JP4665124B2 - 環境サンプルからのdnaの回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、環境サンプルからDNAを回収する方法に関する。
土壌等の環境中には様々な微生物が生息しており、膨大なる多様性を秘めている。しかし現在その99%以上が培養できない、もしくは極めて難培養な微生物であるとされており、培養法に頼った土壌微生物の群集構造解析には限界があり、また培養法に頼る限りにおいて、培養できない土壌微生物の遺伝子解析ができないことは明らかである(Rondon et al.1999)。土壌に含まれるDNAを直接抽出し解析することができれば、培養できないものも含め土壌にどのような微生物がいるのか知ることができ、また新規の遺伝子の情報を塩基配列という形で入手することも可能になる。
群集構造解析においては、16S rRNA遺伝子や18S rRNA遺伝子のように細菌や真菌といった幅広い生物群が共通して保有する遺伝子について、ユニバーサルプライマーもしくは標的とする生物群(属、種レベル)のみに適合するようなプライマーを用いてPCR増幅し、DGGE、TGGEもしくはクローニングを経て、塩基配列を解読することにより解析が行われている。この群集構造解析において最も問題となるのが「バイアス」である。PCRバイアスの問題も無視できないが、それ以前に、土壌からの抽出の段階であらゆる微生物からバイアスがかかることなくDNAが抽出されているのかという疑問がある。より正確に微生物の群集構造を解析しようとするならば、まずは土壌からの抽出の段階であらゆる微生物から偏りなくDNAが抽出されていることが求められる。
また最近、環境DNA(=eDNA、environmental DNA)という言葉が用いられることがある。環境(土壌や汚泥、湖水、海水など)から培養を経ずに直接抽出されたDNA(特に土壌から直接抽出されたDNAを土壌DNA(=sDNA、soil DNA)と呼ぶ)を、新規微生物の情報をも大量に保持している遺伝子のプールとして考え、これをもとにライブラリーを作成し、クローニングを行い、遺伝子発現系に導入することにより、土壌微生物の遺伝子由来の有用物質(抗生物質、酵素など)をEscherichia coliなどの宿主に生産させることが試みられている(Seow 1997、Handelsman et al.1998)。培養困難な新規微生物は現在知られている種の少なくとも100倍以上は存在すると考えられているため、これらの遺伝子の情報を含んでいる環境DNAや土壌DNAの潜在的利用価値は非常に高いと考えられる(植田2000、長谷部2003)。これらを利用した研究はコンビナトリアル生物学(Combinatorial Biology)もしくはコンビナトリアル遺伝学(Combinatorial Genetics)と呼ばれ、今後の発展が期待されている分野である。このような研究のためにも、様々な土壌から、そしてより多くの微生物からDNAを抽出する技術は重要であろう。
土壌DNA抽出法の開発の歩み
土壌からDNAを抽出する試みはTorsvik & Goksoyr(1978、1980)によって初めて行われた(Torsvik VL、Goksoyr J;Soil Biology and Biochemistry;1978、10:p.7−12)。彼らの方法は、土壌から微生物をピロリン酸緩衝液などにより分離回収し、この微生物画分よりDNAを抽出するものであり、こうして得られたDNAを彼らは「土壌DNA」とした。この方法は、いったん土壌から微生物画分を回収し、ここからDNAを抽出するため間接抽出法(indirect extraction method)と呼ばれている。しかしながら、この方法では、緩衝液で土壌を洗浄しても回収できない微生物のDNAを得ることはできない。すなわち放線菌の一部など土壌粒子に強固に吸着しているものや、植物遺体内に生息している微生物、また団粒の内部に生息している微生物のDNAは、この方法では抽出できなかった可能性がある。その後、Ogram et al.(1987)やTsai & Olson(1991)、Zhou et al.(1996)などにより直接抽出法(direct extraction method)が相次いで開発された。これらの方法は、lysozymeやproteinase Kといった酵素やSDSを含むアルカリ性抽出液で土壌を処理し、タンパク質を変性させることにより、菌体を土壌から分離することなく、すなわち土壌というマトリックスの存在する溶液中で、溶菌させDNAを抽出するものである。この方法は、原理的には間接抽出法よりもより実際の土壌の微生物群集構造を反映した組成から成るDNAが得られると考えられ、また収量の面で優れている。しかしこの方法では、緩衝液のアルカリ性条件下で土壌を長時間加熱処理するため、相当量の腐植物質の混入が問題となる。
間接抽出法は土壌の群集構造を正確に反映していない可能性があるが、いったん土壌から微生物を分離した後にDNAを抽出するので、直接抽出法よりも腐植物質の混入が少ないのみならず、土壌粒子がDNAと衝突することによって生じる物理的なせん断によるDNAの断片化を抑えることが可能であり、より高分子のDNAを得ることができる。また近年、クローニング効率が高い高分子DNAを導入することができるベクターが開発されたことから、間接抽出法は、群集構造解析よりも遺伝子探索の研究においてよく使用されるようになってきた(Bakken & Lindahl 1995、Saano et al.1995、Berry et al.2003、Gabor et al.2003)。
一方、より短時間に、より多くの土壌微生物からDNAを抽出することを目的に、beads beaterを用いて細胞を機械的に破壊する方法が新たに登場した(Kuske CR,Banton KL,Adorada DL,et al.;Applied and Environmental Microbiology,1998、64:(7)p.2463−2472)。beads−beatingの条件検討はB▲u▼rgmann et al.(2001)により極めて詳細に検討されている(B▲u▼rgmann H.,Pesaro M.,Widmer F.and Zeyer J.;Journal of Microbiological Methods;2001、45:(1)p.7−20)。この方法では、細胞外多糖膜をもつためSDSなどの界面活性剤の影響を受けにくいグラム陽性菌であっても機械的に破砕されるため、極めて高収率でDNAが抽出できるという利点がある。またbeads−beatingは抽出が短時間で終わるため、腐植物質の混入が少ない土壌DNA試料を得ることができる。しかしbeads(ガラスビーズ、シリカジルコニアビーズ、アルミナビーズなど)による機械的な衝撃破砕は菌体から抽出されてきた高分子であるDNAにも作用し、DNAが物理的にせん断されてしまうこともある。このように様々な微生物群から偏りなくDNAが取れる一方、DNAが低分子化することから比較的短い配列をターゲットとするDGGEなどの群集構造解析には、この方法が多く用いられている。
また近年Bio101 Fast DNA spin kit(Qbio,USA)やUltra Clean Soil DNA kit(MoBio,USA)など、試薬メーカーから独自の方法により短時間で土壌からのDNAを調製するキットも製品化されている。いずれもがbeads beaterを使用し、短時間で土壌DNA抽出が可能になっているものである。
上記のように、これまで土壌DNAの様々な抽出法が考案されたが、用いる界面活性剤や緩衝液の組成や濃度などは研究によってまちまちであり、これらの条件とDNA抽出効率、あるいは抽出されたDNAの質(純度や断片化の程度など)との関係について体系的に検討した例はほとんどない。
土壌DNAの精製法に関する従来の知見
DNA試料に混入した腐植物質は極めて微量でもPCR反応を阻害する(Tsai et al.1991)。このためZhou et al.(1996)らは抽出した土壌DNAをアガロースゲルでいったん電気泳動することで腐植物質とDNAを分離し、その後ゲルからDNAのみを回収するという方法をとっている(Zhou JZ,Bruns MA,Tiedje JM;Applied and environmental microbiology;1996;62:(2)p.316−322)。また、低融点アガロースゲルを利用した方法としてagarose−embedded preparationがあげられる(Moreira 1998)。これは、DNAが腐植物質より高分子であることを利用し、いったん腐植物質を含んだ土壌DNA溶液を低融点アガロースゲル中に閉じ込めるように固化し、そのゲル片をTE bufferで透析し、低分子である腐植物質を徐々に取り除くものである。透析処理において高分子DNAはアガロースゲル中に留まり、低分子である腐植物質は拡散によりアガロースゲルから抜けてゆき、腐植物質をゲル片から取り除いた後にアガロースを溶解させDNAを回収するものである。このようにDNAと腐植物質を分離できる物性の違いとしてとしてその分子量の差が上げられ、多くの精製法がこの原理に基づいている。分子量に基づいた代表的分離法として、ゲルろ過法があげられる。SephadexやSepharoseといった多孔質の樹脂を利用し、サイズ分画により、比較的大きなDNA分子を小さな腐植物質から分離して回収しようとするものである(e.g.Jackson et al.1997,Miller 2001)。その他には、カオトロピック塩溶液中ではカオトロピック効果によりDNAがガラス表面に吸着しやすくなることを利用して、ガラスパウダー、シリカゲルパウダー、シリカメンブレンなどにDNAをまず吸着させ、その後エタノールなどで吸着していな夾雑物を洗浄して取り除き、極性の高い水を用いてDNAを再抽出する精製方法がある。Bio101 Fast DNA spin kit(Qbio,USA)やUltra Clean Soil DNA kit(MoBio,USA)などは抽出した土壌DNAの精製にこの原理を用いていると考えられる。また、磁性ビーズを利用した精製法も実用化されている(製品名Wizard Magnetic,Promega,Madison WI,USA)。一方、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)やセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)なども腐植物質の除去剤として使用されてきたが、これらの使用によって土壌DNA試料への腐植物質の混入を軽減する効果は見られるものの、完全な除去までには至っておらず、PVPPについてはDNAの収量が下がるなどの問題が生じる場合もあった(Zhou et al.1996)。
本発明は、高収量でかつ高純度のDNAを土壌から抽出するための方法を提供することを目的とする。
本発明者は、高収量かつ高純度に土壌DNAを抽出する手法を開発するため、まず化学的な条件として、土壌微生物細胞の溶解に適し、土壌由来の腐植物質や粘土など様々な物質が共存する条件下でも十分に微生物を溶菌させることが可能な界面活性剤を検索した。次に細胞破壊の物理的な条件として、beads−beatingによる破砕や加熱の条件の検討を行った。また、抽出液に使用するTris−HCl緩衝液、EDTA溶液、リン酸緩衝液の特性や、得られた土壌DNAの精製および沈殿方法として陽イオン界面活性剤であるCTABによる精製およびポリエチレングリコール(PEG)によるDNAの沈殿操作を最適な条件で組み合わせることなど、性質の異なる様々な土壌からより簡便な操作でより高収量かつ高純度なDNAを得る抽出−精製手法を確立するため、鋭意検討を行なった。
その結果、高収量かつ高純度な土壌DNAを抽出する手法を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを処理することを特徴とする、環境サンプルからDNAを抽出する方法。
(2)界面活性剤がSDS、CTAB、Triton X−100及びN−ラウロイルサルコシンナトリウムからなる群から選ばれるいずれかのものである(1)記載の方法。
(3)DNA抽出液が、さらにリン酸緩衝液及び/又はEDTAを含むものである(1)記載の方法。
(4)DNA抽出液のpHが7以上である(1)記載の方法。
(5)リン酸緩衝液の濃度が100mM〜1500mMである(3)記載の方法。
(6)EDTAの濃度が50mM〜600mMである(3)記載の方法。
(7)リン酸緩衝液の濃度が100mM〜750mMであり、かつ、EDTAの濃度が50mM〜600mMである(3)記載の方法。
(8)環境サンプルが、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥及び糞便からなる群から選ばれる少なくとも1つである(1)記載の方法。
(9)環境サンプルの処理が、環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理するものである(1)記載の方法。
(10) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)遠心後上清を採取し、
(d)上清の採取後の残存環境サンプルについて、上記(a)〜(c)工程を1回〜4回繰り返す
工程を含む前記方法。
(11) DNA抽出液が、さらにリン酸緩衝液及び/又はEDTAを含むものである(10)記載の方法。
(12) EDTAの濃度が50〜600mMである(11)記載の方法。
(13) リン酸緩衝液の濃度が100〜2000mMである(11)記載の方法。
(14) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤及び50〜600mMのEDTAを含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心して上清を採取し、
(c)採取された上清と600〜1100mMのEDTAとを混合する
工程を含む前記方法。
(15) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤及び50〜600mMのEDTAを含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清と600〜1100mMのEDTAとの混合物を加熱処理する
工程を含む前記方法。
(16) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
5%以下の界面活性剤及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理する
工程を含む前記方法。
(17) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
5%以下の界面活性剤、100〜800mMのEDTA及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理する
工程を含む前記方法。
(18) EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(17)記載の方法。
(19) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液Iの存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液Iを、75〜1200mMのEDTA、250〜3000mMのリン酸緩衝液、又は前記EDTAとリン酸緩衝液との混合物と混合して抽出液IIを調製し、
(c)前記抽出液IIからDNAを抽出する
工程を含む前記方法。
(20) 抽出液Iと混合するEDTAの濃度が400〜800mMである(19)記載の方法。
(21) 抽出液Iと混合するリン酸緩衝液の濃度が750〜1500mMである(19)記載の方法。
(22) 抽出液Iと混合するEDTAの濃度が400mMであり、かつ、抽出液Iと混合するリン酸緩衝液の濃度が750mMである(19)記載の方法。
(23) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下で土壌サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液IIIを、400〜1000mMのEDTA、750〜2050mMのリン酸緩衝液、又は前記EDTAとリン酸緩衝液との混合物と混合して抽出液IVを調製し、
(c)前記抽出液IVからDNAを抽出する
工程を含む前記方法。
(24) DNAを抽出する工程が、抽出液IVを加熱処理した後、遠心するものである(23)記載の方法。
(25) 抽出液IIIにおいて、EDTAの濃度が300mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が100mMである(23)記載の方法。
(26) 抽出液IIIと混合するEDTAの濃度が400mMであり、かつ、抽出液IIIと混合するリン酸緩衝液の濃度が750mMである(23)記載の方法。
(27) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液Vの存在下で環境サンプルを加熱処理し、
(b)加熱処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取し、
(c)残存した環境サンプルを、5%以下の界面活性剤、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下でbeads−beating処理し、
(d)beads−beating処理後の抽出液IIIを遠心して上清を採取する
工程を含む前記方法。
(28) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液Vの存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取し、
(c)残存した環境サンプルを、5%以下の界面活性剤、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下でbeads−beating処理し、
(d)beads−beating処理後の抽出液IIIを遠心して上清を採取する
工程を含む前記方法。
(29) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)200〜800mMのEDTA及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを第一加熱処理し、
(b)第一加熱処理後の環境サンプルと、5%以下の界面活性剤とを混合して当該混合物を第二加熱処理する
工程を含む前記方法。
(30) 環境サンプルからDNAを抽出する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の環境サンプルと5%以下の界面活性剤とを混合して当該混合物を加熱処理する
工程を含む前記方法。
(31) 抽出液Vにおいて、EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(27)又は(28)記載の方法。
(32) EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(29)又は(30)記載の方法。
(33) 環境サンプル由来のDNAを、陽イオン界面括性剤及び塩の存在下で精製することを特徴とするDNAの精製方法。
(34) 環境サンプル由来のDNAが、(1)〜(32)のいずれか1項に記載の方法により抽出されたDNAである(33)記載の方法。
(35) 陽イオン界面活性剤がCTABである(33)又は(34)記載の方法。
(36) 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである(33)又は(34)記載の方法。
(37) 陽イオン界面活性剤の濃度が1〜3%である(33)又は(34)記載の方法。
(38) 塩の濃度が0.7〜2.1Mである(33)又は(34)記載の方法。
(39) 陽イオン界面活性剤の濃度が2〜3%であり、かつ、塩の濃度が1.0Mである(33)又は(34)記載の方法。
(40) pH7.0未満の条件で精製することを特徴とする(33)又は(34)記載の方法。
(41) 上記(33)〜(40)のいずれか1項に記載の方法により精製されたDNAを、2−プロパノール、エタノール又はポリエチレングリコールの存在下で沈殿させることを特徴とするDNAの回収方法。
(42) pH7.0以上の条件で沈殿させることを特徴とする(41)記載の方法。
(43) ポリエチレングリコールの濃度が5〜7.5%である(41)記載の方法。
(44) 上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の方法により抽出されたDNAを、2−プロパノール、エタノール又はポリエチレングリコールの存在下で沈殿させることを特徴とするDNAの回収方法。
(45) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(46) DNA抽出液が、さらにリン酸緩衝液及び/又はEDTAを含むものである(45)記載の方法。
(47) EDTAの濃度が50〜600mMである(46)記載の方法。
(48) リン酸緩衝液の濃度が100〜2000mMである(46)記載の方法。
(49) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清からDNAを回収し、
(d)DNA回収後の残存環境サンプルについて、上記(a)〜(c)工程を1回〜4回繰り返す
工程を含む前記方法。
(50) DNA抽出液が、さらにリン酸緩衝液及びEDTAを含むものである(49)記載の方法。
(51) EDTAの濃度が50mM〜600mMである(50)記載の方法。
(52) リン酸緩衝液の濃度が100〜2000mMである(50)記載の方法。
(53) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤及び50〜600mMのEDTAを含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心して上清を採取し、
(c)採取された上清と600〜1100mMのEDTAとを混合して当該混合物を遠心し、
(d)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(54) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤及び50〜600mMのEDTAを含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清と600〜1100mMのEDTAとを混合して当該混合物を加熱処理し、
(d)加熱後の抽出液を遠心し、
(e)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(55) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(56) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤、100〜800mMのEDTA及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(57) EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(56)記載の方法。
(58) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤を含むDNA抽出液Iの存在下で環境サンプルをbeads−beating処理及び/又は加熱処理し、
(b)beads−beating処理及び/又は加熱処理後の抽出液Iを、75〜1200mMのEDTA、250〜3000mMのリン酸緩衝液、又は前記EDTAとリン酸緩衝液との混合物と混合して抽出液IIを調製し、
(c)抽出液IIを遠心し、
(d)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(59) 抽出液Iと混合するEDTAの濃度が400〜800mMである(58)記載の方法。
(60) 抽出液Iと混合するリン酸緩衝液の濃度が750〜1500mMである(58)記載の方法。
(61) 抽出液Iと混合するEDTAの濃度が400mMであり、かつ、抽出液Iと混合するリン酸緩衝液の濃度が750mMである(58)記載の方法。
(62) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)5%以下の界面活性剤、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液IIIを、400〜1000mMのEDTA、750〜2050mMのリン酸緩衝液、又は前記EDTAとリン酸緩衝液との混合物と混合して抽出液IVを調製し、
(c)抽出液IVを遠心し、
(d)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(63) 抽出液IVを加熱処理した後、遠心することを特徴とする(62)記載の方法。
(64) 抽出液IIIにおいて、EDTAの濃度が300mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が100mMである(62)又は(63)記載の方法。
(65) 抽出液IIIと混合するEDTAの濃度が400mMであり、かつ、抽出液IIIと混合するリン酸緩衝液の濃度が750mMである(62)又は(63)記載の方法。
(66) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液Vの存在下で環境サンプルを加熱処理し、
(b)加熱処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取し、
(c)残存した環境サンプルを、5%以下の界面活性剤、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下でbeads−beating処理し、
(d)beads−beating処理後の抽出液IIIを遠心して上清を採取し、
(e)工程(b)及び/又は(d)において得られた上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(67) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液Vの存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取し、
(c)残存した環境サンプルを、5%以下のSDS、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下でbeads−beating処理し、
(d)beads−beating処理後の抽出液IIIを遠心して上清を採取し、
(e)工程(b)及び/又は(d)において得られた上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(68) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)200〜800mMのEDTA及び250〜2000mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを第一加熱処理し、
(b)5%以下の界面活性剤と環境サンプルとを混合して当該混合物を第二加熱処理し、
(c)第二加熱処理後の抽出液を遠心し、
(d)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(69) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の環境サンプルと5%以下の界面活性剤とを混合して当該混合物を加熱処理し、
(c)加熱処理後の抽出液を遠心し、
(d)得られる上清からDNAを回収する
工程を含む前記方法。
(70) 抽出液Vにおいて、EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(66)又は(67)記載の方法。
(71) EDTAの濃度が400mMであり、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMである(68)又は(69)記載の方法。
(72) DNAの回収が、遠心後の上清と陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(45)〜(57)のいずれか1項に記載の方法。
(73) DNAの回収が、抽出液IIと陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(58)〜(61)のいずれか1項に記載の方法。
(74) DNAの回収が、抽出液IVと陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(62)〜(65)のいずれか1項に記載の方法。
(75) DNAの回収が、加熱処理後の抽出液V及び/又はbeads−beating後の抽出液IIIと陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(66)記載の方法。
(76) DNAの回収が、beads−beating後の抽出液III及び/又はbeads−beating後の抽出液Vと陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(67)記載の方法。
(77) DNAの回収が、第二加熱後の抽出液と陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(68)記載の方法。
(78) DNAの回収が、加熱処理後の抽出液と陽イオン界面活性剤及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含む(69)記載の方法。
(79) 陽イオン界面活性剤がCTABである(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(80) 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(81) 混合液中における陽イオン界面活性剤の濃度が1〜3%である(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(82) 混合液中における塩の濃度が0.7〜2.1Mである(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(83) 混合液中における陽イオン界面活性剤の濃度が2〜3%であり、かつ、混合液中における塩の濃度が1.0Mである(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(84) pH7.0未満の条件で精製することを特徴とする(72)〜(78)のいずれか1項に記載の方法。
(85) DNAの回収が、2−プロパノール、エタノール又はポリエチレングリコールの存在下でDNAを沈殿させる工程を含む(45)〜(84)のいずれか1項に記載の方法。
(86) ポリエチレングリコールの濃度が5.0〜7.5%である(85)記載の方法。
(87) pH7.0以上の条件でDNAを沈殿させることを特徴とする(85)記載の方法。
(88) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)1%の界面活性剤、400mMのEDTA及び750mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを処理してDNAを抽出し、
(b)DNA抽出液と2%のCTAB及び1Mの塩とを混合してDNAを精製し、
(d)精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下で沈殿させる
工程を含む前記方法。
(89) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)1%の界面活性剤、300mMのEDTA及び100mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液と、600mMのEDTA及び2050mMのリン酸緩衝液とを混合し、
(c)工程(b)により得られる抽出液を遠心し、
(d)得られる上清と、2%のCTAB及び1Mの塩とを混合してDNAを精製し、
(e)精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下で沈殿させる
工程を含む前記方法。
(90) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)1%の界面活性剤、300mMのEDTA及び100mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液と、600mMのEDTA及び2050mMのリン酸緩衝液とを混合して加熱処理し、
(c)加熱処理後の抽出液を遠心し、
(d)得られる上清と、2%のCTAB及び1Mの塩とを混合してDNAを精製し、
(e)精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下で沈殿させる
工程を含む前記方法
(91) 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、
(a)1%の界面活性剤、300mMのEDTA及び100mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads−beating処理し、
(b)beads−beating処理後の抽出液を遠心し、
(c)得られる上清と、2%CTAB及び1Mの塩とを混合してDNAを精製し、
(d)精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下で沈殿させる
工程を含む前記方法。
(92) 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである(88)〜(91)のいずれか1項に記載の方法。
(93) ポリエチレングリコールの濃度が5.0〜7.5%である(88)〜(91)のいずれか1項に記載の方法。
(94) pH7.0以上の条件でDNAを沈殿させることを特徴とする(88)〜(91)のいずれか1項に記載の方法。
(95) 5%以下の界面活性剤、又は前記界面活性剤とbeads−beating用ビーズとの組合せを含む、環境サンプルからのDNA抽出用キット。
(96) アルカリ性緩衝液並びにEDTA及び/又はリン酸緩衝液をさらに含む(95)記載のキット。
(97) アルカリ性緩衝液がTris緩衝液である(96)記載のキット。
(98) EDTAの濃度が50mM〜1200mMの範囲から選ばれるいずれかのものである(96)記載のキット。
(99) リン酸緩衝液の濃度が50mM〜3000mMの範囲から選ばれるいずれかのものである(96)記載のキット。
(100) DNA抽出液のpHを7.0以上に調整することができる(96)記載のキット。
(101) 酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む塩溶液、陽イオン界面活性剤、又は当該塩溶液と陽イオン界面活性剤との混合物を含む、環境サンプルからのDNA精製用キット。
(102) 酸性側のpKaを有するpH緩衝液が酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液又は硫酸緩衝液である(101)記載のキット。
(103) 陽イオン界面活性剤がCTABである(101)記載のキット。
(104) 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである(101)記載のキット。
(105) DNA含有溶液のpHを7.0未満に調整することができる(101)記載のキット。
(106) アルカリ性緩衝液を含む、環境サンプルからのDNA回収用キット。
(107) アルカリ性の緩衝液がTris緩衝液である(106)記載のキット。
(108) さらに2−プロパノール、エタノール又はポリエチレングリコールを含む、(106)記載のキット。
(109) DNA含有溶液のpHを7.0以上に調整することができる(106)記載のキット。
(110) 上記(95)〜(100)のいずれか1項に記載のDNA抽出用キット、上記(101)〜(105)のいずれか1項に記載のDNA精製用キット、及び上記(106)〜(109)のいずれか1項に記載のDNA回収用キットからなる群から選ばれる少なくとも2組のキットを含む、環境サンプルからのDNA取得用キットセット。
図1は、土壌DNAの定量例を示す図である。
図2は、各種界面活性剤による土壌DNAの抽出量を示す図である。
図3は、弥生圃場堆肥区土壌からのDNA抽出にSDS濃度が与える影響を示す図である。
図4は、SDS濃度が土壌DNA抽出に与える影響を示す図である。
図5は、抽出液のpHが土壌DNAに与える影響を示す図である。各バーの上に記載の数字はbeads−beating後の抽出液のpHを表す。
図6は、EDTA濃度が火山灰土壌からのDNA抽出に与える影響を示す図である。
図7は、EDTA濃度がDNA抽出量に与える影響を示す図である。
図8Aは、抽出液のEDTA濃度と金属元素の抽出量との関係を示す図である。
図8Bは、抽出液のEDTA濃度と金属元素の抽出量との関係を示す図である。
図8Cは、抽出液のEDTA濃度と金属元素の抽出量との関係を示す図である。
図9Aは、抽出液のEDTA濃度とEDTA−金属元素複合体形成率との関係を示す図である。
図9Bは、抽出液のEDTA濃度とEDTA−金属元素複合体形成率との関係を示す図である。
図9Cは、抽出液のEDTA濃度とEDTA−金属元素複合体形成率との関係を示す図である。
図10Aは、土壌からDNAを繰返し抽出したときのDNA収量を示す図である。
図10Bは、土壌からDNAを繰返し抽出したときのDNA収量を示す図である。
図10Cは、土壌からDNAを繰返し抽出したときのDNA収量を示す図である。
図11は、再添加したEDTA溶液の新たな土壌DNAの抽出量の計算結果を示す図である。
図12は、新たに添加したEDTAにより抽出できたと考えられる土壌DNA量を示す図である。
図13Aは、新たに添加したEDTAにより土壌から抽出された金属量(Al及びFe)を示す図である。
図13Bは、新たに添加したEDTAにより土壌から抽出された金属量(Ca及びMg)を示す図である。
図14は、高濃度EDTA溶液をbeads−beating後に添加した弥生圃場対照区土壌からの土壌DNA抽出結果を示す図である。
図15Aは、抽出液のEDTA濃度が土壌DNA抽出量に及ぼす影響を示す図である。
図15Bは、抽出液のPO 3−濃度が土壌DNA抽出量に及ぼす影響を示す図である。
図16Aは、火山灰土壌における抽出液中のEDTA−リン酸濃度が土壌DNA抽出に及ぼす影響を示す図である。
図16Bは、非火山灰土壌における抽出液中のEDTA−リン酸濃度が土壌DNA抽出に及ぼす影響を示す図である。
図17は、2stepによるDNA抽出における抽出溶液のリン酸イオン濃度と土壌DNAの収量との関係を示す図である。
図18Aは、高濃度のEDTA及びリン酸緩衝液を用いて2段階の操作で抽出した土壌DNAの収量を示す図である。
図18Bは、EDTA、リン酸緩衝液を用いて改良2step法で弥生圃場対照区土壌から抽出した土壌DNAの収量を示す図である。図中に示したEDTA濃度およびPO 3−濃度はbeads−beating時の抽出液における濃度であり、beads−beating後にそれぞれ調製した溶液添加後の終濃度はすべて400mMEDTA/750mMPO 3−である。
図19は、改良2stepによるDNA抽出結果を示す電気泳動写真である。
図20Aは、各沈殿剤を使用したときのDNAの回収結果を示す図である。
図20Bは、土壌DNAの沈殿方法の違いによる腐植の除去効果を示す図である。
図21は、PEG濃度が土壌DNAの回収に与える影響を示す図である。
図22Aは、CTABによる簡易精製を行った場合のDNAの回収量を示す図である。
図22Bは、CTAB処理による腐植物質の除去効果を示す図である。
図22Cは、CTAB処理による腐植物質の除去効果を示す図である。
図23は、オリジナルの4条件による土壌DNAの収量の比較を示す図である。
図24は、オリジナルの4条件による抽出DNAのサイズを示す電気泳動写真である。
図25は、土壌DNA収量における本発明の方法と既往の方法との比較を示す図である。
図26Aは、オリジナル1step法により抽出した土壌DNAのPCR反応を用いた純度検定結果を示す電気泳動写真である。上2つのパネルは鋳型濃度100ng/50μl、中2つのパネルは鋳型濃度50ng/50μl、した2つのパネルは鋳型濃度10ng/50μlである。
図26Bは、オリジナル2step加熱法により抽出した土壌DNAのPCR反応を用いた純度検定結果を示す電気泳動写真である。各パネルにおける鋳型濃度は、図26Aと同様である。
図27Aは、抽出したDNAの評価結果を示す電気泳動写真である。レーン1〜5は弥生圃場対照区土壌、レーン6〜10は千葉農試森林土壌、レーン11〜15は茨城農試森林土壌、レーン16〜20は田無農場牧草地土壌から抽出したDNAの泳動図である。各土壌におけるレーンは、左から順にオリジナル1Step法、2Step法、2Step加熱法、LCB法及びZhou et al.(1996)により抽出した土壌DNAのPCR産物を表す。
図27Bは、抽出したDNAの評価結果を示す電気泳動写真である。レーン1〜8は群馬畜試牧草地、レーン9〜16は栃木森林土壌から抽出したDNAの泳動図である。各土壌におけるレーンは、左から順にオリジナル1Step法、2Step法、2Step加熱法、LCB法、Zhou et al.(1996)の方法、Cullen&Hirsch(1996)の方法、Ultra Clean Soil DNA kit、Bio 101 Fast DNA spin kitによって抽出した土壌DNAのPCR産物である。
図27Cは、抽出したDNAの評価結果を示す電気泳動写真である。レーン1〜8は東北大学森林土壌、レーン9〜16は草地試験場永年採草地土壌から抽出したDNAの泳動図である。各土壌におけるレーンは図27Aと同様である。
図27Dは、抽出したDNAの評価結果を示す電気泳動写真である。レーン1〜8は埼玉農試畑土壌、レーン9〜16は大阪農試畑土壌から抽出したDNAの泳動図である。各土壌におけるレーンは図27Aと同様である。
図27Eは、抽出したDNAの評価結果を示す電気泳動写真である。レーン1〜8は兵庫農試畑土壌、レーン9〜16は奈良農試畑土壌から抽出したDNAの泳動図である。各土壌におけるレーンは図27Aと同様である。
図28は、CTABによるDNA精製時に塩溶液の酸性緩衝能によりpHを低下させることがDNA抽出液の純度に与える影響を示す図である。
図29は、CTABによるDNA精製時に塩溶液の酸性緩衝能によりpHを低下させることが沈殿回収後のDNA溶液の純度に与える影響を示す図である。
図30は、CTABによるDNA精製時に塩溶液の酸性緩衝能によりpHを低下させることがDNAの回収量に与える影響影響を示す図である(PEG溶液をDNAの回収に使用)。
図31は、CTABによる精製時に塩溶液の酸性緩衝能によりpHを低下させることがDNA抽出液の純度に与える影響を示す図である(塩溶液にCHCOONaおよびNaClの混合液を使用した場合)。
図32は、CTABによる精製時に塩溶液の酸性緩衝能によるpHを低下させることがPEG溶液により回収したDNAの純度に与える影響を示す図である(塩溶液にCHCOONaおよびNaClの混合液を使用した場合)。
図33は、CTABによる精製時に塩溶液の酸性緩衝能によりpHを低下させることがDNAの回収量に与える影響を示す図である(塩溶液にCHCOONaおよびNaClの混合液を使用、DNAの回収にPEG溶液を使用)。
図34は、PEG溶液のアルカリ緩衝能の有無が回収するDNAの純度に与える影響を示す図である。
図35は、PEG溶液のアルカリ緩衝能の有無がDNAの回収量に与える影響を示す図である。
図36は、DNAを回収するときに使用するPEG溶液のアルカリ緩衝能が回収したDNAの純度に与える影響を示す図である(EDTA 200mM/NaHPO 375mMの抽出液で得られた土壌DNA抽出液を対象として)。
図37は、CTABによる精製時の塩溶液組成とDNA回収時に使用するのPEG溶液のアルカリ緩衝能がDNAの回収量に与える影響を示す図である(EDTA 200mM/NaHPO 375mMの抽出液で得られた土壌DNA抽出液を対象として)。
図38は、加熱抽出による高分子土壌DNAの抽出条件の検討結果を示す図である(弥生対照区土壌について)。
図39は、加熱抽出による高分子土壌DNAの抽出条件の検討結果を示す図である。
図40は、抽出液組成と物理処理が糞便からのDNA抽出量に与える影響を示す図である。
図41は、糞便から抽出したDNAの電気泳動写真である。
図42は、糞便からのDNA抽出法の検討結果を示す図である。
図43は、糞便から抽出したDNAの純度を示す図である。
図44は、抽出液組成と物理処理が堆肥からのDNA抽出量に与える影響を示す図である。
図45は、堆肥及び活性汚泥から抽出したDNAの電気泳動写真である。
図46は、堆肥からのDNA抽出法の検討結果を示す図である。
図47は、堆肥から抽出したDNAの純度を示す図である。
図48は、活性汚泥からのDNA抽出法の検討結果を示す図である。
図49は、活性汚泥から抽出したDNAの純度を示す図である。
図50は、湖底堆積物から抽出したDNAの電気泳動写真である。
図51は、湖底堆積物からのDNA抽出法の検討結果を示す図である。
図52は、湖底堆積物から抽出したDNAの純度を示す図である。
図53は、土壌DNAのDGGE解析結果を示す図である。
図54は、糞便DNAのDGGE解析結果を示す図である。
図55は、堆肥DNA及び活性汚泥DNAのDGGE解析結果を示す図である。
図56は、湖底堆積物DNAのDGGE解析結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、環境サンプルからDNAを効率良く抽出、精製又は回収する方法であり、DNAを抽出するステップと、DNA抽出液中からDNA以外の夾雑物質を除去する精製するステップが含まれる。
本発明においては、まず環境サンプルからのDNAの抽出に適した条件の1つとして、使用する界面活性剤の種類及びその濃度を検討した。次に、DNAの抽出が困難とされる火山灰土壌であっても高収量のDNAを得るためのEDTA及びリン酸緩衝液およびその混合液の濃度条件を検討した。さらに、DNAを回収するにあたり、最適な沈殿条件、及び夾雑物を含まない最適な精製条件を検討し、DNAを土壌から効率よく高純度で回収する方法を見出した。
本発明においては、界面活性剤を含むDNA抽出液による処理をDNA抽出の基本操作として採用する。そして、抽出の際にbeads−beating又は加熱処理を組合せることによって、効率良く抽出することを可能とする。例えば、環境サンプルと、微小粒子と、所定濃度の界面活性剤が含まれるDNA抽出液とを混合し、これらの混合物をbeads−beating処理することによりDNAを抽出する。あるいは、上記土壌サンプルと所定濃度の界面活性剤との混合物を加熱処理することによりDNAを抽出する。このDNA抽出操作に、抽出液のpH、EDTA又はリン酸緩衝液および両者の混合液の濃度条件、加熱条件、CTABなどの陽イオン界面活性剤の濃度条件、CTAB処理時に添加する塩の種類や濃度、ポリエチレングリコールの濃度条件、およびポリエチレングリコールによるDNA沈殿操作時のpHなどの条件を種々検討することで、土壌の種類や性質に応じた適切な抽出条件、回収条件及び精製条件を設定することが可能となる。
サンプルからDNAを抽出するときに使用する抽出液全体のpHは7以上に調製し、その最適pHは8.6である(詳細は後述する)。
それぞれの環境サンプルに応じて界面活性剤と混合する基本的抽出液組成は、EDTA溶液及びリン酸緩衝液を含むものである。
環境サンプルの代表例である土壌からDNAを抽出しようとした場合、関東ローム層等の火山灰土壌からのDNA抽出においては土壌に含まれる非晶質のアルミニウムにより、DNAが吸着されて回収率が非常に悪くなる。この土壌による吸着はEDTA、リン酸、又はこれらの両者を高濃度で含む溶液を使用することで解決することができる。また、通常の土壌及びその他の微生物を含む環境サンプル、すなわち堆肥や水系の堆積物、活性汚泥や糞便からのDNA抽出においても、EDTA、リン酸、又はこれらの両者を使用することが有効である。
この場合のEDTA及びリン酸の濃度は、それぞれ50mM〜600mM、100mM〜1500mMであり、EDTAとリン酸との混合液ではEDTAが50mM〜600mM、リン酸が100mM〜750mMである。
但し、上記濃度は一例であって、抽出操作の際に行う抽出液添加後の物理的処理の違いにより、濃度を適宜変えることが可能である。
環境サンプルより得たDNAの精製には、CTABを初めとする4級アンモニウム塩(陽イオン界面活性剤)を用いることができる。4級アンモニウム塩としては、例えば陽イオン界面活性剤であるCTAB、DTABなどが挙げられる。
本発明において、CTABを用いてDNAを精製するには塩の存在下で行うことが好ましい。この塩としては、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化カリウム等のカリウム塩が挙げられる。
本発明は、抽出液に陽イオン界面活性剤及び塩溶液を添加することにより、精製時のpHを抽出時のpHよりも下げることを特徴とする。
ここで、本発明において「添加」とは、一方の溶液に他方の溶液を添加することを意味するほか、一方の溶液と他方の溶液とを混合する意味も包含する。
抽出操作を行った後のDNAを含む抽出溶液は、抽出液に含まれている緩衝液によりpHは7.0以上、好ましくは8.0以上に調整されているが、CTAB等の陽イオン界面活性剤とpHを低下させる緩衝能をもつ塩溶液とを抽出液に混合することにより、pHを7.0未満に低下させる。従って、塩溶液には酢酸などの酸性側のpKaを持つpH緩衝液を含有させることが好ましい。この場合の最適な塩溶液は、3.33M酢酸ナトリウム/1.67M塩化ナトリウム(pH5.2)の溶液である。この2種類のナトリウム塩を混合することにより、抽出液のpHは6.0以下に低下させることができる。なお、陽イオン界面活性剤及び塩溶液は、両者を混合した後に混合液を抽出液に添加することも可能である。
DNAを回収するには、CTAB等と塩溶液を添加し、攪拌後クロロホルムを添加してさらに攪拌し、遠心後の水相(上清)をDNA溶液として採取する。
上記採取された溶液に対し、ポリエチレングリコール(PEG)等の溶液を添加することにより、DNAのみを選択的に沈殿させる。PEGを含む溶液は、精製時に下げたpHを再びアルカリ性に上昇させる緩衝能を有するものである。精製時に酸性側に下げたpHを、回収時にアルカリ側にpHを上昇させることで、より選択的なDNAの沈殿・回収が可能であり、腐植や糖などの夾雑物の共沈を防ぐことができる。アルカリ性の緩衝能を持つPEG溶液としては、例えばTris−HCl緩衝系などによりpHが8.0以上のPEG溶液を作製し、使用することができる。最適な条件は、12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)の溶液をDNA抽出液と混合して遠心を行う。この溶液の混合により、DNAを回収するときの溶液のpHは7.5以上、好ましくは8.0以上に上昇する。PEG溶液とTris−HCl溶液とは、それぞれ別々に調製し、最終のpHが7.5以上となるように混合してもよい。
ここで、本明細書において使用する略号の意味は以下の通りである。
CTAB:セチルトリメチルアンモニウムブロミド(cetyltrimethylammonium bromide)
DTAB:ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(dodecyltrimethylammonium bromide)
EDTA:エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid)
PEG:ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)
SDS:硫酸ドデシルナトリウム(sodium dodecyl sulfate)
2.環境サンプル
本発明において、DNA抽出の対象となる環境サンプルは、環境中に存在する固形又は液体成分であれば特に限定されるものではない。例えば土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥、糞便などが挙げられ、これらの環境サンプルを使用目的に応じて適宜選択することができる。
(1)土壌
本発明において、回収の対象となる土壌サンプルは特に限定されるものではなく、あらゆる土壌を使用することができる。わが国は火山灰土壌が比較的広い範囲で分布しており、火山灰土壌がDNA抽出の対象土壌となることが多いが、対象土壌は非火山灰土壌であってもよい。
火山灰土壌としては関東地方に主に分布する富士火山灰の堆積物である関東ローム層や、各地の火山噴出物および降灰した火山灰を母材とするアロフェン質黒ボク土および東北地方の一部に見られるような非アロフェン質黒ボク土などが挙げられ、非火山灰土壌としては日本各地の平野部の灰色低地土、低地水田土、火山灰の影響を受けていない褐色森林土、赤色土、黄色土などが挙げられる。
(2)堆肥
堆肥は作物の栽培および土壌の生産性の維持のためには欠く事のできない有機質肥料である。堆肥は通常否わらや麦わらなどの畑作物の植物残渣もしくは落ち葉や木材チップのような木質系の材料に無機肥料や家畜糞を窒素源として添加して、堆積し、微生物による分解作用(醗酵作用)により、その一部が分解されることで作られるものである。また、牛糞や馬糞、豚糞、鶏糞などの家畜糞を堆積、醗酵させることによっても作られる。これらの堆肥の特徴は醗酵前と比較すると堆肥化後のサンプルでは有機物の分解作用によって増殖した微生物菌体が多量に含まれることが挙げられる。これらの微生物は土壌に添加された後、肥料源として有用のみならず、作物の生育を促進する有用微生物としても重要なものである。また近年、農薬やPCBなどの難分解性有機物の処理にこのような堆肥由来の微生物が利用されることも多い。
(3)水系堆積物
水系堆積物は湖、池、河川や海などのそこに沈殿した土壌や有機物、微生物などの堆積物を指す。これらのサンプル中には水中で増殖した植物および動物プランクトンやこれらの死骸が大量に堆積し、これらを分解する微生物も多く存在している。微生物によってこれらの死骸は分解され、そこに含まれる窒素などの養分は無機化され、再び水中に放出される。このようにして堆積物に含まれる微生物は栄養分を循環させる役割を果たしている。その微生物の数や種類を明らかにすることは水系での物質循環を明らかにする上で極めて重要であると考えられている。
(4)活性汚泥
活性汚泥法は汚水を処理する最も一般的な方法の一つである。汚水には一般的な都市生活廃水および家畜のし尿などが代表的なものとして挙げられる。これらの汚水に空気によるばっ気処理を施し、微生物により有機物を分解し、その分解産物および分解により増殖した微生物菌体を回収することで汚水を浄化するものである。この処理で増殖した微生物すなわち活性汚泥は処理する汚水の水質や処理条件によってその構成が異なり、汚水の浄化処理においてこれらの微生物の分析は極めて重要である。
(5)糞便
人や家畜、昆虫などの糞便は非常に多量の微生物が含まれている。人の糞便には腸内で増殖した大腸菌や乳酸菌などを初めとして極めて多くの微生物が含まれている。その中には有用な微生物が含まれていることが現在までに明らかにされている。また食中毒などの原因となる有害微生物も含まれることからこれら糞便に含まれる微生物の分析は極めて重要である。また反芻動物である牛などの草食動物は摂取した植物を腸内の微生物を利用して一部を分解しており、糞便の分析により、これらの微生物群集を明らかにすることは極めて重要である。
3.beads−beating又は加熱処理
ビーズ打破(beads−beating)とは、スクリューキャップチューブに土壌とDNA抽出液を添加し、微小粒子(ガラスビーズ、シリカジルコニアビーズ、アルミナビーズなど)を加えて物理的に細胞を破壊する方法であり、beads組成等も含めB▲u▼rgmannら(2001)により詳しく検討されている。この方法では、細胞外多糖膜をもつためSDSなどの界面活性剤の影響を受けにくいグラム陽性菌であっても機械的に破砕されるため、極めて高収率でDNAが抽出できる。また、抽出も短時間で終わるため、腐植物質の混入が少ない土壌DNA試料を得ることができる。
具体的には、スクリューキャップチューブに土壌、ビーズ及びDNA抽出液を添加して激しく攪拌する。beads−beating時には、最も強く物理的衝撃がDNAに加わるため、beads−beatingの強度を適宜調節する。
本発明においては、DNAの抽出の際に加熱処理をすることができる。加熱条件は、45℃〜70℃で0.5〜24時間であり、好ましくは60℃で1時間である。
4.DNA抽出液
(4−1)界面活性剤
細菌や真菌などからのDNA抽出には、まずSDSやCTABをはじめとする界面活性剤により細胞のタンパク質を変性させ細胞構造を破壊することが必要となる。またフェノールや塩化ベンジルなど強力なタンパク質の変性能力を持ち、細胞壁や細胞膜も破壊する有機溶媒も使用されることがある。
SDSは分子生物学においてよく使用される界面活性剤であり、微生物、動物、植物を問わずDNA抽出に広く使用されている(Marmur 1961)。CTABを用いる手法は、当初は植物からDNA抽出する方法として開発されたが(Murray & Thompson 1980)、微生物などからのDNAの抽出にも一部で使用されている(Velegraki et al.1999)。CTABには、界面活性剤としてタンパク質を変性させる作用の他に、低塩濃度においてDNAと選択的に結合して沈殿させる特性もある(Murray & Thompson 1980)。またCTABは溶液中の多糖の除去(Sambrook 1989)や腐植物質の除去(Wilstrom et al.1996、Zhou et al.1996)にも効果的であることが知られていている。
グアジニジンチオシアネートは強力なタンパク質変性剤であり、DNAの抽出だけではなくRNAの抽出にもよく使用されている(e.g.Chirgwin et al.1979、Pitcher et al.1989、Chomczynski & Sacchi 1987、Logemann et al.1987、Ausubel et al.2000)。この方法ではサルコシルを界面活性剤として添加している。ベンジルクロライド法(Zhu et al.1993)は、塩化ベンジルを菌体破壊に使う簡易で迅速な方法として開発された。塩化ベンジルは細菌や糸状菌、植物が細胞壁の構成成分として合成するポリサッカライドすなわちセルロース、ヘミセルロースのOH基と反応し、細胞を破壊する。これにより水溶性分子であるDNAは塩化ベンジルの有機層から水層に抽出され、またこの方法はその後の遠心分離により塩化ベンジルからなる有機層と水層の二層界面で除タンパク質も同時に行える利点がある。この方法を応用したキットも販売されている(製品名Isoplant、Nippon Gene、Japan)。
TritonX100は非イオン系の界面活性剤であり、SDSやCTABなどイオン系の界面活性剤よりも穏やかな界面活性作用を持っており、タンパク質変性作用は弱い。そのため、活性を維持したまま調製したい膜タンパク質の抽出や、PCRなどの酵素反応液中に酵素の活性保持、増強の目的で用いられることがある。Triton X100は1%の濃度までならPCR反応を阻害しないので、コロニーPCRや酵素反応と組み合わせた簡便なDNA解析に用いられている(Agersborg et al.1997)。
本発明においては、DNAを抽出することができる限り、界面活性剤の種類に限定されるものではない。例えばSDS、TritonX−100、N−ラウロイルサルコシンナトリウム等が好ましく、SDSがさらに好ましい。
使用する界面活性剤の濃度は、SDSの場合は5.0%以下であり、0.1〜2.0%が好ましく、0.5%〜2.0%がより好ましく、0.5〜1.0%がさらに好ましい。また、ThitonX−100の場合は5.0%以下であり、0.1〜2.0%が好ましく、0.5%〜2.0%がより好ましく、0.5〜1.0%がさらに好ましい。
(4−2)抽出液のpH
DNAの抽出には通常pH8.0〜8.3程度の弱アルカリ性の緩衝液が使用されている。このpH条件は、DNAの安定性ゆえ抽出液にも適用されていると考えられ、抽出後のDNAを溶液として保存するために用いるTE緩衝液と同じpHである。一方、日本の大部分の土壌がpH5.5〜6.5程度の弱酸性であり、一部の火山灰土壌、非アロフェン質黒ボク土壌にはpH4.5〜pH5.5という酸性土壌も存在している。そこで、土壌からDNAを抽出する際には、抽出液自体のpHが抽出量に与える影響のみならず、土壌の酸度により抽出液のpHが影響を受け、抽出時のpHが変化してしまうことも考慮する必要がある。
本発明においては、抽出液全体のpHは、7以上であり、好ましくは8.0〜9.0、より好ましくは8.6付近とすることができる。
(4−3)EDTA濃度、Tris−HCl濃度及び加熱処理
一般に生物体からのDNA抽出の際には、細胞から放出されるDNaseによってDNAが分解されることを防ぐためにEDTAが用いられ、その濃度は1〜100mMである。土壌からのDNA抽出においては、分子生物学分野でもよく使用されているTris−EDTAの組み合わせが同じく使われる。多くの土壌DNA抽出法において、抽出液中のEDTAは主にDNaseの不活性化という目的で使用されていると考えられ、その濃度は使用目的を果たすのに十分な量である100mM以下となっている(e.g.Kuske et al.1998、Arlene Porteous et al.1994、Bell et al.1999、Miller et al.1999、Watson & Blackwell 2000、B▲u▼rgmann et al.2001)。
現在のところ代表的な土壌DNA抽出法であるZhou et al.(1996)の手法においても、100mM EDTA(および100mM Tris、100mM NaHPO(pH8.0))が使用されている。EDTA濃度を高くすると、DNAの酵素分解が抑制されるのと同時に土壌粒子への吸着も減少するため、DNAの収量は増加するものの、その収量増加と同時に腐植物質の混入も多くなるため、EDTAは低濃度の方が好ましいとの報告もある(Krsek & Wellington 1999)。すなわち、高濃度EDTAの使用は、DNAの収量増加の利点よりも、腐植物質の混入という欠点ゆえに敬遠されてきており、しかもその場合の「高濃度」というレベルは100mM程度のものである。
日本の代表的な土壌である火山灰土壌は、前述の通りDNAが吸着されやすい土壌であると考えられる。日本の火山灰土壌のように非晶質アルミニウムに富んだ土壌は、海外ではニュージーランドなど限られた国や地方に点在しているのみであり、世界の広い範囲には分布していない。多くの海外の研究者にとって、アロフェンを多く含む土壌は研究対象とならず、それゆえ、従来の土壌DNA抽出法のほとんどが、火山灰土壌を考慮せずに開発されてきたと思われる。よって、EDTA濃度の設定も、火山灰土壌以外の土壌で検討されたものである。しかしながら、多くの多価イオンを形成する金属イオンに対し強力なキレート剤であるEDTAは火山灰土壌においてDNA吸着の原因である活性アルミニウムと錯体を形成すると考えられ、火山灰土壌では従来検討されてきた範囲外の濃度のEDTAが効果を発揮する可能性が考えられた。また、火山灰土壌以外の土壌であっても、土壌へのDNA吸着が起きているならば、EDTA濃度を高めることにより多くのDNAが抽出できる可能性も考えられた。
火山灰土壌の非晶質成分の分析には通常、クエン酸やシュウ酸、ピロリン酸など土壌中のAlやFeの形態により錯形成能が異なるキレーターが使用される。これらの反応性の異なるキレーターを使用することにより、土壌の非晶質成分を選択的に融解し、定量分析を行っている。一方、EDTAはキレート剤の中でもほとんどの金属イオンに対して極めて優れたキレート安定定数を持つ化合物である。DNAの抽出や保存においてEDTAが使用されるのはDNaseがその活性保持に必要としているMgイオンをキレートしてDNaseを失活させるためである。
そこで、選択融解法におけるキレーターと同様に、土壌中からDNA吸着の原因となる非晶質AlをEDTAを用いて除去できるのではないか、またEDTAがカルボキシル基により土壌に吸着することでDNAの吸着を解除することができるのではないかと推測し、抽出液中のEDTA濃度について検討した。EDTAによりキレートされた金属イオンは溶液中に金属イオン−EDTA複合体として抽出されるため、この定量を通して、吸着の原因がどの金属元素であるかも推定することができると考えられた。
本発明において抽出液として使用されるEDTAの濃度は、例えば20mM以上である。
火山灰土壌をbeads−beating処理により土壌DNA抽出しようとする場合のEDTA濃度は、50mM以上であり、好ましくは100mM〜600mM、好ましくは200〜400mM、さらに好ましくは300mM〜400mMである。
本発明においては、上記濃度のEDTAを含む抽出液と土壌とを混合し、beads−beating処理後、さらに高濃度EDTA溶液を含有させて、濃度を例えば600〜1100mM、好ましくは600〜800mMに高めた状態で加熱処理を併用することができる。加熱条件は、45℃〜70℃で0.5〜24時間であり、好ましくは60℃で1時間である。これにより、土壌からDNAをより高収量で抽出することができる。
また、本発明においては、抽出液にTris−HCl等の緩衝液を含めることもできる。Tris−HClの濃度は、例えば100mMである。なお、Tris−HClは、本発明全体を通して、DNA抽出液に含めることができる。
(4−4)抽出回数
本発明においては、DNAの抽出回数は1回に限定されるものではない。EDTAを含むDNA抽出液についてbeads−beatingを行った後に遠心し、その上清を採取してDNA抽出液とする。上清を採取した後のチューブには土壌が残存する。この土壌中には1回の抽出作業ではすべて抽出できずに土壌に吸着したまま残されたDNAも含まれていると考えられる。
そこで本発明において、上記抽出液のbeads−beating工程、遠心工程、上清の採取工程を複数回繰り返すことができる。繰り返す回数は、例えば1〜4回である(回数は全部で2〜5回となる)。
(4−5)リン酸緩衝液
リン酸緩衝液は生物学的な実験で使用される代表的な緩衝液の一つである。土壌からのDNA抽出においては、間接抽出法の多くがリン酸緩衝液を使用して土壌からの微生物の分離を行っており(e.g.Torsvik et al.1980)、また直接抽出法でもリン酸緩衝液が使用されることは少なくない(e.g.Ogram et al.1987、Cullen & Hirseh 1998)。直接抽出法、間接抽出法を問わず、DNA抽出にリン酸緩衝液が使用される場合のリン酸濃度は100〜120mMに設定されている。しかし、Bell et al.(1999)が報告しているように、リン酸緩衝液はTris−EDTA緩衝液よりも多くの腐植物質の溶出を引き起こし、その除去が極めて困難となるため、DNA抽出に関してはリン酸緩衝液よりもTris−EDTA緩衝液を使用したほうが良いとされている。しかし、EDTAと土壌中のアロフェン態のAlとは錯体形成の反応速度が遅いため、加熱処理によりその反応を加速させない限りEDTA緩衝液のみを用いても土壌DNAを十分に抽出することはできない。一方、リン酸イオンは火山灰土壌に添加すると極めて短時間で土壌のAlやFeに吸着され不動態化することが知られている。非晶質Alすなわち活性Alに富む火山灰土壌ではこのリン酸の不動態化が作物生産上大きな制限となっているため、「リン酸吸収係数」が重視されている。
これらのことから、リン酸イオンを土壌に添加することにより、DNAの吸着に関わるアロフェン態Alをマスキングし、DNAの吸着を抑制できるのではないかと考えられる。
本発明において使用することができるリン酸緩衝液は特に限定されるものではなく、リン酸カリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液などのリン酸塩緩衝液などが挙げられる。
DNA抽出液に使用されるリン酸緩衝液の濃度は、250〜2000mMである。
火山灰土壌の場合は、例えば250〜2000mMであり、非火山灰土壌の場合は例えば250〜1000mMである。
(4−6)高濃度EDTAとリン酸緩衝液との併用
DNAの抽出液は、EDTA及びリン酸緩衝液のいずれを使用しても、DNAの最大収量が得られる条件(EDTA、リン酸、SDSの濃度など)が土壌によって異なる。また、沈殿精製操作の際に高濃度の緩衝液は溶液が混ざり合わないなど不都合が生じたため、EDTAとリン酸緩衝液とを併用することを試みた。
本発明においては、EDTAの濃度は100〜800mM、例えば200〜800mMであり、リン酸緩衝液(例えばリン酸カリウム緩衝液)の濃度は250〜2000mM、例えば250〜1250mMの範囲で使用することができる。EDTAとリン酸緩衝液とを併用することにより、それぞれを単独で使用するよりもEDTA及びリン酸緩衝液の濃度を低く抑えることができる。
火山灰土壌について使用するときの組合せは、EDTAが100〜600mMであってリン酸緩衝液が250〜1500mM(例えば250〜1250mM)であることが好ましく、非火山灰土壌について使用するときの組合せは、EDTAが100〜400mMであってリン酸緩衝液が250〜1250mMであることが好ましい。火山灰土壌及び非火山灰土壌のいずれの場合も、EDTAが400mM、リン酸緩衝液が750mMの組合せが最も好ましい。上記400mM EDTAと750mMリン酸緩衝液との組合せにより、ほとんどすべての土壌に対してほぼ最大収量のDNAを得ることができるため、この組合せはいわゆる「ユニバーサルな緩衝液組成」であるといえる。
但し、上記ユニバーサルな緩衝液組成は、土壌によっては土壌DNAの低分子化(20〜7kbp)が生じることがある。微生物群集構造解析をする上では、一般に比較的短いDNA領域(200〜1500bp)しか解析対象としないことなどから、多少低分子化されたDNAであっても十分に目的は達成できる。しかし、クローニングなど断片化したDNAでは不都合な操作や、群集構造解析であってもより正確に解析したい場合には、より高分子のDNAが得られる抽出条件(EDTA及びリン酸緩衝液の濃度)を適宜設定する。
本発明においては、土壌サンプルを、SDS又はTritonX−100、EDTA及びリン酸緩衝液を含む抽出液に混合し、これを加熱処理することもできる。SDS又はTritonX−100の濃度は5%以下であり、EDTAの濃度は100〜800mM、例えば200〜800mMであり、リン酸緩衝液(例えばリン酸カリウム緩衝液)の濃度は250〜2000mM、例えば250〜1250mMの範囲で使用することができる。加熱条件は、45℃〜70℃で0.5〜24時間であり、好ましくは60℃で1時間である。
(4−7)2ステップ法
本発明においては、土壌からDNAを回収するに際し、beads−beating(第1段階)では低濃度のEDTA/リン酸緩衝液を使用し、抽出の段階(第2段階)では高濃度のEDTA/リン酸緩衝液を使用することにより、さらに効率にDNAを抽出することができる。このように、濃度を2段階に設定して抽出する操作を「2ステップ法」という。2ステップ法を採用することにより、DNAを効率よく抽出することができるとともに、DNAの低分子化を回避することができる。
第1段階では、5%以下のSDS(好ましくは1%SDS)又は5%以下のTritonX−100とTris−HCl緩衝液との混合物(これを「抽出液I」という)を使用する。
上記DNA抽出液Iの存在下で土壌サンプルをbeads−beating処理した後、数秒の簡易高速遠心を行って、土壌溶液をチューブ下部に集め、次に高濃度のEDTA及びリン酸緩衝液を含む抽出液(「抽出液II」という)を調製してよく攪拌する。抽出液IIの組成は、上記抽出液Iに、例えば、
(i)75〜1200mM、好ましくは600〜1200mMのEDTA、
(ii)250〜3000mM、好ましくは750〜2250mMのリン酸緩衝液、又は
(iii)上記EDTA(好ましくは100〜600mM)とリン酸緩衝液(好ましくは250〜1250mM)との混合物
を混合することにより調製することができる。抽出液IIを作製するために抽出液Iと混合するEDTA及びリン酸緩衝液については、EDTAの濃度が400〜800mMであり、リン酸緩衝液の濃度が750〜1500mMであることがさらに好ましく、EDTAの濃度が400mMであり、リン酸緩衝液の濃度が750mMであることが最も好ましい。
その後は、上記抽出液IIを遠心してDNAを抽出させ、上清からDNAを回収する。
本発明においては、上記2ステップ法にさらに改良を加えて、DNAの抽出効率を高めたうえで、DNAの低分子化を抑えることができる。この改良法を「2ステップ改良法」という。
この場合は、第1段階に使用する抽出液は、5%以下のSDS(好ましくは1%SDS)又は5%以下のTritonX−100、Tris−HCl緩衝液、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むものである(「抽出液III」という)。抽出液IIIにおいて、EDTAは300mMが好ましく、リン酸緩衝液は100mMが好ましい。そして、上記抽出液IIIの存在下で土壌サンプルをbeads−beating処理する。
次に、beads−beating処理後の抽出液IIIに、400〜1000mM(好ましくは400〜600mM)のEDTA、750〜2050mMのリン酸緩衝液、又は前記EDTAとリン酸緩衝液との混合物を混合して抽出液を調製する。このようにして調製された抽出液を「抽出液IV」という。
抽出液IVを作製するために抽出液IIIに混合するEDTA及びリン酸緩衝液については、EDTAの濃度が400mM、かつ、リン酸緩衝液の濃度が750mMであることが好ましい。
その後は、抽出液IVを遠心し、上清からDNAを回収する。
本発明においては、上記2ステップ法及び2ステップ改良法を行う際、2ステップ法においては抽出液IIを調製した後に、2ステップ改良法においては抽出液IVを調製した後に、それらの抽出液の存在下で土壌サンプルを加熱(例えば60℃で1時間)処理し、土壌DNAの土壌からの回収率を高めて土壌DNAを抽出することも可能である。 また、本発明においては、上記2ステップ法及び2ステップ改良法を行う前に、100〜400mM EDTA及び250〜1500mMリン酸緩衝液を含む抽出液(「抽出液V」という)の存在下で土壌サンプルを加熱(例えば60℃で1時間)処理又はbeads−beating処理し、処理後の抽出液Vを遠心し、上清を回収した後(「上清I」とする)に、抽出液I又は抽出液IIIを加えてさらにbeads−beating処理し、処理後の溶液を遠心して上清を得(上清IIとする)、上清I及び上清IIから土壌DNAを回収することもできる。
また、100〜800mM EDTA及び250〜2000mMリン酸緩衝液を含む溶液の存在下で土壌サンプルを加熱(例えば60℃で1時間)処理またはbeads−beating処理を行い、処理後の溶液に、SDS又は抽出液IIIを加えてさらに加熱処理を行い、その後遠心してこの上清から土壌DNAを回収することも可能である。
さらに、本発明においては、最初にSDSが存在しない状態で加熱処理及びbeads−beatingを組み合わせることで、DNAを抽出することもできる(下記(i)〜(iv))。
(i)SDS Free加熱+beads−beating法
まず、100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液(「抽出液V」という)の存在下で土壌サンプルを加熱処理する。加熱処理条件は前記と同様に、45℃〜70℃で0.5〜24時間、好ましくは60℃で1時間である。この場合、抽出液VはEDTAが400mM、リン酸緩衝液が750mMであることが好ましい。
次に、加熱処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取する。上清を採取した後は、チューブ中に土壌サンプルが残存しているので、これを、5%以下のSDS、Tris−HCl緩衝液、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IIIの存在下でbeads−beating処理する。その後、抽出液IIIを遠心して上清を採取し、上記2つの採取された上清からDNAを回収する。
(ii)SDS Free beads−beating+beads−beating法
100〜400mMのEDTA及び250〜1500mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液Vの存在下で土壌サンプルをbeads−beating処理する。次に、beads−beating処理後の抽出液Vを遠心して上清を採取する。そして、残存した土壌サンプルを、5%以下のSDS、Tris−HCl緩衝液、400mM以下のEDTA及び250mM以下のリン酸緩衝液を含むDNA抽出液IVの存在下でbeads−beating処理する。その後、抽出液IVを遠心して上清を採取し、上記2つの採取された上清からDNAを回収する。
(iii)SDS Free加熱+加熱法
200〜800mM EDTA及び250〜2000mMリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で土壌サンプルを第一加熱処理する。これと5%以下のSDSとを混合して土壌サンプルを第二加熱処理する。そして、第二加熱処理後の抽出液を遠心したのち、上清からDNAを回収する。この場合、抽出液はEDTAが400mM、リン酸緩衝液が750mMであることが好ましい。
(iv)SDS Free beads−beating+加熱法
100〜400mM EDTA及び250〜1500mMリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で土壌サンプルをbeads−beating処理する。これと5%以下のSDSとを混合して土壌サンプルを加熱処理する。その後抽出液を遠心し、上清からDNAを回収する。
(4−8)まとめ−土壌DNAの抽出に関して−
本発明においては、DNA抽出に関して種々検討した結果、以下のことがいえる。
(i)土壌からのDNA抽出において、抽出時の抽出液pHは8.6付近で安定している必要がある。
(ii)火山灰土壌からのDNA抽出を困難にしていた最大の原因は、土壌によるDNAの吸着である。
(iii)火山灰土壌からのDNA抽出には高濃度のEDTA、リン酸を用い、非晶質AlによるDNAの吸着を解消すると効果的である。
(iv)土壌DNAの最大収量が得られる抽出液中のEDTAおよびリン酸の濃度は、土壌により異なる。
(v)リン酸はDNAの抽出効果が高い。但し、火山灰土壌に用いる場合は、極めて高濃度で使用する必要があるため、DNAの低分子化に注意する。
(vi)EDTAとリン酸を共存させることにより、土壌DNA抽出への補完効果が見られ、比較的低濃度での使用でもDNA抽出効果が高い。
(vii)400mM EDTA/750mMリン酸緩衝液/1%SDS抽出液は、火山灰土壌、非火山灰土壌を問わず、ほとんどの土壌DNAを抽出できるユニバーサルな抽出液組成であるといえる。
(viii)DNAの低分子化を阻止するためにはbeads−beating時の塩濃度に留意する必要があり、操作時の塩濃度を低くすることによりDNAの低分子化は防ぐことができる。
(ix)低濃度緩衝液でbeads−beatingを行い、その後高濃度EDTA−リン酸緩衝液でDNAを剥離させることにより、高分子DNAも得ることが可能である。この場合も、400mM EDTA/750mMリン酸による土壌DNAの回収率が最もよい。
(x)高濃度EDTA−リン酸緩衝液でbeads−beating又は加熱処理を行っても界面活性剤であるSDS及びTritonX100を含んでいなければ、土壌DNAの低分子化は抑えることができる。beads−beating又は加熱処理に界面活性剤を含む抽出液を添加して抽出することで高分子DNAを抽出することが可能である。
5.DNAの精製・回収
遺伝子の解析によく使用される技術としては、PCR反応、クローニング、シークェンシング、ハイブリダイゼーション、遺伝子発現試験などがあげられる。中でもPCR反応は、多くの遺伝子解析にとって重要で欠くことができない要素技術であり、遺伝情報に基づく微生物群集構造解析にとっても必須の操作である。土壌からのDNA抽出の場合にも、注目されるのは抽出したDNAを鋳型としてPCR産物が得られるかどうかであり、その成否は土壌DNAの純度を判定する一つの指標として用いられることもある(Tsai & Olson 1992、Watson & Blackwell 2000)。
土壌からのDNA抽出液には、微生物や植物などの細胞膜や細胞壁といった破砕物、界面活性剤などにより変性したタンパク、土壌自体に蓄積していた腐植物質を初めとする土壌有機物や重金属などが含まれており、その後の解析のためにはこれらの夾雑物をできるだけ取り除くのが望ましい。
微生物菌体由来の細胞構成成分の混入は、少量の場合はPCR反応の阻害は著しくないとされている。その理由は、これら菌体構成成分は、本来同じ菌体内で機能するDNAポリメラーゼの働きを阻害するものではないからである。事実、E.cohやその他の培養菌株を材料としたコロニーPCRは頻繁に行われており、これらは菌体自体をPCR反応液に添加してPCR反応の加熱により菌タンパクを変性させてDNAを反応液中に放出させ、PCR反応を行っているものである。菌体自体がPCR反応液中に存在しているにもかかわらず、PCRは阻害されていない。しかし、土壌からDNAを抽出すると、このような細胞構成成分以外の様々な物質が多量に存在し、これらが抽出操作に伴い、DNA試料に混入する。とりわけ腐植物質はナノグラム単位の微量な混入であってもPCR反応を強く阻害することが知られている(Tsai & Olson 1992、Boon et al.2002、Watson & Blackwell 2000)。よってこの腐植物質をDNA溶液の中からできるだけ取り除くことが重要となる。
土壌DNAの精製操作に関しては、これまでにいくつもの研究がなされてきた。なかでもゲルろ過やアガロース電気泳動切り出し、ハイドロキシアパタイトカラム、カオトロピック効果を利用したガラスパウダーもしくはシリカメンブレン精製、磁性ビーズによる分離精製などがよく行われている。ゲルろ過によるDNAの精製は、土壌DNAと腐植物質の分離に最もよく使用されているものである(Miller et al.1999、Howeler et al.2003)。カラムに充填した樹脂の間に試料を通じ、遠心するのみで精製作業が行えるスピンカラムも製品化されている。ゲルろ過による土壌DNAの精製の原理についてはMiller(2000)によって詳しく検討されている。ゲルろ過に使用される樹脂製品にはSephadex、Sepharose、Bio−Gel、Toyopearlなどがあるが、その分子ふるい効果や特性は異なっており、腐植物質とDNAの分離の目的ではSepharose 4Bを最も高く評価する報告がある(Miller 2001、Jackson et al 1997)。
しかし、ゲルろ過による精製はカラムへの樹脂の充填、DNA画分の分取が煩雑であること(充填されている樹脂量と溶出液量の条件がかなり厳密であるため)、またすべての腐植物質が取り除けるわけではなく、一部の腐植物質がDNA画分にも混入することが問題点としてあげられる。土壌に蓄積されている腐植物質は、その性質、形態、分子量がそれぞれすべて異なっており、数種類の土壌試料に含まれる腐植物質について得られた知見を元に精製を行おうとしても、土壌の種類が異なれば混入してくる腐植物質の特性も異なるためであると考えられる。また通常使用される2ml以下の容量のカラムでは、おのずと試料負荷量が小さくなり、ごく少量のDNA溶液しか精製できない。
アガロースゲル電気泳動後のDNA切り出し操作は、巨大分子であるDNAとより低分子である腐植物質を分離してDNAのみを回収しようというものである(Zhou et al.1996、Kurien et al.2001、Kurien & Scofield 2002、Chandler et al.1997)が、アガロースゲルからの切り出し操作は極めて煩雑である。
これら以外に、DNA抽出の際に腐植物質のコンタミネーションをできるだけ減らすため、緩衝液の組成などを検討した研究も多く、また、土壌DNA抽出液からのおおまかな腐植物質除去のために、CTABやPVPPなど腐植物質の除去剤が使用されることも多い。
(5−1)精製
DNAの精製工程は、前述のbeads−beating処理又は加熱処理後の抽出液とCTAB及び塩とを混合してDNAを精製する工程、あるいは前記beads−beating処理又は加熱処理後の抽出液を遠心し、遠心後の上清とCTAB及び塩とを混合してDNAを精製する工程を含むものである。DNAの精製とは、DNAの抽出液に含まれる、DNA以外の夾雑物を除去することを意味する。また、本発明の精製方法は、上記抽出工程における抽出液又は抽出されたDNAを精製の対象とするのみならず、上記抽出方法以外の方法で抽出されたDNA(又はDNAを含む溶液)に対しても精製することが可能である。
CTAB及び塩を用いた精製は、CTAB及びいずれかの塩溶液を土壌DNAの抽出液と混合し(酸性側に緩衝能を持つ緩衝液で弱酸性側にし)、45℃〜70℃(例えば60℃)でのインキュベート及びクロロホルムによる除タンパク操作を行うというものである。
CTABの濃度は1〜3%であり、2〜3%が好ましい。
一般に、DNAはアルカリ条件下のほうが土壌から抽出されやすいため、抽出液にはTris−HCl、EDTA、リン酸緩衝液といった緩衝能の高いものが含まれており、抽出液はアルカリ性に維持される。従って、これらの緩衝能を打ち消した上でpHを弱酸性にする必要がある。そこで、塩は弱酸性側で緩衝能を有するものを使用することが好ましい。
「塩」とは、抽出液に1.0M以上の1価のカチオンを添加でき、かつpHを5.0〜6.5の弱酸性に調節できるような物質をいう。
このような塩として、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびリン酸アンモニウムがある。この場合、NaCl、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムの濃度は0.7〜2.1Mである。そして、NaCl、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムについては1.0M以上が、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムについては0.7M以上が好ましく、いずれの塩も1.0〜1.4Mであることがより好ましい。酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムのpHは5.0〜6.0が好ましい。なお、1価のカチオンとはNa、K、NH などをいう。
但し、塩は上記物質に限定されるものではなく、抽出液に1.0M以上の1価カチオンを添加でき、pHを5.0〜6.5に調製することが可能な塩はすべて本発明に含まれる。
本発明においては、抽出液へのCTAB添加により、土壌DNA溶液からPCRが阻害されないレベルにまで腐植物質を除去することができる。そして、土壌DNAの沈殿に適した手法を検索し、上記開発した土壌DNA抽出法と組み合わせて最適な精製条件を決定することができる。
本発明においては、CTABの濃度が2〜3%であり、かつ、塩の濃度が1.4Mであることがさらに好ましい。
(5−2)沈殿
DNAを溶液から分離回収する方法には、DNAを沈殿させる方法、カオトロピック効果によりシリカ表面に吸着させる方法、磁性ビーズなどで溶液から分離する方法などがある。この中で最もよく使われる方法はDNAを沈殿させる方法であり、一定以上の濃度のエタノールや2−プロパノールの存在下でDNAが沈殿することを利用している。エタノールは、70%程度の濃度でDNAが沈殿するため、抽出液の2〜2.5倍量のエタノールを添加する必要があり、マイクロチューブを用いたミニスケールでの抽出時には、エタノール沈殿に供試できる抽出液量が少なく効率が悪い。
それに対し2−プロパノールはエタノールよりもDNAを沈殿させる作用が強く、抽出液の6/10等量でDNAの沈殿が得られるため、ミニスケールでのDNA抽出には最もよく使用されている。
本発明においては、DNAの回収は、上記の通り酸性側に緩衝能を持つ酢酸やリン酸緩衝液で弱酸性側にした後、土壌DNAの沈殿を行う。本発明において、沈殿は、(i)上記抽出及び精製工程を経た後のサンプルを沈殿させる工程、並びに(ii)精製工程を経た後のサンプルを沈殿させる工程のいずれをも含むものである。
沈殿に使用される物質は、2−プロパノール、エタノール又はポリエチレングリコールが挙げられるが、ポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。PEGの濃度は、10〜15%であり、12%であることが好ましい(溶液中のPEG濃度:5〜7.5%)。その他、ポリエチレングリコール8000(PEG)も使用される。PEGはシークエンス反応前に、PCR産物からプライマーを取り除くのによく使用されている(Kusukawa et al.1990)。PEG溶液は沈殿させる物質の選択性が高く、構造上DNAと非常によく似ているRNAも沈殿しない。また同じDNAであっても短鎖であるプライマーは沈殿せず、そのサイズにも選択性があることが示されている(Paithanker & Prasad 1991、Lis 1980、Sambrook et al 1989)。PEGは、他のアルコール類よりも夾雑物質を沈殿させることが少ないため、土壌やコンポストなど、夾雑物が混入しやすい試料からDNAを抽出する研究によく使用されている(Ogram et al 1987、Porteous et al 1997、Howeler et al 2003、LaMontagne et al 2002)。
ところで、弱酸性条件下でPEG沈殿を行うと、完全に除去しきれなかった腐植物質又は夾雑物がDNAとともに沈殿する可能性がある。
そこで本発明は、好ましくは以下の2つの手段のいずれかを採用することができる。
(a)CTAB精製後、クロロホルム等により除タンパクを行って回収した上清(いわゆる水層部分)とTris緩衝液(pH8.0以上)等とを混合し、pHを再びアルカリ側(pH8.0〜8.6)に戻し、PEGを添加し、高速遠心してDNAを回収する。
(b)PEG溶液の組成を改良する。すなわち、PEG/Tris−HClを調製し(この溶液のpHは8.0〜8.6)、これによりPEGによる沈殿を行う。但し、PEGと組み合わせる緩衝液は、pHを上昇させることができる限り上記Tris−HClに限定されるものではなく、リン酸緩衝液などその他の緩衝液も使用することができる。
(5−3)まとめ
(i)CTAB精製(弱酸性側での精製)及びPEG沈殿(アルカリ側での沈殿)の組み合わせは、土壌DNAの精製に関してのみでも使用可能である。
(ii)CTAB精製の際にNaCl以外の緩衝能を持つ塩を用い、弱酸性側で精製処理を行うことも可能である。
(iii)抽出、精製、沈殿といった一連のプロトコールは、全てを実施しなくともそれぞれの工程をを独立で使用しても、土壌DNAを得ることができ、あるいは上記抽出方法以外の方法で抽出した土壌DNAの精製が可能である。
6.DNAの抽出、精製及び/又は回収用キット
本発明は、上記土壌DNAを抽出、精製、又は回収するためのキットを提供する。
環境サンプルからのDNA抽出用キットは、5%以下の界面活性剤、又は前記界面活性剤とbeads−beating用ビーズとの組合せを含む。すなわち、本発明のDNA抽出用キットは、界面活性剤(SDS、CTAB、Triton X−100又はN−ラウロイルサルコシンナトリウム)を基本構成とし、これにbeads−beatingに使用するビーズ、EDTA、リン酸緩衝液、アルカリ性緩衝液(Tris−HCl等のTris緩衝液)、pH調整剤等を含めることが可能である。本発明のDNA抽出用キットは、アルカリ性緩衝液によりpHを7.0以上に調整することが可能である。
本発明に使用する抽出液において、EDTAの濃度は、50mM〜1200mMの範囲から任意に選択することができる。また、リン酸緩衝液の濃度は、50mM〜3000mMの範囲から任意に選択することができる。
また、DNA抽出液は、使用する土壌に応じて適宜濃度設定ができるように、各濃度に段階的に区分けしておくことができる。例えば、SDSは0.1%から2.0%の範囲で数段階に調整されていてもよく、実験者が希望する濃度調整ができるように、高濃度のSDSを1種類用意しておいて希釈液によって希釈できるようにしておくこともできる。EDTAやリン酸緩衝液の場合も、50mM、100mM、200mM、300mM、400mMのように段階的に濃度調整したものを含めておくことも、高濃度(例えば1M)のものを用意しておいて希釈液によって任意の濃度に希釈できるようにしておくこともできる。さらに、ユニバーサルな緩衝液組成として、400mM EDTAと750mMリン酸緩衝液との組合せをキットに含めておくことも可能である。
さらに、本発明は、酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む塩溶液、陽イオン界面活性剤、又は当該塩溶液と陽イオン界面活性剤との混合物を含む、環境サンプルからのDNA精製用キットを提供する。酸性側のpKaを有するpH緩衝液としては、例えば酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液又は硫酸緩衝液が挙げられる。このキットには、DNA精製用の陽イオン界面活性剤(CTAB等)及び前記塩を含めておくことが可能である。上記酸性側のpKaを有するpH緩衝液を塩と混合して使用することにより、精製時のpHを7.0未満に調整することが可能である。
さらに、本発明は、アルカリ性緩衝液(例えばTris緩衝液)を含む、環境サンプルからのDNA回収用キットを提供する。このキットには、沈殿に使用するための2−プロパノール、エタノール又はPEGなどを含めておくこともできる。上記緩衝液により、回収時のDNA溶液のpHは7.0以上に調整することが可能である。
さらに、本発明は、上記DNA抽出用キット、DNA精製用キット、DNA回収用キットから適宜2組以上を選択し、本発明のDNA抽出と精製、DNA抽出と回収、DNA精製と回収、あるいはDNA抽出、精製及び回収を行うためのキットセットをも提供する。このようなDNA抽出、精製及び回収の2つ以上の組合せを、本発明においてはDNAの取得という。従って、各キットの組合せを用いることにより、DNA取得(抽出、精製、回収、又はこれらの組合せ)を行うことができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明において詳細な濃度範囲は実施例に記載するが、当該濃度範囲は例示であって、本発明の目的を逸脱しない限り何ら限定されるものではない。
界面活性剤の使用条件の検討
本実施例は、代表的な界面活性剤および塩化ベンジルを用いて、さらに細胞破壊の処理として加熱およびbeads−beatingによる2種類の処理によるDNA抽出実験を行い、土壌からのDNA抽出に最も適した界面活性剤とその使用条件の検討を行ったものである。
(1)材料と方法
抽出試験には、東京大学農学部構内弥生圃場に設置された土壌圏科学研究室農薬連用圃場の堆肥区の土壌、埼玉県農業試験場の水田転換畑土壌(かつて長野の水田土壌であった土壌を客土として移入したもの、以下鴻巣水田土壌と表記する)、および東北大学附属農場(川渡)の森林土壌の3種類を用いた。それぞれアロフェン質黒ボク土、灰色低地土、非アロフェン質黒ボク土であり、互いに理化学性が大きく異なる(表1)。
Figure 0004665124
各土壌の理化学性の測定は、pH(HO)およびpH(KCl)はそれぞれ1:5水および1N KCl抽出法により、全窒素および全炭素はN/Cアナライザーにより、酸性シュウ酸塩およびピロリン酸抽出Al、Feは土壌環境分析法(土壌環境分析法編集委員会編 1997)およびBlackmore et al.(1981)の方法により行った。本研究全体を通じて使用した土壌はすべて、サンプリング後すぐに実験に使用しない場合は4℃の低温室において湿潤状態で保存し、使用する際には2mmのふるいを通し、最大容水量の70%に水分含量を調製し、2週間程度室温でプレインキュベーションしたものを供試土壌とした。
これらの土壌0.5gに2%SDS抽出液、2%CTAB/1.4M NaCl抽出液、8Mグアニジンチオシアネート抽出液、2%SDSおよび塩化ベンジル抽出液、2%TritonX100抽出液の5種類の抽出液を1.2mlずつ添加し、beads−beating処理(強度5m/secで30秒間処理)もしくは65℃1時間の加熱処理を行った。その後12000×gで10分間遠心し、上清を回収して等量のクロロホルムを添加、よく攪拌し、再び遠心することにより、除タンパクを行った。700μlの水層を回収し、これに1/10量の3M酢酸ナトリウムを添加し6/10量の2−propanolを加え20000×gで遠心し、DNAを沈殿させた。遠心後70%エタノールによりDNA沈殿を洗浄し、乾燥後100μlのTE bufferに溶かし、これを抽出DNAとした。
抽出した土壌DNA溶液精製操作を施していないため、腐植物質が相当量混入していた。このままでは吸光度などによってDNA量を測定することができなかった。そこで腐植物質の影響がない状態でDNAを定量するため、抽出DNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、低分子のため移動距離の長い腐植物質をDNAから十分に分離したのち、SYBR Green I(TAE緩衝液による10000倍希釈液)で染色し、DNAのバンド部分の輝度を測定した。DNAの輝度とDNA量の相関を示す検量線を作成するため、それぞれのゲルには、λHind III Digestを標準試料として10ng〜50ngまで10ng間隔で5点、試料とともに泳動し検量線を作成した。なお、2000bp以上のサイズのDNAを定量対象とした。測定機器はフルオロ・イメージアナライザー Fla−5000(富士写真フイルム株式会社)を使用し、輝度を数値化するための画像処理にはImageGauge 4.0(富士写真フイルム株式会社)を用いた。アガロースゲルにおける定量例を図1に示す。
なお、各界面活性剤の、緩衝液組成、および物理的諸条件を表2に示す。
Figure 0004665124
また、本試験を含め後述する全ての実験でbeads−beating処理は、表3に示す条件にて行った。
Figure 0004665124
このbeads組成はB▲u▼rgmann et al.(2001)の知見を参考に調製したものである。なお実験はすべて3連で行った。
(2)結果と考察
土壌DNAの抽出量についての結果を図2に示す。加熱処理およびbeads−beating処理に関わらずSDSとTriton X100を使用した時が土壌DNAの抽出効率がよく、また界面活性剤が原因と思われるDNAの低分子化はみられなかった。beads−beating処理とSDSとの組み合わせは、その他の組み合わせより抽出量が多く、弥生圃場堆肥連用区土壌については、1gあたりの土壌から30μg近いDNAを抽出することが可能であった。
CTABおよびグアジニンチオシアネートでは、土壌試料から十分な量のDNAを抽出することができなかったが、抽出液はほぼ無色に近く、土壌からの腐植物質の抽出を妨げる効果が非常に強いことが明らかとなった。
ベンジルクロライド法で抽出したものについては、かなりの量のDNAが電気泳動によって確認されたが、抽出DNAの低分子化が著しかった。すなわち、加熱により抽出したものでは8000bp以下に、beads−beatingしたものではその大部分が2000bp以下のサイズになっており、塩化ベンジルはDNAの断片化を容易に引き起こすことが判明した。なお、図2には2000bp以上のサイズのDNAのみについて定量した結果を示したため、ベンジルクロライド法の収量は極めて小さく表れている。
加熱処理とbeads−beating処理を比較すると、beads−beating処理は極めて短時間で抽出を行うことができ、またDNAの収量も加熱処理と比較して多かった。また加熱処理は、beads−beating処理よりも多くの腐植物質が抽出されてしまい、この腐植物質の除去が困難であると推測された。泳動ゲルから推定されるDNAのサイズは、beads−beating処理により得られたものは20kbp程度の大きさのものを主体に20kbp〜7kbpの範囲に若干低分子化していた。一方、加熱処理で得られたDNAは23kbp以上のサイズで低分子化はほとんどみられなかった。
以上の結果より、今後の実験では、抽出効率が高いSDSを界面活性剤として使用することとし、細胞破壊の過程としては操作が短時間でかつ収量も高かったbeads−beating処理を採用することとした。
SDSの最適濃度の決定
実施例2では、実施例1の結果を踏まえ、土壌DNAの抽出液に用いるSDSの最適濃度を検討した。
(1)材料と方法
実験1
弥生圃場堆肥区土壌を対象に、SDS濃度に0%から2%までの段階を設け、土壌DNA抽出に最適なSDS濃度の条件を検討した。SDS濃度以外の実験条件は抽出液が100mM Tris−HCl 100mM EDTA(pH8.6)とし、それ以外は、(beads−beatingの条件が)実施例1と同様である。実験はすべて3連で行った。
実験2
抽出液の組成を100mM Tris−HCl 300mM EDTA(pH8.6)とし、それ以外は実施例1と同様の条件を用いて、SDS濃度に0%から2%までの段階を設け、土壌DNA抽出に最適なSDS濃度を検討した。EDTA濃度に関する詳細は後述する。実験には表4に示した6種類の土壌を供試土壌とした。
Figure 0004665124
これらのうち弥生圃場堆肥連用区土壌および栃木農試 森林土壌、東北大学森林土壌は火山灰土壌で、大阪農試 畑土壌および兵庫農試 畑土壌、埼玉農試畑土壌は非火山灰土壌(沖積土壌)である。また実験は3連で行った。
(2)結果と考察
実験1の結果を図3に、実験2の結果を図4に示す。100mM EDTAおよび300mM EDTAの場合もSDS濃度が0%から0.5ずつ増加するのにしたがって土壌DNAの抽出量は増加し、0.5%より高濃度のSDS濃度においても0.5%の場合と比較して抽出量に有意な差は認められなかった。よって本試験条件下で最大量の土壌DNAを抽出するためには、0.5%のSDS濃度が必要であることが示された。但し、SDS濃度の増加に伴って腐植物質の抽出量も増加もみられ(抽出液の着色程度の目視観察に基づく推定)、さらに、抽出液が泡立ち、試料の扱いが困難になるといった問題も生じるため、SDS濃度0.5〜1%にとどめておくのが良い。
抽出液のpHの検討
本実施例では、抽出液の適切なpHおよび緩衝能を検討した。
(1)材料と方法
使用した土壌は弥生圃場堆肥連用区土壌および埼玉農試畑土壌の2点である。理化学性は表5に示した。
Figure 0004665124
抽出液はTris−EDTA緩衝系の抽出液を用いた。抽出液のpHを9.0、8.0、7.0、6.0の4段階に設定した100mM Tris−HCl/100mM EDTA/1%SDSから成る抽出液1.2mlを土壌0.5gに添加し、beads−beating処理によりDNAを抽出し、除タンパク後DNAの沈殿回収および定量を行った。
(2)結果と考察
結果を図5に示す。いずれの土壌からのDNA抽出についても、試験したpHの範囲内ではアルカリ性の強い抽出液ほど高収量であった。beads−beating処理直後の粗抽出液のpHを測るといずれの土壌も土壌の酸度によりpHが低下していることが明らかになった。抽出時のpHの低下はDNAの化学的安定性を損なうだけではなく、土壌DNAの収量が低下するためアルカリ性に維持される必要があることがわかった。このような理由で低濃度の緩衝系では土壌の酸度を考慮した緩衝能を持つ抽出液を使用する必要があると考えられた。
しかし、pH8.3の1M Tris−HCl溶液および0.5M EDTA溶液を混合して抽出液を調整するとpHは8.6に上昇し安定していること、また、後述の実施例(実施例8)では高濃度のEDTAとリン酸緩衝液を使用することになったので、これらがあわせもつ緩衝能により抽出後の溶液のpHはほとんど抽出前の抽出液と変わらないことが確認できている。従って高濃度のEDTA、リン酸緩衝液を使用する抽出液においては、抽出前後の溶液のpHは8.6でほぼ一定であり、抽出時のpH変化は考慮しなくとも良いと考えた。
土壌によるDNA吸着の解消
本実施例では抽出液のEDTA濃度がDNA収量および金属イオン抽出量に与える影響について検討した。
(1)材料と方法
土壌DNA抽出の基本的な条件は実施例1と同様とし、抽出液のEDTA濃度のみを0、10、20、30、50、100、200、300、400mMの9段階に設定し、供試土壌として弥生圃場堆肥連用区土壌、栃木農試森林土壌、東北大学森林土壌、埼玉農試畑土壌、大阪農試畑土壌、兵庫農試畑土壌の6種類の土壌を用いた。その理化学性を表6に示す。
Figure 0004665124
土壌DNAの抽出量およびDNA粗抽出液(beads−beating後遠心した上清)中に溶存していたAl、Fe、Ca、Mgの濃度を分析した。これらの金属元素は土壌中において主要なものであり、土壌によるDNA吸着の原因となり得る元素であると考えられた。土壌DNAの抽出量は実施例1と同様の方法で定量し、金属元素は適宜希釈後ICP発光分析(Seiko SPS−1200)により定量した。実験は3連で行った。
(2)結果と考察
EDTA濃度が土壌抽出DNAに与える影響について、図6にアガロースゲル電気泳動後染色したDNAの写真の一例を、図7に土壌DNA抽出量を定量した結果を示す。また、粗抽出DNA液中の金属元素の定量結果を図8A〜Cに示す。EDTAによりキレートされ抽出されたと考えられる金属元素はEDTA−金属元素複合体になっていると考えられる。EDTAの総量に対するEDTA−金属元素複合体形成率、すなわち実際のEDTAが使われた割合を、4種類の元素それぞれの複合体形成率および4種類の元素をあわせたEDTA金属元素複合体形成率について求めた。これを図9A〜Cに示す。
(2−1)火山灰土壌について
火山灰土壌においては、3種類の土壌すべてにおいて抽出液中のEDTA濃度の上昇に伴いDNAの抽出量も増加した。特に栃木農試森林土壌においては、EDTA濃度が100mM以上でないとDNAが全く抽出されず、さらに300mM以上とすることで高分子のDNAがより多く得られた。前述のように、DNAが土壌に吸着する主な原因であると推定されるリン酸基は、DNAの構成単位であるヌクレオチドごとに存在しており、長いDNA分子のリン酸基の一部が土壌粒子に吸着されてしまうことで、DNAが溶液中に放出されなくなると考えられる。このように考えると、高分子のDNAほどリン酸基を多く持つことになるので、土壌粒子に強固に吸着する能性が高くなることが推測される。アガロースゲルの電気泳動結果より、弥生圃場堆肥連用土壌や栃木農試森林土壌においてEDTA濃度が低いと低分子のDNAしか抽出できておらず、高濃度のEDTAにより初めて高分子のDNAが抽出され始めている。火山灰土壌から高分子DNAを抽出するためには高濃度のEDTA溶液を使用する必要があることが明らかとなった。
高濃度のEDTAは土壌から大量の金属元素を溶出した。弥生圃場堆肥連用区土壌からは比較的低濃度のEDTAによってもDNAが抽出されている。弥生圃場堆肥連用区土壌から抽出された金属元素はほとんどがCaであり、Alは少ない。弥生圃場は火山灰土壌でありながら長期の堆肥連用によりCaが土壌に集積し、土壌中に含まれる金属元素組成が大きな影響を受けたことが窺い知れる。栃木農試の森林土壌や東北大学森林土壌のように大量の非晶質アルミニウムを含有している土壌では、十分量のEDTAによりDNAを吸着する土壌の非晶質Alが除去されなければ、土壌DNAは多くは抽出されない。
栃木農試森林土壌および東北大学森林土壌については、Al以外の金属、すなわちFe、Ca、Mgは、EDTA濃度が50mM以下の濃度において既に最大抽出量が得られており、50mM以上にEDTA濃度を設定してもそれらの抽出量の増加はほとんど見られなかった。しかし、AlはEDTA濃度の影響を顕著に受け、EDTA濃度が100mMに達するまでは高い錯体形成率で、EDTA濃度に対応してAlが土壌から溶出している。また100mM以上の濃度でも緩やかにAlの溶出量は増加している。東北大学森林土壌においてはEDTA濃度が50mMで、栃木農試森林土壌においてはEDTAが100mMの濃度で土壌DNAが抽出されはじめ、それ以上では、EDTA濃度に比例しDNA抽出量が増加している。土壌によるDNAの吸着は土壌の非晶質Alが原因であり、EDTAによりDNAを吸着するAl量が除去されて初めて抽出できることが窺いしれる。これらのことから、従来の手法で火山灰土壌からDNAが抽出できなかった一因は、EDTA可溶の非晶質AlによるDNAの吸着であると考えられた。
(2−2)非火山灰土壌について
非火山灰土壌においては、EDTA濃度が50mM以下でも土壌DNAが抽出された。3種類の土壌いずれについてもEDTA濃度が100〜200mM程度で収量が最大となっており、それ以上の濃度では逆にDNA収量が低下した。非火山灰土壌からの金属イオンの抽出量を見るとその大部分がCaである。これらの土壌において、EDTAで抽出されると考えられるCaが全量抽出できていない50mM以下の低濃度のEDTAであっても、すなわちCaが土壌から十分に除去できていない状態でもDNAの収量が十分得られていることから(図7、図8A参照)、土壌中に含まれているCaはDNAを抽出に影響を及ぼす程度の吸着をしないことが示される。また埼玉農試は火山灰土壌が多少混入しており、大阪農試畑土壌、兵庫農試畑土壌と比較するとAlの溶出量は多いが、火山灰土壌と比較すると、非火山灰土壌からのAlの溶出量はEDTA濃度を高くしてもAlの溶出量にはほとんど差が見られなかった。
(2−3)EDTA−金属元素複合体形成率について
図8Bより、火山灰土壌、非火山灰土壌ともに10〜20mM程度の低濃度の状態では、EDTAは、そのほとんどが今回分析した4種類の金属元素と錯体を形成していることが明らかとなった。濃度が上昇するにつれ、金属元素の種類によらず錯体の形成率は減少し、EDTA濃度が300〜400mMと高濃度になると、土壌の種類によらずEDTA−金属元素複合体形成率は約20%でほぼ一定になっていた。これはEDTAの金属元素とのキレート反応の平衡がEDTAの濃度および土壌の金属元素組成によらず、高濃度では一定の錯体形成率に達しているためと考えられた。つまり10〜20mM程度の低濃度のEDTAは100%の割合で金属元素とキレートし、300〜400mMと高濃度な状態ではEDTAはその約20%が金属元素をキレートすると考えられる。このことより高濃度EDTAを抽出の最初の段階から使用しなくとも、低濃度のEDTA溶液で抽出を繰り返す、もしくは土壌に対し抽出液の比を大きくすることにより、土壌DNAを抽出できる可能性が考えられた。
(2−4)高濃度EDTAに関する留意点について
EDTA使用時に留意すべき点として、EDTAが400mM以上になるとDNAの低分子化が引き起こされたことがあげられる。pHが8.3程度の溶液では、EDTA1分子あたりカウンターイオンとしておよそ3分子のナトリウムイオンが存在している。400mMのEDTA溶液はイオン強度にして1.2M NaCl溶液に相当する高濃度の塩溶液である。よってこの大量に含まれるナトリウムイオンのためにDNAが電気的に中和されてしまい、この影響でbeads−beating処理の際、せん断されやすくなっているのではないかと考えられた。またEDTA濃度が300mM以上の場合、高濃度の塩により常温ではSDSが白い結晶として析出するため、使用時は40℃程度に溶液を加熱して溶解させる必要があった。沖積土壌においてはEDTA濃度が200mM以上の高濃度になると火山灰土壌の場合とは逆にDNAの抽出量が低下した。これは高濃度EDTA溶液の高塩濃度により、界面活性剤であるSDSがミセル化、もしくは析出してしまったために土壌微生物の溶菌率が下がってしまったことに起因するものであると考えられた。
以上のことからbeads−beating処理を行う際、EDTAの最大使用濃度は300mMとし、この濃度を越えるとDNAは低分子化することを前提に実験をする必要があると考えられた。
抽出回数が土壌DNA抽出量に与える影響
EDTAはほとんどの金属イオンに対して優れたキレート安定定数を持つ化合物である(株式会社同仁化学研究所カタログ22nd Edition)。これは極めて低濃度であっても、大部分のEDTAが対象金属イオンと錯体を形成することを意味する。今回検討したbeads−beating処理を利用するDNA抽出においては、土壌0.5gに対し抽出液量は1.0mlである。抽出を繰り返したり土壌に対する抽出液量の比が大きくすることで、低濃度のEDTA溶液であっても、今回対象としている土壌の非晶質Alを除去できる可能性がある。本実施例ではEDTAの絶対量が重要なのか、もしくは濃度が重要なのかを明らかにするため、EDTA濃度を数段階設定し、同じ土壌から数回DNAの抽出を繰り返し行った場合のDNAの合計収量を検討した。
(1)材料と方法
供試土壌は弥生圃場堆肥連用区土壌、栃木農試森林土壌、東北大学森林土壌の3種類の土壌を用いた。基本的な抽出液組成は前項と同じでTris−HCl 100mM、SDS1%を用い、EDTA濃度を0mM、50mM、100mM、200mM、300mMと5段階に設定した抽出液を用いた。beads1gを含むスクリューキャップ付チューブに土壌0.5gを分注し、1.0mlの抽出液を添加後beads−beating処理を強度5m/secで30秒間行った。その後12000×gで5分間遠心後、上清500μlを回収した。上清を回収した残りの土壌に再び1回目の抽出と同じ濃度のEDTA抽出液を500μl添加し、攪拌のためにbeads−beating処理を強度4m/seeで5秒間行い、再び遠心し、上清を回収した。この作業を5回繰り返した。回収した上清500μlのうち20μlを希釈後ICP発光分析による金属イオンの定量に供し、残りの480μlにはクロロホルムを用いて除タンパク処理し、最終的に400μlを回収した。これに終濃度0.3Mになるように5M酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)を添加し、6/10量の2−propanolを用いてDNAを回収した。DNAの定量は2−2−1と同様にして行った。実験は3連で行った。
繰り返し抽出の段階ごとに再添加した抽出液により、新たに得られたと考えられる土壌DNA量、溶出金属元素量は、上記の操作にしたがって以下の計算式で記述される。ただし、n回目のDNAまたは金属元素の抽出量をXn(土壌1gあたりのDNAまたは金属元素の収量に換算した値、単位はμg/g soil)とする。
2回目の抽出により新たに得られた量=X2−X1×1/2
3回目の抽出により新たに得られた量=X3−X2×1/2−X1×1/4
4回目の抽出により新たに得られた量=X4−X3×1/2−X2×1/4−X1×1/8
5回目の抽出により新たに得られた量=X5−X4×1/2−X3×1/4−X2×1/8−X1×1/16
なお実験はすべて3連で行った。
(2)結果と考察
異なる濃度のEDTA抽出液を用いた繰り返し抽出によって得られた土壌DNAの段階ごとの収量(1gあたりの土壌からの収量に換算した)および土壌から5回抽出した土壌DNAの合計収量を図10A〜Cに示す。繰り返し抽出の際に、追加して添加したEDTAにより抽出されたと考えられる土壌DNA量(前述の計算に従った値;計算例を図11にあげる)を図12に示す。また追加して添加したEDTAのキレート形成により抽出されたと考えられる金属元素量について図13A〜Bに示す。
5回抽出し得られた土壌DNA量は、3種類すべての土壌において300mM EDTAを含む抽出液によるものが最も多かった(図10A〜C)。最もDNA収量の良かった300mMのEDTAを含む抽出液による繰り返し抽出では、2回目以降の土壌DNAの抽出量はほぼ変わらなかった(図12)。300mMのEDTAを用いた抽出では、土壌DNAは1回目の抽出でほぼ全量抽出されたと思われ、2回目以降にEDTA溶液を新たに添加して抽出しても、1回目の抽出時に回収しきれなかった溶液(遠心後の土壌およびビーズの間隙に含まれていた部分)を少しずつ回収して抽出量が増えているだけであり、土壌に吸着されたDNAを剥離して回収しているものではないと思われた。
栃木農試森林土壌からは100mM以下のEDTAを含む抽出液で繰り返し抽出すると2回目以降に1回目に得られた土壌DNA量の2倍近い量の土壌DNAが得られた。これについては2回目に添加されたEDTAが土壌からAlを除去することにより吸着されていたDNAが回収できたものと考えられる。また東北大学森林土壌においても100mM以下の濃度の抽出液で、2回目に1回目の抽出量の約3分の1程度が新たに得られており、これも2回目に添加したEDTAによりAlが除去されDNAが回収できたものであると考えられた。
土壌抽出に用いたEDTAの絶対量が同じ場合で比較すると、例えばEDTAの絶対量が土壌0.5gに対し300μmolとした場合、すなわち300mM EDTA抽出液による1回目の抽出量と200mMのEDTAの1回目と2回目の抽出合計量の比較では、弥生圃場堆肥連用区土壌および東北大学森林土壌においてはほぼ同じ量の土壌DNAが得られている。これはEDTAの絶対量が200nmol、100nmolの場合でも同様であった。しかし、栃木農試森林土壌においてはこの計算はあてはまらず、EDTAが絶対量で同じであっても抽出DNA量には大きな差が生じた。すなわち同じEDTA量であっても1回目に高濃度で抽出した方が抽出量は多く、繰り返し抽出しても高濃度で1度に抽出したDNA量に及ばなかった。
これらの結果より弥生圃場堆肥連用区土壌および東北大学森林土壌はDNAを吸着する非晶質Alの作用が比較的弱く、50mM程度の比較的低濃度のEDTA溶液で土壌DNAの一定の量が抽出され、それ以上のEDTAにより土壌へ吸着されていたDNAを回収していて、EDTA量に対応した土壌DNAをほぼ安定して回収できることが明らかとなった。しかし、栃木農試森林土壌においては非晶質Alの作用が強く、DNAの抽出には200mM以上のEDTAが必要であり、一度土壌に吸着されたDNAを再び解離させ回収するのは困難であると考えられた。
(3)金属元素の抽出量
弥生圃場堆肥区土壌からは、他の2種類の火山灰土壌と異なり、吸着の原因となるAlがほとんど抽出されなかった。弥生圃場堆肥連用区土壌は長年の堆肥連用によりCaが大量に土壌に集積し、堆肥を連用していない対照区と比較すると土壌中のAl量が少なく、土壌がCaの影響を強く受けていると考えられた。またこの土壌のもう一つの特徴は非晶質のSiが多いことがあげられ、非晶質Alの大部分がこのSiとアルミノシリケート(またはケイ素比が高いアロフェン)を形成している可能性が考えられた。この土壌ではAlは大部分が負電荷をもつSiと複合体を形成しているため、土壌DNAの吸着作用が小さいものと考えられた。
東北大学森林土壌からはAlが多量に抽出された。この土壌は、非アロフェン質黒ボク土壌という火山灰土壌の中でも特殊な土壌であり、ピロリン酸抽出Al(すなわち腐植−Al複合体の形態をとるもの)が多く、アロフェン含量が低いことがあげられる。腐植−Al複合体になっているAlが、土壌中の非晶質Al全体の約半分の量に達しており、腐植物質と錯体を形成しているAlが多い。この東北大学森林土壌は非晶質アルミ成分が非常に多いのにもかかわらず、50mMという比較的低濃度のEDTAを含む抽出液でもDNAが抽出することが可能であった。この土壌からはEDTAにより高効率で土壌からAlが除去されていることが示唆される。よってDNA抽出時のEDTAは、ピロリン酸抽出の際のピロリン酸とほぼ同じ作用を土壌にもたらしていると考えられる。
栃木森林土壌もピロリン酸抽出Alが多い土壌であるが、アロフェンも多く含んでいる。前述したように、この土壌では繰り返し抽出を行ってもDNA収量は増加せず、2回目以降に新しく添加したEDTAがほとんどDNAの吸着解消には作用していない可能性が考えられる。しかし、東北大学森林土壌の場合と同じく、Alは2回目以降に添加された土壌より新たにEDTAにより除去されている。EDTAでさらに土壌からAlを除去してもDNA収量が上がらないという栃木農試森林土壌で見られた現象により、土壌によりDNAを吸着する非晶質Alの主要な形態が複数存在していること、土壌によってはEDTAが除去する非晶質Alの形態がその土壌においてDNAを吸着する形態のAlとは異なる可能性があることが推測される。
また3種類の土壌ともにCaとMgについてはEDTA濃度によらず1回目の抽出でほぼ全量が溶液中に抽出されており、2回目以降に新しく添加されたEDTAにより新たに抽出されたCa、Mgはほとんどなかった。これより、Ca、Mgは低濃度のEDTAであっても容易に土壌から除去することが可能で、土壌DNAの吸着にはあまり関与していないことが確認された。
以上のことから、EDTAを300mMという高濃度での使用することが、火山灰土壌からの土壌DNAの抽出には効果的であり、土壌の種類によっては1回目の抽出に高濃度のEDTAを使用するか否かで、DNA合計収量が左右されることが明らかになった。これは、いったん吸着したDNAを放出しにくい土壌が存在することを意味する。
また、繰り返し抽出により吸着の原因となるAlが除去されるにしたがってDNAが徐々に抽出され続ける土壌(東北大学森林土壌)と、Alが除去されてもDNA抽出量が増えない土壌(栃木農試森林土壌)が存在する。東北大学森林土壌は非アロフェン質黒ボク土で、非晶質Alの大部分が腐植−Al複合体であり、アロフェン質黒ボク度と比較するとアロフェン含量は少ない。それゆえ土壌DNAを吸着するAlの中には、腐植−Al複合体のAlの他に、アロフェン態のAlが存在しており、EDTAが主にDNAの吸着を解消するのは、主に腐植−Al複合体のAlであることが推測された。
高濃度EDTAでもDNAが抽出されない土壌からのDNA抽出
これまでの結果から、従来の抽出法で火山灰土壌からのDNA抽出が困難であった最大の原因は、土壌によるDNAの吸着であったことが強く示唆された。
そこで、DNAの吸着を解消するEDTAの最適濃度をさらに検討するため、DNAの吸着力が強いと考えられる土壌を対象とし、beads−beating後に高濃度EDTAを再添加し、高濃度EDTAと加熱処理の併用により、土壌に吸着されたDNAを回収する方法および条件を検討した。
(1)材料と方法
試験には弥生圃場対照区土壌を用いた。検討した点は次の3点である。はじめの抽出液のEDTA濃度(beads−beating時の抽出液)、DNA回収液のEDTA濃度(再添加するEDTA溶液)、回収液添加後の処理(攪拌もしくは加熱処理)である。処理内容と抽出液及び回収液との組み合わせを表7に示す。
Figure 0004665124
100mM Tris−HCl/1%SDS(pH8.3)および異なる濃度のEDTAから成る抽出液1.2mlでbeads−beatingを行い、微生物細胞を破壊し、その後いったん遠心して上清600μlを回収した後に、さらに濃度の高いEDTAを含む回収液600μlを添加し攪拌のみを行う、もしくは攪拌後60℃で1時間加熱処理を加えた。その後遠心し、先ほど回収した上清とあわせて除タンパク処理後DNAを回収、定量した。
(2)結果と考察
結果を図14に示す。回収液添加後の操作によってDNA収量に顕著な差が生じた。攪拌のみの処理と比較すると、加熱処理をしたものではより多くの土壌DNAを抽出することが可能となった。これはEDTAと土壌との反応、すなわちDNAを吸着している非晶質AlをEDTAがキレートして奪い取り、DNAを解離させる反応が温度により加速されることを示唆している。またEDTA濃度も高いほどDNA抽出効果が高いという結果が得られた。今回の実験では、使用したEDTAの最高濃度において土壌DNAが最も多く得られているので、さらに多くのDNAが土壌中に吸着されている可能性もあり、土壌中のDNAの総量を知ることはできなかった。しかし、EDTAの溶解度は通常の条件では最高1.5M程度であるので、土壌に添加し、吸着されたDNAを回収する場合、スモールスケールの抽出では最終濃度で1M以上の濃度で土壌を処理することは極めて難しいと考えられ、EDTA濃度をあげるよりもむしろ反応時間を長くするほうが土壌DNAの抽出効率を上げることにとっては有効であるように思われる。というのもEDTAはAlと1:1錯体を形成する。1000mMのEDTA溶液1mlは、100%反応すると仮定して計算すると、1mmolすなわち27mgのAlをキレートすることができる。一方、極めて非晶質成分の多い火山灰土壌1g(乾土)で非晶質のAlはおおよそ100mgである。このことを考慮すると、0.5gの土壌(湿潤土)には最高で40mg程度の非晶質Alが含まれることになり、1M EDTA溶液1mlを回収液として使用すると、ほとんど全ての非晶質Alを溶解させられるEDTAを使用していることになるからである。
先にも述べたように、300〜400mMの濃度でEDTAを使用しても、加熱をしない状態ではその15〜20%程度しか土壌中の金属元素と錯体を形成していない。また抽出回数を増やして土壌の非晶質Alの除去量を定量した実験により、EDTAは火山灰土壌のおもに腐植−Al複合体のAlを除去していることが推測できている。高濃度のEDTA溶液を添加し加熱処理を加えることにより腐植−Al複合体のAlに加えアロフェンを初めとするその他の形態の非晶質Alとも錯体形成反応が進み、土壌からのAlの除去率が高くなり土壌DNAが抽出できたと推測された。
しかし、反応時間を長くすると、短時間で抽出可能なbeads−beating処理の利点を生かすことができない。また、最初の抽出処理で遠心と上清回収を行った後に、再び回収用緩衝液を加えてインキュベーションを行う作業は煩雑であること、さらに、溶液はSDSを含むためしばしば泡立ち、手作業を繰り返すことによって、手や実験機具に付着した試料が他の試料に混入する危険性が高まる。さらに、高濃度のEDTA添加および加熱処理は大量の腐植物質の溶出をも引き起こした。
腐植物質はDNAの土壌への吸着と同じ原理により、土壌中で非晶質Alと錯体を形成して安定化していると考えられる。腐植をはじめとする土壌有機物を保持していた非晶質AlをEDTAが加熱処理中に徐々に取り除くため、団粒や土壌粒子内部に保持されていた腐植物質までが次第に抽出液中に溶出され、DNA試料への腐植の混入も多くなるという問題が考えられる。
以上のことより、腐植が少なくアロフェン態のAlが多い火山灰土壌についてはEDTAの錯形成反応を利用してAlを除去する方法は非効率的であると考えられ、アロフェン態のAlによって吸着された土壌DNAを抽出するためには、その他の方法を検討する必要があると考えられた(実施例7)。
土壌DNA抽出液へのリン酸緩衝液の使用
抽出液に様々な濃度でリン酸を加え、土壌DNAの抽出量を測定した。
(1)材料と方法
供試土壌には火山灰土壌として、高濃度のEDTAを使用してもDNA抽出が困難であった弥生圃場対照区土壌、田無農場未耕地土壌、栃木農試森林土壌の3種類のアロフェン質黒ボク土を、また非火山灰土壌として、埼玉農試畑土壌、草地試験場永年採草地土壌、兵庫農試畑土壌の3種類の沖積土壌を用いた(表8)。
Figure 0004665124
beads−beatingの条件は実施例1と同様に設定した。抽出液組成は100mM Tris−HCl/1%SDS(pH8.3)を基本として、これにKHPO(pH8.3)を0、50、100、250、500、750、1000、1250、1500、1750、2000mMになるよう添加した抽出緩衝液を調製し、土壌0.5gに対してそれぞれ1.2mlずつ添加し、土壌DNAを抽出した。粗抽出液は除タンパク後、等量の12%PEG/1M NaCl溶液を添加し、4℃にて20000×gで20分間遠心することによりDNAを回収し、アガロース電気泳動により2000bp以上のDNAを定量した(これ以降の実験にはDNAの回収法に等量の12%PEG/1M NaCl溶液を使用した)。またリン酸との比較のため、EDTAについても50、100、200、300、400、500、600、800mMに設定した抽出液を作成し、同様にDNAを抽出し定量を行った。全ての実験は3連で行った。
(2)結果と考察
(2−1)抽出液のEDTA濃度が土壌DNA抽出量に及ぼす影響
火山灰土壌においては、前節で述べた通り、十分に高濃度なEDTAを用いなければ土壌DNAが十分に抽出できないことが再び示された(図15A)。特に栃木農試森林土壌と田無農場未耕地土壌においては、EDTA濃度が最大濃度の時にDNAが最大収量となっており、800mMという高濃度なEDTA抽出液を用いても土壌中に未抽出のDNAが吸着されている可能性が考えられた。
非火山灰土壌においては、埼玉農試畑土壌と兵庫農試畑土壌ではEDTA濃度が高まるにつれてDNA収量の低下が観察された。EDTA濃度の検討実験(実施例4参照)においても同様な現象が見られたが、前述の通りSDSの析出が原因であると考えられた。
なお、火山灰土壌であっても、弥生圃場対照区土壌からの抽出DNA量は、EDTA濃度が500mMの時に最大となり、それ以上のEDTA濃度になると収量は低下した。火山灰土壌でも高濃度EDTAによるSDSの析出および土壌微生物の溶菌率の低下は起こっていると考えられるが、吸着されたDNAの回収率の上昇が著しいため、溶菌率低下によるDNA収量の減少が現れにくくなっているだけであり、SDSによる土壌微生物の溶菌率が高まれば、より多くの土壌DNAが得られると考えられる。
草地試験場の永年採草地土壌は、他の非火山灰土壌とは違い、火山灰土壌型の抽出傾向を示した(図15A)。草地試験場は那須火山帯に位置しており、元来この地域の大部分の土壌はアロフェン質黒ボク土である。しかし、採集地である永年採草地は、河川の浸食により火山灰層が失われ、火山灰に覆われていた元の地層部分が地表に表れ、現在の表土の母材となっている。そのため、火山帯に位置していながら非火山灰土壌の性状を示している。ところが、酸性シュウ酸塩抽出によるAlやFeの量からも推定されるように、実際には非晶質Alが土壌中に残存しており、その非晶質Alが土壌DNAを吸着したと考えられた。このように、土壌中に存在する非晶質Alは、火山灰土壌の混入というたとえ少量であってもDNAを強く吸着し、DNA抽出を阻害する可能性が示唆された。
(2−2)リン酸の濃度が土壌DNA抽出に及ぼす影響
火山灰土壌からのDNA抽出量については、リン酸緩衝液を用いることにより、弥生圃場対照区土壌では1g土壌から35μgのDNAを抽出することができ、EDTA緩衝液を用いても収量の低かった田無農場未耕地では1g土壌から15μgものDNAを抽出することができた(図15B)。また土壌DNAの最大収量が得られたリン酸濃度は、弥生圃場対照区土壌では1500mM、栃木農試森林土壌では750mM、田無農場未耕地土壌では1500mMであった。それ以上の濃度に設定した場合でも、抽出量はほぼ同じか多少減少する程度であったことから、これらの濃度のリン酸緩衝液で、土壌に吸着したほとんど全ての土壌DNAが回収できていることが示唆された。また、非火山灰土壌からのDNA抽出も良好であり、火山灰土壌が一部混入している草地試験場の土壌からも高い収量で土壌DNAが抽出された。
EDTAとリン酸を同じモル濃度で比較すると、栃木農試森林土壌ならびに草地試験場永年草地土壌を除き、EDTAの方が土壌DNAの抽出効果は高かったが、リン酸塩の溶解度は高く水に溶けやすく、EDTAの溶解度が最大1.5M(pH8.3)であるのに対しリン酸カリウムの溶解度は3M程度と高いため、EDTAよりもはるかに高い濃度で使用することが可能である。リン酸イオンを高濃度で使用すると、弥生圃場対照区土壌や田無農場未耕地土壌からは、EDTAを用いて得られたDNAの最大収量の2倍以上のDNAを抽出することができた。
以上のように、リン酸緩衝液は、DNA収量においては優れていると言える。但し、以下の事項を考慮する必要がある。
すなわち、火山灰土壌から土壌DNAを抽出するための緩衝液は、EDTA、リン酸のいずれを使用しても、DNAの最大収量が得られる条件(EDTA、リン酸、SDSの濃度など)が土壌によって異なる。これは極めて重要なことを示している。土壌DNAの抽出の際、土壌DNAの回収率を上げようと高濃度EDTA、リン酸緩衝液を使用すればSDSによる細胞破壊効率が下がってしまう、細胞破壊効率を上げようと低濃度緩衝液を使用すれば土壌へのDNA吸着が多くなってしまう。今回の結果は、両者のバランスが土壌によって異なることを示している。従って、すべての土壌で最大収量のDNA抽出を可能とする普遍的な抽出条件を確立するには、さらに検討する必要があると思われた。
分析対象とするすべての土壌試料から最大収量の土壌DNAを抽出しようとすれば、すべての土壌について理化学性を試験する必要が生じ、その結果に応じてそれぞれの土壌に最適な抽出緩衝液を個別に作成する必要があるといえる。
高濃度EDTA−リン酸混合液による土壌DNAの抽出
本実施例では、土壌DNA抽出におよぼすEDTAとリン酸カリウム緩衝液の相乗効果を期待して、両者の併用を試みた。
(1)材料と方法
実験には、実施例7に示す6種類の土壌を用いた。抽出液は100mM Tris−HCl/1%SDSにEDTAとリン酸を、表9の1番〜16番に示す組み合わせの濃度で使用した。抽出条件、DNAの定量条件は実施例6と同様である。
Figure 0004665124
(2)結果と考察
土壌DNA抽出量の結果を図16A〜Bに示す。EDTAとリン酸をそれぞれ単独で使用するより、混合液では低い濃度であっても、高いDNA抽出効果が得られ、土壌DNA抽出に関してEDTAとリン酸の補完効果が認められた。また、非火山灰土壌ではこれまで、EDTA濃度の増加に伴ってDNA収量の低下が認められていたが、EDTAとリン酸緩衝液を組み合わせると、EDTAを高濃度にしても収量の低下が比較的低く抑えられた。
これまでの結果から、高濃度のEDTAでも抽出が難しかったアロフェン態のAlに富む弥生圃場対照区土壌や田無農場未耕地土壌からも、リン酸緩衝液を用いることにより高収量でDNAを抽出できることが明らかとなった。他の2種類の火山灰土壌と比較して、アロフェン態Alが少ない栃木農試森林土壌に関しては、EDTAでもリン酸でもほぼ同じ抽出量が得られている。そしてEDTA−リン酸緩衝液の混合液を使用することにより、EDTA単独およびリン酸単独で得られる土壌DNAの合計量にほぼ近い量の土壌DNAが得られた。これまでの結果も考慮すると、EDTAは主に腐植−Al複合体のAlを除去し、リン酸はアロフェン態Alのマスキングを行う効果があるものと考えられる。
EDTA−リン酸緩衝液併用の利点は、1つには同じDNA収量を得たい場合それぞれ単独で抽出する際の濃度よりも、いずれもの濃度を低く抑えられることである。2つめはDNAの最大収量が得られる濃度は、やはり土壌によって若干異なるが、400mMのEDTAに750mMのリン酸カリウムを組み合わせると、ほとんどの土壌からDNAの最大収量を得られることが明らかとなった(図16A〜B)。これは、土壌の種類を問わない、ユニバーサルなDNA抽出液の組成を突き止めたことを意味する。またこの濃度では、その後のDNAの精製操作および沈殿操作時に塩濃度をさげるための希釈操作が不要であったことからも、今後は上記の組成を土壌DNA抽出用緩衝液に適用することとした。
このユニバーサルな緩衝液組成は、供試した土壌のほぼすべてから最大収量のDNAを得ることができる。しかしながら、土壌によっては土壌DNAの低分子化(20〜7kbp)が起きることが判明した。多数の試料を対象にすることが多い土壌微生物群集構造解析では実験操作の簡便さが要求され、また一般に比較的短いDNA領域(200〜1500bp)しか解析対象としないことなどから、多少DNAが低分子化されても十分に目的は達成できると考えられた。よって、微生物群集構造解析をする上では、本実施例の条件により土壌DNAを抽出して問題はないと考えられた。但し、クローニングなど断片化したDNAでは不都合な操作や、群集構造解析であってもより正確に解析したい場合には(高度に低分子化したDNAを鋳型としてPCR増幅を行うとキメラ配列が発生しやすくなる)、より高分子のDNAが得られる抽出手法が必要であると考えられた。
「2ステップ法」の検討
実施例8で示したように、高濃度のEDTA−リン酸による抽出は高収量でDNAを抽出できるが、DNAの低分子化の可能性がある。そこで、最も強く物理的衝撃がDNAに加わるbeads−beating時に低濃度のEDTA−リン酸溶液を用い、次に土壌に吸着されたDNAを高濃度EDTA−リン酸溶液で抽出することにより、DNAを効率良く抽出しつつ低分子化を回避できるかどうか検討した。
(1)材料と方法
供試土壌として表10に示すものを用いた。
Figure 0004665124
100mM Tris−HCl/1%SDS(pH8.3)400μlを土壌0.5gの入ったスクリューキャップチューブに加え、beads−beating後、数秒の高速遠心で土壌溶液をチューブ下部に集め、キャップをあけて高濃度EDTA溶液、リン酸溶液もしくはEDTA−リン酸混合緩衝液を800μl添加した。その後vortexにより土壌と溶液をよく攪拌して直ちに遠心、上清を回収して除タンパクし、DNAを沈殿回収した。beads−beating後にチューブに添加した溶液の組成、および添加後の抽出液の終濃度を表11に示す。
Figure 0004665124
(2)結果と考察
結果を図17に示す。beads−beating時にEDTAやリン酸を含まないTris−HCl緩衝液を用い、その後に高濃度のEDTAおよびリン酸、EDTA−リン酸緩衝液を用いても、弥生圃場対照区土壌および田無未耕地土壌からは、beads−beating時に高濃度緩衝液を用いて抽出した時(実施例6参照)とほぼ同程度の量のDNAを得ることができた。しかし、栃木農試森林土壌からは、最も高い収量が得られた濃度で比較すると約半分のDNA抽出量しか得られなかった。初めから高濃度のEDTA、リン酸緩衝液を含む抽出液で抽出した場合と同じく、3種類全ての土壌においてEDTA400mM、リン酸750mMの濃度の抽出液がもっともDNAの回収量が多かった。これによりEDTA400mM、リン酸750mMの混合溶液は、溶菌した微生物から放出されたDNAが土壌に吸着するのを防ぐとともに、土壌に吸着したDNAを回収する効果も、検討した組み合わせの範囲においては最も高いと考えられた。
DNAの低分子化は多少減少したものの、一部の試料ではDNAの低分子化が依然として認められた。これは、遠心操作によりペレット化した土壌を再懸濁するため高濃度緩衝液を添加後に激しくvortex撹拌する必要があったこと、および、はじめに400μlという少量の溶液中でbeads−beatingしたため、より大きな物理的破壊力が加わったことが原因と考えられる。少ない液量でbeads−beatingを行うとB▲u▼rgmann et al.(2001)の報告にあるようにDNAは低分子にせん断されやすくなる。また土壌の種類によっては、DNAが不可逆的に土壌に吸着し、その剥離が困難な土壌も存在すると考えられた。
そこで追加検討条件として、beads−beating時の抽出液にDNAの低分子化を引き起こさない上限の濃度の緩衝液の使用について検討した。すなわち、DNA抽出液の終濃度は400mM EDTA−750mMリン酸で固定し、beads−beatingを表12に示す濃度の800μlの抽出液により、フラッシュ遠心後にキャップをあけ表12に示す濃度の400μlの回収液を追加し、攪拌してDNAを土壌より剥離させ、回収する改良法を検討した。
Figure 0004665124
改良法による結果を図18AおよびB(DNA抽出量)および図19(アガロース電気泳動写真)に示す。この3種類の土壌に関してはbeads−beating時にDNAの低分子化を引き起こさない限界の濃度はEDTAが400mM、リン酸が250mM程度であると考えられた。両者の混合系では400mM EDTA、100mMリン酸の混合液が低分子化を引き起こさない限界濃度であると考えられた。
ここまでの結果から、2ステップ法として、DNAの低分子化を抑制しつつ収量が最も高い抽出液、すなわち300mM EDTAと100mMリン酸を含む緩衝液をbeads−beating処理時の抽出液として用い(第1ステップ)、その後高濃度のEDTA−リン酸緩衝液を添加して攪拌し、土壌に吸着したDNAを回収する(第2ステップ)方法を効率的な土壌DNA抽出法として提案する。
土壌DNAの沈殿方法の選択
本実施例では、2−プロパノール、エタノール、PEGの3種類を用いたDNAの沈殿方法について、DNAの回収率およびDNAとともに沈殿する腐植物質の量を測定した。
(1)材料と方法
栃木農試森林土壌、東北大学森林土壌、埼玉農試畑土壌を供試した。それらの理化学性を表13に示す。
Figure 0004665124
栃木農試森林土壌および東北大学森林土壌は、全炭素量が9%におよび、腐植物質の集積量が多い土壌である。30種類の土壌より土壌DNAを抽出した際、他の黒ボク土の抽出液が茶色に着色していた程度であったのに対し、これらの土壌の抽出液は黒色に着色していたことからも、腐植物質の混入量の多さが推測された。
土壌DNAの抽出には100mM Tris−HCl/300mM EDTA/1%SDSの抽出液を用い、土壌0.5gに抽出液1mlを添加後、bead−beateing処理を行い、遠心後に等量のクロロホルムによる除タンパク処理を行った。この抽出液500μlに1/10量の5M酢酸ナトリウム(pH5.2)を添加し、2−プロパノールは7/10等量、エタノールは2等量、20%PEGは6/10等量を加え、4℃にて20000×gで20分間遠心し、沈殿を得た。沈殿はTE緩衝液500μlに溶解させ、土壌DNAの回収量を定量した。また腐植物質の一つの特徴として、400nm以上の可視光吸収を有することがあげられる。腐植の分析法(山本1997)では波長400nmおよび600nmにおける吸光度を土壌の腐植量として定義していることから、土壌DNA溶液への腐植物質の混入量を推定するため、これら2波長における吸光度を測定した。測定はUV/VIS Spectrophotometer V−550(日本分光)を使用した。
(2)結果と考察
土壌DNAの回収量を図20Aに、土壌DNA溶液の400nmおよび600nmにおける吸光度を図20Bに示した。
2−プロパノールおよびPEGによる土壌DNAの回収率が高かった。エタノールでは土壌DNAの回収量が少なく、DNAの大部分が沈殿していないと考えられた。またPEGによる沈殿法では、土壌DNAに混入している大部分のRNAを除去できていた。土壌DNA溶液の400nmおよび600nmにおける吸光度から、PEGによる沈殿操作により得られたDNAは、最も腐植物質の混入が少ないことが示された。PEGを用いた沈殿操作は2−プロパノールを用いた場合と比較して腐植物質の混入が半分以下であり、回収したDNAの純度が高いことがわかった。またアガロース電気泳動の結果から2−Propanolでは回収されていたrRNAがPEGによる沈殿操作では除去されていたことがわかった。このように、PEGにはDNAの回収率が高い、腐植物質の混入が少ない、RNAを除去できるといった優れた点があるので、この方法を土壌DNAの沈殿法として採用することにした。しかし、この方法で得られた土壌DNAを鋳型として16S rRNA遺伝子のほぼ全長を対象にPCR反応を行ったところ、全く増幅がなく、混入している腐植物質の更なる除去が必要であると考えられた。
PEGによる沈殿操作の条件検討
本実施例では、PEGの濃度によるDNAの回収量を検討した。
(1)材料と方法
弥生圃場対照区土壌および栃木農試森林土壌より400mM EDTA/750mMリン酸/1%SDSを用いて、beads−beating処理により土壌DNAを抽出した。除タンパク処理後、等量の10、11、12、13、14、および15%PEG溶液を用いて土壌DNAの沈殿回収を行い、回収量とPEG濃度の関係を検討した。DNA沈殿時の溶液中のPEG濃度はそれぞれ5、5.5、6、6.5、7、7.5%である。
(2)結果と考察
結果を図21に示す。検討濃度範囲では加えるPEG濃度が12%の場合にDNA回収量が最も多かった。腐植物質の混入量には大差がなかったため、DNAの回収量のみを考慮して、今後のDNA沈殿回収方法としては、抽出液に対し等量の12%PEG溶液を添加して行うこととした。
土壌DNAの精製方法についての検討
前述の通り(実施例1参照)、DNA抽出に最適な界面活性剤の検討を行った際、CTABでは土壌DNAを抽出することができなかったが、CTABによる抽出後の溶液は非常に透明で腐植物質の除去に極めて大きな効果があることが示された。またZhou et al.(1996)、Porteous et al.(1997)、Wilstrom et al.(1996)の報告では、腐植物質の除去にはCTABが効果的であるとされている。そこでCTABを利用した土壌DNAの簡易精製と、前項のPEGによる沈殿を組み合わせることにより、PCR可能な土壌DNAを調製することを試みた。
(1)材料と方法
供試土壌としては実施例10と同じく栃木農試森林土壌、東北大学森林土壌、埼玉農試畑土壌の3種類の土壌を用いた。土壌DNAの抽出には100mM Tris−HCl/300mM EDTA/1%SDSの抽出液を用い、土壌0.5gに抽出液1mlを添加後、bead−beateing処理を行い、遠心して粗抽出液を得た。この粗抽出液300μlに対し、10%CTAB溶液および5M NaClを用いて、終濃度でCTABの濃度が0%、1%、2%、3%の4段階と、NaClの濃度が0.7M、1.4M、2.1Mの3段階のいずれかの組み合わせとなるように添加した。溶液をよく混合し60℃で10分間加熱処理を行った後、抽出液をよく混合し、等量のクロロホルムを添加して除タンパク操作を行い、水層を回収し20%のPEGを6/10等量加え、土壌DNAを回収し、TE緩衝液に溶解させた。
この場合CTABと結合した腐植物質はクロロホルムによる除タンパク時に変性層に集まり、除去される。
土壌DNAの回収量を定量し、また腐植物質の混入について2−4−2と同様に400nmにおける吸光度を測定した。
(2)結果と考察
土壌DNAの回収量を図22Aに示す。また、精製操作後の土壌DNAの400nmにおける吸光度を図22B〜Cに示す。
CTABによる精製は、土壌DNAの損失がほとんどないことが示された。なかでも1.4M以上のNaCl存在下で処理を行ったものが最も土壌DNAの回収量が多かった。またCTABの使用により、どの土壌試料についても腐植物質が除去され、特にCTABを2%以上使用したときに腐植物質の大部分が除去されていた。通常精製に使用されるCTAB濃度は1%であるが、1%では腐植物質の除去率が悪く、2%以上の使用が効果的であった。CTABは陽イオン界面活性剤であり、陰イオン界面活性剤であるSDSとは親水基同士で速やかに結合し、疎水基が外側に向いたミセルもしくは塩を形成し沈殿する。よってCTABを1%で使用すると、その大部分が溶液中に残存しているSDSとの反応で消費されてしまい腐植物質の除去に働けるCTABが減少し、その結果として吸光度が高くなっていると考えられた。2%以上のCTABの使用は残存するSDSがすべてCTABにより除去された後、余剰のCTABが十分量存在し、腐植物質の除去を行えるために腐植物質が除去され、吸光度が低くなっていると考えられた。
Zhou et al.(1996)は、既に抽出液にCTABを添加することを考案しているが、CTAB 1%に対し2%のSDSを使用している。これではSDSによりCTABが機能を失ってしまっており、十分な腐植除去ができていないと推測される。
以上のことより、1%SDSを含む抽出液で土壌DNAを抽出する場合は、2%以上のCTAB、1.4M以上のNaClを添加し、60℃で10分間のインキュベーションを行い、クロロホルムによる除タンパク後、PEGにより土壌DNAを沈殿回収することにより、ほとんどの腐植物質が除去された土壌DNAを得ることができることが明らかとなった。
土壌DNAの沈殿法について求められるのは、
(i)DNAの回収率が高いこと、
(ii)DNAのみを選択的に沈殿させ、腐植物質を初めとする夾雑物を沈殿させないこと
である。
また、DNAの精製法に求められるのは、
(i)夾雑物を取り除き、DNAの純度を上げること、
(ii)精製時にDNAが失われないこと、
(iii)簡便でかつコストがかからないこと、
(iv)特殊な技術、装置を必要としないこと
である。
CTABによる簡易精製およびPEGによるDNAの回収の組み合わせは、上記の条件を全て満たしていると考えられ、この精製、沈殿法と抽出法を組み合わせることにより、本発明におけるオリジナルの抽出法として使用することができる。
本発明の方法と既往の手法による土壌DNA収量の比較
本発明の方法、ならびに既往の方法を用いて様々な土壌からDNAを抽出し、土壌DNAの収量の比較を行った。
(1)材料と方法
現在までの実験において様々な理化学性を示す12種類の土壌を供試土壌とした。その理化学性を表14に示す。
Figure 0004665124
本発明において開発した手法として、抽出操作条件が異なる以下の4種類の手法を比較検討した。
1. 0.5gの土壌から、100mM Tris−HCl/400mM EDTA/750mMリン酸カリウム/1%SDS(pH8.6)からなる抽出液1200μlによりDNAを抽出し、2%CTAB/1M NaClによる簡易精製を経て、12%PEGにより土壌DNAを沈殿回収する方法。この方法を、以下「オリジナル1Step法」と記す。
2. 0.5gの土壌に、100mM Tris−HCl/300mM EDTA/100mMリン酸カリウム/1%SDS(pH8.6)からなる抽出液800μlを添加してbeads−beating処理を行い、フラッシュ遠心後400μlの600mM EDTA,2050mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.6)を加え、攪拌後に遠心して上清を回収し、2%CTAB/1M NaClによる簡易精製を経て、等量の12%PEGにより土壌DNAを沈殿回収する方法。この方法を、以下「オリジナル2Step法」と記す。
3. 0.5gの土壌にbeads−beating処理まで2と同様の操作を加えた後、400μlの600mM EDTA/2050mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.6)を添加し、60℃で1時間加熱処理を行ってから、遠心、簡易精製、DNAの沈殿回収を2と同様の操作を行った方法。この方法を、以下「オリジナル2Step加熱法」と記す。
4. 0.5gの土壌に、100mM Tris−HCl/300mM EDTA/100mMリン酸カリウム/1%SDSからなる抽出液1200μlにてbeads−beating処理を行い、遠心して上清を回収し、2%CTAB/1M MaClによる簡易精製を経て、等量の12%PEGにより土壌DNAを沈殿回収する方法。この方法を、以下「オリジナルLowConcBuffer(LCB)法」と記す。
既往の方法として、Zhou et al.(1996)の方法およびCullen & Hirsch(1998)の2種類の方法、さらにBio 101 Fast DNA spin kit(Qbio、USA)、UltraCleanTM Soil DNA kit(MoBio、USA)の2種類のキットを用いる方法により土壌DNAを抽出した。土壌DNA抽出はそれぞれのプロトコールに基づいて行ったが、Cullen & Hirsch(1998)の方法およびUltraClean Soil DNA kit(MoBio USA)については、beadsによる破砕に特別な装置が必要とされたため、この部分については両者ともFast Prep FP101(Qbio、USA)を代用し、強度5m/see、30secの処理で代替し、抽出を行った。
また、本実施例では土壌からのDNA抽出効率の評価を目的としたが、アガロース電気泳動後の切りだしによりDNAを精製するZhou et al.(1996)の方法、およびゲルろ過によりDNAを精製するCullen & Hirsch(1998)の方法では、研究者の技術や操作方法、用いる装置などにより、抽出量にかなりの誤差が生じると考えられたため、精製前のDNA溶液による収量の比較を行った。
土壌DNAの抽出の際、土壌と抽出液の懸濁液を遠心して土壌(あるいはbeads−beating処理を利用する方法では土壌とbeadsの混合物)を沈殿させ、抽出液を回収することになるが、この際、土壌やbeadsの間隙に回収しきれない抽出液が残る。精製操作などの違いにより、この抽出液の回収量がそれぞれの方法で異なる。土壌からの抽出効率を計算する際、遠心により回収した上清と、土壌やbeadsの間隙に含まれる溶液中には等しい濃度でDNAが含まれているものと仮定し、土壌DNAの抽出量を、添加した抽出液全量に相当する量に換算して算出した。
(計算例)
土壌0.5gに抽出液1200μlを添加し、beads−beating処理後、そこから750μlを回収し、その後の精製操作でその溶液が1250μlになり、最終的にそのうち1000μlの溶液からDNAを沈殿回収した場合、
土壌1g当たりのDNA抽出量=沈殿回収されたDNA量×1250/1000×1200/750×2
(2)結果と考察
本発明において開発した方法の一例である上記4種類のオリジナル法によって、12種類の土壌からDNAを抽出した。
結果を図23に示す。また4種類の方法による抽出DNAのサイズについて図24に示す。オリジナル1Step法、2Step加熱法、および既往の代表的な方法による土壌DNAの抽出量について図25に示す。
(2−1)4種類のオリジナル法の土壌DNA収量比較
火山灰土壌である弥生圃場対照区土壌、栃木農試森林土壌、東北大学森林土壌、およびすべての非火山灰土壌から、オリジナル1Step法およびオリジナル2Step加熱法により、ほぼ同じ量の土壌DNAを抽出することができた。しかし、千葉農試森林土壌、茨城農試畑土壌、田無農牧草地土壌、群馬畜試牧草地土壌については、オリジナルLCB法では土壌DNAがほとんど抽出できていない。またオリジナル2Step法でも、土壌DNAの抽出量は、オリジナル1Step法のそれと比較して1/3から1/5以下となっている。これらの土壌では、土壌に吸着したDNAを溶出させる作用が強いオリジナル2Step加熱法でも十分な量の土壌DNAを回収することができなかった。この4種類の土壌は、いずれもアロフェン態Alが50mg/g soilと火山灰土壌の中でも特に多い土壌であり、DNAの土壌への吸着が強く、いったん土壌に吸着されてしまうと、DNAを再抽出し回収することは困難と思われた。非火山灰土壌からは、加熱を伴わない2Step法でも、極めて高収量で土壌DNAを回収することが可能であり、土壌によるDNA吸着の解消が容易になされた。
またオリジナル1Step法により得られた土壌DNAが、20〜7kbpに低分子化していたのに対し、オリジナル2Step法およびオリジナル2Step加熱法、オリジナルLCB法により得られた土壌DNAは、20kbp以上の高分子に保たれ、低分子化は抑えられていた。
最終的なDNA溶液への腐植物質の混入はオリジナル2Step法およびオリジナルLCB法ではほとんどみられず、溶液はほぼ無色であった。しかし、オリジナル1Step法およびオリジナル2Step加熱法については、栃木農試森林土壌および東北大学森林土壌から抽出したDNA溶液は茶色に着色しており腐植物質を完全に除去することだできていなかった。この2種類の土壌は腐植の集積量が多く、抽出時に多量の腐植物質が抽出されてしまっていた。しかし、後述するが鋳型DNA量を少なくするとPCR反応が成功する範囲の腐植物質の混入であった。
(2−2)既往の方法との収量比較
いずれの土壌においても、本発明のオリジナル1Step法および2Step加熱法は、既往の手法よりも多くの土壌DNAを抽出することが可能であった。特にアロフェン質黒ボク土および草地試験場永年採草地土壌からは、既往の方法ではZhou et al.(1996)の方法でしか土壌DNAが得られず、またその場合でもDNAの収量は低いものであった。
非火山灰土壌および東北大学森林土壌からは、Ultra CleanTM Soil DNA kitを除く既往の方法でも土壌DNAが得られた。既往の方法では、Bio101 Fast Spin Kitによる抽出量が多く、Cullen & Hirsch(1998)方法でも土壌DNAは抽出された。しかし、Zhou et al.(1996)の方法による抽出量は、非火山灰土壌においても少なく、この収量の差は、加熱処理およびbead−beating処理の有無によって生じたと考えられた。しかし、Zhou et al.(1996)の方法では、23kbp以上の高分子土壌DNAが得られていた。
この比較検討の結果より、本発明のオリジナルの方法は、さまざまな土壌から高収量で土壌DNAを抽出することが可能であり、またアロフェン態Alに富む土壌からは、オリジナルの方法を用いないと土壌DNAが十分に、あるいは全く得られないことが明らかになった。
DNA純度の比較
土壌DNAの純度は、PCR反応にどれぐらいの濃度のDNAを鋳型として使用できるかを指標として検討を行った。濃度が高いほど夾雑物も多くなるため、純度の高いDNA試料でなければ、高濃度で使用したときにPCR反応が阻害されるからである。
(1)材料と方法
DNAの抽出効率の差により、最終的なDNA溶液量を一定にしても土壌DNA含量は全く異なる。そこで、定量した土壌DNA濃度をもとに、土壌DNAを100ng、50ng、10ngの3段階で鋳型として用い、PCR反応の成否を試験することにより、土壌DNAの純度を検定した。
検討した土壌DNAはオリジナル1Step法およびオリジナル2Step加熱法により得られたものである。この2種類の方法は、bead−beating後の粗抽出液が腐植物質の混入により茶色もしくは黒色に着色しており、他の2種類の方法よりも腐植物質の混入量は多いと考えられ、精製による腐植物質の除去効率を検討するのに適していると考えられたからである。
PCRは3連で行い、その反応条件および使用したプライマーについては以下の通りである。
PCR反応の条件
プライマーセット 27F−1494R
Figure 0004665124
上記プライマーセットにより、16SrRNA遺伝子のほぼ全長を増幅することができる。
反応液組成は以下の通りである。
反応液:50μl
プライマー:0.5mM
Taq DNA Polymerase(sigma):2.5unit
BSAを終濃度400ng/μlで含む。
反応条件は、まず94℃で2.5分反応させた後、次に94℃30秒の変性、50℃30秒のアニーリング及び72℃2分の伸長反応を1サイクルとしてこれを30サイクル行い、最後に、72℃で10分反応させた。
(2)結果と考察
PCRによる土壌DNAの純度検定の結果について図26A〜Bに示す。
腐植物質の集積量および混入量が多い2種類の土壌以外、すなわち栃木農試森林土壌および東北大学森林土壌以外では、オリジナル1Step法により得られた土壌DNAは、50μlのPCR反応液中に50ngを使用しても、PCR反応が成功した。オリジナル2Step加熱法により得られた土壌DNAでも同様の結果が得られた。オリジナル1Step法により得られた栃木農試森林土壌および東北大学森林土壌は、10ng土壌DNAを鋳型にするとPCRが成功した。
これに対し、2Step加熱法により得られた栃木農試森林土壌のDNAでは、いずれのDNA量の場合でもPCR反応が成功しなかった。東北大学森林土壌よりオリジナル2Step加熱法により得られた土壌DNAは、さらに希釈して鋳型としての使用量を1ng程度にしないと、PCRは成功しなかった。このことから、腐植の集積量が多い土壌から、高濃度EDTA−リン酸混合液を使用し、さらに加熱処理を施して抽出されたDNAは、CTAB精製およびPEG沈殿を行っても十分に腐植物質を除去しきれないと考えられた。
しかし、この2種類の土壌を除く大部分の土壌については、50μlのPCR反応に50ngの土壌DNAを鋳型として使用してもPCRが成功したことから、オリジナル法によって高純度な土壌DNAが得られたと考えられる。オリジナル法で得られる土壌DNAはPCR反応の鋳型として多量に用いることができるため、PCR反応サイクル数を少なく設定することが可能であり、また、土壌中のマイナーな微生物群も効率よく検出できることが示された。
土壌DNA組成の比較
本実施例では、本発明の各種手法により得られた土壌DNAの組成について、PCR−DGGE法により比較検討した。
(1)材料と方法
抽出された土壌DNA1μlを鋳型として、16S rRNA遺伝子のV3領域をPCRにより増幅し、これをDGGEにより解析した。PCR反応の条件および使用したプライマー、DGGEの条件を以下に示す。
(1−1)PCR
プライマーセット 341FGC−534R
16SrRNA遺伝子のV3領域を増幅
Figure 0004665124
反応条件は、まず94℃で2.5分反応させた後、次に94℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング及び72℃1分の伸長反応を1サイクルとしてこれを24又は30サイクル行い、最後に、72℃で10分反応させた。反応液組成は以下の通りである。
BSAを終濃度400ng/μlで含む。
Taq DNA Polymerase(sigma)2.5unit
反応液 50μl
(1−2)DGGE
ゲル濃度 8%
変性剤濃度勾配 35%〜65%
Buffer温度 60℃
電圧 100V
泳動時間 10時間
オリジナルの4種類の方法およびZhou et al.(1996)の方法により得られた土壌DNA溶液はおおよそ5〜50ng/μlである。この10〜20μgを鋳型として、24サイクルのPCR反応を行った。またその他の既往の方法では、火山灰土壌から十分量の土壌DNAが得られなかったが、条件を揃えるため、それぞれ1μlずつを鋳型として30サイクルのPCR反応を行った。既往の方法で非火山灰土壌から得られた土壌DNAについては、同じく1μlを鋳型として24サイクルのPCR反応を行った。
(2)結果と考察
各方法で得られた土壌DNAのDGGE解析結果を図27A〜Eに示す。
弥生圃場対照区土壌、千葉農試森林土壌、茨城農試畑土壌、田無農場牧草地土壌、群馬畜試牧草地土壌、栃木農試森林土壌の6種類の土壌については、オリジナルによる方法では十分な増幅産物が得られたが、既往の方法で抽出した土壌DNAを鋳型として行ったPCR反応では、Zhou et al.(1996)方法以外では全く増幅産物を得ることができなかった。非火山灰土壌においてはオリジナル法および既往の方法でも十分な増幅産物が得られた。これらのPCR反応により得られた増幅産物をDGGEにより分析し、その土壌DNAの由来生物組成について検討した結果、一部抽出の過程において土壌以外から混入したと思われるDGGEバンドがまれに生じることもあったが、全ての抽出法により同様のDGGEプロファイルが得られた。すなわち、少なくとも本実験で対象にした16S rRNAを持つ細菌については、DNAが抽出される細菌群および各細菌群間におけるDNA抽出率の比がいずれの抽出法でも同等であることが示された。
以上をまとめると次のことが示された。
1.オリジナル1Step法、オリジナル2Step加熱法は、既往の方法よりも高収量で土壌DNAを抽出することができた。
2.オリジナル1Step法、オリジナル2Step加熱法は、既往の方法では抽出が困難であったアロフェン質Alに富む火山灰土壌からも土壌DNAを抽出することができた。
3.オリジナル1Step法、オリジナル2Step加熱法は、ほとんどの土壌より得られた土壌DNAの50ngをも鋳型としてPCRに供試でき、高純度な土壌DNAが得られていることが示された。
PCR−DGGEの結果より、各方法により得られた土壌DNAに含まれる細菌由来のDNA組成は、ほぼ同じであることが推測された。
CTABによる精製時にpHを低下させることによる精製率の向上(CHCOONaを単独で使用した場合)
土壌からアルカリ条件下で抽出される腐植物質の大部分は腐植酸である。腐植酸は土壌化学的にはアルカリで土壌から抽出され、pH2の酸性条件により電荷を失い、沈殿する物であるとの定義がなされている。
土壌からDNAを抽出する際に混入する夾雑物質もほとんどがこの腐植酸であると考えられる。
通常、CTABによるDNA溶液の精製はNaCl存在下で行われているが、本実施例ではこのNaClを酸性側にpHを調製したCHCOONaに変更し、CTABによる精製時にpHを低下させることにより腐植除去効率の向上を試みた。
(1)材料と方法
東北大学森林土壌10gに対し、次の3種類の抽出液を用いて土壌からのDNA抽出液を得た。
Figure 0004665124
上記抽出液を土壌に対し24ml添加し、65℃において30分加熱処理を加え、土壌からDNAの加熱抽出を行った。土壌を抽出液で長時間加熱抽出を行うとBeadsBeating処理の場合よりも多くの腐植物質がDNAと共に抽出される。差をより明確にするためこの実験では土壌DNAを加熱抽出により抽出し、得られた土壌DNA溶液を、腐植物質が多量に混入した汚染サンプルとして精製実験を行った。
その後6000×g 10分間の遠心により上清を得た。この上清はBeadsBeating処理による抽出操作よりもはるかに多くの腐植物質が混入していることが確認できた。
この溶液を土壌DNA抽出液とし、以下の精製実験に供試した。
3種類の土壌DNA抽出液750μlに10%CTAB溶液250μlおよび5M NaCl溶液もしくはpHを5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.5に調製した5M CHCOONa溶液を250μl添加した。すなわち土壌DNA抽出液にこれらの溶液を添加することにより、2%CTAB/1M NaClもしくは1M CHCOONa(pHが7条件)に調製し、クロロホルムをこれらの溶液に等量添加し、vortex後12000×g 25℃で10分間遠心を行い、水相を精製処理後のDNA抽出液として回収した。このCTABによる精製時の塩に酸性緩衝能を付加することにより、pHを低下させDNA溶液の純度がどのような影響を与えるかを明らかにするため、この上清を適時希釈して400nmにおける吸光度を測定した。
結果を図28に示す。
また、この上清750μlに対し等量の12%PEG溶液を添加し、20000×g4℃ 20分間の遠心により土壌DNAを沈殿させた。上清を除去、70%エタノールで洗浄、乾燥後、このDNAの沈殿を200μlのTE buffer(pH8.0)に溶解させてDNA溶液とした。
このDNA溶液を適時希釈して400nmにおける吸光度を測定した結果を図29に示す。また最終的に得られたDNA溶液のDNAの濃度を測定し、土壌DNAの回収率を1%SDS/200mM EDTA/375mM NaHPO(pH8.6)によるDNA抽出液について定量した結果を図30に示す。
(2)結果と考察
図28より、CTABによる精製時に塩溶液に酸性緩衝能を持ったCHCOONa溶液を使用することで通常のNaCl溶液を使用した場合と比較して、DNA抽出液からクロロホルム添加後の遠心時に30%〜60%の腐植物質が除去できていることが示された。またこの場合のCHCOONa溶液のpHによっては差が生じなかった。
図29より、最終的に12%PEG溶液により回収したDNAの純度において3種類のいずれの抽出液で得た土壌DNA抽出液の精製に対しても、酸性緩衝能を持ったCHCOONaの使用によりNaClの場合よりも純度の高い土壌DNAを得ることが可能であることが示された。
また1%SDS/100mM Tris−HCl/100mM EDTA/100mM NaHPO(pH8.6)で抽出したDNA抽出液については酸性緩衝能を持ったCHCOONaの効果は高くpHが5.2の場合に最も純度が高かった。しかし、その他2種類の抽出液ではpHによる効果はあまりみられなかった。
しかし、図30からもわかるようにCHCOONaのpHはDNAの回収率に大きな影響を与えており、CHCOONaを使用した場合はpHが高いものほどDNAの回収率が悪くなっていることが明らかになった。
以上の結果より、酸性緩衝能を持ったCHCOONaの使用はCTABによる精製時の腐植除去に極めて効果的であり、そのpHはDNAの回収率がよいpH5.2の使用がよいと考えられた。
CTABによる精製時にpHを低下させることによる精製率の向上(NaClとCHCOONaの混合液を使用した場合)
本実施例では、CTABによる精製時の塩溶液としてNaClとCHCOONaの混合液を使用することを試みた。
(1)材料と方法
実験操作は実施例16の(1)と同様であり、CTAB精製時に添加する塩にNaClとCHCOONaの混合液を使用した。DNA抽出液750μlに10%CTAB溶液250μlと以下の塩の混合液を250μl添加した。
Figure 0004665124
添加後の塩の組成はそれぞれCHCOONa/NaClで0.5M/0.5M,0.33M/0.67M,0.25M/0.75M,0.67M/0.33M,0.75M/0.25M,1M/0.25M,1M/0.5M,0.75M/0.5M,0.75M/0.75Mとなる。
これらの溶液を添加してクロロホルムを等量添加、vortex、遠心後の水相を採取し、適宜希釈後400nmにおける吸光度を測った結果を図31に示す。また最終的に12%PEG溶液により回収して、TE Bufferに溶解させたDNA溶液の400nmにおける吸光度を図32に示した。
また土壌DNAの回収量を図33に示した。
(2)結果と考察
図31より塩溶液にNaClおよびCHCOONaの混合液を使用した場合でも、添加後の塩の組成がCHCOONa/NaClで0.67M/0.33M,0.75M/0.25M,1M/0.25M,1M/0.5M,0.75M/0.5M,0.75M/0.75Mの場合は、1M CHCOONaとほぼ同様もしくはそれ以上の腐植除去率を得られることが明らかとなった。また図32に示されるように、PEG溶液により回収した土壌DNAの純度も、同様に従来用いられているNaClをCTABによる精製時に使用したものよりも、高い純度が得られていた。図33に示されるように、CHCOONaとNaClの混合液を使用すると従来用いられているNaCl単独の場合よりもDNAの回収率が高くなっていた。検討した条件においてはCTABによる精製時の塩組成がCHCOONa/NaClで0.25M/0.75M,0.67M/0.33Mの場合の効果がDNAの純度、回収率の両方において最も高いと考えられた。
アルカリ緩衝能を持つPEG溶液のDNAの沈殿回収への使用
土壌からのDNA抽出にともなう夾雑物はほとんどが腐植酸であると考えられるが、腐植酸は先に述べたように酸性で沈殿し、アルカリ性では再びイオン化して水溶液に溶解する性質を持つ。
CTABによる精製時に酸性緩衝能をもった塩溶液を添加することにより、腐植物質の除去率を高めることができた。しかし、その後のPEGによるDNAの沈殿回収の際には除去しきれなかった腐植物質がDNAとともに沈殿してしまっており、この除去が必要である。
そこでCTABによる精製時に低下させたpHを、PEGによるDNAの沈殿回収時に再び上昇させることにより、腐植物質を再びイオン化させ、腐植物質がより沈殿しにくい条件に調製して、DNAのみを選択的に沈殿させることが可能であるか否かを検討した。pHを上昇させるためには、アルカリ性の緩衝能を持った溶液が必要である。PEG溶液は水溶液であるので、PEGとアルカリ緩衝能を持つ試薬を溶解し、一つの溶液として作成して使用することを試みた。
アルカリ緩衝能を持つ試薬としてはTris(トリスヒドロキシアミノメタン)やCAPS、CAPSO、CHES、TAPS、Bicineなどが挙げられるが、今回の実験では最もよく使用されているTrisを使用した。
(1)材料と方法
実施例16と同様に土壌DNAを抽出し、CTABによる精製処理をおこなった。この精製処理の時にはNaClに加えて、酸性緩衝能を持ったCHCOONaおよびNaClとCHCOONaの混合液を塩溶液として実施例17と同様の条件で使用した。
CTABにより精製し、クロロホルムを等量添加、vortex、遠心後の水相を採取し、この溶液750μlに対し12%PEG溶液もしくはアルカリ緩衝能を持ったPEG溶液として12%PEG/3M Tris−HCl(pH8.6)を等量添加し、20000×g4℃ 20分間遠心を行い得られた土壌DNAの沈殿を70% エタノールで洗浄および乾燥後、200μlのTE buffer(pH8.0)に溶解させ、土壌DNA溶液とした。
こうして得られた土壌DNA溶液を適宜希釈して、400nmにおける吸光度を測定した結果を図34に示す。またこれらのアルカリ緩衝能を持つPEG溶液の使用が土壌DNAの回収率に与える影響を図35に示す。
またアルカリ緩衝能を持つPEG溶液のより詳細な条件検討として、1%SDS/200mM EDTA/375mM NaHPO(pH8.6)で抽出した土壌DNA抽出液について上記の実験と同様の操作を行い、PEG溶液として12%PEG,12%PEG/3M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/2M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を使用した場合に得られる土壌DNA溶液の純度についての結果を図36に示す。また回収率について図37に示す。
(2)結果と考察
図34よりアルカリ緩衝能をもった12%PEG/3M Tris−HCl(pH8.6)の土壌DNAの沈殿回収への使用によりCTABによる精製時のいずれの条件においても従来用いられている方法に比較して、DNAの純度が高くなっていることが明らかとなった。
図35よりアルカリ緩衝能を持ったPEG溶液は精製後のDNA抽出液からのDNA回収に使用した場合、通常のPEG溶液と回収率は全く変わらないことが明らかとなった。
以上のことからアルカリ緩衝能を持ったPEG溶液は通常のPEG溶液とDNAを沈殿回収させる能力は全く同様であるが、腐植物質をほとんど沈殿させないことを明らかにすることができた。
CTAB処理時に酸性緩衝能を持つ塩溶液を使用することによるpHを低下させる操作と組み合わせることで、純度が最も高いDNAを得ることができた。
またアルカリ緩衝能を持ったPEG溶液については、図36より、アルカリ緩衝能を持たないPEG溶液と比較して、純度の高いDNAが得られた。CTABによる精製時の塩条件として採用した0.67M CHCOONa/0.33M NaClでCTABによる精製処理を行った土壌DNA抽出液に対しては、12%PEG/3M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/2M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)のいずれの条件であっても純度の高いDNAが得られた。
図37より、CTABによる精製時の塩条件として採用した0.67M CHCOONa/0.33M NaClでCTABによる精製処理を行った土壌DNA抽出液に対しては、12%PEG/3M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/2M Tris−HCl(pH8.6),12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)のいずれであってもDNAの回収率はほぼ変わらないことが明らかとなった。
抽出法の追加条件
高分子のDNAは、DNAの損傷が少なく、クローニングやより長い塩基配列を解析の対象にする研究に必要である。高分子DNAを得るためには物理的なせん断を避けるためBeadsBeating法ではなく、加熱処理という緩やかな条件で土壌を処理することが望ましい。
土壌に抽出液を添加し、長時間加熱処理を行って抽出した土壌DNA抽出液には腐植物質が大量に混入するため腐植物質の除去が困難であったが、前述の新たに改良したDNAの精製法によりほぼ完全な腐植物質の除去を達成でき、加熱処理法による土壌DNA抽出を行うことが可能となった。
そこで本実施例では、加熱抽出によりDNA抽出を行うための条件を検討した。
(1)材料と方法
土壌として東京大学農学部 弥生圃場対照区土壌、東京大学附属農場 田無牧草地土壌、栃木農試 森林土壌、埼玉農試 畑土壌、兵庫農試 畑土壌を対象に加熱処理による土壌DNA抽出実験を行った。抽出液としては弥生圃場対照区土壌からの抽出には以下の組成の抽出液を使用した。
Figure 0004665124
その他の土壌については、以下の組成の抽出液を使用した。
Figure 0004665124
Figure 0004665124
土壌0.5gに対し、抽出液1.2mlを添加し、適宜攪拌しながら65℃において1時間加熱処理を行った。その後12000×g25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g4℃ 20分間遠心を行い、土壌DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、200μlのTE buffer(pH8.0)に溶解させ、土壌DNA溶液とした。
弥生圃場対照区土壌を用いて様々な組成の抽出液を用いて抽出したDNA抽出量について図38に示す。絞り込んだ条件について弥生圃場対照区土壌、田無牧草地土壌、栃木農試 森林土壌、埼玉農試 畑土壌、兵庫農試 畑土壌から抽出したDNA抽出量についての結果を図39に示す。
(2)結果と考察
図38より、以下の抽出液において、抽出量が高いことが明らかとなった。
Figure 0004665124
また図39より1%SDS/200mM EDTA/250mM NaHPO(pH8.6)の組成がどの土壌においても高い収量が得られることが明らかとなった。
土壌以外の環境サンプルからのDNA
土壌以外の微生物を含む環境サンプルとしては、人や家畜の糞便、堆肥、活性汚泥、湖底など水系の堆積物などが挙げられる。
本実施例では、土壌をサンプルとして開発したDNA抽出法によりその他の環境サンプルからもDNAが抽出できるかを検討した。
(1)糞便からのDNA抽出
成人男子2名より、3日間サンプリングを行った糞便サンプルからDNA抽出を行った。
サンプルは6種類R−1、R−2、R−3、N−1、N−2、N−3である。
まずサンプルR−1を用いて抽出液の組成を検討した。抽出液は以下の組成のものを用い、BeadsBeatingおよび加熱抽出による抽出法の両方を検討した。
Figure 0004665124
糞便サンプル0.5gに抽出液1.2mlを添加し、BeadsBeatingによる方法は4m/secで30秒間のBeadsBeating処理を行い、その後12000×g25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、糞便DNA溶液とした。
加熱処理法による抽出は65℃において1時間インキュベート処理を行い、その後12000×g25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、糞便DNA溶液とした。
それぞれの方法で得られたDNAの抽出量について図40に示す。
またBeadsBeating法、加熱抽出法ともに1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)を用いて上記の同様の操作でその他のサンプルからも抽出を行った。
得られた糞便DNAについての電気泳動の結果を図41に示す。
また従来法と純度、収量の点で比較を行った。従来法は1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)の抽出液で65℃における1時間インキュベート処理で加熱抽出を行い、その後12000×g 25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清に対し、等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し0.6倍量の2−プロパノールを添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、糞便DNA溶液とした。
BeadsBeating法、加熱抽出法、従来法により得られた糞便DNAの収量についての結果を図42、純度についての結果を図43に示す。
(2)結果と考察
図40より、BeadsBeating法、加熱抽出法ともに1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)による抽出量が最も多かった。
図42より、収量の面では従来法よりも今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法によるDNAの抽出量は低いことが明らかとなった。しかし、今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法は精製操作を一連の操作として行っており、その操作の過程での一部DNAの損失がある。また今回開発した方法ではPEG溶液によりDNAを回収しているためRNAは沈殿しないのに対し、従来法ではDNAの沈殿に2−プロパノールを使用しているため、RNAも沈殿させてしまう。従って、見かけ上は、このRNAがDNAの定量結果に影響を及ぼし収量に差が生じたものと考えられる。
図43より、従来法に比較して、今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法で抽出した糞便DNAの純度ははるかに高いことが明らかとなった。
これにより、今回開発したDNAの精製、沈殿方法は糞便サンプルから得たDNA抽出液から選択的にDNAのみを取り出すことに極めて有効であることが示された。
堆肥および活性汚泥からのDNA抽出
本実施例では、堆肥および活性汚泥サンプルからDNA抽出を行った。
サンプルは堆肥が5種類 落ち葉堆肥、牛糞バラ堆肥、醗酵牛糞堆肥、鶏糞堆肥、腐葉土、活性汚泥サンプルが3種類 Kanagawa,Ochiai1,Ochiai2である。
まず落ち葉堆肥を用いて抽出液の組成を検討した。抽出液は以下の通りである。
Figure 0004665124
上記抽出液を用い、BeadsBeatingによる抽出法と加熱抽出による抽出法の両方を検討した。
堆肥サンプル0.5gに抽出液1.2mlを添加し、BeadsBeatingによる方法は4m/secで30秒間のBeadsBeating処理を行い、その後12000×g25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、堆肥DNA溶液とした。
加熱処理法による抽出は65℃において1時間インキュベート処理を行い、その後12000×g 25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、堆肥DNA溶液とした。
それぞれの方法で得られたDNAの抽出量について図44に示す。
またBeadsBeating法、加熱抽出法ともに1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)を用いて上記の同様の操作でその他のサンプルからも抽出を行った。
この際活性汚泥サンプルは懸濁状態であったので500μlをサンプルとし、BeadsBeating処理、加熱抽出時に1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)となるように、500μlの2%SDS/200mM Tris−HCl/100mM EDTA(pH8.6)を添加し、BeadsBeating処理、加熱処理を行ってDNAを抽出した。以後の操作は堆肥サンプルと同様におこなった。
得られた堆肥DNA、活性汚泥DNAについての電気泳動の結果を図45に示す。
また従来法と純度、収量の点で比較を行った。
従来法は1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)の抽出液で65℃における1時間インキュベート処理で加熱抽出操作を行い、その後12000×g 25℃ 5分間の遠心により上清を得た。(活性汚泥サンプルについては上記のように2%SDS/200mM Tris−HCl/100mM EDTA(pH8.6)を等量添加して、抽出操作を行った。)この上清に対し、等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し0.6倍量の2−プロパノールを添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、堆肥DNA溶液、活性汚泥DNA溶液とした。
BeadsBeating法、加熱抽出法、従来法により得られた堆肥DNAの収量についての結果を図46、純度についての結果を図47に示す。また活性汚泥サンプルの重量についての結果を図48、純度についての結果を図49に示す。
(2)結果と考察
図44より、BeadsBeating法では1%SDS/100mM Tris−HCl/100mM EDTA/100mM NaHPO(pH8.6),1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)による抽出量が多かった。加熱抽出法ではそれほど大きな差はなかったが、1%SDS/100mM Tris−HCl/100mM EDTA/100mM NaHPO(pH8.6)の抽出量が最も多かった。
図46より、収量において従来法よりも今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法による堆肥からのDNAの抽出量は高いことが明らかとなった。特にBeadsBeating法による抽出量は多く、従来法との比較では3倍から6倍近い収量が得られた。
図48より、活性汚泥からのDNA抽出量は従来の方法とほとんど変わらないことが示された。
図47より、従来法に比較して、今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法で堆肥から抽出したDNAの純度ははるかに高いことが明らかとなった。
図49より、活性汚泥から抽出したDNAの純度についても今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法により、はるかに純度の高いDNAが得られることが明らかとなった。
以上のことから、今回開発したDNAの精製、沈殿方法は堆肥サンプル、活性汚泥サンプルから高収量でDNAを抽出することが可能であり、選択的にDNAのみを抽出できることが示された。
湖底堆積物からのDNA抽出
本実施例では、湖底堆積物サンプルからDNA抽出を行った。
サンプルは6種類 上野公園 不忍池の3ヶ所,東京大学構内 三四郎池,東大農学部圃場 池 2ヶ所より採取したものを使用した。
湖底堆積物サンプルは懸濁状態であったので500μlをサンプルとし、BeadsBeating処理、加熱抽出時に1%SDS/100mM Tris−HCl/50mM EDTA(pH8.6)となるように、500μlの2%SDS/200mM Tris−HCl/100mM EDTA(pH8.6)を添加し、BeadsBeating処理、加熱処理を行ってDNAを抽出した。
BeadsBeatingによる方法は4m/secで30秒間のBeadsBeating処理を行い、その後12000×g25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、湖底堆積物DNA溶液とした。
加熱処理法による抽出は65℃において1時間インキュベート処理を行い、その後12000×g 25℃ 5分間の遠心により上清を得た。この上清750μlに対し10%CTAB溶液250μlおよび3.33M CHCOONa/1.67M NaCl溶液を250μl添加し、vortex後等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し等量の12%PEG/1.5M Tris−HCl(pH8.6)を添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、湖底堆積物DNA溶液とした。
得られた湖底堆積物DNAについての電気泳動の結果を図50に示す。
また従来法と純度、収量の点で比較を行った。
従来法は上記と同じくサンプル500μlに2%SDS/200mM Tris−HCl/100mM EDTA(pH8.6)を等量添加して、65℃ 1時間の加熱操作により抽出操作を行った。この上清に対し、等量のクロロホルムを添加し、vortex後12000×g 25℃ 20分間の遠心を行った。水相を回収し0.6倍量の2−プロパノールを添加し、vortex後、20000×g 4℃ 20分間遠心を行い、DNAの沈殿を回収し、70%エタノールで洗浄および乾燥後、TE buffer(pH8.0)に溶解させ、湖底堆積物DNA溶液とした。
BeadsBeating法、加熱抽出法、従来法により得られた湖底堆積物DNAの収量についての結果を図51、純度についての結果を図52に示す。
(2)結果と考察
図51より、収量において従来法よりも今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法による湖底堆積物からのDNAの抽出量は高いことが明らかとなった。特にBeadsBeating法による抽出量は多く、従来法との比較では3倍から7倍近い収量が得られた。
図52より、従来法に比較して、今回開発したBeadsBeating法、加熱抽出法で堆肥から抽出したDNAの純度ははるかに高いことが明らかとなった。
これにより今回開発したDNA抽出法は従来法よりも高収量で湖底堆積物からDNAを抽出可能であり、精製、沈殿方法は湖底堆積物サンプルから得たDNA抽出液から選択的にDNAのみを取り出すことに極めて有効であることが示された。
以上のように今回開発したDNAの抽出精製法は土壌以外の環境サンプルからもDNAを高収量で抽出することが可能であり、得られたDNAは従来法と比較して極めて純度の高いものが得られ、環境サンプル全般からのDNA抽出に適していると考えられた。
DGGE解析
本実施例では、今回開発した最終的な抽出精製方法を用いて、土壌、糞便、堆肥、活性汚泥、湖底堆積物からBeadsBeating法、加熱抽出法により抽出したDNAサンプルについてDGGE解析を行った。
DNA溶液1μlをを鋳型として、16S rRNA遺伝子のV3領域をPCRにより増幅し、これをDGGEにより解析した。PCR反応の条件および使用したプライマー、DGGEの条件を以下に示す。
(1−1)PCR
プライマーセット 341FGC−534R
16SrRNA遺伝子のV3領域を増幅
Figure 0004665124
反応条件は、まず94℃で2.5分反応させた後、次に94℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング及び72℃1分の伸長反応を1サイクルとしてこれを25サイクル行い、最後に、72℃で10分反応させた。反応液組成は以下の通りである。
BSAを終濃度400ng/μlで含む。
Taq DNA Polymerase(sigma)2.5unit
反応液 50μl
(1−2)DGGE
ゲル濃度 8%
変性剤濃度勾配 35%〜65%
Buffer温度 60℃
電圧 100V
泳動時間 10時間
土壌DNAのDGGE解析結果について図53に示す。
糞便DNAのDGGE解析結果について図54に示す。
堆肥DNA、活性汚泥DNAのDGGE解析結果について図55に示す。
湖底堆積物DNAのDGGE解析結果について図56に示す。
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
Figure 0004665124
本発明により、土壌からDNAを高収率で、しかも高純度で回収し得る方法が提供される。本発明の方法により得られたDNAにはほとんど夾雑物が混入しておらず、抽出および精製時のDNAの損失を最小限に抑えることができている。また、本発明の実施に際し、特殊な技術を必要とせず、簡便でコストがかからない。従って、本発明の方法は土壌微生物の群集構造解析および学問分野として土壌微生物生態学、コンビナトリアル生物学(Combinatorial Biology)又はコンビナトリアル遺伝学(Combinatorial Genetics)など環境DNAよりの新規遺伝子探索への利用が可能である点で極めて有用である。
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA

Claims (23)

  1. 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、以下の工程:
    (a) 5%以下の界面活性剤と、250〜1500mMのリン酸緩衝液及び/又は200〜600mM EDTAとを含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを処理して該環境サンプルからDNAを抽出し、
    (b) 前記抽出されたDNAを、酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む塩溶液及びCTABの存在下、pH7.0未満の条件で精製し、並びに
    (c) 前記精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下、pH7.0以上の条件で沈殿させる
    工程を含む前記方法。
  2. 界面活性剤がSDS、Triton X-100及びN-ラウロイルサルコシンナトリウムからなる群から選ばれるいずれかのものである請求項1記載の方法。
  3. DNA抽出液のpHが7以上である請求項1記載の方法。
  4. 環境サンプルが、土壌、堆肥、水系堆積物、活性汚泥及び糞便からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の方法。
  5. 環境サンプルの処理が、環境サンプルをbeads-beating処理及び/又は加熱処理するものである請求項1記載の方法。
  6. 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである請求項記載の方法。
  7. CTABの濃度が1〜3%である請求項記載の方法。
  8. 塩の濃度が0.7〜2.1Mである請求項記載の方法。
  9. CTABの濃度が2〜3%であり、かつ、塩の濃度が1.0Mである請求項記載の方法。
  10. ポリエチレングリコールの濃度が5〜7.5%である請求項記載の方法。
  11. 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、以下の工程:
    (a) 1%の界面活性剤、400mMのEDTA及び750mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルを処理してDNAを抽出し、
    (b) 前記抽出されたDNAと、2%のCTABと、酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む1Mの塩溶液とを混合し、pH7.0未満の条件でDNAを精製し、
    (c) 前記精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下、pH7.0以上の条件で沈殿させる
    工程を含む前記方法。
  12. 環境サンプルからDNAを回収する方法であって、以下の工程:
    (a) 1%の界面活性剤、300mMのEDTA及び250mMのリン酸緩衝液を含むDNA抽出液の存在下で環境サンプルをbeads-beating処理し、
    (b) 前記beads-beating処理後の抽出液を遠心し、
    (c) 得られる上清と、酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む1Mの塩溶液と、2%CTABとを混合し、pH7.0未満の条件でDNAを精製し、
    (d) 前記精製されたDNAを、ポリエチレングリコールの存在下、pH7.0以上の条件で沈殿させる
    工程を含む前記方法。
  13. 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである請求項11又は12に記載の方法。
  14. ポリエチレングリコールの濃度が5.0〜7.5%である請求項11又は12に記載の方法。
  15. (a) 5%以下の界面活性剤アルカリ性緩衝液、並びに200〜1200mMのEDTA及び/又は250〜3000mMのリン酸緩衝液を含む、環境サンプルからのDNA抽出用試薬、
    (b) 酸性側のpKaを有するpH緩衝液を含む塩溶液、CTAB、又は当該塩溶液とCTABとの混合物を含む、前記抽出されたDNAの精製用試薬、並びに
    (c) アルカリ性緩衝液及びポリエチレングリコールを含む、前記精製されたDNAの回収用試薬
    を含む、環境サンプルからのDNA取得キット。
  16. さらにbeads-beating用ビーズを含む請求項15記載のキット。
  17. アルカリ性緩衝液がTris緩衝液である請求項15記載のキット。
  18. DNA抽出液のpHを7.0以上に調整することができる請求項15記載のキット。
  19. 酸性側のpKaを有するpH緩衝液が酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩酸緩衝液又は硫酸緩衝液である請求項15記載のキット。
  20. 塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1つである請求項15記載のキット。
  21. DNA精製用試薬のpHを7.0未満に調整することができる請求項15記載のキット。
  22. アルカリ性の緩衝液がTris緩衝液である請求項15記載のキット。
  23. DNA回収用試薬のpHを7.0以上に調整することができる請求項15記載のキット。
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