以下、本発明の実施形態に係る温度試験装置及び温度試験方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る温度試験装置1は、OTA環境下でアンテナ110を有するDUT100の送信特性又は受信特性の温度依存性を測定するものである。このために、温度試験装置1は、図1に示すように、OTAチャンバ50と、試験用アンテナ6と、姿勢可変機構60と、断熱筐体70と、温度制御装置120と、測定装置2と、赤外線カメラ装置140とを備えている。なお、本実施形態のOTAチャンバ50は、本発明の電波暗箱に対応する。以下、各構成要素について説明する。
[OTAチャンバ]
OTAチャンバ50は、例えば5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を実現するものである。OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間54を有している。具体的には、図1に示すように、OTAチャンバ50は、例えば直方体形状の金属製のチャンバ本体部51により構成され、チャンバ本体部51の内部に直方体形状の内部空間54を有している。OTAチャンバ50の内部空間54には、DUT100と試験用アンテナ6とが、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を防ぐ状態にて収容されている。試験用アンテナ6は、DUT100のアンテナ110との間で無線信号を送受信する。
OTAチャンバ50の内部空間54には、さらに、試験用アンテナ6から放射された無線信号をDUT100のアンテナ110に向けて反射するリフレクタ7と、クワイエットゾーンQZを含む空間領域77を取り囲む断熱材からなる断熱筐体70と、が収容されている。OTAチャンバ50の内面全域、すなわち、内部空間54に面するチャンバ本体部51の底面51a、側面51b、及び上面51cの全面には、電波吸収体55が貼り付けられ、内部空間54の無響特性を確保すると共に、外部への電波の放射規制機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間54を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱としてのOTAチャンバ50は、例えば、Anechoic型のものである。
ここで、クワイエットゾーンとは、OTA試験環境を実現するOTAチャンバ50において、DUT100が試験用アンテナ6からほぼ均一な振幅と位相で電波が照射される空間領域の範囲を表す概念である。クワイエットゾーンの形状は、通常、球形である。このようなクワイエットゾーンにDUT100を配置することにより、周りからの散乱波の影響を抑えた状態でOTA試験を行うことが可能になる。
温度試験装置1は、例えば、図1に示すような複数のラック90aを有するラック構造体90と共に用いられ、各ラック90aに各構成要素を載置した態様で運用される。図1は、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、無線通信アナライザ30、及びOTAチャンバ50を載置した例を示す。温度制御装置120は、ラック90aに収容せず、ラック構造体90とは別に設けている。
次に、温度試験装置1の外観について説明する。
図2(a)は、本実施形態に係る温度試験装置1の正面図であり、図2(b)は背面図である。図2(a)に示すように、チャンバ本体部51の正面には、扉52aが設けられている。扉52aは矩形の平面形状を有し、ヒンジ52bを介して開閉可能にチャンバ本体部51に取り付けられている。ユーザは、ハンドル52cを操作し扉52aを開放して、OTAチャンバ50内に断熱筐体70などをセットアップするなどOTAチャンバ50内の各種作業ができるようになっている。扉52aは、少なくとも断熱筐体70などOTAチャンバ50内に配置するものをOTAチャンバ50内に入れることができる大きさを有している。
チャンバ本体部51は、正面に、上述した扉52aに加えてアクセスパネル52dを有している。アクセスパネル52dは、チャンバ本体部51の内部空間54内に配置される内部機器とチャンバ本体部51の外部に配置される外部機器とを電気的に接続する機能を有するものである。アクセスパネル52dに接続される内部機器としては、例えば、後述する試験用アンテナ6、姿勢可変機構60の駆動部61、赤外線カメラ装置140、DUT100が挙げられる。アクセスパネル52dに接続される外部機器としては、例えば、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部40、無線通信アナライザ30が挙げられる。
図2(b)に示すように、チャンバ本体部51は、チャンバ背面に、配管継手181と排気ファン172とが設けられている。配管継手181は、断熱筐体70に温度制御された気体(空気)を導入する吸気路において、OTAチャンバ50の内側の吸気路と外側の吸気路を接続するものである。排気ファン172は、断熱筐体70の内部の空気を排気するためのものである。
[DUT]
被試験対象とされるDUT100は、例えばスマートフォン等の無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
本実施形態では、一例として、DUT100が5G NRの無線端末であるとして説明する。5G NRの無線端末については、ミリ波帯の他、LTE等で使用する他の周波数帯も含む既定の周波数帯を通信可能周波数範囲とすることが5G NR規格によって規定されている。要するに、DUT100のアンテナ110は、DUT100の送信特性又は受信特性の被測定対象である既定の周波数帯(5G NRバンド)の無線信号を送信又は受信するものである。アンテナ110は、例えばMassive-MIMOアンテナ等のアレーアンテナであり、本発明における被試験アンテナに相当する。
本実施形態において、DUT100は、OTAチャンバ50内での送受信に関する測定中、試験用アンテナ6を介して試験信号を受信し、被測定信号を送信できるようになっている。
[姿勢可変機構]
姿勢可変機構60は、OTAチャンバ50の内部空間54におけるクワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を順次変化させるようになっている。図1に示すように、姿勢可変機構60は、OTAチャンバ50のチャンバ本体部51の内部空間54側の底面51aに設けられている。姿勢可変機構60は、例えば、2軸の各軸周りに回転する回転機構を備える2軸ポジショナである。姿勢可変機構60は、試験用アンテナ6を固定した状態で、DUT100を2軸周りの回転自由度をもって回転させるようなOTA試験系(Combined-axes system)を構成する。具体的には、姿勢可変機構60は、駆動部61と、ターンテーブル62と、支柱63と、被試験対象載置部としてのDUT載置部64と、を有する。
駆動部61は、回転駆動力を発生させるステッピングモータ等の駆動用モータからなり、例えば、底面51aに設置される。ターンテーブル62は、駆動部61の回転駆動力により、互いに直交する2軸のうち第1の軸の周りに所定角度回転するようになっている。支柱63は、ターンテーブル62に連結され、ターンテーブル62から第1の軸の方向に延びて、駆動部61の回転駆動力によりターンテーブル62と共に回転するようになっている。DUT載置部64は、支柱63の側面から2軸のうちの第2の軸の方向に延びて、駆動部61の回転駆動力により第2の軸の周りに所定角度回転するようになっている。DUT100は、DUT載置部64に載置される。
なお、第1の軸は、例えば、底面51aに対して鉛直方向に延びる軸(図中のY軸)である。また、第2の軸は、例えば、支柱63の側面から水平方向に延びる軸である。このように構成された姿勢可変機構60は、DUT載置部64に保持されているDUT100を、例えば、DUT100の中心を回転中心として、試験用アンテナ6およびリフレクタ7に対して3次元のあらゆる方向にアンテナ110が向く状態に順次姿勢を変化させ得るように回転させることができる。
(近傍界と遠方界)
ここで、近傍界と遠方界について説明する。
図6は、無線端末100Aに向けてアンテナATから放射された電波の伝わり方を示す模式図である。アンテナATは、後で説明する一次放射器としての試験用アンテナ6と同等のものである。無線端末100Aは、DUT100と同等のものである。図6において、(a)は、電波がアンテナATから無線端末100Aへ直接伝わるDFF(Direct Far Field)方式を示し、(b)は、電波がアンテナATから回転放物面を有する反射鏡7Aを介して無線端末100Aへ伝わるIFF(Indirect Far Field)方式を示している。
図6(a)に示すように、アンテナATを放射源とする電波は、同位相の点を結んだ面(波面)が放射源を中心にして球状に拡がりながら伝搬する性質がある。このとき、破線で示すような、散乱、屈折、反射などの外乱により生じる干渉波も発生する。また、放射源から近い距離では、波面は湾曲した球面(球面波)であるが、放射源から遠くなると波面は平面(平面波)に近くなる。一般に、波面を球面と考える必要のある領域が近傍界(Near Field)と呼ばれ、波面を平面とみなしてよい領域が遠方界(Far Field)と呼ばれている。図6(a)に示す電波の伝搬において、無線端末100Aは、正確な測定を行ううえで、球面波を受信するよりも、平面波を受信する方が好ましい。
平面波を受信するためには、無線端末100Aが遠方界に設置される必要がある。DUT100内でのアンテナ110の位置及びアンテナサイズが分かっていないとき、遠方界は、アンテナATから2D2/λ以遠の領域となる。ここで、Dは、無線端末100Aの最大直線サイズ、λは電波の波長である。
図6(b)は、アンテナATの電波を反射させて、無線端末100Aの位置にその反射波を到達させるように、回転放物面を有する反射鏡7Aを配置する方法を示す(CATR(Compact Antenna Test Range)方式)。この方法によれば、アンテナATと無線端末100A間の距離を短縮でき、反射鏡7Aの鏡面での反射後直ぐの距離から平面波の領域が拡がるため、伝搬ロスの低減効果も見込むことができる。平面波の度合は、同位相の波の位相差で表すことができる。平面波の度合として許容し得る位相差は、例えば、λ/16である。位相差は、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で評価することができる。
[試験用アンテナ]
次に、試験用アンテナ6について説明する。
試験用アンテナ6は、OTAチャンバ50の内部空間54に収容されており、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号を、アンテナ110との間でリフレクタ7を介して送信又は受信するようになっている。試験用アンテナ6は、水平偏波アンテナ6Hと垂直偏波アンテナ6Vを備えている(図3参照)。試験用アンテナ6としては、例えば、ホーンアンテナ等の指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。リフレクタ7は、後述するオフセットパラボラ(図7参照)型の構造を有するものである。リフレクタ7は、図1に示すように、OTAチャンバ50の側面51bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。
リフレクタ7は、その回転放物面から定まる焦点位置Fに配置されている一次放射器としての試験用アンテナ6から放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、姿勢可変機構60に保持されているDUT100に向けて反射させる(送信時)。また、リフレクタ7は、上記試験信号を受信したDUT100がアンテナ110から放射する被測定信号の電波を回転放物面で受け、該試験信号を放射した試験用アンテナ6に向けて反射させる(受信時)。すなわち、リフレクタ7は、試験用アンテナ6とアンテナ110との間で送受信される無線信号の電波を、回転放物面を介して反射するようになっている。
図7は、リフレクタ7の構造を示す模式図である。リフレクタ7は、オフセットパラボラ型であり、回転放物面の軸に対して非対称な鏡面(真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出した形状)を有している。一次放射器としての試験用アンテナ6は、そのビーム軸BSが回転放物面の軸RSに対して、例えば、角度α(例えば30°)傾いたオフセット状態にて、オフセットパラボラ型のリフレクタ7の焦点位置Fに配置されている。別言すれば、試験用アンテナ6は、仰角αでリフレクタ7に対向するように配置され、試験用アンテナ6の受信面が無線信号のビーム軸BSに対して直角となる角度で保持される。
この構成により、試験用アンテナ6から放射された電波(例えば、DUT100に対する試験信号)を回転放物面で該回転放物面の軸方向と平行な方向に反射させるとともに、回転放物面の軸方向と平行な方向に回転放物面に対して入射する電波(例えば、DUT100から送信された被測定信号)を該回転放物面で反射させ、試験用アンテナ6へと導くことができる。オフセットパラボラは、パラボラ型に比べて、リフレクタ7自体が小さくて済むうえに、鏡面が垂直に近づくような配置が可能であるので、OTAチャンバ50の構造を小型化し得る。
次に、リンクアンテナについて説明する。
OTAチャンバ50において、チャンバ本体部51の所要位置には、DUT100との間でリンク(呼)を確立又は維持するための2種類のリンクアンテナ5、8が、それぞれ保持具57、59により取り付けられている。リンクアンテナ5は、LTE用のリンクアンテナであり、ノンスタンドアローンモード(Non-Standalone mode)で使用される。一方、リンクアンテナ8は、5G用のリンクアンテナであり、5Gの呼を維持するために使用される。リンクアンテナ5、8は、姿勢可変機構60に保持されたDUT100に対して指向性を有するようにそれぞれ保持具57、59によって保持されている。なお、上記のリンクアンテナ5、8を使用する代わりに、試験用アンテナ6をリンクアンテナとして兼用することも可能であるため、以下においては、試験用アンテナ6がリンクアンテナの機能を兼ねるものとして説明する。
[断熱筐体]
次に、OTAチャンバ50の内部空間54に収容される断熱筐体70について説明する。
断熱筐体70は、DUT100の周囲温度を複数の設定温度に順次変化させて温度試験を行う際に、各設定温度にてDUT100の周囲温度を一定に保持するようになっている。図1及び図8に示すように、断熱筐体70は、OTAチャンバ50の内部空間54に収容されており、少なくともクワイエットゾーンQZを含む空間領域77を密閉状態に取り囲む断熱材から構成されている。この空間領域77には、DUT100と、DUT載置部64と、支柱63の一部とが収容されている。
図8に示すように、試験用アンテナ6から送信された無線信号の電波がクワイエットゾーンQZに入射する前に通過する断熱筐体70の領域において、クワイエットゾーンQZに入射する無線信号の電波の進行方向に垂直であるとともに、均一な厚みを有する平板状部分(前方側板75)が形成されている。この平板状部分(前方側板75)は、試験用アンテナ6から送信されて断熱筐体70に入射する平面波とみなせる試験信号の電波がクワイエットゾーンQZに入射する前に通過する断熱筐体70の部分に設けられている。
断熱筐体70を構成する断熱材は、空気に近い誘電率を有し、誘電損失が小さい材料であることが望ましく、例えば、発泡スチロール(EPS)、ポリメタクリルイミド硬質発泡体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの発泡体を用いることができる。
さらに、断熱筐体70がOTAチャンバ50の内部空間54に設置された状態で、DUT100を搭載した姿勢可変機構60を回転可能にするため、断熱筐体70は、図1及び図8に示すように構成される。すなわち、断熱筐体70は、支柱63の一部が貫通する貫通孔72aを有し、ターンテーブル62及び支柱63と共に回転する円盤状の回転部72bと、回転部72bの外径にほぼ等しい内径を有し、回転部72bを摺動回転自在に収容する孔部72cと、を含む。例えば、断熱材でできた断熱筐体の一部を円盤状に切り抜くことで、回転部72bと、回転部72bの外径にほぼ等しい内径を有する孔部72cとを容易に形成することができる。
本実施形態の温度試験装置1においては、断熱筐体70の内部の空間領域77の空気をできるだけ外部に漏らさないようにしながら、DUT100を搭載した姿勢可変機構60を回すことが重要である。このとき、姿勢可変機構60と共に回転する回転部72bと孔部72cとの摩擦によって、断熱材でできた断熱筐体70の耐久性が悪くなるという問題が生じる。この問題を解決するため、回転部72bの孔部72cに対向する側壁面と、孔部72cの回転部72bに対向する内壁面とのそれぞれに、側壁面と内壁面との間の摩擦を低減するための摩擦低減部材を設けることが望ましい。
このような摩擦低減部材は、摩擦係数が小さく自己潤滑性の高い材料であることが望ましく、例えば、ポリアセタール(POM)、PTFE、超高分子ポリエチレン(UHPE)などからなるフィルム又はシートを用いることができる。
次に、断熱筐体70の構造を説明する。
図10は、本実施形態に係る温度試験装置1の断熱筐体70の組立図である。図10に示すように、断熱筐体70は、断熱材からなる複数の板パーツ、具体的には、天板71、地板72、正面板73、背面板74、前方側板75、後方側板76から分解自在に組み立てられるようになっている。
図1及び図10に示すように、天板71は、OTAチャンバ50の内部空間54の上側(天井側)に配置され、地板72は、天板71に対向する下側の位置に配置されている。正面板73は、OTAチャンバ50の扉52a側に配置され、開閉自在となっており、背面板74は、正面板73に対向する位置に配置されている。前方側板75は、無線信号の伝搬経路と交差する位置に配置されており、後方側板76は、前方側板75に対向する位置に配置されている。
具体的には、前方側板75は、試験用アンテナ6とDUT100との間で送受信される無線信号の伝搬経路に開閉自在に配置されている。この構成により、温度試験時には、無線信号の伝搬経路に配置される前方側板75を閉鎖して空間領域77を一定温度に保持する断熱筐体70を形成する。一方、温度試験以外の試験時には、前方側板75を開放し、無線信号が前方側板75を通過することなくDUT100に直接到達するようにできる。これにより、温度を変えてDUT100の送受信特性の温度依存性を測定する温度試験に対応できるとともに、常温におけるDUT100の送受信特性を測定する試験を断熱筐体に起因する外乱(クワイエットゾーン性能の劣化)を避けた環境で実施することにも容易に対応することができる。
また、正面板73は、OTAチャンバ50の扉52a側に開閉自在に配置されている。この構成により、ユーザは、OTAチャンバ50の扉52aを開けて正面板73を開放することにより、断熱筐体70内にDUT100を配置するなどの作業を容易に行うことができる。
[覗き窓]
次に、覗き窓160について説明する。
図10に示すように、覗き窓160は、断熱筐体70の天板71に設けられており、断熱筐体70内に配置されたDUT100の姿勢や状態を監視するためのものである。
覗き窓160は、断熱筐体70の壁部である天板71を貫通して形成された矩形の開口161を覆う透明なガラス製の窓板162を備えている。窓板162は、1つの窓板から構成されていてもよく、あるいは複数の窓板が積層された構成であってもよい。複数の窓板が積層されている場合には、隣接する窓板の間隔をあけ、2つの窓板の間に空気層を形成するようにしてもよい。
本実施形態では、覗き窓160は断熱筐体70の天板71に設けられているが、これに限定されず、断熱筐体70の例えば背面板74や後方側板76など断熱筐体70を構成する他の板パーツに設けるようにしてもよい。また、本実施形態では、窓板162は長方形であるが、これに限定されず、正方形、円形、楕円形等の他の任意の形状であってもよい。
[カメラ装置]
次に、赤外線カメラ装置140について説明する。
図10に示すように、赤外線カメラ装置140は、断熱筐体70の天板71の外面に取り付けられ、断熱筐体70内に配置されたDUT100を、覗き窓160を通して撮影するようになっている。赤外線カメラ装置140により撮影されたDUT100の画像は、表示部13に表示されるようになっている。
[温度制御装置]
次に温度制御装置120について説明する。
図9は、温度制御装置120による断熱筐体70の内部の気体(例えば空気)の温度制御を説明するための模式図である。以下、気体は空気であるとして説明するが他の気体であってもよい。温度制御装置120は、断熱筐体70内の空間領域77の空気の温度を所望の所定温度に制御できるようになっている。このために、温度制御装置120は、温度制御(加熱又は冷却)された空気を生成し、断熱筐体70に供給するようになっている。
断熱筐体70の背面板74には、背面板74を貫通する吸気口170及び排気口171が設けられている。温度制御装置120と断熱筐体70の吸気口170とは、温度制御された空気の流路を形成するホース、パイプ、ダクトなどの吸気路130により接続されている。これにより、温度制御装置120により温度制御された空気が、吸気路130を通って吸気口170から断熱筐体70の内部に供給されるようになっている。
ホース、パイプ、ダクトなどの排気路131は、OTAチャンバ50のチャンバ背面511にて排気ファン172に連結されている。これにより、吸気口170からの空気の流入に伴って断熱筐体70の内部から押し出される空気を、強制的に排気口171から排気ファン172を介してOTAチャンバ50の外部に排出させるようになっている。
断熱筐体70の内部には、空間領域77の空気の温度を監視するための温度センサ124が設けられている。温度センサ124は、温度制御装置120に接続されている。
温度制御装置120は、例えば、ユーザによる操作部12(図4参照)の操作により入力された温度設定値に温度センサ124の温度指示値が一致するように、上記の加熱又は冷却された空気を生成する。このようにして、温度制御装置120は、例えば-40℃~80℃の範囲の任意の温度の空気を断熱筐体70に送り込むことにより、断熱筐体70内の温度を例えば-10℃~55℃の範囲で制御するようになっている。
[吸気口及び排気口]
次に、断熱筐体70の吸気口170と排気口171について説明する。
図10は、断熱筐体70の斜視図であり、図11は、吸気口170と排気口171の拡大図である。図10に示すように、断熱筐体70の背面板74には、背面板74を貫通する吸気口170と排気口171が形成されている。温度制御装置120により温度制御された空気は、図9に示すように、吸気路130を通って吸気口170から断熱筐体70の内部に送られる。一方、断熱筐体70内の空気は、排気口171から排気路131を通って排気ファン172によりOTAチャンバ50の外部に排出される。断熱筐体70内の空気は、排気口171から温度制御装置120まで送られて温度制御装置120から外部に排出されるようにしてもよい。
図11に示すように、吸気口170と排気口171は円形の開口であり、排気口171の開口部の直径D2は、吸気口170の開口部の直径D1より小さくなっている。排気口171の吸気口170に対する直径比(D2/D1)は、例えば約5/8であるが、直径比は諸条件を考慮して任意に設定できる。
排気口171の開口部の面積S2は、吸気口170の開口部の面積S1より小さくなっている。すなわち、S2<S1である。排気口171の吸気口170に対する面積比(S2/S1)は、断熱筐体70の内部の空間の体積や吸気量などにも依存するが、例えば約2/5である。この面積比も直径比と同様に諸条件を考慮して任意に設定できる。この面積比(S2/S1)は、好ましくは1/10~9/10の範囲にあり、より好ましくは3/10~7/10の範囲にあり、さらにより好ましくは4/10~6/10の範囲にある。
このような構成により、断熱筐体70内への空気の導入に比較して、断熱筐体70内の空気が物理的に排出され難くなっている。これにより、供給された温度制御された空気が、断熱筐体70内に滞留する時間が長くなり、断熱筐体70内の温度を効率的に均一にすることができる。なお、吸気口170と排気口171の形状は円形に限定されず、楕円、矩形など任意の形状を採用することができ、吸気口170と排気口171とで形状が異なっていてもよい。
図9に示すように、排気口171に接続される排気路131の端部には、排気ファン172が設けられている。具体的には、排気ファン172は、OTAチャンバ50のチャンバ背面511に取り付けられている。排気ファン172を設けることにより、排気口171から排気される排気量を、吸気量を超えない限度内で高めとともに、組立式の断熱筐体70を構成する板パーツ間の隙間から断熱筐体70内の空気が漏洩する量を抑制することができる。
吸気口170及び排気口171は、温度制御装置120により断熱筐体70内の温度が制御されているとき、断熱筐体70内の気圧P1が、断熱筐体70の外部の気圧P2より高くなるよう互いに異なる面積S1、S2を有している。すなわち、P1>P2となるように、吸気口170の面積S1と排気口171の面積S2が設定される。この構成により、簡易な方法により、断熱筐体70を構成するパーツ間の隙間から断熱筐体70の外部の空気が断熱筐体70内に流入することを防止するとともに、排気口171からの排気効率を高めることができる。
また、組立式の断熱筐体70を構成するパーツ間の隙間からの空気の漏洩を考慮し、吸気口170及び排気口171は、排気口171から排出される単位時間当たりの排気量が、吸気口170から導入される単位時間当たりの吸気量より小さくなるよう互いに異なる面積S1、S2を有している。この構成により、簡易な方法により、供給された温度制御された空気が、断熱筐体70内に滞留する時間が長くなり、断熱筐体内の温度を効率的に均一にすることができる。また、このように排気量を設定することにより、断熱筐体70内の気圧P1が断熱筐体70の外部の気圧P2より高くなり、組立式の断熱筐体70を構成するパーツ間の隙間から断熱筐体70の外部の空気が断熱筐体70内に流入することを防止することもできる。
断熱筐体70の排気口171には、排気口171の開口の大きさを調整する開口調整具173を設けるようにしてもよい。図12(a)は、開口調整具173の正面図であり、(b)は(a)のA-A断面図である。図12に示すように、開口調整具173は、中央に円形の貫通孔173bが形成された円形環状の断熱材から構成されている。本実施形態では、開口調整具173の材質は、断熱筐体70の材質と同じであるが、材質を異ならせてもよい。
具体的には、開口調整具173は、外径D4、内径D3の円形環状であり、貫通孔173bの面積はS3である。開口調整具173の厚みtは、断熱筐体70の背面板74の板厚と同じであるが、背面板74の板厚より厚くしてもよいし、あるいは薄くしてもよい。開口調整具173の外周面173aは、厚み方向にテーパ状に形成されている。
図12は、開口調整具173を排気口171に着脱自在に嵌めこんだ状態を示す図である。本実施形態では、排気口171の内周面171aは、開口調整具173の外周面173aのテーパ形状と同様に、厚み方向外側に先細りのテーパ状に形成されている。これにより、断熱筐体70の内部側から開口調整具173を排気口171に嵌め込んだとき、開口調整具173が断熱筐体70の外部に脱落しないようになっている。
排気口171の内周面171aが厚み方向外側に先細りのテーパ状に形成されている場合、排気口171の直径D2は、厚み方向外側における直径(最も狭いところの直径)とし、排気口171の面積S2は、その直径から定まる円の面積とする。
上記テーパ形状の代わりに任意の脱落防止手段を採用できる。例えば、断熱筐体70の排気口171の内周面171aにおいて断熱筐体70の外面側近傍に突状のストッパを設けるようにしてもよく、あるいは開口調整具173の外周面173aにおいて断熱筐体70の内面側近傍に凸状のストッパを設けるようにしてもよい。
貫通孔173bの径が異なる複数の開口調整具を用意しておくとよい。これにより、適切な開口調整具を選択することにより、排気口171からの排気量を容易に調整することができる。
排気口171に嵌める開口調整具173について説明したが、吸気口170についても、同様又は類似の構成の開口調整具を複数用意して、その中から選択した開口調整具を吸気口170に装着することにより、吸気口170からの吸気量を調整するようにしてもよい。
[統合制御装置]
統合制御装置10は、温度制御装置120により空間領域77の温度が制御された状態で、姿勢可変機構60によりDUT100の姿勢が変化されるごとに、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行う制御を実行する。具体的には、統合制御装置10は、以下に説明するように、NRシステムシミュレータ20、姿勢可変機構60、及び温度制御装置120を統括的に制御するものである。このために、統合制御装置10は、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、姿勢可変機構60、及び温度制御装置120と相互に通信可能に接続されている。
図4は、統合制御装置10の機能構成を示すブロック図である。図4に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、及び表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)11aと、ROM(Read Only Memory)11bと、RAM(Random Access Memory)11cと、外部インタフェース(I/F)部11dと、図示しないハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
CPU11aは、温度試験装置1の諸機能(例えば姿勢可変機構60の機能)を実現するための所定の情報処理や、温度制御装置120やNRシステムシミュレータ20を対象とする統括的な制御を行うようになっている。ROM11bは、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM11cは、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。外部I/F部11dは、所定の信号が入力される入力インタフェース機能と所定の信号を出力する出力インタフェース機能を有している。
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20に対して通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、温度制御装置120、及び姿勢可変機構60ともネットワーク19を介して接続されている。入出力ポートには、操作部12及び表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図4に示すように、呼接続制御部14a、信号送受信制御部14b、DUT姿勢制御部14c、温度制御部14d、カメラ制御部14e、姿勢判定部14fを有している。呼接続制御部14a、信号送受信制御部14b、DUT姿勢制御部14c、温度制御部14d、カメラ制御部14e、姿勢判定部14fも、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
呼接続制御部14aは、試験用アンテナ6を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
信号送受信制御部14bは、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信特性及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われたことを契機に、温度制御部14dでの温度制御と、呼接続制御部14aでの呼接続制御を経て、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。具体的には、信号送受信制御部14bは、NRシステムシミュレータ20に対して、試験用アンテナ6を介して試験信号を送信させる制御を行うとともに、NRシステムシミュレータ20に信号受信指令を送信し、試験用アンテナ6を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
DUT姿勢制御部14cは、姿勢可変機構60に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、あらかじめ、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、駆動部61としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
DUT姿勢制御部14cは、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、上述したように、アンテナ110が3次元のあらゆる方向に順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう姿勢可変機構60の駆動を制御する。
温度制御部14dは、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザにより測定開始操作が行われたことを契機に、温度制御装置120に温度制御指令を送信する。
カメラ制御部14eは、赤外線カメラ装置140を起動させ、赤外線カメラ装置140により撮影されたDUT100の画像のデータを、ケーブル18(例えばUSBケーブル)及びUSBポート11d1を介して制御部11に送信させるよう制御する。
姿勢判定部14fは、赤外線カメラ装置140により撮影された画像を基に、DUT100の姿勢の適否を判定するようになっている。
[NRシステムシミュレータ]
次に、NRシステムシミュレータ20について説明する。
図5に示すように、NRシステムシミュレータ20は、信号測定部21、制御部22、操作部23、及び表示部24を有している。信号測定部21は、信号発生機能部と信号解析機能部とを有している。信号測定部21の信号発生機能部は、信号発生部21aと、デジタル/アナログ変換器(DAC)21bと、変調部21cと、RF部21dの送信部21eとから構成されている。信号測定部21の信号解析機能部は、RF部21dの受信部21fと、アナログ/デジタル変換器(ADC)21gと、解析処理部21hとから構成されている。
信号測定部21の信号発生機能部において、信号発生部21aは、基準波形を有する波形データ、具体的には、例えば、I成分ベースバンド信号と、その直交成分信号であるQ成分ベースバンド信号を生成する。DAC21bは、信号発生部21aから出力された基準波形を有する波形データ(I成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号)をデジタル信号からアナログ信号に変換して変調部21cに出力する。
変調部21cは、I成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号のそれぞれに対してローカル信号をミキシングし、さらに両者を合成してデジタル変調信号を出力する変調処理を行う。RF部21dは、変調部21cから出力されたデジタル変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、生成した試験信号を送信部21eにより送信信号処理部40a、試験用アンテナ6、及びリフレクタ7を経由してDUT100に向けて出力する。
また、信号測定部21の信号解析機能部において、RF部21dは、上記の試験信号をアンテナ110により受信したDUT100から送信された被測定信号を、受信信号処理部40bを経由して受信部21fで受信したうえで、該被測定信号をローカル信号とミキシングすることで中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する。ADC21gは、RF部21dの受信部21fでIF信号に変換された被測定信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。
解析処理部21hは、ADC21gが出力するデジタル信号である被測定信号を、デジタル処理によって、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成したうえで、該波形データに基づいてI成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号を解析する処理を行う。解析処理部21hは、DUT100に対する送信特性の測定において、例えば、等価等方放射電力(Equivalent Isotropically Radiated Power:EIRP)、全放射電力(Total Radiated Power:TRP)、スプリアス放射、変調精度(EVM)、送信パワー、コンスタレーション、スペクトラム等を測定可能である。また、解析処理部21hは、DUT100に対する受信特性の測定において、例えば、受信感度、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)等を測定可能である。ここで、EIRPは、被試験アンテナの主ビーム方向の無線信号強度である。また、TRPは、被試験アンテナから空間に放射される電力の合計値である。
制御部22は、上述した統合制御装置10の制御部11と同様、例えば、CPU、RAM、ROM、各種入出力インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。CPUは、信号発生機能部、信号解析機能部、操作部23、及び表示部24の各機能を実現するための所定の情報処理や制御を行う。
操作部23及び表示部24は、上記コンピュータ装置の入出力インタフェースに接続されている。操作部23は、コマンド等各種情報を入力するための機能部であり、表示部24は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
本実施形態では、統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20とを別装置としているが、1つの装置として構成してもよい。この場合には、統合制御装置10の制御部11とNRシステムシミュレータ20の制御部22とを統合して1つのコンピュータ装置により実現してもよい。
[信号処理部]
次に、信号処理部40について説明する。
図5に示すように、信号処理部40は、NRシステムシミュレータ20と試験用アンテナ6との間に設けられ、送信信号処理部40aと受信信号処理部40bとを備えている。
送信信号処理部40aは、NRシステムシミュレータ20の送信部21eと試験用アンテナ6との間に設けられ、アップコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等により構成されている。送信信号処理部40aは、試験用アンテナ6に出力する試験信号に対して、周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択の各処理を施すようになっている。
受信信号処理部40bは、NRシステムシミュレータ20の受信部21fと試験用アンテナ6との間に設けられ、ダウンコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等により構成されている。受信信号処理部40bは、試験用アンテナ6から入力される被測定信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択の各処理を施すようになっている。
[温度試験方法]
次に、温度試験方法について説明する。
図14は、本実施形態に係る温度試験装置1を用いてDUT100の送信特性及び受信特性の温度依存性を測定する温度試験方法のフローチャートを示す図である。図14に示すように、まず、ユーザは、OTAチャンバ50内の断熱筐体70の内部に設けられた姿勢可変機構60のDUT載置部64に、試験対象のDUT100をセットする(ステップS1)。
次いで、統合制御装置10の制御部11に含まれる温度制御部14dは、温度制御装置120に対して温度制御指令を送信する。温度制御装置120は、受信した温度制御指令に基づき、断熱筐体70内の空間領域77の空気の温度が、ユーザにより設定された設定温度になるように温度制御を行う(ステップS2)。設定温度は、あらかじめユーザが統合制御装置10の操作部12を介して入力しておいてもよい。通常は、複数の設定温度を設定しておき、順次設定温度を変えつつ測定を行い、送信特性や受信特性の温度依存性を調べる。
次いで、制御部11の呼接続制御部14aは、試験用アンテナ6を使用し、DUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信することにより呼接続制御を実施する(ステップS3)。具体的には、NRシステムシミュレータ20は、DUT100に対して試験用アンテナ6を介して所定周波数を有する制御信号(呼接続要求信号)を無線送信する。一方、該呼接続要求信号を受信したDUT100は、接続要求された周波数を設定したうえで制御信号(呼接続応答信号)を返信する。NRシステムシミュレータ20は、この呼接続応答信号を受信して正常に応答が行われたことを確認する。これら一連の処理が呼接続制御である。この呼接続制御により、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に、試験用アンテナ6を介して所定周波数の無線信号を送受信可能な状態が確立される。
なお、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ6及びリフレクタ7を介して送られてくる無線信号をDUT100により受信する処理は、ダウンリンク(DL)処理と称される。逆に、DUT100によりリフレクタ7及び試験用アンテナ6を介してNRシステムシミュレータ20に対して無線信号を送信する処理は、アップリンク(UL)処理と称される。試験用アンテナ6は、リンク(呼)を確立する処理、ならびにリンク確立後のダウンリンク(DL)及びアップリンク(UL)処理を実行するために用いられるものであり、リンクアンテナの機能を兼ねている。
ステップS3での呼接続の確立後、統合制御装置10のDUT姿勢制御部14cは、クワイエットゾーンQZ内においてDUT載置部64にセットされたDUT100の姿勢を、姿勢可変機構60により所定の姿勢に制御する(ステップS4)。
赤外線カメラ装置140は、覗き窓160を介して、断熱筐体70内に配置されたDUT100を撮影する(ステップS5)。撮影の際、光源としての赤外線LEDがDUT100に赤外線を照射し、DUT100から反射された赤外線を赤外線カメラ装置140の受光センサにより検知するようにしてもよい。
統合制御装置10の表示部13は、赤外線カメラ装置140により撮影されたDUT100の画像(動画又は静止画)を表示する(ステップS6)。これにより、ユーザは、表示部13に表示されたDUT100の画像を見て、DUT100の姿勢が適切か否かを確認することができる。あるいは、統合制御装置10の制御部11に、DUT100の姿勢の適否を判定する姿勢判定部14fを設けてもよい。姿勢判定部14fは、赤外線カメラ装置140により撮影されたDUT100の画像に対して公知の画像認識技術を適用し、認識されたDUT100の姿勢と予め取得しておいた正常な姿勢とを対比することにより、DUT100の姿勢の適否を判定してもよい。
DUT100の姿勢が適切でない場合(ステップS7でNO)、ステップS4に戻り、再度、DUT100の姿勢制御をやり直すか、あるいは、試験を中断して試験を最初又は途中からやり直してもよい。DUT100の姿勢が適切である場合(ステップS7でYES)、ステップS8に進む。
ステップS8では、統合制御装置10の信号送受信制御部14bは、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。NRシステムシミュレータ20は、受信した信号送信指令に基づき、試験用アンテナ6を介してDUT100に試験信号を送信する。
具体的には、NRシステムシミュレータ20による試験信号の送信は、以下のように実施される。NRシステムシミュレータ20(図5参照)において、信号発生部21aは、上記の信号送信指令を受けた制御部22の制御下で、試験信号を生成するための信号を発生する。次いで、DAC21bは、信号発生部21aにより発生された信号をデジタル/アナログ変換処理する。次いで、変調部21cは、デジタル/アナログ変換により得られたアナログ信号に対して変調処理を行う。次いで、RF部21dは、変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、送信部21eは、この試験信号(DLデータ)を送信信号処理部40aに送る。
送信信号処理部40aは、試験信号に対して周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、試験用アンテナ6に送り、試験用アンテナ6は、該信号をリフレクタ7を介してDUT100に向けて出力する。
なお、信号送受信制御部14bは、ステップS8で試験信号送信の制御を開始した後、DUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了するまでの間、試験信号を適宜のタイミングで送信するよう制御する。
一方、DUT100は、試験用アンテナ6及びリフレクタ7を介して送られてくる試験信号(DLデータ)を、アンテナ110により受信するとともに、該試験信号に対する応答信号である被測定信号を送信する。
信号送受信制御部14bによる制御下で、DUT100から送信された被測定信号の受信処理が行われる(ステップS9)。具体的には、試験用アンテナ6が、DUT100から送信された被測定信号を受信し、受信信号処理部40bに出力する。受信信号処理部40bは、被測定信号に対して周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、NRシステムシミュレータ20に出力する。
NRシステムシミュレータ20は、受信信号処理部40bにより周波数変換された被測定信号を測定する測定処理を実行する(ステップS10)。
具体的には、NRシステムシミュレータ20のRF部21dの受信部21fは、受信信号処理部40bにより信号処理された被測定信号を入力する。RF部21dは、制御部22の制御下で、受信部21fに入力された被測定信号をより周波数が低いIF信号に変換する。次いで、ADC21gは、制御部22の制御下で、IF信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。解析処理部21hは、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成する。さらに、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、前述の生成された波形データに基づいて被測定信号を解析する。
より具体的には、NRシステムシミュレータ20において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、被測定信号の解析結果に基づいてDUT100の送信特性及び受信特性を測定する。
例えば、DUT100の送信特性については次のように行う。まず、NRシステムシミュレータ20が、制御部22の制御下で、試験信号としてアップリンク信号送信のリクエストフレームを送信する。DUT100は、該アップリンク信号送信のリクエストフレームに応答してアップリンク信号フレームを被測定信号としてNRシステムシミュレータ20に送信する。解析処理部21hは、このアップリンク信号フレームに基づいてDUT100の送信特性を評価する処理を行う。
また、DUT100の受信特性については例えば次のように行う。解析処理部21hは、制御部22の制御下で、NRシステムシミュレータ20から試験信号として送信した測定用フレームの送信回数と、測定用フレームに対してDUT100から被測定信号として送信されるACK及びNACKの受信回数の割合をエラー率(PER)として算出する。
ステップS10において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、DUT100の送信特性及び受信特性の測定結果を、ステップS2で制御された温度及びステップS4で制御された姿勢に対応付けて図示しないRAM等の記憶領域に記憶する。
次いで、統合制御装置10の制御部11は、所望の全ての姿勢に関してDUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了したか否かを判定する(ステップS11)。ここで、測定が終了していないと判定された場合(ステップS11でNO)、ステップS4に戻って処理を続行する。
制御部11は、全ての姿勢について測定が終了していると判定された場合(ステップS11でYES)、あらかじめユーザにより設定された全ての温度についてDUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了したか否かを判定する(ステップS12)。
制御部11は、全ての温度について測定が終了していないと判定された場合(ステップS12でNO)、ステップS2に戻って処理を続行する。制御部11は、全ての温度について測定が終了していると判定された場合(ステップS12でYES)、試験を終了する。
(作用・効果)
次に作用効果について説明する。
本実施形態に係る温度試験装置1は、断熱筐体70の壁部に、温度制御装置120からの温度制御された気体を断熱筐体70内に導入するための吸気口170と、断熱筐体70内の気体を排出するための排気口171とが設けられ、排気口171の面積S2は、吸気口170の面積S1より小さい構成となっている。この構成により、供給された温度制御された気体が、断熱筐体70内に滞留する時間が長くなり、断熱筐体70内の温度を効率的に均一にすることができる。
また、本実施形態に係る温度試験装置1において、排気口171を通る排気路131には排気ファン172が設けられている。この構成により、排気口171から排気される排気量を、吸気量を超えない限度内で高めるとともに、組立式の断熱筐体70を構成するパーツ間の隙間から断熱筐体70内の空気が漏洩する量を抑制することができる。
また、本実施形態に係る温度試験装置1において、吸気口170及び排気口171は、温度制御装置120により断熱筐体70内の温度が制御されているとき、断熱筐体70内の気圧P1が、断熱筐体70の外部の気圧P2より高くなるよう互いに異なる面積S1、S2を有している。この構成により、簡易な方法により、断熱筐体70を構成するパーツ間の隙間から断熱筐体70の外部の空気が断熱筐体70内に流入することを防止するとともに、排気口171からの排気効率を高めることができる。
また、本実施形態に係る温度試験装置1において、吸気口170及び排気口171は、排気口171から排出される単位時間当たりの排気量が、吸気口170から導入される単位時間当たりの吸気量より小さくなるよう互いに異なる面積S1、S2を有している。この構成により、簡易な方法により、供給された温度制御された気体が、断熱筐体70内に滞留する時間が長くなり、断熱筐体70内の温度を効率的に均一にすることができる。
また、本実施形態に係る温度試験装置1において、断熱筐体70の排気口171には、排気口171の大きさを調整する開口調整具173が設けられた構成であってもよい。この構成により、適切な開口調整具173を選択することにより、排気量を容易に調整することができる。
なお、本発明は、電波暗箱だけではなく電波暗室にも適用できる。また、上記実施形態では、OTAチャンバ50がCATR方式を採用したチャンバであるとしたが、本発明は、これに限らず、OTAチャンバ50は、図6(a)に示したダイレクトファーフィールド方式を採用したチャンバであってもよい。
以上述べたように、本発明は、断熱筐体内の空気の温度を効率的に均一にすることで断熱筐体内の温度制御の効率を上げることができるという効果を有し、無線端末の温度試験装置及び温度試験方法の全般に有用である。