JP2015161027A5 - - Google Patents

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微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の製造方法
本発明は、鱗片状基材を少なくとも一種類の金属化合物で覆い、この鱗片状基材を熱処理して金属化合物を熱分解し、金属、合金、複合金属ないしは金属酸化物の少なくとも一種類の材質からなる微粒子の集まりで鱗片状基材を覆い、微粒子の集まりを介して結合された鱗片状基材の集まり、ないしは、微粒子集まりで覆われた鱗片状基材を製造する。なお、本発明における鱗片状基材はフレーク状の微細な粉体であって、炭素などの無機物、ガラス、マイカ、アルミナ、シリカ、酸化鉄などの金属酸化物、アルミ、銅、錫、鉄、ニッケル、銀、金などの金属、これらの金属を含む合金などの様々な材質からなる。また、本発明における微粒子とは、粒子の大きさが10100nmの範囲に入る微粒子をいう。
金属ないしは金属酸化物で被覆された鱗片状基材の用途に、自動車の車体などに用いられている塗料用の顔料がある。つまり、観察角度によって明度が変化し、ハイライト(正反射光近傍)では干渉色を発現する塗色は、微妙な色変化をするメタリック塗色として注目されている。例えば、特許文献1には、ガラスフレークないしは珪砂フレークの表面に金属酸化物の被膜を形成した塗料用顔料が記載されている。
また、金属で被覆された鱗片状基材の用途に、導電性ペーストに用いられている導電性フィラーがある。つまり、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池の基板の電極や回路、電磁波を遮蔽するシートなどの導電体を形成するために、金属粉などの導電性の粉体を樹脂などの有機成分中に分散させた導電性ペーストが使用されている。一般に、導電性ペーストは、焼成型の導電性ペーストと樹脂硬化型の導電性ペーストに分類される。焼成型の導電性ペーストでは、焼成により導体を形成するが、樹脂硬化型の導電性ペーストでは、樹脂の体積収縮により金属粉同士が接触して電気的に導通する。そのため、樹脂硬化型の導電性ペーストでは、接触面積が大きいフレーク状の金属粉が使用される。しかし、銀などの金属が高価であるため、使用する金属量を少なくしても導電性が確保できる導電性ペーストが望まれる。このような導電性ペーストとして、ガラスフレークの表面を、無電解メッキにより銀の導電性物質で被覆した導電性粉体と、液状樹脂組成物とからなる導電性組成物が提案されている。例えば、特許文献2には、フレーク状硝子粉の表面を銀で被覆し、この銀で被覆されたフレーク状硝子粉の表面に表面処理剤を付着させることにより、使用する銀の量を少なくした導電性ペーストが開示されている。
さらに、フレーク状の銀粉はフレーク状の銅粉に比べ、マイグレーションが起こりやすく、ハンダ食われ性が劣るため、これらの欠点を克服する手段として銀被覆銅粉がある。例えば、特許文献3には、銀イオンと金属銅との置換反応を、銀イオンが存在する有機溶媒含有溶液中好ましくは有機溶媒相と水溶媒相からなるエマルジョン中で起こさせることにより、銅粉に銀被覆処理を施す際、銅粉の粒子表面に付着している疎水性物質や界面活性剤を除去するための脱脂や洗浄の工程を省略し、銀被覆を安定して形成する銀被覆処理技術が開示されている。また、特許文献4にはフレーク状の銅粉を金で被覆する技術が、特許文献5にはフレーク状のニッケル粉をパラジウムで被覆する技術が開示されている。
鱗片状基材の表面を金属で被覆するにあたって、真空蒸着法やスパッタリング法などのPVD法(Physical Vapor Deposition法であり、物理気相成長法である)やCVD法(Chemical Vapor Deposition法であり、化学気相成長法である)を用いる場合は、被膜形成の費用が極めて高価で、表面全体を満遍なく被覆するには、鱗片状基材を真空状態で浮遊させて長時間処理する必要があるため、安価な製法である無電解メッキ法で金属被膜を形成している。無電解メッキ法による金属被膜のメッキ層と鱗片状基材との結合力は、鱗片状基材が金属である場合は金属結合に基づき、鱗片状基材が非金属である場合はファンデルワールス力に基づく。メッキ層が金属からなる基材と金属結合するには、メッキ面から全ての酸化物、水分および汚染物質を完全に除去し、メッキ面を純粋表面ないしは清浄表面にしなければならないが、現実的には純粋表面ないしは清浄表面を得ることは困難である。このため、純粋表面ないしは清浄表面に近づける表面処理を行うほど、メッキ面の前処理費用がかさむ。いっぽう、酸化物、水分および汚染物質の除去が不完全であるほど、メッキ層は基材の表面から剥がれ易い。さらに、金属の標準電極電位が負の大きな値を持つジルコニウム、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの金属を無電解メッキで析出することは困難である。また、基材が非金属である場合は、メッキ層が結合力の弱いファンデルワールス力で結合するため、メッキ層に機械的応力ないしは熱的応力が加わるとメッキ層が容易に剥離する。
また、鱗片状の基材の表面を金属酸化物で被覆する方法は、金属アルコキシドを原料として用い、金属アルコキシドを加水分解して縮重合させゾルとし、さらにゾルの水分を取り除いてゲルとし、このゲルを熱処理して金属酸化物の微粒子を析出させるゾル・ゲル法が用いられている。析出した金属酸化物の微粒子が堆積して金属酸化物の被膜を形成するため、析出した金属酸化物の微粒子同士が互いに結合せず、金属酸化物の被膜に機械的応力ないしは熱的応力が加わると、金属酸化物の微粒子は容易に剥離する。
特開平9−176515号公報 特開2013−206777号公報 特開2006−161081号公報 特開平6−108102号公報 特開平6−103816号公報
しかしながら、微細な粉体で粒度分布を持つ鱗片状基材同士を直接結合することは困難である。このため、従来は塗料やペースト材料の製造で行われているように、バインダーとして添加した高分子材料の結合を介して鱗片状基材を結合している。しかし、高分子材料が絶縁性で非熱伝導性であるため、結合された鱗片状基材の集まりの導電性と熱伝導性が低下する。また、高分子材料は耐熱性が低いため、結合された鱗片状基材の集まりは、熱処理を伴う加工ができない。さらに、高分子材料が機械的強度に劣るため、結合された鱗片状基材は、圧縮や圧延などを伴う加工ができない。このように、高分子材料の結合を介して鱗片状基材を結合すると、高分子材料の性質が反映され、鱗片状基材が持つ固有の性質を犠牲にせざるを得ないという問題点を持つ。
また5段落で説明したように、金属被膜で覆われた鱗片状基材は、無電解メッキ法による問題点を持ち、金属酸化物で覆われた鱗片状基材は、ゾル・ゲル法による問題点を持つ。れらの鱗片状基材をフィラーとし、バインダーである高分子材料の結合によって、鱗片状基材を結合すると、前記した分子材料の性質に依る制約がもたらされる。
いっぽう、鱗片状基材は、無機物、金属酸化物、金属あるいは合金などの多種多様の材質からなり、さらに、多種多様な形状と粒度分布を有する。このため、鱗片状基材の全般について、材質や形状や粒度分布に係わらず、金属、合金、複合金属ないしは金属酸化物などの微粒子の集まりで鱗片状基材を覆うことができれば、微粒子の集まりが占める体積は、鱗片状基材の体積より著しく小さいため、鱗片状基材の性質を犠牲にすることなく、微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が実現でき、また、微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合された鱗片状基材の集まりが実現できる。さらに、熱処理や、圧縮、圧延といった熱的、機械的応力を伴う加工が可能になる。また、微粒子の材質と大きさとに基づく質を新たに持つ。しかしながら、このようなみはこれまでのところ全くない。
従って、第一に、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、微粒子の集まりが鱗片状基材を覆う。第二に、安価な材料を用いて安価な製造費用で、微粒子の集まり鱗片状基材を覆う。第三に、連続した処理で量の鱗片状基材が微粒子の集まりで覆われる。第四に、鱗片状基材が、微粒子を構成する金属、合金、複合金属ないしは金属酸化物などの多様な性質を持つ。第五に、微粒子同士が互いに結合し、微粒子が鱗片状基材の表面から剥がれない。これら5つの要件を兼備して微粒子の集まりが鱗片状基材を覆えば、従来における塗料用顔料や導電性フィラーが安価に製造でき、また、鱗片状基材は微粒子の性質を長期にわたって保持できる。さらに、熱処理や圧縮、圧延などの熱的、機械的応力を伴う加工が鱗片状基材に加えられる。また、金属、合金、複合金属ないしは金属酸化物などの多種多様な性質を持つ鱗片状基材が新たな用途に適応できる。本発明における解決しようとする課題は、前記した5つの要件を兼備する鱗片状基材を実現することにある。
本発明に係わる1特徴手段は、鱗片状基材同士が金属微粒子同士の金属結合で結合された鱗片状基材の集まりを製造する製造方法であり、該製造方法は、熱処理で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材が前記金属化合物で覆われた処理基材を作成する、さらに、該処理基材の集まりに前記金属化合物が熱分解される熱処理を施す、これによって、前記鱗片状基材金属微粒子の集まりが一斉に析出し、該金属微粒子同士が金属結合することで、前記鱗片状基材同士前記金属微粒子同士の金属結合を介して結合された片状基材の集まりが製造される製造方法である
つまり、本特徴手段に依れば、鱗片状基材が金属微粒子の集まりで覆われるとともに、金属結合した金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりが製造される。この鱗片状基材の集まりには、金属微粒子の集まりの性質が反映され、導電性や熱伝導性の低下や耐熱性の低下がなく、熱処理や圧縮成形や圧延加工も可能で、微粒子固有の性質を新たに持つ。例えば、鱗片状のアルミナ粉の集まりから成形体が容易に製造できる。つまり、熱処理でアルミ二ウムを析出するアルミニウム化合物で覆われたアルミナ粉の集まりを型に充填し、このアルミナ粉の集まりを熱処理してアルミ二ウム化合物を熱分解すると、アルミニウム微粒子同士の金属結合を介してアルミナ粉が結合された成形物が製造できる。この成形物は、金属結合したアルミニウム微粒子の集まりでアルミナ粉が覆わるため、アルミニウム微粒子の集まりが機械的ないしは熱的応力の緩和層として作用し、セラミックス固有の性質である脆性を持たないアルミナからなる成形物が得られる。
本製造方法は、熱処理で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第一の工程と、該アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入して懸濁液を作成する第二の工程と、該懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材が前記金属化合物で覆われた処理基材を作成する第三の工程と、該処理基材の集まりに、前記金属化合物が熱分解される熱処理を施す第四の工程とからなり、これら4つの工程を連続して実施することで、前記鱗片状基材が金属微粒子の集まりで覆われるとともに、該金属微粒子同士の金属結合を介して前記鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりが製造される製造方法である。つまり、本製造方法に依れば、極めて簡単な4つの処理を連続して実施することで、鱗片状基材が金属微粒子の集まりで覆われるとともに、金属微粒子同士の金属結合を介して鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりが製造される。このため、安価な製造費用で鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりが大量に製造される。
すなわち、第一の工程は、金属化合物をアルコールに分散するだけの処理である。第二の工程は、アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入するだけの処理である。第三の工程は、アルコールを気化させるだけの処理である。第四の工程は、金属化合物を熱処理だけの処理である。このような極めて簡単な4つの処理を連続して実施することで、金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合された新たな性質を持つ鱗片状基材の集まりが、大量にかつ安価に製造できる
つまり、本特徴手段、最初に、鱗片状基材を熱処理で金属を析出する金属化合物で覆う。次に鱗片状基材の集まりを熱処理して金属化合物を熱分解する。この際、10100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属微粒子の集まりが一斉に析出する。金属化合物の熱分解で析出した金属は、不純物を持たない活性状態にあるため、析出した粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合する。この結果、金属微粒子の集まりで鱗片状基材が覆われるとともに、金属結合した金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合される。金属結合した金属微粒子は鱗片状基材から脱落せず、鱗片状基材同士の結合が破壊されない。このため、鱗片状基材の集まりに、熱処理や圧縮、圧延などの熱的、機械的応力を伴う加工を施すことができ、鱗片状基材の集まりからなる成形物や成形体などの加工品が製造できる。
いっぽう、鱗片状基材はフレーク状の微細な粉体であり、ガラス、マイカ、アルミナ、シリカ、ヘマタイトなどの金属酸化物、アルミ、銅、錫、鉄、ニッケル、銀、金などの金属、これらの金属を含む合金など多種多様な材質で構成され、さらに、フレーク状の粉体は多種多様な形状と粒度分布を形成する。本特徴手段に依れば、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、金属微粒子で覆われるとともに、金属微粒子同士の金属結合を介して結合された鱗片状基材の集まりが、一度に大量に製造できる。なお、いずれの材質からなる鱗片状基材で、鱗片状基材は金属化合物が熱分解する温度以上の耐熱性を持つため、金属化合物の熱分解によって鱗片状基材の性質が不可逆変化することはない。
すなわち、金属化合物のアルコール分散液に、鱗片状基材の集まりを投入して懸濁液を作成し、アルコールを気化させれば、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、鱗片状基材は金属化合物で均一に覆われる。なぜならば、金属化合物の粉体をアルコールに分子状態で分散し、アルコールを気化すれば、金属化合物は元の粉体に戻るからである。身近な事例を挙げれば、砂糖の粉を水に分子状態に分散し、この砂糖水を昇温して水を気化すれば、砂糖は元の粉に戻る。従って、金属化合物のアルコール分散液に片状基材の集まりを投入すれば、全ての鱗片状基材の表面はアルコール分散液と接触する。この後、アルコールを気化すれば、全ての鱗片状基材は金属化合物で均一に覆われる。
次に、この鱗片状基材の集まりを熱処理して、金属化合物を熱分解させる。鱗片状基材の表面で金属化合物の熱分解が始まると、有機物ないしは無機物と金属(分子クラスターの状態にある)とに分離し、比重が大きい金属は鱗片状基材の表面に留まり、比重が小さい有機物ないしは無機物は金属の上に移動する。さらに温度が上がると、気化熱を奪って有機物ないしは無機物が気化する。有機物ないしは無機物の気化が完了すると、金属は熱エネルギーを得て粒状の微粒子を形成して安定化し、熱分解を終える。金属微粒子の集まりが一斉に析出する際に、金属が不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合する。この結果、鱗片状基材は金属微粒子の集まりで覆われるとともに、金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合される。
なお、鱗片状基材の表面に酸化物、水分および汚染物質が付着しても、アルコールが気化する際に水分と汚染物質の一部が優先して気化する。アルコールが気化した後に汚染物質が残存しても、金属化合物が熱分解する際に、汚染物質が先行して熱分解して気化する。金属化合物が熱分解した後に、酸化物と一部の汚染物質が基材の表面に残留しても、残留した酸化物と汚染物質の表面に、金属微粒子の集まりが析出する。なぜなら、残留した酸化物と汚染物質は、金属化合物の熱分解が完了する温度でも安定な物質であるからである。このため、鱗片状基材の表面の前処理が不要になり、安価な製作費用によって、金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合された鱗片状基材の集まりが製造できる。
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、鱗片状基材の全般について、粉体の材質や形状や粒度分布に係わらず、鱗片状基材が金属微粒子の集まりで覆われるとともに、金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合した鱗片状基材の集まりが、一度に大量に製造できる。また、安価な材料である金属化合物を熱処理するだけの簡単な処理であり、さらに、鱗片状基材の前処理が不要になるため、極めて安価な製造費用で鱗片状基材の集まりが製造できる。さらに、この鱗片状基材は、金属微粒子を構成する金属の性質と、微粒子の大きさに基づく微粒子固有の性質とを有する。この結果、本特徴手段に依れば、7段落で説明した5つの要件を満たす鱗片状基材の集まりが製造される。
本発明に係わる2特徴手段は、第1特徴手段における鱗片状基材として、強磁性の鱗片状基材を用い第1特徴手段における金属化合物として、熱処理で自発磁化を有する金属酸化物微粒子を析出する金属化合物を用い第1特徴手段に記載した製造方法に準拠して、鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、前記金属化合物の熱処理で析出した金属酸化物微粒子の集まりが前記強磁性の鱗片状基材に磁気吸着し、該強磁性の鱗片状基材が前記磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりで覆われるとともに、該磁性の鱗片状基材同士が、前記金属酸化物微粒子同士の磁気吸着で結合された片状基材の集まりが製造される製造方法である。
特徴手段に依れば、前記した第1特徴手段において、鱗片状基材が強磁性の鱗片状基材で構成し、金属微粒子が自発磁化を有する金属酸化物微粒子で構成すると、自発磁化を有する金属酸化物微粒子が、強磁性の鱗片状基材に磁気吸着し、鱗片状基材が金属酸化物微粒子の集まりで覆われるとともに、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合された新たな鱗片状基材の集まりが製造される。
すなわち、従来は、微細な粉体で、かつ、粒度分布を持つ強磁性の鱗片状基材同士を結合には、バインダーとしての高分子材料の結合を介して鱗片状基材を結合している。しかし、高分子材料が非磁性であるため、結合された鱗片状基材の集まりの磁気特性が低下する。また、高分子材料は耐熱性が低いため、結合された鱗片状基材を熱処理する、例えば歪を除去して磁気特性を向上させる磁気焼鈍が行えない。さらに、高分子材料が機械的強度に劣るため、結合された鱗片状基材を圧縮成形できず、圧縮成形によって磁気特性の向上が図れない、あるいは、圧延加工によってシート成形物が加工できない。これらの問題点はいずれも、バインダーとしての高分子材料によってもたらされる。
これに対し、例えば、鉄、ニッケル、コバルトからなる強磁性の鱗片状金属粉や、これら金属を含む合金からなる強磁性の鱗片状合金粉に、絶縁体で耐熱性とモース硬度とが金属粉や合金粉よりまさる自発磁化を有する金属酸化物、例えば、マグヘマイト微粒子の集まりを磁気吸着させると、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して金属粉や合金粉同士が結合する。この金属粉や合金粉の集まりに、圧縮や圧延の加工を加えると成形体ができ、成形体の機械的強度と磁気特性が著しく向上する。また、圧縮時の歪を除去する磁気焼鈍もでき、さらに、成形体における渦電流損失が著しく低下する。
つまり、本製造方法に依れば、前記の第1特徴手段において、鱗片状基材として強磁性の鱗片状基材を用い、金属化合物として熱処理で自発磁化を有する金属酸化物を析出する金属化合物を用い、第1特徴手段に記載した4つの処理を連続して実施すると、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりで鱗片状基材が覆われるとともに、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して鱗片状基材同士が結合された新たな鱗片状基材の集まりが製造される。このため、安価な製造費用で新たな鱗片状基材の集まりが大量に製造される
すなわち、本特徴手段では、最初に、熱処理で自発磁化を有する金属酸化物を析出する金属化合物で、強磁性の鱗片状基材を覆う。次に、この鱗片状基材の集まりを熱処理して金属化合物を熱分解する。この際、10100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属酸化物微粒子の集まりが析出する。析出した金属酸化物微粒子は、鱗片状基材に磁気吸着するとともに、微粒子同士も互いに磁気吸着する。この結果、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合される。なお、金属酸化物が微粒子であるため、一旦磁気吸着した金属酸化物微粒子を分離することは困難である。
つまり、金属化合物で覆われた鱗片状基材の集まりを熱処理し、金属化合物を熱分解させると、鱗片状基材の表面で金属化合物の熱分解が始まる。最初に有機物と金属酸化物(分子クラスターの状態にある)とに分離し、比重が大きい金属酸化物は鱗片状基材の表面に留まり、比重が小さい有機物は金属酸化物の上に移動する。さらに温度が上がると、気化熱を奪って有機物が気化する。有機物の気化が完了すると、金属酸化物は熱エネルギーを得て粒状の微粒子を形成して安定化し分解を終える。微粒子が一斉に析出する際、微粒子同士が互いに磁気吸着する。この結果、金属酸化物微粒子の集まりが鱗片状基材に磁気吸着し、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合する。
また、9段落で説明した金属微粒子の集まりで鱗片状基材を覆う事例と同様に、強磁性の鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、鱗片状基材が磁気吸着した金属酸化物微粒子で覆われ、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して結合された鱗片状基材の集まりが、一度に大量に製造できる。なお、強磁性の鱗片状基材は、金属化合物が熱分解する温度以上の耐熱性を持つため、金属化合物の熱分解によって鱗片状基材の性質が不可逆変化しない。さらに、鱗片状基材の表面の前処理は不要になる。
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、強磁性の鱗片状基材の全般について、強磁性の粉体の材質や形状や粒度分布に係わらず、鱗片状基材が自発磁化を有する金属酸化物微粒子の集まりで覆われるとともに、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合した新たな鱗片状基材の集まりが、一度に大量に製造できる。また、安価な材料である金属化合物を熱処理するだけの処理であり、また、鱗片状基材の前処理が不要になるため、極めて安価な製造費用で新たな鱗片状基材の集まりが製造できる。さらに、この鱗片状基材は、金属酸化物の性質と、微粒子の大きさに基づく固有の性質とを新たに持つ。この結果、本特徴手段に依れば、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材の集まりが製造される。
本発明に係わる3特徴手段は、第1特徴手段における金属化合物として、熱処理で金属を析出する第一の金属化合物と、該第一の金属化合物が金属を析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物とからなる2種類の金属化合物を用い、第1特徴手段に記載した製造方法に準拠して、鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、第一の金属化合物の熱処理で金属微粒子の集まりが鱗片状基材の表面に析出し、該金属微粒子同士が金属結合する、この後、第二の金属化合物の熱処理で金属酸化物の微粒子の集まりが、前記金属結合した金属微粒子の集りの外側に析出し、前記金属結合した金属微粒子の集まりと前記金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた片状基材の集まりが製造される製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、鱗片状基材を熱処理で金属を析出する第一の金属化合物で覆い、さらにその表面を、熱処理で金属酸化物を析出する第二の金属化合物で覆う。この鱗片状基材の集まりを、連続して2回の熱処理を行う。第一の熱処理で第一の金属化合物が熱分解し、10100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属微粒子が析出する。第二の熱処理で第二の金属化合物が熱分解し、10100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属酸化物の微粒子が析出する。この結果、鱗片状基材は2種類の微粒子の集まりからなる2重構造で覆われる。
すなわち、本製造方法は、熱処理で金属を析出する第一の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第一の工程と、アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入して第一の懸濁液を作成する第二の工程と、該第一の懸濁液を昇温してアルコールを気化させ、鱗片状基材の表面が第一の金属化合物で覆われた第一の処理基材を作成する第三の工程と、第一の金属化合物が金属を析出する温度より高い温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第四の工程と、該アルコール分散液に第一の処理基材の集まりを投入して第二の懸濁液を作成する第五の工程と、該第二の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、第一の処理基材が第二の金属化合物で覆われた第二の処理基材を作成する第六の工程と、該第二の処理基材の集まりを、前記第一の金属化合物を熱分解する熱処理と、前記第二の金属化合物を熱分解する熱処理とからなる2回の熱処理を連続して行う第七の工程とからなり、これら7つの工程を連続して実施することで、金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが製造される製造方法である。つまり、本製造方法に依れば、極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造によって覆われた鱗片状基材の集まりが大量に製造される。すなわち、第一の工程と第四の工程とは、金属化合物をアルコールに分散するだけの処理である。第二の工程と第五の工程とは、アルコール分散液に、鱗片状基材の集まりないしは第一処理基材の集まりを投入するだけの処理である。第三の工程と第六の工程とは、アルコールを気化させるだけの処理である。第七の工程は、2種類の金属化合物を連続した2回の熱処理で熱分解するだけの処理である。このような極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた新たな鱗片状基材の集まりが、大量にかつ安価に製造できる
すなわち、第一の金属化合物のアルコール分散液に、鱗片状基材の集まりを投入して懸濁液を作成し、アルコールを気化させれば、鱗片状基材の材質や粒度分布に係わらず、鱗片状基材は第一の金属化合物で均一に覆われる。同様に、第二の金属化合物のアルコール分散液に、第一の金属化合物で覆われた鱗片状基材の集まりを投入し、アルコールを気化させれば、第一の金属化合物で覆われた鱗片状基材は、その表面を第二の金属化合物で覆われる。この結果、鱗片状基材は、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、2種類の金属化合物の被膜からなる2重構造で覆われる。
つまり、金属化合物がアルコールに分散できる分散濃度は、重量割合で10%程度までである。このため、第二の金属化合物のアルコール分散液に、第一の金属化合物の被膜で覆われた鱗片状基材の集まりを投入しても、第一の金属化合物がアルコールに再度分散することはない。従って、第一の金属化合物で覆われた鱗片状基材の集まりを、第二の金属化合物のアルコール分散液に投入し、この後、アルコールを気化すれば、鱗片状基材は2種類の金属化合物の被膜からなる2重構造で覆われる。
さらに、片状基材の集まりに対し2回の熱処理を連続して実施する。第一の熱処理で第一の金属化合物を熱分解させ、第二の熱処理で第二の金属化合物を熱分解させる。つまり、熱分解温度が低い第一の金属化合物が、鱗片状基材の表面で優先して熱分解を始め、有機物ないしは無機物と金属(分子クラスターの状態にある)とに分離し、比重が大きい金属は鱗片状基材の表面に留まり、比重が小さい有機物ないしは無機物は金属の上に移動する。従って、有機物ないしは無機物の上に第二の金属化合物の被膜が存在する。さらに温度が上がると、気化熱を奪って有機物ないしは無機物が気化し、第二の金属化合物の被膜を貫通して蒸発する。有機物ないしは無機物の気化が完了すると、金属は熱エネルギーを得て粒状の微粒子を形成して安定化し、熱分解を終える。この際、析出した金属が不純物を持たない活性状態にあるため、粒状の金属微粒子を形成して安定化する際に、金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合して金属微粒子の集まりを形成する。さらに温度が上がると、熱分解温度が高い第二の金属化合物の熱分解が始まり、有機物と金属酸化物とに分離し、有機物が気化熱を奪って気化し、有機物の気化が完了すると、金属酸化物は熱エネルギーを得て粒状の微粒子を形成して安定化し、熱分解を終える。こうして、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、鱗片状基材が、金属結合した金属微粒子の集まりと金属酸化物の微粒子の集まりからなる微粒子の2重構造で覆われる。
なお、第一の金属化合物の熱分解で析出する粒状の金属微粒子は、互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが鱗片状基材を覆う。いっぽう、金属酸化物の微粒子の集まりが、金属微粒子の集まりの表面を覆わなければ、9段落で説明した第1特徴手段のように、鱗片状基材同士が金属結合した金属微粒子の集まりを介して結合する。つまり、金属酸化物の微粒子同士は結合しないため、金属酸化物の微粒子で覆われた鱗片状基材同士は結合しない。従って、鱗片状基材の表面を金属微粒子と金属酸化物の微粒子とからなる微粒子の2重構造で覆う、鱗片状基材同士の結合が回避できる。
つまり、2種類の金属化合物の熱分解温度が異なるため、金属微粒子と金属酸化物微粒子との境界面において、金属微粒子と金属酸化物微粒子が互いに反応せず、金属微粒子と金属酸化物微粒子とは結合しない。また、金属酸化物は酸化物であるため、互いに金属結合、共有結合ないしはイオン結合しない。いっぽう、粒状の金属微粒子は互いに接触する部位で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが鱗片状基材を覆う。
また、9段落で説明した金属微粒子の集まりで鱗片状基材を覆う事例と同様に、鱗片状基材の材質や形状や粒度分布に係わらず、微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが、一度に大量に製造できる。また、鱗片状基材は2種類の金属化合物が熱分解する温度以上の耐熱性を持つため、金属化合物の熱分解で鱗片状基材の性質が不可逆変化することはない。さらに、9段落で説明した事例と同様に、鱗片状基材の表面の前処理が不要になる。また、安価な材料である2種類の金属化合物を熱処理するだけの極めて簡単な処理であり、製造費用は極めて安価で済む。さらに、この鱗片状基材は、金属の性質と金属酸化物の性質と、微粒子の大きさに基づく固有の性質とを持つ。この結果、本特徴手段に依れば、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材の集まりが製造される。
本発明に係わる4特徴手段は、第3特徴手段における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた片状基材の集まりが製造される製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、前記した第3特徴手段に基づいて製造した鱗片状基材は、表層の金属酸化物の微粒子同士が結合しないため、鱗片状基材の集まりに負荷を加える、例えば、鱗片状基材の集まりを容器に入れ、加振機によって容器に振動を加えると、金属酸化物微粒子の集まりは鱗片状基材から容易に脱落し、鱗片状基材の集まりが個々の鱗片状基材に分離する。この後、メッシュフィルターを通すと、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた片状基材が得られる。金属微粒子は互いに金属結合しているため、金属微粒子は鱗片状基材の表面から脱落せず、鱗片状基材は長期にわたって金属微粒子の性質を持つ。また、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりに、熱処理や圧縮、圧延などの熱的、機械的応力を伴う加工を施すことで、成形物や成形体の加工品の製造ができる。
このような鱗片状基材の集まりを塗料の顔料に用いる場合は、鱗片状基材が容易に塗料に分散し、この塗料は、金属微粒子の性質が長期にわたって保持できる作用効果を持つ。電性フィラーとして用いる場合は、鱗片状基材が容易に導電性ペーストに分散し、この導電性ペーストは、金属微粒子の性質が長期にわたって保持できる作用効果を持つ。
さらに塗料の顔料に用いる場合は、鱗片状基材が10100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属微粒子で覆われるため、鱗片状基材の表面は可視光線の波長より短い10100nmの大きさの範囲からなる凹凸が形成され、光の白色散乱が殆どなく、染料並みの彩度と透明性を持つ顔料として作用する。また、微粒子の集まりの厚みが、可視光線の波長の1/4ないしはその整数倍であれば、金属微粒子の表面での反射光と鱗片状基材の表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、その波長の色調が強い反射光となる。いっぽう、金属微粒子の厚みは、鱗片状基材に吸着した金属化合物の量によって自在に変えられるため、強い反射光となる色調を自在に変えられる。さらに、鱗片状基材の材質と金属の材質との組み合わせによって、鱗片状基材が発する色調を様々な色調に変えることができる。ちなみに可視光線に相当する電磁波の波長は、380−750nmである。
いっぽう、導電性フィラーに用いる場合は、金属微粒子同士が金属結合で結合されるため、電気導電と熱伝導との経路が金属微粒子に形成され、優れた電気導電と熱伝導とを兼ねるため、導電性フィラーの充填率を従来の導電性フィラーに比べて下げても、導電性が確保できるため、導電性ペーストが安価に製造できる作用効果をもたらす。
さらに、ガラス、マイカ、シリカなどの絶縁性の金属酸化物からなる鱗片状基材を金属微粒子の集まりで覆うと、鱗片状基材は金属の導電性と熱伝導性の性質持ち、金属からなる鱗片状基材に比べて重量低減の効果がもたらされる。例えば、鉛ガラスを除くガラスの密度は2.22.6g/cmであり、銅の密度は8.96g/cmであり、銀の密度は10.49g/cmである。このため、銅ないしは銀の微粒子で覆われたガラスフレークは銅ないしは銀の性質を持つが、銅粉ないしは銀粉より重量が低減するため、塗料の顔料に用いる場合は塗料における顔料の分散性が向上し、導電性フィラーに用いる場合は導電性ペーストにおける導電性フィラーの分散性が向上する。
以上説明したように、本特徴手段に依れば、13段落で説明した微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加えるだけで、金属微粒子で覆われた鱗片状基材が製造できる。この結果、7段落で説明した5つの要件を満たす片状基材が製造される。
本発明に係わる5特徴手段は、4特徴手段で製造した金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材に、さらに、前記金属微粒子とは異なる第二の金属からなる金属結合した金属微粒子の集まりと、金属酸化物とからなる微粒子の集まりとを析出させ、2種類の金属微粒子の集まりからなる複合金属微粒子の集まりと、金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法であり、該製造方法は、第4特徴手段で製造した片状基材を鱗片状基材として用い、熱処理で新たな金属を析出する第一の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に前記鱗片状基材の集まりを投入して第一の懸濁液を作成し、該第一の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材が前記第一の金属化合物で覆われた第一の処理基材を作成する、さらに、前記第一の金属化合物が金属を析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に前記第一の処理基材の集まりを投入して第二の懸濁液を作成し、該第二の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記第一の処理基材が前記第二の金属化合物で覆われた第二の処理基材を作成する、さらに、該第二の処理基材の集まりを、前記第一の金属化合物が熱分解される第一の熱処理と、前記第二の金属化合物が熱分解される第二の熱処理とからなる2回の熱処理を連続して行う、これによって、第4特徴手段における金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材に、前記第二の金属からなる金属微粒子の集まりが析出し、該第二の金属微粒子同士が金属結合し、2種類の金属微粒子の集まりからなる複合金属微粒子の集まりで前記請求項4の鱗片状基材が覆われ、さらに、その外側を金属酸化物微粒子の集まりからなる微粒子が覆い、前記複合金属微粒子の集まりと前記金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた片状基材の集まりが製造される製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、鱗片状基材が複合金属微粒子と金属酸化物微粒子とからなる微粒子の2重構造で覆われる。すなわち、15段落で説明した製方法で、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を原料として用いる。この鱗片状基材を、熱処理で前記の金属とは異なる新たな金属を析出する金属化合物で覆い、さらにその表面を、熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物で覆う。さらに、2種類の金属化合物の被膜の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりを、2回の熱処理を連続して行う。第一の熱処理で、新たな金属を析出する金属化合物を熱分解し、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材に新たな金属が析出し、新たな金属が金属結合した金属微粒子の集まりが複合金属微粒子の集まりを形成する。第二の熱処理で金属酸化物の微粒子析出る。この結果、鱗片状基材は複合金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりからなる微粒子の2重構造で覆われ、13段落で説明した微粒子の2重構造とは異なる材質で構成されるため、鱗片状基材は複合金属微粒子に基づく質を新たに持つ。
すなわち、本製造方法は、第4特徴手段で製造した鱗片状基材を用い、熱処理で新たな金属を析出する第一の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第一の工程と、該アルコール分散液に前記鱗片状基材の集まりを投入して第一の懸濁液を作成する第二の工程と、該第一の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材の表面が前記第一の金属化合物で覆われた第一の処理基材を作成する第三の工程と、前記第一の金属化合物が金属を析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第四の工程と、該アルコール分散液に前記第一の処理基材の集まりを投入して第二の懸濁液を作成する第五の工程と、該第二の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記第一の処理基材が前記第二の金属化合物で覆われた第二の処理基材を作成する第六の工程と、該第二の処理基材の集まりを、前記第一の金属化合物が熱分解される第一の熱処理と、前記第二の金属化合物が熱分解される第二の熱処理とからなる2回の熱処理を連続して行う第七の工程とからなり、これら7つの工程を連続して実施することで、複合金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが製造される製造方法である。つまり、本製造方法に依れば、第4特徴手段で製造した鱗片状基材を用い、極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、複合金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが大量に製造される。すなわち、第一と第四の工程とは、金属化合物をアルコールに分散するだけの処理である。第二の工程と第五の工程とは、アルコール分散液に、鱗片状基材の集まりないしは第一処理基材の集まりを投入するだけの処理である。第三の工程と第六の工程とは、アルコールを気化させるだけの処理である。第七の工程は、2種類の金属化合物を連続した2回の熱処理で熱分解させるだけの処理である。このような極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、複合金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた新たな鱗片状基材の集まりが、大量にかつ安価に製造できる
つまり、第一の金属化合物が熱分解して、新たな金属を析出する際に、鱗片状基材を覆った金属結合した金属微粒子の集まりが新たに析出する金属の核となって、すでに形成された金属結合した金属微粒子の表面に新たな金属が析出し、新たな金属が金属結合した金属微粒子の集まりが、すでに形成された金属結合した金属微粒子の集まりと共に、複合金属微粒子の集まりを形成する。さらに温度が上がると、金属酸化物を析出する金属化合物が熱分解し、金属酸化物の微粒子が、複合金属微粒子の集まりの表面に析出する。この結果、鱗片状基材は、複合金属と金属酸化物とからなる微粒子の2重構造で覆われる。
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、13段落で説明した事例と同様に、鱗片状基材の全般について、粉体の材質や形状や粒度分布に係わらず、複合金属微粒子と金属酸化物微粒子との微粒子の2重構造で覆われた新たな鱗片状基材の集まりが一度に大量に製造できる。また、安価な材料である2種類の金属化合物を熱処理するだけの極めて簡単な処理であり、さらに、鱗片状基材の前処理が不要になるため、製造費用は極めて安価で済む。さらに、この鱗片状基材は、複合金属の性質と金属酸化物の性質と、さらに、微粒子の大きさに基づく固有の性質を持つ。この結果、本特徴手段に依れば、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材の集まりが製造される。
本発明に係わる6特徴手段は、5特徴手段における微粒子の2重構造によって覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、複合金属微粒子の集まりで覆われた片状基材が製造される製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、前記した第5特徴手段における鱗片状基材は、表層の金属酸化物の微粒子同士は結合しないため、鱗片状基材の集まりに負荷を加える、例えば、鱗片状基材の集まりを容器に入れ、加振機によって容器に振動を加えると、鱗片状基材の表層から金属酸化物微粒子の集まりが容易に脱落する。この結果、鱗片状基材の集まりが個々の鱗片状基材に分離し、この後、メッシュフィルターを通すと、複合金属微粒子の集まりで覆われた新たな鱗片状基材が得られる。これによって、15段落で説明した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が、複合金属微粒子の集まりで覆われるため、鱗片状基材の性質は複合金属の性質に拡大される。つまり、この鱗片状基材は、塗料に容易に分散し、また、導電性ペーストに容易に分散する。これによって、塗料ないしは導電性ペーストは、複合金属微粒子の性質を持つ。なお、複合金属微粒子は、微粒子同士が互いに金属結合しているため、複合金属微粒子が鱗片状基材から脱落することはない。このため、複合金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりに、熱処理や圧縮、圧延などの熱的、機械的応力を伴う加工を施し、成形物や成形体などの加工品が製造できる。
例えば、塗料用顔料に用いる場合は、15段落で説明した事例と同様に、鱗片状基材が10100nmの大きさの範囲からなる粒状の複合金属微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、染料並みの彩度と透明性を持つようになる。また、複合金属微粒子の集まりの厚みに応じて、複合金属微粒子の集まりの表面での反射光と鱗片状基材の表面での反射光とが干渉して増幅され、その波長の色調が強い反射光となる。いっぽう、複合金属微粒子の厚みは、鱗片状基材に吸着した複数種類の金属化合物の量によって自在に変えられるため、強い反射光となる色調を自在に変えられる。また、複合金微粒子を構成する金属の種類と組成割合とによって、さらに、鱗片状基材の材質と複合金属微粒子の材質の組み合わせによって、鱗片状基材の色調は、様々な色調に変えることができる。
また、導電性フィラーとして用いる場合は、例えば、金属微粒子を銅で構成し、この銅微粒子の表面に銀を析出して、銅と銀とからなる複合微粒子の集まりで鱗片状基材を覆えば、銀微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材に比べ、マイグレーションが起こりにくく、ハンダ食われ性が優れる導電性フィラーとなり、さらに、より安価な製造費用で製造できる。このように、導電性フィラーの用途に応じて、複合金属微粒子の組成と組成割合を自在に変え、複合金属固有の性質を導電性フィラーに付与することができる。
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、17段落で説明した微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加えるだけで、様々な金属の組み合わせと組成割合からなる複合金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が製造できる。これによって、鱗片状基材は、複合金属固有の性質と、微粒子の大きさに基づく固有の性質とを持つ。この結果、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材が製造される。
本発明に係わる7特徴手段は、第3特徴手段における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりであり、該鱗片状基材の集まりを製造する製造方法は、第3特徴手段における第一の金属化合物として、熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物を用い、第3特徴手段におけるにおける第二の金属化合物として、前記第一の金属化合物が複数種類の金属を同時に析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する金属化合物を用い、第3特徴手段に記載した製造方法に準拠して、鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが製造される製造方法である。
特徴手段に依れば、鱗片状基材を、熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物からなる第一の金属化合物と、熱処理で金属酸化物が析出する第二の金属化合物とで覆う。この鱗片状基材の集まりを、連続して2回熱処理する。第一の熱処理で複数種類の金属化合物を同時に熱分解し、10−100nmの大きさの範囲からなる粒状の合金微粒子が析出し、鱗片状基材は合金微粒子の集まりで覆われる。第二の熱処理で第二の金属化合物が熱分解し、10−100nmの大きさの範囲からなる粒状の金属酸化物の微粒子が、先行して析出した合金微粒子の表面に析出する。この結果、合金と金属酸化物とからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが製造され、13段落と17段落で説明した微粒子の2重構造とは異なる材質で構成されるため、鱗片状基材は合金微粒子に基づく性質を新たに持つ。
すなわち、本製造方法は、熱処理で複数種類の金属を同時に析出する複数種類の金属化合物を、アルコールに分散してアルコール分散液を作成する第一の工程と、該アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入して第一の懸濁液を作成する第二の工程と、該第一の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材が前記複数種類の金属化合物で覆われた第一の処理基材を作成する第三の工程と、前記複数種類の金属化合物が複数種類の金属を同時に析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第四の工程と、該アルコール分散液に前記第一の処理基材の集まりを投入して第二の懸濁液を作成する第五の工程と、該第二の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記第一の処理基材が前記第二の金属化合物で覆われた第二の処理基材を作成する第六の工程と、該第二の処理基材の集まりを、前記複数種類の金属化合物が同時に熱分解される第一の熱処理と、前記第二の金属化合物が熱分解される第二の熱処理とからなる2回の熱処理を連続して行う第七の工程とからなり、これら7つの工程を連続して実施することで、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われる新たな鱗片状基材の集まりが製造される製造方法である。つまり、本製造方法に依れば、極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、合金微粒子集まりと金属酸化物微粒子の集まりからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが大量に製造される。すなわち、第一の工程と第四の工程とは、複数種類の金属化合物を、ないしは、第二の金属化合物をアルコールに分散するだけの処理である。第二の工程と第五の工程とは、アルコール分散液に鱗片状基材の集まり、ないしは、第一処理基材の集まりを投入するだけの処理である。第三の工程と第六の工程とは、アルコールを気化させるだけの処理である。第七の工程は、複数種類の金属化合物と第二の金属化合物を連続した2回の熱処理で熱分解するだけの処理である。このような極めて簡単な7つの処理を連続して実施することで、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた新たな性質を持つ鱗片状基材の集まりが、大量にかつ安価に製造できる
つまり、複数種類の金属化合物が同時に熱分解する際に、金属化合物のモル濃度に応じた複数種類の金属が同時に析出し、析出した複数種類の金属が不純物を持たない活性状態にあるため、モル濃度に応じた金属の組成からなる粒状の合金微粒子を形成して安定化し熱分解を終える。この合金微粒子は互いに接触する部位で金属結合して合金微粒子の集まりを形成し、鱗片状基材の表面を覆う
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、鱗片状基材の全般について、粉体の材質や形状や粒度分布に係わらず、合金微粒子と金属酸化物微粒子との2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが一度に大量に製造できる。また、安価な材料である2種類の金属化合物を熱処理するだけの極めて簡単な処理であり、鱗片状基材の前処理が不要になるため、製造費用は極めて安価で済む。この鱗片状基材は、合金の性質と金属酸化物の性質とを有し、さらに、微粒子の大きさに基づく固有の性質を有する。この結果、本特徴手段に依れば、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材の集まりが製造される
本発明に係わる8特徴手段は、第7特徴手段における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材の表層から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が製造される製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、前記した第7特徴手段における鱗片状基材は、表層の金属酸化物の微粒子同士は結合しないため、鱗片状基材の集まりに負荷を加える、例えば、鱗片状基材の集まりを容器に入れ、加振機によって容器に振動を加えると、金属酸化物微粒子の集まりは鱗片状基材から容易に脱落する。この結果、鱗片状基材の集まりが個々の鱗片状基材に分離し、メッシュフィルターを通すと、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が得られる。なお、合金微粒子同士は互いに金属結合しているため、鱗片状基材から脱落しない。この鱗片状基材は、塗料に容易に分散し、導電性ペーストに容易に分散する。これによって、塗料ないしは導電性ペーストは、合金微粒子の性質を持つ
この合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材は、15段落で説明した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材とは異なる性質、例えば、金属微粒子より耐酸化性と耐食性とに優れる。このため、耐酸化性や耐食性に優れた塗料用顔料や導電性フィラーとなる。
また、この鱗片状基材を塗料用顔料に用いる場合は、15段落と19段落で説明した場合と同様に、鱗片状基材が10−100nmの大きさの範囲からなる粒状の合金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、染料並みの彩度と透明性を持つ。また、合金微粒子の集まりの厚みに応じて、合金微粒子の集まりの表面での反射光と鱗片状基材の表面での反射光とが干渉して増幅され、その波長の色調が強い反射光となる。いっぽう、合金微粒子の厚みは、鱗片状基材に吸着した複数種類の金属化合物の量によって自在に変えられ、強い反射光となる色調を自在に変えられる。さらに、鱗片状基材が発する色調は、鱗片状基材の材質と合金の材質との組み合わせによって、様々な色調に変えられる
いっぽう、導電性フィラーとして用いる場合は、合金微粒子同士が金属結合するため、電気導電と熱伝導との連続した経路を合金微粒子が形成し、優れた電気導電性と熱伝導性とを兼ね、かつ、耐酸化性や耐食性に優れた導電性フィラーになる。また、導電性フィラーの充填率を従来の導電性フィラーに比べて下げても、導電性が確保できるため、導電性ペーストが安価に製造できる作用効果をもたらす
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、21段落で説明した微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加えるだけで、様々な金属の組み合わせと組成割合からなる合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が製造できる。この鱗片状基材は、合金微粒子固有の性質と、微粒子の大きさに基づく固有の性質を有する。この結果、7段落で説明した5つの要件を満たす新たな鱗片状基材が製造される
本発明に係わる第9特徴手段は、第1特徴手段および第3特徴手段および第5特徴手段における熱処理で金属を析出する金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第二の特徴とからなる2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を熱処理で金属を析出する金属化合物として用い、第1特徴手段および第3特徴手段および第5特徴手段に記載した鱗片状基材の集まりを製造する製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物は、大気雰囲気での熱分解で金属を析出する。このため、このようなカルボン酸金属化合物は金属微粒子の原料になる
つまり、カルボン酸金属化合物がアルコールに分散された分散液に、鱗片状基材の集まりを浸漬し、アルコールを気化させた後に、鱗片状基材の集まりを大気雰囲気で熱処理する。この際、カルボン酸金属化合物のカルボン酸の沸点に応じて、290−400℃の温度範囲でカルボン酸金属化合物の熱分解が完了し、大きさが10−100nmの範囲に入る粒状の金属微粒子が析出する。この結果、鱗片状基材は金属微粒子の集まりで覆われ、新たに金属微粒子の性質を持つことになる。なお、カルボン酸金属化合物が熱分解する温度は、鱗片状基材の耐熱温度より低いため、カルボン酸金属化合物が熱分解しても、鱗片状基材の性質は不可逆変化しない。さらに、鱗片状基材はカルボン酸金属化合物で覆われるため、カルボン酸金属化合物の熱分解時に、大気中の酸素が鱗片状基材に供給されず、鱗片状基材が酸化されやすい金属であっても鱗片状基材は酸化されない
すなわち、カルボン酸金属化合物を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きい。従って、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物は、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超える温度で、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が分断され、カルボン酸と金属とに分離する。さらに、カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の沸点に応じた290−400℃の温度範囲で全てのカルボン酸が気化して金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物としてオクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物など飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物がある
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物が析出する。例えば、カルボン酸銅がオレイン酸銅の場合は、酸化銅Cu Oと酸化銅CuOとが同時に析出し、銅に還元するための処理費用を要する。中でも、酸化銅Cu Oは、酸素ガスの割合が大気雰囲気よりリッチな雰囲気で、一度酸化銅CuOに酸化させた後に、再度、還元雰囲気で銅に還元させる必要があるため、還元処理の費用がさらにかさむ
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、カルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、さらに、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。このため、安価なカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱分解するだけで、鱗片状基材の表面が様々な金属からなる金属微粒子の集まりで覆われ、金属微粒子の性質を持つ鱗片状基材が安価に製造できる
本発明に係わる10特徴手段は、第1特徴手段および第3特徴手段および第5特徴手段における熱処理で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしはイオンが配位子を構成し、該配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩であり、該無機塩を熱処理で金属を析出する金属化合物として用い、第1特徴手段および第3特徴手段および第5特徴手段に記載した鱗片状基材の集まりを製造する製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、無機物の分子ないしはイオンが配位子を構成し、この配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩は、還元雰囲気で熱処理すると、200℃程度の低い温度で金属が析出する。この金属には、25段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解では析出しない金属が析出する。このような金属として、白金族元素の金属と銅を除く貴金属の金属などがある。こうし金属は、希土類金属を除くと、鉄族元素、クロム族元素、マンガン族元素、スズ族元素、アルミニウム族元素、マグネシウム族元素などに属する金属、および典型金属と銅などの金属に比べて存在が希少な金属であり、付加価値の高い金属固有の性質を有する。これによって、鱗片状基材の性質が新たな金属微粒子の性質に拡大され、鱗片状基材の用途が拡大する。無機物の分子ないしはイオンが配位子を構成し、この配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩は、一般的に25段落で説明したカルボン酸金属化合物より高価であるため、鱗片状基材に付加価値の高い性質を付与する原料として用いることが適している
つまり、このような無機塩がアルコールに分散された分散液に、鱗片状基材の集まりを浸漬し、この鱗片状基材の集まりを還元雰囲気で熱処理する。アルコールを気化させた後に、200℃前後の温度で無機塩が熱分解し、大きさが10−100nmの範囲に入る粒状の金属微粒子の集まりが析出する。この熱分解温度は、25段落で説明したカルボン酸金属化合物より著しく低いため、熱処理費用が安価で済む。この結果、鱗片状基材は、金属微粒子の集まりで覆われ、金属微粒子の性質を持つ
すなわち、無機物の分子ないしはイオンが配位子になって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩を還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。つまり無機塩を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きいため、無機塩の分子構造の上で金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、無機塩を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了して金属が析出する
また、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。こうした金属錯イオンとして、アンモニアNH が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水H Oが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OH が配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンCl ないしは塩素イオンCl とアンモニアNH とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオン、シアノ基CN が配位子となって金属イオンに配位結合するシアノ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する水素化合物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩は、無機塩の分子量が小さいため、180−220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属錯イオンを有する金属錯塩が熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。従って、このような無機塩は、金属錯イオンを有する金属錯塩の中で最も安価であり、熱分解温度が最も低い。このため、25段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解では析出しない金属からなる、付加価値の高い性質を持つ鱗片状基材が、安価な製造費用で製造できる
本発明に係わる11特徴手段は、第3特徴手段および第5特徴手段における熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに配位結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第二の特徴とからなる2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物として用い、第3特徴手段および第5特徴手段に記載した鱗片状基材の集まりを製造する製造方法である。
つまり、本特徴手段によれば、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに近づいて配位結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第二の特徴とからなる2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物は、大気雰囲気の400℃より低い温度で熱分解し、金属酸化物を析出する。このため、このようなカルボン酸金属化合物は金属酸化物の原料になる。なお、カルボン酸金属化合物が熱分解する温度は、鱗片状基材の性質が不可逆変化する温度より著しく低いため、カルボン酸金属化合物が熱分解しても、鱗片状基材の性質は変わらない
すなわち、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオン半径を有する金属イオンに配位子イオンである酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンと配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物と、飽和脂肪酸からなるカルボン酸とに分解する。さらに昇温されると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などがある
このようなカルボン酸金属化合物を、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の表面に吸着させ、カルボン酸金属化合物を熱分解させると、10−100nmの大きさの範囲に入る粒状の金属酸化物の微粒子が、金属微粒子の表面に一斉に析出する。これによって、鱗片状基材は金属微粒子と金属酸化物の微粒子とからなる微粒子の2層構造で覆われる
さらに、こうしたカルボン酸金属化合物は、いずれも容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、カルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させることで、カルボン酸金属化合物が合成される。原料となるカルボン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に低い沸点を有する有機酸であるため、大気雰囲気においては400℃より低い熱処理温度で金属酸化物の微粒子が析出する。このため、安価なカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱分解するだけで、鱗片状基材の表面が様々な金属酸化物の微粒子の集まりで覆われ、金属酸化物の微粒子の性質を持つ鱗片状基材が安価に製造できる
本発明に係わる12特徴手段は、前記した第特徴手段における熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物が、同一のカルボン酸で構成される第1の特徴と、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが異なる金属イオンに共有結合する第2の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第3の特徴とからなる3つの特徴を兼備する複数種類のカルボン酸金属化合物であり、該複数種類のカルボン酸金属化合物を熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物として用い、第7特徴手段に記載した鱗片状基材の集まりを製造する製造方法である。
つまり、本特徴手段に依れば、カルボン酸が同一のカルボン酸で構成され、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが異なる金属イオンに共有結合し、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される3つの特徴を兼備する複数種類のカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱分解すると、カルボン酸金属化合物のモル濃度に応じて複数の金属が同時に析出し、析出した金属の組成割合からなる合金が生成される。このため、複数種類のカルボン酸金属化合物は、合金微粒子を生成する原料になる。
すなわち、複数種類のカルボン酸金属化合物をアルコールに分散し、この分散液に鱗片状基材の集まりを浸漬し、アルコールを気化させた後に、鱗片状基材の集まりを大気雰囲気で熱処理する。この際、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点に応じて、290400℃の温度範囲で複数種類のカルボン酸金属化合物が同時に熱分解し、大きさが10−100nmの範囲に入る粒状の合金微粒子の集まりが析出する。この結果、鱗片状基材は、様々な組成と組成割合からなる合金属微粒子の集まりで覆われ、鱗片状基材は、15段落で説明した金属より酸化ないしは腐食しにくい合金微粒子の性質を持つ。
つまり、複数種類のカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸金属化合物が同一のカルボン酸から構成されるため、カルボン酸の沸点を超えると、複数種類のカルボン酸金属化合物が同時にカルボン酸と金属とに分離し、更に昇温すると、カルボン酸の気化がカルボン酸の沸点に応じた290400℃の温度範囲で完了し、カルボン酸金属化合物のモル濃度に応じて複数種類の金属が析出する。これらの金属はいずれも不純物を持たない活性状態にあるため、析出した複数種類の金属から構成され、カルボン酸金属化合物のモル濃度に応じた組成割合からなる合金を生成して熱分解を終える。このため、安価な複数種類のカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱分解するだけで様々な合金が生成され、合金微粒子の性質を持つ鱗片状基材が安価に製造できる。
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金属結合した銅微粒子の集まりを介して結合された鱗片状黒鉛粒子の集まりを製造する製造工程の説明図である。 磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して結合された扁平鉄粉の集まりを製造する製造工程の説明図である。 磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して結合された3種類の扁平粉の集まりを製造する製造工程の説明図である。 鉄微粒子で覆われた扁平銅粉を製造する製作工程の説明図である。 パーマロイ微粒子で覆われた扁平銅粉を製造する製作工程の説明図である。 金と銅とからなる複合金属微粒子で覆われたガラスフレーク粉を製造する製作工程の説明図である。
実施形態1
本実施形態は、鱗片状基材の表面に金属微粒子を析出する原料に係わる第一の実施形態である。本発明における金属微粒子を製造する原理は、9段落で説明したように、第一に金属微粒子の原料を鱗片状基材の表面に吸着させる。第二に吸着した原料を鱗片状基材の表面で金属微粒子の集まりに変化させる。
金属微粒子の原料が鱗片状基材に吸着するには原料が液相化され、液相化された原料に鱗片状基材の集まりを投入し、液相化された原料における液体を蒸発させると、原料が鱗片状基材の表面に吸着する。従って、金属微粒子の原料は液相化しなければならない。
ここで、金属を銅とし、銅化合物を例として説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物は、液相化された無機銅化合物中に銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できな。従って、銅化合物は溶剤に溶解せず、溶剤に分散する性質を持つことが必要になる。また、アルコールなどの汎用的な有機溶剤に分散できれば、銅化合物が溶剤中に均一に分散し、この分散液に鱗片状基材を投入し、アルコールを気化させれば、鱗片状基材の表面に銅化合物が均一に吸着する。酸化銅、水酸化銅、炭酸銅などの無機銅化合物はアルコールに分散しない。このため、鱗片状基材の表面に吸着する銅化合物は、無機銅化合物ではなく有機銅化合物が望ましい。
次に、有機銅化合物は鱗片状基材の表面で銅微粒子の集まりに変化しなければならない。つまり、有機銅化合物から銅が生成される化学反応が、鱗片状基材の表面で起こる必要がある。有機銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機銅化合物を昇温するだけで、有機銅化合物が熱分解して銅が析出する。さらに、有機銅化合物の合成が容易でれば、有機銅化合物を安価に製造できる。こうした性質を兼ね備える有機銅化合物にカルボン酸銅がある。つまり、カルボン酸銅を構成するイオンの中で、最も大きいイオンは銅イオンである。従って、カルボン酸銅におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銅イオンと共有結合すれば、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、カルボン酸銅の中で最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸銅を昇温させると、カルボン酸の沸点において、カルボン酸と銅とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。また、カルボン酸銅は合成が容易で、安価な有機銅化合物である。つまりカルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属が生成される。このカルボン酸アルカリ金属を、硫酸銅などの無機銅化合物と反応させると、カルボン酸銅が生成される。なお、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になり、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅が熱分解すると、複数種類の銅の酸化物が析出する。なお、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となって銅イオンに近づき、酸素イオンが銅イオンに配位結合するカルボン酸銅は、銅イオンと酸素イオンとの距離が短くなるため、熱分解によって酸化銅を生成する。
カルボン酸銅の組成式はRCOO−Cu−COORで表わせられる。Rは炭化水素で、この組成式はCである(ここでmとnとは整数)。カルボン酸銅を構成する物質の中で、組成式の中央に存在する銅イオンCu2+が最も大きい物質になる。従って、銅イオンCu2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合する場合は、銅イオンCu2+と酸素イオンOとの距離が最大になる。この理由は、銅イオンCu2+の共有結合半径は112pmであり、酸素イオンOの共有結合半径は63pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmであることによる。このため、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとが共有結合するカルボン酸銅は、カルボン酸の沸点において、結合距離が最も長い銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に切断され、銅とカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸銅を構成するカルボン酸が飽和脂肪酸であれば、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に銅が析出する。こうしたカルボン酸銅として、オクチル酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅などがある。
さらに、飽和脂肪酸の沸点が相対的に低ければ、カルボン酸銅は相対的に低い温度で熱分解し、銅微粒子の製造に関わる熱処理費用が安価で済む。飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど飽和脂肪酸の沸点が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。従って、飽和脂肪酸の分子量が相対的に小さい飽和脂肪酸からなるカルボン酸銅は、熱分解温度が相対的に低くなるので、銅微粒子の原料として望ましい。
また、飽和脂肪酸が分岐鎖構造を有する場合は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が相対的に低くなる。このため、カルボン酸銅も相対的に低い温度で熱分解温度する。さらに、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、カルボン酸銅も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このようなカルボン酸銅としてオクチル銅がある。すなわち、オクチル酸は構造式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、ラウリン酸より沸点が68℃低い。このため、銅微粒子の原料として、オクチル酸銅が望ましい。オクチル酸銅は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して銅が析出し、メタノールやn−ブタノールなどに10重量%まで分散する。
以上に説明したように、金属微粒子の原料は液相化できる有機金属化合物が望ましい。さらに、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンと共有結合するカルボン酸金属化合物が望ましい。さらに、飽和脂肪酸から構成されるカルボン酸金属化合物が望ましい。さらに、直鎖が短い飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物が望ましい。さらに分岐鎖構造を有する直鎖が短い飽和脂肪酸からなるオクチル酸金属化合物が最も望ましい。
なお、合金の微粒子を製造する原料として、同一の飽和脂肪酸からなる複数種類のカルボン酸金属化合物を用いることができる。つまり、複数種類のカルボン酸金属化合物が、同一の飽和脂肪酸から構成されるため、飽和脂肪酸の沸点で複数種類のカルボン酸金属化合物が同時に熱分解し、飽和脂肪酸の気化が完了した後に、各々のカルボン酸金属化合物のモル濃度に応じて複数種類の金属が析出する。この際、複数種類の金属は不純物を持たない活性状態にあるため、複数種類のカルボン酸金属化合物のモル濃度に応じた金属の組成からなる合金が生成される。
実施形態2
本実施形態は、鱗片状基材の表面に金属微粒子を析出する原料に係わる第二の実施形態であり、49段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解では析出しない金属を析出する原料である。このような金属として、白金族元素の金属と銅を除く貴金属の金属などがある。こうし金属は存在が希少な金属であるため、金属化合物は49段落で説明したカルボン酸金属化合物より高価である。このため、鱗片状基材に付加価値の高い性質を付与する金属の原料として用いることが適している。以下の説明では、金微粒子を析出する原料を事例として説明する。
金微粒子を析出する原料も、49段落で説明した銅微粒子の原料と同様に、原料が分子状態で分散された分散液が望ましい。また分散液の分散媒体はアルコールが適している。つまり、アルコールは様々な沸点を有し、原料の熱分解温度より低い沸点を持つアルコールが選択でき、これによって、気化したアルコールが容易に回収できる。このため、原料は、アルコールに分散する性質と、金を析出する性質を持つことが必要になる。
金化合物から金が生成される化学反応の中で、最も簡単な処理による化学反応に還元雰囲気における熱分解反応がある。つまり、金化合物を昇温するだけで、金化合物が熱分解して金が析出する。さらに、金化合物の熱分解温度が、49段落で説明したカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低ければ、熱処理費用も安価で済む。無機物の分子ないしはイオンが配位子となって、金イオンに配位結合する金錯イオンは、他の金錯イオンに比べて合成が容易な金錯イオンである。さらに、こうした金錯イオンを有する無機塩は、無機塩の分子量が小さければ、熱分解する温度は低い。つまり、金と無機物とに分解される温度が低く、さらに、分解された無機物が容易に気化する。従って、このような無機塩は、有機金属化合物より高価な物質であるが、より低い熱処理温度で金を析出する。
つまり、金錯イオンを有する金錯塩には多くの種類があり、有機物が配位子となって金イオンに配位結合する金錯イオンを有する金錯塩は、有機物の分子量が無機物に比べて大きいため、金と有機物に分解される温度が高く、さらに、有機物の気化に多くの熱エネルギーが必要になり、金が析出する温度は、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金イオンに配位結合する金錯イオンを有する金錯塩に比べて高い。また、配位子に酸素原子が含まれ、酸素原子が金イオンに共有結合する場合は、金酸化物を析出する。さらに金錯イオンの合成に多くの費用を要し、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金イオンに配位結合する金錯イオンに比べて製造費用が高い。さらに、金錯イオンを有する無機塩は、無機物の分子量が小さければ、金錯塩の中で最も低い温度で金属を析出する。
すなわち、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金イオンに配位結合する金錯イオンを構成する分子の中で、金イオンが最も大きい。ちなみに、金原子の共有結合半径は124pmであり、窒素原子の共有結合半径の71pmであり、酸素原子の共有結合半径は63pmである。このため、金錯イオンを有する金錯塩の分子構造において、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気の熱処理においては、最初に配位結合部が分断され、金と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に金が析出する。
さらに、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金イオンに配位結合する金錯イオンの中で、塩素イオンClが配位子となって金イオンAu3+に配位結合するテトラクロロ金錯イオン[Au(Cl)は最も容易に合成され、さらに、テトラクロロ金酸水素H[Au(Cl)]は、金を王水に溶かすだけで、あるいは、塩化金AuClを塩酸に溶かして結晶化させるだけで容易に合成でき、かつ、分子量が最も小さい無機塩である。このテトラクロロ金酸水素は、アンモニアガスや水素ガスなどの還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、金属と無機物とに分解され、無機物の分子量が小さいため、200℃程度の低い温度で無機物の気化が完了して金が析出する。また、メタノールやn−ブタノールなどのアルコールに10重量%近くまで分散する。
以上に説明したように、無機物の分子ないしはイオンが配位子となって金属イオンに配位結合する金属錯イオンを有する無機塩からなる分子量が小さい金属錯塩は、合成が容易で、より低い温度で金属を析出する。従って、このような無機塩は、金属錯イオンを有する金属錯塩の中で最も安価であり、熱分解温度が最も低い。このため、付加価値の高い金属の性質を、安価な製造費用で鱗片状基材に付与できる原料になる。
実施形態3
本実施形態は、金属酸化物の微粒子を析出する原料に係わる実施形態である。以下の説明では、強磁性の性質を有する鉄の酸化物微粒子を析出する原料を明する。
鉄の酸化物からなる微粒子を析出する原料も、49段落で説明した銅微粒子の原料と同様に、液相化できる性質を持つことが必要になり、有機鉄化合物が望ましい。
さらに、有機鉄化合物は、熱分解によって酸化鉄FeOを析出する性質を持つことが必要になる。つまり、酸化鉄FeOを大気中で昇温すると、酸化鉄FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+の半数が酸化して3価の鉄イオンFe3+になり、FeO・Feの組成式で表さられるマグネタイトFeになる。マグネタイトFeは、透磁率に優れた強磁性体で導電性の酸化物である。さらに大気中で昇温すると、2価の鉄イオンFe2+の全てが酸化されて3価の鉄イオンFe3+になり、酸化鉄Feのγ相であるマグへマイトγ−Feになる。マグへマイトγ−Feは、自発磁化を有する強磁性体で絶縁性の酸化物である。なお、有機鉄化合物を構成する物質の中で、最も大きい共有結合半径を持つ物質は鉄イオンFe2+である。いっぽう、鉄イオンFe2+とカルボキシル基を構成する酸素イオンOとが共有結合するカルボン酸鉄は、鉄イオンと酸素イオンとの距離が最大になるため、49段落で説明した銅と同様に、熱分解で鉄を析出する。従って、熱分解によって酸化鉄FeOを析出する有機鉄化合物は、鉄イオンFe2+と結合する酸素イオンOとの距離が短く、酸素イオンOが鉄イオンFe2+の反対側で結合するイオンと結合する距離が長い分子構造上の特徴を持つ必要がある。つまり、有機鉄化合物の熱分解が始まると、酸素イオンOが鉄イオンFe2+の反対側で結合するイオンと結合する部位が最初に切れ、鉄イオンと結合した酸素イオン、つまり、酸化鉄FeOと有機酸とに分解する。このような分子構造上の特徴を持つ有機鉄化合物として、カルボキシル基を構成する酸素イオンOが配位子になって鉄イオンFe2+に近づいて配位結合するカルボン酸鉄化合物がある。
また、有機金属化合物の中でカルボン酸金属化合物は、49段落で説明したように合成が容易で、有機酸の沸点が低いため熱分解温度が比較的低い。このため、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、配位子となって金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、安価な化学薬品であり、熱処理費用も安価で済む。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物などが挙げられる。なお、カルボン酸鉄においては、酢酸鉄とカプリル酸鉄と安息香酸鉄とは、酸素イオンが鉄イオンに近づいて配位結合して、複核錯塩を形成するが、熱分解の途上においては不安定な物質であるため取り扱いが難しい。従って、酸化鉄FeOを析出するカルボン酸鉄としては、ナフテン酸鉄が望ましい。さらに、ナフテン酸鉄はn−ブタノールに対して10重量%近くまで分散する。
実施例1
本実施例は、9段落で説明した本発明の第1特徴手段に係わり、金属微粒子の集まりを介して鱗片状基材が結合された鱗片状基材の集まりを製造する具体例であり、銅微粒子の集まりで鱗片状黒鉛粒子を結合する。なお、鱗片状基材は鱗片状黒鉛粒子に限定されず、鱗片状基材は金属化合物が熱分解する温度以上の耐熱性を持つため、9段落で説明した様々な材質からなるフレーク状の粉体を用いることができる。また、金属微粒子は銅微粒子に限定されず、25段落で説明したカルボン酸金属化合物と、27段落で説明した金属錯イオンを有する無機塩を用いることで、様々な金属微粒子で鱗片状基材を覆うことができる。
本実施例では、鱗片状黒鉛粒子(鱗状黒鉛粒子ともいう)として日本黒鉛株式会社が製造するCB黒鉛を用いた。銅微粒子の原料としてオクチル酸銅Cu(C15COO)(例えば三津和薬品工業株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。銅微粒子の集まりを介して結合された黒鉛粒子の集まりを製造する製作工程を図1に示す。最初に、オクチル酸銅の0.5モルを2リットルのn−ブタノールに分散した(S10工程)。この分散液を容器に入れ、鱗片状黒鉛粒子100gを投入して撹拌した(S11工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S12工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銅を熱分解した(S13工程)。最後に容器から試料を取り出した。
次に、製作した試料の表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさ粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりが約2ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、試料からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銅原子のみが存在した。これらの結果から、銅微粒子の集まりが2ミクロンの厚みを形成して鱗片状黒鉛粒子を結合していることが分かった。
本実施例で製造した鱗片状黒鉛粒子の集まりは、グラファイトシートと呼ばれる銅より熱伝導率が高い熱伝導シートの原料になる。
すなわち鱗片状黒鉛粒子は、炭素原子が作る六角形の網目構造が平面状に拡がった基底面が2つの層を形成し、この2つの層が交互に規則的に積層された層状構造を有する単結晶材料である。基底面のヤング率は1020GPaというダイアモンドに近い大きな値を持ち、基底面に直交するせん断弾性率も440GPaという極めて大きな数値を持ち、炭素原子同士が共有結合した基底面は壊れにくい。いっぽう、基底に垂直な方向のヤング率は36GPaであり、基底面に沿ったせん断弾性率は4.5GPaであり、ファンデルワールス力で結合した基底面同士の層間結合力は弱く、層間結合が容易に破壊される。
いっぽう、基底面は炭素原子の原子間距離が1.421オングストロームで結合されるため、極めて優れた熱的性質を持ち、300°Kにおける熱伝導率は19.5WC−1−1であり、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の4.5倍の熱伝導率に相当する。これに対し、基底面同士は3.354オングストロームの距離で結合されるため、基底面の垂直方向は熱伝導率が低い。しかしながら、地下資源を工業的に精製して製造される鱗片状黒鉛粒子は、平均粒径が30−50ミクロンに及び、粒径分布が1−250ミクロンに及ぶ微細な粉体である。このような粒径分布が大きく、かつ、微細な粉体である黒鉛粒子を接合することは困難である。たとえ、黒鉛粒子を接合できたとしても、接合した黒鉛粒子を圧縮した際に、黒鉛結晶がバラバラになり、黒鉛結晶を基底面の面方向に積層ないし接合することは到底できない。
しかしながら、本実施例における銅微粒子の集まりで覆われた鱗片状黒鉛粒子を圧縮すると、黒鉛結晶の層間結合が破壊され、薄片状となった黒鉛結晶が、黒鉛粒子の厚みに対し直角な方向に広がり、薄片状の黒鉛結晶が面方向に積層ないし接合された平板状の黒鉛結晶の集まりが得られる。つまり、黒鉛結晶の層間結合が継続して破壊され、これに追従して、金属結合した銅微粒子の集まりが塑性変形する。この結果、平板状の黒鉛結晶の集まりが銅微粒子の集まりで覆われるとともに、銅微粒子の集まりを介して、平板状の黒鉛結晶の集まりが結合されて平板状基材となる。黒鉛粒子に比べて銅微粒子は3桁小さく、平板状基材に占める黒鉛結晶の体積占有率は100%に近く、平板状基材は黒鉛結晶の基底面に近い性質を示し、銅より熱伝導性が著しく高い画期的な熱伝導シートとなる。
いっぽう、ノートパソコンや携帯電話に代表される電子機器は、高性能化・小型化が著しく進み、これに伴って、内部に組み込まれた半導体部品は大容量化・高集積化が進み、この結果、電子機器内部における半導体部品の発熱量が増加し、発生した熱が電子機器内に留まり、半導体部品の熱劣化を早めるという問題が起きている。しかし、銅やアルミニウムなどの熱伝導性のよい金属板を介してフィンやヒートシンクに伝えて外部に放熱させる手段では、発熱源である半導体部品が発する熱を直接金属板に伝導させられず、半導体部品が熱劣化してしまう。また、金属板の使用によって、電子機器の厚みが増し重量が著しく増加する。これに対し、金属より熱伝導率が高く、金属より軽量で厚みが極薄い熱伝導シートを回路基板と一体化することで、半導体部品からの熱が直接熱伝導シートに伝わり、熱伝導シートから電子機器の外部に放熱させることが可能になる。
しかしながら従来のグラファイトシートは、ポリイミド等の高分子フィルムを、2400℃以上の温度の不活性ガスや真空雰囲気で長時間焼成して製造するため、極めて高額な製造費用を伴う高価な基材であり、グラファイトシートを使用できる領域が限られる。また、膨張黒鉛を用いてグラファイトシートを製造する製造方法もある。つまり、黒鉛粒子に濃硫酸とともに過酸化水素などの酸化剤を加えると、黒鉛結晶の層間にこれらの薬品が侵入する。この後、還元性雰囲気の1000−1200℃の温度に急激に昇温させると、層間に挿入された薬品が分解してガス化し、このガス圧で黒鉛結晶の層間距離が拡がり、黒鉛粒子を膨張させたものである。こうして得られた膨張黒鉛の集まりを圧縮成形し、黒鉛結晶を破壊して基底面の集合体を得る。しかしながら、膨張黒鉛の製造には、高濃度の硫酸を使用し、しかも急加熱処理の際にSO等の有毒ガスが発生するため危険であり、硫酸や過酸化水素等の酸化剤の廃液によって、周囲の環境汚染を引き起こす問題がある。さらに、黒鉛結晶の層間をガスの発生によって急激に膨張させるが、必ずしも全ての層間が膨張するとは限らない。このため、こうした膨張黒鉛を圧縮しても、基底面のみからなるグラファイトシートが得られない。さらに厄介なことは、膨張黒鉛を破壊した際に基底面がバラバラになり、微細な物質である基底面を面方向のみに積層ないし接合することはできない。また、膨張黒鉛から製造したグラファイトシートは、空隙が多く密度が低いため、ポリイミド等の高分子フィルムを超高温で還元焼成したものに比べると、熱伝導は著しく低い。
本実施例における黒鉛粒子の集まりを原料とする熱伝導シートは、従来のグラファイトシートの製造上の課題を根本的に解決させるため、次の5つの要件を熱伝導シートの製造に反映し、熱伝導率が高い格段に安価な熱伝導シートを実現させことができる。
第一に、黒鉛結晶の基底面が極めて優れた熱伝導率を持つため、黒鉛の結晶化が最も進んだ鱗片状黒鉛粒子を熱伝導シートの原料とした。
第二に、黒鉛結晶は熱伝導率についても異方性を持ち、基底面の垂直方向は熱伝導率が低い。このため、基底面を面方向に積層ないし接合し、熱が基底面の面方向に伝達させる必要がある。いっぽう、黒鉛粒子の集まりを圧縮すると層間結合が破壊され、黒鉛粒子は莫大な数の薄片状の黒鉛結晶の集まりになる。しかしながら、膨張黒鉛の製造上の問題点で説明したように、黒鉛粒子が破壊すれば、微細な薄片状の黒鉛結晶はバラバラになり、黒鉛結晶を面方向にのみ積層ないし接合させることはできない。このため、銅微粒子の集まりで黒鉛粒子を覆うと、黒鉛結晶は銅微粒子の集まりに拘束され面方向にのみ広がる。この結果、薄片状の黒鉛結晶が面方向のみに積層ないし接合される。また、黒鉛粒子が破壊する際に銅微粒子の集まりが塑性変形し、熱抵抗となる空隙は形成されない。
第三に、熱抵抗となる間隙を形成せずに、黒鉛粒子同士を結合する必要がある。本実施例では、オクチル酸銅のn−ブタノール分散液に黒鉛粒子の集まりを混合して攪拌し、この後、n−ブタノールを気化させ、オクチル酸銅を黒鉛粒子に吸着させる。黒鉛粒子は前記したように粒度分布が大きいため、攪拌後に黒鉛粒子が再配列し、黒鉛粒子間の間隙が少なくなるように、黒鉛粒子が積み重なって容器の底に堆積する。つまり、黒鉛粒子間に間隙があれば、相対的に微細な黒鉛粒子が間隙に入り込む。次に、オクチル酸銅を熱分解し、銅微粒子の集まりを黒鉛粒子の表面に析出させる。銅微粒子が一斉に析出する際に、黒鉛粒子の表面を覆うのみならず、隣接する黒鉛粒子の間隙を埋めるように銅微粒子が析出する。このため、黒鉛粒子の集まりには熱抵抗となる空隙が形成されない。
第四に、基底面方向に熱が伝わることで、熱伝導シートの熱伝導率が高まる。本実施例では、薄片状の黒鉛結晶が面方向に積層ないし接合されて平板状の黒鉛結晶の集まりになり、平板状の黒鉛結晶が銅微粒子で結合される。銅微粒子の大きさは、黒鉛粒子の大きさより3桁小さ、平板状基材における黒鉛結晶の体積占有率は100%に近い。このため本実施例による熱伝導シートは、基底面方向に熱が伝道する熱伝導シートになる。
第五に、製造された熱伝導シートが一定の機械的強度を持てば、えば、電子回路基板との一体化ができる。金属結合した銅微粒子の集まりは、一定の結合強度を持つため、平板状基材のハンドリングが可能になる。さらに、本実施例で製造した熱伝導シートは、表面に無数の銅微粒子が存在するため、熱伝導シートを回路基板に重ねて圧縮すると、無数の銅微粒子が回路基板に食い込んで回路基板と一体化する。このため、熱伝導性に劣る接着剤によって、熱伝導シートを回路基板に接着する必要がない。
いっぽう、本実施例で製造した黒鉛粒子の集まりを圧縮成形した平板状基材は、金属に準ずる電気導電性を持つため、導電性フィルムとして用いることができる。すなわち、基底面に平行な方向の比抵抗は3.8×10−7Ωmであり、基底面に垂直な方向の比抵抗は7.6×10−3Ωmである。このように黒鉛結晶は、電気抵抗についても異方性を持ち、基底面に平行な方向の比抵抗は銅の23倍に過ぎない。このため、平板状基材においては、抵抗値が小さい基底面方向に電子が移動するため、平板状基材は導電性フィルムとして作用する。
また、黒鉛粒子の大きさに比べて、銅微粒子の大きさは3桁小さいため、平板状基材に占める黒鉛結晶の体積占有率は100%に近い。従って、合成樹脂に導電性フィラーを分散させた従来の導電性フィルムより、電気導電性が格段に高い導電性シートになる。なお導電性フィルムは、本実施例で製造した鱗片状黒鉛粒子の集まりを、インフレーション法やフラットダイ法などの従来の成形法によって容易に製造できる。
最近、電子部品や半導体素子など、導電性が必要とされる分野において、成形性や可撓性に優れる樹脂で形成された導電性フィルムが使用されている。特に、電子部品の小型化や薄肉化などに伴って、薄肉の導電性フィルムが要求されている。例えば、リチウムイオン二次電池の中で、集電体を介して正極と負極とを積層させるバイポーラ電池では、限定されたスペースにおいて、多数の導電フィルムを集電体として積層させているため、薄肉かつ軽量で、高い導電性を有するフィルムが必要とされている。
このような薄肉導電性フィルムを製造する従来の方法に、樹脂成分を溶媒に溶解した後に導電性フィラーを添加し、基材上にキャストすることによりフィルム状に加工するキャスト法、導電性フィラーを分散させた熱可塑性樹脂を溶融押出や圧延などによりフィルム状に成形する熱成形法などがある。しかし、キャスト法では、溶剤に溶解させる必要があるため、耐溶剤性の高いポリマー、例えば、結晶性樹脂はフィルム化できない。特に、リチウムイオン電池の集電体では、有機溶媒を含む電解液を使用するため、高い耐溶剤性が要求される。さらに、キャスト法では、ピンホール発生防止や塗膜の均質性を維持しながら溶剤を徐々に蒸発させる煩雑な工程を有するとともに、基板から薄肉導電性フィルムを傷つけずに剥離させる必要があり、生産性や簡便性が低い上に、得られた導電性薄膜フィルムに溶剤が残留する。一方、導電性フィラーを含む樹脂組成物の押出成形により、薄肉フィルムを製造する場合、導電性を増大させるため樹脂組成物中の導電性フィラーの割合を高くすると、樹脂組成物をフィルムに加工する際に必要な溶融張力が不足する。つまり樹脂は、溶融時でもその分子間の絡み合いにより溶融粘度が高く、同時に溶融張力を有している。そのため、樹脂を加熱して押出成形によりフィルムに加工する場合、この溶融張力により押出成形の金型を出た溶融樹脂はフィルムの引き取りによる張力を受けても、破断やフィルム厚みの変動を抑制するのは容易である。これに対して、導電性フィラーは、樹脂と異なり分子間の絡み合いがなく、溶融張力を生じないため、樹脂組成物中の導電フィラーの割合を多くすると、押出し成形でフィルムを引取る際に破断や厚み変動が生じ易い。そこで、非晶性熱可塑性エラストマーなどの弾性体の配合が必要となる。しかし、非晶性熱可塑性エラストマーやゴム成分を配合すると、樹脂組成物の耐溶剤性やガスバリア性が低下する。特に、リチウムイオン電池の集電体では、電解液の特性上、極めて高い耐溶剤性が要求されるが、このような用途での使用は困難である。
このように、従来における導電性フィルムの製造上の問題点は、導電性フィラーを合成樹脂に分散して複合化する点に集約される。いっぽう、本実施例では、前記したように、銅微粒子の集まりによって黒鉛粒子どうしを接合するため、導電性フィラーを分散する手段を一切用いない。このため、従来の導電性フィルムの製造上の問題点が全て解決されるだけではなく、導電性フィルムにおける導電性が飛躍的に増大する。また、導電性フィラーについて説明すれば、炭素系材料の導電性フィラーとして、カーボンブラックを用いる事例が多いが、カーボンブラックの中で導電性が相対的に高いアセチレンブラックの比抵抗は2.1×10−3Ωmであり、黒鉛結晶の基底面に比べ5500倍も導電性が劣る。また、炭素系材料のフィラーとして、極めて高価な炭素繊維を用いる事例もあるが、炭素繊維の中でも相対的に導電性が高いピッチ系炭素繊維の比抵抗は2−5×10−6Ωmであり、黒鉛結晶の基底面に比べ導電性は5−13倍劣る。このように、黒鉛結晶の基底面は炭素系材料の中で最も導電性に優れる。また、黒鉛粒子は強酸や強アルカリとも反応しない極めて化学的に安定した材料であり、耐熱性にも優れる。また、本実施例に依る平板状基材からなる導電性フィルムは、従来の導電性フィルムに比べ、極めて薄いフィルムとすることができ、実質的に重量を持たない極めて軽量な導電性フィルムとなる。
以上に、本実施例で製造した平板状基材を工業製品に適応する事例として、熱伝導シートと導電性フィルムに適応する事例を説明したが、これらの事例に限定されない。極めて軽量で極めて薄い熱伝導手段や導電手段として、他の工業製品に適応できる。
実施例2
本実施例は、11段落で説明した本発明の第2特徴手段に係わり、磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりで結合された鱗片状基材の集まりを製造する具体例であり、還元鉄粉を扁平化処理した扁平鉄粉を、自発磁化を有するマグヘマイトγ−Feからなる微粒子の集まりで結合する。なお、マグヘマイトは酸化鉄Feのγ相であり、電気絶縁性で自発磁化を持つ硬磁性材料である。また、強磁性の鱗片状基材は扁平鉄粉に限定されず、透磁率に優れた軟磁性材料の合金粉を扁平処理した扁平粉を用いることができる。本実施例における扁平鉄粉は、JFEスチール株式会社が製造する扁平鉄粉MG150Dを用いた。この扁平鉄粉は見かけ密度が1.5Mg/mで、粒度分布が45ミクロンパスが14%で、45−63ミクロンが12%で、63−75ミクロンが6%で、75−106ミクロンが24%で、106−150ミクロンが42%で、150−180ミクロンが2%である。またマグヘマイトの原料として、ナフテン酸鉄(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。つまり、ナフテン酸鉄の熱分解で酸化鉄FeOを析出させ、酸化鉄FeOの鉄イオンFe2+をFe3+に酸化させることで、マグヘマイトγ−Feが生成される。また、n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して結合された扁平鉄粉の集まりを製造する製造工程を図2に示す。最初に、ナフテン酸鉄(五員環を持つ複数の飽和脂肪酸と鉄との化合物)の0.1モルを500ccのn−ブタノールに分散した(S20工程)。この分散液を容器に入れ、扁平鉄粉300gを投入して撹拌した(S21工程)。容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S22工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる熱処理炉に入れ、容器内の試料を300℃に昇温してナフテン酸鉄を熱分解した(S23工程)。この後、熱処理炉の温度を300℃から1℃/の速度で390℃まで昇温し、390℃に容器を30分間放置し、酸化鉄FeOをマグヘマイトに酸化した(S24工程)。最後に、容器から試料を取り出した。
次に、製作した試料の表面と切断面とについて、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察と分析を行なった。最初に反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が、試料の表面全体に満遍なく形成していた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.2ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子と酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子であることが分かった。さらに、極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、酸化鉄の結晶構造の解析を行なった。この結果から、粒状微粒子がマグヘマイトであることが確認できた。なお、EBSP解析機能とは、試料に電子線を照射したとき、反射電子が試料中の原子面によって回折されることでバンド状のパターンを形成し、バンドの対称性が結晶系に対応し、バンドの間隔が原子面間隔に対応するため、このパターンを解析することで結晶方位や結晶系が解析できる。
これらの結果から、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりが、0.2ミクロンの層をなして扁平鉄粉を覆っていることが確認できた。なお、マグヘマイトは自発磁化を持つため、マグヘマイト微粒子同士が互いに磁気吸着し、また、扁平鉄粉に磁気吸着する。
本実施例で製作した試料は、圧粉磁心の好適な原料になる。つまり、第一に、マグヘマイトは比抵抗が10Ωmの絶縁物質であるため、マグヘマイト微粒子で覆われた扁平鉄粉は絶縁体になる。ちなみに鉄の比抵抗は10−7Ωmであり、鉄粉の渦電流損失は比抵抗に反比例するので、絶縁化された鉄粉の渦電流損失は著しく小さくなる。第二に、マグヘマイトは自発磁化を有するため鉄粉に磁気吸着し、鉄粉の圧縮成形時に過大な圧力を加えても、磁気吸着したマグへマイト微粒子は、微粒子であるため鉄粉から剥がれない。これによって、成形後の鉄粉の絶縁性が保たれる。また、絶縁層を形成するための鉄粉の前処理は一切不要になる。第三に、450℃近辺でヘマタイトに相転移する。このため、450℃以上の温度で成形体の磁気焼鈍を実施すると、マグへマイトはヘマタイトに相転移する。なおこの相転移は不可逆変化である。ヘマタイトは10Ωmの比抵抗を持つ物質で、焼鈍によって鉄粉の絶縁性がさらに一桁向上し、渦電流損失はさらに低減する。またヘマタイトは安定した酸化物、つまり、不動態であり、融点の1566℃に近い耐熱性を有する。このため、一般的に行われている600℃以上の磁気焼鈍によってもヘマタイトの性質は変わらない。また、焼鈍時に鉄粉との界面における拡散現象が起らず、鉄粉の変質が起こらない。ちなみに、鉄の融点は1535℃である。なお、ヘマタイトは化学式がα−Feで表され、酸化鉄Feのα相であり、弱強磁性の性質を持ち、磁気キュリー点が950℃である。第四に、モース硬度が55.5であり、鉄ないしは鉄系の合金より硬い物質である。このため、圧縮成形時に圧力が加えられてもマグへマイト微粒子は破壊されない。つまり、圧縮成形時において、マグへマイト微粒子は磁気吸着した状態を維持し、この状態でマグへマイトより硬度が小さい鉄粉が優先して塑性変形する。これによって、鉄粉同士が絡み合って鉄粉同士が結合する。この際、鉄粉の表面はマグへマイト微粒子によって絶縁性が維持され、成形体の密度の増大によって圧粉磁心の磁束密度と機械的強度とが増大する。
なお、圧粉磁心の原料としては、還元鉄粉を扁平処理した扁平鉄粉に限らず、アトマイズ純鉄粉ないしはアトマイズ合金粉を扁平処理した磁性粉を用いることができる。
実施例3
本実施例は、11段落で説明した本発明の第2特徴手段に係わり、自発磁化を有する金属酸化物微粒子の集まりで結合された鱗片状基材の集まりを製造する第2の具体例であり、軟磁性材料の合金粉を扁平化処理した合金粉が、マグヘマイトγ−Fe からなる微粒子の集まりで結合される。扁平合金粉は、山陽特殊鋼株式会社が製造する合金粉で、50%ニッケルと鉄からなる合金粉(以下ではFe−50Niと記述する)と、3%シリコンと鉄からなる合金粉(以下ではFe−3Siと記述する)と、6%シリコンと鉄からなる合金粉(以下ではFe−6Siと記述する)とからなり、これら3種類の合金粉をボールミルで扁平処理した扁平粉を用いた。Fe−50Niの扁平粉はアスペクト比が33であり、平均粒径が14ミクロンである。Fe−3Siの扁平粉はアスペクト比が38であり、平均粒径が9ミクロンである。Fe−6Siの扁平粉はアスペクト比が23であり、平均粒径が8ミクロンである。
磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して結合した3種類の扁平粉の集まりを製造する製造工程を図3に示す。最初に、Fe−50Niの扁平粉の65gとFe−3Siの扁平粉の70gとFe−6Siの扁平粉の100gを混合する(S30工程)。次にナフテン酸鉄の0.05モルを500ccのn−ブタノールに分散する(S31工程)。この分散液を容器に入れ、3種類の扁平粉の混合物を投入して撹拌した(S32工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S33工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる熱処理炉に入れ、容器内の試料を300℃に昇温してナフテン酸鉄を熱分解した(S34工程)。この後、熱処理炉の温度を300℃から1℃/の速度で390℃まで昇温し、390℃に容器を30分間放置し、酸化鉄FeOをマグヘマイトに酸化した(S35工程)。最後に、容器から試料を取り出した。
次に、製作した試料の表面と切断面とについて、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察と分析を行なった。最初に反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面を観察した。40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が、試料の表面全体に満遍なく形成していた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.1ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子と酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子であることが分かった。さらに、極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、酸化鉄の結晶構造の解析を行なった。この結果から、粒状微粒子がマグヘマイトγ−Feであることが確認できた。
本実施例で製作した試料は、電波吸収材の好適な原料となる。つまり、3種類の扁平粉の混合物を多段冷間圧延ロールによってシート状に圧延成形すると、電波吸収シートが製造される。すなわち、マグヘマイト微粒子がモース硬度5.5からなる硬い微粒子であるため、扁平粉が圧延される際に、マグヘマイト微粒子は扁平粉に磁気吸着した状態を維持し、硬度が小さい扁平粉が優先して塑性変形する。これによって、扁平粉同士が絡み合って扁平粉が結合し、電波吸収シートが得られる。この際、マグヘマイト微粒子がごく薄い層で扁平粉を覆うため、マグヘマイト微粒子の集まりが占める体積割合は1%にも達しない少量であり、扁平粉は優れた軟磁性特性を低下させることなく互いに結合される。
すなわち、3種類の扁平粉の中で、相対的に柔らかいFe−50Ni粉は、扁平処理によって相対的にアスペクト比が大きく、平均粒径も大きい扁平粉になる。このため、相対的に大きな複素透磁率を持ち、電磁波吸収能力は高いが、複素透磁率が大きい値を示す周波数領域が、3種類の扁平粉の中で、相対的に低い周波数の領域になる。これに対し、3種類の扁平粉の中で、相対的に硬いFe−6Si粉は、扁平処理によって相対的にアスペクト比が小さく、平均粒径も小さい扁平粉になる。このため、Fe−50Niの扁平粉と比較すると、相対的に複素透磁率は小さいが、複素透磁率が大きい値を示す周波数の領域が、3種類の扁平粒子の中で、相対的に高い周波数の領域になる。なお、Fe−3Si粉は、硬ささがFe−50Ni粉に近く、扁平処理によってアスペクト比はFe−50Ni粉に近いアスペクト比を持つが、平均粒径はFe−6Si粉に近い。このため、Fe−3Si粉は、Fe−50Ni粉に近い大きい複素透磁率を持ち、電波吸収能力は高いが、吸収する電磁波の周波数は、Fe−6Si粉に近い。従って、3種類の扁平粉の中で、複素透磁率が相対的に小さく、電波吸収能力が相対的に低いFe−6Si粉の混合比率を高めて3種類の扁平粉を混合し、混合された扁平粉を圧縮成形すると、2−8GHzに及ぶ周波数範囲の電磁波を吸収するシートになる。
つまり、アトマイズ法で作成した軟磁性の合金粉は、合金の組成に応じた硬さと磁気特性を持つ。このため、合金粉をボールミルで扁平処理した扁平粉は、合金の組成に応じた形状になる。この結果、扁平粉が示す最大複素透磁率の大きさと、大きな複素透磁率を示す周波数領域は、合金の組成に応じて変わる。従って、吸収する電磁波の周波数範囲が広がるほど、多くの種類の扁平粉を複素透磁率の大きさに応じた混合割合で混合し、これらの混合物を冷間圧延して電波吸収シートを製造する。従来における融解した高分子材料と扁平粉とからなる複合材料を押し出した後に、圧延成形で電波吸収シートを製造する方法では、形状が異なる扁平粉の種類が多くなるほど、より多くの高分子材料を配合しなければならず、扁平粉の配合割合が低く、電波吸収能力が低下する。これに対し本実施例は、扁平粉より硬いマグヘマイト微粒子で覆われた扁平粉を冷間圧延するだけであるため、どのような形状や材質からなる扁平粉であっても、シート状に圧延できる。さらに強磁性のマグヘマイト微粒子が扁平粉をごく薄い層として覆うため、シートに占める扁平粉の体積割合は100%近くになり、電波吸収能力は従来の製法のものに比べて格段に高い。
なお、扁平粉の集まりをシート状に冷間圧延する成形品は電波吸収シートに限らない。扁平粉の材質や形状によらず、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりを介して扁平粉同士が結合し、さらに、扁平粉の集まりを圧延や圧縮などの加工ができ、成形体に占める扁平粉の体積割合が100%に近いため、成形体は扁平粉の性質を発揮する。このため、用途に応じた扁平粉を、磁気吸着したマグヘマイト微粒子の集まりで結合させ、これを様々な手段で加工すると、扁平粉の性質を活かした様々な成形体が製造できる。
実施例4
本実施例は、15段落で説明した本発明の第4特徴手段と、17段落で説明した本発明の第5特徴手段に係わり、金属微粒子で覆われた鱗片状基材を製造する具体例であり、フレーク銅粉を鉄微粒子の集まりで覆う。なお、フレーク銅粉は三井金属鉱山株式会社が製造する型番MA−C08JFを用いた。この銅フレーク粉は、比表面積が0.73m/gで、粒度分布はD10が5.0ミクロンで、D50が11.9ミクロンで、D90が24.7ミクロンからなり、タップ密度が3.5g/cmであり、表面処理がなされていない。鉄微粒子は不純物を含まない純鉄であるため、比透磁率が10万に近い優れた軟磁性材料である。鉄の原料はオクチル酸鉄Fe(C15COO)(例えば、日本化学産業株式会社の製品)を用いた。さらに、鉄微粒子の表面を覆う金属酸化物微粒子は酸化亜鉛で構成し、酸化亜鉛の原料はナフテン酸亜鉛(C11COO)Zn(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
鉄微粒子の集まりで覆われたフレーク銅粉を製造する製作工程を図4に示す。最初に、オクチル酸鉄の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した(S40工程)。この分散液を容器に入れ、フレーク銅粉300gを投入して撹拌した(S41工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S42工程)。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散する(S43工程)。この分散液をフレーク銅粉の集まりが入った容器に入れて撹拌した(S44工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S45工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸鉄を熱分解した(S46工程)。さらに容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した(S47工程)。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた(S48工程)。最後に、容器内の試料を目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを3枚重ねたフィルターを通し、本実施例の試料を得た(S49工程)。なおメッシュフィルターを通過した酸化亜鉛ZnO微粒子は、ゴムや合成樹脂の添加物として利用するため回収した。
次に、製作した試料の表面と切断面とを実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりが約0.5ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、試料からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。鉄原子のみが存在した。これらの結果から、鉄微粒子の集まりが0.5ミクロンの厚みを形成してフレーク銅粉を覆っていることが分かった。
さらに、直流抵抗計(例えば、鶴賀電気株式会社の直流抵抗計モデル356H)を用いて、試料の電気抵抗を測定した。試料の4か所に端子をかませ、試料に異なる方向に直流電流を流して、内側の2つの端子で電圧を2回測り、これら2つの電圧値の差を、外側の2つの端子で測った電流値で割った値から求めた抵抗値は、鉄に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、内部は銅の導電性を示し、表層は鉄の強磁性を示す。このため、本実施例で製作した鉄微粒子の集まりで覆われた銅粉は、電磁波遮蔽シートの原料として用いることができる。
実施例5
本実施例は、21段落で説明した本発明の第特徴手段と、23段落で説明した本発明の第特徴手段に係わり、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を製造する具体例であり、実施例4で用いたフレーク銅粉をパーマロイ微粒子で覆う。なおパーマロイの組成は、ニッケルが77.7%を占め、鉄が22.3%を占める割合からなり、鉄に対するニッケルの比率が3.48からなるパーマロイで、パーマロイの中でも大きな透磁率を持つ。このため、実施例4の純鉄よりさらに大きな透磁率を持ち、電磁波遮蔽シートとしては、実施例4より優れた電磁波の遮蔽性能を持つシートになる。また、パーマロイの原料となる鉄は実施例4のオクチル酸鉄を用い、ニッケルの原料はオクチル酸ニッケルNi(C15COO)(例えば、日本化学産業株式会社の製品)を用いた。いずれもオクチル酸金属化合物であり、オクチル酸の沸点で同時に熱分解し、オクチル酸の気化が完了した後に、パーマロイが生成される。なおパーマロイ微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛ZnO微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
パーマロイ微粒子で覆われたフレーク銅粉を製造する製作工程を図5に示す。最初に、オクチル酸ニッケルの0.0777モルとオクチル酸鉄の0.0223モルとを秤量し、500ccのn−ブタノールに分散して撹拌した(S50工程)。この分散液を容器に入れ、フレーク銅粉300gを投入して撹拌した(S51工程)。次に、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S52工程)。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した(S53工程)。この分散液を、銅粉の集まりが入った容器に入れて撹拌した(S54工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S55工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温し、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とを同時に熱分解した(S56工程)。さらに、大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した(S57工程)。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた(S58工程)。最後に、容器内の試料を目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを3枚重ねたフィルターを通し、本実施例の試料を得た(S59工程)。フィルターを通過した酸化亜鉛ZnO微粒子は回収した。
次に、前記の製法で製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.5ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。さらに、試料からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。過剰のニッケル原子と鉄原子とが存在し、偏在する箇所が認められなかったので、微粒子はニッケル−鉄合金からなる。なお、オクチル酸ニッケルとオクチル酸鉄とをモル比率で77.7対22.3の割合で混合したため、ニッケル−鉄合金はニッケルが77.7%の割合を占めるパーマロイであると考える。これらの結果から、パーマロイの粒状微粒子の集まりが、0.5ミクロンの厚みを形成して銅粉を覆うことが分かった。
さらに、実施例4と同様に、直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測定した。試料の抵抗値は、ニッケルの2倍を超える体積固有抵抗を示した。
本実施例で製作した試料は、内部は銅の導電性を示し、表層はパーマロイの軟磁性を示す。このため、本実施例で製作したパーマロイ微粒子で覆われた銅粉は、電磁波遮蔽シートの原料として用いることができる。なお、従来のパーマロイの製法は、溶製材に依るため、高温の水素ガス雰囲気における焼鈍が必須な高価な材料である。本実施例では、溶製材に比べると著しく低い温度でパーマロイ微粒子が生成できるため、水素焼鈍が不要になる。従って本実施例で製作した試料は、安価な電磁波遮蔽シートの原料になる。
実施例6
本実施例は、15段落で説明した本発明の第四特徴手段と、17段落で説明した本発明の第五特徴手段に係わり、金属微粒子で覆われた鱗片状基を製造する第二の具体例であり、ガラスフレーク粉を銀微粒子の集まりで覆う。本実施例では、日本板硝子株式会社が製造する品番RCF−600のガラスフレーク粉を用いた。このガラスフレーク粉は含アルカリガラス(Cガラスと呼ばれる)からなり、平均の厚みが5ミクロンで、1700−300ミクロンの大きさが80%以上で、150−45ミクロンの大きさが20%以下である粒度分布を持ち、中心粒度が600ミクロンである。銀の原料はオクチル酸銀Ag(C15COO)を用いた。なお、オクチル酸銀は市販されていないため、次の製法で新たに合成した。オクチル酸カリウム(例えば、東栄化工株式会社の製品)と硝酸銀(試薬1級品)とを反応させてオクチル酸銀を析出させ、この析出したオクチル酸銀を水洗してオクチル酸銀を得た。オクチル酸銀は、オクチル酸の沸点でオクチル酸と銀に熱分解し、オクチル酸の気化が完了した後に銀が析出する。なお、銀微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛ZnO微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
銀微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉を製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例4における製作工程において、鉄微粒子が銀微粒子に置き換わり、フレーク銅粉がガラスフレーク粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、オクチル酸銀の0.1モルを500ccのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れ、ガラスフレーク粉100gを投入して撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を、ガラスフレーク粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銀を熱分解した。さらに、大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置し5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が45ミクロンからなるメッシュフィルターを通し、本実施例の試料を得た。なお、フィルターを通過した酸化亜鉛ZnO微粒子は回収した。
次に、製作した試料の表面と切断面を、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりが約0.5ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、試料からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銀原子のみが存在した。これらの結果から、銀微粒子の集まりが0.5ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆っていることが分かった。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測定した。試料の抵抗値は、銀に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、金属元素の中で最も優れた熱伝導性と電気導電性を持ち、全ての可視光領域で最も高い反射率を持つ銀の性質を有するガラスフレーク粉となる。このため、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、導電性ペーストの導電性フィラーとして用いることができる。
またガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の銀微粒子で覆われるため、表面は40−60nmの大きさの凹凸が形成され、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた金属光沢を発した。また、0.5ミクロンの厚みからなる銀微粒子の集まりは、青緑色の可視光の波長に相当するため、銀微粒子の表面での反射光とガラスフレーク表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青緑色の色調が相対的に強い反射光となった。この結果、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、青緑色がかった彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例7
本実施例は、21段落で説明した本発明の第特徴手段と、23段落で説明した本発明の第特徴手段に係わり、合金微粒子で覆われた鱗片状基材を製造する第二の具体例であり、銀と銅からなる合金微粒子の集まりでガラスフレーク粉を覆う。ガラスフレーク粉は、日本板硝子株式会社が製造する品番RCF−160を用いた。このガラスフレーク粉は、含アルカリガラスからなり、平均の厚みが5ミクロンで、1700−300ミクロンの大きさが10%以下で、300−150ミクロンの大きさが65%以上で、45ミクロンパスの大きさが5%以下で、中心粒度が160ミクロンである粒度分布を持つ。なお、合金微粒子は、銀にわずかな銅を含有させ、銀の熱伝導性と電気導電性と可視光の反射率とを犠牲にすることなく、銀の耐食性を向上させるため、銅の構成割合が5%とからなる95銀5銅の合金とした。銀の原料は実施例6で用いたオクチル酸銀とした。銅の原料は実施例1で用いたオクチル酸銅とした。いずれもオクチル酸金属化合物であるため、オクチル酸の沸点で同時に熱分解し、オクチル酸の気化が完了した後に銀−銅合金が生成される。なお、銀−銅合金微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛ZnO微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
銀−銅合金の微粒子で覆われたガラスフレーク粉を製造する製作工程を説明する。なお本実施例の製造工程は、実施例5における製作工程において、パーマロイ微粒子が銀−銅合金微粒子に置き換わり、フレーク銅粉がガラスフレーク粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、オクチル酸銀の0.095モルとオクチル酸銅の0.005モルとを秤量し、500ccのn−ブタノールに分散して撹拌した。この分散液を容器に入れ、ガラスフレーク粉80gを投入して撹拌した。次に、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を、ガラスフレーク粉の集まりが入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銀とオクチル酸銅とを同時に熱分解した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が41ミクロンからなるメッシュフィルターを通し、本実施例の試料を得た。なお、メッシュフィルターを通過した酸化亜鉛ZnO微粒子は回収した。
次に、製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.6ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。さらに、試料からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。過剰の銀原子と僅かな銅原子とが存在し、偏在する箇所が認められなかったので、微粒子は銀−銅の合金からなる。なお、オクチル酸銀とオクチル酸銅とをモル比率で95対5の割合で混合したため、銀−銅合金は95対5の割合で構成される合金であると考える。これらの結果から、銀−銅合金の粒状微粒子の集まりが、0.6ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆うことが分かった。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。試料の抵抗値は、銀に近い体積固有抵抗を示した。従って、製作した試料は、銀に近い導電性と熱伝導性と可視光を反射するガラスフレーク粉となる。このため、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、実施例6の銀微粒子の集まりで覆われたガラスフレークに比べ、耐久性が高い導電性フィラーや塗料用顔料として用いることができる。
また、ガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の合金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた金属光沢を発した。また、0.6ミクロンの厚みからなる合金微粒子の集まりは、橙色の可視光の波長に相当するため、合金微粒子の表面での反射光とガラスフレーク表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、橙色の色調が相対的に強い反射光となった。この結果、ラスフレーク粉は、橙色がかった彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例8
本実施例は、15段落で説明した本発明の第四特徴手段と、17段落で説明した本発明の第五特徴手段に係わり、金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を製造する第三の具体例であり、金微粒子の集まりでガラスフレーク粉を覆う。ガラスフレーク粉は実施例7のガラスフレーク粉を用いた。金の原料はテトラクロロ金酸水素H[Au(Cl)](例えば、三津和薬品工業株式会社の製品)を用いた。金微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛ZnO微粒子で覆った。またn−ブタノールは試薬1級品を用いた。
金微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉を製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例4における製作工程において、鉄微粒子が金微粒子に置き換わり、フレーク銅粉がガラスフレーク粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、テトラクロロ金酸水素の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れ、ガラスフレーク粉130gを投入して撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を、ガラスフレーク粉の集まりが入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。この後、容器を水素ガス雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を180℃に昇温してテトラクロロ金酸水素を熱分解した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が41ミクロンのメッシュフィルターを通して本実施例の試料を得た。
次に、製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.65ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていた。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。金原子のみが存在した。これらの結果から、金微粒子が0.65ミクロンの厚みでガラスフレーク粉を覆うことが分かった。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて試料の電気抵抗を測った。試料の抵抗値は、金に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、金に近い導電性と熱伝導性を有するガラスフレーク粉となる。このため、本実施例で製作した金微粒子で覆われたガラスフレーク粉は、導電性ペーストの導電性フィラーや金属光沢の輝きを持つ塗料用顔料として用いることができる。
また、ガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れたゴールドの輝きを発した。また、0.65ミクロンの厚みからなる金微粒子の集まりは、深紅色の可視光の波長に相当するため、金微粒子の表面での反射光とガラスフレーク表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、深紅の色調が相対的に強い反射光となった。このラスフレーク粉は、深紅の色調が強調された彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例9
本実施例は、ガラスフレーク粉を金微粒子で覆う第2の実施例で、金微粒子の厚みを実施例8の厚みより薄くした。ガラスフレーク粉は、実施例7で用いたガラスフレーク粉とした。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素とした。また、金微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛ZnO微粒子で覆った。
金微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉を製造する製作工程を説明する。最初にテトラクロロ金酸水素の0.1モルを、1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れ、ガラスフレーク粉190gを浸漬して撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を、ガラスフレーク粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。この後、容器を水素ガス雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を180℃に昇温してテトラクロロ金酸水素を熱分解した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が41ミクロンからなるメッシュフィルターを通し、本実施例の試料を得た。
次に、製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていた。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。金原子のみが存在した。従って、金微粒子の集まりが0.45ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆った。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。試料の抵抗値は、金に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、金に近い導電性と熱伝導性を有するガラスフレーク粉となる。このため、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、導電性フィラーや塗料用顔料として用いることができる。
また、ガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。さらに、0.45ミクロンの厚みからなる金微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、金微粒子の表面での反射光とガラスフレーク粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が相対的に強い反射光となった。この結果、ガラスフレーク粉は、青の色調が強調された彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
本実施例と実施例8とは、いずれもガラスフレーク粉を金微粒子の集まりで覆った事例であり、金微粒子の厚みが異なるため、2つの事例における反射光の干渉現象が異なり、金微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉が発する色調が異なった。いっぽう、塗料用顔料における色調は、第一に、鱗片状基材の材質に基づく色調と、第二に、金属微粒子を構成する金属元素に基づく色調と、第三に、金属微粒子の集まりの厚みに基づく反射光における干渉現象とからなる3つの要素によって色調が決まる。本発明においては、第一に、鱗片状基材の材質の如何に係わらず、鱗片状基材を金属微粒子で覆うことができ、第二に、金属微粒子を構成する金属元素に制約がなく、第三に、金属微粒子の厚みを自在に変えることができる。従って、前記した3つの要素を組み合わせることで、塗料用顔料の色調を自在に変えることができる。
実施例10
本実施例は、15段落で説明した本発明の第四特徴手段と、17段落で説明した本発明の第五特徴手段に係わり、金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を製造する第五の具体例であり、銅フレーク粉を金微粒子の集まりで覆う。銅フレーク粉は、三井金属鉱山株式会社が製造する型番MA−C08JFを用いた。この銅フレーク粉は、比表面積が0.73m/gで、粒度分布のD10が5.0ミクロンで、D50が11.9ミクロンで、D90が24.7ミクロンからなり、タップ密度が3.5g/cmであり、表面処理がなされていない。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。また金微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
金微粒子で覆われた銅フレーク粉を製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例4における製作工程において、鉄微粒子が金微粒子に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、テトラクロロ金酸水素の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れ、銅フレーク粉300gを投入して撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を、銅レーク粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。この後、容器を水素ガス雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を180℃に昇温してテトラクロロ金酸水素を熱分解した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に容器内の試料を、目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを3枚重ねたフィルターを通過させ、本実施例における試料を得た。
次に、製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。金原子のみが存在した。従って、金微粒子の集まりが、0.45ミクロンの厚みを形成して銅フレーク粉を覆った。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。試料の抵抗値は、金に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、金に近い導電性と熱伝導性を有する銅フレーク粉となる。このため、金微粒子の集まりで覆われた銅フレーク粉は、導電性フィラーや塗料の顔料として用いることができる。
また、銅フレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。また、0.45ミクロンの厚みの金微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、金微粒子の表面での反射光と銅フレーク粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が相対的に強い反射光となる。このフレーク粉は、銅のフレーク粉の赤銅色の色調に青の色調が混合された彩度に優れた黄色に近い金属光沢を発する塗料用顔料として用いられる。
実施例11
本実施例は、鱗片状基材として、実施例10における銅フレーク粉に替えて酸化鉄粉を用い、酸化鉄粉を金微粒子の集まりで覆う。なお、酸化鉄は酸化鉄Feのα相で、ヘマタイトないしは赤色酸化鉄と呼ばれ、化学式はα−Feで示される。融点が1566℃と高く、極めて安定した酸化物で、電気的には絶縁体で、弱強磁性という微弱な磁性を有する。粉体は赤褐色を示し、赤さびないしは弁柄として知られている。酸化鉄粉は、チタン工業株式会社が製造するAM−200を用いた。この鱗片状酸化鉄粉は光の屈折率が3に近い値を持ち、比表面積が1.5−2.2m/gで、粒子径は2−50ミクロンであり、平均粒子径が12−15ミクロンであり、平均粒子の厚みが0.2−0.3ミクロンと薄く、嵩密度が0.3−0.4g/cmである。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。また、金微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
金微粒子の集まりで覆われた鱗片状酸化鉄粉を製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例4における製作工程において、鉄微粒子が金微粒子に置き換わり、フレーク銅粉が酸化鉄粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、テトラクロロ金酸水素の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した。この分散液を容器に入れ、鱗片状酸化鉄粉の450gを投入して撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を酸化鉄粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、容器を水素ガス雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を180℃に昇温してテトラクロロ金酸水素を熱分解した。容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を、目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを5枚重ねたフィルターを通過させ、本実施例の試料を得た。
製作した試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、試料からの反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料表面は、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。試料断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みからなる多層構造を形成していた。次に反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていることが分かった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。金原子のみが存在した。従って、金微粒子が0.45ミクロンの厚みを形成して鱗片状酸化鉄粉を覆った。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。試料の抵抗値は、金に近い体積固有抵抗を示した。従って、本実施例で製作した試料は、金に近い導電性と熱伝導性を有する鱗片状酸化鉄粉となる。このため、金微粒子の集まりで覆われた鱗片状酸化鉄粉は、導電性フィラーや塗料の顔料として用いることができる。
また、鱗片状酸化鉄粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の金微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。また、0.45ミクロンの厚みの金微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、金微粒子の表面での反射光と鱗片状酸化鉄粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が相対的に強い反射光となる。この片状酸化鉄粉は、鱗片状酸化鉄粉の赤褐色に青の色調が混合された彩度に優れた黄緑色の金属光沢を発する塗料用顔料として用いられる。
なお、塗料用顔料について説明すれば、実施例9−11の3つの実施例において、3種類の鱗片状基材を、同じ厚みからなる金微粒子の集まりで覆った。この結果、鱗片状基材の材質に応じて、金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が発する色調が変わった。いっぽう、塗料用顔料における色調は、実施例9の64段落で説明したように、鱗片状基材の材質に基づく色調と、金属微粒子を構成する金属元素に基づく色調と、金属微粒子の集まりの厚みに基づく反射光における干渉現象とからなる3つの要素によって色調が決まる。本発明は、鱗片状基材の材質の如何に係わらず、金属微粒子で覆うことができ、金属微粒子を構成する金属元素に制約がなく、金属微粒子の厚みを自在に変えることができる。従って、3つの要素を組み合わせることで、塗料用顔料の色調自在に変えられる。
実施例12
本実施例は、19段落で説明した本発明の第六特徴手段と、21段落で説明した本発明の第七特徴手段に係わり、複合金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を製造する具体例であり、ガラスフレーク粉を金がコアを形成し、銅がシェルを形成する金と銅とからなる複合金属微粒子の集まりで覆う。ガラスフレーク粉は、実施例7におけるガラスフレーク粉を用いた。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。銅の原料は、実施例1で用いたオクチル酸銅である。なお、複合金属微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。また、n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
複合金属微粒子で覆われたガラスフレーク粉の集まりを製造する製作工程を、図6に示す。最初に、実施例8に基づいて金微粒子で覆われたガラスフレーク粉を製作した(S60工程)。ただし、金の原料であるテトラクロロ金酸水素の0.08モルを、1リットルのn−ブタノールに分散した。次に、オクチル酸銅の0.02モルを100ccのn−ブタノールに分散した(S61工程)。この分散液が入った容器に、金微粒子で覆われたガラスフレーク粉を投入して撹拌した(S62工程)。この容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S63工程)。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散した(S64工程)。この分散液を、ガラスフレーク粉が入った容器に入れて撹拌した(S65工程)。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した(S66工程)。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銅を熱分解した(S67工程)。次に、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した(S68工程)。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた(S69工程)。最後に、容器内の試料を目合が41ミクロンからなるメッシュフィルターを通し、本実施例の試料を得た(S70工程)。
次に、製作した2種類の試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。金微粒子で覆われたガラスフレーク粉の第一の試料と、金と銅とからなる複合金属微粒子で覆われたガラスフレーク粉の第二の試料との双方は、表面が40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、第一の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.36ミクロンの厚みを形成し、第二の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは0.45ミクロンの厚みを形成していた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。第一及び第二の試料の双方とも濃淡が認められなかった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。第一の試料では金原子のみが存在し、第二の試料では銅原子のみが存在した。これらの結果から、第一の試料は金微粒子の集まりが0.36ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆い、第二の試料は金がコアを形成し、銅がシェルを形成する金と銅とからなる複合金属微粒子が、0.45ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆ったことが確認できた。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。第一の試料は金に近い体積固有抵抗を示し、第二の試料は金の抵抗値より低い値を示した。従って、本実施例で製作した金と銅とからなる複合金属微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉は、導電性フィラーや塗料用顔料として用いることができる。
また、ガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の複合金属微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。0.45ミクロンの厚みからなる複合金属微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、複合金属微粒子の表面での反射光とガラスフレーク粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が相対的に強い反射光となる。さらに、金と銅とからなる複合金属微粒子は、金微粒子に比べると電子密度が少なく、銀微粒子に比べると電子密度が多い。このため、複合金属微粒子の色調は、金微粒子より短波長の色調を発し、銅微粒子より長波長の色調を発する。この結果、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、藍色に近い深みのある彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例13
本実施例は、実施例12における金と銅とからなる複合金属微粒子に対し、金がコアを形成し銀がシェルを形成する金と銀との複合金属微粒子によって、ガラスフレーク粉を覆う実施例である。ガラスフレーク粉は、実施例7におけるガラスフレーク粉を用いた。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。銀の原料は実施例6で用いたオクチル酸銀である。なお、複合金属微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。n−ブタノールは試薬1級品を用いた。
複合金属微粒子で覆われたガラスフレーク粉の集まりを製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例12における製作工程において、金と銅とからなる複合金属微粒子が、金と銀との複合金属微粒子に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、実施例8に基づいて、金微粒子で覆われたガラスフレーク粉を製作した。ただし、金の原料であるテトラクロロ金酸水素の0.08モルを、1リットルのn−ブタノールに分散した。次に、オクチル酸銀の0.02モルを100ccのn−ブタノールに分散し、この分散液が入った容器に、金微粒子で覆われたガラスフレーク粉を投入して撹拌した。この容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を、ガラスフレーク粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銀を熱分解した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が41ミクロンからなるメッシュフィルターを通し、本実施例の試料を得た。
次に、製作した2種類の試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。金微粒子で覆われたガラスフレーク粉の第一の試料と、金と銀とからなる複合金属微粒子で覆われたガラスフレーク粉の第二の試料との双方は、表面が40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。また、第一の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.36ミクロンの厚みを形成し、第二の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みを形成していた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。第一及び第二の試料の双方とも濃淡が認められなかった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。第一の試料では金原子のみが存在し、第二の試料では銀原子のみが存在した。これらの結果から、第一の試料は金微粒子の集まりが0.36ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆い、第二の試料は金がコアを形成し、銀がシェルを形成する金と銀とからなる複合金属微粒子が、0.45ミクロンの厚みを形成してガラスフレーク粉を覆ったことが確認できた。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて、試料の電気抵抗を測った。第一の試料は金に近い体積固有抵抗を示し、第二の試料は金の抵抗値より低い値を示した。従って、本実施例で製作した金と銀とからなる複合金属微粒子の集まりで覆われたガラスフレーク粉は、導電性フィラーや塗料の顔料として用いることができる。
また、ガラスフレーク粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の複合金属微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく彩度に優れた輝きを発した。また、0.45ミクロンの厚みからなる複合金属微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、複合金属微粒子の表面での反射光と、ガラスフレーク粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が相対的に強い反射光となる。さらに、金と銀とからなる複合金属微粒子は、金微粒子に比べると電子密度が少なく、銀微粒子に比べると電子密度が多い。このため、複合金属微粒子の色調は、金微粒子より短波長の色調を発し、銀微粒子より長波長の色調を発する。この結果、本実施例で製作したガラスフレーク粉は、深緑色に近い深みのある彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例14
本実施例は、実施例12におけるガラスフレーク粉に対し、実施例11で用いた鱗片状酸化鉄粉を鱗片状基材として用い、実施例12と同様に金と銅との複合金属微粒子で覆う。鱗片状酸化鉄粉は実施11における酸化鉄粉を用いた。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。銅の原料は、実施例1で用いたオクチル酸銅である。なお、複合金属微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。
複合金属微粒子で覆われた鱗片状酸化鉄粉の集まりを製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例12における製作工程において、ガラスフレーク粉が酸化鉄粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、実施例8に基づいて、金微粒子で覆われた酸化鉄粉を製作した。ただし、金の原料であるテトラクロロ金酸水素の0.08モルを、1リットルのn−ブタノールに分散した。次に、オクチル酸銅の0.02モルを100ccのn−ブタノールに分散し、この分散液が入った容器に、金微粒子で覆われた酸化鉄粉を投入した。この容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を酸化鉄粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銅を熱分解した。次に、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間振動を加えた。最後に、容器内の試料を目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを5枚重ねたフィルターを通過させ、本実施例の試料を得た。
製作した2種類の試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。金微粒子で覆われた酸化鉄粉の第一の試料と、金と銅とからなる複合金属微粒子で覆われた酸化鉄粉の第二の試料との双方は、表面が40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。第一の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.36ミクロンの厚みを形成し、第二の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みを形成していた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。第一及び第二の試料の双方とも濃淡が認められなかった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。第一の試料では金原子のみが存在し、第二の試料では銅原子のみが存在した。これらの結果から、第一の試料は金微粒子の集まりが0.36ミクロンの厚みを形成して酸化鉄粉を覆い、第二の試料は金がコアを形成し、銅がシェルを形成する金と銅とからなる複合金属微粒子が、0.45ミクロンの厚みを形成して酸化鉄粉を覆ったことが確認できた。
さらに、実施例4と同様に直流抵抗計を用いて試料の電気抵抗を測った。第一の試料は金に近い体積固有抵抗を示し、第二の試料は金の抵抗値より若干低い値を示した。なお、本実施例で製作した試料は、金に近い導電性と熱伝導性を有する酸化鉄粉となる。従って本実施例で製作した金と銅とからなる複合金属微粒子の集まりで覆われた酸化鉄粉は、導電性フィラーや塗料の顔料として用いることができる。
また、鱗片状酸化鉄粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の複合金属微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。また、0.45ミクロンの厚みからなる複合金属微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、複合金属微粒子の表面での反射光と酸化鉄粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が強い反射光となる。また、金と銅とからなる複合金属微粒子は、金微粒子に比べると電子密度が少なく、銅微粒子に比べると電子密度が多い。このため、複合金属微粒子の色調は、金微粒子より短波長の色調を発し、銅微粒子より長波長の色調を発する。また、鱗片状酸化鉄粉は、赤褐色の色調を持つ粉体である。この結果、鱗片状酸化鉄粉は、深緑に近い深みのある彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
実施例15
本実施例は、実施例14における金と銅とからなる複合金属微粒子に対し、金がコアを形成し銀がシェルを形成する金と銀との複合金属微粒子によって、鱗片状酸化鉄粉を覆う。鱗片状酸化鉄粉は、実施例11における酸化鉄粉を用いた。金の原料は実施例8で用いたテトラクロロ金酸水素である。銀の原料は、実施例6で用いたオクチル酸銀である。なお、複合金属微粒子の表面は、実施例4と同様に酸化亜鉛微粒子で覆った。
複合金属微粒子で覆われた鱗片状酸化鉄粉の集まりを製造する製作工程を説明する。なお、本実施例の製造工程は、実施例12における製作工程において、金と銅とからなる複合金属微粒子が、金と銀との複合金属微粒子に置き換わり、ガラスフレーク粉が酸化鉄粉に置き換わった類似した製造工程であるため、製造工程の図示は省略した。最初に、実施例4に基づいて、金微粒子で覆われた酸化鉄粉を製作した。ただし、金の原料であるテトラクロロ金酸水素の0.08モルを、1リットルのn−ブタノールに分散した。次に、オクチル酸銀の0.02モルを100ccのn−ブタノールに分散し、この分散液が入った容器に、金微粒子で覆われた酸化鉄粉を投入した。この容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに、ナフテン酸亜鉛の0.1モルを1リットルのn−ブタノールに分散し、この分散液を酸化鉄粉が入った容器に入れて撹拌した。この後、容器を120℃に昇温してn−ブタノールを気化し、気化したn−ブタノールを回収した。さらに容器を大気雰囲気からなる第一の熱処理炉に入れ、容器内の試料を290℃に昇温してオクチル酸銀を熱分解した。次に、容器を大気雰囲気からなる第二の熱処理炉に入れ、容器内の試料を330℃に昇温してナフテン酸亜鉛を熱分解した。この後、容器を加振機に設置して5分間容器に振動を加えた。最後に、容器内の試料を、目合が33ミクロンからなるメッシュフィルターを5枚重ねたフィルターを通過させ、本実施例の試料を得た。
製作した2種類の試料の表面と切断面とを、実施例1と同様に電子顕微鏡で観察した。最初に、反射電子線の900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。金微粒子で覆われた酸化鉄粉の第一の試料と、金と銀とからなる複合金属微粒子で覆われた酸化鉄粉の第二の試料との双方は、表面が40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子で満遍なく覆われていた。第一の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.36ミクロンの厚みを形成し、第二の試料の断面の画像から、粒状微粒子の集まりは約0.45ミクロンの厚みを形成していた。次に、反射電子線の900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。第一及び第二の試料の双方とも濃淡が認められなかった。さらに、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。第一の試料では金原子のみが存在し、第二の試料では銀原子のみが存在した。これらの結果から、第一の試料は金微粒子の集まりが0.36ミクロンの厚みを形成して酸化鉄粉を覆い、第二の試料は金がコアを形成し、銀がシェルを形成する金と銀とからなる複合金属微粒子が、0.45ミクロンの厚みを形成して酸化鉄粉を覆ったことが確認できた。
さらに、実施例1と同様に、試料の電気抵抗を測った。第一の試料は金に近い体積固有抵抗を示し、第二の試料は金の抵抗値より低い値を示した。従って、本実施例で製作した金と銀とからなる複合金属微粒子の集まりで覆われた酸化鉄粉は、導電性フィラーや塗料の顔料として用いることができる。
また、鱗片状酸化鉄粉は、40−60nmの大きさの範囲からなる粒状の複合金属微粒子で覆われるため、光の白色散乱が殆どなく、彩度に優れた輝きを発した。また、0.45ミクロンの厚みからなる複合金属微粒子の集まりは、青色の可視光の波長に相当するため、複合金属微粒子の表面での反射光と酸化鉄粉表面での反射光とが互いに干渉して増幅され、青の色調が強い反射光となる。さらに、金と銀とからなる複合金属微粒子は、金微粒子に比べると電子密度が少なく、銀微粒子に比べると電子密度が多い。このため、複合金属微粒子の色調は、金微粒子より短波長の色調を発し、銀微粒子より長波長の色調を発する。また、鱗片状酸化鉄粉は、赤褐色の色調を持つ粉体である。この結果、本実施例で製作した鱗片状酸化鉄粉は、実施例9における深緑より短波長側にあり、実施例9より深みのある彩度に優れた金属光沢を発する塗料用顔料として用いることができる。
なお、塗料用顔料について説明すれば、実施例12−15の4つの事例において、2種類の鱗片状基材を、同じ厚みからなる2種類の複合金属微粒子の集まりで覆った。この結果、鱗片状基材の材質と複合金属微粒子の構成に応じて、鱗片状基材が発する色調が変わった。いっぽう、実施例6−11の6つの実施例は、鱗片状基材を金属微粒子の集まりで覆った。これらの結果から、鱗片状微粒子を覆う微粒子の材質を、複合金属微粒子とすることで、鱗片状基材が発する色調の自由度が、複合金属を構成する金属元素の種類と金属元素の構成割合とに応じた色調に拡大できた。
以上に、本発明における実施例として15の実施例を説明したが、実施例はこれらに限定されない。なぜなら、第一に、鱗片状基材は金属化合物が熱分解される温度より高い耐熱性を持つため、鱗片状基材の材質は制限されない。第二に、鱗片状基材は様々な形状と粒度分布を持つ微細な粉体であるが、金属化合物のアルコール分散液に鱗片状基材の集まりが混合された懸濁液を昇温してアルコールを気化すれば、どのような形状と大きさの鱗片状基材であっても、鱗片状基材は金属化合物の被膜で覆われる。さらに、この金属化合物の熱分解で析出する微粒子が、鱗片状基材の大きさより3桁小さいため、どのような形状と大きさを持つ微細粉であっても、鱗片状基材を微粒子の集まりで覆うことができる。このため、鱗片状基材の大きさや形状の制約はない。第三に、微粒子の原料は、様々な物質からなるカルボン酸金属化合物、ないしは、様々な物質からなる金属錯イオンを有する無機塩を用いることができるため、微粒子の材質の制約は少ない。第四に、微粒子の用途に応じて、金属微粒子、複合金属微粒子、合金微粒子ないしは金属酸化物微粒子の集まりで鱗片状基材を覆うことができ、鱗片状基材は多種多様な性質を持つ、さらに、微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりに、熱処理や圧縮、圧延などの様々な加工が可能であるため、鱗片状基材の用途は極めて広い。第五に、金属微粒子、複合金属微粒子ないしは合金微粒子は、互いに金属結合で微粒子の集まりを形成するため、鱗片状基材の表面に形成された微粒子の集まりは剥がれず、長期にわたって鱗片状基材の性質が変わらない。第六に、安価な金属化合物の熱分解で微粒子を析出させるため、また、鱗片状基材の表面を清浄化させる前処理が不要であるため、安価な製造費用で大量の鱗片状基材が様々な材質の微粒子で覆われる。従って、本発明は鱗片状基材の制約がなく、鱗片状基材を覆う微粒子の制約が少なく、かつ、多種多様な性質を持つ鱗片状基材が安価な製造費用で大量に製造できるため、従来の用途に限らず新たな用途を含めた広範囲な用途に、本発明に基づく微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材を用いることができる。このため、本発明に係わる実施例は、前記した15の実施例に限定されない。

Claims (12)

  1. 鱗片状基材同士が金属微粒子同士の金属結合で結合された鱗片状基材の集まりを製造する製造方法は
    熱処理で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に鱗片状基材の集まりを投入して懸濁液を作成し、該懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記鱗片状基材が前記金属化合物で覆われた処理基材を作成する、さらに、該処理基材の集まりに、前記金属化合物が熱分解される熱処理を施す、これによって、前記鱗片状基材金属微粒子の集まりが一斉に析出し、該金属微粒子同士が金属結合することで、前記鱗片状基材同士が前記金属微粒子同士の金属結合を介して結合された鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、鱗片状基材同士が金属微粒子同士の金属結合で結合された鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  2. 請求項1における鱗片状基材として強磁性の鱗片状基材を用い請求項1における金属化合物として、熱処理で自発磁化を有する金属酸化物微を析出する金属化合物を用い請求項1に記載した製造方法に準拠して、鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、前記金属化合物の熱処理で析出した金属酸化物微粒子の集まりが前記強磁性の鱗片状基材に磁気吸着し、該強磁性の鱗片状基材が前記磁気吸着した金属酸化物微粒子の集まりで覆われるとともに、該金属酸化物微粒子同士の磁気吸着で前記強磁性の鱗片状基材同士が結合された片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、強磁性の鱗片状基材同士が、自発磁化を有する金属酸化物の微粒子同士の磁気吸着で結合された鱗片状基材の集まり製造する製造方法
  3. 請求項1における金属化合物として、熱処理で金属を析出する第一の金属化合物と、該第一の金属化合物が金属を析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物とからなる2種類の金属化合物を用い、請求項1に記載した製造方法に準拠して、鱗片状基材同士が結合された鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、前記第一の金属化合物の熱処理で金属微粒子の集まりが前記鱗片状基材の表面に析出し、該金属微粒子同士が金属結合して前記鱗片状基材の表面を覆う、この後、前記金属結合した金属微粒子の集りの外側に、前記第二の金属化合物の熱処理で金属酸化物の微粒子の集まりが析出し、前記金属結合した金属微粒子の集まりと前記金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた前記鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、金属結合した金属微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まり製造する製造方法
  4. 請求項3における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項3に記載した片状基材の集まりを用いて、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  5. 請求項4における片状基材に、さらに、請求項4の金属微粒子とは異なる第二の金属からなる金属結合した金属微粒子の集まりと、金属酸化物とからなる微粒子の集まりを析出させ、2種類の金属微粒子の集まりからなる複合金属微粒子の集まりと、金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりの製造方法は、熱処理で新たな金属を析出する第一の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に請求項4の鱗片状基材の集まりを投入して第一の懸濁液を作成し、該第一の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記請求項4の鱗片状基材が前記第一の金属化合物で覆われた第一の処理基材を作成、さらに、前記第一の金属化合物が金属を析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する第二の金属化合物をアルコールに分散してアルコール分散液を作成し、該アルコール分散液に前記第一の処理基材の集まりを投入して第二の懸濁液を作成し、該第二の懸濁液を昇温して前記アルコールを気化させ、前記第一の処理基材が前記第二の金属化合物で覆われた第二の処理基材を作成する、さらに、該第二の処理基材の集まりを、前記第一の金属化合物が熱分解される第一の熱処理と、前記第二の金属化合物が熱分解される第二の熱処理とからなる2回の熱処理を連続して行う、これによって、前記請求項4の金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材に、前記第二の金属からなる金属微粒子の集まりが析出し、該第二の金属微粒子同士が金属結合し、2種類の金属微粒子の集まりからなる複合金属微粒子の集まりで前記請求項4の鱗片状基材が覆われ、さらに、その外側を金属酸化物微粒子の集まりからなる微粒子が覆い、前記複合金属微粒子の集まりと前記金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項4に記載した片状基材を用いて、複合金属微粒子の集まりと、金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まり製造する製造方法
  6. 請求項5に記載した微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、複合金属微粒子の集まりで覆われた片状基材が製造されることを特徴とする、請求項5に記載した鱗片状基材の集まりを用いて、複合金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材製造する製造方法
  7. 請求項3における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりであり、該鱗片状基材の集まりを製造する製造方法は、請求項3における第一の金属化合物として、熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物を用い、請求項3における第二の金属化合物として、前記第一の金属化合物が複数種類の金属を同時に析出する熱処理温度より高い熱処理温度で金属酸化物を析出する金属化合物を用い、請求項3に記載した製造方法に準拠して鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、合金微粒子の集まりと金属酸化物微粒子の集まりとからなる微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  8. 請求項7における微粒子の2重構造で覆われた鱗片状基材の集まりに負荷を加え、該鱗片状基材から金属酸化物微粒子の集まりを脱落させ、前記鱗片状基材の集まりを個々の鱗片状基材に分離する、これによって、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材が製造されることを特徴とする、請求項7に記載した鱗片状基材の集まりを用いて、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  9. 請求項1および請求項3および請求項5における熱処理で金属を析出する金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第1の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第2の特徴とからなる2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を熱処理で金属を析出する金属化合物として用い、請求項1および請求項3および請求項5に記載した製造方法に準拠して鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項1および請求項3および請求項5における金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  10. 請求項1および請求項3および請求項5における熱処理で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしはイオンが配位子を構成し、該配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩であり、該無機塩を熱処理で金属を析出する金属化合物として用い、請求項1および請求項3および請求項5に記載した製造方法に準拠して鱗片状の基材の集まりを製造する、これによって、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項1および請求項3および請求項5における金属結合した金属微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  11. 請求項3および請求項5における熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに配位結合する第1の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第2の特徴とからなる2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物を熱処理で金属酸化物を析出する金属化合物として用い、請求項3および請求項5に記載した製造方法に準拠して鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、金属酸化物の微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項3および請求項5における金属酸化物の微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
  12. 請求項における熱処理で複数種類の金属が同時に析出する複数種類の金属化合物は、同一のカルボン酸で構成される第1の特徴と、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが異なる金属イオンに共有結合する第2の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第3の特徴とからなる3つの特徴を兼備する複数種類のカルボン酸金属化合物であり、該複数種類のカルボン酸金属化合物を請求項7における複数種類の金属化合物として用い、請求項7に記載した製造方法に準拠して鱗片状基材の集まりを製造する、これによって、合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりが製造されることを特徴とする、請求項おける合金微粒子の集まりで覆われた鱗片状基材の集まりを製造する製造方法
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