JP2021152110A - 水性インク及び印刷物の製造方法 - Google Patents

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【課題】印刷物の画質を改善する水性インクを提供すること。【解決手段】グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子、メジアン径が水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子の1/2以下である水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子、水及び色材を含み、アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比が3〜15である、水性インクである。【選択図】なし

Description

本発明は、水性インク及び印刷物の製造方法に関する。
印刷用インクは、水性インクと非水系インクに大別される。水性インクは主溶媒として水を含むため、揮発成分にVOC(揮発性有機化合物)成分が少なく、環境への影響を低減することができる。水性インクを基材に印刷すると、基材上でインク塗膜から水等が揮発することで、インク塗膜の乾燥及び定着が進んでいく。基材上で水等が揮発する一方で、色材成分は基材表面に残りやすいため、水性インクは高濃度で高画質な画像を提供することができる。
基材、特に非浸透性基材に、水性インクを付与する際に、基材上でインク塗膜が乾燥する前に、インクが基材から弾かれて、画像が定着しにくい問題がある。インクが液滴状に弾かれることで、インク塗膜にピンホールが発生する現象がある。また、水性インクを基材に付与後に、インク塗膜から水等が揮発する過程で、インク塗膜にひびが入り、画像がひび割れた状態になる現象がある。
基材へのインク塗膜の定着性を付与するために、水性インクに樹脂を添加する技術がある。また、水性インクに界面活性剤を添加することで、基材に対する水性インクの濡れ性を高め、インク塗膜の均一性を改善することができる。
特許文献1には、耐擦傷性や耐水性、保存安定性、基材フィルムに対する付着性等を改善するために、水性インクにおいて、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル、及びアクリル酸エチルを含む単量体化合物を、ノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤の存在下で、又はアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下で、重合して得られる共重合体を用いることが開示されている。
特開2008−31276号公報
水性インクと基材との濡れ性の観点から界面活性剤を水性インクに添加し、インク塗膜の成膜性の観点から樹脂成分を水性インクに添加することで、基材上にインク塗膜をより均一に形成することができる。一方で、基材上でインク塗膜から水等が揮発する過程で、基材上で濃縮により界面活性剤が高濃度化して析出を起こし、インク塗膜の表面張力が上がることで、基材からインクが液滴状に弾かれてピンホールが発生することがある。また、樹脂の種類によっては、乾燥過程、特に高温下での乾燥過程でインク塗膜にひび割れが発生しやすいものがある。インク塗膜のひび割れ及びピンホールは、文字等の細線よりもベタ画像において目立つため問題になる。
引用文献1では、インク塗膜の付着性等を評価しているが、インク塗膜のひび割れ及びピンホールについて言及されていない。特に、引用文献1の構成では、基材上で水等が揮発する過程で、界面活性剤が濃縮されて析出することで表面張力が高まり、インク塗膜にピンホールが発生しやすい状態となる。
本発明の一目的としては、印刷物の画質を改善することである。
本発明の一側面は、グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子、メジアン径が前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子の1/2以下である水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子、水及び色材を含み、前記アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比が3〜15である、水性インクである。
本発明の他の側面は、上記した水性インクを非浸透性基材に付与することを含む、印刷物の製造方法である。
本発明の一実施形態によれば、印刷物の画質を改善することができる。
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
一実施形態による水性インクは、グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子、メジアン径が水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子の1/2以下である水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子、水及び色材を含み、アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比が3〜15であることを特徴とする。
この水性インクを用いることで、印刷物の画質を改善することができる。
以下、グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤をアセチレングリコール系界面活性剤(S)とも記し、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子をアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とも記し、メジアン径が水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子の1/2以下である水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子をウレタン系樹脂粒子(P2)とも記す。
以下、メジアン径をD50とも記し、水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のメジアン径に対する水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子のメジアン径の比をメジアン径比「Ur/AcN」とも記し、アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比をモル比「ニトリル基/アセチレン基」とも記す。
また、(メタ)アクリル系単位は、メタクリル系単位、アクリル系単位、又はこれらの組み合わせを少なくとも含む単位を意味する。(メタ)アクリレート等の表記も同様である。
この水性インクは、基材上においてインク液滴の弾きによって生じるピンホールの発生を抑制することができる。また、この水性インクは、基材上における良好な成膜性によってインク塗膜のひび割れを抑制することができる。ピンホールとひび割れが防止されることから、均一な画像、特にベタ画像を形成することができる。
例えば、基材にインクを付与後に、インク塗膜を強制的に乾燥させる構成においては、基材上でインク塗膜の成分が急速に凝集されることから、ピンホールとひび割れが発生しやすい傾向がある。このような構成において、この水性インクはより効果的にピンホールとひび割れの発生を防止することができる。
ピンホールは、基材上でインク塗膜が乾燥される間に、インク塗膜中に界面活性剤が濃縮されて析出し、インク塗膜の表面張力が上昇することでインク液滴の弾きが発生し、ピンホールとして観察される。また、界面活性剤の種類によっては、水性インクと基材との濡れ性が劣り、弾かれる場合もある。
ひび割れは、基材上でインク塗膜が乾燥される間に、水の蒸発等によりインク塗膜の不均一な収縮が起こって発生する傾向がある。これは、基材上でインク塗膜を強制的に急速に乾燥する場合に顕著に観察される傾向がある。
界面活性剤の種類等によって水性インクと基材との濡れ性が不足していると、基材上でインク塗膜の収縮が不均一になりやすく、ひび割れがより発生する傾向がある。
理論に拘束されるものではないが、この水性インクは以下のように作用すると考えられる。
この水性インクは、基材上でインク塗膜の水等が揮発して濃縮される際に、HLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤(S)がアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)に吸着する。これは、アセチレングリコール系界面活性剤(S)のアセチレン基と、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基の双極子相互作用に起因すると考えられる。これによって、アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、基材上で濃縮される際に極端に析出されず、インク塗膜の表面張力が過剰に上昇しないようにして、インク液滴の弾きを抑制して、ピンホールの発生を防止することができる。
また、HLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤(S)は、インク付与直後における基材と水性インクとの濡れ性を高めることもできることから、基材上でのアセチレングリコール系界面活性剤(S)の析出を抑制することで、インク付与直後の濡れ性を継続して十分に発揮させることができる。HLB値が3以上のアセチレングリコール系界面活性剤(S)は、アルキレンオキサイド基を十分に含んでいるため、水への親和度が高く、基材上における濃縮過程で析出が起こりにくい。アセチレングリコール系界面活性剤(S)のHLB値が10以下であることで、インク付与直後の濡れ性が高いうえに、樹脂粒子が膨潤することによる樹脂粒子同士の強固な固着が得られやすく、成膜性が良好となり、ひび割れの発生を防止することができる。
メジアン径がアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の1/2以下であるウレタン系樹脂粒子(P2)は、基材上でインク塗膜が濃縮される過程で、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の粒子間に入り込み、両樹脂粒子同士が密な状態で並び、成膜されやすい状態を形成することができる。その後、さらに乾燥が進み濃縮されると、ウレタン系樹脂粒子(P2)の脂肪族構造に由来する柔軟性と、低HLB値のアセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着により樹脂粒子表面が成膜されやすい状態となったアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とが、より強固に成膜されて、インク塗膜のひび割れを抑制することができる。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)のアセチレン基に対する、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基のモル比が3〜15であることで、上記した効果をより発揮させることができる。モル比「ニトリル基/アセチレン基」が15以下であることで、アセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着を適量に調節し、基材上でのインク液滴の弾きを抑制することができる。モル比「ニトリル基/アセチレン基」が3以上であることで、アセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着量を高め、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の成膜性を促進し、インク塗膜のひび割れをより防止することができる。
インクは、色材を含むことができる。色材としては、顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。画像の耐候性及び耐水性の点から、顔料を好ましく用いることができる。
顔料は、顔料分散体としてインクに好ましく配合することができる。
顔料分散体としては、顔料が溶媒中に分散可能なものであって、インク中で顔料が分散状態となるものであればよい。例えば、顔料を顔料分散剤で水中に分散させたもの、自己分散性顔料を水中に分散させたもの、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を水中で分散させたもの等を用いることができる。
顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、銅フタロシアニン顔料等の金属フタロシアニン顔料、及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
さらに、有機顔料としては、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等が挙げられる。
また、無機顔料としては、コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、これらの金属酸化物及び硫化物、並びに黄土、群青、紺青等が挙げられる。
また、顔料として白色顔料を用いてもよい。白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム等の無機顔料が挙げられる。
これらの顔料の平均粒子径は10〜500nmであることが好ましく、10〜200nmであることがより好ましい。これらの顔料の平均粒子径は、発色性の観点から10nm以上であることが好ましく、分散安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。インクジェットインクの場合は吐出性の観点から500nm以下が好ましい。
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤に代表される顔料分散剤を好ましく用いることができる。
高分子分散剤の市販品として、例えば、エボニックジャパン株式会社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W、750W、755W、760W」、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000、27000、41000、43000、44000、46000」、BASFジャパン株式会社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57J、60J、63J」、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「DISPERBYK−102、185、190、193、199」、「BYKJET−9152」等が挙げられる(いずれも商品名)。
界面活性剤型分散剤には、インク中の顔料の分散安定性を考慮して、非イオン性界面活性剤を用いることができる。
界面活性剤型分散剤の市販品として、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA−60、A−90、A−500、420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
これらの顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料分散剤を用いる場合では、顔料分散剤の添加量はその種類によって異なり特に限定はされない。例えば、顔料分散剤は、有効成分の質量比で、顔料1に対し、0.005〜2.0の範囲で添加することができる。
色材として自己分散性顔料を配合してもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ「CAB−O−JET200、300、250C、260M、270」、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW−1、CW−2、CW−4」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。顔料分散剤で分散された顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製HOSTAJETシリーズ、冨士色素株式会社製FUJI SPシリーズ等が挙げられる(いずれも商品名)。上記した顔料分散剤で分散された顔料分散体を使用してもよい。また、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料の分散体を使用してもよい。
色材として染料を配合してもよい。染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられる。これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものを好ましく用いることができる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。
上記した色材は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
色材は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましく、2質量%〜5質量%がさらに好ましい。
一実施形態による水性インクは、グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤(S)を含むことができる。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグルコールであり、アセチレングリコールにアルキレンオキサイド、好ましくはエチレンオキサイドを付加した構造を備えていることが好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)として、エチレンオキサイドを付加したアセチレングリコールを用いる場合において、エチレンオキサイドの付加モル数は5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。エチレンオキサイドの付加モル数は1以上が好ましく、2以上がより好ましい。例えば、エチレンオキサイドの付加モル数は1〜5が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、HLB値が10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.0以下であってもよく、5.0以下であってもよい。これによって、界面活性剤による樹脂膜の成膜補助効果を発揮させることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、HLB値が3.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましい。これによって、基材上における濃縮過程でインクからの界面活性剤の析出が起こりにくくなり、ピンホールの発生をより防止することができる。また、この範囲で、水性インクに対する溶解性を示して、インクの貯蔵安定性を良好に維持することができる。
例えば、アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、HLB値が3.0以上10.0以下が好ましく、5.0以上9.0以下がより好ましい。
ここで、HLB値は、界面活性剤の性質を示す尺度の一つであり、分子中の親水基と親油基とのバランスを数値化したものである。HLB値は、いくつかの算出方法によって提唱されているが、本明細書において、グリフィン法によって算出される値であり、下記式(1)によって算出される。
HLB値=20×(親水部の式量)/(界面活性剤の分子量)・・・式(1)
ここで、「親水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている親水性の部分を示し、好ましくは、ポリオキシアルキレン基、水酸基に対する主鎖の炭素数が3以下のアルコール基、又はこれらの組み合わせである。界面活性剤に複数の親水性の部分が含まれる場合は、上記式(1)において親水部の式量はこれらの合計量とする。
ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基(ポリエチレンオキサイド;EO)、ポリオキシプロピレン基(ポリプロピレンオキサイド;PO)等が挙げられる。
また、アルコール基としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、スクロース(ショ糖)、マンニット、グリコール類等が挙げられる。
「疎水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている疎水性の部分を示し、例えば、水酸基に対する主鎖の炭素数が4以上の脂肪族アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸等に由来する脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、有機シロキサン、ハロゲン化アルキル等、又はこれらの組み合わせである。
HLB値が3〜10のアセチレングリコール系界面活性剤(S)の市販品として、例えば、「オルフィンE1004」、「サーフィノール420、440」(以上、日信化学工業株式会社製)、「アセチレノールE13T、E40」(以上、川研ファインケミカル株式会社)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
上記したアセチレングリコール系界面活性剤(S)は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。これによって、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)及びウレタン系樹脂粒子(P2)による塗膜形成において、より強固なインク塗膜を形成することができる。また、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)への界面活性剤の吸着によってインク液滴が基材から弾かれないようにして、インク塗膜でのピンホールの発生を防止することができる。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、有効成分量で、インク全量に対し、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。これによって、インクにおいて、貯蔵安定性の低下を防止することができる。
例えば、アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の有効成分量に対し、有効成分量の質量比で、0.1〜1が好ましく、0.2〜0.5がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、ウレタン系樹脂粒子(P2)の有効成分量に対し、有効成分量の質量比で、0.1〜1が好ましく、0.2〜0.5がより好ましい。
一実施形態によるインクは、上記したアセチレングリコール系界面活性剤(S)に加えて、その他の界面活性剤を含んでもよい。その他の界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、より好ましくは非イオン性界面活性剤である。
その他の界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤;その他のアセチレン基を有する界面活性剤等が挙げられる。
その他の界面活性剤として、HLB値が3.0より小さいか、又は10.0より大きいアセチレングリコール系界面活性剤を用いてもよい。
その他の界面活性剤をインクに配合する場合では、界面活性剤全量に対し、アセチレングリコール系界面活性剤(S)は、有効成分の質量割合で、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましい。
水性インクは、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)を含むことができる。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む共重合体樹脂であることが好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、水分散性を示すことから、水中で水に溶解することなく粒子状に分散して水中油(O/W)型の樹脂エマルションを形成することができる。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、インク中で樹脂粒子として分散状態で含まれることが好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、メジアン径が300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましい。これによって、基材上でアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)への界面活性剤の吸着を促進して界面活性剤の析出を抑制し、インク塗膜のピンホールの発生をより低減することができる。また、インクの貯蔵安定性をより改善することができる。また、インクジェットインクに適する吐出性を得ることができる。
ピンホールの発生防止の観点から、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のメジアン径は、150nm以下が一層好ましい。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のメジアン径がより小さいことで、表面積が大きくなり、アセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着がより起こりやすくなる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、特に限定はされないが、インクの貯蔵安定性の観点から、メジアン径が5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
例えば、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、5nm〜300nmが好ましく、10nm〜200nmがより好ましく、10nm〜150nmがさらに好ましい。
本明細書において、特に断らない限り、メジアン径(D50)は、25℃において、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の粒子径値である。水分散性樹脂の粒度分布は、樹脂エマルションを有効成分量で0.5質量%となるように水で希釈した組成物を用いて測定することができる。
動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、ナノ粒子解析装置nanoParticaSZ−100(株式会社堀場製作所)等を用いることができる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれであってもよい。水性インクに適する色材はアニオン性を示すものが多いことから、水中での色材の安定性を考慮して、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂を好ましく用いることができる。
水分散性のアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)としては、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有する官能基が樹脂粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面に分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、アクリロニトリル系単位と(メタ)アクリル系単位とを含む共重合体樹脂粒子であることが好ましく、アクリロニトリル系単位と(メタ)アクリル系単位とはランダム共重合されていてもよく、ブロック共重合されていてもよい。
アクリロニトリル系単位のみからなる樹脂に比べて、アクリロニトリル系単位と(メタ)アクリル系単位とを含む共重合体樹脂は、インク塗膜の成膜性をより高めることができる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、アクリロニトリル系単位と脂肪族(メタ)アクリル単位とを含む共重合体樹脂粒子、すなわち脂肪族(メタ)アクリル−アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子であることが好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、アクリロニトリル系単位として、アクリロニトリル単位、メタクリロニトリル単位、これらに置換基が導入された単位等を挙げることができる。これらは、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、(メタ)アクリル系単位は、脂肪族(メタ)アクリル単位、芳香族(メタ)アクリル単位、その他の(メタ)アクリレート単位、(メタ)アクリル酸単位、(メタ)アクリルアミド単位等が挙げられる。これらの単位には、置換基が導入されていてもよい。
これらの中でも、脂肪族(メタ)アクリル単位、芳香族(メタ)アクリル単位、又はこれらの組み合わせが好ましく、脂肪族(メタ)アクリル単位がより好ましい。これによって、基材上でインク塗膜の強度をより高めることができる。脂肪族(メタ)アクリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、脂肪族ウレタン単位を含むウレタン系樹脂粒子(P2)と、より強固に成膜されて、ひび割れを防止することができる。これは、(メタ)アクリル−ウレタンの水素結合、脂肪族構造同士の疎水性相互作用、又はこれらの組み合わせが一要因であると考えられる。また、脂肪族(メタ)アクリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、ガラス転移点が低い観点からも、成膜性をより向上させることができる。
また、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)が(メタ)アクリル酸単位を含むことで、アニオン性となって、樹脂に自己乳化性を付与することができる。
脂肪族(メタ)アクリル単位は、脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートに由来する単位であることが好ましい。脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和であってもよく、置換又は非置換であってもよく、鎖式又は脂環式であってもよく、直鎖又は分岐鎖であってもよい。好ましくは直鎖又は分岐の鎖式アルキル基であり、より好ましくは分岐の鎖式アルキル基である。
脂肪族(メタ)アクリル単位において、脂肪族炭化水素基の炭素数は3〜20が好ましく、4〜12がより好ましく、4〜10がさらに好ましい。この炭素数が3以上であることで、インク塗膜の成膜性をより高めることができる。この炭素数が20以下であることで、樹脂粒子そのものの粒子径の粗大化を防止することができる。
脂肪族(メタ)アクリル単位は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、n−ノニル基、イソノニル、n−デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、n−トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基(C20)、ドコシル基(C22)、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
好ましくは、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、又はこれらの組み合わせである。
芳香族(メタ)アクリル単位は、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートに由来する単位であることが好ましい。芳香族炭化水素基としては、単環、多環、縮合環のいずれであってもよく、環上の水素原子がアルキル基等の置換基によって置換されていてもよい。
芳香族(メタ)アクリル単位において、芳香族炭化水素基の炭素数は6〜20が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜10がさらに好ましい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。好ましくは、フェニル基、ベンジル基、又はこれらの組み合わせであり、より好ましくはベンジル基である。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、その他の単位を含んでもよい。
その他の単位としては、スチレン単位、酢酸ビニル単位、塩化ビニル単位、ブタジエン単位等のビニル系単位等が挙げられる。また、下記で説明するその他のモノマーに由来する単位を含んでもよい。これらは、1種、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、アクリロニトリル系単位は、全構成単位に対して、20〜80モル%が好ましく、30〜60モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、(メタ)アクリル系単位は、全構成単位に対して、20〜80モル%が好ましく、30〜60モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、脂肪族(メタ)アクリル単位が含まれる場合では、脂肪族(メタ)アクリル単位は、全構成単位に対して、20〜80モル%が好ましく、30〜60モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、芳香族(メタ)アクリル単位が含まれる場合では、芳香族(メタ)アクリル単位は、全構成単位に対して、10〜70モル%が好ましく、20〜60モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、(メタ)アクリル酸単位が含まれる場合では、(メタ)アクリル酸単位は、全構成単位に対して、0.1〜5モル%が好ましく、0.5〜3モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)において、その他の単位が含まれる場合では、その他の単位は、全構成単位に対して、0.1〜60モル%が好ましく、5〜30モル%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は上記した単位を含むものであればよく、その合成方法に限定されないが、以下に、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の合成方法の一例について説明する。なお、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、下記の合成方法によって製造されたものに限定されない。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)を合成する一方法では、アクリロニトリル系モノマー、及び(メタ)アクリル系モノマーを含むモノマー混合物を共重合することを含む。
アクリロニトリル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、又はこれらの誘導体等を用いることができる。
(メタ)アクリル系モノマーとしては、脂肪族(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、その他の(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、又はこれらの誘導体等を用いることができる。これらの中でも、脂肪族(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、又はこれらの組み合わせが好ましく、脂肪族(メタ)アクリレートがより好ましい。
脂肪族(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、上記した飽和炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを用いることができる。
好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、イソヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等、これらのエチレンオキシド変性品等が挙げられる。
(メタ)アクリレート系モノマーの他の例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)に(メタ)アクリル系単位を導入するために、上記した(メタ)アクリル系モノマーの中から1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)にその他の単位を導入するために、モノマー混合物はその他のモノマーを含んでもよい。その他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル、フマル酸エステル、α−オレフィン等が挙げられる。これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、上記したアクリロニトリル系モノマー、(メタ)アクリル系モノマーを含むモノマー混合物を共重合することで合成することができる。モノマー混合物はその他のモノマーをさらに含んでもよい。これらのモノマー成分の配合割合は、上記したアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)を構成する単位の割合となるように適宜調節することができる。
重合は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれであってもよい。例えば、ランダム共重合体は、各モノマー成分を一括して含む原料混合物を一括して重合することで得ることができる。また、ブロック共重合体は、先に1種類のモノマーを重合し、この重合体にさらに他のモノマーを重合する方法、先に1種類のモノマーをそれぞれ重合し、得られた複数種類の重合体をブロック重合する方法、リビング重合によって重合反応を制御する方法等によって得ることができる。グラフト共重合体は、1種類又は2種類以上のモノマーを用いて主鎖の共重合体を重合し、この共重合体に反応性基を導入させておき、この反応性基を起点に他のモノマーを重合する方法、又はこの反応性基を起点に他のモノマーを用いて重合した重合体を導入する方法等によって得ることができる。
重合は、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等にしたがって行うことができ、好ましくは溶液重合法又は乳化重合法である。
重合溶媒としては、例えば、水;エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。
重合に際して、ラジカル重合開始剤等の重合開始剤、重合連鎖移動剤、RAFT剤等の各種添加剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物;t−ブチルペルオキシオクトエート、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の有機過酸化物等を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の添加量は、モノマー100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましい。
モノマー成分にアニオン性モノマーが含まれる場合は、架橋反応によるゲル化を防止するために、重合反応において中和剤を用いることが好ましい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。
乳化重合法では、モノマー混合物を水等の水性溶媒に添加して乳化処理して行うことができる。この際に、重合乳化剤を添加することで、粒子状の樹脂をより安定的に合成することができる。
重合乳化剤は、硫酸エステル塩基を含むモノマーが好ましく、硫酸エステル塩基を含むモノマーとしては硫酸エステル塩基を含むアニオン性反応性乳化剤等が挙げられる。具体的には、第一工業製薬株式会社製「アクアロンKH05、アクアロンKH10、アクアロンBC10、アクアロンBC20」、株式会社ADEKA製「アデカリアソープSE10N、SE20N、SR10、SR20」等が挙げられる(いずれも商品名)。
重合乳化剤には、樹脂粒子の安定性をより高めるために、ポリオキシエチレン基を含むモノマーを好ましく用いることができる。このモノマーは、ポリオキシエチレン基の立体障害により、樹微粒子をより安定化させることができる。
ポリオキシエチレン基を含むモノマーとしては、ポリオキシエチレン基を含む(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン基を含む反応性乳化剤等が挙げられる。ポリオキシエチレン基を含む(メタ)アクリレートの具体例としては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオキシエチレン基を含む反応性乳化剤の具体例としては、第一工業製薬株式会社製「アクアロンRN20、RN30、RN50」、株式会社ADEKA製「アデカリアソープNE10、NE20、NE30、NE40、NE50、ER10、ER20、ER30、ER40、ER50」等が挙げられる(いずれも商品名)。
重合乳化剤として使用可能なその他のモノマーとしては、日油株式会社製「ブレンマーPE200、PE350、AE200、AE400」等が挙げられる(いずれも商品名)。
重合乳化剤は、水性媒体100質量部に1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。水性媒体は、乳化重合系に投入される水及び水溶性有機溶剤の合計量である。
重合条件は、用いるモノマー、ラジカル重合開始剤等の添加剤、重合溶媒等に応じて適宜調節することができる。
通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。重合時間は、好ましくは1〜20時間であり、より好ましくは1〜10時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
塊状重合法の場合は、溶媒なしで反応を行う以外は、溶液重合法又は乳化重合法と同じような反応を行ってよい。重合条件も溶液重合又は乳化重合法と同じでよい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、基材上で透明の塗膜を形成する樹脂であることが好ましい。これによって、水性インクの発色への影響を低減することができる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、1000〜1000000が好ましく、5000〜100000がより好ましい。ここで、樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーション(GPC)法で、ポリスチレン換算による値である。以下、特に断りのない限り同じである。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1〜15質量%であってよく、1〜10質量%であってよい。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、有効成分量で、インク全量に対し、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)がこの範囲で含まれることで、インク塗膜の強度をより高めることができ、インク塗膜の耐擦過性をより改善することができる。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)単体ではインク塗膜の柔軟性が不十分になる傾向があるが、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との相互作用によって、インク塗膜の強度及び柔軟性をともに改善することができる。また、この範囲で、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)へのアセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着を適量に調節し、基材上でのインク液滴の弾きをより抑制することができる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、有効成分量で、インク全量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が一層好ましい。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の配合量がこの範囲であることで、ウレタン系樹脂粒子(P2)との配合バランスを適切に保ちながら、インク中の樹脂分の量を適切に制限し、インクの粘度上昇をより防ぐことができる。また、インクジェットインクに適する吐出性を得ることができる。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)は、有効成分量の質量比で、色材1に対し、0.1〜8が好ましく、0.5〜5がさらに好ましく、1〜3がさらに好ましい。
一実施形態において、アセチレングリコール系界面活性剤(S)のアセチレン基に対し、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基のモル比「ニトリル基/アセチレン基」は、3〜15が好ましい。
このモル比「ニトリル基/アセチレン基」は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。ニトリル基の割合が多いことで、アセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着量を高め、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の成膜性を促進し、インク塗膜のひび割れをより防止することができる。
このモル比「ニトリル基/アセチレン基」は、15以下が好ましく、13以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。ニトリル基の上限値がこの範囲であることで、アセチレングリコール系界面活性剤(S)の吸着を適量に調節し、基材上でのインク液滴の弾きを抑制することができる。
例えば、このモル比「ニトリル基/アセチレン基」は、3〜15が好ましく、5〜10がより好ましい。
ここで、アセチレングリコール系界面活性剤(S)のアセチレン基量は、インク中に存在するアセチレン基のモル当量である。また、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基量は、インク中に存在するニトリル基のモル当量である。
水性インクは、ウレタン系樹脂粒子(P2)を含むことができる。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、水分散性を示すことから、水中で水に溶解することなく粒子状に分散して水中油(O/W)型の樹脂エマルションを形成することができる。ウレタン系樹脂粒子(P2)は、インク中で樹脂粒子として分散状態で含まれることが好ましい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、メジアン径がアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の1/2以下であることが好ましい。
これによって、基材上でインク塗膜がより緊密に形成されて、インク塗膜の強度をより高めることができる。
メジアン径比「Ur/AcN」は、1/2以下であることが好ましく、2/5以下がより好ましい。この範囲で、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)に対してウレタン系樹脂粒子(P2)のメジアン径が小さいことで、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の粒子間に形成される空隙にウレタン系樹脂粒子(P2)が入り込みやすくなり、樹脂粒子の充填性を高めて、インク塗膜の成膜性をより改善することができる。
メジアン径比「Ur/AcN」は、特に制限されないが、1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましく、1/3以上がさらに好ましい。これによって、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との粒子径のバランスを調節して、それぞれの樹脂粒子が微細又は粗大になることを防止して、インク全体の貯蔵安定性を良好に維持することができる。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、メジアン径が200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。これによって、インクの貯蔵安定性をより改善することができる。また、インクジェットインクに適する吐出性を得ることができる。また、ウレタン系樹脂粒子(P2)が過剰に小粒子径になると、樹脂全体の耐水性が低下する傾向がある。
アクリロニトリル系樹脂(P1)との組み合わせにおいてインク塗膜の充填性を高める観点から、ウレタン系樹脂粒子(P2)のメジアン径は、80nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、特に限定はされないが、インクの貯蔵安定性の観点から、メジアン径が5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
例えば、ウレタン系樹脂粒子(P2)のメジアン径は、5nm〜200nmが好ましく、10nm〜100nmがより好ましく、10nm〜80nmがさらに好ましい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれであってもよい。水性インクに適する色材はアニオン性を示すものが多いことから、水中での色材の安定性を考慮して、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂を好ましく用いることができる。
水分散性のウレタン系樹脂粒子(P2)としては、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有する官能基が樹脂粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面に分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、脂肪族ウレタン骨格を有することが好ましい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、脂肪族ウレタン骨格以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型脂肪族ウレタン系樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型脂肪族ウレタン系樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型脂肪族ウレタン系樹脂であることが好ましい。
脂肪族ウレタン系樹脂としては、脂肪族ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物を用いることができる。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物を用いることができ、好ましくは脂肪族ジイソシアネートである。
ウレタン系樹脂粒子(P2)において、ウレタン骨格部分が脂肪族ウレタン骨格であることで、より好ましくはウレタン骨格部分が脂肪族ジイソシアネートに由来して鎖状であることで、インク塗膜の強度をより高めるとともに、インク塗膜の柔軟性をより高めることができる。
また、脂肪族ポリイソシアネートから合成したウレタン系樹脂粒子(P2)を用いる場合は、ウレタン系樹脂自体の黄変を防止することができ、樹脂膜がより透明となり、水性インクの発色性をより改善することができる。
脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート、ジイソシアン酸イソホロン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。なかでもインク塗膜の柔軟性を高める観点から、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、又はこれらの組み合わせが好ましい。
これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエーテルポリオールとしては、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリエーテル化合物を用いることができ、好ましくは2個以上の水酸基を有する鎖状のポリエーテル化合物であり、より好ましくはポリエーテルジオールである。
ポリエステルポリオールとしては、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステル化合物を用いることができ、好ましくは2個以上の水酸基を有する鎖状のポリエステル化合物であり、より好ましくはポリエステルジオールである。
ポリカーボネートポリオールとしては、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリカーボネート化合物を用いることができ、好ましくは2個以上の水酸基を有する鎖状のポリカーボネート化合物であり、より好ましくはポリカーボネートジオールである。
ウレタン系樹脂粒子(P2)において、エーテル結合、エステル結合、又はカーボネート結合がそれぞれ鎖状結合であることで、より好ましくはポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、又はポリカーボネートジオールに由来して鎖状であることで、インク塗膜の強度をより高めるとともに、インク塗膜の柔軟性をより高めることができる。
また、ポリエーテルポリオールから合成されるウレタン系樹脂粒子(P2)を用いる場合は、エーテル部分が加水分解の影響を受けないため、インク塗膜の耐水性をより改善することができる。また、ポリカーボネートポリオールを用いることで、より高強度のインク塗膜を形成することができる。
ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の低分子量ポリオール;上記した低分子量ポリオールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド等を付加重合させたポリエーテルポリオール等を挙げることができる。
ポリエステルポリオールの具体例としては、上記した低分子量ポリオールに、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等の多価カルボン酸を重縮合させたポリエステルポリオール等を挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールポリカーボネートジオール、1,10−デカンジオールポリカーボネートジオール、ポリプロピレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリシクロヘキサンジメタノールカーボネートジオール、ポリシクロヘキサンジメタノールカーボネートジオール等を挙げることができる。
上記したポリオールは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、基材上で透明の塗膜を形成する樹脂であることが好ましい。これによって、水性インクの発色への影響を低減することができる。ウレタン系樹脂粒子(P2)としてポリーテル系脂肪族ウレタン系樹脂を用いることで、インク塗膜形成での加熱処理において、樹脂の黄変及び変質を防止することができ、水性インクの発色性をより高めることができる。
ウレタン系樹脂粒子(P2)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、10000〜1000000が好ましく、15000〜100000がより好ましい。
ポリエーテル型脂肪族ウレタン系樹脂の樹脂エマルションの市販品としては、例えば、DSM Coating Resins社製の「NeoRezR−650」、「NeoRezR−966」、「NeoRezR−967」、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス130」、「スーパーフレックスE−4800」、ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW6491/33WA」、株式会社アデカ製の「アデカボンタイターHUX−350」、「アデカボンタイターHUX−550」等が挙げられる(いずれも商品名)。
ポリエステル型脂肪族ウレタン系樹脂の樹脂エマルションの市販品としては、例えば、ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW6490/35WA」、「DAOTAN TW6492/35WA」、「DAOTAN TW7225/40WA」、DSM Coating Resins社製「NeoRezR−972」、「NeoRezR−9637」、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス210」、「スーパーフレックス500M」等が挙げられる(いずれも商品名)。
ポリカーボネート型脂肪族ウレタン系樹脂の樹脂エマルションの市販品としては、例えば、DSM Coating Resins社製の「NeoRezR−986」、「NeoRezR−4000」、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス460」、「スーパーフレックス420」、ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW7000/40WA」、「DAOTAN TW6450/30WA」等が挙げられる(いずれも商品名)。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1〜15質量%であってよく、1〜10質量%であってよい。ウレタン系樹脂粒子(P2)は、有効成分量で、インク全量に対し、3〜8質量%が好ましく、3〜5質量%がより好ましい。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。ウレタン系樹脂粒子(P2)がこの範囲で含まれることで、ウレタン系樹脂粒子(P2)を構成する脂肪族構造に起因して、インク塗膜に柔軟性を付与し、インク塗膜のひび割れをより防ぐことができる。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、有効成分量で、インク全量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が一層好ましい。ウレタン系樹脂粒子(P2)の配合量がこの範囲であることで、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)との配合バランスを適切に保ちながら、インク中の樹脂分の量を適切に制限し、インクの粘度上昇をより防ぐことができる。また、インクジェットインクに適する吐出性を得ることができる。
ウレタン系樹脂粒子(P2)は、有効成分量の質量比で、色材1に対し、0.5〜10が好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜3がさらに好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との合計量は、有効成分量で、インク全量に対し、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との合計量は、有効成分量で、インク全量に対し、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
例えば、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との合計量は、有効成分量で、インク全量に対し、1〜20質量%以上が好ましく、2〜15質量%以上がより好ましく、4〜10質量%以上がさらに好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との合計量は、有効成分量の質量比で、色材1に対し、0.5〜10が好ましく、1〜3がより好ましい。
アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)とウレタン系樹脂粒子(P2)との質量比率は、1:4〜4:1が好ましく、1:2〜2:1がより好ましく、ほぼ1:1がさらに好ましい。この範囲で、基材上でインク塗膜が濃縮される過程で、樹脂粒子同士がより密な状態に充填されて、インク塗膜の成膜性をより高めることができる。
一実施形態によるインクは、上記したアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)及びウレタン系樹脂粒子(P2)に加えて、その他の樹脂を含んでもよい。例えば、その他の樹脂として、バインダー樹脂を配合することができる。
その他の樹脂として、その他の水分散性樹脂、水溶性樹脂、これらの組み合わせ等を挙げることができる。
その他の水分散性樹脂としては、例えば、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂等が挙げられる。これらの水分散性樹脂は、水中油(O/W)型の樹脂エマルションとしてインクに配合することができる。
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂にアニオン性の官能基を導入したアニオン性水溶性樹脂を用いることができる。
上記したその他の樹脂は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
その他の樹脂(有効成分)は、インク全量に対し、1〜20質量%が好ましい。また、インクにその他の樹脂が配合される場合、インクに配合される全ての樹脂の合計量に対し、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)及びウレタン系樹脂粒子(P2)の合計量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
水性インクは、水性溶媒として水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの顔料分散安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、インク粘度の調整の観点から、インク全量に対して20質量%〜90質量%で含まれることが好ましく、30質量%〜80質量%で含まれることがより好ましく、40質量%〜70質量%がさらに好ましい。
水性インクは、水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤は、水と相溶性を示すことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、濡れ性及び保湿性の観点から、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
水溶性有機溶剤の沸点は180〜250℃が好ましい。水溶性有機溶剤の沸点が180℃以上、より好ましくは200℃以上であることで、インク中からの水溶性有機溶剤の蒸発を抑制して機上安定性をより改善することができる。水溶性有機溶剤の沸点が250℃以下であることで、印刷物の乾燥性をより高めることができる。
水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル等のグリコールエーテル類;1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、β−チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。
これらは、1種単独で用いてもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して用いてもよい。
水溶性有機溶剤として、Feders式から算出されるSP値が13(cal/cm1/2未満の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。これによって、顔料及び顔料分散剤に対する濡れ性をより高めて、機上安定性をより改善することができる。
SP値が13(cal/cm1/2未満の水溶性有機溶剤としては、例えば、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ブタンジオール等の1,2−アルカンジオールであり、より好ましくは、1,2−ブタンジオールである。これらは、水性インク中に1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの水溶性有機溶剤とともにその他の水溶性有機溶剤を併用してもよい。
ここで、SP値は、Fedors式で求められるSP値であり、具体的には、Fedorsの提唱した下記式により算出した値である。下記式において、Δeiは、i成分の原子または原子団の蒸発エネルギーであり、Δviは、i成分の原子または原子団のモル体積である(POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, FEBRUARY, 1974, Val. 14, No. 2参照)。
δ=[(sumΔei)/(sumΔvi)]1/2
水溶性有機溶剤は、濡れ性、保湿効果、粘度調節等の観点から、インク全量に対し、1〜80質量%で含ませることができ、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%がより好ましい。
SP値が13(cal/cm1/2未満の水溶性有機溶剤は、インク全量に対し、1〜50質量%で含ませることができ、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
水性インクには、上記した各成分に加え、任意的に、定着樹脂、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、防腐剤、定着剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
pH調整剤として、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;硫酸、硝酸、酢酸等の酸;トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノエチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール、アミノメチルプロパノール等のアミン類等を挙げることができる。
pH調整剤は、インク全量に対し0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
水性インクの粘度は、印刷方法及び印刷環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1〜40mPa・sであることが好ましい。インクジェットインクに適した吐出性を得るためには、2〜20mPa・sであることがより好ましく、3〜15mPa・sであることがさらに好ましい。
インクの作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望のインクを得ることができる。例えば、顔料、顔料分散剤、水及び水溶性有機溶剤を含む混合物をビーズミル等の分散機を用いて分散させて顔料分散体を得て、次いで、顔料分散体に、樹脂成分、界面活性剤成分、希釈用の水溶性有機溶剤及び水等を添加して、インクを得ることができる。顔料分散体は、顔料の平均粒子径が10〜200nm程度になるように分散することが好ましい。また、得られた組成物をフィルター等を用いてろ過してもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。
一実施形態による水性インクは、各種の印刷方法に適したインクである。なかでも、低粘性であり、より均一な画像、特にベタ画像を形成することができることから、インクジェットインクに適したインクである。
一実施形態による水性インクは、未処理の基材に対して印刷を施してもよく、又は、前処理剤によって処理された基材に対して印刷を施してもよい。特に、基材として非浸透性基材を用いる場合では、水性インクが基材に浸透しにくいため、前処理剤によって基材を処理することが好ましい。
前処理剤は、例えば、水性媒体とともに、界面活性剤、凝集剤、無機粒子等、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。より好ましくは、前処理剤は、水性媒体と、界面活性剤及び/又は凝集剤とを含む。また、前処理剤は、凝集剤を基材に定着させるためにバインダー樹脂を含んでもよい。
基材にインクを塗工した後に、基材を後処理してオーバーコート層を形成する工程をさらに設けてもよい。基材を後処理する方法としては、基材に後処理剤を付与して行うことができる。後処理剤としては、例えば、皮膜を形成可能な樹脂と、水性媒体又は油性媒体とを含む後処理液を用いることができる。
以下、印刷物の製造方法の一例について説明する。
印刷物の製造方法は、例えば、水性インクを基材に付与することを含むことができる。水性インクには、上記した水性インクを用いることができる。基材は、浸透性基材及び非浸透性基材のいずれであってもよい。上記した水性インクを用いることで、非浸透性基材へのインク塗膜の定着性をより改善することができる。
また、水性インクの付与の前に、前処理剤を用いて基材を処理することを含むことができる。また、水性インクの付与の後に、後処理剤を用いて基材を処理することを含むことができる。
水性インクの印刷方法は、特に限定されず、インクジェット印刷方法、オフセット印刷方法、スクリーン印刷方法、グラビア印刷方法、フレキソ印刷方法等のいずれでもよい。なかでも、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができ、かつ、上記した水性インクを用いることで、より均一な画像、特にベタ画像を形成することができるため、インクジェット印刷方法が好ましい。
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから水性インクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。
インクジェット印刷方法によってベタ画像を形成する際のインク付与量は、10〜50g/mが好ましい。
水性インクを基材に付与した後に、基材を自然乾燥又は冷風乾燥させてもよいし、又は基材を加熱処理してもよい。水性インクが付与された基材を加熱処理することで、インク塗膜を基材により定着させることができ、また、インク塗膜が基材に定着されるまでの時間をより短縮することができる。また、水性インクが付与された基材を加熱処理することで、基材上で、水性インクに含まれる樹脂成分が軟化して、インク塗膜の均一性をより高めることができる。
基材の加熱は接触式又は非接触式であってもよい。加熱装置としては、例えば、温風乾燥、電熱線、ホットプレート、ヒートローラ、IRヒータ等が挙げられる。これらの加熱装置は印刷装置と一体的に構成されてもよい。
加熱温度は、基材及びインク塗膜が熱によって劣化しない範囲が好ましく、例えば、40〜200℃が好ましく、60〜180℃がより好ましく、80〜120℃がさらに好ましい。40℃以上であることで効率的に加熱を行って加熱時間を短縮することができる。200℃以下であることで、過剰な加熱による画質の低下を防止することができる。
加熱時間は、加熱方式、加熱温度、基材及びインクの種類に応じて適宜調節すればよく、例えば1〜30分であってよく、1〜10分であってもよい。一実施形態による水性インクは、高温下で短時間の加熱処理においても、インク塗膜のひび割れ及びピンホールの発生を防止することができる。
水性インクは、浸透性基材及び非浸透性基材のいずれにも適用することができる。なかでも、非浸透性基材に対して、インク塗膜のひび割れ及びピンホールをより改善することができる。
非浸透性基材は、基材内部に液体が染み込んでいかない基材であり、具体的には、インク中の液体の大部分が基材の表面上に留まる基材である。
非浸透性基材としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属板等の金属基材;ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス等の板ガラス等のガラス基材;PETフィルム、PPフィルム、OHTシート、ポリエステルシート、ポリプロピレンシート等の樹脂製シート、アクリル板等の樹脂基材;アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化ケイ素等の成形体等のセラミック基材等が挙げられる。
これらの基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又は、界面活性剤、コロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。なお、一実施形態による水性インクは、未処理の基材に対して処理してもその効果を発揮することができる。
浸透性基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙;織物、不職布等の布;調湿用、吸音用、断熱用等の多孔質建材;木材、コンクリート、多孔質材等が挙げられる。
ここで、普通紙は、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。
以下、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)を樹脂P1とも記し、ウレタン系樹脂粒子(P2)を樹脂P2とも記す。また、アクリロニトリルをAcN、(メタ)アクリルをAc、ウレタンをUrと略して表記することがある。表中の表記も同様である。
(アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の合成)
表1に、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)の処方を示す。
モノマー及びジエタノールアミン以外の成分をフラスコに量りとり、10分間撹拌溶解した。
このフラスコにモノマーを添加し、超音波乳化機でプレ乳化した。
このフラスコを窒素でバブリングしながら、60℃で1時間保持し、70℃で3時間保持し、加熱撹拌した。
次いで、このフラスコにジエタノールアミンを添加し、放冷しながら1時間追加撹拌した。
得られた組成物から、♯300スクリーンメッシュを用いて粗粒を除去した。
ろ液の乾燥固形分を計測し、固形分濃度が20質量%になるようにイオン交換水で希釈した。
これをアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のエマルションとして用いた。
用いた成分は以下の通りである。
アクリロニトリル、ブチルアクリレート:富士フイルム和光純薬株式会社製。
2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルアクリレート、メタクリル酸:東京化成工業株式会社製。
重合乳化剤:株式会社ADEKA製「アデカリアソープER−40」、有効成分60質量%。
重合開始剤:10w/v%の過硫酸アンモニウム水溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製。
中和剤:ジエタノールアミン、東京化成工業株式会社製。
Figure 2021152110
(インクの作製)
表2〜表4に、インクの処方を示す。
表中に示す処方にしたがって、顔料分散体の原材料(顔料、顔料分散剤、イオン交換水)をPP(ポリプロピレン)ボトルに入れ、ジルコニアビーズφ0.3mmを投入したビーズミルを用いて分散した。♯120スクリーンメッシュを用いて濾別し、顔料分散体を得た。
得られた顔料分散体にその他の原材料を添加し、ミックスローターで攪拌後、孔径5μmのナイロンフィルターで濾過し、インクを得た。
用いた成分は以下の通りである。
(樹脂P1)
樹脂(A):AcN−脂肪族Ac樹脂(D50:131nm)。
樹脂(B):AcN−脂肪族Ac樹脂(D50:92nm)。
樹脂(C):AcN−脂肪族Ac樹脂(D50:185nm)。
樹脂(D):AcN−脂肪族Ac樹脂(D50:130nm)。
樹脂(E):AcN−脂肪族Ac樹脂(D50:132nm)。
樹脂(F):AcN−芳香族Ac樹脂(D50:128nm)。
(参考樹脂)
樹脂(G):AcN樹脂(D50:138nm)。
樹脂(H):脂肪族Ac樹脂(D50:124nm)。
樹脂(A)〜(H)は上記手順によって合成した樹脂であり、いずれも有効成分20%である。
(樹脂P2)
ポリエステル型脂肪族Ur樹脂(D50:36nm):ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW7225/40WA」、有効成分40%。
ポリエーテル型脂肪族Ur樹脂(D50:52nm):DSM Coating Resins社製「NeoRezR−650」、有効成分38%。
ポリエステル型脂肪族Ur樹脂(D50:64nm):ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW6492/35WA」、有効成分35%。
ポリカーボネート型脂肪族Ur樹脂(D50:61nm):DSM Coating Resins社製「NeoRezR−986」、有効成分25%。
ポリエステル型脂肪族Ur樹脂(D50:81nm):ダイセル・オルネクス株式会社製「DAOTAN TW6490/35WA」、有効成分35%。
(参考樹脂)
ポリエーテル型芳香族Ur樹脂(D50:51nm):DSM Coating Resins社製「NeoRezR−940」、有効成分31%。
(界面活性剤)
アセチレングリコール系界面活性剤(HLB:8.8):「オルフィンE1004」。
アセチレングリコール系界面活性剤(HLB:8.1):「サーフィノール440」。
アセチレングリコール系界面活性剤(HLB:4.0):「サーフィノール420」。
テトラエチレングリコールドデシルエーテル(HLB:9.7):富士フイルム和光純薬株式会社製。
アセチレングリコール系界面活性剤(HLB:13.2):「オルフィンE1010」。
界面活性剤の有効成分はいずれも100%である。
オルフィンシリーズ、サーフィノールシリーズは、いずれも日信化学工業株式会社より入手可能である。
(顔料分散体)
カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製「#45」。
顔料分散剤:ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYKJET−9152」、無溶媒。
(水溶性有機溶剤、水)
グリセリン、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−ブタンジオールは、いずれも富士フイルム和光純薬株式会社より入手可能である。
水にはイオン交換水を用いた。
有効成分の単位は質量%である。
D50は体積基準のメジアン径を表し、測定方法は下記の通りである。
樹脂の体積基準のメジアン径(D50)は、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒子径分布測定装置であるナノ粒子解析装置「nano Partica SZ−100」を用いて、以下の条件で測定した。
サンプル:樹脂エマルションを固形分で0.5質量%になるように水で希釈して用意した。
分散媒屈折率:1.333。
試料屈折率:1.600。
演算条件:多分散・ナロー。
温度:25℃。
「評価方法」
白PETフィルム(東レ株式会社製「ルミラーE20」)にカチオン性樹脂エマルションを4μmバーコーターで塗工し、ドライヤー冷風で1分間で乾燥して前処理した。カチオン性樹脂エマルションには、ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール7820」を用いた。
マスターマインド社製インクジェットプリンター「MMP−8130」に水性インクを装填し、前処理した白PETフィルムに、ベタ画像を形成した。
印刷物の表面温度が100℃になるように電熱線式ヒータ下に5分間放置し、印刷物を乾燥した。
得られた印刷物の印刷面を目視と顕微鏡で観察した。以下の基準で、ベタ形成性を評価した。
A:ベタが形成されている。
B1:ベタが概ね形成されているが、目視観察で僅かにピンホールが発生している。
B2:ベタが概ね形成されているが、顕微鏡で見ると目視では判別できないピンホール、ひび割れ、又はこれらの組み合わせが起きており、目視観察で濃度が薄く見える。
B3:ベタが概ね形成されているが、目視観察で僅かにひび割れが発生している。
C:ベタが形成されていない。
Figure 2021152110
Figure 2021152110
Figure 2021152110
各表に示す通り、各実施例のインクを用いた印刷物では、ベタ形成性が良好であった。また、各実施例では、インク粘度がインクジェットに適した範囲であり、印刷物の画像濃度が良好であった。
実施例1〜6では、各種のウレタン系樹脂粒子(P2)、各種のアセチレングリコール系界面活性剤(S)、各種の水溶性有機溶剤を用いており、いずれも良好な結果が得られた。
実施例7〜9では、各種のアクリロニトリル系樹脂粒子(P1)、各種のウレタン系樹脂粒子(P2)を用いており、いずれも良好な結果が得られた。
実施例10では、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のメジアン径が大きいことから、基材上でインクが点状にはじかれ、僅かにピンホールが発生したと考えられる。
実施例11〜13と実施例1の対比から、モル比「ニトリル基/アセチレン基」が3〜15、好ましくは5〜10の範囲で、インク塗膜のひび割れ及びピンホールの発生がより低減されることがわかる。
実施例14では、アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)に脂肪族(メタ)アクリル単位ではなく芳香族(メタ)アクリル単位が含まれることから、インク塗膜に僅かにひび割れが発生したと考えられる。
比較例1〜9では、いずれも、インク塗膜のひび割れ、ピンホール、又はこれらの組み合わせが顕著に発生し、十分なベタ画像が得られなかった。
比較例1は、アクリロニトリルのホモポリマーとウレタン系樹脂粒子(P2)とを組み合わせた例であり、インク塗膜に明らかなひび割れが発生した。アクリロニトリルのホモポリマーは、Tgが高く、分子内相互作用が強いことから、樹脂の膨潤が起こりにくく、成膜性が低下したと考えられる。
比較例2は、脂肪族(メタ)アクリル系樹脂とウレタン系樹脂粒子(P2)とを組み合わせた例であり、インク塗膜に明らかなピンホールが発生した。アクリロニトリル単位が樹脂に含まれないため、基材上のインク塗膜の乾燥過程で、界面活性剤が析出されやすく、基材から樹脂が弾かれたためと考えられる。
比較例3及び4は、比較例1よりは程度が軽いものの、インク塗膜に目視で観察可能なひび割れが発生した。メジアン径比「Ur/AcN」が大きいため、インク塗膜の成膜性が低下したと考えられる。
比較例5は、アクリロニトリル系樹脂(P1)と芳香族ウレタン系樹脂とを組み合わせた例であり、インク被膜に目視で観察可能なひび割れが発生した。ウレタン系樹脂に脂肪族構造が含まれないため、成膜性が低下したと考えられる。
比較例6は、界面活性剤にテトラエチレングリコールドデシルエーテルを用いた例であり、インク塗膜に明らかなピンホールとひび割れが発生した。この界面活性剤はアクリロニトリル系樹脂(P1)への吸着効果が十分ではないため、界面活性剤の析出抑制効果及び界面活性剤による成膜補助効果が得られなかったためと考えられる。
比較例7は、HLB値が高いアセチレングリコール系界面活性剤を用いた例であり、インク塗膜に明らかなひび割れと、目視では判別し難いピンホールが発生した。この界面活性剤は、HLB値が高いため、成膜補助効果が十分得られなかったためと考えられる。
比較例8は、モル比「ニトリル基/アセチレン基」が低い例であり、インク塗膜に明らかなひび割れと、目視では判別し難いピンホールが発生した。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基の比率が低いことで、界面活性剤の吸着量が不足し、樹脂の膨潤による成膜性が低下し、また、界面活性剤の僅かな析出が発生したためと考えらえる。
比較例9は、モル比「ニトリル基/アセチレン基」が高い例であり、インク塗膜に明らかなピンホールが発生した。アクリロニトリル系樹脂粒子(P1)のニトリル基の比率が高いことで、過剰に界面活性剤の吸着が起こり、基材上のインク塗膜の乾燥過程において表面張力が上がってしまい、基材からインクが弾かれたためと考えられる。

Claims (6)

  1. グリフィン法で算出されるHLB値が3〜10であるアセチレングリコール系界面活性剤、アクリロニトリル系単位と、(メタ)アクリル系単位とを含む水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子、メジアン径が前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子の1/2以下である水分散性脂肪族ウレタン系樹脂粒子、水及び色材を含み、前記アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比が3〜15である、水性インク。
  2. 前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子は、水分散性の脂肪族(メタ)アクリル−アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子を含む、請求項1に記載の水性インク。
  3. 前記アセチレングリコール系界面活性剤のアセチレン基に対する、前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のニトリル基のモル比が5〜10である、請求項1又は2に記載の水性インク。
  4. 前記水分散性アクリロニトリル系共重合体樹脂粒子のメジアン径が150nm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の水性インク。
  5. 水性インクジェットインクである、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性インク。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の水性インクを非浸透性基材に付与することを含む、印刷物の製造方法。
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