JP2021147295A - 熱線遮蔽合わせ透明基材 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い熱線遮蔽特性を有する熱線遮蔽合わせ透明基材を提供する。
【解決手段】熱線遮蔽膜が複数枚の透明基材に挟持されて成る熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率を低下させる被覆が形成されており、前記熱線遮蔽膜は、前記複数枚の透明基材の間に配置され、複合タングステン酸化物粒子と熱可塑性樹脂とを含み、前記複合タングステン酸化物粒子は、一般式MWOで示される複合タングステン酸化物の粒子であり、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値が0%以上2%以下、かつ、波長780nm以上1000nm以下の光に対する反射率の平均値が4%以上100%以下である、熱線遮蔽合わせ透明基材を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明は、熱線遮蔽合わせ透明基材に関する。
入射する太陽エネルギーの一部を遮断し、冷房負荷や、人の熱暑感、植物への悪影響等を低減できる熱線遮蔽能(熱線遮蔽機能)を備えた熱線遮蔽膜が、自動車、建造物等の窓材、ビニールハウスのフィルム等の用途において求められており、各種検討がされてきた。
熱線遮蔽膜は、例えば窓材の用途に用いる場合、対向する複数枚の板ガラス間に中間膜(中間層)として配置され、合わせガラスとした例が報告されている。
特許文献1には当該合わせガラスの例として、一対のガラス板の間に粒径0.1μm以下の酸化スズまたは酸化インジウムのいずれかである熱線遮蔽性金属酸化物を含有する軟質樹脂層を設けた、合わせガラスが提案されている。
また特許文献2には、少なくとも2枚以上の透明ガラス板状体の間にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属の金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、あるいは、SbやFのドープ物の各単独物、もしくはこれらの中から選択される2種以上の複合物、等の機能性超微粒子を分散した中間膜層を有する、合わせガラスが提案されている。
また特許文献3には、透明板状部材間に平均粒径0.1μm以下の超微粒子とガラス成分との混合層を形成してなることを特徴とする自動車用窓ガラスが提案されている。そして、超微粒子としてはTiO、ZrO、SnO、Inなどの金属酸化物あるいはこれらの混合物が、ガラス成分としては有機ケイ素または有機ケイ素化合物が挙げられている。
さらに特許文献4には、少なくとも2枚の透明ガラス板状体の間に、3層からなる合わせ中間膜を設け、当該中間膜の第2層にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、あるいは、SbやFのドープ物の各単独物、もしくはこれらの中から選択される2種以上からなる複合物である機能性超微粒子を分散した合わせガラスが提案されている。
しかしながら本発明者らの検討によると、特許文献1から4に提案されている合わせガラスは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽能が十分でないという課題が存在した。
そこで本発明の出願人は特許文献5として、日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめ、当該中間層が、六ホウ化物微粒子を可塑剤に分散させた添加液(または六ホウ化物微粒子、ならびに、ITO微粒子および/またはATO微粒子とを可塑剤に分散させた添加液)とビニル系樹脂とからなる中間膜により形成された、日射遮蔽用合わせガラスを開示した。
さらに、特許文献5において、日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在せしめ、当該中間層が、少なくとも一方の板ガラスの内側に位置する面に形成され、かつ六ホウ化物微粒子を日射遮蔽成分として含有する塗布液(または六ホウ化物微粒子、ならびにITO微粒子およびATO微粒子のうち1種以上とを日射遮蔽成分として含有する塗布液)を塗布して形成された日射遮蔽膜と、2枚の板ガラス間に介在されるビニル系樹脂を含有する中間膜により形成される日射遮蔽用合わせガラスも開示した。
本発明の出願人が特許文献5において開示した、日射遮蔽用合わせガラスで用いた6ホウ化物微粒子を、十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400nm〜700nmの間に極大値を持ち、また波長700nm〜1800nmの間に極小値をもつ。この為、特許文献5に開示した日射遮蔽用合わせガラスによれば可視光透過率を77%または78%とした場合でも、日射透過率は50%〜60%程度となっており、特許文献1〜4に開示された従来の合わせガラスに比べて大幅に性能が改善されていた。
さらに本発明の出願人は特許文献6において、日射遮蔽機能を有する微粒子としてタングステン酸化物微粒子、および/または、複合タングステン酸化物微粒子を用い、日射遮蔽機能を有する微粒子をビニル系樹脂等の合成樹脂に分散した中間層を、板ガラス等から選ばれた2枚の合わせ板間に介在させて成る日射遮蔽用合わせ構造体を開示した。
特許文献6に開示した日射遮蔽用合わせ構造体は、可視光透過率70.0%のときの日射透過率が35.7%になる例もあり、特許文献1〜5に記載された従来の合わせガラスに比べてさらに性能が改善されていた。
特開平8−217500号公報 特開平8−259279号公報 特開平4−160041号公報 特開平10−297945号公報 特開2001−89202号公報 国際公開第2005/087680号
しかしながら、特許文献6に開示された日射遮蔽用合わせ構造体であっても、日射遮蔽にはなお改善の必要性が残されていた。とりわけ近年のハイブリッド自動車や電気自動車では、夏場のエアコン稼働による燃料および電力消費が、航続距離に大きな影響を及ぼす。ここで本発明者らは、より高い日射遮蔽性能を持つ合わせ構造体が求められていることに想到した。
そこで上記従来技術が有する課題に鑑み、本発明は、高い日射遮蔽特性(熱線遮蔽特性、遮熱特性)を有する熱線遮蔽合わせ透明基材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
熱線遮蔽膜が複数枚の透明基材に挟持されて成る熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率を低下させる被覆が形成されており、
前記熱線遮蔽膜は、前記複数枚の透明基材の間に配置され、複合タングステン酸化物粒子と熱可塑性樹脂とを含み、
前記複合タングステン酸化物粒子は、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物の粒子であり、
波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値が0%以上2%以下、かつ、波長780nm以上1000nm以下の光に対する反射率の平均値が4%以上100%以下である、熱線遮蔽合わせ透明基材を提供する。
本発明によれば、高い熱線遮蔽特性を有する熱線遮蔽合わせ透明基材を得ることができる。
六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図である。
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
本発明に係る熱線遮蔽合わせ透明基材は、複数枚の透明基材と、熱線遮蔽膜とを有し、前記熱線遮蔽膜が、前記複数枚の透明基材の間に配置されるものである。さらに、本発明に係る熱線遮蔽合わせ透明基材は、可視光透過率が70%以上であり、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値が0%以上2%以下、且つ、波長780nm以上1000nm以下の光に対する反射率の平均値が4%以上100%以下である、という光学特性を有する。
上述したように、熱線遮蔽合わせ透明基材(合わせ構造体)の遮熱性能を向上させるために、日射遮蔽機能を有する微粒子としてタングステン酸化物微粒子、および/または複合タングステン酸化物微粒子などを、合わせ透明基材の中間膜である樹脂膜(熱線遮蔽膜)に含有させる構成が採られる場合があった。
一方、熱線遮蔽合わせ透明基材が、実際に自動車のフロントガラス、あるいは前面ガラスや側面ガラス(運転席や助手席の窓ガラス)として搭載される時、高い可視光透過率が求められる場合があった。
具体的には、例えば日本の法令下では、道路運送車両法、道路運送車両の保安基準ならびに道路運送車両の保安基準の細目を定める告示により、自動車(被牽引自動車を除く。)の前面ガラス及び側面ガラスは、運転者が交通状況を確認するために必要な視野の範囲に係る部分における可視光線の透過率が70%以上であることが求められている。
日射遮蔽機能を有する微粒子は、合わせ透明基材の中間膜である樹脂膜に含有させることで近赤外線を吸収する性能を発揮し、遮熱性能を向上させる。しかし、同時に当該微粒子が持つ可視光の吸収により、可視光透過率を低下させてしまうという課題があった。この結果、当該微粒子の含有量を多くするほど遮熱性能は向上するが、当該微粒子の含有量が多すぎると、上述した可視光透過率に関する、日本の法令に係る規定を満たせなくなる場合があった。
より具体的には、一対の青板ガラスおよび透明性の高い樹脂中間膜からなる最も単純な構成の熱線遮蔽合わせ透明基材は、可視光透過率が例えば90%前後である。従って、当該樹脂中間膜に含有可能な微粒子の量は、可視光透過率が90%から70%未満に低下することのない範囲に制限される。この為、熱線遮蔽合わせ透明基材が発揮する遮熱性能も限定されていた。
上述した状況の下、本発明者らは熱線遮蔽合わせ透明基材における熱線遮蔽性能の向上可能性について鋭意検討を行った。
そして当該検討の結果、一対の青板ガラスおよび透明性の高い樹脂中間膜からなる、最も単純な構成の合わせ透明基材ですら、可視光透過率が100%よりも遥かに低い90%前後であるのは、熱線遮蔽合わせ基材と大気との界面における可視光の反射が原因であることに想到した。
即ち、フレネルの法則からも明らかであるように、材料に対して入射する光は、屈折率の異なる材料の間で一部が反射される。熱線遮蔽合わせ透明基材の内部、すなわちガラスなどの透明基材と樹脂中間膜との間では、屈折率が非常に近いために反射は無視できる程度に小さい。一方、大気とガラスとの間では、屈折率に大きな乖離があるために反射が発生する。従って、光が合わせ透明基材を透過する際には、大気から合わせ透明基材への入射の際(表面反射)と、合わせ透明基材を通過して大気へ再入射する際(裏面反射)との、2回の反射が発生する。その結果、樹脂中間膜が日射遮蔽機能を有する微粒子を含有しない場合であっても、合わせ透明基材の可視光透過率が90%前後に留まっていることを知見したものである。
当該知見を基に、本発明者らは鋭意検討の結果、熱線遮蔽合わせ透明基材における表面反射と裏面反射との双方を抑制して可視光領域での反射率を低下させることで、日射遮蔽機能を有する微粒子を含有する中間膜を有しながら、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率を70%以上となるまで増加させるという、全く新規な発想に到達した。
即ち、表面反射と裏面反射とを抑制することで、日射遮蔽機能を有する微粒子を含有しない場合の、熱線射遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率を90%よりも高めることができる。従って、熱線遮蔽合わせ透明基材において、可視光透過率を70%未満に低下させることのない範囲で、中間膜に含有可能な日射遮蔽機能を有する微粒子の量を増加させることにより、熱線遮蔽性能を向上させられるという、全く新規な発想に到達し、本発明を完成したものである。
即ち、本発明においては、熱線遮蔽膜が複数枚の透明基材に挟持されて成る熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率を低下させる被覆が形成されている。そして、前記熱線遮蔽膜は、前記複数枚の透明基材の間に配置され、複合タングステン酸化物粒子と熱可塑性樹脂とを含んでいるものである。また、本発明に係る熱線遮蔽合わせ透明基材は、自動車内や室内のさらなる温度上昇抑制の観点から、所望により、前記複数枚の透明基材の間に、1枚以上の赤外線反射フィルムが配置される場合がある。
以下、本発明に係る熱線遮蔽合わせ透明基材について、1.熱線遮蔽合わせ透明基材の構成要素、2.熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法、3.熱線遮蔽合わせ透明基材の光学特性、4.熱線遮蔽合わせ透明基材の用途、の順に説明する。
1.熱線遮蔽合わせ透明基材の構成要素
本発明にかかる熱線遮蔽合わせ透明基材の構成要素について、[1]透明基材、[2]熱線遮蔽膜とその製造方法、[3]反射防止膜とその製造方法、[4]赤外線反射フィルム、の順に説明する。
[1]透明基材
透明基材は、後述する熱線遮蔽膜を担持する、透明な材料からなる板状の基材である。透明基材の具体的な材質としては、ガラス基材や樹脂基材が挙げられる。本発明にかかる熱線遮蔽合わせ透明基材が、主に自動車や建築物の窓材として用いられることを鑑みると、透明基材は適切な剛性、耐候性、透明性(すなわち高い透過率および低い光散乱)を持つことが好ましい。また、熱線遮蔽膜との間で反射を生じないためには、熱線遮蔽膜と近い屈折率を有することが好ましい。
上述の観点から、本発明の熱線遮蔽合わせ透明基材に用いる複数枚の透明基材のうち、1枚以上がガラス基材であることが好ましく、すべての透明基材がガラスであることがより好ましい。一方、透明基材として樹脂基材を用いることもできる。当該樹脂基材としては、熱可塑性樹脂の板状成形体を用いることができる。当該熱可塑性樹脂として具体的には、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂といった樹脂材料が挙げられる。なかでもアクリル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂の板状成形体は、前述の剛性、耐候性、成形性、透明性、屈折率といった観点において優れた特性を有することから、本発明に係る透明基材として好ましく用いることができる。
[2]熱線遮蔽膜とその製造方法
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材における熱線遮蔽膜は、複合タングステン酸化物粒子と、熱可塑性樹脂と、所望によりその他成分とを含有している。そして、複合タングステン酸化物粒子として一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物の粒子を用いることができる。
本実施形態の熱線遮蔽膜に要求される透明性、及び熱線遮蔽能の程度は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜の用途等に応じた性能とすることが好ましい。
具体的には、例えば窓材等の用途に用いる場合、人間の眼に対する光の透過性を保つ観点からは可視光透過率が高いほうが好ましく、太陽光による熱の入射を低減する観点からは日射透過率が低いことが好ましい。
より具体的には、例えば本実施形態の熱線遮蔽膜を含む合わせ透明基材を建材や自動車の窓材として用いる場合、熱線遮蔽膜は、可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が50%以下であることが好ましい。特に可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が40%以下であることがより好ましい。なお、可視光透過率および日射透過率はJIS R 3106:2019で規定されている。
可視光透過率及び日射透過率は、例えば本実施形態の熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン酸化物粒子等の添加量を調整することにより、所望の範囲とすることができる。
また、本実施形態の熱線遮蔽膜は赤外線吸収性の粒子として複合タングステン酸化物粒子を含有しているため、高い可視光透過率を維持しつつも高い熱線遮蔽能を発揮することができる。このため、例えば自動車や建造物の窓に適用した場合に、自動車内あるいは建造物内の快適性を向上し、自動車内のエアコン負荷軽減による燃費向上、建造物内でのエアコン負荷軽減による省エネルギー化等を図ることが可能になる。
まず、本実施形態の熱線遮蔽膜を構成する成分と熱線遮蔽膜の製造方法について、(1)複合タングステン酸化物粒子、(2)熱可塑性樹脂、(3)その他の成分、(4)熱線遮蔽膜の製造方法および使用形態、の順で説明する。
(1)複合タングステン酸化物粒子
複合タングステン酸化物粒子としては、上述のように、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子を好ましく用いることができる。
なお、複合タングステン酸化物を示す化学式MWO中、Wはタングステン、Oは酸素を示している。また、上記式中の元素Mとしては上述のように、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素であることが好ましい。
上述の複合タングステン酸化物粒子は赤外線吸収特性を有している。このため、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材における熱線遮蔽膜は、複合タングステン酸化物粒子を含有することにより、赤外領域、特に近赤外領域の光の透過を抑制することができ、熱線遮蔽能を発揮することができる。また、可視領域の光の吸光係数が、近赤外領域の吸光係数と比較して非常に小さいため、近赤外領域の光の透過を十分に抑制したときでも、可視領域の光に対して高い透過性を保つことができる。
複合タングステン酸化物は上述のようにMWOで示され、タングステン酸化物(WO)に元素Mを添加した組成を有している。
本発明の発明者らの検討によると、タングステン酸化物(WO)も赤外線吸収特性を有している。尤も、タングステン酸化物の場合、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外領域の吸収反射特性が少ない。しかし、タングステン酸化物(WO)のタングステンに対する酸素の比率であるyを3未満とすることによって、当該タングステン酸化物中に自由電子を生成し、効率の良い赤外線吸収性粒子とすることができる。ただし、WOの結晶相は可視領域の光について吸収や散乱を生じさせ、近赤外領域の光の吸収を低下させる恐れがある。従って、タングステン酸化物の粒子の場合、WOで示される化学式中のyが、2.2≦y<3.0を満たすことにより、WOの結晶相が生じることを抑制し、効率のよい赤外線吸収性粒子とすることができる。
また、タングステン酸化物の粒子の場合、2.45≦y<3.0で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」となる。当該マグネリ相は化学的に安定であり、近赤外領域の光の吸収特性も良いので、赤外線吸収性粒子としてより好ましく用いることができる。
そして、本実施形態の熱線遮蔽膜で使用する複合タングステン酸化物の場合、タングステン酸化物に元素Mを添加することにより、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外領域に自由電子由来のより強い吸収特性が発現する。このため、近赤外線を吸収する赤外線吸収性材料として特に高い特性を示す。
複合タングステン酸化物については、タングステン酸化物において説明した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用することで、より効率の良い赤外線吸収性材料とすることができる。酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した場合、複合タングステン酸化物を示す化学式MWOにおいて、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0の関係を満たすことが好ましい。
ここで、上述の複合タングステン酸化物の化学式中の元素Mの添加量を示すxの値について説明する。xの値が0.1以上の場合、十分な量の自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができるため好ましい。そして、元素Mの添加量が多いほど自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、xの値が0.5程度で当該効果も飽和する。また、xの値が0.5以下であれば、当該赤外線吸収性材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
次に、酸素量の制御を示すyの値について説明する。yの値については、MWOで表記される赤外線吸収性材料においても、上述したタングステン酸化物(WO)におけるyの値の場合と同様の機構が働くことに加え、y=3.0においても上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。この為、2.2≦y≦3.0が好ましい。また、特に、2.45≦y≦3.0の場合は、タングステン酸化物について説明したのと同様に、マグネリ相となり化学的に安定となることからより好ましい。
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されるものではなく、任意の結晶構造の複合タングステン酸化物を含有することができる。ただし、複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該粒子の可視領域の光の透過率、及び近赤外領域の光の吸収が、特に向上するため好ましい。
係る六方晶の結晶構造の模式的な平面図を図1に示す。図1において、符号11で示されるWO単位により形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成されている。そして、当該空隙中に、符号12で示される元素Mを配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
このように、複合タングステン酸化物粒子がWO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mを配置した単位構造を含む複合タングステン酸化物を含有する場合、可視領域の光の透過率及び近赤外領域の光の吸収を特に向上できる。なお、複合タングステン酸化物粒子全体が図1に示した構造を有する結晶質の複合タングステン酸化物粒子により構成されている必要はなく、例えば局所的に係る構造を有する場合でも可視領域の光の透過率及び近赤外領域の光の吸収を向上する効果を得ることができる。このため、複合タングステン酸化物粒子全体としては、結晶質であっても非晶質であってもよい。
そして、複合タングステン酸化物の元素Mとして、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに上述の六方晶が形成され易い。具体的には元素Mとして例えばCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易い。このため、元素MはCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を含むことが好ましく、元素MはCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上であることがより好ましい。なお、六方晶が形成されるためには、これら以外の元素でもWO単位で形成される六角形の空隙に元素Mが存在すれば良く、元素Mとして上記元素を添加した場合に限定される訳ではない。
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造を、均一な六方晶とする場合、元素Mの添加量を示すxの値が0.20≦x≦0.50を満たすことがより好ましく、0.25≦x≦0.40を満たすことがさらに好ましい。yについては上述のように、2.2≦y≦3.0とすることが好ましい。なお、y=3.0の時、xの値が0.33となることで、元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
また、複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物は、上述の六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとることもでき、係る構造の複合タングステン酸化物も赤外線吸収性材料として有効である。すなわち、熱線遮蔽膜に添加する複合タングステン酸化物粒子に含まれる材料として好適に用いることができる。複合タングステン酸化物はその結晶構造によって、近赤外領域の吸収位置が変化する傾向がある。例えば、近赤外領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときの方が長波長側に移動し、さらに六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視領域の光の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこれらの中では可視領域の光の吸収が最も大きい。よって、可視領域の光の透過率が高く、近赤外領域の光の吸収率が高いことが特に求められる場合には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加した元素Mの種類や、添加量、酸素量によっても変化する。この為、本実施形態の熱線遮蔽膜に用いる赤外線吸収性粒子の材料が、六方晶の材料に限定されるわけではない。
本実施形態の熱線遮蔽膜に用いることができる複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は上述のように限定されず、例えば、異なる結晶構造の複合タングステン酸化物を同時に含んでいてもよい。
ただし、上述のように六方晶の複合タングステン酸化物の粒子は可視光の透過率と、近赤外の光の吸収を高めることができる。このため、本実施形態の熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物は、結晶系が六方晶であることが好ましい。
また、元素Mとして例えばCsおよび/またはRbを用いた場合、上述のように複合タングステン酸化物の結晶構造が六方晶となり易い。さらに、可視領域の光の透過率が高く、赤外領域、特に近赤外領域の光の透過率が低くなるため、可視領域の光の透過率と、赤外領域の光の透過率とのコントラストが大きくなる。このため、複合タングステン酸化物を示す一般式MWOの元素MがCsおよび/またはRbであることがさらに好ましい。特に元素MがCsを含む場合、該複合タングステン酸化物の耐候性がより高くなることから、元素MとしてCsを含むことが特に好ましい。
複合タングステン酸化物粒子の粒子径は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜を使用する用途に応じて任意に選択することができる。例えば熱線遮蔽膜を可視領域の光について特に高い透明性が求められる用途に使用する場合には、複合タングステン酸化物粒子は微粒子であることが好ましく、複合タングステン酸化物粒子は体積平均粒子径が100nm以下であることが好ましい。これは、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が100nm以下の場合、光の散乱により光を遮蔽することを抑制することができ、可視領域での視認性を保持しつつ、同時に効率よく透明性を保持することができるためである。
なお、体積平均粒子径とはレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味しており、本明細書において他の部分でも体積平均粒子径は同じ意味を有している。
また、本実施形態の熱線遮蔽膜を、例えば自動車ルーフやサイドウィンドウ等の特に可視領域の透明性を重視される用途に用いる場合は、さらに複合タングステン酸化物粒子による散乱低減を考慮することが好ましい。さらなる散乱低減を考慮するときには、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径は40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、25nm以下であることが特に好ましい。
これは、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径を小さくすることにより、幾何学散乱またはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視領域における光の散乱が低減されるからである。当該波長の光の散乱が低減することで、強い光が照射されたときに熱線遮蔽膜が曇りガラスのような外観となって、鮮明な透明性が失われるという事態を回避できる。
これは、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が40nm以下になると、上述した幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる為である。レイリー散乱領域では、散乱光が粒子径の6乗に比例するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が30nm以下、特に25nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。
以上、説明したように、光の散乱を回避する観点からは、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径は小さい方が好ましい。ただし、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が小さすぎる場合に、熱線遮蔽膜を製造する際の取り扱いが困難になる場合や、熱線遮蔽膜内で凝集を引き起こす場合があるため、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径は1nm以上であることが好ましい。
熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン酸化物粒子の量(含有量)は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜に要求される熱線遮蔽能の程度や、可視光透過率の程度等により任意に選択することができる。例えば熱線遮蔽膜の投影面積における単位面積あたりの、熱線遮蔽膜の複合タングステン酸化物粒子の含有量は0.05g/m以上5.0g/m以下とすることが好ましく、0.1g/m以上2.0g/m以下とすることがより好ましい。一方、本発明は熱線遮蔽膜を用いた合わせ透明基材が反射率を低減する被覆を持つことで、前記被覆を持たないものと比較して、複合タングステン酸化物粒子の含有量を多くすることができる箇所に大きな利点がある。かかる観点からすれば、複合タングステン酸化物粒子の含有量はこれまで一般的な熱線遮蔽膜よりも多く複合酸化物粒子を含有することがより好ましい。具体的には、熱線遮蔽膜の投影面積における単位面積あたりの、熱線遮蔽膜の複合タングステン酸化物粒子の含有量は1.0g/m以上2.0g/m以下とすることがより好ましい。
(2)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、公知のさまざまな樹脂を用いることができ、熱線遮蔽膜の使用用途等に応じて任意に選択することができる。特に、透明性、耐候性等の観点から、熱可塑性樹脂は、アイオノマー樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂から選択される1種類以上であることが好ましい。
なお、熱可塑性樹脂が、上述のアイオノマー樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂から選択される1種類以上の場合、透明基材に対する密着性も高めることができる。このため、例えば熱線遮蔽膜を透明基材の一方の面上に固定して用いる場合や、熱線遮蔽合わせ透明基材の中間膜に用いる場合に透明基材との密着性を高めることができ、好ましい。
特に熱可塑性樹脂としてはアイオノマー樹脂を含むことが好ましく、アイオノマー樹脂であることがより好ましい。熱線遮蔽膜が熱線遮蔽機能を有する粒子として複合タングステン酸化物粒子を含む場合、該熱線遮蔽膜を高温高湿の環境に長時間保持すると、熱線遮蔽膜の端部から、色が消える消色現象(エッジフェード現象)が発生する場合がある。しかしながら、本発明の発明者らの検討によると、熱線遮蔽膜に用いる熱可塑性樹脂としてアイオノマー樹脂を用いることで、該消色現象を抑制することができるためである。
アイオノマー樹脂としては特に限定されるものではなく、公知のさまざまなアイオノマー樹脂を用いることができ、熱線遮蔽膜の使用用途等に応じて任意に樹脂を選択することができる。アイオノマー樹脂としては例えば、エチレン系アイオノマーや、スチレン系アイオノマー、アイオノマーエラストマー、パーフルオロカーボンアイオノマー、ウレタンアイオノマー等が知られており、上述のように用途や要求される性能等に応じて任意のアイオノマー樹脂を選択して用いることができる。また、熱線遮蔽膜に用いるアイオノマー樹脂は1種類のみとすることもできるが、2種類以上のアイオノマー樹脂を組み合わせて用いることもできる。
特に本実施形態の熱線遮蔽膜、または後述する該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材は、例えば自動車や建造物の窓材、ビニールハウスのフィルム等として好適に用いることができる。このため、熱線遮蔽膜に含まれる熱可塑性樹脂は、透明性に優れ、高い可視光透過率と低いヘーズ値を持ち、耐貫通性、耐候性に優れることが好ましい。また、熱線遮蔽膜を透明基材上に配置する場合には、透明基材に対する密着性にも優れていることが好ましい。
以上のような観点から、本実施形態の熱線遮蔽膜で利用される熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂の場合、アイオノマー樹脂はエチレン系アイオノマーを含有することがより好ましく、アイオノマー樹脂はエチレン系アイオノマーであることがさらに好ましい。
また、アイオノマー樹脂に含まれる金属イオンについても特に限定されるものではなく、例えば、亜鉛、マグネシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムから選択される1種類以上の金属イオンを含有するアイオノマー樹脂を用いることができる。特に、亜鉛イオンを含有するアイオノマー樹脂を好ましく用いることができる。
アイオノマー樹脂としては具体的には例えば、エチレン・アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体の金属元素アイオノマー、エチレン・アクリル酸・メタクリル酸エステル共重合体の金属元素アイオノマー、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸エステル共重合体の金属元素アイオノマー、エチレン・メタクリル酸・メタクリル酸エステル共重合体の金属元素アイオノマーなどが挙げられる。なお、いずれのアイオノマー樹脂においても含まれる金属イオンは特に限定されず、例えば亜鉛、マグネシウム、リチウム、カリウム、ナトリウムから選択される1種類以上の金属のイオンを含有することができる。
アイオノマー樹脂としてより具体的には例えば、Dupont社のサーリン(Surlyn)(登録商標)シリーズ、三井・デュポンポリケミカル社のハイミラン(Hi−Milan)(登録商標)シリーズ、Exxon Mobil Chemical社のIOTEK(登録商標)シリーズ等を好ましく用いることができる。
(3)その他の成分
本実施形態の熱線遮蔽膜には、上述した複合タングステン酸化物、熱可塑性樹脂以外にも、さらに任意の成分を添加することができる。任意に添加できる成分について、〈1〉金属カップリング剤、〈2〉分散剤、〈3〉紫外線吸収剤、〈4〉HALS、〈5〉酸化防止剤、〈6〉可塑剤、〈7〉染料化合物、顔料化合物、〈8〉複合タングステン酸化物とは異なる赤外線吸収性物質、〈9〉接着力調整剤、〈10〉その他の添加剤、の順に説明する。
〈1〉金属カップリング剤
複合タングステン酸化物粒子を樹脂中に分散した分散体は、強力な紫外線の長期暴露により透過率が低下する光着色現象を生じることがあった。かかる光着色減少が実用上問題となる場合には、熱線遮蔽膜に金属カップリング剤を添加することで、光着色現象の発生を抑制することができる。
金属カップリング剤としては特に限定されるものではなく、例えばシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤(チタネートカップリング剤)、アルミネート系カップリング剤(アルミネートカップリング剤)等を用いることができる。なお、熱線遮蔽膜に添加する金属カップリング剤は1種類に限定されるものではなく、2種類以上の金属カップリング剤を同時に添加することもできる。
特に金属カップリング剤としては、シランカップリング剤を好適に用いることができる。金属カップリング剤は、シランカップリング剤を含有することが好ましく、シランカップリング剤であることがより好ましい。なお、金属カップリング剤がシランカップリング剤である場合であっても、熱線遮蔽膜に用いるのは、1種類のシランカップリング剤に限定されるものではなく、1種、または2種類以上のシランカップリング剤を同時に添加することもできる。
シランカップリング剤としては特に制限するものではないが、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリイルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等を好適に用いることができる。
チタネート系カップリング剤としても特に制限するものではないが、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−2−エチルヘキソキシドチタン、テトラキス(メトキシプロポキシ)チタン、テトラフェノキシチタン、テトラベンジロキシチタン、テトラフェニルエトキシチタン、テトラフェノキシエトキシチタン、テトラナフチロキシチタン、テトラ−2−エチルヘキソキシチタン、モノエトキシトリイソプロポキシチタン、ジイソプロポキシジイソブトキシチタン、アリロキシ(ポリエチレンオキシ)トリスイソプロポキシチタン、チタニウムクロライドトリイソプロポキサイド、チタニウムジクロライドジエトキサイド、チタニウム2−エチルヘキソキサイド、チタニウムヨードトリイソプロポキサイド、チタニウムテトラメトキシプロポキサイド、チタニウムテトラメチルフェノキサイド、チタニウムn−ノニロキサイド、チタニウムテトラステアリルオキサイド、チタニウムトリイソステアロイルモノイソプロポキサイド等を好適に用いることができる。
アルミネート系カップリング剤としても特に制限するものではないが、例えば、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等を好適に用いることができる。
また金属カップリング剤の化合物の種類によっては、熱線遮蔽膜中における複合タングステン酸化物粒子の分散性を向上させ、熱線遮蔽膜の透明性を向上させることもある。これは金属カップリング剤に含まれる官能基が複合タングステン酸化物粒子に吸着し、立体障害により他の複合タングステン酸化物粒子との凝集を防止することがあるためである。この場合、該化合物の添加によっては、上述した金属カップリング剤の添加による効果と、分散剤の添加による効果を兼ね備えることができる。このような効果を発揮する金属カップリング剤としては例えば、エポキシ基および/またはアミノ基をその構造中に有する金属カップリング剤等が挙げられる。このため、熱線遮蔽膜の透明性を高めることが特に要求される場合、金属カップリング剤は、エポキシ基および/またはアミノ基を含有することが好ましい。
エポキシ基および/またはアミノ基をその構造中に含有するシランカップリング剤としては例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シランなどを好適に用いることができる。
金属カップリング剤の添加量は特に限定されるものではないが、例えば複合タングステン酸化物粒子100質量部に対し1質量部以上100質量部以下となるように添加することが好ましく、5質量部以上40質量部以下となるように添加することがより好ましい。これは添加量が1質量部以上であれば、混練工程で複合タングステン酸化物粒子分散体を熱可塑性樹脂中に混練した際に、熱可塑性樹脂中に金属カップリング剤を、光着色現象を抑制する効果を発揮するのに十分な濃度で含ませることができるからである。また、100質量部以下であれば、混練工程で複合タングステン酸化物粒子分散体を熱可塑性樹脂中に混練した際に、熱可塑性樹脂中で金属カップリング剤が析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
金属カップリング剤は、分散液製造工程において分散液を製造する際に、全量を添加する必要はない。
〈2〉分散剤
本実施形態の熱線遮蔽膜には、上述した複合タングステン酸化物粒子を、熱可塑性樹脂中へ均一に分散させる為に分散剤を添加することができる。
分散剤としては特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜の製造条件等に応じて任意に選択することができる。例えば、示差熱・熱重量同時測定装置(以下、TG−DTAと記載する場合がある。)を用いて測定される熱分解温度が250℃以上あって、ウレタン主鎖、アクリル主鎖、スチレン主鎖から選択されるいずれかの主鎖、あるいはウレタン、アクリル、スチレンから選択される2種類以上の単位構造が共重合した主鎖を有する分散剤であることが好ましい。ここで、熱分解温度とはTG−DTAを用いJIS K 7120に準拠した測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。
分散剤の熱分解温度が250℃以上の場合、熱可塑性樹脂との混練時に分散剤が分解することを抑制でき、分散剤の分解に起因した熱線遮蔽膜の褐色着色、可視光透過率の低下等を抑制し、本来の光学特性が得られない事態をより確実に回避できるためである。
また、分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基から選択される1種類以上を官能基として有することが好ましい。上述のいずれかの官能基を有する分散剤は、複合タングステン酸化物粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物粒子の凝集を防ぎ、熱線遮蔽膜中で複合タングステン酸化物粒子をより均一に分散させることができるため、好適に用いることができる。
上述のいずれかの官能基を有する分散剤としては具体的には例えば、カルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤等が挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000〜200000、アミン価5〜100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000〜200000、酸価1〜50mgKOH/gのものが好ましい。
分散剤の添加量は特に限定されるものではないが、例えば複合タングステン酸化物粒子100質量部に対し10質量部以上1000質量部以下となるように添加することが好ましく、30質量部以上400質量部以下となるように添加することがより好ましい。
分散剤の添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物粒子をより確実に熱可塑性樹脂中に均一に分散でき、得られる熱線遮蔽膜の物性に悪影響を及ぼすことがないからである。
〈3〉紫外線吸収剤
本実施形態の熱線遮蔽膜はさらに紫外線吸収剤を含有することもできる。
上述のように、本実施形態の熱線遮蔽膜には、複合タングステン酸化物粒子を添加しているため、主に近赤外領域の光の透過を抑制することができる。このため、熱線の透過を抑制することができ、熱線遮蔽膜を配置した内側の領域の温度上昇を抑制することができる。
そして、本実施形態の熱線遮蔽膜にさらに紫外線吸収剤を添加することで、紫外領域の光をさらにカットすることが可能となり、温度上昇の抑止効果を特に高めることができる。また、本実施形態の熱線遮蔽膜に紫外線吸収剤を添加することで、例えば係る熱線遮蔽膜が搭載された自動車車内や建造物内部の人間や内装などに対する紫外線の影響、日焼けや家具、内装の劣化などを十分に防止することができる。
また、複合タングステン酸化物粒子を樹脂中に分散した熱線遮蔽膜においては、強力な紫外線の長期暴露により透過率が低下する光着色現象を生じることがある。しかしながら、本実施形態の熱線遮蔽膜に紫外線吸収剤を添加することでも、光着色現象の発生を抑制することができる。
なお、紫外線吸収剤を添加したことによる、光着色現象を抑制する効果は、金属カップリング剤の添加による光着色現象を抑制する効果とは、明確に異なる機構に基づくものである。
このため、紫外線吸収剤をさらに添加することによる光着色現象を抑制する効果と、金属カップリング剤を添加したことによる光着色現象を抑制する効果とは相反するものではなく、むしろ相乗的に働き、特に光着色現象を抑制できる。
紫外線吸収剤としては特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜の可視光透過率等に与える影響や、紫外線吸収能、耐久性等に応じて任意に選択することができる。紫外線吸収剤としては例えば、ベンゾフェノン化合物、サリチル酸化合物、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾトリアゾリル化合物、ベンゾイル化合物等の有機紫外線吸収剤や、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤等が挙げられる。特に紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物から選択される1種以上を含有することが好ましい。これは、ベンゾトリアゾール化合物およびベンゾフェノン化合物は、紫外線を十分に吸収するだけの濃度を添加した場合でも熱線遮蔽膜の可視光透過率を非常に高くすることができ、かつ強力な紫外線の長期暴露に対する耐久性が高いためである。
また、紫外線吸収剤は例えば以下の化学式1および/または化学式2で示される化合物を含有することがより好ましい。
Figure 2021147295
Figure 2021147295
熱線遮蔽膜中の紫外線吸収剤の含有率は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜に要求される可視光透過率や、紫外線遮蔽能等に応じて任意に選択することができる。熱線遮蔽膜中の紫外線吸収剤の含有率は例えば、0.02質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これは紫外線吸収剤の含有率が0.02質量%以上であれば、複合タングステン酸化物粒子で吸収しきれない紫外光を十分に吸収することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、熱線遮蔽膜中で紫外線吸収剤が析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
〈4〉HALS
本実施形態の熱線遮蔽膜はさらにHALS(ヒンダードアミン系光安定化剤)を含有することもできる。上述の通り、紫外線吸収剤を添加することで、本実施形態の熱線遮蔽膜や熱線遮蔽合わせ透明基材において紫外線吸収能力を高めることができる。しかし本実施形態の熱線遮蔽膜や熱線遮蔽合わせ透明基材が実用される環境、あるいは紫外線吸収剤の種類によっては、長時間の使用に伴って紫外線吸収剤が劣化し、紫外線吸収能力が低下してしまうことがある。HALSの添加によっては、この紫外線吸収剤の劣化を防止し、本実施形態の熱線遮蔽膜や熱線遮蔽合わせ透明基材の紫外線吸収能力の維持に寄与することができる。
また上述の通り、複合タングステン酸化物粒子を樹脂中に分散した熱線遮蔽膜においては、強力な紫外線の長期暴露により透過率が低下する光着色現象を生じることがある。しかしながら、本実施形態の熱線遮蔽膜にHALSを添加することでも、紫外線吸収剤や金属カップリング剤の添加と同様に、光着色現象の発生を抑制することができる。
なお、HALSを添加したことによる、光着色現象を抑制する効果は、金属カップリング剤の添加による光着色現象を抑制する効果とは、明確に異なる機構に基づくものである。
このため、HALSをさらに添加することによる光着色現象を抑制する効果と、金属カップリング剤を添加したことによる光着色現象を抑制する効果とは相反するものではなく、むしろ相乗的に働き、特に光着色現象を抑制できる。
さらにHALSにおいては、それ自体が紫外線の吸収能力をもつ化合物がある。この場合、該化合物の添加によっては、上述した紫外線吸収剤の添加による効果と、HALSの添加による効果を兼ね備えることができる。
HALSとしては特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜の可視光透過率等に与える影響や、紫外線吸収剤との相性、耐久性等に応じて任意に選択することができる。例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケード、1−[2−[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed 1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、Mixed {1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed 2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、Mixed {2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノール]、ジメチルサシネートポリマ−with−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノール(コハク酸ジメチルと、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物)、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル等を好適に用いることができる。
熱線遮蔽膜中のHALSの含有率は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜に要求される可視光透過率や耐候性等に応じて任意に選択することができる。熱線遮蔽膜中のHALSの含有率は例えば、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これはHALSの含有率が0.05質量%以上であれば、前記HALSの添加による効果を熱線遮蔽膜中で発揮することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、熱線遮蔽膜中でHALSが析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
〈5〉酸化防止剤
本実施形態の熱線遮蔽膜はさらに酸化防止剤(抗酸化剤)を含有することもできる。
酸化防止剤の添加により、樹脂の酸化劣化を抑制し、熱線遮蔽膜の耐候性をさらに向上させることができる。また、樹脂中に含有される他の添加剤、例えば複合タングステン酸化物、金属カップリング剤、紫外線吸収剤、HALS、後述する染料化合物、顔料化合物、赤外線吸収性物質、界面活性剤、帯電防止剤等の酸化劣化を抑制し、耐候性を向上させることができる。
酸化防止剤としては特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜の可視光透過率等に与える影響や、所望する耐久性等に応じて任意に選択することができる。例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤等を好適に用いることができ、さらに具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノール)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、及びビス(3,3’−t−ブチルフェノール)ブチリックアッシドグリコールエステル等を好適に用いることができる。
熱線遮蔽膜中の酸化防止剤の含有率は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜に要求される可視光透過率や耐候性等に応じて任意に選択することができる。熱線遮蔽膜中の酸化防止剤の含有率は例えば、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これは酸化防止剤の含有率が0.05質量%以上であれば、前記酸化防止剤の添加による効果を熱線遮蔽膜中で発揮することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、熱線遮蔽膜中で酸化防止剤が析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
〈6〉可塑剤
用途によっては、熱線遮蔽膜に柔軟性や透明基材との密着性が要求される場合があるが、本実施形態に係る熱線遮蔽膜に含まれる熱可塑性樹脂によっては、得られる熱線遮蔽膜について上記性能を十分に満たさない場合がある。このような場合には、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
なお、例えば熱可塑性樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、熱線遮蔽膜の柔軟性や、透明基材との密着性が十分ではない場合がある。このため、ポリビニルアセタール樹脂を用いた場合には、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
一方で樹脂そのものの性質で柔軟性や透明基材との密着性に優れた熱可塑性樹脂や、共重合等により柔軟性や透明基材との密着性を改良した熱可塑性樹脂を用いる場合、可塑剤を添加しなくても良い。
可塑剤としては本実施形態に係る熱線遮蔽膜に含まれる熱可塑性樹脂に対して一般的に可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えばポリビニルアセタール樹脂を主成分とした熱線遮蔽膜に用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。特に、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
当該多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−オクタネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルは、ポリビニルアセタールとの相溶性や耐寒性など様々な性質をバランスよく備えており、加工性、経済性にも優れている。
可塑剤は特に、加水分解性が低いものであることが好ましい。当該観点からは、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネートが好ましい。
〈7〉染料化合物、顔料化合物
所望により任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料化合物、顔料化合物を添加しても良い。
〈8〉複合タングステン酸化物とは異なる赤外線吸収性物質
さらに高い熱線遮蔽能を得るために、複合タングステン酸化物とは異なる、他の赤外線吸収性物質を添加することもできる。他の赤外線吸収性物質としては特に限定されるものではないが、例えば用いた複合タングステン酸化物粒子と異なる波長領域の光を吸収できる物質であることが好ましい。他の赤外線吸収性物質としては例えば赤外線吸収性有機化合物を好適に用いることができる。赤外線吸収性有機化合物を添加することにより、さらに高い熱線遮蔽能が得られる。
〈9〉接着力調整剤
本実施形態に係る熱線遮蔽膜は、さらに所望により接着力調整剤を含有することもできる。
接着力調整剤としては、特に限定されないが、例えばアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を好適に用いることができる。アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を構成する酸は、特に限定されず、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の中でも、炭素数2〜16のカルボン酸マグネシウム塩、炭素数2〜16のカルボン酸カリウム塩が好ましい。
当該炭素数2〜16の有機酸のカルボン酸マグネシウム塩、カリウム塩としては、特に限定されないが、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、2−エチル酪酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が好適に用いられる。
なかでも2−エチル酪酸マグネシウムは、接着力調整剤としての性能が高いため好ましい。また、例えば熱線遮蔽膜が熱可塑性樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂を主成分として含む場合、2−エチル酪酸マグネシウムは複合タングステン酸化物粒子の耐候性向上の効果を発揮することができ、係る観点からも好ましい。
なお、接着力調整剤は1種類のみを添加することもでき、2種類以上を添加することもできる。
〈10〉その他の添加剤
その他の添加剤として例えば、界面活性剤、帯電防止剤等も挙げられる。
以上に説明した本実施形態の熱線遮蔽膜は、透明性と熱線遮蔽能とが高いことが好ましい。熱線遮蔽膜の透明性と、熱線遮蔽能すなわち遮熱特性とは、それぞれ、可視光透過率と、日射透過率とにより評価を行うことができる。
(4)熱線遮蔽膜の製造方法および使用形態
本実施形態の熱線遮蔽膜の製造方法により、上述した熱線遮蔽膜を好適に製造することができる。但し、本実施形態の熱線遮蔽膜の製造方法は、特に限定されるものではない。
以下、本発明に係る熱線遮蔽膜の製造方法および使用形態について、〈1〉分散液製造工程〜〈4〉成形工程、の各工程について説明し、さらに、〈5〉熱線遮蔽膜の使用形態、について説明する。
〈1〉分散液製造工程
複合タングステン酸化物粒子と分散剤とが有機溶剤に分散した、分散液を製造する工程である。本実施形態の分散液の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
本実施形態の分散液の製造方法では、分散液製造工程を有することができる。分散液製造工程では、複合タングステン酸化物粒子と分散剤とを、有機溶剤に添加・混合することができる。
なお、分散液製造工程は、1つの工程で構成しても良いが、複数の工程から構成することもできる。
例えば、分散液製造工程は、以下の第1分散液製造工程と、第2分散液製造工程とを有することができる。
第1分散液製造工程では、複合タングステン酸化物粒子と、分散剤とを有機溶剤に分散した部分分散液を製造することができる。
第2分散液製造工程では、第1分散液製造工程で製造した部分分散液にさらに分散剤を添加、混合し、分散液を製造することができる。
すなわち分散剤を複数回に分けて添加する場合、例えば上記第1分散液製造工程の後、添加する分散剤の総添加量の一部を添加し、別途分散剤を添加、混合する第2分散液製造工程(分散剤添加工程)を設けることができる。
この場合、第1分散液製造工程は、複合タングステン酸化物粒子と、分散剤の総添加量のうち一部の分散剤とを有機溶剤に分散した部分分散液を製造することができる。
第2分散液製造工程では、第1の分散液製造工程で形成した部分分散液に残りの分散剤を添加、混合することができる。
分散液製造工程では、複合タングステン酸化物粒子と金属カップリング剤と分散剤とを、有機溶剤に添加・混合し、一般的な分散方法を用いて複合タングステン酸化物粒子の有機溶剤分散液を得ることができる。分散方法としては特に限定されるものではないが、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散、ペイントシェーカーなどの分散方法を用いることができる。
分散液製造工程で用いる有機溶剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば有機溶剤としては、120℃以下の沸点をもつものを好ましく使用できる。これは沸点が120℃以下であれば、後工程である分散体製造工程等で有機溶剤を容易に除去できるためである。分散体製造工程等において有機溶剤の除去が迅速に進むことにより、複合タングステン酸化物粒子分散体の生産性を向上させることができる。さらに、分散体製造工程が容易かつ十分に進行するので、複合タングステン酸化物粒子分散体中に過剰な有機溶剤が残留するのを回避できる。この結果、成形工程において熱線遮蔽膜内に気泡が発生する等の不具合が発生することをより確実に回避できる。
有機溶剤としては具体的には例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノール等を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。沸点が120℃以下で、かつ複合タングステン酸化物粒子を均一に分散可能なものであれば、好適に用いることができる。
有機溶剤の添加量については特に限定されるものではなく、複合タングステン酸化物粒子、及び分散剤の添加量に応じて分散液を形成できるように任意にその添加量を選択することができる。
〈2〉分散体製造工程
分散液製造工程で製造した分散液中の有機溶剤を除去することで、固体の分散剤中に複合タングステン酸化物粒子が分散した複合タングステン酸化物粒子分散体を製造する工程である。
分散体製造工程では、複合タングステン酸化物粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液に対し、所望によりさらに適量の分散剤を添加した後、有機溶剤を除去することで複合タングステン酸化物粒子分散体を製造することができる。複合タングステン酸化物粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液から有機溶剤を除去する方法としては特に限定されないが、例えば減圧乾燥を好ましく用いることができる。具体的には、複合タングステン酸化物粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液を撹拌しながら減圧乾燥して、複合タングステン酸化物粒子分散体と有機溶剤成分とを分離できる。減圧乾燥に用いる装置としては、例えば真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、有機溶剤を除去する際の具体的な減圧の圧力は限定されず、適宜選択できる。
分散体製造工程において、減圧乾燥法を用いることで有機溶剤の除去効率が向上するとともに、複合タングステン酸化物粒子分散体が長時間高温に曝されることがないので、分散している複合タングステン酸化物粒子分散体の凝集が起こらず好ましい。さらに生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
分散体製造工程においては、分散体中に含まれる有機溶剤が10質量部以下となるまで、有機溶剤を除去することが好ましく、5質量部以下となるまで有機溶剤を除去することがより好ましい。これは有機溶剤の残分が10質量部以下であれば、分散体から揮発した有機溶剤による臭気を低減でき、また後述する混練工程で多量の有機溶剤や気泡が熱線遮蔽膜に残留することを確実に防止し、さらに200℃を超える樹脂混練の高温に多量の有機溶剤が晒されることを防ぐことができるためである。
本実施形態の分散体は、熱可塑性樹脂等と混練した後、成形することで、熱線遮蔽膜とすることができる。
〈3〉混練工程
分散体製造工程で得られた、複合タングステン酸化物粒子分散体と、熱可塑性樹脂とを混練する工程である。
混練工程では、分散体製造工程で得られた複合タングステン酸化物粒子分散体と、熱可塑性樹脂とを混練することができる。この際、必要に応じて熱線遮蔽膜に添加する金属カップリング剤や、紫外線吸収剤、HALS、酸化防止剤、赤外線吸収性有機化合物等その他の添加剤を添加し、あわせて混練することもできる。なお、これらの添加剤等を添加するタイミングは特に限定されるものではなく、例えば分散液製造工程等、他の工程において添加することもできる。混練方法は特に限定されるものではなく、公知の樹脂混練方法を任意に選択して用いることができる。
尚、上述した「〈2〉分散体製造工程」を実施することなく、「〈1〉分散液製造工程」で製造した分散液を「〈3〉混練工程」に供し、混練工程において、複合タングステン酸化物粒子分散液と熱可塑性樹脂とを混練することもできる。この場合、「〈3〉混練工程」において、熱可塑性樹脂中に複合タングステン酸化物粒子を均一に分散させるのと同時に、有機溶剤を除去することができる。ただし、多量の有機溶剤や気泡が熱線遮蔽膜に残留することを確実に防止する観点、および200℃を超える樹脂混練の高温に多量の有機溶剤が晒されることを防ぐ安全上の観点から、前記混練工程の前に前記分散体製造工程を実施することが好ましい。
〈4〉成形工程
複合タングステン酸化物粒子分散体と熱可塑性樹脂との混練物を成形する工程である。
成形工程は、混練工程で得られた混練物を成形する工程であり、成形方法は特に限定されるものではなく、製造する熱線遮蔽膜の厚さ等のサイズや形状、混練物の粘度等に応じて任意に選択することができる。例えば、押出成形法、カレンダー成形法等成形方法を採用することができる。
また、成形体の形状は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽膜に要求される形状に応じて選択することができ、例えばフィルム状に成形することができる。
〈5〉熱線遮蔽膜の使用形態
また、本実施形態の熱線遮蔽膜は例えば無機ガラスや透明樹脂等の透明基材の片面または両面に配置して使用することができる。具体的には例えば1枚の透明基材の一方の主平面または両方の主平面上に本実施形態の熱線遮蔽膜を貼り合せて使用することができる。
本実施形態の熱線遮蔽膜の形態として、複数枚の対向して配置した透明基材間に本実施形態の熱線遮蔽膜を配置し、熱線遮蔽合わせ透明基材とすることができる。
[3]反射防止膜(反射率を低下させる被覆)とその製造方法
本発明においては、熱線遮蔽膜が複数枚の透明基材に挟持されて成る熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、波長420nmから650nmの光に対する反射率を低下させる被覆(本発明において「反射防止膜」と記載することがある。)が形成されている。
上述したように、反射防止膜を有さない従来の合わせ透明基材では、空気と透明基材の間で大きな光反射が発生する。この光反射による可視光透過率の低下を抑制することが、反射防止膜を形成する目的である。
所謂、可視光の波長は一般に380nm以上780nm以下の範囲とされることが多いが、なかでも可視光透過率(例えばJIS R 3106:2019で定義されている)に大きく寄与する範囲はおおむね波長420nm以上650nm以下である。これは人間の眼の錐体の感度曲線が、420nm以上650nm以下の光波長範囲で高い感度を持つことに由来する。
従って本発明にかかる反射防止膜は、420nm以上650nm以下の光波長範囲において反射率を低減させることで、空気と透明基材の間での光反射による可視光透過率の低下を抑制し、合わせ透明基材の可視光透過率を向上させるものである。
より具体的には、反射防止膜を有さない従来の合わせ透明基材において、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値はおおむね4〜8%程度である(これは表面反射と裏面反射の両方の寄与を含む)。本発明にかかる熱線遮蔽合わせ透明基材は、反射防止膜を設けることで、当該波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値を低減するものである。
即ち、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値を可能な限り低くすることが、可視光透過率を向上する観点や、夜間運転において車内の光の反射が運転手を幻惑することを防止する観点から好ましい。従って、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値としては0%以上2%以下であることが好ましく、0%以上1%以下であることがより好ましい。
一方、波長780nm以上1000nm以下の光については、反射率が低減されないことが好ましい。これは当該波長780nm以上1000nm以下の光は可視光ではなく近赤外光である為、当該波長の光の反射率が低減されて透過率が増加した場合、可視光透過率に寄与しないどころか、日射透過率が増加し遮熱性能が低下してしまう為である。当該観点から、波長780nm以上1000nm以下の光に対する反射率の平均値は4%以上100%以下であることが好ましい。
波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率を低下させる被覆としては、公知の反射防止膜を用いることができる。具体的には、単層被覆、多層被覆、ナノ構造被覆から選択される1種類以上の反射防止膜を用いることができる。以下、合わせ透明基材のうち最上部と最下部との両面に形成される反射防止膜について、(1)単層被覆、(2)多層被覆、(3)単層被覆、多層被覆の製造方法、(4)ナノ構造被覆とその製造方法、の順に説明する。
(1)単層被覆
単層被覆は、空気と透明基材の中間の屈折率を持つ単一の材料からなる被覆である。理想的には、光学的に透明であり、かつ屈折率が基板の屈折率の平方根に等しい材料からなる、反射率を低減したい特定の光波長(本発明において「中央波長」と記載する場合がある。)の4分の1の厚みを持つ層により構成される。このとき中央波長において理想的には反射率はゼロ、中央波長周辺の波長帯の波長については反射率が減少する。例えば透明基材である青板ガラス(屈折率1.52)に対する反射防止膜として理想的な単層被覆は約1.23の屈折率を持つ材料からなる。しかしこの値に近い屈折率を有するバルク材は存在しないため、代替として例えば約1.38の屈折率を有するMgF(フッ化マグネシウム)を利用することができる。反射防止層を持たない青板ガラスの表面反射率は約4%であるが、反射防止層として膜厚が約150nmのMgF層を形成することで、600nmの波長を持つ光の表面反射率は約1%まで低減される。
(2)多層被覆
多層被覆は、光学干渉の理論に従って、透明部材の表面に薄膜の誘電体膜を複数層重ねた構造を有する反射防止膜である。具体的には、透明基材の表面に、低屈折率の層と、より高い屈折率の層を交互に堆積することにより形成される多層構造の被覆とすることができる。設計により、単一波長においては0.1%という低い値まで反射を低減することが可能である。積層数を増加させることで、広い波長域での反射率の低減を行う構成を用いることも可能である。
このような反射防止膜は、蒸着法やスパッタリング法などのドライ法(真空成膜法)、ディッピング法やスピンコード法等のウェット法(湿式成膜法)により形成することができる。このような光学干渉の理論に従って作製される反射防止膜は、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜の種類とそれぞれの膜厚を的確に選択することで仮想的に中間屈折率を得て、反射防止膜を形成することができる。
多層被覆は、低屈折率の層と、当該低屈折率の層より高い屈折率を有する層の交互積層からなる。低屈折率の層を構成する材料としては、例えばMgF、SiOおよびAlから選択される1種類以上を用いることができる。一方、より高い屈折率を有する層を構成する材料としては、例えばTa、TiO、Nb、ZrO、HfO、CeO、SnO、In、ZnO、YおよびPr11から選択される1種類以上を用いることができる。
(3)単層被覆、多層被覆の製造方法
上述した、単層被覆や多層被覆からなる反射防止膜は、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライ法(真空成膜法)、ディッピング法やスピンコード法等のウェット法(湿式成膜法)により製造することができる。なかでも真空蒸着法は、製造コスト、加工精度の面において好ましい。一例として、電子ビーム式による真空蒸着法について説明する。
電子ビーム式による真空蒸着法に用いる真空蒸着装置は、〈1〉真空チャンバー、〈2〉チャンバー内に基板を配置するラック、〈3〉蒸着材を設置するためのルツボが設けられた蒸着源、〈4〉電子ビーム照射器、〈5〉基板を加熱するヒーター、〈6〉真空ポンプ装置、を具備する。
透明基材の表面が蒸着源に向くようにラックに設置し、また蒸着材をルツボに設置する。続いて真空ポンプにより真空チャンバー内を減圧した後、必要に応じてヒーターにより透明基材を加熱する。そして蒸着材に向かって電子ビーム照射器から電子ビームを照射して蒸着材を加熱する。加熱により蒸発した蒸着材が透明基材表面に蒸着し、基板の表面に反射防止膜の層が形成される。
当該電子ビーム式による真空蒸着法を用いる場合には、初期の真空度は、例えば1.0×10−5〜1.0×10−6Torrであるのが、製造効率や膜の均一性の面から好ましい。さらに形成される膜の制度を高めるために、蒸着中は透明基材を加温するのが好ましい。蒸着中の透明基材の温度は、当該透明基材の材質や蒸着速度に応じて適宜選択することができるが、例えば60〜250℃とするのが好ましい。
(4)ナノ構造被覆とその製造方法
ナノ構造被覆は、透明基材表面に形成される、光の波長未満のピッチで形成される超微細構造である。光の波長よりも細かい凹凸形状では、入射光はその凹凸形状を認識できずに一様な媒質であるかのように振る舞う。つまり、微細な凹凸形状からなる構造体は、凹凸形状を構成する材料の体積比に準じた屈折率を有し、通常の材料では得られないような低い屈折率を示す。このため、このような凹凸構造体を用いれば、高屈折率材料と低屈折率材料から形成される反射防止膜と比べて、より高い反射防止性能が得られることがある。
本発明にかかる発明に利用可能な微細構造にはさまざまな形態を挙げることができる。反射防止膜として機能することが公知であるいわゆるモスアイ構造は、ナノ構造被覆の典型例である。また他の例としては、例えば錐台形状、錐形状、釣鐘状、多孔質形状といった構造を挙げることができる。
このようなナノ構造被覆を製造する方法としては、例えばナノスケールでの機械的エッチングがある。一例としては、ソーダライムガラスの酸によるエッチングにより、エッチングされた溝の山と谷の間に形成された空洞域を形成することで、当該層の実効的な屈折率を約1.27に変化させることができる。
また、多孔質の被覆層を形成し、空孔の密度を任意の方法により制御することで、屈折率を制御する構成を用いることもできる。当該多孔質の被覆層を得るための1つの方法として、粒子間接着を促進するために、同様の粒度を持つSiOのナノスケールの回転楕円体を、ゾルと共に焼結する方法がある。
さらに、ナノ構造被覆の形成方法として、粒度の異なる2種類の回転楕円体形状SiO粒子を用いる方法もある。
[4]赤外線反射フィルム
さらに、上述の熱線遮蔽膜と、赤外線反射フィルムとを併用した熱線遮蔽合わせ透明基材とすることもできる。すなわち、複数枚の透明基材の間に、さらに1枚以上の赤外線反射フィルムが配置された構成とすることもできる。
熱線遮蔽膜と赤外線反射フィルムとを併用する場合、例えば、赤外線反射フィルムを、本実施形態の熱線遮蔽膜と透明な樹脂膜とで挟みこんで一体化して多層膜とすることができる。そして、赤外線反射フィルム、及び本実施形態の熱線遮蔽膜を有する多層膜を対向する複数枚の透明基材、例えば無機ガラス等のガラス基材や透明樹脂基材で挟み込み、公知の方法で貼り合わせ一体化することによって、熱線遮蔽合わせ透明基材とすることができる。
この際、熱線遮蔽膜と、赤外線反射フィルムとの位置関係について特に限定されるものではなく、使用する環境等に応じて任意に選択することができる。例えば熱線遮蔽合わせ透明基材を自動車や建造物等の窓に用いる場合、自動車内や室内の温度上昇抑制効果を考慮して、赤外線反射フィルムを熱線遮蔽膜より外側に位置するように構成することが好ましい。
ここで説明した赤外線反射フィルムの特性は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽合わせ透明基材とした場合に要求される性能等に応じて任意に選択することができる。
ただし、熱線遮蔽能を考慮すると、赤外線反射フィルムは、透明基材に貼り付けた場合に、主に可視光の長波長領域から近赤外領域、例えば波長700nmから1200nmの範囲の光を反射するものであることが好ましい。
このように、複合タングステン酸化物粒子による光吸収が相対的にやや弱い700nmから1200nmの波長の光を赤外線反射フィルムが強く反射することで、複合タングステン酸化物と赤外線反射フィルムとが、近赤外線の領域の光を相補的に幅広く遮蔽することができる。このため、熱線遮蔽合わせ透明基材の遮熱特性をさらに向上させることができる。
赤外線反射フィルムは、赤外線反射フィルムを透明ガラス基材に貼り付けた場合に、700nmから1200nmの波長の光に対する反射率の最大値が30%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることがより好ましい。
また、可視領域の光の透過性についても考慮すると、赤外線反射フィルムは可視領域にほとんど太陽光の吸収をもたないことが好ましい。特に、赤外線反射フィルムを透明基材に貼り付けた場合に可視光透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
赤外線反射フィルムは、熱線遮蔽能と、可視領域の光の透過性とを両立していることが好ましい。このため、赤外線反射フィルムを透明基材に貼り付けた場合に、可視光透過率が80%以上であり、かつ700nmから1200nmの波長の光に対する反射率の最大値が30%以上100%以下であることが好ましい。特に、赤外線反射フィルムを透明基材に貼り付けた場合に、可視光透過率が85%以上であり、かつ700nmから1200nmの波長の光に対する反射率の最大値が50%以上100%以下であることがより好ましい。
また、自動車のフロントガラスや、建造物の窓等、所定の波長域の電磁波の透過が要求される用途に熱線遮蔽合わせ透明基材を使用する場合、赤外線反射フィルムは携帯電話やETCに用いられている波長域の電磁波を透過させるものが好ましい。
この為、上述の様に携帯電話の電波等を透過させることが要求される場合、赤外線反射フィルムとしては、導電性を有し、上述のような波長域の電磁波を透過させない金属膜付きフィルムよりも、電磁波を透過させるフィルムが好ましい。具体的には、例えば屈折率の異なる樹脂を交互に積層した多層膜により赤外線を反射する特性を有するフィルムや、コレステリック液晶により赤外線を反射する特性を有するフィルムなど、電磁波を透過させることができるフィルムを好ましく用いることができる。
また、本発明に係る外線反射フィルムとして、市販の赤外線反射フィルムを用いることもできる。好ましい市販品として、例えば、(登録商標)NANO90S(スリーエムジャパン株式会社製)が挙げられる。
2.熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法
次に本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材、及び熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は、上述の熱線遮蔽膜を有することができ、その具体的な形態は特に限定されるものではないが、例えば複数枚の透明基材と、上述の熱線遮蔽膜とを有し、熱線遮蔽膜は、複数枚の透明基材の間に配置された構成とすることができる。
この際、用いる透明基材の種類は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽合わせ透明基材の用途等に応じて任意に選択することができ、例えば、ガラス基材や、各種樹脂基材等を好適に用いることができる。また、複数の透明基材についてすべて同じ材質の基材であってもよいが、異なる材質の基材を組み合わせて用いることもできる。
ただし、記述の通りの通り、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材に用いる基材としては、耐候性や、可視光透過率の高さ等から、例えば複数枚の透明基材の内、1枚以上がガラス基材であることが好ましい。また、複数枚の透明基材全てをガラス基材とすることもできる。
なお、熱線遮蔽合わせ透明基材が透明基材を3枚以上有する場合、透明基材間は2以上存在することになる。この場合、透明基材間のうち選択された1以上の透明基材間に熱線遮蔽膜を配置すればよく、熱線遮蔽膜を配置しない透明基材間が生じても良いし、全ての透明基材間に熱線遮蔽膜が配置されていてもよい。熱線遮蔽膜を配置しない透明基材間がある場合、該透明基材間の構成は特に限定されず、例えば上述の熱線遮蔽膜とは異なる機能を有する中間膜を配置したり、該透明基材間を真空とするか、または熱伝導率の低いガスを封入して断熱性能を高めたりすることもできる。
また、熱線遮蔽膜は単体で透明基材間に配置することもできるが、後述するように、熱線遮蔽膜と他の膜とから構成される多層膜を形成してから透明基材間に配置することもできる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は例えば、上述の熱線遮蔽膜を挟み込んで存在させた対向する複数枚の透明基材を、公知の方法で貼り合わせ一体化することによって得られる。
熱線遮蔽合わせ透明基材を製造する際、透明基材間に、上述の熱線遮蔽膜と共に、他の樹脂中間膜等任意の中間膜を一層以上挟み込むこともできる。このような他の中間膜として、例えば紫外線カット、遮音、調色、密着力の調整といった機能を有する中間膜を用いることで、より高機能な熱線遮蔽合わせ透明基材を実現することもできる。
透明基材と熱線遮蔽膜とを貼り合せる方法は特に限定されるものではなく、接着剤等により貼り合せる方法や、熱圧着する方法等各種方法を用いることができる。
また、熱線遮蔽膜を含む中間層とは、熱線遮蔽膜から構成される単一膜であっても良く、例えば上述のように、赤外線反射フィルムと熱線遮蔽膜とを一体化した多層膜のように他の膜と積層、一体化した膜(層)であっても良い。
3.熱線遮蔽合わせ透明基材の光学特性
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材の遮熱特性は、可視光透過率に対する日射透過率で示される。可視光透過率に対して日射透過率が低いほど遮熱特性に優れた熱線遮蔽合わせ透明基材となる。具体的には例えば、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率が70%となるように熱線遮蔽膜への複合タングステン酸化物の添加量等を選択した場合に、熱線遮蔽合わせ透明基材の日射透過率が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
熱線遮蔽合わせ透明基材を例えば自動車のフロントガラス等の窓材に用いる場合は、道路運送車両法にて規定されている可視光透過率が70%以上を満たす必要があり、あわせて高い熱線遮蔽能を有することが好ましい。このため、例えば上述のように熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率を70%とした場合に日射透過率は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
そして、特に本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が50%以下であることが好ましい。また、可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が40%以下であることがより好ましい。
このように高い熱線遮蔽能をもつ熱線遮蔽合わせ透明基材を用いることで、特にハイブリッドカーや電気自動車のような電池を用いる自動車においては、電池の消費を抑えられることから、航続距離の延長などに有意な効果が見られる。従って、自動車の燃費向上、温室効果ガス排出量削減に寄与することが期待できることから、将来的には熱線遮蔽合わせ透明基材が自動車の設計上、必須の部材となることも予想される。
熱線遮蔽合わせ透明基材は、例えば自動車や建造物の窓材をその用途とする場合には、自然な色調、すなわち透明または無彩色に近いことが好ましい。特に、本実施形態に係る熱線遮蔽合わせ透明基材が自動車のフロントガラス等に用いる場合を想定すると、運転中の安全を担保するため、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
このため係る用途に用いる場合、熱線遮蔽合わせ透明基材に用いる熱線遮蔽膜は、例えば自動車用合わせガラスに求められる性能を規定したJIS R 3211およびJIS R 3212に基づく色の識別試験において、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
4.熱線遮蔽合わせ透明基材の用途
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は、上述の高い耐候性を備えた熱線遮蔽膜を有しているため、紫外線や太陽光が長期間にわたって照射される環境に置かれた場合でも、光着色現象の発生を抑制することができる。このため、熱線遮蔽合わせ透明基材の外観が損なわれたり、透過率が低下することを抑制することができる。
また、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は上述の熱線遮蔽膜を有しており、該熱線遮蔽膜は赤外線吸収性の粒子として複合タングステン酸化物粒子を含有しているため、高い可視光透過率を維持しつつも高い熱線遮蔽能を発揮することができる。このため、例えば自動車や建造物の窓に適用した場合に、自動車内あるいは建造物内の快適性を向上し、自動車内のエアコン負荷軽減による燃費向上、建造物内でのエアコン負荷軽減による省エネルギー化等を図ることが可能になる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は各種用途に用いることができるが、上述のように、係る熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材は、自動車や、建造物の窓として好適に用いることができる。具体的には例えば熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材を搭載した自動車や、熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材を備えた建造物とすることができる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法は特に限定されるものではなく、上述の熱線遮蔽膜を含む中間膜を透明基材間に配置し、透明基材と熱線遮蔽膜を含む中間膜とを貼り合せる貼り合せ工程を有することができる。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここで、まず以下の実施例、比較例における試料の評価方法について説明する。
(体積平均粒子径)
粒子分散液中の複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製 型式:UPA−UT)により測定を行った。
(可視光透過率、日射透過率、反射率)
熱線遮蔽合わせ透明基材における波長300nm〜2500nm(5nm刻み)の光に対する分光透過率および分光反射率を、分光光度計(株式会社日立製作所製 型式:U−4100)を用いて測定した。そして分光透過率をもとに、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率および日射透過率を、JIS R 3106に基づいて算出した。また分光反射率をもとに、熱線遮蔽合わせ透明基材の波長420nmから650nmの光に対する反射率の平均値、および波長780nmから1000nmの光に対する反射率の平均値を算出した。
以下に各実施例、比較例の試料の作製条件及び評価結果について説明する。
[実施例1]
複合タングステン酸化物粒子として、Cs0.33WOの粒子(住友金属鉱山(株)製)(以下、粒子aと記載する)を20質量部、官能基としてアミンを含有する基とアクリル主鎖を有する分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃)(以下、分散剤aと記載する)を10質量部、有機溶剤であるメチルイソブチルケトン(沸点116.2℃)を70質量部となるように秤量した。これらの原料を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、7時間粉砕・分散処理し、粒子aの分散液(以下、粒子分散液aと記載する)を得た(第1分散液製造工程)。
なお、粒子aについて予め粉末X線回折測定を行ったところ、六方晶のCs0.33WOを含んでいることが確認された。
ここで、粒子分散液a内における複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径を上述の方法で測定したところ24nmであった。なお、以後の工程では粉砕処理等、複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が変化する操作を行わないことから、係る体積平均粒子径が、熱線遮蔽膜中の複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径となる。
次いで、分散液中の複合タングステン酸化物に対する分散剤の質量比率が[複合タングステン酸化物]/[分散剤]=100/200となるように、粒子分散液aに対して分散剤aを添加した後、十分に混合した(第1分散液製造工程)。なお、上記式中の分散剤の質量は、粒子分散液aを製造する際、すなわち第1分散液製造工程で添加した量と、粒子分散液aを製造後の第2分散液製造工程で添加した量との和を示している。
次いで、粒子分散液aを撹拌型真空乾燥機へ装填した。
そして、撹拌型真空乾燥機により常温で減圧乾燥を行ってメチルイソブチルケトンを除去し、粒子a、分散剤、および残留した微量の有機溶剤を含有する分散体(以下、分散体aと記載する)を得た。得られた分散体a中の、有機溶剤であるメチルイソブチルケトンの含有量は3.4質量%であった(分散体製造工程)。
アイオノマー樹脂のペレットであるハイミラン1706(三井・デュポンポリケミカル社製。以下、エチレン系アイオノマー1とも記載する。)を97.8質量部と、分散体aを1.6質量部と、紫外線吸収剤であるTinuvin(登録商標) 326(BASF社製)を0.6質量部秤量し、十分に混合して混合組成物を作製した。なお、ハイミラン1706はエチレン系アイオノマーであり金属イオンとして亜鉛を含有している。また、紫外線吸収剤であるTinuvin 326は上述の化学式1で表されるベンゾトリアゾール化合物である。
得られたアイオノマー樹脂のペレットと、分散体aとの混合組成物を220℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った(混練工程)後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により0.5mm厚のシート状に成形した(成形工程)。これにより熱線遮蔽膜(以下、熱線遮蔽膜Aと記載する)を得た。なお、作製した熱線遮蔽膜Aの投影面積における単位面積あたりの、熱線遮蔽膜A中の複合タングステン酸化物粒子の含有量は2.0g/mとなっている。また、紫外線吸収剤は膜中に0.6質量%の割合で含有されている。
作製した熱線遮蔽膜Aを2枚の透明フロートガラス(3mm厚)で仮挟持したのち、130℃に熱し、真空下で5分間のプレス処理を施すことで熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、熱線遮蔽合わせ透明基材A)を得た。
次に、前記熱線遮蔽合わせ透明基材Aの両面に、反射率を低下させる被覆(反射防止層)である多層被覆を、電子ビーム式の真空蒸着法により形成した。具体的には、前記熱線遮蔽合わせ透明基材Aの最上部と最下部との両面に位置する、透明基材である2枚の透明フロートガラス基板上のそれぞれに、第1層としてAlを36.38nm、第2層としてTaを24.25nm、第3層としてMgFを37.34nm、第4層としてTaを102.74nm、第5層としてMgFを25.09nm、第6層としてTaを82.84nm、第7層としてMgFを134.32nm、の順番で層を形成した。このとき蒸着の初期真空度は1.2×10−6Torr、基板温度は230℃とした。
尚、各材料の屈折率の値は、Alが1.651、Taが2.097、MgFが1.389である。
以上の処理により、実施例1にかかる熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、熱線遮蔽合わせ透明基材A´と記載する)を得た。
熱線遮蔽合わせ透明基材A´について上述の方法により可視光透過率、日射透過率を測定、算出したところ、可視光透過率は72.8%、日射透過率は32.3%であった。
また熱線遮蔽合わせ透明基材A´の波長420nmから650nmの光に対する反射率の平均値は0.3%、および波長780nmから1000nmの光に対する反射率の平均値は5.4%であった。
[比較例1]
実施例1における、反射率を低下させる層が形成されていない熱線遮蔽合わせ透明基材Aについて、実施例1と同様に可視光透過率、日射透過率を測定、算出したところ、可視光透過率は63.4%、日射透過率は25.9%であった。また熱線遮蔽合わせ透明基材αの波長420nmから650nmの光に対する反射率の平均値は6.5%、および波長780nmから1000nmの光に対する反射率の平均値は5・8%であった。
[比較例2]
アイオノマー樹脂のペレットであるハイミラン1706(登録商標)を98.5質量部と、実施例1で作製した分散体aを0.9質量部と、紫外線吸収剤であるTinuvin(登録商標) 326を0.6質量部秤量し、十分に混合して混合組成物を作製した。
得られたアイオノマー樹脂のペレットと、分散体aとの混合組成物を220℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った(混練工程)後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により0.5mm厚のシート状に成形した(成形工程)。これにより熱線遮蔽膜(以下、熱線遮蔽膜αと記載する)を得た。なお、作製した熱線遮蔽膜αの投影面積における単位面積あたりの、熱線遮蔽膜α中の複合タングステン酸化物粒子の含有量は1.2g/mとなっている。また、紫外線吸収剤は膜中に0.6質量%の割合で含有されている。
作製した熱線遮蔽膜αを2枚の透明フロートガラス(3mm厚)で仮挟持したのち、130℃に熱し、真空下で5分間のプレス処理を施すことで熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、熱線遮蔽合わせ透明基材β)を得た。
熱線遮蔽合わせ透明基材βについて上述の方法により可視光透過率、日射透過率を測定、算出したところ、可視光透過率は72.4%、日射透過率は34.1%であった。また熱線遮蔽合わせ透明基材βの波長420nmから650nmの光に対する反射率の平均値は6.7%、および波長780nmから1000nmの光に対する反射率の平均値は6.9%であった。
[実施例1および比較例1〜2の評価]
実施例1では、熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、反射率を低下させる層が形成されている。そのため日射遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物粒子を多く含有させた、高い熱線遮蔽性能(低い日射透過率)を発揮した場合でも、可視光透過率を70%以上とすることができ、例えば日本の法令下で自動車の前面ガラスや側面ガラスに搭載可能な光学特性を有していた。
比較例1では、熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、反射率を低下させる層が形成されていない。そのため表面反射と裏面反射が発生し、日射遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物粒子を実施例1と同様の量だけ含有させた場合には、可視光透過率が70%を下回ってしまった。
比較例2では比較例1よりも日射遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物粒子の含有量を減少させることで、可視光透過率は70%を上回った。しかし日射遮蔽微粒子の含有量が低下したために、熱線遮蔽性能は実施例1よりも低いものに留まった。
11 WO単位
12 元素M

Claims (17)

  1. 熱線遮蔽膜が複数枚の透明基材に挟持されて成る熱線遮蔽合わせ透明基材の両面に、波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率を低下させる被覆が形成されており、
    前記熱線遮蔽膜は、前記複数枚の透明基材の間に配置され、複合タングステン酸化物粒子と熱可塑性樹脂とを含み、
    前記複合タングステン酸化物粒子は、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物の粒子であり、
    波長420nm以上650nm以下の光に対する反射率の平均値が0%以上2%以下、かつ、波長780nm以上1000nm以下の光に対する反射率の平均値が4%以上100%以下である、熱線遮蔽合わせ透明基材。
  2. JIS R 3106で規定された可視光透過率が70%以上である、請求項1に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  3. 前記反射率を低下させる被覆が、単層被覆、多層被覆、ナノ構造被覆から選択される1種類以上である、請求項1または2に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  4. 前記熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂から選択される1種類以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  5. 前記複合タングステン酸化物を示す一般式MWOのMが、Csおよび/またはRbである、請求項1から4のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  6. 前記複合タングステン酸化物が六方晶である、請求項1から5のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  7. 前記熱線遮蔽膜に含有される前記複合タングステン酸化物粒子の単位面積あたり重量が、0.1g/m以上2.0g/m以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  8. 前記複合タングステン酸化物粒子の体積平均粒子径が100nm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  9. 前記熱線遮蔽膜がさらに紫外線吸収剤を含有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  10. 前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物から選択される1種以上である、請求項9に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  11. 前記紫外線吸収剤が、化学式1および/または化学式2で示される化合物を含有する、請求項9または10に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
    Figure 2021147295
    Figure 2021147295
  12. 前記熱線遮蔽膜における前記紫外線吸収剤の含有率が、0.02質量%以上5.0質量%以下である、請求項9から11のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  13. 前記複数枚の透明基材の内、1枚以上がガラス基材である、請求項1から12のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  14. 前記複数枚の透明基材の間に、1枚以上の赤外線反射フィルムが配置されている、請求項1から13のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  15. 前記赤外線反射フィルムは、透明ガラス基材に貼り付けた場合に、波長700nm以上1200nm以下の光に対する反射率の最大値が30%以上100%以下である、請求項14に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
  16. 請求項1から15のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材を搭載した自動車。
  17. 請求項1から15のいずれか1項に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材を備えた建造物。
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