JP2019112532A - 潤滑作用を有する粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】第一に、油潤滑が適用できない高荷重や過酷な環境でも使用できる。第二に、潤滑被膜の寿命が長い。第三に、相手の摺接面の摩耗も少なくなる。第四に、潤滑被膜が摺接面に結合する。第五に、摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。第六に、潤滑被膜の要求仕様に応じて、潤滑被膜の構成が変えられる。第七に、安価である。これら条件を満たす潤滑被膜の形成手法の提供。【解決手段】熱分解で金属を析出する金属化合物のアルコール分散液に、粘度を調節する有機化合物を混合し、さらに、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合する。この混合物を潤滑被膜の幅に加工し、さらに、混合物に3方向の振動を加えて潤滑剤を製造する。この後、部品の摺接面に潤滑剤を移す。さらに、部品を金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。【選択図】図1
Description
本発明は、摺接摩擦を行う摺接部の摺接面に、潤滑作用を有する粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜を形成する方法に関わる。なお、摺接と摺動の記載の双方が摺接摩擦を表すため、本発明では、摺動部を摺接部に含め、摺動面を摺接面に含めた。
機械の摺接部に相当する部位の摺接抵抗や摩擦抵抗を低減させるため、潤滑被膜を形成する潤滑剤が幅広く用いられている。潤滑被膜は、オイルやグリースを塗布することで被膜を形成する湿式潤滑皮膜と、固体潤滑皮膜を含有した樹脂塗料を焼付塗装によって被膜を形成する、あるいは、メッキ処理で固体の被膜を形成する乾性潤滑被膜とがある。いっぽう、潤滑被膜に対する以下の要求に応えるため、乾性潤滑被膜が主流になっている。また、これら要求事項は、乾性潤滑被膜をさらに改良する課題でもある。
第一に、機械や機器の高速化、高精密化、長寿命化、軽量化、小型化、メンテナンスフリーに対応できる。
第二に、油潤滑が適用し難い高温、極低温、超真空、超高圧下などの極限環境で使用できる。
一方、乾性潤滑被膜の形成には、次の3つの方法が一般的である。第一の方法は、有機ビーヒクルに分散させた固体潤滑剤を、固体表面にコーティングまたはスプレーした後に乾燥させる。第二の方法は、スパッタリング法によって、真空中で二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を陰極とし、不活性ガスイオンの衝撃によって陰極から叩き出された微粒子を、固体表面に堆積被覆する。第三の方法法は、イオンプレーティング法によって、真空中においてメッキ材(金、銀など)をイオン化し、電場によって加速して固体表面に金属皮膜を蒸着する。第二と第三の方法は、真空チャンバー内での処理であるため、潤滑被膜を形成する部品の大きさ、形状、個数に制約があり、また、処理費用が高価なため、スパッタリング法による、あるいは、イオンプレーティング法による固有の特段な効果が、潤滑被膜に現れない限り、第一の方法によって潤滑被膜の形成がなされている。
第一に、機械や機器の高速化、高精密化、長寿命化、軽量化、小型化、メンテナンスフリーに対応できる。
第二に、油潤滑が適用し難い高温、極低温、超真空、超高圧下などの極限環境で使用できる。
一方、乾性潤滑被膜の形成には、次の3つの方法が一般的である。第一の方法は、有機ビーヒクルに分散させた固体潤滑剤を、固体表面にコーティングまたはスプレーした後に乾燥させる。第二の方法は、スパッタリング法によって、真空中で二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を陰極とし、不活性ガスイオンの衝撃によって陰極から叩き出された微粒子を、固体表面に堆積被覆する。第三の方法法は、イオンプレーティング法によって、真空中においてメッキ材(金、銀など)をイオン化し、電場によって加速して固体表面に金属皮膜を蒸着する。第二と第三の方法は、真空チャンバー内での処理であるため、潤滑被膜を形成する部品の大きさ、形状、個数に制約があり、また、処理費用が高価なため、スパッタリング法による、あるいは、イオンプレーティング法による固有の特段な効果が、潤滑被膜に現れない限り、第一の方法によって潤滑被膜の形成がなされている。
潤滑被膜の形成について、新たな潤滑材料からなる被膜形成が検討されている。
例えば、特許文献1には、新たな潤滑材料として、トリアジン化合物又はその塩を用いた固体被膜を形成する潤滑剤が記載されている。しかし、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜の形成方法が、原料のメラミンシアヌレートを気化させる真空蒸着法に制限され、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜が、従来の潤滑作用に比べ、特段の潤滑作用を発揮しないため、この潤滑剤による潤滑被膜に汎用性がない。つまり、原料となるメラミンシアヌレートが有機溶剤に溶解しないため、また、350−400℃で昇華する性質を持つため、真空蒸着によって固体被膜を形成した事例である。
特許文献2には、有機モリブデン化合物を含有する合成樹脂を粉末状にし、この粉末を固体潤滑剤の潤滑性基油へ分散した新たな潤滑剤が記載されている。しかし、有機モリブデン化合物を分散させる合成樹脂の潤滑性が劣るため、合成樹脂の含有量に応じて、潤滑作用が低下する。一方、合成樹脂の含有量が少ないと、有機モリブデン化合物の分散性が悪化し、潤滑剤の潤滑作用にばらつきが生じる。また、鉱油または合成油からなる潤滑性基油を用いるため、極低温や真空状態では、潤滑剤として用いることができず、また、高温では、鉱油ないしは合成油の沸点に応じて、潤滑剤の寿命が決まる。このように、本潤滑剤も汎用的な潤滑剤とは言えない。
例えば、特許文献1には、新たな潤滑材料として、トリアジン化合物又はその塩を用いた固体被膜を形成する潤滑剤が記載されている。しかし、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜の形成方法が、原料のメラミンシアヌレートを気化させる真空蒸着法に制限され、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜が、従来の潤滑作用に比べ、特段の潤滑作用を発揮しないため、この潤滑剤による潤滑被膜に汎用性がない。つまり、原料となるメラミンシアヌレートが有機溶剤に溶解しないため、また、350−400℃で昇華する性質を持つため、真空蒸着によって固体被膜を形成した事例である。
特許文献2には、有機モリブデン化合物を含有する合成樹脂を粉末状にし、この粉末を固体潤滑剤の潤滑性基油へ分散した新たな潤滑剤が記載されている。しかし、有機モリブデン化合物を分散させる合成樹脂の潤滑性が劣るため、合成樹脂の含有量に応じて、潤滑作用が低下する。一方、合成樹脂の含有量が少ないと、有機モリブデン化合物の分散性が悪化し、潤滑剤の潤滑作用にばらつきが生じる。また、鉱油または合成油からなる潤滑性基油を用いるため、極低温や真空状態では、潤滑剤として用いることができず、また、高温では、鉱油ないしは合成油の沸点に応じて、潤滑剤の寿命が決まる。このように、本潤滑剤も汎用的な潤滑剤とは言えない。
工業製品の用途に応じて、様々な潤滑被膜が形成されているが、汎用性のある潤滑被膜は、現在のところ存在しない。いっぽう、潤滑被膜が次の7つの要件を兼備すれば、汎用性のある潤被膜になる。第一に、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境で使用できる。第二に、潤滑被膜の摩擦係数が小さく、摩耗速度が遅いため、潤滑被膜の寿命が長い。第三に、潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面の摩耗も少なくなる。第四に、潤滑被膜が摺接面に結合する。第五に、潤滑被膜を形成する摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。第六に、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の構成が変えられる。第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。
本発明が解決しようとする課題は、上記の7つの要件を兼備する潤滑被膜を、機械の摺接部の摺接面に形成する方法を実現することにある。
本発明が解決しようとする課題は、上記の7つの要件を兼備する潤滑被膜を、機械の摺接部の摺接面に形成する方法を実現することにある。
機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、熱分解で金属を析出する金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、前記アルコールより高い粘度を有する第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質とを兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合して混合液を作成し、潤滑作用を有する第一の性質と、密度が前記有機化合物の密度の2倍より大きい第二の性質と、無機物から構成される第三の性質とを兼備する粉体の集まりを、前記混合液に混合して懸濁液を作成する、この後、前記懸濁液を回転及び揺動させる、さらに、前記懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工し、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加えて潤滑剤を製造する、この後、部品の摺接面に前記潤滑剤を移す、さらに、前記部品を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、前記摺接面に、前記粉体同士が重なり合った粉体の集まりが潤滑被膜を形成する、機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜を形成する方法によれば、極めて簡単な次の8つの処理を順番に実施すると、機械の摺接部を形成する部品の摺接面に、潤滑作用を有する粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。第一に、金属化合物をアルコールに分散し、アルコール分散液を作成する。第二に、アルコール分散液に3つの性質を兼備する有機化合物を混合し、混合液を作成する。第三に、混合液に3つの性質を兼備する粉体の集まり混合し、懸濁液を作成する。第四に、懸濁液を回転および揺動させる。第五に、懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工する。第六に、加工した懸濁液に、左右、前後、上下からなる3方向の振動を繰り返し加え、潤滑剤を製造する。第七に、摺接面に潤滑剤を移す。第八に、摺接部を形成する部品を金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これら8つの簡単な処理を順番に実施すると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、従来の固体のみからなる潤滑被膜は、2段落で説明したように、スパッタリング法やイオンプレーティング法など真空下で被膜を形成する方法であり、高価な加工費用を要した。本発明の潤滑被膜を形成する方法によれば、極めて簡単な8つの処理を順番に行うことで、金属微粒子の金属結合で粉体同士が結合され、無機物の粉体の集まりからなる潤滑被膜が安価に形成できる。
上記した潤滑被膜の形成方法において、アルコール分散液の作成と混合液の作成と懸濁液の作成とを、一つの容器を用いて連続して行うと、一回のバッチ処理で大量の懸濁液が容器内に製造される。また、混合機による一回のバッチ処理で、大量の攪拌された懸濁液が容器内に製造される。しかし、前記の懸濁液を摺接面に塗布するだけでは、粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜は形成できない、第一の課題がある。また、摺接面の形状と幅に応じて潤滑被膜の形状と幅が変わる、第二の課題が存在する。
2つの課題を同時に解決するため、一度、懸濁液を潤滑被膜の幅に加工する処理を加える。さらに、潤滑被膜の幅に加工した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加え、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体を配列させ、この懸濁液を潤滑剤とする。この潤滑剤を摺接面に移し、摺接面に潤滑剤を形成する。これによって、2つの課題が同時に解決され、摺接面に潤滑剤が形成できる。
この後、摺接面に潤滑剤を形成した大量の部品を、金属化合物が熱分解される温度で熱処理し、全ての部品の摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、潤滑被膜の厚みは、多くの場合は数ミクロンから20ミクロン程度である。
ここで、懸濁液に対する前記した処理で、潤滑剤が製造される過程を説明する。最初に、混合機によって懸濁液を回転および揺動させ、粉体の集まりを混合液中でランダムに混合させる。これによって、全ての粉体の表面に、アルコール分散液と有機化合物との混合液が吸着する。この後、懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える。この際、懸濁液中では粉体同士が直接接触しないため、粉体は懸濁液中で容易に移動する。このため、粉体同士の間隙に粒径が小さい粉体が入り込む粉体の配列と、全ての粉体同士が重なり合う粉体の配列とが継続する。また、粉体が面を有する場合は、全ての粉体が面同士で重なり合う。粉体の集まりへの加振がなくなると、粉体が有機化合物の密度の2倍より大きいため、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。なお、潤滑被膜の厚みの多くが、数ミクロンから20ミクロン程度であり、懸濁液の粘度、すなわち、アルコール分散液と有機化合物との混合液の粘度は、アルコールの粘度の10倍より低い。
次に、潤滑剤に対する前記した処理で、潤滑被膜が形成される過程を説明する。摺接面に移した潤滑剤は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。また、懸濁液が低粘度であるため、摺接面の凹凸にアルコール分散液と有機化合物とからなる混合液が入り込む。この後、部品の集まりを、金属化合物が熱分解する温度に昇温する。この際、摺接面において、昇温温度に応じて次の現象が生じる。最初に、アルコールの沸点に達すると、潤滑剤からアルコールが気化し、全ての粉体の表面に金属化合物の微細結晶が析出し、粉体は微細結晶の集まりで覆われる。この微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに近い。従って、微細結晶は、摺接面の凹凸にも析出する。さらに有機化合物が気化した後に、金属化合物を構成する無機物ないしは有機物の沸点に達すると、金属化合物が無機物ないしは有機物と金属とに分解する。無機物ないしは有機物の密度が金属の密度より小さいため、無機物ないしは有機物が上層に、金属が下層に析出し、上層の無機物ないしは有機物が気化した後に、金属が10−100nmの間に大きさが入る粒状微粒子として析出し、金属化合物は熱分解を終える。析出した金属は不純物を持たず、互いに接触する部位で金属結合する。この際、粉体の表面に析出した金属微粒子が金属結合し、粉体同士が結合された粉体の集まりになる。また、摺接面の凹凸の深さと幅より、金属微粒子の大きさが1桁小さいため、凹凸にも金属微粒子の集まりが析出し、金属微粒子が金属結合する。このため、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりは、この金属微粒子の集まりと接する粉体の集まりの下面の金属微粒子の集まりと金属結合する。この結果、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、粉体の集まりは、一定の結合強度で摺接面と結合する。また、粉体の集まりは、金属微粒子の金属結合に基づく結合強度を持つ。このため、摺接摩擦によって潤滑被膜にせん断応力が加わるが、粉体の集まりからなる潤滑被膜は、摺接面から剥がれない。いっぽう、金属化合物の熱分解反応は、金属化合物の微細結晶が金属微粒子に置き換わる反応であるため、粉体の表面に吸着した金属化合物の微細結晶が、金属微粒子に置き換わり、金属微粒子の析出で重なり合った粉体の配列は崩れない。この結果、重なり合った粉体の各々が、金属微粒子の金属結合で結合された粉体の集まりとなって、潤滑被膜を形成する。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は摺接面に一定の強度で結合し、また、この潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた粉体の集まりで構成される。
本発明の潤滑被膜は、次の7つの作用効果を発揮する。
第一の作用効果は、摺接摩擦を開始する時点から潤滑被膜の摩擦係数が小さく、こうした摺接摩擦が継続し、潤滑被膜の摩耗速度は遅く、潤滑被膜の寿命が長い。つまり、本発明の潤滑被膜に摺接摩擦が起こると、最初に、金属微粒子の集まりと相手の摺接部材とが摺接摩擦する。金属微粒子が粒状微粒子であるため、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面と接触する部位が極めて僅かな面積で、数多くの金属微粒子に摩擦力が分散されるため、金属微粒子に加わる摩擦力は小さく、摩擦係数は小さい。分散されたせん断応力が、金属微粒子の金属結合力より大きくなると、金属結合部が破壊されて金属微粒子が剥ぎ取られ、新たな金属微粒子に分散されたせん断応力が加わる。剥ぎ取られた金属微粒子は、相手の摺接部材の摺接面に転移する。これによって、摺接摩擦が徐々に金属微粒子同士の摺接摩擦に変わり、さらに数多くの金属微粒子に摩擦力が分散され、金属微粒子に加わる摩擦力はさらに小さくなる。分散されたせん断応力が、金属微粒子の金属結合力より大きくなると、潤滑被膜の表面の金属微粒子と、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との双方が徐々に剥ぎ取られ、いずれ潤滑被膜の表面に粉体が現れ、粉体と相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との摺接摩擦になる。潤滑作用を持つ粉体と金属微粒子との摺接摩擦が起きると、摩擦力が数多くの金属微粒子に分散され、さらに、粉体が潤滑作用を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに、摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が剥ぎ取られると、潤滑作用を持つ粉体と相手の摺接部材との摺接摩擦になる。この際も、粉体が潤滑作用を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。いずれ粉体が剥ぎ取られ、潤滑被膜に新たな金属微粒子の集まりが現れる。こうした摩擦現象が摺接面で繰り返される。従って、本発明の潤滑被膜は、金属微粒子が摺接摩擦に参加することで、摺接摩擦の接触面積が僅かな面積になり、また、摩擦力が分散されて小さくなり、潤滑被膜の摩耗速度は遅く、潤滑被膜の寿命が長い。また、転移した金属微粒子は相手の摺接部材の摺接面に凝着しない。従って、潤滑被膜の一部が相手の摺接部材に凝着し、凝着物が潤滑被膜を攻撃する摩耗は起きない。一方、粉体が面を有する場合は、粉体同士が面で重なり合って潤滑被膜を形成するため、相手の摺接部材が粉体の面で滑り、粉体が受けるせん断応力が緩和され、粉体はさらに剥ぎ取られにくくなる。なお、摩擦係数が0.3より小さい粉体を、一般的に潤滑作用を持つ粉体といい、この粉体による摺接摩擦時の摩擦係数は小さい。また、潤滑被膜を形成する重なり合った粉体の積層数は、多くの場合、10−30個程度の粉体が積層する。
第二の作用効果は、本発明の潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面も摩耗しにくい。つまり、第一の作用効果で説明したように、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面に転移し、金属微粒子同士で摺接摩擦を行い、また、転移した金属微粒子と粉体との間で摺接摩擦を行う。このように、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が、摺接摩擦に参加するため、金属微粒子が転移しない場合に比べ、相手の摺接部材の摺接面が摩耗しにくくなる。このため、本発明の潤滑被膜とともに、相手の摺接部材の摩耗速度が遅く、相手の摺接部材の摺接面の寿命が長いという作用効果が同時に得られる。
第三の作用効果は、潤滑被膜が固体のみで構成されるにも関わらず、潤滑被膜が摺接面に一定の強度で結合する。つまり、油潤滑は、潤滑被膜の摺接面への吸着性と保持性に優れるという、固体の潤滑被膜では得られない特長を持つ。しかし、本発明の潤滑被膜は、摺接面の凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、摺接面に結合する。このため、従来の油潤滑より大きな吸着力と保持力で、摺接面に潤滑被膜が結合する。
第四の作用効果は、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも、本潤滑被膜によって摺接摩擦が行える。つまり、潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子と、無機物からなる粉体とで構成される。従って、耐熱性、耐寒性、耐荷重性に優れた無機物で粉体を構成すれば、油潤滑では使用できない過酷な環境でも、潤滑被膜が使用できる。また、潤滑被膜が固体で形成されるため、真空状態や高圧下でも使用できる。さらに、金属に近い耐熱性、耐寒性をもち、金属より優れた耐荷重性をもつ無機物で粉体を構成すれば、−40℃より低い温度でも、機械的性質は室温と殆ど変わらない。このように、本発明の潤滑被膜は、従来の油潤滑では使用できない過酷な環境下でも、潤滑被膜による摺接摩擦が行える。
第五の作用効果は、摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤が粉体の集まりが懸濁液中に沈んだ物質であるため、摺接面の大きさや形状に係わらず、潤滑剤を摺接面に移すことができる。また、金属化合物の熱分解温度が、合成樹脂の融点より低い金属化合物を用いれば、耐熱性が低い合成樹脂からなる部品の摺接面にも、潤滑被膜が形成できる。このため、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、摺接部を構成する部品の大きさ、形状、材質の制約を受けず、潤滑被膜が形成できる。
第六の作用効果は、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の構成が自在に変えられる。すなわち、潤滑性を持つ無機物の粉体が様々な物質で構成されるため、潤滑被膜に要求される耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて粉体の材質が選択できる。さらに、金属微粒子を構成する金属についても、硬度、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて金属の材質が選択できる。このため、本発明によれば、汎用性のある潤滑被膜が摺接面に形成できる。
第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤を構成する金属化合物と粉体は、汎用的な工業用の材料で、さらに、潤滑被膜を形成する粉体の量が僅かであるため、高価な粉体を用いたとしても、潤滑被膜の原料は安価である。また、本発明の潤滑被膜を形成する方法は、極めて簡単な8つの処理を順番に実施する方法であり、潤滑被膜の加工費は安価で済む。さらに、金属化合物の熱分解温度は180−430℃であり、熱処理費用も安価で済む。このため、本発明における潤滑被膜の形成方法は、安価な潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜は、上記した7つの作用効果を発揮するため、5段落に記載した7つの要件を兼備する潤滑被膜が実現でき、本発明における課題が解決された。
上記した潤滑被膜の形成方法において、アルコール分散液の作成と混合液の作成と懸濁液の作成とを、一つの容器を用いて連続して行うと、一回のバッチ処理で大量の懸濁液が容器内に製造される。また、混合機による一回のバッチ処理で、大量の攪拌された懸濁液が容器内に製造される。しかし、前記の懸濁液を摺接面に塗布するだけでは、粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜は形成できない、第一の課題がある。また、摺接面の形状と幅に応じて潤滑被膜の形状と幅が変わる、第二の課題が存在する。
2つの課題を同時に解決するため、一度、懸濁液を潤滑被膜の幅に加工する処理を加える。さらに、潤滑被膜の幅に加工した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加え、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体を配列させ、この懸濁液を潤滑剤とする。この潤滑剤を摺接面に移し、摺接面に潤滑剤を形成する。これによって、2つの課題が同時に解決され、摺接面に潤滑剤が形成できる。
この後、摺接面に潤滑剤を形成した大量の部品を、金属化合物が熱分解される温度で熱処理し、全ての部品の摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、潤滑被膜の厚みは、多くの場合は数ミクロンから20ミクロン程度である。
ここで、懸濁液に対する前記した処理で、潤滑剤が製造される過程を説明する。最初に、混合機によって懸濁液を回転および揺動させ、粉体の集まりを混合液中でランダムに混合させる。これによって、全ての粉体の表面に、アルコール分散液と有機化合物との混合液が吸着する。この後、懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える。この際、懸濁液中では粉体同士が直接接触しないため、粉体は懸濁液中で容易に移動する。このため、粉体同士の間隙に粒径が小さい粉体が入り込む粉体の配列と、全ての粉体同士が重なり合う粉体の配列とが継続する。また、粉体が面を有する場合は、全ての粉体が面同士で重なり合う。粉体の集まりへの加振がなくなると、粉体が有機化合物の密度の2倍より大きいため、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。なお、潤滑被膜の厚みの多くが、数ミクロンから20ミクロン程度であり、懸濁液の粘度、すなわち、アルコール分散液と有機化合物との混合液の粘度は、アルコールの粘度の10倍より低い。
次に、潤滑剤に対する前記した処理で、潤滑被膜が形成される過程を説明する。摺接面に移した潤滑剤は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。また、懸濁液が低粘度であるため、摺接面の凹凸にアルコール分散液と有機化合物とからなる混合液が入り込む。この後、部品の集まりを、金属化合物が熱分解する温度に昇温する。この際、摺接面において、昇温温度に応じて次の現象が生じる。最初に、アルコールの沸点に達すると、潤滑剤からアルコールが気化し、全ての粉体の表面に金属化合物の微細結晶が析出し、粉体は微細結晶の集まりで覆われる。この微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに近い。従って、微細結晶は、摺接面の凹凸にも析出する。さらに有機化合物が気化した後に、金属化合物を構成する無機物ないしは有機物の沸点に達すると、金属化合物が無機物ないしは有機物と金属とに分解する。無機物ないしは有機物の密度が金属の密度より小さいため、無機物ないしは有機物が上層に、金属が下層に析出し、上層の無機物ないしは有機物が気化した後に、金属が10−100nmの間に大きさが入る粒状微粒子として析出し、金属化合物は熱分解を終える。析出した金属は不純物を持たず、互いに接触する部位で金属結合する。この際、粉体の表面に析出した金属微粒子が金属結合し、粉体同士が結合された粉体の集まりになる。また、摺接面の凹凸の深さと幅より、金属微粒子の大きさが1桁小さいため、凹凸にも金属微粒子の集まりが析出し、金属微粒子が金属結合する。このため、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりは、この金属微粒子の集まりと接する粉体の集まりの下面の金属微粒子の集まりと金属結合する。この結果、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、粉体の集まりは、一定の結合強度で摺接面と結合する。また、粉体の集まりは、金属微粒子の金属結合に基づく結合強度を持つ。このため、摺接摩擦によって潤滑被膜にせん断応力が加わるが、粉体の集まりからなる潤滑被膜は、摺接面から剥がれない。いっぽう、金属化合物の熱分解反応は、金属化合物の微細結晶が金属微粒子に置き換わる反応であるため、粉体の表面に吸着した金属化合物の微細結晶が、金属微粒子に置き換わり、金属微粒子の析出で重なり合った粉体の配列は崩れない。この結果、重なり合った粉体の各々が、金属微粒子の金属結合で結合された粉体の集まりとなって、潤滑被膜を形成する。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は摺接面に一定の強度で結合し、また、この潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた粉体の集まりで構成される。
本発明の潤滑被膜は、次の7つの作用効果を発揮する。
第一の作用効果は、摺接摩擦を開始する時点から潤滑被膜の摩擦係数が小さく、こうした摺接摩擦が継続し、潤滑被膜の摩耗速度は遅く、潤滑被膜の寿命が長い。つまり、本発明の潤滑被膜に摺接摩擦が起こると、最初に、金属微粒子の集まりと相手の摺接部材とが摺接摩擦する。金属微粒子が粒状微粒子であるため、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面と接触する部位が極めて僅かな面積で、数多くの金属微粒子に摩擦力が分散されるため、金属微粒子に加わる摩擦力は小さく、摩擦係数は小さい。分散されたせん断応力が、金属微粒子の金属結合力より大きくなると、金属結合部が破壊されて金属微粒子が剥ぎ取られ、新たな金属微粒子に分散されたせん断応力が加わる。剥ぎ取られた金属微粒子は、相手の摺接部材の摺接面に転移する。これによって、摺接摩擦が徐々に金属微粒子同士の摺接摩擦に変わり、さらに数多くの金属微粒子に摩擦力が分散され、金属微粒子に加わる摩擦力はさらに小さくなる。分散されたせん断応力が、金属微粒子の金属結合力より大きくなると、潤滑被膜の表面の金属微粒子と、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との双方が徐々に剥ぎ取られ、いずれ潤滑被膜の表面に粉体が現れ、粉体と相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との摺接摩擦になる。潤滑作用を持つ粉体と金属微粒子との摺接摩擦が起きると、摩擦力が数多くの金属微粒子に分散され、さらに、粉体が潤滑作用を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに、摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が剥ぎ取られると、潤滑作用を持つ粉体と相手の摺接部材との摺接摩擦になる。この際も、粉体が潤滑作用を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。いずれ粉体が剥ぎ取られ、潤滑被膜に新たな金属微粒子の集まりが現れる。こうした摩擦現象が摺接面で繰り返される。従って、本発明の潤滑被膜は、金属微粒子が摺接摩擦に参加することで、摺接摩擦の接触面積が僅かな面積になり、また、摩擦力が分散されて小さくなり、潤滑被膜の摩耗速度は遅く、潤滑被膜の寿命が長い。また、転移した金属微粒子は相手の摺接部材の摺接面に凝着しない。従って、潤滑被膜の一部が相手の摺接部材に凝着し、凝着物が潤滑被膜を攻撃する摩耗は起きない。一方、粉体が面を有する場合は、粉体同士が面で重なり合って潤滑被膜を形成するため、相手の摺接部材が粉体の面で滑り、粉体が受けるせん断応力が緩和され、粉体はさらに剥ぎ取られにくくなる。なお、摩擦係数が0.3より小さい粉体を、一般的に潤滑作用を持つ粉体といい、この粉体による摺接摩擦時の摩擦係数は小さい。また、潤滑被膜を形成する重なり合った粉体の積層数は、多くの場合、10−30個程度の粉体が積層する。
第二の作用効果は、本発明の潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面も摩耗しにくい。つまり、第一の作用効果で説明したように、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面に転移し、金属微粒子同士で摺接摩擦を行い、また、転移した金属微粒子と粉体との間で摺接摩擦を行う。このように、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が、摺接摩擦に参加するため、金属微粒子が転移しない場合に比べ、相手の摺接部材の摺接面が摩耗しにくくなる。このため、本発明の潤滑被膜とともに、相手の摺接部材の摩耗速度が遅く、相手の摺接部材の摺接面の寿命が長いという作用効果が同時に得られる。
第三の作用効果は、潤滑被膜が固体のみで構成されるにも関わらず、潤滑被膜が摺接面に一定の強度で結合する。つまり、油潤滑は、潤滑被膜の摺接面への吸着性と保持性に優れるという、固体の潤滑被膜では得られない特長を持つ。しかし、本発明の潤滑被膜は、摺接面の凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、摺接面に結合する。このため、従来の油潤滑より大きな吸着力と保持力で、摺接面に潤滑被膜が結合する。
第四の作用効果は、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも、本潤滑被膜によって摺接摩擦が行える。つまり、潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子と、無機物からなる粉体とで構成される。従って、耐熱性、耐寒性、耐荷重性に優れた無機物で粉体を構成すれば、油潤滑では使用できない過酷な環境でも、潤滑被膜が使用できる。また、潤滑被膜が固体で形成されるため、真空状態や高圧下でも使用できる。さらに、金属に近い耐熱性、耐寒性をもち、金属より優れた耐荷重性をもつ無機物で粉体を構成すれば、−40℃より低い温度でも、機械的性質は室温と殆ど変わらない。このように、本発明の潤滑被膜は、従来の油潤滑では使用できない過酷な環境下でも、潤滑被膜による摺接摩擦が行える。
第五の作用効果は、摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤が粉体の集まりが懸濁液中に沈んだ物質であるため、摺接面の大きさや形状に係わらず、潤滑剤を摺接面に移すことができる。また、金属化合物の熱分解温度が、合成樹脂の融点より低い金属化合物を用いれば、耐熱性が低い合成樹脂からなる部品の摺接面にも、潤滑被膜が形成できる。このため、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、摺接部を構成する部品の大きさ、形状、材質の制約を受けず、潤滑被膜が形成できる。
第六の作用効果は、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の構成が自在に変えられる。すなわち、潤滑性を持つ無機物の粉体が様々な物質で構成されるため、潤滑被膜に要求される耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて粉体の材質が選択できる。さらに、金属微粒子を構成する金属についても、硬度、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて金属の材質が選択できる。このため、本発明によれば、汎用性のある潤滑被膜が摺接面に形成できる。
第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤を構成する金属化合物と粉体は、汎用的な工業用の材料で、さらに、潤滑被膜を形成する粉体の量が僅かであるため、高価な粉体を用いたとしても、潤滑被膜の原料は安価である。また、本発明の潤滑被膜を形成する方法は、極めて簡単な8つの処理を順番に実施する方法であり、潤滑被膜の加工費は安価で済む。さらに、金属化合物の熱分解温度は180−430℃であり、熱処理費用も安価で済む。このため、本発明における潤滑被膜の形成方法は、安価な潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜は、上記した7つの作用効果を発揮するため、5段落に記載した7つの要件を兼備する潤滑被膜が実現でき、本発明における課題が解決された。
前記した懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工する処理から、潤滑剤を摺接面に移すまでの処理によって、摺接面の全面に潤滑剤を形成する方法は、潤滑被膜の幅に相当する幅と、潤滑被膜の厚みの10倍以上の深さとを持つ溝を有し、直線状に移動する回転ベルトを用意し、懸濁液が充填された容器を前記ベルトの上部に配置させ、前記ベルトに左右、前後、上下の3方向からなる振動を繰り返し加える加振装置を前記ベルトの下部に設置し、前記ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に、部品の摺接面が、前記ベルトと接するように該部品を配置させる、この後、前記ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、前記ベルト上に懸濁液の一定量ずつを連続して滴下する、前記ベルト上の懸濁液が前記加振装置に近づくと、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動が繰り返して加わり、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが前記懸濁液中に沈んだ潤滑剤となる、さらに、前記ベルトが移動し、前記ベルト上の潤滑剤が、前記部品の摺接面と接すると、該摺接面が円周面である場合は、前記部品が回転し、該摺接面が平面である場合は、前記部品が直線状に移動し、とともに、前記ベルトが下降し、これによって、前記ベルト上の潤滑剤が前記摺接面に移り、該摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、前記部品の回転ないしは移動を一旦停止させ、前記ベルトの回転も一旦停止させ、とともに、前記ベルト上への前記懸濁液の滴下を一旦停止させる、これによって、前記摺接面の全面に前記潤滑剤が形成される、この後、次の部品の摺接面が前記ベルトと接するように、該ベルトが下降して回転する位置に該部品を配置させ、前記ベルトを再度稼働させ、とともに、前記懸濁液の前記ベルト上への滴下を再開させ、前記次の部品の摺接面の全面に前記した潤滑剤を形成する、こうした処理を繰り返し、前記部品の1個ずつの摺接面に潤滑剤を形成する方法である。
つまり、本潤滑剤を形成する方法を繰り返すと、部品の1個ずつの摺接面の全面に、潤滑剤が連続して形成される。予め、潤滑被膜の幅に相当する幅と、潤滑被膜の厚みの10倍以上の深さとを持つ溝を有し、かつ、直線状に移動する回転ベルトを準備する。また、ベルトに左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える加振装置を、ベルトの下部に設置させる。さらに、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に、部品の摺接面がベルトと接するように、部品を配置させる。また、ベルトの上部に懸濁液が充填された容器を配置する。
こうした準備の後に、ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、懸濁液が充填された容器から一定量の懸濁液を連続してベルトの上に滴下する。ベルトが直線状に移動し、ベルト上の懸濁液が加振装置の設置場所に近づくと、懸濁液が左右、前後、上下の3方向に継続して加振され、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体が配列する。懸濁液が加振装置から離れると、懸濁液は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。さらにベルトが直線状に移動し、ベルト上の潤滑剤が部品の摺接面に接すると、摺接面が円周面である場合は、摺接面が低速度で回転し始め、摺接面が平面である場合は、摺接面が低速度で直線状に移動し始め、とともに、ベルトが下降して直線上の移動から回転に変わる。これによって、ベルト上の潤滑剤が摺接面に移り、摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、摺接面の回転または移動を停止させ、また、ベルトの回転を一旦停止させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を一旦停止させる。この結果、摺接面の全面に潤滑剤が移る。この後、次の部品の摺接面がベルトと接するように、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に配置させ、ベルトを再稼働させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を再開させる。こうした処理を繰り返すことで、潤滑剤が摺接面の全面に形成された部品の1個ずつが連続して製造される。なお、摺接面に潤滑剤を移す際に、冶具によって潤滑剤を圧縮しながら、摺接面の全面に潤滑剤を形成してもよい。
こうした準備の後に、ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、懸濁液が充填された容器から一定量の懸濁液を連続してベルトの上に滴下する。ベルトが直線状に移動し、ベルト上の懸濁液が加振装置の設置場所に近づくと、懸濁液が左右、前後、上下の3方向に継続して加振され、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体が配列する。懸濁液が加振装置から離れると、懸濁液は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。さらにベルトが直線状に移動し、ベルト上の潤滑剤が部品の摺接面に接すると、摺接面が円周面である場合は、摺接面が低速度で回転し始め、摺接面が平面である場合は、摺接面が低速度で直線状に移動し始め、とともに、ベルトが下降して直線上の移動から回転に変わる。これによって、ベルト上の潤滑剤が摺接面に移り、摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、摺接面の回転または移動を停止させ、また、ベルトの回転を一旦停止させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を一旦停止させる。この結果、摺接面の全面に潤滑剤が移る。この後、次の部品の摺接面がベルトと接するように、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に配置させ、ベルトを再稼働させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を再開させる。こうした処理を繰り返すことで、潤滑剤が摺接面の全面に形成された部品の1個ずつが連続して製造される。なお、摺接面に潤滑剤を移す際に、冶具によって潤滑剤を圧縮しながら、摺接面の全面に潤滑剤を形成してもよい。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体、ないしは層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
第一の粉体である軟質金属からなるフレーク粉は、金、銀、銅、錫ないしは亜鉛などから軟質金属の粉体を、スタンプミルを用いて搗き砕くことで原料粉が扁平加工され、薄片状のフレーク粉となる。このフレーク粉の摩擦係数は、0.20−0.25と小さい。さらに、粉体の長軸に対する厚みの比率であるアスペクト比が高く、かつ平面に近い滑らかな面を持つ。このため、少ない量のフレーク粉の集まりで、潤滑被膜が形成できる。さらに、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士が重なり合って潤滑被膜を形成する。このため、軟質金属からなる滑らかな面で摺接部材が滑るため、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜を形成するフレーク粉は剥がれにくい。さらに、軟質金属は、金属間の相互溶解度が低い金属との組み合わせが可能になる。例えば、銅フレーク粉の表面をメッキで銀をコーティングした銀コート銅フレーク粉は、ないしは、銀フレーク粉は、鉄、ニッケル、コバルトないしはクロムと、銀との相互溶解度がゼロに近いため、これらの金属からなる摺接部材と、銀コート銅フレーク粉、ないしは、銀フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性が優れ、潤滑被膜の摩耗量はさらに少なくなる。また、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウムないしはケイ素と、錫との相互溶解度がゼロに近く、これらの金属からなる摺接部材と、錫フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性に優れ、潤滑被膜の摩耗量がさらに少ない。また、クロム、モリブデン、タングステンないしはニオブと、銅との相互溶解度が小さく、これらの金属からなる摺接部材と、銅フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性が優れ、潤滑被膜の摩耗量が少ない。
さらに、錫を除く金属フレーク粉の耐熱温度は軟化点で決まり、最も低い電解銅であっても、軟化点が800℃と高い。また、錫を除く軟質金属は低温脆性を持たないので、極低温での使用が可能になる。従って、軟質金属からなるフレーク粉の集まりで形成された潤滑被膜は、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、耐荷重性は600MPaと高い。このように、軟質金属からなるフレーク粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。
なお、錫は融点が232℃で、−40℃付近からで低温脆性を起こすため、錫のフレーク粉からなる潤滑被膜のみは、使用温度が制限される。
第二の粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物からなる粉体であり、第三の粉体は黒鉛粉である。これらの粉体はいずれも層状の結晶構造を持ち、結合力が弱い層間結合が優先して破壊される。このため、摺接摩擦によって、層間結晶が優先して破壊される自己潤滑作用を発揮し、摺接摩擦における摩擦係数は、前記した金属フレーク粉よりさらに小さい。本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体同士が結合した粉体の集まりで潤滑被膜が形成されるため、潤滑被膜の摩擦係数は小さい。さらに、窒化ホウ素と、黒鉛粉における鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛は、高いアスペクト比からなる面を有する粉体であり、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士で結合した粉体の集まりで形成された潤滑被膜は、摺接部材が滑らかな面で滑り、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜の摩耗速度がさらに遅くなる。なお、鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とは、天然を精製して製造する安価な粉体である。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成される安価な粉体である。また、窒化ホウ素は、六方晶系と立方晶系との2つの結晶構造をとるが、六方晶系からなる窒化ホウ素が層状の結晶構造を持つ。
いっぽう、耐熱温度は、窒化ホウ素は酸素ガスを含む雰囲気で900℃の耐熱性を持つ。これに対し、二硫化モリブデンは350℃付近から、二硫化タングステンは425℃付近から、黒鉛は450℃付近から酸化が始まる。フッ化黒鉛の熱分解の開始温度は、原料炭素によって変わり、320−490℃である。このように、耐熱温度は粉体によって変わるが、多くの粉体は油潤滑より耐熱性が高い。なお、二硫化モリブデンが三酸化モリブデンに酸化されても、層状の結晶構造は維持され、酸化鉛に近い潤滑性能を持つが、酸化の際に硫黄ガスが発生するため、近辺にある金属を硫化させる恐れがある。また、耐荷重性が油潤滑より著しく高く、例えば、二硫化モリブデンと二硫化タングステンは780MPaで、黒鉛粉で490MPaである。
このように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体と、黒鉛粉とは、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。なお、黒鉛粉は、層間に吸着するガスで潤滑されるため、真空中では吸着するガスがなくなり、摩擦係数が急増する。
上記した粉体の密度は、黒鉛粉が2.26g/cm3と最も小さく、フッ化黒鉛は原料炭素によって2.34−2.68g/cm3の値を持ち、窒化ホウ素は3.487g/cm3の値を持つ。一方、金属化合物のアルコール分散液に混合する有機化合物の密度は1.0g/cm3より小さいため、上記した粉体の密度はいずれも、有機化合物の密度の2倍より大きい。さらに、上記した無機物からなる粉体は、高密度の放射線下でも潤滑被膜として作用する。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは、層状の結晶構造を持つ無機化合物の粉体と黒鉛粉とは、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な粉体である。従って、潤滑被膜に求められる仕様に応じて粉体の材料を選択することで、本発明における潤滑被膜は汎用性を持つ。
さらに、錫を除く金属フレーク粉の耐熱温度は軟化点で決まり、最も低い電解銅であっても、軟化点が800℃と高い。また、錫を除く軟質金属は低温脆性を持たないので、極低温での使用が可能になる。従って、軟質金属からなるフレーク粉の集まりで形成された潤滑被膜は、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、耐荷重性は600MPaと高い。このように、軟質金属からなるフレーク粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。
なお、錫は融点が232℃で、−40℃付近からで低温脆性を起こすため、錫のフレーク粉からなる潤滑被膜のみは、使用温度が制限される。
第二の粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物からなる粉体であり、第三の粉体は黒鉛粉である。これらの粉体はいずれも層状の結晶構造を持ち、結合力が弱い層間結合が優先して破壊される。このため、摺接摩擦によって、層間結晶が優先して破壊される自己潤滑作用を発揮し、摺接摩擦における摩擦係数は、前記した金属フレーク粉よりさらに小さい。本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体同士が結合した粉体の集まりで潤滑被膜が形成されるため、潤滑被膜の摩擦係数は小さい。さらに、窒化ホウ素と、黒鉛粉における鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛は、高いアスペクト比からなる面を有する粉体であり、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士で結合した粉体の集まりで形成された潤滑被膜は、摺接部材が滑らかな面で滑り、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜の摩耗速度がさらに遅くなる。なお、鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とは、天然を精製して製造する安価な粉体である。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成される安価な粉体である。また、窒化ホウ素は、六方晶系と立方晶系との2つの結晶構造をとるが、六方晶系からなる窒化ホウ素が層状の結晶構造を持つ。
いっぽう、耐熱温度は、窒化ホウ素は酸素ガスを含む雰囲気で900℃の耐熱性を持つ。これに対し、二硫化モリブデンは350℃付近から、二硫化タングステンは425℃付近から、黒鉛は450℃付近から酸化が始まる。フッ化黒鉛の熱分解の開始温度は、原料炭素によって変わり、320−490℃である。このように、耐熱温度は粉体によって変わるが、多くの粉体は油潤滑より耐熱性が高い。なお、二硫化モリブデンが三酸化モリブデンに酸化されても、層状の結晶構造は維持され、酸化鉛に近い潤滑性能を持つが、酸化の際に硫黄ガスが発生するため、近辺にある金属を硫化させる恐れがある。また、耐荷重性が油潤滑より著しく高く、例えば、二硫化モリブデンと二硫化タングステンは780MPaで、黒鉛粉で490MPaである。
このように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体と、黒鉛粉とは、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。なお、黒鉛粉は、層間に吸着するガスで潤滑されるため、真空中では吸着するガスがなくなり、摩擦係数が急増する。
上記した粉体の密度は、黒鉛粉が2.26g/cm3と最も小さく、フッ化黒鉛は原料炭素によって2.34−2.68g/cm3の値を持ち、窒化ホウ素は3.487g/cm3の値を持つ。一方、金属化合物のアルコール分散液に混合する有機化合物の密度は1.0g/cm3より小さいため、上記した粉体の密度はいずれも、有機化合物の密度の2倍より大きい。さらに、上記した無機物からなる粉体は、高密度の放射線下でも潤滑被膜として作用する。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは、層状の結晶構造を持つ無機化合物の粉体と黒鉛粉とは、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な粉体である。従って、潤滑被膜に求められる仕様に応じて粉体の材料を選択することで、本発明における潤滑被膜は汎用性を持つ。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記金属化合物が、無機物の分子ないしはイオンが配位子になって金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機塩で構成された金属錯体であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる金属錯体を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。つまり、金属錯体を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、金属錯体を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解温度の中で最も低い。このため、潤滑被膜を形成する部品が、耐熱性が低い合成樹脂でも、多くの合成樹脂の融点が金属錯体の熱分解温度より高いため、合成樹脂からなる部品の表面にも潤滑被膜が形成できる。また、11段落で説明した潤滑作用を持つ粉体の中で、最も耐熱性が低い粉体は、融点が232℃の錫のフレーク粉であり、錫の融点は金属錯体の熱分解温度より高く、使用できる粉体の材質に制約がない。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、金属錯体は、粉体同士を結合させる金属微粒子の原料として好適である。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNH3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H2Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH−が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl−が、ないしは、塩素イオンCl−とアンモニアNH3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンがある。また、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる金属錯体は、無機塩の分子量が小さいため、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。
また、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、アルコールに溶解または混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点が無機金属化合物からなる金属錯体の熱分解温度より低い性質との3つの性質を兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、分子量が小さいカルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物であり、いずれも汎用的な工業用薬品である。従って、金属錯体のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液における粘度をアルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、上記の有機化合物は、金属錯体のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
前記した金属錯体のアルコール分散液に、有機化合物を混合すると、金属錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向の振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を移し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなす金属錯体の熱分解が始まり、180−220℃で金属錯体の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子が、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体が重なり合って結合した粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、金属錯体と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる金属錯体と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気の180−220℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜の形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNH3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H2Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH−が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl−が、ないしは、塩素イオンCl−とアンモニアNH3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンがある。また、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる金属錯体は、無機塩の分子量が小さいため、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。
また、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物の中に、アルコールに溶解または混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点が無機金属化合物からなる金属錯体の熱分解温度より低い性質との3つの性質を兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、分子量が小さいカルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物であり、いずれも汎用的な工業用薬品である。従って、金属錯体のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液における粘度をアルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、上記の有機化合物は、金属錯体のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
前記した金属錯体のアルコール分散液に、有機化合物を混合すると、金属錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向の振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を移し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなす金属錯体の熱分解が始まり、180−220℃で金属錯体の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子が、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体が重なり合って結合した粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、金属錯体と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる金属錯体と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気の180−220℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜の形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであるため、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造の特徴を持つカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。このカルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃で、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらカルボン酸金属化合物は、大気雰囲気の290−430℃で熱分解が完了する。このため、粉体の耐熱性と、摺接部の部品の耐熱性とが290℃以上であれば、摺接面に潤滑被膜が形成できる。なお、融点が290℃以上の合成樹脂であれば、合成樹脂の部品の摺接面に潤滑被膜が形成できる。また、11段落で説明したように、錫のフレーク粉を除く粉体は、290℃の耐熱性を持つため、多くの無機材料からなる粉体を、潤滑被膜の原料として用いることができる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、カルボン酸金属化合物は、粉体同士を結合させる金属微粒子の好適な原料になる。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅Cu2Oは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。このため、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、13段落で説明した無機金属化合物からなる金属錯体より熱処理温度が高いが、金属錯体より安価な金属化合物である。
カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い性質を兼備する有機化合物が存在する。こうした有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液の粘度を、アルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、有機化合物は、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに左右、前後、上下の3方向からなる振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりの表面に、混合液が付着した潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を移し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなすカルボン酸金属化合物の熱分解が始まり、290−430℃の温度でカルボン酸金属化合物の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子の集まりが、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、カルボン酸金属化合物と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における潤滑被膜の好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を大気囲気の290−430℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅Cu2Oは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。このため、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、13段落で説明した無機金属化合物からなる金属錯体より熱処理温度が高いが、金属錯体より安価な金属化合物である。
カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い性質を兼備する有機化合物が存在する。こうした有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液の粘度を、アルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、有機化合物は、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに左右、前後、上下の3方向からなる振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりの表面に、混合液が付着した潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を移し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなすカルボン酸金属化合物の熱分解が始まり、290−430℃の温度でカルボン酸金属化合物の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子の集まりが、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、カルボン酸金属化合物と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における潤滑被膜の好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を大気囲気の290−430℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
実施形態1
本実施形態は、潤滑被膜を構成する無機物の粉体に関わる。第一の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉である。軟質金属のフレーク粉は、スタンプミル(搗砕機に相当)により、多数の金属製の杵で軟質金属粉の集まりを叩き、薄いフレーク状に金属粉を延ばすことで製造される。原料となる金属粉は、多くの場合は、金属の純度が高く、鉛フリーの電解金属粉を用いる。この後、サイクロンなどの気流分級機で粒度分布を調整する。
こうしたフレーク粉に、厚みが0.26μmで、粒径分布のD50が2.38μmで、D90が5.41μmで、長軸径が3.85μmで、短軸径が2.72μmで、厚みに対する長軸の比率であるアスペクト比が14.76で、比表面積が4m2/gに及ぶ銀フレーク粉がある。こうしたアスペクト比が高いフレーク粉を粉体として用いると、フレーク粉の面同士が重なり合った粉体の集まりが潤滑被膜を形成するため、金や銀のような高価な粉体でも、少ない量のフレーク粉で潤滑被膜が形成できる。また、フレーク粉の表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、フレーク粉がはがれにくくなる。さらに、摺接部材を構成する金属に対し、相互溶解度が低い軟質金属からなるフレーク粉を用いると、フレーク粉の表面での摺接部材の滑り特性がさらに向上するため、フレーク粉はさらにはがれにくくなる。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉を潤滑被膜の原料として用いる場合は、アスペクト比が高いフレーク粉の形状効果と、平坦な滑らかな表面による形状効果と、摺接部材との相互溶解度が低い材質効果とが得られるため、フレーク粉の摩耗速度が著しく低減する。
第二の粉体は、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体である。最も汎用的な潤滑材料である二硫化モリブデンの粉体は、輝水鉛鉱(モリブデナイト)と呼ばれる鉱石を粉砕して製造される。こうした二硫化モリブデンの平均粒径は、0.45−3.50μmに及ぶ。なお、大粒径の粉体は潤滑被膜に用いる粉体の量が少なくて済むが、近年大粒径の天然鉱床が少なくなり、供給に応えにくくなる課題がある。
これに対し、二硫化タングステンは、タングステンと硫黄とを直接反応させて合成するため、前記した二硫化モリブデンのような供給上の課題は存在しない。しかし、高温下での合成反応であるため、二硫化モリブデンより高価な粉体である。
一方、二硫化タングステンより低温で合成され、より安価な無機化合物に窒化ホウ素がある。また、平均粒径が5−15μmで、比表面積が3−10m2/gで、アスペクト比が5−12からなる粉体が製造できる。さらに、液体中で高いせん断力を加える新たな製法で層間結合を剥離させ、アスペクト比がさらに高い粉体が製造されるようになった。従って、粉体の面同士が重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜が形成でき、少ない量の粉体で潤滑被膜が形成できる。また、層状の結晶構造による自己潤滑性の効果に加え、表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がさらに剥がれにくくなる。また、大気雰囲気で900℃の耐熱性を持ち、体積固有抵抗が1014Ωmより高い絶縁性を持ち、かつ、熱伝導性は黒鉛に近く、絶縁性で熱伝導性の性質を持つ。
また、フッ化黒鉛は、カーボンブラックを180℃でフッ素ガスと反応させる、あるいは、天然黒鉛を470℃でフッ素ガスと反応させることで、炭素原子とフッ素原子とが共有結合した純度の高いフッ化黒鉛が得られる。一方、フッ素ガスは、KF・2HF溶融塩の電気分解で陽極生成ガスとして得られるが、電解フッ素ガス中に10−15%のフッ化水素、酸素、フッ化酸素、フルオルカーボンなどの不純物などが存在し、これらの不純物を除去する処理が必要になる。さらに、フッ素ガスが極めて酸化作用の強い猛毒ガスであり、取り扱いに高い安全性が必要になる。また、フッ化黒鉛を合成する際に、高温のフッ素ガスに耐えられる材質が、モネル合金、ニッケル、純度の高いアルミナに限定される。従って、フッ化黒鉛の粉体は、前記した窒化ホウ素より汎用性は低い。
以上に説明したように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体は、現時点では、アスペクト比が高く、かつ、平坦な滑らかな表面による形状効果を持つ窒化ホウ素からなる粉体が相対的に好適である。
第三の粉体は、層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である。こうした黒鉛粉の中で、結晶度が高い黒鉛粉に、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛及び膨張黒鉛からなる黒鉛粉がある。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成され、鱗片状黒鉛と同様に鱗片粉であり、平均粒径が42μmに及ぶ鱗片粉が得られ、SiCを生成する際の副産物として製造されるため、鱗片状黒鉛に近い安価な粉体である。
これに対し、膨張黒鉛は、化学反応を用いて鱗片状黒鉛の層間に物質を挿入し、この黒鉛層間化合物を急熱すると、層間に挿入した物質が燃焼でガス化し、その時に生じたガスの放出が爆発的に層間を押し広げ、層間が180−230倍に膨張させた黒鉛粉である。鱗片状黒鉛の層間を膨張させることで、層間結合がより破壊されやすくなるが、鱗片粉の面同士が重なり合った鱗片粉の集まりを形成することが困難になるため、潤滑被膜としては鱗片粉より劣る。
さらに、天然黒鉛粒子を精製した鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とがある。露天掘りで採掘された原石の品位が低いため、湿式ボールミルで粉砕し、不純物と黒鉛とを分離し、浮遊選鉱で黒鉛だけを浮かせて採取を繰り返し行い、この後分級して製造する。いずれも安価な黒鉛粉であるが、鱗片状黒鉛は鱗状黒鉛粉よりアスペクト比が高く、潤滑被膜を形成する原料としてより優れている。
以上、潤滑被膜を構成する無機物の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、窒化ホウ素の扁平粉、熱分解黒鉛、鱗片状黒鉛粉の鱗片粉が、現時点ではより好適である。これらの粉体は、いずれも優れた潤滑性を持つが、潤滑性以外の性質が各々異なるため、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、最も適切な粉体が選択でき、これによって、潤滑被膜は汎用性を持つ。
本実施形態は、潤滑被膜を構成する無機物の粉体に関わる。第一の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉である。軟質金属のフレーク粉は、スタンプミル(搗砕機に相当)により、多数の金属製の杵で軟質金属粉の集まりを叩き、薄いフレーク状に金属粉を延ばすことで製造される。原料となる金属粉は、多くの場合は、金属の純度が高く、鉛フリーの電解金属粉を用いる。この後、サイクロンなどの気流分級機で粒度分布を調整する。
こうしたフレーク粉に、厚みが0.26μmで、粒径分布のD50が2.38μmで、D90が5.41μmで、長軸径が3.85μmで、短軸径が2.72μmで、厚みに対する長軸の比率であるアスペクト比が14.76で、比表面積が4m2/gに及ぶ銀フレーク粉がある。こうしたアスペクト比が高いフレーク粉を粉体として用いると、フレーク粉の面同士が重なり合った粉体の集まりが潤滑被膜を形成するため、金や銀のような高価な粉体でも、少ない量のフレーク粉で潤滑被膜が形成できる。また、フレーク粉の表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、フレーク粉がはがれにくくなる。さらに、摺接部材を構成する金属に対し、相互溶解度が低い軟質金属からなるフレーク粉を用いると、フレーク粉の表面での摺接部材の滑り特性がさらに向上するため、フレーク粉はさらにはがれにくくなる。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉を潤滑被膜の原料として用いる場合は、アスペクト比が高いフレーク粉の形状効果と、平坦な滑らかな表面による形状効果と、摺接部材との相互溶解度が低い材質効果とが得られるため、フレーク粉の摩耗速度が著しく低減する。
第二の粉体は、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体である。最も汎用的な潤滑材料である二硫化モリブデンの粉体は、輝水鉛鉱(モリブデナイト)と呼ばれる鉱石を粉砕して製造される。こうした二硫化モリブデンの平均粒径は、0.45−3.50μmに及ぶ。なお、大粒径の粉体は潤滑被膜に用いる粉体の量が少なくて済むが、近年大粒径の天然鉱床が少なくなり、供給に応えにくくなる課題がある。
これに対し、二硫化タングステンは、タングステンと硫黄とを直接反応させて合成するため、前記した二硫化モリブデンのような供給上の課題は存在しない。しかし、高温下での合成反応であるため、二硫化モリブデンより高価な粉体である。
一方、二硫化タングステンより低温で合成され、より安価な無機化合物に窒化ホウ素がある。また、平均粒径が5−15μmで、比表面積が3−10m2/gで、アスペクト比が5−12からなる粉体が製造できる。さらに、液体中で高いせん断力を加える新たな製法で層間結合を剥離させ、アスペクト比がさらに高い粉体が製造されるようになった。従って、粉体の面同士が重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜が形成でき、少ない量の粉体で潤滑被膜が形成できる。また、層状の結晶構造による自己潤滑性の効果に加え、表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がさらに剥がれにくくなる。また、大気雰囲気で900℃の耐熱性を持ち、体積固有抵抗が1014Ωmより高い絶縁性を持ち、かつ、熱伝導性は黒鉛に近く、絶縁性で熱伝導性の性質を持つ。
また、フッ化黒鉛は、カーボンブラックを180℃でフッ素ガスと反応させる、あるいは、天然黒鉛を470℃でフッ素ガスと反応させることで、炭素原子とフッ素原子とが共有結合した純度の高いフッ化黒鉛が得られる。一方、フッ素ガスは、KF・2HF溶融塩の電気分解で陽極生成ガスとして得られるが、電解フッ素ガス中に10−15%のフッ化水素、酸素、フッ化酸素、フルオルカーボンなどの不純物などが存在し、これらの不純物を除去する処理が必要になる。さらに、フッ素ガスが極めて酸化作用の強い猛毒ガスであり、取り扱いに高い安全性が必要になる。また、フッ化黒鉛を合成する際に、高温のフッ素ガスに耐えられる材質が、モネル合金、ニッケル、純度の高いアルミナに限定される。従って、フッ化黒鉛の粉体は、前記した窒化ホウ素より汎用性は低い。
以上に説明したように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体は、現時点では、アスペクト比が高く、かつ、平坦な滑らかな表面による形状効果を持つ窒化ホウ素からなる粉体が相対的に好適である。
第三の粉体は、層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である。こうした黒鉛粉の中で、結晶度が高い黒鉛粉に、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛及び膨張黒鉛からなる黒鉛粉がある。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成され、鱗片状黒鉛と同様に鱗片粉であり、平均粒径が42μmに及ぶ鱗片粉が得られ、SiCを生成する際の副産物として製造されるため、鱗片状黒鉛に近い安価な粉体である。
これに対し、膨張黒鉛は、化学反応を用いて鱗片状黒鉛の層間に物質を挿入し、この黒鉛層間化合物を急熱すると、層間に挿入した物質が燃焼でガス化し、その時に生じたガスの放出が爆発的に層間を押し広げ、層間が180−230倍に膨張させた黒鉛粉である。鱗片状黒鉛の層間を膨張させることで、層間結合がより破壊されやすくなるが、鱗片粉の面同士が重なり合った鱗片粉の集まりを形成することが困難になるため、潤滑被膜としては鱗片粉より劣る。
さらに、天然黒鉛粒子を精製した鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とがある。露天掘りで採掘された原石の品位が低いため、湿式ボールミルで粉砕し、不純物と黒鉛とを分離し、浮遊選鉱で黒鉛だけを浮かせて採取を繰り返し行い、この後分級して製造する。いずれも安価な黒鉛粉であるが、鱗片状黒鉛は鱗状黒鉛粉よりアスペクト比が高く、潤滑被膜を形成する原料としてより優れている。
以上、潤滑被膜を構成する無機物の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、窒化ホウ素の扁平粉、熱分解黒鉛、鱗片状黒鉛粉の鱗片粉が、現時点ではより好適である。これらの粉体は、いずれも優れた潤滑性を持つが、潤滑性以外の性質が各々異なるため、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、最も適切な粉体が選択でき、これによって、潤滑被膜は汎用性を持つ。
第2実施形態
本実施形態は、13段落に記載した無機金属化合物からなる金属錯体に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銀とし、銀化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する銀化合物を説明する。硝酸銀はアルコールに溶解し、銀イオンが溶出し、多くの銀イオンが銀微粒子の析出に参加できない。従って、銀化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銀、塩化金、硫酸銀、水酸化銀、炭酸銀などの無機銀化合物はアルコール類に分散しない。このため、このような無機金化合物は、銀化合物として適切でない。
いっぽう、銀化合物は銀を析出する性質を持つ。銀化合物から銀が生成される化学反応の中で、熱分解反応が最も簡単な反応である。さらに、銀化合物の熱分解温度が低ければ、耐熱性が低い合成樹脂からなる摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、熱分解温度が低い銀化合物は、銀微粒子の好適な原料になる。このような銀化合物として、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって、銀イオンに配位結合する銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる銀錯体がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、銀錯体が熱分解する温度は低い。さらに、こうした銀錯体は分子量が小さいため、他の銀錯イオンからなる銀錯体より合成が容易で、また、安価である。
銀錯体を構成するイオンの中で、銀イオンが最も大きい。すなわち、銀原子の単結合の共有結合半径は128pmで、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmで、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銀イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理では、最初に配位結合部が分断され、銀と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銀が析出する。
このような無機金化合物からなる銀錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+を有する錯体と、シアン化物イオンCN−が配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)2]−を有する錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少なく、他の銀錯イオンを有する銀錯体に比べて、合成が容易で、安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さく、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銀錯体として、例えば、塩化ジアンミン銀[Ag(NH3)2]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]2SO4、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]NO3などがある。
熱分解で銅を析出する無機銅化合物からなる銅錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH3)4]2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH3)6]2+を有する銅錯体や、塩素イオンCl−が配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl4]2―を有する銅錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了する。さらに、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銅錯体として、例えば、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH3)4](NO3)2やヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH3)6]SO4がある。
熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物のニッケル錯体として、アンモニアが配位子となってニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH3)6]2+からなるニッケル錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で熱分解が完了する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯錯体として、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH3)6]Cl2がある。このように、無機金属化合物からなる金属錯体は、様々な金属錯イオンで構成され、合成が容易で安価な錯体である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる金属錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で安価な金属錯体である。また、多くの合成樹脂の融点は、金属錯体の熱分解温度より高いため、耐熱性が低い合成樹脂にも潤滑被膜が形成できる。
本実施形態は、13段落に記載した無機金属化合物からなる金属錯体に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銀とし、銀化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する銀化合物を説明する。硝酸銀はアルコールに溶解し、銀イオンが溶出し、多くの銀イオンが銀微粒子の析出に参加できない。従って、銀化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銀、塩化金、硫酸銀、水酸化銀、炭酸銀などの無機銀化合物はアルコール類に分散しない。このため、このような無機金化合物は、銀化合物として適切でない。
いっぽう、銀化合物は銀を析出する性質を持つ。銀化合物から銀が生成される化学反応の中で、熱分解反応が最も簡単な反応である。さらに、銀化合物の熱分解温度が低ければ、耐熱性が低い合成樹脂からなる摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、熱分解温度が低い銀化合物は、銀微粒子の好適な原料になる。このような銀化合物として、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって、銀イオンに配位結合する銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる銀錯体がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、銀錯体が熱分解する温度は低い。さらに、こうした銀錯体は分子量が小さいため、他の銀錯イオンからなる銀錯体より合成が容易で、また、安価である。
銀錯体を構成するイオンの中で、銀イオンが最も大きい。すなわち、銀原子の単結合の共有結合半径は128pmで、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmで、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銀イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理では、最初に配位結合部が分断され、銀と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銀が析出する。
このような無機金化合物からなる銀錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+を有する錯体と、シアン化物イオンCN−が配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)2]−を有する錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少なく、他の銀錯イオンを有する銀錯体に比べて、合成が容易で、安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さく、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銀錯体として、例えば、塩化ジアンミン銀[Ag(NH3)2]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]2SO4、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]NO3などがある。
熱分解で銅を析出する無機銅化合物からなる銅錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH3)4]2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH3)6]2+を有する銅錯体や、塩素イオンCl−が配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl4]2―を有する銅錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了する。さらに、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銅錯体として、例えば、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH3)4](NO3)2やヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH3)6]SO4がある。
熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物のニッケル錯体として、アンモニアが配位子となってニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH3)6]2+からなるニッケル錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で熱分解が完了する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯錯体として、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH3)6]Cl2がある。このように、無機金属化合物からなる金属錯体は、様々な金属錯イオンで構成され、合成が容易で安価な錯体である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる金属錯体は、配位子が低分子量で、配位子数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で安価な金属錯体である。また、多くの合成樹脂の融点は、金属錯体の熱分解温度より高いため、耐熱性が低い合成樹脂にも潤滑被膜が形成できる。
実施形態3
本実施形態は、15段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物は、最も汎用的な溶剤であるアルコール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物として適切でない。
いっぽう、無機物の分子ないしはイオンが、銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯体として、13段落で説明したアンミン銅錯体やクロロ銅錯体がある。これらの錯体は、汎用的な有機酸からなる有機銅化合物に比べると高価であるが、熱分解温度が200℃程度と低い特徴を持つ。
ここで、有機銅化合物について説明する。有機銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、有機銅化合物の合成が容易でれば、有機銅化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機銅化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが銅イオンに共有結合するカルボン酸銅化合物がある。さらに、熱分解温度が合成樹脂の融点より低ければ、合成樹脂からなる部品の摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、カルボン酸金属化合物の熱分解温度が低いことが望ましい。
つまり、カルボン酸銅化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンに共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸銅化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸と銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後に銅が析出する。なお、還元雰囲気でのカルボン酸銅化合物の熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進むため、大気雰囲気での熱分解のほうが熱処理費用は安価で済む。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になり、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物が熱分解すると、酸化銅が析出する。
いっぽう、カルボン酸銅化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となって銅イオンに近づいて配位結合するカルボン酸銅は、銅イオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造の特徴を持つカルボン酸銅化合物の熱分解反応は、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化銅が析出する。
さらに、カルボン酸銅化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅化合物が生成される。このため、有機銅化合物の中で最も安価な有機銅化合物である。
カルボン酸銅化合物の組成式はCu(COOR)2で表わせられる。Rは炭化水素で、組成式はCmHnである(mとnは整数)。カルボン酸銅化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置する銅イオンCu2+が最も大きい。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンと酸素イオとの距離が最大になる。この理由は、銅原子の2重結合における共有結合半径は115pmで、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmで、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このため、このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅化合物として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。このようなカルボン酸銅化合物は、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸銅化合物は低い温度で熱分解が始まり、熱分解温度が合成樹脂の融点より低くなる。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、飽和脂肪酸の気化熱が大きいため、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低く、気化熱も小さい。従って、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物は、さらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。この分岐構造の飽和脂肪酸に、オクチル酸があり、構造式がCH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このように、銅を析出する原料として、オクチル酸銅Cu(C7H15COO)2が望ましい。オクチル酸銅は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して銅が析出し、メタノールやn−ブタノールに10重量%近く分散する。
また、アルミニウムを析出する原料にオクチル酸アルミニウムAl(C7H15COO)3が、鉄を析出する原料にオクチル酸鉄Fe(C7H15COO)3が、ニッケルを析出する原料にオクチル酸ニッケルNi(C7H15COO)2が存在する。このようにオクチル酸金属化合物は、様々な金属イオンで構成されるとともに、合成が容易なカルボン酸金属化合物でもある。
本実施形態は、15段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物は、最も汎用的な溶剤であるアルコール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物として適切でない。
いっぽう、無機物の分子ないしはイオンが、銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯体として、13段落で説明したアンミン銅錯体やクロロ銅錯体がある。これらの錯体は、汎用的な有機酸からなる有機銅化合物に比べると高価であるが、熱分解温度が200℃程度と低い特徴を持つ。
ここで、有機銅化合物について説明する。有機銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、有機銅化合物の合成が容易でれば、有機銅化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機銅化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが銅イオンに共有結合するカルボン酸銅化合物がある。さらに、熱分解温度が合成樹脂の融点より低ければ、合成樹脂からなる部品の摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、カルボン酸金属化合物の熱分解温度が低いことが望ましい。
つまり、カルボン酸銅化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンに共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸銅化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸と銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後に銅が析出する。なお、還元雰囲気でのカルボン酸銅化合物の熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進むため、大気雰囲気での熱分解のほうが熱処理費用は安価で済む。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になり、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物が熱分解すると、酸化銅が析出する。
いっぽう、カルボン酸銅化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となって銅イオンに近づいて配位結合するカルボン酸銅は、銅イオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造の特徴を持つカルボン酸銅化合物の熱分解反応は、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化銅が析出する。
さらに、カルボン酸銅化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅化合物が生成される。このため、有機銅化合物の中で最も安価な有機銅化合物である。
カルボン酸銅化合物の組成式はCu(COOR)2で表わせられる。Rは炭化水素で、組成式はCmHnである(mとnは整数)。カルボン酸銅化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置する銅イオンCu2+が最も大きい。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンと酸素イオとの距離が最大になる。この理由は、銅原子の2重結合における共有結合半径は115pmで、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmで、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このため、このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅化合物として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。このようなカルボン酸銅化合物は、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸銅化合物は低い温度で熱分解が始まり、熱分解温度が合成樹脂の融点より低くなる。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、飽和脂肪酸の気化熱が大きいため、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低く、気化熱も小さい。従って、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物は、さらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。この分岐構造の飽和脂肪酸に、オクチル酸があり、構造式がCH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このように、銅を析出する原料として、オクチル酸銅Cu(C7H15COO)2が望ましい。オクチル酸銅は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して銅が析出し、メタノールやn−ブタノールに10重量%近く分散する。
また、アルミニウムを析出する原料にオクチル酸アルミニウムAl(C7H15COO)3が、鉄を析出する原料にオクチル酸鉄Fe(C7H15COO)3が、ニッケルを析出する原料にオクチル酸ニッケルNi(C7H15COO)2が存在する。このようにオクチル酸金属化合物は、様々な金属イオンで構成されるとともに、合成が容易なカルボン酸金属化合物でもある。
実施形態4
本実施形態は、第一にアルコールに溶解ないしは混和し、第二にアルコールより粘度が高く、第三に沸点が金属化合物の熱分解温度より低い、これら3つの性質を兼備する有機化合物に関する。これら3つの性質を兼備する有機化合物は、熱分解で金属を析出する金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を構成する。こうした有機化合物に、カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類に属する有機化合物がある。ここでは、アルコールを最も汎用的な工業用アルコールのメタノールとする。なお、メタノールの粘度は0.59mPasである。
つまり、無機金属化合物からなる金属錯体は180−220℃で熱分解し、オクチル酸金属化合物は290℃で熱分解する。従って、沸点が180℃より低い有機化合物は、金属錯体およびカルボン酸金属化合物が分散された混合液を構成する。また、沸点が290℃より低い有機化合物は、オクチル酸金属化合物が分散された混合液を構成する。
本実施形態は、第一にアルコールに溶解ないしは混和し、第二にアルコールより粘度が高く、第三に沸点が金属化合物の熱分解温度より低い、これら3つの性質を兼備する有機化合物に関する。これら3つの性質を兼備する有機化合物は、熱分解で金属を析出する金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を構成する。こうした有機化合物に、カルボン酸エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類に属する有機化合物がある。ここでは、アルコールを最も汎用的な工業用アルコールのメタノールとする。なお、メタノールの粘度は0.59mPasである。
つまり、無機金属化合物からなる金属錯体は180−220℃で熱分解し、オクチル酸金属化合物は290℃で熱分解する。従って、沸点が180℃より低い有機化合物は、金属錯体およびカルボン酸金属化合物が分散された混合液を構成する。また、沸点が290℃より低い有機化合物は、オクチル酸金属化合物が分散された混合液を構成する。
最初に、カルボン酸エステル類について説明する。カルボン酸エステル類は、飽和カルボン酸からなるエステル類と、不飽和カルボン酸からなるエステル類と、芳香族カルボン酸からなるエステル類に分けられる。
飽和カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が158.2であるカプリル酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。なお、カプリル酸メチルの沸点は191℃で、メタノールの粘度の1.8倍である。沸点が290℃より低い飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が256.4であるミリスチン酸エチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。なお、ミリスチン酸エチルの沸点は295℃で、メタノールの粘度の11倍である。
飽和カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が158.2であるカプリル酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。なお、カプリル酸メチルの沸点は191℃で、メタノールの粘度の1.8倍である。沸点が290℃より低い飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が256.4であるミリスチン酸エチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。なお、ミリスチン酸エチルの沸点は295℃で、メタノールの粘度の11倍である。
不飽和カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに混和し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が180℃より低いカルボン酸エステル類は、分子量が198であるメタクリル酸オクチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。ちなみに、メタクリル酸オクチルの沸点は229℃で、メタノールの粘度の2.8倍である。また、沸点が290℃より低い不飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が296.6で、粘度がメタノールの8.7倍であるオレイン酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。
芳香族カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が180℃より低いカルボン酸エステル類は、分子量が136の安息香酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステル類である。なお、安息香酸メチルの沸点は199.5℃で、粘度がメタノールの3.3倍である。また、沸点が290℃より低い芳香族カルボン酸からなるエステル類は、分子量が194であるフタル酸ジメチル以下の分子量のカルボン酸エステル類である。なお、フタル酸ジメチルの沸点は284℃で、粘度がメタノールの29倍である。
以上に説明したように、カルボン酸エステル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在する。こうしたカルボン酸エステル類を金属錯体ないしはオクチル酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
以上に説明したように、カルボン酸エステル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在する。こうしたカルボン酸エステル類を金属錯体ないしはオクチル酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
次に、グリコール類について説明する。グリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールからなる6種類のグリコールがある。
エチレングリコールは、メタノール溶解し、メタノールの粘度の36倍で、沸点が197℃の液状モノマーである。ジエチレングリコールはメタノールに溶解し、メタノールの粘度の61倍で、沸点が244℃の液状モノマーである。プロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールの粘度の82倍で、沸点が188℃の液状モノマーである。ジプロピレングリコールは、メタノールに溶解し、メタノールの粘度の127倍で、沸点が232℃の液状モノマーである。トリプロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールより粘度が高く、沸点が265℃の液状モノマーである。いずれも沸点が290℃より低いグリコールである。
以上に説明したように、グリコール類には20段落で説明した3つの性質を兼備する有機化合物が存在し、オクチル酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコール類を、金属錯体ないしはオクチル酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。従って、粘度が高いグリコール類の混合割合は少ない。
エチレングリコールは、メタノール溶解し、メタノールの粘度の36倍で、沸点が197℃の液状モノマーである。ジエチレングリコールはメタノールに溶解し、メタノールの粘度の61倍で、沸点が244℃の液状モノマーである。プロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールの粘度の82倍で、沸点が188℃の液状モノマーである。ジプロピレングリコールは、メタノールに溶解し、メタノールの粘度の127倍で、沸点が232℃の液状モノマーである。トリプロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールより粘度が高く、沸点が265℃の液状モノマーである。いずれも沸点が290℃より低いグリコールである。
以上に説明したように、グリコール類には20段落で説明した3つの性質を兼備する有機化合物が存在し、オクチル酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコール類を、金属錯体ないしはオクチル酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。従って、粘度が高いグリコール類の混合割合は少ない。
最後に、グリコールエーテル類について説明する。グリコールエーテル類は、エチレングリコール系エーテルと、プロピレングリコール系エーテルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの各々の末端の水素をアルキル基で置換したジアルキルグリコールエーテルとの3種類がある。いずれのグリコールエーテルは、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高い。
エチレングリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテル類は、沸点が125℃で、粘度がメタノールの2.8倍であるエチレングリコールモノメチルエーテルと、142℃の沸点で、粘度がメタノールの4.3倍であるエチレングリコールイソプロピルエーテルと、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテルと、沸点が161℃で、粘度がメタノールの4.9倍であるエチレングリコールモノイソブチルエーテルと、沸点が171.2℃で、粘度がメタノールの5.9倍であるエチレングリコールモノブチルエーテルがある。
沸点が290℃より低いエーテル類は、沸点が229℃で、粘度がメタノールの13倍であるエチレングリコールモノ2エチルヘキシルグリコールと、沸点が231℃で、粘度がメタノールの11倍であるジエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が245℃で、粘度がメタノールの52倍であるエチレングリコールモノフェニルエーテルと、沸点が249℃で、粘度がメタノールの13倍であるトリエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が259℃で、粘度がメタノールの15倍であるジエチレングリコールモノへシルエーテルと、沸点が271℃で、粘度がメタノールの14倍であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が272℃で、メタノールの粘度の18倍であるジエチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテルがある。
エチレングリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテル類は、沸点が125℃で、粘度がメタノールの2.8倍であるエチレングリコールモノメチルエーテルと、142℃の沸点で、粘度がメタノールの4.3倍であるエチレングリコールイソプロピルエーテルと、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテルと、沸点が161℃で、粘度がメタノールの4.9倍であるエチレングリコールモノイソブチルエーテルと、沸点が171.2℃で、粘度がメタノールの5.9倍であるエチレングリコールモノブチルエーテルがある。
沸点が290℃より低いエーテル類は、沸点が229℃で、粘度がメタノールの13倍であるエチレングリコールモノ2エチルヘキシルグリコールと、沸点が231℃で、粘度がメタノールの11倍であるジエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が245℃で、粘度がメタノールの52倍であるエチレングリコールモノフェニルエーテルと、沸点が249℃で、粘度がメタノールの13倍であるトリエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が259℃で、粘度がメタノールの15倍であるジエチレングリコールモノへシルエーテルと、沸点が271℃で、粘度がメタノールの14倍であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が272℃で、メタノールの粘度の18倍であるジエチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテルがある。
プロピレングリコール系エーテル類の中で、沸点が180℃より低いエーテル類は、沸点が121℃で、粘度がメタノールの3.2倍であるプロピレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が146℃で、粘度がメタノールの2.2倍であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと、沸点が150℃で、粘度がメタノールの4.7倍であるプロピレングリコールモノプロピルエーテルと、沸点が170℃で、粘度がメタノールの5.8倍であるプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルがある。沸点が290℃より低いエーテルは、沸点が231℃で、粘度がメタノールの13倍であるジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルと、沸点が243℃で、粘度がメタノールの21倍であるプロピレングリコールモノフェニルエーテルがある。
ジアルキルグリコール系エーテル類の中で、沸点が180℃より低いエーテル類は、85℃の沸点で、粘度がメタノールの1.9倍であるエチレングリコールジメチルエーテルと、162℃の沸点で、粘度がメタノールの3.4倍であるジエチレングリコールジメチルエーテルがある。沸点が290℃より低いエーテル類は、沸点が189℃で、粘度がメタノールの2.4倍であるジエチレングリコールジエチルエーテルと、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルと、沸点が255℃で、粘度がメタノールの4.1倍であるジエチレングリコールジブチルエーテルがある。
以上に説明したように、グリコールエーテル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在し、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコールエーテル類を、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
以上に説明したように、グリコールエーテル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在し、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコールエーテル類を、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
実施例1
本実施例は、銀微粒子の集まりで、熱分解黒鉛粉の面同士が重なり合って結合した熱分解黒鉛粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。熱分解黒鉛は、平均粒径が42μmの熱分解黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社の製品PC99−300M)を用いた。また、銀微粒子の原料として、最も合成が容易である銀錯イオンの一つである2個のアンミンが銀イオンに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH3)2]Cl(田中貴金属販売株式会社の試作品)を用いた。さらに、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社の製品)を、有機化合物として用いた。なお、エチレングリコールモノアリルエーテルは、半導体の封止材やプリント基板などの電子材料や、様々なコーティング剤として用いられている汎用的なグリコールエーテルである。
最初に、18gのジアンミン銀塩化物(0.1モルに相応)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、エチレングリコールモノアリルエーテルの276g(メタノールの1.7倍の重量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の6gを混合した。この混合物を、回転による拡散混合と揺動による移動混合とを同時に行う装置(愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH−HT)に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、PBTの記号で表記されるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる短冊状の小片を10個用意し、この小片の表面に、幅が10cm、深さが1mm、長さが50cmの溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、小片を小型加振機の上に載せ、0.4Gの左右、前後、上下の3方向の振動加速度を5秒間ずつ5回繰り返し、最後に、0.2Gの上下方向の振動加速度を10秒間加えた。さらに、小片を水素ガスの雰囲気の熱処理炉に入れ、180℃で5分間熱処理した。なお、PBT樹脂の融点は232−267℃であり、ジアンミン銀塩化物の熱分解温度より52−87℃高い。
最初に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS−Xからなる摩擦係数測定装置)を用い、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.07±0.01であった。いずれの摩擦係数も小さい。
次に、試料の表面と断面との観察と分析とを電子顕微鏡で行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特長を持つ。また、試料を厚み方向に2つに切断し、切断面を観察した。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。試料表面はいずれの部位も、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子の集まりが、表面全体に満遍なく形成されていた。試料の断面においては、微粒子が15層前後の厚みで熱分解黒鉛の表面に積層していた。また、微粒子が積層した熱分解黒鉛が、20層前後積層されていた。
次に、試料の表面と複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、試料の表面と複数の断面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていたため、銀の粒状微粒子である。
これらの結果から、金属結合した銀微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、この銀微粒子の集まりが、熱分解黒鉛粉の表面を覆うとともに、銀微粒子の金属結合を介して熱分解黒鉛粉が結合され、熱分解黒鉛の集まりからなる潤滑被膜が、PBT樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、摩擦が開始される際の静止摩擦係数が、動摩擦係数に近い数値を持つため、銀微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。試料の断面の一部を、図1に模式的に拡大して示した。1は熱分解黒鉛粉で、2は銀微粒子である。
本実施例は、銀微粒子の集まりで、熱分解黒鉛粉の面同士が重なり合って結合した熱分解黒鉛粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。熱分解黒鉛は、平均粒径が42μmの熱分解黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社の製品PC99−300M)を用いた。また、銀微粒子の原料として、最も合成が容易である銀錯イオンの一つである2個のアンミンが銀イオンに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH3)2]Cl(田中貴金属販売株式会社の試作品)を用いた。さらに、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社の製品)を、有機化合物として用いた。なお、エチレングリコールモノアリルエーテルは、半導体の封止材やプリント基板などの電子材料や、様々なコーティング剤として用いられている汎用的なグリコールエーテルである。
最初に、18gのジアンミン銀塩化物(0.1モルに相応)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、エチレングリコールモノアリルエーテルの276g(メタノールの1.7倍の重量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の6gを混合した。この混合物を、回転による拡散混合と揺動による移動混合とを同時に行う装置(愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH−HT)に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、PBTの記号で表記されるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる短冊状の小片を10個用意し、この小片の表面に、幅が10cm、深さが1mm、長さが50cmの溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、小片を小型加振機の上に載せ、0.4Gの左右、前後、上下の3方向の振動加速度を5秒間ずつ5回繰り返し、最後に、0.2Gの上下方向の振動加速度を10秒間加えた。さらに、小片を水素ガスの雰囲気の熱処理炉に入れ、180℃で5分間熱処理した。なお、PBT樹脂の融点は232−267℃であり、ジアンミン銀塩化物の熱分解温度より52−87℃高い。
最初に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS−Xからなる摩擦係数測定装置)を用い、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.07±0.01であった。いずれの摩擦係数も小さい。
次に、試料の表面と断面との観察と分析とを電子顕微鏡で行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特長を持つ。また、試料を厚み方向に2つに切断し、切断面を観察した。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。試料表面はいずれの部位も、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子の集まりが、表面全体に満遍なく形成されていた。試料の断面においては、微粒子が15層前後の厚みで熱分解黒鉛の表面に積層していた。また、微粒子が積層した熱分解黒鉛が、20層前後積層されていた。
次に、試料の表面と複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、試料の表面と複数の断面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていたため、銀の粒状微粒子である。
これらの結果から、金属結合した銀微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、この銀微粒子の集まりが、熱分解黒鉛粉の表面を覆うとともに、銀微粒子の金属結合を介して熱分解黒鉛粉が結合され、熱分解黒鉛の集まりからなる潤滑被膜が、PBT樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、摩擦が開始される際の静止摩擦係数が、動摩擦係数に近い数値を持つため、銀微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。試料の断面の一部を、図1に模式的に拡大して示した。1は熱分解黒鉛粉で、2は銀微粒子である。
実施例2
本実施例は、クロム微粒子でフレーク状の銀粉の面同士が重なり合って結合したフレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。平均粒径が5.2μmのフレーク状の銀粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品Ag−XF301S)を用いた。また、クロム微粒子の原料は、オクチル酸クロムCr(C7H15COO)3(和光純薬工業株式会社の製品)を用いた。また、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを、有機化合物として用いた。なお、トリエチレングリコールジメチルエーテルは、塗料やインキの溶剤として、染料の補助材料として、複写液の添加剤として、各種洗浄剤として、幅広い用途を持つ汎用的な工業用溶剤である。
最初に、48gのオクチル酸クロム(0.1モルに相応)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、トリエチレングリコールジメチルエーテルの432g(メタノールと同量)を混合し、さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の5.2gを混合した。実施例1と同様に、混合物を混合機に回転に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、LCPの記号で表記される液晶ポリマーからなる短冊状の小片を10個用意し、実施例1と同様に、幅が10cmで、深さが1mmで、長さが50cmの細長い溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、実施例1と同様に加振機によって振動を加えた。さらに、小片を大気雰囲気の熱処理炉に入れ、290℃で1分間熱処理した。なお、LCP樹脂の融点は370℃であり、オクチル酸クロムの熱分解温度より80℃高い。
次に、実施例1と同様に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.1±0.01で、動摩擦係数が0.09±0.01であった。いずれの摩擦係数も実施例1より小さい。
さらに、実施例1と同様に、電子顕微鏡によって試料表面と断面との観察と分析とを行なった。この結果、金属結合したクロム微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、このクロム微粒子の集まりが、フレーク状の銀粉の表面を覆うとともに、クロム微粒子の金属結合を介してフレーク状の銀粉が結合され、フレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜が、LCP樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、静止摩擦係数が動摩擦係数に近い数値を持つため、クロム微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。
実施例1における潤滑被膜が、実施例2における潤滑被膜より、摩擦係数が小さい主な理由は、熱分解黒鉛の摩擦係数は、自己潤滑作用によって、金属フレーク粉の摩擦係数より小さいことによる。なお、実施例1の潤滑被膜の表面は、モース硬度が2.7からなる銀の微粒子で覆われる。実施例2の潤滑被膜の表面は、モース硬度が9からなるクロムの微粒子で覆われる。2つの実施例の結果から、金属微粒子の硬度の違いは、金属微粒子が40−60nmの大きさからなる粒状微粒子であるため、摩擦係数の違いに現れない。
本実施例は、クロム微粒子でフレーク状の銀粉の面同士が重なり合って結合したフレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。平均粒径が5.2μmのフレーク状の銀粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品Ag−XF301S)を用いた。また、クロム微粒子の原料は、オクチル酸クロムCr(C7H15COO)3(和光純薬工業株式会社の製品)を用いた。また、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを、有機化合物として用いた。なお、トリエチレングリコールジメチルエーテルは、塗料やインキの溶剤として、染料の補助材料として、複写液の添加剤として、各種洗浄剤として、幅広い用途を持つ汎用的な工業用溶剤である。
最初に、48gのオクチル酸クロム(0.1モルに相応)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、トリエチレングリコールジメチルエーテルの432g(メタノールと同量)を混合し、さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の5.2gを混合した。実施例1と同様に、混合物を混合機に回転に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、LCPの記号で表記される液晶ポリマーからなる短冊状の小片を10個用意し、実施例1と同様に、幅が10cmで、深さが1mmで、長さが50cmの細長い溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、実施例1と同様に加振機によって振動を加えた。さらに、小片を大気雰囲気の熱処理炉に入れ、290℃で1分間熱処理した。なお、LCP樹脂の融点は370℃であり、オクチル酸クロムの熱分解温度より80℃高い。
次に、実施例1と同様に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.1±0.01で、動摩擦係数が0.09±0.01であった。いずれの摩擦係数も実施例1より小さい。
さらに、実施例1と同様に、電子顕微鏡によって試料表面と断面との観察と分析とを行なった。この結果、金属結合したクロム微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、このクロム微粒子の集まりが、フレーク状の銀粉の表面を覆うとともに、クロム微粒子の金属結合を介してフレーク状の銀粉が結合され、フレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜が、LCP樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、静止摩擦係数が動摩擦係数に近い数値を持つため、クロム微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。
実施例1における潤滑被膜が、実施例2における潤滑被膜より、摩擦係数が小さい主な理由は、熱分解黒鉛の摩擦係数は、自己潤滑作用によって、金属フレーク粉の摩擦係数より小さいことによる。なお、実施例1の潤滑被膜の表面は、モース硬度が2.7からなる銀の微粒子で覆われる。実施例2の潤滑被膜の表面は、モース硬度が9からなるクロムの微粒子で覆われる。2つの実施例の結果から、金属微粒子の硬度の違いは、金属微粒子が40−60nmの大きさからなる粒状微粒子であるため、摩擦係数の違いに現れない。
以上に説明した2つの実施例は一部の事例に過ぎない。つまり、粉体は、11段落と17段落とで説明した様々な材質からなる粉体が使用でき、潤滑被膜に要求される仕様に応じて粉体が選択できる。また、金属化合物は、18段落で説明した様々な金属錯イオンを有する金属錯体と、19段落で説明した様々な金属イオンからなるオクチル酸金属化合物が使用でき、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、微粒子を構成する金属が選択できる。さらに、金属化合物をアルコールに分散し、金属化合物が液相化されるため、使用できる金属化合物の制約はない。このため、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、粉体と金属化合物とを選択し、粉体の性質と金属微粒子の性質とを兼備する潤滑被膜が形成できる。
1 熱分解黒鉛粉 2 銀微粒子
本発明は、摺接摩擦を行う摺接部の摺接面に、潤滑作用を有する粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜を形成する方法に関わる。なお、摺接と摺動の記載の双方が摺接摩擦を表すため、本発明では、摺動部を摺接部に含め摺動面を摺接面に含めた。
機械の摺接部に相当する部位の摺接抵抗や摩擦抵抗を低減させるため、潤滑被膜を形成する潤滑剤が幅広く用いられている。潤滑被膜は、オイルやグリースを塗布することで被膜を形成する湿式潤滑皮膜と、固体潤滑皮膜を含有した樹脂塗料を焼付塗装によって被膜を形成する、あるいは、メッキ処理で固体の被膜を形成する乾性潤滑被膜とがある。いっぽう、潤滑被膜に対する以下の要求に応えるため、乾性潤滑被膜が主流になっている。また、これら要求事項は、乾性潤滑被膜をさらに改良する課題でもある。
第一に、機械や機器の高速化、高精密化、長寿命化、軽量化、小型化、メンテナンスフリーに対応できること。
第二に、油潤滑が適用し難い高温、極低温、超真空、超高圧下などの極限環境に対応できること。
一方、乾性潤滑被膜の形成には、次の3つの方法が一般的である。第一の方法は、有機ビーヒクルに分散させた固体潤滑剤を、固体表面にコーティングまたはスプレーした後に乾燥させる。第二の方法は、スパッタリングによる方法で、真空中で二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を陰極とし、不活性ガスイオンの衝撃によって陰極から叩き出された微粒子を、固体表面に堆積被覆する。第三の方法法は、イオンプレーティングによる方法で、真空中においてメッキ材(金、銀など)をイオン化し、電場によって加速して固体表面に金属皮膜を蒸着する。第二と第三の方法は、真空チャンバー内での処理であるため、潤滑被膜を形成する部品の大きさ、形状、個数に制約があり、また、処理費用が高価なため、スパッタリングによる、あるいは、イオンプレーティングによる固有の特段な効果が、潤滑被膜に現れない限り、第一の方法によって潤滑被膜の形成がなされている。
第一に、機械や機器の高速化、高精密化、長寿命化、軽量化、小型化、メンテナンスフリーに対応できること。
第二に、油潤滑が適用し難い高温、極低温、超真空、超高圧下などの極限環境に対応できること。
一方、乾性潤滑被膜の形成には、次の3つの方法が一般的である。第一の方法は、有機ビーヒクルに分散させた固体潤滑剤を、固体表面にコーティングまたはスプレーした後に乾燥させる。第二の方法は、スパッタリングによる方法で、真空中で二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を陰極とし、不活性ガスイオンの衝撃によって陰極から叩き出された微粒子を、固体表面に堆積被覆する。第三の方法法は、イオンプレーティングによる方法で、真空中においてメッキ材(金、銀など)をイオン化し、電場によって加速して固体表面に金属皮膜を蒸着する。第二と第三の方法は、真空チャンバー内での処理であるため、潤滑被膜を形成する部品の大きさ、形状、個数に制約があり、また、処理費用が高価なため、スパッタリングによる、あるいは、イオンプレーティングによる固有の特段な効果が、潤滑被膜に現れない限り、第一の方法によって潤滑被膜の形成がなされている。
潤滑被膜の形成について、新たな潤滑材料からなる被膜形成が検討されている。
例えば、特許文献1には、新たな潤滑材料として、トリアジン化合物又はその塩を用いた固体被膜を形成する潤滑剤が記載されている。しかし、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜の形成方法が、原料のメラミンシアヌレートを気化させる真空蒸着法に制限され、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜が、従来の潤滑作用に比べ、特段の潤滑作用を発揮しないため、この潤滑剤による潤滑被膜に汎用性がない。つまり、原料となるメラミンシアヌレートが有機溶剤に溶解しないため、また、350−400℃で昇華する性質を持つため、真空蒸着によって固体被膜を形成した事例である。
特許文献2には、有機モリブデン化合物を含有する合成樹脂を粉末状にし、この粉末を固体潤滑剤の潤滑性基油へ分散した新たな潤滑剤が記載されている。しかし、有機モリブデン化合物を分散させる合成樹脂の潤滑性が劣るため、合成樹脂の含有量に応じて、潤滑作用が低下する。一方、合成樹脂の含有量が少ないと、有機モリブデン化合物の分散性が悪化し、潤滑剤の潤滑作用にばらつきが生じる。また、鉱油ないしは合成油からなる潤滑性基油を用いるため、極低温や真空状態では、潤滑剤として用いることができず、また、高温では、鉱油ないしは合成油の沸点に応じて、潤滑剤の寿命が決まる。このように、本潤滑剤も汎用的な潤滑剤とは言えない。
例えば、特許文献1には、新たな潤滑材料として、トリアジン化合物又はその塩を用いた固体被膜を形成する潤滑剤が記載されている。しかし、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜の形成方法が、原料のメラミンシアヌレートを気化させる真空蒸着法に制限され、トリアジン化合物又はその塩からなる固体被膜が、従来の潤滑作用に比べ、特段の潤滑作用を発揮しないため、この潤滑剤による潤滑被膜に汎用性がない。つまり、原料となるメラミンシアヌレートが有機溶剤に溶解しないため、また、350−400℃で昇華する性質を持つため、真空蒸着によって固体被膜を形成した事例である。
特許文献2には、有機モリブデン化合物を含有する合成樹脂を粉末状にし、この粉末を固体潤滑剤の潤滑性基油へ分散した新たな潤滑剤が記載されている。しかし、有機モリブデン化合物を分散させる合成樹脂の潤滑性が劣るため、合成樹脂の含有量に応じて、潤滑作用が低下する。一方、合成樹脂の含有量が少ないと、有機モリブデン化合物の分散性が悪化し、潤滑剤の潤滑作用にばらつきが生じる。また、鉱油ないしは合成油からなる潤滑性基油を用いるため、極低温や真空状態では、潤滑剤として用いることができず、また、高温では、鉱油ないしは合成油の沸点に応じて、潤滑剤の寿命が決まる。このように、本潤滑剤も汎用的な潤滑剤とは言えない。
工業製品の用途に応じて、様々な潤滑被膜が形成されているが、汎用性のある潤滑被膜は、現在のところ存在しない。一方、潤滑被膜が次の7つの要件を兼備すれば、汎用性のある潤被膜になる。第一に、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも使用できる。第二に、潤滑被膜の摩擦係数が小さく、摩耗速度が遅いため、潤滑被膜の寿命が長い。第三に、潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面の摩耗も少なくなる。第四に、潤滑被膜が摺接面に結合する。第五に、潤滑被膜を形成する摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。第六に、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の構成が変えられる。第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。
本発明が解決しようとする課題は、上記の7つの要件を兼備する潤滑被膜を、機械の摺接部の摺接面に形成する方法を実現することにある。
本発明が解決しようとする課題は、上記の7つの要件を兼備する潤滑被膜を、機械の摺接部の摺接面に形成する方法を実現することにある。
機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、熱分解で金属を析出する金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、前記アルコールより高い粘度を有する第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質とを兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合して混合液を作成し、潤滑作用を有する第一の性質と、密度が前記有機化合物の密度の2倍より大きい第二の性質と、無機物から構成される第三の性質とを兼備する粉体の集まりを、前記混合液に混合して懸濁液を作成する、この後、前記懸濁液を回転及び揺動させる、さらに、前記懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工し、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加えて潤滑剤を製造する、この後、部品の摺接面に前記潤滑剤を移す、さらに、前記部品を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、前記摺接面に、前記粉体同士が重なり合った粉体の集まりが潤滑被膜を形成する、機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜を形成する方法によれば、極めて簡単な次の8つの処理を順番に実施すると、機械の摺接部を形成する部品の摺接面に、潤滑作用を有する粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。第一に、金属化合物をアルコールに分散し、アルコール分散液を作成する。第二に、アルコール分散液に、3つの性質を兼備する有機化合物を混合し、混合液を作成する。第三に、混合液に3つの性質を兼備する粉体の集まり混合し、懸濁液を作成する。第四に、懸濁液を回転および揺動させる。第五に、懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工する。第六に、加工した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加え、潤滑剤を製造する。第七に、摺接面に潤滑剤を移す。第八に、摺接部を形成する部品を金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これら8つの簡単な処理を順番に実施すると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、従来の固体のみからなる潤滑被膜は、2段落で説明したように、スパッタリング法やイオンプレーティング法など真空下で被膜を形成する方法であり、高価な加工費用を要した。本発明の潤滑被膜を形成する方法によれば、極めて簡単な8つの処理を順番に行うことで、金属微粒子の金属結合で粉体同士が結合され、無機物の粉体の集まりからなる潤滑被膜が安価に形成できる。
上記した潤滑被膜の形成方法において、アルコール分散液の作成と混合液の作成と懸濁液の作成とを、一つの容器を用いて連続して行うと、一回のバッチ処理で大量の懸濁液が容器内に製造される。また、混合機による一回のバッチ処理で、大量の攪拌された懸濁液が容器内に製造される。しかしながら、前記の懸濁液を摺接面に塗布するだけでは、粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜は形成できない、第一の課題がある。また、摺接面の形状と幅に応じて潤滑被膜の形状と幅が変わる、第二の課題が存在する。
2つの課題を同時に解決するため、一度、懸濁液を潤滑被膜の幅に加工する処理を加える。さらに、潤滑被膜の幅に加工した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加え、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体を配列させ、この懸濁液を潤滑剤とする。この潤滑剤を摺接面に移し、摺接面に潤滑剤を形成する。これによって、2つの課題が同時に解決され、摺接面に潤滑剤の塗膜が形成できる。
この後、摺接面に潤滑剤を形成した大量の部品を、金属化合物が熱分解される温度で熱処理し、全ての部品の摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、潤滑被膜の厚みは、多くの場合は数ミクロンから20ミクロン程度である。
ここで、懸濁液に対する前記の処理で、潤滑剤が製造される過程を説明する。最初に、混合機内で懸濁液を回転及び揺動させ、粉体の集まりをランダムに混合させる。これによって、全ての粉体の表面に、アルコール分散液と有機化合物との混合液が吸着する。この後、懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える。この際、懸濁液中では粉体同士が直接接触しないため、粉体は懸濁液中で容易に移動する。このため、粉体同士の間隙に粒径が小さい粉体が入り込む粉体の配列と、全ての粉体同士が重なり合う粉体の配列とが継続する。また、粉体が面を有する場合は、全ての粉体が面同士で重なり合う。粉体の集まりへの加振がなくなると、粉体が有機化合物の密度の2倍より大きいため、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。なお、潤滑被膜の厚みの多くが、数ミクロンから20ミクロン程度であり、懸濁液の粘度、すなわち、アルコール分散液と有機化合物との混合液の粘度は、アルコールの粘度の10倍より低い。
次に、潤滑剤に対する前記した処理で、潤滑被膜が形成される過程を説明する。摺接面に移した潤滑剤は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。また、懸濁液が低粘度であるため、摺接面の凹凸にアルコール分散液と有機化合物とからなる混合液が入り込む。この後、部品の集まりを、金属化合物が熱分解する温度に昇温する。この際、摺接面において、昇温温度に応じて次の現象が生じる。最初に、アルコールの沸点に達すると、潤滑剤からアルコールが気化し、全ての粉体の表面に金属化合物の微細結晶が析出し、粉体は微細結晶の集まりで覆われる。この微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに近い。従って、微細結晶は、摺接面の凹凸にも析出する。さらに、有機化合物が気化した後に、金属化合物を構成する無機物ないしは有機物の沸点に達すると、金属化合物が無機物ないしは有機物と金属とに分解する。無機物ないしは有機物の密度が金属の密度より小さいため、無機物ないしは有機物が上層に、金属が下層に析出し、上層の無機物ないしは有機物が気化した後に、金属が10−100nmの間に大きさが入る粒状微粒子として析出し、金属化合物は熱分解を終える。析出した金属は不純物を持たず、互いに接触する部位で金属結合する。この際、粉体の表面に析出した金属微粒子が金属結合し、粉体同士が結合された粉体の集まりになる。また、摺接面の凹凸の深さと幅より、金属微粒子の大きさが1桁小さいため、凹凸にも金属微粒子の集まりが析出し、金属微粒子が金属結合する。このため、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりは、この金属微粒子の集まりと接する粉体の集まりの下面の金属微粒子の集まりと金属結合する。この結果、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、粉体の集まりは、一定の結合強度で摺接面と結合する。また、粉体の集まりは、金属微粒子の金属結合に基づく結合強度を持つ。このため、摺接摩擦によって潤滑被膜にせん断応力が加わるが、粉体の集まりからなる潤滑被膜は、摺接面から剥がれない。いっぽう、金属化合物の熱分解反応は、金属化合物の微細結晶が金属微粒子に置き換わる反応であるため、粉体の表面に吸着した金属化合物の微細結晶が、金属微粒子に置き換わり、金属微粒子の析出で重なり合った粉体の配列は崩れない。この結果、重なり合った粉体の各々が、金属微粒子の金属結合で結合された粉体の集まりとなって、潤滑被膜を形成する。粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は摺接面に一定の強度で結合し、また、この潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた粉体の集まりで構成される。
本発明の潤滑被膜を形成する方法による潤滑被膜は、次の7つの作用効果を発揮する。
第一の作用効果は、摺接摩擦を開始する時点から潤滑被膜の摩擦係数が小さく、こうした摺接摩擦が継続するため、潤滑被膜の摩耗速度は著しく遅く、潤滑被膜の寿命が長い。つまり、摺接摩擦が本発明の潤滑被膜に起こると、最初に、金属微粒子の集まりと相手の摺接部材とが摺接摩擦する。金属微粒子が粒状微粒子であるため、金属微粒子が相手の摺接部材と接触する部位が極めて僅かな面積であり、また、数多くの金属微粒子に摩擦力が分散されるため、摩擦力は小さく、摩擦係数は小さい。この後、摺接摩擦によるせん断応力が、金属微粒子の集まりに継続して加わり、金属微粒子の金属結合部がせん断応力で破壊され、徐々に金属微粒子が剥ぎ取られ、相手の摺接部材の摺接面に金属微粒子が転移する。これによって、徐々に金属微粒子同士の摩擦に変わり、金属微粒子同士が接触する部位がさらに僅かな面積となり、また、さらに数多くの金属微粒子に摩擦力が分散され、摩擦力はさらに小さく、摩擦係数もさらに小さくなる。この後、潤滑被膜の表面の金属微粒子と、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との双方が徐々に剥ぎ取られ、潤滑被膜の表面に粉体が現れ、粉体と相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との摺接摩擦になる。潤滑性を持つ粉体と金属微粒子との摺接摩擦が起きると、接触する部位が極めて僅かな面積で、また、摩擦力が数多くの金属微粒子に分散され、さらに、粉体が潤滑性を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が剥ぎ取られると、潤滑性を持つ粉体と摺接部材との摺接摩擦になる。この際も、粉体が潤滑性を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに粉体が剥ぎ取られると、潤滑被膜に新たな金属微粒子の集まりが現れる。こうした摩擦現象が摺接面で繰り返される。このため、本発明の潤滑被膜は、金属微粒子が摺接摩擦に参加することで、摩擦力が分散されて小さくなり、摩擦係数が小さく、潤滑被膜の摩耗速度が遅く、潤滑被膜の寿命が長い。なお、相手の摺接部材の摺接面に転移する物質が、金属の粒状微粒子であるため、転移した金属微粒子は相手の摺接部材の摺接面に凝着しない。従って、潤滑被膜の一部が相手の摺接部材に凝着し、凝着物が潤滑被膜を攻撃する摩耗は起きない。さらに粉体が面を有する場合は、粉体同士が面で重なり合って潤滑被膜を形成するため、相手の摺接部材の摺接面が粉体の面で滑り、粉体が受けるせん断応力が緩和され、粉体はさらに剥ぎ取られにくくなる。なお、摩擦係数が0.3より小さい粉体を、一般的に潤滑作用を持つ粉体といい、この粉体による摺接摩擦時の摩擦係数は小さい。また、潤滑被膜を形成する重なり合った粉体の積層数は、多くの場合、10−30個程度の粉体が積層する。
第二の作用効果は、本発明の潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面も摩耗しにくい。つまり、第一の作用効果で説明したように、潤滑被膜の金属微粒子と摺接摩擦する相手の摺接部材との摺接摩擦の後は、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面に転移し、金属微粒子同士で摺接摩擦を行い、また、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子と粉体との間で摺接摩擦を行う。このように、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が摺接摩擦に参加し、金属微粒子が転移しない場合に比べ、相手の摺接部材の摺接面が摩耗しにくくなる。このため、本発明の潤滑被膜とともに、相手の摺接部材の摩耗速度が遅く、相手の摺接部材の摺接面の寿命が長いという作用効果が同時に得られる。
第三の作用効果は、潤滑被膜が固体のみで構成されるにも関わらず、潤滑被膜が摺接面に一定の強度で結合する。つまり、油潤滑は、潤滑被膜の摺接面への吸着性と保持性に優れるという、固体の潤滑被膜では得られない特長を持つ。しかし、本発明の潤滑被膜は、摺接面の凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、摺接面に結合する。このため、従来の油潤滑より大きな吸着力と保持力で、摺接面に潤滑被膜が結合する。
第四の作用効果は、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも、本潤滑被膜によって摺接摩擦が行える。つまり、潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子と、無機物からなる粉体とで構成される。従って、耐熱性、耐寒性、耐荷重性に優れた無機物で粉体を構成すれば、油潤滑では使用できない過酷な環境でも、潤滑被膜が使用できる。また、潤滑被膜が固体で形成されるため、真空状態や高圧下でも使用できる。さらに、金属に近い耐熱性、耐寒性をもち、金属より優れた耐荷重性をもつ無機物で粉体を構成すれば、−40℃より低い温度でも、機械的性質は室温と殆ど変わらない。このように、本発明の潤滑被膜は、従来の油潤滑では使用できない過酷な環境下でも、潤滑被膜による摺接摩擦が行える。
第五の作用効果は、摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤が粉体の集まりが懸濁液中に沈んだ物質であるため、摺接面の大きさや形状に係わらず、潤滑剤を摺接面に移すことができる。また、金属化合物の熱分解温度が、合成樹脂の融点より低い金属化合物を用いれば、耐熱性が低い合成樹脂からなる部品の摺接面にも、潤滑被膜が形成できる。このため、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、摺接部を構成する部品の大きさ、形状、材質の制約を受けず、潤滑被膜が形成できる。
第六の作用効果は、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の性能が自在に変えられる。つまり、潤滑性を持つ無機物の粉体が様々な材質で構成されるため、潤滑被膜に要求される耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて粉体の材質が選択できる。さらに、金属微粒子を構成する金属についても、硬度、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて金属の材質が選択できる。このため、本発明によれば、汎用性のある潤滑被膜が摺接面に形成できる。
第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤を構成する金属化合物と粉体は、汎用的な工業用の材料で、さらに、潤滑被膜を形成する粉体の量が僅かであるため、高価な粉体を用いたとしても、潤滑被膜の原料は安価である。また、本発明の潤滑被膜を形成する方法は、いずれも極めて簡単な8つの処理であり、潤滑剤の製造費と潤滑被膜の加工費は安価で済む。さらに、金属化合物の熱分解温度は180−430℃であり、熱処理費用も安価で済む。このため、本発明における潤滑被膜の形成方法は、安価な潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜は、上記した作用効果を発揮するため、5段落に記載した7つの要件を兼備する潤滑被膜が実現でき、これによって、本発明における課題が解決された。
上記した潤滑被膜の形成方法において、アルコール分散液の作成と混合液の作成と懸濁液の作成とを、一つの容器を用いて連続して行うと、一回のバッチ処理で大量の懸濁液が容器内に製造される。また、混合機による一回のバッチ処理で、大量の攪拌された懸濁液が容器内に製造される。しかしながら、前記の懸濁液を摺接面に塗布するだけでは、粉体同士が重なり合った粉体の集まりからなる潤滑被膜は形成できない、第一の課題がある。また、摺接面の形状と幅に応じて潤滑被膜の形状と幅が変わる、第二の課題が存在する。
2つの課題を同時に解決するため、一度、懸濁液を潤滑被膜の幅に加工する処理を加える。さらに、潤滑被膜の幅に加工した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加え、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体を配列させ、この懸濁液を潤滑剤とする。この潤滑剤を摺接面に移し、摺接面に潤滑剤を形成する。これによって、2つの課題が同時に解決され、摺接面に潤滑剤の塗膜が形成できる。
この後、摺接面に潤滑剤を形成した大量の部品を、金属化合物が熱分解される温度で熱処理し、全ての部品の摺接面に潤滑被膜を形成する。なお、潤滑被膜の厚みは、多くの場合は数ミクロンから20ミクロン程度である。
ここで、懸濁液に対する前記の処理で、潤滑剤が製造される過程を説明する。最初に、混合機内で懸濁液を回転及び揺動させ、粉体の集まりをランダムに混合させる。これによって、全ての粉体の表面に、アルコール分散液と有機化合物との混合液が吸着する。この後、懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える。この際、懸濁液中では粉体同士が直接接触しないため、粉体は懸濁液中で容易に移動する。このため、粉体同士の間隙に粒径が小さい粉体が入り込む粉体の配列と、全ての粉体同士が重なり合う粉体の配列とが継続する。また、粉体が面を有する場合は、全ての粉体が面同士で重なり合う。粉体の集まりへの加振がなくなると、粉体が有機化合物の密度の2倍より大きいため、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。なお、潤滑被膜の厚みの多くが、数ミクロンから20ミクロン程度であり、懸濁液の粘度、すなわち、アルコール分散液と有機化合物との混合液の粘度は、アルコールの粘度の10倍より低い。
次に、潤滑剤に対する前記した処理で、潤滑被膜が形成される過程を説明する。摺接面に移した潤滑剤は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。なお、粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ状態を保つ。また、懸濁液が低粘度であるため、摺接面の凹凸にアルコール分散液と有機化合物とからなる混合液が入り込む。この後、部品の集まりを、金属化合物が熱分解する温度に昇温する。この際、摺接面において、昇温温度に応じて次の現象が生じる。最初に、アルコールの沸点に達すると、潤滑剤からアルコールが気化し、全ての粉体の表面に金属化合物の微細結晶が析出し、粉体は微細結晶の集まりで覆われる。この微細結晶の大きさは、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに近い。従って、微細結晶は、摺接面の凹凸にも析出する。さらに、有機化合物が気化した後に、金属化合物を構成する無機物ないしは有機物の沸点に達すると、金属化合物が無機物ないしは有機物と金属とに分解する。無機物ないしは有機物の密度が金属の密度より小さいため、無機物ないしは有機物が上層に、金属が下層に析出し、上層の無機物ないしは有機物が気化した後に、金属が10−100nmの間に大きさが入る粒状微粒子として析出し、金属化合物は熱分解を終える。析出した金属は不純物を持たず、互いに接触する部位で金属結合する。この際、粉体の表面に析出した金属微粒子が金属結合し、粉体同士が結合された粉体の集まりになる。また、摺接面の凹凸の深さと幅より、金属微粒子の大きさが1桁小さいため、凹凸にも金属微粒子の集まりが析出し、金属微粒子が金属結合する。このため、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりは、この金属微粒子の集まりと接する粉体の集まりの下面の金属微粒子の集まりと金属結合する。この結果、凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、粉体の集まりは、一定の結合強度で摺接面と結合する。また、粉体の集まりは、金属微粒子の金属結合に基づく結合強度を持つ。このため、摺接摩擦によって潤滑被膜にせん断応力が加わるが、粉体の集まりからなる潤滑被膜は、摺接面から剥がれない。いっぽう、金属化合物の熱分解反応は、金属化合物の微細結晶が金属微粒子に置き換わる反応であるため、粉体の表面に吸着した金属化合物の微細結晶が、金属微粒子に置き換わり、金属微粒子の析出で重なり合った粉体の配列は崩れない。この結果、重なり合った粉体の各々が、金属微粒子の金属結合で結合された粉体の集まりとなって、潤滑被膜を形成する。粉体が面を有する場合は、粉体が面同士で重なり合った粉体の集まりが、潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は摺接面に一定の強度で結合し、また、この潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた粉体の集まりで構成される。
本発明の潤滑被膜を形成する方法による潤滑被膜は、次の7つの作用効果を発揮する。
第一の作用効果は、摺接摩擦を開始する時点から潤滑被膜の摩擦係数が小さく、こうした摺接摩擦が継続するため、潤滑被膜の摩耗速度は著しく遅く、潤滑被膜の寿命が長い。つまり、摺接摩擦が本発明の潤滑被膜に起こると、最初に、金属微粒子の集まりと相手の摺接部材とが摺接摩擦する。金属微粒子が粒状微粒子であるため、金属微粒子が相手の摺接部材と接触する部位が極めて僅かな面積であり、また、数多くの金属微粒子に摩擦力が分散されるため、摩擦力は小さく、摩擦係数は小さい。この後、摺接摩擦によるせん断応力が、金属微粒子の集まりに継続して加わり、金属微粒子の金属結合部がせん断応力で破壊され、徐々に金属微粒子が剥ぎ取られ、相手の摺接部材の摺接面に金属微粒子が転移する。これによって、徐々に金属微粒子同士の摩擦に変わり、金属微粒子同士が接触する部位がさらに僅かな面積となり、また、さらに数多くの金属微粒子に摩擦力が分散され、摩擦力はさらに小さく、摩擦係数もさらに小さくなる。この後、潤滑被膜の表面の金属微粒子と、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との双方が徐々に剥ぎ取られ、潤滑被膜の表面に粉体が現れ、粉体と相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子との摺接摩擦になる。潤滑性を持つ粉体と金属微粒子との摺接摩擦が起きると、接触する部位が極めて僅かな面積で、また、摩擦力が数多くの金属微粒子に分散され、さらに、粉体が潤滑性を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が剥ぎ取られると、潤滑性を持つ粉体と摺接部材との摺接摩擦になる。この際も、粉体が潤滑性を持つため、摺接摩擦の摩擦係数は小さい。さらに粉体が剥ぎ取られると、潤滑被膜に新たな金属微粒子の集まりが現れる。こうした摩擦現象が摺接面で繰り返される。このため、本発明の潤滑被膜は、金属微粒子が摺接摩擦に参加することで、摩擦力が分散されて小さくなり、摩擦係数が小さく、潤滑被膜の摩耗速度が遅く、潤滑被膜の寿命が長い。なお、相手の摺接部材の摺接面に転移する物質が、金属の粒状微粒子であるため、転移した金属微粒子は相手の摺接部材の摺接面に凝着しない。従って、潤滑被膜の一部が相手の摺接部材に凝着し、凝着物が潤滑被膜を攻撃する摩耗は起きない。さらに粉体が面を有する場合は、粉体同士が面で重なり合って潤滑被膜を形成するため、相手の摺接部材の摺接面が粉体の面で滑り、粉体が受けるせん断応力が緩和され、粉体はさらに剥ぎ取られにくくなる。なお、摩擦係数が0.3より小さい粉体を、一般的に潤滑作用を持つ粉体といい、この粉体による摺接摩擦時の摩擦係数は小さい。また、潤滑被膜を形成する重なり合った粉体の積層数は、多くの場合、10−30個程度の粉体が積層する。
第二の作用効果は、本発明の潤滑被膜と摺接摩擦する相手の摺接部材の摺接面も摩耗しにくい。つまり、第一の作用効果で説明したように、潤滑被膜の金属微粒子と摺接摩擦する相手の摺接部材との摺接摩擦の後は、金属微粒子が相手の摺接部材の摺接面に転移し、金属微粒子同士で摺接摩擦を行い、また、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子と粉体との間で摺接摩擦を行う。このように、相手の摺接部材の摺接面に転移した金属微粒子が摺接摩擦に参加し、金属微粒子が転移しない場合に比べ、相手の摺接部材の摺接面が摩耗しにくくなる。このため、本発明の潤滑被膜とともに、相手の摺接部材の摩耗速度が遅く、相手の摺接部材の摺接面の寿命が長いという作用効果が同時に得られる。
第三の作用効果は、潤滑被膜が固体のみで構成されるにも関わらず、潤滑被膜が摺接面に一定の強度で結合する。つまり、油潤滑は、潤滑被膜の摺接面への吸着性と保持性に優れるという、固体の潤滑被膜では得られない特長を持つ。しかし、本発明の潤滑被膜は、摺接面の凹凸における金属結合した金属微粒子の集まりによるアンカー効果で、摺接面に結合する。このため、従来の油潤滑より大きな吸着力と保持力で、摺接面に潤滑被膜が結合する。
第四の作用効果は、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも、本潤滑被膜によって摺接摩擦が行える。つまり、潤滑被膜は、金属結合した金属微粒子と、無機物からなる粉体とで構成される。従って、耐熱性、耐寒性、耐荷重性に優れた無機物で粉体を構成すれば、油潤滑では使用できない過酷な環境でも、潤滑被膜が使用できる。また、潤滑被膜が固体で形成されるため、真空状態や高圧下でも使用できる。さらに、金属に近い耐熱性、耐寒性をもち、金属より優れた耐荷重性をもつ無機物で粉体を構成すれば、−40℃より低い温度でも、機械的性質は室温と殆ど変わらない。このように、本発明の潤滑被膜は、従来の油潤滑では使用できない過酷な環境下でも、潤滑被膜による摺接摩擦が行える。
第五の作用効果は、摺接面の大きさ、形状、材質に係わらず、潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤が粉体の集まりが懸濁液中に沈んだ物質であるため、摺接面の大きさや形状に係わらず、潤滑剤を摺接面に移すことができる。また、金属化合物の熱分解温度が、合成樹脂の融点より低い金属化合物を用いれば、耐熱性が低い合成樹脂からなる部品の摺接面にも、潤滑被膜が形成できる。このため、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、摺接部を構成する部品の大きさ、形状、材質の制約を受けず、潤滑被膜が形成できる。
第六の作用効果は、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、潤滑被膜の性能が自在に変えられる。つまり、潤滑性を持つ無機物の粉体が様々な材質で構成されるため、潤滑被膜に要求される耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて粉体の材質が選択できる。さらに、金属微粒子を構成する金属についても、硬度、熱伝導性、導電性などの仕様に応じて金属の材質が選択できる。このため、本発明によれば、汎用性のある潤滑被膜が摺接面に形成できる。
第七に、安価な材料を用い、安価な費用で潤滑被膜が形成できる。つまり、潤滑剤を構成する金属化合物と粉体は、汎用的な工業用の材料で、さらに、潤滑被膜を形成する粉体の量が僅かであるため、高価な粉体を用いたとしても、潤滑被膜の原料は安価である。また、本発明の潤滑被膜を形成する方法は、いずれも極めて簡単な8つの処理であり、潤滑剤の製造費と潤滑被膜の加工費は安価で済む。さらに、金属化合物の熱分解温度は180−430℃であり、熱処理費用も安価で済む。このため、本発明における潤滑被膜の形成方法は、安価な潤滑被膜を形成する方法である。
本発明の潤滑被膜は、上記した作用効果を発揮するため、5段落に記載した7つの要件を兼備する潤滑被膜が実現でき、これによって、本発明における課題が解決された。
前記した懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工する処理から、潤滑剤を摺接面に移すまでの処理によって、前記摺接面の全面に潤滑剤を形成する方法は、潤滑被膜の幅に相当する幅と、潤滑被膜の厚みの10倍以上の深さとを持つ溝を有し、直線状に移動する回転ベルトを用意し、懸濁液が充填された容器を前記ベルトの上部に配置させ、前記ベルトに左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える加振装置を前記ベルトの下部に設置し、前記ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に、部品の摺接面が、前記ベルトと接するように該部品を配置させる、この後、前記ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、前記ベルト上に懸濁液の一定量ずつを、前記容器から連続して滴下し、さらに、前記加振装置を稼働させる、前記ベルト上の懸濁液が前記加振装置に近づくと、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動が繰り返して加わり、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが前記懸濁液中に沈んだ潤滑剤となる、さらに、前記ベルトが移動し、前記ベルト上の潤滑剤が、前記部品の摺接面と接すると、該摺接面が円周面である場合は、前記部品が回転し、該摺接面が平面である場合は、前記部品が直線状に移動し、とともに、前記ベルトが回転によって下降し、これによって、前記ベルト上の潤滑剤が前記摺接面に移り、該摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、前記部品の回転ないしは移動を一旦停止させ、前記ベルトの回転も一旦停止させ、とともに、前記ベルト上への前記懸濁液の滴下を一旦停止させ、かつ、前記加振装置を一旦停止させる、これによって、前記摺接面の全面に前記潤滑剤が形成される、この後、次の部品の摺接面を、前記ベルトが下降して回転する位置に配置させ、前記ベルトを再度稼働させ、とともに、前記懸濁液の前記ベルト上への滴下を再開させ、さらに、前記加振装置を再稼働させ、前記次の部品の摺接面を回転ないしは直線状に移動させ、該摺接面の全面に前記した潤滑剤を形成する、こうした処理を繰り返し、前記部品の1個ずつの摺接面に潤滑剤を形成する方法である。
つまり、本潤滑剤からなる塗膜を形成する方法を繰り返すと、部品の1個ずつの摺接面の全面に、潤滑剤が連続して形成される。予め、潤滑被膜の幅に相当する幅と、潤滑被膜の厚みの10倍以上の深さとを持つ溝を有し、かつ、直線状に移動する回転ベルトを準備する。また、ベルトに左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加える加振装置を、ベルトの下部に設置させる。さらに、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に、部品の摺接面が、前記ベルトと接するように部品を配置させる。また、ベルトの上部に懸濁液が充填された容器を配置する。
こうした準備の後に、ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、懸濁液が充填された容器から一定量の懸濁液を連続してベルトの上に滴下する。ベルトが直線状に移動し、ベルト上の懸濁液が加振装置の設置場所に近づくと、懸濁液が左右、前後、上下の3方向に継続して加振され、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体が配列する。懸濁液が加振装置から離れると、懸濁液は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。さらにベルトが直線状に移動し、ベルト上の潤滑剤が摺接面に接すると、摺接面が円周面である場合は、摺接面が低速度で回転し始め、摺接面が平面である場合は、摺接面が低速度で直線状に移動し始め、とともに、ベルトが下降して直線上の移動から回転に変わる。これによって、ベルト上の潤滑剤が摺接面に移り、摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、摺接面の回転ないしは移動を停止させ、また、ベルトの回転を一旦停止させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を一旦停止させ、かつ、前記加振装置を一旦停止させる。この結果、摺接面の全面に潤滑剤が移る。この後、次の部品の摺接面を、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に配置させ、ベルトを再稼働させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を再開させ、さらに、前記加振装置を再稼働させる。こうした処理を繰り返すことで、潤滑剤が摺接面の全面に形成された部品の1個ずつが連続して製造される。なお、摺接面に潤滑剤を移す際に、冶具によって潤滑剤を圧縮しながら、摺接面の全面に潤滑剤を形成してもよい。
こうした準備の後に、ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、懸濁液が充填された容器から一定量の懸濁液を連続してベルトの上に滴下する。ベルトが直線状に移動し、ベルト上の懸濁液が加振装置の設置場所に近づくと、懸濁液が左右、前後、上下の3方向に継続して加振され、懸濁液中で粉体同士が重なり合うように粉体が配列する。懸濁液が加振装置から離れると、懸濁液は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、懸濁液中に沈んだ潤滑剤になる。さらにベルトが直線状に移動し、ベルト上の潤滑剤が摺接面に接すると、摺接面が円周面である場合は、摺接面が低速度で回転し始め、摺接面が平面である場合は、摺接面が低速度で直線状に移動し始め、とともに、ベルトが下降して直線上の移動から回転に変わる。これによって、ベルト上の潤滑剤が摺接面に移り、摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、摺接面の回転ないしは移動を停止させ、また、ベルトの回転を一旦停止させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を一旦停止させ、かつ、前記加振装置を一旦停止させる。この結果、摺接面の全面に潤滑剤が移る。この後、次の部品の摺接面を、ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に配置させ、ベルトを再稼働させ、とともに、懸濁液のベルト上への滴下を再開させ、さらに、前記加振装置を再稼働させる。こうした処理を繰り返すことで、潤滑剤が摺接面の全面に形成された部品の1個ずつが連続して製造される。なお、摺接面に潤滑剤を移す際に、冶具によって潤滑剤を圧縮しながら、摺接面の全面に潤滑剤を形成してもよい。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、前記粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体、ないしは層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
第一の粉体である軟質金属からなるフレーク粉は、金、銀、銅、錫ないしは亜鉛などから軟質金属の粉体を、スタンプミルを用いて搗き砕くことで原料粉が扁平加工され、薄片状のフレーク粉が製造される。このフレーク粉の摩擦係数は、0.20−0.25と小さい。さらに、粉体の長軸に対する厚みの比率であるアスペクト比が高く、かつ、平面に近い滑らかな面を持つ。このため、少ない量のフレーク粉の集まりで、潤滑被膜が形成できる。さらに、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士が重なり合って潤滑被膜を形成する。このため、軟質金属からなる滑らかな面で摺接部材が滑るため、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜を形成するフレーク粉は剥がれにくい。さらに、軟質金属は、金属間の相互溶解度が低い金属との組み合わせが可能になる。例えば、銅フレーク粉の表面をメッキによって銀をコーティングした銀コート銅フレーク粉は、ないしは、銀フレーク粉は、鉄、ニッケル、コバルトないしはクロムと、銀との相互溶解度がゼロに近いため、これらの金属からなる摺接部材と、銀コート銅フレーク粉、ないしは、銀フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性が優れ、潤滑被膜の摩耗量はさらに少なくなる。また、鉄、クロム、アルミニウム、マグネシウムないしはケイ素と、錫との相互溶解度がゼロに近く、これらの金属からなる摺接部材と、錫フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性に優れ、潤滑被膜の摩耗量がさらに少ない。また、クロム、モリブデン、タングステンないしはニオブと、銅との相互溶解度が小さく、これらの金属からなる摺接部材と、銅フレーク粉からなる潤滑被膜とは、摺接面における滑り特性が優れ、潤滑被膜の摩耗量が少ない。
さらに、錫を除く金属フレーク粉の耐熱温度は軟化点で決まり、最も低い電解銅であっても、軟化点が800℃と高い。また、錫を除く軟質金属は低温脆性を持たないので、極低温での使用が可能になる。従って、軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる潤滑被膜は、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、耐荷重性は600MPaと高い。このように、軟質金属からなるフレーク粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。
なお、錫は融点が232℃で、−40℃付近からで低温脆性を起こすため、錫のフレーク粉からなる潤滑被膜のみは、使用温度が制限される。
第二の粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物からなる粉体であり、第三の粉体は黒鉛粉である。これらの粉体はいずれも層状の結晶構造を持つため、結合力が弱い層間結合が優先して破壊される。このため、摺接摩擦によって、層間結晶が優先して破壊される自己潤滑作用を発揮し、摺接摩擦における摩擦係数は、前記した金属フレーク粉よりさらに小さい。本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体同士が結合した粉体の集まりで潤滑被膜が形成されるため、潤滑被膜の摩擦係数は小さい。さらに、窒化ホウ素と、黒鉛粉における鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛と熱分解黒鉛とは、高いアスペクト比からなる面を有する粉体であり、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士で結合した粉体の集まりからなる潤滑被膜が形成されるため、摺接部材が滑らかな面で滑り、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜の摩耗速度がさらに遅くなる。なお、鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とは、天然黒鉛を精製して製造する安価な粉体である。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成される安価な粉体である。また、窒化ホウ素は、六方晶系と立方晶系との2つの結晶構造をとるが、六方晶系からなる窒化ホウ素が層状の結晶構造を持つ。
一方、耐熱温度は、窒化ホウ素は酸素ガスを含む雰囲気で900℃の耐熱性を持つ。これに対し、二硫化モリブデンは350℃付近から、二硫化タングステンは425℃付近から、黒鉛は450℃付近から酸化が始まる。フッ化黒鉛の熱分解の開始温度は、原料炭素によって変わるが、320−490℃である。このように、耐熱温度は粉体の材料によって変わるが、多くの粉体は油潤滑より耐熱性が高い。なお、二硫化モリブデンが三酸化モリブデンに酸化されても、層状の結晶構造は維持されるため、酸化鉛に近い潤滑性能を持つが、酸化の際に硫黄ガスが発生するため、近辺にある金属を硫化させる恐れがある。また、耐荷重性が油潤滑より著しく高く、例えば、二硫化モリブデンと二硫化タングステンは780MPaで、黒鉛粉で490MPaである。
このように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体、ないしは、黒鉛粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。なお、黒鉛粉は、層間に吸着するガスで潤滑されるため、真空中では吸着するガスがなくなり、摩擦係数が急増する。
上記した粉体の密度は、黒鉛粉の密度が2.26g/cm3と最も小さく、フッ化黒鉛の密度は原料炭素によって2.34−2.68g/cm3の値を持ち、窒化ホウ素の密度は3.487g/cm3の値を持つ。一方、金属化合物のアルコール分散液に混合する有機化合物の密度は1.0g/cm3より小さいため、上記した粉体の密度はいずれも、有機化合物の密度の2倍より大きい。さらに、上記した無機物からなる粉体は、高密度の放射線下でも潤滑被膜として作用する。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは、層状の結晶構造を持つ無機化合物の粉体と黒鉛粉とは、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な粉体である。従って、潤滑被膜に求められる仕様に応じて粉体の材料を選択することで、本発明における潤滑被膜は汎用性を持つ。
さらに、錫を除く金属フレーク粉の耐熱温度は軟化点で決まり、最も低い電解銅であっても、軟化点が800℃と高い。また、錫を除く軟質金属は低温脆性を持たないので、極低温での使用が可能になる。従って、軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる潤滑被膜は、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、耐荷重性は600MPaと高い。このように、軟質金属からなるフレーク粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。
なお、錫は融点が232℃で、−40℃付近からで低温脆性を起こすため、錫のフレーク粉からなる潤滑被膜のみは、使用温度が制限される。
第二の粉体は、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物からなる粉体であり、第三の粉体は黒鉛粉である。これらの粉体はいずれも層状の結晶構造を持つため、結合力が弱い層間結合が優先して破壊される。このため、摺接摩擦によって、層間結晶が優先して破壊される自己潤滑作用を発揮し、摺接摩擦における摩擦係数は、前記した金属フレーク粉よりさらに小さい。本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体同士が結合した粉体の集まりで潤滑被膜が形成されるため、潤滑被膜の摩擦係数は小さい。さらに、窒化ホウ素と、黒鉛粉における鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛と熱分解黒鉛とは、高いアスペクト比からなる面を有する粉体であり、本発明の潤滑被膜の形成方法によれば、粉体の面同士で結合した粉体の集まりからなる潤滑被膜が形成されるため、摺接部材が滑らかな面で滑り、摺接部材によるせん断応力が緩和され、潤滑被膜の摩耗速度がさらに遅くなる。なお、鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とは、天然黒鉛を精製して製造する安価な粉体である。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成される安価な粉体である。また、窒化ホウ素は、六方晶系と立方晶系との2つの結晶構造をとるが、六方晶系からなる窒化ホウ素が層状の結晶構造を持つ。
一方、耐熱温度は、窒化ホウ素は酸素ガスを含む雰囲気で900℃の耐熱性を持つ。これに対し、二硫化モリブデンは350℃付近から、二硫化タングステンは425℃付近から、黒鉛は450℃付近から酸化が始まる。フッ化黒鉛の熱分解の開始温度は、原料炭素によって変わるが、320−490℃である。このように、耐熱温度は粉体の材料によって変わるが、多くの粉体は油潤滑より耐熱性が高い。なお、二硫化モリブデンが三酸化モリブデンに酸化されても、層状の結晶構造は維持されるため、酸化鉛に近い潤滑性能を持つが、酸化の際に硫黄ガスが発生するため、近辺にある金属を硫化させる恐れがある。また、耐荷重性が油潤滑より著しく高く、例えば、二硫化モリブデンと二硫化タングステンは780MPaで、黒鉛粉で490MPaである。
このように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体、ないしは、黒鉛粉は、潤滑被膜を形成する粉体として優れた性質を持つ。なお、黒鉛粉は、層間に吸着するガスで潤滑されるため、真空中では吸着するガスがなくなり、摩擦係数が急増する。
上記した粉体の密度は、黒鉛粉の密度が2.26g/cm3と最も小さく、フッ化黒鉛の密度は原料炭素によって2.34−2.68g/cm3の値を持ち、窒化ホウ素の密度は3.487g/cm3の値を持つ。一方、金属化合物のアルコール分散液に混合する有機化合物の密度は1.0g/cm3より小さいため、上記した粉体の密度はいずれも、有機化合物の密度の2倍より大きい。さらに、上記した無機物からなる粉体は、高密度の放射線下でも潤滑被膜として作用する。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは、層状の結晶構造を持つ無機化合物の粉体と黒鉛粉とは、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な粉体である。従って、潤滑被膜に求められる仕様に応じて粉体の材料を選択することで、本発明における潤滑被膜は汎用性を持つ。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、前記金属化合物が、無機物の分子ないしはイオンが配位子になって金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機塩で構成された金属錯塩であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる金属錯塩を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。つまり、金属錯塩を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、金属錯塩を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出する。金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。従って、潤滑被膜を形成する部品が、耐熱性が低い合成樹脂であっても、多くの合成樹脂の融点が金属錯塩の熱分解温度より高いため、合成樹脂からなる部品の表面にも潤滑被膜を形成することができる。また、11段落で説明した潤滑作用を持つ粉体の中で、最も耐熱性が低い粉体は、融点が232℃の錫のフレーク粉であり、錫の融点は金属錯体の熱分解温度より高く、使用できる粉体の材質に制約がない。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、金属錯体は、粉体同士を結合させる金属微粒子の原料として好適である。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNH3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H2Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH―が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl−が、ないしは塩素イオンCl−とアンモニアNH3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる金属錯塩は、無機塩の分子量が小さいため、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。
また、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類の属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点が無機金属化合物からなる金属錯体の熱分解温度より低い性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、分子量が小さいカルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物であり、いずれも汎用的な工業用薬品である。従って、金属錯体のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液における粘度をアルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、上記の有機化合物は、金属錯体のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
前記した金属錯体のアルコール分散液に、有機化合物を混合すると、金属錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向の振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなす金属錯体の熱分解が始まり、180−220℃で金属錯体の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子が、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりからなる潤滑被膜が形成される。このように、金属錯体と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる金属錯体と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気の180−220℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜の形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
つまり、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNH3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H2Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH―が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl−が、ないしは塩素イオンCl−とアンモニアNH3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる金属錯塩は、無機塩の分子量が小さいため、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。
また、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類の属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点が無機金属化合物からなる金属錯体の熱分解温度より低い性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、分子量が小さいカルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物であり、いずれも汎用的な工業用薬品である。従って、金属錯体のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液における粘度をアルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、上記の有機化合物は、金属錯体のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
前記した金属錯体のアルコール分散液に、有機化合物を混合すると、金属錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向の振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなす金属錯体の熱分解が始まり、180−220℃で金属錯体の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子が、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりからなる潤滑被膜が形成される。このように、金属錯体と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる金属錯体と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが、混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気の180−220℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜の形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、前記金属化合物が、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、前記有機化合物が、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、前記の部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法である。
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。このカルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、290−430℃の大気雰囲気で熱分解が完了する。このため、粉体の耐熱性と、摺接部の部品の耐熱性とが、290℃以上であれば、摺接面に潤滑被膜が形成できる。なお、融点が290℃以上の合成樹脂であれば、合成樹脂の部品の摺接面に潤滑被膜が形成できる。また、11段落で説明したように、錫のフレーク粉を除く粉体は、290℃の耐熱性を持つため、多くの無機材料からなる粉体を、潤滑被膜の原料として用いることができる。従って、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、カルボン酸金属化合物は、粉体同士を結合させる金属微粒子の好適な原料になる。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅Cu2Oは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、13段落で説明した無機金属化合物からなる金属錯体より熱処理温度が高いが、金属錯体より安価な金属化合物である。
カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い性質を兼備する有機化合物が存在する。こうした有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液の粘度を、アルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、有機化合物は、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向に振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりの表面に、混合液が付着した潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなすカルボン酸金属化合物の熱分解が始まり、290−430℃の温度でカルボン酸金属化合物の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子の集まりが、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、カルボン酸金属化合物と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における潤滑被膜の好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を大気囲気の290−430℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅Cu2Oと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅Cu2Oは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、13段落で説明した無機金属化合物からなる金属錯体より熱処理温度が高いが、金属錯体より安価な金属化合物である。
カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属する有機化合物に、アルコールに溶解ないしは混和する性質と、アルコールより粘度が高い性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い性質を兼備する有機化合物が存在する。こうした有機化合物はいずれも汎用的な工業用薬品である。従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、混合液は有機化合物の混合割合に応じた粘度を持つ。これによって、混合液の粘度を、アルコールの粘度の10倍より低くすることが容易にできる。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、有機化合物は、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液の粘度を調整する溶剤として好適である。
従って、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液に有機化合物を混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合う。この混合液に、潤滑作用を持つ粉体の集まりを混合し、混合液に回転と揺動とを加え、さらに、左右、前後、上下の3方向に振動を加えると、粉体同士が重なり合った粉体の集まりの表面に、混合液が付着した潤滑剤が作成される。この後、摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を還元雰囲気で熱処理する。最初にアルコールが気化し、粉体の集まりの表面に金属錯体の微細結晶の集まりが析出し、次いで有機化合物が気化する。さらに昇温すると、微細結晶をなすカルボン酸金属化合物の熱分解が始まり、290−430℃の温度でカルボン酸金属化合物の熱分解が完了し、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの粒状の金属微粒子の集まりが、粉体の表面に析出する。この際、熱分解で析出した金属は不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが粉体の集まりを覆い、また、粉体同士を結合する。これによって、部品の摺接面に、粉体の集まりが潤滑被膜を形成する。このように、カルボン酸金属化合物と有機化合物は、本発明の潤滑被膜を形成する方法における潤滑被膜の好適な原料になる。
以上に説明したように、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、汎用的な工業用薬品である有機化合物と、潤滑作用を持つ粉体とを原料として用い、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが混合液中に沈んだ潤滑剤を作成し、部品の摺接部の摺接面に潤滑剤を塗布し、部品を大気囲気の290−430℃の温度で熱処理するだけで、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。このため、本発明の潤滑被膜を形成する方法において、安価な材料を用い、安価な費用で、部品の摺接面に潤滑被膜が形成される。
実施形態1
本実施形態は、潤滑被膜を構成する無機物の粉体に関わる。第一の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉である。軟質金属のフレーク粉は、スタンプミル(搗砕機に相当)により、多数の金属製の杵で軟質金属粉の集まりを叩き、薄いフレーク状に金属粉を延ばすことで製造される。原料となる金属粉は、多くの場合は、金属の純度が高く、鉛フリーの電解金属粉を用いる。この後、サイクロンなどの気流分級機で粒度分布を調整する。
こうしたフレーク粉に、厚みが0.26μmと薄く、粒径分布のD50が2.38μmで、D90が5.41μmで、長軸径が3.85μmで、短軸径が2.72μmで、厚みに対する長軸の比率であるアスペクト比が14.76で、比表面積が4m2/gに及ぶ銀フレーク粉がある。こうしたアスペクト比が高いフレーク粉を粉体として用いると、前記した懸濁液に振動を加えると、フレーク粉の面同士が重なった潤滑剤が容易に作成でき、金や銀のような高価な粉体であっても、少ない量のフレーク粉で潤滑被膜が形成できる。また、フレーク粉の表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がはがれにくくなる。さらに、摺接部材を構成する金属に対し、相互溶解度が低い軟質金属からなるフレーク粉を用いると、フレーク粉の表面での摺接部材の滑り特性がさらに優れるため、潤滑被膜はさらにはがれにくくなる。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉を潤滑被膜の原料として用いる場合は、アスペクト比が高いフレーク粉の形状効果と、平坦な滑らかな表面による形状効果と、摺接部材との相互溶解度が低い材質効果とが得られるため、潤滑被膜の摩耗速度が著しく低減する。
第二の粉体は、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体である。最も汎用的な潤滑材料である二硫化モリブデンの粉体は、輝水鉛鉱(モリブデナイト)と呼ばれる鉱石を粉砕して製造される。こうした二硫化モリブデンの平均粒径は、0.45−3.50μmに及ぶ。なお、大粒径の粉体は潤滑被膜に用いる粉体の量が少なくて済むが、近年大粒径の天然鉱床が少なくなり、供給に応えにくくなる課題がある。
これに対し、二硫化タングステンは、タングステンと硫黄とを直接反応させて合成するため、前記した二硫化モリブデンのような供給上の課題は存在しない。しかし、高温下での合成反応であるため、二硫化モリブデンより高価な粉体である。
一方、二硫化タングステンより低温で合成され、より安価な無機化合物に窒化ホウ素がある。また、平均粒径が5−15μmで、比表面積が3−10m2/gで、アスペクト比が5−12からなる粉体が製造できる。さらに、液体中で高いせん断力を加える新たな製法で層間結合を剥離させ、アスペクト比がさらに高い粉体が製造されるようになった。従って、粉体の面同士が重なった潤滑剤が容易に作成できる。これによって、少ない量の粉体で潤滑被膜が形成できる。また、層状の結晶構造による自己潤滑性の効果に加え、表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がさらに剥がれにくくなる。また、大気雰囲気で900℃の耐熱性を持つとともに、体積固有抵抗が1014Ωmより高い絶縁性を持ち、かつ、熱伝導性は黒鉛に近く、絶縁性で熱伝導性の性質を持つ。
また、フッ化黒鉛は、カーボンブラックを180℃でフッ素ガスと反応させる、あるいは、天然黒鉛を470℃でフッ素ガスと反応させることで、炭素原子とフッ素原子とが共有結合した純度の高いフッ化黒鉛が得られる。一方、フッ素ガスは、KF・2HF溶融塩の電気分解で陽極生成ガスとして得られるが、電解フッ素ガス中に10−15%のフッ化水素、酸素、フッ化酸素、フルオルカーボンなどの不純物などが存在し、これらの不純物を除去する処理が必要になる。さらに、フッ素ガスが極めて酸化作用の強い猛毒ガスであり、取り扱いに高い安全性が必要になる。また、フッ化黒鉛を合成する際に、高温のフッ素ガスに耐えられる材質が、モネル合金、ニッケル、純度の高いアルミナに限定される。こうした理由から、フッ化黒鉛の粉体は、前記した窒化ホウ素より汎用性は低い。
以上に説明したように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体においては、現時点では、アスペクト比が高く、かつ、平坦な滑らかな表面による形状効果を持つ窒化ホウ素からなる粉体が相対的に好適である。
第三の粉体は、層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である。こうした黒鉛粉の中で、結晶度が高い黒鉛粉に、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛及び膨張黒鉛からなる黒鉛粉がある。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成され、鱗片状黒鉛と同様に鱗片粉であり、平均粒径が42μmに及ぶ鱗片粉が得られ、SiCを生成する際の副産物として製造されるため、鱗片状黒鉛に近い安価な粉体である。
これに対し、膨張黒鉛は、化学反応を用いて鱗片状黒鉛の層間に物質を挿入し、この黒鉛層間化合物を急熱すると、層間に入れられた物質が燃焼・ガス化し、その時に生じたガスの放出が爆発的に層と層の間を押し広げ、黒鉛が層の積み重なり方向に180−230倍に膨張させた黒鉛粉である。鱗片状黒鉛の層間を膨張させることで、層間結合がより破壊されやすくなるが、鱗片粉の面同士が重なり合った鱗片粉の集まりを形成することが困難になるため、潤滑被膜としては鱗片粉より劣る。
さらに、天然黒鉛粒子を精製した鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とがある。露天掘りで採掘された原石の品位が低いため、湿式ボールミルで粉砕し、不純物と黒鉛とを分離し、浮遊選鉱で黒鉛だけを浮かせて採取を繰り返し行い、この後分級して製造する。いずれも安価な黒鉛粉であるが、鱗片状黒鉛は鱗状黒鉛粉よりアスペクト比が高く、潤滑被膜を形成する原料として優れている。
以上、潤滑被膜を構成する無機物の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、窒化ホウ素の扁平粉、熱分解黒鉛、鱗片状黒鉛粉の鱗片粉が、現時点では好適である。これらの粉体は、いずれも優れた潤滑性を持つが、潤滑性以外の性質が各々異なるため、摺接面に要求される潤滑被膜の仕様に応じて、最も適切な粉体が選択でき、潤滑被膜は汎用性を持つ。
本実施形態は、潤滑被膜を構成する無機物の粉体に関わる。第一の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉である。軟質金属のフレーク粉は、スタンプミル(搗砕機に相当)により、多数の金属製の杵で軟質金属粉の集まりを叩き、薄いフレーク状に金属粉を延ばすことで製造される。原料となる金属粉は、多くの場合は、金属の純度が高く、鉛フリーの電解金属粉を用いる。この後、サイクロンなどの気流分級機で粒度分布を調整する。
こうしたフレーク粉に、厚みが0.26μmと薄く、粒径分布のD50が2.38μmで、D90が5.41μmで、長軸径が3.85μmで、短軸径が2.72μmで、厚みに対する長軸の比率であるアスペクト比が14.76で、比表面積が4m2/gに及ぶ銀フレーク粉がある。こうしたアスペクト比が高いフレーク粉を粉体として用いると、前記した懸濁液に振動を加えると、フレーク粉の面同士が重なった潤滑剤が容易に作成でき、金や銀のような高価な粉体であっても、少ない量のフレーク粉で潤滑被膜が形成できる。また、フレーク粉の表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がはがれにくくなる。さらに、摺接部材を構成する金属に対し、相互溶解度が低い軟質金属からなるフレーク粉を用いると、フレーク粉の表面での摺接部材の滑り特性がさらに優れるため、潤滑被膜はさらにはがれにくくなる。
以上に説明したように、軟質金属からなるフレーク粉を潤滑被膜の原料として用いる場合は、アスペクト比が高いフレーク粉の形状効果と、平坦な滑らかな表面による形状効果と、摺接部材との相互溶解度が低い材質効果とが得られるため、潤滑被膜の摩耗速度が著しく低減する。
第二の粉体は、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体である。最も汎用的な潤滑材料である二硫化モリブデンの粉体は、輝水鉛鉱(モリブデナイト)と呼ばれる鉱石を粉砕して製造される。こうした二硫化モリブデンの平均粒径は、0.45−3.50μmに及ぶ。なお、大粒径の粉体は潤滑被膜に用いる粉体の量が少なくて済むが、近年大粒径の天然鉱床が少なくなり、供給に応えにくくなる課題がある。
これに対し、二硫化タングステンは、タングステンと硫黄とを直接反応させて合成するため、前記した二硫化モリブデンのような供給上の課題は存在しない。しかし、高温下での合成反応であるため、二硫化モリブデンより高価な粉体である。
一方、二硫化タングステンより低温で合成され、より安価な無機化合物に窒化ホウ素がある。また、平均粒径が5−15μmで、比表面積が3−10m2/gで、アスペクト比が5−12からなる粉体が製造できる。さらに、液体中で高いせん断力を加える新たな製法で層間結合を剥離させ、アスペクト比がさらに高い粉体が製造されるようになった。従って、粉体の面同士が重なった潤滑剤が容易に作成できる。これによって、少ない量の粉体で潤滑被膜が形成できる。また、層状の結晶構造による自己潤滑性の効果に加え、表面が平坦な滑らかな面に近く、潤滑被膜に摺接部材のせん断応力が加わった際に、摺接部材が平担な面で滑り、せん断応力が緩和され、潤滑被膜がさらに剥がれにくくなる。また、大気雰囲気で900℃の耐熱性を持つとともに、体積固有抵抗が1014Ωmより高い絶縁性を持ち、かつ、熱伝導性は黒鉛に近く、絶縁性で熱伝導性の性質を持つ。
また、フッ化黒鉛は、カーボンブラックを180℃でフッ素ガスと反応させる、あるいは、天然黒鉛を470℃でフッ素ガスと反応させることで、炭素原子とフッ素原子とが共有結合した純度の高いフッ化黒鉛が得られる。一方、フッ素ガスは、KF・2HF溶融塩の電気分解で陽極生成ガスとして得られるが、電解フッ素ガス中に10−15%のフッ化水素、酸素、フッ化酸素、フルオルカーボンなどの不純物などが存在し、これらの不純物を除去する処理が必要になる。さらに、フッ素ガスが極めて酸化作用の強い猛毒ガスであり、取り扱いに高い安全性が必要になる。また、フッ化黒鉛を合成する際に、高温のフッ素ガスに耐えられる材質が、モネル合金、ニッケル、純度の高いアルミナに限定される。こうした理由から、フッ化黒鉛の粉体は、前記した窒化ホウ素より汎用性は低い。
以上に説明したように、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体においては、現時点では、アスペクト比が高く、かつ、平坦な滑らかな表面による形状効果を持つ窒化ホウ素からなる粉体が相対的に好適である。
第三の粉体は、層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である。こうした黒鉛粉の中で、結晶度が高い黒鉛粉に、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、熱分解黒鉛及び膨張黒鉛からなる黒鉛粉がある。熱分解黒鉛は、炭化ケイ素SiCを生成する際の副産物として生成され、鱗片状黒鉛と同様に鱗片粉であり、平均粒径が42μmに及ぶ鱗片粉が得られ、SiCを生成する際の副産物として製造されるため、鱗片状黒鉛に近い安価な粉体である。
これに対し、膨張黒鉛は、化学反応を用いて鱗片状黒鉛の層間に物質を挿入し、この黒鉛層間化合物を急熱すると、層間に入れられた物質が燃焼・ガス化し、その時に生じたガスの放出が爆発的に層と層の間を押し広げ、黒鉛が層の積み重なり方向に180−230倍に膨張させた黒鉛粉である。鱗片状黒鉛の層間を膨張させることで、層間結合がより破壊されやすくなるが、鱗片粉の面同士が重なり合った鱗片粉の集まりを形成することが困難になるため、潤滑被膜としては鱗片粉より劣る。
さらに、天然黒鉛粒子を精製した鱗片状黒鉛と鱗状黒鉛とがある。露天掘りで採掘された原石の品位が低いため、湿式ボールミルで粉砕し、不純物と黒鉛とを分離し、浮遊選鉱で黒鉛だけを浮かせて採取を繰り返し行い、この後分級して製造する。いずれも安価な黒鉛粉であるが、鱗片状黒鉛は鱗状黒鉛粉よりアスペクト比が高く、潤滑被膜を形成する原料として優れている。
以上、潤滑被膜を構成する無機物の粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、窒化ホウ素の扁平粉、熱分解黒鉛、鱗片状黒鉛粉の鱗片粉が、現時点では好適である。これらの粉体は、いずれも優れた潤滑性を持つが、潤滑性以外の性質が各々異なるため、摺接面に要求される潤滑被膜の仕様に応じて、最も適切な粉体が選択でき、潤滑被膜は汎用性を持つ。
第2実施形態
本実施形態は、13段落に記載した無機金属化合物からなる金属錯体に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銀とし、銀化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する銀化合物を説明する。硝酸銀はアルコールに溶解し、銀イオンが溶出し、多くの銀イオンが銀微粒子の析出に参加できない。従って、銀化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銀、塩化金、硫酸銀、水酸化銀、炭酸銀などの無機銀化合物はアルコール類に分散しない。このため、このような無機金化合物は、銀化合物として適切でない。
いっぽう、銀化合物は銀を析出する性質を持つ。銀化合物から銀が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、銀化合物の熱分解温度が低ければ、耐熱性が低い合成樹脂からなる摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、熱分解温度が低い銀化合物は、銀微粒子の原料になる。このような銀化合物として、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって、銀イオンに配位結合する銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる銀錯体がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、銀錯体が熱分解する温度は低い。さらに、こうした銀錯体は分子量が小さいため、他の銀錯イオンからなる銀錯体より合成が容易で、また、安価である。
銀錯体を構成する分子の中で、銀イオンが最も大きい。ちなみに、銀原子の単結合の共有結合半径は128pmであり、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmであり、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銀イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理では、最初に配位結合部が分断され、銀と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銀が析出する。
このような無機金化合物からなる銀錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+を有する銀錯体と、シアン化物イオンCN−が配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)2]−を有する銀錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銀錯イオンを有する銀錯体に比べて、合成が容易であり安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銀錯体として、例えば、塩化ジアンミン銀[Ag(NH3)2]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]2SO4、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]NO3などがある。
熱分解で銅を析出する無機銅化合物からなる銅錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH3)4]2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH3)6]2+を有する銅錯体や、塩素イオンCl−が配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl4]2―を有する銅錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了する。さらに、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銅錯体として、例えば、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH3)4](NO3)2やヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH3)6]SO4がある。
熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物からなるニッケル錯体として、アンモニアNH3が配位子となってニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH3)6]2+からなるニッケル錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で熱分解が完了する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯錯体として、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH3)6]Cl2がある。このように、無機金属化合物からなる錯体は、様々な金属錯イオンで構成され、また、このような金属錯体の合成が容易である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で最も安価な金属錯体である。また、多くの合成樹脂の融点は、金属錯体の熱分解温度より高いため、耐熱性が低い合成樹脂にも、潤滑被膜が形成できる。
本実施形態は、13段落に記載した無機金属化合物からなる金属錯体に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銀とし、銀化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する銀化合物を説明する。硝酸銀はアルコールに溶解し、銀イオンが溶出し、多くの銀イオンが銀微粒子の析出に参加できない。従って、銀化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銀、塩化金、硫酸銀、水酸化銀、炭酸銀などの無機銀化合物はアルコール類に分散しない。このため、このような無機金化合物は、銀化合物として適切でない。
いっぽう、銀化合物は銀を析出する性質を持つ。銀化合物から銀が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、銀化合物の熱分解温度が低ければ、耐熱性が低い合成樹脂からなる摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、熱分解温度が低い銀化合物は、銀微粒子の原料になる。このような銀化合物として、無機物からなる分子ないしはイオンが配位子となって、銀イオンに配位結合する銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる銀錯体がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、銀錯体が熱分解する温度は低い。さらに、こうした銀錯体は分子量が小さいため、他の銀錯イオンからなる銀錯体より合成が容易で、また、安価である。
銀錯体を構成する分子の中で、銀イオンが最も大きい。ちなみに、銀原子の単結合の共有結合半径は128pmであり、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmであり、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銀イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理では、最初に配位結合部が分断され、銀と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銀が析出する。
このような無機金化合物からなる銀錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+を有する銀錯体と、シアン化物イオンCN−が配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)2]−を有する銀錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銀錯イオンを有する銀錯体に比べて、合成が容易であり安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して銀が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銀錯体として、例えば、塩化ジアンミン銀[Ag(NH3)2]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]2SO4、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH3)2]NO3などがある。
熱分解で銅を析出する無機銅化合物からなる銅錯体として、アンモニアNH3が配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH3)4]2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH3)6]2+を有する銅錯体や、塩素イオンCl−が配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl4]2―を有する銅錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる銅錯体は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了する。さらに、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このような銅錯体として、例えば、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH3)4](NO3)2やヘキサアンミン銅硫酸塩[Cu(NH3)6]SO4がある。
熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物からなるニッケル錯体として、アンモニアNH3が配位子となってニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH3)6]2+からなるニッケル錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル銅錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、200℃程度の低い温度で熱分解が完了する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くの分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯錯体として、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH3)6]Cl2がある。このように、無機金属化合物からなる錯体は、様々な金属錯イオンで構成され、また、このような金属錯体の合成が容易である。
以上に説明したように、無機金属化合物からなる錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で最も安価な金属錯体である。また、多くの合成樹脂の融点は、金属錯体の熱分解温度より高いため、耐熱性が低い合成樹脂にも、潤滑被膜が形成できる。
実施形態3
本実施形態は、15段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物は、最も汎用的な溶剤であるアルコール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物として適切でない。
いっぽう、無機物の分子ないしはイオンが、銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯体として、13段落で説明したアンミン銅錯体やクロロ銅錯体がある。これらの錯体は、汎用的な有機酸からなる有機銅化合物に比べると高価であるが、熱分解温度が200℃程度と低い特徴を持つ。
ここで、有機銅化合物について説明する。有機銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、有機銅化合物の合成が容易でれば、有機銅化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機銅化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが銅イオンに共有結合するカルボン酸銅化合物がある。さらに、熱分解温度が合成樹脂の融点より低ければ、合成樹脂からなる部品の摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、カルボン酸金属化合物の熱分解温度が低いことが望ましい。
つまり、カルボン酸銅化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンに共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸銅化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸と銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後に銅が析出する。なお、還元雰囲気でのカルボン酸銅化合物の熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進むため、大気雰囲気での熱分解のほうが熱処理費用は安価で済む。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になり、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物が熱分解すると、酸化銅が析出する。
いっぽう、カルボン酸銅化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となって銅イオンに近づいて配位結合するカルボン酸銅は、銅イオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造の特徴を持つカルボン酸銅化合物の熱分解反応は、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化銅が析出する。
さらに、カルボン酸銅化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅化合物が生成される。このため、有機銅化合物の中で最も安価な有機銅化合物である。
カルボン酸銅化合物の組成式はCu(COOR)2で表わせられる。Rは炭化水素で、組成式はCmHnである(mとnは整数)。カルボン酸銅化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置する銅イオンCu2+が最も大きい。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンと酸素イオとの距離が最大になる。この理由は、銅原子の2重結合における共有結合半径は115pmで、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmで、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このため、このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅化合物として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。このようなカルボン酸銅化合物は、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸銅化合物は低い温度で熱分解が始まり、熱分解温度が合成樹脂の融点より低くなる。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、飽和脂肪酸の気化熱が大きいため、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低く、気化熱も小さい。従って、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物は、さらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。この分岐構造の飽和脂肪酸にオクチル酸があり、構造式がCH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、銅を析出する原料として、オクチル酸銅Cu(C7H15COO)2が望ましい。オクチル酸銅は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して銅が析出し、メタノールやn−ブタノールに10重量%近く分散する。
アルミニウムを析出する原料に、オクチル酸アルミニウムAl(C7H15COO)3が、鉄を析出する原料に、オクチル酸鉄Fe(C7H15COO)3が、ニッケルを析出する原料に、オクチル酸ニッケルNi(C7H15COO)2が望ましい。このようにオクチル酸金属化合物は、様々な金属イオンで構成されるとともに、合成が容易なカルボン酸金属化合物でもある。
本実施形態は、15段落に記載したカルボン酸金属化合物に関わる。熱分解で金属を析出する金属化合物は、第一にアルコールに分散し、第二に熱分解で金属を析出する性質を兼備する必要がある。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例にして説明する。
最初に、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はアルコールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物は、最も汎用的な溶剤であるアルコール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は、アルコールに分散する性質を持つ銅化合物として適切でない。
いっぽう、無機物の分子ないしはイオンが、銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯体として、13段落で説明したアンミン銅錯体やクロロ銅錯体がある。これらの錯体は、汎用的な有機酸からなる有機銅化合物に比べると高価であるが、熱分解温度が200℃程度と低い特徴を持つ。
ここで、有機銅化合物について説明する。有機銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、有機銅化合物の合成が容易でれば、有機銅化合物が安価に製造できる。こうした性質を兼備する有機銅化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが銅イオンに共有結合するカルボン酸銅化合物がある。さらに、熱分解温度が合成樹脂の融点より低ければ、合成樹脂からなる部品の摺接面に、潤滑被膜が形成できる。従って、カルボン酸金属化合物の熱分解温度が低いことが望ましい。
つまり、カルボン酸銅化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンに共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸銅化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸と銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後に銅が析出する。なお、還元雰囲気でのカルボン酸銅化合物の熱分解は、大気雰囲気での熱分解より高温側で進むため、大気雰囲気での熱分解のほうが熱処理費用は安価で済む。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になり、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物が熱分解すると、酸化銅が析出する。
いっぽう、カルボン酸銅化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となって銅イオンに近づいて配位結合するカルボン酸銅は、銅イオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造の特徴を持つカルボン酸銅化合物の熱分解反応は、酸素イオンが銅イオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化銅が析出する。
さらに、カルボン酸銅化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機銅化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅化合物が生成される。このため、有機銅化合物の中で最も安価な有機銅化合物である。
カルボン酸銅化合物の組成式はCu(COOR)2で表わせられる。Rは炭化水素で、組成式はCmHnである(mとnは整数)。カルボン酸銅化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置する銅イオンCu2+が最も大きい。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO−とが共有結合する場合は、銅イオンと酸素イオとの距離が最大になる。この理由は、銅原子の2重結合における共有結合半径は115pmで、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmで、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このため、このような分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅化合物として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。このようなカルボン酸銅化合物は、金属石鹸として市販されている安価な工業用薬品である。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が低ければ、カルボン酸銅化合物は低い温度で熱分解が始まり、熱分解温度が合成樹脂の融点より低くなる。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、飽和脂肪酸の気化熱が大きいため、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点がさらに低く、気化熱も小さい。従って、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物は、さらに低い温度で熱分解する。また、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。この分岐構造の飽和脂肪酸にオクチル酸があり、構造式がCH3(CH2)3CH(C2H5)COOHで示され、CHでCH3(CH2)3とC2H5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、銅を析出する原料として、オクチル酸銅Cu(C7H15COO)2が望ましい。オクチル酸銅は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して銅が析出し、メタノールやn−ブタノールに10重量%近く分散する。
アルミニウムを析出する原料に、オクチル酸アルミニウムAl(C7H15COO)3が、鉄を析出する原料に、オクチル酸鉄Fe(C7H15COO)3が、ニッケルを析出する原料に、オクチル酸ニッケルNi(C7H15COO)2が望ましい。このようにオクチル酸金属化合物は、様々な金属イオンで構成されるとともに、合成が容易なカルボン酸金属化合物でもある。
実施形態4
本実施形態は、第一にアルコールに溶解ないしは混和し、第二にアルコールより粘度が高く、第三に沸点が金属化合物の熱分解温度より低い、これら3つの性質を兼備する有機化合物に関する。これら3つの性質を兼備する有機化合物は、熱分解で金属を析出する金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を構成する。このような有機化合物に、カルボン酸エステル類、グリコール類、ないしは、グリコールエーテル類に属する有機化合物がある。ここでは、アルコールを最も汎用的な工業用アルコールであるメタノールとする。なお、メタノールの粘度は0.59mPasである。
つまり、無機金属化合物からなる金属錯体は180−220℃で熱分解し、オクチル酸金属化合物は290℃で熱分解する。従って、沸点が180℃より低い有機化合物は、金属錯体およびカルボン酸金属化合物が分散された混合液を構成する。また、沸点が290℃より低い有機化合物は、オクチル酸金属化合物が分散された混合液を構成する。
本実施形態は、第一にアルコールに溶解ないしは混和し、第二にアルコールより粘度が高く、第三に沸点が金属化合物の熱分解温度より低い、これら3つの性質を兼備する有機化合物に関する。これら3つの性質を兼備する有機化合物は、熱分解で金属を析出する金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合った混合液を構成する。このような有機化合物に、カルボン酸エステル類、グリコール類、ないしは、グリコールエーテル類に属する有機化合物がある。ここでは、アルコールを最も汎用的な工業用アルコールであるメタノールとする。なお、メタノールの粘度は0.59mPasである。
つまり、無機金属化合物からなる金属錯体は180−220℃で熱分解し、オクチル酸金属化合物は290℃で熱分解する。従って、沸点が180℃より低い有機化合物は、金属錯体およびカルボン酸金属化合物が分散された混合液を構成する。また、沸点が290℃より低い有機化合物は、オクチル酸金属化合物が分散された混合液を構成する。
最初に、カルボン酸エステル類について説明する。カルボン酸エステル類は、飽和カルボン酸からなるエステル類と、不飽和カルボン酸からなるエステル類と、芳香族カルボン酸からなるエステル類に分けられる。
飽和カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が158.2であるカプリル酸メチル(オクタン酸メチルともいう)より分子量が小さいカルボン酸エステルである。なお、カプリル酸メチルの沸点は191℃で、メタノールの粘度の1.8倍である。沸点が290℃より低い飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が256.4であるミリスチン酸エチル(テトラデカン酸エチルともいう)より分子量が小さいカルボン酸エステルである。なお、ミリスチン酸エチルの沸点は295℃で、メタノールの粘度の11倍である。
飽和カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が158.2であるカプリル酸メチル(オクタン酸メチルともいう)より分子量が小さいカルボン酸エステルである。なお、カプリル酸メチルの沸点は191℃で、メタノールの粘度の1.8倍である。沸点が290℃より低い飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が256.4であるミリスチン酸エチル(テトラデカン酸エチルともいう)より分子量が小さいカルボン酸エステルである。なお、ミリスチン酸エチルの沸点は295℃で、メタノールの粘度の11倍である。
不飽和カルボン酸からなるエステル類で、メタノールに混和し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が198であるメタクリル酸オクチルより分子量が小さいカルボン酸エステルである。ちなみに、メタクリル酸オクチルの沸点は229℃で、メタノールの粘度の2.8倍である。また、沸点が290℃より低い不飽和カルボン酸からなるエステル類は、分子量が296.6で、粘度がメタノールの8.7倍であるオレイン酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステルである。
芳香族カルボン酸からなるエステル類の中で、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高く、沸点が180℃より低いカルボン酸エステルは、分子量が136の安息香酸メチルより分子量が小さいカルボン酸エステルである。なお、安息香酸メチルの沸点は199.5℃で、粘度がメタノールの3.3倍である。また、沸点が290℃より低い芳香族カルボン酸からなるエステル類は、分子量が194であるフタル酸ジメチル以下の分子量のカルボン酸エステルである。なお、フタル酸ジメチルの沸点は284℃で、粘度がメタノールの29倍である。
以上に説明したように、カルボン酸エステル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在する。こうしたカルボン酸エステルを金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
以上に説明したように、カルボン酸エステル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在する。こうしたカルボン酸エステルを金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
次に、グリコール類について説明する。グリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールからなる6種類のグリコールがある。
エチレングリコールは、メタノール溶解し、メタノールの粘度の36倍で、沸点が197℃の液状モノマーである。ジエチレングリコールはメタノールに溶解し、メタノールの粘度の61倍で、沸点が244℃の液状モノマーである。プロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールの粘度の82倍で、沸点が188℃の液状モノマーである。ジプロピレングリコールは、メタノールに溶解し、メタノールの粘度の127倍で、沸点が232℃の液状モノマーである。トリプロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールより粘度が高く、沸点が265℃の液状モノマーである。いずれも沸点が290℃より低いグリコールである。
以上に説明したように、グリコール類には20段落で説明した3つの性質を兼備する有機化合物が存在し、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコール類を金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。従って、粘度が高いグリコール類の混合割合は少ない。
エチレングリコールは、メタノール溶解し、メタノールの粘度の36倍で、沸点が197℃の液状モノマーである。ジエチレングリコールはメタノールに溶解し、メタノールの粘度の61倍で、沸点が244℃の液状モノマーである。プロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールの粘度の82倍で、沸点が188℃の液状モノマーである。ジプロピレングリコールは、メタノールに溶解し、メタノールの粘度の127倍で、沸点が232℃の液状モノマーである。トリプロピレングリコールは、メタノールと混和し、メタノールより粘度が高く、沸点が265℃の液状モノマーである。いずれも沸点が290℃より低いグリコールである。
以上に説明したように、グリコール類には20段落で説明した3つの性質を兼備する有機化合物が存在し、カルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコール類を金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。従って、粘度が高いグリコール類の混合割合は少ない。
最後に、グリコールエーテル類について説明する。グリコールエーテル類は、エチレングリコール系エーテルと、プロピレングリコール系エーテルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの各々の末端の水素をアルキル基で置換したジアルキルグリコールエーテルとの3種類がある。いずれのグリコールエーテルは、メタノールに溶解し、メタノールより粘度が高い。
エチレングリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテルは、沸点が124.5℃で、粘度がメタノールの2.8倍であるエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が141.8℃で、粘度がメタノールの4.3倍であるエチレングリコールイソプロピルエーテルと、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテルと、沸点が160.5℃で、粘度がメタノールの4.9倍であるエチレングリコールモノイソブチルエーテルと、沸点が171.2℃で、粘度がメタノールの5.9倍であるエチレングリコールモノブチルエーテルがある。
沸点が290℃より低いエーテルは、沸点が229℃で、粘度がメタノールの13倍であるエチレングリコールモノ2エチルヘキシルグリコールと、沸点が231℃で、粘度がメタノールの11倍であるジエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が245℃で、粘度がメタノールの52倍であるエチレングリコールモノフェニルエーテルと、沸点が249℃で、粘度がメタノールの13倍であるトリエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が259℃で、粘度がメタノールの15倍であるジエチレングリコールモノへシルエーテルと、沸点が271℃で、粘度がメタノールの14倍であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が272℃で、メタノールの粘度の18倍であるジエチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテルがある。
エチレングリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテルは、沸点が124.5℃で、粘度がメタノールの2.8倍であるエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が141.8℃で、粘度がメタノールの4.3倍であるエチレングリコールイソプロピルエーテルと、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテルと、沸点が160.5℃で、粘度がメタノールの4.9倍であるエチレングリコールモノイソブチルエーテルと、沸点が171.2℃で、粘度がメタノールの5.9倍であるエチレングリコールモノブチルエーテルがある。
沸点が290℃より低いエーテルは、沸点が229℃で、粘度がメタノールの13倍であるエチレングリコールモノ2エチルヘキシルグリコールと、沸点が231℃で、粘度がメタノールの11倍であるジエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が245℃で、粘度がメタノールの52倍であるエチレングリコールモノフェニルエーテルと、沸点が249℃で、粘度がメタノールの13倍であるトリエチレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が259℃で、粘度がメタノールの15倍であるジエチレングリコールモノへシルエーテルと、沸点が271℃で、粘度がメタノールの14倍であるトリエチレングリコールモノブチルエーテルと、沸点が272℃で、メタノールの粘度の18倍であるジエチレングリコールモノ2エチルヘキシルエーテルがある。
プロピレングリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテルは、沸点が121℃で、粘度がメタノールの3.2倍であるプロピレングリコールモノメチルエーテルと、沸点が146℃で、粘度がメタノールの2.2倍であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと、沸点が149.8℃で、粘度がメタノールの4.7倍であるプロピレングリコールモノプロピルエーテルと、沸点が170.2℃で、粘度がメタノールの5.8倍であるプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルがある。沸点が290℃より低いエーテルは、沸点が231℃で、粘度がメタノールの13倍であるジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルと、沸点が243℃で、粘度がメタノールの21倍であるプロピレングリコールモノフェニルエーテルがある。
ジアルキルグリコール系エーテルの中で、沸点が180℃より低いエーテルは、沸点が85.2℃で、粘度がメタノールの1.9倍であるエチレングリコールジメチルエーテルと、沸点が162℃で、粘度がメタノールの3.4倍であるジエチレングリコールジメチルエーテルがある。沸点が290℃より低いエーテルは、沸点が189℃で、粘度がメタノールの2.4倍であるジエチレングリコールジエチルエーテルと、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルと、沸点が255℃で、粘度がメタノールの4.1倍であるジエチレングリコールジブチルエーテルがある。
以上に説明したように、グリコールエーテル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在し、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコールエーテル類を、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
以上に説明したように、グリコールエーテル類には、20段落で説明した3つの性質を兼備する多くの有機化合物が存在し、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合って混合液を構成する。こうしたグリコールエーテル類を、金属錯体ないしはカルボン酸金属化合物のアルコール分散液に混合する際に、混合液の粘度がアルコールの粘度の10倍より低い粘度になるように混合する。
実施例1
本実施例は、銀微粒子の集まりで、熱分解黒鉛粉の面同士が重なり合って結合した熱分解黒鉛粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。熱分解黒鉛は、平均粒径が42μmの熱分解黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社の製品PC99−300M)を用いた。また、銀微粒子の原料として、最も合成が容易である銀錯イオンの一つである2個のアンミンが銀イオンに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH3)2]Cl(田中貴金属販売株式会社の試作品)を用いた。さらに、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社の製品)を、有機化合物として用いた。なお、エチレングリコールモノアリルエーテルは、半導体の封止材やプリント基板などの電子材料や、様々なコーティング剤として用いられている汎用的なグリコールエーテルである。
最初に、18gのジアンミン銀塩化物(0.1モルに相応する)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、エチレングリコールモノアリルエーテルの276g(メタノールの1.7倍の重量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の6gを混合した。この混合物を、回転による拡散混合と揺動による移動混合とを同時に行う装置(愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH−HT)に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、PBTの記号で表記されるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる短冊状の小片を10個用意し、この小片の表面に、幅が10cm、深さが1mm、長さが50cmの溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、小片を小型加振機の上に載せ、0.4Gの左右、前後、上下の3方向の振動加速度を5秒間ずつ5回繰り返し、最後に、0.2Gの上下方向の振動加速度を10秒間加えた。さらに、小片を水素ガスの雰囲気の熱処理炉に入れ、180℃で5分間熱処理した。なお、PBT樹脂の融点は232−267℃であり、ジアンミン銀塩化物の熱分解温度より52−87℃高い。
最初に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS−Xからなる摩擦係数測定装置)を用い、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.07±0.01であった。いずれの摩擦係数も小さい。
次に、試料の表面と断面との観察と分析とを電子顕微鏡で行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特長を持つ。また、試料を厚み方向に2つに切断し、切断面を観察した。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。試料表面はいずれの部位も、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子の集まりが、表面全体に満遍なく形成されていた。試料の断面においては、微粒子が15層前後の厚みで熱分解黒鉛の表面に積層していた。また、微粒子が積層した熱分解黒鉛が、20層前後積層されていた。
次に、試料の表面と複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、試料の表面と複数の断面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていたため、銀の粒状微粒子である。
これらの結果から、金属結合した銀微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、この銀微粒子の集まりが、熱分解黒鉛粉の表面を覆うとともに、銀微粒子の金属結合を介して熱分解黒鉛粉が結合され、熱分解黒鉛の集まりからなる潤滑被膜が、PBT樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、摩擦が開始される際の摩擦係数である静止摩擦係数が、動摩擦係数に近い数値を持つため、銀微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。試料の断面の一部を、図1に模式的に拡大して示した。1は熱分解黒鉛粉で、2は銀微粒子である。
本実施例は、銀微粒子の集まりで、熱分解黒鉛粉の面同士が重なり合って結合した熱分解黒鉛粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。熱分解黒鉛は、平均粒径が42μmの熱分解黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社の製品PC99−300M)を用いた。また、銀微粒子の原料として、最も合成が容易である銀錯イオンの一つである2個のアンミンが銀イオンに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH3)2]+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH3)2]Cl(田中貴金属販売株式会社の試作品)を用いた。さらに、沸点が159℃で、粘度がメタノールの3.9倍であるエチレングリコールモノアリルエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社の製品)を、有機化合物として用いた。なお、エチレングリコールモノアリルエーテルは、半導体の封止材やプリント基板などの電子材料や、様々なコーティング剤として用いられている汎用的なグリコールエーテルである。
最初に、18gのジアンミン銀塩化物(0.1モルに相応する)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、エチレングリコールモノアリルエーテルの276g(メタノールの1.7倍の重量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の6gを混合した。この混合物を、回転による拡散混合と揺動による移動混合とを同時に行う装置(愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH−HT)に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、PBTの記号で表記されるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる短冊状の小片を10個用意し、この小片の表面に、幅が10cm、深さが1mm、長さが50cmの溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、小片を小型加振機の上に載せ、0.4Gの左右、前後、上下の3方向の振動加速度を5秒間ずつ5回繰り返し、最後に、0.2Gの上下方向の振動加速度を10秒間加えた。さらに、小片を水素ガスの雰囲気の熱処理炉に入れ、180℃で5分間熱処理した。なお、PBT樹脂の融点は232−267℃であり、ジアンミン銀塩化物の熱分解温度より52−87℃高い。
最初に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS−Xからなる摩擦係数測定装置)を用い、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.08±0.01で、動摩擦係数が0.07±0.01であった。いずれの摩擦係数も小さい。
次に、試料の表面と断面との観察と分析とを電子顕微鏡で行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特長を持つ。また、試料を厚み方向に2つに切断し、切断面を観察した。
最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。試料表面はいずれの部位も、40−60nmの大きさからなる粒状微粒子の集まりが、表面全体に満遍なく形成されていた。試料の断面においては、微粒子が15層前後の厚みで熱分解黒鉛の表面に積層していた。また、微粒子が積層した熱分解黒鉛が、20層前後積層されていた。
次に、試料の表面と複数の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、試料の表面と複数の断面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていたため、銀の粒状微粒子である。
これらの結果から、金属結合した銀微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、この銀微粒子の集まりが、熱分解黒鉛粉の表面を覆うとともに、銀微粒子の金属結合を介して熱分解黒鉛粉が結合され、熱分解黒鉛の集まりからなる潤滑被膜が、PBT樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、摩擦が開始される際の摩擦係数である静止摩擦係数が、動摩擦係数に近い数値を持つため、銀微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。試料の断面の一部を、図1に模式的に拡大して示した。1は熱分解黒鉛粉で、2は銀微粒子である。
実施例2
本実施例は、クロム微粒子でフレーク状の銀粉の面同士が重なり合って結合したフレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。平均粒径が5.2μmのフレーク状の銀粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品Ag−XF301S)を用いた。また、クロム微粒子の原料は、オクチル酸クロムCr(C7H15COO)3(和光純薬工業株式会社の製品)を用いた。また、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを、有機化合物として用いた。なお、トリエチレングリコールジメチルエーテルは、塗料やインキの溶剤として、染料の補助材料として、複写液の添加剤として、各種洗浄剤として、幅広い用途を持つ汎用的な工業用溶剤である。
最初に、48gのオクチル酸クロム(0.1モルに相応する)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、トリエチレングリコールジメチルエーテルの432g(メタノールと同量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の5.2gを混合した。実施例1と同様に、混合物を混合機に回転に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、LCPの記号で表記される液晶ポリマーからなる短冊状の小片を10個用意し、実施例1と同様に、幅が10cmで、深さが1mmで、長さが50cmの細長い溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、実施例1と同様に、加振機によって振動を加えた。さらに、小片を大気雰囲気の熱処理炉に入れ、290℃で1分間熱処理した。なお、LCP樹脂の融点は370℃であり、オクチル酸クロムの熱分解温度より80℃高い。
次に、実施例1と同様に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.1±0.01で、動摩擦係数が0.09±0.01であった。いずれの摩擦係数も実施例1より小さい。
さらに、実施例1と同様に、電子顕微鏡によって、試料表面と断面との観察と分析とを行なった。この結果、金属結合したクロム微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、このクロム微粒子の集まりが、フレーク状の銀粉の表面を覆うとともに、クロム微粒子の金属結合を介してフレーク状の銀粉が結合され、フレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜が、LCP樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、静止摩擦係数が動摩擦係数に近い数値を持つため、クロム微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。
実施例1における潤滑被膜が、実施例2における潤滑被膜より、摩擦係数が小さい主な理由は、熱分解黒鉛の摩擦係数は、自己潤滑作用によって、金属フレーク粉の摩擦係数より小さいことによる。なお、実施例1の潤滑被膜の表面は、モース硬度が2.7からなる銀の微粒子で覆われる。実施例2の潤滑被膜の表面は、モース硬度が9からなるクロムの微粒子で覆われる。2つの実施例の結果から、金属微粒子の硬度の違いは、金属微粒子が40−60nmの大きさからなる粒状微粒子であるため、摩擦係数の違いに現れない。
本実施例は、クロム微粒子でフレーク状の銀粉の面同士が重なり合って結合したフレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜を形成する。平均粒径が5.2μmのフレーク状の銀粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品Ag−XF301S)を用いた。また、クロム微粒子の原料は、オクチル酸クロムCr(C7H15COO)3(和光純薬工業株式会社の製品)を用いた。また、沸点が216℃で、粘度がメタノールの6.4倍であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを、有機化合物として用いた。なお、トリエチレングリコールジメチルエーテルは、塗料やインキの溶剤として、染料の補助材料として、複写液の添加剤として、各種洗浄剤として、幅広い用途を持つ汎用的な工業用溶剤である。
最初に、48gのオクチル酸クロム(0.1モルに相応する)を、メタノールに対し10重量%の割合で分散させる。このメタノール分散液に、トリエチレングリコールジメチルエーテルの432g(メタノールと同量)を混合した。さらに、この混合液に、熱分解黒鉛の5.2gを混合した。実施例1と同様に、混合物を混合機に回転に充填し、回転と揺動を繰り返して懸濁液を作成した。
次に、LCPの記号で表記される液晶ポリマーからなる短冊状の小片を10個用意し、実施例1と同様に、幅が10cmで、深さが1mmで、長さが50cmの細長い溝を加工した。この小片の溝に、前記の懸濁液を均一に滴下した。この後、実施例1と同様に、加振機によって振動を加えた。さらに、小片を大気雰囲気の熱処理炉に入れ、290℃で1分間熱処理した。なお、LCP樹脂の融点は370℃であり、オクチル酸クロムの熱分解温度より80℃高い。
次に、実施例1と同様に、作成した10個の試料の表面の摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.1±0.01で、動摩擦係数が0.09±0.01であった。いずれの摩擦係数も実施例1より小さい。
さらに、実施例1と同様に、電子顕微鏡によって、試料表面と断面との観察と分析とを行なった。この結果、金属結合したクロム微粒子の集まりが15層前後になって積み重なり、このクロム微粒子の集まりが、フレーク状の銀粉の表面を覆うとともに、クロム微粒子の金属結合を介してフレーク状の銀粉が結合され、フレーク状の銀粉の集まりからなる潤滑被膜が、LCP樹脂の表面に形成された。この潤滑被膜の摩擦係数は小さい。なお、静止摩擦係数が動摩擦係数に近い数値を持つため、クロム微粒子の集まりが摺接摩擦に参加する効果が、静止摩擦係数に表れた。
実施例1における潤滑被膜が、実施例2における潤滑被膜より、摩擦係数が小さい主な理由は、熱分解黒鉛の摩擦係数は、自己潤滑作用によって、金属フレーク粉の摩擦係数より小さいことによる。なお、実施例1の潤滑被膜の表面は、モース硬度が2.7からなる銀の微粒子で覆われる。実施例2の潤滑被膜の表面は、モース硬度が9からなるクロムの微粒子で覆われる。2つの実施例の結果から、金属微粒子の硬度の違いは、金属微粒子が40−60nmの大きさからなる粒状微粒子であるため、摩擦係数の違いに現れない。
以上に説明した2つの実施例は一部の事例に過ぎない。つまり、粉体は、11段落と17段落とで説明した様々な材質からなる粉体が使用でき、潤滑被膜に要求される仕様に応じて粉体が選択できる。また、金属化合物は、18段落で説明した様々な金属錯イオンを有する金属錯体と、19段落で説明した様々な金属イオンからなるオクチル酸金属化合物が使用でき、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、微粒子を構成する金属が選択できる。さらに、金属化合物をアルコールに分散し、金属化合物が液相化されるため、使用できる金属化合物の制約はない。このため、潤滑被膜に要求される仕様に応じて、粉体と金属化合物とを選択し、粉体の性質と金属微粒子の性質とを兼備する潤滑被膜が形成できる。
1 熱分解黒鉛粉 2 銀微粒子
Claims (5)
- 機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法は、熱分解で金属を析出する金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成し、前記アルコールに溶解ないしは混和する第一の性質と、前記アルコールより高い粘度を有する第二の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より低い第三の性質とを兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合して混合液を作成し、潤滑作用を有する第一の性質と、密度が前記有機化合物の密度の2倍より大きい第二の性質と、無機物から構成される第三の性質とを兼備する粉体の集まりを、前記混合液に混合して懸濁液を作成する、この後、前記懸濁液を回転及び揺動させる、さらに、前記懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工し、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動を繰り返し加えて潤滑剤を製造する、この後、部品の摺接面に前記潤滑剤を移す、さらに、前記部品を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、前記摺接面に、前記粉体同士が重なり合った粉体の集まりが潤滑被膜を形成する、機械の摺接部を形成する部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法。
- 請求項1に記載した懸濁液を潤滑被膜の幅からなる懸濁液に加工する処理から、潤滑剤を摺接面に移す処理までの処理によって、前記摺接面の全面に潤滑剤を形成する方法は、潤滑被膜の幅に相当する幅と、潤滑被膜の厚みの10倍以上の深さを持つ溝を有し、かつ、直線状に移動する回転ベルトを用意し、懸濁液が充填された容器を前記ベルトの上部に配置させ、左右、前後、上下の3方向の振動を前記ベルトに繰り返し加える加振装置を該ベルトの下部に設置し、前記ベルトが下降して直線状の移動から回転に変わる位置に、部品の摺接面が前記ベルトと接するように、該部品を配置させる、この後、前記ベルトを回転させて直線状に移動させ、とともに、前記ベルト上に懸濁液の一定量ずつを連続して滴下する、前記ベルト上の懸濁液が前記加振装置に近づくと、該懸濁液に左右、前後、上下の3方向の振動が繰り返して加わり、該懸濁液は、粉体同士が重なり合った粉体の集まりが前記懸濁液中に沈んだ潤滑剤となる、さらに、前記ベルトが移動し、前記ベルト上の潤滑剤が、前記部品の摺接面と接すると、該摺接面が円周面である場合は、前記部品が回転し、該摺接面が平面である場合は、前記部品が直線状に移動し、とともに、前記ベルトが下降し、これによって、前記ベルト上の潤滑剤が前記摺接面に移り、該摺接面の全面に潤滑剤が移った際に、前記部品の回転ないしは移動を一旦停止させ、前記ベルトの回転も一旦停止させ、とともに、前記ベルト上への前記懸濁液の滴下を一旦停止させる、これによって、前記摺接面の全面に前記潤滑剤が形成される、この後、次の部品の摺接面が前記ベルトと接するように、前記ベルトが下降して回転する位置に、該部品を配置させ、前記ベルトを再度稼働させ、とともに、前記懸濁液の前記ベルト上への滴下を再開させ、前記次の部品の摺接面の全面に前記した潤滑剤を形成する、こうした処理を繰り返し、前記部品の1個ずつの摺接面に潤滑剤を形成する方法。
- 請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記粉体は、軟質金属からなるフレーク粉、ないしは、層状の結晶構造を持つ無機化合物からなる粉体、ないしは、層状の結晶構造を持つ黒鉛粉である、請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法。
- 請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記金属化合物は、無機物の分子ないしはイオンが配位子になって金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機塩で構成された金属錯体であり、前記有機化合物は、カルボン酸エステル類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法。
- 請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法において、前記金属化合物は、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、前記有機化合物は、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物である、請求項1に記載した部品の摺接面に潤滑被膜を形成する方法。
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CN115880284A (zh) * | 2023-02-06 | 2023-03-31 | 卡松科技股份有限公司 | 一种用于润滑油磨粒均匀度的检测方法及系统 |
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2017
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