JP2005073643A - 微生物由来dnaの抽出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 環境中に存在する微生物由来のDNAを効率よく回収する方法を提供する。
【解決手段】 環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法であって、環境中から採取した試料に含まれる微生物を破砕する溶菌工程と、試料に含まれるDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加するタンパク質添加工程とを有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法に関する。
近年、環境中、例えば、廃棄物処分場における有害ガス発生や汚染物質の長期残留等の問題に対する解決策が検討されている。これらの問題を解決するにあたって、廃棄物処分場の土壌に生息する多様な微生物群により形成される微生物叢の寄与が大きいと認識されている。
例えば、硫化水素等の有害ガス発生には、廃棄物中に含まれる有機物の微生物による分解が関与していると考えられている。
また、有機塩素化合物(ダイオキシン等)、芳香族炭化水素(タール等)等の汚染物質を分解可能な微生物を前記廃棄物処分場で増殖できれば、微生物の働きを利用した汚染物質の除去が効率よく行える。
従って、前記微生物叢を形成する微生物の同定や機能解析等の研究が重要である。
従来、このような研究を行うに際し、前記廃棄物処分場等の土壌を採取し、この土壌から微生物由来のDNAを回収した後、このDNAを用いて前記微生物の種類や菌数等を遺伝子レベルで解析する方法が採用されてきた。土壌から微生物由来のDNAを回収する方法としては、例えば、土壌に生息する微生物群を培養した後、微生物由来のDNAを回収する方法(間接抽出法)と、採取した土壌試料から直接微生物由来のDNAを回収する方法(直接抽出法)等が知られていた(例えば、非特許文献1参照)。
ジーゾン ゾウ(Jizhong zhou), メアリー アン ブランズ(Mary Ann Bruns),及びジェームス M. ティージェ(James M. Tiedje)、「異なる組成の土壌からのDNA回収(DNA Recovery from Soils of Diverse Composition)」、アプライド・アンド・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジ(Applied and Environmental Microbiology)、アメリカ微生物学会(American Society of Microbiology)、1996年2月、第62巻、第2号、p316−322
土壌から微生物由来のDNAを回収する方法のうち、間接抽出法では、採用した培養条件で生育可能な微生物のDNAのみが回収され、解析対象となる微生物がその培養条件で生育しない場合は所望のDNAが回収できない。また、培養条件に依存した微生物の菌体増殖がおこるので、間接抽出法により回収されたDNAから導かれる微生物の存在比は、採取した土壌中の微生物の存在比を反映するものであるとはいい難い。従って、微生物叢そのものの性状についての情報が得られ難い。
一方、直接抽出法では、微生物由来のDNAの回収率が低い。この理由として、以下のことが考えられえる。つまり、土壌中には、フミン質(腐植質)が含まれていることが知られている。フミン質とはタンパク質を加水分解するとき生ずる黒色不溶物のことであり、一般に、DNAとの親和性が高い。このフミン質がDNAの抽出に悪影響を与え、DNA抽出阻害物質となってDNAの回収率が低下する。この場合、解析されるDNAは、例えば、微生物叢を構成する微生物の中でも優先種(多数派)のDNAが中心となっていると考えられる。
さらに、フミン質が含まれた状態で回収されたDNAを、その後の処理(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、制限酵素処理、核酸のハイブリダイゼーション等)に供した場合においても各処理に悪影響を及ぼす虞がある。
そのため、微生物叢を形成する微生物の同定や機能解析等の研究を行うに際し、前記微生物叢を構成する微生物のうちの一部の微生物についてのみの情報しか得られない虞があるため、採取した土壌中の微生物の存在比を反映することができない。従って、この場合も、微生物叢そのものの性状についての情報が得られ難い。
また、有害ガス発生や汚染物質分解に関与する微生物は、多数派よりむしろ少数派に属する場合が多いと考えられており、このような少数派の微生物由来のDNAを土壌から回収するのは、上述した理由から困難である。
従って、本発明の目的は、環境中に存在する微生物由来のDNAを効率よく回収する方法を提供することにある。
(構成1)
上記目的を達成するための本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第1特徴構成は、環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法であって、前記環境中から採取した試料に含まれる微生物を破砕する溶菌工程と、前記試料に含まれるDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加するタンパク質添加工程とを有する点にある。
後述の実施例1に示したように、3種類の土壌試料<(a)廃棄物処分場における廃棄物層近くの自然土、(b)廃棄物層の土、(c)自然土壌>から微生物由来のDNAの抽出を直接抽出法により試み、その結果を図3に示した。図3におけるレーン1〜3は、本発明の第1特徴構成のDNA抽出方法により抽出したDNA濃縮液、レーン4はマーカー、レーン5〜7は、従来のDNA抽出方法により回収したDNA濃縮液、をそれぞれ電気泳動したものに対応する。
従来のDNA抽出方法においては、非特許文献1によると、土壌試料から微生物由来DNAを効率よく回収するため、DNAの抽出工程において、フミン質を取り除く処理(CTAB:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、或いは、PVPP:ポリビニルポリピロリドンを添加する)が施されていた。
しかし、本発明者らがこの方法(CTABを添加する:比較例参照)を用いて廃棄物処分場の土壌(試料(a)及び(b))から微生物由来のDNAの回収を試みたところ、ほとんどDNAを回収することができなかった(図3:レーン5、6参照)。
ここで、(c)自然土壌(レーン7)からは、スメア状ではあるが約21kb付近に高分子DNAが抽出されている。この高分子DNAは、一部が壊れた状態であるものの、CTABが自然土壌に含まれているフミン質のDNA抽出阻害作用を抑制しているため、抽出されたと考えられる。
一般に、有機物成分を多量に含有する廃棄物処分場等の土壌では、自然土壌に比べ夾雑物の混入が多い。従って、本発明者らは、廃棄物処分場の土壌(試料(a)及び(b))からほとんどDNAを回収することができなかった原因として、夾雑物が多く含まれる廃棄物処分場の土壌には、フミン質以外のDNA抽出阻害物質が存在すると考えた。そして、そのDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制する方法について鋭意研究を行った。
その結果、上記第1特徴構成のように、土壌から微生物由来のDNAを回収する際に、溶菌工程と、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加するタンパク質添加工程とを有するDNA抽出方法を採用すると、土壌試料(a)〜(c)からは、何れも同レベルで多量の高分子DNA(約21kb)を抽出可能であることが判明した(図3:レーン1〜3参照)。
つまり、本発明のDNA抽出方法によれば、土壌試料を採取した場所に拘らず、効率よくDNAを抽出できることが判明した。さらに、これらDNA試料の電気泳動結果はスメア状になっていないことから、高分子DNAを維持した状態で抽出できるものと認められた。
従って、本発明のDNA抽出方法は、廃棄物層およびその周縁の土壌に存在すると考えられるフミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制できる方法であると認められる。
以上より、従来のDNA抽出方法では、フミン質を除去したにもかかわらず、廃棄物処分場の土壌からDNAを回収することはできなかったのに対して、本発明のDNA抽出方法を採用することによって、種々の夾雑物を含む廃棄物処分場のような土壌であっても微生物由来DNAを高収率で回収することができた。しかも、本発明のDNA抽出方法によって抽出され回収されたDNAは高分子の状態を維持しており、その後の解析操作(PCRによる微生物の同定等)を遂行可能な品質を保持していると考えられる(図4(イ)参照)。
従って、本発明のDNA抽出方法を採用すると、微生物由来のDNAの回収率が高く、その結果、土壌における微生物叢そのものの性状についての情報が得られ易くなる。これにより、発明のDNA抽出方法は、微生物叢のモニタリング、有用微生物の探索等のための微生物由来DNAの解析に供するサンプルを調製するのに有効な方法となり、かつ、DNA抽出後の解析(PCR、制限酵素処理、核酸のハイブリダイゼーション等)において正確な結果を得やすい方法であると認められる。
(構成2)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記溶菌工程と前記タンパク質添加工程とを同時に行う点にある。
後述の実施例5には、溶菌工程を先に行う場合、30分以内にタンパク質添加工程を行うと効率よく高分子DNAが抽出できることが示されている(図10:レーン8〜11参照)。
特に、溶菌工程を行った後、0分経過後(レーン8)にタンパク質添加工程を行った場合において(つまり、溶菌工程とタンパク質添加工程とを同時に行う)、最も濃い高分子DNAバンドが確認されている。
そのため、溶菌工程とタンパク質添加工程とを同時に行うと、最も効率よくDNAを抽出できるものと認められる。
つまり、上記第2特徴構成のように、前記溶菌工程と前記タンパク質添加工程とを同時に行うことにより、種々の夾雑物を含む土壌から微生物由来の高分子DNAを高収率で回収することが可能となる。
また、両工程を同時に行うため、DNA抽出時間を短縮することが可能となり、効率よくDNA抽出作業を行うことができる。
つまり、本発明に係るDNAの抽出方法は、溶菌工程の他に、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加する、という簡便な工程を付加するだけで、微生物由来の高分子DNAを高収率で回収することが可能となるため、簡便なDNA抽出方法である。
(構成3)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第3特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記溶菌工程を行った後、30分以内に前記タンパク質添加工程を行う点にある。
上述のように、後述の実施例5には、溶菌工程を先に行う場合、30分以内にタンパク質添加工程を行うと効率よく高分子DNAが抽出できることが示されている(図10:レーン8〜11参照)。
つまり、上記第3特徴構成のように、前記溶菌工程を行った後、30分以内に前記タンパク質添加工程を行うことにより、種々の夾雑物を含む土壌から微生物由来の高分子DNAを高収率で回収することが可能となる。
つまり、本発明に係るDNAの抽出方法は、溶菌工程の他に、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加する、という簡便な工程を付加するだけで、微生物由来の高分子DNAを高収率で回収することが可能となるため、簡便なDNA抽出方法である。
(構成4)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第4特徴構成は、上記第1〜3の特徴構成の何れか一項に加えて、前記試料中の夾雑物を除去する精製工程を行う点にある。
上記第4特徴構成によれば、環境中から採取した試料に含まれる夾雑物を除去できるため、純度の高いDNAを得ることができる。そのため、DNA抽出後の解析(PCR、制限酵素処理、核酸のハイブリダイゼーション等)において、さらに正確な結果を得やすくなる。
(構成5)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第5特徴構成は、上記第1〜4の特徴構成の何れか一項に加えて、前記タンパク質が、リゾチーム、インシュリン、ウシ血清アルブミンからなる群から選択される1種以上のタンパク質である点にある。
後述の実施例1及び3に示したように、前記タンパク質添加工程において、DNA抽出阻害作用抑制剤として、リゾチーム、インシュリン、ウシ血清アルブミンをそれぞれ添加した実験を行ったところ、何れにおいても同等の高いDNA回収率が得られることが判明した(図6参照)。
従って、上記第5特徴構成のように、リゾチーム、インシュリン、ウシ血清アルブミンからなる群から選択される1種以上のタンパク質を前記タンパク質添加工程において添加すると、フミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を効果的に抑制できると考えられる。
これより、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質は、リゾチームのように酵素活性を有するタンパク質に限定されないことが判る。そして、これらタンパク質が、例えば、DNA抽出阻害物質を絡めとる等してDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制しているものと考えられる。
(構成6)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第6特徴構成は、上記第1〜5特徴構成の何れか一項に加えて、前記タンパク質添加工程において、タンパク質を終濃度2.0〜16.0mg/mLとなるように添加する点にある。
後述の実施例4に記載したように、DNA抽出阻害作用抑制剤としてのタンパク質を終濃度が0.5〜16.0mg/mLになるように添加した場合におけるそれぞれのDNA抽出量を調べた(図7〜8)。その結果、終濃度が2.0〜4.0mg/mL(図7:レーン5〜7)及び8.0〜16.0mg/mL(図8:レーン5〜6)において、効率よくDNAを抽出できることが判明した。
従って、上記第6特徴構成のように、前記タンパク質添加工程において、タンパク質を終濃度2.0〜16.0mg/mLとなるように添加すると、この濃度範囲で最も効率よくDNAを抽出できると認められる。
(構成7)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第7特徴構成は、上記第1〜6の特徴構成の何れか一項に加えて、前記溶菌工程において、界面活性剤を添加し、室温で処理する点にある。
後述の比較例によると、界面活性剤を添加した場合の処理温度は65℃であったが、このように処理して抽出されたDNAは、DNAがデグラデーションを引き起こして微生物由来の高分子DNAの一部が壊れた状態となる(図3:レーン7参照)。
しかし、上記第7特徴構成のように、前記溶菌工程において、界面活性剤を添加して室温のような穏やかな温度条件で処理することにより、高分子DNAがデグラデーションを引き起こして微生物由来の高分子DNAの一部が壊れて低分子化するのを抑制することができると考えられる。
(構成8)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第8特徴構成は、
環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法であって、
前記環境中から採取した試料に含まれる微生物を破砕する溶菌工程を有し、
前記溶菌工程において界面活性剤を添加し、処理温度が25〜55℃である
点にある。
後述の実施例6に示したように、廃棄物層の土壌試料から微生物由来のDNAを抽出する実験を行った。
従来のDNA抽出方法においては、溶菌工程では、界面活性剤を添加した後、65℃で処理を行っていた。この条件で溶菌処理を行った土壌試料から抽出されたDNAを電気泳動したところ、図11のレーン7に示した結果が得られた。
一方、上記第8特徴構成のように、前記溶菌工程において界面活性剤を添加し、処理温度を25〜55℃で行った土壌試料から抽出されたDNAを電気泳動したところ、図11のレーン2〜6に示した結果が得られた。
これらの結果を検討すると、レーン2〜7の各レーンには、約21kbの高分子DNAのバンドが存在することが確認された。しかし、DNAバンドの濃さから、レーン2〜6(処理温度:25〜55℃)においては、多量の高分子DNAが抽出されているが、レーン7(処理温度:65℃)においては、DNA抽出量はレーン2〜6に比べて少ないことが判った。
従って、溶菌工程において、界面活性剤を添加し、処理温度は従来の処理温度より低い温度(25〜55℃)で処理することにより、効率よく高分子DNAを抽出できるものと認められる。
従って、本発明のDNA抽出方法を採用すると、微生物由来のDNAの回収率が高く、その結果、土壌における微生物叢そのものの性状についての情報が得られ易くなる。これにより、発明のDNA抽出方法は、微生物叢のモニタリング、有用微生物の探索等のための微生物由来DNAの解析に供するサンプルを調製するのに有効な方法となり、かつ、DNA抽出後の解析(PCR、制限酵素処理、核酸のハイブリダイゼーション等)において正確な結果を得やすい方法であると認められる。
(構成9)
本発明に係る環境中に存在する微生物由来DNAの抽出方法の第9特徴構成は、上記第7又は8の特徴構成に加えて、前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である点にある。
上記第9特徴構成によれば、界面活性剤として一般的なSDSを使用して処理を行うことができるため、簡便に抽出処理を行うことができる。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
本発明に係る微生物由来DNAの抽出方法は、土壌から微生物由来のDNAを回収する際に、(I)タンパク質を添加する方法、或いは、(II)界面活性剤を添加して25〜55℃で処理する方法、がある。以下に、各方法について説明する。
(I)タンパク質を添加する方法
この方法は、例えば、環境中から採取した土壌試料から直接微生物由来のDNAを回収する方法(直接抽出法)に適用することができる。
図1に本発明の微生物由来DNAの抽出方法の概略を示す。
(1)試料
土壌試料として、例えば、自然土壌(山土、田畑土、庭土等)、廃棄物等の夾雑物を含む土壌、汚泥等がある。
その他、環境中から採取した試料として、廃棄物処分場、山、田畑、庭からの滲出水、及び汚泥から分離した水分等の液体試料等がある。
本明細書で「廃棄物」とは、一般廃棄物、産業廃棄物の別を問わず、例えば、廃油、廃酸、廃アルカリ、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残渣、動物の糞尿、動植物死体、煤塵、燃えがら、汚泥、鉱さい等をいう。これら廃棄物は、自然土壌に含まれない夾雑物を含んでいたり、自然土壌に比べて非常に高い含有率で夾雑物を含んでいたりする。
この夾雑物の中には、微生物由来のDNAを抽出する際に、DNAと挙動を共にする等してDNA抽出を阻害する物質(DNA抽出阻害物質)が存在している。そして、このDNA抽出阻害物質は、DNA抽出後の処理(PCR、制限酵素処理、核酸のハイブリダイゼーション等)に悪影響を及ぼす虞がある。
このような廃棄物処分場から採取した土壌試料には、フミン質や、それ以外のDNA抽出阻害物質が存在すると考えられる。
(2)溶菌工程
上述した試料(例えば、廃棄物処分場から採取した土壌試料)に存在する微生物の細胞壁や細胞膜を破砕し、微生物由来のDNAを菌体内から抽出する。そのため、溶菌液を前記土壌試料と接触させて菌体を溶菌させる。
前記溶菌液は、緩衝液に、微生物の細胞壁や細胞膜を破砕するタンパク質分解酵素、或いは、界面活性剤等が含まれたものが適用可能である。前記緩衝液としては、Tris−HCl緩衝液等、前記タンパク質分解酵素としては、プロテイナーゼK等、前記界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、イソオクチルフェノールポリエトキシアルコール(Triton−X100(商標))等が例示されるが、これに限られるものではない。
前記溶菌液に含まれるタンパク質分解酵素や界面活性剤の濃度は、特に制限はないが、その作用を発揮するのに十分な範囲としては、例えば、プロテイナーゼKの場合は終濃度で200μg/mL程度、SDSの場合は終濃度で2〜20%程度となるように添加することができる。
前記溶菌液による処理温度は、従来法では、例えば60℃以上の温度であったが、このような高い温度では、DNAが損傷して低分子化する虞があった。そのため、DNAの低分子化を抑制するために、室温程度の温度で処理を施すことが好ましい。
(3)タンパク質添加工程
上述したように、廃棄物処分場から採取した土壌試料には、複数のDNA抽出阻害物質が存在している。
本発明においては、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するために、前記土壌試料に、DNA抽出阻害作用抑制剤としてタンパク質を添加する工程を有する。
このタンパク質(DNA抽出阻害作用抑制剤)としては、例えば、リゾチーム、インシュリン、ウシ血清アルブミンをはじめとする種々のタンパク質を用いることができる。そして、その作用を発揮するのに十分な添加量の最適な範囲としては、例えば、終濃度で2.0〜16.0mg/mL程度となるように添加することができる。
尚、溶菌工程とタンパク質添加工程の順序は、何れを先に行ってもよく、さらに、両工程同時に行うことも可能である。
このように、溶菌工程とタンパク質添加工程を行った後、微生物由来のDNAが含まれる上澄み液(DNA抽出液)を次の工程に供する。
(4)精製工程
DNA抽出液から、タンパク質、脂質或いは多糖類等の夾雑物を除去して微生物由来のDNAを精製する精製工程を行う。
この精製工程としては、例えば、フェノールやクロロホルム等を用いた有機溶媒による精製、或いは、限外濾過膜を用いた精製等を適用することが可能である。
廃棄物処分場から採取した土壌試料には、自然土壌に比べて多糖類やタンパク質等の夾雑物の混入が多い。そのため、エタノール沈殿のように、アルコールを用いてDNAの濃縮を行うと、DNAと共に前記夾雑物も沈殿するため粗悪な純度の低い試料となり、PCRなどの後の処理に悪影響を及ぼす虞がある。
そのため、廃棄物処分場から採取した土壌試料から微生物由来のDNAを回収する際には、例えば、限外濾過膜(半透膜等)を用いた限外濾過を行って夾雑物の除去やDNAの濃縮を行うのが好ましい。この工程は、限外濾過フィルターカラム等を用いて行うことが可能である。
(5)電気泳動工程
精製工程により濃縮して得られたDNA濃縮液を電気泳動する。染色液によりDNAを染色して微生物より抽出されたDNAを確認する。
(6)DNA回収工程
電気泳動をアガロースゲル等により行った場合、目的のDNAバンドをゲルから切り出すことによりDNAの回収を行うことが可能である。DNAの回収には、ゲルから切り出したDNA含有ゲル片から電気溶出することによって行う方法や、DNA含有ゲル片を溶解させた後に遠心または吸引することによりメンブレンに結合させることによって行う方法等、公知のDNA回収方法が適用可能である。
(II)界面活性剤を添加して25〜55℃で処理する方法
この方法は、例えば、環境中から採取した土壌試料から直接微生物由来のDNAを回収する方法(直接抽出法)に適用することができる。
図2に本発明の微生物由来DNAの抽出方法の概略を示す。
(1)試料
土壌試料としては、上記(I)で記載したものが適用可能である。
(2)溶菌工程
上記(I)で記載した方法において、前記溶菌液を、Tris−HCl緩衝液等の溶液に界面活性剤が含まれたものを適用する。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、イソオクチルフェノールポリエトキシアルコール(Triton−X100(商標))等が例示されるが、これに限られるものではない。
処理温度は、例えば、25〜55℃とするのが好ましい。
このように、溶菌工程を行った後、微生物由来のDNAが含まれる上澄み液(DNA抽出液)を、上述した精製工程に供し、電気泳動工程、回収工程を順次行う。
以下に本発明に係る微生物由来DNAの抽出方法において、(I)タンパク質を添加する方法の実施例を説明する。
(1)試料
土壌試料として、以下の3種類の試料から微生物由来のDNAの抽出を試みた。
(a)廃棄物処分場における廃棄物層近くの自然土、
(b)廃棄物層の土(3.0mの深さに位置する土)、
(c)自然土壌(山土)
これら試料の内、(a)及び(b)の土にはフミン質やそれ以外のDNA抽出阻害物質が、(c)の土にはフミン質が含まれていると考えられる。
(2)溶菌工程
(a)〜(c)それぞれの試料0.3gを、0.9mLの溶菌液(100mM Tris−HCl、250mM EDTAナトリウム、2% SDS、1% PVPP、pH8.0)に懸濁し、室温(30℃)で30分振盪した。
ここで、PVPP(ポリビニルポリピロリドン)は、微生物由来のDNAとフミン質とを効果的に分離する(フミン質を取り除く)物質として作用するとされている(非特許文献1)。
(3)タンパク質添加工程
タンパク質(DNA抽出阻害作用抑制剤)として、終濃度が2.0mg/mLになるようにリゾチームを添加した。室温(30℃)で30分振盪し、遠心分離(15000rpm、10分間)後の上澄み液を回収した。
更に、遠心分離後の沈殿物に、前記溶菌液0.9mLに2.0mgのリゾチームを加えた溶液を添加し、室温で30分間振盪した後、遠心分離(15000rpm、10分間)を行って上澄み液を回収する操作を2回繰り返した。
このように3回の遠心分離によって回収された上澄み液を混合して、DNA抽出液とした。
(4)精製工程
前記DNA抽出液に対してタンパク質等の夾雑物を除去する以下のフェノール抽出を行った。
前記DNA抽出液と、前記DNA抽出液の2/3容量のPCI溶液(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)とを混合し、遠心分離(20℃、15000rpm、10分間)後の上層(水層)を回収した。この操作を2回繰り返した。
フェノール抽出後のDNA抽出液400μLに対して、マイクロコンPCR(ミリポア社製)を用いて限外濾過処理を施し(実施手順は製造者の指示に従うものとする)、25μLにまで濃縮した。これをDNA濃縮液とした。
(5)電気泳動工程
各DNA濃縮液から25μLをアガロースゲル電気泳動に供し、サイバーグリーンI(TAKARA社製)によりDNAを染色してDNA濃縮液に含まれるDNAの量及び分子量を確認した。この結果を図3に示した。
図3において、レーン1〜3は、本発明のDNA抽出方法により抽出したDNA濃縮液、レーン4はマーカー、レーン5〜7は、従来のDNA抽出方法(フミン質を取り除く処理としてCTABを添加:後述の比較例参照)により回収したDNA濃縮液、をそれぞれ電気泳動したものに対応する。
レーン1〜3、及び、レーン5〜7の各レーンには、約21kbの高分子DNAのバンドが存在することが確認された。
レーン5〜7の結果より、(c)自然土壌(レーン7)からは、CTABがフミン質のDNA抽出阻害作用を抑制していると考えられるため、多量の高分子DNAを抽出できるものの、(a)廃棄物層近くの自然土(レーン5)、及び、(b)廃棄物層の土(レーン6)からのDNA抽出量は、(c)自然土壌(レーン7)に比べて減少している。つまり、従来のDNA抽出方法によれば、廃棄物層およびその周縁の土壌からのDNA抽出効率は低下するものと認められる。
従って、廃棄物層およびその周縁の土壌には、フミン質以外のDNA抽出阻害物質が存在すると考えられる。
また、(c)自然土壌から抽出されたDNAは、レーン7の結果がスメア状になっていることから、DNAがデグラデーションを引き起こして微生物由来の高分子DNAの一部が壊れた状態で抽出されているものと考えられる。
一方、レーン1〜3の結果より、土壌試料(a)〜(c)からは、何れも同レベルで多量の高分子DNAを抽出可能であることが判明した。また、これらDNA試料の電気泳動結果はスメア状になっていないことから、高分子DNAの状態を維持しているものと考えられた。
つまり、本発明のDNA抽出方法によれば、採取した場所に拘らず、効率よく、かつ、高分子DNAを維持した状態で抽出できることが判明した。
従って、本発明のDNA抽出方法は、廃棄物層およびその周縁の土壌に存在すると考えられるフミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制できる方法であると認められる。
(6)DNA回収工程
アガロースゲル電気泳動して確認できた高分子DNAのバンドを回収するため、目的のDNAバンドが位置するゲルをカッターナイフで切り出した。このとき切り出されたDNA含有ゲル片を、セントリリューター(Amicon社製)を用いて電気溶出する(実施手順は製造者の指示に従うものとする)ことによってDNAの回収を行った。
本発明のDNA抽出方法により抽出して回収されたDNAを定量したところ、(a)〜(c)それぞれの0.3gの土壌試料から、2.2μg、3.5μg、4.1μgのDNAが回収できた。これは、1グラム当たりの土壌に換算すると、それぞれ、7.3g/g土壌、11.6g/g土壌、13.5g/g土壌となる。
一方、後述するように、従来のDNA抽出方法により抽出して回収されたDNAを定量したところ、(a)〜(c)それぞれの5.0gの土壌試料から、0.8〜3.3μg/g土壌のDNAが回収できた。
以上より、回収されたDNAを定量した結果、本発明のDNA抽出方法は、従来のDNA抽出方法に比べて、多量の高分子DNAを抽出可能である。
このようにして回収された微生物由来のDNAをPCRに供した。
試料(a)〜(c)から回収された微生物由来のDNAを、10〜1000倍段階希釈したものをテンプレートとしてPCRを行った。PCRは、ユニバーサルプライマーセットを用いて行った。PCRを行った後、PCR反応液の一部を採取して電気泳動を行った。
この結果を図4(イ)に示した。
図4(イ)において、レーン1はネガティブコントロール、レーン2、7,12はマーカーにそれぞれ対応し、レーン3〜6は試料(a)、レーン8〜11は試料(b)、レーン13〜16は試料(c)から回収された微生物由来のDNAをテンプレートとしてPCRに供した結果にそれぞれ対応する。
これより、各試料(a)〜(c)から回収された微生物由来のDNAをテンプレートにすると、全てのサンプルにおいて約580kbpのPCR産物が得られた。つまり、本発明のDNA抽出方法により抽出して回収されたDNAは、PCR等のその後の解析操作を遂行可能な品質を保持しているものと認められた。
一方、従来のDNA抽出方法により回収したDNAを、10〜1000倍段階希釈したものをテンプレートとしてPCRを行った。この結果を図4(ロ)に示した。
この結果、殆どのサンプルで、PCR産物を得ることはできなかった。つまり、従来のDNA抽出方法により抽出して回収されたDNAは、PCR等のその後の解析操作を遂行するに足る品質を保持していないと認められた。
実施例1において、フミン質を取り除くため、溶菌液にPVPPを添加したものを使用した。そこで、PVPPの有無により、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用がどのように変化するかを確認する実験を行った。
実験は、溶菌液におけるPVPPの有無以外は実施例1に準じた方法により行った。結果を図5に示した。
図5において、レーン1,5はマーカー、レーン2〜4はPVPP無し、レーン6〜8はPVPP有り、のDNA濃縮液をそれぞれ電気泳動したものに対応する。
レーン2〜4、及び、レーン6〜8の各レーンには、約21kbpのDNAのバンドが存在することが確認された。また、廃棄物層近くの自然土であるレーン2と6とを比較すると、DNAバンドの濃さがほぼ同等であることから、ほぼ同量のDNA抽出量であることが判明した。廃棄物層の土であるレーン3と7、自然土壌であるレーン4と8においても同様である。
つまり、本発明のDNA抽出方法は、従来、フミン質を取り除く処理に用いられていたPVPPの添加の有無に拘らず、効率よくDNAを抽出できるものと認められる。これより、添加したタンパク質が、フミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制する効果を発揮していると考えられる。
実施例1において、タンパク質(DNA抽出阻害作用抑制剤)として、リゾチームを添加した。これ以外のタンパク質で、DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制できるか否かを調べた。
タンパク質として、ウシ血清アルブミン或いはインシュリンをリゾチームに替えて添加したこと以外は実施例1に準じた方法により行った。結果を図6に示した。尚、土壌試料は、実施例1で記載した(b)廃棄物層の土の試料を用いた。
この結果、ウシ血清アルブミン及びインシュリンを添加した場合においても、DNAバンドの濃さがほぼ同等であることから、DNA回収効率はリゾチームと同等であることが判明した。つまり、ウシ血清アルブミン或いはインシュリンにおいても、フミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制する効果を有していると考えられる。
実施例1において、タンパク質(DNA抽出阻害作用抑制剤)として、リゾチームを2.0mg/mLになるように添加し、このとき、フミン質以外のDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制できる結果が得られた。
さらに、DNA抽出阻害作用が効果的に発揮できるタンパク質の濃度範囲を調べるため、種々の濃度でタンパク質を添加した実験を行った。
タンパク質はリゾチームを使用し、濃度範囲は終濃度が0.5〜4.0mg/mLになるように添加したこと以外は実施例1に準じた方法により行った。結果を図7に示した。尚、土壌試料は、実施例1で記載した(b)廃棄物層の土の試料を用いた。
この結果、0.5mg/mL以上リゾチームを添加した場合に、効率よくDNAを抽出できることが判明した。
特に、終濃度が2.0〜4.0mg/mL(レーン5〜7)において、効率よくDNAを抽出できると認められる。
さらに、リゾチームを終濃度が8.0、16.0mg/mLになるように添加した場合の実験を行った。結果を図8に示した。
この結果、リゾチームの終濃度が8.0、16.0mg/mLの場合であっても効率よくDNAを抽出できると認められた。
実施例1において、溶菌工程を行った後にタンパク質添加工程を行った。
DNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するためには、どのタイミングでDNA抽出阻害作用抑制剤であるタンパク質を土壌試料に添加するのが好ましいかを調べるため、溶菌工程とタンパク質添加工程との順番を入れ替えた実験を行った。
実験は、溶菌工程とタンパク質添加工程との順番を入れ替えたこと以外は実施例1に準じた方法により行った。結果を図9に示した。
図9において、レーン1,5はマーカー、レーン2〜4は溶菌工程、タンパク質添加工程の順番、レーン6〜8はタンパク質添加工程、溶菌工程の順番、でDNA抽出を行い、得られたDNA濃縮液をそれぞれ電気泳動したものに対応する。
レーン2〜4とレーン6〜8との結果を比較すると、レーン2と6、レーン3と7、及び、レーン4と9とはそれぞれDNAバンドの濃さがほぼ同等であることから、両方法によってDNA抽出量に差は殆ど認められないことが判明した。
従って、DNA抽出阻害作用抑制剤であるタンパク質を添加するタイミングは、溶菌工程の後先を問わないものと認められる。
ここで、溶菌工程を先に行う場合、タンパク質添加工程を行うまでの時間がどのようにDNA抽出に影響を及ぼすかを調べる実験を行った。
つまり、溶菌工程を行った後、0、10、20,30、60分後にタンパク質添加工程を行い、抽出されるDNAの量を調べた。結果を図10に示した。尚、土壌試料は、実施例1で記載した(b)廃棄物層の土の試料を用いた。
図10において、レーン1,7はマーカー、レーン2〜6は溶菌工程のみ、レーン8〜12は、溶菌工程の後に上述した時間経過後にタンパク質添加工程を行った場合にそれぞれ相当する。
この結果、溶菌工程のみ(レーン2〜6)行った場合は、何れの場合も高分子DNAバンドは検出されていないが、溶菌工程を行った後0〜30分経過後にタンパク質添加工程を行った場合(レーン8〜11)に、約21kbの高分子DNAバンドが検出され、60分経過後にタンパク質添加工程を行った場合(レーン12)には、この高分子DNAバンドは殆ど検出されないことが確認された。つまり、溶菌工程を行った後、30分以内にタンパク質添加工程を行うのが有効であることが判明した。
ここで、(b)廃棄物層の土の試料中には、DNAを分解する何らかの物質が存在するため、溶菌により抽出されたDNAは分解を受けると考えられる。しかし、溶菌処理時間が30分程度であると未溶菌の菌体が存在し、このときタンパク質を添加すると、このタンパク質がDNA分解物質のDNA分解作用を阻害した状態で溶菌処理が進行すると考えられる。
つまり、タンパク質添加後に溶菌した菌から抽出されたDNAは分解されずに高分子の状態で抽出される。
従って、溶菌工程を行った後、タンパク質添加工程を開始する時間は短いほうが好ましいと考えられる。
特に、図10の結果から、溶菌工程を行った後、0分経過後(レーン8)にタンパク質添加工程を行った場合において(つまり、溶菌工程とタンパク質添加工程とを同時に行う)、最も濃い高分子DNAバンドが確認されているのが判る。これより、溶菌工程とタンパク質添加工程とを同時に行うと、最も効率よくDNAを抽出できるものと認められる。
以下に本発明に係る微生物由来DNAの抽出方法において、(II)界面活性剤を添加して25〜55℃で処理する方法の実施例を説明する。
(1)試料
土壌試料は、実施例1で記載した(b)廃棄物層の土(3.0mの深さに位置する土)の試料を用いた。
(2)溶菌工程
(b)の試料0.3gを、界面活性剤としてSDSを用いた溶菌液(100mM Tris−HCl、250mM EDTAナトリウム、2% SDS、1% PVPP、pH8.0)0.9mLに懸濁し、各種温度(25、30、37、45、55、65℃)で30分振盪した。この結果を図11に示した。
この結果、レーン2〜7の各レーンには、約21kbの高分子DNAのバンドが存在することが確認された。DNAバンドの濃さから、レーン2〜6(処理温度:25〜55℃)においては、多量の高分子DNAが抽出されているが、レーン7(処理温度:65℃)においては、DNA抽出量はレーン2〜6に比べて少ないことが判った。
従って、溶菌工程において、界面活性剤としてSDSを用いた場合、処理温度は従来の処理温度より低い温度(25〜55℃)で処理することにより、効率よく高分子DNAを抽出できるものと認められる。
(比較例)
以下に、従来行われていた微生物由来DNAの抽出方法であって、フミン質を取り除く処理としてCTABを添加する方法について概説する。
(1)試料
土壌試料は、実施例1で記載した(a)〜(c)と同様の試料を用いた。
(2)溶菌工程
(a)〜(c)それぞれの試料5gを、13.5mLの溶菌液(100mM Tris−HCl、100mM EDTAナトリウム、100mM リン酸ナトリウム、1.5M NaCl、1%CTAB、pH 8.0)に懸濁し、室温(30℃)で0.5時間振盪した。
ここで、CTAB(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド)は、微生物由来のDNAとフミン質とを効果的に分離する(フミン質を取り除く)物質として作用するとされている(非特許文献1)。
この後、20%SDSを1.5mL添加して65℃で2時間振盪し、遠心分離(6000g、10分間)後の上澄み液を回収した。遠心分離後の沈殿物に、前記溶菌液に終濃度20%となるようにSDSを添加した溶液を4.5mL添加し、10分間振盪した後、遠心分離(6000g、10分間)を行い上澄み液を回収する操作を2回繰り返した。このように3回の遠心分離によって回収された上澄み液を混合して、DNA抽出液とした。
(3)精製工程
前記DNA抽出液と、前記DNA抽出液と同量のCI溶液(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)とを混合し、遠心分離(20℃、15000rpm、10分間)後の上層(水層)を回収した。この水層に2倍量のエタノールを添加し、沈殿したDNAを回収した。このDNAを緩衝液に溶解させ、DNA濃縮液を得た。
(4)電気泳動工程
各DNA濃縮液から25μLをアガロースゲル電気泳動に供し、サイバーグリーンI(TAKARA社製)によりDNAを染色してDNA濃縮液に含まれるDNAの量及び分子量を確認した。この結果を図3(レーン5〜7)に示した。
(5)DNA回収工程
アガロースゲル電気泳動して確認できた高分子DNAのバンドを回収するため、本発明のDNA抽出方法の際に適用した方法と同様の方法でDNAを回収した。
この回収されたDNAを定量したところ、(a)〜(c)それぞれの5.0gの土壌試料から、1.4μg/g土壌、0.8μg/g土壌、3.3μg/g土壌のDNAが回収できた。
回収されたDNAをテンプレートとし、ユニバーサルプライマーセットを用いてPCRを行った。この結果を図4(ロ)に示した。
本発明は、環境中に存在する微生物由来のDNA抽出に利用され、例えば、廃棄物処分場等の土壌から抽出された微生物由来のDNAは、土壌中に含まれる微生物のモニタリングや有用微生物の探索等の解析に利用可能である。
本発明の微生物由来DNAの抽出方法(I)の概略図 本発明の微生物由来DNAの抽出方法(II)の概略図 本発明のDNAの抽出方法及び従来のDNAの抽出方法により抽出されたDNAを電気泳動した図 抽出されたDNAをテンプレートにしてPCRを行い、PCR反応液を電気泳動した図 本発明のDNAの抽出方法において、PVPPの有無が及ぼす影響を確認した電気泳動の結果を示した図 溶菌工程にて添加するタンパク質を種々変更して本発明のDNAの抽出を行い、その結果、抽出されたDNAを電気泳動の結果を示した図 溶菌工程にて添加するタンパク質(リゾチーム)濃度を種々変更(0.5〜4.0mg/mL)して本発明のDNAの抽出を行い、その結果、抽出されたDNAを電気泳動した結果を示した図 溶菌工程にて添加するタンパク質(リゾチーム)濃度を種々変更(1.0〜16.0mg/mL)して本発明のDNAの抽出を行い、その結果、抽出されたDNAを電気泳動した結果を示した図 溶菌工程とタンパク質添加工程との順番を入れ替えて本発明のDNAの抽出を行い、その結果、抽出されたDNAを電気泳動の結果を示した図 溶菌工程後、タンパク質添加工程を行うまでの時間がDNA抽出に及ぼす影響を示した図 発明の微生物由来DNAの抽出方法(II)により抽出されたDNAを電気泳動の結果を示した図

Claims (9)

  1. 環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法であって、
    前記環境中から採取した試料に含まれる微生物を破砕する溶菌工程と、
    前記試料に含まれるDNA抽出阻害物質のDNA抽出阻害作用を抑制するタンパク質を添加するタンパク質添加工程とを有する微生物由来のDNA抽出方法。
  2. 前記溶菌工程と前記タンパク質添加工程とを同時に行う請求項1に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  3. 前記溶菌工程を行った後、30分以内に前記タンパク質添加工程を行う請求項1に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  4. 前記溶菌工程及び前記タンパク質添加工程を行った後に、前記試料中の夾雑物を除去する精製工程を行う請求項1〜3の何れか一項に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  5. 前記タンパク質が、リゾチーム、インシュリン、ウシ血清アルブミンからなる群から選択される1種以上のタンパク質である請求項1〜4の何れか一項に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  6. 前記タンパク質添加工程において、タンパク質を終濃度2.0〜16.0mg/mLとなるように添加する請求項1〜5の何れか一項に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  7. 前記溶菌工程において、界面活性剤を添加し、室温で処理する請求項1〜6の何れか一項に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
  8. 環境中に存在する微生物由来のDNA抽出方法であって、
    前記環境中から採取した試料に含まれる微生物を破砕する溶菌工程を有し、
    前記溶菌工程において界面活性剤を添加し、処理温度が25〜55℃である微生物由来のDNA抽出方法。
  9. 前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である請求項7又は8に記載の微生物由来のDNA抽出方法。
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