滑油が枯渇しない。このため、微粒子の形状効果に依る自己潤滑性と、磁気吸引力に依る自己潤滑作用とは、長期に亘って継続する。
第五に、潤滑剤の全体に作用する磁気吸引力は経時変化せず、長期にわたって継続する。すなわち、潤滑油の球状粒子が枯渇しないため、金属微粒子が潤滑油の球状微粒子で囲まれ続ける。これによって、金属微粒子は、酸化されず、経時変化しない。また、金属微粒子の磁気変態温度が高いため、潤滑剤の全体に常時磁気吸引力が作用する。このため、微粒子の形状効果に依る自己潤滑作用と、潤滑剤の全体に作用する磁気吸引力とは、長期にわたって継続する。これによって、前記した様々な優れた作用効果が、様々な軸受装置に長期にわたってもたらされる。
第六に、転がり軸受装置の軌道面ないしは転動体の表面に形成される潤滑剤の皮膜は、厚みに対する表面積の比率が極めて大きいため、転動体と軌道面との昇温を抑える冷却作用を発揮する。同様に、滑り軸受装置の軸受部材ないしは軸部材の滑り面に形成される潤滑剤の皮膜は、滑り面の昇温を抑える冷却作用を発揮する。また、含油軸受装置の軸部材の表面に形成される潤滑剤の皮膜も、滑り面の昇温を抑える冷却作用を発揮する。
以上に説明した本発明の潤滑剤がもたらす6つの作用効果に依って、11段落に記載した転がり軸受装置と滑り軸受装置における全ての課題が解決される。また、12段落に記載した含油軸受装置における全ての課題が解決される。
14段落に記載した潤滑剤の製造方法において、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する前記金属化合物が、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属からなる金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、該無機金属化合物からなる錯体を前記金属化合物として用い、14段落に記載した潤滑剤の製造方法に従って潤滑剤を製造する、14段落に記載した潤滑剤の製造方法。
つまり、無機金属化合物からなる錯体は、還元雰囲気の180−220℃で熱処理すると、錯体の熱分解で金属が析出する。また、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない。従って、無機金属化合物からなる錯体は、14段落に記載した潤滑剤を製造する方法において、熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物として用いられる。
すなわち、無機物の分子ないしは無機物のイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体を、還元雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、すべての無機物の気化が完了した後に金属が析出する。つまり、錯体を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きい。このため、金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、錯体を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、気化が完了した後に、金属が析出する。この際、配位子が低分子量の無機物であるため、配位子の分子量に応じて、180−220℃の低い温度で無機物の気化が完了する。このような錯体として、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン錯イオンを有する錯体、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ錯イオンを有する錯体、シアノ基CNが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するシアノ錯イオンを有する錯体、臭素イオンBrが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するブロモ錯イオンを有する錯体、沃素イオンIが配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するヨード錯イオンを有する錯体などが挙げられる。また、このような無機化合物からなる錯体は、配位子の分子量が小さいため、合成が容易で最も安価な錯イオンを有する錯体である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる錯体は、14段落に記載した熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物であり、また、14段落に記載した潤滑剤を製造する方法において、強磁性の金属微粒子の安価な原料になる。
14段落に記載した潤滑剤の製造方法において、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する前記金属化合物が、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属イオンに共有結合したオクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を前記金属化合物として用い、14段落に記載した潤滑剤の製造方法に従って潤滑剤を製造する、14段落に記載した潤滑剤の製造方法。
つまり、オクチル酸金属化合物は、大気雰囲気の290℃で熱処理すると、金属を析出する。また、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない。従って、オクチル酸金属化合物は、14段落に記載した潤滑剤を製造する方法において、熱分解で強磁性の金属を析出する金属化合物として用いられる。
なお、潤滑油の球状微粒子で囲まれたオクチル金属化合物の微細結晶が熱分解し、潤滑油の球状微粒子で囲まれて金属微粒子が析出する。従って、大気雰囲気でオクチル酸金属化合物を熱分解しても、金属微粒子の表面は酸化されない。いっぽう、窒素雰囲気での熱分解は、大気雰囲気での熱分解より40℃程度高く、大気雰囲気のほうが、処理費用が安価で済む。しかしながら、沸点が330℃より高いベースオイルからなる潤滑油と、沸点が330℃より高い親水性の乳化剤を用いれば、窒素雰囲気でオクチル酸金属化合物を熱分解し、14段落に記載した潤滑剤が製造できる。
すなわち、オクチル酸金属化合物を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きい。従って、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物においては、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造の特徴を持つオクチル酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、オクチル酸の沸点の228℃を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。さらに、オクチル酸が飽和脂肪酸であるため、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了する290℃で金属が析出する。
なお、飽和脂肪酸からなるカルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物は、熱分解で金属を析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、金属を析出する熱分解温度の順に、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物がある。従って、熱分解温度が最も低いオクチル酸金属化合物を用いると、14段落に記載した潤滑剤が安価に製造できる。なお、ラウリン酸金属化合物とステアリン酸金属化合物は、オクチル酸金属化合物と同様に、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない。
なお、ラウリン酸の沸点は296℃であり、熱分解温度が360℃である。また、ラウリン酸金属化合物とステアリン酸金属化合物は、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない。しかし、ラウリン酸金属化合物とステアリン酸金属化合物の熱分解温度が、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高いため、金属を析出する原料として、オクチル酸金属化合物を用いるのが望ましい。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べ、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅CuOと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅と酸化第二銅とを銅に還元する処理費用を要する。特に、酸化第一銅は、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅に酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させる必要があるため、処理費用がかさむ。
さらに、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、オクチル酸を強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が生成される。また、オクチル酸が汎用的な有機酸である。従って、オクチル酸金属化合物は、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、17段落で説明した無機金属化合物からなる錯体より熱分解温度が高くなるが、錯体より安価な金属化合物である。
以上に説明したように、オクチル酸金属化合物は、14段落に記載した潤滑剤を製造する方法において、強磁性の金属を析出する金属化合物であり、また、強磁性の金属微粒子の安価な原料になる。
2種類の微粒子の集まりからなる潤滑剤を模式的に説明する図である。
実施例1
本実施例は、製造する潤滑剤の40℃における粘度を、32mm/s(ISO VG32)に設定した。40℃の動粘度が32mm/sである潤滑油は、球面ころ軸受、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受、各種玉軸受などの様々な転がり軸受装置に用いられているため、多くの潤滑油が存在する。多くの潤滑油の中で、沸点が305−320℃であるポリαオレフィンのベースオイルからなる合成炭化水素の潤滑油(エクソンモービル株式会社の製品でモービルSHC624)を用いた。この潤滑油は、40℃における動粘度が32mm/sで、15℃の密度が0.85g/cmで、粘度指数が148である。また、沸点が260℃より高い親水性の乳化剤として、ラウリルアルコールエトキシレートからなるアルキルエーテル型非イオン乳化剤(株式会社ADEKAの製品LA−975)を用いた。この乳化剤のHLB値は13.4で親水性である。さらに、熱分解でニッケルを析出する無機金属化合物からなる錯体として、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH]Cl(三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。
最初に、潤滑油の100gと、メタノールの50gと、親水性の乳化剤の0.8gとを容器に充填して混合した。次に、超音波ホモジナイザー(日本エマソン株式会社の製品)によって、混合液に20kHzの超音波振動を30秒間加え、この後、65℃に昇温してメタノールを気化させ、潤滑油の球状の微粒子の集まりを作成した。さらに、ヘキサアンミンニッケル塩化物の8gをメタノールに分散し、この後、メタノールを気化させ、ヘキサアンミンニッケル塩化物の微細結晶の集まりを析出させた。次に、ヘキサアンミンニッケル塩化物の微細結晶の集まりを、潤滑油の球状の微粒子の集まりに混合した。さらに、超音波ホモジナイザーによって、混合物に20kHzの超音波振動を30秒間加え、金属化合物の個々の微細結晶が、潤滑油の球状の微粒子で取り囲まれた懸濁体を作成した。この懸濁体を容器に入れ、容器を水素雰囲気の熱処理装置に配置し、200℃まで昇温し、200℃で5分間放置し、容器を取り出し、潤滑剤1を製作した。
この後、潤滑剤1を合成樹脂の板に塗布し、潤滑剤1の皮膜を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を有する装置である。
最初に、極低加速電圧の100Vを印加して潤滑剤1の表面を観察した。この結果、大きさが0.2μm前後の有機化合物からなる球状微粒子の集まりと、さらに小さい無機物からなる粒状微粒子とが存在し、無機物からなる微粒子は、有機化合物からなる微粒子で囲まれ、有機化合物からなる微粒子に分散されていた。
次に、無機物からなる微粒子について、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行なった。この結果、微粒子は40−60nmの大きさの粒状の微粒子であった。さらに、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって微粒子の材質を観察した。濃淡が認められなかったため、単一の元素から構成されることが分かった。次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し元素を分析した。微粒子は、ニッケル原子であった。
以上の結果から、潤滑油に超音波ホモジナイザーによって衝撃を繰り返し加えると、潤滑油の粒子の微細化が短時間で進み、粒子の微粒子化は0.2μmで完了した。微粒子の大きさと形状は不可逆であるため、軸受装置において、潤滑油の微粒子にせん断応力ないしは圧縮応力が繰り返し加わるが、応力を受けて、0.2μmよりさらに微細な粒子にはならず、また、球状微粒子も変わらず、自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を発揮する。また、ニッケルの微粒子が潤滑油の微粒子で囲まれ、潤滑油の微粒子に分散していたため、潤滑剤1の全体にニッケル微粒子の磁化が及ぶとともに、ニッケル微粒子同士の磁気吸引力で、潤滑剤1は結合する。図1に、潤滑剤1の一部分を拡大して図示した。1はニッケルの微粒子で、2は潤滑油の微粒子である。
実施例2
本実施例は、製造する潤滑剤の40℃における粘度を、68mm/s(ISO VG68)に設定した。40℃の動粘度が68mm/sである潤滑油は、球面ころ軸受、トロイダルころ軸受、円すいころ軸受、スラスト球面ころ軸受などの転がり軸受の潤滑油として幅広く用いられているため、多くの潤滑油が存在する。多くの潤滑油の中で、ベースオイルの耐熱性が420℃と高いアルキル置換ジフェニルエーテルからなる合成潤滑油(株式会社MORESCOの製品でモレスコハイルーブLB-68)を潤滑油として用いた。この潤滑油は、40℃における動粘度が68.5mm/sで、15℃の密度が0.905g/cmで、粘度指数が118である。また、沸点が330℃より高い親水性の乳化剤として、デカグリセリンモノエステルからなるポリグリセリンステアリン酸エステルの乳化剤(阪本薬品工業株式会社の製品MSW−7S)を用いた。この乳化剤のHLB値は13.4で親水性である。さらに、熱分解で鉄を析出するオクチル酸金属化合物としてオクチル酸鉄Fe(Ⅽ15Fe(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)を用いた。
最初に、潤滑油の100gと、メタノールの50gと、親水性の乳化剤の0.8gとを容器に充填して混合した。次に、実施例1で用いた超音波ホモジナイザーによって、混合液に20kHzの超音波振動を30秒間加え、この後、65℃に昇温してメタノールを気化させ、潤滑油の球状の微粒子の集まりを作成した。さらに、オクチル酸鉄の8gをメタノールに分散し、この後、メタノールを気化させ、オクチル酸鉄の微細結晶の集まりを析出させた。次に、オクチル酸鉄の微細結晶の集まりを、潤滑油の球状の微粒子の集まりに混合した。さらに、超音波ホモジナイザーによって、混合物に20kHzの超音波振動を30秒間加え、金属化合物の個々の微細結晶が、潤滑油の球状の微粒子で取り囲まれた懸濁体を作成した。この懸濁体を容器に入れ、容器を窒素雰囲気の熱処理装置に配置し、330℃まで昇温し、330℃で1分間放置し、容器を取り出し、潤滑剤2を製作した。
この後、潤滑剤2を合成樹脂の板に塗布し、潤滑剤の皮膜を実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。この結果、40−60nmの大きさからなる鉄の粒状微粒子が、0.2μmの大きさからなる潤滑油の球状微粒子で囲まれ、潤滑油の球状微粒子に分散していた。
従って、実施例1の潤滑剤1と同様に、軸受装置においては、潤滑油の微粒子にせん断応力ないしは圧縮応力が繰り返し加わるが、応力を受けて、0.2μmよりさらに微細な粒子にはならず、また、球状微粒子も変わらず、自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を発揮する。また、鉄の微粒子が潤滑油の微粒子で囲まれ、潤滑油の微粒子に分散していたため、潤滑剤2の全体に鉄微粒子の磁化が及ぶとともに、鉄微粒子同士の磁気吸引力で、潤滑剤2は結合する。
実施例3
次に、三球式転動疲労試験機(株式会社富士試験機製作所の製品)を用い、転動体へ潤滑剤を付与することで、転動疲労に依る軌道面の傷の発生がどの程度遅れるかを調べた。本試験機は、軌道面に相当する円板に、転動体に相当する3個の鋼球を載せ、これらの鋼球を回転させて負荷を円板に加え、点接触に依る転動疲労を円板に連続して加える。円板にピッチングやフレーキングなどの傷が発生すると、負荷を加えるレバー上に設置した振動加速度センサが傷の発生に依る振動を検知して試験機を停止させる。円板と鋼球との材質は、軌道面と転動体とに汎用的に用いられている高炭素クロム軸受鋼を用いた。3個の鋼球の表面に潤滑剤を塗布したものとしないものとの比較で、潤滑剤の自己潤滑性によって円板に傷が発生する時期が遅れる効果を調べた。実施例1で作成した潤滑剤1と、実施例2で作成した潤滑剤2とを用い、鋼球に5回ずつ塗布して10回の試験を行った。
最初の試験条件は、負荷を100kgfとし、回転速度を1000rpmとした。試験温度が200℃の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか6時間で試験装置が停止した。これに対し、潤滑剤1を塗布した場合では、動作時間が50時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が55時間まで伸びた。試験温度が室温の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか10時間で試験装置が停止したのに対し、潤滑剤を塗布した場合は、100時間でも動作したため、試験を途中で中止した。試験温度が−30℃では、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか4時間であったのに対し、潤滑剤1を塗布した場合は、動作時間が40時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が36時間まで伸びた。
次に、試験条件を、負荷を550kgfとし、回転速度を2000rpmとした。試験温度が200℃の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか4時間で試験装置が停止した。これに対し、潤滑剤1を塗布した場合では、動作時間が45時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が50時間まで伸びた。試験温度が室温の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか6時間で試験装置が停止したのに対し、潤滑剤1を塗布した場合は、動作時間が65時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が70時間まで伸びた。試験温度が−30℃では、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか3時間であったのに対し、潤滑剤1を塗布した場合は、動作時間が35時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が30時間まで伸びた。
さらに試験条件を、負荷を1000kgfまで増大し、回転速度を3000rpmまで速めた。試験温度が200℃の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか2時間で試験装置が停止した。これに対し、潤滑剤1を塗布した場合では、動作時間が30時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が35時間まで伸びた。試験温度が室温の場合は、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか3.5時間で試験装置が停止したのに対し、潤滑剤1を塗布した場合は、動作時間が55時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が65時間まで伸びた。試験温度が−30℃では、潤滑剤を塗布しない場合は、わずか1.5時間であったのに対し、潤滑剤1を塗布した場合は、動作時間が25時間まで伸びた。また、潤滑剤2を塗布した場合では、動作時間が20時間まで伸びた。
以上の結果から、試験温度が室温に限らず200℃と−30℃でも、潤滑剤1及び2の自己潤滑性によって軌道面に加わる負荷が緩和され、転動疲労に依る傷の発生時期が著しく伸びた。また、負荷が大きいほど、回転速度が速いほど、さらに、高温であるほど、低温であるほど、潤滑剤の自己潤滑性による効果が高まり、潤滑剤を塗布しない際に傷が発生する時期に対する、潤滑剤を塗布した際に傷が発生時期の比率が増大することが分かった。従って、潤滑剤の自己潤滑性によって、軌道面に加わる負荷が緩和され、転動体と軌道面との摩擦力が縮減される効果は、負荷が大きいほど、回転速度が速いほど、高温であるほど、低温であるほど大きいことが実証された。このため、摺接面に潤滑剤を塗布すると、転がり軸受装置と滑り軸受装置とに関わらず、装置が稼働される温度が高いほど、また、温度が低いほど、さらに、摺接面に加わる負荷の大きいほど、さらに、摺接面の回転速度が速いほど、潤滑剤による自己潤滑性の効果が、摺接面において顕著に表れることが実証された。なお、潤滑剤1と潤滑剤2との違いは、粘度と粘度指数の違いに依る。つまり、負荷が大きい場合と、高速回転する場合は、潤滑油の粘度が大きい潤滑剤2の効果が大きい。いっぽう、高温では潤滑油の粘度が大きい潤滑剤2の効果が大きいが、低温では潤滑油の粘度が小さい潤滑剤1の効果が大きい。従って、軸受装置のd・n値と、軸受装置の動作温度の範囲によって、潤滑油の40℃における動粘度を設定することが望ましい。なお、粘度指数が大きいほど粘度の温度依存性が小さく、潤滑油の温度特性が優れているが、ベースオイルの材質によって粘度指数が決まるため、粘度指数の設定はできない。
実施例4
さらに、プラスチックの滑り摩耗試験(JIS K7218A法 1986)におけるリング対ディスクの摩耗試験に準拠する試験装置(高千穂精機株式会社の製品で3T―2000−5000N型)を用い、滑り軸受装置の軸受部材への潤滑剤の塗布に依る焼き付け性の向上と、静粛性の向上とを調べた。本装置に依る試験は、軸受部材としてのリングを回転させ、この回転するリングに軸部材としてのディスクを押し付け、押し付け荷重を増大させ、リングの摩耗の深さ、摩擦係数、摩擦熱の経過を同時に測定し、これらのデータから限界PV値を測定する。
リングをPOM樹脂で構成し、ディスクをS45Cで構成し、リングを周速度0.5m/sで回転させ、押し付け荷重を10分間ごとに20Nの割合で増加させた。この結果、押し付け荷重が160Nになった際に、摩擦係数、摩擦熱、摩擦深さのいずれもが急増したため、160NがPOM樹脂からなるリングの溶融荷重になり、限界PV値は400kPa・m/sになった。
次に、潤滑剤1と潤滑剤2との各々を、個別にPOM樹脂の表面に塗布し、前記と同一の条件で試験装置を稼働させ、リングの溶融荷重を求めた。その結果、潤滑剤1を塗布した場合は、溶融荷重が350Nまで増大し、限界PV値は875Pa・m/sまで伸び、併せて滑り面の静粛性も350Nまで拡大した。これに対し、潤滑剤2を塗布した場合は、溶融荷重が380Nまで増大し、限界PV値は950Pa・m/sまで伸び、併せて滑り面の静粛性も380Nまで拡大された。この結果から、自己潤滑性を有する潤滑剤は、摺動性に優れるPOM樹脂からなる摺動部品の焼き付け荷重を、さらに2倍以上増大させる効果をもたらすことが実証された。なお、実施例3で行った転動疲労に依る軌道面の傷の発生時期に比べて、潤滑剤1と潤滑剤2との動粘度の違いによる焼き付け性の向上と、静粛性の向上との差は小さい。この理由は、潤滑剤1と潤滑剤2との動粘度の差と動粘度の大きさに依ると考える。両者の動粘度の差が大きければ、動粘度の大きさが変わるため、プラスチックの滑り摩耗試験における焼き付け性の向上と、静粛性の向上との差が広がると思われる。
実施例5
次にシェル四球式耐荷重能試験に基づく四球形摩擦試験機(神鋼造機株式会社の製品)を用いて、潤滑剤1と潤滑剤2との溶着荷重を求めた。回転数を1200rpm、荷重を392N、試験時間を60分とし、室温と200℃とで各5回試験を行い、試験後の摩耗痕径を測定した。潤滑剤1における摩耗痕径は、室温で0.33mm、200℃で0.36mmであった。また、潤滑剤2における摩耗痕径は、室温で0.30mm、200℃で0.32mmであった。これらの値は、従来の含浸油に比べて20%近く摩耗痕が小さい値であり、押し付けられた鋼球の接触部分が弾性変形することで形成される円形接触面の直径に当たるヘルツ直径に近い値である。このため、潤滑剤の自己潤滑性に依る流体潤滑が滑り面で継続し、摩耗痕を著しく縮減させた。また、自己潤滑性を持つ微粒子の集まりからなる潤滑剤が、耐摩耗性に優れた流体潤滑を滑り面で継続し、これによって、含油軸受の原理と含浸油の性質に基づく課題を根本的に解決する。
さらに、振子形油性摩擦試験機(神鋼造機株式会社の製品)を用いて、前記した潤滑剤1と潤滑剤2との摩擦係数を求めた。試験用鋼球は3/16インチで、試験用ローラピンはφ2×30mmで、振動周期は4秒で、試験荷重は0.7GPaで、室温と200℃とで各5回試験を行った。潤滑油1の摩擦係数は、室温で0.12−0.13で、200℃で0.11−0.12であった。また、潤滑油2の摩擦係数は、室温で0.11−0.12で、200℃で0.10−0.11であった。これらの値は、従来の含浸油に比べて20%近く摩擦係数が小さい値である。このため、自己潤滑性を持つ微粒子の集まりからなる潤滑剤は、摺接面において微粒子が滑ることに依る自己潤滑性を発揮し、極めて小さい摩擦力からなる流体潤滑を続ける。
1 ニッケルの微粒子 2 潤滑油の微粒子

Claims (3)

  1. 転動体と内輪および外輪とが軟磁性体からなる転がり軸受装置において、軌道面ないしは転動体の少なくとも一方に付与する潤滑剤の製造方法は、ないしは、軸部材が軟磁性体からなる滑り軸受装置において、軸受部材ないしは軸部材の少なくとも一方の滑り面に付与する潤滑剤の製造方法は、ないしは、軸部材が軟磁性体からなる含油軸受装置において、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法は、
    最初に、製造する潤滑剤の40℃における動粘度を設定し、次に、軸受装置に用いられている前記動粘度を持つ潤滑油の中で、前記軸受装置の最高動作温度である260℃より高い沸点を持つ前記潤滑油を選択し、該潤滑油の一定量を容器に充填する、この後、前記潤滑油より少ない重量からなるメタノールと、前記潤滑油の1/100より少ない重量からなる沸点が260℃より高い親水性の乳化剤とを、前記容器内の前記潤滑油に混合して混合物を作成し、ホモジナイザー装置によって、前記混合物に衝撃を繰り返し加え、前記潤滑油を、サブミクロンの大きさからなる球状の微粒子の表面に、前記親水性の乳化剤の被膜が形成された球状の微粒子の集まりとするとともに、該球状の微粒子の集まりが前記メタノールに分散した第一の混合物を作成する、さらに、該第一の混合物から前記メタノールを気化させ、前記球状の微粒子の集まりからなる前記潤滑油を前記容器内に作成する、この後、強磁性の性質を持つ鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する第一の性質と、メタノールに溶解せず、メタノールに分散する第二の性質を兼備する金属化合物を、前記潤滑油の重量の1/10より少ない重量として秤量し、該秤量した金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成する、さらに、該メタノール分散液からメタノールを気化させ、前記金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを、前記容器内の前記潤滑油の球状の微粒子の集まりに混合し、前記金属化合物の微細結晶の集まりと前記潤滑油の球状の微粒子の集まりとからなる第二の混合物を作成する、さらに、前記ホモジナイザー装置によって、前記第二の混合物に衝撃を繰り返し加え、前記金属化合物の微細結晶を、個々の微細結晶に分離させるとともに、該分離した微細結晶を、前記潤滑油の球状の微粒子で取り囲み、該微細結晶が前記球状の微粒子の集まりに分散した第一の懸濁体を作成する、この後、該第一の懸濁体を昇温し、前記金属化合物の微細結晶を熱分解させ、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属からなる40−60nmの大きさの粒状の微粒子が、前記潤滑油の球状の微粒子に囲まれて析出するとともに、該金属微粒子が前記潤滑油の球状の微粒子の集まりに分散した第二の懸濁体を作成する、これによって、強磁性の金属微粒子が潤滑油の球状の微粒子に囲まれ、該潤滑油の球状の微粒子の集まりに分散した懸濁体からなる潤滑剤が製造される、潤滑剤の製造方法。
  2. 請求項1に記載した潤滑剤の製造方法において、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する前記金属化合物が、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属からなる金属イオンに配位結合する錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、該無機金属化合物からなる錯体を前記金属化合物として用い、請求項1に記載した潤滑剤の製造方法に従って潤滑剤を製造する、請求項1に記載した潤滑剤の製造方法。
  3. 請求項1に記載した潤滑剤の製造方法において、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属を熱分解で析出する前記金属化合物が、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、鉄、ニッケル、ないしは、コバルトのいずれかの金属イオンに共有結合したオクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を前記金属化合物として用い、請求項1に記載した潤滑剤の製造方法に従って潤滑剤を製造する、請求項1に記載した潤滑剤の製造方法。
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