JP2021135170A - 有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法、放射線遮蔽部材の製造方法、及び放射線遮蔽部材 - Google Patents

有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法、放射線遮蔽部材の製造方法、及び放射線遮蔽部材 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも高い被覆率での有機化合物の被覆が可能な有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法と、酸化ビスマスを含む粒子を従来よりも均一に分散させることができる放射線遮蔽部材の製造方法と、組織が従来よりも均質化された放射線遮蔽部材とを提供する。【解決手段】まず、表面がタンニン酸で被覆された酸化ビスマス粒子であるタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を得る。次に、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面にカップリング剤を被覆することにより、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10を得る。次に、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10の表面にメタクリル系有機化合物を被覆することにより、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を得る。【選択図】図7

Description

本発明は、放射線の通過を妨げる放射線遮蔽部材及びその製造方法と、その製造方法に用いることができる有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法とに関する。
特許文献1に開示されているように、鉛を含まない放射線遮蔽部材が知られている。この放射線遮蔽部材は、可視光に対して透明なポリマーよりなる基材に、鉛の代替としての酸化ビスマスの粒子が埋め込まれた構造を有する。
国際公開第2015/187265号
吉岡 啓夢、森 力宏、百田 潤二、大角 義浩、武井 孝行、吉田 昌弘、「酸化チタンの表面コーティングに関する基礎的研究」、科学・技術研究、非営利団体科学・技術研究会、2017年12月、第6巻、第2号、p.135−138
特許文献1は、上記放射線遮蔽部材を得るために、基材を構成することとなるモノマーに対して、無機物で被覆された酸化ビスマスの粒子を分散させる工程を提案している。しかし、無機物である粒子はモノマー中では凝集しやすい。このため、従来は組織が均質な放射線遮蔽部材を得ることが難しかった。
一方、非特許文献1は、モノマーに対する無機ナノ粒子の分散性を向上させるために、予め無機ナノ粒子に有機化合物を被覆しておく技術を開示している。無機ナノ粒子に対する有機化合物の被覆率が高い程、モノマーとの親和性が高められるため、無機ナノ粒子の分散性が向上する。
しかし、本願発明者らの研究によれば、非特許文献1に係る技術は、無機ナノ粒子としての酸化ビスマスの粒子への適用においては、有機化合物の被覆率を高めることについてまだ改善の余地があることが判明した。
本発明の目的は、従来よりも高い被覆率での有機化合物の被覆が可能な有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法と、酸化ビスマスを含む粒子を従来よりも均一に分散させることができる放射線遮蔽部材の製造方法と、組織が従来よりも均質化された放射線遮蔽部材とを提供することである。
本発明に係る有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法は、
(a)表面がタンニン酸で被覆された酸化ビスマス粒子であるタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
(b)前記タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面にカップリング剤を被覆することにより、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
(c)前記カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子の表面に有機化合物を被覆することにより、有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
を有する。
前記工程(a)が、
(a1)タンニン酸を含む水溶液に硝酸ビスマス五水和物を添加することにより、酸化ビスマスを分散質とするコロイド溶液を形成する工程と、
(a2)前記コロイド溶液を乾燥させて残った残留物を熱処理する工程と、
を含んでもよい。
前記有機化合物が、メタクリル系有機化合物であり、
前記工程(c)では、前記有機化合物被覆酸化ビスマス粒子として、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を形成してもよい。
本発明に係る放射線遮蔽部材の製造方法は、
(A)前記有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法によって得た前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を、基材用メタクリル系モノマーに分散させる工程と、
(B)前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子が分散している前記基材用メタクリル系モノマーを重合させる工程と、
を有する。
前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の表層部を構成している前記メタクリル系有機化合物が、被覆用メタクリル系モノマーを含み、
前記工程(B)では、前記基材用メタクリル系モノマーのみならず、前記被覆用メタクリル系モノマーも重合させてもよい。
前記基材用メタクリル系モノマーと前記被覆用メタクリル系モノマーとの双方が、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを共通成分として含んでいてもよい。
本発明に係る放射線遮蔽部材は、
可視光に対して透明なポリマーを含む基材と、
酸化ビスマスよりなるコア粒子部と、前記コア粒子部の表面を被覆している被覆部とを有し、前記基材中に分散して存在している被覆酸化ビスマス粒子と、
を備え、
前記被覆酸化ビスマス粒子の前記被覆部が、タンニン酸及びシラン化合物を含む。
本発明に係る有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法によれば、工程(b)において、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面にカップリング剤を被覆する。これにより、酸化ビスマス粒子の表面にタンニン酸が存在しない場合よりも、カップリング剤の被覆率を高めることができる。この結果、工程(c)では、従来よりも高い被覆率での有機化合物の被覆が可能となる。
本発明に係る放射線遮蔽部材の製造方法で用いるメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子は、上記有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法によって得たものである。このため、メタクリル系有機化合物の被覆率が従来よりも高い。従って、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子は、基材用メタクリル系モノマーとの親和性に優れる。それゆえ、工程(A)では、酸化ビスマスを含む粒子、即ちメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を従来よりも均一に分散させることができる。
本発明に係る放射線遮蔽部材によれば、被覆酸化ビスマス粒子の被覆部が、シラン化合物のみならず、シラン化合物とコア粒子部との親和性を高めるタンニン酸を含む。従って、コア粒子部に対する被覆部の被覆率が従来よりも高められる。この結果、放射線遮蔽部材の製造時において、被覆酸化ビスマス粒子を均一に分散させることができるので、放射線遮蔽部材の組織が従来よりも均質化される。
タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を示すフローチャート。 (A):タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の製造過程で得られる残留物のSEM写真。(B):タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子のSEM写真。 タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子及び残留物の赤外光に対する透過スペクトルを示すグラフ。 カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を示すフローチャート。 メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を示すフローチャート。 カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子及びメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の赤外光に対する透過スペクトルを示すグラフ。 (A):カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子のTEM写真。(B):メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子のTEM写真。 放射線遮蔽眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャート。 (A):比較例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子のTEM写真。(B):比較例に係るメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子のTEM写真。
[実施例]
図1を参照し、上述した工程(a)の一例として、実施例に係るタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を述べる。
まず、蒸留水500mlにタンニン酸2.5gを溶かし込むことにより、連続相としてのタンニン酸水溶液を作製した(ステップS11)。
一方で、化学式Bi(NO・5HOで表される硝酸ビスマス五水和物4.75gを希硝酸10mlに溶かし込むことにより、添加相としての硝酸ビスマス五水和物溶液を作製した(ステップS12)。
そして、その硝酸ビスマス五水和物溶液を、上述した連続相としてのタンニン酸水溶液に添加した。具体的には、室温下において、連続相に添加相を滴下しながら、連続相を撹拌した(ステップS13)。
これにより、硝酸ビスマス五水和物に由来するビスマスイオンBi3+と、タンニン酸に由来する水酸化物イオンOHとが下記式(1)に従って反応する結果、酸化ビスマスよりなる粒子(以下、酸化ビスマス粒子という。)を分散質とするコロイド溶液が形成された。
2Bi3++6OH→2Bi(OH)→Bi+3HO ・・・(1)
なお、ステップS11−S13は、上述した工程(a1)の一具体例である。
次に、そのコロイド溶液から未反応物を遠心分離によって除去し、未反応物が除去されたコロイド溶液を60℃で24時間乾燥させた(ステップS14)。乾燥によって水分が除去された後には、残留物が残った。
図2(A)に、その残留物のSEM(Scanning Electron Microscope)写真を示す。残留物は、タンニン酸よりなる母材の組織によって、無数の酸化ビスマス粒子が連結された構造を有し、全体として塊状をなしている。
図1に戻り、次に上記残留物を熱処理した(ステップS15)。具体的には、上記残留物を電気炉において、昇温速度5℃/minで320℃まで昇温した後、320℃の恒温状態を30分間維持した。これにより、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子が得られた。
なお、ステップS14及びS15は、上述した工程(a2)の一具体例である。
図2(B)に、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子のSEM写真を示す。図2(A)に示した母材がステップS15の熱処理によって分解されたことにより、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子が得られた。個々のタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子は、酸化ビスマス粒子の表面が部分的にタンニン酸で被覆された構造を有する。
図3に、残留物の赤外光に対する透過スペクトルSP1と、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の赤外光に対する透過スペクトルSP2とを示す。横軸は赤外光の波数を示し、縦軸は透過率を示す。なお、透過スペクトルSP1及びSP2は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR:Fourier Transform Infrared Spectrometer)によって測定した。
残留物の透過スペクトルSP1には、タンニン酸の存在を示す吸収パターンP1−P4がみられる。具体的には、吸収パターンP1は、タンニン酸におけるC−Hの結合角が変化する変角振動を示す。吸収パターンP2は、タンニン酸におけるベンゼン環とOH基との結合長さが変化する伸縮振動を示す。吸収パターンP3は、タンニン酸におけるC=Cの結合長さが変化する伸縮振動を示す。吸収パターンP4は、タンニン酸におけるベンゼン環とOとの二重結合の結合長さが変化する伸縮振動を示す。
一方、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の透過スペクトルSP2には、酸化ビスマスの存在を示す吸収パターンQ1がみられる。具体的には、吸収パターンQ1は、酸化ビスマスにおけるBi原子とO原子との結合長さが変化する伸縮振動を示す。
残留物の透過スペクトルSP1からは、吸収パターンQ1が有意に確認できず、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の透過スペクトルSP2において、吸収パターンQ1が明確にみられた。これは、図2(A)に示すタンニン酸の母材が上記ステップS15の熱処理で分解されたことに起因する。
但し、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の透過スペクトルSP2には、ブロードな吸収パターンQ2もみられる。この吸収パターンQ2は、タンニン酸に起因する吸収パターンP2及びP3が存在する波数区間に存在する。従って、吸収パターンQ2は、タンニン酸の存在を裏付けていると言える。
即ち、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子は、酸化ビスマス粒子の表面が部分的にタンニン酸で被覆された構造を有する。ここで“部分的に”とは、上記ステップS15の熱処理により、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子が、表面に酸化ビスマスよりなる下地が露出している部分を有し得ることを意味する。
図4を参照し、次に上述した工程(b)の一例として、実施例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を述べる。
まず、連続相として、カップリング剤のエタノール溶液を作製した(ステップS21)。カップリング剤には、シラン化合物よりなるもの(以下、シランカップリング剤と記す。)として、ビニルトリエトキシシラン(以下、VTESと記す。)を採用した。
具体的には、VTES、超純水、及びギ酸をエタノールに溶解させ、かつ室温で30分間撹拌することで、加水分解反応を起こした。以上のようにして、シランカップリング剤の加水分解反応が起こったエタノール溶液を作製した。
一方で、図1に示す手順で得た上記タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子に紫外線を照射することで、上記タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面を活性化させた(ステップS22)。紫外線の照射出力は450Wとし、照射時間は1時間とした。
この活性化によって、上記タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の、酸化ビスマスが露出した部分とタンニン酸よりなる皮膜の部分とに、OH基が形成される。
次に、その活性化させたタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を分散相として、上述した連続相としてのエタノール溶液に混合した。上記シランカップリング剤の加水分解反応で生じたシラノール基が、混合の過程でタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子表面のOH基に吸着する。
次に、かかる混合溶液を、ジムロート冷却管を用いて80℃下で10時間にわたり還流させた(ステップS23)。還流の過程で脱水縮合反応が生じ、シロキサン結合が形成されることにより、シランカップリング剤がタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面に固定される。
次に、その還流させた混合溶液から未反応物を遠心分離によって除去し、未反応物が除去された混合溶液を60℃で24時間乾燥させた(ステップS24)。乾燥後には、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面にカップリング剤が被覆された構造を有するカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子が残った。以上のようにして、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子を得た。
図6に、得られたカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子の、赤外光に対する透過スペクトルSP3を示す。横軸は赤外光の波数を示し、縦軸は透過率を示す。透過スペクトルSP3は、FTIRによって測定した。
透過スペクトルSP3には、カップリング剤としてのシラン化合物が酸化ビスマス粒子によって修飾されたことを示す吸収パターンR1−R3がみられる。具体的には、吸収パターンR1は、Bi−O−Siの結合長さが変化する伸縮振動を示す。吸収パターンR2は、Si−O−Siの結合長さが変化する伸縮振動を示す。吸収パターンR3は、C=Cの結合長さが変化する伸縮振動を示す。
図7(A)には、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子のTEM(Transmission Electron Microscope)写真を示している。カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10は、上述した酸化ビスマス粒子であるコア粒子部CGと、コア粒子部CGの表面を被覆している被覆部CT1とを有する。なお、図7(A)に付記するように、被覆部CT1の厚みは、約8.2nmであった。
被覆部CT1は、既述のとおり、タンニン酸よりなる皮膜と、その皮膜を覆うカップリング剤としてのシラン化合物とを含む。タンニン酸よりなる皮膜の存在は、図3に示す吸収パターンQ2によって裏付けられた。カップリング剤としてのシラン化合物の存在は、図6に示す吸収パターンR1−R3によって裏付けられた。
また、被覆部CT1のうちのカップリング剤の、コア粒子部CGに対する被覆率を下記の式(2)によって求めた。図7(A)に付記するように、カップリング剤の被覆率は、5.7%であった。
被覆率=被覆前粒子の質量減少率−被覆後粒子の質量減少率 ・・・(2)
ここでは、“被覆前粒子”とは、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を指し、“被覆後粒子”とは、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10を指す。また、質量減少率とは、100℃から600℃に加熱した場合の質量の減少量の、加熱前の質量に対する割合を指す。なお、質量減少率は、TG−DTA(Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer)によって測定した。
図5を参照し、次に上述した工程(c)の一例として、実施例に係るメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法を述べる。
まず、図4に示す手順で得た上記カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10を、酢酸エチルと混合し、混合液を得た(ステップS31)。なお、混合液には、照射出力200Wの超音波を30分間にわたって付与し、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子と酢酸エチルとの混合を促進した。
次に、その混合液に、モノマーであるメタクリル系有機化合物と、重合開始剤とよりなる添加相を添加した(ステップS32)。メタクリル系有機化合物には、メタクリル酸及びメタクリル酸エチルの2種を採用した。重合開始剤には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと記す。)を採用した。メタクリル酸、メタクリル酸エチル、及びAIBNの配合割合は、質量比で、12.6:6.9:0.195である。
次に、上記添加相が上記混合液に添加されて得られた溶液を、撹拌した後に還流させた(ステップS33)。撹拌は、窒素雰囲気下、常温で30分間にわたり行った。還流は、溶液を80℃に昇温した後、7.5時間にわたり行った。撹拌及び還流により、モノマーであるメタクリル系有機化合物の重合反応が促進される。
次に、上記溶液から未反応物を遠心分離によって除去し、未反応物が除去された溶液を60℃で24時間乾燥させた(ステップS34)。乾燥後には、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10の表面にメタクリル系有機化合物が被覆された構造を有するメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子が残った。以上のようにして、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を得た。
図6に、得られたメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の、赤外光に対する透過スペクトルSP4を示す。横軸は赤外光の波数を示し、縦軸は透過率を示す。透過スペクトルSP4は、FTIRによって測定した。
透過スペクトルSP4には、ポリマー化されたメタクリル系有機化合物の存在を示す吸収パターンS1がみられる。具体的には、吸収パターンS1は、ポリマー化されたメタクリル系有機化合物における、C=Oの結合長さが変化する伸縮振動を示す。
但し、透過スペクトルSP4には、モノマーの存在を示す吸収パターンS2も有意にみられる。従って、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の表層部を構成しているメタクリル系有機化合物は、一部のみがポリマー化されており、残部にモノマー(以下、被覆用メタクリル系モノマーという。)を含んでいると言える。
なお、吸収パターンS2がモノマーの存在を示す理由は、吸収パターンS2が、吸収パターンR3と同じく、C=Cに起因するからである。即ち、付加重合は、モノマーにおける炭素の二重結合等の不飽和結合が開いて、モノマー同士が互いに結びつくことで進行する。従って、仮にメタクリル系有機化合物が完全にポリマー化されていれば、吸収パターンS2は有意には出現しないはずである。吸収パターンS2がみられたことは、メタクリル系有機化合物中にモノマーが残されていることを意味する。
図7(B)には、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子のTEM写真を示している。メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20は、酸化ビスマスよりなるコア粒子部CGと、コア粒子部CGの表面を被覆している被覆部CT2とを有する。なお、図7(B)に付記するように、被覆部CT2の厚みは、約18.2nmであった。
被覆部CT2は、既述のとおり、タンニン酸よりなる皮膜と、その皮膜を覆うカップリング剤としてのシラン化合物よりなる皮膜と、その皮膜を覆うメタクリル系有機化合物とを含む。なお、そのメタクリル系有機化合物がポリマーのみならずモノマーも含んでいることが、既述のとおり、図6に示す吸収パターンS2によって裏付けられた。
また、被覆部CT2のうちのカップリング剤及びメタクリル系有機化合物の、コア粒子部CGに対する被覆率を上述した式(2)によって求めた。なお、ここでは、式(2)に示す“被覆後粒子”とは、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を指す。図7(B)に付記するように、カップリング剤及びメタクリル系有機化合物の被覆率は、14.4%であった。
図8を参照し、次に上述した工程(A)及び工程(B)の一例として、実施例に係る放射線遮蔽眼鏡レンズの製造方法を述べる。
まず、眼鏡レンズを構成することとなる基材用メタクリル系モノマーの溶液を作製した(ステップS41)。
具体的には、溶媒としてのメチルエチルケトン1mLに、光重合開始剤としてのα−ヒドロキシアルキルフェノン化合物を0.4g溶解させた。そして、その溶液に基材用メタクリル系モノマーとしてのメタクリル酸及びメタクリル酸エチルの2種を混合させて全量を40gとした。さらに、その溶液を80℃で1時間静置させることで、溶媒のメチルエチルケトンを除去し、基材用メタクリル系モノマーの溶液を得た。
次に、その基材用メタクリル系モノマーの溶液に、図5に示す手順で得たメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を添加した(ステップS42)。メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20の添加量は、基材用メタクリル系モノマーの溶液100質量%に対する外かけで0.25質量%以上である。
次に、添加したメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を基材用メタクリル系モノマーの溶液中で分散させた(ステップS43)。分散は、照射出力200Wの超音波を10分間にわたって基材用メタクリル系モノマーの溶液に付与することで行った。なお、ステップS43は、上記工程(A)の一例である。
次に、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20が分散した基材用メタクリル系モノマーの溶液を、眼鏡レンズの型枠に充填した(ステップS44)。
次に、充填した基材用メタクリル系モノマーの溶液に紫外光を照射することで、光重合反応により基材用メタクリル系モノマーを重合させた(ステップS45)。紫外光の照射出力は450Wとし、照射時間は30分間とした。なお、ステップS45は、上記工程(B)の一例である。
以上の手順で、放射線遮蔽眼鏡レンズを得た。得られた放射線遮蔽眼鏡レンズは、可視光に対して透明な基材としての眼鏡レンズ本体と、眼鏡レンズ本体に分散して存在している被覆酸化ビスマス粒子としてのメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20とよりなる。
図6を参照して説明したように、ステップS42で添加するメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20の表層部は、一部のみがポリマー化されており、残部に被覆用メタクリル系モノマーを含む。従って、ステップS45では、眼鏡レンズ本体となる基材用メタクリル系モノマーのみならず、被覆用メタクリル系モノマーも同時に重合される。
このため、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20の、眼鏡レンズ本体の組織との結合が頑強な放射線遮蔽眼鏡レンズが得られる。つまり、放射線遮蔽眼鏡レンズの表層からメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20が剥がれ落ちにくい。また、図7(B)に示す被覆部CT2を構成する成分が放射線遮蔽眼鏡レンズの表面に浮き出るブリードアウトが生じにくい。
[比較例]
次に、図1に示す手順で得たタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を構成するタンニン酸の意義を述べるために、まず比較例について説明する。
図9(A)は、比較例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子30のTEM写真を示す。このカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子30は、図4のステップS22で紫外線を照射する対象を、タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子ではなく、タンニン酸の表皮を有さない単なる酸化ビスマス粒子に変更したこと以外は、図4と同じ手順で得たものである。
このカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子30も、図7(A)に示したカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10と同様、コア粒子部CGと、カップリング剤を含む被覆部CT3とを有する。しかし、図9(A)に付記するように、被覆部CT3の厚みは、僅か約6.7nmであった。
また、被覆部CT3のうちのカップリング剤の、コア粒子部CGに対する被覆率を上述した式(2)によって求めたところ、僅か1.7%であった。
これに対し、既述の実施例では、図7(A)に付記したように、被覆部CT1の厚み及びカップリング剤の被覆率のいずれもが比較例よりも優れた値であった。
実施例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子10と、比較例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子30との相違は、タンニン酸の表皮の有無にある。従って、酸化ビスマス粒子の表面にタンニン酸の表皮が存在する場合は、そのタンニン酸の表皮が存在しない場合よりも、カップリング剤の被覆率を高めることができると言える。
即ち、予め酸化ビスマス粒子の表面にタンニン酸の表皮を形成しておくことで、カップリング剤の被覆率を5.7%以上に高めることができ、かつ8.2nm以上の厚さに被覆部CT1を形成できる。これは、タンニン酸が、ビスマス粒子とカップリング剤との親和性を高める役割を果たすためであると考えられる。
図9(B)には、比較例に係るメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子40のTEM写真を示している。このメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子40は、図5のステップS31で酢酸エチルと混合する対象を、上記比較例に係るカップリング剤被覆酸化ビスマス粒子30に変更したこと以外は、図5と同じ手順で得たものである。
このメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子40も、図7(B)に示したメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20と同様、コア粒子部CGと、メタクリル系有機化合物を含む被覆部CT4とを有する。しかし、図9(B)に付記するように、被覆部CT4の厚みは、僅か約7.8nmであった。
また、被覆部CT4のうちのカップリング剤及びメタクリル系有機化合物の、コア粒子部CGに対する被覆率を上述した式(2)によって求めたところ、僅か4.2%であった。
これに対し、既述の実施例では、図7(B)に付記したように、被覆部CT1の厚み及びカップリング剤の被覆率のいずれもが比較例よりも優れた値であった。
既述のように、実施例に係るメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20においては、比較例に係るメタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子40よりも、カップリング剤の被覆率が大きい。従って、カップリング剤の被覆率が大きい程、多くのメタクリル系有機化合物を被覆できると言える。
具体的には、カップリング剤及びメタクリル系有機化合物の被覆率を14.4%以上に高めることができ、かつ18.2nm以上の厚さに被覆部CT2を形成できる。これは、カップリング剤がメタクリル系有機化合物をつなぎ留める役割を果たすからである。
そして、メタクリル系有機化合物の被覆率が高い程、基材用メタクリル系モノマーとの親和性に優れると言える。従って、既述の実施例によれば、図8のステップS43において、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を従来よりも均一に基材用メタクリル系モノマー中に分散させることができる。
また、既述の実施例では、被覆用メタクリル系モノマーと基材用メタクリル系モノマーとを同じ成分で構成した。このことも、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20と基材用メタクリル系モノマーとの相性を良好化し、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20の分散性を高めることに寄与している。
以上のように、実施例によれば、放射線遮蔽眼鏡レンズの製造時において、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20を均一に分散させることができる。このため、組織が従来よりも均質な放射線遮蔽眼鏡レンズを得ることができる。
以上、実施例及び比較例について説明した。以下に述べる変形も可能である。
上記実施例では、被覆用メタクリル系モノマー及び基材用メタクリル系モノマーとして、それぞれメタクリル酸及びメタクリル酸エチルを例示したが、これらに限られない。一般に、被覆用メタクリル系モノマー又は基材用メタクリル系モノマーとしてのメタクリル系有機化合物には、下記式(3)に示す1種又は2種以上のエステルを用いてもよい。
Figure 2021135170
但し、Rは、例えば、メチル基、エチル基、若しくはブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、イソボルニル基、グリシジル基、トリフルオロエチル基、又はH等である。
上記実施例では、被覆用メタクリル系モノマーと基材用メタクリル系モノマーとが同じ成分よりなる場合を述べたが、必ずしも両者が同じ成分よりなる必要はない。但し、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子20の、基材用メタクリル系モノマーに対する分散性をより良好化するためには、被覆用メタクリル系モノマーと基材用メタクリル系モノマーとの双方が、上式(3)に示す1種又は2種以上のエステルを共通成分として含むことが好ましい。特に、被覆用メタクリル系モノマーと基材用メタクリル系モノマーとの双方が、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを共通成分として含むことが好ましい。
上記実施例では、放射線遮蔽部材として眼鏡レンズを例示したが、放射線遮蔽部材は特に眼鏡レンズに限られない。放射線遮蔽部材は、例えば、ゴーグル、ヘルメット、防護服の一部、コンタクトレンズ、その他、身体に装着される光学製品、可視光に対して透明な壁材、光学フィルター、光学フィルム等であってもよい。
10,30…カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子、
20,40…メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子、
CG…コア粒子部、
CT1−CT4…被覆部、
P1−P4,Q1−Q2,R1−R3,S1−S2…吸収パターン、
SP1−SP4…透過スペクトル。

Claims (7)

  1. (a)表面がタンニン酸で被覆された酸化ビスマス粒子であるタンニン酸被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
    (b)前記タンニン酸被覆酸化ビスマス粒子の表面にカップリング剤を被覆することにより、カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
    (c)前記カップリング剤被覆酸化ビスマス粒子の表面に有機化合物を被覆することにより、有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を得る工程と、
    を有する、有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の製造方法。
  2. 前記工程(a)が、
    (a1)タンニン酸を含む水溶液に硝酸ビスマス五水和物を添加することにより、酸化ビスマスを分散質とするコロイド溶液を形成する工程と、
    (a2)前記コロイド溶液を乾燥させて残った残留物を熱処理する工程と、
    を含む、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記有機化合物が、メタクリル系有機化合物であり、
    前記工程(c)では、前記有機化合物被覆酸化ビスマス粒子として、メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を形成する、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. (A)請求項3に記載の製造方法によって得た前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子を、基材用メタクリル系モノマーに分散させる工程と、
    (B)前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子が分散している前記基材用メタクリル系モノマーを重合させる工程と、
    を有する、放射線遮蔽部材の製造方法。
  5. 前記メタクリル系有機化合物被覆酸化ビスマス粒子の表層部を構成している前記メタクリル系有機化合物が、被覆用メタクリル系モノマーを含み、
    前記工程(B)では、前記基材用メタクリル系モノマーのみならず、前記被覆用メタクリル系モノマーも重合させる、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記基材用メタクリル系モノマーと前記被覆用メタクリル系モノマーとの双方が、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを共通成分として含む、請求項5に記載の製造方法。
  7. 可視光に対して透明なポリマーを含む基材と、
    酸化ビスマスよりなるコア粒子部と、前記コア粒子部の表面を被覆している被覆部とを有し、前記基材中に分散して存在している被覆酸化ビスマス粒子と、
    を備え、
    前記被覆酸化ビスマス粒子の前記被覆部が、タンニン酸及びシラン化合物を含む、
    放射線遮蔽部材。
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