JP2021133347A - 核酸吸着材 - Google Patents

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Abstract

【課題】安価であり、核酸を高純度かつ高収率で回収することができる核酸吸着材を提供する。【解決手段】Al2O3が30wt%以上であり、180℃以上で乾熱滅菌された火山灰土壌の粒径0.5mm以下の粉末を用いた。

Description

本発明は、核酸を高純度かつ高収率で回収する核酸吸着材に関する。
近年の遺伝子解析技術の発展により、医学、獣医学、農学等の様々な分野においても遺伝子解析が行われている。例えば、医学分野においては、遺伝子解析によりがん等の疾患の原因となっているタンパク質やその基となる遺伝子が解明されたことにより、これらのタンパク質や遺伝子に特異的に作用する分子標的薬が開発されている。
遺伝子解析を行うためには、生物材料からDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)等の核酸の抽出を行う必要があるが、抽出された遺伝子の検出反応を高感度なものとするためには、核酸を高純度かつ高収率で回収することが求められる。
代表的な核酸の回収方法であるブーム法においては、シリカを含む金属酸化物を吸着材として核酸を吸着、溶出させることにより核酸を回収する。しかし、ブーム法においては、吸着材に対する核酸の吸着過程において有機溶媒やカオトロピック剤等の使用が不可欠であるため、使用後の溶媒廃棄等の問題があるだけでなく、核酸を溶出させる前にアセトンを含有したアルコール溶液で吸着材を洗浄する必要があり、核酸の回収までの操作が煩雑となっていた。
そこで、特許文献1に示されるように、吸着材として酸化アルミニウムを用いることにより、有機溶媒等を使用することなく吸着材に対して核酸を強固に吸着させる核酸の回収方法が知られている。また、従来、吸着材として酸化アルミニウムを用いた場合、吸着材に対して核酸が強固に吸着されることにより、吸着材を繰り返し洗浄しても核酸が溶出せず、核酸の回収率が低くなることがあったが、特許文献1の核酸の回収方法においては、酸化アルミニウムの表面にポリエチレングリコール等の水溶性の中性ポリマーを吸着させて酸化アルミニウムの表面を部分的に被覆することにより、核酸の溶出効率が高められている。
国際公開第2016/152763号公報(第7頁〜第16頁)
しかしながら、特許文献1においては、例えば酸化アルミニウムを中性ポリマー溶液に浸漬させる、または酸化アルミニウムに中性ポリマー溶液を噴霧することにより、酸化アルミニウムの表面に中性ポリマーを吸着させる必要があり、吸着材の作成に手間とコストがかかるものであった。また、吸着材に吸着された核酸を溶出させる際に、核酸と共に中性ポリマーの一部が溶出する虞があり、回収液における核酸の純度が低くなっていた。
発明者らは、特定の火山性土壌、特に特定の鬼界アカホヤ火山灰土壌由来の多孔質粉末が核酸の吸着性能および回収性能に優れることを見出した。
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、安価であり、核酸を高純度かつ高収率で回収することができる核酸吸着材を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明の核酸吸着材は、
Alが30wt%以上であり、180℃以上で乾熱滅菌された火山灰土壌の粒径0.5mm以下の粉末を用いたことを特徴としている。
この特徴によれば、核酸吸着材は火山灰土壌を乾熱滅菌することにより得られるため安価であり、無数の細孔により大きな比表面積を有し、その表面にAlがまだら状に分散・露出された構造であることから、核酸のリン酸基が細孔表面に露出したAlと反応して多くの核酸を吸着することができるとともに、核酸にはホスホジエステル結合を形成する複数のリン酸基があり、そのうちの幾つかが細孔表面に露出したAlと反応することで弱く吸着されることにより、核酸の溶出効率を高めることができるため、核酸を高収率で回収することができる。また、核酸吸着材は粒径0.5mm以下の粉末であり、核酸は径が小さく長いポリマー構造であることから、核酸の一部が細孔内に弱く吸着された状態で、複数の粒子により複合的に吸着することができるため、核酸の吸着性能を高めることができる。加えて、核酸吸着材に火山灰土壌を乾熱滅菌したものを用いることにより、火山灰土壌中の細菌由来の核酸が除去されるとともに、不純物の溶出が防止されるため、目的の核酸を高純度で回収することができる。
前記火山灰土壌は、Feが3〜8wt%である鬼界アカホヤ火山灰土壌であることを特徴としている。
この特徴によれば、Alの割合がFeに比べ3倍以上と多く、アルミニウムイオンがリン酸基と反応して錯体を形成しやすいため、リン酸基を含む核酸の吸着能力に優れる。
前記火山灰土壌は、SiOが39〜65wt%、Alが31〜45wt%、Feが3〜8wt%、その他が0〜22wt%からなることを特徴としている。
この特徴によれば、天然の鬼界アカホヤ火山灰土壌を乾熱滅菌するだけで核酸吸着材が得られるため、加工処理が少ない。
前記火山灰土壌は、180〜1000℃で焼成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、焼成により火山灰土壌の構成化合物を安定させ、一定の形状と強度を確保することができるため、取り扱い性が良い。
前記火山灰土壌は、細孔は径300nm以下のものが全細孔容積に対して10体積%以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、細孔の径が小さいものが存在しやすく、核酸を吸着しやすい。
また、前記火山灰土壌は、細孔は径100nm以下のものが全細孔容積に対して4体積%以上であることを特徴としている。さらに好ましくは、当該細孔は径300nm以下のものが全細孔容積に対して10体積%以上であり、かつ100nm以下のものが全細孔容積に対して4体積%以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、細孔の径が小さいものが存在しやすく、核酸を吸着しやすい。
前記火山灰土壌は、比表面積が3.9m−1以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、表面積が広く、核酸を吸着しやすい。
本発明の核酸吸着材による核酸の吸着メカニズムを説明する概略図である。 実施例における核酸吸着材を構成するアカホヤの焼成温度と細孔径分布の関係を示すグラフである。 実施例における核酸吸着材を構成するアカホヤの焼成温度毎の細孔の径と体積%を示す図である。 実施例における核酸吸着材を構成するアカホヤの焼成温度毎の気孔率を示す図である。 本発明の実施例1における核酸吸着材を構成するアカホヤのサケ精子DNAに対する吸着能力を調べた実験結果を示す図である。 実施例1における核酸吸着材を構成するアカホヤのカンピロバクターDNAに対する吸着能力および回収能力を調べた実験結果を示す図である。 本発明の実施例2における核酸吸着材を構成するアカホヤの焼成温度とカンピロバクターDNAに対する吸着能力および回収能力との関係を調べた実験結果を示す図である。
発明者らは、DNAやRNA等の核酸を吸着する素材として、180℃以上で乾熱滅菌された火山灰土壌、特に天然の鬼界アカホヤ火山灰土壌(以下、単に「アカホヤ」と表記する。)の粒径0.5mm以下の粉末が優れるとの知見を得た。研究の結果から、成分および構造に着目することが有意であったことから、先ずこの事項について説明する。
核酸吸着材による核酸の吸着のメカニズムについて説明する。核酸吸着材は、径100nm以下の無数の細孔を有し、その比表面積が大きいため、ファンデルワールス力や水素結合による核酸に対する物理的な吸着性に優れているとともに、吸水性にも優れている。さらに、核酸吸着材は、Al(酸化アルミニウム)およびFe(酸化鉄)の組成比が高く、親水性を示すため、吸水後では、イオン化したAl3+(アルミニウムイオン)およびFe3+(鉄イオン)が核酸を構成するリン酸基と高い化学反応性を示し、錯体を形成する。
尚、DNAは、デオキシリボースと、リン酸基と、塩基と、から構成されるヌクレオチドを最小単位とするポリマー構造を成している。詳しくは、ヌクレオチド同士は、デオキシリボースの3’位OH基とリン酸基との間でホスホジエステル結合を形成して結合している。ホスホジエステル結合に含まれるリン酸基は、OH基を一つ有しており、ここからHが放出されることにより、DNAはマイナスの電荷を有する。さらに尚、RNAは、リボースと、リン酸基と、塩基と、から構成されるヌクレオチドを最小単位とするポリマー構造を成しており、ヌクレオチド同士の結合等はDNAと略同一構成であるため詳しい説明を省略する。
このように、核酸吸着材は、径100nm以下の無数の細孔により核酸を物理的に吸着するとともに、イオン化したAl3+およびFe3+が核酸を構成するリン酸基と高い化学反応性を示して錯体を形成することにより、核酸を効率よく吸着することができる。
また、図1に示されるように、核酸吸着材は、その表面にAlおよびFeがまだら状に分散・露出された構造であることから、例えばその表面がAlやFeのみで構成される吸着材と比べて、全体の表面積に対するAlやFeの露出面積が小さくなり、核酸が有する複数のリン酸基(図1の多孔質粉末を中心方向から見た1つの細孔を拡大して示す図においてハッチングを付して示す箇所)のうちの幾つかが細孔表面に露出しイオン化したAl3+およびFe3+と反応することで弱く吸着された状態となる(図1の拡大図においては細孔内にDNAの一部が入り込んだ3箇所のリン酸基の内、中央の1つのみ(クロスハッチング)が吸着された状態を例示している。)ことで核酸の溶出効率を高めることができる。そのため、核酸の高収率で回収することができる。
また、核酸吸着材は粒径0.5mm以下の粉末であり、核酸は径が小さく長いポリマー構造であることから、核酸の一部が細孔内に弱く吸着された状態で、複数の粒子により複合的に吸着することができるため、核酸の吸着性能を高めることができる。尚、核酸の一部は、核酸吸着材の細孔表面以外の表面に露出しイオン化したAl3+およびFe3+と反応して吸着されていてもよい。
加えて、核酸吸着材に180℃以上で乾熱滅菌された火山灰土壌を用いることにより、火山灰土壌中の細菌由来の核酸が除去されるとともに、不純物の溶出が防止されるため、目的の核酸を高純度で回収することができる。
本発明に係る核酸吸着材を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。尚、本実施例において成分組成比等の各試験結果はサンプル数3以上の平均値である。
核酸吸着材は、宮崎県東諸県郡地区産出のアカホヤを粉砕してふるいにかけた後、次の条件で乾熱滅菌することにより土壌由来の細菌を死滅させ、細菌由来の核酸が除去される。
温度 180℃
保持時間 40分
乾熱滅菌器(ADVANTEC社製STA620DA)
さらに、核酸吸着材は、乾熱滅菌後、次の条件で焼成することにより構成化合物を安定させ、一定の形状と強度を確保する。また、核酸吸着材は、焼成後、0.5mmのふるいにかけて粒径を調整した。
温度 800〜1000℃
保持時間 60分(昇温100℃/1時間)
焼成装置(ADVANTEC社製電気マッフル炉FUW220PA)
乾熱滅菌前および焼成前のアカホヤの成分組成比は以下のとおりであった。尚、成分組成比は、島津製作所社製エネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX−720を用いてJIS K0119:2008により分析した。
51.0wt% SiO
39.7wt% Al
4.71wt% Fe
1.49wt% K
1.40wt% CaO
0.51wt% MgO
0.53wt% TiO
0.66wt% その他
焼成後のアカホヤの成分組成比は以下の表1のとおりであった。
Figure 2021133347
焼成後のアカホヤは、Alの成分組成比が38.3〜39.2wt%、Feの成分組成比が3.96〜4.79wt%であり、SiOに対してAlおよびFeの比率が高い。
ここで、焼成温度によって細孔径分布、気孔率、比表面積が変化しているので以下説明する。尚、細孔径分布および気孔率は、Micromeritics社製AutoPoreV9620を用いて水銀圧入法(JIS R1655)により分析した。
図2および図3のグラフに示されるように、アカホヤの細孔は、径0.01〜10μm(100〜10000nm)に分布しており、焼成温度800〜1000℃では、径300nm以下(径0.01nm以上〜300nm以下に同じ。)の細孔は10体積%以上であり、かつ径100nm以下の細孔は4体積%以上であり細孔の分布があるが、焼成温度1100℃、1150℃では、径300nm以下の細孔は5体積%未満であり、径100nm以下の細孔は1体積%未満であり細孔の分布がなくなっている。すなわち、焼成温度が高くなるにつれて細孔が閉塞し、細孔径分布が変化することが確認された。
図4に示されるように、アカホヤの気孔率は、焼成温度800〜1150℃において40〜50%の高い気孔率を有し、狭い範囲内にある。
また、比表面積は、Micromeritics社製FlowSorb3 2310を用いてBET法(JIS Z8830)により求めた。
表2に示されるように、アカホヤの比表面積は、焼成無しで68.7m−1であったものが、焼成温度800℃で36.0m−1、焼成温度900℃で9.54m−1、焼成温度1000℃で3.9m−1、焼成温度1100℃で1.35m−1、焼成温度1150℃で0.79m−1と低下している。すなわち、焼成温度が高くなるにつれて細孔の閉塞に伴い比表面積が低下する。
Figure 2021133347
次に、上述したアカホヤと同様の加工処理を行った栃木県鹿沼地区産出の赤玉土について説明する。
乾熱滅菌前および焼成前の赤玉土の成分組成比は以下のとおりであった。
46.5wt% SiO
34.9wt% Al
13.2wt% Fe
1.37wt% K
0.58wt% CaO
1.31wt% MgO
1.35wt% TiO
0.79wt% その他
焼成後の赤玉土の成分組成比は以下の表3のとおりであった。
Figure 2021133347
焼成後の赤玉土は、Alの成分組成比が33.0〜34.6wt%、Feの成分組成比が11.7〜13.1wt%であり、SiOに対してAlおよびFeの比率が高い。また、アカホヤと比べてAlの成分組成比が低く、Feの成分組成比が高い。
次に、上述したアカホヤおよび赤玉土と同様の加工処理を行った宮崎県新富地区産出の粘土について説明する。
乾熱滅菌前および焼成前の成分組成比は以下のとおりであった。
65.2wt% SiO
23.0wt% Al
5.18wt% Fe
3.71wt% K
0.24wt% CaO
1.65wt% MgO
0.81wt% TiO
0.21wt% その他
焼成後の粘土の成分組成比は以下の表4のとおりであった。
Figure 2021133347
焼成後の粘土は、Alの成分組成比が22.2〜22.7wt%、Feの成分組成比が4.76〜4.91wt%であり、SiOに対してAlおよびFeの比率が低い。また、アカホヤと比べてAlの成分組成比が低く、Feの成分組成比が略同じである。
すなわち、アカホヤは、赤玉土および粘土と比べて、安定度定数の高いAl3+を生じるAlの成分組成比が高く、かつ赤玉土と比べてFeの成分組成比が低いため、例えばAl3+(アルミニウムイオン)と核酸のリン酸基で錯体を形成しやすく、当該錯体と他の核酸のリン酸基との逐次反応が起こり、核酸をより効率よく吸着することができる。
このように、核酸吸着材は、九州南部において地下の比較的浅い場所に無尽蔵に存在する自然素材であるアカホヤから構成されることにより、核酸に対する高い吸着能力を有しながら、安価にかつ環境への負担の少なくすることができる。尚、核酸吸着材として用いるアカホヤは、九州南部において産出されたものであれば、宮崎県東諸県郡地区産出のものに限らない。
実施例1に係る核酸吸着材について説明する。実施例の核酸吸着材は、粉砕し次の条件で乾熱滅菌した後、粒径0.5mm以下に調整した粉末状のアカホヤ0.1gを径6mmの円筒形状のミニカラム内に充填することにより構成されている。尚、核酸吸着材の粒径は0.5mm以下、好ましくは0.1mm以下である。
温度 180℃
保持時間 40分
乾熱滅菌器(ADVANTEC社製STA620DA)
次いで、核酸吸着材による核酸吸着試験について説明する。径10mmの遠心管に装着した核酸吸着材に濃度を段階的に調整したサケ精子DNA50μlをそれぞれ添加した後、遠心機(日立社製CT15RE)により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた通過液をPCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅させて、バンドの有無を確認した。
サンプル1〜10におけるサケ精子DNAの濃度は以下の表5のとおりであった。
Figure 2021133347
図5の写真に示されるように、サンプル1〜4においては、通過液中に含まれていたサケ精子DNAが増幅されたことを示すバンドが検出されたが、サンプル5〜10においては、バンドが検出されなかった。すなわち、サンプル5の結果に基づき、アカホヤを素材とする核酸吸着材は少なくともアカホヤ1g当たり55.5μgのサケ精子DNAを吸着する能力があることが確認された。
次いで、核酸吸着材の核酸回収試験について説明する。遠心管に装着した核酸吸着材にカンピロバクター・ジェジュニから抽出したDNA50μlを添加した後、遠心機により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた通過液をPCR法により増幅させて、バンドの有無を確認した。また、DNAが吸着された核酸吸着材に溶出液としての0.001%スキムミルク(日本ベクトンディッキンソン社製)50μlを添加した後、遠心機により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた溶出液(1回目)をPCR法により増幅させて、バンドの有無を確認した。さらに、DNAを溶出させた核酸吸着材に0.001%スキムミルク50μlを再度添加した後、遠心機により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた溶出液(2回目)をPCR法により増幅させて、バンドの有無を確認した。
サンプル1〜6におけるカンピロバクター・ジェジュニDNAの濃度は以下の表6のとおりであった。
Figure 2021133347
図6の写真に示されるように、サンプル1〜6において、核酸吸着材によりDNAが吸着された通過液には、カンピロバクター・ジェジュニDNAが増幅されたことを示すバンドが検出されなかったが、1回目の溶出液と2回目の溶出液には、共にバンドが検出された。すなわち、核酸吸着材に吸着されたDNAの溶出効率が高いことが確認された。
尚、スキムミルクの添加により核酸吸着材の表面におけるpHが増加することにより、三価のアルミニウムの溶解度が減少することから、錯体を形成して吸着されたDNAが溶出しやすくなっている。また、1回目の溶出では核酸吸着材の表面側で形成された錯体に対する逐次反応により錯体を形成して吸着された外側のDNAが主に溶出し、2回目の溶出では、核酸吸着材の表面側で錯体を形成して吸着されたDNAが主に溶出する。尚、核酸吸着材の表面は、AlおよびFeがまだら状に分散・露出された構造であることから、核酸が有する複数のリン酸基のうちの幾つかが細孔表面に露出しイオン化したAl3+およびFe3+と反応することで弱く吸着された状態となることにより、核酸吸着材の表面側で錯体を形成して吸着されたDNAが溶出しやすくなっており、核酸の溶出効率が高められ、核酸の高収率で回収することができる。
実施例2に係る核酸吸着材について説明する。実施例の核酸吸着材は、粉砕し前記実施例1と同じ条件で乾熱滅菌し、さらに次の条件で焼成した後、粒径0.5mm以下に調整した粉末状のアカホヤ0.1gを径6mmの円筒形状のミニカラム内にそれぞれ充填することにより構成されている。
温度 800℃、1000℃、1100℃
保持時間 60分(昇温100℃/1時間)
焼成装置(ADVANTEC社製電気マッフル炉FUW220PA)
次いで、核酸吸着材を構成するアカホヤの焼成温度と核酸の吸着能力および回収能力との関係について調べた試験について説明する。径10mmの遠心管に装着した核酸吸着材にカンピロバクター・ジェジュニから抽出したDNA50μlを添加した後、遠心機により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた通過液をPCR法により増幅させて、バンドの有無を確認した。また、DNAが吸着された核酸吸着材に溶出液としての0.001%スキムミルク50μlを添加した後、遠心機により13000rpmで30秒間遠心分離することにより得られた溶出液をPCR法により増幅させて、バンドの有無を確認した。尚、アカホヤの焼成温度が異なる核酸吸着材について、それぞれ同一の操作を行った。
サンプル1〜7におけるカンピロバクター・ジェジュニDNAの濃度は以下の表7のとおりであった。
Figure 2021133347
図7の左側の写真に示されるように、焼成温度800℃のアカホヤから構成される核酸吸着材によりDNAが吸着された通過液には、サンプル1のみカンピロバクター・ジェジュニDNAが増幅されたことを示すバンドが検出され、サンプル2〜7にはバンドが検出されなかった。また、焼成温度1000℃、1100℃のアカホヤから構成される核酸吸着材によりDNAが吸着された通過液では、サンプル1以外においてもカンピロバクター・ジェジュニDNAが増幅されたことを示すバンドが検出された。尚、焼成温度800℃、1000℃、1100℃のアカホヤから構成される核酸吸着材の溶出液には、サンプル1〜7の全てにおいてバンドが検出された。すなわち、アカホヤの焼成温度の上昇に伴い核酸吸着材の吸着性能が低下することが確認された。
詳しくは、アカホヤの焼成は、径300nm以下の細孔は10体積%以上、さらに好ましくは径300nm以下の細孔は10体積%以上かつ径100nm以下の細孔を4体積%以上有し、その比表面積が3.9m−1以上(好ましくは36.0〜69.0m−1)となる焼成温度1000℃以下(好ましくは800℃以下)で行われることにより、アカホヤの細孔による核酸の物理的な吸着能力を維持することが確認された。すなわち、核酸の物理的な吸着能力には、細孔の径と小さな径の細孔の割合、比表面積が重要であることが判明した。
また、アカホヤ等の火山灰土壌は、未処理の状態では核酸に対する吸着力がかなり強いことから、乾熱滅菌後の焼成温度を調整することにより適正な吸着力となり、核酸の吸着性能および回収性能を最適化することができる。また、焼成温度の調整に限らず、火山灰土壌に対してリン酸等により前処理を行うことで、核酸との反応を抑制して核酸の吸着性能および回収性能を最適化してもよい。
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例1では、核酸吸着材に乾熱滅菌され、粒径0.5mm以下に調整されたアカホヤ、前記実施例2では、核酸吸着材に乾熱滅菌および焼成され、粒径0.5mm以下に調整されたアカホヤが用いられる例について説明したが、これに限らず、Alを30wt%以上含有している火山灰土壌であれば、例えば乾熱滅菌され、粒径0.5mm以下に調整された赤玉土であってもよく、鹿沼土や粘土やシラス等の火山灰土壌にAlを30wt%以上含有させるように加工処理したものであってもよい。
また、前記実施例1、2においては、精製・抽出されたDNAを吸着させる態様について説明したが、核酸吸着材は、生物材料から核酸を精製するために使用されてもよい。例えば生物材料の破砕液を核酸吸着材に通過させて核酸を吸着させた後、タンパク質等の核酸以外の物質を除去するために核酸吸着材に洗浄液を通過させ、さらに核酸吸着材にスキムミルク等の溶出液を通過させ核酸吸着材に吸着された核酸を回収してもよい。また、核酸の溶出に少量の溶出液を使用することで、核酸の濃縮が可能である。これによれば、コストが安く、設備に負担を掛けない核酸の濃縮・精製・抽出方法を実現することができる。尚、洗浄液や溶出液は使用条件に応じて自由に選択されてよい。また、核酸吸着材に対して各種溶液を通過させる際には遠心機を使用しなくてもよい。
また、核酸吸着材は、核酸であればDNAに限らず、各種RNAの濃縮・精製・抽出に使用されてもよい。尚、RNAは、DNAと比べて長さが短いものが多いことから、核酸吸着材の細孔内に入り込むことで吸着されやすくなり、吸着効率が高い。
また、本発明の核酸吸着材は、核酸の濃縮・精製・抽出に使用されるものに限らず、例えば細菌の内毒素(リポ多糖体)を精製する際、最終標品への核酸の混入を避けるために核酸の吸着・除去に使用されてもよい。
産業上の利用分野
1.分子生物学分野でゲノム解析に用いる核酸抽出技術としての利用。
2.感染症診断のための病原体DNAの検出に用いる簡易・迅速核酸抽出キットとしての利用。
3.試験研究において、生物材料に混入した核酸を除去するツールとしての利用。

Claims (7)

  1. Alが30wt%以上であり、180℃以上で乾熱滅菌された火山灰土壌の粒径0.5mm以下の粉末を用いたことを特徴とする核酸吸着材。
  2. 前記火山灰土壌は、Feが3〜8wt%である鬼界アカホヤ火山灰土壌であることを特徴とする請求項1に記載の核酸吸着材。
  3. 前記火山灰土壌は、SiOが39〜65wt%、Alが31〜45wt%、Feが3〜8wt%、その他が0〜22wt%からなることを特徴とする請求項1または2に記載の核酸吸着材。
  4. 前記火山灰土壌は、180〜1000℃で焼成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の核酸吸着材。
  5. 前記火山灰土壌は、細孔は径300nm以下のものが全細孔容積に対して10体積%以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の核酸吸着材。
  6. 前記火山灰土壌は、細孔は径100nm以下のものが全細孔容積に対して4体積%以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の核酸吸着材。
  7. 前記火山灰土壌は、比表面積が3.9m−1以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の核酸吸着材。
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