以下、本発明の実施形態に係る移動端末試験装置(試験装置ともいう)について、図面を参照して説明する。なお、各図面上の各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
本実施形態に係る試験装置1は、アンテナ110を有するDUT100の送信特性又は受信特性を測定するものであり、例えば、DUT100のRF特性を測定するようになっている。このために、試験装置1は、OTAチャンバ50と、試験用アンテナ6と、リフレクタ7と、端末回転装置200と、統合制御装置10と、NRシステムシミュレータ20と、信号処理部40とを備えている。
なお、本実施形態の試験装置1は、本発明の移動端末試験装置に対応し、本実施形態のOTAチャンバ50は、本発明の電波暗箱に対応し、本実施形態の統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20と信号処理部40は、本発明の測定装置2に対応する。
図1は、試験装置1の外観構造を示し、図2は、試験装置1の機能ブロックを示す。ただし、図1においては、OTAチャンバ50について正面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
図1及び図2に示すように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有している。試験用アンテナ6は、OTAチャンバ50の内部空間51に設置され、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号をアンテナ110との間で送信又は受信するようになっている。端末回転装置200は、OTAチャンバ50の内部空間51におけるクワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を変化させるようになっている。統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、及び信号処理部40は、端末回転装置200により姿勢を変化させたDUT100に対して試験用アンテナ6を用いて、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行うようになっている。
試験装置1は、例えば、図1に示すような複数のラック90aを有するラック構造体90と共に用いられ、各ラック90aに各構成要素を載置した態様で運用される。図1は、ラック構造体90の3つのラック90aに、それぞれ統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、及びOTAチャンバ50を載置した例を示す。以下、各構成要素を説明する。
(OTAチャンバ)
OTAチャンバ50は、5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を実現するものであって、図1、図2に示すように、例えば、直方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成されている。OTAチャンバ50は、内部空間51に、DUT100と、DUT100のアンテナ110と対向する試験用アンテナ6を、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を防ぐ状態に収容する。後で説明するが、試験用アンテナ6としては、例えば、ホーンアンテナ等の指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。
また、OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられ、内部空間の無響特性を確保すると共に、外部への電波の放射規制機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
(DUT)
試験対象であるDUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末(移動体通信端末ともいう)である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
本実施形態において、DUT100は5G NRの無線端末である。5G NRの無線端末については、ミリ波帯の他、LTE等で使用する他の周波数帯も含む既定の周波数帯を通信可能周波数範囲とすることが5G NR規格によって規定されている。よって、DUT100のアンテナ110は、DUT100の送信特性又は受信特性の被測定対象である既定の周波数帯(5G NRバンド)の無線信号を送信又は受信するものである。アンテナ110は、例えば、Massive-MIMOアンテナ等のアレーアンテナである。
本実施形態において、DUT100は、OTAチャンバ50内での送受信に関する測定中、試験用アンテナ6及びリフレクタ7を介して試験信号を受信できるとともに、被測定信号を送信できるようになっている。
(姿勢可変機構)
図1に示すように、OTAチャンバ50の筐体本体部52の内部空間51側の底面52aには、クワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を変化させる端末回転装置200が設けられている。端末回転装置200は、例えば、2軸の各軸周りに回転する回転機構を備える2軸ポジショナである。端末回転装置200は、試験用アンテナ6を固定した状態で、DUT100を2軸周りの回転自由度をもって回転させるようなOTA試験系(Combined-axes system)を構成する。端末回転装置200については後で詳細に説明する。
(リンクアンテナ)
OTAチャンバ50において、筐体本体部52の所要位置には、DUT100との間でリンク(呼)を確立又は維持するための2種類のリンクアンテナ5、8がそれぞれリンクアンテナ保持具57、59を用いて取り付けられている。リンクアンテナ5は、LTE用のリンクアンテナであり、ノンスタンドアローンモード(Non-Standalone mode)で使用される。一方、リンクアンテナ8は、5G用のリンクアンテナであり、5Gの呼を維持するために使用される。リンクアンテナ5、8は、端末回転装置200に保持されるDUT100に対して指向性を有するようにそれぞれリンクアンテナ保持具57、59によって保持されている。なお、上記のリンクアンテナ5、8を使用する代わりに、試験用アンテナ6をリンクアンテナとして兼用することも可能であるため、以下においては、試験用アンテナ6がリンクアンテナの機能を兼ねるものとして説明する。
(近傍界と遠方界)
次に、近傍界と遠方界について説明する。図5は、無線端末100Aに向けてアンテナATから放射された電波の伝わり方を示す模式図である。アンテナATは、後で説明する一次放射器としての試験用アンテナ6と同等のものである。無線端末100Aは、DUT100と同等のものである。図5において、(a)は、電波がアンテナATから無線端末100Aへ直接伝わるDFF(Direct Far Field)方式を示し、(b)は、電波がアンテナATから回転放物面を有する反射鏡7Aを介して無線端末100Aへ伝わるIFF(Indirect Far Field)方式を示している。
図5(a)に示すように、アンテナATを放射源とする電波は、同位相の点を結んだ面(波面)が放射源を中心にして球状に拡がりながら伝搬する性質がある。このとき、破線で示すような、散乱、屈折、反射などの外乱により生じる干渉波も発生する。また、放射源から近い距離では、波面は湾曲した球面(球面波)であるが、放射源から遠くなると波面は平面(平面波)に近くなる。一般に、波面を球面と考える必要のある領域が近傍界(NEAR FIELD)と呼ばれ、波面を平面とみなしてよい領域が遠方界(FAR FIELD)と呼ばれている。図5(a)に示す電波の伝搬にあって、無線端末100Aは、正確な測定を行ううえで、球面波を受信するよりも、平面波を受信する方が好ましい。
平面波を受信するためには、無線端末100Aが遠方界に設置される必要がある。無線端末100A内でのアンテナの位置及びアンテナサイズが分かっていないとき、遠方界は、アンテナATから2D2/λ以遠の領域となる。ここで、Dは、無線端末100Aの最大直線サイズ、λは電波の波長である。
図5(b)は、アンテナATの電波を反射させて、無線端末100Aの位置にその反射波を到達させるように、回転放物面を有する反射鏡7Aを配置する方法を示す(CATR(Compact Antenna Test Range)方式)。この方法によれば、アンテナATと無線端末100A間の距離を短縮でき、反射鏡7Aの鏡面での反射後直ぐの距離から平面波の領域が拡がるため、伝搬ロスの低減効果も見込むことができる。平面波の度合は、同位相の波の位相差で表すことができる。平面波の度合として許容し得る位相差は、例えば、λ/16である。位相差は、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で評価することができる。
(試験用アンテナ)
次に、試験用アンテナ6について説明する。
図1、図2に示すように、試験用アンテナ6は、リフレクタ7を介してアンテナ110との間でDUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号(以下、試験信号ともいう)を送信又は受信するようになっている。試験用アンテナ6は、一次放射器として機能し、水平偏波アンテナ6Hと垂直偏波アンテナ6Vを備えている(図2参照)。リフレクタ7は、曲面状に湾曲した反射面を有し、測定用の無線信号の電波を反射するものであり、後述するオフセットパラボラ(図6参照)型の構造を有するものである。リフレクタ7は、例えばアルミニウム製である。リフレクタ7は、図1に示すように、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。
リフレクタ7は、その回転放物面から定まる焦点位置Fに配置されている一次放射器としての試験用アンテナ6から放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、端末回転装置200に保持されているDUT100に向けて反射させる(送信時)。また、リフレクタ7は、上記試験信号を受信したDUT100がアンテナ110から放射する被測定信号の電波を回転放物面で受け、試験用アンテナ6に向けて反射させる(受信時)。リフレクタ7は、これら送信と受信が同時に可能な位置及び姿勢で配設されている。すなわち、リフレクタ7は、試験用アンテナ6とDUT100のアンテナ110との間で送受信される無線信号の電波を、回転放物面を介して反射するようになっている。
図6は、リフレクタ7の構造を示す模式図である。リフレクタ7は、オフセットパラボラ型であり、回転放物面の軸線RSに対して非対称な鏡面(真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出した形状)を有している。一次放射器としての試験用アンテナ6は、そのビーム軸線BSが回転放物面の軸線RSに対して、例えば、角度α(例えば30°)傾いたオフセット状態にて、オフセットパラボラの焦点位置Fに配置されている。別言すれば、試験用アンテナ6は、仰角αでリフレクタ7に対向するように配置され、試験用アンテナ6の受信面が無線信号のビーム軸線BSに対して直角となる角度で保持されている。
この構成により、試験用アンテナ6から放射された電波(例えば、DUT100に対する試験信号)を回転放物面で該回転放物面の軸線方向と平行な方向に反射させるとともに、回転放物面の軸線方向と平行な方向に回転放物面に対して入射する電波(例えば、DUT100から送信された被測定信号)を該回転放物面で反射させ、試験用アンテナ6へと導くことができる。別言すれば、リフレクタ7は、試験用アンテナ6から放射された球面波の電波を平面波の電波に変換してDUT100に送ると共に、DUT100から放射されリフレクタ7に入射する平面波の電波を試験用アンテナ6に集束させるものである。オフセットパラボラは、パラボラ型に比べて、リフレクタ7自体が小さくて済むうえに、鏡面が垂直に近づくような配置が可能であるので、OTAチャンバ50の構造を小型化し得る。
図1から分かるように、リフレクタ反射型の試験用アンテナ6は、DUT100の配置位置を通る水平面より下方に配置されている。試験用アンテナ6から放射されリフレクタ7で反射した電波ビームはZ軸線負方向に伝搬され、球形のクワイエットゾーンQZを形成するようになっている。リフレクタ7の開口中心の位置を反射した電波ビームの中心が、Z軸線負方向に伝搬されてDUT100の配置位置に到達するようになっている。
(端末回転装置)
次に、DUT100の姿勢可変機構として機能する端末回転装置200について説明する。
図7は、端末回転装置200の斜視図である。端末回転装置200は、アンテナ110を有する試験対象のDUT100を、2軸の周りに回転させてDUT100の姿勢を変えるようになっている。具体的には、図7に示すように、端末回転装置200は、台部201、第1の駆動部202、第1の回転シャフト203、回転テーブル204、支柱205、第2の回転シャフト207、第2の駆動部208、及び端末保持具120を備えている。
端末保持具120は、後で詳細に説明するように、一対のアーム部127、128によりDUT100を挟持するものであり、第1の軸線A1の周りに一体で回転駆動されるようになっている。一対のアーム部127、128は、第1の軸線A1と直交する第2の軸線A2に沿ってスライド移動できるようになっている。第2の軸線A2は、端末保持具120に固定された軸線である。
図8は、端末保持具120が取り外された状態の端末回転装置200の斜視図である。図8に示すように、第1の回転シャフト203と回転テーブル204は、第3の軸線A3を中心に回転駆動され、第2の回転シャフト207は、第1の軸線A1を中心に回転駆動されるようになっている。第1の軸線A1は、交点Oにて第3の軸線A3と直交している。端末保持具120は、連結部としての第2の回転シャフト207の端部207aにネジ等により取付けられるようになっている。
本実施形態では、第1の軸線A1が第3の軸線A3と直交する構成であるが、これに限定されるものではない。DUT100をクワイエットゾーンQZ内に配置できれば、第1の軸線A1が第3の軸線A3と交差しない構成や、第1の軸線A1が第3の軸線A3と斜めに交差する構成であってもよい。
以下、各構成要素について説明する。
図7及び図8に示すように、台部201は、OTAチャンバ50の底面52a上に固定される固定板211、固定板211上に立設される4本の脚部212、4本の脚部212の上部に固定される回転シャフト支持部213を備えている。
第1の回転シャフト203は、回転シャフト支持部213により、第3の軸線A3を中心として回転自在に支持されている。
第1の駆動部202は、回転駆動力を発生させるステッピングモータなどの駆動用モータからなり、例えば、OTAチャンバ50の底面52aに固定される固定板211上に設置される。第1の駆動部202は、例えばベルトとプーリを介して、第1の回転シャフト203を第3の軸線A3の周りに回転駆動するようになっている。
回転テーブル204は、テーブル下面の中心部が第1の回転シャフト203の上端部に固定され、第1の駆動部202の回転駆動力により第1の回転シャフト203が回転駆動されると、第3の軸線A3の周りに所定角度回転するようになっている。
支柱205は、回転テーブル204において第3の軸線A3から所定の距離を置いた位置に下端が固定され、第3の軸線A3の方向と平行な方向(上方向)に延在している。支柱205は、第1の駆動部202の回転駆動力により回転テーブル204と共に回転するようになっている。
第2の回転シャフト207は、支柱205の上部に取り付けられた回転シャフト支持部218により、第1の軸線A1を中心として回転自在に支持されている。
第2の駆動部208は、回転駆動力を発生させるステッピングモータなどの駆動用モータからなり、例えば、回転テーブル204の下面に取付けられている。第2の駆動部208は、例えばベルトとプーリを介して第2の回転シャフト207を第1の軸線A1の周りに回転駆動するようになっている。
端末保持具120は、連結具としての第2の回転シャフト207の端部207aに連結されているので、第2の駆動部208の回転駆動力により第1の軸線A1の周りに所定角度回転するようになっている。
本実施形態では、第3の軸線A3は、例えば、OTAチャンバ50の底面52aに対して鉛直方向に延びる軸線である。また、第1の軸線A1は、例えば、支柱205の側面から水平方向に延びる軸線である。このように構成された端末回転装置200は、端末保持具120に保持されているDUT100を、例えば、DUT100の中心を回転中心として、試験用アンテナ6およびリフレクタ7に対して3次元のあらゆる方向にアンテナ110が向く状態に順次姿勢を変化させ得るように回転させることができる。
具体的には、OTA試験系において、端末回転装置200の2つの回転軸線である第1の軸線A1と第3の軸線A3の交点である回転中心(原点Oともいう)に、DUT100の中心が配置されるようにしてもよい。このとき、DUT100の中心は、端末回転装置200によりDUT100を2軸周りに回転させたときの不動の回転中心となる。
回転テーブル204には、回転テーブル204の中心を挟んで支柱205の反対側の箇所に、リンクアンテナ保持具214により支持されたリンクアンテナ209が設けられている。また、支柱205の上部には、支柱216の上部にリンクアンテナ保持具215により支持されたリンクアンテナ210が設けられている。リンクアンテナ209、210は、リンクアンテナ5、8の代わりに用いることができる。
(端末保持具)
次に、図9~図11を参照して端末保持具120について説明する。
図9は、端末保持具120の斜視図であり、図10は、カバー124を取り除いた状態の端末保持具120の斜視図である。端末保持具120は、姿勢可変機構である端末回転装置200に取付けられて使用され、DUT100を保持するようになっている。具体的には、図9及び図10に示すように、端末保持具120は、ベース部122、スライドガイド部140、及び一対のアーム部127、128を備えている。以下、各構成要素について説明する。なお、端末保持具120の材質は金属でも誘電体でもよく、誘電体を用いた方が、電波の反射の影響が少なくなる。
(ベース部)
ベース部122は、板状の部材からなり、板面122aが第1の軸線A1に対して垂直になるように、端末回転装置200の第2の回転シャフト207の端部207aにネジ等により取付けられるようになっている。ベース部122は、回転駆動される第2の回転シャフト207と共に、第1の軸線A1の周りに回転駆動されるようになっている。
(スライドガイド部)
スライドガイド部140は、ベース部122の板面122aにネジ等により固定され、一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドするようになっている。具体的には、スライドガイド部140は、一対のアーム部127、128が第1の軸線A1を挟んで第2の軸線A2に沿って両側からDUT100を挟持するように、一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドするようになっている。
具体的には、スライドガイド部140は、一対のアーム部127、128が第1の軸線A1を挟んで第2の軸線A2の両側にて互いに逆方向にスライドし、かつ、各アーム部の第1の軸線A1からの距離Lが互いに同一となるように、一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドするようになっている(図11(b)参照)。
この構成により、本実施形態に係る端末保持具120は、一対のアーム部127、128により挟持されたDUT100の中心を常に第1の軸線A1が通るようにDUT100を保持するので、DUT100の設定時の位置合わせが容易になる。
具体的には、図10に示すように、スライドガイド部140は、ボールネジ支持部123と、ボールネジ支持部123により支持されたボールネジ133と、ボールネジ133のネジ軸134を回転させるための回転ツマミ125とを備えている。
より具体的には、ボールネジ支持部123は、板状の部材からなり、ベース部122にネジ等により取付けられている。ボールネジ133は、第1のネジ軸134a、第2のネジ軸134b、第1ナット135、第2ナット136、第1スライダ板137、第2スライダ板138等を備えている。
ボールネジ133のネジ軸134は、第1のネジ軸134aと第2のネジ軸134bが連結部139において長手方向に連結されて構成され、第1及び第2のネジ軸134a、134bは、同一リードで互いに逆方向にネジ山が形成されている。
この構成により、本実施形態に係る端末保持具120は、第1のネジ軸134aにより一方のアーム部127のスライド移動をガイドし、第2のネジ軸134bにより他方のアーム部128のスライド移動をガイドすることにより、一対のアーム部127、128が互いに近づくスライド移動と、一対のアーム部127、128が互いに遠ざかるスライド移動が可能になる。これにより、回転ツマミ125によりネジ軸134を回す簡単な操作により、一対のアーム部127、128によるDUT100の挟持が可能となり、DUT100の設定が容易になる。
具体的には、第1のネジ軸134aに第1ナット135が装着され、第1のネジ軸134aの回転とともに、第1のネジ軸134aの長手方向に第1ナット135が直線移動するようになっている。また、第2のネジ軸134bに第2ナット136が装着され、第2のネジ軸134bの回転とともに、第2のネジ軸134bの長手方向に第2ナット136が直線移動するようになっている。
第1ナット135には第1スライダ板137が連結され、第1ナット135の直線移動に伴って第1スライド板137が直線移動するようになっている。また、第2ナット136には第2スライダ板138が連結され、第2ナット136の直線移動に伴って第2スライダ板138が直線移動するようになっている。
第1スライダ板137にはアーム部127が立設され、アーム部127の長手方向が第1の軸線A1と平行になっている。また、第2スライダ板138にはアーム部128が立設され、アーム部128の長手方向が第1の軸線A1と平行になっている。
第1のネジ軸134aと第2のネジ軸134bは、連結部139にて連結されているので、回転ツマミ125によりネジ軸134を回転させると、第1ナット135と第2ナット136は、互いに逆方向にスライド移動するようになっている。よって、第1ナット135に連結された第1スライダ板137及びアーム部127と、第2ナット136に連結された第2スライダ板138及びアーム部128とは、ネジ軸134の回転に伴って互いに逆方向にスライド移動するようになっている。
本実施形態では、ボールネジ133は、第1のネジ軸134aと第2のネジ軸134bとが長手方向に連結した構成であるが、連結しない構成であってもよい。連結しない場合には、第1のネジ軸134aと第2のネジ軸134bを個別に回転操作できるようにして、アーム部127とアーム部128を個別にスライド移動させるようにする。
また、本実施形態では、スライドガイド部140は、ボールネジ133により一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドする構成であるが、この構成に限定されない。ボールネジ133に代えて、又はボールネジ133に加えて、レールにより一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドするリニアガイドを用いてもよい。
また、本実施形態では、一対のアーム部127、128によりDUT100を挟持する際、挟持力が緩む方向にボールネジ133のネジ軸134が回転してDUT100がアーム部127、128から外れることを防止するために、回転ツマミ125を外して逆向きに装着することにより、ネジ軸134を固定して回転できないようにしている。ただし、DUT100の脱落を防止する方法はこれに限定されず、バネ等の弾性体を用いて一対のアーム部127、128が相互に近づく方向に付勢力を作用させるようにしてもよい。また、このようなバネ等の弾性体とリニアガイドを組み合わせた構成としてもよい。
(アーム部)
一対のアーム部127、128は、DUT100を挟持するための挟持手段126を構成している。具体的には、一対のアーム部127、128は、各々、第1の軸線A1に平行に延在して構成され、かつ第1の軸線A1と直交する第2の軸線A2に沿ってスライド移動するようになっている。より具体的には、一対のアーム部127、128は、第1の軸線A1を挟んで第2の軸線A2に沿って両側からDUT100を挟持するようになっている。また、一対のアーム部127、128は、第1の軸線A1及び第2の軸線A2を基準に複数の異なる保持姿勢で板状直方体形状のDUT100を挟持できるようになっている。
一対のアーム部127、128は、それぞれ位置決め部129、130を備えている。位置決め部129及び130は同一の構造を有している。
アーム部127は、DUT100がアーム部127の長手方向に移動することを規制する位置決め部129を備えている。位置決め部129は、中央に開口を有する環状部材からなり、該開口にアーム部127を挿通してアーム部127の長手方向に沿ってスライドできるようになっている。この構成により、端末保持具120は、位置決め部129により、アーム部長手方向におけるDUT100の位置を精度よく設定することができる。
位置決め部129の環状部材の内側面には凸部129aが形成されている。アーム部127の外側面には、アーム部長手方向に溝127bが形成されている。位置決め部129は、該凸部129aがアーム部127の該溝127bに入った状態で安定的にスライド移動できるようになっている。このように、位置決め部129がアーム部長手方向に沿ってスライド移動自在であることにより、保持姿勢や大きさの異なるDUT100であっても、正確かつ容易に保持することができる。
同様に、アーム部128は、DUT100がアーム部128の長手方向に移動することを規制する位置決め部130を備えている。位置決め部130は、中央に開口を有する環状部材からなり、該開口にアーム部128を挿通してアーム部128の長手方向に沿ってスライド移動できるようになっている。位置決め部130の環状部材の内側面には凸部130aが形成されている。アーム部128の外側面には、アーム部長手方向に溝128bが形成されている。位置決め部130は、該凸部130aがアーム部128の該溝128bに入った状態で安定的にスライド移動できるようになっている。
各アーム部127、128には、アーム部の長手方向に沿って目盛り141が設けられている。この構成により、端末保持具120は、アーム部127、128の長手方向に沿ってスライド移動自在な位置決め部129、130の位置を精度よく設定することができる。
位置決め部129及び130には、アーム部127、128の長手方向における位置決め部129、130の位置を固定するための固定ネジ131及び132がそれぞれ設けられている。
一対のアーム部127、128は、それぞれ対向する側の面にアーム部長手方向に沿って断面V字形の凹条部127a、128aが形成されている。この構成により、端末保持具120は、一対のアーム部127、128により薄板状の直方体形状のDUT100の上端面103及び下端面104から挟持するか、あるいは左側面105及び右側面106から挟持する際に、一対のアーム部127、128の対向する側の面の凹条部127a、128aにDUT100を安定的かつ正確に保持することができる。
詳細には、一対のアーム部127、128の対向する側の面は、断面V字形の凹条部127a、128aを形成する2つの傾斜面と、その両側に形成された2つの平坦面(土手の部分)を有している。片持ち状に挟持されたDUT100は、これら2つの傾斜面と位置決め部129、130とに当接して安定的に保持されるか(第1及び第2の保持姿勢)、あるいはこれら2つの平坦面と位置決め部129、130とに当接して安定的に保持されるようになっている(第3の保持姿勢)。なお、凹条部127a、128aの断面形状はV字形であるが、第1及び第2の保持姿勢の場合に2つの傾斜面に当接してDUT100を保持するのであれば、V字の谷底には平坦な部分があってもよく、このような断面形状を含めて断面V字形と称するものとする。
一対のアーム部127、128の対向する側の面と、位置決め部129、130のDUT100が当接する側の面には、薄いゴムシート等の滑り止め用弾性シートが貼付されており、DUT100を確実に保持できるようになっている。
次に、端末保持具120の一対のアーム部127、128により挟持して保持されるDUT100の保持姿勢について説明する。
端末保持具120は、DUT100を、第1の軸線A1及び第2の軸線A2を基準に特定される以下の第1~第3の保持姿勢で保持できるようになっている。なお、DUT100は、正面101、背面102、上端面103、下端面104、左側面105、右側面106を有する板状の直方体形状のものを想定する。DUT100において、「上下方向」(B1)とは、上端面103と下端面104に直交する方向であり、「左右方向」(B2)とは、左側面105と右側面106に直交する方向であり、「厚み方向」(B3)とは、正面101と背面102に直交する方向である(図13参照)。
(第1の保持姿勢)
第1の保持姿勢は、DUT100の上下方向が第1の軸線A1に平行で、かつDUT100の左右方向が第2の軸線A2に平行となる保持姿勢である。具体的には、図13及び図14に示すように、一対のアーム部127、128は、DUT100を左側面105及び右側面106から挟持して、DUT100を第1の保持姿勢で保持することができる。
(第2の保持姿勢)
第2の保持姿勢は、DUT100の上下方向が第2の軸線A2に平行で、かつDUT100の左右方向が第1の軸線A1に平行となる保持姿勢である。具体的には、図15に示すように、一対のアーム部127、128は、DUT100を上端面103及び下端面104から挟持して、DUT100を第2の保持姿勢で保持することができる。第2の保持姿勢の場合、第3の軸線A3がDUT100の中心位置を通るよう位置調整するために、第2の回転シャフト207の端部207aに延長シャフト217が取付けられ、延長シャフト217の端部に端末保持具120が取付けられている。
(第3の保持姿勢)
第3の保持姿勢は、DUT100の上下方向及び左右方向が第1の軸線A1に垂直で、かつDUT100の上下方向が第2の軸線A2に平行又は垂直となる保持姿勢である。具体的には、図16に示すように、一対のアーム部127、128は、DUT100を上端面103及び下端面104から挟持するか、あるいは左側面105及び右側面106から挟持して、DUT100を第3の保持姿勢で保持することができる。第3の保持姿勢の場合、第3の軸線A3がDUT100の中心位置を通るよう位置調整するために、第2の回転シャフト207の端部207aに延長シャフト217が取付けられ、延長シャフト217の端部に端末保持具120が取付けられている。
次に、本実施形態に係る試験装置1の統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、及び信号処理部40について、図2~図4を参照して説明する。
(統合制御装置)
統合制御装置10は、以下に説明するように、NRシステムシミュレータ20や端末回転装置200を統括的に制御するものである。このために、統合制御装置10は、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20や端末回転装置200と相互に通信可能に接続されている。
図3は、統合制御装置10の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、及び表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)11aと、ROM(Read Only Memory)11bと、RAM(Random Access Memory)11cと、外部インタフェース(I/F)部11dと、図示しないハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
CPU11aは、NRシステムシミュレータ20及び端末回転装置200を対象とする統括的な制御を行うようになっている。ROM11bは、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM11cは、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。外部インタフェース(I/F)部11dは、所定の信号が入力される入力インタフェース機能と所定の信号を出力する出力インタフェース機能を有している。
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20に対して通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、OTAチャンバ50内に設けられた端末回転装置200ともネットワーク19を介して接続されている。入出力ポートには、操作部12及び表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、及びDUT姿勢制御部17を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、及びDUT姿勢制御部17も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信特性及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われたことを契機に、呼接続制御部14での呼接続制御を経て、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。更に、信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して、試験用アンテナ6を介して試験信号を送信させる制御を行うとともに、NRシステムシミュレータ20に信号受信指令を送信し、試験用アンテナ6を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
DUT姿勢制御部17は、端末回転装置200に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、あらかじめ、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、第1及び第2の駆動部202、208としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
DUT姿勢制御部17は、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、上述したように、アンテナ110が3次元のあらゆる方向に順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう端末回転装置200を駆動制御する。DUT姿勢制御部17は、DUT100のアンテナ110が所定方向の直線偏波の信号を好適に送受信できるように、端末回転装置200を駆動制御するようにしてもよい。
(NRシステムシミュレータ)
図4に示すように、本実施形態に係る試験装置1のNRシステムシミュレータ20は、信号測定部21、制御部22、操作部23、及び表示部24を有している。信号測定部21は、信号発生部21a、デジタル/アナログ変換器(DAC)21b、変調部21c、RF部21dの送信部21eにより構成される信号発生機能部と、RF部21dの受信部21f、アナログ/デジタル変換器(ADC)21g、解析処理部21hにより構成される信号解析機能部とを有している。
信号測定部21の信号発生機能部において、信号発生部21aは、基準波形を有する波形データ、具体的には、例えば、I成分ベースバンド信号と、その直交成分信号であるQ成分ベースバンド信号を生成する。DAC21bは、信号発生部21aから出力された基準波形を有する波形データ(I成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号)をデジタル信号からアナログ信号に変換して変調部21cに出力する。変調部21cは、I成分ベースバンド信号と、Q成分ベースバンド信号とのそれぞれに対してローカル信号をミキシングし、更に両者を合成してアナログ変調信号を出力する変調処理を行う。RF部21dは、変調部21cから出力されたアナログ変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、生成した試験信号を送信部21eにより信号処理部40に出力する。
信号処理部40は、試験用アンテナ6との間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行うようになっている。
また、信号測定部21の信号解析機能部において、RF部21dは、上記試験信号をアンテナ110により受信したDUT100から送信された被測定信号を、信号処理部40を経由して受信部21fで受信したうえで、該被測定信号をローカル信号とミキシングすることで中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する。ADC21gは、RF部21dの受信部21fでIF信号に変換された被測定信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。
解析処理部21hは、ADC21gが出力するデジタル信号である被測定信号を、デジタル処理によって、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成したうえで、該波形データに基づいてI成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号を解析する処理を行う。解析処理部21hは、DUT100に対する送信特性(RF特性)の測定において、例えば、等価等方放射電力(EIRP)、全放射電力(TRP)、スプリアス放射、変調精度(EVM)、送信パワー、コンスタレーション、スペクトラムなどを測定可能である。また、解析処理部21hは、DUT100に対する受信特性(RF特性)の測定において、例えば、受信感度、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)などを測定可能である。ここで、EIRPは、DUT100のアンテナ110の主ビーム方向の無線信号強度である。また、TRPは、DUT100のアンテナ110から空間に放射される電力の合計値である。
制御部22は、上述した統合制御装置10の制御部11と同様、例えば、CPU、RAM、ROM、各種入出力インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。CPUは、信号発生機能部、信号解析機能部、操作部23及び表示部24の各機能を実現するための所定の情報処理や制御を行う。
操作部23、表示部24は、上記コンピュータ装置の入出力インタフェースに接続されている。操作部23は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部24は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
本実施形態では、統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20とを別装置としているが、1つの装置として構成してもよい。この場合には、統合制御装置10の制御部11とNRシステムシミュレータ20の制御部22とを統合して1つのコンピュータ装置により実現してもよい。
(信号処理部)
次に、信号処理部40について説明する。
信号処理部40は、NRシステムシミュレータ20と試験用アンテナ6の間に設けられ、試験用アンテナ6との間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行うようになっている。
具体的には、信号処理部40は、アップコンバータ、ダウンコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等を備え、試験用アンテナ6に送信する試験信号に対して、周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して試験用アンテナ6に出力する。また、信号処理部40は、試験用アンテナ6から入力される被測定信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して信号測定部21に出力するようになっている。
(試験方法)
次に、本実施形態に係る試験装置1を用いて行う試験方法について、図17のフローチャートを参照して説明する。以下に示すのは試験方法の一例であり、試験の種類により具体的な試験方法が異なるのは勿論である。
まず、ユーザは、DUT100を端末回転装置200にセットする際のDUT100の保持姿勢を第1~第3の保持姿勢から選択する(ステップS1)。保持姿勢は、DUT100のアンテナ110の軸方向が、試験で用いる直線偏波信号を最適に送受信できるような方向となるように、予め行った予備的な測定結果等を基に選択してもよい。
次いで、ユーザは、OTAチャンバ50の内部空間51内に設けられた端末回転装置200の端末保持具120に対して、ステップS1で選択した保持姿勢で試験対象のDUT100をセットする(ステップS2)。
具体的には、各アーム部127、128に装着された位置決め部129、130を各アーム部127、128の長手方向における所定の位置に設定する。その際、位置決め部129、130は、セットされたDUT100の回転中心が第1の軸線A1と第3の軸線A3との交点Oにくるような位置に設定する。次いで、回転ツマミ125を回して一対のアーム部127、128の間隔を広げておき、選択した保持姿勢でDUT100を一対のアーム部127、128の間に位置させ、回転ツマミ125を回して一対のアーム部127、128の間隔を狭めてDUT100を挟持するようにする。DUT100を挟持した状態でボールネジのネジ軸134が回転しないように、回転つまみ125を使用してネジ軸134を固定しておく。
次いで、ユーザは、統合制御装置10の操作部12を用いて、DUT100の送信特性及び受信特性についての測定の開始を制御部11に指示する測定開始操作を行う。この測定開始操作は、NRシステムシミュレータ20の操作部23により行うようにしてもよい。
制御部11の呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を使用し、DUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信することにより呼接続制御を実施する(ステップS3)。具体的には、NRシステムシミュレータ20は、DUT100に対して試験用アンテナ6を介して所定周波数を有する制御信号(呼接続要求信号)を無線送信する。一方、該呼接続要求信号を受信したDUT100は、接続要求された周波数を設定したうえで制御信号(呼接続応答信号)を返信する。NRシステムシミュレータ20は、この呼接続応答信号を受信し正常に応答が行われたことを確認する。これら一連の処理が呼接続制御である。この呼接続制御により、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に、試験用アンテナ6を介して所定周波数の無線信号を送受信可能な状態が確立される。
なお、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ6を介して送られてくる無線信号をDUT100により受信する処理は、ダウンリンク(DL)処理と称される。逆に、DUT100により試験用アンテナ6を介してNRシステムシミュレータ20に対して無線信号を送信する処理は、アップリンク(UL)処理と称される。試験用アンテナ6は、リンク(呼)を確立する処理、ならびにリンク確立後のダウンリンク(DL)及びアップリンク(UL)の処理を実行するために用いられるものであり、リンクアンテナの機能を兼ねている。
ステップS3での呼接続の確立後、統合制御装置10のDUT姿勢制御部17は、クワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を端末回転装置200により所定の姿勢に制御する(ステップS4)。例えば、ステップS1で選択された保持姿勢で保持されたDUT100を、第1の軸線A1及び第3の軸線A3の周りに回転させて、DUT100のアンテナ110の軸方向が、試験で用いられる直線偏波信号を最適に送受信できるような方向となるように、DUT100の姿勢を制御する。
端末回転装置200によりDUT100が所定の姿勢に制御された後、統合制御装置10の信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。NRシステムシミュレータ20は、この信号送信指令に基づき、試験用アンテナ6を介してDUT100に試験信号を送信する(ステップS5)。
NRシステムシミュレータ20による試験信号送信制御は、以下のように実施される。NRシステムシミュレータ20(図4参照)において、信号発生部21aは、上記信号送信指令を受けた制御部22の制御下で、試験信号を生成するための信号を発生する。次いで、DAC21bは、信号発生部により発生された信号をデジタル/アナログ変換処理する。次いで、変調部21cは、デジタル/アナログ変換により得られたアナログ信号に変調処理を行う。次いで、RF部21dは、変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、送信部21eは、この試験信号(DLデータ)を信号処理部40に送る。
信号処理部40は、OTAチャンバ50内に設けられており、試験信号に対して周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、試験用アンテナ6に送る。試験用アンテナ6は、リフレクタ7を介して該試験信号をDUT100に向けて出力する。
なお、信号送受信制御部15は、ステップS5で試験信号送信の制御を開始した後、DUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了するまでの間、試験信号を適宜のタイミングで送信するよう制御する。
一方、DUT100は、試験用アンテナ6を介して送られてくる試験信号(DLデータ)を、ステップS4での上記姿勢制御に基づいて順次変化する異なる姿勢の状態でアンテナ110により受信するとともに、該試験信号に対する応答信号である被測定信号を送信する。
ステップS5で試験信号の送信を開始した後、引き続き、信号送受信制御部15による制御下で受信処理が行われる(ステップS6)。この受信処理では、試験用アンテナ6が、上記試験信号を受信したDUT100から送信される被測定信号を受信し、信号処理部40に出力する。信号処理部40は、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を行い、NRシステムシミュレータ20に出力する。
NRシステムシミュレータ20は、信号処理部40により周波数変換された被測定信号を測定する測定処理を実行する(ステップS7)。
具体的には、NRシステムシミュレータ20のRF部21dの受信部21fは、信号処理部40により信号処理された被測定信号を入力する。RF部21dは、制御部22の制御下で、受信部21fに入力された被測定信号をより周波数が低いIF信号に変換する。次いで、ADC21gは、制御部22の制御下で、IF信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。解析処理部21hは、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成する。更に、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、生成された波形データに基づいて被測定信号を解析する。
より具体的には、NRシステムシミュレータ20において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、被測定信号の解析結果に基づいてDUT100の送信特性及び受信特性を測定する。
例えば、DUT100の送信特性(RF特性)については次のように行う。まず、NRシステムシミュレータ20が、制御部22の制御下で、試験信号としてアップリンク信号送信のリクエストフレームを送信する。DUT100は、該アップリンク信号送信のリクエストフレームに応答してアップリンク信号フレームを被測定信号としてNRシステムシミュレータ20に送信する。解析処理部21hは、このアップリンク信号フレームに基づいてDUT100の送信特性を評価する処理を行う。
また、DUT100の受信特性(RF特性)については例えば次のように行う。解析処理部21hは、制御部22の制御下で、NRシステムシミュレータ20から試験信号として送信した測定用フレームの送信回数と、測定用フレームに対してDUT100から被測定信号として送信されるACK及びNACKの受信回数の割合をエラー率(PER)として算出する。
ステップS7において、解析処理部21hは、制御部22の制御下で、DUT100の送信特性及び受信特性の測定結果を図示しないRAM等の記憶領域に記憶する。この測定結果は、表示部24又は表示部13に表示するようにしてもよい。
次いで、統合制御装置10の制御部11は、所望の全ての姿勢に関してDUT100の送信特性及び受信特性の測定が終了したか否かを判定する(ステップS8)。ここで、測定が終了していないと判定された場合(ステップS8でNO)、ステップS4に戻って処理を続行する。
制御部11は、全ての姿勢について測定が終了していると判定された場合(ステップS8でYES)、試験を終了する。
なお、上記説明では、第1~第3の保持姿勢のうち選択された保持姿勢で測定を行っているが、これに限定されず、第1~第3のすべての保持姿勢で測定を行うようにしてもよい。
次に作用・効果について説明する。
以上述べたように、本実施形態に係る端末保持具120において、スライドガイド部140は、一対のアーム部127、128が第1の軸線A1を挟んで第2の軸線A2に沿って両側からDUT100を挟持するように、第2の軸線A2に沿って一対のアーム部127、128のスライド移動をガイドするようになっている。この構成により、一対のアーム部127、128は、例えば、薄板状の直方体形状のDUT100の上端面103及び下端面104から挟持する保持姿勢、DUT100の左側面105及び右側面106から挟持する保持姿勢など、第1の軸線A1及び第2の軸線A2を基準に複数の異なる保持姿勢でDUT100を保持することができる。
これにより、複数の保持姿勢のうち、より好ましい保持姿勢にてDUT100を保持した状態で端末保持具120を第1の軸線A1の周りに回転させ回転角度を調整することにより、DUT100のアンテナ110の軸方向を所定方向の直線偏波の信号の送受信に最適に調整することができる。
また、一対のアーム部127、128が、第2の軸線A2に沿ってスライド移動自在であるので、保持姿勢や大きさの異なるDUT100であっても、両側から挟持することで容易に保持することができる。しかも、一対のアーム部127、128だけによりDUT100を挟持する構成であるので、送受信等の通信試験を行う際、DUT100が板上等に載置されていた従来の技術に比べて、DUT100に近接する物体を必要最小限に抑えることができ、試験で用いられる無線信号に与える影響を抑制することができる。
また、本実施形態に係る端末保持具において、一対のアーム部127、128は、次の3つの保持姿勢によりDUT100を挟持することができる。
(A)DUT100の上下方向B1が第1の軸線A1に平行で、かつDUT100の左右方向B2が第2の軸線A2に平行となる第1の保持姿勢、
(B)DUT100の上下方向B1が第2の軸線A2に平行で、かつDUT100の左右方向B2が第1の軸線A1に平行となる第2の保持姿勢、及び
(C)DUT100の上下方向B1及び左右方向B2が第1の軸線A1に垂直で、かつDUT100の上下方向B1が第2の軸線A2に平行又は垂直となる第3の保持姿勢。
この構成により、本実施形態に係る端末保持具120は、第1~第3の保持姿勢のうち、より好ましい保持姿勢にてDUT100を保持した状態で端末保持具120を第1の軸線A1の周りに回転させ回転角度を調整することにより、DUT100のアンテナ110の軸方向を所定方向の直線偏波の信号の送受信に最適に調整することができる。
より具体的には、板状直方体形状のDUT100は、正面101、背面102、上端面103、下端面104、左側面105、右側面106を有している。一対のアーム部127、128は、
(a)DUT100を第1の保持姿勢で保持する場合、DUT100を左側面105及び右側面106から挟持し(図13、図14参照)、
(b)DUT100を第2の保持姿勢で保持する場合、DUT100を上端面103及び下端面104から挟持し(図15参照)、
(c)DUT100を第3の保持姿勢で保持する場合、DUT100を上端面103及び下端面104から挟持するか、あるいは左側面105及び右側面106から挟持するようにする(図16参照)。
また、本実施形態に係る端末回転装置200は、本実施形態の端末保持具120を備えているので、第1~第3の保持姿勢のうち、より好ましい保持姿勢にてDUT100を保持した状態で端末保持具120を第1の軸線A1及び第3の軸線A3の周りに回転させ回転角度を調整することにより、DUT100のアンテナ110の軸方向を所定方向の直線偏波の信号の送受信に最適に調整することができる。
また、本実施形態に係る移動端末試験装置1は、本実施形態の端末回転装置200を備えているので、第1~第3の保持姿勢のうち、より好ましい保持姿勢にてDUT100を保持した状態で端末回転装置200の端末保持具120を第1の軸線A1及び第3の軸線A3の周りに回転させ回転角度を調整することにより、DUT100のアンテナ110の軸方向を所定方向の直線偏波の信号の送受信に最適に調整することができる。DUT100のアンテナ110の軸方向が最適に調整された状態で測定を行うことにより、DUT100の送信特性及び受信特性を精度よく測定することができる。
また、本発明の移動端末試験装置は、電波暗箱だけではなく電波暗室にも適用できる。
以上述べたように、本発明は、移動体通信端末のアンテナの軸方向が所定方向の直線偏波の信号の送受信に最適な方向となるように、移動体通信端末を保持できるという効果を有し、端末保持具、端末回転装置及び移動端末試験装置の全般に有用である。