以下、本発明の実施形態に係る温度試験装置及び温度試験方法について、図面を参照して説明する。なお、各図面上の各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
本実施形態に係る温度試験装置1は、アンテナ110を有するDUT100の送信特性又は受信特性の温度依存性を測定するものである。このために、温度試験装置1は、OTAチャンバ50と、試験用アンテナ6と、姿勢可変機構56と、断熱筐体70と、温度制御装置30と、測定装置2と、を備えている。なお、本実施形態のOTAチャンバ50は、本発明の電波暗箱に対応する。
図1は、温度試験装置1の外観構造を示し、図2は、温度試験装置1の機能ブロックを示す。ただし、図1においては、OTAチャンバ50について正面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
図1及び図2に示すように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有している。試験用アンテナ6は、OTAチャンバ50の内部空間51に収容され、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号をアンテナ110との間で送信又は受信するようになっている。姿勢可変機構56は、OTAチャンバ50の内部空間51におけるクワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を順次変化させるようになっている。断熱筐体70は、OTAチャンバ50の内部空間51に収容され、クワイエットゾーンQZを含む空間領域71を取り囲む断熱材から構成されている。温度制御装置30は、空間領域71の温度を複数の所定温度に制御することができるようになっている。測定装置2は、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、及び信号処理部40a、40bを含み、温度制御装置30により空間領域71の温度が制御された状態で、姿勢可変機構56によりDUT100の姿勢が変化されるごとに、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行うようになっている。
温度試験装置1は、例えば、図1に示すような複数のラック90aを有するラック構造体90と共に用いられ、各ラック90aに各構成要素を載置した態様で運用される。図1は、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、温度制御装置30、及びOTAチャンバ50を載置した例を示す。温度制御装置30は、ラック90aに収容せず、ラック構造体90とは別に設けるようにしてもよい。以下、各構成要素を説明する。
(OTAチャンバ)
OTAチャンバ50は、5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を実現するものであって、図1、図2に示すように、例えば、直方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成されている。OTAチャンバ50は、内部空間51に、DUT100と、DUT100のアンテナ110と対向する試験用アンテナ6を、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を防ぐ状態に収容する。後で説明するが、試験用アンテナ6としては、例えば、ホーンアンテナ等の指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。
OTAチャンバ50の内部空間51には、さらに、試験用アンテナ6から放射された無線信号をDUT100のアンテナ110に向けて反射するリフレクタ7と、クワイエットゾーンQZを含む空間領域71を取り囲む断熱材からなる断熱筐体70と、が収容されている。OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられ、内部空間の無響特性を確保すると共に、外部への電波の放射規制機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
(DUT)
被試験対象とされるDUT100は、例えばスマートフォン等の無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE−A、W−CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV−DO、TD−SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB−H、ISDB−T等)が挙げられる。また、DUT100は、5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
本実施形態において、DUT100は5G NRの無線端末である。5G NRの無線端末については、ミリ波帯の他、LTE等で使用する他の周波数帯も含む既定の周波数帯を通信可能周波数範囲とすることが5G NR規格によって規定されている。要するに、DUT100のアンテナ110は、DUT100の送信特性又は受信特性の被測定対象である既定の周波数帯(5G NRバンド)の無線信号を送信又は受信するものである。アンテナ110は、例えばMassive−MIMOアンテナ等のアレーアンテナであり、本発明における被試験アンテナに相当する。
本実施形態において、DUT100は、OTAチャンバ50内での送受信特性に関する測定中、試験用アンテナ6を介して試験信号及び被測定信号を送受信できるようになっている。
(姿勢可変機構)
次に、OTAチャンバ50の内部空間51に設けられた姿勢可変機構56について説明する。図1に示すように、OTAチャンバ50の筐体本体部52の内部空間51側の底面52aには、クワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を順次変化させる姿勢可変機構56が設けられている。姿勢可変機構56は、例えば、2軸の各軸周りに回転する回転機構を備える2軸ポジショナである。姿勢可変機構56は、試験用アンテナ6を固定した状態で、DUT100を2軸周りの回転自由度をもって回転させるようなOTA試験系(Combined-axes system)を構成する。具体的には、姿勢可変機構56は、駆動部56aと、ターンテーブル56bと、支柱56cと、被試験対象載置部としてのDUT載置部56dと、を有する。
駆動部56aは、回転駆動力を発生させるステッピングモータ等の駆動用モータからなり、例えば、底面52aに設置される。ターンテーブル56bは、駆動部56aの回転駆動力により、互いに直交する2軸のうち一方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。支柱56cは、ターンテーブル56bに連結され、ターンテーブル56bから一方の軸の方向に延びて、駆動部56aの回転駆動力によりターンテーブル56bと共に回転するようになっている。DUT載置部56dは、支柱56cの側面から2軸のうちの他方の軸の方向に延びて、駆動部56aの回転駆動力により他方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。DUT100は、DUT載置部56dに載置される。
なお、上記の一方の軸は、例えば、底面52aに対して鉛直方向に延びる軸(図中のY軸)である。また、上記の他方の軸は、例えば、支柱56cの側面から水平方向に延びる軸である。このように構成された姿勢可変機構56は、DUT載置部56dに保持されているDUT100を、例えば、DUT100の中心を回転中心として、試験用アンテナ6およびリフレクタ7に対して3次元のあらゆる方向にアンテナ110が向く状態に順次姿勢を変化させ得るように回転させることができる。
(リンクアンテナ)
OTAチャンバ50において、筐体本体部52の所要位置には、DUT100との間でリンク(呼)を確立又は維持するための2種類のリンクアンテナ5、8が、それぞれ保持具57、59により取り付けられている。リンクアンテナ5は、LTE用のリンクアンテナであり、ノンスタンドアローンモード(Non-Standalone mode)で使用される。一方、リンクアンテナ8は、5G用のリンクアンテナであり、5Gの呼を維持するために使用される。リンクアンテナ5、8は、姿勢可変機構56に保持されるDUT100に対して指向性を有するようにそれぞれ保持具57、59によって保持されている。なお、上記のリンクアンテナ5、8を使用する代わりに、試験用アンテナ6をリンクアンテナとして兼用することも可能であるため、以下においては、試験用アンテナ6がリンクアンテナの機能を兼ねるものとして説明する。
(近傍界と遠方界)
次に、近傍界と遠方界について説明する。図5は、無線端末100Aに向けてアンテナATから放射された電波の伝わり方を示す模式図である。アンテナATは、後で説明する一次放射器としての試験用アンテナ6と同等のものである。無線端末100Aは、DUT100と同等のものである。図5において、(a)は、電波がアンテナATから無線端末100Aへ直接伝わるDFF(Direct Far Field)方式を示し、(b)は、電波がアンテナATから回転放物面を有する反射鏡7Aを介して無線端末100Aへ伝わるIFF(Indirect Far Field)方式を示している。
図5(a)に示すように、アンテナATを放射源とする電波は、同位相の点を結んだ面(波面)が放射源を中心にして球状に拡がりながら伝搬する性質がある。このとき、破線で示すような、散乱、屈折、反射などの外乱による生じる干渉波も発生する。また、放射源から近い距離では、波面は湾曲した球面(球面波)であるが、放射源から遠くなると波面は平面(平面波)に近くなる。一般に、波面を球面と考える必要のある領域が近傍界(NEAR FIELD)と呼ばれ、波面を平面とみなしてよい領域が遠方界(FAR FIELD)と呼ばれている。図5(a)に示す電波の伝搬にあって、無線端末100Aは、正確な測定を行ううえで、球面波を受信するよりも、平面波を受信する方が好ましい。
平面波を受信するためには、無線端末100Aが遠方界に設置される必要がある。DUT100内でのアンテナ110の位置及びアンテナサイズが分かっていないとき、遠方界は、アンテナATから2D2/λ以遠の領域となる。ここで、Dは、無線端末100Aの最大直線サイズ、λは電波の波長である。
具体的には、例えば、無線端末100Aの最大直線サイズD=0.4m、波長λ=0.01m(28GHz帯の無線信号に相当)とした場合、アンテナATからおおよそ30mの位置が近傍界と遠方界との境界となり、それより遠い位置に無線端末100Aを置く必要が生じる。なお、本実施形態においては、最大直線サイズDが、例えば、5cm(センチメートル)から33cm程度のDUT100の測定を想定している。
図5(b)は、アンテナATの電波を反射させて、無線端末100Aの位置にその反射波を到達させるように、回転放物面を有する反射鏡7Aを配置する方法を示す(CATR(Compact Antenna Test Range)方式)。この方法によれば、アンテナATと無線端末100A間の距離を短縮でき、反射鏡7Aの鏡面での反射後直ぐの距離から平面波の領域が拡がるため、伝搬ロスの低減効果も見込むことができる。平面波の度合は、同位相の波の位相差で表すことができる。平面波の度合として許容し得る位相差は、例えば、λ/16である。位相差は、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で評価することができる。
(試験用アンテナ)
次に、試験用アンテナ6について説明する。
試験用アンテナ6は、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号を、アンテナ110との間でリフレクタ7を介して送信又は受信するようになっている。試験用アンテナ6は、水平偏波アンテナ6Hと垂直偏波アンテナ6Vを備えている(図2参照)。リフレクタ7は、後述するオフセットパラボラ(図6参照)型の構造を有するものである。リフレクタ7は、図1に示すように、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。
リフレクタ7は、その回転放物面から定まる焦点位置Fに配置されている一次放射器としての試験用アンテナ6から放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、姿勢可変機構56に保持されているDUT100に向けて反射させる(送信時)。また、リフレクタ7は、上記試験信号を受信したDUT100がアンテナ110から放射する被測定信号の電波を回転放物面で受け、該試験信号を放射した試験用アンテナ6に向けて反射させる(受信時)。すなわち、リフレクタ7は、試験用アンテナ6とアンテナ110との間で送受信される無線信号の電波を、回転放物面を介して反射するようになっている。
図6は、リフレクタ7の構造を示す模式図である。リフレクタ7は、オフセットパラボラ型であり、回転放物面の軸に対して非対称な鏡面(真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出した形状)を有している。一次放射器としての試験用アンテナ6は、そのビーム軸BSが回転放物面の軸RSに対して、例えば、角度α(例えば30°)傾いたオフセット状態にて、オフセットパラボラの焦点位置Fに配置されている。別言すれば、試験用アンテナ6は、仰角αでリフレクタ7に対向するように配置され、試験用アンテナ6の受信面が無線信号のビーム軸BSに対して直角となる角度で保持される。
この構成により、試験用アンテナ6から放射された電波(例えば、DUT100に対する試験信号)を回転放物面で該回転放物面の軸方向と平行な方向に反射させるとともに、回転放物面の軸方向と平行な方向に回転放物面に対して入射する電波(例えば、DUT100から送信された被測定信号)を該回転放物面で反射させ、試験用アンテナ6へと導くことができる。オフセットパラボラは、パラボラ型に比べて、リフレクタ7自体が小さくて済むうえに、鏡面が垂直に近づくような配置が可能であるので、OTAチャンバ50の構造を小型化し得る。
(断熱筐体)
次に、OTAチャンバ50の内部空間51に収容される断熱筐体70について説明する。
図1及び図7に示すように、断熱筐体70は、断熱材により構成され、少なくともクワイエットゾーンQZを含む空間領域71を取り囲んで密閉するようになっている。この空間領域71には、DUT100と、DUT載置部56dと、支柱56cの一部とが収容される。図7に示すように、試験用アンテナ6から送信された無線信号の電波がクワイエットゾーンQZに入射する前に通過する断熱筐体70の領域において、クワイエットゾーンQZに入射する無線信号の電波の進行方向に垂直であるとともに、均一な厚みを有する平板状部分70aが形成されている。この平板状部分70aは、試験用アンテナ6から送信されて断熱筐体70に入射する平面波とみなせる試験信号の電波がクワイエットゾーンQZに入射する前に通過する断熱筐体70の部分に設けられている。
断熱筐体70を構成する断熱材は、空気に近い誘電率を有し、誘電損失が小さい材料であることが望ましく、例えば、発泡スチロール(EPS)、ポリメタクリルイミド硬質発泡体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの発泡体を用いることができる。
さらに、断熱筐体70がOTAチャンバ50の内部空間51に設置された状態で、DUT100を搭載した姿勢可変機構56を回転可能にするため、断熱筐体70は、図1及び図7に示すように構成される。すなわち、断熱筐体70は、支柱56cの一部が貫通する貫通孔72を有し、ターンテーブル56b及び支柱56cと共に回転する円盤状の回転部73と、回転部73の外径にほぼ等しい内径を有し、回転部73を摺動回転自在に収容する孔部74と、を含む。例えば、断熱材でできた断熱筐体の一部を円盤状に切り抜くことで、回転部73と、回転部73の外径にほぼ等しい内径を有する孔部74とを容易に形成することができる。
本実施形態の温度試験装置1においては、断熱筐体70の内部の空間領域71の空気をできるだけ外部に漏らさないようにしながら、DUT100を搭載した姿勢可変機構56を回すことが重要である。このとき、姿勢可変機構56と共に回転する回転部73と孔部74との摩擦によって、断熱材でできた断熱筐体70の耐久性が悪くなるという問題が生じる。この問題を解決するため、回転部73の孔部74に対向する側壁面と、孔部74の回転部73に対向する内壁面とのそれぞれに、側壁面と内壁面との間の摩擦を低減するための摩擦低減部材を設けることが望ましい。
このような摩擦低減部材は、摩擦係数が小さく自己潤滑性の高い材料であることが望ましく、例えば、ポリアセタール(POM)、PTFE、超高分子ポリエチレン(UHPE)などからなるフィルム又はシートを用いることができる。
(温度制御装置)
次に温度制御装置30について説明する。
図8は、温度制御装置30による断熱筐体70の内部の温度制御を説明するための模式図である。温度制御装置30は、断熱筐体70の空間領域71の空気の温度を複数の所定温度に制御できるようになっている。具体的には、温度制御装置30は、不図示の温度制御用気体供給部と排気ファンとを備えている。排気ファンは、温度制御装置30の筐体内に組み込まれていてもよいし、筐体外に設けられていてもよい。断熱筐体70の内部には、空間領域71の空気の温度を監視するための温度センサ34が設けられている。温度センサ34は、温度制御装置30に接続されている。
温度制御装置30と断熱筐体70とは、パイプ31、32により接続されている。パイプ31は、温度制御装置30の温度制御用気体供給部により生成された加熱又は冷却された空気を、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70の内部に流入させるようになっている。また、パイプ32は、パイプ31からの空気の流入に伴って断熱筐体70の内部から押し出される空気を、温度制御装置30の排気ファンによりパイプ32の開口部32aから断熱筐体70の外部に排出させるようになっている。温度制御装置30は、例えば、ユーザによる操作部12(図3参照)の操作により入力された温度設定値に温度センサ34の温度指示値が一致するように、上記の加熱又は冷却された空気を生成する。温度制御装置30は、例えば−30℃〜70℃の範囲の任意の温度に調整した空気を断熱筐体70に送り込むことにより、断熱筐体70内の温度を制御する。
(気体ガイド)
次に、断熱筐体70内の導風機構である気体ガイド120について説明する。
図9は、本実施形態に係る温度試験装置1に取り付けられる気体ガイド120を示す斜視図であり、図10は図9の正面図であり、図11は図9の平面図である。図9〜図11に示すように、気体ガイド120は、温度制御装置30からパイプ31を通して断熱筐体70内に送り込まれた温度制御用の気体(例えば空気)をガイドするものであり、断熱筐体70とパイプ31との接続箇所に設けられている。接続箇所とは、断熱筐体70内でパイプ31の端部がある個所又はその周辺の箇所を意味する。気体ガイド120は、断熱筐体70の側壁部70bの内面側に取り付けられるが(図11、図13参照)、パイプ31に取り付けるようにしてもよい。なお、以下では、温度制御用の気体が空気であるとして説明する。
具体的には、図9〜図11に示すように、パイプ31は、断熱筐体70内の端部にパイプ31の管路31eを曲げる屈曲部31bを備えており、パイプ31の開口部31aが断熱筐体70の側壁部70bの内壁面に沿う方向に向けられている。この構成により、パイプ31から断熱筐体70に導入される空気が、屈曲部31bにより所望の方向に向けられて開口部31aから放出されるので、断熱筐体70内で空気を効率的に撹拌することができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。なお、屈曲部31bの屈曲角度は90°に限定されるものではなく、任意の角度にし得る。
気体ガイド120は、パイプ31から断熱筐体70内への空気の流入方向に沿って配置された湾曲したガイド板121を含んでいる。この構成により、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気の流速を落とすことなく効率的に空気をガイドすることができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速(例えば30分以内)に均一にすることができる。
気体ガイド120は、ガイド板121の側部から起立した補助ガイド板122を含んでいる。この構成により、ガイド板121によりガイドされる空気が側方に逸れるのを阻止しつつ、効率的に空気をガイドすることができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。
また、気体ガイド120は、断熱筐体70内のパイプ31の開口部31aとDUT100が配置される位置との間に配置されたカバー板123を含んでいる。この構成により、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気が、カバー板123に遮られてDUT100に直接当たらないようになっている。通常、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気は、設定温度が室温より低い温度(例えば−10℃)の場合は、その設定温度よりも更に低い温度(例えば−20℃)になっており、設定温度が室温より高い温度(例えば+55℃)の場合は、設定温度よりも更に高い温度(例えば80℃)になっている。このように低温又は高温の空気がDUT100に直接当たると、DUT100が破損する危険性がある。パイプ31の開口部31aとDUT100の間にカバー板123が設けられることにより、低温又は高温の空気がDUT100に直接当たることを防ぐことができる。
カバー板123は、パイプ31側の板面123bがガイド方向に湾曲していてもよい。このようにすると、例えばパイプ31が屈曲部31bを有していない場合に、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気がカバー板123に突き当たっても、カバー板123の板面123bに沿ってスムーズに空気をガイド方向に誘導することができる。
本実施形態では、断熱筐体70内のパイプ31の端部は、カバー板123を含めてボックス状の板部材124によって囲われている。ボックス状の板部材124のうち、パイプ31から導入された空気をガイドする方向のボックス面は開口部123aとなっている。ボックス状の板部材124のうち、断熱筐体70の側壁部70bに取り付けられる側のボックス面には、パイプ31を通す貫通孔が形成されている。
気体ガイド120は、例えば、発砲スチロール、塩化ビニル樹脂、プラスチック段ボールなどの任意の物質で構成することができる。
図12に示すように、気体ガイド120は、断熱筐体70内のパイプ31を包囲するように気体ガイド120の周囲に取り付けられた電波吸収体125を備えている。この構成により、試験用アンテナ6から放射されリフレクタ7で反射して送られてくる電波が、金属製のパイプ31により反射や散乱されることがなく、DUT100のアンテナ110から放射された電波が、金属製のパイプ31により反射や散乱されることがない。これによってクワイエットゾーンに配置されるDUT100の送信特性又は受信特性の温度依存性を測定する際の外乱を低減することができる。また、電波吸収体125は、パイプ31から断熱筐体70に導入された空気の流路126に開口部125aを有している。これにより、空気が電波吸収体125に妨げられることなく開口部125aから断熱筐体70内に送り込まれる。
図13は、排気用の金属製のパイプ32の端部、及びその周囲に設けられた電波吸収体129を示す図である。図13に示すように、断熱筐体70内のパイプ32の端部には屈曲部32bが設けられ、パイプ32は、開口部32aにて上方向に開口している。パイプ32の端部の周囲には、電波吸収体129が設けられており、試験用アンテナ6から放射されリフレクタ7で反射して送られてくる電波が、金属製のパイプ32により反射や散乱されることがなく、DUT100のアンテナ110から放射された電波が、金属製のパイプ32により反射や散乱されることがないようになっている。これによってクワイエットゾーンに配置されるDUT100の送信特性又は受信特性の温度依存性を測定する際の外乱を低減することができる。
具体的には、パイプ32の端部を取り囲むボックス130が、断熱筐体70の側壁部70bに取り付けられ、ボックス130の外面に電波吸収体129が取り付けられている。ボックス130の上面側は開放され、電波吸収体129の開口部129aが形成されており、断熱筐体70内の空気がパイプ32の開口部32aからパイプ32を通って外部に排出されるようになっている。ボックス130は、断熱筐体70の側壁部70bに取り付けられる側のボックス面に、パイプ32を通す貫通孔が形成されている。図14は、断熱筐体70内においてパイプ31の端部に隣接して設けられた気体ガイド120、及びパイプ32の端部を取り囲むように設けられた電波吸収体129の配置を示す図である。
図15は、気体ガイド120により生じる断熱筐体70内の渦状の気流127の様子を示す図である。図15に示す態様では、屈曲部31bは、水平方向に屈曲しており、気体ガイド120(特にガイド板121)は、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気を渦状に流すように、水平方向に沿って配置されている。この構成により、断熱筐体70内で空気を効率的に撹拌することができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。この構成は、断熱筐体70内の空気を効率的に撹拌するという観点から、パイプ31の開口部31aが断熱筐体70の側壁部70bのほぼ中間(半分)の高さに設けられている場合に好適である。なお、屈曲部31bが鉛直方向に屈曲し、気体ガイド120が、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気を鉛直面内で渦状に流すように、鉛直方向に沿って配置されるようにしてもよい。
図16は、気体ガイド120により生じる断熱筐体70内の螺旋状の気流128の様子を示す図である。図16に示す態様では、屈曲部31bは、水平方向から所定角度θだけ傾斜した方向に屈曲しており、気体ガイド120(特にガイド板121あるいはガイド板121によるガイド方向)も同様に傾斜して配置されている。これにより、気体ガイド120は、パイプ31の開口部31aから断熱筐体70に導入される空気を螺旋状に流すようにガイドするようになっている。この構成により、断熱筐体70内で空気を効率的に撹拌することができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。この構成は、断熱筐体70内の空気を効率的に撹拌するという観点から、パイプ31の開口部31aが断熱筐体70の側壁部70bの上方又は下方に設けられている場合に特に適している(図13参照)。
次に、本実施形態に係る温度試験装置1の統合制御装置10及びNRシステムシミュレータ20について、図2〜図4を参照して説明する。
(統合制御装置)
統合制御装置10は、温度制御装置30により空間領域71の温度が制御された状態で、姿勢可変機構56によりDUT100の姿勢が変化されるごとに、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行うようになっている。統合制御装置10は、以下に説明するように、NRシステムシミュレータ20、姿勢可変機構56、及び温度制御装置30を統括的に制御するものである。このために、統合制御装置10は、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、姿勢可変機構56、及び温度制御装置30と相互に通信可能に接続されている。
図3は、統合制御装置10の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、及び表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)11aと、ROM(Read Only Memory)11bと、RAM(Random Access Memory)11cと、外部インタフェース(I/F)部11dと、図示しないハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
CPU11aは、温度試験装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20を対象とする統括的な制御を行うようになっている。ROM11bは、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM11cは、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。外部インタフェース(I/F)部11dは、所定の信号が入力される入力インタフェース機能と所定の信号を出力する出力インタフェース機能を有している。
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20に対して通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、OTAチャンバ50における温度制御装置30、及び姿勢可変機構56ともネットワーク19を介して接続されている。入出力ポートには、操作部12及び表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT姿勢制御部17、及び温度制御部18を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT姿勢制御部17、及び温度制御部18も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信特性及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われたことを契機に、温度制御部18での温度制御と、呼接続制御部14での呼接続制御を経て、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。さらに、信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して、試験用アンテナ6を介して試験信号を送信させる制御を行うとともに、NRシステムシミュレータ20に信号受信指令を送信し、試験用アンテナ6を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
DUT姿勢制御部17は、姿勢可変機構56に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、あらかじめ、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、駆動部56aとしてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
DUT姿勢制御部17は、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、上述したように、アンテナ110が3次元のあらゆる方向に順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう姿勢可変機構56を駆動制御する。
温度制御部18は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザにより測定開始操作が行われたことを契機に、温度制御装置30に温度制御指令を送信する。
(NRシステムシミュレータ)
図4に示すように、本実施形態に係る温度試験装置1のNRシステムシミュレータ20は、信号測定部21、制御部22、操作部23、及び表示部24を有している。信号測定部21は、信号発生部21a、デジタル/アナログ変換器(DAC)21b、変調部21c、RF部21dの送信部21eにより構成される信号発生機能部と、RF部21dの受信部21f、アナログ/デジタル変換器(ADC)21g、解析処理部21hにより構成される信号解析機能部とを有している。
信号測定部21の信号発生機能部において、信号発生部21aは、基準波形を有する波形データ、具体的には、例えば、I成分ベースバンド信号と、その直交成分信号であるQ成分ベースバンド信号を生成する。DAC21bは、信号発生部21aから出力された基準波形を有する波形データ(I成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号)をデジタル信号からアナログ信号に変換して変調部21cに出力する。変調部21cは、I成分ベースバンド信号と、Q成分ベースバンド信号とのそれぞれに対してローカル信号をミキシングし、さらに両者を合成してデジタル変調信号を出力する変調処理を行う。RF部21dは、変調部21cから出力されたデジタル変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、生成した試験信号を送信部21eにより信号処理部40a及び試験用アンテナ6を経由してDUT100に向けて出力する。
また、信号測定部21の信号解析機能部において、RF部21dは、上記試験信号をアンテナ110により受信したDUT100から送信された被測定信号を、信号処理部40bを経由して受信部21fで受信したうえで、該被測定信号をローカル信号とミキシングすることで中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する。ADC21gは、RF部21dの受信部21fでIF信号に変換された被測定信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。
解析処理部21hは、ADC21gが出力するデジタル信号である被測定信号を、デジタル処理によって、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成したうえで、該波形データに基づいてI成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号を解析する処理を行う。解析処理部21hは、DUT100に対する送信特性の測定において、例えば、等価等方放射電力(Equivalent Isotropically Radiated Power:EIRP)、全放射電力(Total Radiated Power:TRP)、スプリアス放射、変調精度(EVM)、送信パワー、コンスタレーション、スペクトラム等が測定可能である。また、解析処理部21hは、DUT100に対する受信特性の測定において、例えば、受信感度、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)等が測定可能である。ここで、EIRPは、被試験アンテナの主ビーム方向の無線信号強度である。また、TRPは、被試験アンテナから空間に放射される電力の合計値である。
制御部22は、上述した統合制御装置10の制御部11と同様、例えば、CPU、RAM、ROM、各種入出力インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。CPUは、信号発生機能部、信号解析機能部、操作部23及び表示部24の各機能を実現するための所定の情報処理や制御を行う。
操作部23、表示部24は、上記コンピュータ装置の入出力インタフェースに接続されている。操作部23は、コマンド等各種情報を入力するための機能部であり、表示部24は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
本実施形態では、統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20とを別装置としているが、1つの装置として構成してもよい。この場合には、統合制御装置10の制御部11とNRシステムシミュレータ20の制御部22とを統合して1つのコンピュータ装置により実現してもよい。
(信号処理部)
次に、信号処理部40a、40bについて説明する。
信号処理部40aは、送信部21eと試験用アンテナ6の間に設けられ、アップコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等により構成されている。信号処理部40aは、試験用アンテナ6に出力する試験信号に対して、周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択の各処理を施すようになっている。
信号処理部40bは、受信部21fと試験用アンテナ6の間に設けられ、ダウンコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等により構成されている。信号処理部40bは、試験用アンテナ6から入力される被測定信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択の各処理を施すようになっている。
(温度試験方法)
次に、本実施形態に係る温度試験装置1を用いてDUT100の送信特性及び受信特性の温度依存性を測定する温度試験方法について、図17のフローチャートを参照して説明する。
まず、ユーザは、OTAチャンバ50の内部空間51内に設けられた姿勢可変機構56のDUT載置部56dに対して試験対象のDUT100をセットする(ステップS1)。
次いで、ユーザは、統合制御装置10の操作部12を用いて、DUT100の送信特性及び受信特性についての測定の開始を制御部11に指示する測定開始操作を行う。この測定開始操作は、NRシステムシミュレータ20の操作部23により行うようにしてもよい。
DUT100のセット作業が行われた後、統合制御装置10の制御部11は、操作部12においてDUT100の送信特性及び受信特性の測定開始操作が行われたか否かを監視する。
制御部11は、測定開始操作が行われていないと判定された場合、監視を続行する。一方、測定開始操作が行われたと制御部11により判定された場合、温度制御部18は、温度制御装置30に対して温度制御指令を送信する。温度制御装置30は、上記温度制御指令に基づき、空間領域71の空気の温度を、あらかじめユーザによる操作部12の操作により入力された複数の温度設定値に対応する複数の所定温度のいずれかに調整する制御を行う(温度制御ステップS2)。
次いで、制御部11の呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を使用し、DUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信することにより呼接続制御を実施する(ステップS3)。具体的には、NRシステムシミュレータ20は、DUT100に対して試験用アンテナ6を介して所定周波数を有する制御信号(呼接続要求信号)を無線送信する。一方、該呼接続要求信号を受信したDUT100は、接続要求された周波数を設定したうえで制御信号(呼接続応答信号)を返信する。NRシステムシミュレータ20は、この呼接続応答信号を受信して正常に応答が行われたことを確認する。これら一連の処理が呼接続制御である。この呼接続制御により、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に、試験用アンテナ6を介して所定周波数の無線信号を送受信可能な状態が確立される。
なお、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ6及びリフレクタ7を介して送られてくる無線信号をDUT100により受信する処理は、ダウンリンク(DL)処理と称される。逆に、DUT100によりリフレクタ7及び試験用アンテナ6を介してNRシステムシミュレータ20に対して無線信号を送信する処理は、アップリンク(UL)処理と称される。試験用アンテナ6は、リンク(呼)を確立する処理、ならびにリンク確立後のダウンリンク(DL)及びアップリンク(UL)の処理を実行するために用いられるものであり、リンクアンテナの機能を兼ねている。
ステップS3での呼接続の確立後、統合制御装置10のDUT姿勢制御部17は、クワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を姿勢可変機構56により所定の姿勢に制御する(ステップS4)。
姿勢可変機構56によりDUT100が所定の姿勢に制御、設定された後、統合制御装置10の信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。NRシステムシミュレータ20は、上記信号送信指令に基づき、試験用アンテナ6を介してDUT100に試験信号を送信する(ステップS5)。
NRシステムシミュレータ20による試験信号の送信は、以下のように実施される。NRシステムシミュレータ20(図4参照)において、信号発生部21aは、上記信号送信指令を受けた制御部22の制御下で、試験信号を生成するための信号を発生する。次いで、DAC21bは、信号発生部により発生された信号をデジタル/アナログ変換処理する。次いで、変調部21cは、デジタル/アナログ変換により得られたアナログ信号に変調処理を行う。次いで、RF部21dは、変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、送信部21eは、この試験信号(DLデータ)を信号処理部40aに送る。
信号処理部40aは、試験信号に対して周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、試験用アンテナ6に送る。試験用アンテナ6は、試験信号をリフレクタ7を介してDUT100に向けて出力する。
なお、信号送受信制御部15は、ステップS5で試験信号送信の制御を開始した後、DUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了するまでの間、試験信号を適宜のタイミングで送信するよう制御する。
一方、DUT100は、試験用アンテナ6及びリフレクタ7を介して送られてくる試験信号(DLデータ)を、ステップS4による上記姿勢制御に基づいて順次変化する異なる姿勢の状態でアンテナ110により受信するとともに、該試験信号に対する応答信号である被測定信号を送信する。
ステップS5で試験信号の送信を開始した後、引き続き、信号送受信制御部15による制御下で受信処理が行われる(ステップS6)。この受信処理では、試験用アンテナ6が、上記試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号を受信し、信号処理部40bに出力する。信号処理部40bは、被測定信号に対して周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、NRシステムシミュレータ20に出力する。
NRシステムシミュレータ20は、信号処理部40bにより周波数変換された被測定信号を測定する測定処理を実行する(ステップS7)。
具体的には、NRシステムシミュレータ20のRF部21dの受信部21fは、信号処理部40bにより信号処理された被測定信号を入力する。RF部21dは、制御部22の制御下で、受信部21fに入力された被測定信号をより周波数が低いIF信号に変換する。次いで、ADC21gは、制御部22の制御下で、IF信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。解析処理部21hは、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成する。さらに、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、前述の生成された波形データに基づいて被測定信号を解析する。
より具体的には、NRシステムシミュレータ20において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、被測定信号の解析結果に基づいてDUT100の送信特性及び受信特性を測定する。
例えば、DUT100の送信特性については次のように行う。まず、NRシステムシミュレータ20が、制御部22の制御下で、試験信号としてアップリンク信号送信のリクエストフレームを送信する。DUT100は、該アップリンク信号送信のリクエストフレームに応答してアップリンク信号フレームを被測定信号としてNRシステムシミュレータ20に送信する。解析処理部21hは、このアップリンク信号フレームに基づいてDUT100の送信特性を評価する処理を行う。
また、DUT100の受信特性については例えば次のように行う。解析処理部21hは、制御部22の制御下で、NRシステムシミュレータ20から試験信号として送信した測定用フレームの送信回数と、測定用フレームに対してDUT100から被測定信号として送信されるACK及びNACKの受信回数の割合をエラー率(PER)として算出する。
ステップS7において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、DUT100の送信特性及び受信特性の測定結果を、ステップS2で制御された温度における送信特性及び受信特性として図示しないRAM等の記憶領域に記憶する。
次いで、統合制御装置10の制御部11は、所望の全ての姿勢に関してDUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了したか否かを判定する(ステップS8)。ここで、測定が終了していないと判定された場合(ステップS8でNO)、ステップS4に戻って処理を続行する。
制御部11は、全ての姿勢について測定が終了していると判定された場合(ステップS8でYES)、あらかじめユーザにより設定された全ての温度についてDUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了したか否かを判定する(ステップS9)。
制御部11は、全ての温度について測定が終了していないと判定された場合(ステップS9でNO)、ステップS2に戻って処理を続行する。制御部11は、全ての温度について測定が終了していると判定された場合(ステップS9でYES)、試験を終了する。
以上説明したように、本実施形態に係る温度試験装置1においては、温度制御装置30と断熱筐体70が、温度制御装置30により温度が制御された空気が通るパイプ31により接続され、該空気が断熱筐体70に導入される断熱筐体70とパイプ31との接続箇所に、該空気をガイドする気体ガイド120が設けられている。この構成により、パイプ31から断熱筐体70に送り込まれる空気が、気体ガイド120により所望の方向にガイドされるので、断熱筐体70内で空気を効率的に撹拌することができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。
また、気体ガイド120は、パイプ31から断熱筐体70に導入される空気を旋回させるように湾曲したガイド板121を備えている。この構成により、本実施形態に係る温度試験装置1は、パイプ31から断熱筐体70に導入される空気の流速を落とすことなく効率的に空気をガイドすることができ、それにより、断熱筐体70内の温度を迅速に均一にすることができる。
なお、本発明は、電波暗箱だけではなく電波暗室にも適用できる。また、上記実施形態では、OTAチャンバ50がCATR方式を採用したチャンバであるとしたが、本発明は、これに限らず、OTAチャンバ50は、図5(a)に示したダイレクトファーフィールド方式を採用したチャンバであってもよい。
以上述べたように、本発明は、OTA試験環境において被試験対象の送信特性又は受信特性の温度依存性を測定する際に、断熱筐体内の温度を迅速に均一にすることができるという効果を有し、無線端末の温度試験装置及び温度試験方法の全般に有用である。